説明

角を固化する膨張式の装置および複合構造を製造するための方法

弾性材料でできた複合部品のための切子面の中空または管状の型の内部において複合材料を固化するための膨張式の圧縮工具を提供する。当該圧縮工具は、封止されたチャンバを規定する角部分によって結合される比較的平坦な壁部分を含む。当該壁部分は、各々の壁部分の中間点に向かって型の表面から離れるように湾曲しており、このため、加圧流体が圧縮工具に注入されると、工具の内面に加えられる力の成分が壁部分を通り角部分に向かって伝達される。こうして、最初の膨張中に、壁部分が複合材料に接触する前に角部分が型の角領域へと押し進められて、複合材料に対する壁部分の摩擦が発生する前に複合材料をしっかりと圧縮して当該型の角領域に押込むことにより、型の角領域への角部分の拡張が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、概して、複合部品の製造に関する。より特定的には、この発明は、中空で切子面の型に繊維強化樹脂材料を積層するための装置、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
たとえば繊維強化樹脂材料を含む複合材料は、重量強度比が高く耐食性に優れた従来の金属材料に勝るいくつかの利点を提供する。従来の複合材料は、典型的には、織構成または不織構成のガラス、炭素またはポリアラミド繊維を含む。原材料の段階では、繊維は、樹脂が予備含浸され得るかまたは乾燥させたままであり得る。乾燥している場合、型面上へのレイアップの後、繊維に樹脂が注入され得る。型面上の樹脂含浸された繊維に熱または圧力を加えて樹脂を硬化させ、積層物を型の形状に固めることができる。オーブン、オートクレーブ、平坦であるかもしくは起伏の付いた加熱された形成工具、または真空バッグの使用を含む方法の組合せにより、熱または圧力を加えることができる。
【0003】
複合部品は、上述の態様で雄型工具および雌型工具の上に形成することができる。雄型工具を用いる場合、複合プライが、当該部品の内側のモールドラインを形成する外側の型面に施される。雄型工具上のレイアップにプライを追加することにより、当該部品の厚さが増し、外側のモールドラインが変化するが、内側のモールドラインは変化しない。逆に、雌型工具を用いた場合、複合プライが、当該部品の外側のモールドラインを形成する内側の型面に施される。雌型工具上のレイアップにプライを追加することにより、当該部品の厚さが増し、内側のモールドラインが変化するが、外側のモールドラインは変化しない。
【0004】
合せ面が部品の外側に位置する場合には雌型工具が望ましい。というのも、雌型工具は、外側のモールドライン(すなわち、外面)を緻密に制御することを可能にするからである。外側寸法が同じであるが厚さが異なる複数の部品を製造する場合にも、(「外側のモールドライン工具」としても公知である)雌型工具が望ましい。たとえば、航空機の胴体は、多くの場合、外側寸法が同じであるが厚さが異なる複数のフレームを備える。この場合、すべてのフレームを単一の雌型工具で作製することができる。というのも、当該工具により、外側寸法を変えることなく厚さを変えることが可能になるからである。このことは、航空機を将来発展させる際にフレームをさらに厚くする必要がある場合に、工具を変更しなくも実現することができる。逆に、雄型工具を用いた場合、異なるフレーム厚ごとに別個の工具が必要となるだろう。
【0005】
中空または管状の型は、少なくとも1つの囲まれた断面を含む雌型工具の特別な事例である。いくつかの中空または管状の型が切子面にされ得る、すなわち、比較的平坦な壁部分と結合している内半径または角領域との組合せを含み得、これにより、囲まれた断面または空隙が規定される。この場合、膨張式のマンドレルまたは空気袋(bladder)を中空または管状の型の内部に位置決めし、膨張させて、型の内面に対して複合材料を圧縮することができる。しかしながら、中空または管状の工具で複合部品を製造する場合、複合プライがしばしば型表面の角領域にわたって「ブリッジングする」かまたは皺になり、結果として、角領域における複合材料の固化または樹脂濃度が不十分になり、たとえば材料の厚さおよび孔隙率が過度になるといった材料特性の低下がもたらされる。
【0006】
型よりも熱膨張係数が高い材料または複合材料、たとえばアルミニウムもしくはテフロ
