説明

複合タングステン酸化物ターゲット材とその製造方法

【課題】乾式法により複合タングステン酸化物薄膜を形成するために用いられる、複合タングステン酸化物ターゲット材とその製造方法を提供する
【解決手段】一般式:Mxyz(ただし、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIの内から選択される1種以上の元素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)からなる組成を有する複合タングステン酸化物の粉末に、真空もしくは不活性ガス雰囲気下、900℃以上1100℃未満の温度、19.6MPa以上の圧力の条件で、ホットプレスまたは熱間静水圧プレスを施すことにより、前記複合タングステン酸化物以外の相を含まず、かつ、密度が7g/cm3以上である、上記組成の複合タングステン酸化物の焼結体からなるターゲット材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光部材として好適な複合タングステン酸化物薄膜を形成するために用いられる、複合タングステン酸化物ターゲット材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窓材などの遮光部材として、アルミニウムなどの金属を蒸着した乾式膜のハーフミラータイプの遮光部材がある(特許文献1参照)。しかしながら、このタイプの遮光部材を用いた場合、外観がハーフミラー状となることから、屋外で使用するには反射がまぶしく、景観上の問題がある。
【0003】
これに対して、本出願人は、複合タングステン酸化物薄膜を遮光部材として用いることを提案している(特許文献2参照)。複合タングステン酸化物薄膜は、太陽光線、特に近赤外線領域の光を効率よく遮蔽すると共に、可視光領域の高透過率を保持するなど、優れた光学特性を発現する材料として知られている。特許文献2では、このような複合タングステン酸化物薄膜を形成する方法として、複合タングステン酸化物微粒子を、適宜な溶媒中に分散させて分散液とし、得られた分散液に媒体樹脂を添加した後、基材表面にコ−ティングすることを提案している。
【0004】
このような複合タングステン酸化物薄膜を得る別の手段として、蒸着法やスパッタリング法などの乾式法がある。大型の窓材の処理が可能な大型のスパッタリング装置などの製造設備が使用可能であれば、膜厚が均一で高品質な膜を得られ、かつ、生産性も高いという観点から、乾式法を用いることは好ましいといえる。なお、このような大型のスパッタリング装置などは、商業的に入手可能である。
【0005】
蒸着法やスパッタリング法による薄膜形成においては、スパッタリングターゲットなどのターゲット材が使用される。ターゲット材には、ターゲット時における割れやアーキング(異常放電)を防止するためにも、均一化、微細化および高密度化が要求される。特に、薄膜の品質、成膜速度、生産性という観点から、複合タングステン酸化物薄膜形成用のターゲット材には、高密度であることが要求される。
【0006】
エレクトロクロミック表示素子としてのWOx(x=2.0〜3.0)薄膜用の酸化タングステンターゲット材とその製造方法が、特許文献3および特許文献4に記載されている。
【0007】
特許文献3には、ターゲット材の均一化の観点から、WO3粉末をセラミックスからなるモールドに充填し、酸素供給雰囲気中で900〜1000℃の温度範囲で、9.8MPa(100kg/cm2)以上の保持圧力で、ホットプレスすることにより、6,0g/cm3以上の密度を有する酸化タングステンターゲット材を得ることが開示されている。しかしながら、得られるターゲット材の密度は、最大で6.7g/cm3程度に過ぎない。
【0008】
特許文献4には、鉄、鉄化合物、マンガンまたはマンガン化合物を焼結助剤として用いて、かかる焼結助剤と混合した所定粒径の酸化タングステン粉末を、カーボンモールドに充填し、950〜1050℃で、93MPa(950kg/cm2)以上の保持圧力で、ホットプレスもしくは熱間静水圧プレス(HIP)により、94〜99%程度の相対焼結密度を有する酸化タングステンターゲット材を得ることが開示されている。しかしながら、鉄またはマンガンなどのように、酸化タングステン以外の焼結助剤の添加は、得られたターゲット材を用いた成膜後の薄膜において、不純物を生じるという問題がある。
【0009】
従って、上記の酸化タングステンからなるターゲット材の製造方法について、複合タングステン酸化物からなるターゲット材にそのまま適用できるわけではない。
【0010】
このように、焼結助剤などの不純物を含まない複合タングステン酸化物ターゲット材と、かかる複合タングステン酸化物ターゲット材を、高密度で、均一に製造するための方法について、現在までのところ、何らの開示がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−107815号公報
【特許文献2】特許第4096205号公報
【特許文献3】特許第2693599号公報
【特許文献4】特許第3731100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、乾式法により複合タングステン酸化物薄膜を形成するために用いられる、複合タングステン酸化物ターゲット材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複合タングステン酸化物ターゲット材は、一般式:Mxyz(ただし、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)からなる組成を有する複合タングステン酸化物の焼結体からなり、該複合タングステン酸化物以外の相を含まず、かつ、7g/cm3以上の焼結密度を有することを特徴とする。
【0014】
前記複合タングステン酸化物の相が、立方晶、正方晶、六方晶、および単斜晶のいずれか1種以上の結晶構造からなることが好ましい。
