説明

要素の壁厚の構成方法

要素の壁厚を設計する方法
本発明は、恒久的に静的及び/又は動的負荷にさらされる要素の壁厚を設計する方法であって、要素は繊維強化ポリマー材料から成る。第1の工程において、繊維強化プラスチックにおいて繊維の勾配、及び要素における溶接線の位置を第1のシミュレーションによる計算で算出する。要素の強度の利用度を第2のシミュレーションによる計算で算出する。要素の壁厚を第2のシミュレーションの結果に当てはめ、壁厚の変化があった場合に前の工程を繰り返す。また、本発明は、本発明にかかる方法により設計された壁厚を有する繊維強化ポリマー材料の要素に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静的又は動的な負荷に常時さらされる要素の壁厚を構成する方法に関する。なお、この要素は、繊維強化ポリマー材から製造される。また、本発明は、静的又は動的な負荷に常時さらされる繊維強化ポリマー材の要素に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に支持体は、それが保持する任意の装置による連続的な静的力にさらされる。支持体に保持される装置がエンジンである場合、例えば、振動が支持体に伝達する可能性もある。結果として、支持体は、静的力に加えて常時動的負荷にさらされる。この支持体は、例えば自動車におけるエンジン支持体である。
【0003】
自動車におけるエンジン支持体は、通常、金属材料から成る。金属材料において、金属の大きな強度を考慮すると小さい壁厚を実現することが可能である。しかしながら、金属支持体には重量が大きいという欠点がある。
【0004】
金属材料の代わりとして、例えば、特許文献1において繊維強化プラスチックからエンジン支持体を形成することが知られている。炭素繊維強化プラスチックが特に好適であると考えられている。しかし、支持体にかかる静的及び動的な負荷に対して十分な強度を実現するために、支持体を大きな壁厚に形成する必要がある。通常、支持体には一定の壁厚が設定される。金属と比べて低い強度の強化繊維樹脂では、金属材料から成る支持体と比較して壁厚をより大きくしなければならない。これにより、炭素繊維強化プラスチックのエンジン支持体は、その取り付けに大きなスペースを要する。
【0005】
偶発的な突発的負荷に備えるための肉厚の構成は、例えば非特許文献1において知られている。この非特許文献1には、自動車の衝突事故時における繊維強化ポリマー材の支持体の挙動をシミュレーションすることが記載されている。このシミュレーションにより、自動車の衝突挙動に対して最適となるように、負荷がかかる部分の壁厚の構成を決定することが可能となる。従って、大きな負荷にさらされる領域はより大きな壁厚に形成され、負荷が低い部分はより小さな壁厚に形成される。要素の負荷部分に対して壁厚を適応させることで、設置スペースの観点から要素を最適なものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE−A10329461
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Glaser, A. Wuest, “Modellierung am Computer” [computer modeling], Kunststoffe 3/2005, page 132-136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このように設計された支持体は、衝突に対する抵抗が十分であるに過ぎない。支持体上に置かれているエンジンによる静的及び/又は動的な負荷の観点から十分な強度については、考慮されていない。従って、本発明の目的は、支持体の十分な強度を実現するために、静的及び/又は動的な負荷に常時さらされる支持体の壁厚を、その負荷に対して適用させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、静的及び/又は動的な負荷に常時さらされる要素の壁厚を設計する方法により達成される。その要素は、繊維強化ポリマー材料から成り、この方法は、以下の工程を含む。
【0010】
(a)繊維強化プラスチックにおける繊維の勾配及び要素内における溶接線の位置を第1のシミュレーションによる計算で決定する工程(a)、
(b)要素の強度の利用度を第2のシミュレーションによる計算で算出する工程(b)、
(c)要素の形状及び/又は要素の少なくとも1つの射出点の位置を、前記第2のシミュレーションによる計算の結果に適用し、上記利用度が予め定められた上限値を超えている場合に壁厚を減少させ、及び上記利用度が予め定められた下限値を下回った場合に壁厚を増加させる工程(c)、