ン(登録商標)、でできた固体のマンドレルは、角のブリッジングまたは皺を防ぐために中空または管状の型とともに用いられてきた。しかしながら、これらのマンドレルの使用は、一般に、滑らかで真っ直ぐな内面を有する複合部品のための型に限定される。というのも、型の内面上に湾曲、曲がりまたは角度があるために、複合材料の硬化後に固体のマンドレルを取外すことができなくなるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この問題に対処するために、マンドレルはまた、複合材料の硬化後に型から洗い流すかまたは取外すことのできる熱膨張係数の比較的高い材料で作られてきた。このような材料は共晶塩および可溶性プラスタを含む。しかしながら、これらのマンドレルでは、鋳造工具、乾燥用オーブン、収納ラックなどへの大幅な投資が必要となる。加えて、これらの材料は引張り強度が低く、マンドレルが脆くなり易く、慎重な取扱いが必要となる。さらに、これらの材料の中には、環境にとって有害な廃棄物を生成するものもある。
【0008】
したがって、複合材料を比較的平坦な壁面に対して、かつ、中空または管状の型の内側の角領域により均一に押込むことを可能にし、湾曲した内面または角度のついた内面を有する複合部品のための型から取外すことを可能にし、再利用を可能にし、場合によっては、環境にとって実質的に有害な廃棄物を生成することなく、比較的容易かつ安価な製造を可能にする方法および装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
上述の必要性はこの発明によってかなり満たされる。一局面において提供される装置は、いくつかの実施例において、いくつかの既存の装置よりも均一な態様で、比較的平坦な壁面に対して、かつ、中空または管状の型の内側の角領域に複合材料を押込むことを可能にし、湾曲した内面または角度のついた内面を有する複合部品のための型から取外すことを可能にし、再利用を可能にし、環境にとって実質的に有害な廃棄物を生成することなく、比較的容易かつ安価な製造を可能にする。
【0010】
この発明の一局面に従うと、少なくとも1つの囲まれた断面を有する複合要素を固化するための拡張式の圧縮工具は、工具の拡張に応じて複合材料を圧縮して型の内側の角領域に押込むよう構成された角部分と、工具の拡張に応じて当該型の内壁に対して複合材料を圧縮するよう構成された壁部分とを含み得る。加えて、当該工具は、当該工具の拡張に応じて、壁部分の少なくとも一部が複合材料を圧縮し始める前に角部分が複合材料を圧縮し始めるように構成され得る。
【0011】
この発明の別の局面に従うと、少なくとも1つの囲まれた断面を有する複合要素を固化するための拡張式の圧縮工具は、工具の拡張に応じて複合材料を圧縮して型の内側の角領域に押込むための角手段と、工具の拡張に応じて型の内壁に対して複合材料を圧縮するための壁手段とを含み得る。加えて、当該工具は、当該工具の拡張に応じて、壁手段が複合材料を圧縮し始める前に角手段が複合材料を圧縮し始めるように構成され得る。
【0012】
この発明のさらに別の局面に従うと、少なくとも1つの囲まれた断面を有する複合要素を固化する方法は、圧縮工具を拡張させるステップと、複合材料を圧縮して型の内側の角領域に押込むステップと、さらに、複合材料が1つの囲まれた断面の周りで実質的に均一に固化されるように当該型の内壁に対して複合材料を圧縮するステップとを含み得る。
【0013】
こうして、この発明のいくつかの実施例が、この明細書中のその詳細な説明をよりよく理解し、当該技術への寄与をよりよく認識できるようにするために、やや広範に略述され
てきた。当然、添付の特許請求の範囲の主題を形成するこの発明の追加の実施例も存在し、以下に説明される。
【0014】
この点において、この発明の少なくとも1つの実施例を詳細に説明する前に、この発明の応用例が構造の詳細に限定されず、以下の説明に記載されるかまたは添付の図面に示される構成要素の配置に限定されないことが理解されるべきである。この発明は、記載された以外の実施例が可能であり、実施が可能であり、さまざまな方法で実行される。また、この明細書および要約書において用いられる語句および用語が説明を目的としたものであり、限定するものとみなされるべきでないことが理解されるはずである。
【0015】
こうして、当業者は、この開示が基づいている概念が、この発明のいくつかの目的を実行するための他の構造、方法およびシステムの設計のための基礎として容易に利用され得ることを認識するだろう。したがって、クレームが、この発明の精神および範囲から逸脱しない限りにおいては、このような同等の構造を含むものとみなされることが重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
