説明

複合接着フィルムおよびそれを用いた多層回路基板並びにその製造方法

【課題】 耐熱性、回路配線間への充填性および絶縁信頼性に優れ、多層回路基板の製造に適した複合接着フィルムを提供する。
【解決手段】 複合接着フィルム10は、厚さが5μm以上200μm以下の範囲内であり、熱変形温度T1が300℃以上であるポリイミド樹脂層1と、厚さが5μm以上50μm以下の範囲内であり、熱変形温度T2が200℃〜280℃の範囲内である液晶ポリマー層2A,2Bと、を備え、ポリイミド樹脂層1の両面に液晶ポリマー層2A,2Bが貼り合わされた積層構造を有する。この複合接着フィルム10は、複数の配線基板が積層された多層回路基板において接着層として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂層と液晶ポリマー層とを有する複合接着フィルムおよびそれを用いた多層回路基板、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化・軽量化に伴い、回路配線の高密度化が求められている。回路配線を高密度化するために、配線基板を複数枚積層して一体化させた多層回路基板が実用化されている。多層回路基板の作製には、回路パターンが形成された複数の配線基板を準備し、これらを、接着フィルムを介して接合する方法が一般的である。従来、そのような用途に用いられる接着フィルムとしては、耐熱性が高く、回路配線間への充填性にも優れているとの理由から、例えば特許文献1では、シロキサン変性ポリイミド樹脂を用いた接着フィルムが提案されている。また、例えば特許文献2では、その良好な充填性と高周波電気特性に着目して、液晶ポリマーフィルムを接着フィルムとして使用することが提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されたシロキサン変性ポリイミド樹脂や特許文献2に記載された熱可塑性の液晶ポリマーフィルムは、加熱加圧時に配線間への充填性が良好である反面、容易に接着フィルムが変形するため、多層回路基板としたきに、接着フィルムを介した上下の回路配線どうしが近接もしくは接触して絶縁性が損なわれることがある。このような絶縁性の低下は、回路基板を多層化、高密度化した場合に特に生じ易くなる。従って、微細化が進み、従来よりも複雑になりつつある近年の回路形成技術に対応するためには、多層回路基板において十分な充填性を確保しながら、絶縁性を改善させる技術の提供が望まれていた。
【0004】
また、多層回路基板に関するものではないが、特許文献3では、耐熱性の高いポリイミド樹脂層の表面に熱可塑性のポリイミド樹脂層を接着層として設けた接着フィルムが提案されている。しかしながら、特許文献3の接着フィルムは、2層フレキシブルプリント基板の基材(絶縁層)に導体層をラミネートする際の接着性を高めることを目的として前記基材として使用されるものであり、多層回路基板における接着フィルムとしての適用は一切考慮されていない。また、特許文献3の接着フィルムを、仮に多層回路基板における配線基板間の接着フィルムとして適用した場合、熱可塑性ポリイミド樹脂層を設けた接着フィルムは、良好な耐熱性は期待できるものの、回路配線間への充填性が十分でなく、配線基板の基材と接着フィルムとの間に空間が生じ、多層回路基板の伝送特性、絶縁信頼性、耐久性などへ影響を及ぼすことが懸念される。
【0005】
また、特許文献4では、耐熱性のポリイミド樹脂層の表面にエポキシ系樹脂層を接着層として設けた接着性積層フィルムが提案されている。しかし、接着層としてエポキシ系樹脂層を設けた接着フィルムは、エポキシ樹脂の硬化により接着させるため、可撓性に欠け、また、エポキシ樹脂の誘電性(誘電率や誘電正接)が高いために回路基板の伝送損失が大きくなるなどの欠点を有しており、その使用範囲には制約がある。
【0006】
また、接着層の材質として上記以外の熱可塑性樹脂を適用することも想定されるが、通常の熱可塑性樹脂は耐熱性の点で十分に満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3712606号公報
【特許文献2】特開平8−97565号公報
【特許文献3】特開2006−316232号公報
【特許文献4】特開2006−116738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱性、回路配線間への充填性、絶縁信頼性、伝送特性に優れ、多層回路基板の接着層としての用途に適した複合接着フィルムを提供することであり、さらには、当該複合接着フィルムを用いた多層回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、多層回路配線の接着フィルムとして、ポリイミド樹脂層と液晶ポリマー層を組み合わせた複合接着フィルムを用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の複合接着フィルムは、複数の配線基板が積層された多層回路基板において接着層として用いられる複合接着フィルムであって、
厚さが5μm以上200μm以下の範囲内であり、熱変形温度T1が300℃以上であるポリイミド樹脂層と、
厚さが5μm以上50μm以下の範囲内であり、熱変形温度T2が200℃〜280℃の範囲内である液晶ポリマー層と、
