説明

記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録装置

【課題】 本発明の実施形態によれば、高周波磁界の発生効率が高い記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録装置を提供することができる。
【解決手段】 第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた第1の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の電極との間に設けられた第2の磁性層と、前記第2の磁性層と前記第2の電極との間に設けられた第1の中間層と、前記第1の中間層と前記第2の電極との間に設けられた第3の磁性層と、前記第2の電極の前記第3の磁性層が設けられた側とは反対側に設けられた主磁極と、を備え、前記第1の磁性層の飽和磁化と前記第1の磁性層の側面積との積は、前記第3の磁性層の飽和磁化と前記第3の磁性層の側面積との積よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波磁界アシスト記録ヘッド(記録ヘッドともいう)を用いたアシスト記録は、高周波磁界及び記録磁界を高い磁気異方性を有する磁気記録媒体に重畳させることで、磁気記録媒体への記録を実現する技術である。
【0003】
高周波磁界は、主に発振層及びスピン注入層から構成されるスピントルク発振素子(以下、STO(Spin Torque Oscillator)と称する。)へ通電することで発生する。これは、発振層の磁化が発振するからである。記録磁界は主磁極(magnetic pole)から発生する。
【0004】
高周波磁界及び記録磁界を効率的に重畳させるためには、STOと主磁極とを近づけて設けることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−277586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、STOと主磁極とを近づけて設けると、STOを構成する発振層から発生する高周波磁界が主磁極にも印加される。このため、主磁極の磁化がふらつき、エネルギー損失が生じる。このエネルギー損失のために、発振層の高周波磁界の発生効率が低減してしまう。
【0007】
従って、高周波磁界を発生させるためには、STOへ通電する駆動電流を増加させることが好ましい。しかしながら、駆動電流を増加させるとジュール発熱によりSTOの温度が上昇してしまう。このために、STOを構成する発振層の高周波磁界の発生効率が更に低減してしまう。
【0008】
そこで本発明の実施形態は、高周波磁界の発生効率が高い記録ヘッド、磁気ヘッドアセンブリ、及び磁気記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る記録ヘッドは、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた第1の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の電極との間に設けられた第2の磁性層と、前記第2の磁性層と前記第2の電極との間に設けられた第1の中間層と、前記第1の中間層と前記第2の電極との間に設けられた第3の磁性層と、前記第2の電極の前記第3の磁性層が設けられた側とは反対側に設けられた主磁極と、を備え、前記第1の磁性層の飽和磁化と前記第1の磁性層の側面積との積は、前記第3の磁性層の飽和磁化と前記第3の磁性層の側面積との積よりも大きいことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る記録ヘッドを示す図。
【図2】第1の実施形態を説明するための図。
【図3】第1の実施形態を説明するための図。
【図4】第1の実施形態を説明するための図。
【図5】第1の実施形態を説明するための図。
【図6】第1の実施例を説明するための図。
【図7】第1の実施例を説明するための図。
【図8】第1の比較例を説明するための図。
【図9】第1の比較例を説明するための図。
【図10】第2の実施例を説明するための図。
【図11】第2の実施例を説明するための図。
【図12】第1の実施形態に係る変形例を示す図。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る記録ヘッドの全体図を示す図。
【図14】第3の実施形態に係る磁気記録装置を示す図。
【図15】第3の実施形態に係る磁気記録装置を示す図。
【図16】第3の実施形態に係る磁気記録装置を示す図。
【図17】第3の実施形態に係る磁気記録装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。同じ符号が付されているものは同様のものを示す。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
(第1の実施形態)
【0012】
図1は、高周波磁界アシスト記録ヘッド(以下、記録ヘッドと称する。)10の基本構成を示す図である。
【0013】
記録ヘッド10は、主磁極20と、主磁極20に隣接して設けられたSTO30と、STO30の積層方向に対して通電する一対の電極40、50とを備えている。
【0014】
ここで、図1に示すようにx軸、y軸、及びz軸はそれぞれ直交している。x軸方向は積層方向を示し、y軸方向及びz軸方向は積層方向に対して垂直な方向を示す。
【0015】
STO30は、第1の発振層(第1の磁性層)60、第2の中間層70、スピン注入層(第2の磁性層)280、第1の中間層90、及び第2の発振層(第3の磁性層)100からなる。
【0016】
また、第1の発振層60の飽和磁化と第1の発振層60の側面積の積は、第2の発振層100の飽和磁化と第2の発振層100の側面積の積よりも大きい。飽和磁化とは、磁性体が持つ最大の磁荷の量を示す。側面積とは、STO30の積層方向に対して垂直な方向を取り囲む面(側面)の面積を示す。
【0017】
図2は、第1の発振層60及び第2の発振層100の飽和磁化と側面積との関係を説明する図である。図2は、説明を分かりやすくするために、y軸方向からSTO30を眺めた図を示している。
【0018】
図2に示すように、z軸方向において第1の発振層60の磁化の向きと第2の発振層100の磁化の向きは互いに反平行になっている。第1の発振層60の磁化と第2の発振層100の磁化が相互作用しているからである。スピン注入層280の磁化の向きは積層方向に対して平行になっている。
【0019】
