説明

車両の乗員保護装置

【課題】車両の前面衝突時に助手席に着座した小柄な体格の乗員を充分に保護することができる車両の乗員保護装置を提供する。
【解決手段】乗員保護装置9は、車両衝突時に膨張展開して助手席61に着座した所定の小柄の乗員の顔面87に対応した位置に形成されたほぼ窪んだ受け部83を備えたエアバック15と、車両1の衝突時にエアバッグ15にガスを供給してエアバッグ15を助手席前方に膨張展開させるインフレータ17と、助手席61に着座している乗員の前後方向の着座位置を検出するポジションセンサ99と、このポジションセンサ99により検出された乗員の前後方向の着座位置に応じて、車両衝突時に所定の小柄な乗員の顔面87が受け部83により受けられるように、乗員の拘束姿勢を調整するシートベルト装置27、ポップアップシート用エアバッグユニット29、及びニーエアバッグユニット31を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護装置に係わり、特に、助手席側に着座した乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に記載されているように、助手席用エアバッグの膨張展開時に、助手席の乗員と対向する面に凹んだ形状が形成されるようにエアバッグを形作るようにした車両の乗員保護装置が知られている。このような乗員保護装置では、凹んだ形状の上側にある、乗員と対向する面を大柄な体格の乗員の顔面を受ける受け面として機能させ、凹んだ形状を構成する下側の傾斜面を、小柄な乗員(女性等)の顔面を受ける受け面として機能させることによって、乗員の体格に応じて、適切に乗員を保護するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−19560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような乗員保護装置において、小柄な乗員の場合に、その乗員の着座位置によっては、乗員の顔面を、小柄な乗員用の受け面によって正確に受けられない場合があった。
一般的に、乗員がシートベルト装置を装着した状態で車両が衝突すると、シートベルト装置のラップベルトによって乗員の腰部がシートバックから離れないようにしながら乗員の上半身を前傾姿勢にさせて、膨張展開したエアバッグによって乗員の顔面を受けるようになっている。しかしながら、乗員の助手席の着座位置によって、車両衝突時に乗員が前傾するときの支点となる位置が変化して乗員の顔面が、エアバッグの小柄な乗員用の受け面によって受けられる位置からずれてしまう場合がある。
【0005】
そこで本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両の前面衝突時に助手席に着座した所定の小柄な体格の乗員を充分に保護することができる車両の乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の衝突時に助手席に着座した乗員を拘束して保護する車両の乗員保護装置であって、インストルメントパネルの助手席前方の部分に収納され、車両衝突時に膨張展開して助手席に着座した所定の小柄の乗員の顔面に対応した位置に形成されたほぼ窪んだ受け部を備えたエアバックと、このエアバッグと共にインストルメントパネルの助手席前方の部分に収納され、車両の衝突時にエアバッグにガスを供給してエアバッグを助手席前方に膨張展開させるインフレータと、助手席に着座している乗員の前後方向の着座位置を検出する着座位置検出手段と、この着座位置検出手段により検出された乗員の前後方向の着座位置に応じて、車両衝突時に所定の小柄な乗員の顔面が受け部により受けられるように、乗員の拘束姿勢を調整する乗員拘束姿勢調整手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
このように構成された本発明によれば、車両衝突時に、着座位置検出手段によって検出された乗員の着座位置から推定される乗員の体格に応じて、乗員の拘束姿勢を調整することができる。これにより、車両が衝突してエアバッグが膨張展開したときに、所定の小柄な体格を有する乗員の顔面を適切な位置で受けることができ、所定の体格が小柄な乗員をより確実に保護することができる。
【0008】
また、本発明において好ましくは、乗員拘束姿勢調整手段は、ショルダベルト及びラップベルトを備えたシートベルト装置であり、このシートベルト装置は、さらに、車両衝突時にショルダベルトに所定の引き出し抵抗を発生させるロードリミッタを備えたリトラクタと、車両衝突予知時にラップベルトに引張力を与えるプリテンショナとを備え、プリテンショナは、乗員の着座位置が所定位置よりも前側である場合に、ラップベルトに引張力を与えるようになっている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、乗員の着座位置が所定位置よりも前側にある場合に、プリテンショナによってラップベルトに引張力を付与して、衝突予知時に乗員の腰部を助手席の車両後方側に拘束することができる。そしてこれにより、乗員の姿勢を、腰部が後方に押され、且つその腰部を支点とした前傾姿勢に調整することができるので、小柄な体格の乗員の顔面を確実に受け部によって受けることができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、乗員拘束姿勢調整手段は、助手席のシートクッションの前側部分を持ち上げる上昇手段であり、この上昇手段は、乗員の着座位置が所定位置よりも前側である場合に、上昇手段を作動させて助手席のシートクッションの前側部分を持ち上げるようになっている。
