説明

車両の制動制御装置

【課題】機械式ブレーキによる制動トルクの応答遅れに拘らず合算トルク(MGトルク+ECBトルク)が適切に制御されるようにしてすり替えショックを抑制する。
【解決手段】すり替え過渡時に車両の制動トルクT2が要求制動トルクT1からずれた場合に、そのずれ(制動トルク偏差ΔT)が小さくなるようにモータジェネレータMGによる制動トルク(MGトルク)がフィードバック補正されるため、油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)の応答遅れに拘らず要求制動トルクT1に応じて合算トルク(MGトルク+ECBトルク)が適切に制御されるようになり、車両の制動トルクT2の瞬間的な低下によるすり替えショックが抑制される。特に、モータジェネレータMGによる制動トルク(MGトルク)は応答性に優れているため、油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)の応答遅れに拘らずすり替えショックを適切に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制動制御装置に係り、特に、回転機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとをすり替えるすり替え制御の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、(b) 車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置と、を備え、(c) 目標制動トルクを維持しつつ前記回転機による制動トルクと前記機械式ブレーキによる制動トルクとをすり替える車両の制動制御装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、機械式ブレーキとして油圧ブレーキを備えており、停止直前の所定車速以下になると回転機による制動トルクを車速低下に伴ってリニアに低下させるとともに、油圧ブレーキによる制動トルクをリニアに上昇させてすり替えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−276655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に機械式ブレーキの応答性は回転機の回生制御による制動トルクの応答性に比べて悪いため、その応答性の相違により車両全体の制動トルクが瞬間的に低下するすり替えショックを生じることがあった。図6は、運転者のブレーキ操作による要求制動トルクT1(目標制動トルク)が略一定の車両減速時に車速VbからVaの間で回転機による制動トルク(MGトルク)を機械式ブレーキによる制動トルク(ECBトルク)にすり替える場合で、ECBトルク指令値はMGトルクに対応してリニアに増大させられるが、実際のECBトルクは応答遅れにより二点鎖線で示すように変化するため、MGトルクとECBトルクとを加算した合算トルク(車両の制動トルクに対応)が点線で示すように瞬間的に低下してショックが生じる。このECBトルクの応答遅れは、例えば作動油の油温や各種バルブの製造精度のばらつき等に依存するため一義的に定まらず、ECBトルクの応答遅れを考慮してMGトルクの変化を遅らせるようにしても適合は困難である。
【0005】
なお、特許文献1では、油圧ブレーキの油圧を発生させる電動オイルポンプの回転数をすり替え制御の開始に先立って上昇させ、すり替え制御の開始当初から十分な油量が確保されるようになっているが、流通抵抗等による応答遅れについては何等考慮されておらず、未だ改善の余地があった。
【0006】
また、特許文献1は回転機による制動トルクを機械式ブレーキによる制動トルクにすり替えるものであるが、機械式ブレーキによる制動トルクを回転機による制動トルクにすり替える場合にも、機械式ブレーキの応答遅れによって車両の制動トルクが瞬間的に増大してすり替えショックを生じる可能性がある。