説明

赤外線反射材、赤外線反射積層体および赤外線反射構造体

【課題】 赤外線反射構造体10は、温度などの外部刺激に応じて赤外線を効率よく反射すること。
【解決手段】赤外線反射構造体10は、複数積層した赤外線反射材22からなる赤外線反射積層体20と、赤外線反射積層体20の側面に接触配置された感温性部材30とを備えている。赤外線反射材22は、規則的な面間隔で配列されたコロイド結晶粒子23と、コロイド結晶粒子23の間に介在した膨張収縮材24とを備えている。感温性部材30は温度により水分を膨張収縮材24に供給し、膨張収縮材24が膨潤することでコロイド結晶粒子23の面間隔を変更する。面間隔は、ブラッグの法則およびスネルの法則に基づいて、反射波長を紫外線領域から赤外線領域に変わるから赤外線の透過量を効率よく調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度などの外部刺激に応じて赤外線の反射率を変えることができる赤外線反射材およびこれを用いた赤外線反射積層体、赤外線反射構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光に含まれている赤外線を反射するための技術として、ガラス板の表面に赤外線を吸収する色素材をコーティングしたり、赤外線反射フィルムを貼り付けたりする手段が知られており(特許文献1,2)、外気温が高い場合に赤外線を反射して冷房効果を高めたい場合に使用されている。しかし、これらの技術では、外気温が低い場合にも赤外線を反射するために、太陽光に含まれる赤外線を積極的に活用することができないという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−089244号公報
【特許文献2】特開平06−048776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の技術の課題を踏まえ、外部刺激に応じて赤外線を効率よく反射する赤外線反射材、赤外線反射積層体および赤外線反射構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明は、
赤外線を反射する赤外線反射材において、
規則的な面間隔で配列されたコロイド結晶粒子と、
該コロイド結晶粒子の間に介在し外部刺激により膨張収縮して該コロイド結晶粒子の面間隔を変更することにより反射波長を、赤外線より低い波長の領域から赤外線領域に変更する膨張収縮材と、
を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明にかかる赤外線反射材において、コロイド結晶粒子が規則的な面間隔で配列され、その間に膨張収縮材が介在している。このような赤外線反射材に太陽光を当てると、ブラッグの法則およびスネルの法則により、コロイド結晶粒子が作る(111)面の面間隔dにより定められる反射波長λpeakは、式(1)により表わされる。
λpeak=2d(111)(neff2−sinθ)0.5 −(1)
λpeak:反射波長
θ :入射角
d(111) :面間隔
neff:有効屈折率
すなわち、面間隔dの相違により入射される太陽光に含まれる波長を選択的に反射させることができる。ここで、有効屈折率neffは、コロイド結晶粒子の屈折率と膨張収縮材の屈折率、およびその割合によって、式(2)により定められる。
neff =(1−φ)ns+φ・nsphere −(2)
nsphere:コロイド結晶粒子の屈折率
ns:膨張収縮材の屈折率
φ:体積当たりに占めるコロイド結晶粒子の占有率
膨張収縮材は、外部刺激により、膨張収縮してコロイド結晶粒子の面間隔を変更して、反射波長λpeakが赤外線より低波長の領域から赤外線領域に変わる。このため、太陽光に含まれている赤外線反射材を透過しまたは反射する量を効果的に調整することができる。ここで、赤外線より低い波長の領域として、X線の領域を除く、紫外線領域または可視光の領域をいう。
【0007】
また、本発明の他の態様は、赤外線を反射する赤外線反射材において、
上記赤外線反射材は、規則的な面間隔で配列されたコロイド結晶粒子と、該コロイド結晶粒子の間に介在し外部刺激により膨張収縮して該コロイド結晶粒子の面間隔を変更する膨張収縮材とを備え、上記コロイド結晶粒子の屈折率と膨張する前の上記膨張収縮材の屈折率とがほぼ同じ値であり、該膨張収縮材が膨張したときに該膨張収縮材の屈折率を変えるとともに、反射波長が赤外線領域に設定されるように構成したこと、を特徴とする。
