説明

複合部材及びその製造方法

【課題】軽量・低コストで耐摩耗性・密着性に優れた摺動面をもつ複合部材の提供。
【解決手段】内面に摺動面をもつシリンダ部Sが内部に形成されたマトリクス部1と、貫通する多数の通孔21をもち、その摺動面に概ね連続的に露出してその摺動面の一部を形成する連続露出面をもつ潤滑部材2とを有することを特徴とする。つまり、本発明で採用した潤滑部材は多数の通孔の部分にマトリクス部が入り込むので。潤滑部材とマトリクス部との間の接合が強固になる。従って、高い密着性を持続することが可能になり熱伝導性などの諸特性を高く維持できる。また、シリンダ内面に潤滑部材を連続的に露出させることで、摺動の相手方である部材(例えばピストン)によく接触できるようになり高い耐摩耗性・摩擦特性が実現できる。また、板状の部材からなる潤滑部材をマトリクス部に鋳込むことで、シリンダ部において高い剛性を実現することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックなどの摺動面をもつ複合部材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化や冷却・動力性能の向上などを目的として、内燃機関の主要構成部品であるシリンダブロックの主材料として軽金属を採用することが行われる。
【0003】
シリンダブロックにおけるシリンダの内面は、ピストンが摺動するので、摺動性向上の目的で、鋳鉄製のライナを鋳込んだり(特許文献1)、溶射やめっきにて摺動性に優れた材料からなる被膜を形成すること(特許文献2、3)が行われる。
【特許文献1】特開2002−97998号公報
【特許文献2】特開2004−100645号公報
【特許文献3】特開2000−141023号公報
【特許文献4】特公昭53−16844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ライナを鋳込む特許文献1に記載の構造ではライナと鋳造材料との密着性をよくするためにライナ外周にショットピーニング処理や溝加工などの余計な後加工が必要になると共に、ライナが重いこと、後加工を行ってもライナと鋳造材料とは異種材料なのでライナの外周には空隙が生じることが多く充分な密着性(すなわち熱伝導性)が得難いこと、などの課題があった。この課題は特許文献3にも当てはまると考えられる。
【0005】
また、特許文献2及び3、特に特許文献2に記載の構造では摺動面の剛性が低くなり、シリンダ部分が変形しやすく、結果として摩耗量や摩擦力が大きくなる。
【0006】
本発明は上記実情に鑑み為されたものであり、軽量・低コストな構造にて耐摩耗性・密着性に優れた摺動面をもつシリンダブロックなどの複合部材及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、エキスパンドメタルなどのように多数の通孔が形成された薄板状部材を筒形に形成した筒形の潤滑機能を発揮する潤滑部材として採用することで、上記課題を解決することができることを見いだした。
【0008】
(1)すなわち、上記課題を解決する本発明の複合部材は、摺動面をもつマトリクス部と、
貫通する多数の通孔をもつ潤滑部材とを備え、
前記潤滑部材は該摺動面の少なくとも一部に配置され、概ね連続的に露出して該摺動面の一部を形成する連続露出面をもつ、
ことを有することを特徴とする。
【0009】
つまり、本発明で採用した潤滑部材は多数の通孔の部分にマトリクス部が入り込むので。潤滑部材とマトリクス部との間の接合が強固になる。従って、高い密着性を持続することが可能になり熱伝導性などの諸特性を高く維持できる。また、シリンダ内面などの摺動面に潤滑部材を連続的に露出させることで、摺動の相手方である部材(例えばピストンリング)によく接触できるようになり高い耐摩耗性・摩擦特性が実現できる。また、板状の部材からなる潤滑部材をマトリクス部に鋳込むことで、シリンダ部などにおいて高い剛性を実現することも可能である。
【0010】