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、回転機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとをすり替える際に、機械式ブレーキによる制動トルクの応答遅れに拘らず合算トルク(MGトルク+ECBトルク)が適切に制御されるようにしてすり替えショックを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、(a) 少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、(b) 車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置と、を備え、(c) 目標制動トルクを維持しつつ前記回転機による制動トルクと前記機械式ブレーキによる制動トルクとをすり替える車両の制動制御装置において、(d) すり替え過渡時に車両の制動トルクが前記目標制動トルクからずれた場合に、ずれが小さくなるように前記回転機による制動トルクを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このような車両の制動制御装置においては、すり替え過渡時に車両の制動トルクが目標制動トルクからずれた場合に、そのずれが小さくなるように回転機による制動トルクが補正されるため、機械式ブレーキによる制動トルクの応答遅れに拘らず回転機および機械式ブレーキの合算トルク(車両の制動トルクに対応)が適切に制御されるようになり、車両の制動トルクの瞬間的な低下或いは増大によるすり替えショックが抑制される。特に、回転機による制動トルクは応答性に優れているため、機械式ブレーキによる制動トルクの応答遅れに拘らずすり替えショックを適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の骨子図に、制御系統の要部を併せて示した概略構成図である。
【図2】図1の電子制御装置によって実行される制動トルクのすり替え制御を具体的に説明するフローチャートである。
【図3】図2の制動トルクのすり替え制御の実行時に用いられる惰行時トルクを説明する図である。
【図4】図2のフローチャートに従って制動トルクのすり替え制御が行われた場合の車速、要求制動トルク、および各部のトルクの変化を示すタイムチャートの一例である。
【図5】図4のタイムチャートにおいて、惰行時トルクを除いたMGトルクおよびECBトルク等の変化を拡大して示すタイムチャートである。
【図6】従来の制動トルクのすり替え制御の一例を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
少なくとも発電機として機能する回転機としては、電動モータとしても機能して力行トルクを発生させることができるモータジェネレータが好適に用いられるが、電動モータとしての機能が得られない発電機を採用することも可能で、発電機と電動モータとが別々に設けられても良い。本発明は、モータジェネレータを駆動力源として走行する電気自動車に好適に適用されるが、モータジェネレータの他に燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のエンジンを備えているハイブリッド車両であっても良い。エンジンは、モータジェネレータが配設された動力伝達経路に接続されて、共通の駆動輪を回転駆動するように構成され、例えば摩擦係合クラッチ等の断接装置を介してモータジェネレータに直結されるように配設されるが、モータジェネレータが配設された動力伝達経路(例えば後輪駆動側)とは異なる動力伝達経路(例えば前輪駆動側)に配設されても良い。
【0012】
上記回転機は、例えば油圧式摩擦係合装置等の断接装置を介して動力伝達経路に接続される。回転機の回生トルクとは、回生制御によって生じる回転機自身の回転抵抗によるトルクで、この回生トルクに基づいて自動変速機等の動力伝達経路を介して車輪に所定の制動トルクが加えられる。車輪に設けられる機械式ブレーキとしては、例えば油圧シリンダによって摩擦力で制動トルクを発生する油圧ブレーキが広く用いられており、電磁式の油圧制御弁等を有するブレーキ制御装置によって制動トルクが制御されるが、電動式等の機械式ブレーキを採用することもできる。
【0013】
本発明の制動制御装置は、例えば要求制動トルク等の目標制動トルクを回転機による制動トルクおよび機械式ブレーキによる制動トルクの両方で分担するように制御する制動トルク分担制御手段を有して構成される。制動トルク分担制御手段は、例えばモータジェネレータの回生トルクによる制動トルクが最大値に達したら、不足分を機械式ブレーキによる制動トルクで補完するように構成されるが、モータジェネレータの回生トルクによる制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとを例えば50%ずつ等の所定の割合で分担させても良いなど、種々の態様が可能である。目標制動トルクを所定の割合で前後輪に分配する場合に、モータジェネレータの回生トルクによる制動トルクが前後輪の何れか一方だけに作用する場合、その一方の車輪側に対する制動トルクのみを対象として分担量を制御すれば良い。
【0014】
