説明

走行車両

【課題】前後進を繰り返しても比較的疲労感のない前後進用の変速ペダルを有する無段式変速装置を備えた走行車両を提供すること。
【解決手段】1枚の変速ペダル18上に前進スイッチSfと後進スイッチSrがあり、変速ペダル18の踏み込み位置を僅かに変更するだけHST16を介して車両の前進又は後進操作が可能になり、操作性が従来より良くなる。また同ペダル18の踏み込み量を踏み込みセンサSpにより検出し、そのセンサSpの検出した踏込み量に応じてHST16による前後進速度を換えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段式変速装置を備えた作業用の走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ポンプと油圧モータを備えた静油圧式無段変速装置(HST)等の無段式変速装置を有する車両には、前後進切替操作を、併設された2つのペダルの踏み込み操作で行うもの(2ペダル式)や、いわゆる前後シーソー式ペダルの踏み込み操作で行うもの(1ペダル式)が知られている。
【特許文献1】特開平5−106731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
2ペダル式の変速ペダルは踏み込み位置が離れていて、前後進を繰り返す場合は疲れ易く、踏み込み解除時にペダル間に足を挟むおそれがある。また特開平5−106731号公報等に開示されている前後シーソー式の1ペダル方式のものは、足を前後に踏み変える必要があるため、何回も繰り返すと疲れ易い。
また、通常手元の前後進切換えレバーを前方または後方に回転して車両の前後進の切換えを行ったり、2個のペダルを別々に操作して前記切換えを行う構成では操作が煩雑であり、構成も複雑となっていた。
そこで本発明の課題は、前後進を繰り返しても比較的疲労感のない前後進用の変速ペダルを有する無段式変速装置を備えた走行車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の上記課題は、次の解決手段で解決される。
請求項1記載の発明は、無段式変速装置(16)と、該無段式変速装置(16)に前進用又は後進用の回転を出力させる前後進用選択手段(Sf,Sr)を備えた一枚状の踏み込み面を有するペダル式の前後進操作具(18)と、前記無段式変速装置(16)の回転出力を増減速操作するアクチュエータ(53)と、前記ペダル式前後進操作具(18)の踏込量を検出する踏込量検出手段(Sp)と、前記踏込量検出手段(Sp)の検出値に応じて前記アクチュエータ(53)の出力値を変更する制御部(48)を機体に設けた走行車両である。
【0005】
請求項2記載の発明は、機体上に操縦席(11)と操向操舵具(10)を設け、該操縦席(11)の側方又は操向操舵具(10)には手動レバー式の前後進操作具(57)を備え、前記制御部(48)は前記手動レバー式前後進操作具(57)を前記ペダル式の前後進操作具(18)に優先させる優先手段(P)を設けた請求項1記載の走行車両である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、1枚のペダル式前後進操作具(18)の踏み込み位置を僅かに変更するだけで車両の前進又は後進操作が可能になり、該操作具(18)の踏み込み量を変えると前後進速度を変えることができ、車両の操作性が従来より良くなり、コストダウンも図れる。
【0007】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、手動レバー式の前後進操作具(57)でも前進又は後進操作が可能になり、しかも手動レバー式の前後進操作具(57)の操作を1枚のペダル式前後進操作具(18)に優先させることで、いずれか適宜の前後進操作具を用いて前進又は後進操作が可能になり、操作性が良くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
なお、本明細書では車両の前進方向に向いて左、右をそれぞれ左、右方向といい前後方向をそれぞれ前、後という。
本実施例の乗用型芝刈機1の側面図を図1に、平面図を図2に示す。走行車体2の前部と後部に夫々前輪3、3と後輪4、4を備え、車体フレーム2の前部の下方には芝草刈り取り用のモーア6を設け、車体2の前部上方のフロア7にはステアリングコラム8を立設し、該コラム8の上部にはハンドル10を設けている。またハンドル10の後方には操縦席11があり、該操縦席11の後方にはエンジン12を搭載している。