【0011】
このように構成された本発明によれば、乗員の着座位置が所定位置よりも前側にある場合に、上昇手段によって助手席シートのシートクッションの前側部分を上昇させる。これにより乗員の大腿部を持ち上げて、乗員の重心を車両後方側に移動させて、衝突時の慣性力によって乗員の腰部が前方に移動するのを防止することができる。そしてこれにより、乗員の姿勢を、腰部が後方に押され、且つその腰部を支点とした前傾姿勢に調整することができるので、小柄な体格の乗員の顔面を確実に受け部によって受けさせることができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、乗員拘束姿勢調整手段は、助手席の車両前方に配置された、ニーエアバッグ及びこのニーエアバッグにガスを供給するインフレータを備えるニーエアバッグユニットであり、このニーエアバッグユニットは、乗員の着座位置が所定位置よりも前側である場合に、ニーエアバッグユニットのインフレータを作動させてニーエアバッグを膨張展開させるようになっている。
【0013】
このように構成された本発明によれば、乗員の着座位置が所定位置よりも前側にある場合に、ニーエアバッグを膨張展開させる。これにより乗員の膝にニーエアバッグを押し付けて、乗員の腰部が前方に移動するのを防止することができる。そしてこれにより、乗員の姿勢を、腰部が後方に押され、且つその腰部を支点とした前傾姿勢に調整することができるので、小柄な体格の乗員の顔面を確実に受け部によって受けさせることができる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、更に、助手席に着座している乗員の重量を検出する重量検出手段を備え、乗員拘束姿勢調整手段は、着座位置検出手段によって検出された乗員の着座位置及び重量検出手段によって検出された乗員の重量に応じて、乗員の拘束姿勢を調整する。
【0015】
このように構成された本発明によれば、乗員の重量を考慮して乗員の体格を判断することができる。そしてこれにより、乗員の体格を判断した上で、より確実に乗員を保護することができる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、エアバッグの受け部は、上下方向に延びる一対の突出部の間に形成されている。
【0017】
このように構成された本発明によれば、一対の突出部の内側側部によって乗員の顔面の両側を受けて衝撃を吸収すると共に、一対の突出部によって、乗員の肩を受けることができ、より確実に乗員を保護することができる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、着座位置検出手段は、助手席の前後方向のスライド位置を検出する位置検出手段である。
【0019】
このように構成された本発明によれば、簡単な機構を用いて乗員の着座位置を検出することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、車両の衝突時に所定の小柄な体格の乗員を充分に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態による乗員保護装置が搭載された車両の車室前部を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態による乗員保護装置が搭載された車両の車室の側面図である。
【図3】本発明の実施形態によるエアバッグユニットのエアバッグの膨張展開状態を示す側面図である。
【図4】図3のエアバッグを車室内側から見た正面図である。
【図5】本発明の実施形態による乗員保護装置の制御系統を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施形態による乗員保護装置を作動させた場合における、助手席側からみた車室の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による車両の乗員保護装置について説明する。図1は本発明の実施形態にかかる乗員保護装置が搭載された車両の車室前部を示す正面図であり、図2は図1の車室の側面図である。
【0023】
まず、図1に示すように、車両1の車室の前側には、車幅方向に延びるインストルメントパネル3が設けられており、インストルメントパネル3の運転席側には、ステアリングホイール5及び各種計器7が設けられている。また、インストルメントパネル3の助手席側には、後述する助手席に着座している乗員を保護するための本実施形態による乗員保護装置9の一部を構成するエアバッグユニット11が収納されている。