詳細な説明
この発明に従った実施例は膨張式の圧縮工具を提供する。当該膨張式の圧縮工具は、中空または管状の切子面の型の内部で膨張して、型の内壁と角領域とに対して複合材料を圧縮することができる。開示された膨張式の圧縮工具は、膨張式のマンドレルの適合可能および再利用可能な局面と、比較的高い熱膨張係数を有する固体のマンドレルの固化局面とを組合せたものである。膨張式の圧縮工具は、内半径を有する角領域によって接合された比較的平坦な壁領域の組合せを有する開口型の管状の型または囲まれた中空の型とともに用いることができる。たとえば、膨張式の圧縮工具は、台形または「帽子型(hat-shaped)」の断面を有する航空機胴体の複合縦通材を製造するのに用いることができる。
【0017】
膨張前に、圧縮工具は、対応する型の内面の形状に概ね適合する外壁を有し得る。しかしながら、当該圧縮工具は、空隙が圧縮工具の外面と型の内面との間に形成されるような外側寸法を有し得る。当該空隙の寸法は、内側の型面に適用されて複合部品を形成し得る未硬化の複合材料のバルクの厚さ以上であり得る。
【0018】
さらに、膨張式の圧縮工具の外壁面は、膨張前に圧縮工具の外壁面が型の内壁面から離れるように湾曲するような輪郭または湾曲を有し得る。すなわち、圧縮工具の外面と型の内面との間の空隙または隙間は、角領域から遠ざかるにつれて大きくなり得る。このため、圧縮工具の外面と型の内面との間の隙間は、比較的平坦な壁領域によって繋がれているそれぞれの一対の角領域同士の間のほぼ中間点において最大となる。
【0019】
こうして、圧縮工具が初めに膨張すると、内部の流体圧力により圧縮工具の壁の内面に外向きの力を加えることができ、当該力は、圧縮工具の壁部分が複合材料に接触する前に、圧縮工具の湾曲した壁部分を通じて伝達されて、圧縮工具の角部分を型の角領域の方に押し進めることを可能にする。こうして、圧縮工具と型の角領域への当該圧縮工具の膨張に耐える複合材料との間の摩擦力が、圧縮工具の最初の膨張中に実質的に低下し得るかまたは最小限になり得る。これにより、圧縮工具の中心の、比較的平坦な壁部分が複合材料に接触する前、または、圧縮工具の壁部分が型の角領域への圧縮工具の角部分の拡張を有効に抑制するのに十分な摩擦力をもたらすのに十分な力で複合材料に押当たる前に、圧縮工具の角部分が複合材料をしっかりと圧縮して当該型の対応する角領域に押込むことが可能となる。
【0020】
結果として、型の角領域にわたる複合材料のブリッジングまたは皺を実質的に防止する
ことができる。こうして、複合材料の角の固化を改善させることができる。すなわち、完成した複合部品の角領域における繊維密度の低下は、いくつかの既存のマンドレルを用いることで起こり得るものであるが、これを、開示された圧縮工具の実施例を用いることで回避することができる。
【0021】
ここで、この発明を、添付の図面に関連付けて説明する。添付の図面においては、同様の参照番号は全体を通じて同様の部分を指す。図1は、中空または管状の型10の断面端面図を示し、ここでは、複合材料12が型10の内面14上に配置されている。型10は、内半径または角領域18同士によって接合された複数の比較的平坦な側面領域または内壁領域16を有する。典型的な既存の膨張式のマンドレル20または空気袋は、中空または管状の型10の内部に位置決めされ、硬化サイクルまたは硬化プロセス中に膨張して、複合材料12を圧縮し、型の内面14または以前に説明したプライ面22に対して複合材料12を固定することができる。
【0022】
この構成においては、膨張式のマンドレル20が膨張すると、圧力により複合材料12が内側の壁領域16にしっかりと押し当てられ、複合材料12と壁領域16との間に結果として生じる摩擦により、複合材料12が内部の半径領域への移動と角領域18にわたるブリッジングとを阻止し、これにより、角領域18における繊維密度を低減させる。たとえば、図1においては、程度の差はあれ、型10の角領域18にわたってブリッジングする複合材料12のいくつかの層またはプライ24が示される。角領域における繊維密度が結果として低減することにより、完成品の構造上の完全性が損なわれるおそれがある。
【0023】
