説明

誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサ

今後、更に小型大容量化が進行しても高電圧直流下あるいは高周波/高電圧交流下でも高い信頼性を有する誘電体セラミック組成物を提供する。
本発明の誘電体セラミック組成物は、組成式が100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgO(但し、係数100、x、a、b、cはそれぞれモル比を表し、mはBaとTiとの比(Ba/Ti)を表し、RはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも一種類の金属元素を表し、nはRの価数で決まる電気的中性を保つために必要な正の数を表す。)で表される主成分を含有し、m、x、a、b及びcは、それぞれ0.990≦m≦1.050、0.1≦x≦5.0、9.0≦a≦20.0、0.5≦b≦3.5及び0<c≦4.0を満足し、且つ、主成分100重量部に対して0.8〜5.0重量部の焼結助剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサに関し、更に詳しくは、高電圧直流下あるいは高周波/高電圧交流下での使用に対して高い信頼性を有する誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層セラミックコンデンサは、低周波、低電圧交流下あるいは低電圧直流下で使用されることが多かった。しかし、エレクトロニクスの発展に伴い、近年、電子部品の小型化が急速に進行し、積層セラミックコンデンサも小型化、大容量化が推し進められている。そのため、積層セラミックコンデンサの一組の対向電極間に印加される電圧は相対的に高くなる傾向にあり、このような厳しい条件下で、大容量、低損失化、絶縁性の向上、絶縁耐性の向上、及び信頼性の向上が益々強く求められている。
【0003】
そこで、例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3において、高周波、高電圧交流下あるいは高電圧直流下での使用に耐え得る誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の誘電体セラミック組成物は、一般式ABO+aR+bMで表され、ABOはチタン酸バリウム固溶体を表す一般式、RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも一種の酸化物類、MはMn、Ni、Mg、Fe、Al、Cr、Znから選ばれる少なくとも一種の酸化物類であり、A/B(モル比)、a及びbが、0.950≦A/B≦1.050、0.12≦a≦0.30、0.04≦b≦0.30の範囲にある主成分100重量部に対して、副成分として0.8〜8.0重量部の焼結助剤を含有するものである。この誘電体セラミック組成物は、更に、X(Zr,Hf)O(XはBa、Sr、Caから選ばれる一種以上の元素)をチタン酸バリウム固溶体1モルに対して0.35モル以下、及び/またはD(V、Nb、Ta、Mo、W、Y及びScから選ばれる一種以上の酸化物)をチタン酸バリウム固溶体1モルに対して0.20モル以下を含んでも良い。この誘電体セラミック組成物は、焼成温度が1300℃以下で、比誘電率が200以上、高周波、高電圧交流下での損失が小さく、高電界強度下での絶縁抵抗が高く、B特性及びX7R特性を満足し、高温負荷特性に優れている。
【0005】
また、特許文献2に記載の耐還元性誘電体セラミックは、チタン酸バリウムを主成分とする固溶体と焼結助剤とから構成され、−25℃以上の温度領域においてX線回折により求められる結晶軸比c/aが1.000≦c/a≦1.003の条件を満足し、かつ、周波数1kHzの交流であって2Vrms/mm以下の電界強度で測定した比誘電率の温度依存性において、−25℃未満にピークの最大値をとり、上記主成分は、一般式ABO+aR+bMで表され、一般式において、Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物であり、Mは、Mn、Ni、Mg、Fe、Al、Cr及びZnから選ばれる少なくとも一種の元素を含む金属酸化物であり、A/B(モル比)、a及びbが、1.000≦A/B≦1.035、0.005≦a≦0.12、及び0.005≦b≦0.12の範囲にある主成分100重量部に対して、0.2〜4.0重量部の焼結助剤を含有するものである。この誘電体セラミックは、更に、X(Zr,Hf)O(XはBa、Sr、Caから選ばれる一種以上の元素)をチタン酸バリウム固溶体1モルに対して0.20モル以下、及び/またはD(V、Nb、Ta、Mo、W、Y、Sc、P、Al及びFeから選ばれる一種以上の酸化物)をチタン酸バリウム固溶体1モルに対して0.20モル以下を含んでも良い。この誘電体セラミック組成物は、高周波/高電圧印加時での損失、発熱が小さく、直流/交流負荷で安定した絶縁抵抗を示す。
