説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】耐圧が高く、絶縁抵抗の加速寿命に優れ、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いることができる誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】 BaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)と、BaZrO2+n (ただし、nは、0.99≦n≦1.01)と、Mgの酸化物と、Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、を有し、前記BaTiO2+m 100モルに対し、BaZrO2+n :35〜65モル、Mgの酸化物:4〜12モル、Rの酸化物:4〜15モル、Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物:0.5〜3モル、Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物:3〜9モル、である誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐還元性を有する誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層に有する電子部品に係り、さらに詳しくは、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いられる誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、たとえば、所定の誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートと、所定パターンの内部電極層とを交互に重ね、その後一体化して得られるグリーンチップを、同時焼成して製造される。積層セラミックコンデンサの内部電極層は、焼成によりセラミック誘電体と一体化されるために、セラミック誘電体と反応しないような材料を選択する必要があった。このため、内部電極層を構成する材料として、従来では白金やパラジウムなどの高価な貴金属を用いることを余儀なくされていた。
【0003】
しかしながら、近年ではニッケルや銅などの安価な卑金属を用いることができる誘電体磁器組成物が開発され、大幅なコストダウンが実現した。
【0004】
一方、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進んでいる。それに伴い、積層セラミックコンデンサにおける1層あたりの誘電体層の薄層化が進み、薄層化してもコンデンサとしての信頼性を維持できる誘電体磁器組成物が求められている。特に、高い定格電圧(たとえば、100V以上)で使用される中高圧用コンデンサの小型・大容量化には、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に対して非常に高い信頼性が要求される。
【0005】
これに対して、たとえば、特許文献1には、高周波・高電圧交流下で使用されるコンデンサ用の誘電体磁器組成物として、組成式:ABO+aR+bM(ただし、ABOはチタン酸バリウム系固溶体、RはLa等の金属元素の酸化物、MはMn等の金属元素の酸化物)で表わされる主成分に対し、副成分として、B元素およびSi元素のうち少なくとも1種を含む焼結助材を含有してなる誘電体磁器組成物が開示されている。そして、この特許文献1では、主成分中の添加成分として、XZrO(ただし、XはBa,Sr,Caから選ばれる少なくとも1種の金属元素)を、主成分中のABOで表わされるチタン酸バリウム固溶体1モルに対して、0.35モル以下の範囲で添加する点が記載されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1では、耐圧(破壊電圧)が低く、寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)が不十分であり、そのため、信頼性に劣るという問題があった。特に、この問題は、積層セラミックコンデンサを小型・大容量化した場合に顕著となるため、小型・大容量化を達成するためには、耐圧および寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)の向上が望まれていた。
【特許文献1】特許第3567759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低く、比誘電率および容量温度特性を良好に保ちながら、耐圧(破壊電圧)および絶縁抵抗の加速寿命を向上できる誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る誘電体磁器組成物は、
BaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)と、
BaZrO2+n (ただし、nは、0.99≦n≦1.01)と、
Mgの酸化物と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記BaTiO2+m 100モルに対して、各成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
BaZrO2+n :35〜65モル、
Mgの酸化物:4〜12モル、
Rの酸化物:4〜15モル、
Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物:0.5〜3モル、
Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物:3〜9モル、
である。
【0009】
本発明において、好ましくは、前記BaTiO2+m 100モルに対して、前記BaZrO2+n の比率が、BaZrO2+n 換算で、40〜55モルである。
【0010】
本発明の第2の観点に係る誘電体磁器組成物は、
(Baα (TiZrMg)Oの一般式で表わされる第1成分を有する誘電体磁器組成物であって、
上記一般式におけるRが希土類元素であり、
上記一般式では、
0.8≦a≦0.96、
0.04≦b≦0.2、
0.55≦c≦0.7、
0.24≦d≦0.39、
0.02≦e≦0.09、および
1≦α≦1.15であり、
前記第1成分に含まれるBaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)100モルに対して、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を0.5〜3.0モルと、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を3〜9モルと、をさらに有する。
