説明

認知症および前認知症に関連した状態を治療するための多価不飽和脂肪酸

【課題】認知症および前認知症に関連した状態ならびに/またはそのような状態の症状もしくは特徴を治療または予防するための組成物および方法の提供。
【解決手段】少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)、またはその前駆体もしくは供給源を含む組成物を個体に投与する方法であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択される組成物及びそれを投与する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、認知症および前認知症に関連した状態ならびに/またはそのような状態の症状もしくは特徴を治療または予防するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
記憶および認知機能の低下は、ヒトにおける加齢の正常な成り行きであると見なされている。加齢関連認知低下とは、同年齢の人々と比較して正常な認知機能を有する高齢者における客観的記憶低下を示すために用いられる用語である。加齢関連認知低下は、より重度またはより恒常的でありかつ認知症のような状態の初期段階を示し得る軽度認知障害(MCI)とは異なる(年齢相応性記憶低下および認知症の評価に関するAPA主宰特別委員会(APA Presidential Task Force on the Assessment of Age-Consistent Memory Decline and Dementia)、1998年2月)。加齢関連認知低下が非常に多く見られることを考えると、記憶喪失は、55歳以上の多くの人々にとっての健康上の大きな懸念事項である。
【0003】
認知症は統合的中枢神経系機能の喪失を特徴とし、単純な概念または指示の理解不能、情報の記憶への保存および回収不能、ならびに行動および人格変化を引き起こす。認知症の診断に最も一般的に用いられる基準は、DSM-IV(精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual for Mental Disorders)、米国精神医学会)である。DSM-IVによる認知症の診断上の特徴には、記憶障害および以下のうちの少なくとも1つが含まれる:言語障害(失語)、学習した運動機能の実行能力喪失(失行)、見慣れた対象の認識不能(失認)、または実行機能もしくは意思決定の障害。
【0004】
米国における認知症の最もよく見られる形態は、アルツハイマー病(診断の40〜60%);血管性認知症(全診断の10〜20%);混合型認知症(全診断の10%);レビー小体型認知症(全診断の10%)である。薬物、譫妄、または鬱病によって起こる二次性認知症は、米国における全認知症診断の5%またはそれ未満である。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は神経変性を伴う認知症として分類され、世界中に広まっている。ADの診断は、アミロイド斑および神経原線維変化の蓄積、脳のいくつかの領域におけるシナプス喪失および神経変性、ならびに脳質の拡大により、死後に確認される。老年認知症はそれ自体、65歳以上の集団における認知症をすべて指し、ADもこれに含まれる。しかしながら、AD発症の原因である発症機序はほとんど不明である。
【0006】
組織学的に、ADにおける重要な神経病理学的所見には、神経細胞内のアミロイドペプチドの増加、アミロイド斑、神経原線維変化、シナプス喪失、および神経細胞死が含まれる。アミロイド斑の量はAD重症度の予測因子であるが、斑の量の増加は認知機能の障害と強い相関がない。MorrisおよびPrice (2001)は、アミロイド斑が新皮質に広まっていることにより、ごく初期段階のADが最も良好に識別されることを示唆している。神経原線維変化の形成増加および神経変性を含む他のAD病変は、アミロイドによって生じる病理過程に起因すると考えられるが、それらは認知症の発現および重症度により直接的な影響を及ぼし得る。
【0007】
個体、特に高齢者における魚の摂取は、認知能力の改善、攻撃性呈示の軽減、ならびにアルツハイマー病および認知症のリスクの低下と関連づけられている。ドコサヘキサエン酸(DHA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)の組み合わせによる補給は、認知症を有するおよび有さない対象において認知能力および視力を改善することが示されている(Suzuki et al (2001))。加えて、アミロイド前駆体タンパク質(APP)をコードする遺伝子に変異を有するアルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルでの研究から、DHAによりアミロイドレベルおよび斑の量が減少することが示された。しかしながら、魚の摂取またはDHAもしくはEPAの摂取の効果の作用機序は、特にアルツハイマー病の病態生理に関して、本発明よりも前には決定されていなかった。
【0008】
神経疾患もしくは神経損傷の治療または予防は、従来、薬学的アプローチに重点を置いている。例えば、症状を緩和するが、神経学的問題の固有の原因を緩和することができない神経精神薬または神経変性薬が継続して開発されている。したがって、ADのような、認知症において現れる神経障害を治療するための新規治療戦略のさらなる必要性が当技術分野に存在する。加えて、魚の摂取ならびに/またはDHAおよびEPAによる補給によりADに関連する症状が軽減され得るという証拠が存在するが、改良された製剤および手順を開発できるように、ならびにADを発症するリスクのある個体を容易に同定して、特に臨床症状を発症する前の治療が最も効果的な時点でその個体を治療できるように、そのような療法の作用機序を同定する必要性が当技術分野に存在する。
【発明の概要】
【0009】
発明の概要
本発明の1つの態様は、個体におけるアミロイドβ(Aβ)ペプチドのレベルを減少させる方法に関する。本方法は、個体におけるAβペプチドのレベルを減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせより選択される段階を含む。1つの局面において、Aβペプチドは可溶性Aβペプチドである。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、個体におけるτタンパク質のレベルを減少させる方法に関する。本方法は、個体におけるτタンパク質のレベルを減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせより選択される段階を含む。1つの局面において、τタンパク質はリン酸化τタンパク質である。
【0011】
本発明の別の態様は、個体におけるプレセニリン-1(PS1)タンパク質のレベルを減少させる方法に関する。本方法は、個体におけるPS1タンパク質のレベルを減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0012】
本発明の別の態様は、個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法に関する。本方法は、個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DHA、DPAn-6、あるいは好ましい態様においては多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、個体における認知症の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法に関する。本方法は、個体における認知症の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DHA、DPAn-6、あるいは好ましい態様においては多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0014】
本発明の別の態様は、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、プレセニリン-1(PS1)タンパク質、リン酸化τタンパク質、もしくはτタンパク質の量もしくは発現の増加、またはその機能障害と関連した疾患を治療または予防する方法に関する。本方法は、(a) Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、τタンパク質、およびそれらの組み合わせより選択されるバイオマーカーの量、発現、または生物活性が、陰性対照個体におけるバイオマーカーの量、発現、または生物活性と比較して増加している個体を同定する段階;ならびに(b) Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、もしくはτタンパク質の量、発現、または生物活性を減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0015】
本発明の別の態様は、ω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量の減少と関連した疾患を、治療または予防する方法に関する。本方法は、(a) ω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量が減少している個体を同定する段階;ならびに(b) ω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の減少量の影響を補償するために、多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0016】
本発明の別の態様は、個体における脳機能の低下の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法に関する。本方法は、個体における脳機能の低下の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DHA、DPAn-6、あるいは好ましい態様においては多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせより選択される段階を含む。1つの局面において、脳機能は、神経心理学的検査または認知検査、脳画像法(PET、SPECT、CT、MRI、fMRI)、および脳波記録法(EEG)より選択される方法によって測定される。
【0017】
本発明の別の態様は、個体における脱髄を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法に関する。本方法は、個体における脱髄を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、個体におけるアルツハイマー病と関連した神経原線維変化の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法に関する。本方法は、個体における神経原線維変化の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DHA、DPAn-6、あるいは好ましい態様においては多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0019】
本発明の別の態様は、個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させる、または異常なθ波活動の発生を軽減もしくは予防する方法に関する。本方法は、(a) 異常なθ波活動を有するまたはその発生が予測される個体を同定する段階;ならびに(b) 個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させるため、または異常なθ波活動の発生を予防もしくは軽減するために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせより選択される段階を含む。
【0020】
上記態様のいずれかにおいて、1つの局面では、個体は、認知症もしくは前認知症を起こしやすい、またはそれを有すると同定される。1つの局面において、認知症はアルツハイマー病である。例えば、1つの局面において、個体は、生物学的マーカーの測定、認知症を示す家族歴、軽度認知障害、または加齢関連認知低下により、認知症もしくは前認知症を有するまたはそれを起こしやすいと同定される。生物学的マーカーには、これらに限定されないが、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、PS1、およびω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源が含まれ得る。1つの局面において、生物学的マーカーの量、発現、または生物活性は、個体由来の生体試料中で測定される。生体試料には、これらに限定されないが、細胞試料、組織試料、および体液試料が含まれてよく、特に好ましい試料には脳脊髄液または血液試料が含まれる。
【0021】
上記態様のいずれかの1つの局面において、本発明は、投与段階の前に、個体由来の生体試料中の、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、およびPS1タンパク質より選択されるバイオマーカーの量、発現、または生物活性を測定する段階を含み得る。1つの局面において、本方法は、個体試料中のバイオマーカーの量、発現、または生物活性を、同じ種類の試料中のバイオマーカーのベースラインの量、発現、または生物活性と比較する段階をさらに含んでよく、ベースラインの量、発現、または生物活性と比較して個体試料中のバイオマーカーの量、発現、または生物活性が増加していることにより、個体が認知症の発症リスクまたは認知症を有することが示される。
【0022】
上記態様のいずれかの1つの局面において、本発明は、投与段階の前に、個体由来の生体試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量または生物活性を測定する段階を含み得る。1つの局面において、本方法は、個体試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量または生物活性を、同じ種類の試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源のベースラインの量または生物活性と比較する段階をさらに含んでよく、ベースラインの量と比較して個体試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量が変化していることにより、個体が認知症の発症リスクまたは認知症を有することが示される。
【0023】
バイオマーカーまたはω-3もしくはω-6 PUFAの量または活性を測定する段階には、これらに限定されないが、ウェスタンブロット、免疫ブロット、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、免疫沈降法、表面プラズモン共鳴法、化学発光、蛍光偏光法、リン光、免疫組織化学的解析、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、マイクロサイトメトリー、マイクロアレイ、顕微鏡観察、蛍光活性化細胞選別(FACS)、フローサイトメトリー、キャピラリー電気泳動、タンパク質マイクロチップまたはマイクロアレイ、脂肪酸メチルエステル化/ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量分析、および液体クロマトグラフィー/質量分析が含まれる。
【0024】
上記態様のいずれかは、投与段階後に少なくとも一度、個体におけるAβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、またはPS1タンパク質のレベルに対するPUFA投与の有効性をモニターする段階をさらに含み得る。同様に、上記態様のいずれかは、投与段階後に少なくとも一度、個体におけるω-3またはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)レベルに対するPUFA投与の有効性をモニターする段階をさらに含み得る。本方法は、モニタリングのこれらの結果に基づいて、その後の治療における個体に対するPUFA投与を調整する段階をさらに含み得る。
【0025】
本発明の上記態様のいずれかにおいて、PUFAには、PUFAを30%、40%、50%、60%、70%、80%またはそれ以上含む油が含まれてよく、PUFAは、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせより選択される化学形態である。
【0026】
本発明の上記態様のいずれかにおいて、PUFAがDPAn-6およびDHAを含む場合、DPAn-6とDHAの比率には約1:1〜約1:10が含まれ得る。本発明の上記態様のいずれかにおいて、PUFAがARAおよびDHAを含む場合、ARAとDHAの比率には約1:1〜約1:10が含まれ得る。本発明の上記態様のいずれかにおいて、PUFAがDPAn-6、ARA、およびDHAを含む場合、DPAn-6とARAとDHAの比率には約1:1:1〜約1:1:10が含まれ得る。
【0027】
本発明の上記態様のいずれかにおいて、PUFAは、1つの局面において、約50 mg〜約20,000 mg/日の量で投与することができる。別の局面において、PUFAは、約0.025 mg/日〜約15 g/日の量で投与することができる。別の局面において、PUFAは、約0.05 mg/kg体重/日〜約275 mg/kg体重/日の量で投与することができる。
【0028】
本発明の上記態様のいずれかにおいて、PUFAの供給源には、これらに限定されないが、魚油、海洋微細藻類、植物油、およびそれらの組み合わせが含まれ得る。
【0029】
上記態様のいずれかの1つの局面において、PUFAはDHAを含み、DHAの前駆体は、α-リノレン酸(LNA);エイコサペンタエン酸(EPA);ドコサペンタエン酸(DPA);LNA、EPA、またはDPAの混合物より選択される。
【0030】
本発明の上記態様のいずれかにおいて、PUFAは個体に経口投与することができる。1つの局面において、PUFAは、咀嚼錠、急速溶解錠、発泡錠、再構成可能(reconstitutible)散剤、エリキシル剤、液剤、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、多層錠、二層錠、カプセル剤、軟ゼラチンカプセル、硬ゼラチンカプセル、カプレット、ロゼンジ、咀嚼ロゼンジ、ビーズ、散剤、顆粒剤、粒子、微粒子、分散性顆粒剤、カシェ剤、潅注、坐剤、クリーム、局所剤、吸入剤、エアロゾル吸入剤、パッチ、粒子吸入剤、植込錠、デポー植込錠、経口摂取物、注射剤、注入剤、棒状健康食品、菓子、シリアル、シリアルコーティング、食品、栄養食品、機能性食品、およびそれらの組み合わせより選択される、PUFAまたはその前駆体もしくは供給源を含む製剤として個体に投与することができる。別の局面において、製剤中のPUFAは、PUFAを含む高度精製藻類油、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、PUFAを含む乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、PUFAのエステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせより選択される形態で提供される。本発明のさらに別の態様は、DHA、DPAn-6、または多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせ、および認知症もしくはその発症リスクを有する個体における認知症を治療または予防するための少なくとも1種の治療化合物を含む薬学的組成物に関する。PUFAの組み合わせは、DPAn-6およびDHA、ARAおよびDHA、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAより選択される。1つの局面において、PUFAの組み合わせは、PUFAを30%もしくはそれ以上または最大で80%もしくはそれ以上含む油を含み、PUFAは、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせより選択される化学形態である。1つの局面において、PUFAの供給源は、魚油、海洋微細藻類、植物油、およびそれらの組み合わせより選択される。1つの局面において、DHAの前駆体は、α-リノレン酸(LNA);エイコサペンタエン酸(EPA);ドコサペンタエン酸(DPA);LNA、EPA、またはDPAの混合物より選択される。1つの局面において、PUFAは、咀嚼錠、急速溶解錠、発泡錠、再構成可能散剤、エリキシル剤、液剤、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、多層錠、二層錠、カプセル剤、軟ゼラチンカプセル、硬ゼラチンカプセル、カプレット、ロゼンジ、咀嚼ロゼンジ、ビーズ、散剤、顆粒剤、粒子、微粒子、分散性顆粒剤、カシェ剤、潅注、坐剤、クリーム、局所剤、吸入剤、エアロゾル吸入剤、パッチ、粒子吸入剤、植込錠、デポー植込錠、経口摂取物、注射剤、注入剤、棒状健康食品、菓子、シリアル、シリアルコーティング、食品、栄養食品、機能性食品、およびそれらの組み合わせより選択される製剤中に提供される。1つの局面において、製剤中のPUFAは、PUFAを含む高度精製藻類油、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、PUFAを含む乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、PUFAのエステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせより選択される形態で提供される。