【0006】
特許文献3に記載の誘電体セラミック組成物は、チタン酸バリウムと、希土類酸化物(ただし、希土類元素はY、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbのうちの少なくとも一種)と、酸化カルシウムと、酸化珪素からなり、酸化マグネシウムを含有しない誘電体セラミック組成物であって、前記チタン酸バリウム、希土類酸化物、酸化カルシウムおよび酸化珪素をそれぞれBaTiO、RO3/2(ただし、Rは希土類元素)、CaO及びSiOと表現し、一般式100BaTiO+aRO3/2+bCaO+cSiOで表したとき(ただし、係数100、a、bおよびcはモル比)、m、a、bおよびcがそれぞれ0.990≦m≦1.030、0.5≦a≦30、0.5≦b≦30、0.5≦c≦30の関係を満足するものである。この誘電体セラミック組成物では、CaOとMgOが共存すると信頼性が低下するため、MgOが含まれていない。この誘電体セラミック組成物は、静電容量の温度特性がJIS規格で規定するB特性及びEIA規格で規定するX7R特性を満足し、誘電損失が2.5%以下と小さく、室温における4kVDC/mm印加時の絶縁抵抗(R)と静電容量(C)の積(CR)が10000Ω・F以上であり、高温高電圧下における絶縁抵抗の加速寿命が長いため薄層化しても信頼性に優れた、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層を構成することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2000−103668号公報
【特許文献2】特開2002−50536号公報
【特許文献3】特許第3509710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2、3において提案されている誘電体セラミック組成物は、いずれも高周波/高電圧交流下あるいは高電圧直流下での使用に耐え得る材料であり、信頼性に優れているが、今後も電子部品の更なる小型大容量化の要求が強くなり、従来にも増して使用条件が益々厳しくなることが予測され、しかもこれまで以上に信頼性の向上が求められることが予測されるため、このような厳しい使用条件での信頼性を確保し向上させることが喫緊の課題になっている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、今後、更に小型大容量化が進行しても高電圧直流下あるいは高周波/高電圧交流下での使用における発熱を小さく、しかも比誘電率、抵抗率も従来と比較して劣ることがなく、高い信頼性を有する誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の誘電体セラミック組成物は、組成式が100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgO(但し、係数100、x、a、b及びcはそれぞれモル比を表し、mはBaとTiとの比(Ba/Ti)を表し、RはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも一種類の金属元素を表し、nはRの価数で決まる電気的中性を保つために必要な正の数を表す。)で表される主成分を含有し、上記組成式のm、x、a、b及びcは、それぞれ0.990≦m≦1.050、0.1≦x≦5.0、9.0≦a≦20.0、0.5≦b≦3.5及び0<c≦4.0の関係を満足し、且つ、上記主成分100重量部に対して0.8〜5.0重量部の焼結助剤を含有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載の誘電体セラミック組成物は、請求項1に記載の発明において、上記主成分中の添加成分として、MO(但し、Mは、Ni及びZnから選択される少なくとも一種類の金属元素を表す。)を含有し、その組成式が100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgO+dMOで表されたとき、この組成式のc、dは、それぞれ0<c+d≦4.0で且つ0<dの関係を満足することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項3に記載の誘電体セラミック組成物は、請求項1または請求項2に記載の発明において、上記主成分中の添加成分として、BaTiO100モルに対してX(Zr,Hf)O(但し、Xは、Ba、Sr及びCaから選択される少なくとも一種の金属元素を表す。)