【0011】
本発明によれば、誘電体層と内部電極層とを有する電子部品であって、前記誘電体層が、上記第1の観点または第2の観点に係る誘電体磁器組成物で構成された電子部品が提供される。
【0012】
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の誘電体磁器組成物は、上記した特定組成を有しているため、還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低く、比誘電率および容量温度特性を良好に保ちながら、耐圧および絶縁抵抗の加速寿命を向上させることができる。特に本発明においては、BaZrO2+n の比率を、BaTiO2+m 100モルに対して、35〜65モル、好ましくは40〜55モルと比較的多くすることにより、容量温度特性および耐圧が向上された誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0014】
そのため、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に、このような本発明の誘電体磁器組成物を適用することにより、たとえば、誘電体層を20μm程度と薄層化し、定格電圧の高い(たとえば100V以上、特に250V以上)中高圧用途に用いた場合においても、高い信頼性を実現することができる。すなわち、小型・大容量化対応で、しかも高い信頼性を有する中高圧用途の電子部品を提供することができる。
【0015】
このような本発明の電子部品は、たとえば、各種自動車関連用途(燃料噴射装置、HIDランプなど)やデジタルスチールカメラ用途などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【0018】
(第1実施形態)
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0019】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。また、一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0020】
誘電体層2
誘電体層2は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。
【0021】
本発明の誘電体磁器組成物は、
BaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)と、
BaZrO2+n (ただし、nは、0.99≦n≦1.01)と、
Mgの酸化物と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、を有する。
【0022】
BaTiO2+m における、mは0.99≦m≦1.01である。この際、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。BaTiO2+m は主として母材として誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0023】
BaZrO2+n の含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、BaZrO2+n 換算で、35〜65モルであり、好ましくは40〜55モルであり、さらに好ましくは40〜50モルである。また、BaZrO2+n における、nは0.99≦n≦1.01である。この際、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。BaZrO2+n を上記範囲で添加することにより、容量温度特性および耐圧の向上を図ることができる。BaZrO2+n の添加量が少なすぎると、容量温度特性および耐圧の低下に加えて、寿命特性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下する傾向にある。
【0024】
Mgの酸化物の含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、MgO換算で、4〜12モルであり、好ましくは6〜10モルであり、さらに好ましくは7〜9モルである。Mgの酸化物は、BaTiO2+m の強誘電性を抑制する効果を有する。Mgの酸化物の含有量が少なすぎると、容量温度特性や耐圧が低下に加えて、電圧印加時における電歪量が大きくなる傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下に加えて、寿命特性および耐圧が悪化する傾向にある。
【0025】
Rの酸化物の含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、R換算で、4〜15モルであり、好ましくは6〜12モルであり、さらに好ましくは7〜11モルである。Rの酸化物は、主に、BaTiO2+m の強誘電性を抑制する効果を有する。Rの酸化物の含有量が少なすぎると、耐圧が低下したり、電圧印加時における電歪量が大きくなる傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下する傾向にある。なお、上記Rの酸化物を構成するR元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種であり、これらのなかでも、Gdが特に好ましい。
【0026】
Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物の含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、MnO、Cr、CoまたはFe換算で、0.5〜3モルであり、好ましくは0.5〜2.5モルであり、さらに好ましくは1.0〜2.0モルである。これらの酸化物の含有量が少なすぎると、寿命特性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率が低下するとともに、容量温度特性が悪化する傾向にある。
【0027】
Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物の含有量は、BaTiO2+m 100モルに対して、SiO、Li、Al、GeまたはB換算で、3〜9モルであり、好ましくは4〜8モルであり、さらに好ましくは4〜6モルである。これらの酸化物の含有量が少なすぎると、比誘電率が低下するとともに、寿命特性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、容量温度特性が悪化する傾向にある。なお、上記各酸化物のなかでも、特性の改善効果が大きいという点より、Siの酸化物を用いることが好ましい。
