説明

誘電体磁器組成物及びその製造方法

【課題】 BaO、希土類酸化物及びTiO2が主成分として含有された組成系であっても、Ag又はAgを主成分とする合金等の導体を内部導体として確実に使用できるように、低温での焼結性をより安定・確実なものとした誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】 誘電体磁器組成物の主成分としてBaO、Nd23、TiO2、MgO及びSiO2を所定の比率で含有し、前記誘電体磁器組成物の副成分としてZnO、B23、CuO及びアルカリ土類金属酸化物RO(R:アルカリ土類金属)を所定の比率で含有させ、さらに好ましくは、副成分としてAgを含有させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag又はAgを主成分とする合金等の導体を内部導体として使用することができるように低温焼結性を有する誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車電話、携帯電話等の移動体通信分野の成長が極めて著しい。そして、これらの移動体通信では数100MHz〜数GHz程度のいわゆる準マイクロ波と呼ばれる高周波帯が使用されている。そのため、移動体通信機器に用いられる共振器、フィルタ、コンデンサ等の電子デバイスにおいても高周波特性が重要視されるに至っている。
【0003】
また、近年の移動体通信の普及に関しては、サービスの向上の他に通信機器の小型化及び低価格化が重要な因子となっている。そのため、高周波デバイスに関しても小型化および低価格化が要求されるようになってきている。例えば共振器用材質において小型化を実現させるためには使用周波数において比誘電率が高く、誘電損失が小さく、かつ共振周波数の温度特性の変化が小さい誘電体磁器組成物が要求される。
【0004】
このような要求を満たす高周波デバイスの材質として、従来よりBaO−希土類酸化物−TiO2系の誘電体磁器組成物が知られている。
【0005】
さらに、高周波デバイスの小型化のために、内部に電極や配線等の導体(以下、高周波デバイスの内部に備えた電極や配線等の導体を「内部導体」と称す)を備えた表面実装型の部品(SMD:Surface Mount Device)が主流となりつつあるのが現状である。
【0006】
内部に電極や配線等の導体を形成するには、誘電体磁器組成物と電極や配線等の導体を同時焼成する必要がある。しかしながら、BaO−希土類酸化物−TiO2系の誘電体磁器組成物は、焼成温度が1300〜1400℃と比較的高いために、これとの組み合わせで用いられる電極や配線等の導体材質としては、高温に耐えることができるパラジウム(Pd)や白金(Pt)等の貴金属に限定されていた。
【0007】
しかしながら、これらの貴金属は高価なために、デバイスの低価格化を実現させるためには、低抵抗の導体でかつ安価なAg、Cu等の導体を内部導体として使用できるようにすることが望ましい。
【0008】
そこで、BaO−希土類酸化物−TiO2系を主成分とした材質に、B23等の副成分を添加する技術が提案されており、これによれば、Ag、Cu等の導体の融点より低い温度で誘電体磁器組成物を焼成することができ、Ag、Cu等の導体を内部導体として同時焼成を可能としている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0009】
一方、さらなるデバイスの小型化を実現させるために、高い比誘電率を有する誘電体磁器組成物と、低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物を接合し、複数の高周波デバイスを一体化させた高特性の多層型デバイスの提案も行われている(例えば、特許文献3参照。)。
【0010】
しかしながら、このような多層型デバイスを形成するに際し、高い比誘電率を有する誘電体磁器組成物と低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物の組成材質が双方で異なれば、双方の焼成時の収縮挙動および線膨張係数が一致しないため、前記高い比誘電率を有する誘電体磁器組成物と前記低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物を接合し焼成すると、接合面に欠陥を生じてしまう。
【0011】
このような観点から、多層型デバイスを形成するに際し、高い比誘電率を有する誘電体磁器組成物と低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物は、基本的に同一の材質又は類似する材質から構成され、ほぼ類似の物性を備えていることが望ましい。
【0012】
しかしながら、小型の高周波デバイスの材質に適しているBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物は、前記の特許文献1に記載されるように極めて高い比誘電率を有しており、単に副成分を添加したとしても複合化(多層型デバイス)に要求される比誘電率の低いBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物を製造することは困難であるといえる。
【0013】
【特許文献1】特開2001−31468号公報
【特許文献2】特開平6−40767号公報
【特許文献3】特開平9−139320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであり、その目的は、BaO、希土類酸化物及びTiO2が主成分として含有された組成系であっても、Ag又はAgを主成分とする合金等の導体を内部導体として確実に使用できるように、低温での焼結性をより安定・確実なものとした誘電体磁器組成物及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
さらには、温度変化による共振周波数の変化が小さく、BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物の比誘電率より低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
なお、本発明は、本出願人によりすでに出願されている特願2004−286651号と関連する改良発明であり、特に、低温での焼結性をより安定・確実なものとしている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を解決するために、本発明の誘電体磁器組成物は、主成分として、組成式{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}と表される成分を含み、BaOとNd23とTiO2のモル比率を表わすx、y、zがそれぞれ、
9(モル%)≦x≦22(モル%)、
9(モル%)≦y≦29(モル%)、
61(モル%)≦z≦74(モル%)の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100(モル%)の関係を満たし、
前記主成分における各成分の体積比率を表わすα、βがそれぞれ
15(体積%)≦α≦75(体積%)、
25(体積%)≦β≦85(体積%)の範囲にあるとともに、
α+β=100(体積%)の関係を満たし、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、銅酸化物およびアルカリ土類金属酸化物を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCuOおよびdRO(Rはアルカリ土類金属)と表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の重量比率を表わすa、b、c、およびdがそれぞれ
0.1(重量%)≦a≦12.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦12.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦9.0(重量%)、
0.2(重量%)≦d≦5.0(重量%)、
の関係を有してなるように構成される。
【0018】
また、本発明の好ましい態様として、前記アルカリ土類金属Rは、Ba、Sr、Caのグループから選ばれた少なくとも1種から構成される。
【0019】
また、本発明の好ましい態様として、誘電体磁器組成物中にフォルステライト(2MgO・SiO2)結晶を含有してなるように構成される。
【0020】
また、本発明の好ましい態様として、さらに、副成分としてAgを含むように構成される。
【0021】
また、本発明の好ましい態様として、前記主成分に対するAgの重量比率を、eAgと表したとき、0.3(重量%)≦e≦3.0(重量%)としてなるように構成される。
また、本発明の好ましい態様として、焼成温度が870℃以下の物性を有してなるように構成される。
【0022】
また、本発明の好ましい態様として、比誘電率が50以下の物性を有してなるように構成される。
【0023】
また、本発明の好ましい態様として、比誘電率が20〜40の範囲、Q・f値が4000GHz以上の物性を有してなるように構成される。
【0024】
本発明は、バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料及びアルカリ土類金属含有原料を焼成してBaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2−ZnO−B23−CuO−RO(Rはアルカリ土類金属)系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、前記マグネシウム含有原料及び前記シリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用してなるように構成される。
