説明

車両の制御装置

【課題】車両への荷重入力により制動手段に不具合が生じたときであっても、ブレーキ油の漏れを防止すると共に、車両に適切な制動力を付与することができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】加速度検出手段(第1,第2前後Gセンサ、第1,第2左右Gセンサ)11〜14により検出された加速度が予め定めた閾値を超えると共に、方向変更検出手段(ヨーレートセンサ)15により車両2の進行方向の変更が検出されたとき、制動手段20を作動して車輪FL,FR,RL,RRごとに制動力を付与することで車両2を減速させる車両挙動制御手段(図3)を備えた車両の制御装置であって、車両挙動制御手段(図3)は、制動手段20が作動中に、ブレーキ配管26a,26b内の圧力低下を検出したとき、車両2に作用する加速度方向を判定する加速度方向判定手段(ステップS6,図4A及び図4B)により得られた加速度入力方向に位置する車輪に対応したブレーキバルブを作動してブレーキ油の流動を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の加速度及び車両の進行方向に基づいて制動手段を作動させる車両挙動制御手段を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載された加速度センサの出力結果が予め定めた閾値を超えたときに、車両への荷重入力があったと判断し、ブレーキ油圧を制御して車両に制動力を与え、車両前後方向の減速度を目標減速度とする車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-104320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両の制御装置では、車両への荷重入力によりブレーキ油が流動するブレーキ配管が破損し、ブレーキ油が漏れてしまった場合には十分な制動力を付与できなくなるおそれがあった。
【0005】
本発明は、車両への荷重入力により制動手段に不具合が生じたときであっても、ブレーキ油の漏れを防止すると共に、車両に適切な制動力を付与することができる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、車両加速度を検出する加速度検出手段と、車両進行方向の変更を検出する方向変更検出手段と、ブレーキ油圧力により車両の車輪ごとに制動力を付与する制動手段と、加速度が閾値を超えると共に進行方向が変更したときに、制動手段を作動して車両を減速させる車両挙動制御手段と、を備える。また、制動手段は、ブレーキ油が流動するブレーキ配管と、ブレーキ配管内の圧力を検出する油圧検出手段と、車輪ごとに設けられた複数のブレーキバルブと、を有する。そして、車両挙動制御手段は、車両に作用する加速度方向を判定する加速度方向判定手段を有すると共に、制動手段が作動中に、ブレーキ配管内の圧力低下を検出したとき、加速度方向判定手段により得られた加速度入力方向に位置する車輪に対応したブレーキバルブを作動してブレーキ油の流動を遮断する。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の車両の制御装置にあっては、制動手段が作動中にブレーキ油圧低下を検出したら、加速度入力方向に位置する車輪に対応したブレーキバルブを作動してブレーキ油の流動を遮断するので、荷重入力方向に位置する車輪へのブレーキ油の流動を遮断することで、ブレーキ油の漏れを防止すると共に、加速度入力方向に位置していない車輪には制動力を与えることができる。
この結果、車両への荷重入力により制動手段に不具合が生じたときであっても、ブレーキ油の漏れを防止すると共に、車両に適切な制動力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車両の制御装置の構成を示す概略構成図である。
【図2】実施例1の車両の制御装置のブレーキ装置(制動手段)の構成を示す概略構成図である。
【図3】実施例1の車両の制御装置での車両挙動制御処理(車両挙動制御手段)の流れを示すフローチャートである。
【図4A】実施例1の車両の制御装置での荷重入力部位判定処理(加速度方向判定手段)のステップS601〜ステップS618までの流れを示すフローチャートである。
【図4B】実施例1の車両の制御装置での荷重入力部位判定処理(加速度方向判定手段)のステップS619〜ステップS631までの流れを示すフローチャートである。
【図5】車両への荷重入力発生時におけるヨーレート変化の一例を示す説明図である。
【図6】実施例1の車両の制御装置での未損傷車輪制動力制御処理(未損傷車輪制御部)の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両の制御装置の構成を示す概略構成図である。図2は、実施例1の車両の制御装置のブレーキ装置(制動手段)の構成を示す概略構成図である。図1中矢印Xで示す方向が車両前方であり、矢印Yで示す方向が車両右方である。以下、図1に基づき車両の制御装置の構成を説明する。
【0011】
実施例1の車両の制御装置1は、図1に示すように、左右前輪FL,FR及び左右後輪RL,RRを有する四輪の車両2に搭載されており、複数の加速度センサ(加速度検出手段)11〜14と、ヨーレートセンサ(方向変更検出手段)15と、車速センサ16と、舵角センサ17と、複数の車輪回転速度センサ18a〜18dと、ブレーキ装置(制動手段)20と、信号制御部(ECU)30と、を備えている。
【0012】
複数の加速度センサ11〜14は、車両前部に配置されて車両前後方向に作用する加速度を検出する第1前後Gセンサ11と、車両中央部に配置されて車両前後方向に作用する加速度を検出する第2前後Gセンサ12と、車両右部に配置されて車両左右方向に作用する加速度を検出する第1左右Gセンサ13と、車両左部に配置されて車両左右方向に作用する加速度を検出する第2左右Gセンサ14と、から構成されている。各加速度センサ11〜14からの検出信号はそれぞれ信号制御部30に入力する。なお、各加速度センサ11〜14は、図示しないエアバッグ展開用として搭載してもよい。