【0028】
本実施形態においては、上記各成分を上記所定量含有させることにより、誘電体磁器組成物を、還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低く、容量温度特性、比誘電率、耐圧および絶縁抵抗の加速寿命を良好なものとすることができる。特に、主として母材として含有されるBaTiO2+m に起因する不具合、たとえば、印加電圧に対する容量依存性や、電圧印加時における電歪現象を有効に緩和することができる。加えて、本実施形態では、BaZrO2+n の含有量を比較的に多いものとしているため、上記各特性を良好に保ちながら、容量温度特性および耐圧の向上が可能となる。
【0029】
なお、本明細書では、各成分を構成する各酸化物または複合酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物または複合酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各成分の上記比率は、各成分を構成する酸化物または複合酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物または複合酸化物に換算して求める。
【0030】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、積層セラミックコンデンサ1の用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0031】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0032】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0033】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0034】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0035】
誘電体原料としては、上記した各成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0036】
また、上記各成分の原料のうち、BaTiO2+m 以外の原料のうち少なくとも一部については、各酸化物または複合酸化物、焼成により各酸化物または複合酸化物となる化合物を、そのまま用いても良いし、あるいは、予め仮焼し、焙焼粉として用いても良い。あるいは、BaZrO2+n 以外の原料のうち一部については、BaTiO2+m とともに仮焼しても良い。ただし、BaTiO2+m とBaZrO2+n とを仮焼すると、本発明の効果が得難くなるため、このような組み合わせで仮焼することは好ましくない。
【0037】
なお、BaTiO2+m の原料としては、平均粒子径が、好ましくは0.2〜1μmのものを用いることが好ましい。また、BaZrO2+n を始めとするその他の成分の原料としては、平均粒子径が、好ましくは0.2〜1μmのものを用いることが好ましい。なお、これらを予め仮焼し、焙焼粉とする場合にも、その平均粒子径は上記範囲とすることが好ましい。
【0038】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0039】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0040】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0041】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0042】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0043】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0044】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0045】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0046】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0047】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1360℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0048】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0049】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0050】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0051】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、高温負荷寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、高温負荷寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0052】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0053】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。また、脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0054】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0055】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0056】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサおよびその製造方法は、誘電体磁器組成物の組成およびその製造方法が、第1実施形態に係る誘電体磁器組成物の組成およびその製造方法と、以下に示すように異なる以外は、同じであり、重複する部分の説明は省略する。
【0057】
この第2実施形態に係る誘電体磁器組成物は、
(Baα (TiZrMg)Oの一般式で表わされる第1成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物から成る第2成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物から成る第3成分と、を有する誘電体磁器組成物である。上記一般式におけるRは、第1実施形態と同様な希土類元素であり、好ましくはGdである。
