説明

車両の統合制御装置

【課題】衝突防止制御装置が自動ブレーキを発生して障害物との衝突を回避するにあたり、ABSの作動や車両の走行状態を考慮しつつ4輪の前後力を最大限活用して短い制動距離で停止することを可能として安全性、信頼性を向上させる。
【解決手段】衝突防止制御装置30が障害物との衝突を防止する制動力を発生させる際に、統合制御ユニット50は、自車両が直進状態の場合は、ディレイ時間Tdeが経過するまでは前後軸間の締結トルクCawdとして通常時に設定される締結トルクの値またはデフロック状態となる締結トルクの値である第1のトランスファクラッチトルクを設定させ、その後は、締結トルクCawdを略0に近い第2のトランスファクラッチトルクに低下させる。また、自車両が旋回状態の場合は、第2のトランスファクラッチトルクを設定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方の障害物を検出し、該障害物との衝突を制動により防止する衝突防止制御装置と、前後軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御装置を備えた車両の統合制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、車両の挙動を制御する様々な車両挙動制御装置が搭載されてきている。更に、最近では、前方の障害物を検出し、該障害物と自車両との衝突を防止する衝突防止制御装置も実用化され始めており、このような衝突防止制御装置と各車両挙動制御装置との様々な協調制御が考えられてきている。例えば、特開2000−302057号公報(以下、特許文献1)では、自車両が制動操作のみで障害物を回避できないと判定した場合、ハンドル操作と車両挙動に応じて前後駆動力配分制御装置、左右駆動力配分制御装置、後輪操舵制御装置、横すべり防止制御装置を回避走行モードに移行させてハンドル操作と車両挙動の変化に応じ、車両の回頭性が向上するように必要な制御を上述の各車両挙動制御装置に実行させる一方、ドライバのハンドル操作による回避走行終了を検出した際、或いは、障害物回避後の車両挙動の安定を検出した際には回避走行モードを解除する車両運動制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−302057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示される技術によれば、ドライバが操舵して障害物を旋回回避する状況においては回避能力を向上することができるものの、衝突防止制御装置が自動ブレーキを発生して障害物との衝突を防止するような場合では、最も重要視される制動距離の短縮を図ることができないという課題がある。ところで、車両の制動距離を短縮する技術としては、従来よりABS (Antilock Brake System)が広く知られ多くの車両に搭載されているが、このABSを前後軸間の締結トルクを制御自在な前後駆動力配分制御装置を備えた4輪駆動車に搭載するにあたっては、制動時において、前後駆動力配分制御装置は、締結トルクを低下させて前後軸間の干渉を無くしてABSとの干渉を防止するようにしている。しかし、前後軸間の締結トルクを低下させると、前後軸間のトルク伝達が行えないことから4輪の前後力を最大限活用できなくなるため、ABSが作動したとしても結果的に制動距離を短縮することができない虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、衝突防止制御装置が自動ブレーキを発生して障害物との衝突を回避するにあたり、ABSの作動や車両の走行状態を考慮しつつ4輪の前後力を最大限活用して短い制動距離で停止することを可能として安全性、信頼性の向上した車両の統合制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の統合制御装置の一態様は、自車両の前方障害物情報を検出する前方障害物情報検出手段と、上記検出した障害物と自車両との衝突可能性を判定して上記障害物との衝突を防止する制動力を発生させる衝突防止制御手段と、車両の運動状態に応じて前後軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御手段とを備えた車両の統合制御装置において、上記衝突防止制御手段が上記障害物との衝突を防止する制動力を発生させる際に、自車両が直進状態の場合は、予め設定した時間が経過するまでは上記締結トルクとして第1の締結トルクを設定させ、その後は上記締結トルクを略0に近い第2の締結トルクに低下させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