説明

車両の後部車体構造

【課題】後部フロア上にフロア面から所定の高さ位置に配設されたフロアボードを備えた車両の後部車体構造において、後部フロアの外観性を損なうことなく、サスペンションタワーを有効に補強することができるようにする。
【解決手段】最後列シートより後方の後部フロア2上に、フロア面から所定の高さ位置に配設されたフロアボードを備えた車両の後部車体構造であって、前記後部車体の左右の側壁に、リヤサスペンション装置の上部を支持するサスペンションタワーがそれぞれ設けられ、前記フロアボードに対応する高さ位置に、左右のサスペンションタワーどうしを互いに結合するタワーバー50が配設されている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の後部車体構造、特に、最後列シートより後方の後部フロア上に、フロア面から所定の高さ位置に配設されたフロアボードを備えた車両の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えば自動車等の車両では、最後列シートよりも後方の車室空間を荷室として利用することが一般的に行われている。また、例えばワゴン型などの自動車では、かかる車両後部の荷室空間をフロアボードで上下に仕切って、スペースを更に有効利用することも一般に良く行われている。
例えば、車両後部の床面に凹所を設けてスペアタイヤ収納部とし、この凹所の上側を、床面と略面一となる高さ位置に設定された仕切板で覆い、この仕切板上方の空間をトランクルームとして利用できるようにした構造は、特にスペースの余裕に乏しい乗用車等の後部荷室などに、幅広く採用されている。
【0003】
また、車両後部の荷室床面の後端部分には、床面から上方へ所定高さ立ち上がるようにして内装部材(エンドトリム)が配設されるのが一般的であるが、例えば、前記フロアボードの高さ位置(上下方向の位置)をエンドトリムの高さに合わせて、フロアボードとエンドトリムとを一続きにフラット化することにより、車両後部の荷室床面について所謂掃き出しフロアを実現でき、利便性が大いに向上する。
【0004】
このように車両後部の荷室空間をフロアボードで上下に仕切る場合、例えば、仕切られた各スペースにそれぞれ収容する荷物の形状やサイズ等に応じて、又は、荷室床面をフラット化できるように、或いは、最後列シートを折り畳んだ場合にフラットフロアを実現できるように、フロアボードの高さ位置を変更することができれば、荷物の種類に応じたスペースの有効利用ができ、また、荷室の使い勝手が良くなり、更に利便性を高めることができる。
【0005】
かかる要望に関連した先行技術として、例えば、特許文献1には、車両後部の荷室空間を上下に仕切る仕切板の支持機構として、構造の過度な複雑化を招くことなく、また、比較的簡単な作業で、仕切り高さを変更することができる構成が開示されている。
【0006】
ところで、自動車等の車両の後部車体構造として、車体の後部側壁にリヤホイール(後輪)の少なくとも上部を収容するリヤホイールハウスが設けられ、このリヤホイールハウスに、リヤサスペンション装置(後輪懸架装置)の上部を支持するサスペンションタワー部が一体的に設けられた構成を有するものは、一般に良く知られている。
【特許文献1】特開2005−219702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる後部車体構造では、リヤサスペンション装置への入力荷重が、サスペンションタワー部に作用しリヤホイールハウスに伝達されるが、リヤサスペンション装置からサスペンションタワー部への荷重は、通常、やや斜め内側上方に向けて入力されるので、リヤホイールハウス上部の剛性が(換言すれば、サスペンションタワー部の剛性が)十分でない場合には、所謂、サスペンションタワー部の内倒れを招き、車両の操縦安定性に悪影響を及ぼすことになる。
【0008】
従って、サスペンションタワー部を効果的に補強して、当該サスペンションタワー部の剛性を十分に確保することが求められるのであるが、サスペンションタワー部を補強するための機構が、後部フロアの外観性に悪影響を及ぼすことがないように留意する必要がある。
【0009】
そこで、この発明は、後部フロア上にフロア面から所定の高さ位置に配設されたフロアボードを備えた車両の後部車体構造において、後部フロアの外観性を損なうことなく、サスペンションタワーを有効に補強することができるようにすることを、基本的な目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本願請求項1の発明(第1の発明)は、最後列シートより後方の後部フロア上に、フロア面から所定の高さ位置に配設されたフロアボードを備えた車両の後部車体構造であって、前記後部車体の左右の側壁に、リヤサスペンション装置の上部を支持するサスペンションタワーがそれぞれ設けられ、前記フロアボードに対応する高さ位置に、左右のサスペンションタワーどうしを互いに結合するタワーバーが配設されている、ことを特徴としたものである。