(d)工程(c)において要素の形状及び/又は少なくとも1つの射出点の位置を変更した場合、前記工程(a)〜(c)を繰り返す工程(d)。
【0011】
ポリマーは、高負荷の下で、非線形の応力・歪み挙動が確認される。この挙動は、通常、歪み速度に依存して強くなる。従って、遅い負荷の条件下よりも高い歪み速度において、より一層高い降伏応力が実現される。更に、多くのポリマーにおける降伏応力は、引張域におけるそれよりも圧縮域におけるものの方が高くなる。なお、歪みが大きい条件下で非弾性が持続する要素が存在し、負荷が解放された場合でももはや完全には弛緩しない。従って、樹脂は、非常に複雑な非線形/粘塑性挙動を示す。
【0012】
繊維強化熱可塑性樹脂材料は、強化されていない熱可塑性樹脂に比べてより良い機械的特性を示す。このため、繊維強化熱可塑性樹脂材料は、負荷耐久構造として重要である。しかし、処理プロセス、特に射出成形により繊維が(樹脂の)流れにより傾けられ、繊維強化熱可塑性樹脂材料の機械的特性は、もはや等方的ではなくなる。これは、異方性、すなわち、相互に依存した剛性、降伏応力、及び材料の破断点における伸びの機械的挙動につながる。
【0013】
従来技術により知られている衝突シミュレーションと異なり、通常、衝突時の速度による高い歪み速度をともなって大きな負荷が生じ、静的及び/又は動的な負荷に常時さらされる要素の場合には、一定の負荷も考慮する必要がある。突発的な歪み速度は生じない。これにより、負荷がかかる場合に、静的及び/又は動的な常時の負荷の観点で降伏応力がより一層小さくなり、結果としてわずかな負荷であっても要素が破損する。この挙動は、本発明に係る壁厚の設計方法により考慮される。
【0014】
本発明に係る方法によれば、局所的に発生する負荷に要素の形状を適応させることができる。本発明の目的のために、要素の形状は、例えば壁厚、リブ高さ、及び要素の形として理解される。例えば、低い負荷が発生する要素領域は、小さい壁厚で構成され、より高い負荷にさらされる要素領域は、高い壁厚で構成される。このような構成により、要素の壁厚を局所的な負荷に適応させることができるので、結果として、材料における重量を省くことができる上に、取り付けスペースを削減することが可能である。
【0015】
工程(a)における繊維の勾配及び溶接線の位置測定は、要素の製造方法をシミュレーションすることにより行う。繊維の勾配及び溶接線の位置とは別に、その製造プロセスにおける同様の種々の要素が、製造方法のシミュレーションにより測定される。この要素は、例えば、圧力分布や温度である。
【0016】
要素における繊維の勾配分布密度は、通常、不均一であり製造方法に依存する。繊維強化プラスチックから要素を製造するために一般的に使用される射出成形法に対しては、勾配分布密度が、拡張されたJeffery方程式に対して数値積分法を用いることで射出成形法のシミュレーションデータから計算される。なお、Jeffery方程式については、例えば、G.B. Jeffery, “The motion of the ellipsoidal particle immersed in a viscous fluid”, Royal Society of London, Series A, 1992 161-179に記載されている。
【0017】
これにより、要素中における各位置の繊維の勾配テンソル(orientation tensor) が与えられ、該テンソルにより勾配の分布密度が従う。
【0018】
工程(b)において第2のシミュレーションによる計算を行い、要素の強度の利用度を計算するために、繊維強化ポリマー材料を数値的に記述する必要がある。この数値的記述は、ポリマー材料の粘塑性理論及び繊維の弾性モデルに従う材料を用いて行われる。なお、この弾性モデルは、材料混合物(すなわち繊維強化ポリマー材)を記述するための微小機械モデルに組み合わされる。ポリマー材料は、弾性材料モデルにより記述される。塑性ポテンシャルは一般的に、通常の偏差応力テンソルの第1不変量だけでなく、第2、第3不変量における多項式理論を含む。流動則は、関連流動則をもたない。同様に、ポテンシャルは、偏差の第1不変量だけでなく第2、第3の項を持つ。粘度は、流動条件に一時的に反するように定式化される。降伏曲面への逆投影は、粘度の項を通して時間に依存する。常時の負荷のために、解は、対応する長時間にわたる反復法により数値的に求められる。ポリマーの強度仮説は、応力テンソルの第1不変量だけでなく、第2及び第3不変量を含む破損面に基づいている。歪み速度の依存性は、重み付けにより上記破損に関する記述に含まれる。モデルのパラメータの較正は、張力、せん断力、及び圧縮力の試験値に基づいて行われる。