第1の発振層60及び第2の発振層100の側面にはそれぞれ、正・負の異なる磁荷が生じている。これを‘+’と‘−’の記号で示している。第1の発振層60と同じ側の側面において、第2の発振層100は第1の発振層60と異なる磁荷を帯びている。
【0020】
STO30が主磁極20へ発生する高周波磁界は、第1の発振層60の磁荷が主磁極20へ発生する高周波磁界と第2の発振層100の磁荷が主磁極20へ発生する高周波磁界の合計であり、このSTO30が主磁極20へ発生する高周波磁界が、主磁極20の磁化に影響を及ぼす。STO30では、第2の発振層100から主磁極20への距離は、第1の発振層60から主磁極20への距離より小さい。このため、第2の発振層100の単位磁荷が主磁極20へ発生する高周波磁界は、第1の発振層60の単位磁荷が主磁極20へ発生する高周波磁界より、大きくなる。すなわち、第2の発振層100の方が、第1の発振層60より、効率的に主磁極20へ高周波磁界を発生することができる。一方、第2の発振層100の磁荷の合計は、第1の発振層60の磁荷の合計よりも小さい。このため、第1の発振層60の磁荷の合計が主磁極20へ発生する高周波磁界と、第2の発振層100の磁荷の合計が主磁極20へ発生する高周波磁界は、符号が逆で同程度となり、第1の発振層60及び第2の発振層100のそれぞれから発生する高周波磁界強度はほぼ相殺される。このため、STO30が主磁極20へ発生する高周波磁界は、発振層が1層のみである場合に比べ、大きく減少することになる。よって、主磁極20の磁化のふらつきを低減することができるので、安定した高周波磁界発振が可能となる。
【0021】
さらに、STO30が磁気記録媒体へ発生する磁界は、第1の発振層60と磁荷が磁気記録媒体に発生する磁界と、第2の発振層100が磁気記録媒体へ発生する磁界の合計となる。第1の発振層60から磁気記録媒体への距離と、第2の発振層100から磁気記録媒体への距離は、ほぼ同等である。このため、第1の発振層60の単位磁荷が磁気記録媒体へ発生する磁界は、第2の発振層100の単位磁荷が磁気記録媒体へ発生する磁界は、ほぼ同等となる。磁気記録媒体に対して第1の発振層60の磁荷の量と第2の発振層100の磁荷の量が異なるために、第1の発振層60及び第2の発振層100から発生する高周波磁界の強度が異なる。よって、第1の発振層60及び第2の発振層100のそれぞれから発生する高周波磁界の強度が相殺されないので、磁気記録媒体に対して効率よく高周波磁界を発生することができる。なお、第1の発振層60の側面積が第2の発振層100の側面積よりも大きい場合には、第1の発振層60及び第2の発振層100に用いる材料を調整する。すなわち、第1の発振層60の飽和磁化が第2の発振層100の飽和磁化よりも小さな材料を用いる。
【0022】
なお、第2の中間層70はなくてもよい。このことにより、スピン注入層280の磁化と第1の発振層60の磁化とが交換結合することになる。その結果、外部磁界、反磁界、および、交換結合磁界の合計で表される有効磁界が、第1の発振層60のx軸方向にて増加する。発振周波数は、第1の発振層60の有効磁界のx軸方向成分に比例する。このため、第2の中間層70を除くことにより、主磁極20からの磁界が同一であっても、より高い周波数で第1の発振層60を発振させることができる。その結果、共鳴周波数が高い媒体、すなわち、異方性エネルギーが高い媒体に記録が可能となり、さらなる高記録密度が可能となる。
【0023】
第1の発振層60には、軟磁性体材料又は垂直磁気異方性を有する材料を用いることができる。
【0024】
軟磁性体材料としては、例えばFeCoAl、FeCo、FeCoNi、FeCoSi、NiFe、FeN、又はCoNiFe等のFe又はCoを1つ以上含む合金を用いることができる。軟磁性体材料としては、他にも例えばCoMnSi、CoMnSi、CoFeAlSi、CoMnAl、CoMnGaSn、CoMnGaGe、CoCrFeSi、又はCoFeCrAl等のホイッスラー合金を用いることができる。軟磁性体材料の磁歪を調整するために、Nb、B、Ge、又はNi等を添加してもよい。また、これらの材料は、積層方向にfcc(face centered cubic)の<111>方向又はbcc(body centered cubic)の<110>方向の結晶配向性を有することが望ましい。このような積層方向により、軟磁性特性を維持したまま、スピントルク特性を改善し、安定な発振が可能となる。
【0025】
垂直磁気異方性を有する材料としては、例えばCo又はFeの何れかとNi、Pt、Pd、Tb、又はSmから選択される少なくとも一つの元素との合金を用いることができる。垂直磁気異方性を有する材料としては、他にも例えばCo/Ni、Co/Pt、又はCo/Pd等の人工格子、CoPt又はCoCrPt等のCoPt系の材料、TbFeCo又はCoSm等のRE−TM合金系の材料を用いることができる。これらの材料は、積層方向に対して平行な方向に磁化容易軸を有する一軸異方性の材料である。また、これらの材料は、積層方向にfcc(face centered cubic)の<111>方向又はhcp(hexagonal close packed)の<0001>方向の結晶配向性を有する。
【0026】
人工格子とは、0.1nm以上5nm以下の膜厚で2層以上4層以下繰り返して積層したものを示す。例えば、Co/Niと表記されている場合には、0.1nm以上5nm以下のCo層、0.1nm以上5nm以下のNi層、0.1nm以上5nm以下のCo層、0.1nm以上5nm以下のNi層と順に繰り返して積層したものを示す。なお、積層順は、Ni層が先であってもよい。
【0027】
REとは、希土類金属である。REは、例えばGd、Dy、Ho、Er、又はTmを示す。TMとは、遷移金属である。TMは、例えばFe、Co、又はNiを示す。RE−TM合金系とは、具体的には、GdFe、DyFe、HoFe、ErFe、TmFe、GdCo(xは2〜3、yは2〜4)のいずれかである。
【0028】
第1の発振層60は、軟磁性体材料の層と垂直磁気異方性を有する材料の層とを組み合わせて積層してもよい。このようにすることで、第1の発振層60の垂直磁気異方性を調整することができる。その結果、主磁極20からの磁界に応じた第1の発振層60の垂直磁気異方性を調整できるので、STO30へ通電する駆動電流を最小に抑え、安定した高周波磁界発振が可能となる。
【0029】
第1の発振層60は、主磁極20から磁界が印加され、駆動電流が通電されることで発振する。その結果、安定した高周波磁界を磁気記録媒体に印加することができるので、良好な高周波磁界アシスト記録ができる。また、第1の発振層60の保磁力は、主磁極20から印加される磁界よりも小さいことが好ましい。このようにすることで、記録時の極性によらず、安定した高周波磁界発振ができる。その結果、高記録ビットエラーレートを実現することができる。