を備え、前記ポリイミド樹脂層の両面に前記液晶ポリマー層が貼り合わされた積層構造を有するものである。
【0011】
本発明の複合接着フィルムにおいて、前記液晶ポリマー層と貼り合わされた側の前記ポリイミド樹脂層の表面の粗度(Rz)が0.5〜5.0μmの範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明の多層回路基板の製造方法は、複数の配線基板が接着層を介して積層された多層回路基板の製造方法であって、
絶縁基材の表面に回路パターンが形成された2以上の配線基板を準備する工程と、
少なくとも二つの前記配線基板について前記回路パターンが形成された面を互いに向かい合わせて配置し、間に前記接着層を介在させた状態で加熱・加圧して貼り合わせる工程と、
を備え、
前記接着層として上記複合接着フィルムを用いるとともに、前記加熱・加圧して貼り合わせる工程の加熱温度T3が、前記ポリイミド樹脂層の熱変形温度T1および前記液晶ポリマーの熱変形温度T2を基準として、
T2+10℃≦T3≦T2+60℃(ただし、T3<T1である)
で示される関係を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の多層回路基板は、絶縁基材の表面に回路パターンを有する少なくとも二つの配線基板が、前記回路パターンが形成された面を互いに向かい合わせて配置され、接着層を介して積層された多層回路基板であって、
前記接着層は、
厚さが5μm以上200μm以下の範囲内であり、熱変形温度T1が300℃以上であるポリイミド樹脂層と、
厚さが5μm以上50μm以下の範囲内であり、熱変形温度T2が200℃〜280℃の範囲内である液晶ポリマー層と、
を備え、前記ポリイミド樹脂層の両面に前記液晶ポリマー層が貼り合わされてなる積層構造体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合接着フィルムは、耐熱性に優れ、配線基板の配線間への充填性が良好であり、さらに当該複合接着フィルムを介して積層される配線基板間の絶縁性にも優れている。また、本発明の複合接着フィルムによれば、高周波領域における伝送損失の低減も可能である。従って、本発明の複合接着フィルムを接着層として使用することにより、多層回路基板に高い信頼性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態にかかる複合接着フィルムの断面図である。
【図2】複合接着フィルムにおけるポリイミド樹脂層の構成例を示す断面図である。
【図3】複合接着フィルムを製造する際の熱圧着工程を説明する図面である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる多層回路基板の断面図である。
【図5】多層回路基板を製造する際の熱圧着工程を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態にかかる複合接着フィルム10の断面図である。また、図2は、複合接着フィルム10におけるポリイミド樹脂層1の構成の一例を示す断面図である。さらに、図3は、複合接着フィルム10を製造する際の熱圧着工程を示している。複合接着フィルム10は、多層回路基板の接着層として用いられるボンディングシート(ボンドプライ)である。複合接着フィルム10は、コアフィルムとしてのポリイミド樹脂層1と、このポリイミド樹脂層1の両面に貼り合わされた接着性フィルムとしての液晶ポリマー層2A,2Bとを有している。なお、以下の説明では、特に区別しない場合は液晶ポリマー層2A,2Bを総称して液晶ポリマー層2と記すことがある。
【0017】
<ポリイミド樹脂層>
本発明においてポリイミド樹脂層1を構成する樹脂は、ポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂を挙げることができる。
【0018】
ポリイミド樹脂は、前駆体であるポリアミド酸をイミド化(硬化)することによって形成することができる。
【0019】
ポリアミド酸は、公知のジアミンと酸無水物とを溶媒の存在下で反応させて製造することができる。用いられるジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2’−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。
【0020】
また、酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物等が挙げられる。
【0021】
ジアミン、酸無水物はそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用することもできる。なお、ポリイミド樹脂は、上記ジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0022】
ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸から、ポリイミド樹脂層1の材料となるポリイミドフィルム11(図3参照)を製造する代表的方法として、テンター法およびキャスト法が挙げられる。テンター法は、回転ドラムにポリアミド酸溶液を流延し、ポリアミド酸のゲルフィルムの状態で回転ドラムから剥離し、テンター炉で加熱・硬化(イミド化)させてポリイミドフィルム11とする方法である。キャスト法は、任意の支持基材にポリアミド酸溶液を塗布、乾燥した後、熱処理して硬化(イミド化)させ、ポリイミドフィルム11とする方法である。イミド化は、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱することにより行うことができる。なお、ポリイミド樹脂層1には、その特性を損なわない範囲で、例えば滑剤、酸化防止剤、充填剤などを配合することもできる。
【0023】
ポリイミド樹脂層1が単一層のポリイミド樹脂で構成される場合には、非熱可塑性のポリイミド樹脂が好ましく利用できる。このようなポリイミド樹脂を、多層回路基板においてコアフィルムであるポリイミド樹脂層1として適用すると、積層された配線間の絶縁性を十分に確保することができるので好ましい。
【0024】
非熱可塑性ポリイミド樹脂としては、一般式(1)で現される構造単位を有するポリイミド樹脂が好ましい。一般式(1)中、Arは式(2)又は式(3)で表される4価の芳香族基を示し、Arは式(4)又は式(5)で表される2価の芳香族基を示し、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、X及びYは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO、SO若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、nは独立に0〜4の整数を示し、qは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
【0025】
【化1】

【0026】
上記構造単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよい。構造単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。
【0027】
非熱可塑性のポリイミド樹脂によりポリイミド樹脂層1を形成する場合、例えば東レ・デュポン株式会社製のカプトンEN、カプトンH、カプトンV(いずれも商品名)、鐘淵化学株式会社製のアピカルNPI(商品名)、宇部興産株式会社製のユーピレックスS(商品名)等の市販のポリイミドフィルムを使用することができる。
【0028】
ポリイミド樹脂層1には、上記非熱可塑性のポリイミド樹脂と組み合わせて、熱可塑性のポリイミド樹脂を用いることもできる。すなわち、ポリイミド樹脂層1を多層構造とする場合には、非熱可塑性のポリイミド樹脂層に熱可塑性のポリイミド樹脂層を積層させることができる。図2は、ポリイミド樹脂層1を3層構造とする場合の例を示している。この場合、非熱可塑性ポリイミド樹脂層1Aと、この非熱可塑性ポリイミド樹脂層1Aの両面に積層された熱可塑性ポリイミド樹脂層1Bおよび1Cとを備えている。図2に示した構成のポリイミド樹脂層1では、熱可塑性ポリイミド樹脂層1Bおよび1Cが優れた接着性を有することから、複合接着フィルム10においてコアフィルムとしての特性を維持しながら、液晶ポリマー層2Aおよび2Bとの接着性を向上させることができる。
【0029】
熱可塑性のポリイミド樹脂に使用される前駆体としては、一般式(6)で表される構造単位を有する前駆体が好ましい。一般式(6)において、Arは式(7)、式(8)又は式(9)で表される2価の芳香族基を示し、Arは式(10)又は式(11)で表される4価の芳香族基を示し、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、V及びWは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、mは独立に0〜4の整数を示し、pは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
【0030】
【化2】

【0031】
ポリイミド樹脂層1の厚さは、5μm以上200μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上50μm以下の範囲内がより好ましい。
【0032】
ポリイミド樹脂層1の熱変形温度T1は、複数の配線が積層された多層回路基板において屈曲時の応力や、電子部品の加工上必要な熱が加えられた場合でも、配線どうしが接触することを防ぎ、絶縁性を確保する目的で、300℃以上であることが好ましく、300℃以上450℃以下の範囲内であることがより好ましい。なお、ポリイミド樹脂層1の熱変形温度T1は、後記実施例に示すように、熱機械分析装置を用いて、所定の荷重を加えながら、昇温速度5℃/分の条件で試験片の長さ方向の熱膨張量を測定し、その変曲点の温度から求めることができる。
【0033】