【0011】
また、本願請求項2の発明(第2の発明)は、前記第1の発明において、前記フロアボードは、前記サスペンションタワーに対し車体前方に配置される前部ボードと、該前部ボードより後方に配置される後部ボードとを備えており、前記タワーバーは、前部ボードに対応する高さ位置に配設されている、ことを特徴としたものである。
【0012】
更に、本願請求項3の発明(第3の発明)は、前記第2の発明において、前記後部ボードの配設位置は、前部ボードの後方に位置する上方位置と、少なくとも前側部分が前部ボードの下方に収容される下方位置とに選択的に設定可能である、ことを特徴としたものである。
【0013】
また更に、本願請求項4の発明(第4の発明)は、前記第2又は第3の発明において、前記前部ボードは前記タワーバーに対して取り外し可能である、ことを特徴としたものである。
【0014】
また更に、本願請求項5の発明(第5の発明)は、前記第11〜第4の何れか一の発明において、前記タワーバーの前記サスペンションタワーへの取付部をフロアパネルに結合支持する補強部材が設けられている、ことを特徴としたものである。
【0015】
また更に、本願請求項6の発明(第6の発明)は、前記第5の発明において、前記フロアボードを支持するボード支持部材が前記フロアパネル上に立設されており、前記補強部材には、前記ボード支持部材を収容する収容部が設けられている、ことを特徴としたものである。
【0016】
また更に、本願請求項7の発明(第7の発明)は、前記第6の発明において、前記補強部材と前記ボード支持部材とを結合する結合部材を備えている、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1の発明によれば、後部フロアのフロア面から所定の高さ位置にフロアボードが配置され、該フロアボードに対応する高さ位置に左右のサスペンションタワーどうしを互いに結合するタワーバーを配設されているので、前記フロアボードを利用することで、後部フロアの見映えを損なうことなく、前記タワーバーを配設することができる。そして、左右のサスペンションタワーを補強して、その剛性を高め、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0018】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記フロアボードは、前記タワーバーに対応した前部ボードと、これとは別体の後部ボードとを備えているので、両者が一体の場合に比して、フロアボードの使い勝手が良くなり、利便性を向上させることができる。
【0019】
更に、本願の第3の発明によれば、基本的には前記第2の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、後部ボードの配設位置は、前部ボードの後方に位置する上方位置と、少なくとも前側部分が前部ボードの下方に収容される下方位置とに選択的に設定可能であるので、荷物の種類に応じたスペースの有効利用ができ、また、後部フロアの使い勝手が良くなり、更に利便性を高めることができる。
【0020】
また更に、本願の第4の発明によれば、基本的には前記第2又は第3の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前部ボードをタワーバーから取り外した荷室形態が可能で、後部フロアの使い勝手が更に良くなり、利便性をより一層高めることができる。
【0021】
また更に、本願の第5の発明によれば、基本的には前記第1〜第4の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記補強部材によってタワーバーのサスペンションタワーへの取付部をフロアパネルに結合支持することができ、左右のサスペンションタワーの支持剛性をより高めることができる。
【0022】
また更に、本願の第6の発明によれば、基本的には前記第5の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、フロアパネル上に立設されてフロアボードを支持するボード支持部材を前記補強部材の収容部に収容することで、前記ボード支持部材を利用して、サスペンションタワーの支持剛性を更に高めることができる。
【0023】
また更に、本願の第7の発明によれば、基本的には前記第6の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記補強部材とボード支持部材とを結合部材で結合することにより、ボード支持部材の支持剛性をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る自動車の車両後部の荷室側壁およびフロアボードを示す斜視図である。図2は図1からフロアボードの後部ボードを取り外した状態を示す斜視図、また、図3は図2からフロアボードの前部ボードを更に取り外した状態を示す斜視図である。