【0030】
スピン注入層280には、垂直磁気異方性を有する材料を用いることができる。
【0031】
垂直磁気異方性を有する材料としては、例えばFe又はCoの何れかとNi、Pt、Pd、Tb、及びSmから選択される少なくとも一つの元素との合金を用いることができる。垂直磁気異方性を有する材料としては、他にも例えばCo/Ni、Co/Pt、又はCo/Pd等の人工格子、CoPt又はCoCrPt等のCoPt系の材料、TbFeCo又はCoSm等のRE−TM合金系の材料を用いることができる。これらの材料は、積層方向に対して平行な方向に磁化容易軸を有する一軸異方性の材料である。また、これらの材料は、積層方向にfcc(face centered cubic)の<111>方向又はhcp(hexagonal close packed)の<0001>方向の結晶配向性を有する。
【0032】
このような材料を用いると、スピン注入層280の磁化は、STO30に通電した際に発生する第1の発振層60からのスピントルクの影響を受けない。よって、スピン注入層280の磁化を積層方向に対して平行な方向に安定して固定することができる。スピン注入層280の磁化が安定しているために、スピン注入層280での駆動電流のエネルギー損失を低減できる。その結果、小さな駆動電流で安定した高周波磁界発振が可能となる。
【0033】
また、スピン注入層280の保磁力は、主磁極20から印加される磁界よりも小さいことが好ましい。このようにすることで、スピン注入層280の磁化方向は、主磁極20から印加される磁界の向きによらず、主磁極20から印加される磁界と常に平行となり、記録時の極性によらず、安定した高周波磁界発振ができる。スピン注入層280の保磁力は、第1の発振層60及び第2の発振層100の保磁力よりも大きい。
【0034】
スピン注入層280は、垂直磁気異方性を有する材料の層と第1の発振層60に用いる軟磁性体材料の層とを組み合わせて積層してもよい。このようにすることで、スピン注入層280の飽和磁化、異方性磁界、及びスピントルク効率を調整することができる。また、軟磁性体材料の層が第2の中間層70側に設けられている場合には、スピントルク効率を上げることができるので、STO30へ通電する駆動電流を最小に抑えることができる。また、主磁極20の磁界反転時のスピン注入層280の磁化反転の遅れを低減することが可能となる。その結果、記録ビットエラーレートの低減を実現することができる。
【0035】
第2の発振層100には、第1の発振層60に用いる材料と同等の軟磁性体材料を用いることができる。
【0036】
軟磁性体材料としては、例えばFeCoAl、FeCo、FeCoNi、FeCoSi、NiFe、FeN、又はCoNiFe等のFe又はCoを1つ以上含む合金を用いることができる。また、これらの材料は、積層方向にfcc(face centered cubic)の<111>方向又はbcc(body centered cubic)の<110>方向の結晶配向性を有することが望ましい。このような積層方向により、軟磁性特性を維持したまま、スピントルク特性を改善し、安定な発振が可能となる。
【0037】
第2の発振層100に軟磁性体材料を用いることで、第2の発振層100の磁化は第1の発振層60から発生した高周波磁界によって容易に磁化される。つまり、第1の発振層60の磁化の向きが、第2の発振層100の磁化の向きと反平行の状態を維持しつつ、第1の発振層60及び第2の発振層100が同時に高周波磁界を発生する。この結果、第1の発振層60の磁化が主磁極20に対して作る高周波磁界と、第2の発振層100の磁化が主磁極20に対して作る高周波磁界とが互いに打ち消しあう。つまり、第2の発振層100が無い場合として比較して、主磁極20内での高周波磁界の強度は大きく減少する。従って、STO30から発生する高周波磁界の影響を主磁極20が受けにくくなるので、主磁極20でのエネルギー損失を低減できる。その結果、小さな駆動電流で安定した高周波磁界発振が可能となる。
【0038】
また、第2の発振層100の保磁力は、主磁極20から印加される磁界よりも小さいことが好ましい。このようにすることで、記録時の極性によらず、安定した高周波磁界発振ができる。
【0039】
スピントルクには、正のスピントルクと負のスピントルクとがある。正のスピントルクは、磁性体のマジョリティスピン電子を伝導電子として用いるときに生じる。マジョリティスピン電子とは、磁化と同一方向を向いた角運動量のスピン電子を言う。この場合、透過の正のスピントルクの向きは磁性体の磁化と同一方向となり、反射の正のスピントルクの向きは磁性体の磁化の逆方向となる。また、負のスピントルクは磁性体のマイノリティスピン電子を伝導電子として用いたときに生じる。マイノリティスピン電子とは、磁化とは逆方向を向いた角運動量のスピン電子をいう。この場合、透過の負のスピントルクの向きは磁性体の磁化の向きと逆方向となり、反射の負のスピントルクの向きは磁性体の磁化と同一方向となる。なお、また、一般的に断りがなければ、スピントルクとは正のスピントルクのことを指す。
【0040】
また、中間層材料にCr、Ru等を用いることでマイノリティスピン電子を伝導電子として用いることができる。
【0041】
図3は、STO30の動作原理を説明する図である。
【0042】
図3(A)は、駆動電流が流れていない状態を示す。図3(B)は、駆動電流を流した状態を示す。なお、駆動電流ではなく伝導電子で説明する。伝導電子は駆動電流の流れる向きに対して逆向きである。
【0043】
図3(A)に示すように、伝導電子が流れていない状態では、第1の発振層60、スピン注入層280、及び第2の発振層100の磁化は主磁極20からの磁界の向きと平行になっている。これは、第1の発振層60、スピン注入層280、及び第2の発振層100の保磁力が主磁極20からの磁界よりも小さいからである。
【0044】
Cu等のスピン拡散長が長い材料を第2の中間層70に用いると、図3(B)に示すように、伝導電子が流れている状態では、第1の発振層60は、スピン注入層280で反射した伝導電子のスピントルク61を受ける。このとき、スピントルク61は、スピン注入層280の磁化の向きと逆になる。これは、第1の発振層60に対しスピン注入層280から反射の正のスピントルクが生じているからである。従って、主磁極20からの磁界と、スピントルク61とが逆向きなので第1の発振層60は発振する。
【0045】
Ta等のスピン拡散長が短い材料を第1の中間層60に用い、膜厚を厚くすることで、スピン注入層280の磁化の情報は、第1の中間層90中で失われ、第2の発振層100はスピントルクを受けない。従って、第2の発振層100の磁化は、第1の発振層60で発生した高周波磁磁界を受けて発振する。この際、第2の発振層100の磁化と、第1の発振層60の磁化は、略反平行を保ちつつ発振する。