複合接着フィルム10において、ポリイミド樹脂層1と液晶ポリマー層2との接着性を高めるために、液晶ポリマー層2と貼り合わされるポリイミドフィルム11の表面S1の粗度(Rz;最大高さ)が0.5μm以上5.0μm以下の範囲内であることが好ましく、0.7μm以上2.0μm以下の範囲内であることがより好ましい。ポリイミドフィルム11の表面S1のRzを上記範囲に調整するためには、例えばエンボスロール加工、UV処理、プラズマ処理、および上記範囲のRzを有する支持基材上に製膜した後に前記支持基材を剥離する方法などが効果的である。また、例えば市販の銅張積層板(CCL)などの金属−ポリイミド積層体の金属層をエッチングにより除去することによって、表面S1のRzが上記範囲内であるポリイミドフィルム11を得ることができる。なお、Rzは、後記実施例に示すようにJIS B 0601に準じて測定することができる。
【0034】
<液晶ポリマー層>
液晶ポリマー層2の原料となる液晶ポリマーは、光学的異方性の溶融相を形成するポリマーと定義される。液晶ポリマーは、特に限定されるものではないが、以下に例示する(1)〜(4)に分類される化合物及びその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステル、サーモトロピック液晶ポリエステルアミド等を挙げることができる。
(1)芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物
(2)芳香族又は脂肪族ジカルボン酸
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸
【0035】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの中でも、分子中に脂肪族鎖を含まない芳香族液晶ポリマーが好ましい。そのような液晶ポリマーの代表例として、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸と、p−ヒドロキシ安息香酸とを原料として得られる下記式に示す構成単位を有する共重合体を挙げることができる。なお、下記式中のmおよびnは、各構成単位の存在モル比を示す正の数である。
【0036】
【化3】

【0037】
液晶ポリマーは、耐熱性、加工性の点で200〜400℃の範囲内、特に250〜350℃の範囲内に光学的に異方性の溶融相への転移温度を有するものが好ましい。また、液晶ポリマー層2には、その特性を損なわない範囲で、例えば滑剤、酸化防止剤、充填剤などを配合することもできる。なお、液晶ポリマーの材料は、液晶ポリマー層2Aと液晶ポリマー層2Bで同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
液晶ポリマー層2を形成するために使用される液晶ポリマーフィルム22A,22B(図3参照)は、例えばTダイ法、ラミネート体延伸法、インフレーション法などに代表される押出成型法により製造できる。インフレーション法やラミネート体延伸法では、フィルムの機械軸方向(MD方向)だけでなく、これと直行する方向(TD方向)にも応力が加えられるため、MD方向とTD方向における機械的性質のバランスのとれたフィルムが得られる。
【0039】
液晶ポリマー層2の厚さは、配線間への良好な充填性を得るために、多層回路基板における配線層の厚みと同等以上に設定することが好ましく、例えば5μm以上50μm以下の範囲内が好ましく、7μm以上35μm以下の範囲内がより好ましい。また、液晶ポリマー層2の厚さt2は、上記範囲内であっても、ポリイミド樹脂層1の厚さt1よりも薄くすることが好ましい。なお、液晶ポリマー層2Aと液晶ポリマー層2Bの膜厚は、上記範囲内であれば、同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
また、液晶ポリマー層2の熱変形温度T2は、多層回路基板の耐熱性を確保するとともに、凹凸形状にパターン形成された配線間への十分な充填性を得るために、200℃以上280℃以下の範囲内とすることが好ましく、220℃以上260℃以下の範囲内であることがより好ましい。なお、液晶ポリマー層2の熱変形温度T2は、ポリイミド樹脂層1の熱変形温度T1と同様の方法で測定することができる。
【0041】
複合接着フィルム10において、ポリイミド樹脂層1と液晶ポリマー層2との接着性を高めるために、ポリイミド樹脂層1の表面S1のRzだけでなく、ポリイミド樹脂層1と貼り合わされる側の液晶ポリマーフィルム22A,22Bの表面S2の粗度(Rz)も、0.5μm以上5.0μm以下の範囲内とすることが好ましく、0.7μm以上2.0μm以下の範囲内とすることがより好ましい。液晶ポリマーフィルム22A,22Bの表面S2のRzを上記範囲に調整するためには、例えばエンボスロール加工、UV処理、プラズマ処理、および上記範囲のRzを有する支持基材上に製膜した後に前記支持基材を剥離する方法などを行うことが効果的である。また、例えば市販の銅張積層板(CCL)などの金属−液晶ポリマー積層体の金属層をエッチングにより除去することによって、表面S2のRzが上記範囲内である液晶ポリマーフィルム22A,22Bを得ることができる。なお、液晶ポリマーフィルム22A,22Bの表面S2のRzは、後記実施例に示すようにJIS B 0601に準じて測定することができる。
【0042】
液晶ポリマー層2を形成するための液晶ポリマーフィルム22A,22Bとしては、市販品を使用することも可能であり、例えば株式会社クラレ製ベクスター(登録商標)などを用いることができる。
【0043】
<複合接着フィルムの製造>