【0025】
本発明は、バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料、アルカリ土類金属含有原料及び銀(Ag)を含有させた混合物を焼成して、BaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2−ZnO−B23−CuO−RO(Rはアルカリ土類金属)−Ag系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、前記マグネシウム含有原料及び前記シリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用してなるように構成される。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、誘電体磁器組成物の主成分としてBaO、Nd23、TiO2、MgO及びSiO2を所定の比率で含有し、前記誘電体磁器組成物の副成分としてZnO、B23及びCuOを所定の比率で含有し、さらに前記副成分としてアルカリ土類金属酸化物RO(R:アルカリ土類金属)を含有することで、Ag又はAgを主成分とする合金等の導体を内部導体として確実に使用できるように、低温での焼結性をより安定・確実なものとすることができる。さらには、温度変化による共振周波数の変化が小さく、BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物の比誘電率より低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物を得ることができ、多層型デバイスを形成するに好適な誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0027】
上記の副成分に加えてさらに、副成分としてAgを添加して含有させることにより、より一層低温での焼成が可能となり、比較的低温で焼成しても、安定した静電容量や絶縁抵抗値を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。最初に、本発明の誘電体磁器組成物の構成について説明する。
【0029】
〔誘電体磁器組成物の説明〕
本発明の誘電体磁器組成物は、組成式{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}と表記される主成分を含んでいる。
【0030】
さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、この主成分に対して副成分として亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、銅酸化物およびアルカリ土類金属酸化物が所定量含有される。さらにより好ましい態様として、副成分としてのAgが所定量含有される。
【0031】
以下、本発明の誘電体磁器組成物の主成分組成および副成分組成についてさらに説明する。まず、最初に、主成分組成について説明する。
【0032】
(主成分組成についての説明)
前述したように本発明の誘電体磁器組成物は、組成式{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}と表記される主成分を含み、BaOとNd23とTiO2のモル比率(モル%)を表わすx、y、zがそれぞれ、
9(モル%)≦x≦22(モル%)、
9(モル%)≦y≦29(モル%)、
61(モル%)≦z≦74(モル%)の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100(モル%)の関係を満たすように構成されている。
【0033】
さらに、主成分における各成分の体積比率(体積%)を表わすα、βは、それぞれ
15(体積%)≦α≦75(体積%)、
25(体積%)≦β≦85(体積%)の範囲にあるとともに、
α+β=100(体積%)の関係を満たすように構成されている。
【0034】
BaOの含有割合xは、上記条件の範囲内、すなわち、9(モル%)≦x≦22(モル%)であることが求められ、好ましくは10(モル%)≦x≦19(モル%)、より好ましくは14(モル%)≦x≦19(モル%)とされる。
【0035】
このBaOの含有割合が9(モル%)未満となると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じ、高周波デバイスの電力損失が大きくなってしまう。この一方で、BaOの含有割合が22(モル%)を超えると、低温焼結性が損なわれて誘電体磁器組成物を形成できなくなる傾向が生じ、さらには誘電損失が大きくなり、Q・f値が大きく低下するため、高周波デバイスの電力損失が大きくなるという不都合が生じてしまう。
【0036】
Nd23の含有割合は、上記条件の範囲内、すなわち、9(モル%)≦y≦29(モル%)であることが求められ、好ましくは9(モル%)≦y≦22(モル%)、より好ましくは12(モル%)≦y≦17(モル%)とされる。
【0037】
このNd23の含有割合が9(モル%)未満となると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じ、高周波デバイスの電力損失が大きくなってしまう。この一方で、Nd23の割合が29(モル%)を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じとともに、共振周波数の温度係数τfも負方向へ大きくなってしまうという傾向が生じる。従って、高周波デバイスの電力損失が大きくなり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなってしまう。
【0038】
TiO2の含有割合は、上記条件の範囲内、すなわち、61(モル%)≦z≦74(モル%)であることが求められ、好ましくは61.5(モル%)≦z≦74(モル%)、より好ましくは65(モル%)≦z≦71(モル%)とされる。
【0039】
このTiO2の含有割合が61(モル%)未満となると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じとともに、共振周波数の温度係数τfも負方向へ大きくなってしまう傾向が生じる。従って、高周波デバイスの電力損失が大きくなり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなってしまう。この一方で、TiO2の割合が74(モル%)を超えると、低温焼結性が損なわれ、誘電体磁器組成物を形成できなくなるという傾向が生じる。
【0040】
また、上記の主成分の組成式において、α、βは、それぞれ、本発明の誘電体磁器組成物の主成分である(1)BaO、Nd23及びTiO2と、(2)MgO及びSiO2の体積比率を表わしている。
【0041】
上述したようにαとβは、
15(体積%)≦α≦75(体積%)、
25(体積%)≦β≦85(体積%)、
α+β=100(体積%)の関係を満たすように構成され、さらに、αとβの好ましい範囲は、25(体積%)≦α≦65(体積%)、35(体積%)≦β≦75(体積%)、より好ましくは35(体積%)≦α≦55(体積%)、45(体積%)≦β≦65(体積%)とされる。
【0042】
αの値が75(体積%)を超えて、βの値が25(体積%)未満となると、前記誘電体磁器組成物の比誘電率εrは大きくなる傾向が生じるとともに、共振周波数の温度係数τfは正方向へ大きくなる傾向が生じる。従って、比誘電率εrが大きくなることからBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物と接合した多層型デバイスの高特性化が難しくなり、共振周波数の温度係数τfが大きくなることから温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなってしまう。これとは逆に、αの値が15(体積%)未満となり、βの値が85(体積%)を超えると、前記誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfは負方向へ大きくなる傾向が生じてしまう。従って、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなるという不都合が生じる。
【0043】
本発明において、主成分の一部として含有されるMgO及びSiO2はフォルステライト結晶の形態で誘電体磁器組成物に含有されていることが望ましい。
【0044】
誘電体磁器組成物にフォルステライト結晶が含有されているか否かは、X線回折装置(XRD)によって確認することができる。
【0045】
BaO−Nd23−TiO2系化合物を主成分とする誘電体磁器組成物はεr=55〜105の高い比誘電率を有する。一方、フォルステライトは単体でεr=6.8と低い比誘電率を有する。本実施形態に係る誘電体磁器組成物の主成分としてBaO−Nd23−TiO2系化合物とフォルステライト結晶とを含有させることで誘電体磁器組成物の比誘電率を下げることができる。
【0046】
また、BaO−Nd23−TiO2系化合物を主成分とする誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfは正の値を持つことが多い。一方、フォルステライトは単体でτf=−65(ppm/K)と負の共振周波数の温度係数を持つ。誘電体磁器組成物の主成分としてBaO−Nd23−TiO2系化合物とフォルステライト結晶とを含有させることで、正の共振周波数の温度係数と負の共振周波数の温度係数が相殺され、誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数をゼロ近傍とすることができる。さらに、主成分中のフォルステライト結晶の含有率を増減させることで本実施形態に係る誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数を調整することができる。
