説明

貫通電極付きガラス板の製造方法および電子部品

【課題】電子基板として適する貫通電極を有するガラス板を製造する方法であって、貫通電極を精度よく、且つ高密度に形成できる方法を提供する。
【解決手段】波長λのレーザパルス11をレンズで集光してガラス板12に照射し、レーザパルス11が照射された部分に変質部13を形成する工程と、ガラス板12に対するエッチングレートよりも変質部13に対するエッチングレートが大きいエッチング液を用いて少なくとも変質部13をエッチングしてガラス板12に孔を形成する工程と、貫通電極を構成する導電性材料を前記孔の内部に配置する工程とを含む製造方法とする。レーザパルス11のパルス幅は1ns〜200nsの範囲にあり、波長λは535nm以下、波長λにおけるガラス板12の吸収係数は50cm-1以下、レンズの焦点距離L(mm)をレンズに入射する際のレーザパルス11のビーム径D(mm)で除した値は7以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通電極付きガラス板、特に、レーザ加工を利用して形成された貫通孔を有するガラス板を用いて製造される貫通電極付きガラス板およびこのガラス板を用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・軽量化が進んでおり、これに伴いその内部に設けられる半導体チップなどの各種の電子部品の小型化が進んでいる。例えば、多くの電子部品において、パッケージ・オン・パッケージと呼ばれる、複数のパッケージを積層して基板上に実装した構造が採用されている。このような構造には、通常、インターポーザと呼ばれる一種の多層配線基板が用いられる。インターポーザがパッケージ間に配置されてはんだで相互に接続されることにより、実装面積が減ると同時に配線長が短縮されるため、このような構造はパッケージの小型化につながる。
【0003】
また、種々の電子基板において配線構造を高密度に形成することによる小型化も図られている。貫通電極を備えるインターポーザなどの電子基板は、ボンディングパッドによりIC、LSIなどの半導体チップの端子と接続される。電子基板に形成される貫通電極の密度が低い場合、この接続に要するボンディングパッドの面積が大きくなるため、シリコンダイの面積が大きくなってしまう。したがって、貫通電極は高密度で形成されることがコスト抑制のために重要である。
【0004】
こういった種々の電子基板の材料としては、ガラスエポキシ、セラミック、ガラスなどが用いられている。ガラスエポキシ基板は、基板の厚さ方向の熱膨張係数が大きいため、多層基板では実装時のはんだ付け加熱の際にスルホールメッキの割れが発生することがある。セラミック基板は、焼成によって収縮が起こるため、寸法精度を十分高くすることができない。また、ガラスエポキシ基板やセラミック基板は、積層のために接着剤などを必須とする。これらに対し、ガラス板は、陽極接合によりシリコンウェハなどの半導体基板と容易に接合できるため、より少ない積層数で実装することができる。
【0005】
ガラス板に貫通電極のための貫通孔を形成する方法としては、サンドブラスト法、ドリル加工、超音波加工などが知られている。しかし、これらの方法は精度が十分でなく、ガラス板に再現性よく高密度の貫通孔を形成することが困難である。
【0006】
ところで、ガラスに微小な孔や溝を容易かつ安価に形成する加工方法として、レーザパルスの照射とエッチングとを組み合わせた方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−156200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電子基板として適する貫通電極付きガラス板を製造する方法であって、貫通電極を精度よく、且つ高密度に形成できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の製造方法は、
(i)波長λのレーザパルスをレンズで集光してガラス板に照射することによって、前記ガラス板のうち前記レーザパルスが照射された部分に変質部を形成する工程と、
(ii)前記ガラス板に対するエッチングレートよりも前記変質部に対するエッチングレートが大きいエッチング液を用いて少なくとも前記変質部をエッチングすることにより前記ガラス板に孔を形成する工程と、
(iii)貫通電極を構成する導電性材料を前記孔の内部に配置する工程と、を含み、
前記レーザパルスのパルス幅が1ns〜200nsの範囲にあり、
前記波長λが535nm以下であり、
前記波長λにおける前記ガラスの吸収係数が50cm-1以下であり、
前記レンズの焦点距離L(mm)を、前記レンズに入射する際の前記レーザパルスのビーム径D(mm)で除した値が7以上である、貫通電極付きガラス板の製造方法である。
【0010】
本発明は、その別の側面から、
貫通電極を有するガラス板と、
前記ガラス板と陽極接合された半導体ウェハと、を備え、
前記貫通電極が、前記ガラス板に形成された貫通孔に配置された導電性材料により構成され、
前記貫通孔が、第1開口部と前記第1開口部よりも小さく前記半導体側の表面に形成された第2開口部との間に形成され、前記第1開口部から前記第2開口部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状である、電子部品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、ガラス板に貫通孔を精度よく、かつ高密度に形成することができる。このため、配線に必要な面積を小さくし、基板の積層数を減らすことにより電子部品を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)〜(b)は、本発明の方法によりガラス板を加工する工程の一例を示す断面図である。
【図2】図2(a)〜(d)は、本発明の方法によりガラス板を加工する工程の他の一例を示す断面図である。
【図3】図3(a)〜(b)は、本発明の方法によりガラス板を加工する工程のその他の一例を示す断面図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、本発明の方法によりガラス板を加工する工程のその他の一例を示す断面図である。
【図5】図5(a)〜(f)は、本発明の製造方法で貫通電極付きガラス板を製造する工程の一例を示す断面図である。
【図6】図6(a)〜(e)は、本発明の製造方法で貫通電極付きガラス板を製造する工程の他の一例を示す断面図である。
【図7】図7(a)〜(e)は、本発明の製造方法で貫通電極付きガラス板を製造する工程のその他の一例を示す断面図である。
【図8】図8は、本発明の製造方法で利用される加工装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