【0031】
本発明の組成物中に含めることができる治療化合物には、これらに限定されないが、タンパク質、アミノ酸、薬物、および糖質が含まれ得る。1つの局面において、治療化合物は、タクリン;ドネペジル;リバスチグミン;ガランタミン;メマンチン;ネオトロピン(neotropin);向知性薬;α-トコフェロール(ビタミンE);セレジリン;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);イチョウ(gingko biloba);エストロゲン;β-セクレターゼ阻害剤;ワクチン;ビタミンB複合体;カルシウムチャネル遮断薬;HMG CoA還元酵素阻害薬;スタチン;ポリコサノール;フィブラート;クリオキノール;クルクミン;リグナン;植物エストロゲン;植物ステロール;ナイアシン;およびビタミン補助剤より選択される。
【0032】
本発明の別の態様は、組成物の調製における、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の使用であり、PUFAは、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせより選択される。そのような組成物は、個体におけるアミロイドβ(Aβ)ペプチドのレベルを減少させるため;個体におけるτタンパク質のレベルを減少させるため;個体におけるプレセニリン-1(PS1)タンパク質のレベルを減少させるため;アミロイドβ(Aβ)ペプチド、プレセニリン-1(PS1)タンパク質、リン酸化τタンパク質、もしくはτタンパク質の量もしくは発現の増加、またはその機能障害と関連した疾患を治療または予防するため;および/または個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させる、または異常なθ波活動の発生を軽減もしくは予防するために用いられる。
【0033】
本発明のさらに別の態様は、組成物の調製における、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の使用に関し、PUFAは、ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせより選択される。そのような組成物は、個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるもしくはその重症度を軽減するため;個体における認知症の発症を遅延させるもしくはその重症度を軽減するため;ω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)の量の減少と関連した疾患を治療もしくは予防するため;個体における脳機能の低下の発症を遅延させるもしくはその重症度を軽減するため;個体における脱髄を遅延させるもしくはその重症度を軽減するため;および/または個体におけるアルツハイマー病と関連した神経原線維変化の発症を遅延させるもしくはその重症度を軽減するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1A〜1Cは、3ヵ月(図1A;n=6)、6ヵ月(図1B;n=6)、または9ヵ月(図1C;n=6)間の食餌処置後の3xTg-ADマウスにおける全脳脂肪酸プロファイルを示す。
【図2】図2A〜2Cは、3ヵ月(図2A)、6ヵ月(図2B)、または9ヵ月(図2C)間の食餌処置後の3xTg-ADマウスにおける赤血球脂肪酸プロファイルを示す。
【図3】図3A〜3Cは、3ヵ月(図3A)、6ヵ月(図3B)、または9ヵ月(図3C)間の食餌処置後の3xTg-ADマウスにおける脳ホスファチジルコリン(PC)プロファイルを示す。
【図4】図4A〜4Cは、3ヵ月(図4A)、6ヵ月(図4B)、または9ヵ月(図4C)間の食餌処置後の3xTg-ADマウスにおける脳ホスファチジルエタノールアミン(PE)プロファイルを示す。
【図5】図5A〜5Cは、3ヵ月(図5A)、6ヵ月(図5B)、または9ヵ月(図5C)間の食餌処置後の3xTg-ADマウスにおける脳ホスファチジルセリン(PS)プロファイルを示す。
【図6−1】図6A〜6Fは、3ヵ月(図6Aおよび6B;n=6)、6ヵ月(図6Cおよび6D;n=6)、および9ヵ月(図6Eおよび6F;n=6)間のDHA食餌処置後の3xTg-ADマウスにおける可溶性(図6A、6C、6E)および不溶性(図6B、6D、F)Aβレベルを示す。
【図6−2】図6G〜6Jは、6E10によるDAB染色が、対照食餌(図6G)、DHA/DPA食餌(図6H)、DHA食餌(図6I)、およびDHA/ARA食餌(図6J)で3ヵ月間処置したマウスによる40μM切片においてAβ様免疫反応性を示すことを示すデジタル画像である。
【図7】図7A〜7Dは、DHA食餌処置後の3xTg-ADマウスにおけるAPP断片(図7Aおよび7B)およびIDE(図7Cおよび7D)の定常状態レベル(図7Aおよび7C)、および添加対照としてのβ-アクチンレベルに対して標準化したタンパク質ブロットの定量化(図7Bおよび7D)を示す。
【図8】図8Aおよび8Bは、DHA食餌処置後の3xTg-ADマウスにおけるADAM10およびBACEの定常状態レベル(図8A)、ならびに添加対照としてのβ-アクチンレベルに対して標準化したタンパク質ブロットの定量化(図8B)を示す。図8Cおよび8Dは、DHA食餌処置後の3xTg-ADマウスにおけるプレセニリン1およびニカストリンの定常状態レベル(図8C)、ならびに添加対照としてのβ-アクチンレベルに対して標準化したタンパク質ブロットの定量化(図8D)を示す。図8Eは、BSAと3:1に混合した0.3μg/ml DHA(n=3)または同等のBSAのみ(n=3)のいずれかで48時間処理したSHSY5Y細胞において、DHAによりプレセニリン1 mRNAが有意に減少したことを示す(*、p<0.05)。
【図9】図9A〜9Fは、3ヵ月(図9Aおよび9B)、6ヵ月(図9Cおよび9D)、および9ヵ月(図9Eおよび9F)間のDHA食餌処置後の3xTg-ADマウスにおけるτ定常状態レベル(図9A、9C、および9E)、および添加対照としてのβ-アクチンレベルに対して標準化したタンパク質ブロットの定量化(図9B、9D、および9F)を示す。
【図10−1】図10A〜10Dは、3ヵ月間の食餌処置後の3xTg-ADマウスにおける構造変化したτ免疫反応性を示すデジタル画像である(図10A=対照食餌、図10B=DHA/DPA食餌、図10C=DHA食餌、および図10D=DHA/アラキドン酸)。
【図10−2】図10Eは、食餌処置の9ヵ月後のリン酸化τを示す免疫ブロットのデジタル画像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
本発明は一般に、認知症の発症を遅延させるならびに/または認知症の重症度および/もしくは症状を軽減する、ならびに/またはアルツハイマー病(AD)を含む認知症の発症および/もしくは認知症への進行に関連する生体化合物(例えば、タンパク質)のレベルを減少させるために、脂肪酸補給、好ましくはω-3および/またはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)補給(例えば、DHAおよびDPAn-6)を用いる方法に関する。具体的には、本発明は、個体の神経組織内のアミロイド-β(可溶性または不溶性)、τタンパク質、τリン酸化タンパク質、および/またはプレセニリン-1(PS1)タンパク質のレベルを減少させる方法;個体におけるシナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、神経原線維変化の形成、および/もしくは認知症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法;ならびにアミロイド-β、τタンパク質(可溶性または不溶性)、リン酸化τタンパク質、および/もしくはプレセニリン-1(PS1)タンパク質の量の増加と関連した疾患、またはω-3および/もしくはω-6 PUFAの量の減少と関連した疾患を治療または予防する方法を対象とする。本発明はまた、個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させる、または異常なθ波活動の発生を軽減もしくは予防する方法を対象とする。本発明の方法は一般に、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。特定の態様において、PUFAは、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを含む。特定の態様において、PUFAは、単独での、相互に組み合わせた、ならびに/または他のPUFAと組み合わせたDHAおよび/もしくはDPAn-6および/もしくはARAを含む。
【0036】
本発明によれば、認知症は統合的中枢神経系機能の喪失を特徴とし、単純な概念または指示の理解不能、記憶への情報の保存および回収不能、ならびに行動および人格変化を生じる。認知症の診断に最も一般的に用いられる基準は、DSM-IV(精神障害の診断と統計の手引き、米国精神医学会)である。DSM-IVによる認知症の診断上の特徴には、記憶障害および以下のうちの少なくとも1つが含まれる:言語障害(失語)、学習した運動機能の実行能力喪失(失行)、見慣れた対象の認識不能(失認)、または実行機能もしくは意思決定の障害。アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も多く見られる形態である。
【0037】
最近、アルツハイマー病のマウス三重トランスジェニックモデルが開発され、カリフォルニア大学アーバイン校のグループによって報告された(Oddo et al., 2003)。これらのマウスは、PS1M146V、APPSwe、およびtauP301L導入遺伝子を含む。プレセニリン-1(PS1)は脳細胞において産生されるタンパク質であり、Aβペプチドの量の増加に関係している。第14染色体上のPS1遺伝子の遺伝的変異は、家族性アルツハイマー病の原因である。アミロイド前駆体タンパク質(APP)は、脳内に通常認められる機能不明なタンパク質である。アルツハイマー病では、APPが異常に分解されてアミロイドが形成される。τは高度に非対称性で熱安定性の高いタンパク質であり、主に脳で発現され、ニューロン、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイト中の微小管の配向性ならびに安定性を調節する。これらの三重トランスジェニックマウスは、アルツハイマー病に関連した脳領域(海馬、扁桃体、および大脳皮質)に斑およびもつれの病変を両方生じる。これらのマウスはもつれを形成する前に細胞外Aβ沈着を起こし、これはアミロイドカスケード仮説と一致する。マウスは、早くも6ヵ月齢ほどでシナプス機能障害を示す。この段階では細胞外Aβ沈着は海馬領域に局在していないものの、最も病原性の強いAβ42ペプチドを含むAβペプチドの細胞内蓄積がこの段階で実証されている。このモデルの知見から、神経細胞内のAβが、観察されるシナプス機能障害の根底にあることが示唆される。ヒト個体では、もつれの形成は典型的に辺縁系の脳構造で始まり、皮質領域に進行するが、これはこのマウスモデルで認められるパターンでもある。
【0038】
本発明者らは、ADの発症および進行に対するPUFAの作用機序を決定するために、ならびにADを予防および治療するための新規治療戦略および組成物を開発するために、ヒトADを厳密に模倣するこのマウスモデルを使用した。これらのマウスの群に、1種または複数種のPUFAの顕著な食物源を含む食餌を与えた。食餌には、DHAに富んだ食餌、DHAおよびDPAn-6に富んだ食餌、ならびにDHAおよびARAに富んだ食餌が含まれた。本発明者らは、驚くべきことに、PUFAを投与すると、この動物モデルにおいて実際に可溶性Aβの量が減少し、総τタンパク質の量が減少し、かつプレセニリン-1の量が減少することを見出した。特に、本発明者らは、DHA含有食餌により可溶性Aβレベルが減少するが、特にアドレン酸もしくはアラキドン酸レベルが上昇する個体、またはDPAn-6レベルが減少する個体では、DHAの効果が時間と共に減少することを見出した。DHAのみを含む食餌が長期にわたり最も効果的であったが、DHAおよびDPAn-6の組み合わせもまたより早い時点で効果的であり、DHAおよびARAの組み合わせもまた早い時点で効果的であった。さらに、予め形成された十分な食餌性DHAとDPAn-6との組み合わせを与えた動物が、DHAのみを与えた動物と比較して有意に高い組織中DPAn-6DPAn-6レベルを有したしたことから、本発明者らは、DHAおよびDPAn-6の組み合わせが驚くべき予想外の利点をもたらすことを見出した。血中DHAレベルおよびARAレベルが高い動物では、APPの毒性アミロイドペプチドへの切断と関連するタンパク質であるプレセニリン-1がより大きく減少する傾向があったが、DHAのみまたはDHAおよびDPAn-6の組み合わせを含む食餌でもプレセニリン-1レベルは減少した。本発明者らはまた、DHAのみ、DHAおよびDPAn-6、またはDHAおよびARAを含有する食餌を含むDHA含有食餌により総τタンパク質レベルが減少するが、組み合わせ食餌の効果は時間と共に弱まり、主なPUFAとしてDHAを含む食餌のみが総τレベルの減少をもたらすことを見出した。しかし、リン酸化τに関しては、DHAまたはDHAおよびDPAn-6を含む食餌により、遅い時点においてさえもリン酸化τは顕著に減少し、DHAおよびDPAn-6の組み合わせは、DHAのみに富んだ食餌と同程度に効果的であり、かつそのような食餌よりも効果的である傾向があった。まとめると、本発明者らの結果から、DHAまたはDHAおよびDPAn-6を含む食餌がAD病変を軽減するのに効果的であること、ならびに全体的に見て最も有効な製剤は、主なPUFAとしてDHAのみを含む食餌であるが、DHAおよびDPAn-6を有する食餌もまた、少なくともリン酸化τの減少に関しては効果的であることが示される。より詳細には、本発明者らは、PUFAがADなどの認知障害の病変に異なる効果を及ぼし、そのため患者を適切に標的化できること、および/または疾患をより効果的に治療するために好ましい用量もしくは時点でPUFAを投与することができることを見出した。具体的には、本発明者らは、初期病変と考えられているアミロイドをDHAが減少させる一方で、病変の後期バイオマーカーであると考えられているτおよびリン酸τ病変の減少においてDPAn-6がさらに効果的であることを見出した。さらに、本発明よりも前には、ADの症状を改善するまたはADの特徴を治療する上でのDPAn-6の役割は説明されていなかったため、DPAn-6を含む食餌で認められた有益な効果はまた驚くべきものであった。本発明者らの結果により、疾患の種々の時点でPUFA補給または治療にプラスに反応する可能性が最も高い対象を同定するための強力な新規マーカーもまた提供される。
【0039】
したがって、本発明の1つの態様は、個体の神経組織におけるAβペプチドのレベルを減少させる方法であって、個体におけるAβペプチドのレベルを減少させるために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む方法を対象とする。好ましい態様において、減少させるAβペプチドは可溶性Aβペプチドである。特定の態様において、PUFAは、DHA、DPAn-6DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを含む。1つの態様において、PUFAはDHAを含む。1つの態様において、PUFAはDPAn-6を含む。別の態様において、PUFAはDHAおよびDPAn-6の組み合わせである。
【0040】
別の態様において、本発明は、個体の神経組織におけるAPPのレベルを維持する方法、またはより好ましくはプレセニリン-1によるAPPのAβペプチドへの切断(レベルにかかわらず)、および特にAβペプチドのより毒性の高いサイズ型への切断を防ぐもしくは阻害する方法を対象とする。本方法は、個体におけるAPPのレベルを維持するために、またはプレセニリン-1によりAPPをAβペプチドへと切断しAβペプチドのより毒性の高いサイズ型にするのを防ぐもしくは阻害するために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。特定の態様において、PUFAは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、またはDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを含む。1つの態様において、PUFAはDHAを含む。1つの態様において、PUFAはDPAn-6を含む。別の態様において、PUFAはDHAおよびDPAn-6の組み合わせである。
【0041】
細胞外アミロイド斑の主な成分は、機能不明なI型膜貫通糖タンパク質であるアミロイドタンパク質前駆体(APP)のタンパク質分解切断に由来する42〜43アミノ酸ペプチドである、アミロイドタンパク質(Aβ)である。3つの異なる酵素がAPPを切断して、サイズの異なるβアミロイドペプチドが生じる。α-セクレターゼは、Aβペプチド配列内の部位(Aβ16)でAPPのC末端を切断し、83アミノ酸C末端断片および26アミノ酸型のAβが生成される。次いで、γ-セクレターゼがAβペプチドのC末端において83アミノ酸ペプチドを切断し、アミロイド形成における役割が不明確である短い15アミノ酸ペプチド(p3)が放出される。β-セクレターゼすなわちBACE1は、AβペプチドのN末端を切断するが、実際にはプレセニリンであってよいγ-セクレターゼは、AβペプチドのC末端を切断する。γ-セクレターゼがβ-セクレターゼと協同してAPPを切断する正確な場所に応じて、40または42アミノ酸ペプチドが生成される。より長い42〜43アミノ酸ペプチドは、15または40アミノ酸型と比較して、Aβの病原性がより高い形態であると考えられている。Aβ由来拡散性リガンド(すなわちADDL)は、Aβ1-42の非繊維性凝集誘導体であり、報告によるとアルツハイマー斑に認められる大きなAβ原線維と比較してより神経毒性が高い。オリゴマーADDLへのAβ1-42の凝集は、老人斑のタンパク質成分であるクラステリン(Apo J)の存在下において増加する。Aβ1-42+クラステリンは、PC12培養ニューロンにおいて毒性が高い。
【0042】
ヒトアミロイドタンパク質前駆体(APP)をコードするヌクレオチド配列が決定されており、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)データベースなどの公的配列データベース中に、APPペプチドのヌクレオチド配列およびコードされるアミノ酸配列を見出すことができる。例えば、ヒトAPPペプチドのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、アクセッション番号NM_000484(変種1)、NM_201413(変種2)、およびNM_201414(変種3)としてNCBIデータベース中に見出すことができる。これらのデータベースアクセッション番号によって示される情報はいずれも、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。Aβペプチドの検出および/または測定は、当技術分野で公知の方法によって達成することができ、これについては以下に詳述する。
【0043】
本発明の別の態様において、本発明は、個体の神経組織におけるτタンパク質のレベルを減少させる方法を含み、本方法は個体におけるτタンパク質のレベルを減少させるために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。好ましい態様において、減少させようとするτタンパク質は、リン酸化τタンパク質または構造変化したτタンパク質である。特定の態様において、PUFAは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを含む。1つの態様において、PUFAはDHAを含む。1つの態様において、PUFAはDPAn-6を含む。別の態様において、PUFAはDHAおよびDPAn-6の組み合わせである。
【0044】
τタンパク質、特にリン酸化τは、アルツハイマー病個体に存在する後期病変である神経原線維変化に認められる主要なタンパク質である。神経原線維変化は、主として、神経細胞微小管の主要な構成成分であるニューロン特異的リン酸化タンパク質である異常にリン酸化されたτから構成される。アルツハイマー病では、神経原線維変化は大脳皮質のニューロン内に認められるが、最も一般的には側頭葉領域、特に海馬および扁桃体に認められる。神経原線維変化の密度およびパターンは、ADの重症度と関連がある。τタンパク質および/またはリン酸化τタンパク質の検出および/または測定は、当技術分野で公知の方法によって達成することができ、これについては以下に詳述する。
【0045】
したがって、本発明の1つの態様は、個体における神経原線維変化の形成の発生を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法を含み、本方法は個体における神経原線維変化の形成の発生を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。特定の態様において、PUFAは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを含む。1つの態様において、PUFAはDHAを含む。1つの態様において、PUFAはDPAn-6を含む。別の態様において、PUFAはDHAおよびDPAn-6の組み合わせである。
