説明

超音波撮像装置

【課題】 シングルビーム送信におけるサイドローブやマルチビーム送信におけるクロストークによって超音波画像に生じる虚像を効果的に除去することができるようにする。
【解決手段】 複数の超音波トランスデューサから被検体に向けて超音波ビームを送信し、被検体から反射される超音波エコーを複数の超音波トランスデューサにより受信して得られる複数の受信信号を処理することにより、被検体に関する画像情報を得る超音波撮像装置であって、複数の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値の統計値を求める相関処理手段55と、複数の受信信号を加算する加算手段53と、加算手段53により加算された受信信号を増幅する増幅手段54と、相関処理手段55により求められた相関値の統計値に基づいて増幅手段54の利得を制御する利得制御手段57とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信して被検体の超音波画像を表示することにより、生体内の臓器の診断や非破壊検査を行うために用いられる超音波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、超音波診断装置や工業用の探傷装置等の超音波撮像装置においては、超音波の送受信機能を有する複数の超音波トランスデューサを含む超音波用探触子(プローブ)が用いられる。このような超音波用探触子を用いて、複数の超音波を合波することにより形成される超音波ビームによって被検体を走査し、被検体内部において反射された超音波エコーを受信することにより、超音波エコーの強度に基づいて被検体に関する画像情報が得られる。さらに、この画像情報に基づいて、被検体に関する2次元又は3次元画像が再現される。このような超音波ビームを用いた走査方法の1つとして、被検体の扇状の2次元領域を走査する、いわゆるセクタ走査が知られている。
【0003】
セクタ走査は、元来、人体の肋間から心臓を観察するための手法として開発されたものである。一般的に、セクタ走査においては、送信点から被検体の深さ方向に延びる複数の超音波ビームが被検体内に扇状に順次送信され、これらの超音波ビームによって、被検体の扇状の2次元領域が等間隔の角度で走査される。
【0004】
被検体から反射される超音波エコーを受信する際には、各々の超音波ビーム(音線)に沿って被検体の深さ方向に等間隔で分布する複数のサンプリングポイントの各々から反射される超音波エコーに基づく複数の受信信号に対して位相整合処理が施されて、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(走査線信号)が得られる。さらに、その音線信号が検波されると共に、走査方式を変換する処理が施されることにより、通常の表示装置に超音波画像を表示させるための画像信号が得られる。
【0005】
ここで、図12に示すように、複数の受信信号に対する位相整合処理は、位相制御回路112からの位相制御信号に基づいて、N個の超音波トランスデューサ(以下、N個の超音波トランスデューサの各々をチャンネル番号ch1〜chNで区別する。)の受信信号の位相をN個の位相シフト回路1111〜111Nでそれぞれシフトした後に、加算回路113で加算する処理である。
【0006】
しかしながら、超音波ビームを用いて得た超音波画像には、1本の超音波ビームで被検体を走査するシングルビーム送信においてはサイドローブによる虚像が生じ、また、複数本の超音波ビームで被検体を所定の間隔で同時に走査するマルチビーム送信においてはクロストークによる虚像が生じるという問題がある。
【0007】
即ち、シングルビーム送信においては、サイドローブの影響がない場合には、図13の(A)に示すように、各超音波トランスデューサ(エレメント)から出力される受信信号の位相を整合すると、各受信信号の時間を合わせることができるので、反射体を示す実像のみが映し出された超音波画像を得ることができる。一方、超音波ビームのサイドローブの方向に反射体がある場合には、図13の(B)に示すように、各超音波トランスデューサ(エレメント)から出力される受信信号の位相を整合すると、同図に白抜き四角で示す超音波ビームの主ビームの各受信信号に、同図に黒四角で示す超音波ビームのサイドローブによるチャンネル番号ch3の受信信号が含まれてしまうために、反射体により反射されたサイドローブによる虚像が超音波画像に生じてしまう。
【0008】