を0より大きく15モル以下の範囲で含有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項4に記載の誘電体セラミック組成物は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、上記焼結助剤がSiOであることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項5に記載の積層セラミックコンデンサは、積層された複数の誘電体セラミック層と、これらの誘電体セラミック層間に配置された内部電極と、これらの内部電極に電気的に接続された外部電極とを備え、上記誘電体セラミック層は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の誘電体セラミック組成物によって形成されてなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項6に記載の積層セラミックコンデンサは、請求項5に記載の発明において、上記内部電極は、Ni若しくはその合金、またはCu若しくはその合金を主成分とする導電性材料によって形成されてなることを特徴とするものである。
【0016】
而して、本発明の誘電体セラミック組成物は、組成式が100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgOで表される主成分を含有している。つまり、誘電体セラミック組成物の主成分中に基本組成BaTiO、RO、MnOの他に新たにCuO及びMgOを添加することによって高電圧直流下あるいは高周波/高電圧交流下での使用における発熱を抑制し、しかも比誘電率、抵抗率も従来と比較して劣ることがなく、高い信頼性を有する誘電体セラミック組成物を得ることができ、今後の更なる小型大容量化する積層セラミックコンデンサの誘電体材料として使用することができる。上記組成式におけるm、x、a、b及びcは、それぞれ0.990≦m≦1.050、0.1≦x≦5.0、9.0≦a≦20.0、0.5≦b≦3.5及び0<c≦4.0の関係を満足する。
【0017】
上記誘電体セラミック組成物の主成分を構成するチタン酸バリウムBaTiOにおけるBaとTiとの比(Ba/Ti)mは、0.990≦m≦1.050を満足する。この比mが0.990未満になると抵抗率が1011Ωm未満と低く、また、mが1.050を超えると高温負荷信頼性試験での平均故障時間が短くなる。
【0018】
100BaTiOに対するCuOの含有量xは、モル比で0.1≦x≦5.0を満足する。CuOの含有量xが0.1未満になると平均故障時間が100時間未満と短くて信頼性に劣り、また、xが5.0を超えると抵抗率が1011Ωm未満と低くなる。
【0019】
100BaTiOに対するROの含有量aは、モル比で9.0≦a≦20.0を満足する。ROの含有量aが9.0未満になると平均故障時間が100時間未満と短く信頼性に劣り、また、aが20.0を超えると比誘電率が低くなる。ROは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選択される一種類の希土類元素の酸化物からなる場合と、二種類以上の希土類元素を適宜選択して組み合わして構成された複合酸化物からなる場合とがあり、いずれであっても良い。また、ROにおけるnは、希土類元素Rの価数で決まる数で、電気的中性を保つために必要な正の数を表している。
【0020】
100BaTiOに対するMnOの含有量bは、モル比で0.5≦b≦3.5を満足する。MnOの含有量bが0.5未満であっても3.5を超えても抵抗率が1011Ωm未満と低くなる。
【0021】
100BaTiOに対するMgOの含有量cは、モル比で0<c≦4.0を満足する。MgOは比誘電率を高める効果があり、その含有量cが0であると平均故障時間が100時間未満になり、4.0を超えると比誘電率が低下する。MgOは、希土類元素Rがセラミック粒子内へ固溶するのを促進する作用があり、MgOの添加により信頼性を高めることができる。しかし、MgOがCaOと共存すると、CaOによってMgOによる希土類元素Rに対する固溶促進作用が低下する。従って、本発明の誘電体セラミック組成物は、CaOが実質的に含まれていないことが望ましい。但し、本発明の誘電体セラミック組成物を製造する際にCaOが不可避的に混入することがある。不可避的に混入するCaOの含有量は、BaTiO100モルに対して0.5モル未満が好ましく、0.3モル未満が更に好ましい。ここで、“Caを実質的に含まない”とは、不可避的に少量混入するCaOは含まれていても良いことを意味する。
【0022】