【0058】
上記一般式では、
0.8≦a≦0.96、好ましくは0.83≦a≦0.93、さらに好ましくは0.86≦a≦0.91、
0.04≦b≦0.2、好ましくは0.08≦b≦0.15、さらに好ましくは0.09≦b≦0.13、
0.55≦c≦0.7、好ましくは0.62≦c≦0.69、さらに好ましくは0.64 ≦c≦0.68、
0.24≦d≦0.39、好ましくは0.26≦d≦0.36、さらに好ましくは0.27≦d≦0.31、
0.02≦e≦0.09、好ましくは0.03≦e≦0.08、さらに好ましくは0.04≦e≦0.07、および
1≦α≦1.15、好ましくは1.02≦α≦1.12、さらに好ましくは1.03≦α≦1.10である。
【0059】
この誘電体磁器組成物は、第1成分に含まれるBaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)100モルに対して、
前記第2成分を、酸化物換算で、0.5〜3.0モルと、
前記第3成分を、酸化物換算で、3〜9モルと、を有する。
【0060】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物では、焼成後の状態において、第1成分に含まれるBaTiO2+m は、ペロブスカイト型結晶構造内に十分に固溶しており、そのAサイトには、希土類Rが入り込み、そのBサイトには、ZrおよびMgが入り込んでいる。
【0061】
上記の一般式において、aが小さすぎると、比誘電率が低下する傾向にあり、aが大きすぎると、温度特性、高温加速寿命、破壊電圧および電歪量が悪化する傾向にある。また、bが大きすぎると、比誘電率が低下する傾向にあり、bが小さすぎると、温度特性、高温加速寿命、破壊電圧および電歪量が悪化する傾向にある。
【0062】
上記の一般式において、cが大きすぎると、比誘電率が低下する傾向にあり、cが小さすぎると、温度特性、高温加速寿命、破壊電圧および電歪量が悪化する傾向にある。また、dが大きすぎると、比誘電率が低下する傾向にあり、dが小さすぎると、温度特性、高温加速寿命および電歪量が悪化する傾向にある。
【0063】
上記の一般式において、eが大きすぎると、温度特性が悪化する傾向にあり、eが小さすぎると、高温加速寿命が悪化する傾向にある。さらに、αが小さすぎると、温度特性が悪化する傾向にあり、αが大きすぎると、信頼性が悪化する傾向にある。
【0064】
また、この実施形態では、第2成分の添加量が少なすぎると、温度特性、高温加速寿命、破壊電圧および電歪量が悪化する傾向にあり、多すぎると、比誘電率が低下する傾向にある。また、第3成分の添加利用が少なすぎると、高温加速寿命、破壊電圧および電歪量が悪化する傾向にあり、多すぎると、比誘電率が低下する傾向にある。
【0065】
本実施形態の誘電体磁器組成物を製造するには、前述した第1実施形態に係る誘電体磁器組成物の製造方法と同様な方法を採用することができ、好ましくは、各成分の原料のうち、BaTiO2+m 以外の原料のうち少なくとも一部については、各酸化物または複合酸化物、焼成により各酸化物または複合酸化物となる化合物を、予め仮焼し、焙焼粉として用いることが好ましい。
【0066】
本実施形態のその他の構成および作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0068】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成の誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0070】
実施例1
まず、平均粒子径0.5μmのBaTiO2+m 、BaZrO2+n 、MgCO、Gd、MnO、およびSiOを準備し、これらをボールミルにて混合し、得られた混合粉を1200℃で予め仮焼して、平均粒子径0.6μmの仮焼粉を調製した。次いで、得られた仮焼粉を、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体材料を得た。なお、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。また、BaTiO2+m内部にBaZrO2+n 、MgCO、Gd、MnO、およびSiOが固溶したり、BaTiO2+m表面にMgCO、Gd、MnO、およびSiOが拡散したり、BaTiO2+m表面にMgCO粒子、Gd粒子、MnO粒子、およびSiO粒子が固着したりと、その粉体の状態に制限はない。この製法により得られる粉体を粉体Aとする。
【0071】
各成分の添加量を表1に示す。本実施例では、表1に示すようにそれぞれ添加量の異なる誘電体材料(試料番号1〜35)を調製した。表1において、各成分の添加量は、BaTiO2+m 100モルに対して、複合酸化物または各酸化物換算での添加量である。また、本実施例では、BaTiO2+m としてはm=1.001のものを、BaZrO2+n としてはn=1.000のものを、それぞれ使用した。
【0072】
次いで、得られた誘電体材料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0073】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0074】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが30μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0075】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0076】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0077】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1220〜1380℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−12MPa)とした。
【0078】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000〜1100℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0079】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。本実施例では、表1に示すように、誘電体層をそれぞれ組成の異なる複数の誘電体磁器組成物から構成した複数のコンデンサ試料(試料番号1〜35)を作製した。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×3.2mmであり、誘電体層の厚み20μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は10とした。