また、図14の(A)に示すようなシングルビーム送信においては、反射体と同心円状の超音波エコーの強度は、図14の(C)に破線で示すようになり、反射体の位置に対応する走査角θ=0°付近に強度のピークが生じるだけであるが、図14の(B)に示すような3本の超音波ビームで被検体を同時に走査するマルチビーム送信においては、反射体と同心円状の超音波エコーの強度は、図14の(C)に実線で示すようになり、走査角θ=0°付近の他に走査角θ=6°付近にも強度のピークが生じる。これは、位相整合による空間(方向)分解能はそれほど高くはないので、マルチビーム送信の場合には、特定の方向に反射体が位置すると、他の超音波ビームの反射によるクロストークが発生するからである。その結果、マルチビーム送信においては、クロストークによる虚像が超音波画像に生じてしまう。
【0009】
なお、超音波画像の画質を向上させる手法として、以下に示すようなものが提案されている。
下記の特許文献1は、受信信号間の相関係数により屈折や多重反射等による歪みの程度を評価し、相関係数が閾値よりも低いときには、励振強度や受信増幅率を基準値より低くする一方、相関係数が閾値よりも高いときには、励振強度や受信増幅率を基準値で維持するように、励振強度及び受信増幅率の少なくとも一方を制御することにより、歪みの画質への悪影響を低減する超音波診断装置を開示している。
即ち、この超音波診断装置においては、図15に示すように、N個の増幅回路1211〜121Nによってそれぞれ増幅されたN個の超音波トランスデューサの受信信号間の相関係数を相関処理回路123によって求め、求めた相関係数に基づいてN個の増幅回路1211〜121Nの利得(増幅率)を利得制御回路122によってそれぞれ制御した後に、N個の増幅回路1211〜121Nの出力信号を加算回路124で加算している。
【0010】
また、下記の特許文献2は、超音波ビームの偏向角が大きいときには、送信系においては駆動パルスのパルス幅を大きくすると共に、受信系においては偏向角適応型ダイナミック帯域通過フィルタの受信距離に対するフィルタリング中心周波数の勾配を低下することにより、超音波トランスデューサのピッチと超音波の波長とによって決まる方向に発生するグレーティングローブを低減する超音波診断装置を開示している。
【0011】
さらに、下記の特許文献3は、多数のマイクロフォンからの信号を処理するフィルタ処理部に、参照信号に基づく適応信号処理を加えることにより、プラント内が高反射環境であっても、測定対象からの波動の位置を高精度で特定することができるようにして、プラントの異常を正確にかつ迅速に診断することができる波動診断装置を開示している。
即ち、この波動診断装置においては、図16に示すように、N個の増幅回路1311〜131Nによってそれぞれ増幅されたN個のマイクロフォンからの信号を加算回路133で加算した信号と参照信号とを減算回路134で減算して得られる誤差信号に基づいて、N個の増幅回路1311〜131Nの利得を利得制御回路132によってそれぞれ制御するという、一般的なアダプティブアレイアンテナで行われている処理を行っている。
【0012】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されている手法はいずれも、シングルビーム送信におけるのサイドローブによる虚像やマルチビーム送信におけるクロストークによる虚像のように、到来方向は異なるが波形の類似度(相関性)が高い所望の超音波エコー(所望波)と非所望の超音波エコー(干渉波)とによる虚像を低減するには効果が小さいという問題がある。特に、マルチビーム送信と組み合わせた場合には、同一深度からの非所望の超音波エコー(干渉波)を効果的に除去することができないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−235341号公報(段落0066、図9)
【特許文献2】特開平11−328号公報(段落0017、0028、図5、図6、図8)
【特許文献3】特開平11−64089号公報(段落0017〜0020、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、シングルビーム送信におけるサイドローブやマルチビーム送信におけるクロストークによって超音波画像に生じる虚像を効果的に除去することができる超音波撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の超音波撮像装置は、複数の超音波トランスデューサから被検体に向けて超音波ビームを送信し、該被検体から反射される超音波エコーを前記複数の超音波トランスデューサにより受信して得られる複数の受信信号を処理することにより、該被