また、本発明の誘電体セラミック組成物は、上述の主成分100重量部に対して0.8〜5.0重量部の焼結助剤を副成分として含有している。主成分100重量部に対する焼結助剤の含有量が0.8重量部未満になると安定した焼結が難しくなり、また、この含有量が5.0重量部を超えると平均故障時間が100時間未満になって信頼性が低下する。焼結助剤としては、従来公知のものを使用することができるため特に制限されるものではないが、本発明では例えばSiOが好ましく用いられる。
【0023】
本発明の誘電体セラミック組成物は、上述の主成分中の添加成分として、MOを含有し、その組成式が100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgO+dMOとして表されたとき、この組成式のc、dは、それぞれ0<c+d≦4.0で且つ0<dの関係を満足することが好ましい。ここで、Mは、Ni及びZnから選択される少なくとも一種類の金属元素を表す。従って、MOは、これらいずれか一種の金属酸化物からなるものであっても、二種の金属酸化物からなる複合酸化物であっても良い。主成分中にMOを添加することによってMOを添加しない場合よりも比誘電率を高める効果があるが、主成分中におけるBaTiO100モルに対するMOの含有量が4.0モルを超えると、MOを含有しない場合よりも却って比誘電率が低下する。
【0024】
本発明の誘電体セラミック組成物は、上記主成分中の添加成分として、BaTiO100モルに対してX(Zr,Hf)Oを0より大きく15モル以下の範囲で含有することが好ましい。主成分中にX(Zr,Hf)Oを添加することによってX(Zr,Hf)Oを添加しない場合よりも比誘電率を高め、平均故障時間を向上させる効果があるが、主成分中におけるBaTiO100モルに対するX(Zr,Hf)Oの含有量が15.0モルを超えると、X(Zr,Hf)Oを含有しない場合よりも却って比誘電率が低下する。ここで、Xは、Ba、Sr及びCaから選択される少なくとも一種の金属元素を表している。また、X(Zr,Hf)OにおけるZrとHfの比率は、特に制限されないが、良好な焼結性を得るためにはZrに対するHfの比率が30モル%以下であることが好ましい。
【0025】
上記誘電体セラミック組成物の原料粉末の製造方法としては、BaTiOで表わされるチタン酸バリウムを実現することができる方法であれば、特に制限されず、いかなる製造方法であっても良い。このチタン酸バリウムの製造方法としては、例えば、出発原料の混合物を仮焼し、固相反応させる乾式合成法や、水熱合成法、加水分解法、あるいはゾルゲル法等の湿式合成法を用いることができる。
【0026】
また、主成分中のBaTiOに対する添加成分であるRO(但し、RはY、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbから選択される少なくとも一種類の金属元素)、及びCu、Mn、Si、Mg、Ni、Znの各酸化物は、本発明に係る誘電体セラミックを構成することができるものであれば、酸化物粉末に制限されるものではなく、出発原料としてアルコキシドや有機金属等の溶液や、炭酸化物を用いても良く、これらによって得られる特性は何等損なわれるものではない。
【0027】
上述のような原料粉末を焼成することによって、本発明の誘電体セラミック組成物を得ることができる。
【0028】
また、本発明の積層セラミックコンデンサは、本発明の誘電体セラミック組成物によって形成された誘電体セラミック層を備えている。本発明の誘電体セラミック組成物を誘電体セラミック層として用いることによって、比誘電率が300以上の誘電率を確保しながら、1kHz、50Vrms/mmでの誘電損失が0.5%以下、抵抗率が1011Ωm以上であり、高温負荷信頼性試験(175℃、直流電界強度40kV/mm)での平均故障時間が100時間以上と長くて信頼性が高く、300kHzで1.77kVrms/mmの高周波の交流印加時における誘電損失が0.8%以下と小さく、発熱の小さい積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0029】
また、本発明の積層セラミックコンデンサを構成する内部電極は、還元性雰囲気で焼成することができるため、Ni若しくはその合金、またはCu若しくはその合金を主成分とする導電性材料が好ましい。これによって低コストで内部電極を形成することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の請求項1〜請求項6に記載の発明によれば、今後、更に小型大容量化が進行しても高電圧直流下あるいは高周波/高電圧交流下での使用における発熱を小さく、しかも比誘電率、抵抗率も従来と比較して劣ることがなく、高い信頼性を有する誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の積層セラミックコンデンサの一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3A、3B 第1、第2内部電極