目標制動トルクを維持しつつ回転機による制動トルクと機械式ブレーキによる制動トルクとをすり替えるすり替え制御の実行条件(すり替え実行条件)は、例えば車両の停止直前の予め定められた所定車速以下になった場合や、バッテリーの蓄電残量、温度等により回転機による制動制御が制限された場合などに、回転機による制動トルクを機械式ブレーキによる制動トルクにすり替えるように定められる。すり替え制御は、例えば回転機による制動トルクおよび機械式ブレーキによる制動トルクをそれぞれ車速変化に対してリニアに減少または増加させるように構成されるが、車速変化とは関係無くリニアに減少または増加させても良いし、予め定められた非線形の変化パターン等に従って減少または増加させても良いなど、種々の態様が可能である。また、回転機による制動トルクを総て機械式ブレーキによる制動トルクにすり替えても良いが、回転機による制動トルクの一部を機械式ブレーキによる制動トルクにすり替えるだけでも良い。逆に、バッテリーの蓄電残量の低下等により、機械式ブレーキによる制動トルクを回転機による制動トルクにすり替える場合にも、本発明は適用され得る。
【0015】
すり替え過渡時に車両の制動トルクが目標制動トルクからずれた場合に、そのずれが小さくなるように回転機による制動トルクを補正する制御は、例えば車両の制動トルクが目標制動トルクと一致するようにずれ量に応じて補正量を求めるフィードバック制御が望ましいが、ずれの正負に応じて回転機による制動トルクを予め定められた一定量ずつ増加または減少させても良いなど、種々の態様が可能である。車両の制動トルクについては、例えば車両加速度や車両重量などから求めることができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10の駆動系統の骨子図を含む概略構成図である。このハイブリッド車両10は、燃料の燃焼で動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン12と、電動モータおよび発電機として機能するモータジェネレータMGとを駆動力源として備えている。そして、それ等のエンジン12およびモータジェネレータMGの出力は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ14からタービン軸16、C1クラッチ18を経て自動変速機20に伝達され、更に出力軸22、差動歯車装置24を介して左右の駆動輪26に伝達される。トルクコンバータ14は、ポンプ翼車とタービン翼車とを直結するロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)30を備えているとともに、ポンプ翼車にはオイルポンプ32が一体的に接続されており、エンジン12やモータジェネレータMGによって機械的に回転駆動されることにより油圧を発生して油圧制御装置28に供給する。ロックアップクラッチ30は、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって係合解放される。上記モータジェネレータMGは回転機に相当する。
【0017】
上記エンジン12とモータジェネレータMGとの間には、ダンパ38を介してそれ等を直結するK0クラッチ34が設けられている。このK0クラッチ34は、油圧シリンダによって摩擦係合させられる単板式或いは多板式の摩擦クラッチで、トルクコンバータ14の油室40内に油浴状態で配設されている。K0クラッチ34は油圧式摩擦係合装置で、エンジン12を動力伝達経路に接続したり遮断したりする断接装置として機能する。モータジェネレータMGは、インバータ42を介してバッテリー44に接続されている。また、前記自動変速機20は、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチやブレーキ)の係合解放状態によって変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる遊星歯車式等の有段の自動変速機で、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって変速制御が行われる。C1クラッチ18は自動変速機20の入力クラッチとして機能するもので、同じく油圧制御装置28によって係合解放制御される。
【0018】
前記駆動輪26および図示しない従動輪には、それぞれ油圧シリンダによって機械的に制動トルク(以下、ECB〔電子制御ブレーキ〕トルクともいう)を発生させる油圧ブレーキ62が設けられており、油圧ブレーキ制御装置60によってその制動トルクが制御されるようになっている。油圧ブレーキ制御装置60は電磁式の油圧制御弁や切換弁等を備えており、電子制御装置70から出力されるブレーキ制御信号に従って油圧ブレーキ62の制動トルクを電気的に制御する。油圧ブレーキ62は機械式ブレーキに相当する。