検体に関する画像情報を得る超音波撮像装置であって、複数の受信信号の各々と参照信号との相関値の統計値を求める相関処理手段と、複数の受信信号を加算する加算手段と、加算手段により加算された受信信号を増幅する増幅手段と、相関処理手段により求められた相関値の統計値に基づいて前記増幅手段の利得を制御する利得制御手段とを具備する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の超音波トランスデューサからの受信信号の各々と参照信号との相関値の統計値に基づいて、複数の超音波トランスデューサからの受信信号を加算した信号を増幅するので、波形の類似度(相関性)は高いが異なる方向から到来する複数方向の超音波エコーの中より、所望しない方向の超音波エコー(干渉波)による虚像を効果的に低減することができる。その結果、超音波画像に生じるシングルビーム送信時のサイドローブによる虚像やマルチビーム送信時のクロストークによる虚像を効果的に除去することができ、特に、マルチビーム送信の場合には、同一深度からの非所望の超音波エコー(干渉波)を効果的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、3本の超音波ビームを被検体に同時に送信するマルチビーム送信の場合を例として、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波撮像装置の構成を示すブロック図である。この超音波撮像装置は、被検体に当接させて用いられる超音波用探触子(プローブ)1と、超音波用探触子1に接続された超音波撮像装置本体2とによって構成され、超音波用探触子1から被検体に向けて3本の超音波ビームを約6.4°間隔で同時に送信することにより被検体を走査し、被検体から反射された超音波エコーを受信して超音波画像を生成する。
【0017】
超音波用探触子1は、1次元の超音波トランスデューサアレイ11を構成する複数の超音波トランスデューサ11aを備えている。これらの超音波トランスデューサ11aは、信号線を介して超音波撮像装置本体2に接続される。
【0018】
各々の超音波トランスデューサ11aは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等の圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子によって構成される。また、近年において、超音波トランスデューサの感度及び帯域向上に寄与するとして期待が寄せられているPZNT(鉛、亜鉛、ニオブ、チタンを含む酸化物)単結晶を含む圧電材料を用いても良い。
【0019】
このような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電気信号を送って電圧を印加すると、圧電体が伸縮する。この伸縮により、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生し、これらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。これらの電気信号は、受信信号として出力される。
【0020】
超音波撮像装置本体2は、複数の切換回路20と、複数の送信回路21と、複数の受信回路22と、コンピュータ30と、記録部40と、表示部70とを含んでいる。
複数の切換回路20は、超音波ビームの送信時において、超音波用探触子1に内蔵されている複数の超音波トランスデューサ11aを複数の送信回路21にそれぞれ接続し、超音波エコーの受信時において、複数の超音波トランスデューサ11aを複数の受信回路22にそれぞれ接続する。
【0021】
複数の送信回路21の各々は、D/A(ディジタル/アナログ)変換器と、A級パワーアンプとを含んでいる。D/A変換器は、コンピュータ30から供給される波形データに基づいて、超音波ビームの送信方向に応じた遅延量を有する駆動信号を生成する。パワーアンプは、この駆動信号を増幅して、超音波用探触子1に供給する。
【0022】
複数の受信回路22の各々は、プリアンプと、TGC(タイム・ゲイン・コンペンセーション)増幅器と、A/D(アナログ/ディジタル)変換器とを含んでいる。各々の超音波トランスデューサ11aから出力される受信信号は、プリアンプによって増幅され、TGC増幅器によって、被検体内において超音波が到達した距離による減衰の補正が施される。
