説明

複合部材の固定構造

【課題】複合材の組み付け作業を簡略化することができるとともに、ボルトによる固定部を適切にシールすることができる複合部材の固定構造を提供する。
【解決手段】OCVホルダ14とシリンダヘッドカバー13とを接合してなる複合部材12と、カムキャップ15とを、複合部材12の挿通孔16を通るボルト20により固定する。ボルト20の頭部20aとネジ部20bとの間の軸部20cに段差部20dを形成するとともに、その段差部20dと頭部20aとの間の軸部20cに環状溝21を形成する。その環状溝21には環状の封止材22を嵌合する。ボルト20のネジ部20bを他部材15の雌ネジ19に螺合した状態で、ボルト20の段差部20dをOCVホルダ14の挿通孔16内の段差部16cに当接させるとともに、封止材22をシリンダヘッドカバー13の挿通孔16の内周面に当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用エンジンにおいて、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーと金属製のオイルコントロールバルブのハウジングとよりなる複合部材を、シリンダヘッド上に配置されたカムキャップ等の他部材に固定するようにした複合部材の固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の複合部材の固定構造としては、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されるような構成が提案されている。
特許文献1に記載の従来構成では、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに対して、金属製のオイルコントロールバルブハウジング(以下、単にOCVハウジングという)がインサート成形されることにより、複合部材が構成されている。複合部材にはボルト挿通孔が形成され、このボルト挿通孔を通してシリンダヘッド上のカムキャップの雌ネジにボルトが螺合されることにより、複合部材がカムキャップに対して固定されている。前記ボルト挿通孔の外周において、シリンダヘッドカバーに対するOCVハウジングの接合面には環状の溝部が形成され、その溝部には接着剤が収容されている。そして、複合部材のインサート成形時に、溝部内に樹脂が流れ込むことにより、接着剤が溝部内に封止されて、その接着剤によりシリンダヘッドカバーとOCVハウジングとの接合面間がシールされるとしている。
【0003】
また、特許文献2に記載の従来構成では、合成樹脂製のシリンダヘッドカバーに対して、金属製のOCVハウジングが組み付けられることにより、複合部材が構成されている。OCVハウジングにはボルト挿通孔を有するボス部が突設されるとともに、シリンダヘッドカバーにはボス部の外周に嵌合される筒状部が形成されている。そして、ボルト挿通孔を通してシリンダヘッド上のカムキャップの雌ネジにボルトが螺合されることにより、複合部材がカムキャップに対して固定されている。前記ボス部の基部外周面と筒状部の内周面との間には、環状のシール部材が介装されている。そして、このシール部材により、ボルト挿通孔の外周において、シリンダヘッドカバーとOCVハウジングとの接合面間がシールされる。
【特許文献1】特開2007−107479号公報
【特許文献2】特開2007−100657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらの従来の複合部材の固定構造においては、次のような問題があった。
特許文献1に記載の従来構成では、OCVハウジング上の溝部内に接着剤を収容した状態で、複合部材のインサート成形が行われる。このため、成形型内における複合部材の成形時に、成形型内に注入された合成樹脂の流動圧力等により、接着剤が溝部内から漏れ出しやすく、このような場合には、所望のシール特性を確保することが困難である。それだけではなく、溝部内から漏れ出した接着剤がシリンダヘッドカバーの外側に達して、そのシリンダヘッドカバーの外側が汚れたり、あるいは成形時に漏れ出した接着剤により成形型の型面が汚れたりする不都合があった。
【0005】
また、特許文献2に記載の従来構成では、複合部材のシリンダヘッドカバーとOCVハウジングとを成形後の後工程で組み付けるとともに、その組み付け時にシリンダヘッドカバーとOCVハウジングとの接合面間にシール部材を介装させる工程が必要である。このため、組み付け作業が面倒で時間がかかるという問題があった。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献2に記載の従来構成では、ボルト挿通孔の外周において、シリンダヘッドカバーとOCVハウジングとの接合面間にシールが施されているが、ボルト挿通孔の内周面とボルトの軸部外周面との間にはシールが施されていない。このため、ボルト挿通孔の内周面とボルトの軸部外周面との間を通して、オイル漏れが発生しやすい。
