説明

誘導加熱装置

【課題】容易で安価なインバータ回路の構成および制御で、複数の加熱コイルから被加熱物に供給する電力の比率を複数パターン設けることができる誘導加熱装置を提供すること。
【解決手段】内側に設けられた第1の加熱コイル48と外側に設けられた第2の加熱コイル49のそれぞれに共振コンデンサを直列接続した2つの共振回路を並列接続してインバータ回路40に接続した構成であって、第1の加熱コイルとその第1の加熱コイルに直列接続された第1の共振コンデンサ50で構成した第1の共振回路56の共振周波数と、第2の加熱コイルとその第2の加熱コイルに直列接続された第2の共振コンデンサ51で構成した第2の共振回路57の共振周波数のうち、共振周波数が高い側の共振回路とインバータ回路の間には切替手段60を直列接続し、設定した加熱パターンに応じてインバータ回路の動作周波数および切替手段の開閉を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱調理器をはじめとする複数の加熱コイルを用いて1つの被加熱物を誘導加熱する装置であって、特に、誘導加熱装置の回路構成および制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導加熱装置において、加熱コイルと共振コンデンサで構成された2つの共振回路を同一のインバータ回路に接続し、それぞれの共振回路は互いに異なった共振周波数を有するものがある(例えば、特許文献1参照)。図7はこの誘導加熱装置における内側共振回路と外側共振回路のそれぞれの周波数インピーダンス特性を示した特性図である。
【0003】
この誘導加熱装置は、それぞれの共振回路に含まれる加熱コイルから被加熱物に供給する電力の比率に応じた周波数でインバータ回路を動作させることによって、加熱電力の比率を可変することができる。
【0004】
例えば、内側共振回路と外側共振回路のインピーダンスが略一致するところは図7中のA領域の周波数範囲であり、このA領域の周波数でインバータ回路を動作することにより、内側共振回路と外側共振回路には略同じ電流が供給される。これにより、結果的に内側加熱コイルと外側加熱コイルに供給される電力は略同一の値となり、加熱領域全面が略一様に加熱される。
【0005】
また、図7中のB領域の周波数範囲においては、外側共振回路のインピーダンスが内側共振回路のインピーダンスに比べて高くなる。このB領域の周波数でインバータ回路を動作することにより、外側共振回路には電流がほとんど供給されない状態になる。つまり、内側加熱コイルに供給される電流は外側加熱コイルに供給される電流に対して多くなり、結果として、B領域の周波数範囲では被加熱物の内側を被加熱物の外側に対して多く加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−353063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、内側加熱コイルと外側加熱コイルに供給される電力を略一致させるか、内側加熱コイルに供給される電力を外側加熱コイルに供給される電力に比較して多くするかの2つの加熱パターンを実現することができるものであるが、外側加熱コイルに供給される電力を内側加熱コイルに供給される電力に比較して多くする加熱パターンを有していない。例えば、炊飯性能を高めるためには、炊飯工程または炊飯量に応じた最適な加熱パターンが存在し、その加熱パターンの中には、外側加熱コイルに供給される電力を内側加熱コイルに供給される電力に比較して多くする加熱パターンも必要とされるため、前記従来の構成では炊飯性能を高めきれなかった。
【0008】
また、先行技術文献に記載した特許文献1内には、内側加熱コイルと外側加熱コイルに供給される電力を略一致させるか、外側加熱コイルに供給される電力を内側加熱コイルに供給される電力に比較して多くする2つの加熱パターンを実現することも提案されている
が、この場合においては、内側加熱コイルに供給される電力を外側加熱コイルに供給される電力に比較して多くする加熱パターンを有していないため、上記と同様に3つの加熱パターンを実現することができなかった。
【0009】
3つの加熱パターンを実現するために、内側加熱コイルと外側加熱コイルのそれぞれにインバータ回路を接続し、それぞれの加熱コイルに供給する電力を独立に制御する手段が考えられるが、この手段ではインバータ回路を構成する部品点数が多くなり、安価に3つの加熱パターンを実現することができなかった。
【0010】