この発明の装置および方法の実施例が示される図2には、長方形の断面を有する複合部品を製造するための、切子面の中空または管状の膨張式の圧縮工具26が示される。膨張式の圧縮工具26は、たとえば、切子面の中空または管状の複合部品の型10と組合せて用いることができる。図2に図示のとおり、型10は、上部構成要素28および下部構成要素30を有し得る。しかしながら、他の実施例においては、型10は、一体の型、三体の型などの好適ないくつの数の構成要素を有していてもよい。加えて、図2に示される型10および膨張式の圧縮工具26は長方形の断面を有する複合部品を形成するよう構成されるが、他の実施例においては、型10および膨張式の圧縮工具26は、少なくとも1つの囲まれた断面、すなわち、連続しているか、閉じられているかまたは切れ目のない外周を有する少なくとも1つの断面、たとえば、正方形、三角形、台形、偏菱形、円形または楕円形の断面などを含むいかなる大きさおよび形状の複合部品をも形成するよう構成され得る。
【0024】
図3は、台形の断面32を有する複合部品、たとえば、「帽子型」の断面を有する航空機の縦通材を製造するための型10および膨張式の圧縮工具26の切断斜視図を示す。図3に図示のとおり、複合部品の型10は、比較的平坦な内壁領域16と内半径または内側の角領域18との組合せを有し得、これにより、型10のすべての断面が囲まれている場合に、囲まれた断面32が規定されるかまたは(図2に図示のとおり)空洞34が規定される。膨張式の圧縮工具26は、囲まれた断面32または空洞34に挿入されて、硬化サイクル中に型の内面14または以前に説明したプライ面22に対して複合材料12を圧縮し得る。
【0025】
膨張式の圧縮工具26はさらに、封止されたまたは流体密封のチャンバ36を形成し得る。たとえば、圧縮工具26は、球体もしくは角錐などの囲まれた中空の形状、または、図2に図示のとおり、囲まれた端部38を有する概ね管状の形状を有し得る。加えて、圧縮工具26は、図2に示される流体入口40または口を含み得、これは、圧縮工具26への加圧流体の投入を容易にするための一方向バルブ(図示せず)を任意に含み得る。たとえば、空気または別の気体が、大気または周囲の圧力よりも高い圧力で圧縮工具26に注
入され得る。
【0026】
図3に図示のとおり、繊維強化合成樹脂基材などの複合材料12は、型10の内面14に配置されて硬化され得る。複合材料12は、複数の繊維プライ、たとえば、乾燥した複合織物、または、樹脂が含浸されている「予備含浸された」織物を含み得る。繊維プライが型10上に配置されるときに初めに乾燥している場合、プライが型の内面14上に配置された後、樹脂注入システムを用いて複合材料12に樹脂を注入することができる。たとえば、2004年9月29日に出願され「複合部品を製造するための装置、システムおよび方法(Apparatuses, Systems, and Methods for Manufacturing Composite Parts)」と題され、その開示の全体が引用によりこの明細書中に援用されている米国特許出願連続番号第10/953,670号において開示されている樹脂注入システムを用いて樹脂を複合材料12に注入することができる。
【0027】
さらに、圧縮工具26は、エラストマーなどの弾性材料から作製可能であり、このため、圧縮工具26は柔軟で弾力性があるので形状を変えることができる。こうして、膨張式の圧縮工具26は、加圧流体が圧縮工具26に注入されるとより大きく拡張し、加圧流体が排出されると、すなわち、圧縮工具26内の流体の圧力が大気圧に戻ると、実質的に元の大きさおよび形状に戻り得る。
【0028】
さまざまな実施例においては、圧縮工具26は、圧力を受けて拡張し曲がり、撓みの範囲にわたって弾力的に挙動し得るいかなる好適な材料からも形成可能であり、当該材料には金属板、たとえばステンレス鋼またはアルミニウム等、熱可塑性材料が含まれ、これは、甚大な費用をかけることなく圧縮工具26を1回の使用の後に処分することができるように容易かつ比較的安価に製造することができる。
【0029】
代替的な実施例においては、膨張式の圧縮工具26の内壁42は金属などの剛性材料から形成されてもよく、膨張式の圧縮工具26の外壁44は柔軟な材料または弾性のある材料から形成されてもよい。この代替的な実施例においては、加圧流体は内壁42と外壁44との間に注入することができ、内壁42は、圧縮工具26の膨張中に外壁44が広がる際に均一な形状を維持することができる。
【0030】
圧縮工具26の元の形状または膨張していない形状は、概ね、複合部品の型10の内面14の形状に適合し得る。しかしながら、圧縮工具26は、膨張していない圧縮工具26の外面48と複合部品の型10の内面14との間に空隙または隙間46が存在するような大きさにすることができる。隙間46は、型10上に配置されるべき未硬化の複合材料12の厚さにほぼ等しい寸法または幅を有し得る。