【0007】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、組み付け作業を簡略化することができるとともに、ボルトによる固定部を適切にシールすることができる複合部材の固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は、樹脂部材と金属部材とを接合してなる複合部材を、複合部材の挿通孔を通るボルトにより他部材に固定した複合部材の固定構造において、前記ボルトの頭部とネジ部との間の軸部に段差部を形成するとともに、その段差部と前記頭部との間に環状の封止材を設け、前記ボルトのネジ部を前記他部材の雌ネジに螺合した状態で、前記段差部を前記金属部材の挿通孔内の段差部に当接させるとともに、前記封止材をボルトと前記樹脂部材との間に介在させたことを特徴としている。
【0009】
従って、この発明において、複合部材と他部材とを固定する場合には、ボルトの環状溝内に封止材を嵌合した状態で、そのボルトを複合部材の挿通孔に挿通する。そして、ボルトのネジ部を他部材の雌ネジに螺合すると、ボルトの軸部上の段差部が金属部材よりなる挿通孔内の段差部に当接して、複合部材の金属部材が他部材に対して締め付け固定される。それとともに、封止材が樹脂部材よりなる挿通孔の内周面に当接して、挿通孔の内周面とボルトの軸部外周面との間が、挿通孔内における金属部材と樹脂部材との接合面よりも挿通孔の外端開口部側の位置でシールされる。
【0010】
よって、ボルトの締め付けにより、複合部材と他部材との固定、及びその固定部のシールを同時に行うことができて、組み付け作業を簡略化することができる。しかも、封止材により挿通孔の内周面とボルトの軸部外周面との間が、挿通孔内における金属部材と樹脂部材との接合面よりも挿通孔の外端部側の位置でシールされるため、挿通孔の内周面とボルトの軸部外周面との間、及び挿通孔内における金属部材と樹脂部材との接合面間を通して、オイル漏れ等が発生するおそれを防止することができる。
【0011】
前記の構成において、前記ボルトの軸部に環状溝を形成し、その環状溝には環状の封止材を嵌合し、その封止材を前記樹脂部材の挿通孔の内周面に当接させることが好ましい。
また、前記の構成において、前記ボルトの頭部と樹脂部材の外側面との間にワッシャを介在させることが望ましい。
【0012】
さらに、前記の構成において、前記挿通孔の開口部を断面円弧状に形成することが好ましい。
加えて、前記の構成において、前記樹脂部材がシリンダヘッドカバー、金属部材がそのシリンダヘッドカバーに固定されたオイルコントロールバルブのハウジングであって、前記他部材がシリンダヘッドに固定されたカムキャップであるのがよい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、この発明によれば、組み付け作業を簡略化することができるとともに、ボルトによる固定部を適切にシールすることができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、この発明を具体化した実施形態を、図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図3に基づいて第1実施形態について説明する。
【0015】
図1に示すように、自動車用エンジンにおいて、アルミニウム合金等の金属材料よりなるシリンダヘッド11上には、複合部材12が図示しない複数のボルトにより固定されている。この複合部材12は、ポリアミド樹脂系の合成樹脂等よりなる樹脂部材としてのシリンダヘッドカバー13に、アルミニウム合金等の金属よりなる金属部材としてのオイルコントロールバルブのハウジング(以下、単にOCVハウジングという)14をインサート成形により接合した複合構造をなしている。複合部材12内において、シリンダヘッド11の上面にはアルミニウム合金等の金属よりなる他部材としてのカムキャップ15が固定されている。
【0016】