【0015】
また、前記Mが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、およびSnの内の1種以上からなることが好ましい。
【0016】
本発明の複合タングステン酸化物ターゲット材は、前記組成を有する複合タングステン酸化物の粉末に、真空もしくは不活性ガス雰囲気下、900℃以上1100℃未満の温度、および19.6MPa(200kgf/cm2)以上の圧力の条件で、ホットプレスまたは熱間静水圧プレスを施すことにより、得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、乾式法により複合タングステン酸化物薄膜を形成することができる。本発明のターゲット材は、複合タングステン酸化物以外の相を含まない均一な結晶構造を有するため、成膜後の薄膜において不純物が存在することがない。また、7g/cm3以上という高い焼結密度を有することから、成膜中におけるターゲット材に割れやアーキングが生ずることがない。このように、本発明は、遮光部材として好適な複合タングステン酸化物薄膜を形成する分野において、きわめて有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、1.複合タングステン酸化物ターゲット材、2.原材料となる複合タングステン酸化物粉末、3.該複合タングステン酸化物粉末の製造、および、4.複合タングステン酸化物ターゲット材の製造について、順に説明する。
【0019】
1.複合タングステン酸化物ターゲット材:
本発明の複合タングステン酸化物ターゲット材は、一般式:Mxyz(ただし、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)からなる組成を有する複合タングステン酸化物の焼結体からなる。
【0020】
かかる複合タングステン酸化物ターゲット材を用いて、適切な成膜条件に設定された、スパッタリング法もしくは蒸着法などの乾式法により、成膜した場合に、成膜後の薄膜は、複合タングステン酸化物ターゲット材と実質的に同一の組成となる。
【0021】
元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIの内から選択される1種以上である。これらの元素の添加により、得られる薄膜において、複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収効果を奏することになる。
【0022】
複合タングステン酸化物としての安定性、すなわち、元素Mが添加された当該Mxyzにおける安定性の観点から、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、およびReの内から選択される1種類以上の元素であることが好ましい。
【0023】
さらに、赤外線遮蔽材料としての光学特性の観点からは、前記元素Mが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属元素、4B族元素、または5B族元素に属するものであることがさらに好ましく、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、およびSnの内の1種以上であることが、特に好ましい。
【0024】
次に、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。x/yの値が、0.001以上であれば、成膜後の薄膜において、十分な量の自由電子が生成され、目的とする近赤外線吸収効果を得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加して、近赤外線吸収効率も向上するが、x/yの値が1程度でその効果は飽和する。
【0025】
また、x/yの値が1以下であれば、成膜後の薄膜(近赤外線吸収材料)中において不純物相が生成されるのを回避できる。
【0026】
よって、x/yの値は1以下であることが好ましく、0.01〜0.5であることがさらに好ましい。
【0027】
酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。元素Mを含まないタングステン酸化物において、WO3およびWO2(すなわち、z/y=2または3)の組成では、自由電子が生成されず、赤外線遮蔽効果を得ることはできない。
【0028】
しかしながら、一般式:Mxyzで表される複合タングステン酸化物材料においては、前述した元素Mの添加による自由電子の供給があるため、z/y=3.0においても、自由電子が生成され、赤外線遮蔽効果を得ることができる。よって、z/yの値は3以下とすることができる。一方、複合タングステン酸化物中に赤外線遮蔽効果が得られないWO2の結晶相が存在することは好ましくないため、z/yの値は2を超える必要がある。かかる目的としないWO2の結晶相の出現を回避するためには、z/yの値を2.2以上とすることが好ましい。
【0029】
このように、酸素量は、2.0<z/y≦3.0の範囲、より好ましくは2.2≦z/y≦2.99の範囲に制御することが好ましい。さらに、2.45≦z/y≦2.99の組成比を有する、いわゆる「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外線領域の吸収特性にも優れるため、この範囲とすることが特に好ましい。
【0030】
さらに、ターゲット材における複合タングステン酸化物の相が、立方晶、正方晶、六方晶、および単斜晶のいずれかの結晶構造をとることが好ましい。かかる結晶構造は、成膜後の薄膜に引き継がれる。このような結晶構造により、可視光領域における透過性が高く、かつ、近赤外領域における吸収性が向上するという効果を得ることができる。ただし、薄膜における複合タングステン酸化物相は、結晶質であっても、非晶質であっても構わない。
【0031】