[ガラス加工方法]
本発明の方法は、ガラスの加工工程(加工方法)として、工程(i)および工程(ii)を含む。
【0015】
従来、感光性ガラス以外のガラスの加工には、フェムト秒レーザのような超短パルスレーザを照射するか、あるいは、開口数が大きいレンズ(例えばNA=0.8)を用いて焦点付近にエネルギーを集中させることが必要だと考えられてきた。しかし、所定のレーザを所定のレンズで集光することによって、感光性ガラス以外のガラスを容易に加工できる。
【0016】
本発明の方法では、波長が535nm以下の所定のレーザパルスを所定のレンズで集光してから所定の吸収係数を有するガラスに照射して変質部を形成する。そして、その変質部をエッチングすることによって、ガラスを加工する。本発明の方法では、Nd:YAGレーザの高調波を用いることができるため、フェムト秒レーザを用いる従来の方法に比べて、安価な装置でガラスを加工できる。また、本発明の方法では、レーザパルスの照射のみによってガラスを加工する従来の方法に比べて、加工部周辺のガラスの変形(デブリやクラックなど)を抑制でき、形状のそろった孔を形成できる。
【0017】
また、本発明の加工方法では、焦点距離Lとビーム径Dとの比[L/D]を所定の値以下とすることによって、レーザが焦点付近のみに集中することを防止している。このため、本発明の方法によれば、開口数が比較的大きいレンズ(例えばNA=0.8以上)を用いて焦点付近にエネルギーを集中させて変質部を形成する従来の方法に比べて、1度のパルス照射で比較的長い変質部を形成できる。したがって、1度のパルス照射とエッチングのみで貫通孔を形成することも可能である。
【0018】
また、本発明の方法では、変質部の形成条件とエッチング条件を変更することによって、孔の大きさを簡単に変えることができる。また、本発明の方法では、高繰り返しパルスレーザのスポットを、ガルバノスキャナによって高速に移動させることによって、一度に多くの変質部を形成できる。そのため、本発明の方法では、多数の孔を短時間で形成できる。
【0019】
工程(i)では、波長λのレーザパルスをレンズで集光してガラスに照射することによって、ガラスのうちレーザパルスが照射された部分に変質部を形成する。
【0020】
レーザパルスのパルス幅は、1ns(ナノ秒)〜200nsの範囲にあり、好ましくは1ns〜100nsの範囲で、例えば5ns〜50nsの範囲である。パルス幅を1ns未満にするには、高価な加工装置が必要になる。また、パルス幅が200nsより大きくなると、レーザパルスの尖頭値が低下してしまい、加工がうまくできないという問題が生じる。
【0021】
本発明の方法では、レーザパルスが、Nd:YAGレーザの高調波、Nd:YVO4レーザの高調波、またはNd:YLFレーザの高調波であってもよい。高調波は、例えば、第2高調波や第3高調波や第4高調波である。これらレーザの第2高調波の波長は、532nm〜535nm近傍であり、第3高調波の波長は、355nm〜357nm近傍であり、第4高調波の波長は、266nm〜268nmの近傍である。これらのレーザを用いることによって、ガラスを安価に加工できる。
【0022】
レーザパルスの波長は、535nm以下であり、好ましくは360nm以下であり、例えば350nm〜360nmの範囲である。一方、レーザパルスの波長が535nmよりも大きくなると、照射スポットが大きくなり、微小孔の作製が困難になるという問題、および熱の影響で照射スポットの周囲が割れやすくなるという問題が生じる。
【0023】
レーザパルスのエネルギーは、ガラスの材質や、どのような変質層を形成するかに応じて好ましい値が選択される。一例では、5μJ/パルス〜100μJ/パルスの範囲である。本発明の方法では、レーザパルスのエネルギーを増加させることによって、それに比例するように変質部の長さを長くすることが可能である。レーザパルスのビーム品質M2値は、例えば2以下であってもよい。M2値が2以下であるレーザパルスを用いることによって、微小な細孔の形成が容易になる。
【0024】
波長λにおけるガラスの吸収係数は、50cm-1以下であり、好ましくは0.1cm-1〜20cm-1の範囲である。吸収係数が50cm-1よりも大きいと、レーザ光のエネルギーがガラスの上面近傍で吸収されてしまい、ガラス内部に変質部が形成されにくくなる。なお、実施例に示すように、吸収係数が0.1cm-1未満であっても、ガラス内部に変質部を形成することは可能である。
【0025】
波長λにおけるガラスの吸収係数が50cm-1以下であるガラスは、公知のガラスから選択することができる。
【0026】
本発明の加工方法が適用されるガラスとしては、銀、金および銅を実質的に含まないガラス、いわゆる感光性ガラス以外のガラスが好ましい。具体的には、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラスまたはチタン含有シリケートガラスが好適である。このようなガラス種であれば、その吸収係数は、少なくとも0.1cm-1である。
【0027】
さらに、その吸収係数を効果的に高めるために、ガラスが、着色成分として、Bi、W、Mo、Ce、Co、Fe、Mn、Cr、VおよびTiから選ばれる金属の酸化物を少なくとも1種含んでいてもよい。
【0028】
また、チタン含有シリケートガラスでは、例えば、TiO2を5モル%以上含有することによって吸収係数を1以上に、さらに10モル%以上含有することによって吸収係数を4以上にすることができる。さらに必要に応じて、上述した着色成分として機能する金属の酸化物を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の加工方法が適用されるガラスの一つであるホウケイ酸ガラスとしては、コーニング社の#7059やパイレックス(登録商標)、などを例示できる。
【0030】
また、以下のような組成を有してもよい。
モル%で表して、
SiO2 80〜85%、
23 10〜15%、
Al23 0〜5%、
CaO+MgO+SrO+BaO+ZnO 0〜5%、
Li2O+Na2O 1〜6%、
を基本組成として含み、
当該基本組成に、着色剤である金属酸化物を合計で0.01〜5%添加してなるガラス組成物である。
【0031】
本発明の加工方法が適用されるガラスの一つであるアルミノシリケートガラスとしては、以下のような組成を有するとよい。
質量%で表して、
SiO2 58〜66%、
Al23 13〜19%、
Li2O 3〜4.5%、
Na2O 6〜13%、
2O 0〜5%、
2O 10〜18%(ただし、R2O=Li2O+Na2O+K2O)、
MgO 0〜3.5%、
CaO 1〜7%、
SrO 0〜2%、
BaO 0〜2%、
