説明

試料測定用セル及び電磁波吸収測定方法

【課題】液体試料だけでなくスラリー試料であっても、さらに液体中に浸漬した状態の固体粉末試料であっても、電磁波吸収測定により適切なデータが得られる試料測定用セル、及び電磁波吸収測定方法を提供すること。
【解決手段】電磁波透過性の材料で形成された2つの窓を相対する位置に有し、2つの窓の間に試料を存在させることが可能な電磁波通過部位と、電磁波通過部位の下方に設けられた、内部の液体を撹拌可能な攪拌手段を有する撹拌手段設置部位と、を有するセル構造を為しており、(1)セル構造内の電磁波通過部位の上方に、少なくとも1つの空孔を有する仕切り板を有する、又は(2)セル構造内の電磁波通過部位に、固体粉末試料を所定の電磁波通過長となるように配置可能でかつ固体粉末試料中に液体が浸透可能な試料容器を有する、試料測定用セル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状試料や固体粉末試料の電磁波吸収測定に用いられる試料測定用セルに関する。より詳しくは、特に密閉状態もしくは加圧条件下で行う、スラリー試料または液体に浸漬した状態の固体粉末試料の電磁波吸収測定に好適に用いられる試料測定用セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波の吸収測定は測定対象とする試料の化学状態・物理状態を知るのに有用な手段である。赤外領域や紫外可視領域の吸収測定においては試料中の化合物の化学結合や化学構造に関する情報が得られ、X線領域の吸収測定においては試料中の元素の電子状態や原子間隔・配位数に関する情報を得ることができる。電磁波の吸収測定のこのような特質は化学反応の追跡に有効であり、広範な応用例がある。
【0003】
液体試料やスラリー試料のような液状試料の化学反応の追跡を行う場合、試料測定用セルとしてフローセルを用い、主に反応が生じている部位から液状試料の一部を取り出して流動させその流動部位を測定する例が多い。例えば、非特許文献1ではフローセルを用いたin situでのX線吸収の測定が示されている。また、紫外可視吸光光度法においても特許文献1で示されるように高温高圧に耐えるフローセルによる測定系が開発されている。
【0004】
また、分散性が悪くスラリー化できない固体粉末試料の場合には、上記のようなフローセルを用いても電磁波吸収測定が困難である。固体粉末試料を加圧により成型可能な場合には、その成形品を試料測定用セル内の液体に浸漬させて固定・静置して測定を行う方法が考えられる。
【特許文献1】特開2003−98091号公報
【非特許文献1】Jan−Dierk Grunwaldt et.al. Journal of Catalysis 213(2003)291
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フローセルを使用した測定では、主に反応が生じている部位から離れた位置の測定となるため、反応している部位と測定している部位とが異なっている点が問題である。特に、液体中に存在する固体が関わるスラリー試料の場合には、フローセル内で試料の滞留が生じる場合があり適切なデータが得られにくい問題があった。
【0006】
固体粉末試料を成型して測定する方法は成形性の優れた固体粉末試料にのみ適用可能なものである。成形性の悪い固体粉末試料の場合はポリマーと混合して成形する方法も考えられるが、浸漬させる液体との接触性に問題がある。適当な容器に固体粉末試料を入れ液体に浸漬させる方法も考えられるが、測定する電磁波通過長(光路長)を変えることができないため、様々な容器を準備する必要がある。
【0007】
本発明は、液体試料だけでなくスラリー試料であっても、電磁波吸収測定により適切なデータが得られる試料測定用セル、及び電磁波吸収測定方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、液体に浸漬した状態の固体粉末試料であっても、電磁波吸収測定により適切なデータが得られる試料測定用セル、及び電磁波吸収測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液状試料の電磁波吸収測定を行うための試料測定用セルにおいて、
電磁波透過性の材料で形成された2つの窓を相対する位置に有し、該2つの窓の間に前記液状試料を存在させることが可能な電磁波通過部位と、
該電磁波通過部位の下方に設けられた、前記液状試料を撹拌可能な攪拌手段を有する撹拌手段設置部位と、
を有するセル構造を為しており、前記セル構造内の電磁波通過部位の上方に、少なくとも1つの空孔を有する仕切り板を有する試料測定用セルを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記の試料測定用セルを使用して、前記2つの窓の間に測定する液状試料を存在させ、該液状試料を前記撹拌手段により撹拌しつつ、一方の窓から他方の窓に電磁波を通過させる電磁波吸収測定方法を提供する。
【0011】
本発明は、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料の電磁波吸収測定を行うための試料測定用セルにおいて、
電磁波透過性の材料で形成された2つの窓を相対する位置に有し、該2つの窓の間に前記液体中に浸漬した状態の固体粉末試料を存在させることが可能な電磁波通過部位と、
該電磁波通過部位の下方に設けられた、前記固体粉末試料を浸漬させる液体を撹拌可能な攪拌手段を有する撹拌手段設置部位と、
を有するセル構造を為しており、前記セル構造内の電磁波通過部位に、前記固体粉末試料を所定の電磁波通過長となるように配置可能でかつ該固体粉末試料中に液体が浸透可能な試料容器を有する試料測定用セルを提供する。
【0012】