本発明の複合タングステン酸化物ターゲット材には、製造過程において、焼結助剤などが添加されないため、複合タングステン酸化物の相のみからなる焼結体により構成され、複合タングステン酸化物以外の不純物相を含まない。よって、適切な成膜条件によって成膜された薄膜中においても、このような不純物相が発現することがなく、当該不純物相に起因する近赤外線吸収材料としての特性が阻害されることがなくなる。
【0032】
また、本発明の複合タングステン酸化物ターゲット材は、7g/cm3以上という高い焼結密度を有する。かかる焼結密度が7g/cm3未満では、成膜中にターゲット材に割れやアーキングが発生したり、ターゲットの消費が不均一となったりするため、好ましくない。なお、本明細書における焼結密度は、ターゲットの単位体積あたりの質量を意味する。
【0033】
このように、本発明の複合酸化物ターゲットは、複合タングステン酸化物相のみからなり、複合タングステン酸化物以外の焼結助剤、近赤外線吸収機能を有しないWO2やタングステンメタル(Wメタル)を含まない。よって、成膜後の薄膜においても、近赤外線吸収材料としての特性を阻害する不純物相が出現しないこととなる。
【0034】
本発明の複合酸化物ターゲットは、スパッタリングやエレクトロンビーム蒸着のターゲットとして用いることができる。また、複合酸化物ターゲットの寸法はスパッタリングカソードなどの成膜装置の大きさにより適宜定めることができる。
【0035】
2.複合タングステン酸化物粉末
本発明の複合タングステン酸化物ターゲット材の原材料には、該ターゲット材と実質的に同一組成の複合タングステン酸化物粉末(微粒子)を用いる。かかる複合タングステン酸化物の微粒子の段階において、ターゲット材と同様の結晶構造を有することが好ましい。
【0036】
なお、複合タングステン酸化物ターゲット材の原料として、複合タングステン酸化物微粒子の粒度は、特に限定されないが、平均粒子径が0.1〜5μmが望ましい。なお、平均粒子径は、BET比表面積から、式:d=6/ρ・S(d;粒子径、ρ;真密度7.56、S;比表面積)で求めた値である。
【0037】
3.複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
かかる原材料としての複合タングステン酸化物微粒子は、以下のようにして製造する。
【0038】
すなわち、タングステン酸(H2WO4)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させて得たタングステンの水和物、三酸化タングステン、および、一般式Wyz(ただし、Wはタングステン、Oは酸素、2.0<z/y<3.0)で表されるタングステン酸化物微粒子から選ばれるタングステン化合物(出発原料)と、前記M(H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIの内から選択される1種以上の元素)の金属化合物(例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、水酸化物、酸化物等、もしくはこれらの塩を含む水溶液)とを、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、または、ペイントシェーカーなどで、乾式混合し、得られた混合粉体を、不活性ガス雰囲気および/または還元性ガス雰囲気下で、熱処理(焼成)する。
【0039】
かかる熱処理(焼成)温度は、所望とする光学特性の観点から400℃以上1000℃以下とすることが好ましく、焼成温度が500℃以上であると、所望の光学特性を有するタングステン酸化物微粒子を製造することができる。
【0040】
また、熱処理(焼成)時間は、処理量や焼成温度に応じて適宜選択すればよく、5分以上10時間以下で十分である。
【0041】
ここで、不活性ガスとしては、N2、Ar、またはHeなどのガスを用いることができ、還元性ガスとしては、水素やアルコールなどのガスを用いることができる。不活性ガス中における還元性ガスの濃度は、焼成温度に応じて適宜選択すればよく、好ましくは20vol%以下、より好ましくは10vol%以下、さらに好ましくは0.01〜7vol%である。不活性ガス中における還元性ガスの濃度が20vol%未満であると、タングステン酸化物微粒子の急速な還元を回避することができ、近赤外線吸収機能を有しないWO2の生成を回避できる。
【0042】
なお、熱処理(焼成)が、不活性ガス単独の雰囲気と、不活性ガスおよび還元性ガスの混合ガス雰囲気とで行われる2ステップ反応の場合は、例えば、1ステップ目に不活性ガスおよび還元性ガスの混合ガス雰囲気下で、100℃以上650℃以下で焼成し、2ステップ目に不活性ガス雰囲気下で、650℃を超え1000℃以下で焼成することも、近赤外線吸収特性の観点から好ましい。このときの熱処理(焼成)時間も、処理量や温度に応じて、適宜選択すればよく、5分間以上10時間以下で十分である。
【0043】
4.複合酸化物ターゲットの製造方法
上述の複合タングステン酸化物粉末を、所定量秤量し、カーボン製のモ−ルドに充填後、真空中あるいは不活性ガス(例えば、N2、Ar、またはHe)雰囲気下、プレス圧19.6MPa(200kgf/cm2)以上、900℃以上1100℃未満の温度の条件で、ホットプレスや熱間静水圧プレスを行う。
【0044】
ホットプレスでのモールドの材質は、特に限定されず、他の例としてはアルミナや窒化物系セラミックスなどのモールドが挙げられる。
【0045】
ホットプレスの温度は、900℃よりも低いと、密度が7g/cm3以上の焼結体が得られず、1100℃を超えると、例えば元素MとしてCsなどの沸点の低い元素が揮散することより、ターゲット材における組成ずれを起したり、ターゲット材中にWメタル相が析出したりするので好ましくない。
【0046】
また、プレス圧も、焼結体の密度の観点から19.6MPa(200kgf/cm3)以上とする。プレス圧が19.6MPa(200kgf/cm2)未満では、Wメタル相が析出して好ましくない。
