説明

複合焼結体の製造方法、複合焼結体および燃料噴射弁

【課題】焼結時の雰囲気ガスを設定することにより、部分ごとに種類の異なる金属材料で構成された高品質の複合焼結体を効率よく製造可能な複合焼結体の製造方法、かかる焼結体の製造方法により製造された機械的特性および寸法精度の高い複合焼結体、およびかかる複合焼結体で構成された部品を備えた燃料噴射弁を提供すること。
【解決手段】第1の金属粉末とバインダとを含む第1の混練物21と、第1の金属粉末とは組成および結晶構造が異なる第2の金属粉末とバインダとを含む第2の混練物22とを用い、各混練物21、22のうち、第1の混練物21の一次成形体3をインサートワークとして、第2の混練物22をインサート成形してなる二次成形体4を作製する成形工程と、二次成形体4を焼成し、複合焼結体を得る焼成工程とを有し、第2の金属粉末の結晶構造が第1の金属粉末と同じ構造に転移するように焼成工程における雰囲気ガスを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合焼結体の製造方法、複合焼結体および燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を含む成形体を焼結して金属製品を製造するに際し、成形体の製造方法として、例えば、金属粉末と有機バインダとを混合、混練し、この混練物を用いて射出成形する金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法が知られている。
このMIM法により製造された成形体は、脱脂処理(脱バインダ処理)が施されて有機バインダが除去された後、焼結に供され、その結果、目的とする金属製品(焼結体)が得られる。
【0003】
ところで、組成の異なる2種類の金属粉末を用いることにより、部分ごとに種類の異なる金属材料で構成された複合焼結体を得ることが行われている。例えば、長尺状の焼結体のうち、一方の側がオーステナイト系ステンレス鋼の焼結体で構成され、他方の側がフェライト系ステンレス鋼の焼結体で構成されたような複合焼結体は、磁気的特性の異なる部分が隣接してなる機能部品として種々の応用例が想定されている。
【0004】
特許文献1には、互いに異なる材質の金属粉末からなる第1部材の成形体と第2部材の成形体とを仮付けした上で、これを一次焼成した後、さらに熱間静水圧プレス(HIP)処理を行うことにより複合焼結体を得る方法が開示されている。
ところが、第1部材の成形体中の金属粉末と第2部材の成形体中の金属粉末とが異なる材質である場合、第1部材の焼結体と第2部材の焼結体とで熱膨張率が異なる。この熱膨張率差は、主に各部材を構成する金属材料の結晶構造の差に起因している。そして、この熱膨張率差は、焼成工程後の複合焼結体において、変形や寸法精度の著しい低下として表面化することとなり、利用上の問題となっていた。
以上のようなことから、組成および結晶構造の異なる2種類の金属粉末を用いて高品質の複合焼結体を製造することは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−355005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、焼結時の雰囲気ガスを設定することにより、部分ごとに種類の異なる金属材料で構成された高品質の複合焼結体を効率よく製造可能な複合焼結体の製造方法、かかる焼結体の製造方法により製造された機械的特性および寸法精度の高い複合焼結体、およびかかる複合焼結体で構成された部品を備えた燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の複合焼結体の製造方法は、第1の金属粉末と有機バインダとを含む第1の組成物と、前記第1の金属粉末を構成する第1の金属材料と組成および結晶構造が異なる第2の金属材料で構成された第2の金属粉末と有機バインダとを含む第2の組成物とを用いて、異種金属の複合成形体を得る成形工程と、
前記複合成形体を雰囲気ガス中で焼成し、複合焼結体を得る焼成工程とを有し、
前記焼成工程において、前記第2の金属材料が、前記雰囲気ガスの原子を取り込んで固溶体となる際に、その結晶構造が、前記第1の金属材料と同じ結晶構造に転移するように、前記雰囲気ガスの種類を設定することを特徴とする。
これにより、部分ごとに種類の異なる金属材料で構成された高品質の複合焼結体を効率よく製造することができる。
【0008】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記第1の金属材料および前記第2の金属材料は、それぞれ、Ti系合金、Fe系合金、Ni系合金、Co系合金およびCu系合金のいずれかであることが好ましい。
これらの金属材料の粉末は、粉末冶金法により焼結密度の高い複合焼結体を製造することが可能である。このため、複合焼結体製造用の金属粉末として好適である。また、これらの金属材料は、固相線温度が比較的近いため、焼成工程の昇温過程で、第1の金属粉末が焼結に至るタイミングと第2の金属粉末が焼結に至るタイミングとが近くなり、これらの間の拡散現象を促進することができる。その結果、より機械的特性に優れた複合焼結体を得ることができる。
【0009】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記第1の金属材料の結晶構造は、面心立方格子であり、
前記焼成工程における雰囲気ガスは、前記第2の金属材料の結晶構造が面心立方格子に転移するように設定されることが好ましい。
これにより、機械的特性に優れた焼結体を得ることができる。
【0010】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記焼成工程における雰囲気ガスは、ホウ素原子、炭素原子および窒素原子のいずれかを含むガスであることが好ましい。
これらのガスは、侵入型固溶体を生成し得るガスであり、原子半径からして結晶構造の転移を促し得るガスである。また、これらのガスは、脱脂体の焼結時に金属粉末の酸化や変性を抑制し、高品質な複合焼結体を得ることを可能にする。
【0011】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記成形工程における前記第1の金属材料は、結晶構造が面心立方格子のFe基合金であり、かつ、前記第2の金属材料は、結晶構造が体心立方格子のFe基合金であり、
前記焼成工程における雰囲気ガスは、窒素ガスまたはアンモニアガスであることが好ましい。
これにより、Fe基合金の結晶構造を面心立方格子に確実に転移させることができる。また、窒素原子を含むガス雰囲気下で脱脂体を焼成することにより、得られた複合焼結体の表面に窒化処理と同等の処理が施されることになるため、表面の硬度が向上し、耐摩耗性に優れた複合焼結体が得られる。
【0012】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記焼成工程における焼成条件は、温度1000〜1500℃×0.2〜7時間であることが好ましい。
これにより、脱脂体の焼結を最適化することができ、結晶組織が必要以上に肥大化するのを防止することができる。その結果、より微小な結晶組織を有する複合焼結体が得られる。
【0013】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記複合成形体は、前記第1の組成物と前記第2の組成物とを同一の成形型内に供給して二色成形してなる二色成形体、または、前記第1の組成物および前記第2の組成物のうち、一方の組成物の成形体をインサートワークとしてインサート成形してなるインサート成形体であることが好ましい。
これにより、第1の組成物と第2の組成物とが混じり合うのを防止しつつ、これらが隣接した複合成形体を容易に作製することができる。
【0014】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記第1の金属粉末および前記第2の金属粉末のうち、固相線温度の高い方の金属粉末の平均粒径が、固相線温度の低い方の金属粉末の平均粒径より小さいことが好ましい。
平均粒径が小さくなれば粒子の表面エネルギーが大きくなるため、通常の焼結温度よりも低い温度で焼結させることができ、第1の金属粉末の焼結温度と第2の金属粉末の焼結温度とを接近させることができる。