【0008】
上述した式(1)は、コロイド結晶粒子と膨張収縮材とが異なった屈折率の場合に成立している。他の発明の態様では、膨張収縮材の膨張前の屈折率は、コロイド結晶粒子の屈折率と同じであるから、可視光、赤外線の領域に反射波長のピークが表れない。しかし、膨潤後に膨張収縮材の屈折率がコロイド結晶粒子の屈折率と異なるから、膨張収縮材の膨張後にブラッグの法則およびスネルの法則による反射条件が成立し、赤外線領域に反射波長のピークが表れるから、赤外線を効率よく反射することができる。ここで、上記コロイド結晶粒子の屈折率と膨張する前の上記膨張収縮材の屈折率とがほぼ同じ値とは、コロイド結晶粒子と膨張収縮材の材料変更で実質的に調整可能な範囲であって、入射光の透過量が著しく低下しない範囲をいう。
【0009】
本発明の好適な態様として、赤外線反射材を複数積層した赤外線反射積層体であって、上記各々の赤外線反射材は、上記コロイド結晶粒子の粒径が異なっている構成や、上記膨張収縮材の膨張率が異なっている構成をとることができる。この構成により、赤外線反射材の各層毎の反射波長を変えることができるから、広範囲の赤外線の透過量を制御することができる。
【0010】
ここで、コロイド結晶粒子としては、ブラッグ反射させる光が透過できれば、ほぼ球形となる材質であれば特に限定されず、例えば、ポリスチレン、TiOとSiO,TiOとSiOとの複合体、TiOとSiOのコアシェル構造体を用いることができ、また、二酸化ケイ素、ホウ珪酸ガラス、アルミン酸カルシウム、ニオブ酸リチウム、カルサイト、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、酸化イットリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、セレン化亜鉛、臭ヨウ化タリウム、ダイアモンド等が使用できる。また、PZT、PLZT等の強誘電体、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタル酸、塩化ビニル、アクリル、酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン等、ケイ素、ゲルマニウムを使用できる。
また、コロイド結晶粒子の配列における規則性は、特に限定されないが、例えば、面心立方、体心立方、単純立方等を例示することができ、特に面心立方構造すなわち六方最密充填構造をとることができる。また、コロイド結晶粒子の面間隔は、膨張収縮材による膨張率に依存するが、膨張したときにブラッグの法則などの反射波長が赤外線領域であることが必要である。
【0011】
本発明の他の好適な態様として、赤外線反射材を備えた赤外線反射構造体であって、上記膨張収縮材は、可逆移動体を吸収・排出することで上記コロイド結晶粒子の面間隔を変更する高分子である赤外線反射構造体の構成をとることができる。ここで、可逆移動体としては、固体、液体、気体、またはこれらの混合物をいう。膨張収縮材を構成する高分子は、可逆移動体が液体である場合には、吸水性高分子を用いることができ、ポリビニルアルコール(PVA)ゲルまたは、PVAゲルとデンプンとアクリル酸系吸水性高分子との混合物などを好適に用いることができ、これらの配合量、橋かけ密度、イオン浸透圧、水との親和力などを変更することにより、吸水率を任意に設定することができる。
また、膨張収縮材として、水素吸蔵合金としてパラジウムを用いれば、可逆移動体としての水素を吸収・排出して膨張収縮することができる。
【0012】
さらに、本発明の好適な態様として、上記赤外線反射材に隣接して配置され、温度に応じて上記吸水性高分子に可逆移動体を放出または吸収する感温性高分子からなる感温性部材を備えた構成をとることができる。
感温性部材は、可逆移動体が液体である場合には、温度に応じて上記吸水性高分子に液体を放出または吸収する感温性高分子から構成することができる。こうした感温性高分子として、ポリビニルメチルエーテル、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリビニルオキサゾリジノン、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等のポリ(N−アルキルアクリルアミド)の1種又は2種以上からなる熱応答性を有する高分子、または特開平7−62038,7−82320,8−143631,10−17622,10−310614で公開されているポリ(N−ビニルイソブチルアミド)等のポリ(N−ビニル酸アミド)の熱応答性を有する高分子、N−ビニルホルムアミド等のN−ビニルアルキルアミドと酢酸ビニル等の疎水性モノマーの共重合体で熱応答性を有する高分子等を例示することができる。
