説明

誘導標識の製造方法

【課題】 照明が消えて暗闇となっても、階段のステップや側壁を蓄光体からの光によって視認することができ、また、不燃であり、剥離せず、耐磨耗性に優れ、水に濡れても滑らず、さらに製造時に亀裂が発生することのない階段誘導標識を提供する。
【解決手段】 焼成を行う場合、金属板5の表面に白色下地層6及びガラスフリットとメジュームからなる印刷材料を印刷し蓄光材を振りかけた蓄光層7を形成し、更にその上にガラス層9を重ねて印刷し、この印刷した層が上となるように治具10のバー12上に金属板5を載置する。最初は金属板5は撓んでいないので、図7に示すように両端のバー12間で金属板5は支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高層ビル等の階段や屋外スタジアムの階段に設置するための誘導標識であって、特に、緊急停電時であっても蓄光体からの発光によって階段の幅と段差を視認することができ、安全に避難することのできる階段誘導標識の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緊急避難時の誘導板等に関して、夜間や暗い場所でも視認可能な蓄光材を使用した表示板が知られている。特に、高層ビル等における緊急時には、電源が使えなくなった場合、多数の人間が暗闇の中を急いで避難しなければならない。このようなとき、階段に発光性の誘導標識を設置しておけば、足を踏み外す危険を回避することができる。
【0003】
階段のステップ等に設置する誘導標識としては蓄光テープがあるが、簡単に剥離や摩耗によって損傷するため長期間の使用には適さない。また、消防用の水がかかった場合には滑り易くて危険である。また、屋外のスタジアム等の階段に設置する場合には雨で滑り易く危険である。
【0004】
このような蓄光材の技術としては、たとえば特許文献1がある。本文献は誘導板を意図したものではないが、ガラス成分からなる第1のガラス層、ガラス成分と蓄光材からなる機能層及びガラス成分からなる第2のガラス層が積層されている陶磁器が記載されている。
【特許文献1】特開2004−359480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の陶磁器は、たとえば歩道のタイルとして使用することができる。しかしながら、陶磁器であるため薄板状に形成すると強度が低下するおそれがある。
【0006】
薄くて丈夫な蓄光板を作成するには金属板を基材とする必要がある。しかし、金属基材は熱による伸縮が大きい。また金属板表面に形成する下地層、更にこの上に形成する蓄光層は、ガラスフリットに白色顔料或いは蓄光材を混練して塗料とし、これを金属板に印刷した後、乾燥させて焼成する。
【0007】
このガラスフリットを含んだ印刷層に比べ金属板は熱膨張率および熱収縮率が大きく、水平状態で焼成すると、高温焼成後の冷却時に大きな反り返りが発生し、場合によっては蓄光層に亀裂が発生することになる。この現象は金属板を幅が50mm以下で長さが500mm以上の長尺にするとともに、金属板の厚みを2mm以下、特に1mm程度に薄くすると顕著になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高層ビルの階段や屋外スタジアム等の階段に設置するための誘導標識の製造方法に関し、照明が消えて暗闇となっても、階段のステップや側壁を蓄光体からの光によって視認することができ、また、不燃であり、剥離せず、耐磨耗性に優れ、水に濡れても滑らず、さらに製造時に亀裂が発生することのない誘導標識の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、ステンレスなどの金属板表面に下地層、蓄光層及び表面ガラス層を重ねた印刷層を形成した後に焼成する誘導標識の製造方法であって、この誘導標識は長尺状をなし、前記印刷層は間に隙間が形成されるブロック状に形成され、また焼成の際には前記印刷層が上で金属板が下になるように支持し、更に冷却した際の印刷層と金属板との収縮量の差を見込んで、自重によって金属板全体を下方に撓ませるか部分的に下方に撓んだ部分を連続させて焼成するようにした。
【0010】
また本願の第2発明は、金属板表面に下地層、蓄光層及び表面ガラス層を重ねた印刷層を形成した後に焼成する誘導標識の製造方法であって、この誘導標識は長尺状をなすとともに、短尺方向に前記印刷層がなく金属板表面が露出する切断予定部を設け、焼成の際には前記印刷層が上で金属板が下になるように支持し、更に冷却した際の印刷層と金属板との収縮量の差を見込んで、自重によって金属板全体を下方に撓ませるか部分的に下方に撓んだ部分を連続させて焼成し、焼成後に前記切断予定部に沿って長尺状誘導標識を切断するようにした。
【0011】
前記下地層を構成する顔料は白色または蓄光層の発光色と同一系統色(青または黄緑)を用いるの反射効率が高まり好ましい。
【0012】
本発明方法は、薄厚(2mm以下)のステンレス板を用い、しかも幅が50mm以下、長さが500mm以上のものに特に有効である。