また、本発明は、上記の試料測定用セルを使用して、前記2つの窓の間に測定する固体粉末試料を前記液体中に浸漬させた状態で存在させ、該液体を前記撹拌手段により撹拌しつつ、一方の窓から他方の窓に電磁波を通過させる電磁波吸収測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液体試料だけでなくスラリー試料であっても、電磁波吸収測定により適切なデータが得られる試料測定用セル、及び電磁波吸収測定方法を提供できる。
【0014】
また、本発明によれば、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料であっても、電磁波吸収測定により適切なデータが得られる試料測定用セル、及び電磁波吸収測定方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について図面の記載を参照しながらさらに詳細に説明する。なお、以下に示す第一の実施形態及び第二の実施形態のそれぞれの特徴を適宜組み合わせた試料測定用セル及び電磁波吸収測定方法とすることもできる。
【0016】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態は、液状試料の電磁波吸収測定を行うための試料測定用セルである。図1及び図2はそれぞれ本発明の第一の実施形態にかかる試料測定用セルの縦断面図であり、図1は電磁波入射方向に垂直な方向から、図2は電磁波入射方向から見た図である。ただし、本実施形態はこれらの図で示される構造の試料測定用セルに限られるものではない。
【0017】
ここで、液状試料とは、液体の試料及びスラリー試料の総称である。スラリー試料とは、液体と固体粉末試料との混合物であって、かつ、静置状態もしくは攪拌を行うことにより液体中で固体粉末試料が分散状態となる試料のことである。液体と固体粉末試料との混合物であっても液体中に固体粉末試料を分散できないものは除くものとする。
【0018】
また、電磁波としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線などが挙げられる。本実施形態にかかる試料測定用セルは、特にX線の吸収測定に好適である。
【0019】
本実施形態にかかる試料測定用セルは、電磁波透過性の材料で形成された2つの窓8を相対する位置に有し、該2つの窓8の間に前記液状試料を存在させることが可能な電磁波通過部位50と、該電磁波通過部位50の下方に設けられた、前記液状試料を撹拌可能な撹拌手段(図1及び図2に示す実施形態においては撹拌子30)を有する撹拌手段設置部位60と、電磁波通過部位50の上方に設けられた仕切り板70とを有しており、内部に測定する液状試料を入れることが可能なセル構造を為している。
【0020】
本実施形態にかかる試料測定用セルの本体を形成する材質としては、様々な液状試料に対応するため、高強度でかつ酸・塩基等にも耐えるステンレス鋼、例えばSUS304が好ましい。
【0021】
窓8の材質は、用いる電磁波に応じて、その電磁波が透過する材料から適宜選択することができる。赤外領域の場合は、KBr、NaCl、ZnSe,タリウム塩等が使用可能である。紫外・可視領域の場合は、石英ガラスが最も望ましい。また、X線領域の場合は、Be、グラファイト、ダイヤモンド、各種ポリマー等が使用可能であるが、透明性を有することから視認性が優れ、かつ、耐酸・塩基性と加工性に優れたPMMAまたはポリカーボネートが好ましい。
【0022】
窓8は、測定後に洗浄する必要が高く、傷みやすいので、交換可能であることが好ましい。例えば、図1に示すように、ボルト20でドーナツ形状の押さえ金具9を圧迫して押さえつける形態が好ましい。
【0023】
電磁波通過部位50には2つの窓8が相対する位置に設置されており、その間の空間に測定する液状試料を存在させることができる。そして、その状態で、一方の窓から他方の窓に電磁波を通過させることで、電磁波吸収測定が可能な構成となっている。2つの窓8の間隔となる光路長は、測定目的に応じ、液状試料を電磁波が通過する光路長が最適となるよう設計することができる。電磁波通過部位内部の断面形状は円であることが好ましい。
【0024】
電磁波通過部位50の下方には、撹拌手段設置部位60が設けられている。その内部には、測定する液状試料を撹拌可能な撹拌手段が設けられている。撹拌手段設置部位内部の断面形状は円であることが好ましい。
【0025】
撹拌手段を駆動するための攪拌機構の方式については特に限定されるものではなく、例えば、モーター動力等の外部動力を軸で直接撹拌手段に伝える直接攪拌方式、磁力で間接的に動力を撹拌手段に伝える間接撹拌方式などが挙げられる。直接攪拌方式は、軸と本体の接触部に耐圧性・機密性を持たせるためメカニカルシール、ドライシールなどの機構を設ける必要があり、小規模な装置では実施が難しいため、電磁誘導を利用する間接撹拌方式の方が好ましい。撹拌手段としては、直接撹拌方式の場合は軸の周りに配置された攪拌翼を、間接撹拌方式の場合は図1及び図2に示すように攪拌子30を、用いることが好ましい。
【0026】
攪拌手段の形状は特に限定されるものではない。例えば、攪拌子を電磁誘導で回転させる場合には、試料に応じ、市販の棒状、円盤状、三角柱状、ダンベル状などの形状の攪拌子を用いることが可能である。強力な攪拌を行うためには大きな攪拌直径を持つ攪拌子が望ましく、特にダンベル状の撹拌子が好ましいが、ダンベル状の攪拌子より円盤状の攪拌子の方が回転の安定性は優れており試料により選択可能である。攪拌翼を用いて攪拌する場合の撹拌翼についても同様であり、撹拌直径は、撹拌手段設置部位の壁面にぶつからない範囲で適宜選択できる。
【0027】
図1及び図2に示した試料測定用セルでは、撹拌手段設置部位60の内部空間における水平方向の断面積が、電磁波通過部位50の内部空間における水平方向の断面積より大きく設計されている。このような形状とすることで、撹拌手段を必要に応じて大きくすることができる。より大きな攪拌手段を利用することで、スラリー試料の測定の際にも低速回転で均一な分散状態が達成でき、そもそも電磁波通過部位に渦が発生しにくいという利点がある。
