説明

車両のサスペンションストロークの推定方法及び該方法を実施する装置

【課題】車両のサスペンションストロークを推定する方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両サスペンションストローク推定方法は、a)サスペンションのストロークをサスペンションのショックアブソーバ内の圧力に関連づける変動法則(10)を突き止めるステップと、b)ステップa)において突き止められた変動法則(10)に基づいて、測定された圧力値に関連づけられたサスペンションストローク値を推定するステップと、c)長手方向における車両の動的特徴を検出/取得するステップと、d)ステップc)において検出/取得された長手方向車両動的特徴に基づいてステップa)において突き止められた変動法則(10)を再較正するステップ(30)とを有する。本発明は又、本発明の車両サスペンションストローク推定方法を実施する装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンションのストロークを推定する方法及びこの方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ストロークは、サスペンションの電子制御に必要な量である。
【0003】
典型的には、直線ポテンショメータにより測定され、この直線ポテンショメータは、センサとして、脆弱であり且つコスト高であるという欠点を備えており、かくして、工業規模で利用するのが困難である。
【0004】
ストロークは、更に、サスペンションにより生じた力の測定からそれほど容易に導き出せるわけではない。事実、サスペンションの圧縮の関数としてサスペンションにより生じる力は、3つの基本的な成分、即ち、ショックアブソーバに起因する消散形式のものであって、サスペンション伸び速度に比例した力、コイルばねに起因していて、サスペンションの伸びに比例する弾性力、及びコイルばねと並列に配置されたガススプリングが設けられている場合、このガススプリングに起因すると共に伸びの非線形関数に起因した弾性力に分解できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる成分は、サスペンションのストロークの推定を可能にするうえで有用ではない。最初に述べた力は、伸び速度に関する指標を提供するに過ぎず、この場合、位置は、積分により伸び速度から得られる位置から1つ分のオフセットをプラスし又はマイナスした位置である。
【0006】
コイルばねの弾性力成分は、位置に比例しており、位置の直接測定値を提供できるが、この解決策は実用的ではない。というのは、関連の力成分の測定は、容易には行われないからである。
【0007】
本発明の目的は、かかる欠点を解決し、ポテンショメータの使用と比較して強固であり且つコストが低いストローク突き止め解決策を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、非常に正確であり、かくして有効ストローク全体に対して推定誤差を無視できるようにするサスペンションストロークの推定方法を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、車両の作動条件に動的に適合できるサスペンションストロークの推定方法を提供することにある。
【0010】
本発明の最後の目的は、上述の方法を実施できるサスペンションストロークの推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的及び他の目的は、請求項1記載のストロークの推定方法並びに請求項11記載の装置を提供することにより達成される。
【0012】
この方法及び装置の別の特徴は、従属形式の請求項の内容である。
【0013】
本発明のサスペンションストロークの推定方法及び関連の装置の特徴及び利点は、添付の図面を参照して行われる以下の例示であり且つ非限定的な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図に関し、車両のサスペンションストロークの推定方法は、これをモーターサイクルの前輪のサスペンションに適用することにより完全に例示的な仕方で示されている。
【0015】
本出願人は、サスペンションのショックアブソーバ内に存在する圧力とサスペンションのストロークとの間に存在する関連性を利用することにより、検出/取得圧力データの適当な処理に基づいて、サスペンションの圧縮レベルを推定することができるということを突き止めた。
【0016】
そのためには、今までストロークの直接測定に用いられたポテンショメータよりも非常に強固であり且つコストが低い圧力センサを用いることができる。したがって、本出願人は、サスペンションのショックアブソーバ内の圧力とサスペンションのストロークを互いに関連づけるモデル10を突き止めた。
【0017】
ショックアブソーバ内に存在する流体の断熱モデル化に由来する系統誤差を無くすために、本出願人は、ブラックボックスモデルから着手した。かかる方式により、時間に先立って入口(圧力)及び出口(伸び)が分かるので、入口と出口との間の関係を得て入口及び出口を支配する物理的法則を無視することができる。
【0018】
このようにして得られたモデルの有効性は、突き止められるべき系が受ける外乱形式に強く依存しており、したがって、本出願人は、関心のある変数の取る値の区間全体をカバーできる繰り返し可能な試験を導入することが必要であると考えた。
【0019】
したがって、十分なサイズの繰り返し可能な試験信号を得ることができない道路上での試験走行を切り捨てた。
【0020】
具体的に言えば、モーターサイクルの前輪を1つの壁に結合し、周期的な力を2つのハンドルバー半部に加え、したがって、ハンドルバーの枝分かれ部を完全に圧縮することにより繰り返し可能な試験を例示的に実施した。
【0021】
図1には、上述のようにして得られた伸び及び圧力の変化状態が示されている。
【0022】
測定圧力とこれに対応した伸びとの間の関連を後で求めるので、本出願人は、収集したデータ(図2に示されている)から始めて2つの量を互いの関数として表すことを選択した。
【0023】
かかる表示内容から、本出願人は、圧縮段階と伸長段階との間のヒステリシス挙動の存在を提示した。
【0024】
したがって、本出願人は、ヒステリシス成分をモデル化したダイナミックフィルタ20を更に突き止めて2つのモデル10,20を図3に示すようにタンデムに配置することが好ましいと考えた。
【0025】
サスペンションのショックアブソーバ内の圧力とサスペンションのストロークを互いに関連づけるモデル10の識別に関し、本出願人は、係数が利用可能な実験データnに最小二乗法を適用することにより決定される適当な次数の多項式、好ましくは三次多項式を採用した。
【0026】
その他の点については、利用可能な実験データnから始めて、変動法則のパラメータを突き止める任意他の方法、例えば補間法、トレーニングニューラルネットワーク法又はウェーブレット法等により関係式を構築できる。
【0027】
サスペンションのショックアブソーバ内の圧力とサスペンションのストロークとの間の関係の三次代数多項式によるモデル化は、図4及び図5に示された結果をもたらし、実際の系に存在するヒステリシスに起因する推定誤差をかかる結果から導き出す。
【0028】
ヒステリシス挙動をモデル化した動的ブロック20によってかかる推定誤差を減少させた。
【0029】
そのために、本出願人は、適当な因果ディジタル系、例えば、次の伝達関数、即ち、
【数1】