両の統合制御装置によれば、衝突防止制御装置が自動ブレーキを発生して障害物との衝突を回避するにあたり、ABSの作動や車両の走行状態を考慮しつつ4輪の前後力を最大限活用して短い制動距離で停止することを可能として安全性、信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態に係る車両全体の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る衝突防止制御プログラムのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の一形態に係る統合制御プログラムのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の一形態に係る衝突防止制御作動時制御ルーチンのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の一形態に係るディレイ時間の特性を示し、図5(a)はハンドル角と車速により設定される第1のディレイ時間の特性図で、図5(b)はヨーレートと車速により設定される第2のディレイ時間の特性図で、図5(c)は車体横加速度と車速により設定される第3のディレイ時間の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は車両前部に配置されたエンジンを示し、このエンジン1による駆動力は、エンジン1後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)2からトランスミッション出力軸2aを経てトランスファ3に伝達される。
【0010】
更に、このトランスファ3に伝達された駆動力は、リヤドライブ軸4、プロペラシャフト5、ドライブピニオン軸部6を介して後輪終減速装置7に入力される一方、リダクションドライブギヤ8、リダクションドリブンギヤ9、ドライブピニオン軸部となっているフロントドライブ軸10を介して前輪終減速装置11に入力される。ここで、自動変速装置2、トランスファ3および前輪終減速装置11等は、一体にケース12内に設けられている。
【0011】
また、後輪終減速装置7に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに、後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達される。前輪終減速装置11に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0012】
トランスファ3は、リダクションドライブギヤ8側に設けたドライブプレート15aとリヤドライブ軸4側に設けたドリブンプレート15bとを交互に重ねて構成したトルク伝達容量可変型クラッチとしての湿式多板クラッチ(トランスファクラッチ)15と、このトランスファクラッチ15の締結トルク(トランスファクラッチトルク)を可変自在に付与するトランスファピストン16とにより構成されている。従って、本車両は、トランスファピストン16による押圧力を制御し、トランスファクラッチ15の締結トルク(トランスファクラッチトルク)を制御することで、トルク配分比が前輪と後輪で、例えば100:0から50:50の間で可変できるフロントエンジン・フロントドライブ車ベース(FFベース)の4輪駆動車となっている。
【0013】
トランスファピストン16の押圧力は、複数のソレノイドバルブ等を擁した油圧回路で構成するトランスファクラッチ駆動部41で与えられる。このトランスファクラッチ駆動部41を駆動させる制御信号(前後軸間の締結トルクCawd)は、後述する前後駆動力配分制御装置40から出力される。
【0014】
一方、符号31は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部31には、ドライバにより操作されるブレーキペダルと接続されたマスターシリンダ(図示せず)が接続されている。そして、ドライバがブレーキペダルを操作するとマスターシリンダにより、ブレーキ駆動部31を通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ17fl,右前輪ホイールシリンダ17fr,左後輪ホイールシリンダ17rl,右後輪ホイールシリンダ17rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪が制動される。
【0015】