【0019】
繊維材料の弾性−脆弱性挙動が推定される。ここで、パラメータは、繊維材料の剛性及び破断応力である。
【0020】
材料混合物の微小機械モデルは、Mori-Tanakaによる均質化方法に従う。なお、この均質化方法は、T.Mori and K.Tanaka, “Average stress in matrix and average elastic energy of materials with misfitting inclusion”, Acta Metallurgica, Vol. 21, May 1973, page 571 to 574とJ.D.Eshelby, “The determination of the elastic field of an ellipsoidal inclusion, and related problems”, Proc. Of the Royal Society of London, Series A, 1957, pages 376 to 396に記載されている。ここで、2つの相(すなわち、ポリマーと繊維)による材料挙動への寄与は、相互に数値的に重み付けされる。ここでパラメータとして考慮されるものは、繊維含有量、形状、及び繊維の勾配分布密度である。
【0021】
材料の原理により、ポリマー中の繊維を介して異方性が決定され、ポリマー材料から生じる非線形性及び歪み速度依存は、公知の張力/圧縮力の非対称性を生じさせ、破損の挙動にもつながる。ポリマーマトリックスが機能しなくなると、破損が発生し、繊維破壊が起こるか、又はマトリックスが繊維から分離する。更に、材料の原理は、本発明の方法におけるシミュレーションに簡易な方法で組み込むことができる。
【0022】
工程(b)における強度の利用度の計算は、通常の数値的方法により行う。このような数値的方法は、一般的に有限差分法、有限要素法、及び有限体積法である。有限要素法は、好ましくは強度の利用度の計算のために使用される。数値的計算を可能とするために、グリッド網による要素の記述が必要である。この目的のために、要素の輪郭が、グリッド網の形態で記述される。有限要素法で使用される通常のグリッド網は、三角形グリッド、及び長方形グリッドである。グリッドのメッシュ幅、すなわち2個の各々の結合点の間の間隔は、グリッド網による要素の十分に精度の高い記述が可能となるように選択される。結果として、複雑な領域はより小さなメッシュ幅が要求される一方で、より複雑でない領域にはより大きなメッシュ幅で十分である。強度計算のために、要素の表面をモデル化するには大きなメッシュ幅では十分ではなく、また内部領域をモデル化する場合も然りである。従って、全体の要素は、空間的なグリッド網の形態で記述される。
【0023】
強度の利用度を計算するために、工程(a)における第1シミュレーションにおいて決定された繊維強化プラスチックにおける繊維の勾配及び溶接線の位置は、グリッド網に移される。更に、強度の利用度の計算のために必要とされる変数は、樹脂及び繊維の材料変数である。特に、関連する材料変数は、例えばポリマーにおける弾性率、ポアソン比、塑性ポテンシャル用のパラメータ、粘度パラメータ及び破断強度と、これら弾性率、ポアソン比、及び引張強度とともに繊維の形状及び層間剥離抵抗である。また、ここでは、個々の材料データの圧力及び温度への依存が、考慮されなければならない。これら変数により、材料混合物の記述のために、繊維強化ポリマー材料用の強度関連(strength-relevant)の固有値が、微小機械モデルを用いて計算される。
【0024】
特に、繊維強化ポリマー材料において使用されている樹脂は、熱可塑性ポリマーである。好ましい樹脂は、例えば、ポリアミド(PA)、ポリブタジエンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSU)である。
【0025】
特に、使用される繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維である。一般的に、繊維長が0.5mm未満の短繊維が使用される。なお、繊維長は好ましくは、0.4mm未満である。しかし、数ミリメートル以下の繊維、好ましくは20mm以下の長さの繊維を使用しても良い。
【0026】