ここで、感温性部材は、該感温性部材内に保持することができる液体量が、吸水性高分子が赤外線の反射を行なう面間隔まで膨張するのに必要な液体量と同等か多い性質をもっている場合には、吸水性高分子に効率よく液体を供給しまたは吸収することができる。
【0013】
膨張収縮材の好適な態様として、温度に対して膨張、収縮等の機械的変化を起こす高分子のほかに、電気や光などの外部刺激により上記コロイド結晶粒子の面間隔を変更するように構成することができる。例えば、電気による外部刺激に応じて膨張収縮する材料として、メソゲン側鎖を有するアルガノゲルとネマチック溶媒とからなる液晶エラストマ、導電性高分子(ポリピロール)、イオン導電性高分子(ナフィオン)、誘電エラストマ(アクリル、シリコン、ウレタン)、圧電高分子(ポリフッ化ビニリデン)などの高分子を用いることができる。また、外部刺激により膨張収縮する材料であれば、pHにより膨張収縮する高分子や、光の波長に応じて膨張収縮するフォトクロミック材料(アゾベンゼンなど)なども適用することができる。
【0014】
また、赤外線反射構造体の好適な態様として、可視光および赤外線を透過させる支持体を備え、該支持体は、上記赤外線反射材を保持している構成をとることができる。支持体を用いた赤外線反射構造体は、赤外線反射材を保持できる構成であれば、特に限定されないが、例えば、ガラスなどの透明な基板に貼り付けたりする構成や、複数のガラス板に挟持することにより、住宅や車両用の窓ガラスに好適に適用することができる。また、赤外線反射構造体は、不透明や半透明の支持体であって、手に触れるもの、例えば、車のハンドルやアームレスト,コンソールボックスやグローブボックスのリッド,ドアハンドル等や、建材の壁等にも好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、発明を実施するための最良の形態を実施例にしたがって説明する。
A.第1実施例
(1) 赤外線反射構造体10の概略構成
図1は本発明の第1実施例にかかる赤外線反射材を用いた赤外線反射構造体を説明する説明図である。図1において、赤外線反射構造体10は、所定間隙を隔てて平行に配置された透明基板12,12と、透明基板12,12の間に配置された赤外線反射積層体20と、赤外線反射積層体20の側面を囲むように配置された感温性部材30,30と、感温性部材30,30の外側を覆うシール部材40とを備えている。
【0016】
(2) 赤外線反射構造体10の各部の構成
透明基板12,12は、太陽光のうち可視光および赤外線を透過可能である板材であり、ガラス板、透明樹脂などから形成されている。赤外線反射積層体20は、複数枚の赤外線反射材22−1,22−2・・22−2x・・・22−nをn枚積層することにより構成され、例えば、赤外線反射材22−xの1枚の厚さを1.27μmとし、これを21枚積層した場合には、26.5μmの厚さになっている。
【0017】
図2は赤外線反射構造体10を模式的に示す説明図、図3は赤外線反射材の構成および特性を説明する説明図である。図2(A)において、赤外線反射材22−xは、コロイド結晶粒子23と、コロイド結晶粒子23の間に充填された膨張収縮材24とから構成されている。コロイド結晶粒子23は、最密充填に配列されている。図3に示す赤外線反射材22は、膨張収縮材24の組成の違いにより、2例(反射材1,2)を示している。コロイド結晶粒子23として、例えば、ポリスチレンを用いた場合には、粒径が118nmでコロイド結晶粒子の結晶面(111)における面間隔d(111)が96.3nmに配置されている。
【0018】
膨張収縮材24は、PVAゲル、またはデンプンとアクリル酸系吸水性高分子の混合物から形成されており、水分を吸収・排出することにより膨潤・収縮する性質を有する。膨張収縮材24は、コロイド結晶粒子23の間に充填されており、図2(B)(C)に示すように膨潤・収縮によりコロイド結晶粒子23の面間隔を変更する。反射材1は、吸水率が200%のPVAゲルを用いており、膨潤により面間隔が96.3nmから289nmへと大きくなり、反射材2は、吸水率が700%のデンプンとアクリル酸系吸水性高分子との混合材を用いており、膨潤により面間隔が96.3nmから771nmへと大きくなる。また、反射材1,2の膨張収縮材の組成のほかに、PVAゲルと、デンプンとアクリル酸系吸水性高分子との混合材との配合率を変更することにより、200〜700%の間で吸水率を変更することができ、このような吸水率の変更により、コロイド結晶粒子の面間隔d(111)を99.3nmから、289nmと771nmの間で各層毎に異なった値に設定することができる。