に従って1の利得、極及びゼロによって特徴づけられる一次の時間に独立な線形システムを突き止めた。
【0030】
例えば最小二乗法のような突き止め方法により関連のパラメータを突き止めた。導入されたブロックのカスケードは、最適結果の取得を可能にし、図6に示すように、推定誤差の正味の減少が得られた。
【0031】
ショックアブソーバチャンバの圧力と周囲環境の温度との間の関連により、作動条件の関数としての推定値のありうる変動性が導入され、かかる変動性は、車速及び制動状態の関数としての推定値の動的再較正によって無くなる。
【0032】
したがって、圧力センサに加えて、長手方向における車両の動的特徴のためのセンサが更に必要である。長手方向における車両の動的特徴という用語は、車両の速度及び制動状態を意味している。
【0033】
再較正ステップ30は、平面(xstroke,p)|内における少なくとも一点の特定から始まり、特に、同一の中立位置条件において圧力及び伸びに関して実行された平均演算から座標

を得ることができる。中立位置という用語は、正(制動)であるにせよ負(制動)であるにせよ、低い速度であるにせよゼロの速度であるにせよ、いずれにせよ、加速がほぼ完全に存在しないことを意味している。
【0034】
2つの量のうち

を恣意的に固定し(31)、他方、他方の量である

を有効圧力pの測定(33)から開始して制御ユニットでリアルタイムに計算する(32)。
【0035】
かかる点を得た後、次に、以下に説明する方法によって特性曲線の重ね合わせを設定することができ、かかる方法は、あらかじめ定められたインタバルで繰り返されて、推定手順の連続再較正を保証する。
【0036】
恣意的に固定されたストローク値