TGC増幅器から出力される受信信号は、A/D変換器によってディジタル信号に変換される。なお、A/D変換器のサンプリング周波数としては、少なくとも超音波ビームの周波数の10倍程度の周波数が必要であり、超音波ビームの周波数の16倍以上の周波数が望ましい。また、A/D変換器の分解能としては、10ビット以上が望ましい。
【0023】
コンピュータ30は、記録部40に記録されているソフトウェア(制御プログラム)に基づいて超音波ビームの送受信を制御する。記録部40としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、又はDVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。コンピュータ30とソフトウェアとによって、走査制御部31と、波形データ生成部32と、画像信号生成部34と、画像処理部35と、受信ビームフォーミング部50とが、機能ブロックとして実現される。また、コンピュータ30は、送信メモリ33及び受信メモリ36を有している。
【0024】
走査制御部31は、超音波ビームの送信方向と、超音波エコーの受信方向及び焦点位置とを順次設定する。波形データ生成部32は、走査制御部31の制御の下で、送信メモリ33に格納されている波形データを順次読み出し、複数の送信回路21に出力する。これらの送信回路21は、波形データに基づいて複数の駆動信号をそれぞれ生成し、超音波用探触子1に含まれている複数の超音波トランスデューサ11aに供給する。
【0025】
受信メモリ36は、複数の受信回路22のA/D変換器から出力されるディジタルの受信信号を、超音波トランスデューサ毎に時系列に記憶する。受信ビームフォーミング部50は、走査制御部31において設定された受信方向に基づいて、受信メモリ36から読み出した複数の受信信号に対して位相整合を施すことにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、上記3つの送信ビームについて、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が形成される。
【0026】
図2に示すように、受信ビームフォーミング部50は、N個の超音波トランスデューサ(チャンネル番号ch1〜chN)の受信信号の位相をそれぞれシフトするN個の位相シフト部511〜51Nと、走査制御部31から入力される位相制御信号PRefに基づいてN個の位相シフト部511〜51Nの位相シフト量を制御する位相制御部52と、N個の位相シフト部511〜51Nの出力信号を加算するための加算部53と、加算部53の出力信号を増幅する増幅部54と、各位相シフト部511〜51Nの出力信号と参照信号Refとの相関値のラグの分散σt(相関値が最大となるまでのラグの分散)を求める相関処理部55と、ラグの分散σtと増幅部53の利得との関係を表す利得テーブルが格納された利得テーブルメモリ56と、利得テーブルメモリ56に格納されている利得テーブルを参照して、相関処理部55から入力されるラグの分散σtに基づいて増幅部54の利得を制御する利得制御部57とを備える。
【0027】
利得テーブルは、図3の(A)に示すように利得を対数表示した場合、ラグの分散σtが0〜5のときには増幅部54の利得を100(図3の(B)に示すように利得をリニア表示した場合の「1」)とし、ラグの分散σtが5〜35のときには増幅部54の利得が直線的に減少するようにし、ラグの分散σtが5〜35のときには増幅部54の利得が10-1(図3の(B)に示すように利得をリニア表示した場合の「0.1」)となるように作成されている。
【0028】
参照信号Refは、空間特性が異なる送信ビームを用いて得られる信号である。具体的には、1本の超音波ビームを点反射体に向けて送信して得られる受信信号である。但し、図4の(A)に示すように、1本の超音波ビームを点反射体に向けて送信して得られる受信信号には、点反射体の深度からの超音波エコーによるもの以外に、他の深度からの超音波エコーによるものも含まれている。そのため、受信信号の波形を切り出す際の切り出し区間の打ち切りの影響を抑えるために、図4の(B)に示すような窓関数を受信信号と掛け合わせることにより、図4の(C)に示すような点反射体の深度からの超音波エコーに対応する参照信号Refとする。
【0029】
なお、参照信号Refは、既知の送信音圧波形と被検体の平均的な周波数特性とから推定した波形を有する信号を用いても良い。具体的には、以下のようにして求めた信号を参照信号Refとする。