【0047】
さらに、保持時間についても、特に限定されないが、製造効率の観点から0.5〜3時間が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例を比較例と共に具体的に説明する。ただし、本発明は、当然のことながら、以下の実施例の内容に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
水46gに、炭酸セシウム(Cs2CO3)29.2gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)135.9gに添加して、十分攪拌した後、乾燥した。得られた乾燥物を、N2ガスをキャリア−とした1.6%H2ガスが供給される雰囲気で加熱し、800℃の温度で20分焼成して、Cs0.33WO3微粒子からなる本実施例の複合タングステン酸化物粉末を得た。
【0050】
次に、得られた複合タングステン酸化物粉末107gを、カーボン製モ−ルドに充填し、プレス圧24.5MPa(250kgf/cm2)で、アルゴンガスを供給しながら、950℃で1時間保持して、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0051】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.53g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Cs0.33WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2]
水46gに、塩化バリウム2水和物(BaCl22H2O)46.4gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)143.7gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0053】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Ba0.21WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
水46gに、塩化カリウム(KCl)15.1gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)153.2gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0055】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、K0.33WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
水46gに、炭酸ルビジウム(Rb2CO3)20.4gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)145.7gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0057】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.53g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Rb0.33WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0058】
[実施例5]
水46gに、酢酸タリウム1.5水和物(C696Tl1.52O)57.7gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)130.7gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0059】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Tl0.27WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0060】
[実施例6]
水46gに、硫酸インジウム9水和物(In2(SO439H2O)57.4gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)140.7gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0061】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、In0.3WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0062】
[実施例7]
水46gに、硫酸リチウム水和物(Li2SO42O)12.3gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)160.2gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0063】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Li0.0.3WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0064】
[実施例8]
水46gに、塩化ストロンチウム6水和物(SrCl26H2O)16.6gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)155.7gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0065】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Sr0.1WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0066】