【0015】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記第1の金属粉末の平均粒径および前記第2の金属粉末の平均粒径は、それぞれ1〜30μmであることが好ましい。
これにより、各粒子の表面エネルギーが特に大きくなり、この表面エネルギーが焼結の駆動力として顕在化する。その結果、固相線温度の異なる異種の金属粉末を用いた場合であっても、各金属粉末の焼結温度が接近することになるため、第1の金属粉末と第2の金属粉末との焼結の時差をより低減することができる。その結果、複合焼結体における焼結ムラの発生をさらに確実に防止することができる。
【0016】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記第1の組成物および前記第2の組成物における前記有機バインダの含有率は、それぞれ2〜20質量%であることが好ましい。
これにより、各組成物は、優れた流動性および保形性を有するとともに、有機バインダの含有量が多くなり過ぎず、最終的に得られる複合焼結体の焼結密度を高めることができる。また、複合焼結体の寸法精度を高めることもできる。
【0017】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記複合成形体は、前記第1の組成物および前記第2の組成物のうち、一方の組成物が他方の組成物を包含するまたは挟み込むように成形されてなるものであり、
前記複合成形体の外側に位置する組成物は、内側に位置する組成物よりも、前記焼成工程における収縮率が大きいことが好ましい。
これにより、脱脂または焼成時に、第2の組成物の方が第1の組成物に比べて大きく収縮することになるため、第2の組成物によって第1の組成物が圧縮されることになる。その結果、圧縮後の第1の組成物と第2の組成物との間に隙間が生じ難くなり、より高密度の複合焼結体が得られる。
【0018】
本発明の複合焼結体の製造方法では、前記成形工程は、金属粉末射出成形法により行うことが好ましい。
これにより、比較的小型のものや、複雑で詳細な形状の複合成形体をニアネット(最終形状に近い形状)で製造することができ、その後の機械加工を不要にしたり最小限に抑えたりすることができる。
【0019】
本発明の複合焼結体は、本発明の焼結体の製造方法により製造されたものであり、
前記第1の金属粉末の焼結体と前記第2の金属粉末の焼結体とが一体化したものであることを特徴とする。
これにより、複合焼結体は、全体的に緻密な、すなわち低空孔率で高密度のものとなり、かつ全体として機械的特性に優れたものとなる。
【0020】
本発明の複合焼結体では、前記第1の金属粉末の焼結体と前記第2の金属粉末の焼結体とが相互拡散に基づいて接合されていることが好ましい。
これにより、機械的特性に特に優れた複合焼結体が得られる。
本発明の複合焼結体では、焼結前の前記第1の金属粉末はγ−Fe系合金で構成され、かつ、焼結前の前記第2の金属粉末はα−Fe系合金で構成されており、
前記第2の金属粉末の焼結体は、前記第1の金属粉末の組成と前記焼成工程における雰囲気ガスの成分とを含有するγ固溶体を含んでいることが好ましい。
これにより、機械的特性および寸法精度に優れた複合焼結体が得られる。
【0021】
本発明の燃料噴射弁は、焼結前の前記第1の金属粉末は非磁性材料で構成され、かつ、焼結前の前記第2の金属粉末は磁性材料で構成されており、
これらの金属粉末を用いて、本発明の複合焼結体の製造方法により製造された管状の部品を備えた電磁式の燃料噴射弁であって、
前記管状の部品は、磁性材料粉末の焼結体と非磁性材料粉末の焼結体とが一体化したものであることを特徴とする。
これにより、手間のかかる溶接やろう付け等の工程を経ることなく、磁性材料粉末の焼結体と非磁性材料粉末の焼結体との連結強度が高く、機械的特性および寸法精度に優れた管状の部品を備えた電磁式の燃料噴射弁が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の複合焼結体の製造方法、複合焼結体および燃料噴射弁について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の複合焼結体の製造方法は、組成および結晶構造の異なる複数種の金属粉末により、部分ごとに種類の異なる金属材料で構成された高品質の複合焼結体を効率よく製造する方法である。かかる方法により製造された複合焼結体は、部分的に電磁気的特性、熱的特性、機械的特性、化学的特性等が異なったものになるため、このような特性の差を利用して各種機能部品として好適に用いられる。
【0023】
<第1実施形態>
まず、本発明の複合焼結体の製造方法の第1実施形態について説明する。
図1および図2は、本発明の複合焼結体の製造方法の第1実施形態を説明するための図である。
本実施形態にかかる複合焼結体の製造方法は、[1]第1の金属粉末と有機バインダとを含む第1の混練物(第1の組成物)21と、第1の金属粉末とは組成および結晶構造の異なる第2の金属粉末と有機バインダとを含む第2の混練物(第2の組成物)22とを用意する組成物調製工程と、[2A]第1の混練物21を成形して一次成形体3を得る一次成形工程と、[2B]得られた一次成形体3をインサートワークとして、第2の混練物22をインサート成形し、二次成形体(複合成形体)4を得る二次成形工程と、[3]得られた二次成形体4を脱脂し、脱脂体6を得る脱脂工程と、[4]得られた脱脂体6を所定の雰囲気で焼成し、複合焼結体1を得る焼成工程とを有する。以下、これらの工程を順次詳述する。
【0024】
[1]組成物調製工程
まず、第1の金属粉末と有機バインダとを用意し、これらを混練機により混練し、第1の混練物(第1の組成物)21を得る。
この第1の混練物(コンパウンド)21中では、第1の金属粉末と有機バインダとがそれぞれ均一に分散している。
また、第2の金属粉末と有機バインダとを用意し、これらを混練機により混練し、第2の混練物(第2の組成物)22を得る。
【0025】
第2の金属粉末は、第1の金属粉末を構成する金属材料(第1の金属材料)とは組成および結晶構造の異なる金属材料(第2の金属材料)で構成されている。したがって、このような第1の金属粉末および第2の金属粉末を用いることにより、部分ごとに材質の異なる複合焼結体1を製造することができる。
また、この第2の混練物(コンパウンド)22中においても、第2の金属粉末と有機バインダとがそれぞれ均一に分散している。
【0026】
これらの金属粉末は、いかなる金属材料で構成されたものであってもよいが、かかる金属材料は、Ti系合金、Fe系合金、Ni系合金、Co系合金およびCu系合金のいずれか1種であるのが好ましい。これらの金属材料の粉末は、粉末冶金法により、焼結密度の高い複合焼結体1を作製することができる。このため、複合焼結体製造用の金属粉末として好適である。
また、これらの金属材料は、固相線温度が比較的近いため、後述する焼成工程の昇温過程で、第1の金属粉末が焼結に至るタイミングと第2の金属粉末が焼結に至るタイミングとが近くなり、これらの間の拡散現象を促進することができる。その結果、より機械的特性に優れた複合焼結体1を得ることができる。
【0027】
このうち、金属粉末としては、Fe系合金が好ましく用いられる。
Fe系合金としては、例えば、低炭素鋼、炭素鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金等が挙げられる。
また、Fe系合金としては、特にステンレス鋼がより好ましく用いられる。ステンレス鋼粉末は、焼結性に優れるため、この粉末を用いて製造された焼結体は、特に機械的特性および化学的特性に優れたものとなる。
ステンレス鋼の具体例としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS317、SUS329、SUS410、SUS430、SUS440、SUS630等が挙げられる。
【0028】
また、金属材料の結晶構造は、金属原子の配置構造を指し、単純立方格子、体心立方格子、面心立方格子、六方最密格子等の種類がある。一般には、金属材料の組成と結晶構造とは一義的に決まるが、一部、温度域等に応じて複数の結晶構造を有する金属材料もある。
例えば、結晶構造が体心立方格子となる金属材料としては、例えば、Cr、α−Fe、Mo、β−Ti、V等の単体の他、SUS405、SUS410、SUS430、SUS434のようなフェライト系ステンレス鋼等の各種合金が挙げられる。
【0029】