【0046】
図4は、第1の中間層90にてマイノリティスピン電子を伝導電子として用いた場合のSTO30の動作原理を説明する図である。かかる場合には、第2の発振層100とスピン注入層280との間に負のスピントルクが生じる。
【0047】
図4(A)に示すように、伝導電子が流れていない状態では、第1の発振層60、スピン注入層280、及び第2の発振層100の磁化は主磁極20からの磁界の向きと平行になっている。これは、第1の発振層60、スピン注入層280、及び第2の発振層100の保磁力が主磁極20からの磁界よりも小さいからである。
【0048】
Cu等のスピン拡散長が長い材料を第2の中間層70に用いると、図4(B)に示すように、伝導電子が流れている状態では、第1の発振層60は、スピン注入層280で反射した伝導電子のスピントルク62を受ける。このとき、スピントルク62は、スピン注入層280の磁化の向きと逆になる。これは、第1の発振層60に対しスピン注入層280から反射の正のスピントルクが生じているからである。従って、主磁極20からの磁界と、スピントルク62と逆向きなので第1の発振層60は発振する。
【0049】
Cr、Ru等のマイノリティスピン電子が伝導電子となる材料を第1の中間層60に用いると、第2の発振層100は、スピン注入層280の磁化の情報を透過した伝導電子のスピントルク102を受ける。このとき、スピントルク102は、スピン注入層280の磁化の向きと逆になる。これは、第2の発振層100に対しスピン注入層280から透過の負のスピントルクが生じているからである。従って、主磁極20からの磁界と、スピントルク102と逆向きなので第2の発振層100は発振する。この際、第1の発振層60で発生した高周波磁界を受けるため、第2の発振層100の磁化と、第1の発振層60の磁化は、略反平行を保ちつつ発振する。
【0050】
このように、第1の中間層90においてマイノリティスピン電子を伝導電子として用いることで、第2の発振層100は、第1の発振層60からの高周波磁界とスピン注入層280からのスピントルク102の2つの効果により高効率で発振させることができる。従って、STO30に通電する駆動電流を小さくすることができるので、安定した高周波磁界発振ができる。
【0051】
第1の中間層90には、スピン拡散長が短い材料を用いることができる。
【0052】
スピン拡散長が短い材料としては、例えばRu、Pt、Pd、又はTaを用いることができる。これらの材料を組み合わせて用いても良い。第1の中間層90に、スピン拡散長が短い材料を用いることで、第1の中間層90が薄い場合にも、スピン注入層280からの正のスピントルクの影響を抑制することが可能となる。よって、第1の中間層90の膜厚を薄くすることができので、STO30の大きさを小さくすることができる。したがって、STO30の加工時間を短くすることができるので、STO30の形状のバラツキを減らすことができる。
【0053】
また、第2の発振層100に負のスピントルクを利用させて発振させる場合には、第1の発振層60に用いる材料と同等の磁性体のマジョリティスピン電子が伝導電子である材料を第2の発振層100に用い、Cr又はRuのような負のスピントルクを効率よく伝達できる材料を第1の中間層90に用いることが好ましい。なお、Ruのスピン拡散長は短いので、Ruの膜厚は十分薄くする必要がある。この結果、STO30に通電する駆動電流を小さくすることができるので、安定した高周波磁界発振をすることができる。
【0054】
磁性体のマジョリティスピン電子が伝導電子である材料としては、例えばFeCoAl、FeCo、FeCoNi、FeCoSi、NiFe、FeN、又はCoNiFe等のFe又はCoを1つ以上含む合金を用いることができる。また、これらの材料は、積層方向にfcc(face centered cubic)の<111>方向又はbcc(body centered cubic)の<110>方向の結晶配向性を有することが望ましい。このような積層方向により、軟磁性特性を維持したまま、スピントルク特性を改善し、安定な発振が可能となる。
【0055】
さらにまた、第2の発振層100に負のスピントルクを利用させて発振させる場合には、FeNのような磁性体のマイノリティスピン電子が伝導電子である材料を第2の発振層100に用い、Cu、Ag、又はAuのような正のスピントルクを効率よく伝達できる材料を第1の中間層90に用いることが好ましい。この結果、STO30に通電する駆動電流を小さくすることができるので、安定した高周波磁界発振をすることができる。
【0056】
磁性体のマイノリティスピン電子が伝導電子である材料としては、例えばFe4Nを含む合金を用いることができる。また、これらの材料は、積層方向にfcc(face centered cubic)の<111>方向又はbcc(body centered cubic)の<110>方向の結晶配向性を有することが望ましい。このような積層方向により、軟磁性特性を維持したまま、スピントルク特性を改善し、安定な発振が可能となる。
【0057】
第2の中間層70には、スピン拡散長が長い材料を用いることができる。第2の中間層70の膜厚を調整することで、スピントルク効率を下げることなく、第2の中間層70は、第1の発振層60とスピン注入層280との交換結合を調整することができる。
【0058】
スピン拡散長が長い材料としては、例えばCu、Ag、又はAuを用いることができる。これらの元素を組み合わせて合金として用いてもよい。第2の中間層70にこのような材料を用いると、第1の発振層60及びスピン注入層280で発生したスピントルクを効率的に伝達することができる。
【0059】
また、図5に示すように、アルミナ(Al)等の絶縁体71を母材とし、電流パス72をスピン拡散長が長い材料とする電流狭窄構造とすることもできる。第2の中間層90に、電流狭窄構造を用いることで、スピントルク効率を保ったまま、高効率で第1の発振層60を発振させることができる。その結果、STO30に通電する駆動電流を小さくすることができるので、安定した高周波磁界を発生させることができる。すなわち、小さな駆動電流で安定した高周波磁界アシスト記録をすることができる。なお、電流パス72の材料としては、Cu、Ag、Au等の非磁性体、Ni、Fe、Coを1種類以上含む合金からなる磁性体を用いることができる。
(第1の実施例)
【0060】
Macro spin modelを用いて、主磁極のSTOと対向する面(主磁極面)と磁気記録媒体の磁気記録ヘッドに対向する面(ABS)におけるSTOからの高周波磁界を計算した。
【0061】