【発明の効果】
【0013】
本願の第1発明に係る誘導標識の製造方法によれば、長尺で薄厚の金属板の表面に、蓄光層を印刷して焼成しても、焼成の際に金属板を冷却時の熱収縮率分を見込んで下方に撓ませて焼成しているので、焼成後に反りが生じることがない。
また、印刷層をブロック状に形成して間に隙間を形成すれば、蓄光層にクラックが入りにくく且つ滑り止め効果も発揮する。
【0014】
本願の第2発明に係る誘導標識の製造方法によれば、前記第1発明と同様に、焼成後に反りが生じることがないことの他に、長尺誘導標識を切断して目的の長さの誘導標識を得るに当たり、切断予定部分に印刷層(下地層、蓄光層及び表面ガラス層)がないので、切断の際に印刷層にクラックが入ることを防止できる。
【0015】
また、反りが少ないため階段を利用する者が躓いたり、引っ掛けて剥がしてしまうなどの不利も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の誘導標識の製造方法によって得られた誘導標識を階段に設置した一例を示す斜視図である。
階段1のステップ2の端部に、直線状の誘導標識3が設置され、この誘導標識3の両側にはステップ2の幅に合せるため短尺の誘導標識3aが設置されている。また、階段1の側壁にも短尺の誘導標識を組合わせてL字状とした誘導標識3bが設置されている。
【0017】
なお、図を簡略化するため、手前側の側壁は図示していないが、ここへも誘導標識4を設置することが好ましい。設置の方法としての制限はなく、たとえば建造物の新築時に埋め込むこともできるし、既設の階段や側壁に、接着剤やアンカーボルト等の接着手段を用いて後付けすることもできる。
【0018】
図2(a)は第1発明(長尺のまま)に係る階段誘導標識の平面図、(b)は側断面図、(c)は正断面図であり、誘導標識3は、金属板5の上面の全面に下地層6が形成され、この下地層6の上に蓄光層7がブロック状に積層(印刷)され、この蓄光層7の上に保護用の表面ガラス層9が積層(印刷)されている。そして、蓄光層7の間には滑り止め効果を発揮する溝g1が形成されている。
【0019】
図3は第1発明の変形例を示す図2の(a)〜(c)と同様の図であり、この実施例にあっては、前記蓄光層7を複数の正方形の蓄光ブロックが2列、規則的に配置された構成としている。この実施例の場合には発光量は図2に示したものに比べて劣るが、滑り止め効果は高い。
【0020】
図4(a)は第2発明(長尺誘導標識を切断)に係る階段誘導標識の平面図、(b)は側断面図、(c)は正断面図、(d)は切断後の状態を示す図であり、この実施例にあっては、金属板5の上面の全面に印刷層(下地層6+蓄光層7+表面ガラス層9)はなく、金属板5が露出した切断予定部g2が設けられ、焼成後に切断予定部g2沿って切り離す。
【0021】
図5は第2発明の変形例を示す図4の(a)〜(d)と同様の図であり、この実施例にあっては図3に示した実施例と同様に、蓄光層7を複数の正方形の蓄光ブロックに分けている。
【0022】
次に、誘導標識の製造方法について説明する。まず金属板5の上面に白色顔料とメジュームからなる印刷材を印刷する。尚、蓄光材とし緑色系統の蓄光材を用いる場合には、顔料は緑色系のものを、蓄光材とし青色系統の蓄光材を用いる場合には、顔料は青色系のものを用いてもよい。
【0023】
そして150〜200℃で乾燥後に冷却して下地層6を形成する。下地層6は、その光反射によって蓄光をより鮮明にする。ここで、ガラスフリット材とメジュームからなる印刷材を印刷し150〜200℃で乾燥後に冷却する工程を加えても良い。この工程は必須ではないが強度を高め、層間密着性を増加する効果がある。
【0024】
次に、下地層6の上に蓄光材とガラスフリット材とメジュームとからなる印刷材を印刷し、約150〜200℃で乾燥後に冷却して蓄光層7を形成する。 蓄光層7の高さに制限はないが、ステップ2に設置して滑り止め機能を持たせる必要がある一方で、あまり高くすると人が躓く危険があり、また、摩耗したり強い衝撃により欠ける可能性があることから0.5〜2mm程度とすることが望ましい。
【0025】
さらに、蓄光層7の上にガラスフリット材とメジュームとからなる印刷材を印刷してガラス層9を形成する。必要により150〜200℃で乾燥し冷却しても良い。ガラス層9は、蓄光層7からの発光を透過、拡散させる役目と、蓄光層7の摩耗を防ぐ保護層の役目を持っている。
【0026】
続いて焼成を行う。誘導標識3全体を、約800℃で、各層のガラスフリットが完全に溶融するまでじっくり加熱する。その後、自然冷却することにより誘導標識3が完成する。
【0027】
焼成には図6及び図7に示す治具10を用いる。治具10には複数段の支持部11が設けられ、各支持部11は水平方向の複数のバー12を備えている。各支持部11において複数のバー12は下方に向かって撓む線に沿って配置されている。
【0028】