また、共振回路の数あるいは加熱コイルの数と同数の切替手段をそれぞれに接続し、電力を供給したい共振回路あるいは加熱コイルに接続された切替手段を選択的に導通させて3つの加熱パターンを実現する方法では、多数の切替手段が必要で安価に回路を構成することができなかったことに加え、切替手段の数に応じた切替手段搭載スペースが回路基板上に必要で、そのため回路基板を小型化することができなかった。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、内側加熱コイルと外側加熱コイルに供給される電力を略一致させるか、内側加熱コイルに供給される電力を外側加熱コイルに供給される電力に比較して多くするか、逆に外側加熱コイルに供給される電力を内側加熱コイルに供給される電力に比較して多くするかの合計3つの加熱パターンを安価に実現することができる誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の誘導加熱装置は、加熱領域の内側に設けられた第1の加熱コイルとその第1の加熱コイルと略同心状で第1の加熱コイルの外側に設けられた第2の加熱コイルのそれぞれに共振コンデンサを直列接続してなる2つの共振回路と、電源に接続され電源の出力を設定された周波数の交流に変換して2つの共振回路を並列接続した共振回路部に出力するインバータ回路と、共振回路とインバータ回路を電気的に開閉する切替手段と、インバータ回路に駆動信号を供給してインバータ回路の動作を制御するとともに切替手段を任意に切替制御する制御手段とを備え、第1の加熱コイルとその第1の加熱コイルに直列接続された第1の共振コンデンサからなる第1の共振回路の共振周波数と、第2の加熱コイルとその第2の加熱コイルに直列接続された第2の共振コンデンサからなる第2の共振回路の共振周波数は異なるように設定し、第1の共振回路の共振周波数と第2の共振回路の共振周波数のうち、共振周波数が高い側の共振回路とインバータ回路の間には切替手段を直列接続し、設定した加熱パターンに応じてインバータ回路の動作周波数および切替手段の開閉を制御するものである。
【0013】
これによって、共振周波数が高い側の共振回路内の加熱コイルと共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルに供給される電力を略一致させるか、または共振周波数が高い側の共振回路内の加熱コイルに供給される電力を共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルに供給される電力に比較して多くする場合においては、切替手段を閉じて(オンして)共振回路とインバータ回路を導通した状態でインバータ回路の動作周波数を変化して2つの加熱パターンを実現し、共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルのみに電力を供給する場合においては、切替手段を開けて(オフして)共振回路をインバータ回路から切断することによって、合計3つの加熱パターンを実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の誘導加熱装置は、2つの加熱コイルに略同一の電力を供給する場合と、いずれか一方の加熱コイルに多くの電力を供給する場合の合計3つの加熱パターンを容易で安価な構成で実現することにより、例えば炊飯器に本誘導加熱装置を適用し、炊飯工程または炊飯量に応じて最適な加熱パターンで炊飯することで、炊飯性能を高めて美味しいご飯を
炊くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における誘導加熱装置のインバータ回路構成図
【図2】本発明の実施の形態1における切替手段導通時の誘導加熱装置のインバータ回路の動作周波数と供給電力の関係を示す特性図
【図3】本発明の実施の形態1における切替手段切断時の誘導加熱装置のインバータ回路の動作周波数と供給電力の関係を示す特性図
【図4】本発明の実施の形態2における誘導加熱装置を適用した炊飯器の炊飯時の経過時間と底温度センサの関係および炊飯工程ごとのインバータ回路の動作領域の関係を示す特性図
【図5】本発明の実施の形態3における誘導加熱装置を適用した誘導加熱調理器の対流モード加熱時の経過時間と各加熱コイルから供給される電力の関係を示す特性図
【図6】本発明の実施の形態3における誘導加熱装置を適用した誘導加熱調理器の均一モード加熱時の経過時間と各加熱コイルから供給される電力の関係を示す特性図