【0080】
得られた各コンデンサ試料について、比誘電率(εs)、容量温度特性(TC)、高温加速寿命(HALT)、破壊電圧(耐圧)、および電圧印加による電歪量を下記に示す方法により測定した。
【0081】
比誘電率εs
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率εs(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、230以上、好ましくは250以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0082】
容量温度特性(TC)
コンデンサ試料に対し、125℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件で静電容量を測定し、基準温度25℃における静電容量に対する変化率を算出した。本実施例では、±15%以内を良好とした。結果を表1に示す。
【0083】
高温加速寿命(HALT)
コンデンサ試料に対し、200℃にて、40V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温加速寿命(HALT)を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、この高温加速寿命は、10個のコンデンサ試料について行った。本実施例では、10時間以上、好ましくは20時間以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0084】
破壊電圧(耐圧)
コンデンサ試料に対し、温度25℃において、直流電圧を昇温速度100V/sec.で印加し、10mAの電流が流れた時の誘電体層厚みに対する電圧値(単位:V/μm)を破壊電圧とし、破壊電圧を測定することにより、コンデンサ試料の耐圧を評価した。本実施例では、破壊電圧50V/μm以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0085】
電圧印加による電歪量
まず、コンデンサ試料を、所定パターンの電極がプリントしてあるガラスエポキシ基板にハンダ付けすることにより固定した。次いで、基板に固定したコンデンサ試料に対して、AC:10Vrms/μm、周波数3kHzの条件で電圧を印加し、電圧印加時におけるコンデンサ試料表面の振動幅を測定し、これを電歪量とした。なお、コンデンサ試料表面の振動幅の測定には、レーザードップラー振動計を使用した。また、本実施例では、10個のコンデンサ試料を用いて測定した値の平均値を電歪量とした。電歪量は低いほうが好ましく、本実施例では、10ppm未満を良好とした。結果を表1に示す。
【表1】

【0086】
表1より、誘電体磁器組成物組成を本発明の所定の範囲とすることにより、比誘電率(εs)、容量温度特性(TC)、および電歪量を良好に保ちながら、破壊電圧(耐圧)および高温加速寿命(HALT)の向上が可能となることが確認できる。
【0087】
これに対して、誘電体磁器組成物組成を本発明の範囲外とすると、各特性に劣る結果となった。
【0088】
実施例2
BaTiO2+m およびBaZrO2+n の代わりに、BaTiO2+m およびBaZrO2+n を予め仮焼したBa(Ti,Zr)Oを用い、添加物成分を仮焼きせずに混合した以外は実施例1の試料番号9と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様に評価を行った。なお、本実施例においては、誘電体磁器組成物中へのBa(Ti,Zr)Oの添加量は、実施例1の試料番号9におけるBaTiO2+m とBaZrO2+n との添加量の合計と同じ量とした。また、Ba(Ti,Zr)Oとしては、Ti/Zr比が、実施例1の試料番号9におけるBaTiO2+m とBaZrO2+n との比と同じ比率のものを使用した(すなわち、Ti/Zr=約100/41のものを使用した)。結果を表2に示す。
【表2】

【0089】
表2より、BaTiO2+m およびBaZrO2+n の代わりに、Ba(Ti,Zr)Oを用いた場合には、容量温度特性や電圧印加による電歪量、信頼性に劣る結果となることが確認できる。なお、この理由としては、必ずしも明らかではないが、本発明の誘電体磁器組成物においては、BaTiO2+m とBaZrO2+n とを別々に添加することにより、GdがBaTiO2+m粒子へ拡散しやすくなり、粒子内にGdが一様に分布した構造となる。そのことで還元雰囲気での焼成中の酸素欠陥の発生が抑制されることで、信頼性が良好となるのに対し、Ba(Ti,Zr)Oを用いた場合には、このような構成とならないことによると考えられる。
【0090】
実施例3
実施例1と同様な粉体Aを用い、下記に示す以外は実施例1と同様にしてコンデンサ試料を作成し、実施例1と同様に評価を行った。
【0091】
表3および表4においては、表1とは異なり、焼成後の誘電体磁器組成物の組成を、下記のように表現している。
【0092】
すなわち、この実施例に係る誘電体磁器組成物は、
(Baα (TiZrMg)Oの一般式で表わされる第1成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物から成る第2成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物から成る第3成分と、を有するものとして表現している。
【0093】
表3および表4において、第2成分(Mn)および第3成分(Si)のモル比は、第1成分に含まれるBaTiO2+m 100モルに対して、酸化物換算でのモル比である。
【0094】
表3および表4に示す結果から、誘電体磁器組成物組成を本発明の所定の範囲とすることにより、比誘電率(εs)、容量温度特性(TC)、および電歪量を良好に保ちながら、破壊電圧(耐圧)および高温加速寿命(HALT)の向上が可能となることが確認できる。
【0095】
これに対して、誘電体磁器組成物組成を本発明の範囲外とすると、各特性に劣る結果となった。
【0096】
実施例4
まず、平均粒子径0.5μmのBaTiO2+m (ただし、m=1.001)、BaZrO2+n (ただし、n=1.000)、MgCO、Gd、MnO、およびSiOを準備し、これらをボールミルにて混合し、混合粉を得る。この製法により得られる粉体を粉体Bとする。
【0097】
粉体Aの代わりに粉体Bを用いた以外は実施例3と同様にしてコンデンサ試料を作成し、実施例3と同様に評価を行った。粉体Bにおける各成分の添加量および評価結果を表5に示す。