ブレーキ駆動部31は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、上述のドライバによるブレーキ操作以外にも、後述する衝突防止制御装置30や、図示しないABS制御装置等からの信号に応じて、各ホイールシリンダ17fl,17fr,17rl,17rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に構成されている。
【0016】
車両には、画像認識装置20、衝突防止制御装置30、前後駆動力配分制御装置40、統合制御ユニット50の統合制御に係る各制御装置が設けられている。
【0017】
画像認識装置20には、車室内の天井前方に一定の間隔を持って取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、撮像した画像情報を出力する電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラ(ステレオカメラ)21から画像情報が入力されるとともに車速センサ62から自車速V等が入力される。そして、これらの情報に基づき、画像認識装置20は、ステレオカメラ21からの画像情報に基づいて自車両前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識し、これら認識情報等に基づいて自車走行路を推定する。更に、画像認識装置20は、自車走行路上に立体物が存在するか否かを調べ、存在する場合には、直近のものを制動による衝突防止制御の制御対象の障害物として認識する。
【0018】
ここで、画像認識装置20は、ステレオカメラ21からの画像情報の処理を、例えば以下のように行う。先ず、ステレオカメラ21で自車進行方向を撮像した1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成する。そして、この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ等を抽出する。更に、画像認識装置20は、白線データや側壁データ、推定される自車進行路等に基づいて自車走行路を推定し、自車走行路前方に存在する直近の立体物を衝突防止制御の制御対象の障害物として抽出(検出)する。そして、障害物を検出した場合には、その障害物情報として、自車両と障害物との相対距離d、障害物の移動速度Vf(=(相対距離dの変化の割合)+自車速V))、障害物の減速度af(=障害物の移動速度Vfの微分値)、障害物と自車両との幅方向のラップ率Rl(=自車両1の幅が障害物の幅に重なっている自車両1の幅に対する割合)等を演算する。このように、本実施形態において、画像認識装置20は、前方障害物情報検出手段としての機能を有している。尚、本実施の形態では、前方障害物情報の検出を、ステレオカメラ21からの画像情報を基に、認識するようになっているが、他に、単眼カメラからの画像情報を基に認識するようにしても良い。
【0019】
そして、衝突防止制御装置30は、後述の衝突防止制御プログラムに従って、自車両と前方障害物との衝突の可能性があるか否かを、自車両が障害物に対して衝突するまでの衝突予測時間TTC(Time To Collision:自車両と障害物との相対距離dを相対速度で除した値)を基に判定し、衝突予測時間TTCが予め設定しておいた時間Tcaより短くなって衝突の可能性があると判定した場合には、所定に制動力(予め設定しておいた一定値、或いは、予め設定しておいた車速Vに応じたマップ等を参照により)を設定してブレーキ駆動部31に出力する。このように本実施の形態では、衝突防止制御装置30は、衝突防止制御手段として設けられている。尚、衝突防止制御装置30の自車両と前方障害物との衝突の可能性の判定は、他の手法、例えば、車間距離、車間時間、自車両と障害物とのラップ率等を考慮して判定するものであっても良い。
【0020】
前後駆動力配分制御装置40は、トランスミッション制御部61から主変速ギヤ比iが入力され、ハンドル角センサ63からハンドル角θHが入力され、ヨーレートセンサ64からヨーレートγが入力され、横加速度センサ65から車体横加速度(dy/dt)が入力され、アクセル開度センサ66からアクセル開度θpが入力され、エンジン回転数センサ67からエンジン回転数ωeが入力され、後述する統合制御ユニット50から制御信号(前後軸間の締結トルクCawdの設定の切り換え信号)が入力される。
【0021】
そして、前後駆動力配分制御装置40は、通常時においては、例えば、以下の(1)式により前後軸間の締結トルクCawdを設定して、トランスファクラッチ駆動部41に出力するが、統合制御ユニット50からの制御信号に応じて、衝突防止制御装置30による自動ブレーキが作動される際には、前後軸間の締結トルクCawdを通常時に設定される締結トルクの値またはデフロック状態となる締結トルクの値である第1の締結トルク(第1のトランスファクラッチトルク)の値、或いは、略0に近い第2の締結トルク(第2のトランスファクラッチトルク)の値を設定してトランスファクラッチ駆動部41に出力するように構成されている。