【図7】従来の誘導加熱装置のインバータ回路の動作周波数とインピーダンスの関係を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、加熱領域の内側に設けられた第1の加熱コイルとその第1の加熱コイルと略同心状で第1の加熱コイルの外側に設けられた第2の加熱コイルのそれぞれに共振コンデンサを直列接続してなる2つの共振回路と、電源に接続され電源の出力を設定された周波数の交流に変換して2つの共振回路を並列接続した共振回路部に出力するインバータ回路と、共振回路とインバータ回路を電気的に開閉する切替手段と、インバータ回路に駆動信号を供給してインバータ回路の動作を制御するとともに切替手段を任意に切替制御する制御手段とを備え、第1の加熱コイルとその第1の加熱コイルに直列接続された第1の共振コンデンサからなる第1の共振回路の共振周波数と、第2の加熱コイルとその第2の加熱コイルに直列接続された第2の共振コンデンサからなる第2の共振回路の共振周波数は異なるように設定し、第1の共振回路の共振周波数と第2の共振回路の共振周波数のうち、共振周波数が高い側の共振回路とインバータ回路の間には切替手段を直列接続し、設定した加熱パターンに応じてインバータ回路の動作周波数および切替手段の開閉を制御するものである。
【0017】
これによって、共振周波数が高い側の共振回路内の加熱コイルと共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルに供給される電力を略一致させるか、または共振周波数が高い側の共振回路内の加熱コイルに供給される電力を共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルに供給される電力に比較して多くする場合においては、切替手段をオンして共振回路とインバータ回路を導通した状態でインバータ回路の動作周波数を変化して2つの加熱パターンを実現し、共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルのみに電力を供給する場合においては、切替手段をオフして共振回路をインバータ回路から切断することによって、合計3つの加熱パターンを実現することができる。
【0018】
第2の発明は、特に、第1の発明において、切替手段によりインバータ回路から共振回路を電気的に切断したときのインバータ回路の動作周波数は、切替手段によりインバータ回路と共振回路を電気的に導通したときのインバータ回路の動作周波数に比較して低くすることにより、切替手段をオフして共振回路をインバータ回路から切断し、共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルのみに電力を供給する場合において、その供給される電力が、切替手段をオンして共振回路がインバータ回路と導通していて、第1の加熱コイルと第2の加熱コイルに供給される電力を略一致した場合の第1の加熱コイルに供給される電力と第2の加熱コイルに供給される電力の和、あるいは共振周波数が高い側の共振回路
に含まれる加熱コイルに供給される電力を共振周波数が低い側の共振回路に含まれる加熱コイルに供給される電力に比較して多くする場合の第1の加熱コイルに供給される電力と第2の加熱コイルに供給される電力の和と同程度の電力を共振周波数が低い側の共振回路内の加熱コイルに供給することができる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における誘導加熱装置のインバータ回路構成図であり、インバータ回路の構成および複数の加熱コイルと共振コンデンサの接続関係を示すものである。
【0021】
また、図2は、本発明の第1の実施の形態における切替手段が導通しているときの誘導加熱装置のインバータ回路の動作周波数と被加熱物に供給できる最大電力の関係を示す特性図であり、共振回路毎の電力特性を示すものである。
【0022】
図1において、商用の電源41は交流電源であり、その交流電源を直流電源に変換するためにダイオードブリッジ42が接続されている。ダイオードブリッジ42の出力端には、ダイオードブリッジ42から出力される全波整流された電源を平滑することや、スイッチング素子のスイッチング動作により発生する電磁ノイズを商用の電源41に伝播させないために、第1のフィルタコンデンサ43、フィルタインダクタ44、第2のフィルタコンデンサ45が接続されている。
【0023】
第2のフィルタコンデンサ45の両端(以後、フィルタインダクタ44が接続されている高電位側を正の母線と記載し、もう一方の低電位側を負の母線と記載する)には、逆導通ダイオード54が並列接続された第1のスイッチング素子46と、同様に逆導通ダイオード55が並列接続された第2のスイッチング素子47を電気的に直列接続したものが接続され、インバータ回路40を構成している。
【0024】
