試料解析方法及び試料加工装置
【課題】FIBによる断面加工や薄片加工に先立って行なわれていたFIBAD膜による試料表面平坦化作業を行なうこと無く、試料表面にFIB照射損傷を与えることなく、SEM試料やSTEM試料を作製する。
【解決手段】試料加工の際に試料表面に作製していた集束イオンビームアシストデポジション(FIBAD)膜の代わりに、対象試料とは別の微小な薄膜の薄板を加工位置に移設固定して保護膜とする。
【解決手段】試料加工の際に試料表面に作製していた集束イオンビームアシストデポジション(FIBAD)膜の代わりに、対象試料とは別の微小な薄膜の薄板を加工位置に移設固定して保護膜とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームによる試料加工等に関する。例えば、走査電子顕微鏡による断面観察のための試料や(走査型)透過電子顕微鏡用の試料を集束イオンビームによって加工する試料加工方法、試料加工装置及び試料解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや磁性デバイスの微細化は年々進歩し、微細領域の高分解能構造観察や超高感度元素分析には走査電子顕微鏡(以下、SEMと略記)や透過電子顕微鏡(以下、TEMと略記)、走査型透過電子顕微鏡(以下、STEMと略記。また、TEMとSTEMとを代表させて以下STEMと略記する)が不可欠となっている。特に、試料の特定断面についてのSEM観察やSTEM観察には、高精度の断面形成加工技術や薄片試料加工技術が必須である。これを実現するために、集束イオンビーム(以下、FIBと略記)による加工が多用されている。
【0003】
FIBを用いた試料断面SEM観察のための加工は次のように行なう。まず、断面加工位置を含む領域にFIBアシステッドデポジション膜(以下、FIBAD膜と略記)を形成する。このFIBAD膜はFIB加工部を含む試料面に有機ガスを噴き付け、膜形成領域にFIB照射すると、有機ガスが分解してガス成分の例えば金属が膜として形成される。FIBAD膜を形成する理由は次にある。表面に凹凸が存在する材料をFIBで断面加工すると、表面凹凸を反映して、元々の試料構造とは無関係な縞状の人工構造が形成される。また、FIBの外周の低電流ビーム(これを裾とも言う)によって、主たる加工領域の周辺がFIBの裾で僅かに削られ、断面と平面の交点部が垂直にならず、削られた部分の情報が欠落する。このような断面をSTEMやSEMで観察すると、本来あるべき形状とは異なった形状が観察される。このような問題を避けるために、試料表面を平坦化する目的でFIBAD膜を形成する。FIBによるTEM試料加工方法については、特許第3547143号公報「試料加工方法」に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3547143号公報
【特許文献2】特開平5−28950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したFIBを用いた断面SEMやSTEM観察用の現行の試料加工方法では、試料加工時における試料最表面のFIBによる損傷が顕在化してきた。
【0006】
SEM観察すべき断面でも、TEM観察すべき薄片試料でも、母試料の断面作製の際に、母試料表面の平坦化と表面保護のためにFIBAD膜を形成すると、試料の最表面はFIB照射によって必ず僅かにスパッタ除去されたり、損傷を受けたり、イオン注入されたりして、厳密には母試料表面は元々の構造を保存していない。このため、母試料の最表面の構造や組成の分析に対する信頼性が低下する。FIBAD膜作製時のFIB照射損傷は避けられないため、最表面を無損傷で断面観察するためのSEM試料やSTEM試料を加工することは困難であることが顕在化してきた。たとえ表面にFIBAD膜を付けずに断面を作製するとしても、加工すべき箇所をFIBで探すことで試料の最表面は損傷を受けたり、FIB自身が有する裾(低電流のビーム拡がり)によってビーム走査領域より僅かに広がった周辺が損傷を受け、垂直断面加工を行なったつもりでも表面と断面の交点部は直角ではなく丸みを有するように加工されてしまう。
【0007】
このような問題点に対して、FIBAD膜を用いずに加工表面に膜形成する方法として、FIBAD膜を形成する前に蒸着膜を形成する方法がある。この場合、(イ)試料を別装置である蒸着装置で処理しなければならないため時間的ロスが大きい。(ロ)観察したい特定のミクロン領域のみに蒸着膜を形成することは容易ではない。特に、大口径のウェハの中の特定ミクロン領域にのみに蒸着膜を施すのは至難の業である。(ハ)対象物が深い凹凸を有する場合、蒸着膜が深い凹部の底まで均一に埋まらないため、FIBで断面加工を行なうと、上述のように断面に縞状の人工構造が形成される等の問題点がある。
【0008】
つまり、以下の問題点があった。
(1)FIBによる断面加工や薄片加工に先立って行なわれていたFIBAD膜による試料表面平坦化作業を行なうことなく、簡便に表面保護膜を形成する試料加工方法を提供すること、
(2)時間的ロスが少なく、試料の観察最表面がFIB照射損傷受けることない試料加工方法を提供すること、また、
(3)FIBを用いて得られた試料の最表面および表面下の構造を正しく評価できる評価方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、好ましくは、従来、FIB試料加工の際に試料表面に形成していたFIBAD膜の代わりに薄板を用いる。対象試料とは別の薄板を加工位置に移設して保護膜とする。
【0010】
薄板は試料室内の試料近傍に予め準備しておき、薄板の移設は試料加工装置の試料室に備えつけた微動手段によって行なう。このように移設した薄板と共に直下の試料も同時にFIB加工してSEM観察用試料もしくはSTEM観察用試料を作製する。
【0011】
好ましくは、予め真空試料室内に準備した薄板を試料表面に移設する工程と、集束イオンビームを薄板に照射して薄板と共に試料を加工し、薄片試料を作製する工程と、薄片試料を試料から摘出する工程と、薄片試料から薄板を除去する工程と、薄片試料の表面を荷電粒子ビームによって解析する工程とを有する試料解析方法である。ここで、解析とは、観察、計測、分析を意味する。
【0012】
試料表面に微小異物や微小突起があるときは、それを覆うように薄板を設置する。その場合、薄板は一部の厚みが薄い凹形状を有するものとし、薄板の凹形状が溝形状、矩形面形状、又は略球面とするとよい。試料の加工位置の延長線上にマークを形成し、薄板に予め形成されているマークを試料上に形成されたマークに合わせて試料表面に移設すると都合がよい。
【0013】
また、好ましくは、真空試料室内で試料を載置して移動する試料ステ−ジと、集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射光学系と、集束イオンビームの照射によって試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、検出器からの信号を用いて試料像を表示する画像表示手段と、集束イオンビームの照射部に形成するデポジション膜の原料ガスを供給するガス供給手段と、真空試料室の内部で薄板を搬送して試料の表面に移設する薄板搬送手段とを有し、薄板は周縁部に位置決め用の開口、突起もしくは切り欠きからなるマークを有することを特徴とする試料加工装置である。マークは、薄板の略中心で交差する直交2直線と薄板端部との4交点、又は上記2直線上で薄板端部に近い箇所に設けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、簡便に試料表面を保護することができる。例えば、従来、FIBによる断面観察用試料加工やTEM試料加工に先立って行なわれていたFIBAD膜形成を行なうことなくまた、試料最表面にFIB照射損傷を与えることがないため、試料面含む断面の高分解能評価が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
〔実施例1〕
最初に、図1と図2を用いて本発明の試料加工方法を実現する試料加工装置の構成例について説明する。図1は、本発明による試料加工装置の構成例を示す図である。試料加工装置21は、試料ステージ22に載置した母試料23に対してFIB24を照射するFIB照射光学系25、FIB24の照射部から発生する二次電子や二次イオン等二次粒子を検出する検出器26、FIB照射領域にFIBAD膜を形成するために必要なガスを供給するガス供給手段27を備える。ガス供給手段27はガス照射部が口径50μm程度のノズル28を有しており、FIB照射部に限定してガス供給することができる。母試料23の表面に移設する微小薄板30は薄膜ホールダ31に設置されており、この薄膜ホールダ31は母試料23であるウェーハを直接設置するウェーハホールダ32に設置されていて、必要に応じてFIB視野に移動させ、大きめの薄膜部材から必要な大きさの微小薄板30をFIB24で切除するか、所定の大きさの微小薄板30を準備しておき、これらをプローブ33で母試料23の加工領域に搬送できる。プローブ33は、プローブ微動機構34によって試料室35内で少なくとも3軸(垂直方向、FIBの走査方向に平行な方向と直交する方向)に移動できる。微小試料固定具36は母試料23から摘出した微小試料を固定する部材で、この微小試料固定具36を微小試料固定具ホールダ37に搭載して、必要に応じて傾斜させることができる。ウェーハホールダ32の具体的な構成については図2にて後述する。
【0017】
母試料23の表面や加工断面はSEM光学系39によって観察し、SEM像を表示手段40に表示できる。各部の制御は、中央制御装置47と連結されたSEM制御装置41、プローブ制御装置42、FIB制御装置43、ガス供給制御装置44、二次電子検出制御装置45、ステージ制御装置46によって行われる。中央制御装置47は、各機構系を移動させるなどの命令を下す機能、及び各部からのデータを集積し、演算や記憶を行う機能などを有している。装置構成は図1に限るものではなく、集束イオンビーム照射光学系の光学軸は、試料移動ステージ面に対して常に傾斜状態にあってもよい。
【0018】
次に、薄膜ホールダ等を搭載するウェーハホールダ32について図2で説明する。ここで用いた母試料23は直径300mmのシリコンウェーハであり、試料室35内で移動可能な試料ステージ22に着脱できるウェーハホールダ32に載置されている。ウェーハホールダ32には、母試料23以外に、微小試料固定具36を設置する微小試料固定具ホールダ37と、移設用の微細薄膜又はこの微細薄膜を切除できる薄膜部材30を保持する薄膜ホールダ31が搭載される。微小試料固定具ホールダ37はホールダデッキ38上に搭載されている。本実施例では5個搭載されており、ホールダデッキ38は直結された小型モータないし傾斜機構39によって傾斜でき、実質的に微小試料を傾斜させることができる。この構造により、摘出した微小試料の加工面をFIBもしくはSEMで観察したり、加工面をさらに自在に加工したりすることができる。
【0019】
微小試料固定具ホールダ37には微小試料固定具36が一個、もしくは複数個搭載でき、さらに、各微小試料固定具36にも複数の微小試料が固定できるため、ホールダデッキ38には合計多数個の微小試料が搭載できる。具体的数値として、各微小試料固定具36には5個ずつの微小試料が固定されていて、この微小試料固定具36を搭載した微小試料固定具ホールダ37が5個、ホールダデッキ38に設置されていて、ホールダデッキの1度のローディングにより、25個の微小試料を摘出、加工を行なうことができる。また、薄膜部材30は、ウェーハホールダ32上に着脱可能に設置された薄膜部材ホールダ31に固定されている。保護用薄膜は、プローブを利用して薄膜部材30から必要に応じて切除し、母試料23の所望の位置に移設することができる。
【0020】
薄膜部材30の具体例を図3に示す。図3(a)は複数種の大きさの微小薄板部材が実装された例を示し、移送すべき微細薄膜となる移設薄膜部51a,51b,51c,51dと、分離しやすいように事前に設けた開口部52と、FIBによる切りシロとなる切取り部53から構成される。薄膜部材30の具体的寸法は縦4mm、横5mm、厚さ1μm程度で、撓みを防ぐために薄膜部材30の裏面の適所に補強用のリム(図示せず)を配している。素材は銅や白金のような金属でも良いし、シリコンでもよく、半導体プロセスなどを用いて作製する。開口部52の幅を1〜2μm程度とし、また、切取り部53は1〜2μm程度としておくと、FIBによる切除時間が数10秒で済み、切除前にプローブを移設薄膜部51の隅に固定しておくことにより、1分程度で微小薄板を分離できる。薄膜部材は数多くの移設用の微小薄板が実装できるように構成されており、図3(a)はその一例に過ぎない。
【0021】
図3(b)は、移設薄膜部51aと51bを薄膜部材30から摘出している様子を示している。例えば、移送薄膜部51aについて説明すると、まず、移送薄膜部51aの一端56をFIBで切除し、次に移送薄膜部51aの終端部付近にプローブ54aを接触させ、その先端部と移送薄膜部51aをFIBAD膜55aで接続する。次に、微小薄板の所望の長さに相当する位置57にFIBを照射して切断する。移送薄膜部51aの場合、幅が3μmであるため、FIB照射による切断は1分程度で完了する。これにより移送薄膜部51aは薄膜部材30から完全分離でき、プローブ54aによる移動により移送薄膜部51aを所望の場所に搬送することができる。同様に、移送薄膜部51bについても上述の手順により搬送でき、試料の所望に位置に移設することができる。図1では本発明による試料加工装置の構成例として、集束イオンビーム照射光学系が試料移動ステージと垂直な関係となる場合を含む構成例を示した。
