説明

車両の補助制動装置

【課題】補助制動装置が作動中でもアクセルペダルの踏み込み量に応じた制動力が得られ、頻繁な加速・減速の繰り返しを防止して、省燃費運転を実現する車両の補助制動装置の提供。
【解決手段】車両電子制御ユニット(10)及びその他の電子制御ユニット(20、30)を有し、車両電子制御ユニット(10)とその他の電子制御ユニットは車両内通信システム(L123)により接続されており、補助制動スィッチ(5)のスイッチ位置を検出する補助制動スイッチ位置検出装置(5S)と、アクセルペダル(4)の踏み込み量を計測するアクセルペダル踏み込み量計測装置(4S)を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の補助制動装置に関する。より詳細には、本発明は、エンジンの排気ブレーキ、プロペラシャフトに介装した発電機により制動力を得るリターダの少なくとも一方に関する。
【背景技術】
【0002】
補助制動装置について、種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
特許文献1及び特許文献2はともに、アクセル操作中には、補助制動装置が作動しないように構成されている(図5参照)。
したがって、係る補助制動装置では、補助制動装置が作動中にアクセルペダルを踏み込むと、車両は制動を停止し、減速状態から一気に加速状態に移行し、車両にショックが発生する。
【0003】
係る構成の補助制動装置を備えた車両では、平坦路において、前走車を追従走行中で前走車との車間距離が頻繁に増減する場合や、アップダウンの続く山間地の道路では、加速・減速の繰り返しが増え、惰行走行の頻度が減少して、車両の燃費は悪化する。
そして、加減速が多くなるため、自動変速機を備えた車両では、シフトアップ、シフトダウンの繰り返しが起き、ドライバーに不快感を与えることにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−282329号公報
【特許文献2】特開2000−35114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、補助制動装置が作動中でもアクセルペダルの踏み込み量に応じた制動力が得られ、頻繁な加速・減速の繰り返しを防止して、省燃費運転を実現する車両の補助制動装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の補助制動装置(100)は、車両電子制御ユニット(車両ECU10)及びその他の電子制御ユニット(ECU:例えば、エンジンECU20、リターダECU30、トランスミッションECU等)を有し、車両電子制御ユニット(10)とその他の電子制御ユニット(20、30)は車両内通信システム(例えば、いわゆる「CAN通信」L123)により接続されており、補助制動スィッチ(5)のスイッチ位置を検出する補助制動スイッチ位置検出装置(5S)と、アクセルペダル(4)の踏み込み量を(アクセルペダル電圧として)計測するアクセルペダル踏み込み量計測装置(アクセル開度センサ4S)を有し、車両電子制御ユニット(10)は、
アクセルペダルの踏み込み量と補助制動力との特性を記憶した記憶装置(14)を備えており、
補助制動スイッチ(5)により補助制動装置(3)が作動している場合に、アクセルペダル(4)が踏み込まれたときには、前記記憶装置(14)に記憶されている特性により、アクセルペダル(4)の踏み込み量に対応した補助制動力を決定する機能と、
決定された補助制動力をその他の電子制御ユニット(20、30)に送信する機能を有していることを特徴としている。
【0007】
本発明において、前記記憶装置(14)に記憶されたアクセルペダル(4)の踏み込み量と補助制動力との特性は、補助制動スィッチ(5)のスイッチ位置毎に異なっているのが好ましい。
【0008】
本発明において、車両の補助制動装置(100)は、エンジンの排気ブレーキ、プロペラシャフトに介装した発電機により制動力を得るリターダ(3)の少なくとも一方であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上述する構成を具備する本発明によれば、補助制動装置(100)が作動している場合に、アクセルペダル(4)が踏み込まれたときには、アクセルペダル(4)の踏み込み量に対応した補助制動力が決定されて、車両電子制御ユニット(10)以外の電子制御ユニット(20、30)に送信される。
そのため、補助制動装置(100)が作動している場合に、アクセルペダル(4)が踏み込まれても、従来技術の様に直ちに加速状態に移行してしまうことはなく、アクセルペダル(4)に対応した補助制動力が作用する。
そのため、従来技術の様に、急速な加速が行なわれてしまうことや、それに伴い車両にショックが発生してしまうことが防止される。
【0010】
また、補助制動装置が作動している場合に、アクセルペダル(4)の踏み込み量を減少させれば、それに対応して補助制動力が増加する。従来技術様の様に、補助制動力を作動させるために、アクセルペダル開度がゼロになるまでアクセルペダルを戻す必要がない。
その結果、アクセルペダル(4)を踏み込み、開度がゼロになるまで戻す、ということを繰り返す必要がなくなる。そのため、従来技術に比較して、車両の加減速が緩やかとなり、且つ、加減速の頻度が減少して、燃費が向上する。
