説明

車両のホイールアライメント調整方法

【課題】専用の評価装置を設けることなく、アライメント調整装置でスラスト角を調整できる車両のホイールアライメント調整方法を提供すること。
【解決手段】本発明の車両のホイールアライメント調整方法は、車両の左右前後の車輪の位置を検出するステップと、予め設定されている装置中心線MCに平行な方向への車輪13、14のずれ量を測定するセットバック量測定ステップと、左右の車輪13、14の装置中心線MCに直交する方向の距離を測定するトレッド量測定ステップと、測定ステップにより測定したセットバック量Sおよび後軸トレッド量TBに基づいて、スラスト角θを算出するステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のホイールアライメント調整方法に関し、詳しくは、車輪のアライメント調整時にスラスト角を算出し、車両の直進性を高める車両のホイールアライメント調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のアライメントを調整するアライメント調整装置が知られている(特許文献1参照)。
アライメント調整装置には、測定装置に載せられた車両の前後のトレッドの中心を測定装置の中心線に正対させて、トー角やキャンバー角などのホイールアライメントを測定し調整する、自動車生産ラインに使用されているものがある(特許文献1参照)。
一方、車両を設備に固定させた状態で後輪を回転させて、トー角、キャンバー角、スラスト角を測定し評価したり調整したりする機能を備えた、評価用に使用されているものがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−41913号公報
【特許文献2】特開2006−234774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アライメント調整の中で、特に後輪のスラスト角の測定と調整とを別々に行うなどの手間を要するため、簡易化が望まれていた。
【0005】
本発明は、アライメント調整の作業性を向上できる車両のホイールアライメント調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両のホイールアライメント調整方法は、車両(例えば、後述の車両10)の左右前後の車輪(例えば、後述の車輪11〜14)の位置を検出するステップと、予め設定されている装置中心線(例えば、後述の装置中心線MC)に平行な方向への前記車輪のずれ量を測定するセットバック量測定ステップと、前記左右の車輪の前記装置中心線に直交する方向の距離を測定するトレッド量測定ステップと、前記測定ステップにより求められたセットバック量およびトレッド量に基づいて、スラスト角を算出するステップと、を備えることを特徴とする。
【0007】
この場合、前記スラスト角を、以下の式(1)に従って求めることが好ましい。
【数1】

