説明

赤外線撮像・レーザ測距装置

【課題】赤外線撮像用光学系及びレーザ測距用受信光学系の二つの光学系の対物レンズを共用化しても、収差が発生しなく、結像性能が低下することのない赤外線撮像・レーザ測距装置を得る。
【解決手段】赤外線撮像用光学系及びレーザ測距用受信光学系の二つの光学系の対物レンズを共用する赤外線撮像・レーザ測距装置であって、前記対物レンズとして、片面または両面に回折面を有する対物回折レンズ5を用いると共に、前記対物回折レンズ5の後方に配置され、撮像用の赤外線を反射し、測距用のレーザ光を透過するダイクロイックミラー6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、赤外線撮像装置とレーザ測距装置を有する赤外線撮像・レーザ測距装置の光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目標探知用の撮像装置と、測距用のレーザ測距装置を有する赤外線撮像・レーザ測距装置においては、撮像用光学系と、レーザ測距用の送信光学系と受信光学系が使用される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
撮像装置の光学系と、レーザ測距装置の送信光学系と受信光学系は、必要な視野、使用される波長帯、使用する発信器、検知器等の違いから、それぞれ別の光学系で構成される場合が多い。
【0004】
撮像装置とレーザ測距装置を有する赤外線撮像・レーザ測距装置において、探知距離、測距距離を長く取るためには、撮像装置の撮像用光学系及びレーザ測距装置の受信光学系の二つの光学系に、それぞれ大口径の対物レンズを使用する必要がある。しかし、二つの対物レンズが大口径化することで、装置全体が大型化し、赤外線撮像・レーザ測距装置を搭載できる機器や使用条件に制限が生じていた。
【0005】
これに対し、撮像装置とレーザ測距装置を有する赤外線撮像・レーザ測距装置の小型化を図る手段として、撮像光学系と受信光学系の対物レンズを共用とし、その後ダイクロイックミラー等の波長分離手段において撮像用と測距用の2つの波長の光をそれぞれの光学系に導く方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−181260号公報(第7図)
【特許文献2】特開平5−107501号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、撮像装置に赤外線撮像器を使用し、撮像用光学系とレーザ測距用の受信光学系の対物レンズを共用化する場合、両方の波長を透過するレンズ材料を使用する必要があり、使用できるレンズ材料が限られることになる。使用できるレンズ材料が限られることで、広い範囲の波長を使用する撮像用光学系においては、複数のレンズ材料を使用することで行う色収差の補正ができなくなり、結果として、撮像光学系が集光する光のスポット径が大きくなる等の結像性能の低下が発生する。
【0008】
この発明は上述した点に鑑みてなされたもので、赤外線撮像用光学系及びレーザ測距用受信光学系の二つの光学系の対物レンズを共用化しても、収差が発生しなく、結像性能が低下することのない赤外線撮像・レーザ測距装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る赤外線撮像・レーザ測距装置は、赤外線撮像用光学系及びレーザ測距用受信光学系の二つの光学系の対物レンズを共用する赤外線撮像・レーザ測距装置であって、前記対物レンズとして、片面または両面に回折面を有する対物回折レンズを用いると共に、前記対物回折レンズの後方に配置され、撮像用の赤外線を反射し、測距用のレーザ光を透過するダイクロイックミラーを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、収差が発生しなく、結像性能が低下することのない赤外線撮像・レーザ測距装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る赤外線撮像・レーザ測距装置の光学系の構成を示すブロック図である。赤外線撮像・レーザ測距装置には、赤外線受光素子、レーザ受信素子で電気信号に変換出力した後の信号処理回路や、レーザ発信部の制御回路、各光学系のフォーカス調整用の駆動機構・駆動制御回路などが設けられるが、図1に示す構成では、発明の要旨とする光学系の部分のみを示して説明する。
【0012】
図1において、レーザ発信器1から射出されたレーザ光3は、送信光学系2を経て目標に対し射出される。レーザ光3は、目標で反射した後、対物回折レンズ5、ウェッジ付きダイクロイックミラー6、受信光学系7を透過し、レーザ受信素子8に結像する。また、目標及びその周辺から発せられた赤外線光4は、対物回折レンズ5を透過しウェッジ付きダイクロイックミラー6の表面で反射し、撮像光学系9を透過後に、赤外線受光素子10上に結像する。ここで、レーザ光3と赤外線光4の波長は、異なる波長であり、また、赤外線光4は、広い波長範囲を持つ。例として、ここでは、レーザ光3の波長を1.5μm、赤外線光4の波長を3〜5μmとする。
【0013】
ここで、まず、対物回折レンズ5について説明する。図1において、目標から来たレーザ光3と赤外線光4は、対物回折レンズ5に共に入射する。対物回折レンズ5は、片面または両面に回折面を有するレンズである。赤外線光4は、3〜5μmの波長範囲を持つため、回折面をもたない通常の単レンズの場合、レンズ材料の波長による屈折率の違いにより短い波長ほど大きく屈折することになり、その結果、色収差が発生し結像性能が低下する。
【0014】
一般には、色収差を補正するために、正レンズに分散の異なる材料の負レンズを組み合わせることで色収差の補正を行う。3〜5μmの赤外線光学系の場合、正レンズにSi、負レンズにGeの組み合わせが良く用いられるが、Geは1.5μmの波長の光を透過しないため、1.5μmのレーザ光3を透過させる対物レンズの場合、SiとGeレンズの組み合わせによる色収差の補正は不可能である。
【0015】
色収差を補正する手段として、本実施の形態1では、対物レンズに回折面を有する対物回折レンズを使用する。回折面を通過した光は、長い波長ほど大きく屈折されるため、レンズに回折面を設けることで、1枚のレンズでの色収差の補正が可能となり、高い結像性能を得ることができる。なお、レーザ光3については、単波長の光であるため、色収差は発生しない。