予め、水中において、焦点位置におけるインパルス駆動の音圧波形XTDX(t)を計測しておく。なお、この音圧波形XTDX(t)は、電子回路のインパルスレスポンスに対応する。この音圧波形XTDX(t)と、被写体の空間位置と焦点位置との位置関係によって決まる空間的フィルタHSPEC(f)と、被写体の平均的な周波数依存減衰exp(α・L・f)を用いて、次式により求めた信号Xr(t)を参照信号Refとする。
r(t)=IFFT[exp(α・L・f)×HSPEC(f)×FFT{XTDX(t)}]
ここで、減衰係数αの単位はdB/(cm・MHz)、
距離Lの単位はcm、
周波数fの単位はMHzである。
【0030】
なお、本実施形態に係る超音波撮像装置のように、3本の超音波ビームで被検体を約6.4°の間隔で同時に送信するマルチビーム送信を行う場合には、3本の超音波ビームにそれぞれ対応して3個の受信ビームフォーミング部50が設けられるが、超音波用探触子1の複数の超音波トランスデューサ11aを用いて1本の超音波ビームで被検体を走査するシングルビーム送信を行う場合には、1個の受信ビームフォーミング部50だけが設けられる。
【0031】
画像信号生成部34は、受信ビームフォーミング部50から出力される音線信号(アレイ出力)に基づいて、表示装置に表示すべき複数の画素における輝度を表す画像信号を生成する。例えば、画像信号生成部36は、音線信号によって表される波形のエンベロープを検出し、走査方式を変換することによって、画像信号を生成する。
【0032】
画像処理部35は、画像信号生成部34から出力される画像信号に対して、階調処理や輪郭強調処理等の画像処理を必要に応じて施す。表示部70は、例えば、CRTやLCD等の表示装置を含んでおり、画像処理部35から出力される画像信号に基づいて、超音波画像を表示する。
【0033】
次に、本実施形態に係る超音波撮像装置の動作について説明する。なお、説明の簡単のために、16個の超音波トランスデューサ11a(チャンネル番号ch1〜ch16)を用いて、3本の超音波ビームB1〜B3(図9参照)を約6.4°の間隔で同時に送信する場合について説明する。また、図2の相関処理部55において用いられる参照信号Refとして、図4の(C)に示すような点反射体の深度からの超音波エコーに対応する参照信号Refを使用した場合について説明する。
【0034】
3本の超音波ビームB1〜B3を同時に送信する場合には、コンピュータ30の波形データ生成部32において、走査制御部31の制御の下で、送信メモリ33に格納されている波形データが順次読み出されて、16個の超音波トランスデューサ11aにそれぞれ接続されている送信回路21に出力される。
【0035】
各々の送信回路21においては、16個の超音波トランスデューサ11aから3本の超音波ビームB1〜B3を約6.4°の間隔で同時に送信するための駆動信号が生成される。生成された駆動信号は、送信回路21から切換回路20を介して、対応する超音波トランスデューサ11aに出力される。これにより、超音波探触子1の16個の超音波トランスデューサ11aから3本の超音波ビームB1〜B3が被検体に向けて同時に送信される。
【0036】
3本の超音波ビームB1〜B3が被検体から反射されて生じた各々の超音波エコーを受信することによって16個の超音波トランスデューサ11aにおいて得られる16個の受信信号は、超音波探触子1から切換回路20を介して、対応する受信回路22にそれぞれ入力される。16個の受信信号は、各々の受信回路22において、プリアンプにより増幅され、TGC増幅器により超音波の到達距離による減衰の補正がなされた後に、A/D変換器によりディジタル信号に変換される。ディジタル信号に変換された16個の受信信号は、超音波トランスデューサ毎に時系列に受信メモリ36に記憶される。
【0037】
ここで、図5の(A)に示すように超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に反射体を置いた場合に、3本の超音波ビームB1〜B3が反射体から反射されて生じる超音波エコーが16個の超音波トランスデューサ11aで受信される時間は、図5の(B)及び(C)に示すように、各々の超音波トランスデューサ11aと反射体との間の距離の相違により異なる。そのため、3個の受信ビームフォーミング部50の図2に示す位相シフト部511〜5116(この例では、超音波トランスデューサ11aの数を16個としているため、N=16となる。)において、受信メモリ36から読み出した16個の受信信号に対して、超音波ビームB1〜B3の各々の方向に対応する位相整合を施すことにより、受信フォーカス処理が行われる。これにより、3つの送信ビーム(超音波ビームB1〜B3)について、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が形成される。