【0025】
これらの図に示すように、本実施形態に係る自動車の車両後部では、最後列シート(不図示)より後方の荷室空間のフロア面を構成する後部フロア2上に、フロア面2から所定の高さ位置に配設されるフロアボード10を備えている。該フロアボード10は、好ましくは合成樹脂製で、後部フロア2の比較的前側を覆う前部ボード10Fと、該前部ボード10Fの後方に配置される後部ボード10Rとで構成されている(図1参照)。尚、前記荷室空間の後側は、バックドア(不図示)により開閉可能に覆われている。
【0026】
図2及び図3に示されるように、後部フロア面2には、例えば工具等の部品を収納するために複数の収納用凹所2cが形成されている。また、後部フロア2の前端近傍には、例えば電動モータMなどの物品が配置されている。そして、後部フロア2の上方はフロアボード10で覆われ、このフロアボード10の上方にも種々の物品・荷物が収納し得るようになっている。すなわち、最後列シート(不図示)の後方の荷室空間は、前記フロアボード10によりって上下に仕切られ、上下の空間部それぞれが収納スペースとして利用することができる。
【0027】
図3からよく分かるように、フロアボード10は、後部フロア2上に立設されたボード支持部材13によって支持されている。該ボード支持部材13は、好ましくは合成樹脂製で、側壁3の近傍に該側壁3に沿って車体前後方向に配設された左右一対のサイド支持部材14と、これらサイド支持部材14の前端どうしを連結するようにして、後部フロア2の前端近傍において車幅方向に配設されたフロント支持部材15とで、平面視で略コ字状に形成されている。
【0028】
前記サイド支持部材14はフロアボード10の側端部を支持するもので、前記フロント支持部材15はフロアボード10の前端部を(つまり、前部ボード10Fの前端部を)支持するものである。前記サイド支持部14は、前部ボード10Fの側端部を支持する前側サイド支持部14Fと、後部ボード10Rの側端部を支持する後側サイド支持部14Rとで構成され、前側サイド支持部14Fは後側サイド支持部14Rよりも所定量だけ段下げされている。
【0029】
フロアボード10の後端部(つまり、後部ボード10Rの後端部)は、後部フロア2の後端部分において、上方へ所定高さ立ち上がるようにして設けられ車幅方向に延びるエンドトリム16に形成された後側支持部40によって支持される。この後側支持部40及び前記サイド支持部14の構成については、後で詳しく説明する。
【0030】
また、車体後部の左右の側壁3には、図示しないリヤホイール(後輪)の少なくとも上部を収容するリヤホイールハウス4が設けられ、このリヤホイールハウス4に、図示しないリヤサスペンション装置(後輪懸架装置)の上部を支持するサスペンションタワー部5が一体的に形成されている。尚、図1〜図3においては、荷室の右側壁3のみが示されているが、左側壁についても、左右対称になるだけで右側壁3と同様に構成されている。
【0031】
かかる後部車体構造では、リヤサスペンション装置(不図示)への入力荷重が、サスペンションタワー部5に作用しリヤホイールハウス4に伝達されるのであるが、リヤサスペンション装置からサスペンションタワー部5への荷重は、通常、やや斜め内側上方に向けて入力されるので、リヤホイールハウス4上部の剛性が(換言すれば、サスペンションタワー部5の剛性が)十分でない場合には、所謂、サスペンションタワー部5の内倒れを招き、車両の操縦安定性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0032】
そこで、本実施形態では、前記フロアボード10に対応する高さ位置に、左右のサスペンションタワー部5どうしを互いに結合するタワーバー50が配設されている(図3参照)。該タワーバー50は、例えば円柱状または円筒状に形成され、より具体的に説明すれば、前部ボード10Fの後端近傍の直下方において車幅方向に延設されている。このタワーバー50の配設位置は、前記サイド支持部材14の前側サイド支持部14Fの後端で、後側サイド支持部14Rの前端からの段下げ部分に該当している。
【0033】
一方、サスペンションタワー部5のタワーバー50に対応する箇所には、タワーバー50の端部を締結固定するためのバー固定部6が設けられている。フロアボード10の前部ボード10Fは、サスペンションタワー部5のバー固定部6に対し車体前方に配置され、一方、後部ボード10Rは、前部ボード10Fの後方でバー固定部6よりも車体後方に配置される。
【0034】
このように、後部フロア2のフロア面から所定の高さ位置にフロアボード10が配置され、該フロアボード10に対応する高さ位置に左右のサスペンションタワー部5どうしを互いに結合するタワーバー50を配設されているので、フロアボード10を利用することで、後部フロア2の見映えを損なうことなく、タワーバー50を配設することができる。そして、左右のサスペンションタワー部5を補強して、その剛性を高め、車両の操縦安定性を向上させることができるのである。