要素の製造方法は、一般的に射出成形である。工程(a)における第1のシミュレーションによる計算は、繊維強化プラスチックにおける繊維の勾配及び溶接線の位置を決定するために実行され、結果として、射出成形法のモデル化となる。この目的のために、通常、射出ノズル及び射出成形用の型がグリッド網で記述される。繊維を含むポリマー物質の射出操作は、そのモデル化により記述される。この目的のために、ポリマー物質が型に射出される間の全射出操作を記述する必要がある。型の3次元の局所的な記述とは別に、型への射出操作の時間的経過状況(time profile)も記述しなければならない。射出プロセスにおける時間経過により、ポリマー物質の繊維に勾配が与えられる。また、同時に、要素における溶接線の位置は、これにより記述される。
【0027】
更に、製造方法のモデル化により記述される変数は、特に、圧力変化量及び温度変化量である。この場合、圧力変化量及び温度変化量は、一時的且つ局所的に表される。
【0028】
繊維強化ポリマー材料の強度関連の固有値が、材料データ、繊維の勾配密度関数及び溶接線の位置から一度決定されると、強度の利用度を評価することができる。この目的のために、要素において強度シミュレーションが実行される。
【0029】
要素にかかる局所的な負荷は、強度シミュレーションにおける境界条件として使用される。要素が持っていなければならない必要な強度を決定することができるように、ここで、再び、大きな時間を区切りとして、時間経過状況を決定する必要もある。特に、要素がエンジン支持体として機能する場合、例えばエンジンの振動等の結果として生じる動的負荷も考慮にいれなければならない。要素における弱い部分は、強度シミュレーションにより測定される。例えば、その弱い部分では、負荷がかかる等の条件下で曲げ又はせん断が生じる。要素への損傷が要素がさらされている負荷よりも低い負荷の下で発生する場合、この部分で壁厚を増加させる必要がある。同時に、この部分で、要素の破損が発生しないように、より小さい壁厚を選択することも可能である。このようにして、要素の壁厚は、生じている各々の負荷に対して局所的に適応される。これによれば、全要素を最大の壁厚で構成する必要が無いので、壁厚を最適な設計とすることで、材料が要素の後の製造において削減される。これにより、特に自動車構造物において望まれる(燃料の消費を減らすための)重量の削減が実現される。更に、このようにすることで、要素の設置スペースも付随的に最適化される。
【0030】
本発明にしたがう方法は、特に自動車のエンジンの支持体の壁厚を決定するために好適である。エンジンの質量による静的負荷とは別に、また、自動車のエンジン支持体は、エンジンから発せられる振動による常時の動的負荷にさらされる。更に、自動車の駆動中に不規則な負荷が発生する。この不規則な負荷は、例えば自動車への操作時、路面状況、加速及びブレーキ操作時における(通常と)異なる速度に起因する。壁厚を設計するために、支持体のこれらの負荷もまた考慮される。負荷は、モデルを解くための力の境界条件として使用される。
【0031】
本発明にかかる方法により設計される要素は、例えば、自動車構成物におけるエンジン支持体などであるが、本発明はトランスミッションクロスメンバー、シャシマウント、ロッド、バー、及び支持体の設計用にも好適である。高い負荷にさらされる繊維強化プラスチック(特に、ガラス繊維強化ポリアミド)の要素の全ては、本発明による方法で設計しても良い。
【0032】
本発明による方法により、静的又は動的な負荷に常時さらされる繊維強化ポリマー材料の要素を設計することができ、この要素は、それに作用する局所的な負荷に適応する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】振り子型支持体の3次元表現を示している。
【図2】図1に従う第1の射出点を備えた振り子型支持体におけるモデル化された繊維勾配を示している。
【図3】図2の繊維分布を備えた振り子型支持体における破損値の分布を示している。
【図4】図1に従う他の射出点を備えた振り子型支持体におけるモデル化された繊維勾配を示している。
【図5】自動車構造などに使用される振り子型支持体の3次元表示を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の形態を図面に表し、以下の記載においてより詳細に説明する。
【0035】
図1は、自動車構造物等において使用される振り子型支持体の3次元表示を示している。
【0036】
通常、振り子型支持体は、大きな力が作用するため金属で製造される。しかし、金属の振り子型支持体は、大きな質量を有するという欠点がある。しかし、自動車の燃料消費を低くするために、自動車の質量の低下が望まれる。1つの可能性として、樹脂等の低密度の材料の使用が挙げられる。しかし、一般的に樹脂は、金属よりも強度が低く、特に要素が高い負荷にさらされる場合には、樹脂を使用するとそれが破損することを想定しなければならない。