【0019】
図1に戻り、感温性部材30は、赤外線反射積層体20の側面を囲むように配置されており、温度に応じて水分を放出、吸収する材質であり、膨張収縮材24の吸水性高分子より吸水率が高いものである。例えば、感温性部材30として、Nイソプロピルアクリルアミドゲル(NIPAゲル)を用いた場合には、所定温度以上で含有していた水分を排出し、所定温度を下回ると、水分を吸収する。なお、NIPAゲルは、組成に応じて上記所定温度を20〜60℃の間で適宜に設定することができ、住宅用の窓ガラスに用いた場合には、室内冷房の効果を考慮して、25〜30℃に設定することが好ましい。
【0020】
(3) 赤外線反射積層体の製造方法
赤外線反射構造体10は、周知の方法(特開2004−109178および特開2004−170447)を用いることができ、例えば、一例として以下の工程により製造することができる。すなわち、透明基板12を準備し、その透明基板12にコロイド単分散溶液を摘下する。コロイド単分散溶液は、コロイド結晶粒子を溶媒(水など)に分散させ、脱塩処理することにより調製する。次に、透明基板12上の溶媒を乾燥させてコロイド結晶粒子を規則的に配列する。このとき、コロイド結晶粒子は、自律的かつ規則的に配列される。さらに、規則的に配列されたコロイド結晶粒子上に、膨張収縮材(PVAゲル)を摘下し、乾燥させ、これにより赤外線反射材22−xが1枚作成される。そして、順次、この工程を繰り返す。このとき、膨張収縮材24を形成するPVAゲルと、デンプンとアクリル酸系吸水性高分子との混合材との配合率を変更する。これにより、赤外線反射材22−xを複数積層した赤外線反射積層体20を作成することができる。
【0021】
(4) 赤外線反射構造体10の動作
(4)−1 赤外線反射材の原理
赤外線反射材を用いた赤外線の反射の原理について説明する。コロイド結晶粒子が作る(111)面の面間隔dにより定められる反射波長λpeakは、ブラッグの法則および屈折率と反射との関係を表すスネルの法則により式(1)により表わされる。
λpeak=2d(111)(neff2−sinθ)0.5 −(1)
λpeak:反射波長
θ :入射角
d(111) :面間隔
neff:有効屈折率
すなわち、面間隔dの相違により入射される太陽光に含まれる波長を選択的に反射させることができる。
ここで、有効屈折率neffは、コロイド結晶粒子の屈折率と膨張収縮材の屈折率、およびその割合によって、式(2)により定められる。
neff =(1−φ)ns+φ・nsphere −(2)
nsphere:コロイド結晶粒子の屈折率
ns:膨張収縮材の屈折率
φ:体積当たりに占めるコロイド結晶粒子の占有率
ここで、上記法則によると、コロイド結晶粒子の屈折率nsphereと膨張収縮材の屈折率nsとが同じ場合には入射光は透過し、これらが異なる場合に特定の波長を反射する。本実施例では、図3に示すように、ポリスチレンからなるコロイド結晶粒子の屈折率が1.59、膨張収縮材の屈折率が1.5で異なるから、式(1)(2)から、コロイド結晶粒子の面間隔dに対応して反射波長λpeakが変わる。コロイド結晶粒子の面間隔dは、膨張収縮材の吸水性高分子の吸水率によって変えられるから、反射波長λpeakを赤外線の領域に設定することにより、特定波長の赤外線を選択的に反射させることができる。
【0022】
(4)−2 赤外線反射構造体10の動作
次に、上述したブラッグの法則に基づいて、赤外線反射構造体10の動作について説明する。感温性部材30,30は、外気温の影響で所定温度(25℃)以下である場合には、水分を赤外線反射材22−xの膨張収縮材24に放出しないから、コロイド結晶粒子23の面間隔は、96.3nmのままである。よって、反射波長λpeakは、302nmであり、紫外線領域にあるから、可視光および赤外線を透過させる。したがって、窓ガラスに用いた赤外線反射構造体10は、外気温が低い場合に、可視光を通して室内を暗くすることがなく、また太陽光に含まれている赤外線を透過させることにより暖房効果を損なうことがない。
【0023】