【0028】
ただし、電磁波通過部位と撹拌手段設置部位との、内部空間における水平方向の断面積が同じとなっている試料測定用セルとすることもできる。このような試料測定用セルでスラリー試料を測定させる際には、小さな攪拌手段を高速で回転させることとなり一般には電磁波通過部位に渦が発生しやすいが、後述するように本実施形態では電磁波通過部位の上方に設置された仕切り板によって渦の発生を抑制することができる。
【0029】
セル本体の内部の電磁波通過部位50の上方には、仕切り板70が設けられている。この仕切り板70は空孔71を少なくとも1つ有している(図1には7つの空孔を有する仕切り板を示した)。このような仕切り板70を有することにより、液状試料の撹拌による渦の発生を抑制することができる。ただし、液状試料の撹拌による渦の発生を抑制するためには、測定時の液状試料の液面が、少なくとも仕切り板70の下面よりも上方、好ましくは仕切り板70の上面より上方とすることから、仕切り板70の設置位置は、セル本体の内部の電磁波通過部位50の上方であって電磁波通過部位50に近接していることが好ましい。例えば、電磁波通過部位50の上端と仕切り板70の下面との距離が10mm以下であることが好ましい。
【0030】
仕切り板70の材質は特に限定されるものではない。セル本体と同じ素材、例えばステンレス鋼(SUS304など)が好ましいが、セル本体と異なり機械的強度は低くても支障がないので、加工性等の観点からポリマー素材等を用いても良い。
【0031】
仕切り板70の大きさおよび形状は特に限定されるものではなく、セル本体の内部に設置可能な大きさおよび形状とすることができる。仕切り板70の厚みも特に限定されるものではないが、前記の通り測定時の液状試料の液面が仕切り板70上面より上方に位置することが好ましいことから、10mm以下とすることが好ましい。仕切り板70の厚みは、攪拌による液流に対し変形しない強度を有していれば良く、その下限は仕切り板の材質及び攪拌条件により異なるが、例えば0.5mm以上とすることができる。
【0032】
仕切り板70に設けられる空孔71は、直径1mmの球が通過できる大きさであり、かつ、撹拌手段による撹拌直径の1/2の直径を有する球が通過できない大きさであることが好ましい。仕切り板70に設けられる空孔71は、加工のし易さの観点から円筒状あることが好ましい。仕切り板70に設けられる空孔71の数は2つ以上が好ましく、6つ以上がより好ましい。また、仕切り板70全体の面積の10%以上90%以下が空孔71となっていることが好ましく、40%以上80%以下が空孔71となっていることがより好ましい。
【0033】
なお、測定する液状試料によって、仕切り板70に設けられる空孔71の大きさ、形状、及び数を変えられるようにするために、仕切り板70はセル本体から着脱自在なものとすることが好ましい。
【0034】
液状試料の測定時の攪拌の条件については、セル内の試料の温度が均一になる程度の攪拌を行えばよい。仕切り板を持たない試料測定用セルの場合には攪拌力を上げすぎると渦が生じ、セル中の空隙にある気体を巻き込み測定に支障が生じるが、本実施形態にかかる試料測定用セルの場合には渦の発生は抑制される。ただし、攪拌子を用いる場合には攪拌数を上げすぎると回転の安定性が損なわれる場合がある。試料測定用セルを加熱しながら使用する場合には、攪拌数がより大きい方が内部温度をより均一にでき、またより速く昇温させることが可能である。用いる攪拌子の形状、大きさにより好ましい撹拌の条件は異なるが、一般に20〜1000rpmであることが望ましい。
【0035】
本実施形態にかかる試料測定用セルで測定するスラリー試料としては、分散媒である液体の比重に対する分散体である粉末の比重が1以上1.5未満であることが好ましい。液体の比重に対する粉末の比重が1.5以上の場合でも、粉末の粒径が小さくスラリー試料となる場合には同様に測定可能である。
【0036】
本実施形態にかかる試料測定用セルを用いて電磁波吸収測定を行う際、その目的と試料の種類によって、外気に対して開放された状態で行う場合と、密閉系で行う場合とがあり得る。また、密閉状態で内部をあらかじめ加圧して測定する場合、密閉状態で試料を加熱する若しくは外気温が上昇することで測定中に加圧状態になる場合、もあり得る。そこで、広範な測定に使用可能なように、内部を加圧状態で密閉可能な密閉機構を有することが好ましい。
【0037】
本実施形態における密閉機構とは内部を加圧状態で密閉可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、バルブ等により必要に応じ内部を外界と遮断できる構造を採ることができる。図1及び図2の試料測定用セルでは、吸排気口5及び6と内部との接続部にバルブ1〜4が設けられており、必要に応じそれらを開閉できるようになっている。例えば密閉状態で内部を加圧状態にする場合は、吸排気口の一方に加圧用気体が封入されたボンベを接続して、途中のバルブを開いて加圧用気体をセル内部に供給し、その後バルブを閉めることができる。加圧用気体は、任意に選択できる。
【0038】
密閉機構により密閉状態で、0.2MPa(ゲージ圧;以下圧力表記はゲージ圧表記とする)の圧力に耐えられることが好ましく、1MPaの圧力に耐えられることがより好ましい。その際、内部の圧力が所定圧力を超えないように制御可能な安全弁7を設けることで、不測の事態で所定圧力を超えた場合にも、設定圧力に維持可能である。したがって、本実施形態にかかる試料測定用セルとしては、内部を加圧状態で密閉可能な密閉機構と、内部の圧力が所定圧力を超えないように制御可能な安全弁と、を有することがより好ましい。