から始まり、対応の公称圧力値

を得て、サスペンションのショックアブソーバ内の圧力とストロークとの間の関係のモデル化ステップ中に突き止められた特性を次のように逆にする。
【数2】

【0037】
次に、中立位置の基準伸び値

に対応した平均圧力値

の計算(32)が、制御ユニットで行われる。
【0038】
次に、選択された点において、2本の曲線相互間のオフセット距離を次式により求める(36)。
【数3】

【0039】
次に、以下の関係式により公称条件に戻すために、計算されたオフセットを瞬時圧力値pから減算する。
【数4】

【0040】
実際、曲線は、計算されたオフセットに等しい値だけ圧力曲線に沿って平行移動する。
【0041】
このようにすると、ストロークの正確な推定に進むことが可能である。
【0042】
好ましくは、最善の結果を得ると共に誤差の推定における突然のジャンプを回避するために、因果ディジタルフィルタリング、例えばローパスフィルタリングによりオフセット値を先の値に相関させるのが良い。
【0043】
推定アルゴリズムを制御ユニットで実行し、テストランで試験した。その目的は、現実の条件においてもその有効な機能を実証することにある。
【0044】
図8は、公称条件を参照して決定された特性及びその結果としてのコミッテッド系統誤差を用いて実施された推定結果を示している。
【0045】
系統誤差は、一般に、サーマルグループ(thermal group)の近くに位置する枝分かれ部のスリーブの加熱に起因している。図9に示すように、再較正システムは、かかるばらつきを動的に補償することができ、それによりコミッテッドエラーの著しい減少を保証する。この図9は又、推定オフセットの経時的な変化状況を提供する再較正プロセスの動的性質を示しており、この動的性質は、あらかじめ設定されたインタバル毎に変更されることにより、全てのインタバルに関する実際の特性及び公称特性の正確な重ね合わせを保証する。
【0046】
得られた結果は、有効ストローク全体に対して無視できるほどの推定誤差をもたらすことができる推定の正確さを立証している。
【0047】
有利には、同じ推定方法は、任意他のサスペンション形式のストロークの推定にも利用できる。
【0048】
上述の説明から、本発明の対象物である装置の特性は、関連の利点と同様明確である。
【0049】
本発明のサスペンションストロークの推定方法は、実質的に、サスペンションのストロークとサスペンションのショックアブソーバ内の圧力を関連づける妥当な変動法則10を実験データに基づいて突き止める第1ステップと、突き止めた変動法則に基づいて、測定された圧力値に関連したストローク値を推定する第2ステップと、車両の作動条件を考慮に入れてストローク推定のための変動法則の再較正30を決定する長手方向車両動的特徴の繰り返し読み取りステップとを有する。
【0050】
好ましくは、本発明のサスペンションストローク推定方法は、第2ステップの推定誤差をダイナミックフィルタ20により是正するステップを更に有する。
【0051】
したがって、本発明のサスペンションストローク推定方法の実施のため、車両が加速段階にあるか制動段階にあるかを判定するためにショックアブソーバに取り付けられるべき圧力センサ並びに長手方向車両動的特徴に関するセンサに接続された処理手段、例えば車両の制御ユニットそれ自体を有する装置の提供で十分である。
【0052】
長手方向車両動的特徴に関するセンサを構成する考えられる解決策は、速度を読み取るために一般にモーターサイクルに既に設けられた車輪エンコーダを用いることである。他の解決策も、どの場合においても同様に有効である。
【0053】
単なる一例として、図7のブロック図は、車速、かくして加速度に関するエンコーダ及び制動状態に関するブレーキしきい値センサの使用に関している。
【0054】
さらに、既に上述したように、本発明の方法を通常既に車両に搭載されている電子機器、例えば車両制御ユニットにより実施できる。
【0055】
最後に上記において開示した方法について多くの改造例及び変形例を想到できることは明らかであり、本発明の全ての部分、更に、全ての細部は、技術的に均等な要素で置き換え可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】応力を受けた後のストローク及びショックアブソーバ内の圧力の時間的変動性に関する実験データのグラフ図である。
【図2】ストロークの変化を圧力の変化に関連づけるグラフ図である。
【図3】ストロークと圧力との間の関係のモデル化のブロック図である。
【図4】実験データに関して突き止められた変動法則のグラフ図である。
【図5】動的ブロックが存在しない場合の実際のストロークと推定ストロークとの比較を示すグラフ図である。
【図6】動的ブロックが設けられている場合の実際のストロークと推定ストロークの比較を示すグラフ図である。
【図7】公称条件の較正のブロック図である。
【図8】再較正ステップが行われない場合の実際のストロークと推定ストロークの比較を示すグラフ図である。
【図9】再較正ステップが行われた場合の実際のストロークと推定ストロークの比較を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0057】
10 サスペンションのショックアブソーバ内の圧力とサスペンションのストロークを関連づけるモデル
20 ダイナミックフィルタ
30 再較正ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のサスペンションのストロークを推定する方法であって、
a)前記サスペンションストロークを前記サスペンションのショックアブソーバ内の圧力に関連づける変動法則(10)を突き止めるステップと、
b)ステップa)において突き止められた前記変動法則(10)に基づいて、測定された圧力値に関連づけられたサスペンションストローク値を推定するステップと、
c)長手方向における前記車両の動的特徴を検出/取得するステップと、
d)ステップc)において検出/取得された前記長手方向車両動的特徴に基づいてステップa)において突き止められた前記変動法則(10)を再較正するステップ(30)とを有する、サスペンションストローク方法。
【請求項2】
ダイナミックフィルタ(20)により、前記ステップb)のありうる推定誤差を是正するステップを更に有する、請求項1記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項3】
変動法則を突き止める前記ステップa)は、利用できる実験データに突き止め方法を適応することにより多項式の係数を求めるステップから成る、請求項1又は2記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項4】
長手方向車両動的特徴を検出/取得する前記ステップc)は、前記車両が加速段階にあるか制動段階にあるかを判定するステップから成る請求項1〜3のうちいずれか一に記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項5】
変動法則を再較正する前記ステップd)は、
−中立位置条件に関連づけられたサスペンションストローク値