【0022】
ここで本発明に類似した公知例を示し、本発明との相違を明確にしておく。特開平5−28950号公報(特許文献2)には、真空中で可動マスクを利用して観察用断面を加工する方法が開示されている。図18により説明する。特許文献2の目的は、断面加工の加工位置精度を向上させ、微細なデバイスの所望位置の断面を形成すること、そして該断面の構造を観察可能とすることである。これを実現するために特許文献2では、FIB501によって試料502に所望の断面を形成する加工方法において、まず大電流のFIB501で角孔503を加工し(図5(a))、続いて、真空中において移動可能で、結晶の劈開面などを端面とした可動マスク504をマニピュレータ505で所望断面に近接させて設置し(図5(b))、微細なFIB501’によって可動マスク504の直線的な端面に沿って走査して仕上げを行なう(図18(c))。このような方法によってクリアな断面506が得られるとしている(図18(d))。
【0023】
一方、本発明は以下の点で特許文献2と異なる。(1)本発明は、薄板を試料表面に移動させたのち、FIBによって断面加工を施すが、その際、薄板(特許文献2では可動マスク)の端面を利用することはせず、薄板と共に母試料も同時にFIB加工する。つまり、薄板と薄板下の試料を同時に加工する点において本発明は特許文献2とは全く異なり、本発明による薄板は必ずしも直線的端面を有する必要はなく、矩形形状である必要もない。(2)本発明の薄膜は搬送用のプローブに常に接続されているのではなく、必要時にプローブと接続し、不要となった場合や母試料の表面に固定された場合は接続を外す。また、(3)本発明における薄板はFIBによる断面仕上げ加工時のみに使用するのではなく、最初の粗加工から用いる。このような点で、本発明は特許文献2とは根本的に異なる。
【0024】
〔実施例2〕
本発明による試料加工方法の典型的な実施例として、以下、図4を用いて試料加工方法の手順について説明する。
(i) 図4(a)に示すように、まず、予め移設すべき薄板を加工する。これはTEM試料を作成する直前に同じ環境下で作成しても良いし、別の方法で作成しておいた部材81を試料室に持込んでおいても良い。ここでは、試料の近くでFIBによって作成する例を示した。移設する薄板の大きさは2×10μm、厚さ0.5μmとして、まず200×200μm、厚さ0.5μmの部材81に対してFIB82を走査して『コ』の字の形の溝83を開けることで、幅2μm、長さ10μmの片持ち梁84を作成しておく。ここで用いた部材81の素材はシリコンである。勿論、大きさ、素材はこの例に限定されるものではない。
【0025】
(ii) 次に、図4(b)に示すように、観察対象の母試料となる試料85の目的位置を含んで、従来のマイクロサンプリング法と同様に、一点の支持部86で支えられた楔型微小試料87をFIB88,88’による穴加工により作成する。具体的大きさは、幅4μm、長さ15μm、深さ(試料の高さ)15μm程度となるように、母試料85に対して垂直、傾斜方向から入射させたFIB88,88’で作成した。
【0026】
(iii) 次に、図4(c)に示すように、先に作成した片持ち梁84の先端部にプローブ89を接触させ、プローブ89先端が片持ち梁84の先端部に固定されるようにFIBAD膜90を形成する。プローブ89の固定後、片持ち梁84の他端91をFIB照射して矩形の微細薄板92を切除する。
【0027】
(iv) 図4(d)に示すように、上記の作業により、移送すべき微細な矩形の薄板92が分離でき、プローブ89の移動によって目的位置に移送できる。
【0028】
(v) 図4(e)に示すように、先に作成した楔型の微小試料87の表面に、プローブ89を移動させることで薄板92を接触させる。この時、薄板92の一部と試料表面に掛けてFIBAD膜93を形成し、薄板92と微小試料87を一体化させる。
【0029】
(vi) 次に、図4(f)に示すように、微小試料87を支持している支持部86にFIBを照射して支持部86を切断し、微小試料94を母試料である試料85から分離・摘出する。
【0030】
(vii) 図4(g)に示すように、摘出した微小試料87を、プローブ89と試料ステージの移動により、微小試料固定具95の上面に搬送し、接触させる。接触後、微小試料94と微小試料固定具95をFIBAD膜96,96’によって固定する。その後、プローブ89先端にFIB照射して微小試料87とプローブ89を完全分離する。これらの作業によって、微小試料87は微小試料固定具95に自立することができる。
【0031】
(viii) 図4(h)に示すように、最後に、移設した薄板92と共に、予め敷設したマークを基準に両サイドをFIBによって除去して観察薄膜部97を形成してSTEM試料が完成する。
【0032】
薄板の移送方法は上記の方法に限定されることはなく、図5に示した方法でもよい。図5(a)は、移設される薄板211を複数枚備えた薄板組210で、其々の薄板211は支持部212のみで支えられ、薄板211の間は空間213になっている。薄板組210は移動可能なプローブ214の先端に予め固定されている。必要に応じてプローブ214を試料215の所望の位置に移動させ、接触もしくは近接させて支持部212をFIBによって切断する。これにより、薄板211は薄板組210から分離され、試料215に試料表面保護の役割を果たす薄板211aとして移設される。図5(b)における符号212’はFIBによる切断部を示している。)
【0033】
また、図5(c)は薄板が複数個利用できる別の例である。本例は比較的大きな薄板基板216がプローブ214の先端に固定された形態で、必要に応じて試料215の所望位置にプローブ214で移動させ、接触もしくは近接させて所望の大きさの薄板をFIBによって切断する手法である。図5(d)は、薄板基板から所望の大きさの薄板211bを符号217で示されるFIB切断部で分離し、切断分離された薄板211bを所望位置に設置した状態を示している。このような手法、手段によって、矩形に限らず所望の形状で所望の大きさの薄板を試料上の所望位置に移設することができる。
【0034】
図6は、上述の薄板移設方法を用いて、試料の注目部の周囲を加工する方法について説明する図である。
【0035】
図6(a)は、半導体デバイスにおけるある深さの平面を示し、プラグ221が格子点状に集積した試料220の平面図である。注目する欠陥プラグ222に対して位置特定用のマーク223を公知の技術で施した様子を示している。
【0036】
図6(b)において、プローブ支持部228の先端に保持した薄板224を注目部上方に移動させる。薄板には、複数のマーク225が設けられているため、マーク225と試料上のマーク223が一致するように薄板224位置を調整する。このようにすることで、薄板のマークを通る直交2直線の交点の直下に注目部があることになる。マークの位置関係が崩れないようにして薄板を試料面に接着させる。
【0037】
図6(c)では、薄板224上のマークを残して両側をFIBによって凹孔226を加工している様子を示している。2個の凹孔226のうち、少なくとも一方の断面に対して斜めに照射することで、2個の凹孔226は注目部の深部で交差する。このような斜めに照射するためには、試料ステージを傾斜すればよく、本例の場合は2個のマーク225を通る軸を傾斜軸として試料傾斜して孔の深部に溝加工すればよい。
【0038】
図6(d)では更に、両凹孔226に重なるように試料面に垂直に孔227を開けることで注目部を含む微小試料が元の試料220から分離できる。
【0039】
このように、試料面に従来のFIBAD膜ではなく薄板を設置したため、FIB照射損傷が無く、試料本来の形状を観察することがきる。ただし、図6(a)から図6(b)に至る薄板224を設置するまでの僅かな時間、試料表面はFIB照射を受ける。この場合、装置に光学顕微鏡もしくは走査電子顕微鏡が付設されていれば、このような顕微鏡で大雑把な移動をさせて目標位置を覆うことが良い。この方法が取れない場合には、以下に説明する実施例3の方法に従うのが良い。
【0040】
〔実施例3〕
図7に、本発明の一実施例である薄板の別の固定方法を示す。ここでは試料表面にFIBを照射したくない場合、特に観察場所が特定されている場合の方法について説明する。
【0041】
(i) 図7(a)に示すように、試料表面にFIBを照射し、試料表面の構造やマーキングから特定の観察場所231を探す。この時、上記特定の観察場所231がFIB照射領域232(観察視野)に入らないようにする。これは、観察場所231からFIB照射寸法以上離れた特定の構造やマーキングなどの座標を光学顕微鏡やSEMあるいはCAD情報等で調べておき、これらの座標をステージ移動させることで注目する観察領域は視野外に位置することができる。
【0042】
(ii) 次に、図7(b)に示すように、観察場所の座標と特定構造の座標差分(オフセット分)を考慮して微細薄板235を固定したプローブ234を移動させ、FIB照射領域232の外にある観察場所231を内包するように、試料表面に接触させる。接触後、FIB照射領域232内にある微細薄板235の一部と試料表面に掛けてFIBAD膜236を形成し、薄板235と試料とを一体化させる。その後、プローブ234の先端にFIB照射して微小薄板235とプローブ234を完全分離する。
【0043】
(iii) 次に、図7(c)に示すように、試料ステージとプローブ234の同速度の移動により観察場所231がFIB照射領域232内に入るようにする。もしくは、FIB照射領域232をイメージシフトして、観察場所231がFIB照射領域232内に入るようにした後に、微小薄板235を固定するようにFIBAD膜236を形成し、プローブ234と微小薄板235を分離してもよい。このような微小薄板の固定方法により、観察場所231がFIB照射損傷を受けることなく微小薄板235を固定することが出来る。その後は、FIB照射により観察場所231の断面を出し、SEM又はFIBにより観察を行っても良いし、観察場所231を微小試料片として摘出した後、薄片化し、TEM又はSTEM観察を行っても良い。
【0044】
〔実施例4〕
本実施例では、図8により、実施例3とは異なる別の薄板235の固定方法を説明する。
(i) 図8(a)に示すように、特定の観察場所231の座標を光学顕微鏡やSEMあるいはCAD情報などで調べておく。これらの方法で調べた座標はFIBステージとリンク出来るシステムになっているので、観察場所231がFIB照射領域232内に入らないように予め指定座標に視野寸法以上の距離を加えオフセットするようにFIBステージ移動させる。
【0045】
(ii) 次に、図8(b)に示すように、微細薄板235が固定されたプローブ234をFIB照射領域(視野)232に移動させる。この段階では、プローブ234を試料に接触させない。
【0046】
(iii) 次に、図8(c)に示すように、予め調べた座標にFIBステージを移動させ、観察場所231がFIB照射領域232内に入るようにする。次に、FIBを照射し、二次電子像を見ながらプローブ234を試料表面に接触させる。この時、FIBをブランキング状態にしておいてもよい。ステージ移動停止後、プローブを徐々に降下させ、接触後プローブを停止させる。ここで、薄板235の一部と試料232表面に掛けてFIBAD膜236を形成し、薄板235を試料に固定させる。次に、プローブ234の先端部にFIB照射して微小薄板235とプローブ234を分離する。これにより、観察場所231がFIB照射損傷を受けることなく、微小薄板235を固定することが出来る。その後は、FIB照射により観察場所231の断面を出し、SEM又はFIBにより観察を行っても良いし、観察場所231を微小試料片として摘出した後薄片化し、TEM又はSTEM観察を行っても良い。
【0047】
〔実施例5〕
図9を用いて、本発明による薄板の固定方法うち、上記実施例とはさらに異なる実施例について説明する。本実施例で用いる装置は、基準位置にある試料面に垂直な位置関係にFIB光軸が配置された構成になっている。
【0048】
まず、目標とする箇所から遠く離れた試料面を視野に入れ、FIBの観察倍率を低倍率に設定して、図9(a)のようにプローブ234に連結された微小薄板235を視野中心に移動させる。この時、微小薄板235は試料表面から例えば100〜300μm離間させておくことで実質的なFIBの非照射領域を広くできる。この状態でFIBをブランキング状態にする。符号232Lは低倍率でのFIB照射範囲を意味している。
【0049】
次に、注目する観察箇所231の座標を入力し、試料ステージを移動させる。試料の注目箇所231を強調するために、別の手段でマークを施しておく。このマークは、例えば、低出力のレーザによって、注目部を交点とする直交2直線上にそれぞれ線分上に走査させてマークを形成した。なお、図9(a)では微小薄板に覆われているためマークは見えない。
【0050】
理想的には入力座標に対応する試料の注目箇所は画面の中央に移動するが、ステージ移動には多少の誤差を含むため、正確に中央ではなく、中心付近にある。薄板は予め試料面から離間させているため、試料面上の数10μmから数100μmの矩形領域が薄板の影となり、ステージ誤差量を考慮しても、試料面の注目箇所やその近傍のマークは必ず薄板235の影に入る。つまり、イオンビームによる試料表面への直接照射はない。この方法は、イオンビームの代わりに電子ビーム照射損傷を受けやすい試料に対して、電子ビームを遮る目的で用いてもよい。