図6は、STOからの高周波磁界を計算するために用いた構成を示す。第1の発振層の材料をFeCoAl、体積を50nm×50nm×13.3nm、飽和磁束密度(Bs)を1.5Tとした。第2の中間層の材料をCu、体積を50nm×50nm×2nmとした。スピン注入層の材料をCo/Niの人工格子、体積を50nm×50nm×10nmとした。第1の中間層の材料をRu、体積を50nm×50nm×3nmとした。第2の発振層をFeCoAl、体積を50nm×50nm×2nm、飽和磁束密度(Bs)を1.5Tとした。ABSとSTOとの距離を20nmとした。第1の発振層と主磁極との距離を25nmとした。
【0062】
図7は、主磁極面及びABSでのSTOからの高周波磁界の強度を示す図である。線上に高周波磁界の大きさ(Oe)を示す。
【0063】
図7(A)において、縦軸はz軸上の距離(nm)を示し、横軸はy軸上の距離(nm)を示す。なお、縦軸はABSからの距離に対応している。点線で囲まれた領域は、STOを積層方向から眺めたときの形状に対応している。横軸に対して平行に引かれた点線は、ABSを示す。また、高周波磁界の強度はx軸方向(ダウントラック方向:磁気記録媒体のトラック方向)の成分のみを検出している。図7(A)からわかるように、高周波磁界強度は一様に広がっていることがわかる。また、高周波磁界の強度は最大で150Oeであった。
【0064】
図7(B)において、縦軸はz軸上の距離(nm)を示し、横軸はy軸上の距離(nm)を示す。なお、縦軸はABSからの距離に対応している。点線で囲まれた領域は、STOを積層方向から眺めたときの形状に対応している。横軸に対して平行に引かれた点線は、ABSを示す。また、高周波磁界の強度はy軸方向(クロストラック方向:磁気記録媒体のトラックを横切る方向)の成分のみを抽出している。図7(B)からわかるように、高周波磁界強度はz軸方向に広がっていることがわかる。これは、y軸方向のみの高周波磁界成分を検出しているからである。また、高周波磁界の強度は最大で150Oeであった。
【0065】
図7(C)において、縦軸はy軸上の距離(nm)を示し、横軸はx軸上の距離(nm)を示す。なお、x軸とy軸は磁気記録媒体面に対応している。点線で囲まれた領域は、第1の発振層(FGL1と表記)を磁気記録媒体から眺めたときの形状に対応している。高周波磁界強度は、xy平面成分から+z軸方向(磁気記録媒体面に対し垂直方向)の円偏光磁界の成分のみを抽出している。また、高周波磁界の強度は最大で300Oeであった。
(第1の比較例)
【0066】
Macro spin modelを用いて、主磁極のSTOと対向する面(主磁極面:pole plane)と磁気記録媒体の磁気記録ヘッドに対向する面(ABS)におけるSTOからの高周波磁界を計算した。
【0067】
図8は、STOからの高周波磁界を計算に用いた条件を示す。第1の発振層の材料をFeCoAl、体積を50nm×50nm×13.3nm、飽和磁束密度(Bs)を1.5Tとした。第2の中間層の材料をCu、体積を50nm×50nm×2nmとした。スピン注入層の材料をCo/Niの人工格子、体積を50nm×50nm×10nmとした。第1の発振層と主磁極との距離を25nmとした。
【0068】
第1の比較例は、第1の中間層及び第2の発振層が設けられていない点が第1の実施例と異なる。
【0069】
図9は、主磁極面及びABSでのSTOからの高周波磁界の強度を示す図である。線上に高周波磁界の大きさ(Oe)を示す。
【0070】
図9(A)において、縦軸はz軸上の距離(nm)を示し、横軸はy軸上の距離(nm)を示す。なお、縦軸はABSからの距離に対応している。点線で囲まれた領域は、STOを積層方向から眺めたときの形状に対応している。横軸に対して平行に引かれた点線は、ABSを示す。また、高周波磁界の強度はx軸方向(ダウントラック方向:磁気記録媒体のトラック方向)の成分のみを検出している。図9(A)からわかるように、高周波磁界強度は一様に広がっていることがわかる。また、高周波磁界の強度は最大で300Oeであった。第1の実施例では、高周波磁界の強度は最大で150Oeであった。よって、主磁極上の高周波磁界の強度が第1の比較例の2分の1になっている。磁化の揺らぎの振幅は、印加される高周波磁界の強度にほぼ比例する。また、磁化の揺らぎによるエネルギー損失は磁化の揺らぎの振幅の2乗に比例する。よって、第1の実施例での磁化の揺らぎによるエネルギー損失は、第1の比較例の磁化の揺らぎによるエネルギー損失の4分の1となっている。
【0071】
図9(B)において、縦軸はz軸上の距離(nm)を示し、横軸はy軸上の距離(nm)を示す。なお、縦軸はABSからの距離に対応している。点線で囲まれた領域は、STOを積層方向から眺めたときの形状に対応している。横軸に対して平行に引かれた点線は、ABSを示す。また、高周波磁界の強度はy軸方向(クロストラック方向:磁気記録媒体のトラックを横切る方向)の成分のみを抽出している。図9(B)からわかるように、高周波磁界強度はz軸方向に広がっていることがわかる。これは、y軸方向のみの高周波磁界成分を検出しているからである。また、高周波磁界の強度は最大で250Oeであった。クロストラック方向においても、第1の実施例での磁化の揺らぎによるエネルギー損失は、第1の比較例の磁化の揺らぎによるエネルギー損失よりも少なくなっていることが分かる。
【0072】
図9(C)において、縦軸はy軸上の距離(nm)を示し、横軸はx軸上の距離(nm)を示す。なお、x軸とy軸は磁気記録媒体面に対応している。点線で囲まれた領域は、第1の発振層(FGL1と表記)を磁気記録媒体から眺めたときの形状に対応している。高周波磁界強度は、xy平面成分から+z軸方向(磁気記録媒体面に対し垂直方向)の円偏光磁界の成分のみを抽出している。また、高周波磁界の強度は最大で300Oeであった。第1の比較例の磁気記録媒体面での高周波磁界強度は、第1の実施例と同じである。よって、第1の実施例に係るSTOを用いることで、磁気記録媒体面での高周波磁界強度を維持しつつ、主磁極への磁化のふらつきを低減することができることがわかる。
(第2の実施例)
【0073】
Macro spin modelを用いて、第1の発振層60と第2の発振層100との距離、及び第2の発振層100の膜厚を変えたときの主磁極20に印加されるSTOからの高周波磁界強度を計算した。
【0074】
図10は、STOからの高周波磁界を計算するために用いた構成を示す。第1の発振層の材料をFeCoAl、膜厚を13.3nm、飽和磁束密度(Bs)を1.5Tとした。第1の発振層と主磁極との距離を25nmとした。
第2の発振層をFeCoAl、飽和磁束密度(Bs)を1.5Tとした。
【0075】
図11は、主磁極に印加されるSTOからの高周波磁界の強度を示す図である。線上に高周波磁界の大きさ(Oe)を示す。
【0076】