RO 2〜10%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、
TiO2 0〜2%、
CeO2 0〜2%、
Fe23 0〜2%、
MnO 0〜1%(ただし、TiO2+CeO2+Fe23+MnO=0.01〜3%)、
を含むガラス組成物である。
【0032】
また、以下のような組成を有してもよい。
質量%で示して、本質的に、
SiO2 60〜70%、
Al23 5〜20%、
Li2O+Na2O+K2O 5〜25%、
Li2O 0〜1%、
Na2O 3〜18%、
2O 0〜9%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5〜20%、
MgO 0〜10%、
CaO 1〜15%、
SrO 0〜4.5%、
BaO 0〜1%、
TiO2 0〜1%、
ZrO2 0〜1%、
を含むガラス組成物である。
【0033】
さらに、以下のような組成を有してもよい。
質量%で示して、
SiO2 59〜68%、
Al23 9.5〜15%、
Li2O 0〜1%、
Na2O 3〜18%、
2O 0〜3.5%、
MgO 0〜15%、
CaO 1〜15%、
SrO 0〜4.5%、
BaO 0〜1%、
TiO2 0〜2%、
ZrO2 1〜10%、
を含むガラス組成物である。
【0034】
本発明の加工方法が適用されるガラスの一つであるソーダライムガラスは、例えば板ガラスに広く用いられるガラス組成物である。
【0035】
本発明の加工方法が適用されるガラスの一つであるアルミノシリケートガラスは、例えば、
質量%で表して、
SiO2 50〜70%、
Al23 14〜28%、
Na2O 1〜5%、
MgO 1〜13%、および
ZnO 0〜14%、
を含むガラス組成物が挙げられる。
【0036】
さらに、以下の組成物も例示できる。
質量%で表して、
SiO2 56〜70%、
Al23 7〜17%、
Li2O 4〜8%、
MgO 1〜11%、
ZnO 4〜12%、
Li2O+MgO+ZnO 14〜23%、
23 0〜9%、および
CaO+BaO 0〜3%
TiO2 0〜2%、
を含むガラス組成物である。
【0037】
本発明の加工方法が適用されるガラスの一つであるチタン含有シリケートガラスは、以下のような組成を有するとよい。
モル%で表示して、
50≦(SiO2+B23)≦79モル%、
5≦(Al23+TiO2)≦25モル%、
5≦(Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O+MgO+CaO+SrO+BaO)≦25モル%、
ただし、5≦TiO2≦25モル%である、ガラス組成物である。
【0038】
また上記チタン含有シリケートガラスにおいて、
(Al23+TiO2)/(Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O+MgO+CaO+SrO+BaO)≦0.9、
であることが好ましい。
【0039】
さらに上記チタン含有シリケートガラスにおいて、
70≦(SiO2+B23)≦79モル%、
10≦TiO2≦15モル%、
10≦Na2O≦15モル%、
であることが好ましい。
【0040】
加えて上記チタン含有シリケートガラスにおいて、前記ガラスの熱膨張係数が100×10-7-1以下であることが好ましい。
【0041】
なお、本発明の方法では、いわゆる感光性ガラスを用いる必要がなく、加工できるガラスの範囲が広い。すなわち、本発明の加工方法では、金や銀を実質的に含まないガラスを加工できる。
【0042】
特に剛性の高いガラスは、レーザ照射した際に、ガラスの上面と下面のどちらにおいても割れを発生しづらく、本発明の加工方法によって好適に加工できる。例えば、ヤング率が80GPa以上のガラスが好ましい。
【0043】
なお、吸収係数は、厚さd(例えば約0.1cm)のサンプルの透過率および反射率を測定することによって算出した。まず、厚さd(cm)のサンプルについて、透過率T(%)と、入射角12°における反射率R(%)とを測定した。透過率および反射率は、株式会社島津製作所製の分光光度計UV―3100型を用いて測定した。そして、測定値から以下の式を用いて吸収係数αを算出した。
α=ln{(100−R)/T}/d
【0044】
レンズの焦点距離L(mm)は、例えば50mm〜500mmの範囲にあり、100mm〜200mmの範囲から選択してもよい。
【0045】
また、レーザパルスのビーム径D(mm)は、例えば1mm〜40mmの範囲にあり、3mm〜20mmの範囲から選択してもよい。ここで、ビーム径Dは、レンズに入射する際のレーザパルスのビーム径であり、ビームの中心の強度に対して強度が[1/e]倍となる範囲の直径を意味する。
【0046】
本発明の方法では、焦点距離Lをビーム径Dで除した値、すなわち[L/D]の値が、7以上であり、好ましくは7以上40以下であり、例えば10以上20以下である。この値は、ガラスに照射されるレーザの集光性に関係する値であり、この値が小さいほど、レーザが局所的に集光され、均一で長い変質部の作製が困難になることを示す。この値が7未満であると、ビームウェスト近傍でレーザパワーが強くなりすぎてしまい、ガラス内部でクラックが発生しやすくなるという問題が生じる。
【0047】
本発明の方法の場合、レーザパルスの照射前にガラスに対して前処理すること、例えば、レーザパルスの吸収を促進するような膜を形成することは不要である。ただし、本発明の効果が得られる限り、そのような処理を行ってもよい。
【0048】
レーザパルスが照射された部分には、照射前のガラスとは異なる変質部が形成される。この変質部は、通常、光学顕微鏡を用いた観察によって他の部分と見分けることが可能である。
【0049】
この変質部は、レーザ照射によって光化学的な反応が起き、E’センターや非架橋酸素などの欠陥が生じた部位や、レーザ照射の急熱・急冷によって発生した、高温度域における疎なガラス構造を保持した部位である。これら変質部は通常部よりも所定のエッチング液に対して、エッチングされやすいために、エッチング液に浸すことによって微小な細孔や微小な溝が作製できる。
【0050】
フェムト秒レーザを用いる従来の加工方法では、照射パルスが重なるようにレーザを深さ方向にスキャンしながら変質部を形成していた。これに対して、本発明の方法では、1度のパルス照射で変質部を形成することが可能である。すなわち、本発明の方法では、照射位置が重ならないようにレーザパルスを照射することによって、変質部を形成できる。ただし、照射パルスが重なるようにレーザパルスを照射してもよい。
【0051】