本実施の形態の複合接着フィルム10は、図3に示したように、ポリイミド樹脂層1となるポリイミドフィルム11の両側に液晶ポリマー層2となる液晶ポリマーフィルム22A,22Bを配置し、加熱しながら、図中矢印で示す方向に加圧して貼り合わせることにより製造できる。ポリイミドフィルム11と液晶ポリマーフィルム22A,22Bを熱圧着する際の加熱温度Tとしては、ポリイミドフィルム11の熱変形温度T1および液晶ポリマーフィルム22A,22Bの熱変形温度T2を基準として、
T2+10℃≦T≦T2+60℃(ただし、T<T1である)
で示される関係を有する温度範囲に設定することが好ましい。加熱温度Tを上記の温度範囲に設定することにより、熱圧着時に液晶ポリマーを十分な溶融状態にすることが可能になり、複合接着フィルム10におけるポリイミド樹脂層1と液晶ポリマー層2との間に高い密着性が得られる。
【0044】
また、ポリイミドフィルム11と液晶ポリマーフィルム22A,22Bを貼り合わせる際の圧力としては、十分な接着性を得るために、例えば1MPa以上10MPa以下の範囲内が好ましく、3MPa以上8MPa以下の範囲内がより好ましい。
【0045】
ポリイミドフィルム11と液晶ポリマーフィルム22A,22Bとを熱圧着する場合、熱プレス装置を用いて所定時間かけて予備加熱を行った後、加圧することが好ましい。予備加熱により、液晶ポリマーフィルム22A,22Bが十分に軟化した状態で、引き続き所定時間の加圧を行うことにより、ポリイミド樹脂層1と液晶ポリマー層との十分な密着性が得られる。
【0046】
以上の構成を有する複合接着フィルム10は、例えば、カットシート状、ロール状などの種々の形状とすることができる。高い生産性を得るためには、長尺に形成されたロール状の形態とし、例えばロール・トゥ・ロールなどの方式で連続生産および連続使用が可能な形態とすることが効率的である。
【0047】
<多層回路基板>
次に、図4および図5を参照しながら、本発明の一実施の形態に係る多層回路基板について説明する。図4は、多層回路基板100の構成例を示す断面図であり、図5は、多層回路基板100を製造する際の熱圧着工程を示す図面である。多層回路基板100は、第1の配線基板30Aおよび第2の配線基板30Bの回路パターンが互いに向かい合うように、接着層としての複合接着フィルム10が間に介在した状態で積層されてなるものである。第1の配線基板30Aおよび第2の配線基板30Bは、基材3A,3Bにそれぞれ所定のパターンで形成された配線4A,4Bを有している。基材3A,3Bとしては、例えばポリイミドフィルムを使用できる。なお、基材3A,3Bにおいて、配線4A,4Bが形成された面とは反対側の面にも導体層やパターン形成された配線が形成されていてもよい。パターン形成された配線4A,4Bは、複合接着フィルム10の液晶ポリマー層2A,2Bに埋没するようにして覆われている。
【0048】
なお、図4では、第1の配線基板30Aおよび第2の配線基板30Bの2層の配線基板が積層された状態を示しているが、3層以上が積層されていてもよい。また図4では、第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bを上下に対称な同じ構造として示しているが、異なる構造の配線基板でもよい。
【0049】
以上の構成を有する多層回路基板100では、第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bとの間に、複合接着フィルム10を介在させたことにより、以下のような特長を備えている。
(1)複合接着フィルム10の両面に形成された熱可塑性の液晶ポリマー層2により、第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bとの接着性が十分に確保される。また、液晶ポリマー層2とポリイミド樹脂層1との間は、ポリイミド樹脂層1の材料であるポリイミドフィルム11の表面S1(および、好ましくは液晶ポリマーフィルム22A,22Bの表面S2)の粗度を調整しておくことにより、さらに高い接着性が得られる。従って、複合接着フィルム10を介して積層された第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bとの間も高い接着性が得られ、剥がれなどが生じ難く、多層回路基板100全体に高い一体性と耐久性が付与される。
【0050】
(2)複合接着フィルム10のコアフィルムであるポリイミド樹脂層1は、非熱可塑性のポリイミド樹脂を主体としているため、液晶ポリマー層2に比べて剛性が高く、熱変形の度合いも少ない。そのため、屈曲などにより強い応力が加えられたり、熱が加えられたりした場合でも第1の配線基板30Aの配線4Aと第2の配線基板30Bの配線4Bとの間に介在して、常に配線間の距離を保ち、絶縁性を十分に確保できる。
【0051】
(3)液晶ポリマー層2を構成する液晶ポリマーは、容易に変形しやすく形状追従性に優れているため、第1の配線基板30Aのパターン化された配線4A間や、第2の配線基板30Bのパターン化された配線4B間に入り込んで充填されており、空隙が存在しない状態となっている。隣接する配線間に空隙が存在すると、配線間の絶縁性が十分に確保できなくなり、多層回路基板の絶縁性、耐久性などを低下させるおそれがあるが、多層回路基板100では、その心配がなく、高い信頼性が得られる。また、誘電率と誘電正接が低い液晶ポリマーは、優れた高周波電気特性を有するため、配線4A、4Bにおいて優れた伝送特性が得られる。