【0046】
本発明の別の態様において、本発明は、個体の神経組織におけるプレセニリン-1(PS1)タンパク質のレベルを減少させる方法を含み、本方法は個体におけるPS1タンパク質のレベルを減少させるために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。特定の態様において、PUFAは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを含む。1つの態様において、PUFAはDHAを含む。1つの態様において、PUFAはDPAn-6を含む。別の態様において、PUFAはDHAおよびDPAn-6の組み合わせである。
【0047】
プレセニリン-1は、APPをβアミロイドへと切断して病原性ペプチドにするγ-セクレターゼ活性の原因であると当技術分野において見なされており、すなわちβ-アミロイドの生成に必要な「γ-セクレターゼ」の重要な決定因子であると考えられている。アミロイド前駆体タンパク質(mAPP)およびプレセニリン1(mPS1)における変異はいずれも、β-アミロイドペプチド(Aβ)の産生増加と関連づけられている。プレセニリン-1発現または活性の検出および/または測定は、当技術分野で公知の方法により達成することができ、これについては以下に詳述する。
【0048】
さらに別の態様において、本発明は、個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるおよび/またはその重症度を軽減する方法を含み、本方法は個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるおよび/またはその重症度を軽減するために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。本態様において、PUFAは好ましくは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましい態様において、PUFAは、DPAn-6またはDPAn-6およびDHAの組み合わせを含む。シナプス機能障害は、アルツハイマー病神経障害の主要な表現型発現であり、中でも最も、アルツハイマー病を特徴づける記憶および認知変化と相関がある。
【0049】
本発明のさらに別の態様は、認知症の発症を遅延させるおよび/またはその重症度を軽減する方法を含み、本方法は個体における認知症の発症を遅延させるおよび/またはその重症度を軽減するために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。本態様において、PUFAは好ましくは、DHA、もしくはDPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましい態様において、PUFAは、DPAn-6またはDPAn-6およびDHAの組み合わせを含む。
【0050】
別の態様において、本発明は、個体における脳機能の低下の発症を遅延させるおよび/またはその重症度を軽減する方法を含み、本方法は個体における脳機能の低下の発症を遅延させるおよび/またはその重症度を軽減するために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。本態様において、PUFAは好ましくは、DHAもしくはDPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましい態様において、PUFAは、DPAn-6またはDPAn-6およびDHAの組み合わせを含む。
【0051】
本発明のさらに別の態様は、個体における脱髄を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法に関し、本方法は個体における脱髄を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量を個体に投与する段階を含む。本態様において、PUFAは好ましくは、DHAもしくはDPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましい態様において、PUFAは、DPAn-6またはDPAn-6およびDHAの組み合わせを含む。ミエリンは神経軸索を覆っている白質であり、これによって脳と身体の他の部位との間の活動電位の効率的な神経伝導が可能になる。ミエリンの喪失(脱髄)または異常なミエリン組成は、神経処理の速度もしくは能力の低下およびその後の認知低下と関連している可能性がある。
【0052】
さらに別の態様において、本発明は、APP、Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、および/もしくはτタンパク質の量の増加ならびに/またはその機能障害と関連した疾患を治療または予防する方法を含む。本方法は、(a) APP、Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、τタンパク質、もしくはそれらの組み合わせから選択されるタンパク質もしくはペプチドの量が増加している個体および/またはその機能障害を有する個体を同定する段階;ならびに(b) 少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階を含む。1つの態様において、PUFAは、Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、もしくはτタンパク質の量の増加、またはその機能障害を軽減するのに十分であると決定された量で投与される。本態様において、PUFAは好ましくは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましいPUFAには、DHA、DPAn-6、またはDPAn-6およびDHAの組み合わせが含まれる。
【0053】
本発明はまた、ω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の量の減少と関連した疾患を治療または予防する方法を含む。本方法は、(a) (例えば組織または血中の)ω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の量が減少している個体を同定する段階;ならびに(b) 少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源を、ω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の減少量の影響を補償するのに十分であると決定された量で個体に投与する段階を含む。本態様において、PUFAは好ましくは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましいPUFAには、DPAn-6、またはDPAn-6およびDHAの組み合わせが含まれる。
【0054】
さらに別の態様において、本発明は、個体におけるシナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、および/または認知症もしくは関連疾患を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法を含む。本方法は、(a) シナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、および/または認知症もしくは関連疾患を示す少なくとも1つの症状または生物学的マーカーを有する個体を同定する段階;ならびに(b) 少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源を、シナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、および/または認知症もしくは関連疾患を遅延させるまたはその重症度を軽減するのに十分であると決定された量で個体に投与する段階を含む。本態様において、PUFAは好ましくは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましいPUFAには、DHA、DPAn-6、またはDPAn-6およびDHAの組み合わせが含まれる。
【0055】
別の態様において、本発明は、記憶喪失、早期アルツハイマー病を有する個体、または任意の種類の認知症の潜在的患者である個体、および脳波(EEG)、特に前頭葉のEEGに深く遅い異常なθ活動を有する個体において、EEGのθ波を安定化および正常化させる方法を含む。本方法はまた、家族歴または遺伝子マーカーにより、異常なθ波活動の傾向があると予測される個体において、異常なθ波活動の発生を予防するために用いることもできる。本方法は、(a) 異常なθ波活動を有する、または異常なθ波活動を発生する傾向があると予測される個体を同定する段階;ならびに(b) 少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源を、個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させるのに、または異常なθ波活動の発生を予防もしくは軽減するのに十分であると決定された量で個体に投与する段階を含む。本態様において、PUFAは好ましくは、DHA、DPAn-6、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、DHAおよびARAの組み合わせ、またはDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせを含む。好ましいPUFAには、DHA、DPAn-6、またはDPAn-6およびDHAの組み合わせが含まれる。
【0056】
本発明の上記態様の1つの局面において、個体は、認知症または前認知症を起こしやすいと同定される。別の局面において、個体は、認知症または前認知症であると陽性診断されている。別の局面において、個体は、アルツハイマー病であると陽性診断されている。個体がアルツハイマー病を含む認知症もしくは前認知症を有するかどうか、またはそれを起こしやすいかどうかを判定する方法には、生物学的マーカー(例えば、本明細書に記載のAPP、Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、またはτタンパク質)の測定、または認知症を示す家族歴の決定、または現在の軽度認知障害の検出、または加齢関連認知低下の検出が含まれる。
【0057】
軽度認知障害(MCI)は、神経心理学的検査を行う人の能力に影響を及ぼし得る、記憶喪失の1つの形態である。MCIを有する個体は通常、規範的標準検査におけるスコアによる記憶障害を有するが、計画または注意などの他の種類の脳機能には障害がない。これらの個体は、日々の生活に必要な技術を管理する上で大きな問題はない。MCIを有する個体は、アルツハイマー病または認知症の他の形態を発症するリスクが有意に高い。
【0058】
加齢関連認知低下(ACRD)は、加齢性記憶障害(AAMI)、年齢相応性記憶低下、良性老人性もの忘れ(BSF)、認知低下(加齢関連)、健忘症(良性老人性)、または記憶低下(年齢相応性)とも称され、疾患と見なされないが、専門家らは、加齢関連認知低下がアルツハイマー病および認知症の他の形態とある程度関連しているかどうか、または別個のものであるかどうかで意見が異なる。ARCDを有する個体は、記憶および学習、注意および集中、思考、言語使用、ならびに他の精神機能が悪化する。
【0059】
軽度認知障害(MCI)および加齢関連認知低下(ARCD)は、これらに限定されないが、ミニ精神状態検査(MMSE)、ケンブリッジ神経心理学自動検査(Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery;CANTAB)、アルツハイマー病評価尺度-認知検査(ADAScog)、脳脊髄液中のアミロイドβペプチドまたはリン酸化τの存在、ポジトロン放出断層撮影法(PET)または単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)によって決定される脳室拡大、PETまたはSPECT検査における脳内のアミロイド斑または神経原線維変化の存在の検出、脳波記録法(EEG)、および場合によっては遺伝子検査を含む種々の神経学的検査ならびに認知検査によって同定することができる。MCIは、臨床検査と、記憶愁訴、年齢に対する異常な記憶、日常生活の正常な活動を行う能力、正常な一般的認知機能、認知症の欠如を示す神経心理学的検査との併用により決定され得る。加えて、脳脊髄液(CSF)のτおよびアミロイドβペプチドのレベル、ならびに脳撮像(PET、SPECT、磁気共鳴画像法(MRI))を、アルツハイマー病を除外するために用いるか、またはそれらを二次的危険因子として用いることができる。
【0060】
シナプス機能障害は、これらに限定されないが、酸素およびグルコース利用(PET‐ポジトロン放出断層撮影法、単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT))ならびに機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、脳波記録法、ならびに長期増強を含むいくつかの方法で測定することができる。
【0061】
脳機能は、情報処理の速度、実行機能、および記憶を評価するための種々の認知検査を含む、当技術分野で公知のいくつかの方法により測定することができる。例には、これらに限定されないが、ミニ精神状態検査(MMSE)、ケンブリッジ神経心理学自動検査(CANTAB)、アルツハイマー病評価尺度-認知検査(ADAScog)、ウィスコンシンカード分類検査、言語および図形流暢性検査ならびにトレイルメイキング検査、脳波記録法(EEG)、脳磁気図検査(MEG)、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)、磁気共鳴画像法(MRI)、機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)、コンピュータ断層撮影法、ならびに長期増強が含まれる。
【0062】
脳の電気的活動の測定値であるEEGは、電極を頭皮の種々の目印に配置し、大幅に増幅された脳シグナルを記録することによって得られる。
【0063】
MEGは、電場と関連がある磁場を測定するという点でEEGと同類である。MEGは、神経系における同期波を含む自発的脳活動を測定するために用いられる(Joliot et al., 1994;Deutsch, 1998)。
【0064】
PETは、酸素利用およびグルコース代謝の測定を提供する。この技法では、放射性ポジトロン放出トレーサーを投与し、脳によるトレーサーの取り込みを脳活動と関連づける。これらのトレーサーはγ線を放出し、γ線は頭の周囲のセンサーによって検出され、脳活性化の3D地図が得られる。脳によってトレーサーが取り込まれるとすぐに、検出された放射能が局所脳血流の写像として現れ(Frackowiak, 1989)、活性化の間は、CBFおよび神経細胞グルコース代謝の増加を数秒以内に検出することができる。
【0065】
MRIおよびfMRIは、原子核を大きな磁力に曝露することによって、原子核の1つの特性であるそれらのスピンを操作することができるという事実を利用している。対象が横たわり頭を強力磁石(1.5〜5テスラ効力)内に挿入している間に、短波ラジオ波アンテナが、主磁石よりもはるかに弱い方法で磁場を変える。様々なパルスによって核から共鳴信号が発せられ、この信号が3Dで定量化され、デジタル化され得る。
【0066】
本発明の方法を用いて治療されるべき個体はまた、神経精神医学的検査、臨床検査、および個人の認知機能低下の愁訴(例えば、主観的記憶喪失)によっても同定することが可能である。
【0067】
本方法を用いて治療されるべき個体を同定するため、または個体の治療をモニターするために評価する好ましい生物学的マーカーには、これらに限定されないが、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、PS1、ならびに/またはω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)(好ましくは、DHA、ARA、および/またはDPAn-6)、および/もしくはその前駆体もしくは供給源(例えば、生体試料中のこれらのバイオマーカーの含有量)が含まれる。好ましくは、これらの生物学的マーカーのいずれかの発現(例えば、RNAまたはタンパク質検出)または生物活性を、本発明によるPUFAの投与段階の前に、個体由来の生体試料において測定する。いくつかの態様においては、これらのバイオマーカーの量、発現、または生物活性は、例えば症状または状態の治療に対する所与の方法の効果をモニターするために、本発明によるPUFAの投与段階後に測定することができる。
【0068】
生物学的マーカーの量、発現、または生物活性のレベルの有意性の決定(例えば、個体が認知症もしくは前認知症を有するかどうか、もしくはそれを起こしやすいかどうかを判定する、またはPUFA投与の所与の手順が効果的であるかどうかを判定する)は、個体試料中の生物学的マーカー(バイオマーカーとも称される)の発現および/または生物活性のレベルを、対照またはベースライン試料中のバイオマーカーの量、発現、および/または生物活性のベースラインレベルと比較する段階を含む。ベースライン量と比較して個体試料中のバイオマーカー(バイオマーカーAPP、Aβ、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、およびPS1に関する)の量が増加していること、またはベースライン量と比較してω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)が減少していることにより、個体が、シナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、および/または前認知症もしくは認知症もしくは関連疾患(例えば、アルツハイマー病)のリスクがあるか、またはそれを有することが示される。
【0069】
本発明では、バイオマーカーは典型的に、個体から得られた生体試料中のバイオマーカーの量、発現、および/または生物活性を評価することによって評価する。生体試料には、細胞試料、組織試料、および/または体液試料が含まれ得る。本発明による「細胞試料」という用語は一般的に、これらに限定されないが、単離細胞、組織試料、および/または体液試料を含む、本発明による評価対象の細胞を含む任意の種類の試料を指すために用いることができる。本発明による単離細胞の試料とは、本発明の方法による評価に適した細胞数の収集をもたらす任意の適切な方法によって臓器、組織、または体液から回収された、典型的に懸濁状態の細胞の試料であるか、またはインビボで組織内において細胞をつないでいた可能性のある結合組織から分離された細胞の試料である。細胞試料中の細胞は必ずしも同じ種類である必要はないが、精製法を用いて、好ましく評価する細胞の種類を単離することができる。細胞は、例えば組織を剥離させること、個々の細胞を遊離させるよう組織試料を処理すること、または体液から細胞を単離することによって得ることができる。
【0070】
組織試料は、単離細胞の試料と同様であるが、本明細書では、典型的にいくつかの細胞の種類および/または細胞を共に保持する細胞骨格構造を含む、身体の臓器または組織の切片と定義する。「組織試料」という用語は場合によっては「細胞試料」と互換的に用いることができるが、好ましくは細胞試料よりも複雑な構造を示すために用いられることを、当業者は理解すると考えられる。組織試料は、例えば切断する、スライスする、または穿孔器を使用するなどして、生検によって得ることができる。
【0071】
体液試料は、組織試料と同様に、やはり細胞を含んでいる可能性があり、採取対象の特定の体液に適した任意の方法によって得ることができる。採取に適した体液には、これらに限定されないが、血液、脳脊髄液、粘液、精液、唾液、母乳、胆汁、および尿が含まれる。本発明の好ましい態様において、生体試料は、任意の血液画分(例えば、全血、血漿、血清)を含む血液試料、または脳脊髄液試料である。
【0072】
一般的に、試料の種類(すなわち、細胞、組織、または体液)は、試料の入手しやすさおよび方法の目的に基づいて選択される。典型的に、侵襲性の最も低い方法によって得ることができる生体試料(例えば、血液)が好ましいが、いくつかの態様においては、評価用の細胞または組織試料を得ることが有用または必要である場合がある。個体組織はまた、画像法などの非侵襲的方法によって評価することも可能である。
【0073】
個体から試料が得られた時点で、試料中の、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、および/もしくはPS1、ならびに/またはω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、および/もしくはその前駆体もしくは供給源を含む、本明細書に記載の任意のバイオマーカーの存在、発現、または生物活性を検出するために試料を評価する。バイオマーカーの「発現」の検出への言及は、一般的に、タンパク質またはペプチドの翻訳後プロセシングの検出(例えば、試料中のタンパク質の量の検出)を含む、mRNA転写またはタンパク質翻訳のいずれかの検出を指す。バイオマーカーの「存在」の検出とは、バイオマーカーが試料中に存在するか否かを検出する任意の方法を指し、ほとんどの場合において発現の検出または量の検出と互換的に用いられ得る。好ましくは、個体における存在、量、発現、または生物活性を検出する方法は、バイオマーカーのベースラインレベルまたは対照レベルを確立するために用いられる試料中の存在、量、発現、または生物活性の検出に用いられる方法と同じであるか、またはそれと質的に同等である。
【0074】