4 積層体
4A、4B 第1、第2外部電極
5A、5B 第1、第2外部電極
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図1に示す実施形態に基づいて本発明を説明する。尚、図1は本発明の積層セラミックコンデンサの一本実施形態を模式的に示す断面図である。
本実施形態の積層型セラミックコンデンサ1は、例えば図1に示すように、積層された複数層の誘電体セラミック層2と、これらの誘電体セラミック層2間にそれぞれ配置された複数の第1、第2内部電極3A、3Bとを有する積層体4とを備えている。積層体4の両端面にはそれぞれ第1、第2外部電極5A、5Bが形成され、これらの第1、第2外部電極5A、5Bは第1、第2内部電極3A、3Bにそれぞれ電気的に接続されている。
【0034】
第1内部電極3Aは、図1に示すように、誘電体セラミック層2の一端(同図の左端)から他端(右端)の近傍まで延び、第2内部電極3Bは誘電体セラミック層2の右端から左端の近傍まで延びている。第1、第2内部電極3A、3Bは例えばNiを主成分とする導電性金属によって形成されている。
【0035】
また、第1外部電極5Aは、図1に示すように、積層体4内の第1内部電極3Aに電気的に接続され、第2外部電極5Bは積層体4内の第2内部電極3Bに電気的に接続されている。第1、第2外部電極5A、5Bは、例えばAgを主成分とする導電性金属によって形成されている。更に、第1、第2外部電極5A、5Bの表面には従来公知の第1めっき層6A、6B及び第2めっき層7A、7Bが順次施されている。
【実施例1】
【0036】
次に、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。本実施例では、下記の手順で表1に示す試料No.1〜49の誘電体セラミック組成物を調製した後、これらの試料を用いてそれぞれの積層セラミックコンデンサを下記の手順で作製した。次いで、これらの積層セラミックコンデンサの電気的特性をそれぞれ評価し、その評価結果を表2に示した。尚、表1及び表2において、*印を付した試料は本発明の範囲外のものである。
【0037】
表1及び表2に示す試料No.1〜49は、誘電体セラミック組成物の主成分(100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgO)のm、x、R(希土類元素)、a、b、c、及び焼結助剤の含有量f(主成分100重量部に対する重量部)の影響を観るための試料で、これらの各ファクタのいずれか一つを本発明の範囲から本発明の範囲外に振り、他のファクタを本発明の範囲内に固定して調製したものである。
【0038】
(1)誘電体セラミック組成物の調製
まず、表1に示す各出発原料をそれぞれ秤量して混合し、表1に示す組成を有する原料粉末を用意した。次いで、これらの原料粉末にポリビニルブチラール系バインダ及びエタノール等の有機溶剤を加えてボールミルによって湿式混合してセラミックスラリーを誘電体セラミック組成物として調製した。本実施例では焼結助剤としてSiOを用いた。
【0039】
(2)積層セラミックコンデンサの作製
(1)で得られたセラミックスラリーをドクターブレード法によってシート状に成形し、厚み14μmのセラミックグリーンシートを得た後、このセラミックグリーンシート上にNiを主成分とする導電性ペーストをスクリーン印刷法によって印刷し、内部電極を構成するための導電性ペースト膜を形成した。
【0040】
次いで、セラミックグリーンシートを、図1に示すように導電性ペースト膜の引き出されている側が互い違いになるように複数枚積層し、生のセラミック積層体を得た。この生のセラミック積層体を窒素ガス雰囲気中で、350℃に加熱してバインダを燃焼させた後、酸素分圧10−9〜10−12MPaのH−N−HOガスからなる還元性雰囲気中において生のセラミック積層体を表2に示す温度で2時間焼成し、積層セラミック焼結体を得た。
【0041】
一方、B−SiO−BaO系ガラスフリットを含有する銀ペーストを準備し、この銀ペーストを積層セラミック焼結体の両端面に塗布した。次いで、N雰囲気中において600℃の温度で銀ペーストを積層セラミック焼結体の両端面に焼き付け、第1、第2内部電極と電気的に接続された第1、第2外部電極を積層セラミック焼結体の両端面に形成した後、第1、第2外部電極の表面にめっき処理を2段階で施して第1、第2めっき層を形成して積層セラミックコンデンサを得た。このようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、幅3.2mm、長さ4.5mm、厚さ0.5mmであり、第1、第2内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みが10μmであった。また、有効誘電体セラミック層の積層数は5で、一層当たりの対向電極の面積は2.5mmであった。このようにして得られた試料No.1〜49の積層セラミックコンデンサについて次に示す各電気的特性の評価を行い、その評価結果を表2に示した。
