説明

誘導装置

【課題】 従来の誘導装置は、目標に向けて垂直偏波と水平偏波の電波を送信して、目標から反射してきた信号を受信し、受信信号を偏波信号処理することでクラッタ信号の中から偏波特性の違う目標信号を検出して追尾する。しかし、海上の波が複数の周期性を含む場合には、クラッタの偏波特性があいまいとなって、偏波信号処理によるクラッタ抑圧効果が得られず、目標信号を検出できないという課題があった。
【解決手段】 水平偏波及び垂直偏波を同時受信する偏波共用アンテナと偏波検出処理を有し、誘導装置が偏波信号処理によってクラッタ信号の中から目標信号を検出する際に、予めドップラ信号処理によってクラッタの周波数成分を分解してクラッタの偏波特性のあいまいさを低減する。これにより、偏波信号処理時の目標検出性能を向上することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は目標に向けて電波を送信し、目標からの反射信号を受信して、この受信信号から追尾する目標信号を検出し、目標に向けて飛しょう体を誘導する誘導装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飛しょう体を目標方向に誘導する場合、搭載した誘導装置により観測した信号の中から、目標の距離情報、速度情報、角度情報を抽出し、得られた情報から誘導信号を算出して、舵角の制御を実施する。
【0003】
このような誘導装置の一例として、目標に向けて電波を送信し、目標からの反射信号を受信して、この受信信号に対して目標検出処理を行ない、検出した目標信号から距離情報、角度情報を得て、飛しょう体を目標に向けて誘導する誘導装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−121539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の誘導装置は目標に向けて垂直偏波と水平偏波の電波を送信して、目標から反射してきた信号を受信し、受信信号を偏波信号処理することでクラッタ信号の中から偏波特性の違う目標信号を検出して追尾するが、海上の波が複数の周期性を含む場合には、クラッタの偏波特性があいまいとなって、偏波信号処理によるクラッタ抑圧効果が得られず、目標信号を検出できないという課題がある。
【0006】
この発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、誘導装置が偏波信号処理によってクラッタ信号の中から目標信号を検出する際に、あらかじめドップラ信号処理によってクラッタの周波数成分を分解してクラッタの偏波特性のあいまいさを低減することで、偏波信号処理時の目標検出性能を向上することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る誘導装置は、アンテナを経由して水平偏波と垂直偏波の電波を目標に向けて送信し、前記目標と前記目標の背景物で反射された反射信号を受信してその受信信号を出力する受信部と、前記受信信号をFFT(高速フーリエ変換、Fast Fourier Transform)処理によりドップラ周波数成分毎に分解するドップラ信号処理部と、前記ドップラ周波数成分の中から所定の周波数成分の受信信号を抽出し、抽出した前記受信信号を用いて偏波信号処理を行い前記目標の反射信号を検出する信号処理部と、前記目標の反射信号に基づき飛しょう体を前記目標に向けて誘導する追尾処理部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、クラッタ信号の偏波特性の差を明確にして、偏波信号処理による目標検出性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態1に係る誘導装置を説明するための図である。
【図2】実施の形態1に係る誘導装置の運用を示す図である。
【図3】従来の、ドップラ信号処理を行わない誘導装置の偏波信号処理結果を示す図である。
【図4】実施の形態1に係るクラッタの主偏波成分と交差偏波成分の電力比とドップラ周波数との相関特性を示す図である。
【図5】実施の形態1に係る誘導装置の偏波信号処理結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、図を用いてこの発明の係わる実施の形態1について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係る誘導装置1を示す構成図である。誘導装置1は、発振部3と、送信部4と、送受切換部5と、偏波共用アンテナ6と、受信部7と、A/D変換部8と、ドップラ信号処理部9と、偏波信号処理部10と、目標検出部11と、追尾処理部12とからなる。