【0047】
また、BaO−Nd23−TiO2系化合物を主成分とする誘電体磁器組成物はQ・f=2000〜8000GHz程度である。一方、フォルステライトは単体でQ・f=200000GHzと誘電損失が小さい。誘電体磁器組成物の主成分としてBaO−Nd23−TiO2系化合物とフォルステライト結晶とを含有させることで、低誘電損失の誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0048】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、主としてAgまたはAgを主成分とする合金等の導体の融点より低い温度で焼成可能とするために、上記の主成分に所望の副成分を添加することにより構成されている。
【0049】
(副成分についての説明)
前述したように本発明の誘電体磁器組成物は、副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、銅酸化物およびアルカリ土類金属酸化物が含有される。さらに、より好ましい態様としてこれらの副成分に加えて銀(Ag)が含有される。
【0050】
これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCuOおよびdRO(Rはアルカリ土類金属)と表した場合、前記主成分に対する前記各副成分の重量比率(重量%)を表わすa、b、c、およびdがそれぞれ、
0.1(重量%)≦a≦12.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦12.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦9.0(重量%)、
0.2(重量%)≦d≦5.0(重量%)となるように構成される。
【0051】
副成分としてのAgをさらに含有させる場合、前記主成分に対するAg副成分の重量比率(重量%)をeとして表した場合、0.3(重量%)≦e≦3.0(重量%)、好ましくは1.0(重量%)≦e≦2.0(重量%)となるように構成される。
【0052】
上述したように主成分に対する亜鉛酸化物の含有割合は、ZnO換算で0.1(重量%)≦a≦12.0(重量%)であることが求められ、好ましくは0.5(重量%)≦a≦9.0(重量%)、より好ましくは1.0(重量%)≦a≦7.0(重量%)とされる。
【0053】
主成分に対する亜鉛酸化物の含有割合がZnO換算で0.1(重量%)未満となると、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が不充分なものとなる傾向が生じる。この一方で、主成分に対する亜鉛酸化物の含有割合がZnO換算で12.0(重量%)を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じる。
【0054】
また、主成分に対するホウ素酸化物の含有割合はB23換算で0.1(重量%)≦b≦12.0(重量%)であることが求められ、好ましくは0.5(重量%)≦b≦9.0(重量%)、より好ましくは1.0(重量%)≦b≦7.0(重量%)とされる。
【0055】
主成分に対するホウ素酸化物の含有割合がB23換算で0.1(重量%)未満となると、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が不充分なものとなる傾向が生じる。この一方で、主成分に対するホウ素酸化物の含有割合がB23換算で12.0(重量%)を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じる。
【0056】
また、主成分に対する銅酸化物の含有割合はCuO換算で0.1(重量%)≦c≦9.0(重量%)であることが求められ、好ましくは0.5(重量%)≦c≦6.0(重量%)、より好ましくは1.0(重量%)≦c≦4.0(重量%)であることが求められる。
【0057】
主成分に対する銅酸化物の含有割合がCuO換算で0.1(重量%)未満となると誘電体磁器組成物の低温焼結効果が不充分なものとなる傾向が生じる。この一方で、主成分に対する銅酸化物の含有割合がCuO換算で9.0(重量%)を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じる。
【0058】
本発明においては、誘電体磁器組成物の低温焼結効果(より低い温度で焼結を可能とする効果)をさらに向上させるために上記の副成分に加えてさらにアルカリ土類金属酸化物を添加している。すなわち、添加されるアルカリ土類金属酸化物はRO(Rはアルカリ土類金属)換算で、主成分に対して0.2(重量%)≦d≦5.0(重量%)、好ましくは0.5(重量%)≦d≦3.5(重量%)、より好ましくは1.0(重量%)≦d≦3.0(重量%)とされる。
【0059】
アルカリ土類金属であるRとしては、Ba、Sr、Caが好適例として挙げられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。
【0060】
主成分に対するアルカリ土類金属酸化物の含有割合がRO(Rはアルカリ土類金属)換算で0.2(重量%)未満となると、さらに進んだ低温焼結性の効果が期待できなくなってしまう。この一方で、主成分に対するアルカリ土類金属酸化物の含有割合がRO換算で5.0(重量%)を超えると、低温焼結性の効果は期待できるものの、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じる。
【0061】
なお、アルカリ土類金属RとしてBaを用いた場合、主成分に対するアルカリ土類金属酸化物の含有割合は、BaO換算で0.5(重量%)≦d≦3.5(重量%)の範囲が好ましい。また、アルカリ土類金属RとしてSrを用いた場合、主成分に対するアルカリ土類金属酸化物の含有割合は、SrO換算で0.4(重量%)≦d≦2.5(重量%)の範囲が好ましい。また、アルカリ土類金属RとしてCaを用いた場合、主成分に対するアルカリ土類金属酸化物の含有割合は、CaO換算で0.2(重量%)≦d≦1.5(重量%)の範囲が好ましい。
【0062】
さらに、上述のごとく本発明のより好ましい態様として、誘電体磁器組成物の低温焼結効果(より低い温度で焼結を可能とする効果)をより一層向上させつつ、比較的低温で焼成しても、安定した静電容量や絶縁抵抗値を得ることを可能とするために、上記の所定の副成分に加えてさらに銀(Ag)が含有される。本発明の誘電体磁器組成物に副成分としてAgを含有させることにより、内部導体にAgまたはAg合金を使用した場合の内部導体から誘電体素地中へのAgの拡散を抑制することができる。主成分に対するAgの含有割合が0.3(重量%)未満となると、さらに進んだ低温焼結性の効果が期待できなくなってしまう。さらに、Ag拡散の抑制が不十分となり、Ag拡散による不具合、例えば、誘電体内のAg含有量の不均一化による誘電率のバラツキ発生、内部導体のAg量低減による導体と誘電体素地との間での空隙発生、外部との接続部分における内部導体の引き込みによる導体不良等を起こすことになる。この一方で、主成分に対するAgの含有割合が3.0(重量%)を超えると、低温焼結性の効果は期待できるものの、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じる。さらに、誘電体中でのAg拡散の許容取り込み量を超えてしまい、誘電体素地中におけるAgの偏析を生じるようになり、電圧負荷寿命等の信頼性に悪影響を及ぼすことになり、好ましくない。
【0063】
本発明における誘電体磁器組成物は、主成分としてBaO、Nd23、TiO2、MgO及びSiO2を含有し、副成分として、ZnO、B23、CuO及びRO(Rはアルカリ土類金属)を含有、さらに好ましい態様としてAgを含有している。特に、主成分としてMgOとSiO2(特に、フォルステライト結晶)を含むことにより、BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物の一般的な比誘電率よりも低い比誘電率とすることができる。
【0064】
また、特に、副成分としてRO(Rはアルカリ土類金属)、さらに好ましい態様として副成分としてAgを含むことにより、AgまたはAgを主成分とする合金等の導体と同時焼成を確実なものとすべく、より一層の低温焼結性の改善が見られる。
【0065】
また、本発明における誘電体磁器組成物の材質は、BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物の材質と類似しているため、焼成時の収縮挙動および線膨張係数がBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物と同等である。つまり、本発明に係る誘電体磁器組成物とBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物を接合し、焼成して、多層型デバイスを製造しても、接合面に欠陥を生じ難い。従って、本発明における誘電体磁器組成物は、BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物と接合し、高特性の多層型デバイスを製造することができる。
【0066】
なお、本発明に係る誘電体磁器組成物は、本発明の目的及び作用効果の範囲内で他の化合物及び元素が含まれていてもよい。特に、主成分に対してマンガン酸化物を含有させることにより、誘電損失を小さく抑えることができる。
【0067】