第1のスイッチング素子46と第2のスイッチング素子47の接続点には、第1の加熱コイル48と第1の共振コンデンサ50を直列接続した第1の共振回路56の一端および第2の加熱コイル49と第2の共振コンデンサ51を直列接続した第2の共振回路57の一端が接続されている。そして、第1の共振回路56の他方の端子および第2の共振回路57の他方の端子は負の母線に接続されることでSEPP型と呼ばれる回路構成をベースにした回路構成となる。
【0025】
さらに、第1のスイッチング素子46や第2のスイッチング素子47のスイッチング動作によって発生するスイッチング損失や電磁ノイズを低減するために、スナバコンデンサ53が第2のスイッチング素子47と電気的に並列接続されている。
【0026】
また、本実施の形態では、第1の共振回路56の共振周波数は第2の共振回路57の共振周波数よりも高くなるように加熱コイルのインダクタンスや共振コンデンサの静電容量を設定しているため、第1の共振回路56と負の母線の間には、第1の共振回路56とインバータ回路40を電気的に導通するか切断するかを切替える切替手段60を直列接続している。
【0027】
また、炊飯釜や鍋といった被加熱物61の底部には、被加熱物61の温度を検知する温度検知手段62が被加熱物61と接触または非接触で配置されるとともに、その温度検知手段62の検知信号の出力値に基づいて第1のスイッチング素子46および第2のスイッ
チング素子47を駆動制御する制御手段59を有することにより、本実施の形態の誘導加熱装置の回路を構成している。
【0028】
なお、第1の共振回路56の他方の端子および第2の共振回路57の他方の端子は負の母線でなく、正の母線に接続してもインバータ回路40から共振回路に電力を供給することができる。
【0029】
さらに、本実施の形態の誘導加熱装置は、スイッチング素子を2つ用いたSEPP型のインバータ回路40に2つの共振回路を接続した回路構成であるが、スイッチング素子を4つ用いたフルブリッジ型のインバータ回路に2つの共振回路を接続した回路構成などでもよい。
【0030】
また、本実施の形態の誘導加熱装置は、切替手段60を負の母線と第1の共振回路56の間に接続しているが、第1の共振回路56がインバータ回路40から電気的に切断できる位置に切替手段60が接続されていればどこでもよい。
【0031】
以上のように構成された誘導加熱装置について、以下その動作、作用を説明する。
【0032】
まず、本実施の形態におけるインバータ回路40の動作を説明する。本実施の形態のインバータ回路40は、第1のスイッチング素子46と第2のスイッチング素子47の動作周波数や導通時間と非導通時間の比率(0<Duty<1)を変更することにより、第1の共振回路56に流れる電流および第2の共振回路57に流れる電流を制御して、第1の加熱コイル48および第2の加熱コイル49から被加熱物61に供給する電力を調節することができる。ここで、第1のスイッチング素子46と第2のスイッチング素子47は同時に導通することなく、排他的に動作することはいうまでもない。
【0033】
Dutyを変更して加熱コイルから被加熱物61に供給する電力を調節する場合、正の母線と負の母線の電位差が一定の条件下では、Dutyが0.5のときに、加熱コイルから被加熱物61に供給する電力が最大となる。一方、第1のスイッチング素子46や第2のスイッチング素子47のDutyを0.1や0.9など、0.5から遠ざけるほど加熱コイルから被加熱物61に供給する電力は小さくなる。
【0034】
図2は、切替手段60をオンして第1の共振回路56とインバータ回路40を導通した状態での、インバータ回路40の動作周波数と、第1の共振回路56内の第1の加熱コイル48および第2の共振回路57内の第2の加熱コイル49が被加熱物61に供給できる電力の関係を示すものであり、図2中の波形83は第1の加熱コイル48が被加熱物61に供給できる電力の関係を、波形87は第2の加熱コイル49が被加熱物61に供給できる電力の関係をそれぞれ示している。共振回路内の加熱コイルのインダクタンスや共振コンデンサの静電容量、加熱コイルと被加熱物の磁気結合度合の違いによって共振周波数や被加熱物に供給できる電力といった共振特性は異なることから、波形83と波形87は異なる特性になっている。なお、図2において、正の母線と負の母線の電位差は常時一定としている。
【0035】
図2中の波形88は、インバータ回路40の各動作周波数における、第1の加熱コイル48から被加熱物61に供給される電力と第2の加熱コイル49から被加熱物61に供給される電力の和を示すものである。第1の加熱コイル48および第2の加熱コイル49を用いて1つの被加熱物61を加熱する場合、被加熱物61に供給される電力は第1の加熱コイル48から被加熱物61に供給される電力と第2の加熱コイル49から被加熱物61に供給される電力の和となることから、波形88は電源41から被加熱物61に供給される電力特性を示すことになる。