【0013】
ヨーレートセンサ15は、車両2が回転する速度、すなわち車両2のヨーレート(回転角速度)を検出し、車速センサ16は、車両2の進行速度を検出し、舵角センサ17は、図示しないハンドルを回動させたときの左右前輪FL,FRの操舵角度を検出する。それぞれ車両2の適切な位置に配置されると共に、各センサ15〜17からの検出信号はそれぞれ信号制御部30に入力する。なお、ヨーレートセンサ15により、車両2の走行にともなうヨーレートを得て、その得られたヨーレートを時間積分演算することによって進行方向の変化を求めることができる。
【0014】
複数の車輪回転速度センサ18a〜18dは、左前輪FL近傍に配置されて左前輪FLの回転速度を検出する左前輪用センサ18aと、右前輪FR近傍に配置されて右前輪FRの回転速度を検出する右前輪用センサ18bと、左後輪RL近傍に配置されて左後輪RLの回転速度を検出する左後輪用センサ18cと、右後輪RR近傍に配置されて右後輪RRの回転速度を検出する右後輪用センサ18dと、から構成されている。各センサ18a〜18dからの検出信号はそれぞれ信号制御部30に入力する。
【0015】
ブレーキ装置20は、車両2の減速、あるいは停止を行う装置である。ここでは、舵角センサ17でドライバーのステアリングの操作量を検出し、ヨーレートセンサ15及び第1,第2左右Gセンサ13,14、各車輪回転速度センサ18a〜18d等の情報から車両2の走行状態を判断し、4輪ブレーキ制御とエンジン出力を制御して横滑りを防止するいわゆるVDC/TCS(Vehicle Dynamics Control/Traction Control System)制御や、制動時の車輪ロックを防止するいわゆるABS(Anti-lock Brake System)制御等を実行する。
【0016】
このブレーキ装置20は、複数のディスクブレーキ21〜24と、ブレーキ油圧制御装置25に接続した一対のブレーキ配管26a,26bと、一対の油圧センサ(油圧検出手段)27a,27bと、複数のブレーキバルブ28a〜28dと、を有している。
【0017】
複数のディスクブレーキ21〜24は、それぞれ各車輪FL,FR,RL,RRに取り付けられており、各車輪FL,FR,RL,RRと共に回転するディスクロータ21a〜24aと、ブレーキ油圧力により作動するブレーキキャリパー(図示せず)によってディスクロータ21a〜24aのそれぞれに押し付けられるブレーキパッド21b〜24bと、を有している。
【0018】
一対のブレーキ配管26a,26bは、各ディスクブレーキ21〜24に供給されるブレーキ油が流動するブレーキ油の流路であり、ブレーキ油圧制御装置25から左前輪FLのブレーキキャリパー及び右後輪RRのブレーキキャリパーに接続する第1ブレーキ配管26aと、ブレーキ油圧制御装置25から右前輪FRのブレーキキャリパー及び左後輪RLのブレーキキャリパーに接続する第2ブレーキ配管26bとの2系統に分かれている。
【0019】
ブレーキ油圧制御装置25は、図2に示すように、ブレーキペダルBの踏込み力をブレーキ油圧に変換するマスターシリンダ251と、第1ブレーキ配管26aに接続した第1サクションバルブ252a、第1カットバルブ253a、第1リザーバー254aと、第2ブレーキ配管26bに接続した第2サクションバルブ252b、第2カットバルブ253b、第2リザーバー254bと、一対のブレーキ配管26a,26bの双方に接続したポンプ255と、を有している。なお、各バルブ、各リザーバー、ポンプは、それぞれ信号制御部30からの制御信号により動作制御がなされる。
ここで、第1,第2サクションバルブ252a,252bは、VDC/TCS作動時、マスターシリンダ251からポンプ255へブレーキ油を供給する際に開放する。また、第1,第2カットバルブ253a,253bは、VDC/TCS作動時、マスターシリンダ251からの通常ブレーキ経路を遮断する。また、第1,第2リザーバー254a,254bは、各ブレーキキャリパーの減圧時に減圧効果をよく行うため、ブレーキキャリパー内から抜いたブレーキ油を一時的に貯えておく。また、ポンプ255は、減圧により各リザーバー内に貯えられたブレーキ油をマスターシリンダ251に戻す。
【0020】
一対の油圧センサ27a,27bは、一対のブレーキ配管26a,26b内のそれぞれのブレーキ油圧力を検出する圧力センサであり、一方の第1油圧センサ27aにより第1ブレーキ配管26aの圧力を検出し、他方の第2油圧センサ27bにより第2ブレーキ配管26bの圧力を検出する。各第1,第2油圧センサ27a,27bからの検出信号はそれぞれ信号制御部30に入力する。
【0021】
複数のブレーキバルブ28a〜28dは、各車輪FL,FR,RL,RRごとに設けられると共に、ブレーキ油の流動を調整する電磁弁であり、それぞれインレットソレノイドバルブ281a〜281dと、アウトレットソレノイドバルブ282a〜282dと、リターンチェックバルブ283a〜283dと、を有している。なお、各バルブは、それぞれ信号制御部30からの制御信号により作動制御なされる。
【0022】
ここで、各インレットソレノイドバルブ281a〜281dは、ブレーキキャリパーの増圧時に開放する。また、各アウトレットソレノイドバルブ282a〜282dは、ブレーキキャリパーの減圧時に開放する。また、各リターンチェックバルブ283a〜283dは、ブレーキ解除時に各インレットソレノイドバルブ281a〜281dのオリフィスをバイパスして、ブレーキキャリパー内のブレーキ油をマスターシリンダ251へ還元する。
【0023】
そして、このブレーキ装置20において、例えば通常ブレーキ制御により左前輪FLを制動させるには、左前輪FLに設けられたディスクブレーキ21のブレーキパッド21bに作用するブレーキ油圧を高め、ブレーキパッド21bをディスクロータ21aに押し付ける。
すなわち、インレットソレノイドバルブ281a及びアウトレットソレノイドバルブ282aの双方とも通電しない。これにより、ソレノイド吸引力は発生せずバルブはストロークしない。この結果、インレットソレノイドバルブ281aのポートは開放し、アウトレットソレノイドバルブ282aのポートは閉状態になる。そして、マスターシリンダ液圧はディスクブレーキ21のブレーキキャリパーに伝達され、第1リザーバー254aへはブレーキ油は流れない。なお、このときポンプ255は停止している。