一方、感温性部材30,30は、外気温の影響で所定温度(25℃)を超えた場合には、水分を放出する。感温性部材30,30から放出された水分は、毛細管現象により各々の赤外線反射材22−xの膨張収縮材24の吸水性高分子に供給される。吸水性高分子は、水分を吸収することで膨潤してコロイド結晶粒子23の面間隔を増大する。すなわち、図3の反射材1では、コロイド結晶粒子の面間隔が96.3nmから289nmに拡張され、反射波長λpeakが302nmから862nmに変わり、また、反射材2では、コロイド結晶粒子の面間隔が96.3nmから771nmに拡張され、反射波長λpeakが302nmから2189nmに変わっている。図4は太陽光スペクトルの波長強度分布を説明する説明図である。太陽光スペクトルは、紫外線領域が400nm以下、可視光領域が400〜700nm、赤外線領域が700nm以上である。したがって、反射材1,2は、紫外線領域から赤外線領域へ反射波長λpeakが変わっている。また、各々の赤外線反射材22−xは、膨張収縮材24の組成により吸水率が異なり膨潤によりコロイド結晶粒子23の面間隔を異なった値にするから、反射波長λpeakは、重複することなく、赤外線領域で広く分布することになる。よって、広い波長範囲の赤外線を反射することができる。したがって、窓ガラスに用いた赤外線反射構造体10は、外気温が高い場合に、可視光を通して室内を暗くすることがなく、また太陽光に含まれている赤外線を遮断することにより冷房効果を損なうことがない。
【0024】
一方、感温性部材30,30の温度が所定温度(25℃)を下回ると、感温性部材30,30は、可逆的に吸水性を高めるから、膨張収縮材24の吸水性高分子から水分を吸水する。これにより、赤外線反射材22−xの膨張収縮材24は、収縮してコロイド結晶粒子23の面間隔を狭くし、初期の状態に戻る。
【0025】
B.第2実施例
本実施例は、赤外線反射材のコロイド結晶粒子の粒径を各層毎に変更した構成に特徴を有する。すなわち、コロイド結晶粒子の粒径と面間隔との関係は、式(3)により表わされる。
D=(3/2)^0.5d(111) −(3)
D:粒径
d(111):面間隔
式(3)から粒径Dを変えることにより、面間隔d(111)が変わり、式(1)により、反射波長λpeakが変わる。この原理を利用して、本実施例では、コロイド結晶粒子の粒径を各層毎に異にし、さらに膨張収縮材の膨張率を各層で同じにすることにより、膨張収縮材が膨張したときの反射波長λpeakを赤外線領域に設定する。これにより、第1実施例と同様な作用効果を得ることができる。
【0026】
C.第3実施例
第3実施例は、赤外線反射材の各層におけるコロイド結晶粒子の粒径を変えるとともに、膨潤前におけるコロイド結晶粒子の屈折率と膨張収縮材の屈折率とが同じ材料を用いた構成に特徴を有する。図5は赤外線反射材の構成および特性を説明する説明図であり、赤外線反射材の組成の違いにより、3例(反射材4,5,6)を示している。すなわち、コロイド結晶粒子として、屈折率を1.5に調製したTiOとSiOとの複合体を用い、コロイド結晶粒子の粒径を220nm,300nm,400nmに変え、このときの面間隔が180nm,245nm,327nmになる。また、膨張収縮材として、吸水率200%のPVAゲルを用いている。コロイド結晶粒子および膨張収縮材の膨潤前の屈折率は、1.5で同じである。
【0027】
膨張収縮材を吸水により膨潤させることにより、面間隔を539nm,735nm,980nmに変える。このときのコロイド結晶粒子の屈折率は、1.5であり、膨潤前の屈折率と同じであるが、膨張収縮材は水分を含有することから、屈折率が1.44と小さくなる。上述した式(1)は、コロイド結晶粒子と膨張収縮材とが異なった屈折率の場合に成立している。しかし、本実施例にかかる膨張収縮材の膨潤前の屈折率は、コロイド結晶粒子の屈折率と同じであるから、反射材3,4,5の反射波長は、ブラッグの法則の式(1)の計算値によると、539nmの可視光領域、および735nm,980nmの赤外線領域であっても、赤外線を透過する。したがって、外気温が低い場合であっても、太陽光に含まれる可視光および赤外線を効率よく透過させることができる。
一方、膨張収縮材の膨潤後には、コロイド結晶粒子の屈折率が1.5で変わらず、膨張収縮材の屈折率だけが1.44に小さくなるから、ブラッグの法則による反射条件が成立し、赤外線の反射波長は、1555nm,2121nm,2828nmへ変わる。これにより、太陽光に含まれている赤外線を効率よく反射することができる。