【0019】
電子制御装置70は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどを有する所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。この電子制御装置70には、アクセル操作量センサ46からアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Accを表す信号が供給されるとともに、ブレーキ踏力センサ48からブレーキペダルの踏力(ブレーキ踏力)Brkを表す信号が供給される。また、エンジン回転速度センサ50、MG回転速度センサ52、タービン回転速度センサ54、車速センサ56から、それぞれエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NE、モータジェネレータMGの回転速度(MG回転速度)NMG、タービン軸16の回転速度(タービン回転速度)NT、出力軸22の回転速度(出力軸回転速度で車速Vに対応)NOUTが供給される。この他、各種の制御に必要な種々の情報が供給されるようになっている。
【0020】
上記電子制御装置70は、機能的にハイブリッド制御手段72、変速制御手段74、惰行時制御手段76、制動制御手段80を備えている。ハイブリッド制御手段72は、エンジン12およびモータジェネレータMGの作動を制御することにより、例えばエンジン12のみを駆動力源として走行するエンジン走行モードや、モータジェネレータMGのみを駆動力源として走行するモータ走行モード、それ等の両方を用いて走行するエンジン+モータ走行モード等の予め定められた複数の走行モードを、アクセル操作量(運転者の要求駆動力)Accや車速V等の運転状態に応じて切り換えて走行する。また、変速制御手段74は、油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等を制御して複数の油圧式摩擦係合装置の係合解放状態を切り換えることにより、自動変速機20の複数のギヤ段を、アクセル操作量Accや車速V等の運転状態をパラメータとして予め定められた変速マップに従って切り換える。
【0021】
惰行時制御手段76は、アクセル操作量Accが0のアクセルOFFの惰行(惰性走行;コースト)時に、モータジェネレータMGを回生制御してバッテリー44を充電するとともに、停止時および停止直前の低車速時には力行制御して所定のクリープトルクを発生させる。図3に実線で示す惰行時トルクTpbs は、この惰行時の回生トルク(制動側)および力行トルク(駆動側)の制御パターンの一例で、車速Vをパラメータとして定められている。
【0022】
制動制御手段80は、ブレーキペダルの踏込み操作等による要求制動トルクTbkに応じて、その要求制動トルクTbkが得られるようにモータジェネレータMGおよび油圧ブレーキ制御装置60を制御する。すなわち、ブレーキ踏力Brkや車速V等に応じて求められる全体の要求制動トルクTbkを駆動輪26側および図示しない従動輪側に分配し、その駆動輪26側に対する要求制動トルクT1をモータジェネレータMGの回生制御(発電制御ともいう)による制動トルクと油圧ブレーキ62による制動トルクとの両方で分担するようにそれ等の分担量を制御するのであり、機能的に制動トルク分担制御手段82、すり替え制御手段84、およびフィードバック補正手段86を備えている。
【0023】
制動トルク分担制御手段82は、例えばモータジェネレータMGの回生トルクが最大回生トルクtmgmxに達するまではモータジェネレータMGによる制動トルク(以下、MGトルクともいう)のみで制動し、モータジェネレータMGによる制動トルク(MGトルク)だけでは要求制動トルクT1に達しない場合に、その不足分を油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)で補完する。これにより、車両の減速時にモータジェネレータMGの回生制御で所定の制動トルクを発生させつつバッテリ44を効率良く充電することができる。図3の一点鎖線は、前記惰行時にブレーキ操作された場合で、要求制動トルクT1が惰行時トルクTpbs に上乗せされる。モータジェネレータMGによる制動トルクが得られない従動輪側の制動トルクについては、油圧ブレーキ62によって所定の制動トルクが得られるように制御される。要求制動トルクT1は、駆動輪側の目標制動トルクに相当する。
【0024】