【0051】
試料ステージの停止後、ビームのブランキング状態を解除し、プローブ234を徐々に降下(試料面に接近)させながら、観察倍率を上昇させていく。図9(b)のように予め設置しておいたマーク238が高倍率での観察画面232H内で、微小薄板235の外に出た時に、微小薄板のマーク237と試料のマーク238が一致するようにステージもしくはプローブ234の位置を微調整させながら、微小薄板235を試料面に接触させる。図9(b)のように試料面のマーク238と微小薄板のマーク237が一致していると、注目箇所はマークを含む2直線の交点が注目箇所となる。
【0052】
微小薄板235が試料に接触した時点で、プローブ234移動を停止させて、僅かな大きさのFIBADを薄板と試料面に付け、薄板を固定させ、プローブ234と微小薄板235との接続をFIBに照射によって切断する。このような一連の操作によって、試料の注目部にイオンビームもしくは電子ビームを照射することなく、注目領域231を薄板235のほぼ中心に移設できる。
【0053】
上記の作業手順をフロー図で示したのが図10である。まず、ステップS010では、FIBの観察倍率を低倍率もしくは最低に設定する。次に、ステップS020でFIBをブランキング状態にして、FIBが試料に照射されないようにする。つまり、SIM像は見られない。この状態で、予め観察座標として記憶している座標を入力して、画面中心に目標位置が移動するように試料ステージを移動させる(ステップS030)。次のステップS040で、プローブを移動させ、プローブ先端の薄板の中心が画面中心に来るようにする。プローブに繋がるプローブ移動機構によって、プローブを退避位置に移動することや、呼び出すと画面中心、つまり、薄板中心がFIB光軸上に来るように移動することができる。さらに、FIB光軸上に呼び出された薄板は、試料面から100μm程度離間した状態に位置するように記憶しておき、移動する。これにより、薄板は、破損することなく、低倍率の広い領域を覆うことができる。
【0054】
ステップS050で、FIBブランキング状態を解除することで、画面中心に薄板表面があって、その周りに試料表面が見えるSIM像が画面に表示される。次に、ステップS060では、FIB観察倍率を徐々に上昇させると同時にプローブを降下させ(ステップS070)、画面中心に薄板があって、その周りに試料表面が見えるように調整しながら倍率調整する。倍率の上昇と薄板の降下の調整を徐々に進めながら、薄板周囲の試料面に注目していると予め目標位置の近傍に描いたマークが確認できる(ステップS080)。試料面上のマークが確認できれば観察倍率の上昇と薄板の降下を停止させる(ステップS090)。次に、ステップS100で試料面のマークと薄板に設けたマークが一致するようにステージを試料面に平行に位置微調整する。両者のマークが一致すれば、薄板のマークを通る2直線の交点、つまり、薄板の中心の真下に注目箇所が位置していることになる。
【0055】
次に、ステップS110でプローブを微速で降下させ、試料面に接触させ、接触の確認(ステップS120)と同時にプローブ降下を停止させる(ステップS130)。ここで、ステップS140として薄板を試料面に2箇所程度のFIBAD膜で固定する。薄板の固定後、プローブの薄板に近い箇所でFIB照射による切断を行なう(ステップS150)。これにより、薄板は目標箇所を薄板の中心に位置するように覆うことができ、しかも、固定までの工程で、目標箇所はFIB照射を受けておらず、目標箇所の表面の損傷は殆どないと言える。最後にステップS160で、プローブを退避させる。
【0056】
この後、目標箇所(薄板中心)が残るように薄板と共に試料をFIB加工してSTEM試料とするが、この工程はすでに上述した方法に依ればよい。
【0057】
〔実施例6〕
本実施例は、薄板を試料表面に移設して、試料表面の形状をSEMもしくはSTEMで観察するための試料加工方法および観察方法である。試料表面の形態は、平坦な場合、規則的な凹凸を有する場合、不規則的な凹凸を有する場合、微小な付着物もしくは微小形成物を表面に存在する場合である。
【0058】
図11は、凹凸表面を有する試料面に薄板を接着させる例を示す断面模式図である。図11(a)は、試料237の表面が平坦な場合、又は、規則的な凹凸があるが表面が平坦な場合の例を示している。この場合には、薄板235aとして、接触面238が平滑なものを使用すればよい。この薄板235aは図6や図7で説明したようにFIBで作製することが出来る。図11(b)は、試料237表面がドライエッチング加工したような規則的な凹凸である場合の例を示している。この場合には、接触面238を試料237表面の凹凸形状に合わせた形状としてもよい。接触面238の形状を試料237表面の凹凸形状に合わせた薄板235bを用いることによって、FIBによる試料237の断面加工時に断面に生じる加工縞を最小限に抑えることができ、断面の解釈に誤解を生まない。
【0059】
観察対象物が図11(c)のように試料237表面に付着した微小異物239cや、図11(d)のように試料237表面に発生した微小突起239dの場合、さらには、FIB照射によって対象物が損傷を受けたり消滅するような場合には、図11(c)のように厚さ方向に凹みを有する凹型薄板235cを用いる。凹型薄板235cの製造方法については、次の実施例で説明する。重要な点は、観察対象239c,239dを凹型薄板235c,235dの凹み部240c,240dで覆い、観察対象239c,239dに直接接触しないようにすることである。このような凹型薄板235c,235dを用いることにより、微小異物239cや微小突起239dは、薄板235c,235dの接着力で変形することもなければ、FIB照射によるスパッタも起こらない。また、微小異物239cや微小突起239dが薄片化した試料の厚さより小さい場合、試料作製の際に、微小異物239cや微小突起239dにFIBを直接照射することなく元の形状を維持したまま試料加工でき、微小異物239cや微小突起239d全体をSTEM観察することができる。
【0060】
なお、薄板235cに設ける凹み部の断面は、凹み部240cのように矩形に限ることは無く、対象物に直接接触ないように凹部を有していれば良く、図10(d)に示す凹み部240dのように円弧状でもよい。
【0061】
次に、薄板の面内形状について説明する。微小薄板はこれまでに説明した矩形に限ることはなく、例えば、図12に示したような種々の形状が適用できる。ここで、図12に示した薄板に共通した特徴は、試料上の注目部に薄板の中心を正確に設置するために、マークを有していることにある。
【0062】
図12(a)に示した薄板は、薄板245aの4辺の中心に三角の切欠きマーク246aを配置している。これら4個の切欠きマーク246aのうち、互いに向かい合う切り欠きマークの頂点を結ぶ2直線の交点がこの薄板245aの中心である。互いに向かいあう切欠きの頂点を結ぶ2直線の延長線上に試料上のマークが一致するように薄板245aを移設すると、試料上の目的箇所は薄板中心の直下にあることになる。
【0063】
図12(b)に示した薄板は、三角形の突起マーク246bが薄板245bの4辺の中心に有する形状である。この薄板は、図10(a)に示した薄板に比べて試料上の小さなマークについても正確に位置合わせできる効果がある。
【0064】
図12(c)は4辺の中心内側付近にT字型の貫通マーク246cを設けた薄板245cを示し、図12(d)は4辺の中心内側付近にL字型の貫通マーク246dを配置した薄板245dを示している。互いに向かい合う2個のT字もしくはL字の中心を結ぶ2直線の中心が、薄板245c,245dの中心である。
【0065】
これらのマーク246a,246b,246c,246dは、マークが特異な形状をしているため、試料表面や薄膜を画像化し、その画像からマークのみを認識し、特定しやすいことも特徴である。画像認識しやすいマークを採用することによって、試料上の目標箇所に薄板の中心を設置させる作業を、薄板のマークを画像認識し、向かい合うマークを結ぶ2直線上に試料上のマークが位置するようにプローブを制御することで、装置操作者ではなく無人自動で行なえる。例えば、中央制御装置47からプローブ制御、ステージ制御、ノズル制御を行うことで、図10で説明したような作業フローを自動的に行なうことができる。薄板上のマークを正確に認識させるためには、試料上に現れにくい人工的、幾何学的形状で、かつ、2個のマークを結ぶ直線が一意的に決まりやすい形状とすることが重要である。
【0066】
〔実施例7〕
ここでは、図11に示したような、観察対象に直接接触しない凹型薄板の作製方法について説明する。この薄板は次の3方法、(1)電鋳(エレクトロフォーミング)法、(2)半導体製造プロセス法、(3)マイクロサンプリング法で作製することができる。順に説明する。
【0067】
電鋳による凹型薄板の製造方法を図13で説明する。まず、図13(a)に示すように、金属基板251上に感光性のレジスト252を塗布する。レジスト厚さは、出来上がりの凹型薄板の厚さよりも同等もしくは若干厚くする。例えば0.5μm程度である。次に、図13(b)のように、所望形状を遮光するマスク253をレジスト252に密着させて露光する。その結果、図13(c)のように、露光されたレジスト252Bは硬化し、露光されなかったマスク253直下のレジスト252Aは変質しない。次に、現像すると、図13(d)に示すように、露光を受けて変質したレジスト252Bは現像によって変化せず、露光を受けていない所望形状のレジスト252A部が除去され、開口部254が形成される。
【0068】
次に、図13(e)に示すように、この状態で金属基板251ごと電解液(図示せず)に浸漬させ、金属基板251と金属溶液電解液に漬けた電極間に電圧を与えることで、レジストが除去された開口部254に電解液成分の金属薄板255が析出する(メッキされる)。電解液から金属基板251を取り出し、図13(f)に示すように、レジスト252B、金属薄板255の一部に掛けて再度レジスト256を塗布し、図13(a)から図13(d)と同じ工程を経て、金属薄板255の凹部の大きさの開口257を設ける。
【0069】
次に、図13(g)に示すように、金属薄膜255に設けた開口257に対してドライエッチングや反応性イオンエッチングを行なうことで、図11(c)のような矩形の凹部258ができ、酸に浸漬することでウェットエッチングされ、図11(d)のような円弧状の凹部が形成される。最後に、金属基板251をレジスト除去液に浸漬することで、図13(h)のように目的とする凹部258を有する微小薄板255が作製できる。
【0070】
半導体製造プロセスに依っても、同様に凹型薄板を作成することができる。上記方法の図13(e)に示した工程で、メッキ工程の代わりに半導体プロセスのCVD工程を適用し、図13(g)の工程でドライエッチングを施すことで、すべて半導体プロセスで微小薄板255を作製することができる。寸法精度は、上記電鋳方法と比較して精度よくできる。
【0071】
マイクロサンプリング法による凹型薄板の製造方法を図14で説明する。例えばシリコン板を原材料として凹型薄片を作成する工程を考える。
【0072】
図14(a)に示すように、試料基板270に対して凹型薄片が出来上がると想定した領域271の両側にFIB272によって深い凹孔273a,273bを設ける。図は判り易くするために、FIB以外の視点で見た図で示されている。領域271の幅、つまり、深い凹孔273a,273bの間隔は仕上がる薄板の厚みになるので、深い凹孔の間隔は例えば1μm程度とする。図14(b)に示すように、領域271の中央部に厚みが半分程度になるように溝274をFIBによって加工した後、試料270を傾斜させる(図では判り易くするために試料傾斜は状態は書かれていない)。領域271の周囲に切り込み275a,275b,275cを加工して、支持部276のみで領域271が支えられた状態にする。ここで図14(c)のように、プローブ277を視野内に導入し、切り込み275aの側面に接近させ、FIBAD膜278で接続する。その後、FIB272によって支持部276を切除することで、領域271は試料270から分離される。図14(d)のようにプローブ277を上昇させることにより、目的とする領域271は薄板271Aとして摘出される。
【0073】
次に、図14(e)に示すように、摘出した薄板271Aを試料270の別の場所に搬送し、試料表面に接触する程度まで近接させる。この状態で、プローブ277と薄板271Aを接続しているデポジション膜278もしくはプローブ277の先端、もしくは薄板271Aの一部をFIB272で除去する。この時、溝274が試料270表面に面するようにプローブ277を操作しながらプローブ277と薄板271Aを分離する。図14(f)は、薄板271の溝274が試料表面に面するように分離された状態を示す。この時、薄板271および溝274は任意の方向を向いているため、プローブ支持部の導入方向、作成するSTEM観察試料の形態、向きを考慮して試料ステージを回転させることで向きを補正する。重要な点は、プローブの導入方向は作業のたびに大きく変化しないため、作成したプローブ先端形状が次の作業、試料に関わるため、所望のSTEM試料の取り出し方向を予め定めておき、その方向に合わせて薄板の向き、溝の向きを決め、プローブ支持部に接続することである。本例では溝274の向きは、観察試料との関係から画面上、上下方向とした。図14(g)に示すように、試料ステージの回転補正後、薄板271Aを先端に接続するプローブ支持部261を視野に導入し、薄板271Aに接触させる。プローブ支持部261の先端部と薄板271Aが接続されるように、FIBAD膜279をFIB272によって形成する。このようにして、プローブ支持部261の先端に凹部を有する薄板271Aを有するブローブが作製できる。図14(h)では、このプローブを検査試料280上のマーク281を基準にして、プローブを試料面に接触させる。符号282は半導体ウェーハに形成されたデバイス内部構造を電気的接触を取る為のプラグの上面を示す。プラグの欠陥部は2個のマーク281の交点に位置している。