バイオマーカー転写の検出に適した方法には、体液、細胞、または細胞抽出物からmRNAレベルを検出および/または測定するのに適した任意の方法が含まれる。そのような方法には、これらに限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)、逆転写PCR(RT-PCR)、インサイチューハイブリダイゼーション、ノーザンブロット、配列解析、マイクロアレイ解析、およびレポーター遺伝子の検出が含まれる。転写レベルを検出するためのそのような方法は当技術分野において周知であり、そのような方法の多くは、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Labs Press, 1989、および/またはGlick et al., Molecular Biotechnology: Principles and Applications of Recombinant DNA, ASM Press, 1998に記載されており、Sambrook et al.,前記およびGlick et al.,前記は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。バイオマーカー転写の測定は、主に、試料が細胞または組織試料である場合に適しており、したがって、試料が細胞または細胞抽出物を含む体液試料である場合には、発現アッセイを行うために典型的に細胞を体液から単離する。
【0075】
バイオマーカー発現はまた、翻訳の検出(すなわち、試料中のタンパク質の検出)によって同定することができる。タンパク質の検出に適した方法には、体液、細胞、または細胞抽出物からタンパク質を検出および/または測定するのに適した任意の方法が含まれる。そのような方法には、これらに限定されないが、ウェスタンブロット、免疫ブロット、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、免疫沈降法、表面プラズモン共鳴法、化学発光、蛍光偏光法、リン光、免疫組織化学的解析、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、マイクロサイトメトリー、マイクロアレイ、顕微鏡観察、蛍光活性化細胞選別(FACS)、フローサイトメトリー、およびタンパク質マイクロチップまたはマイクロアレイ、高速液体クロマトグラフィーまたはサイズ排除クロマトグラフィーが含まれる。そのような方法は当技術分野において周知である。本明細書に記載のバイオマーカーに対する抗体が当技術分野において作製され、記載されており、バイオマーカーを検出するためのアッセイ法の多くにおいて用いることができる。
【0076】
または、当技術分野で周知の技法を用いて、バイオマーカーに選択的に結合する抗体を容易に作製することができる。「選択的に結合する」という語句は、1つのタンパク質の別のタンパク質(例えば、抗体、その断片、または抗原に対する結合パートナー)に対する特異的結合を指し、任意の標準的なアッセイ法(例えば、免疫測定法)によって測定される結合レベルは、アッセイのバックグラウンド対照よりも統計的に有意に高い。例えば、免疫測定を行う場合、対照は典型的に、抗体または抗原結合断片のみ(すなわち、抗原の非存在下)を含む反応ウェル/チューブを含み、抗原の非存在下における抗体またはその抗原結合断片による反応性(例えば、ウェルに対する非特異的結合)の量は、バックグラウンドと見なされる。結合は、酵素免疫測定法(例えば、ELISA)、免疫ブロットアッセイ法などを含む、当技術分野において標準的な種々の方法を用いて測定することができる。本発明のアッセイキットおよび方法において有用な抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、二価抗体および一価抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体、そのような抗体を含む血清、様々な程度に精製された抗体、ならびに抗体全体の任意の機能的等価物(例えば、Fv、Fab、Fab'、またはF(ab)2断片)が含まれ得る。
【0077】
上記のように、Aβペプチドは、個体において1つまたは複数の異なる「サイズ型」として認められる。これらの「サイズ型」はまた、検出し相互に比較することができ、またはこれらのタンパク質の特定のサイズ型を、ベースラインまたは対照試料中の同じ成分と比較することができる。加えて、個体由来の生体試料中の異なるAβペプチド、または他の上記ペプチドのサイズ型のいずれかの比率もしくはプロファイルを検出し、そのプロファイルをベースライン対照のものと比較することができる。検出に特に有用なAβサイズ型(成分)には、15アミノ酸、40アミノ酸、42アミノ酸、または43アミノ酸の長さを有するAPPの切断産物が含まれる。サイズ型は、タンパク質を検出するための上記方法の多くを用いて検出し、相互に識別することができる。
【0078】
バイオマーカーはまた、バイマーカーの生物活性(例えば、タンパク質の生物活性)を検出することにより、試料中で測定することができる。本発明による「生物活性」という用語は、これらに限定されないが、酵素活性;別のタンパク質(例えば、受容体、シグナル伝達タンパク質、基質など)に対するタンパク質の結合;タンパク質の活性化;細胞シグナル伝達経路の活性化;およびバイオマーカーの発現、存在、または活性化の結果として起こる下流の生物学的事象を含む、本明細書に記載のバイオマーカーの任意の生物作用を指す。本明細書に開示するバイオマーカーの生物活性を検出する方法は当技術分野で公知であり、これには結合アッセイ法、酵素アッセイ法、およびリン酸化アッセイ法が含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
したがって、個体を同定する段階、治療のために個体を診断する段階、および/または治療もしくは手順の有効性をモニターする段階を含む本発明の方法のいくつかは、個体もしくは個体において検出されるバイオマーカー(例えば、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、PS1、ω-3 PUFA、および/またはω-6 PUFA)の発現もしくは活性、またはシナプス機能障害、脳機能、脱髄、および/もしくは認知症もしくは関連疾患に関連した特定の検査の結果のレベルを、バイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果のベースラインまたは対照レベルと比較する段階を含む。本発明による「ベースラインレベル」とは対照レベルであり、いくつかの態様においては、それに対してバイオマーカーの発現もしくは活性(すなわち、個体試料中の)または検査結果の試験レベルを比較することができる、バイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果の正常レベル(例えば、認知症もしくは前認知症またはそれに関連する状態を有さない個体において認められる、または認められることが予測されるバイオマーカーのレベル)である。したがって、評価対象の試料のバイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果のレベルが、ベースラインまたは対照レベルと比較して測定可能に増加、減少しているか、または実質的に変化がないかどうかは、バイオマーカーまたは検査結果の対照またはベースラインレベルに基づいて決定することができる。ベースラインレベルに関して用いられる「陰性対照」という用語は、バイオマーカーの発現もしくは活性に関して、または機能に関する特定の検査の結果に関して正常であると考えられる個体または個体集団由来の試料において確立されたベースラインレベルを指す。別の態様においては、ベースラインは、認知症または本明細書に記載の他の状態および/もしくは疾患の陽性診断を示すものであってよい。そのようなベースラインレベルは、本明細書において「陽性対照」ベースラインとも称され、個体、別の個体、または個体集団由来の試料において確立されたバイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果のレベルを指し、試料中のバイオマーカーの発現もしくは活性、または対照による検査結果のレベルは、個体における機能障害、前認知症、もしくは認知症を示すバイオマーカーまたは検査結果のレベルに対応すると考えられた。さらに別の態様においては、個体のバイオマーカーまたは検査結果の状態を経時的にモニターできるように、被験個体由来の以前の試料からベースラインレベルを確立することができる。
【0080】
バイオマーカーまたは検査結果のベースラインレベルを確立する方法は、試料の種類、試料を得る組織または臓器、評価対象の個体の状態、および上記のようなアッセイの焦点または目標(例えば、初回診断、モニタリング)に基づいて選択される。好ましくは、本方法は、試料または個体を評価するために用いられる方法と同じ方法である。
【0081】
1つの態様において、バイオマーカーの量、発現、または生物活性のベースラインレベルは、個体から得られる自己対照試料において確立される。自己対照試料は、単離細胞の試料、組織試料、または体液試料であってよく、好ましくは体液試料(例えば、CSFまたは血液)である。本発明による、および当技術分野において用いられる「自己」という用語は、その試料が、評価対象の試料が得られるのと同じ個体から得られることを意味する。好ましくは、対照試料は、評価対象の試料の最良のベースラインとなるように、評価対象の試料と同じ体液、臓器、または組織から得られる。本態様は、個体の過去の値が、バイオマーカーの陽性または陰性診断として確立されている場合に最も多く用いられる。次いで、このベースラインを用いて、個体の疾患もしくは状態の現在の進行もしくは回避をモニターする、または療法(例えば、PUFA補給)の成否をモニターすることができる。本態様においては、新たな試料が定期的に(例えば、年に一度の身体検査時に(これは、認知症または前認知症と診断されたことがないが、疾患の徴候のモニタリングを希望する健常個体に特に有効である)、または個体を治療する臨床医によって決定されるスケジュールで)評価され、脂肪酸補給による予防的または治療的処置が各時点で決定される。初回評価に関しては、以下に記載するように別の対照を用いることもでき、または必要に応じて、バイオマーカーまたは検査結果および前認知症または認知症の徴候に関する初回陰性または初回陽性診断を確認するためにさらなる試験を行ってもよく、バイオマーカーまたは検査結果のこのレベルはその後のベースラインとして用いることができる。この種のベースライン対照は、「正常」レベルが個体によって異なる可能性がある、および/または診断時に自己対照試料を得ることが可能ではない、実際的ではない、もしくは有益ではない他の臨床診断手順において頻繁に用いられる。
【0082】
バイオマーカーまたは検査結果のベースラインレベルを確立する別の方法は、対照試料によるバイオマーカーの量、発現、もしくは生物活性、または対照対象による検査結果のベースラインレベルを確立するものであり、対照対象は好ましくは対応個体の集団である。対照試料は、バイオマーカーの量、発現、または生物活性に関して評価対象の試料の種類と同じ種類であることが好ましい。本発明による「対応個体」という語句は、評価対象のパラメータ、細胞、組織試料、または体液試料の種類に適した1つまたは複数の特徴に基づく、対照個体の整合性を指す。例えば、対照個体は、性別、年齢、人種、または対照個体および個体のベースラインに影響を及ぼし得る任意の関連する生物学的もしくは社会学的要因(例えば、既存の状態、特定の物質の摂取、他の生物学的または生理的要因のレベル)に基づいて、評価対象の個体と対応させることができる。例えば、正常個体の血液中の、本明細書に記載のバイオマーカーのレベルは、所与の分類の個体(例えば、高齢者対ティーンエイジャー、女性対男性)においてより高い可能性がある。バイオマーカーの量、発現、または生物活性の対照またはベースラインレベルを確立するには、いくつかの対応個体由来の試料を得て、バイオマーカーの量、発現、または生物活性に関して評価する。適切な対照レベルを確立するために対照試料を得なければならない対応個体の数(例えば、集団)は、当業者によって決定され得るが、評価対象の個体(すなわち、試験個体)との比較に適したベースラインを確立するために統計的に適切でなければならない。対照試料から得られた値は、そのような値を確立するための当技術分野において標準的な方法を用いて、適切なベースラインレベルを確立するために統計的に処理される。
【0083】
上記のようなベースラインは、明らかに正常な対照個体の集団から確立されたベースラインのような陰性対照ベースラインであってよい。または、上記のように、そのようなベースラインは、個体の評価における使用を目的とする1つまたは複数のベースラインレベルが確立され得るように、バイオマーカーの異常レベル、バイオマーカーの機能障害、シナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、および/または認知症もしくは前認知症を有すると陽性診断された個体の集団から確立することができる。次いで、個体試料中のバイオマーカーの量、発現、もしくは生物活性、または個体からの検査結果を各ベースラインレベルと比較して、個体のバイオマーカーレベルまたは検査結果がどちらの種類のベースライン(陽性または陰性)と統計的に最も近いかを決定する。所与の個体試料がベースラインレベル間に収まり得て、結果として、個体がおそらくは少なくとも何らかの脂肪酸補給の必要性を示す機能障害を示し始めており、おそらくはさらに上の段階に進行している過程にあるという最良の診断がなされることが理解されると考えられる。本発明の目的は、そのような進行疾患を逆転させる、補正する、または補償することにある。
【0084】
アッセイまたは評価を行う際に各アッセイまたは評価ごとにベースラインを確立する必要はなく、むしろ、上記の方法のいずれかによって確立されたベースラインレベルのような、所与の対照試料について以前に決定されたベースラインレベルに関する保存情報の形態を参照することによってベースラインを確立できることが、当業者によって理解されると考えられる。そのような保存情報の形態には、これらに限定されないが、例えば、「正常」対照(陰性対照)もしくは陽性対照に関する集団もしくは個人データの参照チャート、リスト、もしくは電子ファイル;以前の評価による個人記録データのカルテ;または診断もしくは評価対象の個体にとって有用であるベースラインのバイオマーカーの発現もしくは活性もしくは検査結果に関するデータの任意の他の供給源が含まれる。
【0085】
個々の試験または個々の試料からの結果をベースライン対照と比較して、試験試料のバイオマーカーの量、発現、もしくは生物活性がベースラインレベルよりも減少もしくは増加しているかどうか、または試験レベルとベースラインレベルの間に統計的有意差がないかどうかを判定する。この段階後に、診断する、個体を治療する、個体をモニターする、または個体のさらなる治療を決定する最終段階を行うことができる。
【0086】
一般的に、ベースラインレベルと比較した、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、および/もしくはPS1の量、発現、もしくは生物活性のレベルの増加の検出、または、評価対象の試料(すなわち、試験試料)におけるAPPのAβのより毒性の高いサイズ型へのプロセシングの増加の検出、または、シナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、および/もしくは認知症の症状の増加もしくは非減少の検出、またはω-3もしくはω-6 PUFAの量の減少の検出によって、個体が、ベースライン試料またはベースライン結果と比べて、本明細書に記載の疾患または状態のいずれか(例えば、認知症)を起こす可能性がより高いことまたはそれを有することが示される。ベースライン試料がその個体由来の以前の試料または評価(または集団対照)であり、かつ個体における認知症または前認知症の陽性診断を表す場合、ベースラインと比較して、試料中のバイオマーカーの量、発現、もしくは生物活性の増加の検出、またはシナプス機能障害、脳機能の低下、脱髄、および/もしくは認知症の増加もしくは非減少の検出、またはω-3もしくはω-6 PUFAの減少の検出により、個体の状態が改善よりむしろ悪化していること、および治療を再評価または調整すべきであることが示される。
【0087】
ベースラインレベルと比較した、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、および/もしくはPS1の量、発現、もしくは生物活性の正常なもしくは健常な量の検出、評価対象の試料(すなわち、試験試料)におけるAPPのAβのより毒性の低いサイズ型へのプロセシングの検出、または、シナプス機能障害の減少もしくは非存在、脳機能の低下の減少もしくは非存在、脱髄の減少、および/もしくは認知症の症状の減少もしくは非存在の検出、または、ω-3もしくはω-6 PUFAの正常なもしくは増加したレベルの検出、または、ω-3もしくはω-6 PUFAの検出により、個体が、ベースライン試料と比べて、本明細書に記載の疾患または状態のいずれかを起こす可能性が低いことまたはそれを有さないことが示される。ベースライン試料がその個体由来の以前の試料(または集団対照由来)であり、かつ個体における認知症または前認知症の陽性診断を表す場合(すなわち、陽性対照)、ベースラインと比較して試料または個体においてこの結果が検出されることにより、個体が、本明細書に記載の疾患または状態において改善されていることが示される。
【0088】
最後に、ベースライン試料におけるバイオマーカーの量、発現、もしくは生物活性または検査結果と統計的に有意差のないバイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果が検出されることにより、ベースライン試料と比較して、個体において本明細書に記載の疾患または状態に差がないことが示される。ベースライン試料がその個体由来の以前の試料(または集団対照由来)であり、かつ個体における認知症または前認知症の陽性診断を表す場合(すなわち、陽性対照)、ベースラインと統計的に有意差のないバイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果が検出されることにより、個体の状態に変化のないことが示され、それによって例えば現在処方されている治療がその制御において無効であることが臨床医に示唆され得る。
【0089】
バイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果に関するベースラインレベルと比較して変化の診断を確立するためには、バイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果のレベルは、確立されたベースラインと比較して統計的に有意な量だけ変化している(すなわち、少なくとも95%信頼レベル、またはp<0.05)。好ましくは、ベースラインレベルと比較して、試料中のバイオマーカーの量、発現、もしくは生物活性または検査結果値において、少なくとも約5%の変化、より好ましくは少なくとも10%の変化、より好ましくは少なくとも約20%の変化、より好ましくは少なくとも約30%の変化、より好ましくは少なくとも約40%の変化、およびより好ましくは少なくとも約50%の変化が検出されることにより、試験試料とベースライン試料との間に差があるという診断が得られる。1つの態様においては、ベースラインレベルと比較して、試料中のバイオマーカーの量、発現、もしくは生物活性または検査結果値において、1.5倍の変化、より好ましくは少なくとも約3倍の変化、より好ましくは少なくとも約6倍の変化、さらにより好ましくは少なくとも約12倍の変化、およびさらにより好ましくは少なくとも約24倍の変化が検出されることにより、ベースライン試料と比較してバイオマーカーの発現もしくは活性または検査結果値が有意に変化しているという診断が得られる。
【0090】
本発明の方法は、投与段階後に少なくとも一度、個体におけるAPP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、PS1タンパク質のレベル、ならびにいくつかの態様においてはω-3 PUFAおよび/またはω-6 PUFAレベルに対するPUFA投与の有効性をモニターする段階を含む。有効性は、1つもしくは複数のバイオマーカーの量および/もしくは生物活性の変化、軽度認知障害の改善、加齢関連認知低下の改善、ならびに/または当技術分野において公知であり、上記で詳述した任意の他の方法によって測定することができる。本方法は任意で、治療の有効性のモニタリングの結果に基づいて、その後の治療における個体に対するPUFA投与を調整する段階をさらに含み得る。
【0091】
本発明の診断およびモニタリング法は、いくつかの異なる用途を有する。第一に、本発明の方法の恩恵を受ける可能性が最も高い個体を同定するために、本方法を用いて、所与の状態(例えば、神経学的状態)を有する個体の大きなプールにおいて、過剰なAPP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、および/もしくはPS1の発現または機能障害を有する個体のサブセットを診断およびモニターすることができる。実際に、本発明の方法は、認知低下の明白な症状が明らかとなる前の、認知症および前認知症の発症早期に有効であると考えられる。同様に、本方法を用いて、個体においてPUFA欠乏(例えば、DHA、DPAn-6、および/またはARAの欠乏)を有する個体またはPUFA欠乏の可能性を有する個体を同定することによって、個体を診断およびモニターすることができる。個体は、PUFA欠乏を有する疑いがある個体、または健康であるように思われるが、PUFA欠損の日常的スクリーニングを受けている個体であってよい。個体はまた、PUFA欠乏であると以前に診断されて治療を受け、現在PUFA欠乏の再発に関して日常的調査を受けている個体であってよい。