[式(1)中、Sはセットバック量、TBはトレッド量、θはスラスト角である。]
【0008】
この場合、前記装置中心線に対するスラスト角に対応させて、前記左右の後輪の中心を原点として、左右の前輪のトー角を含むアライメント調整することが好ましい。
【0009】
この発明によれば、車両のホイールアライメントの予め設定された装置中心線に対する基準位置からの変位量を測定して求められたセットバック量および後軸トレッド量に基づいて、スラスト角を算出したので、このスラスト角を用いて前輪のアライメントの調整を同時に行うことができ、調整作業の集中化により作業性が向上する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両のホイールアライメントの予め設定された装置中心線に対する基準位置からの変位量を測定して求められたセットバック量および後軸トレッド量に基づいて、スラスト角を算出したので、このスラスト角を用いて前輪のアライメントの調整を同時に行うことができ、調整作業の集中化により作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両のホイールアライメント調整方法を実行するアライメント調整装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】前記実施形態に係るアライメント調整装置の後輪支持ユニットの平面図および側面図である。
【図3】前記実施形態に係るアライメント調整装置における支持ユニットに車輪を載置した状態を示す側面図である。
【図4】前記実施形態に係るアライメント調整装置における支持ユニットの配置を示す平面図である。
【図5】前記実施形態に係るアライメント調整装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】前記実施形態に係るアライメント調整装置のセットバック量の象限を示す模式図である。
【図7】前記実施形態に係るアライメント調整装置を用いてスラスト角を算出する手順を説明するための模式図である。
【図8】前記実施形態に係るアライメント調整装置のスラスト角を算出する手順を説明するための別の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両のホイールアライメント調整方法を実行するアライメント調整装置1の全体構成を示す斜視図である。
【0013】
アライメント調整装置1は、車両10の車輪11〜14のアライメントおよびトーを調整するものである。
検査対象となる車両10は、左前輪11、右前輪12、左後輪13、および右後輪14を備える。
【0014】
このアライメント調整装置1は、装置中心線MCを挟んで両側に設けられた左前輪支持ユニット21および右前輪支持ユニット22と、これら前輪支持ユニット21、22の後方でかつ装置中心線MCを挟んで両側に設けられた左後輪支持ユニット23および右後輪支持ユニット24と、を備える。
【0015】
左前輪支持ユニット21は、車両10の左前輪11を支持し、右前輪支持ユニット22は、車両10の右前輪12を支持する。
左後輪支持ユニット23は、車両10の左後輪13を支持し、右後輪支持ユニット24は、車両10の右後輪14を支持する。
【0016】
また、このアライメント調整装置1は、前輪支持ユニット21、22を車長方向に移動させる図示しない移動機構を備える。この移動機構により、車両10のホイールベースに応じて前輪支持ユニット21、22と後輪支持ユニット23、24との間隔を調整する。
【0017】
図2および図3は、後輪支持ユニット23の平面図および側面図である。なお、後輪支持ユニット24および前輪支持ユニット21、22についても、後輪支持ユニット23と同様の構成である。
【0018】
後輪支持ユニット23は、それぞれ、一対のローラ30A、30Bと、これら一対のローラ30A、30Bを回転可能に支持するテーブル31と、テーブル31の中心軸Rを回転軸としてテーブル31を旋回させる旋回機構32と、この旋回機構32を装置中心線MCに沿った方向にレール133上を移動する第1移動機構33と、この第1移動機構33を装置中心線MCに直交する方向にレール134上を移動する第2移動機構34と、図示しないエンコーダにより、装置中心線MCに沿った方向の第1移動機構33の移動量を検出する第1位置検出装置35と、装置中心線MCに直交する方向の第2移動機構34の移動量を検出する第2位置検出装置36と、を備える。
さらに、各支持ユニット21〜24には、車輪のクランプ機構37が設けられている。このクランプ機構37は、ローラ371で車輪の側面を内側と外側から挟むことで、キャンバー角やトー角を検出する。
【0019】
ローラ30A、30Bは、回転軸が互いに平行となるようにテーブル31に支持される。これらローラ30A、30Bの上には、車輪が載せられる。
旋回機構32は、車輪のトー角に追随可能となっている。第1移動機構33は、車輪のセットバック量に応じて車両の前後に追随可能になっている。第2移動機構34は、幅方向の装置中心線MCに対して左右の車輪の中心が対称となるように、図3のアーム341に枢着された図4に示すイコライザ342により自動調整され、アライメント調整装置1と車両10とが正対した状態となる。
【0020】
図4は、アライメント調整装置1における支持ユニット21〜24の配置を示す模式図である。
支持ユニット21〜24の中心軸をR〜Rとすると、これら支持ユニット21〜24は、それぞれ、アーム341に枢着されたイコライザ342により、車輪の中心軸R〜Rが基準位置S〜Sに位置するように配置されている。
ここで、基準位置S、Sは、上述の支持ユニット21〜24のイコライザ342により、装置中心線MCからの距離が等しくなっている。
また、基準位置S、Sも、基準位置S、Sと同様に、装置中心線MCからの距離が等しくなっており、基準位置S、S間の距離を、基準トレッド量TSとする。
【0021】
以下、アライメント調整装置1の動作について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、初期設定として、アライメント調整装置1の支持ユニット21〜24を基準位置S〜Sに予めセットしておく。
【0022】
ステップS1では、車両10を走行させて、前後輪11〜14をアライメント調整装置1上に載置する。すなわち、車両10の前輪11、12を前輪支持ユニット21、22のテーブル31に載置し、車両10の左後輪13、14を後輪支持ユニット23、24のテーブル31に載置する。
すると、車両10の車輪11〜14の位置や向きに応じて、支持ユニット21〜24のテーブル31が基準位置S〜Sから移動して、クランプ機構37およびイコライザ342により装置中心線MCに対して正対した状態でクランプされる。
【0023】
ステップS2では、図4に示すように、装置中心線MCと予めセットされた基準位置S、Sを結ぶ線分と装置中心線MCとの交点を原点COとして、車両10を正対させる。
【0024】
ステップS3では、車輪13、14の中心R、Rのセットバック量を検出する。
すなわち、支持ユニット23、24の第1、第2位置検出装置35、36により、支持ユニット23、24の基準位置S、Sからの装置中心線MCに沿った方向のずれ量を、左側セットバック量SLおよび右側セットバック量SRとして検出する。
ここで、図6に示すように、右側セットバック量SRは、原点CO回りの第1象限では正、第2象限では負とする。また、左側セットバック量SLは、原点CO回りの第4象限では負、第3象限では正とする。
【0025】
ステップS4では、車輪13、14の中心R、Rのトレッド変化量を検出する。
すなわち、後輪13、14の中心R、Rの基準位置S、Sからの装置中心線MCに直交する方向のずれ量を、左側トレッド変化量TLおよび右側トレッド変化量TRとして検出する。
ここで、左側トレッド変化量TLおよび右側トレッド変化量TRは、左向きを正とする。
【0026】
ステップS5では、スラスト角θを算出する。
まず、図7に示すように、後輪13、14の中心R、R同士を結ぶ線分を後軸RAとし、この後軸RAと装置中心線MCとの交点を通り後軸RAに直交する直線をスラスト中心線SCとし、このスラスト中心線SCと装置中心線MCとの成す角度を、スラスト角θとする。
スラスト角θは、装置中心線MCに対して反時計回りを正とし、時計回りを負とする。すなわち、スラスト中心線SCは、スラスト角θの値が正である場合には、装置中心線MCに対して左側となり、負である場合には右側となる。
まず、以下の式(2)に従い、セットバック量Sを算出する。
【0027】
【数2】