ここで、発振部3は、送受信周波数設定信号により、送信周波数信号及びローカル信号を送信部4に出力し、送信部4は送信周波数信号を増幅した送信信号を出力する。送受切換部5は、送信部4からの送信信号と目標2からの反射信号の切り換えを行う。偏波共用アンテナ6は、水平偏波、垂直偏波の2種の偏波方式を備え、送信部4からの送信信号を空間へ送信し、目標2での反射信号を受信する。受信部7は、目標2からの反射信号を発振部3から出力されるローカル信号で周波数変換、増幅して受信信号をA/D変換部8に出力する。A/D変換部8は、受信部7からの受信信号をディジタル信号に変換し、ドップラ信号処理部9に出力する。ドップラ信号処理部9は、A/D変換部8でA/D変換されたディジタル信号をFFT(Fast Fourier Transform)処理して周波数成分に分解する。偏波信号処理部10は、ドップラ信号処理部9でFFT処理された周波数成分毎のディジタル信号にクラッタの偏波特性に応じた偏波フィルタ処理を実施してクラッタ信号を抑圧する。目標検出部11は、クラッタ信号が抑圧された反射信号を用いた偏波信号処理の結果から目標信号を検出する。ここで偏波信号処理は水平偏波、垂直偏波の2種の偏波方式の送信信号を空間へ送信し、目標で反射された反射信号を垂直偏波と水平偏波で合成処理することで目標信号を検出する処理であり、例えば、特許文献1や特開2006−242468号公報などに記載された技術である。ここでは、偏波信号処理の詳細については説明を省略する。追尾処理部12は、目標検出部11で検出した目標信号から距離、速度、角度情報を計算し、誘導装置1を目標2に向けて誘導するための誘導信号を出力する。
【0011】
次に、誘導装置1の動作を、図2、図3、図4及び図5に基づき説明する。
ここで、図2(a)は誘導装置の運用状況、図2(b)はクラッタ環境下での目標反射信号を示した図である。図3は従来のドップラ信号処理を実施しない場合の偏波信号処理結果である。図4はクラッタの主偏波成分と交差偏波成分の電力比とドップラ周波数との相関特性を示した図である。図5は実施の形態1に係るドップラ信号処理を実施した場合の偏波信号処理結果を示す図である。
【0012】
誘導装置1の運用状況を説明する図2(a)で、1は飛しょう体に搭載された誘導装置、2は誘導装置が捕捉・追尾する目標、13は海面である。
本実施の形態では、特に、目標2が海面13上を比較的低い高度で飛しょうし、誘導装置1が上方から目標2に向けて電波を送信して目標信号の他に海面(目標の背景物)からのクラッタ信号も受信するクラッタ環境下において、誘導装置1が目標2を検出し、飛しょう体を目標2に向けて誘導する動作について説明する。
【0013】
誘導装置1は、空間に向けて送信波を放射して、目標2からの反射波を受信する。同時に、海面13から反射されるクラッタ信号を受信する。この時、図2(b)に示すとおり、海面13から反射されるクラッタ信号の受信電力が大きいため、誘導装置1は受信信号の中から目標信号を検出することが困難である。
【0014】
ここで、誘導装置1は、図1で説明した通り偏波共用アンテナ6を備え、偏波共用アンテナ6により、垂直偏波による送信と水平偏波による送信を行い、各送信偏波に対して垂直偏波と水平偏波の目標信号を同時に受信する。
これにより、受信部7は、目標2からの反射信号及び海面13からのクラッタ信号の各信号として、VV信号(垂直偏波で送信した場合の垂直偏波での受信信号)、HV信号(垂直偏波で送信した場合の水平偏波での受信信号)、VH信号(水平偏波で送信した場合の垂直偏波での受信信号)及びHH信号(水平偏波で送信した場合の水平偏波での受信信号)の4種類の信号を受信する。
【0015】
受信信号は、受信部7で周波数変換、増幅、位相検波され、A/D変換部8でディジタル信号に変換される。
【0016】
次に、ドップラ信号処理部9は、ディジタル信号に変換後の信号を入力して、周波数成分毎に分解する。
偏波信号処理部10は、周波数成分毎に分解後の信号を入力し、偏波フィルタ処理により海面からのクラッタ信号を抑圧して、目標検出部11に出力する。
目標検出部11は、偏波信号処理結果から目標信号を検出し、追尾処理部12は目標信号から目標までの距離、速度及び角度情報を抽出して、飛しょう体を目標2に向けて誘導するための誘導信号を出力する。
【0017】
ここで、ドップラ信号処理部9が反射信号を周波数成分毎に分解し、偏波信号処理部10がこの波数成分毎に分解された信号を用いて偏波フィルタ処理により海面からのクラッタ信号を抑圧する動作について説明する。
【0018】
誘導装置1に搭載されている偏波共用アンテナ6により送受信される目標2からの反射信号は、一般に目標2が多様な面から構成されることから、VV信号とHH信号の振幅レベルが大きいと共に、送信偏波と受信偏波が直交しているHV信号とVH信号の振幅レベルも比較的大きな値となる(図3(a)の目標反射信号参照)。
一方、海面13から反射されるクラッタ信号は、ランダムな波の散乱成分を含むため、目標反射信号と同様に、VV信号とHH信号の振幅レベルが大きくなると共に、HV信号とVH信号の振幅レベルも比較的大きな偏波特性を示す(図3(a)のクラッタ信号参照)。