【0024】
図2に示すように、エアバッグユニット11は、開口を有するケーシング13と、折り畳まれた状態で該ケーシング13内に収容されたエアバッグ15と、ケーシング13内に収容され、エアバッグ15にガスを供給してエアバッグ15を助手席前方で膨張展開させるインフレータ17とを備える。エアバッグユニット11のケーシング13は、ブラケット19を介して、車幅方向に延びるステアリング支持部材21に固定されている。インストルメントパネル3を構成するアッパーインストルメントパネル23の下面には、断面略V字状の破断溝25が形成されている。この破断溝25は、エアバッグ15の膨張展開圧によって破断して、アッパーパネル23がエアバッグ15の膨張展開を妨げないようになっている。
【0025】
また、乗員保護装置9は、乗員の拘束姿勢を調整する乗員拘束姿勢調整手段としてのシートベルト装置27と、ポップアップシート用エアバッグユニット29と、ニーエアバッグユニット31とを備える。
【0026】
シートベルト装置27は、乗員の腰部を保護するためのラップベルト33及び乗員の胸部を保護するためのショルダベルト35からなるシートベルト37と、シートベルト37に対してスライド可能に取り付けられたタング39と、タング39が着脱自在に係合するようになったバックル41とを備える3点式のシートベルト装置である。シートベルト37のショルダベルト35側の端部には、Bピラー43の下方に設けられたリトラクタ45が装着される。このリトラクタ45には、シートベルト37の弛みを除去するための第1プリテンショナ機構47が内蔵されており、この第1プリテンショナ機構47は、シートベルト37を巻き取る巻き取りローラを巻き取り方向に回転駆動する電動モータ(図示せず)を備える。また、第1プリテンショナ機構47は、車両の衝突時に、ショルダベルト33の引張力が所定値を超えるとシートベルト37の巻き取りを解除するロードリミッタ機能を有する。
【0027】
シートベルト37は、リトラクタ45から助手席の側にあるBピラー43に沿って上向きに延び、さらにBピラー43に設けられた、シートベルト37を通すためのスリップガイド49を通り、このスリップガイド49を折り返し地点としてそこから下向きに延びる。また、シートベルト37のラップベルト33側の端部は、助手席の外側下部で車体に固定された外側固定部51に固定される。この外側固定部51には、第2プリテンショナ機構53が内蔵されている。この第2プリテンショナ機構53は、一端が、シートベルト37のラップベルト33の端部と連結されたワイヤ55と、ワイヤ55の他端と連結されたシリンダ57と、シリンダ57にガスを注入するインフレータ59とを備える。
【0028】
シートベルト37の中央部には、タング39が、シートベルト37に対してスライド可能に取り付けられている。タング39は、車体に固定されたバックル41に係合するようになっている。そしてシートベルト37は、タング39をバックル41に係合させたときに、ショルダベルト35によって乗員の胸部を保護し且つラップベルト33によって乗員の腰部を保護する。
【0029】
助手席61は、シートクッション63と、下端部がシートクッション63の後端部に回動可能に支持されたシートバック65と、このシートバック65の上端に取り付けられたヘッドレスト67とを備える。そして、助手席61のシートクッション63内部には、ポップアップシート用エアバッグユニット29が配設されている。ポップアップシート用エアバッグユニット29も、エアバッグユニット11と同様に、ケーシング69と、該ケーシング69内に折り畳まれた状態で収容されたポップアップシート用エアバッグ71と、ポップアップシート用エアバッグ71にガスを供給するポップアップシート用インフレータ73とを備える。
【0030】
また、インストルメントパネル3のエアバッグユニット11の下方には、ニーエアバッグユニット31が内蔵されている。このニーエアバッグユニット31も、エアバッグユニット11と同様に、ケーシング75と、該ケーシング75内に折り畳まれた状態で収容されたニーエアバッグ77と、ニーエアバッグ77にガスを供給するニーエアバッグ用インフレータ79とを備える。
【0031】
図3は、エアバッグユニットのエアバッグの膨張展開状態を示す側面図であり、図4は、図3のエアバッグを車室内側から見た正面図である。図3及び図4に示すように、エアバッグ15は、膨張展開時に助手席61と対向する、エアバッグ15の車両後方側の面81に受け部83が形成されるように形作られる。この受け部83は、膨張展開時のエアバッグ15の車幅方向中央部位置決めされたほぼ窪んだ形状によって構成される。また、受け部83内には、窪み最深部から下側に向けてエアバッグの車両後方側の面81まで延びる受け面85が形成される。この受け部83の高さ方向の位置は、小柄な体格の乗員の顔面87に対応した位置に形成される。具体的には、受け部83は、後述する方法により、小柄な体格の乗員が乗員拘束姿勢調整手段によって所定の姿勢が調整されたときに、受け面85によって小柄な体格の乗員の顔面87を受けられるような高さとされる。また、エアバッグ15は、膨張展開時において受け部83の左右に、上下方向に延びる一対の突出部89,91が形成されるように形作られている。この一対の突出部89,91は、受け部83を挟むように配置されており、乗員の顔面が受け部83内に入ったときに、一対の突出部89,91の内側側部で乗員の顔面の両側部を受けて衝撃吸収すると共に、一対の突出部89,91で乗員の肩や胸を受けるようになっている。