【0024】
また、このブレーキ装置20において、例えば左前輪FLのABS制御を実行するときには、開始時ではブレーキ圧を保持する。すなわち、インレットソレノイドバルブ281aを通電し、ポートを閉鎖する。一方、アウトレットソレノイドバルブ282aには通電しないためポートは閉状態になる。この結果、ブレーキキャリパー、マスターシリンダ251、第1リザーバー254aは遮断され、ディスクブレーキ21のブレーキキャリパーの圧力は保持される。なお、このときポンプ255は停止している。
【0025】
さらに、ABS作動中の減圧時には、インレットソレノイドバルブ281a及びアウトレットソレノイドバルブ282aの双方に通電し、インレットソレノイドバルブ281aのポートを閉じ、アウトレットソレノイドバルブ282aのポートを開く。この結果、ディスクブレーキ21のブレーキキャリパーのブレーキ油はアウトレットソレノイドバルブ282aを通って第1リザーバー254aに貯められた後、ポンプ255で汲み上げられてマスターシリンダ251へ戻る。
【0026】
さらに、ABS作動中の増圧時には、インレットソレノイドバルブ281a及びアウトレットソレノイドバルブ282aの双方とも通電せず、インレットソレノイドバルブ281aのポートを開き、アウトレットソレノイドバルブ282aのポートを閉じることで増圧する。なお、インレットソレノイドバルブ281aの通電を遮断する時間(ポートを開く時間)に応じて、マスターシリンダ251からブレーキキャリパーへ供給される油量が制御される。
【0027】
さらに、ブレーキ装置20において、例えば左前輪FLのブレーキ解除時には、インレットソレノイドバルブ281a及びアウトレットソレノイドバルブ282aの双方とも通電せず、インレットソレノイドバルブ281aのポートを開き、アウトレットソレノイドバルブ282aのポートを閉じる。この結果、インレットソレノイドバルブ281aのポートと油圧によって開かれるリターンチェックバルブ283aを通って、ディスクブレーキ21のブレーキキャリパーからブレーキ油がマスターシリンダ251へ戻る。なお、このときポンプ255は停止している。
【0028】
信号制御部30は、CPU31と、ROM32と、RAM33と、インターフェース34と、を有している。そして、この信号制御部30は、各加速度センサ11〜14及び各センサ15〜17,18a〜18dからの検出信号に基づいて、ブレーキ油圧制御装置25及び各ブレーキバルブ28a〜28dに制御信号を出力し、VDC/TCS制御やABS制御等の車両挙動制御を実行する。
【0029】
図3は、実施例1の車両の制御装置での車両挙動制御処理(車両挙動制御手段)の流れを示すフローチャートである。以下、図3の各ステップについて説明する。なお、この図3に示す車両挙動制御処理は、一定時間の経過ごとに繰り返し実行するようになっている。 ステップS1では、車両2への荷重入力があったか否かを判断し、YES(荷重入力あり)の場合はステップS2へ進み、NO(荷重入力なし)の場合はステップS1を繰り返す。ここで、荷重入力の有無は、各加速度センサ11〜14による検出値が予め定めた閾値を超えると共に、ヨーレートセンサ15による検出値に基づいて車両進行方向の変更を検出したか否かにより判断される。
【0030】
ステップS2では、ブレーキ油圧制御装置25のポンプ255を駆動し、ステップS3へ進む。
【0031】
ステップS3では、各車輪FL,FR,RL,RRに設けられた全てのブレーキバルブ28a〜28dにおけるインレットソレノイドバルブ281a〜281dをそれぞれ開放し、アウトレットソレノイドバルブ282a〜282dをそれぞれ閉鎖し、ステップS4へ進む。これにより、各ディスクブレーキ21〜24に作用するブレーキ油は加圧され、各車輪FL,FR,RL,RRに制動力が作用する。
【0032】
ステップS4では、一対のブレーキ配管26a,26b内の圧力をそれぞれ測定し、ステップS5へ進む。この油圧測定は、第1,第2油圧センサ27a,27bによって第1,第2ブレーキ配管26a,26bごとに行う。
【0033】
ステップS5では、ブレーキ油圧が低下しているか否かを判断し、YES(油圧低下)の場合は、車両2への荷重入力によりブレーキ系統に異常(不具合)が発生したとしてステップS6へ進み、NO(油圧低下せず)の場合は、車両2のブレーキ系統に異常はないとしてステップS4へ戻る。ブレーキ油圧の低下判断は、ステップS4において測定したブレーキ配管内の圧力が所定の閾値以下であるか否かにより判断する。
【0034】
ステップS6では、車両2への荷重入力部位を判定する荷重入力部位判定処理を実行し、荷重入力部位情報を出力してステップS7へ進む。ここで、荷重入力部位の判定は、車両2に作用する加速度の入力方向から推定するが、詳細については後述する。なお、この荷重入力部位判定処理が加速度方向判定手段に相当する。
【0035】
ステップS7では、ステップS6において出力された荷重入力部位情報から、荷重入力部位(加速度入力方向)に位置し、荷重入力に伴って損傷したと推定される車輪(以下、損傷車輪という)に対応するブレーキバルブ28a〜28dのいずれかのインレットソレノイドバルブ281a〜281dを閉鎖し、ステップS8へ進む。ここで、予めステップS3において各アウトレットソレノイドバルブ282a〜282dは閉鎖しているので、対応するインレットソレノイドバルブ281a〜281dを閉鎖することで、損傷車輪に設けられたディスクブレーキ21〜24のブレーキキャリパーへのブレーキ油を遮断することができる。
【0036】
ステップS8では、ステップS7においてブレーキ油を遮断された損傷車輪以外の車輪(以下、未損傷車輪という)の制動制御処理を実行し、エンドへ進んでこの車両挙動制御処理を終了する。ここで、未損傷車輪制動制御処理の詳細については後述する。なお、この未損傷車輪制動制御処理が未損傷車輪制御部に相当する。
【0037】