上述したように本発明に係る誘電体磁器組成物は、低価格で小型のデバイスを提供するために安価なAg又はAgを主成分とする合金等の導体を内部導体とする必要がある。従って、誘電体磁器組成物には内部電極として使用される導体の融点以下で焼成できる低温焼結性が求められる。また、焼成温度によっても誘電体磁器組成物の誘電特性が影響を受けるため、焼成温度は860℃〜1000℃、好ましくは870℃〜940℃であることが求められる。
【0068】
また、本発明における重要な特性である誘電体磁器組成物の誘電損失について、以下説明を加えておく。
【0069】
理想的な誘電体に交流を印加すると、電流と電圧は90度の位相差をもつ。しかしながら、交流の周波数が高くなり高周波となると、誘電体の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できず、あるいは電子又はイオンが伝導することにより電束密度が電場に対して位相の遅れをもち、電流と電圧は90度以外の位相をもつことになる。誘電損失は、前記高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象である。誘電損失の大きさは、現実の電流と電圧の位相差と理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)で表わされる。本発明における誘電体磁器組成物の誘電損失の評価では、前記Qと共振周波数の積であるQ・fの値を用いている。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなる。誘電損失は高周波デバイスの電力損失を意味するので、Q・f値の大きい誘電体磁器組成物が求められている。さらに、多層型デバイスの場合、高特性化のため誘電損失を小さくすることが求められており、Q・f値は4000GHz以上が好ましく、Q・f値は4500GHz以上であることがより好ましい。
【0070】
また、本発明の目的の一つは、高い比誘電率を有するBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物と接合し多層型デバイスの形成を可能とすることにある。そのため、BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物の比誘電率より低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物を提供することが課題である。BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物の比誘電率は50〜105のものが報告されており、本発明に係る誘電体磁器組成物の比誘電率εrは50以下であることが要求されている。さらに、高特性の多層型デバイスのためには比誘電率εrは40以下であることが好ましく、比誘電率εrは35以下、特に、25〜35であることがより好ましい。
【0071】
また、本発明における重要な特性である誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τf(ppm/K)について、以下説明を加えておく。
【0072】
誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τf(ppm/K)は下記式(1)で算出される。
【0073】
τf=〔fT−fref/fref(T−Tref)〕×1000000 (ppm/K)…式(1)
【0074】
ここでfTは温度Tにおける共振周波数(kHz)を表し、frefは基準温度Trefにおける共振周波数(kHz)を表す。
【0075】
共振周波数の温度係数τfの絶対値の大きさは、温度変化に対する誘電体磁器組成物の共振周波数の変化量の大きさを意味する。コンデンサ、誘電体フィルタ等の高周波デバイスは温度による共振周波数の変化を小さくする必要があるため、本発明における誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfの絶対値を小さくすることが要求されている。
【0076】
また、本発明における誘電体磁器組成物を誘電体共振器に利用する場合、共振周波数の温度変化をさらに小さくするため共振周波数の温度係数τfが−40(ppm/K)〜+40(ppm/K)であることが要求されている。さらに、高特性の多層型デバイスのためには−28(ppm/K)〜+28(ppm/K)であることが好ましく、−20(ppm/K)〜+20(ppm/K)であることがより好ましい。
【0077】
また、誘電体磁器組成物の低温焼結性の評価は、焼成温度を徐々に下げて焼成し、所望の誘電体高周波特性が測定できるレベルに焼結しているかどうかで判断すればよい。また、誘電体磁器組成物についての誘電特性の評価は、誘電損失、温度変化による共振周波数の変化(共振周波数の温度係数)及び比誘電率に関して、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R 1627 1996年度))に従って測定して評価すればよい。
【0078】
〔誘電体磁器組成物の製造方法の説明〕
次に、本発明における誘電体磁器組成物の製造方法について説明する。
【0079】
副成分としてのAgの添加の有無によって分けて説明する。すなわち、誘電体磁器組成物の副成分としてZnO、B23、CuO、アルカリ土類金属酸化物RO(R:アルカリ土類金属)のみを用いて副成分としてのAgの添加が無い第1の製造方法形態と、誘電体磁器組成物の副成分としてZnO、B23、CuO、アルカリ土類金属酸化物RO(R:アルカリ土類金属)に加えてさらにAgの添加が有る第2の製造方法形態とに分けて説明する。
【0080】
第1の製造方法形態(副成分としてのAg添加無し)
本発明の誘電体磁器組成物の製造方法は、バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料及びアルカリ土類金属含有原料を焼成して、BaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2−ZnO−B23−CuO−RO(R:アルカリ土類金属)系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、マグネシウム含有原料及びシリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用している。
【0081】
本発明の誘電体磁器組成物の製造用原料としては、酸化物及び/又は焼成により酸化物となる化合物が用いられる。焼成により酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が例示される。
【0082】
図1には、本発明に係る誘電体磁器組成物の第1の製造方法形態(Ag添加無し)が示されている。
【0083】
以下、図1に基づいて本発明の誘電体磁器組成物の製造方法を詳細に説明する。
【0084】
まず、主成分の原料の一部となる、例えば、炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンを用意するともに、所定量を秤量し混合して、仮焼を行う。
【0085】
上記の混合は、組成式xBaO・yNd23・zTiO2のモル比であるx、y及びzを上述した関係組成式を満足する範囲内で混合する。
【0086】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0087】
その後、混合した原料を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させ、しかる後、仮焼を行う。
【0088】
仮焼は、炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合物原料からBaO−Nd23−TiO2系化合物の合成を行う工程であり、仮焼き温度1100℃〜1500℃、好ましくは1100℃〜1350℃で1〜24時間程度行うことが望ましい。
【0089】
合成されたBaO−Nd23−TiO2系化合物は粉末にするため粉砕して乾燥する。粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0090】
粉砕した粉末の乾燥は、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の乾燥温度で12〜36時間程度行えばよい。このようにして、BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末を得ることができる。
【0091】
次に、主成分の他の原料である酸化マグネシウムと酸化シリコンを用意し、所定量を秤量し混合して、仮焼を行う。酸化マグネシウムと酸化シリコンの混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0092】
その後、混合した原料を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させ、しかる後、仮焼を行う。
【0093】
仮焼は、酸化マグネシウムと酸化シリコンの混合物からフォルステライト結晶の合成を行う工程であり、1100℃〜1500℃、好ましくは1100℃〜1350℃の処理温度で1〜24時間程度行うことが望ましい。
【0094】
このようにして主成分としてBaO−Nd23−TiO2系化合物とフォルステライト結晶とを含有させることで、フォルステライト結晶の効果により、誘電体磁器組成物の比誘電率εrを下げ、共振周波数の温度係数をゼロ近傍とすることができ、誘電損失を小さくすることができる。従って、フォルステライトの添加効果を大きくするためには、フォルステライトに合成されない未反応の前記原料を少なくする必要があり、前記原料の混合はマグネシウムのモル数がシリコンのモル数の2倍となるよう混合することが望ましい。
【0095】