ここで「小柄な体格の乗員」とは、例えば、アメリカ人女性を体格順に並べて、その中で下位5%以内に入るような小柄な人をいう。また、この受け部83の上方にあるエアバッグ15の車両後方側の面81は、大柄な体格の乗員の顔面93を受ける受け面を構成する。尚、本明細書では、「大柄な体格の乗員」とは、「小柄な体格の乗員」以外の乗員をいうものとする。
【0032】
図5は、上述したエアバッグユニット11及び乗員拘束姿勢調整手段としてのニーエアバッグユニット31、ポップアップシート用エアバッグユニット29、及びシートベルト装置27等を有する乗員保護装置の制御系統を示すブロック図である。図5に示すように、乗員保護装置9の制御系統は、車両1の前面衝突を検出するための加速度センサからなる衝突センサ95と、車両1と該車両1の前方に位置する障害物との間の距離を検出するための距離センサ97と、助手席61のシートポジションを検出するポジションセンサ99と、助手席61に着座している乗員の重量を検出する重量センサ101とを備え、これらのセンサ95,97,99,101は、各々、コントローラ103に接続される。そして各センサ95,97,99,101からの検出結果は、コントローラ103に入力される。
【0033】
距離センサ97は、例えば、車両前方へ検知波(赤外線やミリ波等)を発信する発信器と、その検知波が車両前方の障害物に当たって反射してくる反射波を受信する受信器とを有していて、検知波の発信時点から反射波を受信するまでの時間を計測することによって、車両と車両前方の障害物との間の距離を検出する。そして、コントローラ103は、距離センサ97により検出された車両前方の障害物との距離に応じて、車両の衝突可能性の大小を判定する。
【0034】
ポジションセンサ99は、助手席61の前後位置の検出結果をコントローラ103に入力する。そしてコントローラ103は、ポジションセンサ99の入力結果に応じて、助手席61のシートポジションを判断する。具体的には、コントローラ103は、助手席61のシートポジションが、所定の位置よりも前側であるか、所定の位置よりも後側であるかを判断する。
【0035】
また、コントローラ103は、重量センサ101の検出結果に基づいて、乗員の体格を判断するようになっている。重量センサ101の検出結果を用いて乗員の体格を判断することにより、乗員が小柄なものであるか否かを判断した上で、乗員拘束姿勢調整手段を作動させるか否かを判断することができる。
【0036】
コントローラ103は、距離センサ97の検出結果に基づいて衝突を予知した場合、第2プリテンショナ機構53のインフレータ59に起爆信号を入力して、シートベルト37に張力を付与するようになっている。また、コントローラ103は、衝突センサ95からの検出結果に応じて、車両1が障害物等に衝突したか否かを判断し、車両1が障害物等に衝突したと判断した場合には、エアバッグ用インフレータ17に起爆信号を入力して、エアバッグ15を膨張展開させるようになっている。さらにコントローラ103は、助手席61のシートポジションが所定位置よりも前である場合には、ポップアップシート用インフレータ73、及びニーエアバッグ用インフレータ79に、各々、起爆信号を入力するようになっている。
【0037】
次に、上述のような本実施形態による乗員保護装置の作用について説明する。図6は、助手席が所定位置よりも前側にあり、且つその助手席に小柄な体格の乗員が乗っている状態で、車両が衝突して乗員保護装置を作動させた場合における、車室の側面図である。
【0038】
図6に示すように、乗員保護装置9は、助手席61が所定位置よりも前側にあり、且つ助手席61に小柄な体格の乗員を乗せている状態で車両の衝突を予知すると第2プリテンショナ機構53を作動させ、さらに車両1が衝突すると、乗員保護装置9は、ポップアップシート用エアバッグユニット29、及びニーエアバッグユニット31を作動させる。これは、コントローラ103が、エアバッグユニット11のインフレータ17、ポップアップシート用インフレータ73、ニーエアバッグ用インフレータ79、及び第2プリテンショナ機構53のインフレータ59に、各々、起爆信号を入力することで実行される。
【0039】