【0031】
たとえば、三角形の断面を有する複合部品を製造するための膨張式の圧縮工具26を示す図4に図示のとおり、圧縮工具26が有し得る膨張前の外寸は、硬化前に型10上に配置される際の付加的な未硬化の複合バルク52の内面50に厳密に対応している(複合材料12が硬化プロセス中に縮むという理由から、硬化または固化された複合材料54と付加的な未硬化の複合バルク52との組合された厚さを埋めるバルクまたは未硬化の複合材料)。好ましい実施例においては、膨張式の圧縮工具26の未膨張の外寸は、付加的な未硬化の複合バルク52の内面50よりもわずかに小さくすることができ、このため、膨張式の圧縮工具26の未膨張の外面48が、付加的な未硬化の複合バルク52の内面50とのクリアランスフィット(遊合)を有する。
【0032】
同様に、圧縮工具26は、硬化後の固化した複合材料54または完成した複合部品の内面56に密に対応する膨張した外寸を有し得る。このため、硬化または固化プロセス中に、膨張式の圧縮工具26は、図4に図示のとおり、複合材料12の未固化の寸法Dbulk
ら固化した寸法Dconまで拡張するはずである。
【0033】
図3を参照すると、膨張式の圧縮工具26の好ましい実施例は、たとえば、型の壁領域16および角領域18にそれぞれ対応する2つ以上の壁部分58および2つ以上の角部分60を含み得る。加えて、圧縮工具26の壁部分58は、図3に図示のとおり、工具の壁部分58の外面50が型の壁領域16に対して概して凹み得るように輪郭を描き得るかまたは湾曲し得る。すなわち、工具の壁部分58と型の壁領域16との間の隙間46は、図3に図示のとおり、型10の角領域18からの距離が広がるにつれて大きくなり得る。
【0034】
こうして、未膨張の圧縮工具26の外面48と型10の内面14との間の最小の隙間62は、工具の角部分60または型の角領域18のほぼ中心点に位置し、最大の隙間64は、工具の壁部分58および型の壁領域16に沿ったほぼ中間点に位置し得る。当該中間点は、たとえば、圧縮工具の2つの角部分60の間または型の2つの角領域16の間のほぼ中間にあってもよい。
【0035】
動作時に、工具の壁部分58の曲線または湾曲の結果、圧縮工具26が初めに膨張すると、加圧流体68(図4に図示)によって工具の壁部分58の内面66に加えられる法線力の成分が、工具の壁部分58を通り、工具の角部分60に向かって横方向に伝達され得る。こうして、工具の壁部分58が型の壁領域16上に配置された複合材料12に接触する前に、工具の角部分60を圧縮工具26の最初の膨張中に型の角領域18の方に押し進めることができる。結果として、工具の外面48と型の内面14上に配置された複合材料12との間の摩擦を、最初の膨張中に実質的に減らすかまたは最小限にすることができ、これにより、型の角領域18上に配置された複合材料12を工具の角部分60と型の角領域18との間においてしっかりと圧縮することが可能となる。
【0036】
膨張が続くと、工具の壁部分58は最終的に比較的平坦になり、図4に図示のとおり、型の壁領域16上に配置された複合材料12を圧縮する。膨張式の圧縮工具26を実現するこのプロセスまたは方法は、型の角領域18における複合材料12のブリッジングまたは皺を実質的に減らすことができ、結果として、硬化サイクル中に複合材料12全体にわたる繊維密度が比較的均一になり、完成した複合部品における硬化した複合材料12の特性が向上し得る。
【0037】
複合材料12が硬化した後、結果として、固化した複合材料54の固化後の寸法Dconまたはプロファイルが得られ、加圧流体68を大気に放出するかまたは圧縮工具26から流体を部分的に排出することによって圧縮工具26を収縮させることができる。こうして、型10から圧縮工具26を容易に取外すことができる。
【0038】
長方形、台形または三角形の断面を有する膨張式の圧縮工具26をそれぞれ図2、図3および図4に示しているが、他の多くの形状、たとえば、少なくとも1つの正方形、偏菱形、円形または楕円形の断面を有する形状を実現することができる。さらに、膨張式の圧縮工具26はより複雑な形状を実現することができ、この場合、1つ以上の表面は平坦でないか、滑らかでないかまたは真直ぐではなく、たとえば、面取りされた表面または部分的に面取りされた表面、湾曲した表面、たとえば円形もしくは楕円形の表面、角度の付いた表面または他の起伏のある表面などを含む。
【0039】