【0037】
振り子型支持体1は、第1の通開口3及び第2の通開口5を備えている。第1の通開口3は、環状構造7により囲まれている。安定のために、環状構造はリブ9を有している。これにより、環状構造7の壁厚を減らすことができ、結果として重量が削減される。環状構造7は、径方向において棒状部分11と接合している。環状構造と同様に、棒状部分11は中空で、リブ13により強化された2つのT構造の形態である。第2の通開口5は、棒状部分11の端部に形成される。この領域の体積が小さいことを考慮して、第2の通開口5は、固形環状壁15により囲まれている。
【0038】
振り子型支持体1は、第2の通開口5において固定される。作動の間に、力17が、部分11と反対側の第1の通開口3側において軸方向に作用する。振り子型支持体1における負荷の次の表現のために、力17が30kNの大きさを有することが想定される。
【0039】
図2において、図1の振り子支持体における繊維分布を表している。
【0040】
振り子支持体は、繊維強化プラスチックから射出成形される。樹脂としては特に、熱可塑性樹脂が好ましい。より好ましくは、ポリアミド(PA)、ポリブタジエンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSU)等である。
【0041】
ガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維が、特に繊維として使用される。一般的に、短繊維、特に繊維長が0.5mm未満である繊維、好ましくは繊維長が0.4mm未満である繊維が使用される。しかし、数ミリメーター以下の長さの繊維、好ましくは20mm以下の長さの繊維を使用しても良い。
【0042】
以下の破損値の計算は、樹脂としてのポリアミドPA66に対して実行される。なお、このポリアミドPA66(Ultramid(BASF AGの登録商標)A3WG10CR)は、平均0.3mmの繊維長を有し、ガラス繊維により強化されている。
【0043】
図2において、繊維21は、射出点からの流れの方向に対して平行に傾けられている。結果として、振り子型支持体1の負荷の方向に沿った繊維の勾配が実現される。唯一の例外は、溶接線25である。溶接線25は、射出プロセスの間に第1の通開口3の周囲において両側に流れ込むポリマー溶融液が、合流して流れ込む領域である。これにより、溶接線25の領域において繊維の軸の傾きが生じる。ポテンシャルの弱い部分が発生する。
【0044】
図3は、図2における繊維分布を備えた振り子型支持体1の破損値を示している。最も大きな応力は、棒状部分11が環状構造7から分岐する領域において振り子型支持体1に作用する。しかし、振り子型支持体1の材料は、この領域における繊維21の勾配によって安定する。つまり、繊維の破損は、棒状部分11が環状構造7から分岐する領域において生じることが予想される。しかし、溶接線25の領域における繊維の勾配のために、繊維21は環状構造7の安定化には寄与しない。第1の通開口3の内側で生じる力17のために溶接線25において生じる応力によって、1.755の破損値が生じる。この値は、振り子型支持体1が溶接線25において破断されるには十分な値である。
【0045】
図4において、他の射出点を備えた振り子型支持体における繊維分布を示している。
【0046】
図4に示されている繊維分布の場合、射出点31は、第1の通開口の領域に設けられている。これにより、棒状部分11と反対側にあり且つ溶接線25が図2に示す例の形態をとる環状構造7の領域における繊維は、接線方向に傾く。この傾きにより、当該両域における環状構造7の安定化が図られる。
【0047】
この射出点31の配置により、第2の通開口5の領域における溶接線は、棒状部分11とは反対側に位置される。しかし、第2の通開口5において振り子型支持体1が固定されていることから、そこに作用する応力は第1の通開口3に作用する応力よりも低くなる。1より大きな破損値を与えて、破損、すなわちこの領域において振り子型支持体が破断されてしまうような力はもはや発生しない。
【0048】
この場合、環状構造への負荷が一定であることにより、図5に示されているように、環状構造7全体において破損値が1未満となり、支持体1の破損が生じない。
【0049】
結果として、本発明にかかる方法によれば、樹脂で形成される振り子型支持体が十分に安定となる形状を発見することが可能である。
【0050】