[実施例9]
水46gに、硫酸鉄5水和物(FeSO45H2O)15.3gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)157.9gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0067】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Fe0.1WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0068】
[実施例10]
水46gに、塩化錫2水和物(SnCl22H2O)27.7gを溶解し、これをタングステン酸(H2WO4)145.9gに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0069】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.40g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Sn0.21WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0070】
[実施例11]
1030℃の温度で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、本実施例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0071】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.54g/cm3であり、X線回折パタ−ンの同定の結果、Cs0.33WO3(六方晶)単一相であった。その結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
1100℃の温度で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0073】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットは、X線回折パタ−ンの同定の結果、Cs0.33WO3(六方晶)単一相であったが、その密度は、6.21g/cm3と、本発明の範囲から外れるものであった。その結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
850℃の温度で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0075】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットは、X線回折パタ−ンの同定の結果、Cs0.33WO3(六方晶)単一相であったが、その密度は、6.21g/cm3と、本発明の範囲から外れるものであった。その結果を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
プレス圧13.72MPa(140kgf/cm2)としたこと以外は、実施例1と同様にして、本比較例の複合タングステン酸化物ターゲットを得た。
【0077】
得られた複合タングステン酸化物ターゲットの密度は、7.56g/cm3であったが、X線回折パタ−ンの同定の結果、Cs0.33WO3(六方晶)の相のほか、Wメタルの析出があった。その結果を表1に示す。
【表1】

【0078】
[評価]
表1に示したように、実施例1〜11では、いずれも成型体密度が7.40g/cm3以上であり、X線回折パタ−ンの同定の結果は単一相であった。
【0079】
一方、比較例1および2では、単一相であったが、成型体密度が7g/cm3未満であり、比較例3では、成型体密度が7g/cm3以上であったが、Cs0.33WO3(六方晶)の他に、Wの異相が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Mxyz(ただし、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)からなる組成の複合タングステン酸化物の焼結体からなり、該複合タングステン酸化物以外の相を含まず、かつ、7g/cm3以上の焼結密度を有する、複合タングステン酸化物ターゲット材。
【請求項2】
前記複合タングステン酸化物の相が、立方晶、正方晶、六方晶、および単斜晶のいずれか1種以上の結晶構造からなる、請求項1に記載の複合タングステン酸化物ターゲット材。
【請求項3】
前記Mが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、およびSnの内の1種以上からなる、請求項1または2に記載の複合タングステン酸化物ターゲット材。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合タングステン酸化物ターゲット材を製造する方法であって、前記組成を有する複合タングステン酸化物の粉末に、真空もしくは不活性ガス雰囲気下、900℃以上1100℃未満の温度、および19.6MPa以上の圧力の条件で、ホットプレスまたは熱間静水圧プレスを施す、複合タングステン酸化物ターゲット材の製造方法。

【公開番号】特開2010−180449(P2010−180449A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24049(P2009−24049)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】