また、結晶構造が面心立方格子となる金属材料としては、例えば、Al、Co、Cu、γ−Fe、Ni等の単体の他、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS309、SUS310、SUS316、SUS317、SUS321、SUS347、SUS384のようなオーステナイト系ステンレス鋼、SUH31、SUH35、SUH36、SUH37、SUH38、SUH309、SUH310、SUH330、SUH660、SUH661のようなオーステナイト系耐熱鋼、低炭素鋼、パーマロイ、Co−Cr−Mo系合金等の各種合金が挙げられる。
【0030】
さらに、結晶構造が六方最密格子となる金属材料としては、例えば、α−Ti、Zn等が挙げられる。
なお、低炭素鋼は、一般に、炭素含有率が0.02〜0.3質量%程度の炭素鋼を指す。
また、パーマロイとしては、例えば、JIS C 2531に規定の鉄ニッケル軟質磁性材料等が挙げられる。
【0031】
一方、有機バインダとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
また、有機バインダの含有量は、第1の混練物および第2の混練物のそれぞれ2〜20質量%程度であるのが好ましく、5〜10質量%程度であるのがより好ましい。有機バインダの含有率が前記範囲内であることにより、各混練物は優れた流動性および保形性を有するとともに、有機バインダの含有量が多くなり過ぎず、最終的に得られる複合焼結体1の焼結密度を高めることができる。また、複合焼結体1の寸法精度を高めることもできる。
【0033】
また、各混練物21、22中に、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
さらに、各混練物21、22中には、各金属粉末、有機バインダ、可塑剤の他に、例えば、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じ添加することができる。
【0034】
混練条件は、用いる各金属粉末の構成材料や粒径、有機バインダの組成、およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度:50〜200℃程度、混練時間:15〜210分程度とすることができる。
また、各混練物21、22は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1〜15mm程度とされる。
【0035】
[2A]一次成形工程
次に、得られた第1の混練物21を所定の形状に成形して一次成形体3を製造する。
成形体の製造方法(成形方法)は、特に限定されず、例えば、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、圧縮成形(圧粉成形)法、押出成形法等が挙げられるが、特にMIM法が好ましい。
このMIM法は、比較的小型のものや、複雑で微細な形状の成形体をニアネット(最終形状に近い形状)で製造することができ、その後の機械加工を不要にしたり最小限に抑えたりすることができるという利点を有する。このため、本発明を適用する上でその効果が有効に発揮されることとなる。
【0036】
ここでは、MIM法を例に一次成形体3および後述する二次成形体(複合成形体)4を製造する場合について説明する。また、ここでは、円筒形(リング状)の一次成形体3および二次成形体4を製造する場合を例に説明する。
まず、図1(a)に示すように、リング状をなすキャビティ31を有する一次成形用成形型30を用い、前記工程で得られた第1の混練物21を射出成形機によりキャビティ31内に射出成形する。これにより、図1(b)に示すような一次成形体3が得られる。このような射出成形によれば、成形型の選択により、複雑な形状の一次成形体3をも容易に製造することができる。
【0037】
また、一次成形体3は、後述する工程で製造する二次成形体4により包含される形状である。すなわち、一次成形体3は、後述する工程において、第2の混練物22により包含されるようにして成形される(インサート成形)。これにより、二次成形体4は、第1の混練物21を第2の混練物22で包含してなるものとなる。
また、製造される一次成形体3の形状寸法は、以後の脱脂および焼結による一次成形体3の収縮分を見込んで決定される。
射出成形の成形条件としては、用いる第1の金属粉末の構成材料や粒径、有機バインダの組成およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、材料温度は、好ましくは80〜200℃程度、射出圧力は、好ましくは2〜30MPa(20〜300kgf/cm)程度とされる。
【0038】
[2B]二次成形工程
次に、得られた一次成形体3を、二次成形用成形型40のキャビティ41内に載置する。ここでは、図1(c)に示すように、長尺の円筒形状をなすキャビティ41内の長手方向の中央付近に一次成形体3を載置する。
次に、二次成形用成形型40のキャビティ41の一次成形体3以外の空間42に第2の混練物22を射出する。これにより、一次成形体3を覆うように(挟み込むように)第2の混練物22がキャビティ41内に行き渡り、図1(d)に示すように、一次成形体3を内包する二次成形体(異種金属の複合成形体)4が得られる。このようなMIM法によれば、一次成形体3に対して第2の混練物22が高い圧力で押圧されるため、これらの界面の密着性をより高めることができる。その結果、緻密で機械的特性に優れた複合焼結体1が得られる。
また、製造される二次成形体4の形状寸法も、以後の脱脂および焼結による二次成形体4の収縮分を見込んで決定される。
【0039】
射出成形の成形条件としては、用いる第2の金属粉末の構成材料や粒径、有機バインダの組成およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、材料温度は、好ましくは80〜200℃程度、射出圧力は、好ましくは2〜30MPa(20〜300kgf/cm)程度とされる。
また、二次成形における成形条件は、一次成形における成形条件とほぼ同様であるのが好ましい。これにより、二次成形時に、キャビティ41内に載置された一次成形体3が熱や圧力の影響により変形したり変質したりするのを防止することができる。すなわち、二次成形体4中の第1の混練物21と第2の混練物22とが、ほぼ同様の熱履歴を経ることになるため、後述する工程において、二次成形体4を脱脂・焼成する場合に、二次成形体4全体において、収縮速度、脱脂速度および焼結速度等の均一化を図ることができる。その結果、焼結密度および寸法精度の高い複合焼結体1が得られる。
【0040】
なお、本実施形態では、一次成形体3を覆うように(挟み込むように)第2の混練物22が射出され、二次成形体4が形成される。この場合、二次成形体4の外側に位置する第2の混練物22は、内側に位置する第1の混練物21に比べて、後述する脱脂・焼成における収縮率が大きいのが好ましい。これにより、脱脂または焼成時に、第2の混練物22の方が第1の混練物21に比べて大きく収縮することになるため、第2の混練物22によって第1の混練物21が圧縮されることになる。その結果、圧縮後の第1の混練物21と第2の混練物22との間に隙間が生じ難くなり、より高密度の複合焼結体1が得られる。
【0041】
このように第1の混練物21と第2の混練物22との間で収縮率に差を設けるためには、各混練物21、22における有機バインダの含有率に差を設ければよい。
具体的には、第2の混練物22中の有機バインダの含有率を第1の混練物21中の有機バインダの含有率よりも大きくすればよい。これにより、第1の混練物21よりも第2の混練物22の収縮率を大きくすることができる。
【0042】
[3]脱脂工程
前記工程で得られた二次成形体4に対し、脱脂処理(脱バインダ処理)を施し、脱脂体6を得る。
この脱脂処理は、例えば、大気、酸素のような酸化性ガス、水素、アンモニア分解ガスのような還元性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴンのような不活性ガス、またはこれらの1種または2種以上を含有する混合ガス等を含む雰囲気中、または減圧雰囲気中で、熱処理を行うことによりなされる。
この場合、熱処理の条件は、有機バインダの分解開始温度等によって若干異なるが、好ましくは温度100〜750℃程度で0.5〜40時間程度、より好ましくは温度150〜600℃程度で1〜24時間程度とされる。
【0043】