【0074】
上述した薄板271Aは、下面に凹部を有しているため、プラグ上面に直接接触することはない。従来、この様な試料の断面を観察するには、FIBAD膜を注目プラグ上に形成して断面加工や薄片加工を施していたため、FIBAD膜形成時にFIB照射よってプラグ内に電荷が過剰に注入され、本来、高倍率でのTEM観察注目部であるプラグ底面の原子層オーダの薄膜が損傷を受け、本来の欠陥の形態を観察できないという問題を生じていた。これに対して、本方法では、プラグ上面を非接触で覆い、尚且つ、FIBの直接照射を受けることがないため、注目部のプラグに電荷が注入されず、また、試料表面に直接FIB照射を受けることがないため、本来の欠陥の形態を保存することができ、高倍率の観察が可能になる。
【0075】
〔実施例8〕
本実施例は、薄板を試料表面に移設して、試料表面の形状をSEMで観察するための試料加工方法と観察方法に関する。
【0076】
図15により、試料加工方法を示す。図15(a)のように、先に薄板292を作成し、プローブ289に接着させ、プローブ289を移動させることで、薄板292を試料285の表面に接地させる。この時、薄板292の一部と試料表面に掛けてFIBAD膜293を形成し、薄板292を試料285に固定する。その後一旦、プローブ289と薄板292をFIBによるスパッタによって分離する。図15(b)では、固定した薄板292の周囲にFIB297を照射し、支持部286を残して試料285から分離するように溝加工を行なう。図15(c)では、再度プローブ289と微小試料294をFIBAD膜290で接続し、微小試料294を支持している支持部286にFIBを照射して切断し、微小試料294を母試料である試料285から分離する。その後、プローブ289を上昇させることで、微小試料294は試料285から摘出できる。
【0077】
次に、図15(d)に示すように、摘出した微小試料294を、プローブ289と試料ステージ(図示せず)の移動により、微小試料固定具295の上面に搬送し、接触させる。接触後、微小試料294と微小試料固定具295をFIBAD膜296,296’によって固定する。プローブ289先端にFIB照射して、微小試料294とプローブ289を分離する。図15(e)に示すように、これらの作業によって、摘出、移送した微小試料294は、微小試料固定具295上に自立できる。次に、薄板292を固定しているFIBAD膜293をFIB297でスパッタ除去し、薄板292が微小試料294から分離し易くする。次に、図15(f)のようにプローブ289を上昇させることで、微小試料294から薄板292を除去でき、微小試料294の表面、つまり試料285の表面が露出し、試料285のFIB損傷のない試料本来の表面が観察できる。さらには表面損傷のない表面直下の断面も観察することができる。特に、このような形態の試料片では、表面形状を表面に対して数度の低角度からの観察が可能となるため、断面および表面の凹凸状態を詳しく観察することができる利点がある。
【0078】
このような試料加工方法や試料観察方法は、電子線照射によって変形を起こし易い半導体デバイスにおけるフッ化アルゴン用レジストや低誘電率膜などの表面形態を無損傷で評価するのに有効性を発揮する。
【0079】
なお、図15(e),(f)において、微小試料294を微小試料固定具295に固定した後に、FIB照射によってプローブ289を薄板292から分離し、FIBAD膜293を除去し、プローブ283を薄板292に接触させつつ移動することで薄板292を押しのけて、薄板292を微小試料294から分離してもよい。また、図15(e)において、薄片化加工を施せば、STEM試料となり、試料内部の観察も行なえて、本方法特有の損傷のない試料表面近傍の高倍率観察が可能となる。この場合、薄板を除去することなく試料を観察しても差し支えない。
【0080】
さらには、試料表面が電子ビームやイオンビームに非常に敏感で、これ等のビーム照射によって損傷を受けやすい試料の表面を観察する場合で、本実施例のように敢えて摘出する必要がない場合でも、本発明による方法は適用でき、一旦、薄板で表面を覆い、SEMなどで観察しやすい方向設定や、焦点調整などと施した後、画面撮影直前に薄板を除去することで、ビーム損傷を最小限に抑制して表面観察することができる。
【0081】
〔実施例9〕
本実施例8は、半導体プロセスのうち、コンタクトホールのエッチング直後のホール形状の評価に本発明による試料加工方法を適用したエッチングホール評価方法である。図16で従来の試料加工方法とそれによって得られた試料の問題点を、図17で本発明による方法で得られた試料の効果を説明する。
【0082】
従来、エッチング直後のコンタクトホール形状を高分解能観察する場合、コンタクトホール直径部が通過するように試料をへき開して断面を高分解能SEM観察するか、ホール内部にデポジション膜を充填して薄片化し、STEM観察していた。へき開による断面露出とSEM観察法は簡便だが、へき開面が微細ホールの直径を正確に通過しているか否かの点で信頼性が低く、信頼あるデータ取得には数多くの計測が必要であった。また、断面のSTEM観察はへき開面のSEM観察に比べてはるかに正確に計測できるが、ホール内にFIBAD膜を充填すると次のような問題を生じ、必ずしも良い結果が得られなかった。
【0083】
図16(a)は、コンタクトホール形状を高分解能で観察するためのSTEM試料を模式的に描いたもので、薄片試料300にコンタクトホール301の列が半断面状態で露出している。図中、符号330は電子線入射方向(STEM観察方向)を示している。従来、このような薄片試料を作製する場合、FIB照射による試料断面のダレを避けるために、試料表面およびコンタクトホール内にFIBAD膜302を充填するのが通例である。このように薄片加工した試料をSTEM観察した断面透過像を図16(b)に示す。試料基板303にコンタクトホール301が形成され、試料表面およびコンタクトホール301内にはFIBAD膜302が形成されている。
【0084】
しかしながら高分解能観察すると、本来垂直性のあるホールの開口部がFIB照射によってラウンド状態304になっている。また、試料表面、コンタクトホール表面には本来は無いはずの非晶質層305が形成され、試料本来の表面は保存されていない。特に、コンタクトホールの底面はエッチング工程における損傷を発生しないように形成し、その評価が注目されているにも関わらず、試料作製によってホール底面に損傷領域306を作り込んでおり、非常に好ましくない。さらには、コンタクトホールのアスペクト比(ホール直径に対する深さの比)が大きくなると、ホール内にFIBAD膜が埋まりきらず、空洞307が形成され、空洞307を有したままFIBによる断面加工を行なうと空洞307の下に縦縞308が形成される。このような空洞307や縦縞308はエッチング工程で発生したものでなく、試料作製工程で発生した人工構造物であり、本来の試料評価の妨げとなる。特に、ホール底部に掛かる縦縞308は、重要なホール底部の形状評価を妨害するため、試料作製段階でこのような変質や人工構造物の発生を発生する試料加工方法は排除しなければならない。
【0085】
一方、図17(a)は、図1に示した試料加工設置を用いて、図4の薄片化工程と、図15の薄板除去工程を用いて得られた、コンタクトホール列が薄片内に入れ込むように作成した薄片試料311の外観図である。薄片試料310はシリコン基部311にコンタクトホール312列が保存された形状で、試料表面313には従来のFIBAD膜は無い。図16(b)は、図16(a)の透過像であり、試料内部にあるコンタクトホール312がコントラスト良く観察することができている。しかも、従来法で問題となっていたホール開口部314のラウンド形状はなく垂直形状を保持している。また、試料表面313やホール底面315にはFIB照射による損傷領域(非晶質層)は無く、コンタクトホール本来の形状を観察することができる。さらに、この試料に対して極微量の元素分析を行っても、FIBAD膜の組成の信号によって試料本来の組成分析が妨害されることはなく、極微量分析にも信頼あるデータを得ることができる。
【0086】
図16(c)は薄片試料310を傾斜して得られた透過像で、コンタクトホール312の開口314部や底部315の形状、直径を正確に計測することができる。図16(a)や(b)のような断面を露出する方法より、はるかに正確にホール直径を計測することができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施例である試料加工装置の基本構成図。
【図2】本発明の一実施例である薄板組の設置手段を説明する図。
【図3】本発明による薄板組の例を説明する図。
【図4】本発明によるSTEM試料作製の手順を説明する図。
【図5】本発明の一実施例である微細薄板の固定法を説明する図。
【図6】本発明による試料作製の実施手順を説明する図。
【図7】本発明の一実施例である微細薄板の固定手順を説明する図。
【図8】本発明の一実施例である微細薄板の別の固定法を説明する図。
【図9】本発明の一実施例である微細薄板の別の固定法を説明する図。
【図10】図9の方法の手順を示すフローチャート。
【図11】微小薄板の断面形状を説明する図。
【図12】微小薄板の平面形状とマーク形状を説明する図。
【図13】微小薄板の作製手順を説明する図。
【図14】微小薄板の別の作製手順を説明する図。
【図15】本発明による試料作製手順を説明する図。
【図16】従来の試料加工方法によって生じる問題点を説明する図。
【図17】本発明による試料加工方法で得られた試料を説明する図。
【図18】類似の公知例との差異を説明する図。
【符号の説明】
【0088】
21…試料加工装置、23…試料、25…FIB照射光学系、30…薄板、31…薄板ホールダ、32…ウェーハホールダ、47…観察断面、51a,51b,51c,51d…移設薄膜部、54a,54b…プローブ、210…薄板組、211a,211b…分離した薄板、216…薄板、225…マーク、239c…微小異物、239d…微小突起、274…溝、292…薄板
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームによる試料加工等に関する。例えば、走査電子顕微鏡による断面観察のための試料や(走査型)透過電子顕微鏡用の試料を集束イオンビームによって加工する試料加工方法、試料加工装置及び試料解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや磁性デバイスの微細化は年々進歩し、微細領域の高分解能構造観察や超高感度元素分析には走査電子顕微鏡(以下、SEMと略記)や透過電子顕微鏡(以下、TEMと略記)、走査型透過電子顕微鏡(以下、STEMと略記。また、TEMとSTEMとを代表させて以下STEMと略記する)が不可欠となっている。特に、試料の特定断面についてのSEM観察やSTEM観察には、高精度の断面形成加工技術や薄片試料加工技術が必須である。これを実現するために、集束イオンビーム(以下、FIBと略記)による加工が多用されている。
【0003】
FIBを用いた試料断面SEM観察のための加工は次のように行なう。まず、断面加工位置を含む領域にFIBアシステッドデポジション膜(以下、FIBAD膜と略記)を形成する。このFIBAD膜はFIB加工部を含む試料面に有機ガスを噴き付け、膜形成領域にFIB照射すると、有機ガスが分解してガス成分の例えば金属が膜として形成される。FIBAD膜を形成する理由は次にある。表面に凹凸が存在する材料をFIBで断面加工すると、表面凹凸を反映して、元々の試料構造とは無関係な縞状の人工構造が形成される。また、FIBの外周の低電流ビーム(これを裾とも言う)によって、主たる加工領域の周辺がFIBの裾で僅かに削られ、断面と平面の交点部が垂直にならず、削られた部分の情報が欠落する。このような断面をSTEMやSEMで観察すると、本来あるべき形状とは異なった形状が観察される。このような問題を避けるために、試料表面を平坦化する目的でFIBAD膜を形成する。FIBによるTEM試料加工方法については、特許第3547143号公報「試料加工方法」に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3547143号公報
【特許文献2】特開平5−28950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したFIBを用いた断面SEMやSTEM観察用の現行の試料加工方法では、試料加工時における試料最表面のFIBによる損傷が顕在化してきた。
【0006】