図4A及び図4Bは、実施例1の車両の制御装置での荷重入力部位判定処理(加速度方向判定手段)のステップS601〜ステップS631までの流れを示すフローチャートである。以下、図4A及び図4Bの各ステップについて説明する。
【0038】
ステップS601では、車速センサ16により検出された車両速度を読み込み、ステップS602へ進む。
【0039】
ステップS602では、舵角センサ17により検出された操舵角を読み込み、ステップS603へ進む。
【0040】
ステップS603では、各加速度センサ11〜14により検出された車両前後方向に作用する加速度と、車両左右方向に作用する加速度とをそれぞれ読み込み、ステップS604へ進む。
【0041】
ステップS604では、ヨーレートセンサ15により検出された車両2のヨーレート(回転角速度)を読み込み、ステップS605へ進む。
【0042】
ステップS605では、ステップS603で読み込んだ車両前後方向に作用する加速度の大きさ(絶対値)が、車両左右方向に作用する加速度の大きさ(絶対値)よりも大きいか否かを判断し、YES(前後G大)の場合は車両前後方向から荷重入力があったとしてステップS606へ進み、NO(左右G大)の場合は車両左右方向から荷重入力があったとしてA、すなわち図4Bに示すステップS619へ進む。なお、この荷重入力方向の判断については、図示しないエアバッグ展開用の判断手法を用いてもよい。
【0043】
ステップS606では、ステップS603で読み込んだ車両前後方向に作用する加速度の符合がプラスであるか否か、すなわち車両前方から荷重が入力したか否かを判断し、YES(符号+)の場合は車両前方から荷重入力があったとしてステップS607へ進み、NO(符号−)の場合は車両後方から荷重入力があったとしてステップS613へ進む。
【0044】
ステップS607では、ステップS604で読み込んだヨーレートを時間積分演算し、ステップS608へ進む。ここで、積分演算は、時刻TGthから時刻TGth+ΔTまでの一定時間内の車両回転を抽出するため、この時間内におけるヨーレート増加分を積分することで実行する。
なお、時刻TGthは、車両前後方向に作用する加速度が、予め設定した一定のレベルに達成した時刻であり、ヨーレート増分の積分開始時刻を前倒しするために設定する。また、ΔTは、ヨーレート積分演算のサンプル長であり、通常、荷重入力が発生したから終了するまでの時間長さである。例えば150msec等任意に設定する。
そして、ヨーレート増加分の積分は、時刻TGthから時刻TGth+ΔTまでの{dφ/dt−(時刻TGthより前のΔT時間帯におけるdφ/dtの平均値)}の積分、により求められる。ここで、φは車両2の回転角度であり、dφ/dtは車両2の回転角速度(ヨーレート)である。
図5には、車両2への荷重入力発生時におけるヨーレート変化の一例を示している。図中斜線で示す部分の面積がヨーレート増加分の積分値となる。
【0045】
ステップS608では、ステップS607で求めたヨーレート積分値が予め定めた閾値(第1閾値)よりも大きいか否かを判断し、YES(積分値大)の場合は車両2の進行方向に変更が生じた、すなわち車両2に対してオフセット方向から荷重入力があり、車両2がヨー運動をしたとしてステップS609へ進み、NO(積分値小)の場合は車両2の進行方向の変更が生じない、すなわち車両2に対して前方正面から荷重入力があったとしてステップS612へ進む。ここで、第1閾値は任意に設定することができる。
【0046】
ステップS609では、ステップS602で読み込んだ操舵角に基づいて、車両2の回転方向が左方向であるか否かを判断し、YES(左旋回)の場合はステップS610へ進み、NO(右旋回)の場合はステップS611へ進む。
【0047】
ステップS610では、前方オフセット方向からの荷重入力により車両2が左旋回したとして、左前輪FLに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は左前方であって荷重入力部位は左前輪FLであるとする荷重入力部位情報を出力し、エンドへ進む。
【0048】
ステップS611では、前方オフセット方向からの荷重入力により車両2が右旋回したとして、右前輪FRに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は右前方であって荷重入力部位は右前輪FRであるとする荷重入力部位情報を出力し、エンドへ進む。
【0049】
ステップS612では、前方正面からの荷重入力により、左右前輪FL,FRの双方に荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は前方正面であって荷重入力部位は左前輪FL及び右前輪FRであるとする荷重入力部位情報を出力し、エンドへ進む。
【0050】
ステップS613では、ステップS604で読み込んだヨーレートを時間積分演算し、ステップS614へ進む。なお、積分演算方法についてはステップS607と同一であるのでここでは説明を省略する。
【0051】
ステップS614では、ステップS613で求めたヨーレート積分値が予め定めた閾値(第1閾値)よりも大きいか否かを判断し、YES(積分値大)の場合は車両2の進行方向に変更が生じた、すなわち車両2に対してオフセット方向から荷重入力があり、車両2がヨー運動をしたとしてステップS615へ進み、NO(積分値小)の場合は車両2の進行方向の変更が生じない、すなわち車両2に対して後方正面から荷重入力があったとしてステップS618へ進む。ここで、第1閾値は任意に設定することができる。
【0052】
ステップS615では、ステップS602で読み込んだ操舵角に基づいて、車両2の回転方向が左方向であるか否かを判断し、YES(左旋回)の場合はステップS616へ進み、NO(右旋回)の場合はステップS617へ進む。
【0053】
ステップS616では、後方オフセット方向からの荷重入力により車両2が左旋回したとして、左後輪RLに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は左後方であって荷重入力部位は左後輪RLであるとする荷重入力部位情報を出力し、エンドへ進む。
【0054】