【0028】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施例にかかる赤外線反射材を用いた赤外線反射構造体を説明する説明図である。
【図2】赤外線反射構造体を模式的に示す説明図である。
【図3】赤外線反射材の構成および特性を説明する説明図である。
【図4】太陽光スペクトルの波長強度分布を説明する説明図である。
【図5】第3実施例にかかる赤外線反射材の構成および特性を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0030】
10...赤外線反射構造体
12...透明基板
20...赤外線反射積層体
22...赤外線反射材
23...コロイド結晶粒子
24...膨張収縮材
30...感温性部材
40...シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を反射する赤外線反射材において、
規則的な面間隔で配列されたコロイド結晶粒子と、
該コロイド結晶粒子の間に介在し外部刺激により膨張収縮して該コロイド結晶粒子の面間隔を変更することにより反射波長を、赤外線より低い波長の領域から赤外線領域に変更する膨張収縮材と、
を備えたことを特徴とする赤外線反射材。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線反射材において、
上記赤外線より低い波長の領域は、紫外線領域である赤外線反射材。
【請求項3】
赤外線を反射する赤外線反射材において、
規則的な面間隔で配列されたコロイド結晶粒子と、該コロイド結晶粒子の間に介在し外部刺激により膨張収縮して該コロイド結晶粒子の面間隔を変更する膨張収縮材とを備え、
上記コロイド結晶粒子の屈折率と膨張する前の上記膨張収縮材の屈折率とがほぼ同じ値であり、該膨張収縮材が膨張したときに該膨張収縮材の屈折率を変えるとともに、反射波長が赤外線領域に設定されるように構成したこと、
を特徴とする赤外線反射材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の赤外線反射材を複数積層した赤外線反射積層体であり、
上記各々の赤外線反射材は、上記コロイド結晶粒子の粒径が異なっている赤外線反射積層体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の赤外線反射材を複数積層した赤外線反射積層体であり、
上記各々の赤外線反射材は、上記膨張収縮材の膨張率が異なっている赤外線反射積層体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の赤外線反射材を備えた赤外線反射構造体であって、
上記膨張収縮材は、可逆移動体を吸収・排出することで上記コロイド結晶粒子の面間隔を変更する高分子である赤外線反射構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の赤外線反射構造体であって、
上記赤外線反射材に隣接して配置され、温度に応じて上記高分子に可逆移動体を放出または吸収する感温性高分子からなる感温性部材を備えた赤外線反射構造体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の赤外線反射材を備えた赤外線反射構造体であって、
上記膨張収縮材は、電気または光を含む外部刺激により上記コロイド結晶粒子の面間隔を変更するように構成した赤外線反射構造体。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の赤外線反射材を備えた赤外線反射構造体であって、
可視光および赤外線を透過させる支持体を備え、
上記支持体は、上記赤外線反射材を保持している赤外線反射構造体。
【請求項10】
請求項9に記載の赤外線反射材において、
上記支持体は、可視光および赤外線を透過させる複数の基板であり、
上記赤外線反射材を、上記基板の間に介在させている赤外線反射構造体。
【請求項11】
請求項10に記載の赤外線反射材において、
上記基板は、少なくとも一方が可視光を透過させる透明体である赤外線反射構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−3283(P2008−3283A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172302(P2006−172302)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】