工程(i)では、通常、ガラスの内部にフォーカスされるようにレンズでレーザパルスを集光する。例えばガラス板に貫通孔を形成する場合には、通常、ガラス板の厚さ方向の中央付近にフォーカスされるようにレーザパルスを集光する。また、ガラス板の上面側(レーザパルスの入射側)のみを加工する場合には、通常、ガラス板の上面側にフォーカスされるようにレーザパルスを集光する。逆に、ガラス板の下面側(レーザパルスの入射側とは反対側)のみを加工する場合には、通常、ガラス板の下面側にフォーカスされるようにレーザパルスを集光する。ただし、ガラス変質部が形成できる限り、レーザパルスがガラスの外部にフォーカスされてもよい。例えば、ガラス板の下面から所定の距離(例えば1.0mm)だけ離れた位置にレーザパルスがフォーカスされてもよい。換言すれば、ガラスに変質部が形成できる限り、レーザパルスは、ガラスの下面から後方(ガラスを透過したレーザパルスが進行する方向)1.0mm以内にある位置(ガラスの下面位置を含む)または内部にフォーカスされてもよい。
【0052】
本発明の加工方法では、ガラス板の上面側(表面側)または、裏面側のみを加工して底部を有する孔(有底孔)を形成し、その後にガラス板を研磨してガラス板の非加工部分を除去することにより、有底孔を貫通孔とすることとしてもよい。
【0053】
工程(i)で形成される変質部の大きさは、レンズに入射する際のレーザのビーム径D、レンズの焦点距離L、ガラスの吸収係数、レーザパルスのパワーなどによって変化する。本発明の方法によれば、例えば、直径が10μm以下で長さが100μm以上の円柱状の変質部を形成することが可能である。
【0054】
工程(i)で選択される条件の一例を、表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
次に、工程(ii)として、ガラスに対するエッチングレートよりも変質部に対するエッチングレートが大きいエッチング液を用いて変質部をエッチングする。このようなエッチング液としては、例えばフッ酸などの、フッ化水素(HF)を含有する水溶液を用いてもよい。また、硫酸(H2SO4)やその水溶液、硝酸(HNO3)やその水溶液、または塩酸(塩化水素(HCl)の水溶液)を用いてもよい。また、これらの酸の混合物を用いることができる。フッ酸を用いた場合、変質部のエッチングが進みやすく、短時間に孔を形成できる。硫酸を用いた場合、変質部以外のガラスがエッチングされにくく、テーパー角の小さいストレートな孔を作製できる。なお、エッチング溶液にはpHを安定させるためのフッ化アンモニウムなどの塩類、もしくは、フッ化物の沈殿を抑制するための硫酸、硝酸、酢酸などの酸、さらにEDTAなどのキレート剤などを添加することができる。
【0057】
エッチング時間やエッチング液の温度は、変質層の形状や、目的とする加工形状に応じて選択される。なお、エッチング時のエッチング液の温度を高くすることによって、エッチング速度を高めることができる。また、エッチング条件によって、孔の直径を制御することが可能である。
【0058】
変質部がガラス板の上面側にのみ露出するように形成された場合、エッチングによって、ガラス板の上面側のみに孔を形成できる。逆に、変質部がガラス板の下面側にのみ露出するように形成された場合、エッチングによって、ガラス板の下面側のみに孔を形成できる。また、変質部がガラス板の上面側および下面側に露出するように形成された場合には、ガラス板の両側からエッチングを行うことによって、貫通孔を形成できる。なお、ガラス板の上面側または下面側にエッチングを防止するための膜(保護膜)を形成し、一方のみからエッチングが起こるようにしてもよい。また、ガラス板の表面に露出しない変質部を形成し、次に、変質部が露出するようにガラス板を研磨してからエッチングを行ってもよい。
【0059】
変質部の形成条件およびエッチング条件を変化させることによって、円柱状の貫通孔、鼓形(砂時計形)の貫通孔、円錐台状の貫通孔、円錐状の有底孔、円錐台状の有底孔、円柱状の有底孔といった様々な形状の孔を形成することが可能である。有底孔は、ガラス板の孔が形成されていない部分を研磨によって除去することにより、貫通孔へと加工できる。円錐台状の貫通孔の内周面は、テーパー状となっている。貫通孔の大きい方の開口部から投入された物質が付着しやすい。このため、円錐台状の貫通孔は、スパッタリング法などの気相成膜法を用いて貫通孔の内周面に導電性材料を形成することに適している。
【0060】
加工の対象とするガラス板の厚さは、0.1〜0.6mm、特に0.2〜0.4mmが適当である。
【0061】
[導電性材料の配置]
本発明の方法は、導電性材料の配置工程(配置方法)として、工程(iii)を含む。
【0062】
導電性材料は、ニッケル、アルミニウム、銅、銀などの金属材料、ステンレスとの合金材料に代表される、従来から貫通孔に導電性を与えるために用いられてきた材料を、特に制限なく用いることができる。導電性材料を、孔の内部に配置する方法についても、特に制限はなく、スパッタリング法、蒸着法などの気相成膜法、メッキ法、はんだリフロー法などの液相法を用いればよい。導電性材料は、ガラス板の両表面が導電性材料が配置された貫通孔(貫通電極)を介して、電気的に導通するように貫通孔内に配置される。
【0063】
スパッタリング法に代表される気相成膜法により導電性材料を貫通孔内に供給する場合は、円錐台状の貫通孔を形成し、この貫通孔の相対的に大きい開口部から導電性材料を供給することが好ましい。貫通孔内の内周面に導電性材料による導電パス(導電層)が容易に形成されるためである。こうして形成した導電層は、そのまま貫通電極として用いてもよいし、これを利用して、引き続きメッキ法により貫通孔内に導電性材料を充填してもよい。
【0064】
また、有底孔を有するガラス板について、上記種々の方法を用いて導電性材料を有底孔内に配置し、ガラス板の開口部が形成されていない側の表面を研磨して導電性材料を露出させることにより、貫通電極を形成してもよい。
【0065】
本発明の方法によりガラス板を加工する工程の4つの例を、図1〜図4を参照しながら説明する。
【0066】
第1の加工方法では、まず、図1(a)に示すように、レーザパルス11の照射によって、ガラス板12を貫通するように変質部13を形成する。次に、ガラス板12の両面からエッチングを行うことによって、鼓状の貫通孔14を形成する。図1(b)に示すように、貫通孔14は、2つの円錐台状の孔を連結したような形状を有する。
【0067】
第2の加工方法では、まず、図2(a)に示すように、レーザパルス11の照射によって、ガラス板12を貫通するように変質部13を形成する。次に、図2(b)に示すように、ガラス板12の片面を保護膜15で覆う。次に、保護膜15を形成していない面からエッチングを行うことによって、図2(c)に示すように、ガラス板12を貫通する円錐台状の貫通孔14を形成する。次に、保護膜15を除去することによって、図2(d)に示すように、ガラス板12の両面において貫通孔14が表面に露出する。