【0092】
「診断する」、「診断」、「診断すること」という用語およびその変化形は、その徴候および症状に基づいた疾患または状態の同定を指す。本明細書で用いる「陽性診断」とは、疾患もしくは状態、または疾患もしくは状態を発症する可能性が同定されたことを示す。対照的に、「陰性診断」とは、疾患もしくは状態、または疾患もしくは診断を発症する可能性が同定されなかったことを示す。陽性診断である場合には、個体に、認知症もしくは前認知症の徴候、PUFA欠損、ならびに/またはAPP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、および/もしくはPS1の異常な量、発現、および/もしくは活性を逆転させるまたは排除するための治療を処方することができる。陰性診断(すなわち、陰性評価)である場合には、個体には典型的にいかなる治療も処方しないか、または低レベルのPUFA補給を行い得るが、バイオマーカーのレベル、またはシナプス機能障害、脳機能、脱髄、および/もしくは認知症の症状の指標を再度評価するために、その後一度または複数時点で再度評価してもよい。本発明の評価方法のこの特定の態様のベースラインレベルは典型的に、以下に詳述するように、試験試料と同じ身体供給源(すなわち、同じ組織、細胞、または体液)由来の「正常」または「健常」試料に基づく。
【0093】
同様に、本発明の方法を用いて、本明細書に記載の状態に関して陰性診断がなされた個体において、認知症もしくは前認知症またはその症状もしくは指標(例えば、本明細書に記載のバイオマーカーレベル)の治療の成否をモニターすることができる。この態様により、医師または看護担当者は、個体が所与の状態のために受けている治療(例えば、PUFA補給)の成否をモニターすることができ、またこの態様は、治療を修正すべきかどうか(例えば、PUFA補給を増加、減少、または実質的に同じままにすべきかどうか)を医師が決定するのに役立ち得る。本発明の1つの態様において、本方法は、認知症もしくは前認知症またはその症状の治療および/または予防に有用である他の治療を個体に提供するさらなる段階を含む。
【0094】
バイオマーカーのレベルもしくはPUFA組織レベルを調節するため、または認知症もしくは前認知症もしくはそれに関連した症状もしくは状態の発症/発生を遅延させるまたはその重症度を軽減するための本発明によるPUFA投与は、健常な正常個体、および認知症もしくは前認知症を発症している可能性のある個体、または認知症もしくは前認知症を有する個体に、何らかの利点(例えば、治療上または健康上の利点)をもたらすはずである。したがって、治療上の利点とは、必ずしも特定の疾患または状態に対する治療ではなく、むしろ好ましくは、最も典型的に、疾患もしくは状態の緩和、疾患もしくは状態の排除、疾患もしくは状態に関連した症状の軽減、疾患、状態、もしくは症状の症状の発症もしくは発生の遅延、原発性疾患もしくは状態の発現に起因する二次疾患もしくは状態の予防もしくは緩和、および/または疾患もしくは状態の予防を含む結果を包含する。本明細書において用いる「疾患から保護される」という語句は、疾患もしくは状態の症状の軽減、疾患もしくは状態の発現の軽減、疾患もしくは状態の発症もしくは発生の遅延、および/または疾患もしくは状態の重症度の軽減を指す。したがって、個体を疾患から保護することには、疾患発現の予防または遅延または軽減(予防的処置)、および疾患を有する個体の治療(治療的処置)の両方が含まれる。有益な効果は、当業者によって、および/または個体を治療している訓練を受けた医師によって容易に評価され得る。「疾患」という用語は、哺乳動物の正常な健康状態からの何らかの逸脱を指し、これには、疾患症状が存在する状態、および逸脱は起こったがまだ症状が現れていない状態が含まれる。
【0095】
本発明の多くの態様は、1種または複数種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)の一定量を個体に投与する段階を含む。多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、大部分の真核生物における膜脂質の重要な成分であり(Lauritzen et al., Prog. Lipid Res. 40 1 (2001);McConn et al., Plant J. 15, 521 (1998))、特定のホルモンおよびシグナル伝達分子の前駆体である(Heller et al., Drugs 55, 487 (1998);Creelman et al., Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 48, 355 (1997))。
【0096】
本発明によれば、PUFAは、少なくとも炭素16個、より好ましくは少なくとも炭素18個、より好ましくは少なくとも炭素20個、およびより好ましくは炭素22個またはそれ以上の炭素鎖長を有し、二重結合を少なくとも3つまたはそれ以上、好ましくは二重結合を4つまたはそれ以上、より好ましくは5つまたはそれ以上、およびさらにより好ましくは6つまたはそれ以上有し、二重結合がすべてシス配置である脂肪酸である。本明細書における長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)への言及は、より詳細には、二重結合を3つまたはそれ以上含む、炭素鎖長18またはそれ以上、好ましくは炭素鎖長20またはそれ以上の脂肪酸を指す。ω-6系のLCPUFAには、γ-リノレン酸(C18:3)、ジ-ホモ-γリノレン酸(C20:3n-6)、アラキドン酸(C20:4n-6)、アドレン酸(ドコサテトラエン酸またはDTAとも称される)(C22:4n-6)、およびドコサペンタエン酸(C22:5n-6)が含まれる。ω-3系のLCPUFAには、α-リノレン酸(C18:3)、エイコサトリエン酸(C20:3n-3)、エイコサテトラエン酸(C20:4n-3)、エイコサペンタエン酸(C20:5n-3)、ドコサペンタエン酸(C22:5n-3)、およびドコサヘキサエン酸(C22:6n-3)酸が含まれる。LCPUFAには、これに限定されないがC28:8(n-3)をはじめとする、22個を上回る炭素および4つまたはそれ以上の二重結合を有する脂肪酸もまた含まれる。
【0097】
本明細書で用いる「脂質」という用語には、リン脂質(PL);遊離脂肪酸;脂肪酸のエステル;トリアシルグリセロール(TAG);ジアシルグリセリド;モノアシルグリセリド;ホスファチド;ワックス(アルコールと脂肪酸のエステル);ステロールおよびステロールエステル;カロテノイド;キサントフィル(例えば、オキシカロテノイド);炭化水素;ならびに当業者に公知の他の脂質が含まれる。「多価不飽和脂肪酸」および「PUFA」という用語には、遊離脂肪酸型のみならず、TAG型およびPL型のような他の形態もまた含まれる。
【0098】
本発明の1つの態様においては、脂肪酸、特にω-3脂肪酸およびω-6脂肪酸の混合物を本発明の方法において用いることができる。好ましいPUFAには、二重結合を3つまたはそれ以上有するω-3およびω-6多価不飽和脂肪酸が含まれる。ω-3 PUFAは、末端のエチレン結合が脂肪酸の末端メチル基を含めてそこから3炭素であるポリエチレン脂肪酸であり、これには例えばドコサヘキサエン酸C22:6(n-3)(DHA)およびω-3ドコサペンタエン酸C22:5(n-3)(DPAn-3)が含まれる。ω-6 PUFAは、末端のエチレン結合が脂肪酸の末端メチル基を含めてそこから6炭素であるポリエチレン脂肪酸であり、これには例えばアラキドン酸C20:4(n-6)(ARA);C22:4(n-6)、ω-6ドコサペンタエン酸C22:5(n-6)(DPAn-6);およびジホモγリノレン酸C20:3(n-6)(ジホモGLA)が含まれる。
【0099】
例えば動物、植物、および微生物の供給源を含む、PUFAの任意の供給源を本発明の組成物および方法において用いることができる。好ましい多価不飽和脂肪酸(PUFA)の供給源は、本発明における使用に適したPUFAの任意の供給源であってよい。好ましい多価不飽和脂肪酸の供給源には、動物、植物、および/または微生物の供給源などのバイオマス供給源が含まれる。
【0100】
動物供給源の例には、水生動物(例えば、魚類、海洋哺乳類、甲殻類、輪虫類など)および動物組織(例えば、脳、肝臓、眼など)から抽出された脂質が含まれる。植物供給源の例には、大型藻類、亜麻仁、ナタネ、トウモロコシ、マツヨイグサ、ダイズ、およびルリヂサが含まれる。微生物の例には、微細藻類、原生生物、細菌、および菌類(酵母を含む)が含まれる。微細藻類などの微生物供給源の使用により官能的利点が提供され得る、すなわち微生物供給源由来の脂肪酸は、魚を供給源とする脂肪酸が有する傾向のある魚臭い味および臭いがしない可能性がある。より好ましくは、長鎖脂肪酸供給源は微細藻類または微細藻類油を含む。
【0101】
好ましくは、微生物が長鎖脂肪酸の供給源である場合には、微生物を発酵槽において発酵培地中で培養する。または、微生物は、光バイオリアクターまたは池において光合成によって培養することができる。好ましくは、微生物は脂質に富む微生物であり、より好ましくは、微生物は微細藻類、細菌、菌類、および原生生物からなる群より選択され、より好ましくは、微生物は黄金色藻類、緑藻類、渦鞭毛藻類、酵母、モルティエレラ(Mortierella)属の菌類、およびストラメノパイルからなる群より選択される。好ましくは、微生物はクリプテコディニウム(Crypthecodinium)属およびヤブレツボカビ(Thraustochytriales)目の微生物ならびにモルティエレラ属の糸状菌を含み、より好ましくは、微生物はヤブレツボカビ(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia)属、またはそれらの混合物より選択され、より好ましくは、微生物はATCC番号20888、ATCC番号20889、ATCC番号20890、ATCC番号20891、およびATCC番号20892の識別特性を有する微生物、モルティエレラ・シュムッケリ(Mortierella schmuckeri)およびモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)の株、クリプテコディニウム・コーニイ(Crypthecodinium cohnii)の株、上記のいずれかに由来する変異株、ならびにそれらの混合物からなる群より選択される。このような藻類に関する情報は、米国特許第5,407,957号、第5,130,242号、および第5,340,594号に見出すことができ、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0102】
本発明による「海洋微細藻類」という用語には、天然で海洋または塩分環境に生息し得る微細藻類が含まれる。本明細書において参照する海洋微細藻類には、ヤブレツボカビ目(本明細書ではヤブレツボカビ類(Thraustochytrids)とも称される)の微生物およびラビリンチュラ(Labyrinthulales)目(本明細書ではラビリンチュラ類(Labyrinthulids)とも称される)の微生物が含まれる。本発明の時点では、ヤブレツボカビ類の分類における改訂により、ラビリンチュロイデス(Labyrinthuloides)属がラビリンチュラ(Labyrinthulaceae)科に位置づけられ、ヤブレツボカビ(Thraustochytriaceae)科およびラビリンチュラ科の2つの科のストラメノパイル系統内への位置づけが承認されることが認識されている。ラビリンチュラ科は場合により、俗にラビリンチュラ類もしくはラビリンチュラ(labyrinthula)またはラビリンチュロイデスと称され、ヤブレツボカビ科は俗にヤブレツボカビ類と称される。ラビリンチュラ科のメンバーは以前はヤブレツボカビ目のメンバーと見なされていたが、この科は現在ではラビリンチュラ目のメンバーと見なされており、ラビリンチュラ目およびヤブレツボカビ目のいずれもラビリンチュラ菌(Labyrinthulomycota)門のメンバーであると見なされている。したがって、本明細書で用いる「ヤブレツボカビ」という用語は、ヤブレツボカビ科を含むヤブレツボカビ目の任意のメンバーを指し、「ラビリンチュラ」という用語は、ラビリンチュラ科を含むラビリンチュラ目の任意のメンバーを指す。
【0103】
進展により、ヤブレツボカビ類(ヤブレツボカビ)の分類が頻繁に改訂されている。分類理論学者らは一般に、ヤブレツボカビ類を藻類または藻類様原生生物と共に位置づけている。しかしながら、分類学上の不確かさから、本発明においてヤブレツボカビ類として記載する株は、以下の生物を含めると考えることが本発明の目的にとって最良であると思われる:目:ヤブレツボカビ目;科:ヤブレツボカビ科;属:ヤブレツボカビ属(種:アルジメンタレ(arudimentale)、アウレウム(aureum)、ベンチコラ(benthicola)、グロボスム(globosum)、キンネイ(kinnei)、モチブム(motivum)、ムルチルジメンタレ(multirudimentale)、パキデルマム(pachydermum)、プロリフェルム(proliferum)、ロゼウム(roseum)、ストリアツム(striatum)種)、ウルケニア属(以前はヤブレツボカビ属のメンバーと見なされる場合もあった)(種:アモエボイデア(amoeboidea)、ケルグエレンシス(kerguelensis)、ミヌタ(minuta)、プロフンダ(profunda)、ラジアタ(radiata)、サイレンズ(sailens)、サルカリアナ(sarkariana)、シゾキトロプス(schizochytrops)、ビスルゲンシス(visurgensis)、ヨーケンシス(yorkensis)種)、シゾキトリウム属(種:アグレガツム(aggregatum)、リムナセウム(limnaceum)、マングロベイ(mangrovei)、ミヌツム(minutum)、オクトスポルム(octosporum)種)、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属(種:マリヌム(marinum)種)、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属(種:ハリオチジス(haliotidis)、ケルグエレンシス(kerguelensis)、プロフンダ(profunda)、ストッキノイ(stocchinoi)種)、アルソルニア(Althornia)属(種:クロウチイ(crouchii)種)、またはエリナ(Elina)属(種:マリサルバ(marisalba)、シノリフィカ(sinorifica)種)。
【0104】
本発明においてラビリンチュラ類と記載する株には、以下の生物が含まれる:目:ラビリンチュラ目、科:ラビリンチュラ科、属:ラビリンチュラ(Labyrinthula)属(種:アルゲリエンシス(algeriensis)、コエノシスティス(coenocystis)、チャットニイ(chattonii)、マクロシスティス(macrocystis)、マクロシスティス・アトランティカ(macrocystis atlantica)、マクロシスティス・マクロシスティス(macrocystis macrocystis)、マリナ(marina)、ミヌタ(minuta)、ロスコフェンシス(roscoffensis)、バルカノビイ(valkanovii)、ビテリナ(vitellina)、ビテリナ・パシフィカ(vitellina pacifica)、ビテリナ・ビテリナ(vitellina vitellina)、ゾプフィ(zopfii)種)、ラビリンチュロイデス属(種:ハリオチジス(haliotidis)、ヨーケンシス(yorkensis)種)、ラビリントミキサ(Labyrinthomyxa)属(種:マリナ(marina)種)、ディプロフリス属(種:アルケリ(archeri)種)、ピュロソルス属(Pyrrhosorus)属(種:マリヌス(marinus)種)、ソロディプロフリス(Sorodiplophrys)属(種:ステルコレア(stercorea)種)、またはクラミドミキサ(Chlamydomyxa)属(種:ラビリンチュロイデス(labyrinthuloides)、モンタナ(montana)種)(しかしながら、現在、ピュロソルス属、ソロディプロフリス属、またはクラミドミキサ属の正確な分類学的配置には全体的な合意がない)。
【0105】
より詳細には、本発明において有用なPUFAには、ドコサヘキサエン酸(DHA;少なくとも約10、約20、約30、または約35重量パーセント)、ドコサペンタエン酸(DPA、好ましくはDPAn-6;少なくとも約5、約10、約15、または約20重量パーセント)、および/またはアラキドン酸(ARA;少なくとも約20、約30、約40、または約50重量パーセント)が含まれ得る。他のPUFAには、エイコサペンタエン酸(EPA)が含まれ得る。PUFAには、遊離脂肪酸、およびリン脂質;脂肪酸のエステル;トリアシルグリセロール;ジアシルグリセリド;モノアシルグリセリド;リゾリン脂質;ホスファチドなどを含むPUFA残基を含む化合物が含まれる。
【0106】
リン脂質の供給源には、家禽卵、栄養強化家禽卵、藻類、魚類、魚卵、および遺伝子組換え(GE)植物種子または微細藻類が含まれる。特に好ましい、DHAを含むPUFAの供給源には、魚油、海洋微細藻類、ならびに遺伝子組換え微細藻類および植物由来の油を含む植物油が含まれるが、これらに限定されない。PUFA、DHAの好ましい前駆体には、α-リノレン酸(LNA);エイコサペンタエン酸(EPA);ドコサペンタエン酸(DPA);LNA、EPA、および/またはDPAの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
本発明によると、本明細書に記載の補助剤および治療組成物において用いられる長鎖脂肪酸は、多様な形態である。例えば、そのような形態には、これらに限定されないが、PUFAを含む高度精製藻類油、PUFAを含む植物油、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、PUFAを含む乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、PUFAのエステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせが含まれる。長鎖脂肪酸は、供給源の混合、精製、濃縮、および遺伝子操作などにより、脂肪酸の天然源において存在する量または比率と異なる量および/または比率で提供され得る。生理活性分子には、これらに限定されないが、タンパク質、アミノ酸(例えば、DHA-グリシン、DHA-リジン、またはアミノ酸類似体などの天然アミノ酸)、薬物、および糖質を含む、任意の適切な分子が含まれ得る。本明細書に概説する形態により、高い官能的品質を有する食品、健康補助剤、および薬学的物質を処方する際に柔軟性が得られる。例えば、現在入手可能な微細藻類油は約40% DHAを含む。これらの油をエステル型に変換し、次いで分子蒸留などの技法を用いて精製して、DHA含有量を70%およびそれ以上に高めることができ、大きさの制約を受ける製品、すなわち乳児用食品または実現可能な丸剤の大きさが制限される健康補助剤のような提供サイズが小さい製品において有用となり得る濃縮製品が提供される。油とリン脂質の組み合わせを用いることは、微細藻類油の酸化的安定性、ひいては官能的および栄養的品質を高めるのに役立つ。酸化的分解により、トリグリセリド型のPUFAの栄養的および官能的品質は損なわれる。リン脂質型を用いることで、トリグリセリド型の場合よりも所望のPUFAはより安定し、脂肪酸は生物学的利用率が高くなる。微生物油は典型的な魚油よりも安定しているが、いずれも酸化的分解を受けやすい。酸化的分解により、これらの脂肪酸の栄養的価値が低下する。さらに、酸化脂肪酸は、健康に有害であると考えられている。より安定した脂肪酸系であるリン脂質DHA/DPA/ARA/ジホモ-GLAを用いることで、これらの補助剤の健康および栄養的価値が高まる。リン脂質はまた、トリグリセリド油よりも容易に水溶液系に溶け込む。タンパク質とリン脂質の組み合わせを用いることによって、タンパク質および脂肪酸が共に提供されることから、より栄養的に複雑な食品の処方が可能になる。乾燥海洋微細藻類を用いることでその中の油の高温安定性が得られ、よって高温で焼く食品の処方に有益である。
【0108】
本発明の1つの態様において、所望のリン脂質の供給源には、DHA、DPA、ARA、および/またはジホモ-GLAに富んだ栄養補助剤を調製するための、Friolex工程およびリン脂質抽出工程(PEP)(または関連の工程)によって調製された卵、植物油、および動物臓器由来の精製リン脂質が含まれる。FriolexおよびPEPならびに関連工程は、2001年4月12日に出願され、2001年10月18日にWO01/76715として公表された、「Method for the Fractionation of Oil and Polar Lipid-Containing Native Raw Meterials」と題するPCT特許出願PCT/IB01/00841号;2001年4月12日に出願され、2001年10月18日にWO 01/76385として公表された、「Method for the Fractionation of Oil and Polar Lipid-Containing Native Raw Materials Using Alcohol and Centrifugation」と題するPCT/IB01/00963号;および1995年8月12日に出願され、1996年2月22日にWO 96/05278として公表された、「Process for Extracting Native Products Which Are Not Water-Soluble From Native Substance Mixtures By Centrifugal Force」と題するPCT/DE95/01065号により詳細に記載されている;これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0109】