Cawd=(1/(1+Tawd・s))・Fd・Gawd …(1)
ここで、Tawdはローパスフィルタ(一次遅れフィルタ)の時定数、sはラプラス演算子、Gawdは制御ゲイン(所定値)である。また、Fdはトランスファ入力トルクであり、例えば、以下の(2)式により算出される。
Fd=f(θp,ωe)・(i・Gf) …(2)
ここで、f(θp,ωe)は、予め設定しておいたマップ(エンジン特性のマップ)を参照して、アクセル開度θp、エンジン回転数ωeを基に推定するエンジン出力トルクである。また、Gfはファイナルギヤ比である。尚、前後軸間の締結トルクCawdは、上述の(1)式で算出されるものに限定するものではなく、他のマップ参照、計算等で設定する値であっても良い。このように、前後駆動力配分制御装置40は、前後駆動力配分制御手段として設けられている。
【0022】
統合制御ユニット50は、車速センサ62から車速Vが入力され、ハンドル角センサ63からハンドル角θHが入力され、ヨーレートセンサ64からヨーレートγが入力され、横加速度センサ65から車体横加速度(dy/dt)が入力され、衝突防止制御装置30から制御信号(自動ブレーキの作動/非作動の信号)が入力される。そして、統合制御ユニット50は、後述の統合制御プログラムに従って、衝突防止制御装置30が障害物との衝突を防止する制動力を発生させる際に、自車両が直進状態の場合は、予め設定した時間(ディレイ時間)Tdeが経過するまでは前後軸間の締結トルクCawdとして第1のトランスファクラッチトルクを設定させ、その後は、締結トルクCawdを略0に近い第2のトランスファクラッチトルクに低下させるように、前後駆動力配分制御装置40に制御信号を出力する。また、自車両が旋回状態の場合は、第2のトランスファクラッチトルクを設定させるように、前後駆動力配分制御装置40に制御信号を出力する。
【0023】
次に、衝突防止制御装置30で実行される衝突防止制御プログラムを、図2のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、画像認識装置20により、障害物が検出されているか否か判定され、障害物が検出されている場合は、S102に進み、衝突予測時間TTCが計算される。
【0024】
次いで、S103に進み、衝突予測時間TTCと予め設定しておいた閾値Tcaとを比較して、衝突予測時間TTCが予め設定しておいた閾値Tcaより短い場合(TTC<Tcaの場合)は、障害物と自車両とが衝突する可能性が高いと判断して、S104に進み、(予め設定しておいた一定値、或いは、予め設定しておいた車速Vに応じたマップ等を参照により)制動力を設定してブレーキ駆動部31に出力する。
【0025】
そして、S105に進んで、衝突防止制御装置30による自動ブレーキの作動を判定するための自動ブレーキ作動判定フラグFcをセット(Fc=1)してプログラムを抜ける。
【0026】
一方、S101で障害物が検出されていないと判定された場合、または、S103で衝突予測時間TTCが予め設定しておいた閾値Tca以上(TTC≧Tca)で、障害物と自車両とが衝突する可能性が低いと判断される場合は、S106に進んで、自動ブレーキ作動判定フラグFcをクリア(Fc=0)してプログラムを抜ける。
【0027】
次に、統合制御ユニット50で実行される統合制御プログラムを、図3のフローチャートで説明する。
まず、S201で、衝突防止制御装置30で設定される自動ブレーキ作動判定フラグFcがセット(Fc=1)されているか否か判定され、Fc=1であり、衝突防止制御装置30による自動ブレーキが作動されている場合は、S202に進み、ディレイ時間Tdeの設定が行われる。ディレイ時間Tdeは、本実施の形態では、車速V、ハンドル角θH、ヨーレートγ、車体横加速度(dy/dt)に応じて設定されるようになっており、予め設定しておいたハンドル角θHと車速Vにより設定される第1のディレイ時間tθ(図5(a)参照)と、予め設定しておいたヨーレートγと車速Vにより設定される第2のディレイ時間tγ(図5(b)参照)と、予め設定しておいた車体横加速度(dy/dt)と車速Vにより設定される第3のディレイ時間ty(図5(c)参照)の3つのディレイ時間tθ、tγ、tyを比較して最も短い時間が設定されるようになっている。
【0028】