図11(A)・(B)において、縦軸は、第2の発振層の膜厚(nm)を示し、横軸は第1の発振層(FGL1と表記)と第2の発振層(FGL2と表記)との距離(nm)を示す。横軸に平行に引かれた点線は第1の発振層の膜厚(13.3nmの位置)を示す。図11(A)は、高周波磁界強度のx軸成分のみを検出し、図11(B)は、高周波磁界強度のy軸成分のみを検出している。
【0077】
例えば、第1の発振層と第2の発振層との距離を10nmとすると、第2の発振層の膜厚は主磁極に印加される高周波磁界強度がもっとも弱い場所が好ましいことがわかる。また、図11(A)から第1の発振層と第2の発振層との距離を長くすればするほど、第2の発振層の膜厚を薄くすることがわかる。これは、第1の発振層と比べて、第2の発振層が主磁極に近いために第2の発振層から発生する高周波磁界が効率的に印加されるためである。
【0078】
また、例えば、第1の発振層と第2の発振層の形状が直方体で無い場合には、第1の発振層の側面積よりも第2の発振層の側面積が小さくなりうる。かかる場合には、第1の発振層の飽和磁化と側面積との積が、第2の発振層の飽和磁化と側面積との積よりも大きくなるようにする。
【0079】
また、図12に示すように、第3の中間層210を電極50と主磁極20との間に備えていても良い。第3の中間層210は、主磁極20と第2の発振層100との交換結合を弱めることができる。これにより、第2の発振層100の磁化は、主磁極20の磁化方向に依存せずに磁化することが可能となり、第1の発振層60からの磁界方向に磁化しやすくなる。この結果、第2の発振層100の磁化と、第1の発振層60の磁化とは、より安定に反平行を保つことができる。第3の中間層210は、第2の中間層70と同じ材料、もしくは第1の中間層90と同じ材料を用いることができる。この場合、第3の中間層210と電極50とが入れ替わっていても良い。また、第3の中間層210が電極として働くこともできる。
(第2の実施形態)
【0080】
図13は本実施形態に係わる記録ヘッド10の全体図を示す図である。
【0081】
記録ヘッド10は、再生ヘッド部11と、書き込みヘッド部12とを備える。再生ヘッド部11は磁気シールド層13と、磁気シールド層14と、磁気再生素子15とを有する。磁気再生素子15は磁気シールド層13と磁気シールド層14との間に設けられる。
【0082】
書き込みヘッド部12は主磁極20と、シールド16(リターンパス)と、励磁コイル17と、STO30とを有する。再生ヘッド部11を構成する各要素、及び書き込みヘッド部12を構成する各要素は、アルミナ、酸化ケイ素等の絶縁体(図示せず)により分離される。なお、主磁極20とシールド16は、STO30と反対側の隣接部(バックギャップ部)にて、アルミナ、酸化ケイ素等の絶縁体、もしくは、フェライト等の高抵抗率材料等で、分離されている。これにより、主磁極20およびシールド61に電圧を印加した際に、効率的にSTO30に駆動電流を通電することができる。
【0083】
STO30は、主磁極20とシールド16に挟まれている。すなわち、電極40の第1の発振層60が設けられていない側にシールド16が設けられている。
【0084】
磁気再生素子15としては、GMR素子やTMR(Tunnel Magnetro Resistive)素子などを利用することができる。再生分解能をあげるために、磁気再生素子15は磁気シールド層13、14の間に設けられる。
【0085】
磁気記録媒体80は、媒体基板82とその上に設けられた磁気記録層81とを有する。書き込みヘッド部12から印加される磁界により磁気記録層81の記録磁化84が所定の方向に制御され、書き込みがなされる。再生ヘッド部11は、磁気記録層81の記録磁化84の方向を読み取る。矢印85は、媒体の移動方向を示す。
(第3の実施形態)
【0086】
図14は、第3の実施形態に係る磁気記録装置150を示す図である。図15は、第3の実施形態に係る磁気記録装置150の一部を示す図である。
【0087】
図14に示すように、磁気記録装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク180は、スピンドルモータ4に装着され、駆動装置制御部(図示せず)からの制御信号に応答するモータ(図示せず)により矢印Aの方向に回転する。磁気記録装置150は、複数の記録用媒体ディスク180を備えたものとしても良い。
【0088】
記録用媒体ディスク180に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダー3は、既に説明したような構成を有し、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダー3は、例えば、磁気記録ヘッド110(記録ヘッド10に相当)のいずれかをその先端付近に搭載している。
【0089】
記録用媒体ディスク180が回転すると、サスペンション154による押付け圧力とヘッドスライダー3の媒体対向面(ABSともいう)で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダー3の媒体対向面は、記録用媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。なお、ヘッドスライダー3が記録用媒体ディスク180と接触するいわゆる「接触走行型」としても良い。
【0090】
サスペンション154は、駆動コイル(図示せず)を保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とから構成することができる。
【0091】
アクチュエータアーム155は、軸受部157の上下2箇所に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気記録ヘッドを記録用媒体ディスク180の任意の位置に移動できる。
【0092】
図15(a)は、磁気記録装置の一部の構成を例示しており、ヘッドスタックアセンブリ160の拡大斜視図である。
【0093】
また、図15(b)は、ヘッドスタックアセンブリ160の一部となる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)158を例示する斜視図である。
【0094】
図15(a)に示すように、ヘッドスタックアセンブリ160は、軸受部157と、この軸受部157から延出したヘッドジンバルアセンブリ158と、軸受部157からHGAと反対方向に延出していると供にボイスコイルモータのコイル162を支持した支持フレーム161を有している。
【0095】
また、図15(b)に示すように、ヘッドジンバルアセンブリ158は、軸受部157から延出したアクチュエータアーム155と、アクチュエータアーム155から延出したサスペンション154と、を有している。