【0038】
即ち、図1の最上段の受信ビームフォーミング部50においては、16個の受信信号に対して、超音波ビームB1の方向への位相整合を施すことにより、受信フォーカス処理が行われる。この例の場合には、超音波ビームB1は、図6の(A)に示すように、超音波トランスデューサアレイ11の中心線から約−6.4°の角度を中心として左右約3.2°の範囲を走査するように送信されるため、超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に置かれた反射体からの超音波エコーに対応する16個の受信信号に対して位相整合を施しても、図6の(B)に示すように、各々の受信信号は時間的に一致しない。
【0039】
図1の2段目の受信ビームフォーミング部50においては、16個の受信信号に対して、超音波ビームB2の方向への位相整合を施すことにより、受信フォーカス処理が行われる。この例の場合には、超音波ビームB2は、図7の(A)に示すように、超音波トランスデューサアレイ11の中心線を中心として左右約3.2°の範囲を走査するように送信されるため、超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に置かれた反射体からの超音波エコーに対応する16個の受信信号に対して位相整合を施すと、図7の(B)に示すように、各々の受信信号は時間的に一致する。
【0040】
図1の最下段の受信ビームフォーミング部50においては、16個の受信信号に対して、超音波ビームB3の方向への位相整合を施すことにより、受信フォーカス処理が行われる。この例の場合には、超音波ビームB3は、図6の(A)に示すように、超音波トランスデューサアレイ11の中心線から約6.4°の角度を中心として左右約3.2°の範囲を走査するように送信されるため、超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に置かれた反射体からの超音波エコーに対応する16個の受信信号に対して位相整合を施しても、上述した超音波ビームB1と同様に、各々の受信信号は時間的に一致しない。
【0041】
図2の各々の位相シフト部511〜5116における位相シフト量は、図1の走査制御部31から入力される位相制御信号PRefに基づいて位相制御部52によって制御される。
【0042】
以上のようにして位相整合が施された16個の受信信号は、各々の受信ビームフォーミング部50において、相関処理部55に入力されると共に、加算部53により加算された後に増幅部54に入力される。
【0043】
相関処理部55において、位相整合が施された16個の受信信号はそれぞれ、図8の(A)に示すように窓関数が掛けられた後に、図8の(B)に示すように参照信号Refとの相関が取られる。なお、図8は、超音波ビームB1についての例を示すものである。
【0044】
その後、相関処理部55において、16個の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値のラグの分散σtが求められる。求められた相関値のラグの分散σtは、相関処理部55から利得制御部57に出力される。
【0045】
図9の(B)は、図9の(A)に示すように反射体を超音波トランスデューサアレイ11の中心線上(θ=0°の方向)に置いたときの16個の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値のラグの分散σtを求めた一例を示す。また、図10の(B)は、図10の(A)に示すように反射体を超音波トランスデューサアレイ11の中心線から約6.4°の方向(θ=約6.4°の方向)に置いたときの16個の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値のラグの分散σtを求めた一例を示す。さらに、図11の(B)は、図11の(A)に示すように2個の反射体を超音波トランスデューサアレイ11の中心線上(θ=0°の方向)及び中心線から約6.4°の方向(θ=6.4°の方向)にそれぞれ置いたときの16個の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値のラグの分散σtを求めた一例を示す。
【0046】
図2の利得制御部57において、図3に示す利得テーブルが利得テーブルメモリ56から読み出された後、読み出した利得テーブルを参照して、相関処理部55から入力される相関値のラグの分散σtに基づいて増幅部54の利得が求められる。
【0047】