このディレイ時間Tdeは、後述するように、衝突防止制御装置30による自動ブレーキが作動される際に、前後軸間の締結トルクCawdを通常時に設定される締結トルクの値またはデフロック状態となる締結トルクの値である第1のトランスファクラッチトルクの値とする時間となっているため、車速Vが高いほど車両挙動が不安定になる可能性が上がるため、3つのディレイ時間tθ、tγ、tyのいずれの特性においても、ディレイ時間tθ、tγ、tyは、車速Vが高いほど短く設定されるようになっている。また、図5(a)に示すように、ハンドル角の絶対値|θH|が大きい場合も、車両挙動が不安定になる可能性が上がるため、ハンドル角の絶対値|θH|が大きいほど第1のディレイ時間tθは短く設定されるようになっている。更に、図5(b)に示すように、ヨーレートの絶対値|γ|の増大は、旋回していると考えられるため、ヨーレートの絶対値|γ|が大きいほど第2のディレイ時間tγは短く設定されるようになっている。同様に、図5(c)に示すように、車体横加速度の絶対値|dy/dt|の増大は、旋回していると考えられるため、車体横加速度の絶対値|dy/dt|が大きいほど第3のディレイ時間tyが短く設定されるようになっている。
【0029】
こうして、本実施の形態では、設定した3つのディレイ時間tθ、tγ、tyの最小値を採用することで、車両挙動が不安定になる状態を避けつつ、最適なディレイ時間Tdeを設定できるようになっている。尚、本実施の形態では、3つのディレイ時間tθ、tγ、tyの最小値をディレイ時間Tdeとして設定するようになっているが、車両の特性によっては、何れか2つ、或いは、何れか一つ、或いは、車速V、ハンドル角θH、ヨーレートγ、車体横加速度(dy/dt)の何れかの組み合わせ、或いは、何れかに応じてディレイ時間Tdeを設定するようにしても良い。
【0030】
S202でディレイ時間Tdeを設定した後は、S203に進んで、前後駆動力配分制御装置40に対して衝突防止制御作動時制御を実行させてフローチャートを抜ける。
【0031】
一方、S201で、Fc=0であり、衝突防止制御装置30による自動ブレーキの作動が実行されていない場合は、S204に進み、前後駆動力配分制御装置40に対して通常時制御を実行させてフローチャートを抜ける。
【0032】
次に、前後駆動力配分制御装置40が、上述のS203による衝突防止制御作動時制御の信号を受けて実行する衝突防止制御作動時制御ルーチンを、図4のフローチャートで説明する。
【0033】
まず、S301で、ハンドル角の絶対値|θH|が、予め設定しておいた低い値θHCより小さい(|θH|<θHC)か否か判定し、|θH|<θHCの場合は、S302に進み、ヨーレートの絶対値|γ|が、予め設定しておいた低い値γcより小さい(|γ|<γc)か否か判定し、|γ|<γcの場合は、S303に進み、車体横加速度の絶対値|dy/dt|が、予め設定しておいた低い値Gycより小さい(|dy/dt|<Gyc)か否か判定し、|dy/dt|<Gycの場合は、S304に進み、車両は直進状態と判定する。
【0034】
一方、S301で|θH|≧θHC、または、S302で|γ|≧γc、または、S303で|dy/dt|≧Gycの場合は、S305に進んで、車両は旋回状態と判定する。
【0035】
S304、或いは、S305で車両の走行状態(直進状態或いは旋回状態)を判定した後は、S306に進んで、車両は直進状態か否か判定する。
【0036】
S306の判定の結果、車両は直進状態の場合は、S307に進み、ディレイ時間Tdeが経過したか否か判定され、ディレイ時間Tdeが経過していない場合は、S308に進んで、通常時に設定される締結トルクの値またはデフロック状態となる締結トルクの値である第1のトランスファクラッチトルクをトランスファクラッチトルクとして設定し、トランスファクラッチ駆動部41に出力する。
【0037】
また、S306で、車両が直進状態ではないと判定された場合、或いは、S307でディレイ時間Tdeが経過したと判定された場合は、S309に進み、略0に近い第2のトランスファクラッチトルクをトランスファクラッチトルクとして設定し、トランスファクラッチ駆動部41に出力する
このように、本発明の実施の形態によれば、衝突防止制御装置30が障害物との衝突を防止する制動力を発生させる際に、自車両が直進状態の場合は、予め設定した時間(ディレイ時間)Tdeが経過するまでは前後軸間の締結トルクCawdとして第1のトランスファクラッチトルクを設定させ、その後は、締結トルクCawdを略0に近い第2のトランスファクラッチトルクに低下させる。また、自車両が旋回状態の場合は、第2のトランスファクラッチトルクを設定させる。このため、障害物との衝突を防止する制動力が付加される際には、直進時は、第1のトランスファクラッチトルクによる前後軸間の締結トルクにより4輪の前後力を最大限活用した制動が実行され、その後、前後軸間の締結トルクは第2のトランスファクラッチトルクに低下されてABSの作動に備えることができる。また、車両が旋回状態の場合は、第2のトランスファクラッチトルクを締結トルクとしてトレース性能の確保を図ることが可能になっている。このように、衝突防止制御装置30が自動ブレーキを発生して障害物との衝突を回避するにあたり、ABSの作動や車両の走行状態を考慮しつつ4輪の前後力を最大限活用して短い制動距離で停止することを可能として安全性、信頼性の向上を図ることが可能となっている。