【0068】
第3の加工方法では、まず、図3(a)に示すように、レーザパルス11の照射によって、ガラス板12の上面側に変質部13を形成する。変質部13は、ガラス板12の上面からガラス板12の内部にまで伸びるように形成される。次に、エッチングによって変質部13を除去し、図3(b)に示すように、円錐台状の有底孔16を形成する。引き続き、ガラス板12を下面から研磨することにより、図2(a)に示したように、有底孔16が貫通孔となる。
【0069】
第4の加工方法では、まず、図4(a)に示すように、レーザパルス11の照射によって、ガラス板12の内部に変質部13を形成する。次に、ガラス板12の両面または片面を研磨することによって、ガラス板12の両面または片面において変質部13を露出させる。次に、露出した変質部13をエッチングによって除去し、孔を形成する。図4(b)および(c)には、ガラス板12の片面のみを研磨して変質部13を露出させ、円錐台状の有底孔16を形成した一例について示す。引き続き、ガラス板12を下面から研磨することにより、図2(a)に示したように有底孔16が貫通孔14となる。
【0070】
本発明の製造方法で貫通電極付きガラス板を製造する工程の例を、図5〜図7を参照しながら説明する。
【0071】
第1の製造方法では、まず、図5(a)に示すように、レーザパルス11の照射によって、ガラス板12の下面(レーザ入射面と反対側の面)側に変質部13を形成する。変質部13は、ガラス板12の下面からガラス板12の内部にまで伸びるように形成される。次に、エッチングによって変質部13を除去し、図5(b)に示すように、円錐台状または円錐状(図5(b)では円錐状)の有底孔16を形成する。引き続き、ガラス板12を上面(レーザ光入射面;有底孔の開口部が存在しない面)側から研磨することにより、図5(c)に示すように、有底孔の底面側のガラスを除去して有底孔16を貫通孔14へと加工する。
【0072】
図5(c)の貫通孔14は、円形の第1開口部(有底孔16の開口部に由来する開口部)14aと、第1開口部14aよりも径が小さく研磨により形成された円形の第2開口部14bとの間に形成されている。貫通孔14は、第1開口部14aから第2開口部14bに向かうにつれて横断面(紙面左右方向に沿った断面)に現れる円の面積が小さくなっていく(言い換えれば円錐台状の)形状を有している。貫通孔14の内周面(円錐台の側面)は、テーパーを有する傾斜面となる。
【0073】
貫通孔14に導電性材料を配置すれば貫通電極となるが、この例では、その前にガラス板12と半導体ウェハ20(例えばシリコンウェハ)とを接合する。半導体ウェハ20にはあらかじめ各種の能動素子および受動素子、さらにバリア層が、それらを接続する配線と共に形成されている。ガラス板12と半導体ウェハ20との接合は陽極接合により行うことが好ましい。陽極接合では、ガラス板に含まれるアルカリ金属イオンが印加される電圧により半導体ウェハとの接触面近傍から遠ざかって欠乏し、これに伴ってガラス板に含まれる酸素原子と半導体ウェハを構成する半導体原子(例えばシリコン原子)とが結合することにより、ガラス板と半導体ウェハとが接合する。半導体ウェハ20と接触させるべきガラス板12の面は第2開口部14bが形成された面である。こうして、図5(d)に示すようにガラス板12と半導体ウェハ20とが一体化される。
【0074】
さらに、図5(e)に示すように、ガラス板12の貫通孔14に、第1開口部14aを経由して、気相成膜法により導電性材料17を供給する。気相成膜法によると、貫通孔の内周面に導電性材料が付着しにくいことがあるが、貫通孔14の内周面は上方を向くようにテーパーが付与された面となっているため、導電性材料17が付着しやすい。このため、導電性材料17による両開口部14a,14bの間の導通を確保しやすい。
【0075】
引き続き、図5(f)に示すように、ガラス板12の表面に堆積した導電性材料17を研磨により除去する。こうして、貫通電極18を有するガラス板12と、ガラス板12と陽極接合された半導体ウェハ20とを備えた電子部品が得られる。ガラス板12の露出面には、必要に応じ、貫通電極18と接続する取り出し電極が形成される。この電子部品では、貫通電極18を介して入力される電気信号により半導体ウェハ20内に形成された電気回路が所定の動作を行うことになる。
【0076】
円錐台状の貫通孔14を用いて形成された貫通電極18は、相対的に径が小さい開口部14b側が半導体ウェハ20に接し、相対的に径が大きい開口部14a側が図示を省略する取り出し電極に接している。このような形態は、半導体ウェハ20内の回路の微小部分から外部に確実に信号を取り出す、あるいは、この回路に信号を確実に入力する上でも望ましい。なお、図5(e)に示した形態とは異なり、貫通孔14の内部に空間が残らないように導電性材料17を充填してもよいことは勿論である。
【0077】
第2の製造方法では、図6(a)(b)に示すように、まず、ガラス板12に貫通孔14が形成される。これらの工程は、上述した通りであるので省略する。ただし、ここでは、貫通孔14の形状を円柱状とした(図5(b)参照)。このような貫通孔14は、変質部とガラス部とにおけるエッチング速度の差が大きくなるように、エッチングの薬液等の条件を調整することによって形成できる。次に、図6(c)に示すように、ガラス板12と半導体ウェハ20とが陽極接合される。引き続き、図6(d)に示すように貫通孔14内に導電性材料17を供給し、図6(e)に示すようにガラス板12の露出した表面を研磨する。こうして、貫通電極18を有するガラス板12とガラス板12と陽極接合された半導体ウェハ20とを備えた電子部品が得られる。図6(c)〜(e)の工程についてもすでに説明したのでここでは詳細を省略する。ただし、この形態では、貫通孔14の内周面にテーパーが付されていないため、導電性材料の供給はメッキ法などの液相法を用いることが望ましい。
【0078】
第3の製造方法では、図7(a)(b)に示すように、まず、ガラス板12に貫通孔14が形成される。これらの工程は、上述した通りであるので省略する。ただし、ここでは、貫通孔14の形状を2つの円錐台状の孔を連結したような形状とした(図7(b)参照)。このような貫通孔14は、変質部とガラス部とにおけるエッチング速度の差が小さくなるように、エッチングの薬液等の条件を調整することによって形成できる。次に、図7(c)に示すように、ガラス板12を基板21上に配置する。引き続き、図7(d)に示すように貫通孔14内に導電性材料17を供給し、図7(e)に示すようにガラス板12の露出した表面を研磨する。こうして、貫通電極18を有するガラス板12が得られる。第3の製造方法は、基板21を用いることなく、貫通孔14に導電性材料17を配置(好ましくは充填)してもよい。
【0079】