【0028】
また、以下の式(3)に従い、後軸トレッド量TBを算出する。
【0029】
【数3】

【0030】
そして、セットバック量Sおよび後軸トレッド量TBに基づいて、以下の式(4)に従い、スラスト角θを算出する。
【0031】
【数4】

【0032】
図7に示す状態では、右側セットバック量SRおよび左側セットバック量SLが正となり、セットバック量Sが正となるため、スラスト角θも正となる。
一方、図8に示す状態では、右側セットバック量SRは正であるが、左側セットバック量SLが負となり、セットバック量Sが負となる場合には、スラスト角θも負となる。
【0033】
なお、左右のトレッド変化量TL、TRを個別に測定することとしたが、実際には、イコライザ342によりトレッド中心が固定され左右の変化量が等しくなるため、左側トレッド変化量TLと右側トレッド変化量TRとは常に等しくなる。
したがって、第1位置検出装置35により、右側セットバック量SRおよび左側セットバック量SLを個別に測定する一方、第2位置検出装置36により、左側トレッド変化量TLおよび右側トレッド変化量TRのうち一方のみを測定すればよい。
【0034】
ステップS6では、図4の幾何学的中心線MCに対する仮想線で示すスラスト角θに対応したスラスト中心線SCを基準線として、左右の前輪11、12のアライメントを調整する。また、このとき、車両の直進状態に対して運転席の操舵ハンドルHを一致させる調整も同時に行うこともできる。
【0035】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)車両10のホイールアライメントの予め設定された装置中心線MCに対する基準位置S、Sからの変位量を測定して求められたセットバック量Sおよび後軸トレッド量TBに基づいて、スラスト角θを算出したので、このスラスト角θを用いて前輪11、12のアライメントの調整を同時に行うことができ、調整作業の集中化により作業性が向上する。
【0036】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、ステップS3にてセットバック量Sを検出し、ステップS4にてトレッド変化量を検出したが、これらのステップは、同時に実行してもよいし、逆の順番で行ってもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 車両
11〜14 車輪
MC 装置中心線
S セットバック量
TB 後軸トレッド量
θ スラスト角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右前後の車輪の位置を検出するステップと、
予め設定されている装置中心線に平行な方向への前記車輪のずれ量を測定するセットバック量測定ステップと、
前記左右の車輪の前記装置中心線に直交する方向の距離を測定するトレッド量測定ステップと、
前記測定ステップにより求められたセットバック量およびトレッド量に基づいて、スラスト角を算出するステップと、を備えることを特徴とする車両のホイールアライメント調整方法。
【請求項2】
前記スラスト角を、以下の式(1)に従って求めることを特徴とする請求項1に記載の車両のホイールアライメント調整方法。
【数1】

[式(1)中、Sはセットバック量、TBはトレッド量、θはスラスト角である。]
【請求項3】
前記装置中心線に対するスラスト角に対応させて、前記左右の後輪の中心を原点として、左右の前輪のトー角を含むアライメント調整する、請求項1または2に記載の車両のホイールアライメント調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−2334(P2011−2334A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145623(P2009−145623)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】