すり替え制御手段84は、車両の停止直前に、上記制動トルク分担制御手段82による分担制御に優先して、モータジェネレータMGによる制動トルク(MGトルク)を漸減して油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)にすり替えるもので、図2のフローチャートに従って信号処理を実行する。フィードバック補正手段86は、上記すり替え制御手段84によるすり替え制御の実行中に、車両の制動トルクT2が目標制動トルクすなわち要求制動トルクT1と一致するように、モータジェネレータMGによる制動トルク(MGトルク)をフィードバック補正するもので、図2のフローチャートのステップS9〜S12はフィードバック補正手段86に相当する。図2のフローチャートは、所定のサイクルタイムで繰り返し実行され、図4および図5のタイムチャートに示すようにMGトルクが徐々にECBトルクにすり替えられる。図4は、惰行時トルクTpbs を含んだトルク変化を示したものであるが、この惰行時トルクTpbs はすり替え制御に拘らずモータジェネレータMGによって分担され、要求制動トルクT1のみがMGトルクからECBトルクにすり替えられるため、理解を容易にするためにMGトルクから惰行時トルクTpbs を差し引いたトルク変化を図5に示した。図5のMG側すり替えトルクTmgs は、図4のMGトルクから惰行時トルクTpbs を差し引いたものである。
【0025】
図2のステップS1では車速Vを読み込み、ステップS2では、制動トルク分担制御手段82から駆動輪側の要求制動トルクT1を読み込む。ステップS3では、車速Vが予め定められたすり替え開始車速Vbまで低下したか否かを判断し、V≦VbになったらステップS4以下のすり替え制御を開始する。図4〜図6のタイムチャートにおける時間t1は、車速Vがすり替え開始車速Vbまで低下してすり替え制御が開始された時間である。ステップS3のV≦Vbを満足することがすり替え実行条件である。
【0026】
ステップS4では、すり替え制御実行フラグF1がONか否かを判断し、F1=ONの場合は直ちにステップS8以下を実行するが、F1=OFFの場合はステップS5以下を実行する。このすり替え制御実行フラグF1は、初期状態ではOFFで、ステップS4以下のすり替え制御の最初の実行時にステップS5でONとされるため、V≦Vbになって最初にステップS4が実行された時はF1=OFFであり、ステップS5でF1=ONとされる。したがって、次回からはステップS4に続いて直ちにステップS8以下が実行されるようになる。
【0027】
ステップS6では、すり替え制御開始時の要求制動トルクT1をRAM等に記憶し、ステップS7では、推定路面抵抗Frを算出するとともにRAM等に記憶する。推定路面抵抗Frは、例えば車両加速度a、推定ペラ軸トルクTpest、デフ比DEF、タイヤ径WR、基準車両重量Mを用いて次式(1) に従って求められる。本実施例では、このすり替え制御開始時の要求制動トルクT1および推定路面抵抗Frを用いて一連のすり替え制御が実行されるが、それ等を逐次更新してすり替え制御を行うことも可能である。
Fr=M×a−Tpest×DEF/WR ・・・(1)
【0028】
ステップS8では、MG側すり替えトルクTmgs のフィードフォワード値(FF値)Tffを算出する。このフィードフォワード値Tffは、車速Vがすり替え開始車速Vbからすり替え終了目標車速Vaまで減速する間にMGトルクをECBトルクにすり替えるためのもので、現在の車速V、すり替え終了目標車速Va、すり替え開始車速Vb、要求制動トルクT1を用いて次式(2) に従って求められる。このフィードフォワード値Tffは、車速Vが略一定の変化率で低下した場合、図5に破線で示すように一定の変化率で変化(制動側を正として減少)する。図4〜図6のタイムチャートにおける時間t2は、車速Vがすり替え終了目標車速Vaまで低下した時間で、時間t1〜t2の間ですり替え制御が行われる。
Tff=T1×(V−Va)/(Vb−Va) ・・・(2)
【0029】
ここで、次式(3) で示すように要求制動トルクT1からフィードフォワード値Tffを差し引いたECB側すり替えトルクTecbsを表すECBトルク指令値が油圧ブレーキ制御装置60に出力され、そのECBトルク指令値(ECB側すり替えトルクTecbs)に従って油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)が制御される。ECBトルク指令値は、図5、図6に一点鎖線で示すようにフィードフォワード値Tff(図6ではMGトルク)の減少に対応して増加させられるが、実際のECBトルクは油圧の応答遅れ等により二点鎖線で示すように遅れて変化する。図6は、上記フィードフォワード値Tffをそのまま出力してMGトルクを制御する従来の場合で、応答性に優れたMGトルクは略フィードフォワード値Tffに従って変化するため、ECBトルクの応答遅れにより車両全体の合算トルク(車両の制動トルクT2に相当))は点線で示すように瞬間的に低下してすり替えショックが発生する。