【0039】
また、測定の目的により温度コントロールを行う場合を考慮して、図1及び図2に示すような部位に温度センサー10を設けることが好ましい。その際の加熱するための熱源は試料測定用セルの内部に熱源を設置してもよいが、試料測定用セルの気密性を高め、セル内部の腐食を避けることができるので、別途用意する形態とすることが好ましい。
【0040】
別途用意する熱源としては、リボンヒーター、ホットプレート、ホットスターラー、湯浴槽、油浴槽等が挙げられる。リボンヒーターを使用して試料測定用セル全体を外部から加熱する方式の場合、温度コントロールは容易であるが、試料測定用セルの洗浄や交換などの取扱性が低下する場合がある。湯浴槽中に試料測定用セルを置いて加熱する方式の場合、試料測定用セルの加熱効率は高いが、水蒸気が周辺の機器に悪影響を洗える可能性がある。したがって、ホットプレート、ホットスターラー、または油浴槽を使用することが好ましい。中でも、前述の電磁誘導による撹拌の動力を同時に供給可能なホットスターラーを使用することがより好ましい。
【0041】
本実施形態にかかる試料測定用セルで密閉もしくは加圧状態での測定を行う場合に、必要に応じて測定中に液体または固体をセル内に追加添加可能とするために、小室100をさらに設けることが好ましい。このような小室100を設けることにより、例えば、セル本体内部を必要な温度に調節した後、化学反応の開始に必須な液体または固体を追加添加することにより、特定の温度での化学反応の状況を測定することができるようになる。開放状態での測定を行う場合にも小室100は同様に使用可能である。ただし、開放状態での測定を行う場合には、スポイトやシリンジや薬さじを用いて、測定中に液体または固体をセル内に追加添加可能である。
【0042】
図1及び図2の試料測定用セルでは小室100はセル上部に設けられている。小室100は、セルの横方、斜方に設けることも可能である。小室100は、仕切り用バルブ80(本体側)及び90(小室側)によりセルと仕切られており、小室には追加添加する液体または固体を入れておくことができる。そして、仕切り用バルブ80及び90を開けることで、電磁波吸収測定中であっても小室の液体または固体をセル内に追加添加することができる。図1及び図2の試料測定用セルでは仕切り用バルブを2つ設置しているが、セルと小室を仕切ることができ開閉可能なものであれば1つの仕切り用バルブでも良く、バルブ以外の手段でも良い。図1及び図2の試料測定用セルのように仕切り用バルブを2つ設置し、その間で小室を着脱可能とすることで、小室を実験中に交換可能となり、複雑な化学反応の状況についての測定を行うことが可能となる。
【0043】
また、小室100は与圧可能であることが好ましい。小室100に液体または固体を入れ、セル本体内部より高い圧力に小室100内を与圧することにより、必要な時点で仕切り用バルブ80及び90を開放するだけで容易に液体または固体を本体内部に追加することが可能である。なお、小室100が与圧可能でなくても、小室内の液体または固体の重力によってセル内に追加添加することは可能である。
【0044】
小室100に入れる追加試料が固体の場合は、仕切り用バルブ80及び90を通過しやすいように粉末の固体を用いることが好ましく、セル本体内部の液状試料と速やかに混合するものが好ましい。
【0045】
以上のような本実施形態にかかる試料測定用セルを用いて測定する液状試料としては、粉末等を含まない溶液試料、及び粉末等が分散したスラリー試料のいずれでも良い。従来の方法ではスラリー試料については均一な状態での測定が困難であったのに対し、本実施形態にかかる試料測定用セルはスラリー試料を測定する際にも好適に使用できる。また、本実施形態にかかる試料測定用セルは、化学反応により溶液状態からスラリー状態へと変化する試料、または、スラリー状態から溶液状態へと変化する試料、の電磁波吸収の時間変化を測定することもできる。
【0046】
本実施形態にかかる試料測定用セルを使用して電磁波吸収測定を行う方法としては、内部に測定する液状試料を投入し、電磁波通過部位の2つの窓の間に測定する液状試料を存在させ、液状試料を撹拌手段設置部位の撹拌手段により撹拌しつつ、一方の窓から他方の窓に電磁波を通過させる方法を採ることができる。
【0047】
測定目的とする化合物の液状試料における濃度は、試料測定用セルの光路長、電磁波の波長、その化合物の吸光係数等から、適切に設定すれば良い。
【0048】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態は、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料の電磁波吸収測定を行うための試料測定用セルである。図3及び図4はそれぞれ本発明の第二の実施形態にかかる試料測定用セルの縦断面図であり、図3は電磁波入射方向に垂直な方向から、図4は電磁波入射方向から見た図である。ただし、本実施形態はこれらの図で示される構造の試料測定用セルに限られるものではない。
【0049】
ここで、電磁波としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線などが挙げられるが、本実施形態にかかる試料測定用セルは特にX線の吸収測定に好適なものである。以下では、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料のX線吸収測定を行うための試料測定用セルについて説明する。
【0050】
本実施形態にかかる試料測定用セルは、X線透過性の材料で形成された2つの窓8を相対する位置に有し、該2つの窓8の間に、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料を存在させることが可能な電磁波通過部位50と、該電磁波通過部位50の下方に設けられた、固体粉末試料を浸漬させる液体を撹拌可能な撹拌手段(図3及び図4に示す実施形態においては撹拌子30)を有する撹拌手段設置部位60と、を有しており、セル内の電磁波通過部位50に設置された試料容器110に液体中に浸漬した状態の固体粉末試料を配置可能なセル構造を為している。