【0042】
(3)積層セラミックコンデンサの電気的特性の評価方法及び評価結果
A)比誘電率(ε)及び誘電損失(tanδ)
試料No.1〜49について自動ブリッジ式測定器を用い、1kHzで50Vrms/mmの信号電圧を印加してそれぞれの静電容量(C)及び誘電損失(tanδ)を測定し、それぞれの静電容量の測定値と各積層セラミックコンデンサの構造に基づいて比誘電率(ε)をそれぞれ算出し、その結果を表2に示した。
B)抵抗率(ρ)
試料No.1〜49について絶縁抵抗計を用い、各試料それぞれに300Vの直流電圧を60秒印加し、25℃での絶縁抵抗値(R)を求め、抵抗率(ρ)をそれぞれ算出し、その結果を下記表3及び表4に示した。
C)平均故障時間(MTTF)
試料No.1〜49の高温負荷信頼性試験として、温度175℃において直流電圧400Vを各試料にそれぞれ印加して、それぞれの絶縁抵抗の経時変化を測定した。この際、高温負荷信頼性試験は、各試料の絶縁抵抗値(R)が10Ω以下になった時点を故障と判定し、それぞれの平均故障時間(MTTF)を求め、その結果を表2に示した。
D)高周波印加時の誘電損失(tanδ)
試料No.1〜49について高周波の交流印加時における発熱を評価するため、300kHzで1.77kVrms/mmの信号電圧を印加して誘電損失(tanδ)を測定し、その結果を表2に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表2に示す結果によれば、BaTiOにおけるBaとTiとの比m(=Ba/Ti)の影響を観る試料No.1〜No.6のうち、本発明の範囲(0.990≦m≦1.050)内にある試料No.2〜No.5は、比誘電率(ε)が300以上の誘電率を確保しながら、1kHz、50Vrms/mmでの誘電損失(tanδ)が0.5%以下、抵抗率(ρ)が1011Ωm以上であり、高温負荷信頼性試験(175℃、直流電界強度40kV/mm)での平均故障時間(MTTF)が100時間以上と長くて信頼性が高く、300kHzで1.77kVrms/mmの高周波の交流印加時における誘電損失(tanδ)が0.8%以下と小さくて発熱が小さく、高電圧直流下あるいは高周波/高電圧交流下での使用に対しても高い信頼性を有する特性評価を得られることが判った。これに対して本発明の範囲外にある試料No.1、6のうち、mが0.990未満の試料No.1は抵抗率(ρ)が9.5×1010Ωmで1011Ωmより低く、平均故障時間(MTTF)が90時間で100時間よりも短く、しかも300kHzでの誘電損失(tanδ)が1.8%と大きくて発熱し易いことが判った。また、mが1.050を超える試料No.6は平均故障時間(MTTF)が90時間で100時間よりも短く、しかも300kHzでの誘電損失(tanδ)が1.8%と大きくて発熱し易いことが判った。
【0046】
表2に示す結果によれば、CuOの含有量xの影響を観る試料No.7〜No.12のうち、本発明の範囲(0.1≦x≦5.0)内にある試料No.8〜No.11は、いずれも上述の特性評価を満足することが判った。これに対して本発明の範囲外にある試料No.7、12のうち、xが0.1未満でCuOを添加しない試料No.7は平均故障時間(MTTF)が90時間で100時間よりも短く、また、xが5.0を超える試料No.12は抵抗率(ρ)が8.3×1010Ωmで1011Ωmより低く、しかも300kHzでの誘電損失(tanδ)が1.2%と大きいことが判った。
【0047】
表2に示す結果によれば、ROの含有量aの影響を観る試料No.13〜No.18のうち、本発明の範囲(9.0≦a≦20.0)内にある試料No.14〜No.17は、いずれも上述の特性評価を満足することが判った。これに対して本発明の範囲外にある試料No.13、18のうち、aが9.0未満の試料No.13は平均故障時間(MTTF)が90時間で100時間よりも短く、また、aが20.0を超える試料No.18は比誘電率(ε)が280で300より低いことが判った。
【0048】
表2に示す結果によれば、MnOの含有量bの影響を観る試料No.19〜No.24のうち、本発明の範囲(0.5≦b≦3.5)内にある試料No.21〜No.23は、いずれも上述の特性評価を満足することが判った。これに対して本発明の範囲外にある試料No.19、20及び24のうち、MnOを含有しない試料No.19は抵抗率(ρ)以外が測定不能であり、bが0.5未満の試料No.20は抵抗率(ρ)が8.5×1010Ωmで1011Ωmより低く、平均故障時間(MTTF)が85時間で100時間よりも短く、また、bが3.5を超える試料No.24は抵抗率(ρ)が9.0×1010Ωmで1011Ωmより低いことが判った。