【0035】
この場合において、特に、前記フロアボード10は、タワーバー50に対応した前部ボード10Fと、これとは別体の後部ボード10Rとを備えているので、両者10F,10Rが一体の場合に比して、フロアボード10の使い勝手が良くなり、利便性を向上させることができる。
【0036】
前部ボード10Fの後端側の下面には、タワーバー50を収容し得る溝部が形成されており、タワーバー50がこの溝部内を挿通することで、タワーバー50と前部ボード10Fとの干渉が確実に回避されている。この場合、前部ボード10Fは、タワーバー50とは結合されておらず、タワーバー50に対して取り外し可能である。
【0037】
或いは、より好ましくは、前部ボード10Fの前記溝部の近傍に、タワーバー50を係止し得るヒンジ付きの係止金具(不図示)を設けておき、この係止金具によって前部ボード10Fをタワーバー50に係止可能に構成してもよい。この場合、係止金具による係止を解除することで、前部ボード10Fをタワーバー50から取り外すことができる。
【0038】
以上のように、前部ボード10Fをタワーバー50から取り外し可能とすることにより、前部ボード10Fをタワーバー50から取り外した荷室形態を得ることができ、後部フロア2の使い勝手が更に良くなり、利便性をより一層高めることができる。
【0039】
図4はタワーバー50の取付端部を拡大して示す斜視図、図5はタワーバー50のサスペンションタワー部への取付状態を示す斜視図である。また、図6はタワーバー50のサスペンションタワー部への取付状態を示す縦断面説明図である。
図4からよく分かるように、タワーバー50の取付端部には、サスペンションタワー部5のバー固定部6に締結固定される取付ブラケット51が例えば溶接によって固着されている。
【0040】
前記取付ブラケット51は、タワーバー50の端部およびその近傍の外周部に例えば溶接によって固着されるブラケット本体部52と、該本体部52の側端部から延設されて略鉛直面内に広がる上下の取付プレート53,54と、ブラケット本体部52の下部から前方に延設されて略水平方向に広がる底部取付プレート55とを備えている。各取付プレート53,54,55には、それぞれボルト挿通穴53h,54h,55hが設けられている。図6からよく分かるように、上側取付プレート53及び下側取付プレート54は、それぞれボルトB1及びボルトB2を用いて、バー固定部6に締結固定される。
【0041】
本実施形態では、タワーバー50のサスペンションタワー部5のバー固定部6への取付部を後部フロア2に結合支持する補強部材60が設けられている。図7は、該補強部材60の形状の概略を示す斜視図であるが、この図に示されるように、補強部材60は、板材を折り曲げて形成され、上下の補強プレート61,62と、これら両プレート61,62の上下方向に連結する縦壁プレート63とで構成されている。上下の補強プレート61,62には、それぞれボルトB3,B4(図6参照)を挿通させるボルト穴61h,62hが形成されている。
【0042】
上側補強プレート61と下側補強プレート62との間隔は、前記サイド支持部材14の前側サイド支持部14Fの高さに対応しており、図6からよく分かるように、上下の補強プレート61,62と縦壁プレート63とで形成される車幅方向内方が開口したスペース60s(収容スペース)内に、前側サイド支持部14Fを側方から抱き込むようにして収容できるように構成されている。
【0043】
このように前側サイド支持部14Fを前記収容スペース60s内に収容した状態で、ボルトB4及びナットN4を用いて、下側補強プレート62が後部フロア2のフロアパネル上に締結固定される。尚、後部フロア2は、その左右両端部が、車両前後方向へ延びる左右一対のリヤサイドフレーム9によってそれぞれ支持されている。
【0044】
また、上側補強プレート61は、前記取付ブラケット50の底部取付プレート55と重ね合わせた上で、ボルトB3とナットN3とを用いて相互に締結固定される。この場合、ナットN3は、前側サイド支持部14F内に埋め込むようにして固定されている。つまり、上側補強プレート61は、取付ブラケット50の底部取付プレート55と共に、前側サイド支持部14に結合されている。
【0045】
以上のように、前記補強部材60を設けたことにより、タワーバー50のサスペンションタワー部5のバー固定部6への取付部を後部フロア2に結合支持することができ、左右のサスペンションタワー部5の支持剛性をより高めることができる。
【0046】
特に、後部フロア2上に立設されてフロアボード10を支持するボード支持部材13のサイド支持部材14を(具体的には、前側サイド支持部14Fを)前記補強部材60の収容スペース60s内に収容することで、ボード支持部材13のサイド支持部材14を利用して、サスペンションタワー部5の支持剛性を更に高めることができるのである。