好ましくは、トリグリセリド型で所望のPUFAを含む高度精製藻類油、リン脂質と混合されたトリグリセリド油、リン脂質のみ、タンパク質とリン脂質との組み合わせ、または乾燥海洋微細藻類は、DHAおよび/またはDPAn-3および/またはDPAn-6および/またはARAおよび/またはジホモ-GLAで構成される群より選択される脂肪酸残基を含む。より好ましくは、トリグリセリド型で所望のPUFAを含む高度精製藻類油、リン脂質と混合されたトリグリセリド油、リン脂質のみ、タンパク質とリン脂質との組み合わせ、または乾燥海洋微細藻類は、DHA、ARA、および/またはDPAn-6で構成される群より選択される脂肪酸残基を含む。より好ましくは、トリグリセリド型で所望のPUFAを含む高度精製藻類油、リン脂質と混合されたトリグリセリド油、リン脂質のみ、タンパク質とリン脂質との組み合わせ、または乾燥海洋微細藻類は、DHAおよびDPAn-6で構成される群より選択される脂肪酸残基を含む。別の好ましい態様において、トリグリセリド型で所望のPUFAを含む高度精製藻類油、リン脂質と混合されたトリグリセリド油、リン脂質のみ、タンパク質とリン脂質との組み合わせ、または乾燥海洋微細藻類は、DHAの脂肪酸残基を含む。別の好ましい態様において、トリグリセリド型で所望のPUFAを含む高度精製藻類油、リン脂質と混合されたトリグリセリド油、リン脂質のみ、タンパク質とリン脂質との組み合わせ、または乾燥海洋微細藻類は、DPAn-6の脂肪酸残基を含む。
【0110】
1つの好ましい態様において、PUFAはDPAn-6およびDHAの組み合わせを含む。本発明者らは、PUFAのこの組み合わせが、DHAのみの投与を上回る驚くべき予想外の利点をもたらすことを見出した。特にDPAn-6およびDHAの組み合わせが、DHAのみまたは他のω-6 PUFAと組み合わせたDHAの投与を上回る利点をもたらすことは予想外である。組織におけるDPAn-6の役割は、食餌性DHAの摂取が不十分である場合に高まるため、これは驚くべきことである。DHA欠乏動物の組織におけるDPAn-6の上昇は、最適以下の組織機能と関連している場合が多い。本発明の例では、DPAn-6と組み合わせて前もって形成された十分な食餌性DHAを与えた動物は、DHAのみを与えた動物と比較して、有意に高い組織中DPAn-6レベルおよび優れたARAレベルを有した。血中DHAレベルおよびARAレベルが高い動物は、APPの毒性アミロイドペプチドへの切断と関連するタンパク質であるPS-1がより大きく減少する傾向があった。さらに、DPAn-6と組み合わせて前もって形成された十分な食餌性DHAを与えた動物では、認知症を有する患者における神経原線維変化の発生と関連するリン酸化τレベルが低かった。
【0111】
別の好ましい態様において、PUFAは、DPAn-6およびDHAの組み合わせを約30%もしくはそれ以上、約35%もしくはそれ以上、約40%もしくはそれ以上、約45%もしくはそれ以上、約50%もしくはそれ以上、約55%もしくはそれ以上、約60%もしくはそれ以上、約65%もしくはそれ以上、約70%もしくはそれ以上、約75%もしくはそれ以上、または約80%もしくはそれ以上含む油または製剤を含む。好ましくは、油または製剤中のDHAとDPAn-6の比率は、約1:1〜約10:1、または1:1〜10:1の間の任意の比率である。
【0112】
別の態様において、PUFAはARAおよびDHAの組み合わせを含む。この場合も同様に、本発明者らは、DHAおよびARAの組み合わせが、DHAのみの投与を上回る驚くべき予想外の利点をもたらすことを見出した。特にARAおよびDHAの組み合わせが、DHAのみまたはARAを含まない他のω-6 PUFAと組み合わせたDHAの投与を上回る利点をもたらすことは予想外である。このことは、本発明の例において、血中DHAレベルおよびARAレベルが高い動物で、APPの毒性アミロイドペプチドへの切断と関連するタンパク質であるPS-1がより大きく減少する傾向があったという理由で、驚くべきことである。
【0113】
別の好ましい態様において、PUFAは、ARAおよびDHAの組み合わせを約30%もしくはそれ以上、約35%もしくはそれ以上、約40%もしくはそれ以上、約45%もしくはそれ以上、約50%もしくはそれ以上、約55%もしくはそれ以上、約60%もしくはそれ以上、約65%もしくはそれ以上、約70%もしくはそれ以上、約75%もしくはそれ以上、または約80%もしくはそれ以上含む油または製剤を含む。好ましくは、DHAとARAの比率は、約1:1〜約10:1、または1:1〜10:1の間の任意の比率である。
【0114】
別の態様において、PUFAはDHA、ARA、およびDPAn-6の組み合わせを含み、この組み合わせは、上記の理由から、DHAのみの投与を上回る驚くべき予想外の利点をもたらすと考えられる。別の好ましい態様において、PUFAは、DPAn-6、ARAおよびDHAの組み合わせを約30%もしくはそれ以上、約35%もしくはそれ以上、約40%もしくはそれ以上、約45%もしくはそれ以上、約50%もしくはそれ以上、約55%もしくはそれ以上、約60%もしくはそれ以上、約65%もしくはそれ以上、約70%もしくはそれ以上、約75%もしくはそれ以上、または約80%もしくはそれ以上含む油または製剤を含む。好ましくは、DHAとARAとDPAn-6の比率は、約1:1:1〜約10:1:1、または1:1:1〜10:1:1の間の任意の比率である。
【0115】
1日のPUFA摂取量は、好ましくは、その間の0.005きざみ(例えば、0.025、0.030、0.035など)での任意の増加分を含む、1日に約0.025 mg〜約15グラムの範囲である。1つの態様において、PUFAは、その間の0.01 mgきざみ(例えば、0.06 mg、0.07 mgなど)での任意の増加分を含む、0.05 mg PUFA/kg個体体重〜200 mg PUFA/kg個体体重もしくはそれ以上の用量、または約50 mg〜約20,000 mg/対象/日の範囲の量で投与される(例えば、経口、注射、乳剤もしくは完全非経口栄養、局所、腹腔内、胎盤、経皮、または頭蓋内送達による)。別の態様において、PUFAは、約0.45 mg PUFA/kg体重/日〜約275 mg PUFA/kg体重/日の用量で投与される。別の態様において、PUFAは、その間の0.005きざみ(例えば、0.025、0.030、0.035など)での任意の増加分を含む、約0.025 mg PUFA/kg体重/日〜約275 mg PUFA/kg体重/日の用量で投与される。別の態様において、PUFAは、約0.05 mg PUFA/kg体重/日〜約275 mg PUFA/kg体重/日の用量で投与される。例えば、典型的なカプセルDHA補助剤は、100 mg〜200 mg用量/カプセルで製造することができるが、本発明は、これらの量のDHAまたは別のPUFAを含むカプセル剤形またはカプセルに限定されない。
【0116】
DHAなどの脂肪酸は、局所的にまたは注射剤として投与することができるが、最も好ましい投与経路は経口投与である。好ましくは、脂肪酸(例えば、PUFA)は、栄養補助剤および/または食品および/または薬学的製剤および/または飲料、より好ましくは食品、飲料、および/または栄養補助剤、より好ましくは食品および飲料、より好ましくは食品の形態で個体に投与される。好ましい食品形態は、医療用食品(例えば、医師の監督下で外部から摂取または投与されるよう処方され、かつ認められた科学原理に基づいて特有の栄養所要量が医学的評価によって確立されている疾患または病態の特定の食事管理を目的とする食品)である。乳児に関しては、脂肪酸は、乳児用調合乳、離乳食、瓶詰めベビーフード、および乳児用シリアルとして乳児に投与される。
【0117】
生物学的に許容されるいかなる剤形およびそれらの組み合わせも、本発明の主題により意図される。そのような剤形の例には、非限定的に、咀嚼錠、急速溶解錠、発泡錠、再構成可能散剤、エリキシル剤、液剤、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、多層錠、二層錠、カプセル剤、軟ゼラチンカプセル、硬ゼラチンカプセル、カプレット、ロゼンジ、咀嚼ロゼンジ、ビーズ、散剤、顆粒剤、粒子、微粒子、分散性顆粒剤、カシェ剤、潅注、坐剤、クリーム、局所剤、吸入剤、エアロゾル吸入剤、パッチ、粒子吸入剤、植込錠、デポー植込錠、経口摂取物、注射剤、注入剤、棒状健康食品、菓子、シリアル、シリアルコーティング、食品、栄養食品、機能性食品、およびそれらの組み合わせが含まれる。上記剤形の調製は当業者に周知である。好ましくは、所望のPUFAを強化した食品は、これらに限定されないが、焼いた食品およびミックス;チューインガム;朝食用シリアル;チーズ製品;ナッツおよびナッツに基づく製品;ゼラチン、プディング、およびフィリング;凍結酪農製品;乳製品;乳製品類似品;ソフトキャンディ;スープおよびスープミックス;スナック食品;加工果汁;加工野菜ジュース;脂肪および油;魚製品;植物タンパク質製品;家禽製品;ならびに食肉製品を含む群より選択される。
【0118】
本発明の別の態様は、少なくとも1種のω-3および/もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ならびに/またはその前駆体もしくは供給源の一定量と、認知症もしくはその発症リスクを有する個体における認知症を治療または予防するための少なくとも1種のさらなる治療化合物とを含む薬学的組成物を含む。好ましい態様において、PUFAは、DHA、DPAn-6、またはDPAn-6およびDHAの組み合わせを少なくとも30%もしくはそれ以上有するDPAn-6ならびにDHAの組み合わせを含む。別の好ましい態様において、PUFAは、DPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを少なくとも30%またはそれ以上有するDPAn-6、ARA、ならびにDHAの組み合わせを含み、DPAn-6、ARA、またはDHAは。別の好ましい態様において、PUFAは、ARAおよびDHAの組み合わせを少なくとも30%またはそれ以上有するARAならびにDHAの組み合わせを含む。
【0119】
本発明と共に用いるのに適した治療化合物には、本明細書で考察した状態または疾患のいずれかから個体を保護するために用いることができ、タンパク質、アミノ酸、薬物、他の天然物、および糖質を含み得る任意の治療剤が含まれる。そのような治療化合物は、治療する特定の疾患または状態に関する分野の当業者に周知である。本発明の組成物または製剤中に含めるためのいくつかの好ましい治療化合物には、これらに限定されないが、タクリン(COGNEX);ドネペジル(ARICEPT);リバスチグミン(EXELON);ガランタミン(REMINYL);メマンチン(AKATINOL);ネオトロピン;向知性薬;α-トコフェロール(ビタミンE);セレジリン(ELDEPRYL);非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);イチョウ;エストロゲン;β-セクレターゼ阻害剤;脳内の斑を溶解する、脂質またはリポソームに基づくワクチンを含むワクチン;ビタミンB複合体;カルシウムチャネル遮断薬;HMG CoA還元酵素阻害薬;スタチン;ポリコサノール;フィブラート;クリオキノール;および他の天然物(例えば、クルクミン、リグナン、植物エストロゲン、植物ステロール;ナイアシン、およびビタミン補助剤)が含まれる。
【0120】
投与量および投与経路は当技術分野において公知であり、当業者によって決定され得る。
【0121】
本発明はまた、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて、組成物の成分を任意の適切な送達形態中に混合するなどして、本発明の上記組成物のいずれかを作製する方法を含む。
【0122】
本発明によれば、本発明の方法は、非限定的に霊長類、家畜類、および家庭用ペット(例えば、伴侶動物)を含む、脊椎動物門、哺乳綱のメンバーである個体における使用に適している。最も典型的には、個体はヒト個体である。「個体」という用語は、「対象」または「患者」という用語と置き換えることができ、本発明による手順または方法の対象を指す。したがって、個体には、健常な正常(非疾患)個体、および前認知症もしくは認知症または本明細書に記載のその症状もしくは指標を有する、またはそれを発症するリスクがある個体が含まれ得る。
【0123】
以下の実施例は説明の目的で提供するものであって、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【実施例】
【0124】
実施例
以下に記載する実施例では、以下の材料および方法を使用した。
【0125】
3XTg-ADマウスの作製
3XTg-ADマウスの作製は、Oddo, 「Triple-transgenic Model of Alzheimer's Disease with Plaques and Tangles: Intracellular Aβ and Synaptic Dysfunction」, Neuron, Vol. 39, 409-21 (2003)に記載されている通りであった。簡潔に説明すると、スウェーデン二重変異(KM670/671NL)を有するヒトAPP(695アイソフォーム) cDNAを、Thy1.2発現カセットのエキソン3にサブクローニングした。P30IL変異を有する、アミノ末端挿入物を含まないヒト4回反復τ(4R0N)も同様に、Thy1.2発現カセットにサブクローニングした。制限消化により導入遺伝子を遊離させた後、ショ糖勾配分画し、次いで注入緩衝液(10 mM Tris [pH 7.5]、0.25 mM EDTA)中で一晩透析することにより各断片を精製した。等モル量の各構築物を、ホモ接合性PS1M146Vノックインマウスから回収した単一細胞胚の前核に同時にマイクロインジェクションした(Guo et al., Arch. Pathol. Lab. Med. 125, 489-492(2001))。PS1ノックインマウスは、もとはハイブリッド129/C57BL6背景として作製された。トランスジェニックマウスは、以前に記載された通りに、尾部DNAのサザンブロット解析により同定した(Sugarman et al. Natl. Acad. Sci 99, 6334-6339 (2002))。創始マウスを、親PS1ノックインマウスと戻し交配した。
【0126】
食餌
これらの実施例に記載するマウスにはすべて、3ヵ月齢から開始して6、9、または12ヵ月齢で実験を完了するまで、実験食餌を与えた。食餌処方物は、5%総脂肪を含むAIN-76げっ歯類食餌であった。各食餌の標的脂肪酸組成を表1に記載するが、これは表2に概説するように、植物油および微細藻類油の組み合わせを混合することにより達成した。実験は最初に盲検様式で行ったため、食餌は次の通りに色分けした(いくつかの表および図で参照する):青色食餌(トウモロコシ/ダイズ);黄色食餌(DHASCO(登録商標);DHA補給食餌またはDHA強化食餌としても知られる);緑色食事(DHA(商標)-S;DHAおよびDPAn-6補給食餌またはDHAおよびDPAn-6強化食餌としても知られる);および赤色食餌(DHASCO(登録商標)/ARASCO(登録商標);DHAおよびARA補給食餌またはDHAおよびARA強化食餌としても知られる)。DHASCO(登録商標)、DHA(商標)-S、またはDHASCO(登録商標)/ARASCO(登録商標)をまとめて、微細藻類油を含む食餌と称し得る。
【0127】
DHASCO(登録商標)は、多量のドコサヘキサエン酸(DHA)を含むクリプテコディニウム・コーニイ由来の油であり、より具体的には、総脂肪酸の割合として、これらの脂肪酸を以下のおおよその例示的な量含む:ミリスチン酸(14:0) 10〜20%;パルミチン酸(16:0) 10〜20%;パルミトレイン酸(16:1) 0〜2%;ステアリン酸(18:0) 0〜2%;オレイン酸(18:1) 10〜30%;リノール酸(18:2) 0〜5%;アラキン酸(20:0) 0〜1%;ベヘン酸(22:0) 0〜1%;ドコサペンタエン酸(22:5) 0〜1%;ドコサヘキサエン酸(22:6)(DHA) 40〜45%;ネルボン酸(24:1) 0〜2%;およびその他 0〜3%。
【0128】
DHA(商標)-S(以前はDHASCO(登録商標)-Sとも称された)は、多量のDHAを含み、かつドコサペンタエン酸(n-6)(DPAn-6)もまた含むヤブレツボカビ、シゾキトリウム属種由来の油であり、より具体的には、総脂肪酸の割合として、これらの脂肪酸を以下のおおよその例示的な量含む:ミリスチン酸(14:0) 8.71%;パルミチン酸(16:0) 22.15%;ステアリン酸(18:0) 0.66%;リノール酸(18:2) 0.46%;アラキドン酸(20:4) 0.52%;エイコサペンタエン酸(20:5、n-3) 1.36%;ドコサペンタエン酸(22:5、n-6)(DPAn-6) 16.28%;ドコサヘキサエン酸(DHA)(22:6、n-3) 41.14%;およびその他 8%。
【0129】
ARASCO(登録商標)は、多量のアラキドン酸(ARA)を含むモルティエレラ・アルピナ由来の油であり、より具体的には、総脂肪酸の割合として、これらの脂肪酸を以下のおおよその例示的な量含む:ミリスチン酸(14:0) 0〜2%;パルミチン酸(16:0) 3〜15%;パルミトレイン酸(16:1) 0〜2%;ステアリン酸(18:0) 5〜20%;オレイン酸(18:1) 5〜38%;リノール酸(18:2) 4〜15%;リノレン酸(18:3) 1〜5%;アラキン酸(20:0) 0〜1%;エイコサトリエン酸(20:3) 1〜5%;アラキドン酸(20:4)(ARA) 38〜44%;ベヘン酸(22:0) 0〜3%;ドコサペンタエン酸(22:5) 0〜3%;およびリグノセリン酸(24:0) 0〜3%。
【0130】
(表1)ラット食餌のn-3およびn-6脂肪酸含有量

【0131】
(表2)実験食餌に用いた油混合物の組成

【0132】
いずれの食餌も、50 g脂肪/100 g飼料を含んだ。DHA含有食餌はそれぞれ1.3 g DHA/100 g飼料を有し、対照食餌が約10:1比のn-6対n-3脂肪酸を有したのに対して、約1:1比のn-6対n-3脂肪酸を有した。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、および多価不飽和脂肪酸の割合は、食餌を通して同等であった。総タンパク質(20%)および糖質(66%)の量、ならびに総エネルギー(3.9 kcal/gm)もまた、食餌を通して同等であった。
【0133】
ELISAおよび免疫ブロット
Aβ ELISAは、本質的に以前に記載された通りに行った(Suzuki et al., Science 264, 1336-1340 (1994))。免疫ブロットについては、トランスジェニックマウスおよび対照マウス由来の脳を、完全Mini Protease阻害剤錠(Roche 1836153)を添加した、0.7 mg/mlペプスタチンAを含むH2O中の2% SDS溶液中で加圧ホモジナイズした。ホモジナイズした混合物を短時間超音波処理してDNAを剪断し、100,000 x gで4℃で1時間遠心分離した。上清を免疫ブロット解析に使用した。タンパク質を還元条件下でSDS/PAGE(Invitrogen製10% Bis-Tris)により分離し、ニトロセルロース膜に転写した。膜を、脱脂乳の5%溶液中で20℃で1時間インキュベートした。一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした後、ブロットをTween-TBS中で20分間洗浄し、二次抗体と共に20℃でインキュベートした。ブロットをT-TBS中で20分間洗浄し、二次抗体と共に20℃でインキュベートした。ブロットをT-TBS中で20分間洗浄し、Super Signal(Pierce)と共に5分間インキュベートした。
【0134】
生化学的マーカー
Aβ測定
Aβの様々な種(例えば、Aβ40対Aβ42;可溶性対不溶性Aβ)(Oddo et al., 2003)に対するDHAの効果に関する定量的データを得た。DHAで処置したマウスの脳組織から抽出されたタンパク質を用いて、可溶性および不溶性タンパク質抽出物を生成し、サンドイッチELISAにより解析した。ウェスタンブロットを用いて、APPホロタンパク質、C99/C83断片、およびsAPPαの定常状態レベルを測定し、これらのバイオマーカーに対するDHAの効果を決定した。
【0135】
τ過剰リン酸化
3xTg-ADマウスは、加齢に伴って、皮質および海馬に好銀性で繊維状のτ免疫反応性神経封入物を蓄積するため(Oddo et al., 2003)、τ過剰リン酸化に対するDHAの効果を機能的マーカーとして測定した。これは、過剰リン酸化τを特異的に認識する抗体(AT8、AT100、またはPHF1など)を用いた定量的ウェスタンブロッティングにより達成した。
【0136】
脳は皮質、海馬、および小脳に分けた。
【0137】
免疫組織化学的検査
すべての斑およびもつれ、ならびにまたミクログリア活性化を評価するため、ホルマリン固定パラフィン包埋脳から5μmの切片を作製し、シランコートスライドグラスに乗せ、記載の通りに処理した。様々な形態のAβ(1-40、1-42、およびオリゴマー)およびリン酸化型のτに対する種々の抗体を用いて、斑およびもつれを、脳において位置および重症度に関して可視化した。加えて、斑およびもつれが免疫応答をなお開始させるかどうかを判定するために、CD45などの抗体を用いて、ミクログリア活性化に関して染色した。以下の抗体を使用した:抗Aβ 6E10および4G8(Signet Laboratories、マサチューセッツ、デドハム)、抗Aβ 1560(Chemicon)、A11(Kayed et al, 2003)、抗APP 22C11(Chemicon)、抗τ HT7、AT8、AT180(Innogenetics)、Tau C17(Santa Cruz)、Tau 5(Calbiochem)、抗GFAP(Dako)、ならびに抗アクチン(Sigma)。一次抗体は、GFAPに関しては1:3000;6E10に関しては1:1000;1560、AT8、AT180、およびTau5に関しては1:500;ならびにHT7に関しては1:200の希釈で適用した。