そして、加減速が緩やかになるため、自動変速機を有した車両において、シフトアップ、シフトダウンの繰り返しが発生してしまうことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の補助制動装置の構成を示したブロック図である。
【図2】実施形態に係る車両電子制御ユニットの構成と、車両電子制御ユニットとセンサ類及びリターダとの係りを示すブロック図である。
【図3】補助制動力を求めるためのアクセルペダル電圧と制動力、駆動力の関係を示す特性図である。
【図4】実施形態に係る補助制動力決定のための制御を示したフローチャートである。
【図5】従来技術におけるアクセルペダル電圧と、アクセル開度及び要求制動力比との関係を示した特性図である。
【図6】従来技術におけるエンジン回転数と補助制動力との関係を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、全体を符号100で示す車両の補助制動装置の構成を示している。
図1において、車両の補助制動装置100は、エンジン1と、トランスミッション2と、リターダ3を有する車両において、アクセル開度センサ4Sと、補助制動スイッチ位置検出手段5Sと、車両コントロールユニット10と、エンジンコントローラ20と、リターダコントローラ30とを備えている。
補助制動装置本体として、上記リターダの他に、排気ブレーキを選ぶことも可能である。
【0013】
アクセル開度センサ4Sは、アクセルペダル4に係合するように取り付けられ、アクセル開度に応じた強さの電圧信号をラインL4経由でコントロールユニット(以下、「コントロールユニット」と言う)10に伝送する。
補助制動スイッチ位置検出手段(以下、「補助制動ポジションセンサ」と言う)5Sは、補助制動力の強さ(効き具合)が4段階に切り替えられる補助制動レバー5に係合して、4段階のポジションを検知する様に構成されている。
補助制動ポジションセンサ5Sは、現在入っているポジションの情報をラインL5経由でコントロールユニット10に伝送する。
【0014】
コントロールユニット10と、エンジンコントローラ20と、リターダコントローラ30とは車両内通信システム(例えば、いわゆる「CAN通信」)L123によって相互に接続されている。
エンジンコントローラ20は、図示しない燃料噴射装置とラインL20によって接続され、コントロールユニット10が発信する制御信号に従って燃料噴射装置の燃料噴射量を制御する様に構成されている。
リターダコントローラ30は、ラインL30によってリターダ3と接続され、コントロールユニット10が発信する制御信号に従ってリターダ3の制動力(発電量)を段階的に調節する様に構成されている。
【0015】
図2は、コントロールユニット10の構成と、コントロールユニットとセンサ類4S、5S及びエンジンコントローラ20とリターダコントローラ30との係りを示している。
図2において、コントロールユニット10は、補助制動力決定ブロック12と、記憶手段であるデータベース14とを備えている。
補助制動力決定ブロック12とデータベース14とは、ラインL124、ラインL142によって接続されている。そして、補助制動力決定ブロック12から補助ブレーキのポジションをラインL124経由でデータベース14に送り、データベース14から当該ポジションに対応する補助制動力に関する特性がラインL142経由で、補助制動力決定ブロック12に送り返されるように構成されている。
【0016】
補助制動力決定ブロック12は、ラインL4経由で得たアクセル開度センサ4Sからのアクセル開度情報と、ラインL5経由で得た補助制動ポジションセンサ5Sからの補助制動力情報と、データベース14に記憶した特性図(図3参照)とから補助制動力を決定する。
そして、補助制動力決定ブロック12は、補助制動力決定ブロック12で決定した補助制動力を発生させるべく制御信号をリターダコントローラ30に送信する。或いは、その時の駆動力を適正値に保たせるべく、制御信号をエンジンコントローラ20に送信する。
【0017】
ここで、図5は従来技術におけるアクセルペダル開度とアクセルペダル電圧との関係を示した特性図に、補助制動ポジションセンサに設けた4つのポジション(0、1、2、3)と各ポジションにおける要求補助制動力の比を重ねて示している。
図5に示すように、従来技術では、アクセルを踏み込んだ場合、補助制動力は発生しないように構成されている。
また、4つのポジション(0〜4)における制動力も、図6の線図(P0、P1〜P3)に示すようにエンジン回転数の如何に拘わらず、各線図において、制動力は概ね一定である。
【0018】
それに対して、実施形態の補助制動装置100は、図3の特性図によって補助制動の制動力は決定される。
図3において、横軸にアクセルペダル電圧の大きさ(アクセル開度に比例)が目盛ってあり、縦軸に要求される補助制動力、或いは駆動力の比が目盛ってある。
補助制動レバーのポジションが0の場合(通常走行時)は、線図C0で示すように、補助制動は非作動となっている。したがって、駆動力(加速側)はアクセルの踏み込み量(アクセルペダル電圧)に比例して増加する。
そのため、図示の実施形態によれば、図6における線図P0、P1〜P3の中間の領域に位置する様に、エンジン回転数に対する制動力を設定することが可能である。