この発明の多くの特徴および利点が詳細な明細書から明らかであり、このため、これは、添付の特許請求の範囲により、この発明の真の精神および範囲内におけるこの発明のこのようなすべての特徴および利点を包含するよう意図されたものである。さらに、多数の変更例および変形例が当業者には容易に想到され得るので、図示および記載されたその構造および動作に対しこの発明を限定することは所望されない。このため、好適な変更例お
よび同等例はすべて、この発明の範囲内で用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】先行技術の複合製造工具の角領域付近の複合材料のブリッジングを示す断面端面図である。
【図2】長方形の断面を有する複合部品を製造するための、この発明の好ましい実施例に従った膨張式の圧縮工具を示す斜視図である。
【図3】台形の断面を有する複合部品を製造するための膨張式の圧縮工具を示す切断斜視図である。
【図4】三角形の断面を有する複合部品を製造するための膨張式の圧縮工具を示す断面端面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの囲まれた断面を有する複合要素を固化するための拡張式の圧縮工具であって、
前記工具の拡張に応じて、複合材料を圧縮して型の内側の角領域に押込むよう構成された角部分と、
前記工具の拡張に応じて、前記型の内壁に対して前記複合材料を圧縮するよう構成された壁部分とを含み、前記工具は、前記工具の拡張に応じて、前記壁部分の少なくとも一部が前記複合材料を圧縮し始める前に前記角部分が前記複合材料を圧縮し始めるように構成される、拡張式の圧縮工具。
【請求項2】
前記複合要素はさらに、概ね管状の切子面の中空の形状を含む、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項3】
前記工具は、前記工具の外側の未拡張の断面形状が、前記複合要素の内側の未硬化の断面形状との隙間嵌めを有し、前記工具の外側の拡張した断面形状が前記複合要素の内側の硬化した断面形状に適合するように構成される、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項4】
前記工具は、前記工具の拡張に応じて、前記壁部分が前記複合材料に接触する前に前記角部分が前記複合材料に接触するように構成される、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項5】
前記工具は、前記工具が拡張していない場合、前記角部分が凸状であり、前記壁部分が凹状であるため、前記工具の拡張に応じて、前記壁部分が前記型の内壁に対して前記複合材料を圧縮する前に、前記壁部分が、前記角部分を前記型の内側の角領域に押込む傾向のある力を前記角部分に伝達するように構成される、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項6】
前記工具はさらに、前記工具の拡張に応じて、前記角部分がまず前記複合材料を圧縮して前記型の前記内側の角領域に押込み、次いで、前記壁部分が前記型の内壁に対して前記複合材料を圧縮して、前記複合材料を前記1つの囲まれた断面の周りで実質的に均一に固化するように構成される、請求項5に記載の圧縮工具。
【請求項7】
前記工具は弾性材料から形成される、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項8】
前記弾性材料は囲まれたチャンバを規定し、前記囲まれたチャンバは、周囲圧力よりも高い流体圧力下の流体を前記チャンバに注入して前記工具を膨張させることができるように実質的に封止される、請求項7に記載の圧縮工具。
【請求項9】
前記チャンバへの加圧流体の注入を容易にするよう前記チャンバと流体連通している流体入口をさらに含む、請求項8に記載の圧縮工具。
【請求項10】
前記複合材料は複数の積み重ねられた層を含み、前記工具は、硬化プロセス中に前記複合材料を固化するよう前記層をともに圧縮するよう構成される、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項11】
前記複合材料は樹脂基材および繊維強化材を含む、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項12】
前記工具は、未硬化の状態である間に前記複合材料を圧縮し、硬化プロセス中に前記複合材料を固めるよう構成される、請求項1に記載の圧縮工具。
【請求項13】
前記複合要素はさらに、台形の断面を有する航空機胴体の縦通材を含む、請求項1に記