【0036】
図2中の動作領域Aは、第1の加熱コイル48および第2の加熱コイル49に供給される電力を略一致する場合での動作領域である。また、動作領域Bは、第1の加熱コイル48に供給される電力を第2の加熱コイル49に供給される電力に比較して多くする場合での動作領域である。この場合、インバータ回路40の動作周波数を動作領域Aに設定することにより、第1の加熱コイル48と第2の加熱コイル49に供給する電力を略一致させた状態で被加熱物61を加熱することができる。また、第1の加熱コイル48を含む第1の共振回路56の共振周波数を、第2の加熱コイル49を含む第2の共振回路57の共振周波数に比較して高くしているので、インバータ回路40の動作周波数を動作領域Bに設定することにより、第1の加熱コイル48に供給する電力を、第2の加熱コイル49に供給する電力に比較して高い状態で被加熱物61を加熱することができる。
【0037】
波形88は第1の加熱コイル48から被加熱物61に供給される電力と第2の加熱コイル49から被加熱物61に供給される電力の和を示したものであるが、動作領域Bにおける被加熱物61に供給される電力(波形88の値)と動作領域Aにおける被加熱物61に供給される電力(波形88の値)は略一致していることが図2から読み取れる。このような動作領域の関係を設定することにより、加熱コイルから被加熱物61へ供給される電力の比率は動作領域Aと動作領域Bで変動するが、被加熱物61に供給される電力の和は略一致させることができるため、加熱パターンを変更するために動作領域を変更したとしても供給される電力を常時一定にすることができる。このような動作領域の関係は、特に被加熱物61を定格電力で常時加熱しながらも加熱パターンを変更するときに有効である。もし、この関係を無視して動作領域を設定した場合、加熱パターンを変更することによって、例えば被加熱物61に供給される電力が多くなって定格電力を超えてしまうような事態が発生して製品的に欠陥となってしまうことが考えられる。また逆に、加熱パターンを変更することによって、被加熱物61に供給される電力が少なくなってしまい、高い電力で調理を行いたい場合に性能を出せなくなることも考えられるため、このような事態を避けるためには上記の動作領域の設定が必要となる。
【0038】
ただし、製品によって動作領域の変更に伴って被加熱物61へ供給される電力が変動してもよい場合はこの条件に沿って動作領域を設定する必要はない。
【0039】
第1の加熱コイル48を含む第1の共振回路56の共振特性と第2の加熱コイル49を含む第2の共振回路57の共振特性の関係は加熱コイルのインダクタンスや共振コンデンサの静電容量、加熱コイルからみた被加熱物の等価抵抗によって決まるため、上記動作領域の関係を設定するためには、まず第1の加熱コイル48と第2の加熱コイル49に供給する電力を略一致させるための動作領域Aを明らかにする必要がある。動作領域Aが設定され、その動作領域Aでの第1の加熱コイル48と第2の加熱コイル49から供給される電力の和(波形88)が明らかになった後に、その電力の和と略一致する動作領域Bを設定することで本機能を備えた誘導加熱装置を設計できる。
【0040】
ここで、被加熱物が固定されている場合は、予め特性を測定しておき、制御手段59に記憶させておくことで本機能を備えた誘導加熱装置は容易に実施できる。
【0041】
本実施の形態の誘導加熱装置は、第2の加熱コイル49を含む第2の共振回路57の共振周波数に比較して共振周波数が高い第1の加熱コイル48を含む第1の共振回路56と直列に切替手段60を接続しているので、切替手段60をオフしてインバータ回路40から第1の共振回路56を電気的に切断することにより、第1の共振回路56には電力を一切供給しないようにすることができる。
【0042】
図3は、切替手段60をオフしてインバータ回路40から第1の共振回路56を電気的
に切断したときのインバータ回路40の動作周波数と第2の加熱コイル49に供給される電力を示している。ここで、図3の波形87と図2の波形87は第2の共振回路57の値を変更していないことから同一の特性となる。切替手段60をオフしてインバータ回路40から第1の共振回路56を電気的に切断することにより、第1の共振回路56には電力が一切供給されていないため、結果的に第2の加熱コイル49に供給する電力を、第1の加熱コイル48に供給する電力に比較して高い(第2の加熱コイル49に100%供給)状態で被加熱物61を加熱することができる。
【0043】