【0051】
本実施形態にかかる試料測定用セルの本体を形成する材質としては、様々な液体に対応するため、高強度でかつ酸・塩基等にも耐えるステンレス鋼、例えばSUS304が好ましい。
【0052】
窓8の材質は、X線を透過する材料から適宜選択することができる。例えば、Be、グラファイト、ダイヤモンド、各種ポリマー等が使用可能であるが、透明性を有することから視認性が優れ、かつ、耐酸・塩基性と加工性に優れたPMMAまたはポリカーボネートが好ましい。
【0053】
窓8は、測定後に洗浄する必要が高く、傷みやすいので、交換可能であることが望ましい。例えば、図3に示すように、ボルト20でドーナツ形状の押さえ金具9を圧迫して押さえつける形態が好ましい。
【0054】
電磁波通過部位50には2つの窓8が相対する位置に設置されており、その間の空間に設置された試料容器110に、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料を配置することができる。そして、その状態で、一方の窓から他方の窓にX線を通過させることで、X線吸収測定が可能な構成となっている。2つの窓8の間隔は、測定の際に設定する固体粉末試料の電磁波通過長より長ければ、特に制限されない。実際の測定の際に設定する固体粉末試料の電磁波通過長は後述するように試料容器で調整可能である。
【0055】
電磁波通過部位50の下方には、撹拌手段設置部位60が設けられている。その内部には、固体粉末試料を浸漬させる液体を撹拌可能な撹拌手段が設けられている。撹拌手段設置部位内部の断面形状は円であることが好ましい。
【0056】
撹拌手段を駆動するための攪拌機構の方式については特に限定されるものではなく、例えば、モーター動力等の外部動力を軸で直接撹拌手段に伝える直接攪拌方式、磁力で間接的に動力を撹拌手段に伝える間接撹拌方式などが挙げられる。直接攪拌方式は、軸と本体の接触部に耐圧性・機密性を持たせるためメカニカルシール、ドライシールなどの機構を設ける必要があり、小規模な装置では実施が難しいため、電磁誘導を利用する間接撹拌方式の方が好ましい。撹拌手段としては、直接撹拌方式の場合は軸の周りに配置された攪拌翼を、間接撹拌方式の場合は図3及び4に示すように攪拌子30を、用いることが好ましい。
【0057】
攪拌手段の形状は特に限定されるものではなく、液体の組成、温度分布が均一になるよう十分に攪拌できれば良い。例えば、攪拌子を電磁誘導で回転させる場合には、試料に応じ、市販の棒状、円盤状、三角柱状、ダンベル状などの形状の攪拌子を用いることが可能である。強力な攪拌を行うためには大きな攪拌直径を持つ攪拌子が望ましく、特にダンベル状の撹拌子が好ましいが、ダンベル状の攪拌子より円盤状の攪拌子の方が回転の安定性は優れており試料により選択可能である。攪拌翼を用いて攪拌する場合の撹拌翼についても同様であり、撹拌直径は、撹拌手段設置部位の壁面にぶつからない範囲で適宜選択できる。
【0058】
測定時の攪拌の条件については、セル内の液体の温度が均一になる程度の攪拌を行えばよい。ただし、攪拌子を用いる場合には攪拌数を上げすぎると回転の安定性が損なわれる場合がある。試料測定用セルを加熱しながら使用する場合には、攪拌数がより大きい方が内部温度をより均一にでき、またより速く昇温させることが可能である。用いる攪拌子の形状、大きさにより好ましい撹拌の条件は異なるが、一般に20〜1000rpmであることが好ましい。
【0059】
図3及び図4に示した試料測定用セルでは、撹拌手段設置部位60の内部空間における水平方向の断面積が、電磁波通過部位50の内部空間における水平方向の断面積より大きく設計されている。このような形状とすることで、撹拌手段を必要に応じて大きくすることができる。より大きな攪拌手段を利用することで、低速回転で均一な分散状態が達成できる。
【0060】
ただし、電磁波通過部位と撹拌手段設置部位との、内部空間における水平方向の断面積が同じとなっている試料測定用セルとすることもできる。このような試料測定用セルでは、小さな攪拌手段を高速で回転させることとなり電磁波通過部位に渦が発生しやすいが、本実施形態では渦の発生により測定が不安定になることはない。
【0061】
試料容器110は、固体粉末試料を所定の電磁波通過長となるように配置可能であり、かつ固体粉末試料中に液体が浸透可能なものである。図5は、試料測定用セル中に設置された試料容器に、固体粉末試料を所定の電磁波通過長となるように配置した状態を、電磁波入射方向に垂直な方向から見た縦断面図である。ただし、本実施形態における試料容器はこの図で示される構造に限られるものではない。
【0062】
試料容器110の材質は、セル本体と同様にステンレス鋼を使用することも可能であるが、試料容器110には高強度は要求されないので、取扱性の容易なポリプロピレン、PMMA等各種のポリマーが好ましい。試料容器110は液体の攪拌によって動かない程度にセル本体に固定されていればよく、その固定方法には特に限定されない。ボルト、針金等で固定しても良く、図3及び図4の試料測定用セルのように弾性変形するバネやポリマーによるスペーサー111等を用いても良い。
【0063】