SEM観察すべき断面でも、TEM観察すべき薄片試料でも、母試料の断面作製の際に、母試料表面の平坦化と表面保護のためにFIBAD膜を形成すると、試料の最表面はFIB照射によって必ず僅かにスパッタ除去されたり、損傷を受けたり、イオン注入されたりして、厳密には母試料表面は元々の構造を保存していない。このため、母試料の最表面の構造や組成の分析に対する信頼性が低下する。FIBAD膜作製時のFIB照射損傷は避けられないため、最表面を無損傷で断面観察するためのSEM試料やSTEM試料を加工することは困難であることが顕在化してきた。たとえ表面にFIBAD膜を付けずに断面を作製するとしても、加工すべき箇所をFIBで探すことで試料の最表面は損傷を受けたり、FIB自身が有する裾(低電流のビーム拡がり)によってビーム走査領域より僅かに広がった周辺が損傷を受け、垂直断面加工を行なったつもりでも表面と断面の交点部は直角ではなく丸みを有するように加工されてしまう。
【0007】
このような問題点に対して、FIBAD膜を用いずに加工表面に膜形成する方法として、FIBAD膜を形成する前に蒸着膜を形成する方法がある。この場合、(イ)試料を別装置である蒸着装置で処理しなければならないため時間的ロスが大きい。(ロ)観察したい特定のミクロン領域のみに蒸着膜を形成することは容易ではない。特に、大口径のウェハの中の特定ミクロン領域にのみに蒸着膜を施すのは至難の業である。(ハ)対象物が深い凹凸を有する場合、蒸着膜が深い凹部の底まで均一に埋まらないため、FIBで断面加工を行なうと、上述のように断面に縞状の人工構造が形成される等の問題点がある。
【0008】
つまり、以下の問題点があった。
(1)FIBによる断面加工や薄片加工に先立って行なわれていたFIBAD膜による試料表面平坦化作業を行なうことなく、簡便に表面保護膜を形成する試料加工方法を提供すること、
(2)時間的ロスが少なく、試料の観察最表面がFIB照射損傷受けることない試料加工方法を提供すること、また、
(3)FIBを用いて得られた試料の最表面および表面下の構造を正しく評価できる評価方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、好ましくは、従来、FIB試料加工の際に試料表面に形成していたFIBAD膜の代わりに薄板を用いる。対象試料とは別の薄板を加工位置に移設して保護膜とする。
【0010】
薄板は試料室内の試料近傍に予め準備しておき、薄板の移設は試料加工装置の試料室に備えつけた微動手段によって行なう。このように移設した薄板と共に直下の試料も同時にFIB加工してSEM観察用試料もしくはSTEM観察用試料を作製する。
【0011】
好ましくは、予め真空試料室内に準備した薄板を試料表面に移設する工程と、集束イオンビームを薄板に照射して薄板と共に試料を加工し、薄片試料を作製する工程と、薄片試料を試料から摘出する工程と、薄片試料から薄板を除去する工程と、薄片試料の表面を荷電粒子ビームによって解析する工程とを有する試料解析方法である。ここで、解析とは、観察、計測、分析を意味する。
【0012】
試料表面に微小異物や微小突起があるときは、それを覆うように薄板を設置する。その場合、薄板は一部の厚みが薄い凹形状を有するものとし、薄板の凹形状が溝形状、矩形面形状、又は略球面とするとよい。試料の加工位置の延長線上にマークを形成し、薄板に予め形成されているマークを試料上に形成されたマークに合わせて試料表面に移設すると都合がよい。
【0013】
また、好ましくは、真空試料室内で試料を載置して移動する試料ステ−ジと、集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射光学系と、集束イオンビームの照射によって試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、検出器からの信号を用いて試料像を表示する画像表示手段と、集束イオンビームの照射部に形成するデポジション膜の原料ガスを供給するガス供給手段と、真空試料室の内部で薄板を搬送して試料の表面に移設する薄板搬送手段とを有し、薄板は周縁部に位置決め用の開口、突起もしくは切り欠きからなるマークを有することを特徴とする試料加工装置である。マークは、薄板の略中心で交差する直交2直線と薄板端部との4交点、又は上記2直線上で薄板端部に近い箇所に設けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、簡便に試料表面を保護することができる。例えば、従来、FIBによる断面観察用試料加工やTEM試料加工に先立って行なわれていたFIBAD膜形成を行なうことなくまた、試料最表面にFIB照射損傷を与えることがないため、試料面含む断面の高分解能評価が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
〔実施例1〕
最初に、図1と図2を用いて本発明の試料加工方法を実現する試料加工装置の構成例について説明する。図1は、本発明による試料加工装置の構成例を示す図である。試料加工装置21は、試料ステージ22に載置した母試料23に対してFIB24を照射するFIB照射光学系25、FIB24の照射部から発生する二次電子や二次イオン等二次粒子を検出する検出器26、FIB照射領域にFIBAD膜を形成するために必要なガスを供給するガス供給手段27を備える。ガス供給手段27はガス照射部が口径50μm程度のノズル28を有しており、FIB照射部に限定してガス供給することができる。母試料23の表面に移設する微小薄板30は薄膜ホールダ31に設置されており、この薄膜ホールダ31は母試料23であるウェーハを直接設置するウェーハホールダ32に設置されていて、必要に応じてFIB視野に移動させ、大きめの薄膜部材から必要な大きさの微小薄板30をFIB24で切除するか、所定の大きさの微小薄板30を準備しておき、これらをプローブ33で母試料23の加工領域に搬送できる。プローブ33は、プローブ微動機構34によって試料室35内で少なくとも3軸(垂直方向、FIBの走査方向に平行な方向と直交する方向)に移動できる。微小試料固定具36は母試料23から摘出した微小試料を固定する部材で、この微小試料固定具36を微小試料固定具ホールダ37に搭載して、必要に応じて傾斜させることができる。ウェーハホールダ32の具体的な構成については図2にて後述する。
【0017】
母試料23の表面や加工断面はSEM光学系39によって観察し、SEM像を表示手段40に表示できる。各部の制御は、中央制御装置47と連結されたSEM制御装置41、プローブ制御装置42、FIB制御装置43、ガス供給制御装置44、二次電子検出制御装置45、ステージ制御装置46によって行われる。中央制御装置47は、各機構系を移動させるなどの命令を下す機能、及び各部からのデータを集積し、演算や記憶を行う機能などを有している。装置構成は図1に限るものではなく、集束イオンビーム照射光学系の光学軸は、試料移動ステージ面に対して常に傾斜状態にあってもよい。
【0018】
次に、薄膜ホールダ等を搭載するウェーハホールダ32について図2で説明する。ここで用いた母試料23は直径300mmのシリコンウェーハであり、試料室35内で移動可能な試料ステージ22に着脱できるウェーハホールダ32に載置されている。ウェーハホールダ32には、母試料23以外に、微小試料固定具36を設置する微小試料固定具ホールダ37と、移設用の微細薄膜又はこの微細薄膜を切除できる薄膜部材30を保持する薄膜ホールダ31が搭載される。微小試料固定具ホールダ37はホールダデッキ38上に搭載されている。本実施例では5個搭載されており、ホールダデッキ38は直結された小型モータないし傾斜機構39によって傾斜でき、実質的に微小試料を傾斜させることができる。この構造により、摘出した微小試料の加工面をFIBもしくはSEMで観察したり、加工面をさらに自在に加工したりすることができる。
【0019】
微小試料固定具ホールダ37には微小試料固定具36が一個、もしくは複数個搭載でき、さらに、各微小試料固定具36にも複数の微小試料が固定できるため、ホールダデッキ38には合計多数個の微小試料が搭載できる。具体的数値として、各微小試料固定具36には5個ずつの微小試料が固定されていて、この微小試料固定具36を搭載した微小試料固定具ホールダ37が5個、ホールダデッキ38に設置されていて、ホールダデッキの1度のローディングにより、25個の微小試料を摘出、加工を行なうことができる。また、薄膜部材30は、ウェーハホールダ32上に着脱可能に設置された薄膜部材ホールダ31に固定されている。保護用薄膜は、プローブを利用して薄膜部材30から必要に応じて切除し、母試料23の所望の位置に移設することができる。
【0020】
薄膜部材30の具体例を図3に示す。図3(a)は複数種の大きさの微小薄板部材が実装された例を示し、移送すべき微細薄膜となる移設薄膜部51a,51b,51c,51dと、分離しやすいように事前に設けた開口部52と、FIBによる切りシロとなる切取り部53から構成される。薄膜部材30の具体的寸法は縦4mm、横5mm、厚さ1μm程度で、撓みを防ぐために薄膜部材30の裏面の適所に補強用のリム(図示せず)を配している。素材は銅や白金のような金属でも良いし、シリコンでもよく、半導体プロセスなどを用いて作製する。開口部52の幅を1〜2μm程度とし、また、切取り部53は1〜2μm程度としておくと、FIBによる切除時間が数10秒で済み、切除前にプローブを移設薄膜部51の隅に固定しておくことにより、1分程度で微小薄板を分離できる。薄膜部材は数多くの移設用の微小薄板が実装できるように構成されており、図3(a)はその一例に過ぎない。
【0021】
図3(b)は、移設薄膜部51aと51bを薄膜部材30から摘出している様子を示している。例えば、移送薄膜部51aについて説明すると、まず、移送薄膜部51aの一端56をFIBで切除し、次に移送薄膜部51aの終端部付近にプローブ54aを接触させ、その先端部と移送薄膜部51aをFIBAD膜55aで接続する。次に、微小薄板の所望の長さに相当する位置57にFIBを照射して切断する。移送薄膜部51aの場合、幅が3μmであるため、FIB照射による切断は1分程度で完了する。これにより移送薄膜部51aは薄膜部材30から完全分離でき、プローブ54aによる移動により移送薄膜部51aを所望の場所に搬送することができる。同様に、移送薄膜部51bについても上述の手順により搬送でき、試料の所望に位置に移設することができる。図1では本発明による試料加工装置の構成例として、集束イオンビーム照射光学系が試料移動ステージと垂直な関係となる場合を含む構成例を示した。
【0022】
ここで本発明に類似した公知例を示し、本発明との相違を明確にしておく。特開平5−28950号公報(特許文献2)には、真空中で可動マスクを利用して観察用断面を加工する方法が開示されている。図18により説明する。特許文献2の目的は、断面加工の加工位置精度を向上させ、微細なデバイスの所望位置の断面を形成すること、そして該断面の構造を観察可能とすることである。これを実現するために特許文献2では、FIB501によって試料502に所望の断面を形成する加工方法において、まず大電流のFIB501で角孔503を加工し(図5(a))、続いて、真空中において移動可能で、結晶の劈開面などを端面とした可動マスク504をマニピュレータ505で所望断面に近接させて設置し(図5(b))、微細なFIB501’によって可動マスク504の直線的な端面に沿って走査して仕上げを行なう(図18(c))。このような方法によってクリアな断面506が得られるとしている(図18(d))。
【0023】
一方、本発明は以下の点で特許文献2と異なる。(1)本発明は、薄板を試料表面に移動させたのち、FIBによって断面加工を施すが、その際、薄板(特許文献2では可動マスク)の端面を利用することはせず、薄板と共に母試料も同時にFIB加工する。つまり、薄板と薄板下の試料を同時に加工する点において本発明は特許文献2とは全く異なり、本発明による薄板は必ずしも直線的端面を有する必要はなく、矩形形状である必要もない。(2)本発明の薄膜は搬送用のプローブに常に接続されているのではなく、必要時にプローブと接続し、不要となった場合や母試料の表面に固定された場合は接続を外す。また、(3)本発明における薄板はFIBによる断面仕上げ加工時のみに使用するのではなく、最初の粗加工から用いる。このような点で、本発明は特許文献2とは根本的に異なる。
【0024】
〔実施例2〕
本発明による試料加工方法の典型的な実施例として、以下、図4を用いて試料加工方法の手順について説明する。
(i) 図4(a)に示すように、まず、予め移設すべき薄板を加工する。これはTEM試料を作成する直前に同じ環境下で作成しても良いし、別の方法で作成しておいた部材81を試料室に持込んでおいても良い。ここでは、試料の近くでFIBによって作成する例を示した。移設する薄板の大きさは2×10μm、厚さ0.5μmとして、まず200×200μm、厚さ0.5μmの部材81に対してFIB82を走査して『コ』の字の形の溝83を開けることで、幅2μm、長さ10μmの片持ち梁84を作成しておく。ここで用いた部材81の素材はシリコンである。勿論、大きさ、素材はこの例に限定されるものではない。
【0025】
(ii) 次に、図4(b)に示すように、観察対象の母試料となる試料85の目的位置を含んで、従来のマイクロサンプリング法と同様に、一点の支持部86で支えられた楔型微小試料87をFIB88,88’による穴加工により作成する。具体的大きさは、幅4μm、長さ15μm、深さ(試料の高さ)15μm程度となるように、母試料85に対して垂直、傾斜方向から入射させたFIB88,88’で作成した。
【0026】
(iii) 次に、図4(c)に示すように、先に作成した片持ち梁84の先端部にプローブ89を接触させ、プローブ89先端が片持ち梁84の先端部に固定されるようにFIBAD膜90を形成する。プローブ89の固定後、片持ち梁84の他端91をFIB照射して矩形の微細薄板92を切除する。
【0027】