【0052】
<多層回路基板の製造>
本実施の形態の多層回路基板100は、図5に示したように、複合接着フィルム10の両側に、第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bを配線4Aと配線4Bとが向かい合うようにして配置し、加熱しながら、図中矢印で示す方向に加圧して貼り合わせることにより製造できる。複合接着フィルム10に第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bを熱圧着する際の加熱温度T3としては、ポリイミドフィルム11の熱変形温度T1および液晶ポリマーフィルム22A,22Bの熱変形温度T2を基準として、
T2+10℃≦T3≦T2+60℃(ただし、T3<T1である)
で示される関係を有する温度範囲に設定することが好ましい。加熱温度T3を上記の温度範囲に設定することにより、熱圧着時に液晶ポリマーを十分な溶融状態にすることが可能になり、多層回路基板100における液晶ポリマー層2と第1の配線基板30Aおよび第2の配線基板30Bとの間に高い接着性が得られるとともに、配線4A−4A間、配線4B−4B間に隙間なく密な状態で液晶ポリマーを充填させることができる。
【0053】
また、複合接着フィルム10に第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bを熱圧着する際の圧力としては、多層回路基板100全体の密着性を高め、かつ上記のように配線4A−4A間、配線4B−4B間への液晶ポリマーの充填性を高める目的で、例えば1MPa以上10MPa以下の範囲内とすることが好ましく、3MPa以上8MPa以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0054】
複合接着フィルム10に第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bを熱圧着する場合、熱プレス装置を用いて所定時間かけて予備加熱を行った後、加圧することが好ましい。予備加熱により、液晶ポリマー層2が十分に軟化した状態で、引き続き所定時間の加圧を行うことにより、液晶ポリマー層2と第1の配線基板30Aおよび第2の配線基板30Bとの十分な接着性が得られ、多層回路基板100全体に高い一体性と密着性を付与できるとともに、液晶ポリマーを配線間へ密に充填させることができる。例えば、予備加熱時間は、全加熱時間に対して最初の1/5〜4/5の範囲内の時間をかけて行うことが好ましい。この場合の全加熱時間に対する加圧時間の割合は、1/5〜4/5の範囲内の時間とすることができる。より具体的には、例えば全加熱時間を25分間とした場合、予備加熱時間は5〜20分間の範囲内とし、加圧時間は5〜20分間の範囲内とすることができる。
【0055】
なお、多層回路基板100を製造する場合、複合接着フィルム10の両面に第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bを同時に熱圧着させてもよいが、まず、複合接着フィルム10の片面に第1の配線基板30Aを熱圧着させ、次に、複合接着フィルム10の他の片面に第2の配線基板30Bを熱圧着させる、というように順次積層する方法を採用してもよい。
【0056】
また、例えば、第1の配線基板30Aと第2の配線基板30Bとの間に、液晶ポリマーフィルム22A、ポリイミドフィルム11および液晶ポリマーフィルム22Bをそれぞれ分離した単体の状態で介在させ、上記条件で一度に熱圧着することによって、多層回路基板100を製造することも可能である。さらに、例えば第1の配線基板30Aの配線4Aの形成面に、液晶ポリマーフィルム22A、ポリイミドフィルム11、液晶ポリマーフィルム22Bおよび第2の配線基板30Bをそれぞれ単体の状態で順次熱圧着して積層させていくことによって、多層回路基板100を製造することも可能である。また、例えば第1の配線基板30Aの配線4Aの形成面に液晶ポリマーフィルム22Aを、第2の配線基板30Bの配線4Bの形成面に液晶ポリマーフィルム22Bを予め熱圧着し、これら2枚の液晶ポリマーフィルム付配線基板の液晶ポリマーフィルム面の間にポリイミドフィルム11を配して熱圧着することにより、多層回路基板100を製造することも可能である。なお、配線基板の配線形成面と液晶ポリマー層2(液晶ポリマーフィルム22A,22B)とが接し、かつ液晶ポリマー層2(液晶ポリマーフィルム22A,22B)とポリイミド樹脂層1(ポリイミドフィルム11)とが接するように積層されるものであれば、多層回路基板100の製造方法は上記に例示した方法に限定されるものではない。
【0057】
多層回路基板100は、例えば、カットシート状、ロール状などの種々の形状とすることができる。高い生産性を得るためには、長尺に形成されたロール状の形態とし、例えばロール・トゥ・ロールなどの方式で連続生産および連続使用が可能な形態とすることが効率的である。
【0058】
なお、以上の説明では、本発明方法の特徴的工程のみを説明した。すなわち、回路配線基板を製造する際に、通常行われる上記以外の工程、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