ステップS617では、後方オフセット方向からの荷重入力により車両2が右旋回したとして、右後輪RRに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は右後方であって荷重入力部位は右後輪RRであるとする荷重入力部位情報を出力し、エンドへ進む。
【0055】
ステップS618では、後方正面からの荷重入力により、左右後輪RL,RRの双方に荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は後方正面であって荷重入力部位は左後輪RL及び右後輪RRであるとする荷重入力部位情報を出力し、エンドへ進む。
【0056】
図4Bに示す(以下同じ)ステップS619では、ステップS605で読み込んだ車両右側から作用する加速度が車両左側から作用する加速度よりも大きいか否かを判断し、YES(右側加速度大)の場合は車両右方から荷重入力があったとしてステップS620へ進み、NO(左側加速度大)の場合は車両左方から荷重入力があったとしてステップS626へ進む。
【0057】
ステップS620では、ステップS604で読み込んだヨーレートを時間積分演算し、ステップS621へ進む。なお、積分演算方法についてはステップS607と同一であるのでここでは説明を省略する。
【0058】
ステップS621では、ステップS620で求めたヨーレート積分値が予め定めた閾値(第2閾値)よりも大きいか否かを判断し、YES(積分値大)の場合は車両2の進行方向に変更が生じた、すなわち車両2に対してオフセット方向から荷重入力があり、車両2がヨー運動をしたとしてステップS622へ進み、NO(積分値小)の場合は車両2の進行方向の変更が生じない、すなわち車両2に対して右方正面から荷重入力があったとしてステップS625へ進む。ここで、第2閾値は任意に設定することができる。
【0059】
ステップS622では、ステップS602で読み込んだ操舵角に基づいて、車両2の回転方向が左方向であるか否かを判断し、YES(左旋回)の場合はステップS623へ進み、NO(右旋回)の場合はステップS624へ進む。
【0060】
ステップS623では、右方オフセット方向からの荷重入力により車両2が左旋回したとして、右前輪FRに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は右前方であって荷重入力部位は右前輪FRであるとする荷重入力部位情報を出力し、B、すなわち図4Aに示すエンドへ進む。
【0061】
ステップS624では、右方オフセット方向からの荷重入力により車両2が右旋回したとして、右後輪RRに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は右後方であって荷重入力部位は右後輪RRであるとする荷重入力部位情報を出力し、B、すなわち図4Aに示すエンドへ進む。
【0062】
ステップS625では、右方正面からの荷重入力により、右前後輪FR,RRの双方に荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は右方正面であって荷重入力部位は右前輪FR及び右後輪RRであるとする荷重入力部位情報を出力し、B、すなわち図4Aに示すエンドへ進む。
【0063】
ステップS626では、ステップS604で読み込んだヨーレートを時間積分演算し、ステップS627へ進む。なお、積分演算方法についてはステップS607と同一であるのでここでは説明を省略する。
【0064】
ステップS627では、ステップS626で求めたヨーレート積分値が予め定めた閾値(第2閾値)よりも大きいか否かを判断し、YES(積分値大)の場合は車両2の進行方向に変更が生じた、すなわち車両2に対してオフセット方向から荷重入力があり、車両2がヨー運動をしたとしてステップS628へ進み、NO(積分値小)の場合は車両2の進行方向の変更が生じない、すなわち車両2に対して左方正面から荷重入力があったとしてステップS631へ進む。ここで、第2閾値は任意に設定することができる。
【0065】
ステップS628では、ステップS602で読み込んだ操舵角に基づいて、車両2の回転方向が左方向であるか否かを判断し、YES(左旋回)の場合はステップS629へ進み、NO(右旋回)の場合はステップS630へ進む。
【0066】
ステップS629では、左方オフセット方向からの荷重入力により車両2が左旋回したとして、左後輪RLに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は左後方であって荷重入力部位は左後輪RLであるとする荷重入力部位情報を出力し、B、すなわち図4Aに示すエンドへ進む。
【0067】
ステップS630では、左方オフセット方向からの荷重入力により車両2が右旋回したとして、左前輪FLに荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は左前方であって荷重入力部位は左前輪FLであるとする荷重入力部位情報を出力し、B、すなわち図4Aに示すエンドへ進む。
【0068】
ステップS631では、左方正面からの荷重入力により、左前後輪FL,RLの双方に荷重入力があった、すなわち加速度入力方向は左方正面であって荷重入力部位は左前輪FL及び左後輪RLであるとする荷重入力部位情報を出力し、B、すなわち図4Aに示すエンドへ進む。
【0069】
図6は、実施例1の車両の制御装置での未損傷車輪制動力制御処理(未損傷車輪制御部)の流れを示すフローチャートである。以下、図6の各ステップについて説明する。
【0070】
ステップS801では、複数の車輪回転速度センサ18a〜18dのそれぞれにより検出された各車輪FL,FR,RL,RRの回転速度を読み込み、ステップS802へ進む。
【0071】
ステップS802では、ステップS6で判定した荷重入力部位に位置する損傷車輪の回転速度が検出できたか否かを判断し、YES(検出可能)の場合は荷重入力があっても車輪回転速度センサに不具合が発生しなかったとしてステップS803へ進み、NO(検出不可能)の場合は荷重入力により車輪回転速度センサに不具合が発生したとしてステップS805へ進む。
【0072】