試料容器110は、固体粉末試料を所定の電磁波通過長となるように配置可能であり、かつ固体粉末試料中に液体が浸透可能なものであれば、その形状や構造には特に制限はない。例えば、図5に示すように、両端にそれぞれ切り欠きがあって内部に液体が浸漬可能な筒型の形状のものであり、中央部に固体粉末試料130を詰めることが可能であり、さらに固体粉末試料の両端に多孔質体90で押さえられたものが挙げられる。多孔質体90としては、液体が浸透して通過可能であるが、固体粉末が通過不能なものを使用する。例えば、各種ポリマーによるフィルター、ろ紙や脱脂綿等を使用することができる。このとき、多孔質体90の、固体粉末試料130との接触面は極力平滑にすることが好ましい。このような試料容器110とすることで、詰め込む固体粉末試料130の量を変化させることで、測定の目的に応じて自在に電磁波通過長を調節することができる。
【0064】
なお、上記の試料容器110は本実施形態にかかる試料測定用セルに使用することを前提に考え出したものであるが、本実施形態にかかる試料測定用セルに使用せずに、そのまま単独で空気中での固体粉末試料の測定に使用することも可能である。X線が通過する厚みを容易に調節可能な点で、従来の各種試料容器に比較して優れている。
【0065】
本実施形態にかかる試料測定用セルを用いてX線吸収測定を行う際、その目的と試料の種類によって、外気に対して開放された状態で行う場合と、密閉系で行う場合とがあり得る。しかしながら、外気に対して開放された状態で行うと、試料容器110につめた固体粉末試料130、または多孔質体120には気泡が入りやすく、固体粉末試料の一部が液体と十分接触しない状態での測定となる可能性がある。そこで、密閉系とし不活性ガス等を用いて試料測定用セルの内部を加圧することで、この気泡の影響を低減することが可能である。そのような観点から、本実施形態にかかる試料測定用セルでは内部を加圧状態で密閉可能な密閉機構を有し、これを用いて加圧状態で測定することが好ましい。
【0066】
本実施形態における密閉機構とは内部を加圧状態で密閉可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、バルブ等により必要に応じ内部を外界と遮断できる構造を採ることができる。図3及び図4の試料測定用セルでは、吸排気口5及び6と内部との接続部にバルブ1〜4が設けられており、必要に応じそれらを開閉できるようになっている。例えば密閉状態で内部を加圧状態にする場合は、吸排気口の一方に加圧用気体が封入されたボンベを接続して、途中のバルブを開いて加圧用気体をセル内部に供給し、その後バルブを閉めることができる。加圧用気体は、任意に選択できる。
【0067】
密閉機構により密閉状態で、0.2MPaの圧力に耐えられることが好ましく、1MPaの圧力に耐えられることがより好ましい。その際、内部の圧力が所定圧力を超えないように制御可能な安全弁7を設けることで、不測の事態で所定圧力を超えた場合にも、設定圧力に維持可能である。したがって、本実施形態にかかる試料測定用セルの実施形態としては、内部を加圧状態で密閉可能な密閉機構と、内部の圧力が所定圧力を超えないように制御可能な安全弁と、を有することがより好ましい。
【0068】
また、測定の目的により温度コントロールを行う場合を考慮して、図3及び図4に示すような部位に温度センサー10を設けることが好ましい。その際の加熱するための熱源は試料測定用セルの内部に熱源を設置してもよいが、試料測定用セルの気密性を高め、セル内部の腐食を避けることができるので、別途用意する形態とすることが好ましい。
【0069】
別途用意する熱源としては、リボンヒーター、ホットプレート、ホットスターラー、湯浴槽、油浴槽等が挙げられる。リボンヒーターを使用して試料測定用セル全体を外部から加熱する方式の場合、温度コントロールは容易であるが、試料測定用セルの洗浄や交換などの取扱性が低下する場合がある。湯浴槽中に試料測定用セルを置いて加熱する方式の場合、試料測定用セルの加熱効率は高いが、水蒸気が周辺の機器に悪影響を洗える可能性がある。したがって、ホットプレート、ホットスターラー、または油浴槽を使用することが好ましい。中でも、前述の電磁誘導による撹拌の動力を同時に供給可能なホットスターラーを使用することがより好ましい。
【0070】
以上のような本実施形態にかかる試料測定用セルは、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料のX線吸収測定に用いられるものである。また、浸漬させる液体も同時に測定対象とすることも可能である。従来の方法では分散性や成型性の悪い固体粉末試料についてはX線吸収測定が困難であったのに対し、本実施形態にかかる試料測定用セルは固体粉末試料の分散性や成型性に関わらず好適に使用できる。
【0071】
本実施形態にかかる試料測定用セルを使用してX線吸収測定を行う方法としては、試料容器110に固体粉末試料をつめ、電磁波通過部位の2つの窓の間に設置し、セル内部を液体で満たして固体粉末試料を液体中に浸漬させた状態とし、液体を撹拌手段設置部位の撹拌手段により撹拌しつつ、一方の窓から他方の窓にX線を通過させる方法を採ることができる。
【0072】
測定目的とする固体粉末試料を試料容器に配置する量は、X線の波長、その化合物の吸光係数等から、適切に設定すれば良い。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を挙げ説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
本発明の第一の実施形態の実施例として、図1及び図2で示すような試料測定用セルを作製した。なお、仕切り板を含むセル本体はステンレス鋼製、窓はPMMA製とした。電磁波通過部位の水平方向の断面の外部形状は窓を取り付けやすくするため3cm×3cmの正方形とし、電磁波通過部位の水平方向の断面の内部形状は耐圧性を高くするため直径2cmの円形とした。セルの側面の相対する位置には直径1cmの穴を設け、これらの穴は窓で密封した。光路長(2つの窓の内側の距離)は3cmとした。セル内部の電磁波通過部位の上方には、図1に示すような7つの円筒状の空孔の空いた仕切り板を設置した(仕切り板の下面と電磁波通過部位の上端との距離は5mm)。仕切り板の直径は2cm、厚みは1mmとし、空孔の断面の直径は各3mmとした。撹拌手段設置部位の水平方向の断面の外部形状は5cm×5cmの正方形、撹拌手段設置部位の水平方向の断面の内部形状は円滑な攪拌ができるよう直径4cmの円形とし、撹拌直径20mmの円盤状撹拌子をあらかじめ内部に入れた。撹拌手段設置部位内部の深さは2cmであり、電磁波通過部位内部まで液状試料で満たした時の深さは10cmであり、このとき仕切り板全体が液状試料に浸漬する状態になる。