また、このような熱処理による脱脂は、種々の目的(例えば、脱脂時間の短縮等の目的)で、複数の工程(段階)に分けて行ってもよい。具体的には、前半を低温で、後半を高温で脱脂するような方法や、低温と高温を繰り返し行う方法等が挙げられる。
また、脱脂処理は、有機バインダや添加剤中の特定成分を所定の溶媒(液体、気体等の流体)を用いて溶出させることにより行うようにしてもよい。
このようにして有機バインダを除去し、脱脂体6を得る。
なお、有機バインダは、脱脂処理によって完全に除去されなくてもよく、例えば、脱脂処理の完了時点で、その一部が残存していてもよい。
【0044】
また、第1の混練物21中の有機バインダと第2の混練物22中の有機バインダとは、同種のものが好ましく用いられる。同種の有機バインダを用いることにより、本脱脂工程において、第1の混練物21と第2の混練物22とがほぼ同時に軟化または溶融するとともに、各混練物21、22中の有機バインダが分解・脱脂される。これにより、第1の混練物21と第2の混練物22との間で脱脂のタイムラグがなくなるので、二次成形体4中から有機バインダの分解物が効率よく除去される。その結果、二次成形体4全体を均一に脱脂することができる。
【0045】
[4]焼成工程
前記工程で得られた脱脂体6を、焼成炉で焼成する(図2(e)参照)。これにより、脱脂体6が焼結し、図2(f)に示す複合焼結体1が得られる。
この焼結により、第1の金属粉末の粒子同士および第2の金属粉末の粒子同士間において、界面での拡散が生じ、粒成長して結晶組織となる。これにより、2つの第2の金属粉末の焼結体部位12が、第1の金属粉末の焼結体部位11を介して一体化してなる複合焼結体1が得られる。このような複合焼結体1は、全体的に緻密な、すなわち低空孔率で高密度のものとなり、全体として機械的特性に優れたものとなる。
【0046】
本工程における焼成温度は、用いる各金属粉末の構成材料や粒径等の諸条件により異なるが、例えば、第1の金属粉末および第2の金属粉末として、それぞれ前述したTi系合金、Fe系合金、Ni系合金、Co系合金およびCu系合金のいずれか1種で構成された金属粉末を用いた場合には、好ましくは1000〜1500℃程度、より好ましくは1050〜1400℃程度とされる。これにより、脱脂体6の焼結を最適化することができ、結晶組織が必要以上に肥大化するのを防止することができる。その結果、より微小な結晶組織を有する複合焼結体1が得られる。
また、第1の金属粉末および第2の金属粉末として、特にステンレス鋼粉末を用いた場合には、本工程における焼成温度は、好ましくは1000〜1400℃程度、より好ましくは1050〜1350℃程度とされる。
【0047】
また、焼成時間は、焼成温度を前記範囲とする場合、0.2〜7時間程度であるのが好ましく、1〜4時間程度であるのがより好ましい。かかる時間の焼成を、前記温度範囲の焼成温度で行うことにより、脱脂体6の焼結をより確実に最適化して、結晶組織の肥大化を確実に防止しつつ焼結させることができる。その結果、機械的特性に優れた複合焼結体1が得られる。
なお、脱脂体6の焼結の程度は、前記範囲内で焼成時間を変化させることにより、脱脂体6に付与する熱エネルギーを増減させ、若干調整することができる。
【0048】
以上のようにして、第1の金属粉末の焼結体部位11と第2の金属粉末の焼結体部位12とが一体化してなる複合焼結体1が得られる。
ところで、従来も、組成および結晶構造の異なる2種類の金属粉末を用いて複合焼結体を製造する方法が知られていた。しかしながら、2種類の金属粉末の間で結晶構造が異なっていると、複合焼結体を得たとしても、結晶構造の差異に起因した熱膨張率差が、複合焼結体の変形や寸法精度の低下として表面化し、複合焼結体の利用を阻害する原因となっていた。
【0049】
そこで、本発明者は、結晶構造が異なる2種類の金属粉末を用い、十分な焼結密度の複合焼結体を通常の焼成方法により製造する方法について検討した。そして、異種の金属粉末を用いて異種金属の複合焼結体を得るためには、焼結時に2種類の金属材料の結晶構造が同じになるよう焼成条件を設定すれば、特殊な方法を用いることなく簡単に複合焼結体を製造可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、用いる2種類の金属粉末が、たとえ結晶構造が異なるものであっても、焼結時に一方の金属粉末の結晶構造が他方の金属粉末の結晶構造に転移するよう、焼成の雰囲気ガスを設定することにより、二次成形体4における焼結が促進する。その結果、緻密で機械的特性に優れた複合焼結体1を得ることができる。
【0050】
このようにして得られた複合焼結体1は、第1の金属粉末の焼結体部位11の結晶構造と第2の金属粉末の焼結体部位12の結晶構造が同じになるため、両者の熱膨張率が接近し、複合焼結体1の変形や寸法精度の低下を防止することができる。
上記のような現象が起こる理由の1つとしては、雰囲気ガスを構成する原子が金属粉末の結晶構造に侵入し、これにより結晶構造が変化して、別の結晶構造の固溶体を生成することが挙げられる。したがって、固溶体の焼結温度付近の結晶構造を考慮しつつ、金属粉末と固溶体を生成し得るガス種を適宜選択する必要がある。
【0051】
具体的には、例えば、第1の金属粉末として前述したオーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト系耐熱鋼、低炭素鋼等の結晶構造が面心立方格子であるFe基合金粉末を用い、第2の金属粉末として前述したフェライト系ステンレス鋼等の結晶構造が体心立方格子であるFe基合金粉末を用いた場合には、焼結時に第2の金属粉末の体心立方格子が面心立方格子に転移するよう雰囲気ガスを設定すればよい。この場合、雰囲気ガスとしては、窒素ガスまたはアンモニアガスが好ましく用いられる。このようなガスを用いることにより、雰囲気ガス中の原子が体心立方格子中に侵入し、別の結晶構造、すなわち面心立方格子のγ固溶体(侵入型固溶体)が生成する。その結果、第1の混練物21中の第1の金属粉末の結晶構造と第2の混練物22中の第2の金属粉末の結晶構造が、それぞれ面心立方格子に揃えられるため、前述したように、複合焼結体1は機械的特性および寸法精度に優れたものとなる。
【0052】
なお、金属材料の結晶構造には、前述したように単純立方格子、体心立方格子、面心立方格子、六方最密格子等の種類があるが、焼結時に一方の結晶構造を他方の結晶構造に揃えるよう雰囲気ガスを設定する際には、面心立方格子や六方最密格子等の最密格子になるようにするのが好ましく、特に面心立方格子になるようにするのがより好ましい。面心立方格子のような最密格子の金属材料は硬度等の機械的特性に優れることから、前述したように雰囲気ガスを設定すれば、最終的に機械的特性に優れた焼結体を得ることができる。また、体心立方格子から面心立方格子へは、体心立方格子の柔軟性の高さと充填性の低さからして転移が起り易いという背景もある。
【0053】
以上のように、雰囲気ガス中の原子を取り込んで別の結晶構造の固溶体が生成されるが、このような結晶構造の転移を促す元素としては、例えば、ホウ素、炭素、窒素等が挙げられる。
そして、これらの元素を含むガスのうち、焼結時の雰囲気ガスとして適切なものとしては、前述したような窒素ガスの他、アンモニアガスのような窒素原子を含むガス、一酸化炭素ガス、メタンガスのような炭素原子を含むガス、ジボランのようなホウ素原子を含むガス等が挙げられる。これらは、いずれも侵入型固溶体を生成し得るガスであり、原子半径からして結晶構造の転移を促し得るガスであると言える。また、これらのガスは、焼結時に金属粉末の酸化や変性を抑制し、高品質な複合焼結体1を得ることを可能にする。
なお、上述したような結晶構造の転移を伴う侵入型固溶体が生成するか否かは、金属材料と雰囲気ガスが含む成分との合金の状態図から把握することができる。
【0054】
このような状態図の一例として、図3には、Fe−N系合金の状態図を示す。
この状態図によれば、焼結温度下で窒素原子の含有率が1〜3質量%程度になると、複合焼結体1中にγ相を生成することが認められる。したがって、例えば前述したように第2の金属粉末としてフェライト系ステンレス鋼粉末を用いた場合、窒素ガス雰囲気中で焼成工程を行うことにより、窒素原子が脱脂体6中に侵入し、γ相を生成する。その結果、第1の金属粉末としてオーステナイト系ステンレス鋼粉末を用いた場合、第2の金属粉末の結晶構造を第1の金属粉末の結晶構造に合わせて面心立方格子に転移させることができる。
【0055】