車両衝突予知時に、第2プリテンショナ機構53のインフレータ59に起爆信号が入力されると、このインフレータ59は作動して、シートベルト装置27のラップベルト33に引張力を付与する。これにより、乗員の腰部付近にあるラップベルト33が引っ張られ、乗員の腰部をシートバック65方向に押す。これにより、乗員の下半身が前方に移動するのを防止することができる。また、ラップベルト33に引張力を付与すると、乗員の下半身の拘束力が高まる。そしてこの状態で車両が衝突すると、乗員の上半身が、腰部を中心に前方に回動して前傾姿勢になる。このように、車両衝突予知時に第2プリテンショナ機構53を作動させることによって、車両衝突時の乗員の姿勢を、腰部がシートバック65側に拘束され、且つその腰部を支点として上半身が前傾した姿勢に調整することができる。そしてこのように乗員の姿勢を調整することにより、小柄な体格の乗員の顔面87が、エアバッグ15の受け部83の受け面85以外の位置に当たるのを防止することができ、小柄な体格の乗員の顔面87をより確実に、受け面85で受けることができる。
【0040】
また、ポップアップシート用インフレータ73に起爆信号が入力されると、このインフレータ73が作動してポップアップシート用エアバッグ71が膨張展開する。これにより、助手席61のシートクッション63の車両前方側の上面が持ち上げられる。そしてシートクッション63の上面が持ち上げられると、助手席61に着座している乗員の大腿部が持ち上がって乗員の重心が車両後方側に移動して腰部がシートバック65方向に押され、これにより乗員の腰部が前方に移動するのを防止することができる。このように、ポップアップシート用エアバッグ71を作動させることによって、乗員の姿勢を、腰部がシートバック65側に拘束され、且つその腰部を支点として上半身が前傾した姿勢に調整することができる。そしてこのように乗員の姿勢を調整することにより、小柄な体格の乗員の顔面87が、エアバッグ15の受け部83の受け面85以外の位置に当たるのを防止することができ、小柄な体格の乗員の顔面87をより確実に、受け面85で受けることができる。
【0041】
また、ニーエアバッグ用インフレータ79に起爆信号が入力されると、このインフレータ79が作動してニーエアバッグ77が乗員の膝の車両前方側で膨張展開する。これにより、乗員の膝が車両後方に向けて押される。そして乗員の膝を車両後方側に押すことによって、乗員の腰部がシートバック65側に拘束され、これにより乗員の腰部が前方に移動するのを防止することができる。このように、ニーエアバッグ77を作動させることによって、乗員の姿勢を、腰部がシートバック65方向に押され、且つその腰部を支点として上半身が前傾した姿勢に調整することができる。そしてこのように乗員の姿勢を調整することにより、小柄な体格の乗員の顔面87が、エアバッグ15の受け部83の受け面85以外の位置に当たるのを防止することができ、小柄な体格の乗員の顔面87をより確実に、受け面85で受けさせることができる。
【0042】
一方で、乗員保護装置は、助手席61が所定位置よりも後側にある場合には、乗員拘束姿勢調整手段を作動させて乗員の姿勢を調整することは行わない。即ち、助手席が所定位置よりも後側にある状態で、小柄な乗員が着座している場合には、車両衝突時に乗員拘束姿勢調整手段を作動させず、例えばシートベルト装置のロック機構(図示せず)を作動させる。これにより、小柄な乗員の腰部は、車両衝突時の慣性力によってシートベルトがロックされる位置まで前方に移動するので、乗員は、シートベルトがロックされて腰部が前方に移動できなくなった位置を支点として、前傾姿勢になる。これにより、乗員の顔面87が、例えば受け面85の下側に当たるのを防止することができる。
【0043】
また、乗員保護装置は、助手席61のシートポジションに関わらず、助手席61に着座している乗員が、体格が大柄な者である場合にも、乗員拘束姿勢調整手段を作動させて乗員の姿勢を調整することは行わない。これは、コントローラ103が、重量センサ101の検出結果に基づいて乗員の体格を判断して行われる。そして体格が大柄な乗員が検出された場合には、コントローラ103は、助手席61のシートポジションに関わらず、乗員拘束姿勢調整手段を作動させない。
【0044】
以上説明したように、上記車両の乗員保護装置によれば、助手席のシートポジションが所定位置よりも前側にある場合には、乗員拘束姿勢調整手段としてのシートベルト装置27と、ポップアップシート用エアバッグユニット29と、ニーエアバッグユニット31を用いて乗員の姿勢を調整し、一方で助手席のシートポジションが所定位置よりも後側である場合には、乗員拘束姿勢調整手段を作動させないことにより、小柄な体格の乗員の顔面87を、確実に受け面85で受けることができる。
【0045】
尚、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、上述の実施形態の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0046】
特に、上述の実施形態では、乗員拘束姿勢調整手段として、シートベルト装置27、ポップアップシート用エアバッグユニット29、及びニーエアバッグユニット31を併用するものとして詳細な説明を行ったが、これら乗員拘束姿勢調整手段を単独で使用するようにしてもよい。また、上述の実施形態では、乗員の体格を小柄であるか、大柄であるかの二通りに分けて、乗員の拘束姿勢を調整するようにしたが、乗員の体格をより細かく分類して、乗員の体格に応じて、車両衝突時に作動させる乗員拘束姿勢調整手段の数を変えるようにしてもよい。