合成されたフォルステライトは粉末にするため粉砕された後に乾燥される。粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0096】
粉砕した粉末の乾燥は、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度とすればよい。このようにしてフォルステライトの粉末を得ることができる。
【0097】
図1に示されるごとくマグネシウム含有原料、シリコン含有原料からフォルステライトを合成し、粉砕してフォルステライト粉末を得るのではなく、市販のフォルステライトを用いてもよい。すなわち、市販のフォルステライトを、例えば、ボールミルによる純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式で粉砕し、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥してフォルステライト粉末を得るようにしても良い。
【0098】
次いで、前述のBaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末と、前述のフォルステライトの粉末と、前述の副成分の組成を満たすように所定の範囲で秤量した亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、銅酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩を混合して原料混合粉末とする。
【0099】
混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0100】
混合が完了した後、原料混合粉末を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させる。
【0101】
次に、原料混合粉末を焼成温度以下の温度、例えば、700℃〜800℃にて1〜10時間程度で再度の仮焼を行う。この仮焼は低温で行うためフォルステライトは融解せず結晶の形で誘電体磁器組成物にフォルステライトを含有させることができる。その後、仮焼をした原料混合粉末を粉砕して乾燥する。粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉砕した粉末の乾燥は100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の処理温度で12〜36時間程度とすればよい。このように再度の仮焼及び粉砕を行うことにより、主成分と副成分を均一にすることができ、後工程で製造する本実施形態に係る誘電体磁器組成物の材質の均一化を図ることができる。
【0102】
上述のようにして得られた粉末に対して、ポリビニルアルコール系、アクリル系、エチルセルロース系等の有機バインダーを混合した後、所望の形状に成型を行い、この成型物を焼成して焼結する。成型はシート法や印刷法等の湿式成型の他、プレス成型等の乾式成型でもよく、所望の形状に応じて成型方法を適宜選択することが可能である。また、焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが望ましく、焼成温度は内部電極として用いるAgまたはAgを主成分とする合金等の導体の融点以下、例えば860℃〜1000℃、好ましくは870℃〜940℃であることが求められる。
【0103】
多層型デバイスは内部にコンデンサ、インダクタ等の誘電デバイスを一体に作りこまれた複数のセラミック層からなる多層セラミック基板から作られる。多層セラミック基板は互いに誘電特性が異なるセラミック材料のグリーンシートを複数枚用意し、内部電極となる導体を界面に配し、あるいはスルーホールを形成して積層し同時焼成して製造される。本発明の誘電体磁器組成物で成型したグリーンシートと、従来公知の一般的なBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物で成型したグリーンシートとを積層することで、本発明の誘電体磁器組成物を用いた多層セラミック基板を製造することができる。
【0104】
第2の製造方法形態(副成分としてのAg添加有り)
本発明の誘電体磁器組成物の製造方法は、バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料、アルカリ土類金属含有原料、及び銀(Ag)を含有させた混合物を焼成してBaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2−ZnO−B23−CuO−RO(Rはアルカリ土類金属)−Ag系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、マグネシウム含有原料及びシリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用している。
【0105】
本発明の誘電体磁器組成物の製造用原料としては、主に、酸化物及び/又は焼成により酸化物となる化合物が用いられる。Agに関しては、金属Ag及び/又は仮焼き時の熱処理により金属Agとなる化合物が用いられる。
【0106】
焼成により酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が例示される。Agの添加は、例えば、金属銀(Ag)や硝酸銀(AgNO3)、酸化銀(Ag2O)、塩化銀(AgCl)の形態で添加される。
【0107】
図2には、本発明に係る誘電体磁器組成物の第2の製造方法形態(副成分としてのAg添加有り)が示されている。
【0108】
以下、図2に基づいて本発明の誘電体磁器組成物の製造方法を詳細に説明する。
【0109】
まず、主成分の原料の一部となる、例えば、炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンを用意するともに、所定量を秤量し混合して、仮焼を行う。
【0110】
上記の混合は、組成式xBaO・yNd23・zTiO2のモル比であるx、y及びzを上述した関係組成式を満足する範囲内で混合する。
【0111】
炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0112】
その後、混合した原料を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させ、しかる後、仮焼を行う。
【0113】
仮焼は、炭酸バリウム、水酸化ネオジム及び酸化チタンの混合物原料からBaO−Nd23−TiO2系化合物の合成を行う工程であり、仮焼き温度1100℃〜1500℃、好ましくは1100℃〜1350℃で1〜24時間程度行うことが望ましい。
【0114】
合成されたBaO−Nd23−TiO2系化合物は粉末にするため粉砕して乾燥する。粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0115】
粉砕した粉末の乾燥は、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の乾燥温度で12〜36時間程度行えばよい。このようにして、BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末を得ることができる。
【0116】
次に、主成分の他の原料である酸化マグネシウムと酸化シリコンを用意し、所定量を秤量し混合して、仮焼を行う。酸化マグネシウムと酸化シリコンの混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0117】
その後、混合した原料を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させ、しかる後、仮焼を行う。
【0118】
仮焼は、酸化マグネシウムと酸化シリコンの混合物からフォルステライト結晶の合成を行う工程であり、1100℃〜1500℃、好ましくは1100℃〜1350℃の処理温度で1〜24時間程度行うことが望ましい。
【0119】
このようにして主成分としてBaO−Nd23−TiO2系化合物とフォルステライト結晶とを含有させることで、フォルステライト結晶の効果により、誘電体磁器組成物の比誘電率εrを下げ、共振周波数の温度係数をゼロ近傍とすることができ、誘電損失を小さくすることができる。従って、フォルステライトの添加効果を大きくするためには、フォルステライトに合成されない未反応の前記原料を少なくする必要があり、前記原料の混合はマグネシウムのモル数がシリコンのモル数の2倍となるよう混合することが望ましい。
【0120】
合成されたフォルステライトは粉末にするため粉砕された後に乾燥される。粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0121】
粉砕した粉末の乾燥は、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の乾燥温度で、12〜36時間程度とすればよい。このようにしてフォルステライトの粉末を得ることができる。
【0122】
図2に示されるごとくマグネシウム含有原料、シリコン含有原料からフォルステライトを合成し、粉砕してフォルステライト粉末を得るのではなく、市販のフォルステライトを用いてもよい。すなわち、市販のフォルステライトを、例えば、ボールミルによる純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式で粉砕し、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥してフォルステライト粉末を得るようにしても良い。
【0123】