【0047】
また、特に、前記補強部材60(具体的には、上側補強プレート61)とボード支持部材13(具体的には、サイド支持部材14の前側サイド支持部14F)とを、ボルトB3とナットN3とを用いて結合したことにより、サイド支持部材14の支持剛性をより高めることができる。
【0048】
本実施形態では、後部フロア2上の荷室について、荷物の種類に応じたスペースの有効利用ができ、また、後部フロア2の使い勝手をより向上させるために、後部ボード10Rの配設位置が、前部ボード10Fの後方に位置する上方位置と、少なくとも前側部分が前部ボード10Fの下方に収容される下方位置とに選択的に設定できるようになっている。
【0049】
以下、前記後部ボード10Rの支持構造について説明する。
図8は後部フロア2の上方に配設された後部ボード10Rを模式的に示す平面説明図、図9は図8のY9−Y9線に沿った縦断面説明図である。これらの図に示すように、後部ボード10Rの前部には、左右外方へ突出する突起部12が一体的に設けられている。この突起部12は、好ましくは、後部ボード10R前部の内部を左右に貫通する軸部材11の一部をなしている。
【0050】
この後部ボード10Rの左右の前部を支持するために、前記ボード支持部材13の左右のサイド支持部材14の壁部に左右一対の前側支持部20が設けられている。前側支持部20は、後述する図12に詳しく示すように、高さ位置が異なる複数(本実施形態では2つ)の係合部22,24と、これら係合部22,24どうしを接続する接続通路23とを備えている。この前側支持部20の上側係合部22の前端よりも所定距離後方には、後述するガイド部材30が配置されている。
【0051】
一方、後部フロア2の後端部分には、前述のように、上方へ所定高さ立ち上がるようにして設けられたエンドトリム16が位置しており、このエンドトリム16に後部ボード10Rの後端側を載置させて支持する後側支持部40が形成されている。
この後側支持部40では、後述する図13に詳しく示すように、前記トランクエンドトリム16の上下方向の途中部に段差部43を形成することにより、この段差部43の上下に2つの支持面42,44が設けられている。そして、上側支持面42が前側支持部20の上側係合部22に対応した高さ位置に、下側支持面44が下側係合部24に対応した高さ位置に、それぞれ設定されている。
【0052】
このように、後部フロア2の後端部分に位置する内装トリム材であるエンドトリム16に後部ボード10Rの後端側を支持する後側支持部40を形成したことにより、後部フロア面2およびその近傍の高さ範囲において後部ボード10Rの高さ位置を変更できる。この場合、後側支持部40は、専用の機構をわざわざ別設する必要は無く、荷室に本来備えられている床面後端の内装トリム16を利用し、これに段差部43を形成するだけの簡単な構成で済むので、後部ボード10Rの高さ位置を変更するための構造をより簡素化することができる。
【0053】
本実施形態では、上側支持面42は前側支持部20の上側係合部22と実質的に同じ高さ位置に設定されており、後部ボード10Rは、上側支持面42と上側係合部22とで支持されることにより、前部ボード10Fと実質的に面一で水平となる上方位置に保持され、荷室スペースを拡大した状態でフラットな荷室フロアが得られる。従って、底面積がより大きい荷物を収容できる、また、収容した荷物をフロアボード10上を滑らせて移動させ易くなるなど、収納する物品の種類に応じたスペースの有効利用ができ、また、荷室の使い勝手が良くなり、利便性を高めることができる。
【0054】
一方、後側支持部40の下側支持面44は、前側支持部20の下側係合部24よりも僅かに高い高さ位置に設定されている。そして、後部ボード10Rは、下側支持面44と下側係合部24とで支持されることにより、その前側部分が前部ボード10Fの下方に収容される下方位置に保持される。この場合、後部ボード10Rの上側にはより背の高い荷物を置くことができる。
【0055】
このように、後部ボード10Rの配設位置が、前部ボード10Fの後方に位置する上方位置と、少なくとも前側部分が前部ボード10Fの下方に収容される下方位置とに選択的に設定可能であるので、荷物の種類に応じたスペースの有効利用ができ、また、後部フロア2の使い勝手が良くなり、更に利便性を高めることができる。
【0056】
図12は、前側支持部20の構成を拡大して示す説明図である。この図に詳しく示されるように、前側支持部20の上下2つの係合部22,24は、それぞれ実質的に水平方向に延びる横溝として形成されている。本実施形態では、下側係合部24の前端が上側係合部22の前端よりも所定量だけ前方まで伸長している。そして、これら上下に隣り合う係合部22,24どうしを接続する接続通路23は、2つの係合部22,24の後端部どうしを接続して前下がりの斜め溝を構成している。つまり、前側支持部20は、全体として、側面視で略y字形を成している。