【0138】
脳の総脂質の抽出
脳は、解析するまで-80℃で維持した。脳を凍結乾燥し、抗酸化剤としての0.5% BHTを含む2:1(v:v) クロロホルム:メタノール 4 ml中に、脂質を抽出した。混合物を10分間超音波処理し、遠心分離して固形物を沈殿除去した。
【0139】
脂肪酸解析
総脳脂質の解析
脳脂質抽出物1.2 mgを、脳総脂肪酸に関して解析した。脳総脂質を、14% BF3/メタノールにより、100℃で30分間にわたり脂肪酸メチルエステル(FAME)に変換した(Morrison, W.R. and Smith, L.M. (1964) J Lipid Res. 5:600-8)。酸化を最小限にするため、けん化の前にブチルヒドロキシトルエンを添加し、工程中はすべての試料をN2でパージした。FAME解析の前に、トリコサン遊離脂肪酸(23:0)を内部標準として各試料に添加した。
【0140】
脳リン脂質の解析
Gilfillanら(Gilfillan et al (1983), J Lipid Res. 24: 1651-1656)の方法を用いて、脳ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、およびホスファチジルエタノールアミン(PE)を分離した。0.25 mm厚 20 X 20 cm Kシリカゲルプレート(Whatman、ニュージャージー州、クリフトン)を、100℃のオーブン中で60分間活性化した。全脳抽出物の試料(0.6 mg)をプレート上にスポットし、クロロホルム:メタノール:石油エーテル:酢酸:ホウ酸 40:20:30:10:1.8(v/v/v/v/w)を用いて、TLCチャンバー内で展開した。プレートは、プレートの上端1 cm以内まで展開した。プレートに酢酸銅を噴霧して、バンドを可視化した。PC、PS、およびPEバンドを試験管内に剥離回収し、脂質を、14% BF3/メタノールにより、100℃で30分間にわたり脂肪酸メチルエステル(FAME)に変換した(Morrison and Smith, 1964、前記)。酸化を最小限にするため、けん化の前にブチルヒドロキシトルエンを添加し、工程中はすべての試料をN2でパージした。FAME解析の前に、トリコサン遊離脂肪酸(23:0)を内部標準として各試料に添加した。
【0141】
赤血球解析
BlighおよびDyer(Bligh, E.G. and Dyer, W.J. (1959), Can. J. Biochem. Physiol. 37:911)の方法を用いて、濃縮赤血球(RBC) 400μlから総脂質を抽出した。抽出前に、トリコサン遊離脂肪酸(23:0)を内部標準として各試料に添加した。RBC脂質を0.5 Nメタノール水酸化ナトリウムでけん化し、脂肪酸を、14% BF3/メタノールにより、100℃で30分間にわたりメチルエステルに変換した(Morrison and Smith, 1964、前記)。酸化を最小限にするため、けん化の前にブチルヒドロキシトルエンを添加し、工程中はすべての試料をN2でパージした。
【0142】
ガスクロマトグラム解析
脂肪酸メチルエステル(FAME)は、水素炎イオン化検出機を備えたHewlett Packard 6890を用いて、GLCにより解析した。脂肪酸メチルエステルを、ヘリウムを用いて流速2.1 mL/分でスプリット比48:1および20:1によって、30メートルのFAMEWAXキャピラリーカラム(Restek、ペンシルベニア州、ベルフォンテ;直径0.25 mm、コーティング厚0.25 mm)において分離した。クロマトグラフィー実施パラメータには、オーブン開始温度130℃が含まれ、これを6℃/分で225℃まで上昇させて、これを20分間維持してから15℃/分で250℃に上昇させて、最終的に5分間維持した。注入器および検出器の温度はそれぞれ、220℃および230℃で一定であった。ピークは、保持時間を、NuCheck Prep(米国、ミネソタ州、エリシアン)による外部の脂肪酸メチルエステル標準混合物と比較することによって同定した。脂肪酸プロファイルは、総脂肪酸mgの割合(重量パーセント)として表した。
【0143】
実施例1
以下の実施例では、アルツハイマー病の新規三重トランスジェニックマウスモデル(3xTg-AD)における疾患の発症またはその病態生理学的症状の重症度を調節する、食餌性多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6 n-3)、ドコサペンタエン酸(DPAn-6;22:5 n-6)、またはアラキドン酸(ARA;20:4 n-6)の可能性の評価について説明する。
【0144】
材料および方法に上記したように、ホモ接合性3x-Tg-ADマウスの群に、DHA、DHAおよびDPAn-6、DHAおよびARAを含む食餌、またはこれらのPUFAを欠く食餌(対照)の4つの食餌のうちの1つを与えた(表1および2を参照されたい)。上記の通り、3つの実験食餌は、同等量のDHA、およびn-6の供給源としてのリノール酸、DPAn-6、またはARAを含んでいた(材料および方法における食餌の考察を参照されたい)。これらのマウスにおける病変発生を観察することにより、治療のいくつかの時点で、対照食餌およびPUFA補給食餌の治療上の利点を評価した。
【0145】
具体的には、3ヵ月齢から開始して、3xTg-ADマウスに表1および2に示す処方食餌を最長で12ヵ月齢まで与えた。各食餌は参照番号を含み、食餌中に含まれる実験化合物のレベルに関する情報なしに色分けした。保存した食餌は、試験を通して0℃で維持した。3ヵ月齢動物での実験の開始は、Aβおよびτ神経病変が発生する前の実験食餌による処置の間に、マウスの正常な成長および発達が妨げられるのを回避するために選択された。処置は6、9、または12ヵ月齢の時点で終了し、脳および血液における、総APP、アミロイドβペプチド、斑の数、斑の大きさ、およびAPP切断酵素(αおよびβセクレターゼ、プレセニリン-1)のレベルを含む、種々の神経病理学的評価を実施した。脳および血液の総脂肪酸、ならびに脳のリン脂質もまた測定した。
【0146】
有効な統計解析を提供するため、各時点において、少なくともマウス6匹の脳および脳脊髄液(CSF)で徹底的な神経病理学的および免疫組織化学的解析を完了した。血液は回収し、処理して赤血球沈殿および血清とし、-80℃で保存した。各食餌群のさらなるマウス6匹を屠殺し、血液および脳切片をさらなる解析のために凍結保存した。マウスが6、9、および12ヵ月齢となった3つの時点で、神経病理および免疫組織化学を評価した。
【0147】
表3は、上記のPUFA含有食餌を与えてから3ヵ月、6ヵ月、および9ヵ月後の平均体重を示す。
【0148】
(表3)

【0149】
表3に示されるように、処置の3、6、または9ヵ月の時点で、雄および雌マウスの平均体重に差はなかった。マウスは、試験の過程を通して、いずれの食餌においても成長し健康な状態のままであった。
【0150】
脂肪酸解析結果
図1A〜Cは、食餌処置の3ヵ月(図1A;n=6)、6ヵ月(図1B;n=6)、または9ヵ月(図1C;n=6)後の4つの食餌処置群の全脳ホモジネート脂肪酸プロファイルを示す(値は、総脳脂肪酸の割合として表す)。図2A〜2Cは、3ヵ月(図2A)、6ヵ月(図2B)、または9ヵ月(図2C)後の4つの食餌処置群の赤血球ホモジネート脂肪酸プロファイルを示す(値は、総赤血球脂肪酸の割合として表す)。図3A〜3Cは、3ヵ月(図3A)、6ヵ月(図3B)、または9ヵ月(図3C)後の4つの食餌処置群の脳ホスファチジルコリン(PC)プロファイルを示す(値は、総脳PC脂肪酸の割合として表す)。図4A〜4Cは、3ヵ月(図4A)、6ヵ月(図4B)、または9ヵ月(図4C)後の4つの食餌処置群の脳ホスファチジルエタノールアミン(PE)プロファイルを示す(値は、総脳PE脂肪酸の割合として表す)。図5A〜5Cは、3ヵ月(図5A)、6ヵ月(図5B)、または9ヵ月(図5C)後の4つの食餌処置群の脳ホスファチジルセリン(PS)プロファイルを示す(値は、総脳PS脂肪酸の割合として表す)。図1〜5のそれぞれにおいて、4つの食餌は、対照(青色)、DHA(黄色)、DHA/DPA(緑色)、およびDHA/ARA(赤色)として示される。図1〜5のそれぞれにおいて、DMA=ジメチルアセタール;ARA=アラキドン酸(n-6);DHA=ドコサヘキサエン酸(n-3);EPA=エイコサペンタエン酸(n-3);LA=リノール酸(n-6);ALA=α-リノレン酸(n-3);DPAn-6=ドコサペンタエン酸(n-6);DPA n-3=ドコサペンタエン酸(n-3);およびAdrenic=アドレン酸(n-6)である。
【0151】
結果から、PUFA強化食餌の結果として、赤血球(RBC)および脳脂肪酸が6ヵ月(3ヵ月の食餌処置)、9ヵ月(6ヵ月の食餌処置)、および12ヵ月(9ヵ月の食餌処置)齢マウスで変化したことが示された(図1A〜Cおよび図2A〜C)。PUFA補給食餌のいずれによっても、すべての時点で、RBC 22:6 n-3(DHA)重量パーセントレベルは対照レベルの2倍を上回った。総脳22:6 n-3(DHA)レベルもまた、PUFA補給食餌のすべてにおいて1〜3重量パーセント増加したが、RBCほど大きな増加ではなかった。DHA(黄色)食餌を与えたマウスが、RBCおよび脳総脂質の両方において、22:6 n-3(DHA)重量パーセントが最も大きく変化した。脂肪酸の重量パーセントとして、22:6 n-3(DHA)および20:4 n-6(ARA)は脳およびRBC総脂質中で最も豊富な長鎖PUFAであるため、脳およびRBCにおける20:5 n-3(EPA)レベルは低く、典型的に、脳における22:6 n-3(DHA)重量パーセントレベルは、20:5 n-3(EPA)の約15倍高く、RBCでは約5倍高い。
【0152】
DHAレベルは増加したものの、全3つのPUFA強化食餌により、総脳脂質20:4 n-6(ARA)は対照食餌(10:1のn-6対n-3比を有した)と比較してその後減少した。DHAおよびARA脳脂肪酸レベルはいずれも、補給期間を通して維持された。RBCでは、DHA(黄色)食餌により、RBC 20:4 n-6(ARA)レベルが、全時点にわたり対照群と比較して大きく11.75重量パーセント減少した。予想通り、赤色食餌(DHAおよびARA補給)のマウスは、20:4 n-6(ARA) RBCレベルが対照マウスと最も近接していた。
【0153】
RBCおよび総脳脂質中の22:5 n-6(DPAn-6)レベルは、すべての時点において、DHAおよびDPAn-6(緑色)食餌で対照レベルの2倍を上回った。脳およびRBC 22:5 n-6(DPA)レベルは、DHA(黄色)またはDHAおよびARA(赤色)食餌を与えたマウスでは、非常に低いかまたは検出不能であった。脳およびRBC脂質中には最小量の18:3 n-3(ALA)が存在し、長鎖PUFAのこの前駆体に関して、いずれの組織種においてもごくわずかな脂肪酸変化が認められた。18:2 n-6(LA)レベルは、RBCでは脳と比較して約15倍高い。RBC 18:2 n-6(LA)重量パーセントレベルは、全期間にわたり、すべてのPUFA強化食餌で対照よりも減少していた。これらの変化は、投与した食餌の脂肪酸組成を反映している。RBC 20:5 n-3(EPA)重量パーセントレベルは、これらの食餌がさほどの量の20:5 n-3(EPA)を含んでいないにもかかわらず、対照レベルと比較してすべてのPUFA補給食餌を通して高かった。これは、血液細胞における22:6 n-3(DHA)の20:5 n-3(EPA)への逆変換を示し得る。種々のPUFA補給食餌において、および全期間にわたり、脳脂質中にはさほどの量の20:5 n-3(EPA)は検出されなかった。
【0154】
PS、PE、およびPC脳リン脂質脂肪酸もまた、PUFA強化食餌により6ヵ月(3ヵ月の食餌処置)、9ヵ月(6ヵ月の食餌処置)、および12ヵ月(9ヵ月の食餌処置)齢マウスで変化した(図3A〜3C、4A〜4C、および5A〜5Cを参照されたい)。重量パーセントとして、22:6 n-3(DHA)は、PC(図3)画分と比較してPS(図5)およびPE(図4)画分において5倍豊富であり、20:4 n-6(ARA)はPE画分において最も豊富である。脳リン脂質中の20:5 n-3(EPA)、18:2 n-6(LA)、および18:3 n-3(ALA)レベルは非常に低い。DHA(黄色)食餌により、全3つのリン脂質に関して、脳リン脂質22:6 n-3(DHA重量パーセントが対照から最も増加した。また、全3つの脳リン脂質において、DHA(黄色)食餌により、対照と比較して、20:4 n-6(ARA)レベルが対応して減少した。RBCおよび総脳脂質で認められたように、いずれの脳リン脂質画分においても、22:5 n-6(DPA)重量パーセントレベルは、DHAおよびDPAn-6強化(緑色)食餌を与えたマウスで最も増加した。
【0155】
要約すると、食餌のn-6とn-3脂肪酸の比率は、RBCおよび脳脂肪酸レベルに反映された。食餌中の22:6 n-3(DHA)含有量が増加すると、RBCおよび脳レベルにおいてDHAレベルが有意に増加した。食餌中の22:6 n-3(DHA)レベルが増加すると、n-6脂肪酸はその後減少した。他の脂肪酸(すなわち、DPAおよびARA)を食餌に添加すると、組織においてもそれらに相当する脂肪酸レベルが増加した。全体として、脳脂肪酸レベルは、各食餌の補給期間にわたり良好に維持された。
【0156】
生化学的マーカーの解析
図6A〜6Jは、食餌処置の3ヵ月、6ヵ月、および9ヵ月後の、6ヶ月齢3X-TG-ADマウスにおけるアミロイド-β(Aβ)レベルに対する食餌の効果を示す。上記の通り、上記の表1に示した4つの食餌のうちの1つを動物に与えた。総可溶性(図6A、6C、および6E)および不溶性(図6B、6D、および6F)Aβペプチドを、Aβ1-40およびAβ1-42ならびに総アミロイドに特異的な抗体を用いて脳タンパク質抽出物より測定した。図6Aに示されるように、摂取の3ヵ月後、微細藻類DHAを含む食餌(黄色、緑色、および赤色食餌)を与えた動物は、トウモロコシ-ダイズ油を与えた動物と比較して、可溶性アミロイドβペプチドのレベルが有意に低かった。食餌補助剤を6ヵ月与えた時点では(図6C)、DHA(黄色)またはDHAおよびDPAn-6(緑色)を含む食餌を与えた動物は、対照動物と比較して有意に低いアミロイドβレベルをなお有していたが、DHAおよびARAを含む食餌(赤色)を与えた動物のアミロイドβペプチドのレベルは、もはや対照と有意差がなかった。9ヵ月の摂取時には(図6E)、DHAを含む食餌(黄色)を与えた動物のみが、対照と比較して有意に低いAβを有していた。トウモロコシ/ダイズ油および微細藻類油を含む食事間に、不溶性アミロイドの総レベルの差は認められなかった。図6G〜6Jは、トウモロコシ/ダイズ(青色群)、DHASCO(登録商標)(黄色群)、DHA(商標)-S(緑色群)、およびDHASCO(登録商標)/ARASCO(登録商標)(赤色群)を与えた動物の冠状切片に存在する細胞内総アミロイドの相対強度を示す。3ヵ月の摂取後、トウモロコシ-ダイズおよびDHASCO(登録商標)/ARASCO(登録商標)食餌を与えた動物は、DHASCO(登録商標)またはDHA(商標)-S含有食餌を与えた動物よりも比較的多くの総細胞内アミロイドを含んでいた。
【0157】
図7Aおよび7Bは、3ヵ月の処置後の、6ヵ月齢3x-TG-ADマウスにおけるAPPプロセシングに対する食餌の効果を示す。トウモロコシ-ダイズ油または微細藻類油を含む食餌を与えた動物間で、APP、C83、およびC99の総レベルに有意差はなかった。
【0158】
図7Cおよび7Dは、3ヵ月の処置後の、Aβペプチド排除酵素(インスリン分解酵素、IDE)に対する食餌の効果を示す。トウモロコシ/ダイズ油または種々の微細藻類油を含む食餌を与えた動物において、IDEレベルに統計的有意差は認められなかった。
【0159】
図8Aおよび8Bは、3ヵ月の実験食餌処置後の、6ヵ月齢3X-TG動物におけるAPPセクレターゼに対する食餌の効果を示す。トウモロコシ-ダイズ油または微細藻類油を含む食餌を与えた動物において、βセクレターゼ(BACE)またはADAM 10に有意差は明白ではなかった。
【0160】
図8Cおよび8Dから、トウモロコシ-ダイズ食餌を与えた動物と比較して、微細藻類油を含む食餌を与えた動物では、酵素、プレセニリン1のレベルが有意に減少したが、ニカストリンは減少しなかったことが示される。
【0161】
図8Eから、DHAにより、SHSY5Y細胞においてプレセニリン1 mRNAが有意に減少したことが示される(*、p<0.05)。
【0162】
図9A〜9Fは、食餌処置の3ヵ月、6ヵ月、および9ヵ月後の、総τレベルに対する食餌の効果を示す。図9Aおよび9Bに示されるように、DHA含有微細藻類油を含む食餌(黄色、緑色、および赤色食餌)によって、トウモロコシ-ダイズ油を含む食餌と比較して総τレベルが有意に減少した。摂取の6カ月後、主なPUFAとしてDHA(黄色)、またはDHAおよびDPAn-6(緑色)を含む食餌を与えた動物は、トウモロコシ-ダイズ油を含む食餌と比較して有意に低い総τレベルを維持したが、DHAおよびARAの組み合わせを含む食餌(赤色)を与えた動物では、対照と比較して総τレベルに有意差はなかった。摂取の9カ月後、主なPUFAとしてDHA(黄色)を含む食餌を与えた動物のみが、対照と比較して有意に低い総τレベルを有した。
【0163】
図10A〜10Dから、摂取の3カ月後、DHAおよびDPAn-6(緑色)食餌により、構造変化したτの発現が他の3つの食餌と比較して有意に減少したことが示される。
【0164】
図10Eおよび10Fに示されるように、食餌処置の9ヵ月後、リン酸化τは、トウモロコシ-ダイズ油を含む食餌を与えた動物と比較して、主なPUFAとしてDHA(黄色)またはDHAおよびDPAn-6(緑色)を含む食餌を与えた動物において有意に減少する。DHAおよびARAの組み合わせを含む食餌(赤色)を与えた動物では、対照と比較してリン酸化τレベルに有意差はなかった。
【0165】
本明細書において引用した参考文献および出版物はそれぞれ、その全体が参照により組み入れられる。米国仮特許出願第60/697,911号および米国仮特許出願第60/779,145号はそれぞれ、その全開示が参照により本明細書に組み入れられる。
【0166】
本発明の様々な態様を詳細に説明してきたが、それらの態様の改変および適合化が当業者に想起されるであろうことは明らかである。しかし、そのような改変および適合化が特許請求の範囲に記載される本発明の範囲内に含まれることは、明白に理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、個体におけるアミロイドβ(Aβ)ペプチドのレベルを減少させる方法:
個体におけるAβペプチドのレベルを減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)、またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項2】
Aβペプチドが可溶性Aβペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
以下の段階を含む、個体におけるτタンパク質のレベルを減少させる方法:
個体におけるτタンパク質のレベルを減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項4】
τタンパク質がリン酸化τタンパク質である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
以下の段階を含む、個体におけるプレセニリン-1(PS1)タンパク質のレベルを減少させる方法:
個体におけるPS1タンパク質のレベルを減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項6】
以下の段階を含む、個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法:
個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DPAn-6、あるいは多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項7】
以下の段階を含む、個体における認知症の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法:
個体における認知症の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DPAn-6、あるいは多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項8】
以下の段階を含む、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、プレセニリン-1(PS1)タンパク質、リン酸化τタンパク質、またはτタンパク質の量もしくは発現の増加、またはその機能障害と関連した疾患を治療または予防する方法:
(a) Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、τタンパク質、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるバイオマーカーの量、発現、または生物活性が、陰性対照個体におけるバイオマーカーの量、発現、または生物活性と比較して増加している個体を同定する段階;ならびに