【0009】
また、前記エンジン12の冷却用ファンを油圧モータにより駆動し、ラジエータ64を車体上に斜めに設置する構成となっている。これにより、ラジエータ64の冷却容量を低下させることなく、その設置高さを小さくすることができる。
【0010】
エンジン12の出力軸は、ミッションケース15内の変速装置の入力軸に連結され、エンジン12の回転動力は変速装置で変速され、該変速された走行動力を伝動機構を介して前後輪3,4へ伝達する。
【0011】
さらに、ミッションケース15の前面に図示していないモーア駆動軸が突出しており、該駆動軸でモーア6内の芝刈用のカッタを回転させる。モーア6により刈り取られた芝草は右側の排草口6aから掃き出される。
【0012】
図3には乗用芝刈機の動力伝達構成図を示す。
ミッションケース15内に設けられるHST16は、クラッチハウジング内の主クラッチ17を経てHST入力軸19を連動し、変速ペダル18による中立位置からの前進、後進の切替、及びこれらの無段変速による連動を経て、副変速装置21へ連動し、後輪4の差動ギヤ機構、及び前輪3への出力軸等を伝動する構成である。
【0013】
HST16は、可変容量形ポンプ23と可変容量形モータ24とを閉油圧回路25で接続し、可変容量形ポンプ23の斜板20の傾斜角度を変速ペダル18の踏み込み操作によって調節して、可変容量形ポンプ23からの吐出油量を変えて可変容量形モータ24による出力軸26の出力回転を無段変速し、又正逆に切替えて出力することができる。
【0014】
HST出力軸26からの動力は、高低2段の副変速装置21で変速されて走行軸27に取り出され、走行軸27から後輪4への伝動用のデフ装置30と前輪伝動軸31と前輪3への伝動用のデフ装置33に動力が取り出される。なお、前輪伝動軸31の伝動を入り切りする四輪駆動用の四駆クラッチギヤ34がPTO入力軸36と前輪駆動軸31の間に設けられている。
また、主クラッチ17からHST入力軸19を駆動する前に、PTO入力軸36を分岐して取出した動力をPTO変速装置38を経由してPTO軸39へ取り出す構成とする。
【0015】
次に、乗用芝刈機の変速ペダル18について、図4の平面図と図5の側面図に基づいて説明する。
前記変速ペダル18は、単一のペダル面に、それぞれプレート状の圧力センサSf,Srを有する前進踏込部18fと後進踏込部18rを備え、このペダル基部をフロア7を支持する車体フレーム2から内側へ延設したステー部材41に回動自在に支持させる構成となっている。
【0016】
変速ペダル18の踏み込み位置を前進踏込部18fの圧力センサSf又は後進踏込部18rの圧力センサSrで検知することにより電動モータ53の作動方向を切り替える。
【0017】
また、前記車体フレーム2の下部には、変速ペダル18の踏み込み位置を元の中立位置に復帰させる中立復帰機構Nと、変速ペダル18の踏み込み量を検知するポテンショメータ式の踏込量センサSpを備えている。
【0018】
前記中立復帰機構Nは、変速ペダル18の回転軸18aと同一軸心上に支持され、かつスプリング43により常時上方へ付勢された逆「へ」の字型のニュートラルアーム45と、このアーム45の凹部に押圧されながら摺動操作されるローラ46、及びこのローラ46をフロア7の下方で回動自在に支持するローラ支持アーム49、同アーム49と前記変速ペダル18を接続する連動機構等から構成されている。
なお、ローラ46とローラ支持アーム49は車体フレーム2と踏込量センサSpを支持するブラケット51との間に設けられた回動軸52に支持されている。
【0019】
上記構成により、前記変速ペダル18を踏み込むと、同ペダル18に接続したロッド54及びこれに連結した回動アーム55を介して、前記回動軸52及びローラ支持アーム49を回動し、同ペダル18を踏み離すと、前記ローラ46がニュートラルアーム45に押圧されることにより、元の位置に復帰、即ち同ペダル18を中立位置に復帰させる。
【0020】
また前記踏込位置センサSpは、ブラケット51を介して後進踏込部18rの内側下方に支持され、この踏込位置センサSpの検出アーム(図示せず)は前記回動軸52より延出したピン56を挟持する構成となっている。これにより、前記変速ペダル18を踏み込むと、前述の通り、回動軸52が回動し、踏込位置センサSpにより、回動量、即ち変速ペダル18の踏み込み量を検出することができる。
【0021】
図6に示す制御ブロック図に於ける制御部48は、前記変速ペダル18の前進圧力センサSf及び後進圧力センサSrと変速ペダル18の踏み込み量を検知するポテンショメータ式の踏込量センサSpを入力してトラニオン軸16a操作用の電動モータ53などを作動制御する構成となっている。