【0049】
表2に示す結果によれば、MgOの含有量cの影響を観る試料No.25〜No.29のうち、本発明の範囲(0<c≦4.0)内にある試料No.26〜No.28は、いずれも上述の特性評価を満足することが判った。これに対して本発明の範囲外にある試料No.25、29のうち、MgOを含有しない試料No.25は平均故障時間(MTTF)が80時間で100時間よりも短く、また、cが4.0を超える試料No.29は比誘電率(ε)が280で300より低いことが判った。
【0050】
表2に示す結果によれば、焼結助剤(SiO)の添加量fの影響を観る試料No.30〜No.35のうち、本発明の範囲(0.8≦f≦5.0)内にある試料No.30〜No.34は、いずれも上述の特性評価を満足することが判った。これに対して本発明の範囲外にある試料No.30、35のうち、添加量が0.8重量部未満の試料No.30は焼結せず、また、添加量が5.0を超える試料No.35は平均故障時間(MTTF)が90時間で100時間よりも短いことが判った。
【0051】
表2に示す結果によれば、RO、つまり希土類元素の酸化物の種類の影響を観る試料No.36〜No.49では、ROの含有量aが本発明の範囲(9.0≦a≦20.0)内にある限り、いずれも上述の特性評価を満足することが判った。
【実施例2】
【0052】
本実施例では、表3に示すように実施例1における試料No.17の主成分中にMOとしてNiOまたはZnOを添加し、それぞれの含有量dを本発明の好ましい範囲(0<c+d≦4.0で且つ0<d)からその範囲外に振って試料No. 50〜55の誘電体セラミック組成物を実施例1と同様の手順で調製した。その後、これらの試料を用いて実施例1と同様の手順で積層セラミックコンデンサを作製し、これらの積層セラミックコンデンサの電気的特性を実施例1と同様に測定し、その測定結果を表4に示した。尚、表3及び表4において、*印を付した試料は、本発明の好ましい範囲外のものである。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
表4に示す結果によれば、本発明の好ましい範囲(0<c+d≦4.0で且つ0<d)内で主成分中にNiOを添加した試料No.50、51は、NiOを添加しない試料No.17より抵抗率(ρ)が高くなり、平均故障時間(MTTF)が長く信頼性が更に向上することが判った。NiOの含有量が本発明の好ましい範囲を超える試料No.52は、NiOを添加しない試料No.17より比誘電率(ε)がやや低下するものの、試料No.17と比較して抵抗率(ρ)、平均故障時間(MTTF)共に向上していることが判った。MOとしてNiOに代えてZnOを添加した試料No.53〜55の場合についてもNiOを添加した場合と同様の傾向が認められた。
【実施例3】
【0056】
本実施例では、表5に示すように実施例1における試料No.17の主成分中にX(Zr,Hf)OとしてBa(Zr,Hf)Oを添加し、その含有量eを本発明の好ましい範囲(BaTiO100モルに対して、0モル<e≦15モル)からその範囲外に振って試料No. 56〜60の誘電体セラミック組成物を実施例1と同様の手順で調製した。その後、これらの試料を用いて実施例1と同様の手順で積層セラミックコンデンサを作製し、これらの積層セラミックコンデンサの電気的特性を実施例1と同様に測定し、その測定結果を表6に示した。尚、表3及び表4において、*印を付した試料は、本発明の好ましい範囲外のものである。
【0057】
また、表5に示すように実施例2における試料No.50にX(Zr,Hf)OとしてSr(Zr,Hf)Oを添加し、その含有量を本発明の好ましい範囲(0<e≦15)からその範囲外まで振って試料No.61、62の誘電体セラミック組成物を作製した。そして、それぞれの試料について電気的特性を測定し、その測定結果を試料No.50と比較して表6に示した。また、表5に示すように実施例2における試料No.53にX(Zr,Hf)OとしてCa(Zr,Hf)Oを添加し、その含有量を本発明の好ましい範囲(0<e≦15)からその範囲外まで振って試料No.63、64の誘電体セラミック組成物を作製した。そして、それぞれの試料について電気的特性を測定し、その測定結果を試料No.53と比較して表6に示した。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