ステップS803では、ステップS802での損傷車輪の回転速度検出可との判断に続き、複数の車輪回転速度センサ18a〜18dのそれぞれの検出値を比較、つまり各車輪FL,FR,RL,RRの回転速度を比較し、ステップS804へ進む。なお、この回転速度の比較方法については周知の方法により実行する。
【0073】
ステップS804では、ステップS803における各車輪FL,FR,RL,RRの回転速度の比較結果に基づいて、荷重入力部位に位置していない未損傷車輪のそれぞれの制動目標値(目標減速度)を算出し、ステップS808へ進む。ここで、制動目標値とは、車両挙動のコントロールを保持し、急旋回や横転等のリスクを最小化することが可能な減速度を実現する値である。なお、この制動目標値算出方法については周知の方法により実行する。
【0074】
ステップS805では、ステップS802での損傷車輪の回転速度検出不可との判断に続き、車速センサ16により検出された車両速度を読み込み、舵角センサ17により検出された操舵角を読み込み、各加速度センサ11〜14により検出された車両前後方向に作用する加速度及び車両左右方向に作用する加速度をそれぞれ読み込み、ヨーレートセンサ15により検出された車両2のヨーレート(回転角速度)を読み込んで、ステップS806へ進む。
【0075】
ステップS806では、ステップS805で読み込んだ車両速度、操舵角、車両加速度、ヨーレートのそれぞれに基づいて車両姿勢を解析し、ステップS807へ進む。なお、この車両姿勢の解析方法については周知の方法により実行する。
【0076】
ステップS807では、ステップS806における車両姿勢の解析結果に基づいて、未損傷車輪のそれぞれの制動目標値(目標減速度)を算出し、ステップS808へ進む。ここで、制動目標値とは、車両挙動のコントロールを保持し、急旋回や横転等のリスクを最小化することが可能な減速度を実現する値である。なお、この制動目標値算出方法については周知の方法により実行する。
【0077】
ステップS808では、ステップS804で算出した制動目標値又はステップS807で算出した制動目標値に基づいて、未損傷車輪の減速度が目標値になるように各未損傷車輪におけるブレーキ油圧を制御し、ステップS809へ進む。ここで、ブレーキ油圧の制御は、信号制御部30からブレーキ油圧制御装置25及び未損傷車輪に対応するディスクブレーキに所定の制御信号を出力することで実行する。
【0078】
ステップS809では、ステップS808で出力された制御信号に基づいてブレーキ装置20が作動し、車両2に所定の制動力を付与する。
【0079】
次に、作用を説明する。
まず、「従来の車両の制動制御とその課題」の説明を行い、続いて、実施例1の車両の制御装置における「荷重入力時の車両制動制御作用」について説明する。
【0080】
[従来の車両の制動制御とその課題]
従来の車両において、外部からの荷重入力が発生したときには、車両に作用した加速度が予め定めた所定の閾値以上であれば、車両に搭載したブレーキ装置を作動させて制動力を付与している。
【0081】
ここで、ブレーキ装置は、ブレーキ配管内を流動するブレーキ油の圧力制御により制動力をコントロールする。しかしながら、車両への荷重入力によってブレーキ配管が損傷し、損傷箇所からブレーキ油が漏れる等した場合には、制動力をコントロールすることができず、車両に所望の制動力を付与することができないという問題があった。
【0082】
また、ブレーキ油の漏れによる影響を低減するために、ブレーキ配管をマスターシリンダから独立した2系統以上に分けることが一般に行われている。この場合、一つのブレーキ配管系統に不具合が生じても、他のブレーキ配管系統には影響がない。そのため、不具合が生じなかったブレーキ配管を流れるブレーキ油を制御して車両に制動力を付与することができる。
【0083】
しかしながら、このとき、不具合が生じたブレーキ配管を流れるブレーキ油は漏れてしまい、一つのブレーキ配管系統が制動力を加えられない状態になる。さらに、荷重入力によって不具合が生じたブレーキ配管系統によって制御される車輪及びその周辺構造が変形等し、正常に回転することができずにロック状態になったときでは、不具合が生じなかったブレーキ配管系統によって車両に制動力を付与しても車両姿勢を十分にコントロールできなくなるおそれがあった。
【0084】
また、従来からブレーキ油の漏れを検知するために、ブレーキ油圧計を車両に搭載してブレーキ油圧を監視し、何らかの原因によりブレーキ油の低下を検出すればブレーキ配管等の故障診断を促すことが一般に行われている。
【0085】
しかしながら、通常の車両においては、ブレーキ油圧計をマスターシリンダに近いブレーキ油圧配管系統の上流位置に設けている。すなわち、各車輪へ接続された配管ごとにブレーキ油圧計を配置する構成ではないことが一般的である。そのため、荷重入力によってブレーキ配管に損傷が生じた場合、ブレーキ油の漏れを検出することはできても、損傷箇所の特定を直ちに行うことは困難であった。また、どの車輪へ接続された配管に損傷が生じたかを検出するために車輪ごとにブレーキ油圧計を設けることは、コスト増加になってしまうという問題があった。
【0086】
[荷重入力時の車両制動制御作用]
実施例1に示す車両2の走行中に荷重入力があり、車両2に制動力を付与して減速する場合の制動制御について説明する。
【0087】
車両2の信号制御部30では、一定時間の経過ごとに図3に示す車両挙動制御処理を繰り返し実行する。そして、車両2に荷重入力があった場合、つまり図3に示すフローチャートのステップS1においてYESと判断されたときには、このフローチャートにおいてステップS2→ステップS3→ステップS4へと進み、車両2に設けられたブレーキ装置20のポンプ255が作動すると共に、全てのインレットソレノイドバルブ281a〜281dが一斉に開放され、且つ、全てのアウトレットソレノイドバルブ282a〜282dが閉鎖される。これにより、各車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれに対応するディスクブレーキ21〜24では、ブレーキキャリパーが増圧され、ディスクロータ21a〜24aにブレーキパッド21b〜24bが押し付けられる。
【0088】