本発明の加工方法を実施するための装置の一例の構成を、図8に模式的に示す。図8の加工装置60は、レーザ装置61と、アッティネータ62と、ビームエキスパンダー63と、アイリス64と、ガルバノミラー65と、fθレンズ66と、ステージ67とを備える。これらの光学素子には、公知の光学素子を適用できる。レンズに入射する際のビーム径Dは、レーザ装置61、ビームエキスパンダー63およびアイリス64によって調整できる。
【0080】
レーザ装置61から出射されたレーザパルスは、アッティネータ62で減衰され、ビームエキスパンダー63で拡大され、アイリス64で絞られ、ガルバノミラー65に入射する。レーザパルスは、ガルバノミラー65によって光軸を調整され、fθレンズ66に入射する。ガルバノミラーを用いることによって、レーザの照射位置を高速(数千mm/s)で動かすことができる。そのため、高繰り返しのレーザパルスでも1パスル毎に異なる位置に照射することができ、変質部を等間隔に並べることも可能である。図6に示すように、ガルバノミラー65を用いてレーザパルスの経路を光軸a、光軸bおよび光軸cと変化させることが可能である。一例では、以下のように光軸a〜cにレーザパルスが振り分けられる。最初のパルスは、ガルバノミラーよって光軸aに沿って、fθレンズの中心からずれた部位を通過し、ガラス板68の一方の端部に照射される。その次のパルスは、光軸bに沿ってfθレンズの中心を通過し、ガラス板68の中央付近に照射される。さらに次のパルスは、光軸cに沿ってfθレンズの中心からずれた所に入射し、ガラス板68の他方の端部に照射される。
【0081】
上記加工装置は、上述したガラスの加工方法の工程(i)を実施するための制御装置を備える。制御装置は、プログラムおよびデータを記憶するためのメモリと、プルグラムおよびデータに基づいて処理を実行する演算処理装置とを備える。これらの制御装置には、一般的なコンピュータを適用してもよい。
【0082】
以上説明したように、本発明の貫通電極付きガラス板の製造方法の好ましい形態は以下の通りである。
【0083】
本発明の貫通電極付きガラス板の製造方法では、
前記(i)の工程および前記(ii)の工程により前記ガラス板に有底孔を形成し、
前記(ii)の工程と前記(iii)の工程との間、または前記(iii)の工程の後に、
(iv)前記ガラス板を研磨して前記有底孔を貫通孔とする工程を実施することが好ましい。
【0084】
この場合は、
前記有底孔が開口部から底部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状の形状を有し、
前記貫通孔が第1開口部と前記第1開口部よりも小さい第2開口部との間に形成され、前記第1開口部から前記第2開口部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状の形状を有することが好ましい。
【0085】
また、本発明の貫通電極付きガラス板の製造方法では、
前記(ii)の工程において、前記ガラス板の一方の表面を保護膜で覆った状態で前記ガラス板の他方の表面から少なくとも前記変質部をエッチングすることにより、前記ガラス板に、第1開口部と前記第1開口部よりも小さく前記保護膜側の表面に形成された第2開口部との間に形成され、前記第1開口部から前記第2開口部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状の断面を有する貫通孔を形成することが好ましい。
【0086】
また、前記ガラス板に、第1開口部と前記第1開口部よりも小さい第2開口部との間に形成され、前記第1開口部から前記第2開口部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状の断面を有する貫通孔が形成されている場合には、
前記(iii)の工程が、気相成膜法により前記第1開口部から前記貫通孔の内部に前記導電性材料を供給する工程を含むことが好ましい。
【0087】
また、本発明の貫通電極付きガラス板の製造方法では、
前記(i)の工程および前記(ii)の工程により、前記ガラス板に貫通孔を形成し、
前記(iii)の工程において、メッキ法またははんだリフロー法により前記貫通孔の内部に前記導電性材料を配置することが好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明について例を挙げて詳細に説明する。なお、以下の説明において、エッチング液の濃度は、「質量%」で示されている。
【0089】
(ガラス板の作製)
表2に示すガラス組成となるように、酸化物、炭酸塩などの一般に使用されているガラス原料を、ガラスとして3kgとなるように秤量し、混合してバッチとした。
【0090】
【表2】

【0091】
実施例1および3については、バッチを白金ロジウム合金製るつぼに入れ、1550℃の電気炉に投入してガラス融液とした後、1620℃で12時間保持して清澄と攪拌とを行った。実施例2については、バッチを白金ロジウム合金製るつぼに入れ、1400℃の電気炉に投入してガラス融液とした後、その温度で24時間保持して清澄と攪拌とを行った。
【0092】
こうして得られたガラス融液をステンレス製の鋳型に流し込み、実施例1,3については570℃、実施例2については600℃にて数時間保持して徐歪した後、室温にまで徐冷することによりブロック状のガラス(ガラスブロック)を得た。
【0093】
加工に用いるレーザパルスの波長355nmにおける各ガラスの吸収係数αは、実施例1,3のガラスについて3.5cm-1、実施例2のガラスについて5.4cm-1であった。
【0094】
(実施例1)
表2の実施例1の組成を有するガラスブロックを厚さ0.5mmの4インチウェハ形状に加工した。このガラス板に、上部より、繰り返し周波数10kHz、パルス幅24nsのNd:YAGレーザの第3高調波(波長355nm)を、焦点距離100mmのfθレンズを用いてガラス板のレーザ入射面とは反対側の表面に焦点がくるように集光し、レーザパワー:1.0Wの条件にてガラス板の表面の所定の箇所に一箇所につき1パルスとなるよう照射した。レンズに入射する際のレーザ光のビーム径は7mmであった。
【0095】
レーザ照射位置はガルバノミラーにより制御し、照射位置同士の距離はもっとも近接した箇所で150μmとした。なお、レーザ照射位置を制御するために、レーザ装置または基板の位置を移動させるステージを使用してもよく、このようなステージとガルバノミラーとを併用してもよい。
【0096】
レーザ光を照射したガラス板を観察した。変質相が形成されている場合は、変質相領域が周囲と比較して屈折率が異なっているため、切断面の顕微鏡観察などにより確認できる。レーザ照射による変質層は、ガラス板のレーザ入射面付近には形成されず、レーザ入射面から0.1mm深さの位置から反対側の表面までに形成されていた。