(b) Aβペプチド、PS1タンパク質、リン酸化τタンパク質、またはτタンパク質の量、発現、または生物活性を減少させるために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項9】
以下の段階を含む、ω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量の減少と関連した疾患を治療または予防する方法:
(a) ω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量が減少している個体を同定する段階;ならびに
(b) ω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量の減少の影響を補償するために、多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項10】
以下の段階を含む、個体における脳機能の低下の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法:
個体における脳機能の低下の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DPAn-6、あるいは多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項11】
脳機能が、神経心理学的検査または認知検査、脳画像法(PET、SPECT、CT、MRI、fMRI)、および脳波記録法(EEG)からなる群より選択される方法によって測定される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
以下の段階を含む、個体における脱髄を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法:
個体における脱髄を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DPAn-6、あるいは多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項13】
以下の段階を含む、個体におけるアルツハイマー病と関連した神経原線維変化の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減する方法:
個体における神経原線維変化の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するために、DPAn-6、あるいは多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせを個体に投与する段階であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHAの組み合わせ、ARAおよびDHAの組み合わせ、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項14】
以下の段階を含む、個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させる、または異常なθ波活動の発生を軽減もしくは予防する方法:
(a) 異常なθ波活動を有するまたはその発生が予測される個体を同定する段階;ならびに
(b) 個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させるため、または異常なθ波活動の発生を予防もしくは軽減するために、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源を個体に投与する段階であって、PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択される、段階。
【請求項15】
個体が認知症もしくは前認知症を起こしやすい、またはそれを有すると同定される、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
認知症がアルツハイマー病である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
個体が、生物学的マーカーの測定、認知症を示す家族歴、軽度認知障害、または加齢関連認知低下により、認知症もしくは前認知症を有するまたはそれを起こしやすいと同定される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
生物学的マーカーが、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、PS1、およびω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
生物学的マーカーの量、発現、または生物活性が、個体由来の生体試料中で測定される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
投与段階の前に、個体由来の生体試料中の、APP、Aβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、およびPS1タンパク質より選択されるバイオマーカーの量、発現、または生物活性を測定する段階を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
個体試料中のバイオマーカーの量、発現、または生物活性を、同じ種類の試料中のバイオマーカーのベースラインの量、発現、または生物活性と比較する段階をさらに含む方法であって、ベースラインの量、発現、または生物活性と比較して個体試料中のバイオマーカーの量、発現、または生物活性が増加していることにより、個体が認知症の発症リスクまたは認知症を有することが示される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
投与段階の前に、個体由来の生体試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量または生物活性を測定する段階を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
個体試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量または生物活性を、同じ種類の試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源のベースラインの量または生物活性と比較する段階をさらに含む方法であって、ベースラインの量と比較して個体試料中のω-3もしくはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の量が変化していることにより、個体が認知症の発症リスクまたは認知症を有することが示される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
測定段階が、ウェスタンブロット、免疫ブロット、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、免疫沈降法、表面プラズモン共鳴法、化学発光、蛍光偏光法、リン光、免疫組織化学的解析、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、マイクロサイトメトリー、マイクロアレイ、顕微鏡観察、蛍光活性化細胞選別(FACS)、フローサイトメトリー、キャピラリー電気泳動、タンパク質マイクロチップまたはマイクロアレイ、脂肪酸メチルエステル化/ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量分析、および液体クロマトグラフィー/質量分析からなる群より選択される方法によって行われる、請求項20〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
生体試料が、細胞試料、組織試料、および体液試料からなる群より選択される、請求項20〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
生体試料が脳脊髄液である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
生体試料が血液試料である、請求項25記載の方法。
【請求項28】
投与段階後に少なくとも一度、個体におけるAβペプチド、τタンパク質、リン酸化τタンパク質、またはPS1タンパク質のレベルに対するPUFA投与の有効性をモニターする段階をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
投与段階後に少なくとも一度、個体におけるω-3またはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)レベルに対するPUFA投与の有効性をモニターする段階をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
治療の有効性のモニタリングの結果に基づいて、その後の治療における個体に対するPUFA投与を調整する段階をさらに含む、請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
PUFAがDPAn-6およびDHAの組み合わせを含む、請求項1〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
PUFAがARAおよびDHAの組み合わせを含む、請求項1〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
PUFAがDPAn-6、ARA、およびDHAの組み合わせを含む、請求項1〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
PUFAが該PUFAを30%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
PUFAが該PUFAを40%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
PUFAが該PUFAを50%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
PUFAが該PUFAを60%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
PUFAが該PUFAを70%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
PUFAが該PUFAを80%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
PUFAがDPAn-6およびDHAを含み、DPAn-6とDHAの比率が約1:1〜約1:10である、請求項1〜39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
PUFAがARAおよびDHAを含み、ARAとDHAの比率が約1:1〜約1:10である、請求項1〜39のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
PUFAがDPAn-6、ARA、およびDHAを含み、DPAn-6とARAとDHAの比率が約1:1:1〜約1:1:10である、請求項1〜39のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
PUFAが約50 mg〜約20,000 mg/日の量で投与される、請求項1〜42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
PUFAが約0.025 mg〜約15 g/日の量で投与される、請求項1〜42のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
PUFAが約0.05 mg PUFA/kg体重/日〜約275 mg PUFA/kg体重/日の量で投与される、請求項1〜42のいずれか一項記載の方法。
【請求項46】
PUFAがDHAである、請求項1〜5、8、または14のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
PUFAの供給源が、魚油、海洋微細藻類、植物油、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜46のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
PUFAの供給源が海洋微細藻類である、請求項1〜46のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
PUFAがDHAを含み、DHAの前駆体が、α-リノレン酸(LNA);エイコサペンタエン酸(EPA);ドコサペンタエン酸(DPA);LNA、EPA、またはDPAの混合物からなる群より選択される、請求項1〜5、8、または14のいずれか一項記載の方法。
【請求項50】
PUFAが個体に経口投与される、請求項1〜49のいずれか一項記載の方法。
【請求項51】
PUFAが、咀嚼錠、急速溶解錠、発泡錠、再構成可能(reconstitutible)散剤、エリキシル剤、液剤、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、多層錠、二層錠、カプセル剤、軟ゼラチンカプセル、硬ゼラチンカプセル、カプレット、ロゼンジ、咀嚼ロゼンジ、ビーズ、散剤、顆粒剤、粒子、微粒子、分散性顆粒剤、カシェ剤、潅注、坐剤、クリーム、局所剤、吸入剤、エアロゾル吸入剤、パッチ、粒子吸入剤、植込錠、デポー植込錠、経口摂取物、注射剤、注入剤、棒状健康食品、菓子、シリアル、シリアルコーティング、食品、栄養食品、機能性食品、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、PUFAまたはその前駆体もしくは供給源を含む製剤として個体に投与される、請求項1〜49のいずれか一項記載の方法。
【請求項52】
製剤中のPUFAが、PUFAを含む高度精製藻類油、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、PUFAを含む乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、PUFAのエステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される形態で提供される、請求項51記載の方法。
【請求項53】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の組み合わせ、ならびに認知症またはその発症リスクを有する個体における認知症を治療または予防するための少なくとも1種の治療化合物を含む薬学的組成物であって、PUFAの組み合わせが、DPAn-6およびDHA、ARAおよびDHA、ならびにDPAn-6、ARA、およびDHAからなる群より選択される、薬学的組成物。
【請求項54】
PUFAの組み合わせが、該PUFAを30%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項53記載の組成物。
【請求項55】
PUFAの組み合わせが、該PUFAを80%またはそれ以上含む油を含み、PUFAが、トリグリセリド型、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、エステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化学形態である、請求項53記載の組成物。
【請求項56】
PUFAの供給源が、魚油、海洋微細藻類、植物油、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項53〜55のいずれか一項記載の組成物。
【請求項57】
PUFAの供給源が海洋微細藻類である、請求項53〜55のいずれか一項記載の組成物。
【請求項58】
DHAの前駆体が、α-リノレン酸(LNA);エイコサペンタエン酸(EPA);ドコサペンタエン酸(DPA);LNA、EPA、またはDPAの混合物からなる群より選択される、請求項53〜55のいずれか一項記載の組成物。
【請求項59】
PUFAが、咀嚼錠、急速溶解錠、発泡錠、再構成可能散剤、エリキシル剤、液剤、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、多層錠、二層錠、カプセル剤、軟ゼラチンカプセル、硬ゼラチンカプセル、カプレット、ロゼンジ、咀嚼ロゼンジ、ビーズ、散剤、顆粒剤、粒子、微粒子、分散性顆粒剤、カシェ剤、潅注、坐剤、クリーム、局所剤、吸入剤、エアロゾル吸入剤、パッチ、粒子吸入剤、植込錠、デポー植込錠、経口摂取物、注射剤、注入剤、棒状健康食品、菓子、シリアル、シリアルコーティング、食品、栄養食品、機能性食品、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される製剤中に提供される、請求項53〜58のいずれか一項記載の組成物。
【請求項60】
製剤中のPUFAが、PUFAを含む高度精製藻類油、PUFAを含むトリグリセリド油、PUFAを含むリン脂質、タンパク質とPUFAを含むリン脂質との組み合わせ、PUFAを含む乾燥海洋微細藻類、PUFAを含むスフィンゴ脂質、PUFAのエステル、遊離脂肪酸、PUFAと別の生理活性分子との複合体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される形態で提供される、請求項59記載の組成物。
【請求項61】
治療化合物が、タンパク質、アミノ酸、薬物、および糖質からなる群より選択される、請求項53〜60のいずれか一項記載の組成物。
【請求項62】
治療化合物が、タクリン;ドネペジル;リバスチグミン;ガランタミン;メマンチン;ネオトロピン(neotropin);向知性薬;α-トコフェロール(ビタミンE);セレジリン;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);イチョウ(gingko biloba);エストロゲン;β-セクレターゼ阻害剤;ワクチン;ビタミンB複合体;カルシウムチャネル遮断薬;HMG CoA還元酵素阻害薬;スタチン;ポリコサノール;フィブラート;クリオキノール;クルクミン;リグナン;植物エストロゲン;植物ステロール;ナイアシン;およびビタミン補助剤からなる群より選択される、請求項53〜60のいずれか一項記載の組成物。組成物の調製における、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の使用であって、
PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA);ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択され、
組成物が、個体におけるアミロイドβ(Aβ)ペプチドのレベルを減少させるため;個体におけるτタンパク質のレベルを減少させるため;個体におけるプレセニリン-1(PS1)タンパク質のレベルを減少させるため;アミロイドβ(Aβ)ペプチド、プレセニリン-1(PS1)タンパク質、リン酸化τタンパク質、もしくはτタンパク質の量もしくは発現の増加、またはその機能障害と関連した疾患を治療または予防するため;または個体におけるθ波活動を安定化もしくは正常化させる、または異常なθ波活動の発生を軽減もしくは予防するためのものである、使用。
【請求項63】
組成物の調製における、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸(PUFA)またはその前駆体もしくは供給源の使用であって、
PUFAが、ドコサペンタエン酸(DPAn-6);DHAおよびDPAn-6の組み合わせ;DHAおよびアラキドン酸(ARA)の組み合わせ;ならびにDHA、DPAn-6、およびARAの組み合わせからなる群より選択され、
組成物が、個体におけるシナプス機能障害の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するため;個体における認知症の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するため;ω-3またはω-6多価不飽和脂肪酸(PUFA)の量の減少と関連した疾患を治療または予防するため;個体における脳機能の低下の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するため;個体における脱髄を遅延させるまたはその重症度を軽減するため;個体におけるアルツハイマー病と関連した神経原線維変化の発症を遅延させるまたはその重症度を軽減するためのものである、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【公開番号】特開2013−56900(P2013−56900A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−231354(P2012−231354)
【出願日】平成24年10月19日(2012.10.19)
【分割の表示】特願2008−520388(P2008−520388)の分割
【原出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(508004410)マーテック バイオサイエンシーズ コーポレーション (26)
【Fターム(参考)】