ここで示されている振り子型支持体とは別に、本発明にかかる方法は、所望する他のどのような支持体にも適用することが可能であり、更に、他の高い負荷がかかる繊維強化プラスチック(特にガラス繊維強化ポリアミド)から成るあらゆる要素に対して適用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 振り子型支持体
3 第1の通開口
5 第2の通開口
7 環状構造
9 リブ
11 棒状部分
13 リブ
15 環状壁部
17 力
21 繊維
23 射出点
25 溶接線
31 射出点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静的及び/又は動的負荷に常時さらされる要素の壁厚を設計する方法であって、前記要素は、繊維強化ポリマー材料から成り、
以下の、
a.繊維強化プラスチック中の繊維の勾配及び要素における溶接線の位置を、第1のシミュレーション計算により測定する工程(a)、
b.要素の強度の利用度を、第2のシミュレーション計算により計算する工程(b)、
c.要素の形状及び/又は要素の少なくとも1つの射出点の位置を、第2のシミュレーションによる計算の結果に適用し、上記利用度が予め定められた上限値を超えている場合に壁厚を減少させ、及び上記利用度が予め定められた下限値を下回った場合に壁厚を増加させる工程(c)、
d.工程(c)において要素の形状変化及び/又は少なくとも1つの射出点の位置を変更した場合、前記工程(a)〜(c)を繰り返す工程(d)、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
工程(a)における前記繊維勾配及び前記溶接線の位置を決定するために、要素の製造法をシミュレートする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)における利用度の計算のために、要素の輪郭をグリッド網の形態で描写する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において決定する繊維勾配及び溶接線の位置が、利用度の計算のためにグリッド網に移行する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
強度関連の固有値を、利用度の計算のためにグリッド網に移行した繊維勾配及び溶接線の位置の値から決定する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
要素の製造法が、射出成形法である請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
繊維強化プラスチックが、
ポリアミド、ポリブチレン、テレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン及びポリスルホンを含むグループから選択されるポリマー材料のマトリックスと、繊維としてガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維と、を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
繊維が、0.5mm未満の長さを有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
繊維が、ランダムにマトリックス中に配置されている請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
要素が、
自動車におけるエンジンの支持体、トランスミッションクロスメンバー、シャシマウント、又はロッド、棒体又は支持体である請求項1〜9に記載の方法。
【請求項11】
静的又は動的負荷に常時さらされるポリマー材料から成る要素であって、
請求項1〜10の何れか1項に記載の方法によって、該要素に作用する局所的な負荷に適応する壁厚を有することを特徴とする要素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−505608(P2011−505608A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531488(P2010−531488)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063829
【国際公開番号】WO2009/056442
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】