このように各車輪FL,FR,RL,RRにおいて各ブレーキキャリパーを増圧した後に、ステップS5へと進んで一対のブレーキ配管26a,26b内のブレーキ油圧が低下しているか否かを判断する。
【0089】
ここで、荷重入力があってもブレーキ配管26a,26bに不具合(ブレーキ油の漏れ)が生じていなければ油圧は低下しない。一方、一対のブレーキ配管26a,26bのいずれかからブレーキ油が漏れていればブレーキ油圧が低下する。ステップS5においてブレーキ油圧が低下していると判断されれば、ステップS6へと進んで荷重入力部位判定処理を実行する。そして、ステップS7→ステップS8へと進み、加速度入力方向に位置し、荷重入力部位であって損傷したと推定される車輪(損傷車輪)に対応するインレットソレノイドバルブを閉鎖すると共に、その他の車輪(未損傷車輪)の制動制御を実行する。
【0090】
これにより、ブレーキ装置20を作動中に、ブレーキ油圧の低下を検出したとき、加速度入力方向に位置する車輪、すなわち損傷車輪に対応したブレーキバルブ(インレットソレノイドバルブ)を作動し、損傷車輪でのブレーキ油の流動を遮断することができる。
【0091】
そのため、ブレーキ油の漏れが生じたと判断される損傷車輪ではブレーキ油の流動を遮断するので、ブレーキ油の漏れを停止させることができる。一方、ブレーキ油の漏れが生じていないと判断される未損傷車輪ではブレーキ油の流動が可能であるので、未損傷車輪には適切な制動力を付与することができる。
【0092】
この結果、車両2への荷重入力によりブレーキ装置20に不具合が生じたときであっても、ブレーキ油の漏れを防止すると同時に、車両2に適切な制動力を付与することができる。
【0093】
また、車両2に荷重入力があったときの荷重入力部位(加速度入力方向)を判断するには、図4Aに示すフローチャートにおいてステップS601→ステップS602→ステップS603→ステップS604へと進み、車両速度、操舵角、加速度、ヨーレートを読み込む。そして、ステップS605へと進み、車両前後方向に作用する加速度と、車両左右方向に作用する加速度との大きさを比較する。これにより、車両前方又は後方からの荷重入力があったか、車両右方又は車両左方からの荷重入力があったかを判断することができる。
【0094】
ここで、例えば車両前後方向から荷重入力があった場合には、ステップS605→ステップS606へと進み、車両前後方向に作用する加速度の符合を判別する。これにより、車両前方からの荷重入力があったか、車両後方からの荷重入力があったかを判断することができる。
【0095】
そして、例えば車両前方から荷重入力があった場合には、ステップS606→ステップS607→ステップS608へと進み、予め読み込んだヨーレートを時間積分演算し、ヨーレート積分値が第1閾値よりも大きいか否かを判断する。これにより、荷重入力に伴って車両2の進行方向に変更があったか否かを判断することができる。
【0096】
そして、例えば車両2のオフセット方向からの荷重入力があった場合には、車両進行方向が変更するので、ステップS608→ステップS609へと進み、車両2の回転方向を判別する。これにより、オフセット方向が右側であるのか、左側であるのかを判断することができ、最終的に車両2に対していずれの方向からの荷重入力であったか、つまり加速度入力方向の判定を行うことができる。
【0097】
このように、図4A及び図4Bに示す荷重入力部位判定処理では、車両に作用する加速度及びヨーレートに基づいて荷重入力部位、すなわち加速度入力方向を判定することができる。
【0098】
そのため、第1,第2油圧センサ27a,27bがマスターシリンダ251と近いブレーキ配管26a,26bの上流部に配置した場合であっても、加速度入力方向を判定することができる。そして、損傷を受けたと推定される部位のブレーキ油の流動を短時間で遮断することができるので、ブレーキ油の漏れ量を抑制することができる。さらに、既存のセンサ(各加速度センサ11〜14及びヨーレートセンサ15)を活用するので、センサ追加のコスト増加や、制御システムの複雑化を生じることはない。
【0099】
さらに、未損傷車輪の制動力を制御することで車両に適切な制動力を付与するには、図6に示すフローチャートにおいて、ステップS801→ステップS802へと進み、各車輪FL,FR,RL,RRの回転速度を検出すると共に、荷重入力部位に位置した損傷車輪においても回転速度を検出できたか否かを判断する。これにより、損傷車輪に対応した車輪回転速度センサに異常が生じたか否かを判別することができる。
【0100】
そして、損傷車輪に対応した車輪回転速度センサに異常がなければ、ステップS803→ステップS804へと進んで各車輪FL,FR,RL,RRの回転速度の比較結果に基づいて未損傷車輪の制動力目標値を算出する。一方、損傷車輪に対応した車輪回転速度センサに異常があれば、ステップS805→ステップS806へと進んで車両姿勢の解析結果に基づいて未損傷車輪の制動力目標値を算出する。
【0101】
そして、ステップS807→ステップS808へと進み、算出した制動力目標値に基づいて未損傷車輪の減速度が目標値になるように各未損傷車輪におけるブレーキ油圧を制御して車両に適切な制動力を付与する。
【0102】
このように、未損傷車輪の制動制御を実行することで、荷重入力により損傷を受けたと推定されるブレーキ配管と同一系統に設けられたブレーキバルブの制御を行うことができる。つまり、損傷車輪と同一系統に位置する未損傷車輪では、ブレーキ油の流動を許容し、油圧を保持して車輪への制動力を付与することができる。
【0103】
そのため、不具合が生じなかったブレーキ配管系統によって車両に制動力を付与すると同時に、不具合を生じたブレーキ配管に接続したブレーキバルブであっても、荷重入力部位に位置していない車輪に対応するものは適切に制御され、車輪に制動力を付与することができる。そして、車両姿勢を十分にコントロールできなくなるといったリスクを低減することができる。
【0104】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0105】