【0096】
サスペンション154の先端には、ヘッドスライダー3が取り付けられている。そして、ヘッドスライダー3には、磁気記録ヘッドのいずれかが搭載される。
【0097】
すなわち、磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)158は、磁気記録ヘッドと、前記磁気記録ヘッドが搭載されたヘッドスライダー3と、ヘッドスライダー3を一端に搭載するサスペンション154と、サスペンション154の他端に接続されたアクチュエータアーム155と、を備える。
【0098】
サスペンション154は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒータ用、スピントルク発振子用のリード線(図示せず)を有し、このリード線とヘッドスライダー3に組み込まれた磁気記録ヘッド110の各電極とが電気的に接続される。また、電極パッド(図示せず)が、ヘッドジンバルアセンブリ158に設けられる。本具体例においては、電極パッドは8個設けられる。すなわち、主磁極20のコイル用の電極パッドが2つ、磁気再生素子71用の電極パッドが2つ、DFH用の電極パッドが2つ、STO30用の電極パッドが2つ、設けられる。
【0099】
そして、磁気記録ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う、信号処理部190が設けられる。信号処理部190は、例えば、図14に例示した磁気記録装置150の図面中の背面側に設けられる。信号処理部190の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ158の電極パッドに接続され、磁気記録ヘッドと電気的に結合される。
【0100】
このように、磁気記録装置150は、磁気記録媒体と、上記の磁気記録ヘッドと、磁気記録媒体と磁気記録ヘッドとを離間させ、または、接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動部と、磁気記録ヘッドを磁気記録媒体の所定記録位置に位置合せする位置制御部と、磁気記録ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、を備える。
【0101】
すなわち、上記の磁気記録媒体として、記録用媒体ディスク180が用いられる。
【0102】
上記の可動部は、ヘッドスライダー3を含むことができる。
【0103】
また、上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ158を含むことができる。
【0104】
すなわち、磁気記録装置150は、磁気記録媒体と、磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気ヘッドアセンブリに搭載された前記磁気記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、を備える。
【0105】
磁気記録装置150によれば、上記の磁気記録ヘッドを用いることで、記録密度を高めた高周波磁界アシスト記録を可能とする磁気記録装置が提供できる。
【0106】
なお、磁気記録装置において、STO30は、主磁極20のトレーリング側に設けることができる。この場合は、磁気記録媒体80の磁気記録層81は、まず、主磁極20に対向し、その後でSTO30に対向する。
【0107】
また、磁気記録装置において、STO30は、主磁極20のリーディング側に設けることができる。この場合は、磁気記録媒体80の磁気記録層81は、まず、STO30に対向し、その後で主磁極20に対向する。
【0108】
以下、磁気記録装置に用いることができる磁気記録媒体について説明する。
【0109】
図16は、磁気記録装置の磁気記録媒体の構成を例示する模式的斜視図である。
【0110】
図16に示すように、磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体80は、非磁性体87(あるいは空気)により互いに分離された垂直配向した多粒子系の磁性ディスクリートトラック86(記録トラックともいう)を有する。この磁気記録媒体80がスピンドルモータ4により回転され、媒体移動方向85に向けて移動する際に、磁気記録ヘッドのいずれかが設けられ、これにより、記録磁化84を形成することができる。
【0111】
このように、磁気記録装置においては、磁気記録媒体80は、隣接し合う記録トラック同士が非磁性部材を介して形成されたディスクリートトラック媒体とすることができる。
【0112】
STO30の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック86の幅(TW)以上で、かつ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、STO30から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができる。このため、本具体例の磁気記録媒体80では、記録したい記録トラック86のみを効果的に高周波磁界アシスト記録することができる。
【0113】
本具体例によれば、いわゆる「べた膜状」の多粒子系垂直媒体を用いるよりも、狭記録トラックすなわち高記録トラック密度の高周波アシスト記録装置を実現することが容易になる。また、高周波磁界アシスト記録方式を利用し、さらに従来の磁気記録ヘッドでは書き込み不可能なFePtやSmCo等の高磁気異方性エネルギー(Ku)の媒体磁性材料を用いることによって、媒体磁性粒子をナノメートルのサイズまでさらに微細化することが可能となり、線記録密度方向(ビット方向)においても、従来よりも遥かに線記録密度の高い磁気記録装置を実現することができる。
【0114】
磁気記録装置によれば、ディスクリート型の磁気記録媒体80において、高い保磁力を有する磁気記録層に対しても確実に記録することができ、高密度かつ高速の磁気記録ができる。
【0115】
図17は、磁気記録装置の別の磁気記録媒体の構成を例示する模式的斜視図である。
【0116】
図17に示すように、磁気記録装置に用いることができる別の磁気記録媒体80は、非磁性体87により互いに分離された磁気記録媒体リートビット88を有する。この磁気記録媒体80がスピンドルモータ4により回転され、媒体移動方向85に向けて移動する際に、磁気記録ヘッドにより、記録磁化84を形成することができる。
【0117】
このように、磁気記録装置においては、磁気記録媒体80は、非磁性部材を介して孤立した記録磁性ドットが規則的に配列形成されたディスクリートビット媒体とすることができる。