表6に示す結果によれば、MOを添加せず、Ba(Zr,Hf)Oを本発明の好ましい範囲(0<e≦15)内で主成分中に添加した試料No.56〜No.59は、Ba(Zr,Hf)Oを添加しない試料No.17より平均故障時間(MTTF)が長く、信頼性が更に向上することが判った。Ba(Zr,Hf)Oの含有量が本発明の好ましい範囲を超える試料No.60は、Ba(Zr,Hf)Oを添加しない試料No.17より比誘電率(ε)がやや低下するものの、試料No.17より平均故障時間(MTTF)が長く、信頼性が更に向上することが判った。
【0061】
表6に示す結果によれば、実施例2における試料No.50に本発明の好ましい範囲(0<e≦15)内でSr(Zr,Hf)Oを添加した試料No.61は更に平均故障時間(MTTF)が長くなることが判った。試料No.62は、Sr(Zr,Hf)Oを本発明の好ましい範囲を超えて添加した試料No.62は、実施例2における試料No.50より比誘電率(ε)が低下するものの、試料No.50より平均故障時間(MTTF)が長く、信頼性が更に向上することが判った。また、実施例2における試料No.53にCa(Zr,Hf)Oを添加した試料No.63、64についても、試料No.61、62と同様の傾向が認められた。
【0062】
尚、本発明は上記実施例に何等制限されるものでなく、本発明の条件を満たす限り、如何なる態様の誘電体セラミック組成物や積層セラミックコンデンサであっても本発明に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、高電圧直流下あるいは高周波/高電圧交流下において使用する積層セラミックコンデンサに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式が100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgO(但し、係数100、x、a、b及びcはそれぞれモル比を表し、mはBaとTiとの比(Ba/Ti)を表し、RはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも一種類の金属元素を表し、nはRの価数で決まる電気的中性を保つために必要な正の数を表す。)で表される主成分を含有し、上記組成式のm、x、a、b及びcは、それぞれ
0.990≦m≦1.050、
0.1≦x≦5.0、
9.0≦a≦20.0、
0.5≦b≦3.5及び
0<c≦4.0
の関係を満足し、且つ、上記主成分100重量部に対して0.8〜5.0重量部の焼結助剤を含有することを特徴とする誘電体セラミック組成物。
【請求項2】
上記主成分中の添加成分として、MO(但し、Mは、Ni及びZnから選択される少なくとも一種類の金属元素を表す。)を含有し、その組成式が100BaTiO+xCuO+aRO+bMnO+cMgO+dMOで表されたとき、この組成式のc、dは、それぞれ
0<c+d≦4.0で且つ
0<d
の関係を満足することを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミック組成物。
【請求項3】
上記主成分中の添加成分として、BaTiO100モルに対してX(Zr,Hf)O(但し、Xは、Ba、Sr及びCaから選択される少なくとも一種の金属元素を表す。)を0より大きく15モル以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミック組成物。
【請求項4】
上記焼結助剤がSiOであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の誘電体セラミック組成物。
【請求項5】
積層された複数の誘電体セラミック層と、これらの誘電体セラミック層間に配置された内部電極と、これらの内部電極に電気的に接続された外部電極とを備え、上記誘電体セラミック層は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の誘電体セラミック組成物によって形成されてなることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
上記内部電極は、Ni若しくはその合金、またはCu若しくはその合金を主成分とする導電性材料によって形成されてなることを特徴とする請求項5に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/082807
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510391(P2006−510391)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001919
【国際出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】