例えば、図9の(A)〜(C)に示すように、反射体を超音波トランスデューサアレイ11の中心線上(θ=0°の方向)に置いた場合には、超音波トランスデューサアレイ11の中心線から約−6.4°方向に送信された超音波ビームB1に対応するθ=−6.4°における相関値のラグの分散σtは、図9の(B)に点P1で示すように約40であるため、図3の(B)に示す利得テーブルを参照して、図2の増幅部54の利得は0.1(10-1)とされる。その結果、図2の増幅部54の出力信号が示すエコー強度は、図9の(C)に点Q1で示すθ=−6.4°における約−28dBから点Q1’で示す約48dBまで低減される。
【0048】
また、超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に送信された超音波ビームB2に対応するθ=0°における相関値のラグの分散σtは、図9の(B)に点P2で示すように約5であるため、図3の(B)に示す利得テーブルを参照して、図2の増幅部54の利得は1(100)とされる。その結果、図2の増幅部54の出力信号が示すエコー強度は、図9の(C)に点Q2で示すθ=0°における0dBのままとされる。
【0049】
さらに、超音波トランスデューサアレイ11の中心線から約6.4°方向に送信された超音波ビームB3に対応するθ=6.4°における相関値のラグの分散σtは、図9の(B)に点P3で示すように約40であるため、図3の(B)に示す利得テーブルを参照して、図2の増幅部54の利得は0.1(10-1)とされる。その結果、図2の増幅部54の出力信号が示すエコー強度は、図9の(C)に点Q3で示すθ=6.4°における約−25dBから点Q3’で示す約45dBまで低減される。
これにより、図9の(C)に示すように、θ=−6.4°付近及びθ=6.4°付近に生じるマルチビーム送信による虚像を除去することができる。
【0050】
同様にして、図10の(A)〜(C)に示すように、反射体を超音波トランスデューサアレイ11から約6.4°の方向(θ=6.4°の方向)に置いた場合にも、図10の(C)に示すように、θ=−6.4°付近及びθ=0°付近に生じるマルチビーム送信による虚像を除去することができる。
【0051】
また、図11の(A)〜(C)に示すように、反射体を超音波トランスデューサアレイ11の中心線上(θ=0°の方向)及び中心線から約6.4°の方向(θ=6.4°の方向)に置いた場合にも、θ=−6.4°付近に生じるマルチビーム送信による虚像を除去することができる。
【0052】
3個の受信ビームフォーミング部50から出力される音線信号は、画像信号生成部34に入力される。
画像信号生成部34においては、3個の受信ビームフォーミング部50から入力される音線信号に基づいて、画像信号が生成される。生成された画像信号は、画像処理部39において、階調処理や輪郭強調処理等の画像処理が施される。これにより、マルチビーム送信による虚像を除去された超音波画像が表示部70に表示される。
【0053】
以上の説明においては、16個の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値のラグの分散σtに基づいて図2の増幅部54の利得を求めたが、16個の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値の統計量(例えば、相関値の平均値、相関値の分散、相関値が最大となるまでのラグの平均値、及び、相関値が最大となるまでのラグの分散等)に基づいて増幅部54の利得を求めることができる。
【0054】
また、マルチビーム送信の場合を例として説明したが、シングルビーム送信の場合でも、受信ビームフォーミング部50において、16個の受信信号の各々と参照信号Refとの相関値のラグの分散σt等に基づいて図2の増幅部54の利得を求めることにより、超音波画像に生じるサイドローブによる虚像を除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、超音波を送受信して被検体の超音波画像を表示することにより、生体内の臓器の診断や非破壊検査を行うために用いられる超音波撮像装置において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波撮像装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す受信ビームフォーミング部50の構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す利得テーブルメモリ56に格納されている利得テーブルの内容を説明するための図である。