【0098】
表3および表4に比較して、表5に示す結果から、粉体Bを用いた場合においても、粉体Aを用いた場合と同様な結果が得られたが、同様な組成を比較した場合には、粉体Aを用いた場合の方が、高温加速寿命および破壊電圧の点で優れていることが確認された。
【0099】
実施例5
BaCO、ZrO、MgCO、Gd、MnO、SiOおよびTiOを準備し、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体材料を得た。この製法により得られる粉体を粉体Cとする。
【0100】
粉体Aの代わりに粉体Cを用いた以外は実施例3と同様にしてコンデンサ試料を作成し、実施例3と同様に評価を行った。各成分の添加量および評価結果を表5に示す。表5に示すように、粉体Cを用いた場合においても、粉体Aを用いた場合と同様な結果が得られた。
【0101】
実施例6
MgCO、Gd、MnO、およびSiOを予め1000℃にて仮焼きしたものを準備し、これを平均粒子径0.3μmのBaCO、ZrO、TiO粉末とともに、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体材料を得た。この製法により得られる粉体を粉体Dとする。
【0102】
粉体Aの代わりに粉体Dを用いた以外は実施例3と同様にしてコンデンサ試料を作成し、実施例3と同様に評価を行った。各成分の添加量および評価結果を表5に示す。表5に示すように、粉体Dを用いた場合においても、粉体Aを用いた場合と同様な結果が得られた。
【表3】

【表4】

【表5】

【0103】
実施例7
MnOの代替物としてCr、CoまたはFeを用い、SiOの代替物としてLi、Al、GeまたはBを用いた以外は、実施例3と同様にしてコンデンサ試料を作成し、実施例3と同様に評価を行った。各成分の添加量および評価結果を表6に示す。
【0104】
表6に示すように、MnOの代替物としてCr、CoまたはFeを用い、SiOの代替物としてLi、Al、GeまたはBを用いた場合でも、同様な特性が得られることが確認できた。
【表6】

【0105】
実施例8
実施例3の粉体Aの製法において、(BaGdα(TiZrMg)O のαの値が0.08〜1.20の範囲でそれぞれ異なる粉体を調整し、実施例3と同様にしてコンデンサ試料を作成し、実施例3と同様に評価を行った。各成分の添加量および評価結果を表7に示す。
【0106】
表7に示すように、1.00≦α≦1.15の場合において、良好な特性が得られることが確認できた。
【表7】

【0107】
実施例9
Gdの代替物として、Sm、Eu、TdまたはDyの酸化物を用いた以外は、実施例3と同様にしてコンデンサ試料を作製し、実施例3と同様に評価を行った。各成分の添加量および評価結果を表8に示す。
【0108】
表8に示すように、Gdの代替物として、Sm、Eu、TdまたはDyの酸化物を用いた場合でも、同様な特性が得られることが確認できた。
【表8】

【0109】
実施例10
まず、BaZrO2+n 、MgCO、Gd、MnO、およびSiOを準備し、これらをボールミルにて混合し、得られた混合粉を1000℃で予め仮焼して、平均粒子径0.2μmの焙焼粉を調製した。次いで、得られた焙焼粉を、平均粒子径0.6μmのBaTiO2+m 粉末とともに、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体材料を得た。この製法により得られる粉体を粉体Eとする。
【0110】
粉体Aの代わりに粉体Eを用いた以外は実施例1と同様にしてコンデンサ試料を作成し、実施例1と同様に評価を行った。各成分の添加量および評価結果を表9に示す。
【表9】

【0111】
表9より、誘電体磁器組成物組成を本発明所定の範囲とすることにより、比誘電率(εs)、容量温度特性(TC)、および電歪量を良好に保ちながら、破壊電圧(耐圧)および高温加速寿命(HALT)の向上が可能となることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【符号の説明】
【0113】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)と、
BaZrO2+n (ただし、nは、0.99≦n≦1.01)と、
Mgの酸化物と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記BaTiO2+m 100モルに対して、各成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
BaZrO2+n :35〜65モル、
Mgの酸化物:4〜12モル、
Rの酸化物:4〜15モル、
Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物:0.5〜3モル、
Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物:3〜9モル、
である誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記BaTiO2+m 100モルに対する、前記BaZrO2+n の比率が、BaZrO2+n 換算で、40〜55モルである請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
(Baα (TiZrMg)Oの一般式で表わされる第1成分を有する誘電体磁器組成物であって、
上記一般式におけるRが希土類元素であり、
上記一般式では、
0.8≦a≦0.96、
0.04≦b≦0.2、
0.55≦c≦0.7、
0.24≦d≦0.39、
0.02≦e≦0.09、および
1≦α≦1.15であり、
前記第1成分に含まれるBaTiO2+m (ただし、mは、0.99≦m≦1.01)100モルに対して、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を0.5〜3.0モルと、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を3〜9モルと、をさらに有する誘電体磁器組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物からなる誘電体層と、内部電極層と、を有する電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−280231(P2008−280231A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255591(P2007−255591)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】