また、切替手段60をオンしてインバータ回路40に第1の共振回路56を電気的に接続した場合における、第1の加熱コイル48と第2の加熱コイル49に供給する電力を略一致させた状態、および第1の加熱コイル48に供給する電力を第2の加熱コイル49に供給する電力に比較して高い状態で被加熱物61を加熱する2つの加熱パターンの制御法に加え、切替手段60をオフしてインバータ回路40から第1の共振回路56を電気的に切断した場合における、第2の加熱コイル49に供給する電力を第1の加熱コイル48に供給する電力に比較して高い状態で被加熱物61を加熱する合計3つのパターンの加熱を実現することができ、被加熱物61を所望の電力比率で加熱することができる。
【0044】
切替手段60をオフしてインバータ回路40から第1の共振回路56を電気的に切断した場合、第1の共振回路56には一切電力が供給されないため、被加熱物61に供給される電力は全て第2の共振回路57に含まれる第2の加熱コイル49から供給されることになる。そのため、切替手段60をオフしてインバータ回路40から第1の共振回路56を電気的に切断した状態のときも動作領域Aでインバータ回路40を動作させると、被加熱物61に供給される電力は略半分に減少してしまう。このため、3つの加熱パターン利用時においても、加熱パターンを変更しても設定電力を常時一定に供給することができるようにするためには、第2の加熱コイル49のみで被加熱物61を加熱する場合の動作領域Cは、第1の加熱コイル48と第2の加熱コイル49に供給する電力を略一致させて加熱する場合の動作領域Aよりも低い周波数領域であることが必要である。
【0045】
これにより、加熱パターンを変更することによって、被加熱物61に供給される電力が多くなることを回避し、定格電力を超えないようにすることができる。また、加熱パターンを変更することによって、被加熱物61に供給される電力が少なくなることを回避し、例えば高い電力で調理を継続したい場合にも調理性能を維持することができる。
【0046】
ただし、3つの加熱パターン利用時も上記同様に、製品によって動作領域の変更に伴って被加熱物61へ供給される電力が変動してもよい場合はこの条件に動作領域を設定する必要はない。
【0047】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第2の実施の形態における本発明の誘導加熱装置を炊飯器に適用した場合の、各炊飯工程とインバータ回路の動作領域の関係を示す特性図である。
【0048】
炊飯器で炊飯するにあたり、米と水を入れた炊飯釜を炊飯器にセットした後に炊飯開始の操作が行われると、炊飯器は予めプログラムされた炊飯シーケンス(例えば浸水工程、炊上工程、沸騰工程、むらし工程、保温工程の順)で動作し、それぞれの工程や炊飯量に適した温度調節や供給される電力の調節が行われる。
【0049】
いずれの炊飯工程時においても、炊飯釜内の米や水の温度がどこも均一であることが米を美味しく炊くために必要な条件であるが、米は炊飯する工程で粘りが発生し流動特性が変化するため、炊飯釜全体を常時均一加熱する、あるいは炊飯釜を常時局部的に加熱して対流を起こさせるような加熱では、炊飯工程毎の米の流動特性に適した加熱ができず、最
適な炊飯性能が得られない。
【0050】
図4は、炊飯時間(炊飯開始からの経過時間)と温度検知手段62で得た炊飯釜の底センサ温度の関係を示した特性図に、各炊飯工程を示したものである。
【0051】
浸水工程(本実施の形態では一定温度で維持)の後、炊上工程では、炊飯釜底の内側に配置された第1の加熱コイル48に、炊飯釜底の外側に配置された第2の加熱コイル49に比較して多くの電力を供給することで、高温の液体あるいは以後沸騰工程で発生する気泡の通路を確保することができるため、炊上工程あるいは沸騰工程で炊飯釜の中央部上下に位置する米にも熱量を十分に供給でき、炊飯釜の中央部に位置する米と炊飯釜の外周部に位置する米を均一に加熱することが可能となる。
【0052】
炊上工程の後、沸騰工程においては、切替手段60をオンしたままで、インバータ回路40の動作周波数を炊上工程のときよりも低い動作領域Aで動作させることにより、今度は炊飯釜全体を均一に加熱することができる。ここで、前記したように炊上工程で釜の中央部に液体あるいは沸騰工程時に発生する気泡の通路を確保しているため、炊飯釜全体を均一に加熱することによって炊飯釜に沿ってのみ気泡が上昇していたのを抑制し、炊飯釜の外周部と中央部の米に与える熱量を均一化して、美味しいご飯を炊くことができる。
【0053】