このため、図3(b)に示すように、目標反射信号とクラッタ信号の偏波特性に有意差が無いため、偏波信号処理を実施しても目標反射信号とクラッタ信号の受信電力比は改善されない。
【0019】
ここで、海面からのクラッタの主偏波成分(VV信号、HH信号)と交差偏波成分(HV信号、VH信号)の電力比は、ドップラ周波数に対し相関特性を有する傾向にある。
図4は、クラッタの主偏波成分と交差偏波成分の電力比とドップラ周波数との相関特性の概略を示す図である。このように、ドップラ周波数が高いほどランダムな波の散乱成分を多く含むため、送信偏波と直交する交差偏波成分が大きくなる傾向がある。
【0020】
そこで、本実施の形態の誘導装置1は、ドップラ信号処理部9において目標反射信号とクラッタ信号の各反射信号(VV信号、HH信号、HV信号、VH信号)を周波数成分毎に分解し、次に、偏波信号処理部10がこの波数成分毎に分解された信号の中から、ドップラ周波数の比較的低い周波数領域にある信号を抽出する。ドップラ周波数の比較的低い周波数領域にあるクラッタ信号は、先に説明したようにランダムな波の散乱成分が小さく、送信偏波と直交する交差偏波成分が小さくなる傾向がある。
【0021】
図5は、偏波信号処理部10が、ドップラ信号処理部9で周波数成分毎に分解された反射信号のうち比較的低い領域にある反射信号を抽出して、偏波信号処理を行った結果の一例である。
このように、目標2からの反射信号については、VV信号とHH信号の振幅レベルが大きいと共にHV信号とVH信号の振幅レベルも比較的大きな値を示す一方、海面からのクラッタ信号については、VV信号とHH信号に対して、HV信号とVH信号の振幅レベルを抑圧することができる(図5(a)参照)。
【0022】
偏波信号処理部10は、このように偏波フィルタ処理を行うことにより海面からのクラッタ信号を抑圧し、この結果を目標検出部に出力する。
目標検出部11は、偏波信号処理部10から有意差の示された目標反射信号とクラッタ信号の偏波特性の結果を得て、従来通り、目標検出処理を行ない、検出した目標信号から距離情報、角度情報を得て、飛しょう体を目標に向けて誘導する。
【0023】
以上のように本実施の形態の誘導装置1は、ドップラ信号処理部9と偏波信号処理部10を備え、ドップラ信号処理部9で周波数成分毎にクラッタ信号を分解し、偏波信号処理部10で各周波数成分毎に偏波フィルタ処理を実施することにより、目標反射信号とクラッタ信号の受信電力比を改善することができる。
【0024】
上記構成をとることによって、誘導装置1が目標2を追尾する際に、クラッタ信号を抑圧して目標信号を検出することにより、クラッタ環境下でも安定した目標追尾が可能となり、飛しょう体の誘導性能を向上させることができる。
【0025】
なお、本実施の形態ではクラッタ信号として海面からのクラッタ信号を例に説明したが、クラッタは海面からのものに限るものではなく、ドップラ周波数に対しクラッタの主偏波成分と交差偏波成分の電力比が相関特性を有するものであれば、本発明は効力を奏する。
【符号の説明】
【0026】
1 誘導装置、2 目標、3 発振部、4 送信部、5 送受信切換部、6 偏波共用アンテナ、7 受信部、8 A/D変換部、9 ドップラ信号処理部、10 偏波信号処理部、11 目標検出部、12 追尾処理部、13 海面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ部を経由して水平偏波と垂直偏波の電波を目標に向けて送信し、前記目標と前記目標の背景物で反射された反射信号を受信してその受信信号を出力する受信部と、
前記受信信号をFFT(Fast Fourier Transform)処理によりドップラ周波数成分毎に分解するドップラ信号処理部と、
前記ドップラ周波数成分の中から所定の周波数成分の受信信号を抽出し、抽出した前記受信信号を用いて偏波信号処理を行い前記目標の反射信号を検出する信号処理部と、
前記目標の反射信号に基づき飛しょう体を前記目標に向けて誘導する追尾処理部と、
を備えることを特徴とする誘導装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記ドップラ周波数成分の中から低周波数成分の受信信号を抽出することを特徴とする請求項1記載の誘導装置。
【請求項3】
前記背景物は海面であることを特徴とする請求項2記載の誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−198185(P2012−198185A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64228(P2011−64228)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】