【0047】
また、上述の実施形態では、エアバッグ15の受け部83を、一対の突出部89,91の間に形成することとした。しかしながら本発明は、一対の突出部を形成せずに受け部を形成したエアバッグを備える乗員保護装置にも適用可能である。
【0048】
また、上述の実施形態では、重量センサ103により乗員の体格を判断して、乗員拘束姿勢調整手段を作動させるか否かを判断することとした。しかしながら、重量センサ103を設けずに、シートポジションセンサ99の検出結果に基づいて乗員の体格を判断し、これに基づいて乗員拘束姿勢調整手段を作動させるか否かを判断するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 車両
9 乗員保護装置
11 エアバッグユニット
15 エアバッグ
17 インフレータ
27 シートベルト装置
29 ポップアップシート用エアバッグユニット
31 ニーエアバッグユニット
33 ラップベルト
35 ショルダベルト
37 シートベルト
45 リトラクタ
51 外側固定部
53 第2プリテンショナ機構
83 受け部
85 受け面
99 ポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突時に助手席に着座した乗員を拘束して保護する車両の乗員保護装置であって、
インストルメントパネルの助手席前方の部分に収納され、車両衝突時に膨張展開して助手席に着座した所定の小柄の乗員の顔面に対応した位置に形成されたほぼ窪んだ受け部を備えたエアバックと、
このエアバッグと共にインストルメントパネルの助手席前方の部分に収納され、車両の衝突時にエアバッグにガスを供給してエアバッグを助手席前方に膨張展開させるインフレータと、
前記助手席に着座している乗員の前後方向の着座位置を検出する着座位置検出手段と、
この着座位置検出手段により検出された乗員の前後方向の着座位置に応じて、車両衝突時に前記所定の小柄な乗員の顔面が前記受け部により受けられるように、乗員の拘束姿勢を調整する乗員拘束姿勢調整手段と、
を有することを特徴とする車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記乗員拘束姿勢調整手段は、ショルダベルト及びラップベルトを備えたシートベルト装置であり、
このシートベルト装置は、さらに、車両衝突時に前記ショルダベルトに所定の引き出し抵抗を発生させるロードリミッタを備えたリトラクタと、車両衝突予知時に前記ラップベルトに引張力を与えるプリテンショナとを備え、
前記プリテンショナは、前記乗員の着座位置が所定位置よりも前側である場合に、前記ラップベルトに引張力を与えるようになっている請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記乗員拘束姿勢調整手段は、前記助手席のシートクッションの前側部分を持ち上げる上昇手段であり、
この上昇手段は、前記乗員の着座位置が所定位置よりも前側である場合に、前記上昇手段を作動させて前記助手席のシートクッションの前側部分を持ち上げるようになっている請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記乗員拘束姿勢調整手段は、前記助手席の車両前方に配置された、ニーエアバッグ及びこのニーエアバッグにガスを供給するインフレータを備えるニーエアバッグユニットであり、
このニーエアバッグユニットは、前記乗員の着座位置が所定位置よりも前側である場合に、前記ニーエアバッグユニットのインフレータを作動させて前記ニーエアバッグを膨張展開させるようになっている請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
更に、前記助手席に着座している乗員の重量を検出する重量検出手段を備え、
前記乗員拘束姿勢調整手段は、前記着座位置検出手段によって検出された前記乗員の着座位置及び前記重量検出手段によって検出された乗員の重量に応じて、乗員の拘束姿勢を調整する請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項6】
前記エアバッグの受け部は、上下方向に延びる一対の突出部の間に形成されている請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項7】
前記着座位置検出手段は、前記助手席の前後方向のスライド位置を検出する位置検出手段である請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−213195(P2011−213195A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81730(P2010−81730)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】