【0097】
レーザ光により変質相が形成されたガラス板について、エッチング処理を行った。エッチング溶液には2%のフッ酸を用いた。なお、エッチング溶液にはpHを安定させるためのフッ化アンモニウムなどの塩類、ましくは、フッ化物の沈殿を抑制するための硫酸、硝酸、酢酸などの酸、さらにEDTAなどのクレーと剤などを添加することができる。
【0098】
レーザ光を照射したガラス板をエッチング溶液に浸し、溶液を適宜攪拌しながら、室温にて6時間放置した後、ガラス板を溶液から取り出し、水を用いてよく洗浄した。ガラス板が乾燥してから、その断面を光学顕微鏡にて観察した。
【0099】
レーザ光を照射した位置には、レーザ入射面と反対側の表面に開口径100μm、深さ300μmの円錐状の穴(有底孔)が形成されていた。
【0100】
このガラス板のレーザ入射面側を研削した後に鏡面研磨して、厚みを250μmとした。これにより有底孔は貫通孔となった。貫通孔は、レーザ入射面の開口径が15μm、反対側の表面の開口径が100μmの円錐台状の形状を有しており、その内周面は、テーパー状の面となっていた。
【0101】
引き続き、貫通孔を形成したガラス板と、あらかじめ電気回路を形成した4インチのシリコンウェハとを陽極接合した。この際、ガラス板の貫通孔の位置とシリコンウェハの電気回路の取り出し電極の位置とが一致するように調整した。陽極接合は、シリコンウェハの回路形成面とガラス板のレーザ入射面とを貼り合わせ、温度420℃、印加電圧800Vで行った。
【0102】
こうして得た接合ウェハのガラス面側の表面に、スパッタリング法によりニッケルを堆積してシード層とし、さらにガラスの貫通孔が充填されるように50μmの厚みで銅をメッキした。
【0103】
こうして得た導電層付きの接合ウェハを、アルミナ砥粒、硫酸、過酸化水素水を用いたCMPにより平滑化し、さらにレジストを塗布してマスク露光によりパターニングし、一般的なドライエッチングにより引き出し配線(引き出し電極)を形成した。これにさらに樹脂保護層を形成した後にリフロー法によりハンダバンプを形成し、ダイシングしてウェハレベルCSP(Chip Size Package)とした。
【0104】
(実施例2)
表2の実施例2の組成のガラスブロックを厚さ0.35mmの4インチウェハ形状に加工した。このガラス板に、上部より、繰り返し周波数10kHz、パルス幅24nsのNd:YAGレーザの第3高調波(波長355nm)を、焦点距離100mmのfθレンズを用いてガラス板の内部に焦点が来るよう集光し、レーザパワー:1.2Wの条件にてガラス板の内部の所定の箇所に一箇所につき1パルスとなるよう照射した。レンズに入射する際のレーザパルスのビーム径は7mmであった。
【0105】
レーザ照射位置はガルバノミラーにより制御し、照射位置の距離はもっとも近接した箇所で150μmとした。
【0106】
レーザ光を照射したガラス板を観察した。レーザ照射による変質層は、レーザ入射面からその反対側の面まで貫通する形で形成されていた。
【0107】
レーザ光によって変質相を形成させたガラス板について、エッチング処理を行った。エッチング溶液には2%のフッ酸を用いた。レーザ光を照射したガラス板をエッチング溶液に浸し、溶液を適宜攪拌しながら、室温にて6時間放置した後、ガラス板を溶液から取り出し、水を用いてよく洗浄した。ガラス板が乾燥してから、その厚みを測定し、ガラス板の断面を光学顕微鏡にて観察した。
【0108】
エッチング後のガラス板の厚みは300μmであり、レーザ光を照射した位置には、両表面の開口径が50μmの貫通孔が形成されていた。この貫通孔は、円柱状の形状であった。
【0109】
このガラス板を用いて実施例1と同様に接合ウェハを作製した。得られた接合ウェハのガラス面側の表面に、無電解メッキ法によりニッケルを堆積してシード層とし、さらにガラスの貫通孔が充填されるように30μmの厚みで接合ウェハの全表面に電解銅メッキを行った。
【0110】
こうして得られた導電層付きの接合ウェハの両面をアルミナ砥粒と硫酸、過酸化水素水を用いたCMP法により平滑化し、さらにレジストを塗布してマスク露光によりパターニングし、一般的なドライエッチングにより引き出し配線を形成した。これにさらに樹脂保護層を形成した後にリフロー法によりハンダバンプを形成し、ダイシングして電子部品とした。
【0111】
(実施例3)
表2の実施例3の組成のガラスブロックを厚さ0.35mmの4インチウェハ形状に加工した。このガラス板に、上部より、繰り返し周波数10kHz、パルス幅24nsのNd:YAGレーザの第3高調波(波長355nm)を、焦点距離100mmのfθレンズを用いてガラスのレーザ入射面とは反対側の表面に焦点が来るよう集光し、レーザパワー:0.8Wの条件にてガラス板の表面の所定の箇所に一箇所につき1パルスとなるよう照射した。レンズに入射する際のレーザ光のビーム径は7mmであった。
【0112】
レーザ照射位置はガルバノミラーにより制御し、照射位置の距離はもっとも近接した箇所で150μmとした。
【0113】
レーザ光を照射したガラス板を観察した。レーザ照射による変質層は、レーザ入射面付近には形成されず、レーザ入射面から0.2mm深さの位置からその反対側の面までに形成されていた。
【0114】
このガラス板のレーザ照射面側の表面を研削および研磨し、厚みを380μmとした。
【0115】
このガラス板について、エッチング処理を行った。エッチング溶液には2%のフッ酸を用いた。ガラス板をエッチング溶液に浸し、溶液を適宜攪拌しながら、室温にて1時間放置した後、ガラス板を溶液から取り出し、水を用いてよく洗浄した。ガラス板が乾燥してから、その厚みを測定し、ガラス板の断面を光学顕微鏡にて観察した。
【0116】
エッチング後のガラス板の厚みは300μmであり、レーザ光を照射した位置には、両表面の開口径が80μm、ガラス板の厚みの中心付近の径が20μmの鼓状の貫通孔が形成されていた。
【0117】
このガラス板を用いて実施例1と同様に接合ウェハを作製した。得られた接合ウェハのガラス面側の表面に、無電解メッキ法によりニッケルを堆積してシード層とし、さらにガラスの貫通孔が充填されるように50μmの厚みで接合ウェハの全表面に電解銅メッキを行った。
【0118】
こうして得られた導電層付きの接合ウェハの両面を、アルミナ砥粒と硫酸、過酸化水素水を用いたCMP法により平滑化し、さらにレジストを塗布してマスク露光によりパターニングし、一般的なドライエッチングにより引き出し配線を形成した。これにさらに樹脂保護層を形成した後にリフロー法によりハンダバンプを形成し、ダイシングして電子部品とした。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の製造方法によれば、電子基板として適する貫通電極を有するガラス板であって、貫通電極が精度よく、且つ高密度に形成されたガラス板を製造できる。本発明の製造方法は、インターポーザや高密度配線用モジュール基板など、配線用の電子基板の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0120】