ここで、「連続的に露出する」とは、潤滑部材が摺動面において露出する面がつながっていることを意味する。つまり、摺動面において露出する潤滑部材の一面側が連続的に露出していることで、摺動面に対して摺動する相手部材の状態によらず常に接触することができ、耐摩耗性・摺動性が向上できる。本発明の複合部材(例えば、シリンダブロック)では潤滑部材の一面側が摺動面(シリンダブロックの場合にはシリンダ部の内面)に概ね連続的に露出している。「概ね連続的」とは、潤滑部材の内面がすべて連続していることは必須ではなく、一部、断続していても良いことを意味する。例えば、摺動面として円筒形のシリンダ部を例にして説明すると、シリンダ部の軸方向に断続させたり、周方向に断続させたりできる。
【0011】
更に、「板状」とは、平面的に広がりをもつ連続した部材及びその部材に孔を形成した部材のほか、金網などのように複数本の線材からなる網状体などような、概ね平面内に収まるような部材であっても良い。
【0012】
なお、エキスパンドメタルを採用した空冷エンジンのシリンダが開示されているが(特許文献4)、特許文献4に記載の構造は切り欠きを設けた板状体を引き延ばした状態のままのエキスパンドメタルをシリンダ内面に鋳込んだ後、内面を一部切除しているので、エキスパンドメタルが「くの字状」に不連続に露出することから充分な耐摩耗性が実現できないという相違点がある。
【0013】
(2)また、上記課題を解決する本発明の複合部材の製造方法は、(1)に記載した複合部材を製造する方法であり、
貫通する多数の通孔をもち少なくとも一方の面が平滑化されたエキスパンドメタルから前記一方の面が前記連続露出面となるように前記潤滑部材を形成する工程と、
前記潤滑部材の前記一方の面が前記シリンダ部の前記摺動面の一部を形成するように前記マトリクス部を鋳造により形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0014】
本製造方法により製造した複合部材は上述した本発明の複合部材における作用効果を備えると共に、製造工程を簡略化できる。つまり、潤滑部材の少なくとも一方の面(例えば、内面側)を平滑化した後に鋳込むことで、潤滑部材の平滑な面をそのままシリンダ内面などの摺動面とすることができ、形成したシリンダ部などの摺動面に対する後処理を少なくすることができる。更に、潤滑部材の内面側が平滑化されているので、鋳造時における鋳型内での位置安定性に優れることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の複合部材について実施形態に基づき詳細に説明する。本発明の複合部材は、円筒形の空間であり内周面が摺動面になっているシリンダ部をもつ部材、例えばシリンダブロックなどに適用可能である。例えば、内燃機関、油圧ポンプ、コンプレッサのシリンダブロックが挙げられる。これらのシリンダブロックではシリンダ部の内部でピストンが軸方向に摺動する。
【0016】
また、(滑り)軸受けなど、シリンダ(円筒形の空間)内にて摺動が行われる部材であれば摺動の方向によらず本発明の複合部材が適用できる。軸受けの場合にはシリンダ部内に挿入された軸が回転(場合によっては軸方向に移動)することで摺動する摺動面をもつ部材であり、ジャーナル軸受、スラスト軸受のいずれの軸受にもジャーナルとして採用可能である。更に、摺動面としてはシリンダ部のような筒形の内面の他、平面状、半円筒形、球形継ぎ手の表面などの球形(球の一部を含む)などにも適用可能である。以下の説明では円筒形のシリンダ部の内面に摺動面を有する部材(内燃機関のシリンダブロック)に基づき説明を行う。
【0017】
本実施形態のシリンダブロックは、図1に示すように、マトリクス部1と潤滑部材2とを有する。マトリクス部1は内部にシリンダ部Sが形成されており(図1(a)、(b))、潤滑部材2はそのシリンダ部Sの内面にて露出して、その一部を形成する。潤滑部材2は、図1(c)に示すように、板状体を筒状に丸めた円筒形の部材であり、多数の通孔21を有する。潤滑部材の形状としては、全体が一体として円筒形になった部材の他に、シリンダ部Sの周方向に断続された複数の部材(例えば、複数の短冊状の部材)がシリンダ部の内面に配列することで、全体としてシリンダ部Sの内面の円筒形を形成していてもよい。また、筒形の部材であってもシリンダ部の軸方向に分割されていても良い。