(iv) 図4(d)に示すように、上記の作業により、移送すべき微細な矩形の薄板92が分離でき、プローブ89の移動によって目的位置に移送できる。
【0028】
(v) 図4(e)に示すように、先に作成した楔型の微小試料87の表面に、プローブ89を移動させることで薄板92を接触させる。この時、薄板92の一部と試料表面に掛けてFIBAD膜93を形成し、薄板92と微小試料87を一体化させる。
【0029】
(vi) 次に、図4(f)に示すように、微小試料87を支持している支持部86にFIBを照射して支持部86を切断し、微小試料94を母試料である試料85から分離・摘出する。
【0030】
(vii) 図4(g)に示すように、摘出した微小試料87を、プローブ89と試料ステージの移動により、微小試料固定具95の上面に搬送し、接触させる。接触後、微小試料94と微小試料固定具95をFIBAD膜96,96’によって固定する。その後、プローブ89先端にFIB照射して微小試料87とプローブ89を完全分離する。これらの作業によって、微小試料87は微小試料固定具95に自立することができる。
【0031】
(viii) 図4(h)に示すように、最後に、移設した薄板92と共に、予め敷設したマークを基準に両サイドをFIBによって除去して観察薄膜部97を形成してSTEM試料が完成する。
【0032】
薄板の移送方法は上記の方法に限定されることはなく、図5に示した方法でもよい。図5(a)は、移設される薄板211を複数枚備えた薄板組210で、其々の薄板211は支持部212のみで支えられ、薄板211の間は空間213になっている。薄板組210は移動可能なプローブ214の先端に予め固定されている。必要に応じてプローブ214を試料215の所望の位置に移動させ、接触もしくは近接させて支持部212をFIBによって切断する。これにより、薄板211は薄板組210から分離され、試料215に試料表面保護の役割を果たす薄板211aとして移設される。図5(b)における符号212’はFIBによる切断部を示している。)
【0033】
また、図5(c)は薄板が複数個利用できる別の例である。本例は比較的大きな薄板基板216がプローブ214の先端に固定された形態で、必要に応じて試料215の所望位置にプローブ214で移動させ、接触もしくは近接させて所望の大きさの薄板をFIBによって切断する手法である。図5(d)は、薄板基板から所望の大きさの薄板211bを符号217で示されるFIB切断部で分離し、切断分離された薄板211bを所望位置に設置した状態を示している。このような手法、手段によって、矩形に限らず所望の形状で所望の大きさの薄板を試料上の所望位置に移設することができる。
【0034】
図6は、上述の薄板移設方法を用いて、試料の注目部の周囲を加工する方法について説明する図である。
【0035】
図6(a)は、半導体デバイスにおけるある深さの平面を示し、プラグ221が格子点状に集積した試料220の平面図である。注目する欠陥プラグ222に対して位置特定用のマーク223を公知の技術で施した様子を示している。
【0036】
図6(b)において、プローブ支持部228の先端に保持した薄板224を注目部上方に移動させる。薄板には、複数のマーク225が設けられているため、マーク225と試料上のマーク223が一致するように薄板224位置を調整する。このようにすることで、薄板のマークを通る直交2直線の交点の直下に注目部があることになる。マークの位置関係が崩れないようにして薄板を試料面に接着させる。
【0037】
図6(c)では、薄板224上のマークを残して両側をFIBによって凹孔226を加工している様子を示している。2個の凹孔226のうち、少なくとも一方の断面に対して斜めに照射することで、2個の凹孔226は注目部の深部で交差する。このような斜めに照射するためには、試料ステージを傾斜すればよく、本例の場合は2個のマーク225を通る軸を傾斜軸として試料傾斜して孔の深部に溝加工すればよい。
【0038】
図6(d)では更に、両凹孔226に重なるように試料面に垂直に孔227を開けることで注目部を含む微小試料が元の試料220から分離できる。
【0039】
このように、試料面に従来のFIBAD膜ではなく薄板を設置したため、FIB照射損傷が無く、試料本来の形状を観察することがきる。ただし、図6(a)から図6(b)に至る薄板224を設置するまでの僅かな時間、試料表面はFIB照射を受ける。この場合、装置に光学顕微鏡もしくは走査電子顕微鏡が付設されていれば、このような顕微鏡で大雑把な移動をさせて目標位置を覆うことが良い。この方法が取れない場合には、以下に説明する実施例3の方法に従うのが良い。
【0040】
〔実施例3〕
図7に、本発明の一実施例である薄板の別の固定方法を示す。ここでは試料表面にFIBを照射したくない場合、特に観察場所が特定されている場合の方法について説明する。
【0041】
(i) 図7(a)に示すように、試料表面にFIBを照射し、試料表面の構造やマーキングから特定の観察場所231を探す。この時、上記特定の観察場所231がFIB照射領域232(観察視野)に入らないようにする。これは、観察場所231からFIB照射寸法以上離れた特定の構造やマーキングなどの座標を光学顕微鏡やSEMあるいはCAD情報等で調べておき、これらの座標をステージ移動させることで注目する観察領域は視野外に位置することができる。
【0042】
(ii) 次に、図7(b)に示すように、観察場所の座標と特定構造の座標差分(オフセット分)を考慮して微細薄板235を固定したプローブ234を移動させ、FIB照射領域232の外にある観察場所231を内包するように、試料表面に接触させる。接触後、FIB照射領域232内にある微細薄板235の一部と試料表面に掛けてFIBAD膜236を形成し、薄板235と試料とを一体化させる。その後、プローブ234の先端にFIB照射して微小薄板235とプローブ234を完全分離する。
【0043】
(iii) 次に、図7(c)に示すように、試料ステージとプローブ234の同速度の移動により観察場所231がFIB照射領域232内に入るようにする。もしくは、FIB照射領域232をイメージシフトして、観察場所231がFIB照射領域232内に入るようにした後に、微小薄板235を固定するようにFIBAD膜236を形成し、プローブ234と微小薄板235を分離してもよい。このような微小薄板の固定方法により、観察場所231がFIB照射損傷を受けることなく微小薄板235を固定することが出来る。その後は、FIB照射により観察場所231の断面を出し、SEM又はFIBにより観察を行っても良いし、観察場所231を微小試料片として摘出した後、薄片化し、TEM又はSTEM観察を行っても良い。
【0044】
〔実施例4〕
本実施例では、図8により、実施例3とは異なる別の薄板235の固定方法を説明する。
(i) 図8(a)に示すように、特定の観察場所231の座標を光学顕微鏡やSEMあるいはCAD情報などで調べておく。これらの方法で調べた座標はFIBステージとリンク出来るシステムになっているので、観察場所231がFIB照射領域232内に入らないように予め指定座標に視野寸法以上の距離を加えオフセットするようにFIBステージ移動させる。
【0045】
(ii) 次に、図8(b)に示すように、微細薄板235が固定されたプローブ234をFIB照射領域(視野)232に移動させる。この段階では、プローブ234を試料に接触させない。
【0046】
(iii) 次に、図8(c)に示すように、予め調べた座標にFIBステージを移動させ、観察場所231がFIB照射領域232内に入るようにする。次に、FIBを照射し、二次電子像を見ながらプローブ234を試料表面に接触させる。この時、FIBをブランキング状態にしておいてもよい。ステージ移動停止後、プローブを徐々に降下させ、接触後プローブを停止させる。ここで、薄板235の一部と試料232表面に掛けてFIBAD膜236を形成し、薄板235を試料に固定させる。次に、プローブ234の先端部にFIB照射して微小薄板235とプローブ234を分離する。これにより、観察場所231がFIB照射損傷を受けることなく、微小薄板235を固定することが出来る。その後は、FIB照射により観察場所231の断面を出し、SEM又はFIBにより観察を行っても良いし、観察場所231を微小試料片として摘出した後薄片化し、TEM又はSTEM観察を行っても良い。
【0047】
〔実施例5〕
図9を用いて、本発明による薄板の固定方法うち、上記実施例とはさらに異なる実施例について説明する。本実施例で用いる装置は、基準位置にある試料面に垂直な位置関係にFIB光軸が配置された構成になっている。
【0048】
まず、目標とする箇所から遠く離れた試料面を視野に入れ、FIBの観察倍率を低倍率に設定して、図9(a)のようにプローブ234に連結された微小薄板235を視野中心に移動させる。この時、微小薄板235は試料表面から例えば100〜300μm離間させておくことで実質的なFIBの非照射領域を広くできる。この状態でFIBをブランキング状態にする。符号232Lは低倍率でのFIB照射範囲を意味している。
【0049】
次に、注目する観察箇所231の座標を入力し、試料ステージを移動させる。試料の注目箇所231を強調するために、別の手段でマークを施しておく。このマークは、例えば、低出力のレーザによって、注目部を交点とする直交2直線上にそれぞれ線分上に走査させてマークを形成した。なお、図9(a)では微小薄板に覆われているためマークは見えない。
【0050】
理想的には入力座標に対応する試料の注目箇所は画面の中央に移動するが、ステージ移動には多少の誤差を含むため、正確に中央ではなく、中心付近にある。薄板は予め試料面から離間させているため、試料面上の数10μmから数100μmの矩形領域が薄板の影となり、ステージ誤差量を考慮しても、試料面の注目箇所やその近傍のマークは必ず薄板235の影に入る。つまり、イオンビームによる試料表面への直接照射はない。この方法は、イオンビームの代わりに電子ビーム照射損傷を受けやすい試料に対して、電子ビームを遮る目的で用いてもよい。
【0051】
試料ステージの停止後、ビームのブランキング状態を解除し、プローブ234を徐々に降下(試料面に接近)させながら、観察倍率を上昇させていく。図9(b)のように予め設置しておいたマーク238が高倍率での観察画面232H内で、微小薄板235の外に出た時に、微小薄板のマーク237と試料のマーク238が一致するようにステージもしくはプローブ234の位置を微調整させながら、微小薄板235を試料面に接触させる。図9(b)のように試料面のマーク238と微小薄板のマーク237が一致していると、注目箇所はマークを含む2直線の交点が注目箇所となる。
【0052】
微小薄板235が試料に接触した時点で、プローブ234移動を停止させて、僅かな大きさのFIBADを薄板と試料面に付け、薄板を固定させ、プローブ234と微小薄板235との接続をFIBに照射によって切断する。このような一連の操作によって、試料の注目部にイオンビームもしくは電子ビームを照射することなく、注目領域231を薄板235のほぼ中心に移設できる。
【0053】
上記の作業手順をフロー図で示したのが図10である。まず、ステップS010では、FIBの観察倍率を低倍率もしくは最低に設定する。次に、ステップS020でFIBをブランキング状態にして、FIBが試料に照射されないようにする。つまり、SIM像は見られない。この状態で、予め観察座標として記憶している座標を入力して、画面中心に目標位置が移動するように試料ステージを移動させる(ステップS030)。次のステップS040で、プローブを移動させ、プローブ先端の薄板の中心が画面中心に来るようにする。プローブに繋がるプローブ移動機構によって、プローブを退避位置に移動することや、呼び出すと画面中心、つまり、薄板中心がFIB光軸上に来るように移動することができる。さらに、FIB光軸上に呼び出された薄板は、試料面から100μm程度離間した状態に位置するように記憶しておき、移動する。これにより、薄板は、破損することなく、低倍率の広い領域を覆うことができる。
【0054】
ステップS050で、FIBブランキング状態を解除することで、画面中心に薄板表面があって、その周りに試料表面が見えるSIM像が画面に表示される。次に、ステップS060では、FIB観察倍率を徐々に上昇させると同時にプローブを降下させ(ステップS070)、画面中心に薄板があって、その周りに試料表面が見えるように調整しながら倍率調整する。倍率の上昇と薄板の降下の調整を徐々に進めながら、薄板周囲の試料面に注目していると予め目標位置の近傍に描いたマークが確認できる(ステップS080)。試料面上のマークが確認できれば観察倍率の上昇と薄板の降下を停止させる(ステップS090)。次に、ステップS100で試料面のマークと薄板に設けたマークが一致するようにステージを試料面に平行に位置微調整する。両者のマークが一致すれば、薄板のマークを通る2直線の交点、つまり、薄板の中心の真下に注目箇所が位置していることになる。
【0055】
次に、ステップS110でプローブを微速で降下させ、試料面に接触させ、接触の確認(ステップS120)と同時にプローブ降下を停止させる(ステップS130)。ここで、ステップS140として薄板を試料面に2箇所程度のFIBAD膜で固定する。薄板の固定後、プローブの薄板に近い箇所でFIB照射による切断を行なう(ステップS150)。これにより、薄板は目標箇所を薄板の中心に位置するように覆うことができ、しかも、固定までの工程で、目標箇所はFIB照射を受けておらず、目標箇所の表面の損傷は殆どないと言える。最後にステップS160で、プローブを退避させる。
【0056】