【0059】
以上のようにして得られる多層回路基板100は、例えばフレキシブルプリント基板、リジッドフレックス基板、フレキシブル伝送ケーブルなどの用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例において特にことわりない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0061】
[熱変形温度の測定]
熱機械分析装置(Bruker社製、4000SA)を用いて、幅2mm、長さ30mm、チャック間距離15mmにて、荷重2g、昇温速度5℃/分の条件で試験片の長さ方向の熱膨張量を測定し、その変曲点を熱変形温度とする。
【0062】
[表面粗度の測定]
JIS B 0601に準じて、触針式表面粗さ測定器(TENCOR社製、TENCOR P−10)を使用して、測定幅200μmの条件でRzを測定した。
【0063】
[充填性(加工性)]
多層回路基板を直線導体パターン(配線)に対して垂直方向に切断し、その断面を顕微鏡にて観察することにより評価した。導体パターンの周囲に樹脂が隙間なく密に充填されているものを「良好」、導体パターンの周囲に部分的に空隙が存在するものを「可」と判定した。
【0064】
[絶縁信頼性(絶縁破壊電圧)]
ASTM−D−149に準じて、絶縁破壊電圧測定器(KIKUSUI社製、TOS5051S)を使用して多層回路基板作製後(加圧・加熱後)の接着フィルムの絶縁破壊電圧を測定した。
【0065】
[伝送特性]
空洞共振器(関東電子応用開発社製、CP431)とネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー社製、E8363B)を使用して、空洞共振器摂動法により1GHzにおける接着フィルムの誘電率および誘電正接を測定し、伝送特性の代替指標とした。
【0066】
[生産性(積層プレス時間)]
本発明の複合接着フィルムおよび液晶ポリマーフィルムについては、温度・圧力・時間を変更して最適条件を検討した結果に基づき、配線間への充填性、上下の回路配線間距離(溶融流出性)、層間接着性等を総合的に評価して最も好ましい条件における積層プレス時間を選択した。また、熱可塑性ポリイミドシート(ESPANEX(登録商標) SPB−035A、新日鐵化学株式会社製)については標準推奨条件における積層プレス時間とした。
【0067】
参考例1:ポリイミドフィルムの準備
ポリイミド銅張積層板(ESPANEX(登録商標) Mシリーズ、新日鐵化学株式会社製)の両面銅箔を市販のエッチング液(アデカケルミカFE−210、株式会社ADEKA製)にて完全にエッチングし、厚さ25μmのポリイミドフィルムAを作製した。このポリイミドフィルムAの表面粗度Rzは、1.5μm、熱変形温度は330℃であった。
【0068】
参考例2:液晶ポリマーフィルムの準備
液晶ポリマー銅張積層板(ESPANEX(登録商標) Lシリーズ、新日鐵化学株式会社製)の両面銅箔を市販のエッチング液(アデカケルミカFE−210、株式会社ADEKA製)にて完全にエッチングし、厚さ25μmの液晶ポリマーフィルムBを作製した。この液晶ポリマーフィルムBの表面粗度Rzは、1.5μm、熱変形温度は250℃であった。
【0069】
参考例3:配線基板の作製
ポリイミド銅張積層板(ESPANEX(登録商標) Mシリーズ、新日鐵化学株式会社製)の片面の銅箔に、サブトラクティブ法により複数の直線導体パターンを形成することにより、配線基板Cを作製した。直線導体パターンの加工幅は、回路導体幅/スペース幅=100μm/100μmとした。エッチングには、市販のエッチング液(アデカケルミカFE−210、株式会社ADEKA製)を用いた。
【0070】
実施例1:複合接着フィルムの作製
上記ポリイミドフィルムAの両面に、上記液晶ポリマーフィルムBを積層し、精密平板プレス装置により加熱・加圧して接合した。加熱・加圧条件は、温度265℃で約10分間保持した後、6MPaの圧力を加え、この状態で10分間保持した。得られた複合接着フィルムは、ポリイミド樹脂層と液晶ポリマー層が密着しており、接着フィルムとして十分な実用性を備えたものであった。
【0071】
実施例2:多層回路基板の作製
上記配線基板C/複合接着フィルム/配線基板Cの順に積層し、精密平板プレス装置により加熱・加圧して接合し、多層回路基板を得た。加熱・加圧条件は、温度265℃で約10分間保持した後、6MPaの圧力を加え、この状態で10分間保持した。この多層回路基板は、導体パターンの周囲に液晶ポリマーが十分に充填されており、上下の導体パターンの距離は約60μmであった。
【0072】
比較例1
実施例2において、複合接着フィルムを使用する代わりに、シロキサン含有ポリイミド樹脂を含む熱可塑性ポリイミドシート(ESPANEX(登録商標) SPB−035A、新日鐵化学株式会社製)を使用し、精密平板プレス装置を用いて180℃、4MPaの加熱・加圧状態を約60分間維持することにより多層回路基板を作製した。この多層回路基板の断面を顕微鏡で観察したところ、導体パターンと熱可塑性ポリイミド樹脂との間に部分的な空隙が確認された。このことから、実施例2の多層回路基板と比較して、伝送特性や耐久性に劣り、生産性も低いことが懸念された。