【0019】
図3の例では、補助制動レバー5のポジションナンバー(1、2、3)が増加するにつれて同じ割合で制動力が増加する様に構成されている。
図3において、ポジション2(線図C2)を選んだ場合は、アクセルペダル4の踏み込み始めからアクセルペダル電圧値換算でV2(P2点)になるまで踏み込まないと加速に及ぶ駆動力が得られないことが分かる。
また、ポジション1(線図C1)を選んだ場合は、あまり大きくないペダル踏み込み量(アクセルペダル電圧換算値でV1)で車両は減速から、加速に転じる。
【0020】
次に、図4のフローチャートに基づき、図1をも参照して、補助制動力決定方法を説明する。
図4のステップS1において、コントロールユニット10は、補助ブレーキが作動するまで待機している(ステップS1のループ)。
補助制動ポジションセンサ5Sからの情報によって補助ブレーキが作動したならば(ステップS1がYES)、ステップS2に進み、コントロールユニット10は、図3の特性図から補助ブレーキ位置に対応した特性を選択する。
【0021】
次のステップS3では、コントロールユニット10は、アクセル開度センサ4Sからの情報により、アクセル開度信号を取得する。そして、ステップS4においてデータベース14のデータを参照して、すなわち、図3の特性図から適切な補助制動力を決定して、決定した補助制動力及びこれに関連した燃料噴射量の情報をリターダコントローラ30及びエンジンコントローラ20に送信する(ステップS5)。
【0022】
図示の実施形態によれば、リターダ3が作動している時に、アクセルペダル4が踏み込まれた場合には、アクセルペダル4の踏み込み量に対応した補助制動力が決定されて、リターダコントローラ30及びエンジンコントローラに送信される。
そのため、リターダ3が作動している時に、アクセルペダル4が踏み込まれても、従来技術のように直ちに加速状態に移行してしまうことはなく、アクセルペダル4に対応した補助制動力が作用する。
そのため、従来技術のように、急速な加速が行なわれてしまうことや、それに伴い車両にショックが生じてしまうことが防止される。
【0023】
また、リターダ3が作動している時に、アクセルペダル4の踏み込み量を減少させれば、それに対応して補助制動力が増加する。従来技術様の様に、補助制動力を作動させるために、アクセルペダル開度がゼロになるまでアクセルペダルを戻す必要がない。
その結果、アクセルペダル4を踏み込み、開度がゼロになるまで戻す、ということを繰り返す必要がなくなる。そのため、従来技術に比較して、車両の加減速が緩やかとなり、且つ、加減速の頻度が減少して、燃費が向上する。
そして、加減速が緩やかになるため、自動変速機を有した車両において、シフトアップ、シフトダウンの繰り返しが発生してしまうことが防止される。
【0024】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
図示の実施形態では、図3の特性図において、線図C3は非線形に構成されている。すなわち、アクセルを踏み込んでも所定の踏み込み量に達するまでは、補助制動力は大きくは減少しないが、それ以上では補助制動力の減少を早めている。
線図C3を、線図C1、C2の様に線形特性とすることも出来る。逆に、線図C1〜C3の全てを非線形特性とすることも可能である。
【符号の説明】
【0025】
1・・・エンジン
2・・・トランスミッション
3・・・リターダ
4S・・・アクセル開度センサ
5S・・・補助制動スイッチ位置検出手段/補助制動ポジションセンサ
10・・・車両ECU/コントロールユニット
12・・・補助制動力決定ブロック
14・・・記憶手段/データベース
20・・・エンジンECU/エンジンコントローラ
30・・・リターダECU/リターダコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両電子制御ユニット及びその他の電子制御ユニットを有し、車両電子制御ユニットとその他の電子制御ユニットは車両内通信システムにより接続されており、補助制動スィッチのスイッチ位置を検出する補助制動スイッチ位置検出装置と、アクセルペダルの踏み込み量を計測するアクセルペダル踏み込み量計測装置を有し、車両電子制御ユニットは、
アクセルペダルの踏み込み量と補助制動力との特性を記憶した記憶装置を備えており、
補助制動スイッチにより補助制動装置が作動している場合に、アクセルペダルが踏み込まれたときには、前記記憶装置に記憶されている特性により、アクセルペダルの踏み込み量に対応した補助制動力を決定する機能と、
決定された補助制動力をその他の電子制御ユニットに送信する機能を有していることを特徴とする車両の補助制動装置。
【請求項2】
前記記憶装置に記憶されたアクセルペダルの踏み込み量と補助制動力との特性は、補助制動スィッチのスイッチ位置毎に異なっている請求項1の車両の補助制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−111395(P2012−111395A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263124(P2010−263124)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】