この後、目標箇所(薄板中心)が残るように薄板と共に試料をFIB加工してSTEM試料とするが、この工程はすでに上述した方法に依ればよい。
【0057】
〔実施例6〕
本実施例は、薄板を試料表面に移設して、試料表面の形状をSEMもしくはSTEMで観察するための試料加工方法および観察方法である。試料表面の形態は、平坦な場合、規則的な凹凸を有する場合、不規則的な凹凸を有する場合、微小な付着物もしくは微小形成物を表面に存在する場合である。
【0058】
図11は、凹凸表面を有する試料面に薄板を接着させる例を示す断面模式図である。図11(a)は、試料237の表面が平坦な場合、又は、規則的な凹凸があるが表面が平坦な場合の例を示している。この場合には、薄板235aとして、接触面238が平滑なものを使用すればよい。この薄板235aは図6や図7で説明したようにFIBで作製することが出来る。図11(b)は、試料237表面がドライエッチング加工したような規則的な凹凸である場合の例を示している。この場合には、接触面238を試料237表面の凹凸形状に合わせた形状としてもよい。接触面238の形状を試料237表面の凹凸形状に合わせた薄板235bを用いることによって、FIBによる試料237の断面加工時に断面に生じる加工縞を最小限に抑えることができ、断面の解釈に誤解を生まない。
【0059】
観察対象物が図11(c)のように試料237表面に付着した微小異物239cや、図11(d)のように試料237表面に発生した微小突起239dの場合、さらには、FIB照射によって対象物が損傷を受けたり消滅するような場合には、図11(c)のように厚さ方向に凹みを有する凹型薄板235cを用いる。凹型薄板235cの製造方法については、次の実施例で説明する。重要な点は、観察対象239c,239dを凹型薄板235c,235dの凹み部240c,240dで覆い、観察対象239c,239dに直接接触しないようにすることである。このような凹型薄板235c,235dを用いることにより、微小異物239cや微小突起239dは、薄板235c,235dの接着力で変形することもなければ、FIB照射によるスパッタも起こらない。また、微小異物239cや微小突起239dが薄片化した試料の厚さより小さい場合、試料作製の際に、微小異物239cや微小突起239dにFIBを直接照射することなく元の形状を維持したまま試料加工でき、微小異物239cや微小突起239d全体をSTEM観察することができる。
【0060】
なお、薄板235cに設ける凹み部の断面は、凹み部240cのように矩形に限ることは無く、対象物に直接接触ないように凹部を有していれば良く、図10(d)に示す凹み部240dのように円弧状でもよい。
【0061】
次に、薄板の面内形状について説明する。微小薄板はこれまでに説明した矩形に限ることはなく、例えば、図12に示したような種々の形状が適用できる。ここで、図12に示した薄板に共通した特徴は、試料上の注目部に薄板の中心を正確に設置するために、マークを有していることにある。
【0062】
図12(a)に示した薄板は、薄板245aの4辺の中心に三角の切欠きマーク246aを配置している。これら4個の切欠きマーク246aのうち、互いに向かい合う切り欠きマークの頂点を結ぶ2直線の交点がこの薄板245aの中心である。互いに向かいあう切欠きの頂点を結ぶ2直線の延長線上に試料上のマークが一致するように薄板245aを移設すると、試料上の目的箇所は薄板中心の直下にあることになる。
【0063】
図12(b)に示した薄板は、三角形の突起マーク246bが薄板245bの4辺の中心に有する形状である。この薄板は、図10(a)に示した薄板に比べて試料上の小さなマークについても正確に位置合わせできる効果がある。
【0064】
図12(c)は4辺の中心内側付近にT字型の貫通マーク246cを設けた薄板245cを示し、図12(d)は4辺の中心内側付近にL字型の貫通マーク246dを配置した薄板245dを示している。互いに向かい合う2個のT字もしくはL字の中心を結ぶ2直線の中心が、薄板245c,245dの中心である。
【0065】
これらのマーク246a,246b,246c,246dは、マークが特異な形状をしているため、試料表面や薄膜を画像化し、その画像からマークのみを認識し、特定しやすいことも特徴である。画像認識しやすいマークを採用することによって、試料上の目標箇所に薄板の中心を設置させる作業を、薄板のマークを画像認識し、向かい合うマークを結ぶ2直線上に試料上のマークが位置するようにプローブを制御することで、装置操作者ではなく無人自動で行なえる。例えば、中央制御装置47からプローブ制御、ステージ制御、ノズル制御を行うことで、図10で説明したような作業フローを自動的に行なうことができる。薄板上のマークを正確に認識させるためには、試料上に現れにくい人工的、幾何学的形状で、かつ、2個のマークを結ぶ直線が一意的に決まりやすい形状とすることが重要である。
【0066】
〔実施例7〕
ここでは、図11に示したような、観察対象に直接接触しない凹型薄板の作製方法について説明する。この薄板は次の3方法、(1)電鋳(エレクトロフォーミング)法、(2)半導体製造プロセス法、(3)マイクロサンプリング法で作製することができる。順に説明する。
【0067】
電鋳による凹型薄板の製造方法を図13で説明する。まず、図13(a)に示すように、金属基板251上に感光性のレジスト252を塗布する。レジスト厚さは、出来上がりの凹型薄板の厚さよりも同等もしくは若干厚くする。例えば0.5μm程度である。次に、図13(b)のように、所望形状を遮光するマスク253をレジスト252に密着させて露光する。その結果、図13(c)のように、露光されたレジスト252Bは硬化し、露光されなかったマスク253直下のレジスト252Aは変質しない。次に、現像すると、図13(d)に示すように、露光を受けて変質したレジスト252Bは現像によって変化せず、露光を受けていない所望形状のレジスト252A部が除去され、開口部254が形成される。
【0068】
次に、図13(e)に示すように、この状態で金属基板251ごと電解液(図示せず)に浸漬させ、金属基板251と金属溶液電解液に漬けた電極間に電圧を与えることで、レジストが除去された開口部254に電解液成分の金属薄板255が析出する(メッキされる)。電解液から金属基板251を取り出し、図13(f)に示すように、レジスト252B、金属薄板255の一部に掛けて再度レジスト256を塗布し、図13(a)から図13(d)と同じ工程を経て、金属薄板255の凹部の大きさの開口257を設ける。
【0069】
次に、図13(g)に示すように、金属薄膜255に設けた開口257に対してドライエッチングや反応性イオンエッチングを行なうことで、図11(c)のような矩形の凹部258ができ、酸に浸漬することでウェットエッチングされ、図11(d)のような円弧状の凹部が形成される。最後に、金属基板251をレジスト除去液に浸漬することで、図13(h)のように目的とする凹部258を有する微小薄板255が作製できる。
【0070】
半導体製造プロセスに依っても、同様に凹型薄板を作成することができる。上記方法の図13(e)に示した工程で、メッキ工程の代わりに半導体プロセスのCVD工程を適用し、図13(g)の工程でドライエッチングを施すことで、すべて半導体プロセスで微小薄板255を作製することができる。寸法精度は、上記電鋳方法と比較して精度よくできる。
【0071】
マイクロサンプリング法による凹型薄板の製造方法を図14で説明する。例えばシリコン板を原材料として凹型薄片を作成する工程を考える。
【0072】
図14(a)に示すように、試料基板270に対して凹型薄片が出来上がると想定した領域271の両側にFIB272によって深い凹孔273a,273bを設ける。図は判り易くするために、FIB以外の視点で見た図で示されている。領域271の幅、つまり、深い凹孔273a,273bの間隔は仕上がる薄板の厚みになるので、深い凹孔の間隔は例えば1μm程度とする。図14(b)に示すように、領域271の中央部に厚みが半分程度になるように溝274をFIBによって加工した後、試料270を傾斜させる(図では判り易くするために試料傾斜は状態は書かれていない)。領域271の周囲に切り込み275a,275b,275cを加工して、支持部276のみで領域271が支えられた状態にする。ここで図14(c)のように、プローブ277を視野内に導入し、切り込み275aの側面に接近させ、FIBAD膜278で接続する。その後、FIB272によって支持部276を切除することで、領域271は試料270から分離される。図14(d)のようにプローブ277を上昇させることにより、目的とする領域271は薄板271Aとして摘出される。
【0073】
次に、図14(e)に示すように、摘出した薄板271Aを試料270の別の場所に搬送し、試料表面に接触する程度まで近接させる。この状態で、プローブ277と薄板271Aを接続しているデポジション膜278もしくはプローブ277の先端、もしくは薄板271Aの一部をFIB272で除去する。この時、溝274が試料270表面に面するようにプローブ277を操作しながらプローブ277と薄板271Aを分離する。図14(f)は、薄板271の溝274が試料表面に面するように分離された状態を示す。この時、薄板271および溝274は任意の方向を向いているため、プローブ支持部の導入方向、作成するSTEM観察試料の形態、向きを考慮して試料ステージを回転させることで向きを補正する。重要な点は、プローブの導入方向は作業のたびに大きく変化しないため、作成したプローブ先端形状が次の作業、試料に関わるため、所望のSTEM試料の取り出し方向を予め定めておき、その方向に合わせて薄板の向き、溝の向きを決め、プローブ支持部に接続することである。本例では溝274の向きは、観察試料との関係から画面上、上下方向とした。図14(g)に示すように、試料ステージの回転補正後、薄板271Aを先端に接続するプローブ支持部261を視野に導入し、薄板271Aに接触させる。プローブ支持部261の先端部と薄板271Aが接続されるように、FIBAD膜279をFIB272によって形成する。このようにして、プローブ支持部261の先端に凹部を有する薄板271Aを有するブローブが作製できる。図14(h)では、このプローブを検査試料280上のマーク281を基準にして、プローブを試料面に接触させる。符号282は半導体ウェーハに形成されたデバイス内部構造を電気的接触を取る為のプラグの上面を示す。プラグの欠陥部は2個のマーク281の交点に位置している。
【0074】
上述した薄板271Aは、下面に凹部を有しているため、プラグ上面に直接接触することはない。従来、この様な試料の断面を観察するには、FIBAD膜を注目プラグ上に形成して断面加工や薄片加工を施していたため、FIBAD膜形成時にFIB照射よってプラグ内に電荷が過剰に注入され、本来、高倍率でのTEM観察注目部であるプラグ底面の原子層オーダの薄膜が損傷を受け、本来の欠陥の形態を観察できないという問題を生じていた。これに対して、本方法では、プラグ上面を非接触で覆い、尚且つ、FIBの直接照射を受けることがないため、注目部のプラグに電荷が注入されず、また、試料表面に直接FIB照射を受けることがないため、本来の欠陥の形態を保存することができ、高倍率の観察が可能になる。
【0075】
〔実施例8〕
本実施例は、薄板を試料表面に移設して、試料表面の形状をSEMで観察するための試料加工方法と観察方法に関する。
【0076】
図15により、試料加工方法を示す。図15(a)のように、先に薄板292を作成し、プローブ289に接着させ、プローブ289を移動させることで、薄板292を試料285の表面に接地させる。この時、薄板292の一部と試料表面に掛けてFIBAD膜293を形成し、薄板292を試料285に固定する。その後一旦、プローブ289と薄板292をFIBによるスパッタによって分離する。図15(b)では、固定した薄板292の周囲にFIB297を照射し、支持部286を残して試料285から分離するように溝加工を行なう。図15(c)では、再度プローブ289と微小試料294をFIBAD膜290で接続し、微小試料294を支持している支持部286にFIBを照射して切断し、微小試料294を母試料である試料285から分離する。その後、プローブ289を上昇させることで、微小試料294は試料285から摘出できる。
【0077】
次に、図15(d)に示すように、摘出した微小試料294を、プローブ289と試料ステージ(図示せず)の移動により、微小試料固定具295の上面に搬送し、接触させる。接触後、微小試料294と微小試料固定具295をFIBAD膜296,296’によって固定する。プローブ289先端にFIB照射して、微小試料294とプローブ289を分離する。図15(e)に示すように、これらの作業によって、摘出、移送した微小試料294は、微小試料固定具295上に自立できる。次に、薄板292を固定しているFIBAD膜293をFIB297でスパッタ除去し、薄板292が微小試料294から分離し易くする。次に、図15(f)のようにプローブ289を上昇させることで、微小試料294から薄板292を除去でき、微小試料294の表面、つまり試料285の表面が露出し、試料285のFIB損傷のない試料本来の表面が観察できる。さらには表面損傷のない表面直下の断面も観察することができる。特に、このような形態の試料片では、表面形状を表面に対して数度の低角度からの観察が可能となるため、断面および表面の凹凸状態を詳しく観察することができる利点がある。
【0078】
このような試料加工方法や試料観察方法は、電子線照射によって変形を起こし易い半導体デバイスにおけるフッ化アルゴン用レジストや低誘電率膜などの表面形態を無損傷で評価するのに有効性を発揮する。