に基づいて公称圧力値

を求めるステップ(35)と、
−測定圧力値p(33)及び前記ステップc)において検出/取得された前記長手方向車両動的特徴(34)に基づいて平均圧力値

を求めるステップ(32)と、
−前記平均圧力値

と前記公称圧力値

の差としてオフセット値を計算するステップ(36)と、
−前記ステップa)において突き止められた前記変動法則を前記計算オフセット値に等しい値だけ圧力軸線に沿って平行移動させるステップとから成る、請求項1〜4のうちいずれか一に記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項6】
前記オフセット値を因果ディジタルフィルタリングにより先行するオフセット値と相関させる、請求項5記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項7】
前記ステップb)のありうる推定誤差の前記是正ステップは、ヒステリシス挙動をモデル化したブロック(20)によって前記ステップb)の前記推定結果をフィルタリングするステップから成る、請求項2〜6のうちいずれか一に記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項8】
前記ダイナミックフィルタ(20)は、因果ディジタル系(causal digital system)である、請求項2〜7のうちいずれか一に記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項9】
前記ダイナミックフィルタ(20)のパラメータを突き止め方法により求める、請求項2〜8のうちいずれか一に記載のサスペンションストローク推定方法。
【請求項10】
請求項1〜9のうちいずれか一に記載の前記車両のサスペンションストロークの推定方法を実施する装置であって、処理手段を有し、前記処理手段は、圧力センサに接続されると共に前記長手方向車両動的特徴のためのセンサに接続されている、装置。
【請求項11】
前記処理手段は、前記車両の制御ユニットである、請求項10記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−18800(P2009−18800A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−208243(P2008−208243)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(501441773)ピアジオ アンド コンパニア ソシエタ ペル アチオニ (15)
【出願人】(501193001)ポリテクニコ ディ ミラノ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO−Italy
【Fターム(参考)】