次いで、前述のBaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末と、前述のフォルステライトの粉末と、前述の副成分の組成を満たすように所定の範囲で秤量した亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、銅酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩を混合して原料混合粉末とする。
【0124】
混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0125】
混合が完了した後、原料混合粉末を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させる。
【0126】
次に、原料混合粉末を焼成温度以下の温度、例えば、700℃〜800℃にて1〜10時間程度で再度の仮焼を行う。この仮焼は低温で行うためフォルステライトは融解せず結晶の形で誘電体磁器組成物にフォルステライトを含有させることができる。
【0127】
その後、仮焼をした原料混合粉末を粉砕する際に、金属Agの添加が行なわれる。しかる後、乾燥処理が行なわれる。なお、Agの添加は、粉砕時ではなく、仮焼きの前の混合時に行なうようにしても良い。その際には、Ag添加の形態は前述したように金属Ag、AgNO3、Ag2O、AgCl等とされる。
【0128】
粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉砕した粉末の乾燥は100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の処理温度で12〜36時間程度とすればよい。このように再度の仮焼及び粉砕を行うことにより、主成分と副成分を均一にすることができ、後工程で製造する本実施形態に係る誘電体磁器組成物の材質の均一化を図ることができる。
【0129】
上述のようにして得られた粉末に対して、ポリビニルアルコール系、アクリル系、エチルセルロース系等の有機バインダーを混合した後、所望の形状に成型を行い、この成型物を焼成して焼結する。成型はシート法や印刷法等の湿式成型の他、プレス成型等の乾式成型でもよく、所望の形状に応じて成型方法を適宜選択することが可能である。また、焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが望ましく、焼成温度は内部電極として用いるAgまたはAgを主成分とする合金等の導体の融点以下、例えば860℃〜1000℃、好ましくは870℃〜940℃であることが求められる。
【0130】
多層型デバイスは内部にコンデンサ、インダクタ等の誘電デバイスを一体に作りこまれた複数のセラミック層からなる多層セラミック基板から作られる。多層セラミック基板は互いに誘電特性が異なるセラミック材料のグリーンシートを複数枚用意し、内部電極となる導体を界面に配し、あるいはスルーホールを形成して積層し同時焼成して製造される。本発明の誘電体磁器組成物で成型したグリーンシートと、従来公知の一般的なBaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物で成型したグリーンシートとを積層することで、本発明の誘電体磁器組成物を用いた多層セラミック基板を製造することができる。
【実施例】
【0131】
以下、具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0132】
〔実験例1〕
(試料の作製と所望の物性の測定方法)
下記の要領で表1に示されるような種々の誘電体磁器組成物の試料を製造した。主成分組成を特定するα、β、x、y、およびz、並びに副成分組成の添加量を特定するa、b、cおよびdやRの定義は上述したとおりである。
【0133】
基本的な製造方法に関して本発明の試料である試料No.8を例にとって説明する。
【0134】
まず、主成分の原料であるBaCO3、Nd(OH)3及びTiO2を用いて、仮焼後のBaO−Nd23−TiO2系化合物のBaO、Nd23及びTiO2のモル比であるx、y及びzが下記表1の試料No.8の主成分組成の欄に示されるものとなるように秤量した。つまり、x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)及びz=66.1(モル%)となるように秤量した。
【0135】
秤量した原料に純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥した。この乾燥した粉末を、空気中にて仮焼(1200℃、4時間)を行った。仮焼後のBaO−Nd23−TiO2系化合物に純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間粉砕し、その後、120℃で24時間乾燥し、BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末を製造した。
【0136】
次に、主成分の他の原料であるMgO、SiO2を用いて、マグネシウムのモル数がシリコンのモル数の2倍となるよう秤量し、スラリー濃度25%となるように純水を加え、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥した。
【0137】
この乾燥した粉末を、空気中にて仮焼(1200℃、3時間)を行った。仮焼後のフォルステライトに純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間粉砕し、その後、120℃で24時間乾燥し、フォルステライトの粉末を製造した。
【0138】
次に、副成分の原料であるZnOとB23とCuOとBaCO3とを準備した。
【0139】
次に粉砕した前記BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末と、粉砕した前記フォルステライトの粉末との混合比率が下記表1に示されるように配合するとともに、この主成分に対して、aZnO、bB23、cCuO、dBaOと表される副成分比率が表1の試料No.8の副成分添加量の欄に示されるものとなるよう配合して原料混合粉末を得た。すなわち、α=55(体積%)、β=45(体積%)、a=6.0(重量%)、b=4.5(重量%)、c=3.0(重量%)及びd=0.69(重量%)となるように秤量し、スラリー濃度25%となるように純水を加え、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥して原料混合粉末を得た。
【0140】
このようにして得られた原料混合粉末を、空気中にて再度の仮焼(750℃、2時間)を行い、仮焼粉末を得た。
【0141】
得られた仮焼粉末をスラリー濃度25%となるように純水を加え再度ボールミルにて16時間湿式粉砕した後、120℃で24時間乾燥した。この再度粉砕した粉末にバインダーとしてポリビニルアルコール水溶液を加えて造粒し、直径12mm×高さ6mmの円柱状に成型し、表1の試料No.8の焼成温度の欄に示す温度、すなわち、870℃で1時間焼成して誘電体磁器組成物を得た。
【0142】
このようにして得られた誘電体磁器組成物の表面を削り直径10mm×高さ5mmの円柱ペレットを作成して測定用試料No.8とした。
【0143】
試料No.8の誘電体磁器組成物について比誘電率εr、Q・f値、共振周波数の温度係数τfを日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R 1627 1996年度)に従って測定した。測定に際して、測定周波数は8.2GHzとし、また、共振周波数を−40〜85℃の温度範囲で測定し、上述した式(1)の算出式により共振周波数の温度係数τfを算出した。
【0144】
試料No.8は表1に示されるごとく、上記の各物性の測定ができており870℃の低温で十分に焼結していることがわかる。なお、各物性の測定結果は、表1に示されるごとく比誘電率εr=25.2、Q・f=4957(GHz)、共振周波数の温度係数τf=−2(ppm/K)であった。
【0145】
このような試料No.8の製造方法に沿って、表1に示されるような種々の試料を作製した。一定の組成範囲の試料群の中で焼成温度を振って(850〜910℃)どの程度までの低温焼成が可能かどうかを求めるとともに(表1において「測定不可」の記載がある試料は、誘電体高周波特性が測定できるレベルに焼結していないことを示す)、焼結できた試料について、比誘電率εr、Q・f値(測定周波数の範囲は、7.6〜8.2GHz)、および共振周波数の温度係数τfを求めた。
【0146】
結果を下記表1に示した。なお、表1中、*が付されている試料は比較例を示す。
【0147】
【表1】

【0148】
【表2】

【0149】
【表3】

【0150】
表1の結果より、本発明の効果は明らかである。すなわち、試料No.*3(比較)の焼成温度880℃を比較の基準値として判断すると、本発明においては副成分としてアルカリ土類金属酸化物を所定量含有させることにより、焼成温度を、870℃(試料No.8)、860℃(試料No.12)、850℃(試料No.16)、870℃(試料No.25)、860℃(試料No.29)、850℃(試料No.33)、870℃(試料No.40)、860℃(試料No.44)、850℃(試料No.48)までに下げることができる。
【0151】
なお、試料No.*21(比較)および試料No.*22(比較)は、焼成温度を850℃や860℃までに下げることはできるものの、アルカリ土類金属酸化物の添加量が多すぎてQ・f値が4000GHzまで到達せず、誘電損失が大きくなってしまうという不都合がある。
【0152】
〔実験例2〕
(試料の作製と所望の物性の測定方法)
次いで、上記実験例1と同様な製造方法で下記表2に示されるような種々の誘電体磁器組成物の試料を製造した。
【0153】