【図4】図2に示す相関処理部55において用いられる参照信号Refを説明するための図である。
【図5】超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に反射体を置いた場合における各々の超音波トランスデューサからの受信信号の位相整合前の波形を示す図である。
【図6】超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に反射体を置いた場合における各々の超音波トランスデューサからの受信信号の超音波ビームB1の方向への位相整合後の波形を示す図である。
【図7】超音波トランスデューサアレイ11の中心線上に反射体を置いた場合における各々の超音波トランスデューサからの受信信号の超音波ビームB2の方向への位相整合後の波形を示す図である。
【図8】図2に示す相関処理部55における相関処理を説明するための図である。
【図9】図2に示す増幅部54の利得の求め方を説明するための図である。
【図10】図2に示す増幅部54の利得の求め方を説明するための図である。
【図11】図2に示す増幅部54の利得の求め方を説明するための図である。
【図12】従来の複数の受信信号に対する位相整合処理を説明するための図である。
【図13】シングルビーム送信時のサイドローブによる虚像の発生を説明するための図である。
【図14】マルチビーム送信時のクロストークによる虚像の発生を説明するための図である。
【図15】特許文献1に開示されている超音波診断装置における超音波画像の画質向上手法を説明するための図である。
【図16】一般的なアダプティブアレイアンテナで行われている参照信号に基づく適応信号処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0057】
1 超音波用探触子
2 超音波撮像装置本体
11 トランスデューサアレイ
11a 超音波トランスデューサ
20 切換回路
21 送信回路
22 受信回路
30 コンピュータ
31 走査制御部
32 波形データ生成部
33 送信メモリ
34 画像信号生成部
35 画像処理部
36 受信メモリ
40 記録部
50 受信ビームフォーミング部
511〜51N 位相シフト部
52 位相制御部
53 加算部
54 増幅部
55 相関処理部
56 利得テーブルメモリ
57 利得制御部
70 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波トランスデューサから被検体に向けて超音波ビームを送信し、該被検体から反射される超音波エコーを前記複数の超音波トランスデューサにより受信して得られる複数の受信信号を処理することにより、該被検体に関する画像情報を得る超音波撮像装置であって、
前記複数の受信信号の各々と参照信号との相関値の統計値を求める相関処理手段と、
前記複数の受信信号を加算する加算手段と、
前記加算手段により加算された受信信号を増幅する増幅手段と、
前記相関処理手段により求められた相関値の統計値に基づいて前記増幅手段の利得を制御する利得制御手段と、
を具備する超音波撮像装置。
【請求項2】
前記超音波エコーの到来方向情報に従って前記複数の受信信号に対して位相整合処理を行う位相整合処理手段をさらに具備し、
前記相関処理手段が、前記位相整合処理手段により位相シフトされた複数の受信信号の各々と参照信号との相関値の統計値を求める、
請求項1記載の超音波撮像装置。
【請求項3】
前記相関値の統計値が、前記複数の受信信号の各々と前記参照信号との相関値の平均、前記複数の受信信号の各々と前記参照信号との相関値の分散、前記複数の受信信号の各々と前記参照信号との相関値が最大となるまでのラグの平均値、又は、前記複数の受信信号の各々と前記参照信号との相関値が最大となるまでのラグの分散である、請求項1又は2記載の超音波撮像装置。
【請求項4】
前記参照信号が、既知の送信音圧波形と被検体の平均的な周波数特性とから推定した波形を有する信号、又は、空間特性が異なる送信ビームを用いて得られた信号である、請求項1〜3のいずれか1項記載の超音波撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−217943(P2006−217943A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31454(P2005−31454)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】