【0118】
磁気記録装置によれば、ディスクリート型の磁気記録媒体80において、高い保磁力を有する磁気記録層に対しても確実に記録することができ、高密度かつ高速の磁気記録ができる。
【0119】
この具体例においても、STO30の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック86の幅(TW)以上で、かつ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、STO30から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができるため、記録したい記録トラック86のみを効果的に高周波磁界アシスト記録することができる。本具体例を用いれば、使用環境下での熱揺らぎ耐性を維持できる限りは、磁気記録媒体リートビット88の高磁気異方性エネルギー(Ku)化と微細化を進めることで、10Tbits/inch以上の高い記録密度の高周波磁界アシスト記録装置を実現できる可能性がある。
【0120】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0121】
10 … 高周波磁界アシスト記録ヘッド(記録ヘッド)、20 … 主磁極
30 … STO(スピントルク発振子)、40、50 … 電極、60 … 第1の発振層(第1の磁性層)、70 … 第2の中間層、280 … スピン注入層(第2の磁性層)、90 … 第1の中間層、100 … 第2の発振層(第3の磁性層)、210 … 第3の中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた第1の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の電極との間に設けられた第2の磁性層と、
前記第2の磁性層と前記第2の電極との間に設けられた第1の中間層と、
前記第1の中間層と前記第2の電極との間に設けられた第3の磁性層と、
前記第2の電極の前記第3の磁性層が設けられた側とは反対側に設けられた主磁極と、
を備え、
前記第1の磁性層の飽和磁化と前記第1の磁性層の側面積との積は、前記第3の磁性層の飽和磁化と前記第3の磁性層の側面積との積よりも大きいことを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記第1の電極の前記第1の磁性層が設けられた側とは反対側にシールドを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
前記第2の磁性層は、積層方向に対して平行な方向に磁化容易軸があることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記第1の磁性層の保磁力は、前記主磁極から印加される磁界よりも小さく、
前記第2の磁性層の保磁力は、前記主磁極から印加される磁界よりも小さく、
前記第3の磁性層の保磁力は、前記主磁極から印加される磁界よりも小さく、
前記第2の磁性層の保磁力は、前記第1及び前記第3の磁性層の保磁力よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に更に第2の中間層を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
前記第2の電極と前記主磁極との間又は前記第2の電極と第3の磁性層との間に更に第3の中間層を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の記録ヘッド。
【請求項7】
前記第1の中間層は、Ru、Pt、Pd、及びTaから選択される少なくとも一つの元素を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の記録ヘッド。
【請求項8】
前記第2の中間層は、Cu、Ag、及びAuから選択される少なくとも一つの元素を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の記録ヘッド。
【請求項9】
前記第1及び第3の磁性層は、Fe又はCoを少なくとも一つ含むことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載の記録ヘッド。
【請求項10】
前記第1、及び前記第3の磁性層は、積層方向にfccの<111>方向又はbccの<110>方向の結晶配向性を有することを特徴とする請求項9に記載の記録ヘッド。
【請求項11】
前記第2の磁性層は、Fe又はCoの何れかとNi、Pt、Pd、Tb、及びSmから選択される少なくとも一つの元素との合金を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか一項に記載の記録ヘッド。
【請求項12】
前記第2の磁性層は、積層方向にfccの<111>方向又はhcpの<0001>方向の結晶配向性を有することを特徴とする請求項11に記載の記録ヘッド。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れか一項に記載の記録ヘッドと、
前記記録ヘッドが搭載されたヘッドスライダーと、
前記ヘッドスライダーを一端に搭載するサスペンションと、
前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、
を備えることを特徴とする磁気ヘッドアッセンブリ。
【請求項14】
磁気記録媒体と、
請求項13の記載の磁気ヘッドアッセンブリと、
前記磁気ヘッドアッセンブリに搭載された前記記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、
を備えることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項15】
前記磁気記録媒体は、隣接し合う記録トラック同士が非磁性部材を介して形成されたディスクリートトラック媒体であることを特徴とする請求項14に記載の磁気記録装置。
【請求項16】
前記磁気記録媒体は、非磁性部材を介して孤立した記録磁性ドットが規則的に配列形成されたディスクリートビット媒体であることを特徴とする請求項14に記載の磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−146351(P2012−146351A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2050(P2011−2050)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】