【0018】
マトリクス部1は、図2に示すように、潤滑部材2の通孔部分21に入り込ませることで高い密着性が実現できる。ここで、図3に示すように、シリンダ部S内面における通孔部分21に相当する部位に凹部Dを設けることができる。設けられた凹部Dが油溜まりとして作用して油保持性、すなわち摩擦特性が向上する。凹部Dは、通孔部分21のすべてに設けることもできるし、一部にのみ設けることもできる。また、凹部Dの深さは1〜500μm程度が望ましい。
【0019】
凹部Dは潤滑部材2の通孔部分21にはマトリクス部1を侵入・配設した後に、通孔部分21のマトリクス部1を除去することで形成できる。通孔部分21のマトリクス部1の除去方法は特に限定しないが、通孔部分21にマトリクス部1を侵入・配設した後、機械的方法や電気的方法、化学的方法にて行うことができる。特に、ショットピーニング、ウォータージェットなどの機械的方法により行うことが望ましい。マトリクス部1を構成する材料は潤滑部材2を構成する材料よりも加工しやすいのでショットピーニングなどにより全体を処理すると、通孔部分21内のマトリクス部1が優先的に除去されて凹部Dが形成される。なお、潤滑部材2の通孔部分21内に凹部Dを形成しない構成を採用することも可能である。潤滑部材2の強度がマトリクス部1よりも高いので凹部Dがなくても摺動による摩耗などを抑制できる。
【0020】
更に、潤滑部材2の通孔部分21(図3における凹部Dに相当する部位)に固体潤滑材を配設することができる。固体潤滑材としてはグラファイト、炭素繊維、BN、WS2しないが、前述の凹部Dを形成した後に固体潤滑材を凹部D内に配設する方法がある。また、後述するように、潤滑部材2を鋳造材料で鋳込むことにより本発明の複合部材を製造する場合、潤滑部材2の通孔部分21に固体潤滑材を予め配設した状態で鋳造を行うことでも達成できる。同様にして、潤滑部材2の通孔部分21に強化材を配設することも望ましい。強化材としてはSiCなどのセラミックス系粒子・短繊維・ウィスカや、TiCなどの硬質金属粒子などが例示できる。強化材を通孔部分21に配設する方法としては特に限定しないが、前述の固体潤滑材と同様の方法が採用できる。
【0021】
マトリクス部1は非鉄金属(特に、軽量且つ高強度な軽金属(合金含む)が望ましい)にて形成可能である。また、マトリクス部1を形成する材料としては、潤滑部材2よりも融点が低い部材を採用すると、本シリンダブロックの鋳造による製造が容易になるので望ましい。具体的には、潤滑部材2に鉄系材料を採用した場合、マトリクス部1を構成する材料としては、純アルミニウムやMg、Cu、Zn、Si、Mn等を含むアルミニウム合金などのアルミニウム系金属、純マグネシウムやZn、Al、Zr、Mn、Th、希土類元素等を含むマグネシウム合金などのマグネシウム系金属、チタン系金属、リチウム系金属が好ましい材料として例示できる。
【0022】
潤滑部材2は内外面を貫通する多数の通孔21をもつ板状部材である。潤滑部材2の内面は、マトリクス部1が形成するシリンダ部Sの内面に概ね連続的に露出する。ここで、「連続的に露出する」とは、潤滑部材2がシリンダ部S内面において露出する面がつながっていることを意味する。つまり、シリンダ部S内面において露出する潤滑部材2の内面が連続的に露出していることで、シリンダ部S対して摺動する相手部材の状態によらず常に接触することができ、耐摩耗性・摺動性が向上できる。本発明の複合部材(シリンダブロック)では潤滑部材2の内面はシリンダ部Sの内面に概ね連続的に露出している。「概ね連続的」とは、潤滑部材2の内面がすべて連続していることは必須ではなく、一部、断続していても良いことを意味する。連続的に露出する部分(連続露出面)の形状としては波状乃至網目状の形状が例示できる。連続露出面の形状は形成する通孔21の大きさ・位置により調節できる。連続露出面はシリンダ部Sの周方向に配向することが強度向上の観点からは好ましい。