【0057】
前側支持部20の上側係合部22の上部には、係合部先端から所定距離後方に段下げ部22sが形成され、この段下げ部22sに、後部ボード10Rを配設する際およびその高さ位置を変更する際に、当該トランクボード10の前部を案内するガイド部材30が配設されている。尚、このガイド部材30は、最下方位置の係合部(本実施形態では、下側係合部24)には設けられない。
【0058】
図10及び図11は、前記ガイド部材30の斜め上後方および斜め上前方から見て示した斜視図である。これらの図に示されるように、ガイド部材30は、平面視で矩形状の平板部31と、該平板部31の下面側に設けられた側面視で上広がりの三角形状に形成された基部32とを備えている。該基部32の頂点部は、好ましくは、平板部31の前後方向における中央よりも若干距離だけ前方に位置している。また、基部32の前端またはそれよりも若干距離だけ前方には、ガイド部材30を前後方向へ回動自在に支持させる枢支孔部33が設けられている。
【0059】
そして、図12に示されるように、ガイド部材30を上側係合部22に配置し、内装トリム14に固定された枢支ピン38をガイド部材30の枢支孔部33に挿入することにより、ガイド部材30は、枢支ピン38を中心にして鉛直面内で前後方向へ回動可能に支持される。このガイド部材30は、通常時には、その後端側が前記段下げ部22s上に支持され、その上面はサイド支持部材14の後側サイド支持部14Rの上面と略面一になるように構成されている(図12における実線表示参照)。
【0060】
従って、前記ガイド部材30は、その通常位置から、前方(図12における反時計回り方向)へは回動できるが、後方(図12における時計回り方向)へは回動できないことになる。すなわち、ガイド部材30の前端側(枢支ピン38よりも前側)に上方からの力が作用することにより、或いは、ガイド部材30の後端側に下方からの力が作用することにより、ガイド部材30は枢支ピン38を中心にして前方へ向かって回動する(図12における破線表示参照)が、ガイド部材30の後端側(枢支ピン38よりも後側)に上方からの力が作用しても、ガイド部材30が後方へ向かって回動することはない。
尚、図13は、本実施形態に係る後部ボード10Rの後側支持部40を拡大して示した断面説明図である。
【0061】
以上の構成において、本実施形態の支持機構を用いて後部ボード10Rを配設する際およびその高さ位置を変更する際の、ガイド部材30の作用について説明する。
図14(a)〜(e)は、前記ガイド部材30の作用を説明するための一連の模式的な説明図である。
まず、後部ボード10Rを前側支持部20の上側係合部22と後側支持部40の上側支持面42とで支持させるように取り付ける場合には、図14(a)及び図12に示されるように、サイド支持部材14の後側サイド支持部14Rの上面に沿って後部ボード10Rを後方から前方に向かって移動させる。そして、その前部の突起部12がガイド部材30の枢支ピン38を通り過ぎるまで移動させた後、後部ボード10Rが前下がり姿勢になるように傾斜させる。これにより、ガイド部材30が前方へ向かって(反時計回り方向へ)回動し、後部ボード10Rの前部の突起部12は上側係合部22に上方から進入し、この横溝状の上側係合部22と係合する(図14(a)及び図12における1点鎖線矢印A1参照)。
【0062】
そして、図14(b)に示されるように、後部ボード10Rの突起部12を上側係合部22の前端側まで押し込み、後部ボード10Rの後端部を後側支持部40の上側支持面42上に載置して支持させる。これにより、後部ボード10Rは、前側支持部20の上側係合部22と後側支持部40の上側支持面42とで、上側位置に水平に支持される。
このとき、後部ボード10Rの後端部が後側支持部40の上側支持面42から外れることがないように、前側支持部20の上側係合部22と後側支持部40の上側支持面42との間隔および後部ボード10Rの前後方向長さが設定されている。
【0063】
この上側位置への後部ボード10Rの配置作業においては、仮にガイド部材30の後端側に上方からの力が作用しても、ガイド部材30が後方へ向かって回動することはないので、後部ボード10R前部の突起部12が上方から下方に向かって接続通路23内に進入することは禁止される。従って、当該後部ボード10Rの突起部12が、接続通路23内を不用意に下方(下側係合部24の後端側)まで移動もしくは落下することが防止される。この場合、作業性が向上するので、片手での作業も可能となる。
【0064】
次に、図14(b)に示される上側位置に支持された後部ボード10Rの高さ位置を、前側支持部20の下側係合部24と後側支持部40の下側支持面44とで支持された下側位置に変更する場合には、図14(c)に示されるように、後部ボード10Rの後部を若干量持ち上げて後方へ引き出す。これにより、突起部12は、上側係合部22から抜脱されて接続通路23内へ進入し、この接続通路23に沿って下方へ移動でき、下側係合部24に後方から係合できる(図14(c)における1点鎖線矢印A2参照)。