【0079】
なお、図15(e),(f)において、微小試料294を微小試料固定具295に固定した後に、FIB照射によってプローブ289を薄板292から分離し、FIBAD膜293を除去し、プローブ283を薄板292に接触させつつ移動することで薄板292を押しのけて、薄板292を微小試料294から分離してもよい。また、図15(e)において、薄片化加工を施せば、STEM試料となり、試料内部の観察も行なえて、本方法特有の損傷のない試料表面近傍の高倍率観察が可能となる。この場合、薄板を除去することなく試料を観察しても差し支えない。
【0080】
さらには、試料表面が電子ビームやイオンビームに非常に敏感で、これ等のビーム照射によって損傷を受けやすい試料の表面を観察する場合で、本実施例のように敢えて摘出する必要がない場合でも、本発明による方法は適用でき、一旦、薄板で表面を覆い、SEMなどで観察しやすい方向設定や、焦点調整などと施した後、画面撮影直前に薄板を除去することで、ビーム損傷を最小限に抑制して表面観察することができる。
【0081】
〔実施例9〕
本実施例8は、半導体プロセスのうち、コンタクトホールのエッチング直後のホール形状の評価に本発明による試料加工方法を適用したエッチングホール評価方法である。図16で従来の試料加工方法とそれによって得られた試料の問題点を、図17で本発明による方法で得られた試料の効果を説明する。
【0082】
従来、エッチング直後のコンタクトホール形状を高分解能観察する場合、コンタクトホール直径部が通過するように試料をへき開して断面を高分解能SEM観察するか、ホール内部にデポジション膜を充填して薄片化し、STEM観察していた。へき開による断面露出とSEM観察法は簡便だが、へき開面が微細ホールの直径を正確に通過しているか否かの点で信頼性が低く、信頼あるデータ取得には数多くの計測が必要であった。また、断面のSTEM観察はへき開面のSEM観察に比べてはるかに正確に計測できるが、ホール内にFIBAD膜を充填すると次のような問題を生じ、必ずしも良い結果が得られなかった。
【0083】
図16(a)は、コンタクトホール形状を高分解能で観察するためのSTEM試料を模式的に描いたもので、薄片試料300にコンタクトホール301の列が半断面状態で露出している。図中、符号330は電子線入射方向(STEM観察方向)を示している。従来、このような薄片試料を作製する場合、FIB照射による試料断面のダレを避けるために、試料表面およびコンタクトホール内にFIBAD膜302を充填するのが通例である。このように薄片加工した試料をSTEM観察した断面透過像を図16(b)に示す。試料基板303にコンタクトホール301が形成され、試料表面およびコンタクトホール301内にはFIBAD膜302が形成されている。
【0084】
しかしながら高分解能観察すると、本来垂直性のあるホールの開口部がFIB照射によってラウンド状態304になっている。また、試料表面、コンタクトホール表面には本来は無いはずの非晶質層305が形成され、試料本来の表面は保存されていない。特に、コンタクトホールの底面はエッチング工程における損傷を発生しないように形成し、その評価が注目されているにも関わらず、試料作製によってホール底面に損傷領域306を作り込んでおり、非常に好ましくない。さらには、コンタクトホールのアスペクト比(ホール直径に対する深さの比)が大きくなると、ホール内にFIBAD膜が埋まりきらず、空洞307が形成され、空洞307を有したままFIBによる断面加工を行なうと空洞307の下に縦縞308が形成される。このような空洞307や縦縞308はエッチング工程で発生したものでなく、試料作製工程で発生した人工構造物であり、本来の試料評価の妨げとなる。特に、ホール底部に掛かる縦縞308は、重要なホール底部の形状評価を妨害するため、試料作製段階でこのような変質や人工構造物の発生を発生する試料加工方法は排除しなければならない。
【0085】
一方、図17(a)は、図1に示した試料加工設置を用いて、図4の薄片化工程と、図15の薄板除去工程を用いて得られた、コンタクトホール列が薄片内に入れ込むように作成した薄片試料311の外観図である。薄片試料310はシリコン基部311にコンタクトホール312列が保存された形状で、試料表面313には従来のFIBAD膜は無い。図16(b)は、図16(a)の透過像であり、試料内部にあるコンタクトホール312がコントラスト良く観察することができている。しかも、従来法で問題となっていたホール開口部314のラウンド形状はなく垂直形状を保持している。また、試料表面313やホール底面315にはFIB照射による損傷領域(非晶質層)は無く、コンタクトホール本来の形状を観察することができる。さらに、この試料に対して極微量の元素分析を行っても、FIBAD膜の組成の信号によって試料本来の組成分析が妨害されることはなく、極微量分析にも信頼あるデータを得ることができる。
【0086】
図16(c)は薄片試料310を傾斜して得られた透過像で、コンタクトホール312の開口314部や底部315の形状、直径を正確に計測することができる。図16(a)や(b)のような断面を露出する方法より、はるかに正確にホール直径を計測することができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施例である試料加工装置の基本構成図。
【図2】本発明の一実施例である薄板組の設置手段を説明する図。
【図3】本発明による薄板組の例を説明する図。
【図4】本発明によるSTEM試料作製の手順を説明する図。
【図5】本発明の一実施例である微細薄板の固定法を説明する図。
【図6】本発明による試料作製の実施手順を説明する図。
【図7】本発明の一実施例である微細薄板の固定手順を説明する図。
【図8】本発明の一実施例である微細薄板の別の固定法を説明する図。
【図9】本発明の一実施例である微細薄板の別の固定法を説明する図。
【図10】図9の方法の手順を示すフローチャート。
【図11】微小薄板の断面形状を説明する図。
【図12】微小薄板の平面形状とマーク形状を説明する図。
【図13】微小薄板の作製手順を説明する図。
【図14】微小薄板の別の作製手順を説明する図。
【図15】本発明による試料作製手順を説明する図。
【図16】従来の試料加工方法によって生じる問題点を説明する図。
【図17】本発明による試料加工方法で得られた試料を説明する図。
【図18】類似の公知例との差異を説明する図。
【符号の説明】
【0088】
21…試料加工装置、23…試料、25…FIB照射光学系、30…薄板、31…薄板ホールダ、32…ウェーハホールダ、47…観察断面、51a,51b,51c,51d…移設薄膜部、54a,54b…プローブ、210…薄板組、211a,211b…分離した薄板、216…薄板、225…マーク、239c…微小異物、239d…微小突起、274…溝、292…薄板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームによって試料表面の解析を行なう試料解析方法であって、
予め真空試料室内に準備した薄板を上記試料表面に移設する工程と、
集束イオンビームを上記薄板に照射して上記薄板と共に上記試料を加工し、薄片試料を作製する工程と、
上記薄片試料を上記試料から摘出する工程と、
上記薄片試料から上記薄板を除去する工程と、
上記薄片試料の表面を前記荷電粒子ビームによって解析する工程と
を有することを特徴とする試料解析方法。
【請求項2】
請求項1記載の試料解析方法において、上記試料表面にある微小異物もしくは微小突起を覆うように上記薄板を設置することを特徴とする試料解析方法。
【請求項3】
請求項2記載の試料解析方法において、上記薄板は一部の厚みが薄い凹形状を有することを特徴とする試料解析方法。
【請求項4】
請求項3記載の試料解析方法において、上記薄板の凹形状が溝形状、矩形面形状、又は略球面であることを特徴とする試料解析方法。
【請求項5】
請求項1記載の試料解析方法において、上記試料の加工位置の延長線上にマークを形成し、上記薄板に予め形成されているマークを前記試料上に形成されたマークに合わせて上記試料表面に移設することを特徴とする試料解析方法。
【請求項6】
請求項1記載の試料解析方法において、薄板を上記試料表面に移設する工程では、上記薄板の端部に、上記集束イオンビーム照射によるガスアシストデポジション膜もしくは上記試料への集束イオンビーム照射によって発生したスパッタ粒子による膜を形成して上記薄板を上記試料表面に固定することを特徴とする試料加工方法。
【請求項7】
請求項1記載の試料解析方法において、上記薄板は、当該薄板の略中心で交差する直交2直線と上記薄板端部との4交点、又は上記2直線上で上記薄板端部に近い箇所に設けられたマークとなる開口もしくは突起、切り欠きを有することを特徴とする試料解析方法。
【請求項8】
請求項1記載の試料解析方法において、上記薄板は半導体プロセスもしくは電鋳プロセスを用いて作製されたことを特徴とする試料解析方法。
【請求項9】
真空試料室内で試料を載置して移動する試料ステ−ジと、
集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射光学系と、
上記集束イオンビームの照射によって試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、
上記検出器からの信号を用いて試料像を表示する画像表示手段と、
上記集束イオンビームの照射部に形成するデポジション膜の原料ガスを供給するガス供給手段と、
上記真空試料室の内部で薄板を搬送して上記試料の表面に移設する薄板搬送手段とを有し、
上記薄板は周縁部に位置決め用の開口、突起もしくは切り欠きからなるマークを有することを特徴とする試料加工装置。
【請求項10】
請求項9記載の試料加工装置において、上記マークは、上記薄板の略中心で交差する直交2直線と上記薄板端部との4交点、又は上記2直線上で上記薄板端部に近い箇所に設けられていることを特徴とする試料加工装置。
【請求項1】
荷電粒子ビームによって試料表面の解析を行なう試料解析方法であって、
予め真空試料室内に準備した薄板を上記試料表面に移設する工程と、
集束イオンビームを上記薄板に照射して上記薄板と共に上記試料を加工し、薄片試料を作製する工程と、
上記薄片試料を上記試料から摘出する工程と、
上記薄片試料から上記薄板を除去する工程と、
上記薄片試料の表面を前記荷電粒子ビームによって解析する工程と
を有することを特徴とする試料解析方法。
【請求項2】
請求項1記載の試料解析方法において、上記試料表面にある微小異物もしくは微小突起を覆うように上記薄板を設置することを特徴とする試料解析方法。
【請求項3】
請求項2記載の試料解析方法において、上記薄板は一部の厚みが薄い凹形状を有することを特徴とする試料解析方法。
【請求項4】
請求項3記載の試料解析方法において、上記薄板の凹形状が溝形状、矩形面形状、又は略球面であることを特徴とする試料解析方法。
【請求項5】
請求項1記載の試料解析方法において、上記試料の加工位置の延長線上にマークを形成し、上記薄板に予め形成されているマークを前記試料上に形成されたマークに合わせて上記試料表面に移設することを特徴とする試料解析方法。
【請求項6】
請求項1記載の試料解析方法において、薄板を上記試料表面に移設する工程では、上記薄板の端部に、上記集束イオンビーム照射によるガスアシストデポジション膜もしくは上記試料への集束イオンビーム照射によって発生したスパッタ粒子による膜を形成して上記薄板を上記試料表面に固定することを特徴とする試料加工方法。
【請求項7】
請求項1記載の試料解析方法において、上記薄板は、当該薄板の略中心で交差する直交2直線と上記薄板端部との4交点、又は上記2直線上で上記薄板端部に近い箇所に設けられたマークとなる開口もしくは突起、切り欠きを有することを特徴とする試料解析方法。
【請求項8】
請求項1記載の試料解析方法において、上記薄板は半導体プロセスもしくは電鋳プロセスを用いて作製されたことを特徴とする試料解析方法。
【請求項9】
真空試料室内で試料を載置して移動する試料ステ−ジと、
集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射光学系と、
上記集束イオンビームの照射によって試料から発生する二次粒子を検出する検出器と、
上記検出器からの信号を用いて試料像を表示する画像表示手段と、
上記集束イオンビームの照射部に形成するデポジション膜の原料ガスを供給するガス供給手段と、
上記真空試料室の内部で薄板を搬送して上記試料の表面に移設する薄板搬送手段とを有し、
上記薄板は周縁部に位置決め用の開口、突起もしくは切り欠きからなるマークを有することを特徴とする試料加工装置。
【請求項10】
請求項9記載の試料加工装置において、上記マークは、上記薄板の略中心で交差する直交2直線と上記薄板端部との4交点、又は上記2直線上で上記薄板端部に近い箇所に設けられていることを特徴とする試料加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−108042(P2007−108042A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299923(P2005−299923)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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