また、沸騰工程の後、むらし工程では、予熱で米を蒸らすため炊飯釜には少ない電力しか供給しないが、米は100℃近い高温状態であるため多くの蒸気が発生し、その蒸気が炊飯釜の側部に接することで冷やされてしまい結露してしまう。その結露はやがて炊飯釜の側部を伝って滴り落ち、結果として炊飯釜の外周部に位置する米をべちゃつかせてしまう。そこで、むらし工程においては、切替手段60をオフし、インバータ回路40を動作領域Cで動作させることにより、炊飯釜の外周部のみを加熱することができ、外周部の米もべちゃつかず全体的に美味しいご飯を炊くことができる。
【0054】
ここで、むらし工程では炊上工程や沸騰工程に比べて炊飯釜に供給すべく電力は少ないため、動作領域Cよりも高い周波数でインバータ回路40を動作させることによって供給する電力を低くしたり、あるいは動作領域Cでインバータ回路40を動作させ、かつ間欠的にインバータ回路40を動作させることにより、炊飯釜に供給する電力の平均値を下げるようにしてもよい。
【0055】
なお、上記で示した各種工程およびそれに対応する動作領域はあくまで一例であり、本発明は部品点数が少なく低コストかつ簡単な構成で3つの加熱パターンを実現できる誘導加熱装置を発明し、さらにその誘導加熱装置を用いて美味しく炊飯することができる炊飯器を実現するものであるため、上記シーケンス以上に美味しく炊飯することができるシーケンスがあればそれに変更してもよく、炊飯工程や動作領域の順序、電力量を限定するものではない。
【0056】
さらに、第1の加熱コイル48に供給する電力を第2の加熱コイル49に供給する電力に比較して高い状態で被加熱物61を加熱する場合と、第2の加熱コイル49に供給する電力を第1の加熱コイル48に供給する電力に比較して高い状態で被加熱物61を加熱する場合では、切替手段60がオン状態かオフ状態かの違いにより、低い電力が供給されるか完全に電力が供給されないかが異なるため、例えば、むらし工程では第2の加熱コイル49にのみ電力を供給して極端に炊飯釜の外側を加熱するのではなく、内側に配置された第1の加熱コイル48にも少しの電力を供給して炊飯釜の内側を加熱したい場合には、第1の共振回路56と第2の共振回路57の共振周波数の大小関係を反転させ、切替手段60を共振周波数が高い第2の加熱コイル49と直列に接続することによって、今度は炊上工程では第1の加熱コイル48のみに電力が供給されるが、むらし工程では第2の加熱コ
イル49に多くの電力を供給しながらも第1の加熱コイル48にも少しの電力を供給することができる。このように、共振特性を調節することにより、各工程に適した加熱を選択することができる。
【0057】
(実施の形態3)
図5は、本発明の第3の実施の形態における誘導加熱装置を誘導加熱調理器に適用し、対流を起こさせたい場合の第1の加熱コイル48及び第2の加熱コイル49に供給される電力の時間変化を示す特性図である。
【0058】
また、図6は、本発明の第3の実施の形態における誘導加熱装置を誘導加熱調理器に適用し、均一加熱させたい場合の第1の加熱コイル48及び第2の加熱コイル49に供給される電力の時間変化を示す特性図である。
【0059】
誘導加熱調理器において、調理器上に載置された被加熱物61である鍋内の調理物の味の染込みを加速させるためには、加熱時に鍋内に存在する液体の流速を高めることが有効である。そこで、載置領域の面方向(つまり鍋底)において加熱する部分と加熱されない部分を明確にすることにより、加熱された液体が液体上部まで上昇した後に、加熱している部分から加熱していない部分へと液体がスムーズに流れ、結果的に対流を発生させることができる。
【0060】
本発明の誘導加熱装置では、動作領域Bでインバータ回路40を動作させることにより第1の加熱コイル48に多くの電力を供給することができ、また、動作領域Cでインバータ回路40を動作させることにより第2の加熱コイル49のみに電力を供給することができるため、いずれの加熱においても鍋内の液体に大きな対流を発生させることができる。
【0061】
ここで、動作領域Bでインバータ回路40を動作させる場合には第2の加熱コイル49からも少しの電力が鍋に供給されるが、第1の加熱コイル48から鍋に供給される電力に比較して大差があるため、対流を発生させるのを大きく阻害されるものではない。
【0062】
また、図5においては、一定期間ごとに第1の加熱コイル48から鍋に供給される電力と第2の加熱コイル49から鍋に供給される電力の大小関係を切替えているが、これは内容物が鍋の内側あるいは外側に偏るのを防ぐ目的であり、本発明は部品点数が少なく低コストかつ簡単な構成で加熱の大小関係を実現できる誘導加熱装置を提案し、さらにその誘導加熱装置を用いて美味しく調理することができる誘導加熱調理器を実現するものであるため、切替タイミングや切替の必要性を限定するものではない。
【0063】