【0065】
そして、図14(d)に示されるように、後部ボード10Rの突起部12を下側係合部24の前端側まで押し込み、後部ボード10Rの後端部を後側支持部40の下側支持面44上に載置して支持させる。これにより、後部ボード10Rは、前側支持部20の下側係合部24と後側支持部40の下側支持面44とで下側位置に支持される。
このとき、後部ボード10Rの後端部が後側支持部40の下側支持面42から外れることがないように、前側支持部20の下側係合部24と後側支持部40の下側支持面44との間隔および後部ボード10Rの前後方向長さが設定されている。
【0066】
また、図14(d)に示される下側位置に支持された後部ボード10Rを取り外す際には、図14(e)に示されるように、後部ボード10Rの後部を若干量持ち上げて斜め後方へ引き出す。これにより、突起部12は、下側係合部12から抜脱されて接続通路23内へ進入し、この接続通路23に沿って上方へ移動する。そして、ガイド部材30の後端側を下方から押し上げることにより、ガイド部材30が前方へ向かって回動し、突起部12が前側支持部20から開放され(図14(e)における1点鎖線矢印A3参照)、後部ボード10Rを取り外すことができるようになっている。
尚、後部ボード10Rの高さ位置を下側位置から上側位置に変更する場合には、図14(c)及び14(d)で示される工程と逆の作業を行えばよい。
【0067】
以上のように、前側支持部20の上側係合部22の上部に、後部ボード10Rの前部(突起部12)を案内するガイド部材30が配設されており、後部ボード10Rを配置する際には、後部ボード10Rの突起部12でガイド部材30を回動させて、前記突起部12を上側係合部22に上方から進入させる。また、後部ボード10Rの高さ位置を上側位置から下側位置に変更する際には、ガイド部材30の作用により、後部ボード10Rの突起部12を、現状の上側係合部22から接続通路23内へ進入させ、この接続通路23内を上方から下方へ移動させて隣り合う下方の下側係合部24に上方から進入させることで、上側係合部22から隣り合う下側係合部24へ確実に移動させることができる。また、この逆(下側係合部24から上側係合部22への移動)も可能である。
【0068】
また、後部ボード10Rを前側支持部20から取り外す際には、後部ボード10Rの前部の突起部12を、現状の係合部から接続通路23内へ進入させ、その接続通路23内を下方から上方に向かって移動させることで、支障なく容易に取り出すことができる。
一方、前記ガイド部材30の作用により、後部ボード10Rの突起部12が上方から下方に向かって接続通路23内に進入することは禁止されるので、後部ボード10Rの前部の高さ位置を変更する際に、当該後部ボード10Rの突起部12が接続通路23内を不用意に下方まで移動もしくは落下することが防止される。
【0069】
すなわち、後部ボード10Rの高さ位置を変更する際には、上側係合部22から隣り合う下方の下側係合部24へ、或いはその逆方向へ順次確実に移動でき、しかもその際、当該後部ボード10Rの突起部12が接続通路23内を不用意に下方まで移動もしくは落下することが防止されることにより、簡単な作業で確実に高さ位置の変更を行える。また、後部ボード10Rの前部を前側支持部20から取り外す際には、突起部12を接続通路23内で下方から上方に向かって移動させることで、支障なく容易に取り出すことができる。
【0070】
このように、本実施形態では、後部ボード10Rの左右の前部(突起部12)をそれぞれ支持する前側支持部20は、上下方向位置が異なる複数の係合部22,23と上下に隣り合う係合部22,23どうしを接続する接続通路23とを有している。従って、後部ボード10Rの前部の高さ位置を変更する場合、当該後部ボード10Rの左右の前部(突起部12)を現状の係合部22又は24から接続通路23を介して他の係合部24又は22へ移動させることで、後部ボード10Rの前部を前側支持部20から取り外す必要無しに、高さ位置の変更作業が行える。そして、その後、後部ボード10Rの後部を変更後の係合部24又は22に対応した上下方向位置の支持部44又は42に支持させることにより、比較的簡単な作業で後部ボード10Rの高さ位置を変更することができる。
【0071】
以上、説明したように、本実施形態によれば、後部ボード10Rの配設位置は、前部ボード10Fの後方に位置する上方位置と、少なくとも前側部分が前部ボード10Fの下方に収容される下方位置とに選択的に設定可能であるので、荷物の種類に応じたスペースの有効利用ができ、また、後部フロア2の使い勝手が良くなり、更に利便性を高めることができるのである。
【0072】