【0038】
また、前後軸間の締結トルクに第1のトランスファクラッチトルクを設定するディレイ時間Tdeは、ハンドル角θHと車速Vにより設定される第1のディレイ時間tθ、ヨーレートγと車速Vにより設定される第2のディレイ時間tγ、車体横加速度(dy/dt)と車速Vにより設定される第3のディレイ時間tyを比較して最も短い時間が設定されるようになっているので、車両挙動が不安定になる状態を的確に避けつつ、衝突防止制御装置30による制動距離の短縮が可能となっている。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
2 自動変速装置
3 トランスファ
14fl、14fr、14rl、14rr 車輪
15 トランスファクラッチ
20 画像認識装置(前方障害物情報検出手段)
21 ステレオカメラ
30 衝突防止制御装置(衝突防止制御手段)
31 ブレーキ駆動部
40 前後駆動力配分制御装置(前後駆動力配分制御手段)
41 トランスファクラッチ駆動部
50 統合制御ユニット
61 トランスミッション制御部
62 車速センサ
63 ハンドル角センサ
64 ヨーレートセンサ
65 横加速度センサ
66 アクセル開度センサ
67 エンジン回転数センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方障害物情報を検出する前方障害物情報検出手段と、
上記検出した障害物と自車両との衝突可能性を判定して上記障害物との衝突を防止する制動力を発生させる衝突防止制御手段と、
車両の運動状態に応じて前後軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御手段とを備えた車両の統合制御装置において、
上記衝突防止制御手段が上記障害物との衝突を防止する制動力を発生させる際に、自車両が直進状態の場合は、予め設定した時間が経過するまでは上記締結トルクとして第1の締結トルクを設定させ、その後は上記締結トルクを略0に近い第2の締結トルクに低下させることを特徴とする車両の統合制御装置。
【請求項2】
上記衝突防止制御手段が上記障害物との衝突を防止する制動力を発生させる際に、自車両が旋回状態の場合は、上記第2の締結トルクを設定させることを特徴とする請求項1記載の車両の統合制御装置。
【請求項3】
上記第1の締結トルクは、前後軸間を略ロック状態で連結する高い締結トルクと、上記前後駆動力配分制御手段が実行する通常制御による締結トルクのどちらか一方の締結トルクであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の統合制御装置。
【請求項4】
上記予め設定する時間は、少なくとも車速が高いほど短い時間に設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両の統合制御装置。
【請求項5】
上記予め設定する時間は、少なくともヨーレートの絶対値が大きいほど短い時間に設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両の統合制御装置。
【請求項6】
上記予め設定する時間は、少なくとも横加速度の絶対値が大きいほど短い時間に設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車両の統合制御装置。
【請求項7】
上記予め設定する時間は、少なくともハンドル角の絶対値が大きいほど短い時間に設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の車両の統合制御装置。
【請求項8】
上記前方障害物情報検出手段は、カメラにより撮像した画像から障害物を認識することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一つに記載の車両の統合制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−188095(P2012−188095A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55794(P2011−55794)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】