【0023】
潤滑部材2をマトリクス部1にて実際に鋳込んだシリンダブロックを一部切り出した部材の写真を図4に示す。図4はシリンダ部Sの内面側から移した写真であり、シリンダ部Sの軸方向と図面の水平方向とが対応する。図4から明らかなように、潤滑部材2の通孔部分21にはマトリクス部1が強固に侵入している。図4では連続露出面が網目状で、シリンダ部Sの周方向に配向させている。
【0024】
更に、「板状」とは、平面的に広がりをもつ連続した部材及びその部材に孔を形成した部材のほか、金網などのように複数本の線材からなる網状体などような、概ね平面内に収まるような部材であっても良い。
【0025】
潤滑部材2は耐摩耗性やシリンダブロックの強度・剛性を向上する観点からは鉄を主成分とする鉄系材料から構成されることが望ましい。例えば、SS材・SPCC・ステンレスなどが挙げられる。また、潤滑部材2は、浸炭窒化処理されていることが強度向上の観点からは望ましい。
【0026】
潤滑部材2の厚みとしては0.5mm以上2mm以下程度が好ましい範囲として例示できる。潤滑部材2の外側には内外面を貫通する通孔21をもつ補強部材が密着されていることが望ましい。補強部材は潤滑部材と同様の部材を採用することができる。また、補強部材として、潤滑部材2と一体になっている部材を採用することもできる。例えば、一枚の板材を二重以上に巻回することで筒形の部材を形成することで、潤滑部材2とその外側に密着する補強部材とを形成することができる。
【0027】
潤滑部材2は多数の通孔21の部分にマトリクス部1が侵入している。マトリクス部1が通孔21に強固に結合することで、潤滑部材2及びマトリクス部1の間の接合強度・密着性が向上できる。従って、通孔21が多いほどマトリクス部との結合が強固になるので望ましい。例えば、通孔部分21の開口率が10%以上であることが望ましい。反対に、潤滑部材2が露出する部分である連続露出面が多く、通孔21が少ない方が摺動性は向上する。例えば、通孔部分21の開口率が50%以下であることが望ましい。
【0028】
潤滑部材2に設けられる通孔21の形状は特に限定しない。例えば、スリット状、矩形、楕円形、円形、三角形が挙げられる。
【0029】
以下に、本実施形態のシリンダブロックを製造する方法について説明する。潤滑部材2はエキスパンドメタル、パンチングメタル、複数本の線材より形成された網状体(金網など)などから構成することができる。
【0030】
エキスパンドメタルは、板状体に対して、まず、形成する通孔に応じた大きさの多数のスリットを複数列(隣のスリットとはスリットの形成位置をずらす)形成し、そのスリットを拡張するように板状体を引っ張ることにより板状体が網目状に広げて製造する。パンチングメタルは板状体に対して穿孔することで多数の通孔を形成して製造する。
【0031】
潤滑部材2の内面をシリンダ部の内面に概ね連続的に露出させるためには、潤滑部材2の内面側を平滑化することが望ましいので、これらの部材の対応する面(潤滑部材2の内面)が平滑化されていない場合には圧延などで平滑にすることが望ましい。ここで、平滑化は、少なくともシリンダ部Sの内面に露出する側について行う。そして、外面側は反対に粗面にすると、潤滑部材2とマトリクス部1との密着性が向上するので望ましい。
【0032】
更に、これらの部材を筒形に丸めることで潤滑部材2を形成する。ここで、筒形に丸めた後、そのまま又は溶接などにより接合することで潤滑部材2を形成できる。接合すると、最終的に製造されるシリンダブロックの強度を更に向上できる。平滑化は、板状体を丸めて筒形にする前後のいずれでも行うことができるが、特に、筒形にする前の方が容易である。
【0033】
その後、形成した潤滑部材2をマトリクス部1内に鋳込む。具体的には、潤滑部材2を鋳型内のシリンダ部Sの内面を形成する部分に配設した状態で、マトリクス部1を構成する鋳造材料を鋳込むことで、シリンダ部Sの内面に潤滑部材2の連続露出面が露出した状態にすることができる。
【0034】