載の圧縮工具。
【請求項14】
少なくとも1つの囲まれた断面を有する複合要素を固化するための拡張式の圧縮工具であって、
前記工具の拡張に応じて、複合材料を圧縮して型の内側の角領域に押込むための角手段と、
前記工具の拡張に応じて、前記型の内壁に対して前記複合材料を圧縮するための壁手段とを含み、前記工具は、前記工具の拡張に応じて、前記壁手段が前記複合材料を圧縮し始める前に前記角手段が前記複合材料を圧縮し始めるように構成される、拡張式の圧縮工具。
【請求項15】
前記圧縮工具は、前記圧縮工具の外側の未拡張の断面形状が前記複合要素の内側の未硬化の断面形状との隙間嵌めを有し、前記圧縮工具の外側の拡張した断面形状が前記複合要素の内側の硬化した断面形状に適合するように構成される、請求項14に記載の圧縮工具。
【請求項16】
前記圧縮工具は、前記圧縮工具の拡張に応じて、前記壁手段が前記複合材料に接触する前に前記角手段が前記複合材料に接触するように構成される、請求項14に記載の圧縮工具。
【請求項17】
前記圧縮工具は、前記圧縮工具が拡張していない場合、前記角手段が凸状であり、前記壁手段が凹状であるため、前記圧縮工具の拡張に応じて、前記壁手段が前記型の内壁に対して前記複合材料を圧縮する前に、前記壁手段が、前記型の前記内側の角領域に前記角手段を押込む傾向のある力を前記角手段に加えるように構成される、請求項14に記載の圧縮工具。
【請求項18】
前記圧縮工具はさらに、前記圧縮工具の拡張に応じて、前記角手段がまず前記複合材料を圧縮して前記型の内側の角領域に押込み、次いで、前記壁手段が前記型の内壁に対して前記複合材料を圧縮して、前記複合材料を前記1つの囲まれた断面の周りで実質的に均一に固化するように構成される、請求項14に記載の圧縮工具。
【請求項19】
前記圧縮工具は、囲まれたチャンバを規定する弾性材料から形成され、前記囲まれたチャンバは、周囲圧力よりも高い流体圧力下の流体を前記チャンバに注入して前記圧縮工具を膨張させることができるように実質的に封止される、請求項14に記載の圧縮工具。
【請求項20】
前記複合要素はさらに、台形の断面を有する航空機胴体の縦通材を含む、請求項14に記載の圧縮工具。
【請求項21】
少なくとも1つの囲まれた断面を有する複合要素を固化する方法であって、
圧縮工具を拡張させるステップと、
まず、複合材料を圧縮して型の内側の角領域に押込むステップと、
次に、前記複合材料が前記1つの囲まれた断面の周りで実質的に均一に固化されるように前記型の内壁に対して前記複合材料を圧縮するステップとを含む、方法。
【請求項22】
前記圧縮工具は、前記工具の外側の未拡張の断面形状が前記複合要素の内側の未硬化の断面形状との隙間嵌めを有し、前記工具の外側の拡張した断面形状が前記複合要素の内側の硬化した断面形状に適合するように構成される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記圧縮工具は、前記工具が拡張していない場合、前記角部分が凸状であり、前記壁部分が凹状であるため、前記工具の拡張に応じて、前記壁部分が前記型の内壁に対して前記
複合材料を圧縮する前に、前記壁部分が、前記型の内側の角に前記角部分を押込む傾向のある力を前記角部分に加えるように構成される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
周囲圧力よりも高い流体圧力下の流体を前記圧縮工具に注入して前記圧縮工具を膨張させるステップをさらに含み、前記工具は、実質的に封止された囲まれたチャンバを規定する弾性材料から形成される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
硬化プロセス中に前記複合材料を固定するステップをさらに含み、前記圧縮するステップはさらに、未硬化の状態である間に前記複合材料を圧縮するステップを含む、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−513391(P2009−513391A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537855(P2008−537855)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/041371
【国際公開番号】WO2007/120187
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】