このようにして得られた複合焼結体1の結晶構造、および焼結前の各金属粉末の結晶構造は、それぞれ、X線回折(XRD)、反射高速電子回折(RHEED)、低速電子回折(LEED)等の各種結晶構造解析により同定可能である。
なお、焼結時に、第2の金属粉末の結晶構造の全てが、第1の金属粉末と同じ結晶構造に転移するのが好ましいが、一部のみが転移して残りは転移しない場合でも、上述したような作用・効果を奏する。この場合、複合焼結体1において、第2の金属粉末の転移後の結晶構造が50質量%以上含まれているのが好ましい。
【0056】
また、第1の金属粉末の平均粒径および第2の金属粉末の平均粒径は、それぞれ1〜30μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましく、1〜6μmであるのがさらに好ましい。金属粉末の粒径をこのような比較的小さな粒径とすることにより、各粒子の表面エネルギーが特に大きくなり、この表面エネルギーが焼結の駆動力として顕在化する。その結果、固相線温度の異なる異種の金属粉末を用いた場合であっても、各金属粉末の焼結温度が接近することになるため、第1の金属粉末と第2の金属粉末との焼結の時差をより低減することができる。その結果、複合焼結体1における焼結ムラの発生をさらに確実に防止することができる。
【0057】
なお、第1の金属粉末の平均粒径および第2の金属粉末の平均粒径が、それぞれ前記下限値を下回った場合、各金属粉末の粒子の表面エネルギーが大きくなり過ぎて、各金属粉末の流動性や充填性が低下するおそれがある。このため、第1の混練物21および第2の混練物22の流動性が低下し、成形時のキャビティ充填性が低下するおそれがある。一方、第1の金属粉末の平均粒径および第2の金属粉末の平均粒径が、それぞれ前記上限値を上回った場合、各金属粉末の焼結温度を十分に接近させることができないおそれがある。
【0058】
また、第1の金属粉末および第2の金属粉末のうち、固相線温度の高い方の金属粉末は、その平均粒径が、固相線温度の低い方の金属粉末の平均粒径より小さいことが好ましい。平均粒径が小さくなれば金属材料が活性化し、通常の焼結温度よりも低い温度で焼結できるので、これにより第1の金属粉末の焼結温度と第2の金属粉末の焼結温度とをさらに接近させることができる。
また、本発明に用いる第1の金属粉末および第2の金属粉末には、それぞれいかなる方法で製造されたものでも用いることができ、例えば、アトマイズ法(例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法により製造されたものを用いることができる。
【0059】
このうち、水アトマイズ法(高速回転水流アトマイズ法を含む。)により製造されたものを好ましく用いることができる。水アトマイズ法では、溶融金属に向けて高圧の水ジェットを衝突させることによって、微小な金属粉末を効率よく製造することができる。この方法で用いる水ジェットは、ガスアトマイズ法で用いるガスジェットに比べて、冷却媒の比重が大きく、衝突エネルギーも大きいため、溶融金属をより微小に分断することができる。また、粒度分布の幅も狭く、粒径の揃った金属粉末を製造することができる。
【0060】
また、水アトマイズ法により分断された溶融金属の各粒子には、ガスアトマイズ法に比べて異形状のものが多く含まれている。このため、各粒子は、球形状の粒子に比べて比表面積が大きくなる。その結果、水アトマイズ法により製造された金属粉末では、各粒子における表面エネルギーが特に大きくなり、前述したような第1の金属粉末の焼結温度と第2の金属粉末の焼結温度との接近がより顕著なものとなる。すなわち、水アトマイズ法により得られた金属粉末は、本発明に用いられる第1の金属粉末および第2の金属粉末として特に好適である。
【0061】
以上のようにして製造された複合焼結体1は、結晶構造が均一なものとなるため、含まれる構造欠陥が少なく、機械的特性に優れたものとなる。特に、前述したような粒径の金属粉末を用いた場合、結晶組織の粒径も微小なものとなり、機械的特性のさらなる向上が図られる。すなわち、結晶組織が微小になると、複合焼結体1の主たる破壊機構が、結晶組織内部における破壊から、結晶粒界における破壊へと変化するが、結晶粒界における破壊は結晶組織内部における破壊よりも発生に至る限界の応力が大きいことから、複合焼結体1は機械的特性において特に優れたものとなる。
【0062】
このような複合焼結体1の機械的特性は、用いる金属粉末の組成に応じて異なるが、例えば、第1の金属粉末および第2の金属粉末がそれぞれステンレス鋼である場合、JIS Z 2241の規定の引張強さが、500MPa以上と高くなる。このような引張強さを有する複合焼結体1は、各種機構部品として十分に利用可能なものとなる。
また、複合焼結体1は、前述したような粒径の微小な金属粉末を用いた場合、表面粗さの低いものとなる。具体的には、JIS Z 0601に規定の表面粗さRaが、0.8μm以下の複合焼結体1が得られる。このような表面粗さRaを有する複合焼結体1は、平滑性が十分に高いものであると言える。
さらに、窒素ガス雰囲気下で脱脂体を焼成した場合、得られた複合焼結体1の表面に窒化処理と同等の処理が施されることとなる。このため、表面の硬度が向上し、耐摩耗性に優れた複合焼結体1が得られる。
【0063】
以上のようにして製造された複合焼結体1は、前述したように、異種金属の焼結体同士が一体化してなるものであるため、機械的特性に優れている上に、部分的に電磁気的特性、熱的特性、機械的特性、化学的特性等が異なっている。したがって、このような特性の差を利用することにより、複合焼結体1を各種機能部品として好適に用いることができる。
【0064】
例えば、部分的に磁性の異なる機能部品や、部分的に硬度の異なる機能部品、部分的に耐食性の異なる機能部品、部分的に耐摩耗性の異なる機能部品等を製造することができる。
また、本実施形態では、インサート成形法により複合成形体4を得る方法について説明したが、インサート成形によれば、第1の混練物21と第2の混練物22とが混じり合うのを防止しつつ、これらが隣接した複合成形体(インサート成形体)4を容易に作製することができる。
【0065】
<第2実施形態>
次に、本発明の複合焼結体の製造方法の第2実施形態について説明する。
図4および図5は、本発明の複合焼結体の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0066】
本実施形態にかかる複合焼結体の製造方法は、インサート成形に代えて、第1の混練物と第2の混練物とを二色成形するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる複合焼結体の製造方法は、[1]第1の金属粉末と有機バインダとを含む第1の混練物(第1の組成物)21と、第1の金属粉末とは異種の第2の金属粉末と有機バインダとを含む第2の混練物(第2の組成物)22とを用意する組成物調製工程と、[2]第1の混練物21と第2の混練物22とを二色成形し、二色成形体5を得る成形工程と、[3]得られた二色成形体5を脱脂し、脱脂体6を得る脱脂工程と、[4]得られた脱脂体6を焼成し、複合焼結体1を得る焼成工程とを有する。以下、これらの工程を順次詳述する。
【0067】
[1]組成物調製工程
まず、前記第1実施形態と同様にして、第1の混練物(第1の組成物)21および第2の混練物(第2の組成物)22を得る。
[2]成形工程
次に、第1の混練物21と第2の混練物22とを二色成形する。
この成形方法には、特に限定されず、前記第1実施形態と同様、金属粉末射出成形(MIM)法、圧縮(プレス)成形法、押出成形法等が用いられるが、特にMIM法が好ましく用いられる。
ここでは、まず、図4(a)に示すように、二色成形機50のキャビティ51の右側の空間をピン52で塞いだ状態にしておく。そして、これにより生じたキャビティ51の左側の空間に第1の混練物21を充填する。次いで、図4(b)に示すように、ピン52をキャビティ51から引き抜き、これにより生じたキャビティ51の右側の空間に第2の混練物22を充填する。
これにより、図4(c)に示すように、第1の混練物21と第2の混練物22とが二色成形されてなる二色成形体(異種金属の複合成形体)5が得られる。
なお、本実施形態では、2種類の混練物21、22を同一のキャビティ51内に射出可能な二色成形機50を用いた場合について説明したが、3種類以上の混練物を同一のキャビティ内に射出可能な多色成形機を用いるようにしてもよい。
【0068】