表2においては、主成分組成を特定するα、β、x、y、およびz、並びに副成分組成の添加量であるa、b、cの値を種々変えて、これらのパラメータの影響を調べる実験を行った。なお、アルカリ土類金属Rとしては、Caを用い、その含有割合dは、0.63重量%で一定とした。
【0154】
結果を下記表2に示した。なお、表2中に示される焼成温度(℃)の値は、一律870℃とした。
【0155】
【表4】

【0156】
【表5】

【0157】
表2の結果より、本発明の効果は明らかである。
【0158】
上述してきた各実験結果より本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明は、誘電体磁器組成物の主成分としてBaO、Nd23、TiO2、MgO及びSiO2を所定の比率で含有し、前記誘電体磁器組成物の副成分としてZnO、B23及びCuOを所定の比率で含有し、さらに前記副成分としてアルカリ土類金属酸化物RO(R:アルカリ土類金属)を含有しているので、Ag又はAgを主成分とする合金等の導体を内部導体として確実に使用できるように、低温での焼結性をより安定・確実なものとすることができる。さらには、温度変化による共振周波数の変化が小さく、BaO−希土類酸化物−TiO2系誘電体磁器組成物の比誘電率より低い比誘電率を有する誘電体磁器組成物を得ることができ、多層型デバイスを形成するに好適な誘電体磁器組成物を提供することができる。
【0159】
〔実験例3〕
次に、副成分としてのAgの添加がさらに低温焼結性に及ぼす影響を確認するための実験を行なった。すなわち、誘電体磁器組成物の副成分としてZnO、B23、CuO、アルカリ土類金属酸化物RO(R:アルカリ土類金属)、およびAgを含有させた場合の実験を行い、Ag添加によって、さらなる低温焼成化が可能となることを確認した。
【0160】
(試料の作製と所望の物性の測定方法)
下記の要領で誘電体磁器組成物の試料を製造した。主成分組成を特定するα、β、x、y、およびz、並びに副成分組成の添加量を特定するa、b、c、dおよびeやRの定義は上述したとおりである。
【0161】
まず、主成分の原料であるBaCO3、Nd(OH)3及びTiO2を用いて、仮焼後のBaO−Nd23−TiO2系化合物のBaO、Nd23及びTiO2のモル比であるx、y及びzが下記となるように秤量した。つまり、x=18.5(モル%)、y=15.4(モル%)及びz=66.1(モル%)となるように秤量した。
【0162】
秤量した原料に純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥した。この乾燥した粉末を、空気中にて仮焼(1200℃、4時間)を行った。仮焼後のBaO−Nd23−TiO2系化合物に純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間粉砕し、その後、120℃で24時間乾燥し、BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末を製造した。
【0163】
次に、主成分の他の原料であるMgO、SiO2を用いて、マグネシウムのモル数がシリコンのモル数の2倍となるよう秤量し、スラリー濃度25%となるように純水を加え、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥した。
【0164】
この乾燥した粉末を、空気中にて仮焼(1200℃、3時間)を行った。仮焼後のフォルステライトに純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間粉砕し、その後、120℃で24時間乾燥し、フォルステライトの粉末を製造した。
【0165】
次に、副成分の原料であるZnOとB23とCuOとCaCO3とを準備した。
【0166】
次に粉砕した前記BaO−Nd23−TiO2系化合物の粉末と、粉砕した前記フォルステライトの粉末との混合比率がα=55体積%、β=45体積%となるように配合するとともに、この主成分に対して、aZnO、bB23、cCuO、dCaOと表される副成分比率がa=6.0重量%、b=2.0重量%、c=3.0重量%、d=0.6重量%となるように秤量し、スラリー濃度25%となるように純水を加え、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥して原料混合粉末を得た。
【0167】
このようにして得られた原料混合粉末を、空気中にて再度の仮焼(750℃、2時間)を行い、仮焼粉末を得た。
【0168】
得られた仮焼粉末をスラリー濃度25%となるようにエタノールを加え、再度ボールミルにて16時間湿式粉砕した。この粉砕時に、副成分として金属Agを焼成物中の主成分に対して含有率が1.0重量%、2.0重量%となるように(Agを含有させない0重量%のものも含めて合計3種の組成物サンプル)を作製後、100℃で24時間乾燥した。
【0169】
このようにして得られた乾燥後の誘電体粉末に、アクリル樹脂バインダー、分散剤、可塑剤、および有機溶剤としてのトルエンを加えてボールミルにて混合して、誘電体ペーストを作製した。次いで、上記誘電体ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ70μmのグリーンシートを形成した。
【0170】
熱収縮挙動を測定するためのグリーンシート積層体サンプルは、PETフィルムから剥離した所定枚数のグリーンシートを積層、圧着してグリーン基板を作製し、次いで所定の大きさ(長さ:12.0mm×幅:4.0mm×厚み:2.0mm)に切断することで得た。
【0171】
つぎに、静電容量と絶縁抵抗を測定するためのサンプルとして、チップコンデンサを作製した。すなわち、上記グリーンシート上にAg電極ペーストを印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(Ag電極ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着した。Ag電極を有するシートの積層枚数は2枚とした。次いで、所定サイズに切断してグリーンチップを得て、脱バインダ処理、焼成を行った後に、端子電極としてAgを焼き付けて、チップコンデンサを得た。このようにして出来上がったチップコンデンサの概略構成図を図6(A)および(B)に示す。図6において、符号1はAg内部電極、符号2は誘電体層、符号3はAg端子電極である。
【0172】
上記の要領で作製した熱収縮挙動を測定するためのサンプル、およびチップコンデンサ評価用サンプルを用い、下記に示す要領で(1)熱収縮挙動および(2)チップコンデンサ評価(静電容量Cpの測定および絶縁抵抗IRの測定)を行なった。
【0173】
(1)熱収縮挙動
熱機械分析装置(マック・サイエンス社製:TMA4000S)にて、測定温度範囲:室温〜1000℃、昇温速度:10℃/minの条件で、熱収縮測定を行なった。
測定温度と収縮率(負の膨張率)の関係を図3のグラフに示した。これらの測定結果より、Ag=0wt%の場合と比較して、Agの含有率が1.0wt%、2.0wt%と多くなるに連れ、グラフは低温側にシフトする傾向が生じており、Agの添加によって、さらなる低温焼成化が図られていることがわかる。
【0174】
(2)チップコンデンサ評価(静電容量Cpの測定および絶縁抵抗IRの測定)
測定には、860℃、880℃、および900℃の各焼成温度により焼成したチップコンデンサを用いた。
【0175】
静電容量Cpの測定
プレシジョンLCRメータ(ヒューレット・パッカード社製:4284A)にて、周波数:1kHz,入力信号レベル(測定電圧):1Vrmsの条件下で、静電容量Cpを測定した。なお、測定数は、各15個とした。
【0176】
測定結果を図4(A)〜(C)に示した。これらの測定結果より、Agの添加によって、静電容量Cpが増加していることがわかる。これは、下記表3に示すとおり、Agの添加によって、εrが増加するために生じる効果である。
【0177】
絶縁抵抗IRの測定
デジタル絶縁計(東亜電波工業製:DSM−8103)にて、DC50Vを30秒間印加した後の絶縁抵抗IRを測定した。測定数は、各5個とした。
【0178】
測定結果を図5(A)〜(C)に示した。これらの測定結果より、Agの添加によって、さらに低温焼成が可能となるために、860℃以上の焼成温度において、IRが1.0E+13Ω以上のものが得られることがわかる。
【0179】
さらに、下記表3に示すように、誘電体高周波特性(εr、Q・f値、およびτf)を測定したところ、副成分をZnO、B23、CuO、CaOとしたサンプルと、これらの副成分にさらにAgを添加したサンプルには、大きな特性の差異は見られなかった。しかしながら、表4に示すように、静電容量(Cp)、絶縁抵抗(IR)には増加が見られる。
【0180】
なお、表4中の静電容量(Cp)と絶縁抵抗(IR)における◎、および○は図4、図5から読み取れる測定結果であり、◎は、特にバラツキが少なく、本発明の目的に合致する高い値が得られているものであり、○は、本発明の目的の範囲内であるが、◎を付したものに比較するとやや劣る値が得られたものである。
【0181】
なお、上述したように比誘電率εr、Q・f値、および共振周波数の温度係数τfは、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R 1627 1996年度)に従って測定した。測定に際して、測定周波数は7.4〜7.8GHzとし、また、共振周波数を−40〜85℃の温度範囲で測定し、上述した式(1)の算出式により共振周波数の温度係数τfを算出した。
【0182】
【表6】

【0183】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の誘電体磁器組成物は、幅広く各種の電子部品産業に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、本発明における誘電体磁器組成物の製造方法の好適な一態様のフロー図である。