また、図6に示す電動ファン65はラジエータ冷却用のファンであって、車体の前進もしくは後進に応じて送風方向を追い風方向に切り替える構成となっている。
【0022】
また、この走行車両では、図6、図8に示すように、通常、ハンドルコラム8などオペレータの手元に設けた前後進切換えレバー57を前または後に動かすことで、該レバー57と一体の接触部材60が前進スイッチS’f若しくは後進スイッチS’rを押圧し、その検知により前記トラニオン軸16aの回転方向を制御して、機体を前方または後方に走行させる構成となっている。
【0023】
上記構成で、草刈作業などで頻繁に走行車両を前後進に移動させる操作が必要となると、手元の前後進切換えレバー57を頻繁に前後進操作することが面倒になることがある。しかし、本実施例では、図4や図5に示す1ペダル式の変速ペダル18の左側に前進スイッチSfと右側に後進スイッチSrを設けるだけでなく手元の前後進切換えレバー57を設けているので、該前後進切換えレバー57をニュートラルにしておいて、例えば変速ペダル18の左側を踏めば前進スイッチSfが作動して前進を感知し、右側を踏めば後進スイッチSrが作動して後進を感知してHST16のトラニオン軸16aの電動モータ53が制御されて、手元のレバー操作無しに前進、後進が可能となる。
【0024】
このように、前後進切替レバー57の基部に設けた前進スイッチS’fと後進スイッチS’rがオン状態で無いとき(中立状態)には変速ペダル18の操作で走行車両の前後進が可能となる。図7には上記構成の制御機構のフローチャートを示す。このフローチャートで示す制御機構が請求項2記載の優先手段P(図6)である。
【0025】
このように、本実施例では、1個のペダル18の右側又は左側の踏み位置をわずかに変えるだけで前後進操作が可能となる。また前記変速ペダル18の踏み込み量の検出結果に応じて可変容量形ポンプ23の斜板20の傾斜角度を変更するHSTトラニオン軸作動用電動モータの駆動量が求まる。これにより、前後進速度を調整でき、走行操作性が従来の1ペダル式無段変速装置及び2ペダル式無段変速装置に比べて向上する。また部品点数が比較的少なくなるのでコストダウンにもなる。
【0026】
次に乗用型芝刈機1の前支持構成について説明する。
フロントモーア6として刈幅の広いモーア6を装着する場合、モーア6に内蔵されるカッターの最小刈残し半径を小さくするためにモーア6を左方向にオフセットして装着している。そのために左側の前輪(ホイール)3Lに多大な加重が掛かり、アクスルケース58Lの破損を招くことがある。
【0027】
そこで図9に前輪3L,3R部分の正面図を示すように、走行車体2(図1)にそれぞれ前輪3L,3Rを連結するための左右のアクスルケース58L,58Rを強度が従来より向上したステー59の両側に保持し、さらに該ステー59の上方には変速装置(ミッション)ケース15を取り付ける。
【0028】
図10にはステー59の構成図を示す。
図10(a)はステー59の正面図であり、図10(b)は側面図である。
アクスルケース58と接続する一対のプレート59a,59aの間にロッド59bを掛け渡し、該ロッド59bとプレート59a,59aの間には補強板59cを接続している。またロッド59bとミッションケース15を接続するプレート59dにも補強板59eを接続する。
【0029】
このように前輪4、4支持用の2つのアクスルケース58L,58R同士をステー59で連繋し、なおかつミッションケース15の左側と左側のアクスルケース58Lを連繋することにより一層多大な加重を軽減することができる。
【0030】
また、従来乗用芝刈機のエンジンの吸気用エアクリーナはエンジン近傍の機体(車体)後方に設置されることが多かった。また、マフラも機体(車体)の後方に設置され、特にそのテールパイプは機体の後端に設置されている。前記テールパイプの配置位置ではマフラから排出された排気を、またエアクリーナから吸入することがあり、エンジンの性能、耐久性に悪影響を及ぼしていた。
【0031】
テールパイプは進行方向に対して後端に配置するのが望ましいので、本実施例では、図2に示すように、エアクリーナ61とエンジン12を挟んで対角線上の位置にマフラ62のテールパイプ62aを設置する構成となっており、エアクリーナ61にはエンジン12の排気ガスの影響がほとんどなくなる。
【0032】