焼成を行う場合、金属板5の表面に白色下地層6及びガラスフリットとメジュームからなる印刷材料を印刷し蓄光材を振りかけた蓄光層7を形成し、更にその上にガラス層9を重ねて印刷し、この印刷した層が上となるように治具10のバー12上に金属板5を載置する。最初は金属板5は撓んでいないので、図7に示すように両端のバー12間で金属板5は支持される。これを焼成窯に入れて約800℃で焼成してガラスフリットを溶融させる。
【0029】
加熱によって金属板5は図8に示すように下方に撓むが、残りのバー12によってある程度撓んだ状態で維持される。この撓みの度合いとしては、金属板5とガラスフリットを冷却した際に、金属板部分が収縮して、印刷面側が水平乃至僅かに凸状に反り返った形状となることが大事であり、そのため各バー12の高さは、計算により、あるいは実験の繰り返しにより適宜調整する。
【0030】
図8は焼成法の別実施例を示す図であり、前記実施例にあっては、各段を構成する複数のバー12を結ぶ線が全体として湾曲したものとしたが、図8に示すように、複数のバー12を水平方向に離間して配置してもよい。この場合には隣接するバー12間において、焼成時に金属板5が下方に湾曲し、この湾曲が連続することになる。
【0031】
このように、複数のバー12を水平方向に配置しても、隣接するバー間では金属板5は下方に向けて湾曲するので、冷却すると全体として水平またはこれに近い形状になる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の誘導標識の製造方法は、上記に述べた様々な機能を有するため、特に、高層ビルの避難用階段、避難用を兼ねた通常時使用階段に設置しておくことが有効である。また、ホテル、レストラン、コーヒーショップ等の比較的暗い照明を用いている店内の階段や、一般家庭の階段に設置すれば、緊急時でない場合であっても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る誘導標識を階段に設置した一例を示す斜視図
【図2】(a)は第1発明に係る階段誘導標識の平面図、(b)は側断面図、(c)は正断面図
【図3】第1発明の変形例を示す図2の(a)〜(c)と同様の図
【図4】(a)は第2発明に係る階段誘導標識の平面図、(b)は側断面図、(c)は正断面図、(d)は切断後の状態を示す図
【図5】第2発明の変形例を示す図4の(a)〜(d)と同様の図
【図6】焼成に用いる治具の平面図
【図7】焼成に用いる治具の側面図
【図8】焼成中の状態を示す要部の側面図
【図9】別実施例を示す図8と同様の図
【符号の説明】
【0034】
1…階段、2…ステップ、3,3a…階段誘導標識、5…金属板、6…下地層、7…ブロック状蓄光層、9…ガラス層、10…治具、11…支持部、12…バー、g1…溝、g2…切断予定部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板表面に下地層、蓄光層及び表面ガラス層を重ねた印刷層を形成した後に焼成する誘導標識の製造方法であって、この誘導標識は長尺状をなし、前記印刷層は間に隙間が形成されるブロック状に形成され、また焼成の際には前記印刷層が上で金属板が下になるように支持し、更に冷却した際の印刷層と金属板との収縮量の差を見込んで、自重によって金属板全体を下方に撓ませるか部分的に下方に撓んだ部分を連続させて焼成することを特徴とする誘導標識の製造方法。
【請求項2】
金属板表面に下地層、蓄光層及び表面ガラス層を重ねた印刷層を形成した後に焼成する誘導標識の製造方法であって、この誘導標識は長尺状をなすとともに、短尺方向に前記印刷層がなく金属板表面が露出する切断予定部を設け、焼成の際には前記印刷層が上で金属板が下になるように支持し、更に冷却した際の印刷層と金属板との収縮量の差を見込んで、自重によって金属板全体を下方に撓ませるか部分的に下方に撓んだ部分を連続させて焼成し、焼成後に前記切断予定部に沿って長尺状誘導標識を切断することを特徴とする誘導標識の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の誘導標識において、前記下地層を構成する顔料は白色または蓄光層の発光色と同一系統色を用いることを特徴とする誘導標識の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の誘導標識において、前記金属板の厚みは2mm以下であることを特徴とする誘導標識の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載の誘導標識において、前記金属板の寸法は500mm以上としたことを特徴とする誘導標識の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−121275(P2008−121275A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306099(P2006−306099)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(502135521)株式会社ティ―オーカンパニー (2)
【Fターム(参考)】