誘導加熱調理器で行う調理は上記のような味の染込みが必要な煮込み調理だけでなく、焼き物や炒め物といった調理も行われる。例えばフライパンを用いてこのような調理を行う場合、焼きムラ低減の観点からフライパンの温度は均一であることが望ましい。本発明の誘導加熱装置では、上記のような加熱の偏りを実現できることに加え、動作領域Aでインバータ回路40を動作させることによって、第1の加熱コイル48と第2の加熱コイル49から供給される電力を略一致させて、結果的に被加熱物61であるフライパンを均一に加熱することができる。
【0064】
従って、本発明の誘導加熱装置を誘導加熱調理器に適用することにより、調理シーンに合わせた加熱方法を選択的に利用できる、調理性能の高い誘導加熱調理器を実現することができる。
【0065】
上記全ての実施の形態において、2つの加熱コイルに流れる電流を制御しているにもかかわらず、インバータ回路内のスイッチング素子の数は従来のSEPP型インバータ回路
のスイッチング素子の数と同一の2個で制御できるため、安価に構成することができる。さらに、共振回路の数あるいは加熱コイルの数と同数の切替手段をそれぞれに接続し、電力を供給したい共振回路あるいは加熱コイルに接続された切替手段を選択的に導通させる従来の方式よりも切替手段の数を少なくすることができるため、この点からも安価に構成することができる。また、回路基板を小型化することもできる。
【0066】
また、上記全ての実施の形態では、内側に配置した第1の加熱コイルを含む第1の共振回路の共振周波数を、外側に配置した第2の加熱コイルを含む第2の共振回路の共振周波数に比較して高くしたが、第2の共振回路の共振周波数を第1の共振回路の共振周波数に比較して高くしても上記同様の効果が得られる。
【0067】
また、上記全ての実施の形態では、共振回路を2つ有する場合での制御方法を記載したが、共振回路を3つ以上有する場合であっても、共振周波数が隣接する2つの共振回路間のうち、共振周波数が高い共振回路に切替手段を接続することにより、共振周波数が隣接する2つの共振回路間では上記同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明にかかる誘導加熱装置は、複数の加熱コイルから被加熱物に供給する電力を同一のインバータ回路で制御するものであって、インバータ回路を安価に構成することができると共に、要求される3つの加熱パターンを実現することができるため、民生用、産業用に限らず加熱パターンの変更が必要である全ての誘導加熱装置の用途として有効である。
【符号の説明】
【0069】
40 インバータ回路
46 第1のスイッチング素子
47 第2のスイッチング素子
48 第1の加熱コイル
49 第2の加熱コイル
50 第1の共振コンデンサ
51 第2の共振コンデンサ
56 第1の共振回路
57 第2の共振回路
59 制御手段
60 切替手段
61 被加熱物
62 温度検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の被加熱物を加熱するための第1の加熱コイルと第2の加熱コイルのそれぞれに共振コンデンサを接続してなる2つの共振回路と、
電源に接続され前記電源の出力を設定された周波数の交流に変換して前記2つの共振回路を並列接続した共振回路部に出力するインバータ回路と、
前記共振回路と前記インバータ回路を電気的に開閉する切替手段と、
前記インバータ回路に駆動信号を供給して前記インバータ回路の動作を制御するとともに前記切替手段を任意に切替制御する制御手段とを備え、
前記第1の加熱コイルと前記第1の加熱コイルに直列接続された第1の共振コンデンサからなる第1の共振回路の共振周波数と、前記第2の加熱コイルと前記第2の加熱コイルに直列接続された第2の共振コンデンサからなる第2の共振回路の共振周波数のうち、共振周波数が高い側の共振回路と前記インバータ回路の間には前記切替手段を接続し、設定した加熱パターンに応じて前記インバータ回路の動作周波数および切替手段の開閉を制御する誘導加熱装置。
【請求項2】
前記切替手段により前記インバータ回路から前記共振回路を電気的に切断したときの前記インバータ回路の動作周波数は、前記切替手段により前記インバータ回路と前記共振回路を電気的に導通したときの前記インバータ回路の動作周波数に比較して低くする請求項1に記載の誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−12308(P2013−12308A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142562(P2011−142562)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】