鋳造の方法としては、重力鋳造法、低圧鋳造法、溶湯鍛造法、ダイカスト法など、従来の方法を用いればよい。また、鋳造後、必要に応じて熱処理を行い、マトリックスとなる非鉄金属の力学的性質を調整する調質処理を行えば、さらに高強度なシリンダブロックを得ることができるので望ましい。
【0035】
潤滑部材2の内面や、鋳型のシリンダ部Sの内面に相当する部分を精度良く形成すると、その後の後加工を少なくできるので望ましい。潤滑部材2の内面が平滑でない場合には、潤滑部材2が連続的に露出するまで切削加工を行うことで連続露出面を形成する。強度向上の観点からは切削加工よりも圧延加工の方が望ましい。
【0036】
なお、実施例では内燃機関のシリンダブロックについて説明したが、油圧ポンプ、コンプレッサのシリンダブロックに適用しても良いし、シリンダブロックに限らず、摺動面を有する部材に適用してもよい。
【0037】
また、実施例では潤滑部材として図1(c)に示すように板状部材を曲げて、端部同士を溶接などにより接合して閉じた筒状のものについて説明したが、例えば板状の部材を曲げて、端部同士を接合しないでもよい。この場合接合しなかった部分に対応する摺動面は、潤滑部材がない状態となるが、シリンダ部Sの大部分において潤滑部材が連続的に露出する連続露出面をもつので、軽量・低コストな構造にて耐摩耗性・密着性に優れた摺動面とすることができる。
【0038】
(摩耗試験)
試験試料の調製:シリンダ部の内径を93mmとしたシリンダブロックを作成した。そのシリンダブロックの周方向の一部を切り出して試験試料とした。
【0039】
実施例の試験試料としてエキスパンドメタル(SPCC、開口率18%;通孔の大きさは長径3.1mm、短径0.8mm;厚み0.9mm;関西鉄工製)を丸めて、端部と反対の端部とを溶接し、内径93mmの円筒形した。さらに浸炭窒化後、ショットピーニングを施したものを潤滑部材として採用し、ADC12を採用したマトリクス部中に鋳込んだ。エキスパンドメタルの一面側はプレスにより平滑化した。エキスパンドメタルは形成された通孔の長径が周方向に向くように配置した。シリンダ部の内面のRaは4.7μmであった。
【0040】
比較例の試験試料として内径93mmのシリンダ部をもつ、ADC12から構成されるシリンダブロックを採用した。潤滑部材を有しない以外は実施例の試験試料と同様に作成した。シリンダ部の内面のRaは3.0μmであった。
【0041】
摩耗試験:実施例及び比較例の試験試料について、ボア−リング摩耗試験機により摩耗試験を行った。ボア−リング摩耗試験機は図5に示すような試験機であり、ライナー材の内面にピストンリングを当接した状態でシリンダ部の軸方向(図5では上下方向)に摺動させることで行った。摺動条件は、ストロークを40mm、速度を400cpm、加圧力(リング押付力)を約29.4N(3kgf)及び約98N(10kgf)、潤滑油として市販のベースオイル(エッソ:スタノール43N)を0.3mL/分で滴下、試験温度120℃とした。そして、ライナー材として実施例及び比較例の試験試料を採用し、ピストンリングとして外径86mm、窒化SUSからなるピストンリングを採用した。
【0042】
結果:実施例の試験試料は加圧力約29.4Nの場合にヘルツ圧が300MPa、摩擦係数が0.082、摩耗量が0.17×10-93;約98Nの場合にヘルツ圧が430MPa、摩擦係数が0.073、摩耗量が0.29×10-93であった。
【0043】
比較例の試験試料は加圧力約29.4Nの場合にヘルツ圧が194MPa、摩擦係数が0.086、摩耗量が3.04×10-93;約98Nの場合にヘルツ圧が277MPa、摩擦係数が0.117、摩耗量が9.56×10-93であった。
【0044】
以上、明らかなように、潤滑部材を摺動面に露出させることで、試験圧力を大きくしても摩耗量、摩擦係数共に小さいままであった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のシリンダブロックの一部拡大断面図(a,b)及び潤滑部材の斜視図(c)である。