また、従来型の芝刈機では、エンジンのエアクリーナはエンジン近傍の機体後方に設置されることが多かったため、ほこりの多く出るサイドディスチャージモーアでは刈取られた芝草及びほこりが機体の後方へ移動するので、エアクリーナがほこりを吸い易く、エンジンの耐久性やエアクリーナの掃除が面倒であった。
【0033】
そこで、本実施例ではエアクリーナ61をモーア6から刈取り後の芝草の排草口6aとは機体を挟んで反対側の対角線上の位置にレイアウトして、エアクリーナ61にモーア6で刈取られた芝草やほこりが入らないようにした。
【0034】
こうしてエアクリーナ61にはエンジン排気ガスおよびモーア6で刈取られた芝草やほこりが吸い込まれ難くなり、エンジン12の耐久性やエアクリーナ61のメンテナンス性が従来より向上する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の乗用型芝刈機は、芝刈り機としてだけでなく、各種作業を行うトラクタなどの作業用車両として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例の乗用型芝刈機の側面図である。
【図2】乗用型芝刈機の平面図である。
【図3】乗用型芝刈機の動力伝動機構図である。
【図4】乗用型芝刈機の変速ペダル部分の平面図である。
【図5】図4の変速ペダル部分の側面図である。
【図6】乗用型芝刈機の制御ブロック図である。
【図7】乗用型芝刈機の変速制御のフローチャートである。
【図8】乗用型芝刈機の前後進切換スイッチを備えた前後進切換レバーの要部斜視図である。
【図9】乗用型芝刈機の前輪部分の正面図である。
【図10】乗用型芝刈機の前輪アクスルケース同士の接続部材の構造図(図10(a)は正面図、図10(b)は側面図)である。
【符号の説明】
【0037】
1 乗用型芝刈機 2 走行車体
3 前輪 4 後輪
6 モーア 6a 排草口
7 フロア 8 ステアリングコラム
10 ハンドル 11 操縦席
12 エンジン 15 ミッションケース
16 HST 16a トラニオン軸
17 主クラッチ 19 HST入力軸
18 変速ペダル 18a 回転軸
18f 前進踏込部 18r 後進踏込部
20 斜板 21 副変速装置
23 可変容量形ポンプ 24 可変容量形モータ
25 閉油圧回路 26 HST出力軸
27 走行軸 30 デフ装置
31 前輪伝動軸 33 デフ装置
34 四駆クラッチギヤ 36 PTO入力軸
38 PTO変速装置 39 PTO軸
41 ステー部材 43 スプリング
45 ニュートラルアーム 46 ローラ
48 制御部 49 ローラ支持アーム
51 ブラケット 52 回動軸
53 電動モータ 54 ロッド
55 回動アーム 56 ピン
57 手動前後進切換えレバー 58 アクスルケース
59 ステー 59a プレート
59b ロッド 59c 補強板
59d プレート 59e 補強板
60 接触部材 61 エアクリーナ
62 マフラ 62a テールパイプ
64 ラジエータ 65 ラジエータファン
N 中立復帰機構 Sf,Sr 圧力センサ
S’f 前進スイッチ S’r 後進スイッチ
Sp 踏込量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段式変速装置(16)と、
該無段式変速装置(16)に前進用又は後進用の回転を出力させる前後進用選択手段(Sf,Sr)を備えた一枚状の踏み込み面を有するペダル式の前後進操作具(18)と、
前記無段式変速装置(16)の回転出力を増減速操作するアクチュエータ(53)と、
前記ペダル式前後進操作具(18)の踏込量を検出する踏込量検出手段(Sp)と、
前記踏込量検出手段(Sp)の検出値に応じて前記アクチュエータ(53)の出力値を変更する制御部(48)
を機体に設けたことを特徴とする走行車両。
【請求項2】
機体上に操縦席(11)と操向操舵具(10)を設け、該操縦席(11)の側方又は操向操舵具(10)には手動レバー式の前後進操作具(57)を備え、
前記制御部(48)は前記手動レバー式前後進操作具(57)を前記ペダル式の前後進操作具(18)に優先させる優先手段(P)を設けた
ことを特徴とする請求項1記載の走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−298295(P2006−298295A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126260(P2005−126260)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】