前記複合部材12のシリンダヘッドカバー13及びOCVハウジング14には、ボルト挿通孔16が上下方向に貫通して形成されている。ボルト挿通孔16には、外部開口側の大径部16aと、内端部側の小径部16bと、それらの間の段差部16cとが形成されている。合成樹脂よりなるシリンダヘッドカバー13の一部には、前記大径部16aの上部側を構成する樹脂筒状部17がボルト挿通孔16の外部開口側から大径部16aの中間部付近まで延びるように形成されている。そして、この樹脂筒状部17の下端周縁において、合成樹脂のシリンダヘッドカバー13と金属のOCVハウジング14との接合面18が、ボルト挿通孔16の大径部16aの中間部付近に位置するように形成されている。また、ボルト挿通孔16の段差部16cが、金属のOCVハウジング14中に位置するように形成されている。前記大径部16aの上端開口は、エッジが形成されないように断面円弧状に形成されている。
【0017】
前記ボルト挿通孔16に対応して、カムキャップ15上には雌ネジ19が形成されている。この雌ネジ19には、複合部材12の外面側からボルト挿通孔16を通してボルト20が螺合されている。
【0018】
前記ボルト20には、基端側の頭部20aと、先端側の小径のネジ部20bと、頭部20aとネジ部20bとの間においてネジ部20bより大径の軸部20cとが形成されている。軸部20cとネジ部20bとの境界部には、ボルト挿通孔16の段差部16cに当接可能な段差部20dが形成されている。軸部20cの外周面には環状溝21が形成され、その環状溝21にはボルト挿通孔16における樹脂筒状部17の内周面に当接可能な環状の封止材(シールリング)22が嵌合されている。ボルト20の頭部20aと複合部材12の外面との間には、ワッシャ23が介装されている。
【0019】
次に、前記のように構成された第1実施形態の複合部材の固定構造の作用を説明する。
さて、複合部材12をシリンダヘッド11上のカムキャップ15に固定する場合には、図3に示すように、ボルト20の環状溝21内に封止材22を嵌合した状態で、そのボルト20を複合部材12のボルト挿通孔16に挿通する。そして、ボルト20のネジ部20bをカムキャップ15の雌ネジに螺合すると、図2に示すように、ボルト20の段差部20dが金属のOCVハウジング14内におけるボルト挿通孔16の段差部16cに当接し、その段差部16cが押し下げられる。この押し下げにより、複合部材12のOCVハウジング14部分が、カムキャップ15に対して締め付け固定される。
【0020】
それとともに、前記ボルト20の環状溝21内の封止材22の外周面が、ボルト挿通孔16内において樹脂筒状部17の内周面に当接する。この当接により、ボルト挿通孔16の内周面とボルト20の軸部20cの外周面との間が、ボルト挿通孔16の外端部付近においてシールされる。つまり、ボルト挿通孔16内における合成樹脂のシリンダヘッドカバー13と金属のOCVハウジング14との接合面18よりもボルト挿通孔16の外端開口部側の位置で、ボルト20と樹脂筒状部17との間が封止材22によりシールされる。
【0021】
従って、シリンダヘッドカバー13内のオイルがカムキャップ15とOCVハウジング14との間、あるいはOCVハウジング14とシリンダヘッドカバー13との間からボルト挿通孔16内に漏洩したとしても、そのオイルは封止材22の部分において漏洩が阻止されて、シリンダヘッドカバー13の外部に漏出することはない。
【0022】
従って、この第1実施形態においては、以下の効果を得ることができる。
(1) この実施形態の複合部材の固定構造においては、ボルト20を締め付ければ、複合部材12とカムキャップ15とが固定されるだけではなく、ボルト20とシリンダヘッドカバー13とのシールが同時に行われる。このため、シリンダヘッドカバー13の組み付け作業を容易かつ能率的に行うことができる。
【0023】
(2) この複合部材の固定構造では、ボルト挿通孔16内におけるシリンダヘッドカバー13とOCVハウジング14との接合面18よりもボルト挿通孔16の外端部側の位置で、封止材22によりボルト挿通孔16の内周面とボルト20の軸部20cの外周面との間がシールされる。このため、ボルト挿通孔16の内周面とボルト20の軸部20cの外周面との間、及びボルト挿通孔16内におけるシリンダヘッドカバー13とOCVハウジング14との接合面18間からのオイル漏れを適切に防止することができる。しかも、前記特許文献1とは異なり、シールのための接着剤を用いないため、その接着剤の漏洩に付随するシール不足や汚れの問題は生じない。
【0024】
(3) ボルト20の軸部20cに環状溝21を形成し、その環状溝21に封止材22を嵌合したことにより、その封止材22は所要の位置から移動することなく、挿通孔16の内周面に適切に圧接されて、シールに供される。
【0025】
(4) ボルト20の頭部20aとシリンダヘッドカバー13の外周面との間にワッシャ23が介在されているため、エンジン振動等によってボルト20が弛むことを防止でき、シリンダヘッドカバー13の固定状態を維持できる。