[3]脱脂工程
前記工程で得られた二色成形体5に対し、前記第1実施形態と同様にして脱脂処理(脱バインダ処理)を施し、脱脂体6’を得る。
[4]焼成工程
前記工程で得られた脱脂体6’を、前記第1実施形態と同様にして焼成炉で焼成する(図5(d)参照)。これにより、脱脂体6’が焼結し、図5(e)に示す複合焼結体1’が得られる。
この焼結により製造された複合焼結体1’は、異種金属の第1の金属粉末の焼結体部位11’と第2の金属粉末の焼結体部位12’とが一体化してなるものであるため、機械的特性に優れている上に、部分的に電磁気的特性、熱的特性、機械的特性、化学的特性等が異なっている。したがって、このような特性の差を利用することにより、複合焼結体1の各種機能部品とし好適に用いることができる。
また、第1の金属粉末の焼結体部位11’の結晶構造と第2の金属粉末の焼結体部位12’の結晶構造が同じになるため、両者の熱膨張率が接近し、複合焼結体1’の変形や寸法精度の低下を防止することができる。
【0069】
以上のような第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
また、二色成形によれば、第1の混練物21と第2の混練物22とが混じり合うのを防止しつつ、これらが隣接した複合成形体(二色成形体)を容易に作製することができる。
【0070】
<燃料噴射弁>
次に、本発明の複合焼結体で構成された部品を備えた燃料噴射弁について説明する。
図6は、本発明の燃料噴射弁の実施形態を示す縦断面図、図7は、図6に示す燃料噴射弁の部分拡大図である。なお、以下の説明では、図6および図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0071】
図6に示す電磁式燃料噴射弁100は、車両用エンジン等の燃焼室内に燃料を噴射する噴射弁であって、複合磁性パイプ120(管状の部品)を有する。燃料はこの複合磁性パイプ120内を上方から下方に流れる。
複合磁性パイプ120は、上方から燃料コネクタ部121、非磁性部122およびバルブ収容部123の3つの領域に分かれている。
【0072】
複合磁性パイプ120の上部は、図示しない燃料配管と連結される燃料コネクタ部121であり、その外周にはOリング124が装着されている。また、燃料コネクタ部121の内部には、燃料配管から送られてくる燃料を濾過する燃料フィルタ125が装着されている。
複合磁性パイプ120の中間部は、非磁性である非磁性部122であり、その外周を覆うようにリング状のコイル139が設けられている。また、コイル139に隣接してコネクタハウジング143が設けられており、コイル139の巻き線がコネクタハウジング143の内側に突出するターミナル144と接続されている。これにより、ターミナル144を介してコイル139に通電することができる。また、コイル139は、磁性ハウジング145により覆われている。
複合磁性パイプ120の下部は、燃料の噴射するバルブを収容するバルブ収容部123であり、その外周には、図示しない吸気マニホールドとの連結部をシールするOリング136が装着されている。
【0073】
また、複合磁性パイプ120の下端部の外周を覆うとともに、下方に延伸するように、有底筒状のシートホルダ131が設けられている。また、シートホルダ131の内底部には、バルブシート132が固定され、このバルブシート132には噴射口133が形成されている。複合磁性パイプ120の内部に供給された燃料は、この噴射口133を介して燃料室内に噴射される。
【0074】
複合磁性パイプ120の内部の燃料フィルタ125の下方には、円筒状の固定鉄心126が固定されており、固定鉄心126の下端は複合磁性パイプ120の中間部の非磁性部122付近まで伸びている。
また、固定鉄心126の内側には、円筒状のアジャスタ128が設けられており、さらにアジャスタ128の下方には、スプリング129が設けられている。アジャスタ128およびスプリング129の内側は、燃料フィルタ125で濾過された燃料が通過する流路となる。
【0075】
複合磁性パイプ120の内部の固定鉄心126の下方には、中空状の可動鉄心138が設けられており、可動鉄心138の内側の上端面には、スプリング129の下端面が当接している。このスプリング129により可動鉄心138が下方に付勢されている。また、固定鉄心126の下端面と可動鉄心138の上端面は、図7に示すように、わずかな隙間を介して対向している。
【0076】
可動鉄心138の下方には、棒状のニードルバルブ130が設けられており、ニードルバルブ130の上端部が可動鉄心138の内周に固定されている。一方、ニードルバルブ130の下端部は、噴射口133付近に位置している。ニードルバルブ130は、上下動自在になっており、ニードルバルブ130が移動幅の下限位置にあるとき、噴射口133を塞いで燃料の噴射を停止する。一方、ニードルバルブ130が前記下限位置以外の位置にあるときは、噴射口133を開放し、噴射口133から燃料が噴射される。
【0077】
次に、電磁式燃料噴射弁100の動作について説明する。
電磁式燃料噴射弁100において、コイル139に電流が流れていないときには、スプリング129によって可動鉄心138が下方に付勢され、可動鉄心138に固定されたニードルバルブ130も下方に移動する。その結果、ニードルバルブ130の下端部が噴射口133を閉鎖する(閉状態)。
【0078】
この閉状態の後、コイル139に通電すると、コイル139の周囲に磁束が発生し、その磁束がコイル139を取り囲む磁路を流れる。この磁路は、磁性ハウジング145、燃料コネクタ部121、固定鉄心126、可動鉄心138、バルブ収容部123および磁性ハウジング145を順次通過する経路で構成される。このような磁路に磁束が流れると、固定鉄心126と可動鉄心138との間に磁気吸引力が発生し、可動鉄心138が上方に吸引されて、ニードルバルブ130も上方に移動する。その結果、ニードルバルブ130の下端部が噴射口133から離れる(開状態)。
【0079】
ところで、電磁式燃料噴射弁100(本発明の燃料噴射弁)が有する複合磁性パイプ120は、本発明の複合焼結体で構成されている。
すなわち、複合磁性パイプ120は、前述したように、燃料コネクタ部121、非磁性部122およびバルブ収容部123の3つの領域に分けられるが、このうち、燃料コネクタ部121およびバルブ収容部123が磁性材料(例えば、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼等)で構成されている一方、非磁性部122が前記磁性材料とは異種の非磁性材料で構成されている。
【0080】
このように磁性材料で構成された燃料コネクタ部121およびバルブ収容部123の間に非磁性材料で構成された非磁性部122が設けられていることにより、複合磁性パイプ120に形成されようとする磁路が、非磁性部122で途切れることになる。
磁路が非磁性部122で途切れると、磁束は、固定鉄心126と可動鉄心138との間を優先的に流れるようになる。その結果、固定鉄心126と可動鉄心138との間に確実に磁気吸引力を発生させることができる。
【0081】
また、複合磁性パイプ120は、本発明の複合焼結体で構成したことにより、前述した3つの領域が一体的に連結されたものとなる。これにより、3つの領域を溶接やろう付け等の方法で連結した場合に比べて、手間のかかる溶接等の工程を経ることなく、連結強度が高く、機械的特性および寸法精度に優れた複合磁性パイプ120を効率よく製造することができる。
また、このような複合磁性パイプ120は、インサート成形や二色成形のような成形方法を用いて3つの領域を一括して成形するため、各領域間の位置ズレ等が生じず、寸法精度の高い複合磁性パイプ120が得られる。したがって、寸法精度を高めるための機械加工等を施す必要がなく、部品の低コスト化を図ることができる。
【0082】
さらに、本発明の複合焼結体で構成された複合磁性パイプ120は、焼結時の雰囲気ガスを選択することにより、表面硬度が上昇して耐摩耗性に優れたものになる。ここで、電磁式燃料噴射弁100において可動鉄心138が可動するとき、複合磁性パイプ120の内周面と可動鉄心138の外周面とが摺動する。本発明の複合焼結体で構成された複合磁性パイプ120は、寸法精度が高く後加工が不要なため、硬度の高い表面をそのまま利用することができるため、可動鉄心138との摺動に対しても耐久性の高いものとなる。
【0083】