尚、本発明は、以上の実施態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更や改良を加え得るものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、最後列シートより後方の後部フロア上に、フロア面から所定の高さ位置に配設されたフロアボードを備えた車両の後部車体構造に関し、例えばワゴン型車などの自動車の後部車体構造として、有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車の車両後部の荷室側壁およびフロアボードを示す斜視図である。
【図2】図1からフロアボードの後部ボードを取り外した状態を示す斜視図である。
【図3】図2からフロアボードの前部ボードを更に取り外した状態を示す斜視図である。
【図4】タワーバーの取付端部を拡大して示す斜視図である。
【図5】タワーバーのサスペンションタワー部への取付状態を示す斜視図である。
【図6】タワーバーのサスペンションタワー部への取付状態を示す縦断面説明図である。
【図7】補強部材の形状の概略を示す斜視図である。
【図8】後部フロア上方に配設された後部ボードを模式的に示す平面説明図である。
【図9】図8のY9−Y9線に沿った縦断面説明図である。
【図10】ガイド部材の斜め上後方からの斜視図である。
【図11】前記ガイド部材の斜め上前方の斜視図である。
【図12】後部ボードの前側支持部を拡大して示す説明図である。
【図13】後部ボードの後側支持部を拡大して示す断面説明図である。
【図14】後部ボードの支持構造の作用を説明するための一連の模式的な説明図であり、(a)は後部ボードの前側支持部への係合直前の状態を、(b)は後部ボードの上側位置での支持状態を、(c)は後部ボードの下側位置への移動開始状態を、(d)は後部ボードの上側位置での支持状態を、(e)は後部ボードの前側支持部から取り外し直前の状態を、それぞれ示す説明図である。
【符号の説明】
【0075】
2 後部フロア
3 側壁
4 リヤホイールハウス
5 サスペンションタワー部
6 バー固定部
10 フロアボード
10F 前部ボード
10R 後部ボード
13 ボード支持部材
14 サイド支持部材
14F 前側サイド支持部
14R 後側サイド支持部
16 エンドトリム
20 前側支持部
22 上側係合部
24 下側係合部
23 接続通路
30 ガイド部材
40 後側支持部
42 上側支持面
43 段差部
44 下側支持面
50 タワーバー
51 取付ブラケット
60 補強部材
60s 収容スペース
B1〜B4 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最後列シートより後方の後部フロア上に、フロア面から所定の高さ位置に配設されたフロアボードを備えた車両の後部車体構造であって、
前記後部車体の左右の側壁に、リヤサスペンション装置の上部を支持するサスペンションタワーがそれぞれ設けられ、
前記フロアボードに対応する高さ位置に、左右のサスペンションタワーどうしを互いに結合するタワーバーが配設されている、
ことを特徴とする車両の後部車体構造。
【請求項2】
前記フロアボードは、前記サスペンションタワーに対し車体前方に配置される前部ボードと、該前部ボードより後方に配置される後部ボードとを備えており、
前記タワーバーは、前部ボードに対応する高さ位置に配設されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の後部車体構造。
【請求項3】
前記後部ボードの配設位置は、前部ボードの後方に位置する上方位置と、少なくとも前側部分が前部ボードの下方に収容される下方位置とに選択的に設定可能である、ことを特徴とする請求項2に記載の車両の後部車体構造。
【請求項4】
前記前部ボードは前記タワーバーに対して取り外し可能である、ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両の後部車体構造。
【請求項5】
前記タワーバーの前記サスペンションタワーへの取付部をフロアパネルに結合支持する補強部材が設けられている、ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の車両の後部車体構造。
【請求項6】
前記フロアボードを支持するボード支持部材が前記フロアパネル上に立設されており、
前記補強部材には、前記ボード支持部材を収容する収容部が設けられている、
ことを特徴とする請求項5に記載の車両の後部車体構造。
【請求項7】
前記補強部材と前記ボード支持部材とを結合する結合部材を備えている、ことを特徴とする請求項6に記載の車両の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−83171(P2010−83171A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251146(P2008−251146)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】