【0075】
この試料測定用セルを使用してX線吸収微細構造スペクトルの測定を行った。X線光源は(財)高輝度光科学研究センターのシンクロトロンSPring−8のビームラインBL01B1からの放射光とした。測定する液状試料としては、水を溶媒とし、二酸化ケイ素粉末に10質量%のPdを担持した試料を溶媒に対し30質量%分散させたスラリー試料を使用した。
【0076】
上記スラリー試料を試料測定用セルに入れ、電磁誘導型のホットスターラーの上に置き、約800rpmで攪拌しつつ70℃まで昇温した。温度が安定したことを確認し、X線吸収微細構造スペクトルの測定を行った。
【0077】
得られたX線吸収微細構造のスペクトルデータはEdge jump=0.23、Total absorption=3.7となり、スペクトル上にPdの特性吸収が明瞭に現れ、かつ、吸光度が適切な値となった。このように本発明の第一の実施形態にかかる試料測定用セルを用いることで、スラリー試料のX線吸収スペクトルの測定が精密に行えることが確認できた。
【0078】
(比較例1)
仕切り板を設置しなかったこと以外は、実施例1と同様にして測定を行った。得られたX線吸収微細構造のスペクトル上にPdの特性吸収は現れたものの、ノイズが頻発しており、スラリー試料のX線吸収スペクトルの精密な測定は行えないことが判った。
【0079】
(比較例2)
仕切り板を電磁波通過部位の下方に設置(仕切り板の上面と電磁波通過部位の下端との距離は5mm)したこと以外は、実施例1と同様にして測定を行った。得られたX線吸収微細構造のスペクトル上にPdの特性吸収はあらわれず、スラリー試料のX線吸収スペクトルの測定は行えないことが判った。
【0080】
(実施例2)
実施例1で用いた試料測定用セルを用いて、酸化パラジウムをアリルアルコールで還元する反応の追跡を試みた。
【0081】
まず、水を溶媒とし、活性炭に10質量%の酸化パラジウムを担持した試料を溶媒に対し30質量%分散させたスラリー試料をセル本体内に投入した。また、セル本体上部に設置された小室には、上記溶媒に対して3質量%に相当する量のアリルアルコールを入れ、小室内を0.5MPaに与圧した。
【0082】
この試料測定用セルを電磁誘導型のホットスターラーの上に置き、約800rpmで攪拌しつつ90℃まで昇温した。温度が安定したことを確認し(約30分を要した)、実施例1と同様の方法でX線吸収微細構造スペクトルの測定を行ったところ、得られたX線吸収微細構造のスペクトル上に酸化パラジウムの特徴が現れた。
【0083】
次に、その状態で、小室との仕切り用バルブを開放してセル本体内にアリルアルコールを追加し、5分ごとに実施例1と同様の方法でX線吸収微細構造スペクトルの測定を行った。15分後の測定で得られたX線吸収微細構造スペクトルからその形状に変化が見られ、1時間後に測定で得られたX線吸収微細構造スペクトルでは金属パラジウムの特徴が明瞭に現れた。
【0084】
このように、液状試料の電磁波吸収測定中に、液体または固体を前記セル構造内に追加添加可能とする小室をさらに有する試料測定用セルを用いることで、特定の温度での化学反応の時間変化を測定することが可能となる。なお、小室を用いずに最初からアリルアルコールをセル本体内に入れる方法についても検討したが、最初のX線吸収微細構造スペクトルの測定時に既に金属パラジウムの特徴が明瞭に現れており、化学反応の時間変化を測定することができなかった。
【0085】
(実施例3)
本発明の第二の実施形態の実施例として、図3〜5で示すような試料測定用セルを作製した。なお、セル本体はステンレス鋼製、窓はPMMA製、試料容器はポリプロピレン製とした。電磁波通過部位の水平方向の断面の外部形状は窓を取り付けやすくするため3cm×3cmの正方形とし、電磁波通過部位の水平方向の断面の内部形状は耐圧性を高くするため直径2cmの円形とした。セルの側面の相対する位置には直径1cmの穴を設け、これらの穴は窓で密封した。2つの窓の内側の距離は3cmとした。撹拌手段設置部位の水平方向の断面の外部形状は5cm×5cmの正方形、撹拌手段設置部位の水平方向の断面の内部形状は円滑な攪拌ができるよう直径4cmの円形とし、撹拌直径20mmの円盤状撹拌子をあらかじめ内部に入れた。撹拌手段設置部位内部の深さは2cmであり、電磁波通過部位内部まで試料で満たした時の深さは10cmである。
【0086】
試料容器はポリプロピレン製の直径6mmの市販のストローを利用した。まず、ストローを3cmの長さに切断した後、一端に脱脂綿を詰め、約6mmの円盤状に切ったろ紙を入れた。次いで、二酸化ケイ素の粉末に5質量%の酸化パラジウムを担持させた固体粉末試料を0.1g(ストロー内で10mmの電磁波通過長となる)入れ、約6mmの円盤状に切ったろ紙を入れてその上から脱脂綿を詰めた。詰めた固体粉末試料の位置をストローの中央部に調節した後、ストローの両端に輪切り状の切れ目を入れ折り込んで脱脂綿が抜け難いようにして筒状の試料容器とした。試料測定用セルの窓をとりはずし、スペーサーとなるもう1本のストローとともに上記の試料容器を挿入して、窓を再び取り付けた。
【0087】
この試料測定用セルを使用してX線吸収微細構造スペクトルの測定を行った。X線光源は実施例1と同じものを使用した。固体粉末試料を浸漬させる液体としては、水/ホルムアルデヒト(5:1(質量比))混合液とし、密閉状態とした後、窒素を用い0.5MPaに加圧した。