以上、本発明の複合焼結体の製造方法、複合焼結体および燃料噴射弁について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、複合焼結体の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【実施例】
【0084】
1.複合焼結体の製造
(実施例1)
<1>まず、水アトマイズ法により製造された、平均粒径2.9μm、比表面積650m/kgのステンレス鋼SUS304L粉末(エプソンアトミックス社製、PF−3F)と、ポリプロピレンとワックスとの混合物(有機バインダ)とを、質量比で91:9となるように秤量して混合原料を得た。なお、SUS304Lは、オーテステナイト系ステンレス鋼であり、その結晶構造の単位格子は、面心立方格子である。
【0085】
<2>次に、この混合原料を混練機で混練し、コンパウンド(第1の混練物)を得た。
<3>次に、このコンパウンドを、以下に示す成形条件で、図1に示す一次成形用の射出成形機にて射出成形し、一次成形体を作製した。なお、得られた一次成形体は、外径7mm×厚さ3mmのリング状であった。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm
【0086】
<4>次に、水アトマイズ法により製造された、平均粒径2.3μm、比表面積820m/kgのステンレス鋼SUS430L粉末(エプソンアトミックス社製、PF−2F)と、ポリプロピレンとワックスとの混合物(有機バインダ)とを、質量比で90:10となるように秤量して混合原料を得た。なお、SUS430Lは、フェライト系ステンレス鋼であり、その結晶構造の単位格子は、体心立方格子である。
【0087】
<5>次に、この混合原料を混練機で混練し、コンパウンド(第2の混練物)を得た。
<6>次に、得られた一次成形体をインサートワークとして、このコンパウンドを、以下に示す成形条件で、図1に示す二次成形用の射出成形機にてインサート成形し、二次成形体(複合成形体)を作製した。なお、得られた二次成形体は、外径7mm×長さ30mmの円筒状であった。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm
【0088】
<7>次に、得られた二次成形体を、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・加熱温度 :500℃
・加熱時間 :2時間
・加熱雰囲気:窒素ガス
【0089】
<8>次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。これにより、複合焼結体を得た。
<焼成条件>
・焼成温度 :1200℃
・焼成時間 :3時間
・焼成雰囲気:窒素ガス
・焼成炉 :連続炉
【0090】
(実施例2〜9)
金属粉末の種類、平均粒径、有機バインダの含有率および焼成温度を、表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして複合焼結体を得た。
【0091】
(実施例10)
インサート成形に代えて、以下に示す二色成形により二色成形体を製造し、この二色成形体を脱脂・焼成するようにした以外は、前記実施例1と同様にして複合焼結体を得た。
<1>まず、水アトマイズ法により製造された、平均粒径2.3μm、比表面積820m/kgのステンレス鋼SUS304L粉末(エプソンアトミックス社製、PF−2F)と、ポリプロピレンとワックスとの混合物(有機バインダ)とを、質量比で90:10となるように秤量して混合原料を得た。なお、SUS304Lは、オーテステナイト系ステンレス鋼であり、その結晶構造の単位格子は、面心立方格子である。
【0092】
<2>次に、この混合原料を混練機で混練し、コンパウンド(第1の混練物)を得た。
<3>次に、水アトマイズ法により製造された、平均粒径2.3μm、比表面積820m/kgのステンレス鋼SUS430L粉末(エプソンアトミックス社製、PF−2F)と、ポリプロピレンとワックスとの混合物(有機バインダ)とを、質量比で90:10となるように秤量して混合原料を得た。なお、SUS430Lは、フェライト系ステンレス鋼であり、その結晶構造の単位格子は、体心立方格子である。
【0093】
<4>次に、この混合原料を混練機で混練し、コンパウンド(第2の混練物)を得た。
<5>次に、このコンパウンドを、以下に示す成形条件で、図4に示す二色成形機にて射出成形し、二色成形体を作製した。なお、得られた二色成形体は、外径7mm×長さ30mmの円筒状であった。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm
【0094】
<6>次に、得られた二色成形体を、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・加熱温度 :500℃
・加熱時間 :2時間
・加熱雰囲気:窒素ガス
【0095】
<7>次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。これにより、複合焼結体を得た。
<焼成条件>
・焼成温度 :1200℃
・焼成時間 :3時間
・焼成雰囲気:窒素ガス
・焼成炉 :連続炉
【0096】
(実施例11)
金属粉末の平均粒径を表1に示すように変更した以外は、前記実施例10と同様にして複合焼結体を得た。
(比較例1〜4)
金属粉末の平均粒径、焼成温度および焼成雰囲気を、表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして複合焼結体を得た。特に、比較例1〜4では、それぞれ焼成雰囲気を減圧雰囲気とした。
【0097】
(比較例5)
金属粉末の平均粒径、焼成温度および焼成雰囲気を、表1に示すように変更した以外は、前記実施例10と同様にして複合焼結体を得た。特に、比較例5では、焼成雰囲気を減圧雰囲気とした。
(比較例6)
二次成形体を得た後、この二次成形体に一次焼結を行い、さらに熱間静水圧プレス(HIP)処理を施し、一次焼結体の高密度化を図った以外は、前記比較例1と同様にして成形体を得た後、脱脂・焼成して複合焼結体を得た。なお、一次焼結は、減圧雰囲気下で行った。
(比較例7〜8)
金属粉末の平均粒径および焼成温度を、表1に示すように変更した以外は、前記比較例6と同様にして、一次焼結体にHIP処理を施した後、脱脂・焼成して複合焼結体を得た。
【0098】
2.複合焼結体の評価
2.1 引張強さの評価
各実施例および各比較例の複合焼結体の引張強さを、それぞれ、JIS Z 2241に規定の方法に準じた方法で測定した。
2.2 相対密度の評価
各実施例および各比較例の複合焼結体の比重を、それぞれアルキメデス法により測定した。そして、各金属粉末を構成する金属材料の真密度から、各複合焼結体の相対密度を算出した。そして、算出した相対密度を、以下の評価基準にしたがって評価した。
<相対密度の評価基準>
◎:97%以上
○:95%以上97%未満
△:93%以上95%未満
×:93%未満
【0099】
2.3 寸法精度の評価
各実施例および各比較例の複合焼結体の寸法精度として、目標とする寸法からのズレ量を以下の評価基準にしたがって評価した。
<寸法精度の評価基準>
◎:寸法精度が特に高い
○:寸法精度が高い
△:寸法精度が低い
×:寸法精度が特に低い
以上、2.1〜2.3の評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1から明らかなように、各実施例で得られた複合焼結体は、いずれも引張強さが大きく、機械的特性に優れたものであった。
また、各実施例で得られた複合焼結体は、相対密度および寸法精度も良好であった。特に、平均粒径が10μm以下の金属粉末を用いた場合、この傾向が顕著であった。
また、HIP処理により、複合焼結体の引張強さの向上が認められたものの、各実施例で得られた複合焼結体の引張強さには及ばなかった。
なお、実施例3で得られた複合焼結体と、比較例1で得られた複合焼結体について、その外観写真を図8に示す。
【0102】
図8から明らかなように、実施例3で得られた複合焼結体は、SUS304L焼結体の部位と、SUS430L焼結体の部位との外周面が直線的になっており、全体的に外径が均一な円筒体が得られた。
一方、比較例1で得られた複合焼結体は、SUS304L焼結体の部位と、SUS430L焼結体の部位との外周面が歪んだ円筒体であり、特に各部位の境界付近で外径が不均一になっていた。