(1) 車両2の加速度を検出する加速度検出手段(第1,第2前後Gセンサ、第1,第2左右Gセンサ)11〜14と、前記車両2の進行方向の変更を検出する方向変更検出手段(ヨーレートセンサ)15と、ブレーキ油の油圧力により前記車両2の車輪FL,FR,RL,RRごとに制動力を付与する制動手段(ブレーキ装置)20と、前記加速度検出手段11〜14により検出された加速度が予め定めた閾値を超えると共に、前記方向変更検出手段15により前記車両2の進行方向の変更が検出されたときに、前記制動手段20を作動して前記車両2を減速させる車両挙動制御手段(図3)と、を備えた車両の制御装置であって、前記制動手段20は、前記ブレーキ油が流動するブレーキ配管26a,26bと、前記ブレーキ配管26a,26b内の圧力を検出する油圧検出手段(第1,第2油圧センサ)27a,27bと、前記車輪FL,FR,RL,RRごとに設けられると共に前記ブレーキ油の流動を調整する複数のブレーキバルブ28a〜28dと、を有し、前記車両挙動制御手段(図3)は、前記車両2に作用する加速度方向を判定する加速度方向判定手段(ステップS6,図4A及び図4B)を有すると共に、前記制動手段20が作動中に、前記油圧検出手段27a,27bにより前記ブレーキ配管26a,26b内の圧力低下を検出したとき、前記加速度方向判定手段(ステップS6, 図4A及び図4B)により得られた加速度入力方向に位置する車輪に対応したブレーキバルブを作動し、前記ブレーキ油の流動を遮断する構成とした。
このため、車両2への荷重入力により制動手段20に不具合が生じたときであっても、ブレーキ油の漏れを防止すると共に、車両2に適切な制動力を付与することができる。
【0106】
(2) 前記加速度方向判定手段(ステップS6, 図4A及び図4B)は、前記加速度検出手段11〜14及び前記方向変更検出手段15の検出結果に基づいて加速度入力方向を判定する構成とした。
このため、センサ追加のコスト増加やシステムの複雑化を伴うことなく、短時間で加速度入力方向を判定することができる。
【0107】
(3) 前記車両挙動制御手段(図3)は、前記車両2の車輪回転速度の比較結果、又は車両姿勢の解析結果に基づいて、加速度入力方向に位置する車輪に対応して前記ブレーキ油の流動を遮断するブレーキバルブと同一系統でのブレーキ配管に接続し且つ加速度入力方向に位置しない車輪に対応したブレーキバルブを作動し、該車輪の制動状態を制御する未損傷車輪制御部(ステップS8,図6)を有する構成とした。
このため、不具合が生じたブレーキ配管と同一系統に位置するブレーキバルブであっても、適切に制御することができ、車両姿勢をコントロールできなくなるリスクを低減することができる。
【0108】
以上、本発明の車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0109】
実施例1では、車両2の進行方向の変更を検出する方向変更検出手段として、車両2のヨーレート(回転角速度)を検出するヨーレートセンサ15を採用したが、これに限らず、例えば車載カメラであってもよい。
【0110】
また、実施例1では制動手段として、各車輪FL,FR,RL,RRに設けたディスクブレーキ21〜24を有するブレーキ装置20としたが、例えば左右後輪RL,RRにはドラムブレーキを採用してもよい。
【符号の説明】
【0111】
2 車両
11 第1前後Gセンサ(加速度検出手段)
12 第2前後Gセンサ(加速度検出手段)
13 第1左右Gセンサ(加速度検出手段)
14 第2左右Gセンサ(加速度検出手段)
15 ヨーレートセンサ(方向変更検出手段)
20 ブレーキ装置(制動手段)
26a,26b 第1,第2ブレーキ配管(ブレーキ配管)
27a,27b 第1、第2油圧センサ(油圧検出手段)
28a〜28d ブレーキバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の加速度を検出する加速度検出手段と、
前記車両の進行方向の変更を検出する方向変更検出手段と、
ブレーキ油の油圧力により前記車両の車輪ごとに制動力を付与する制動手段と、
前記加速度検出手段により検出された加速度が予め定めた閾値を超えると共に、前記方向変更検出手段により前記車両の進行方向の変更が検出されたときに、前記制動手段を作動して前記車両を減速させる車両挙動制御手段と、を備えた車両の制御装置であって、
前記制動手段は、前記ブレーキ油が流動するブレーキ配管と、前記ブレーキ配管内の圧力を検出する油圧検出手段と、前記車輪ごとに設けられると共に前記ブレーキ油の流動を調整する複数のブレーキバルブと、を有し、
前記車両挙動制御手段は、前記車両に作用する加速度方向を判定する加速度方向判定手段を有すると共に、
前記制動手段が作動中に、前記油圧検出手段により前記ブレーキ配管内の圧力低下を検出したとき、前記加速度方向判定手段により得られた加速度入力方向に位置する車輪に対応したブレーキバルブを作動し、前記ブレーキ油の流動を遮断することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両の制御装置において、
前記加速度方向判定手段は、前記加速度検出手段及び前記方向変更検出手段の検出結果に基づいて加速度入力方向を判定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1及び請求項2に記載した車両の制御装置において、
前記車両挙動制御手段は、前記車両の車輪回転速度の比較結果、又は車両姿勢の解析結果に基づいて、加速度入力方向に位置する車輪に対応して前記ブレーキ油の流動を遮断するブレーキバルブと同一系統でのブレーキ配管に接続し且つ加速度入力方向に位置しない車輪に対応したブレーキバルブを作動し、該車輪の制動状態を制御する未損傷車輪制御部を有することを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−285016(P2010−285016A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139009(P2009−139009)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】