11 レーザパルス
12 ガラス板
13 変質部
14 貫通孔
14a 第1開口部
14b 第2開口部
15 保護膜
16 有底孔
17 導電性材料
18 貫通電極
20 シリコンウェハ
21 基板
60 加工装置
61 レーザ装置
62 アッティネータ
63 ビームエキスパンダー
64 アイリス
65 ガルバノミラー
66 fθレンズ
67 ステージ
68 ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)波長λのレーザパルスをレンズで集光してガラス板に照射することによって、前記ガラス板のうち前記レーザパルスが照射された部分に変質部を形成する工程と、
(ii)前記ガラス板に対するエッチングレートよりも前記変質部に対するエッチングレートが大きいエッチング液を用いて少なくとも前記変質部をエッチングすることにより前記ガラス板に孔を形成する工程と、
(iii)貫通電極を構成する導電性材料を前記孔の内部に配置する工程と、を含み、
前記レーザパルスのパルス幅が1ns〜200nsの範囲にあり、
前記波長λが535nm以下であり、
前記波長λにおける前記ガラスの吸収係数が50cm-1以下であり、
前記レンズの焦点距離L(mm)を、前記レンズに入射する際の前記レーザパルスのビーム径D(mm)で除した値が7以上である、貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記(i)の工程および前記(ii)の工程により前記ガラス板に有底孔を形成し、
前記(ii)の工程と前記(iii)の工程との間、または前記(iii)の工程の後に、
(iv)前記ガラス板を研磨して前記有底孔を貫通孔とする工程を実施する、
請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記有底孔が開口部から底部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状の形状を有し、
前記貫通孔が第1開口部と前記第1開口部よりも小さい第2開口部との間に形成され、前記第1開口部から前記第2開口部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状の形状を有する、
請求項2に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記(ii)の工程において、前記ガラス板の一方の表面を保護膜で覆った状態で前記ガラス板の他方の表面から少なくとも前記変質部をエッチングすることにより、前記ガラス板に、第1開口部と前記第1開口部よりも小さく前記保護膜側の表面に形成された第2開口部との間に形成され、前記第1開口部から前記第2開口部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状の断面を有する貫通孔を形成する、
請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記(iii)の工程が、気相成膜法により前記第1開口部から前記貫通孔の内部に前記導電性材料を供給する工程を含む、請求項3または4に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記(i)の工程および前記(ii)の工程により、前記ガラス板に貫通孔を形成し、
前記(iii)の工程において、メッキ法またははんだリフロー法により前記貫通孔の内部に前記導電性材料を配置する、請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記波長λが360nm以下である請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記レーザパルスが、Nd:YAGレーザの高調波、Nd:YVO4レーザの高調波、またはNd:YLFレーザの高調波である請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング液が、フッ化水素を含有する水溶液である請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項10】
前記エッチング液が、硫酸、硝酸、および塩化水素から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液である請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項11】
前記(i)の工程において、前記レーザパルスが、前記ガラスの下面から後方1.0mm以内の距離にある位置または前記ガラスの内部にフォーカスされる請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項12】
前記ガラスが、銀、金および銅を実質的に含まない請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項13】
前記ガラスが、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラスまたはチタン含有シリケートガラスである請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項14】
前記ガラスが、着色成分として、Bi、W、Mo、Ce、Co、Fe、Mn、Cr、VおよびTiから選ばれる金属の酸化物を少なくとも1種含む請求項1に記載の貫通電極付きガラス板の製造方法。
【請求項15】
貫通電極を有するガラス板と、
前記ガラス板と陽極接合された半導体ウェハと、を備え、
前記貫通電極が、前記ガラス板に形成された貫通孔に配置された導電性材料により構成され、
前記貫通孔が、第1開口部と前記第1開口部よりも小さく前記半導体側の表面に形成された第2開口部との間に形成され、前記第1開口部から前記第2開口部に向かうにつれて横断面が小さくなる円錐台状である、電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−178642(P2011−178642A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47002(P2010−47002)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】