【0016】
また、回折面、回折効率により透過する光量が波長により変化する。回折効率と透過する波長λの関係は、η=sinc(λ/λ−k)で表される。ここで、sincはシンク関数、ηは回折効率、λは回折面の光路差を示す光の波長、λは透過する光の波長、kは回折光の次数(0、1、2、・・・)である。
【0017】
異なる波長の赤外線光4とレーザ光3を透過する際、共に高い回折効率を得るため、対物回折レンズ5は、回折面の光路差を示す光の波長λと回折光の次数kが、|λ/λ−k|≦|λmin−k|または|λ/λ−k|≦|λmax−k|を満足し、加えてλ/λmax−k≦0≦λmin−kの関係を満足するように設定される。ここで、k・kは回折光の次数、λはレーザ光3の波長、λminとλmaxは赤外線光4の最小の波長と最大の波長である。λが1.5μm、λminが3.0μm、λmaxが5.0μmにおいて、λを3.3μm、kを1、kを2とした場合の対物回折レンズ5の回折効率の設計例を図2に示す。
【0018】
次に、ウェッジ付きダイクロイックミラー6について説明する。ダイクロイックミラーは、特定の波長を反射、透過させることで、波長により光の光路を分離させる光学部品である。対物回折レンズ5を通過した光は、集光する光線としてウェッジ付きダイクロイックミラー6に入射する。集光する光路に斜めに置かれた平行形状の媒質を通過した光は、非点収差が発生するため結像性能の低下が発生する。また、斜めに置かれた媒質を透過する際に発生する非点収差の量は、対物回折レンズ5に入射する光の入射角度により異なる。
【0019】
撮像を目的とする赤外線光4については、目標物を含むその周辺の広い視野からの光を赤外線受光素子10に結像させる必要があるが、一方、レーザ光3については、目標で反射した光のみを受光素子に導けば良く狭い視野のみレーザ受光素子8に結像させれば良い。
【0020】
このため、広い視野の赤外線光4については、ウェッジ付きダイクロイックミラー6の表面で反射させることで、広い視野全体で非点収差の発生を防止する。狭い視野のレーザ光3については、ダイクロイックミラーを平行平板ではなく、ウェッジをつけることでダイクロイックミラーを通過する際、入射面で発生する非点収差を射出面で発生する非点収差で打ち消すことで補正し結像性能を維持する。
【0021】
ウェッジは、レーザ光3が入射される表面の法線とレーザ光の主光線を含む面に垂直な軸周りに傾け、主光線11に対するウェッジ付きダイクロイックミラー6の入射面の角度12をθ、射出面の角度13をθとすると、θ>θの関係が成り立ち、その角度は、ウェッジ付きダイクロイックミラー6の材質、厚さ、入射する光線の角度、対物回折レンズ5との距離から収差が補正されるよう最適化される。
【0022】
従って、実施の形態1によれば、赤外線撮像用光学系及びレーザ測距用受信光学系の二つの光学系の対物レンズを共用する赤外線撮像・レーザ測距装置において、対物レンズとして、片面または両面に回折面を有する対物回折レンズを用いると共に、対物回折レンズの後方に配置され、撮像用の赤外線を反射し、測距用のレーザ光を透過するダイクロイックミラーを備えたので、収差が発生しなく、結像性能が低下することのない赤外線撮像・レーザ測距装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態1による赤外線撮像、レーザ測距装置の光学系の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1による対物回折レンズ5の回折効率の設計例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 レーザ発信器、2 送信光学系、3 レーザ光、4 赤外線光、5 対物回折レンズ、6 ウェッジ付きダイクロイックミラー、7 受信光学系、8 レーザ受信素子、9 撮像光学系、10 赤外線受光素子、11 主光線、12 主光線に対するダイクロイックミラーの入射面の角度θ、13 主光線に対するダイクロイックミラーの射出面の角度θ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線撮像用光学系及びレーザ測距用受信光学系の二つの光学系の対物レンズを共用する赤外線撮像・レーザ測距装置であって、
前記対物レンズとして、片面または両面に回折面を有する対物回折レンズを用いると共に、
前記対物回折レンズの後方に配置され、撮像用の赤外線を反射し、測距用のレーザ光を透過するダイクロイックミラーを備えた
ことを特徴とする赤外線撮像・レーザ測距装置。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線撮像・レーザ測距装置において、
前記対物回折レンズは、回折の光路差を示す波長λと回折の次数k、kが、
|λ/λ−k|≦|λmin−k|または
|λ/λ−k|≦|λmax−k1|を満たし、かつ
λ/λmax−k≦0≦λmin−k
ここで、λは回折の光路差を示す波長
λはレーザ光の波長
λminは赤外線光の最小の波長
λmaxは赤外線光の最大の波長
、kは回折の次数
の関係を満足するように設定される
ことを特徴とする赤外線撮像・レーザ測距装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の赤外線撮像・レーザ測距装置において、
前記ダイクロイックミラーは、レーザ光が入射される表面の法線とレーザ光の主光線を含む面に垂直な軸周りに傾け、主光線と入射面のなす角に対し主光線と射出面のなす角を小としたウェッジ形状とする
ことを特徴とする赤外線撮像・レーザ測距装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−216131(P2008−216131A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55883(P2007−55883)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】