【図2】本発明のシリンダブロックのシリンダ部内面の一部拡大断面図である。
【図3】本発明のシリンダブロックのシリンダ部内面の一部拡大断面図である。
【図4】実際に潤滑部材をマトリクス部中に鋳込んだシリンダ部の内面の一部拡大図である。
【図5】実施例において用いたボア−リング摩耗試験機の概略図である。
【符号の説明】
【0046】
1…マトリクス部 2…潤滑部材 21…通孔 S…シリンダ部 D…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面をもつマトリクス部と、
貫通する多数の通孔をもつ潤滑部材とを備え、
前記潤滑部材は該摺動面の少なくとも一部に配置され、概ね連続的に露出して該摺動面の一部を形成する連続露出面をもつ
ことを特徴とする複合部材。
【請求項2】
前記マトリクス部は内面に前記摺動面をもつシリンダ部が内部に形成されている請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記潤滑部材は、前記シリンダ部の内面である前記摺動面に連続的に露出するか又は該シリンダ部の周方向で複数に分割されている、全体として筒形の部材である請求項2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記マトリクス部は軽金属から構成され、前記潤滑部材は鉄を主成分とする鉄系材料から構成される請求項1〜3のいずれかに記載の複合部材。
【請求項5】
前記連続露出面は網目状乃至波線状である請求項1〜4のいずれかに記載の複合部材。
【請求項6】
前記潤滑部材の開口率は10%以上50%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の複合部材。
【請求項7】
前記潤滑部材は、パンチングメタル又は前記摺動面側が平滑化されたエキスパンドメタルである請求項1〜6のいずれかに記載の複合部材。
【請求項8】
前記通孔内に埋設され、前記摺動面側に露出する固体潤滑材を有する請求項1〜7のいずれかに記載の複合部材。
【請求項9】
前記通孔内に埋設され、前記摺動面側に露出する強化材を有する請求項1〜8のいずれかに記載の複合部材。
【請求項10】
前記摺動面の前記通孔部分に凹部が形成されている請求項1〜9のいずれかに記載の複合部材。
【請求項11】
前記潤滑部材は、複数本の線材からなり、圧延された網状体である請求項1〜10のいずれかに記載の複合部材。
【請求項12】
前記潤滑部材の前記連続露出面と反対面が粗面となっている請求項1〜11のいずれかに記載の複合部材。
【請求項13】
前記潤滑部材は厚さが0.5mm以上2mm以下である請求項1〜12のいずれかに記載の複合部材。
【請求項14】
前記潤滑部材の前記連続露出面と反対面に密着し、内外面を貫通する多数の通孔をもつ補強部材を有する請求項13に記載の複合部材。
【請求項15】
前記潤滑部材は、浸炭窒化処理されている請求項13又は14に記載の複合部材。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の複合部材を製造する方法であって、
貫通する多数の通孔をもち少なくとも一方の面が平滑化されたエキスパンドメタルから前記一方の面が連続露出面側になるように前記潤滑部材を形成する工程と、
前記潤滑部材の前記一方の面が前記摺動面の一部を形成するように前記マトリクス部を鋳造により形成する工程と、
を有することを特徴とする複合部材の製造方法。
【請求項17】
前記マトリクス部を形成する工程の後、前記通孔部分の前記マトリクス部を除去することで凹部を形成する請求項16に記載の複合部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−113491(P2007−113491A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305941(P2005−305941)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】