さらに、実施例3で得られた複合焼結体と、比較例1で得られた複合焼結体について、接合部の横断面について元素マッピング像およびNiの濃度分布スペクトルを取得した。得られた元素マッピング像およびNiの濃度分布スペクトルを図9に示す。なお、図9において、淡色部はNi濃度が高い領域を示し、濃色部はNi濃度が低い領域を示す。
【0103】
図9から明らかなように、実施例3で得られた複合焼結体では、元々Niを含むSUS304L側から、元々Niを含まないSUS430L側へNiが拡散している様子が認められる。これにより、実施例3の複合焼結体では、SUS304L焼結体の部位とSUS430L焼結体の部位とが、強固に結合して複合焼結体となっていることが推察される。
一方、比較例1で得られた複合焼結体では、SUS304L側からSUS430L側へのNiの拡散はほとんど認められない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の複合焼結体の製造方法の第1実施形態を説明するための図である。
【図2】本発明の複合焼結体の製造方法の第1実施形態を説明するための図である。
【図3】Fe−N系合金の状態図である。
【図4】本発明の複合焼結体の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。
【図5】本発明の複合焼結体の製造方法の第2実施形態を説明するための図である。
【図6】本発明の燃料噴射弁の実施形態を示す縦断面図である。
【図7】図6に示す燃料噴射弁の部分拡大図である。
【図8】実施例3で得られた複合焼結体と比較例1で得られた複合焼結体の外観写真である。
【図9】実施例3で得られた複合焼結体と比較例1で得られた複合焼結体の接合部の横断面について取得した元素マッピング像およびNiの濃度分布スペクトルである。
【符号の説明】
【0105】
1、1’……複合焼結体 11、11’……第1の金属粉末の焼結体部位 12、12’……第2の金属粉末の焼結体部位 21……第1の混練物 22……第2の混練物 3……一次成形体 30……一次成形用成形型 31……キャビティ 4……二次成形体 40……二次成形用成形型 41……キャビティ 42……空間 5……二色成形体 50……二色成形機 51……キャビティ 52……ピン 6、6’……脱脂体 100……電磁式燃料噴射弁 120……複合磁性パイプ 121……燃料コネクタ部 122……非磁性部 123……バルブ収容部 124……Oリング 125……燃料フィルタ 126……固定鉄心 128……アジャスタ 129……スプリング 130……ニードルバルブ 131……シートホルダ 132……バルブシート 133……噴射口 136……Oリング 138……可動鉄心 139……コイル 143……コネクタハウジング 144……ターミナル 145……磁性ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属粉末と有機バインダとを含む第1の組成物と、前記第1の金属粉末を構成する第1の金属材料と組成および結晶構造が異なる第2の金属材料で構成された第2の金属粉末と有機バインダとを含む第2の組成物とを用いて、異種金属の複合成形体を得る成形工程と、
前記複合成形体を雰囲気ガス中で焼成し、複合焼結体を得る焼成工程とを有し、
前記焼成工程において、前記第2の金属材料が、前記雰囲気ガスの原子を取り込んで固溶体となる際に、その結晶構造が、前記第1の金属材料と同じ結晶構造に転移するように、前記雰囲気ガスの種類を設定することを特徴とする複合焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属材料および前記第2の金属材料は、それぞれ、Ti系合金、Fe系合金、Ni系合金、Co系合金およびCu系合金のいずれかである請求項1に記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金属材料の結晶構造は、面心立方格子であり、
前記焼成工程における雰囲気ガスは、前記第2の金属材料の結晶構造が面心立方格子に転移するように設定される請求項1または2に記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程における雰囲気ガスは、ホウ素原子、炭素原子および窒素原子のいずれかを含むガスである請求項1ないし3のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程における前記第1の金属材料は、結晶構造が面心立方格子のFe基合金であり、かつ、前記第2の金属材料は、結晶構造が体心立方格子のFe基合金であり、
前記焼成工程における雰囲気ガスは、窒素ガスまたはアンモニアガスである請求項1ないし4のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程における焼成条件は、温度1000〜1500℃×0.2〜7時間である請求項1ないし5のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記複合成形体は、前記第1の組成物と前記第2の組成物とを同一の成形型内に供給して二色成形してなる二色成形体、または、前記第1の組成物および前記第2の組成物のうち、一方の組成物の成形体をインサートワークとしてインサート成形してなるインサート成形体である請求項1ないし6のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記第1の金属粉末および前記第2の金属粉末のうち、固相線温度の高い方の金属粉末の平均粒径が、固相線温度の低い方の金属粉末の平均粒径より小さい請求項1ないし7のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記第1の金属粉末の平均粒径および前記第2の金属粉末の平均粒径は、それぞれ1〜30μmである請求項1ないし8のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記第1の組成物および前記第2の組成物における前記有機バインダの含有率は、それぞれ2〜20質量%である請求項1ないし9のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記複合成形体は、前記第1の組成物および前記第2の組成物のうち、一方の組成物が他方の組成物を包含するまたは挟み込むように成形されてなるものであり、
前記複合成形体の外側に位置する組成物は、内側に位置する組成物よりも、前記焼成工程における収縮率が大きい請求項1ないし10のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記成形工程は、金属粉末射出成形法により行う請求項1ないし11のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の焼結体の製造方法により製造されたものであり、
前記第1の金属粉末の焼結体と前記第2の金属粉末の焼結体とが一体化したものであることを特徴とする複合焼結体。
【請求項14】
前記第1の金属粉末の焼結体と前記第2の金属粉末の焼結体とが相互拡散に基づいて接合されている請求項13に記載の複合焼結体。
【請求項15】
焼結前の前記第1の金属粉末はγ−Fe系合金で構成され、かつ、焼結前の前記第2の金属粉末はα−Fe系合金で構成されており、
前記第2の金属粉末の焼結体は、前記第1の金属粉末の組成と前記焼成工程における雰囲気ガスの成分とを含有するγ固溶体を含んでいる請求項13または14に記載の複合焼結体。
【請求項16】
焼結前の前記第1の金属粉末は非磁性材料で構成され、かつ、焼結前の前記第2の金属粉末は磁性材料で構成されており、
これらの金属粉末を用いて、請求項1ないし12のいずれかに記載の複合焼結体の製造方法により製造された管状の部品を備えた電磁式の燃料噴射弁であって、
前記管状の部品は、磁性材料粉末の焼結体と非磁性材料粉末の焼結体とが一体化したものであることを特徴とする燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−84165(P2010−84165A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251838(P2008−251838)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】