【0088】
上記試料測定用セルを電磁誘導型のホットスターラーの上に置き、約800rpmで攪拌しつつ室温(20℃程度)から90℃まで除々に昇温し、室温、30℃、40℃、50℃と10℃刻みに各温度に達するごとに90℃までX線吸収微細構造スペクトルの測定を行った。
【0089】
室温の測定で得られたX線吸収微細構造のスペクトルデータでは酸化パラジウムの特徴が明瞭に現れていたが、90℃の測定で得られたX線吸収微細構造のスペクトルデータでは金属パラジウムの特徴が明瞭に現れた。このように本発明の第二の実施形態にかかる試料測定用セルを用いることで、液体中に浸漬した状態の固体粉末試料のX線吸収スペクトルの測定が精密に行えることが確認できた。
【0090】
(比較例3)
試料容器を使用せず、固体粉末試料をセル内に直接投入した(固体粉末試料は液体に対し30質量%)こと以外は実施例3と同様にして測定を行った。室温の測定で得られたX線吸収微細構造のスペクトルデータでは酸化パラジウムの特徴が、90℃の測定で得られたX線吸収微細構造のスペクトルデータでは金属パラジウムの特徴が、それぞれ現れたものの、ノイズが頻発しており、固体粉末試料のX線吸収スペクトルの精密な測定は行えないことが判った。
【0091】
(比較例4)
試料容器を使用せず、二酸化ケイ素の粉末に5質量%の酸化パラジウムを担持させた試料を液体に対し30質量%投入し攪拌速度を200rpmとしたこと以外は実施例3と同様にして測定を行った。得られたX線吸収微細構造のスペクトル上に酸化パラジウムの特徴も金属パラジウムの特徴も現れず、スラリー試料のX線吸収スペクトルの測定は行えないことが判った。Pdの特性吸収が現れず、固体粉末試料のX線吸収スペクトルの測定が行えないことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる試料測定用セルを、電磁波入射方向に垂直な方向から見た縦断面図、及びその試料測定用セル内に設置された仕切り板の拡大上面図である。
【図2】本発明の第一の実施形態にかかる試料測定用セルを、電磁波入射方向から見た縦断面図である。
【図3】本発明の第二の実施形態にかかる試料測定用セルを、電磁波入射方向に垂直な方向から見た縦断面図である。
【図4】本発明の第二の実施形態にかかる試料測定用セルを、電磁波入射方向から見た縦断面図である。
【図5】本発明の第二の実施形態にかかる試料測定用セル中に設置された試料容器に、固体粉末試料を所定の電磁波通過長となるように配置した状態を、電磁波入射方向に垂直な方向から見た縦断面図である。
【符号の説明】
【0093】
1、2、3、4 バルブ
5、6 吸排気口
7 安全弁
8 窓
9 押さえ金具
10 温度センサー
20 ボルト
30 撹拌子
40 固定具
50 電磁波通過部位
60 撹拌手段設置部位
70 仕切り板
71 空孔
80 本体側仕切り用バルブ
90 小室側仕切り用バルブ
100 小室
110 試料容器
111 スペーサー
120 多孔質体
130 固体粉末試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状試料の電磁波吸収測定を行うための試料測定用セルにおいて、
電磁波透過性の材料で形成された2つの窓を相対する位置に有し、該2つの窓の間に前記液状試料を存在させることが可能な電磁波通過部位と、
該電磁波通過部位の下方に設けられた、前記液状試料を撹拌可能な攪拌手段を有する撹拌手段設置部位と、
を有するセル構造を為しており、前記セル構造内の電磁波通過部位の上方に、少なくとも1つの空孔を有する仕切り板を有する試料測定用セル。
【請求項2】
内部を加圧状態で密閉可能な密閉機構と、内部の圧力が所定圧力を超えないように制御可能な安全弁と、をさらに有する請求項1に記載の試料測定用セル。
【請求項3】
液状試料の電磁波吸収測定中に、液体または固体を前記セル構造内に追加添加可能とする小室をさらに有する請求項1または2に記載の試料測定用セル。
【請求項4】
液体中に浸漬した状態の固体粉末試料の電磁波吸収測定を行うための試料測定用セルにおいて、
電磁波透過性の材料で形成された2つの窓を相対する位置に有し、該2つの窓の間に前記液体中に浸漬した状態の固体粉末試料を存在させることが可能な電磁波通過部位と、
該電磁波通過部位の下方に設けられた、前記固体粉末試料を浸漬させる液体を撹拌可能な攪拌手段を有する撹拌手段設置部位と、
を有するセル構造を為しており、前記セル構造内の電磁波通過部位に、前記固体粉末試料を所定の電磁波通過長となるように配置可能でかつ該固体粉末試料中に液体が浸透可能な試料容器を有する試料測定用セル。
【請求項5】
内部を加圧状態で密閉可能な密閉機構と、内部の圧力が所定圧力を超えないように制御可能な安全弁と、をさらに有する請求項4に記載の試料測定用セル。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の試料測定用セルを使用して、前記2つの窓の間に測定する液状試料を存在させ、該液状試料を前記撹拌手段により撹拌しつつ、一方の窓から他方の窓に電磁波を通過させる電磁波吸収測定方法。
【請求項7】
請求項4または5に記載の試料測定用セルを使用して、前記2つの窓の間に測定する固体粉末試料を前記液体中に浸漬させた状態で存在させ、該液体を前記撹拌手段により撹拌しつつ、一方の窓から他方の窓に電磁波を通過させる電磁波吸収測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−267017(P2006−267017A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88765(P2005−88765)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】