【0073】
比較例2
実施例2において、複合接着フィルムを使用する代わりに、厚さ25μmの液晶ポリマーフィルムを使用し、精密平板プレス装置により加熱・加圧して接合し、多層回路基板を得た。加熱・加圧条件は、温度265℃で約10分間保持した後、6MPaの圧力を加え、この状態で10分間保持した。この多層回路基板の断面を顕微鏡で観察したところ、導体パターンの周囲に液晶ポリマー樹脂が十分に充填されていたものの、液晶ポリマーの溶融流出により上下の導体パターンが部分的に接触している箇所が観察された。このことから、実施例2の多層回路基板と比較して、絶縁信頼性に劣ることが懸念された。
【0074】
実施例2、比較例1および比較例2で得た多層回路基板について、絶縁信頼性、伝送特性および生産性を評価した。その結果を表1に示した。なお、充填性についての結果も表1中に併せて記載した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示したように、接着層として単層の熱可塑性ポリイミドを使用した比較例1では、積層プレス時間が60分と長く、生産性が劣っており、他の評価項目は一応合格レベルではあったものの、実用性の点で満足のできるものではなかった。また、接着層として、単層の液晶ポリマーフィルムを用いた比較例2では、絶縁破壊電圧が測定不能なレベルまで小さく、絶縁信頼性の点で劣っており、他の評価項目は良好であったが、実用的には満足のできるものではなかった。一方、接着層として本発明の複合接着フィルムを使用した実施例2では、すべての評価項目で優れており、信頼性の高い多層回路基板が得られた。このように、本発明の複合接着フィルムを使用することで、層間密着性、絶縁信頼性、伝送特性、耐久性、加工性などに優れた多層回路基板を提供することができた。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を述べたが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の複合接着フィルムおよび多層回路基板は、小型化、軽量化、高機能化等が要求される電子情報機器の製造において利用価値が高いものである。
【符号の説明】
【0079】
1…ポリイミド樹脂層、1A…非熱可塑性ポリイミド樹脂層、1B,1C…熱可塑性ポリイミド樹脂層、2,2A,2B…液晶ポリマー層、3A,3B…基材、4A,4B…配線、10…複合接着フィルム、11…ポリイミドフィルム、22A,22B…液晶ポリマーフィルム、30A…第1の配線基板、30B…第2の配線基板、100…多層回路基板、S1,S2…表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の配線基板が積層された多層回路基板において接着層として用いられる複合接着フィルムであって、
厚さが5μm以上200μm以下の範囲内であり、熱変形温度T1が300℃以上であるポリイミド樹脂層と、
厚さが5μm以上50μm以下の範囲内であり、熱変形温度T2が200℃〜280℃の範囲内である液晶ポリマー層と、
を備え、前記ポリイミド樹脂層の両面に前記液晶ポリマー層が貼り合わされた積層構造を有することを特徴とする複合接着フィルム。
【請求項2】
前記液晶ポリマー層と貼り合わされた側の前記ポリイミド樹脂層の表面の粗度(Rz)が0.5〜5.0μmの範囲内である請求項1に記載の複合接着フィルム。
【請求項3】
複数の配線基板が接着層を介して積層された多層回路基板の製造方法であって、
絶縁基材の表面に回路パターンが形成された2以上の配線基板を準備する工程と、
少なくとも二つの前記配線基板について前記回路パターンが形成された面を互いに向かい合わせて配置し、間に前記接着層を介在させた状態で加熱・加圧して貼り合わせる工程と、
を備え、
前記接着層として請求項1または請求項2に記載の複合接着フィルムを用いるとともに、前記加熱・加圧して貼り合わせる工程の加熱温度T3が、前記ポリイミド樹脂層の熱変形温度T1および前記液晶ポリマーの熱変形温度T2を基準として、
T2+10℃≦T3≦T2+60℃(ただし、T3<T1である)
で示される関係を有することを特徴とする多層回路基板の製造方法。
【請求項4】
絶縁基材の表面に回路パターンを有する少なくとも二つの配線基板が、前記回路パターンが形成された面を互いに向かい合わせて配置され、接着層を介して積層された多層回路基板であって、
前記接着層は、
厚さが5μm以上200μm以下の範囲内であり、熱変形温度T1が300℃以上であるポリイミド樹脂層と、
厚さが5μm以上50μm以下の範囲内であり、熱変形温度T2が200℃〜280℃の範囲内である液晶ポリマー層と、
を備え、前記ポリイミド樹脂層の両面に前記液晶ポリマー層が貼り合わされてなる積層構造体であることを特徴とする多層回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−238990(P2010−238990A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86587(P2009−86587)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】