Tecbs=T1−Tff ・・・(3)
【0030】
図2に戻って、次のステップS9では、車両の制動トルクT2を算出する。この車両の制動トルクT2は、例えば前記推定路面抵抗Fr、惰行時トルクTpbs 、車両加速度a、デフ比DEF、タイヤ径WR、基準車両重量Mを用いて次式(4) に従って求められる。
T2=(M×a−Fr−Tpbs )×WR/DEF ・・・(4)
【0031】
ステップS10では、要求制動トルクT1から上記車両の制動トルクT2を引き算して制動トルク偏差ΔT(=T1−T2)を算出し、ステップS11では、その制動トルク偏差ΔTに基づいてMG側すり替えトルクTmgs のフィードバック補正値(FB値)Tfbを例えば次式(5) に従って算出する。(5) 式のTpは比例項で、Tp=α×ΔTで表され、Tiは積分項で、Ti=Ti(前回値)+β×ΔTで表される。これ等の係数α、βは、制動トルク偏差ΔTが略0となり、T1≒T2になるようにMGトルクの応答性等を考慮して適宜定められる。
Tfb=Tp+Ti ・・・(5)
【0032】
次のステップS12では、上記フィードフォワード値Tffとフィードバック補正値Tfbとを加算してMG側すり替えトルクTmgs を算出し、ステップS13では、そのMG側すり替えトルクTmgs に前記惰行時トルクTpbs を加算することによりMGトルク指令値Tpcm を算出する。そして、そのMGトルク指令値Tpcm に従ってモータジェネレータMGのトルクが制御されることにより、MGトルクおよびMG側すり替えトルクTmgs は図4および図5において実線で示すように実際のECBトルクに対応して変化させられる。これにより、図4では点線で示す合算トルクが要求制動トルクT1に惰行時トルクTpbs を加算したトルクと略一致するように推移させられ、図5では、点線で示す合算トルク(車両の制動トルクT2に相当)が要求制動トルクT1と略一致する一定値に維持される。すなわち、図6に示すような合算トルクの瞬間的低下によるすり替えショックの発生が抑制される。
【0033】
このように本実施例のハイブリッド車両10の制動制御装置においては、すり替え過渡時に車両の制動トルクT2が要求制動トルクT1からずれた場合に、そのずれ(制動トルク偏差ΔT)が小さくなるようにモータジェネレータMGによる制動トルク(MGトルク)がフィードバック補正されるため、油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)の応答遅れに拘らず要求制動トルクT1に応じて合算トルク(MGトルク+ECBトルク)が適切に制御されるようになり、車両の制動トルクT2の瞬間的な低下によるすり替えショックが抑制される。特に、モータジェネレータMGによる制動トルク(MGトルク)は応答性に優れているため、油圧ブレーキ62による制動トルク(ECBトルク)の応答遅れに拘らず、図6に示すような合算トルク(車両の制動トルクT2に相当)の瞬間的な低下によるすり替えショックを適切に抑制することができる。
【0034】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0035】
10:ハイブリッド車両(車両) 60:油圧ブレーキ制御装置(ブレーキ制御装置) 62:油圧ブレーキ(機械式ブレーキ) 70:電子制御装置 80:制動制御手段 84:すり替え制御手段 86:フィードバック補正手段 MG:モータジェネレータ(回転機) T1:要求制動トルク(目標制動トルク) Tff:フィードフォワード値 Tfb:フィードバック補正値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも発電機として機能して回生トルクにより制動トルクを発生させることができる回転機と、
車輪に設けられた機械式ブレーキの制動トルクを電気的に制御するブレーキ制御装置と、
を備え、目標制動トルクを維持しつつ前記回転機による制動トルクと前記機械式ブレーキによる制動トルクとをすり替える車両の制動制御装置において、
すり替え過渡時に車両の制動トルクが前記目標制動トルクからずれた場合に、ずれが小さくなるように前記回転機による制動トルクを補正する
ことを特徴とする車両の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−56587(P2013−56587A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195224(P2011−195224)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】