【図2】図2は、本発明における誘電体磁器組成物の製造方法の好適な一態様のフロー図である。
【図3】図3は、Ag添加量別の熱収縮挙動(サンプルを加熱した際の温度と収縮率の関係)を示したグラフである。
【図4】図4(A)〜(C)はそれぞれ、所定の焼成温度における静電容量Cpの測定結果を示した図面である。
【図5】図5(A)〜(C)はそれぞれ、所定の焼成温度における絶縁抵抗IRの測定結果を示した図面である。
【図6】図6(A)は、チップコンデンサの一例を示す平面図、図6(B)は、図6(A)に示されるチップコンデンサのI−I線における断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、組成式{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}と表される成分を含み、BaOとNd23とTiO2のモル比率を表わすx、y、zがそれぞれ、
9(モル%)≦x≦22(モル%)、
9(モル%)≦y≦29(モル%)、
61(モル%)≦z≦74(モル%)の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100(モル%)の関係を満たし、
前記主成分における各成分の体積比率を表わすα、βがそれぞれ
15(体積%)≦α≦75(体積%)、
25(体積%)≦β≦85(体積%)の範囲にあるとともに、
α+β=100(体積%)の関係を満たし、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、銅酸化物およびアルカリ土類金属酸化物を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCuOおよびdRO(Rはアルカリ土類金属)と表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の重量比率を表わすa、b、c、およびdがそれぞれ
0.1(重量%)≦a≦12.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦12.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦9.0(重量%)、
0.2(重量%)≦d≦5.0(重量%)、
の関係を有してなることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属Rが、Ba、Sr、Caのグループから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
フォルステライト(2MgO・SiO2)結晶を含有してなる請求項1または請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
さらに副成分として、Agを含んでなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記主成分に対するAgの金属成分としての重量比率をeAgと表したとき、
0.3(重量%)≦e≦3.0(重量%)
である請求項4に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
焼成温度が870℃以下の物性を有してなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
比誘電率が50以下の物性を有してなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
比誘電率が20〜40の範囲、Q・f値が4000GHz以上の物性を有してなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料及びアルカリ土類金属含有原料を焼成して、
BaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2−ZnO−B23−CuO−RO(Rはアルカリ土類金属)系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記マグネシウム含有原料及び前記シリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用してなることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項10】
バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料、アルカリ土類金属含有原料及び銀(Ag)を含有させた混合物を焼成して、
BaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2−ZnO−B23−CuO−RO(Rはアルカリ土類金属)−Ag系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記マグネシウム含有原料及び前記シリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用してなることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、組成式{α(xBaO・yNd23・zTiO2)+β(2MgO・SiO2)}と表される成分を含み、BaOとNd23とTiO2のモル比率を表わすx、y、zがそれぞれ、
9(モル%)≦x≦22(モル%)、
9(モル%)≦y≦29(モル%)、
61(モル%)≦z≦74(モル%)の範囲内にあるとともに、
x+y+z=100(モル%)の関係を満たし、
前記主成分における各成分の体積比率を表わすα、βがそれぞれ
15(体積%)≦α≦75(体積%)、
25(体積%)≦β≦85(体積%)の範囲にあるとともに、
α+β=100(体積%)の関係を満たし、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、銅酸化物およびアルカリ土類金属酸化物を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB23、cCuOおよびdRO(Rはアルカリ土類金属)と表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の重量比率を表わすa、b、c、およびdがそれぞれ
0.1(重量%)≦a≦12.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦12.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦9.0(重量%)、
0.2(重量%)≦d≦5.0(重量%)、
の関係を有しており、かつ
フォルステライト(2MgO・SiO2)結晶を含有してなることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属Rが、Ba、Sr、Caのグループから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
さらに副成分として、Agを含んでなる請求項1または請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記主成分に対するAgの金属成分としての重量比率をeAgと表したとき、
0.3(重量%)≦e≦3.0(重量%)
である請求項3に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
焼成温度が870℃以下の物性を有してなる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
比誘電率が50以下の物性を有してなる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
比誘電率が20〜40の範囲、Q・f値が4000GHz以上の物性を有してなる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料及びアルカリ土類金属含有原料を焼成して、請求項1または請求項2に記載のBaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記マグネシウム含有原料及び前記シリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用してなることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
バリウム含有原料、ネオジム含有原料、チタン含有原料、マグネシウム含有原料、シリコン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、銅含有原料、アルカリ土類金属含有原料及び銀(Ag)を含有させた混合物を焼成して、請求項3または請求項4に記載のBaO−Nd23−TiO2−MgO−SiO2系誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記マグネシウム含有原料及び前記シリコン含有原料としてフォルステライト(2MgO・SiO2)粉末を使用してなることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−290728(P2006−290728A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62334(P2006−62334)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】