【0026】
(5) 挿通孔16の開口部を断面円弧状に形成したことにより、挿通孔16に対するボルト20の挿入時に、前記開口部によって封止材22が傷付くことを防止できる。
(第2実施形態)
次に、図4に基づいて、この発明の第2実施形態を前記第1実施形態と異なる部分について説明する。
【0027】
この第2実施形態においては、環状の封止材31がボルト20の頭部20aとシリンダヘッドカバー13の上面との間に介在されている。従って、この封止材31は、封止機能の外に、ワッシャとしての機能も具備する。
【0028】
このため、この第2実施形態においては、前記第1実施形態の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(6) 封止材31がワッシャとしての機能をも具備するため、ワッシャが不要になり、部品点数が少なくなって、構成が簡単になる。
【0029】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記第2実施形態おいて、第1実施形態と同様に、ボルト20の軸部20cの外周に環状溝21を形成し、その環状溝21に封止材を嵌合すること。すなわち、封止材を環状溝21及びボルト20の頭部20aの2箇所に設けること。
【0030】
・ この発明の複合部材の固定構造を、前記第1,第2実施形態とは異なる部位に用いること。例えば、合成樹脂板と金属板との複合材よりなるオイルパンをシリンダブロックの下面に固定する構造に用いたり、クランクシャフトとカム軸との間の動力伝達経路をカバーする複合材をシリンダブロックの側面に固定する構造に用いたりすること。あるいは、トランスミッションのハウジングに複合材をオイルハウジング等として固定する構造に用いたりすること。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明を自動車用エンジン等における複合部材とカムキャップとの複合部材の固定構造に具体化した第1実施形態を示す部分断面図。
【図2】図1の一部を拡大して示す部分断面図。
【図3】図2のボルトを分解して示す部分断面図。
【図4】第2実施形態を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0032】
11…シリンダヘッド、12…複合部材、13…樹脂部材としてのシリンダヘッドカバー、14…金属部材としてのOCVハウジング、15…他部材としてのカムキャップ、16…ボルト挿通孔、16c…段差部、17…樹脂筒状部、18…接合面、19…雌ネジ、20…ボルト、20a…頭部、20b…ネジ部、20c…軸部、20d…段差部、21…環状溝、22…封止材、23…ワッシャ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部材と金属部材とを接合してなる複合部材を、複合部材の挿通孔を通るボルトにより他部材に固定した複合部材の固定構造において、
前記ボルトの頭部とネジ部との間の軸部に段差部を形成するとともに、その段差部と前記頭部との間に環状の封止材を設け、
前記ボルトのネジ部を前記他部材の雌ネジに螺合した状態で、前記段差部を前記金属部材の挿通孔内の段差部に当接させるとともに、前記封止材をボルトと前記樹脂部材との間に介在させたことを特徴とする複合部材の固定構造。
【請求項2】
前記ボルトの軸部に環状溝を形成し、その環状溝には環状の封止材を嵌合し、その封止材を前記樹脂部材の挿通孔の内周面に当接させたことを特徴とする請求項1に記載の複合部材の固定構造。
【請求項3】
前記ボルトの頭部と樹脂部材の外側面との間にワッシャを介在させたことを特徴とする請求項2に記載の複合部材の固定構造。
【請求項4】
前記挿通孔の開口部を断面円弧状に形成したことを特徴とする請求項2または3に記載の複合部材の固定構造。
【請求項5】
前記樹脂部材がシリンダヘッドカバー、金属部材がそのシリンダヘッドカバーに固定されたオイルコントロールバルブのハウジングであって、前記他部材がシリンダヘッドに固定されたカムキャップである請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の複合部材の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−138726(P2010−138726A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313629(P2008−313629)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】