説明

車両の走行ダイナミクスを局所的および時間的に評価および予測するためのドライバアシスタンスシステム

本発明は、交通システム内で車両の走行ダイナミクスを局所的および時間的に評価および予測し、得られた情報を隣接する車両に伝送するためのドライバアシスタンスシステムに関する。本発明では、評価される車両において相互に依存せずに生成されたデータが評価ユニットに収集されて評価され、該データから直後の走行状況に関する予測が生成され、該走行状況は、該走行状況に関与する周辺の車両に伝送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通システム内で車両の走行ダイナミクスを局所的および時間的に評価および予測し、得られた情報を隣接する車両に伝送するためのドライバアシスタンスシステムに関する。
【0002】
高密度の道路交通では、車両のアクションが別の交通利用者の意図されないリアクションに繋がる。このリアクションはとりわけ、原因となるアクションが別の車両ドライバによって適時に識別されない場合に、危険な状況を引き起こす。このようなアクションはとりわけ、車線変更、急激な右左折、激しい制動等の操縦であるが、これらに限定されない。道路交通でのセーフティを向上するために情報を車車間で送信したいという要望はすでに長い間存在し、交通密度が上昇するにつれてますます緊急性を増してくる。
【0003】
このような要望に対し、DE19915935C2から、データ信号を交通システムにおいて伝送するための送信装置が公知である。この送信装置は、データ信号を含む光信号を放射するための少なくとも1つの光源を有する。この光源は車両の照明体であり、とりわけ投光器および/または制動灯である。
【0004】
さらにDE19625960C2から、情報を先行車両から後続車両に伝送するための次のような装置、すなわち、パルス波形の光信号を人間の眼では知覚されないように送信する送信器を該先行車両に有し、該送信器から送出された光信号を受信して評価する受信器を該後続車両に有し、かつ少なくとも1つの発光ダイオードを送信器として有する装置が公知である。この装置では、発光ダイオードはパルス波形の光信号を、人間の眼では知覚されない周波数で、かつ受信器によって識別可能な見える波長領域で送信し、該光信号は実際の減速または加速に依存して形成され、切替装置が送信器の強度および/または周波数を減速または加速の大きさに依存して制御する。
【0005】
さらに、先見的な効果を有する局所的システムが公知である。この局所的システムにはとりわけ、車間距離制御クルーズコントロール(ACCシステム)のための車線推定が挙げられる。交通状況を検出するための自動的な車速車間距離制御システムでは、ヨーレートセンサないしは横加速度センサの信号を使用して走行通路を予測するのが普通である。つまり、車両が所定の時間の経過後にどの位置で停車されるかということと、どの先行車両が自車の走行通路で停車するかということとを検出する。
【0006】
この走行通路は自動車の曲率半径から求められ、この曲率半径も、車速とヨーレートセンサの信号とから導出される。ヨーレートセンサを使用することでは、自動車の走行ダイナミクスに関する十分な情報は得られない。このような情報は、付加的なセンサによって検出しなければならない。
【0007】
こうするために、DE19749306A1から、自動的な車間距離制御システムで使用するための自動車の走行通路を予測検出する手法が公知である。この手法では、自動車の曲率半径を求めるために、速度に相応する信号を使用し、この曲率半径から走行通路を求める。自動車の走行通路を正確に検出して該自動車の走行ダイナミクスを十分に考慮するためには、少なくとも2つの車両ホイールのホイール速度を測定し、両ホイール速度の差から車両のヨーレートを求める。
【0008】
このようなシステムの欠点は、該システムが評価するデータ源はごく少なく、しかもそのつどの全システム(たとえばACC)でもごく少なく、しかも、信号処理の特別な知識なしでは使用できないことである。
【0009】
本発明は、車両固有のデータの評価ユニットとして構成された次のようなドライバアシスタンスシステム、すなわち、該データから期待される交通状況に関する予測を行い、この情報を比較的近辺の車両に転送するドライバアシスタンスシステムを提供することである。
【0010】
前記課題は、請求項1に記載された特徴を備えたドライバアシスタンスシステムにより解決される。従属請求項に有利な実施形態および発展形態が記載されており、これらは単独で使用するか、または相互に組み合わせて使用することができる。
【0011】
交通システム内で車両の走行ダイナミクスの局所的および時間的な評価および予測を行い、該評価および予測から得られた情報を隣接する車両へ伝送するための本発明のドライバアシスタンスシステムは、評価される車両において相互に依存せずに生成されたデータが評価ユニットに収集されて評価され、直後の走行状況に関する予測が生成され、該予測は、周辺内に存在し該走行状況に関与する車両へ伝送されることを特徴とする。このようにして検出されたデータから、走行状況ないしは周辺環境状況を、たとえば工事現場進入のために推定することができる。さらに、センサからのデータを別のセンサの妥当性検査のために使用することもできる。
【0012】
本発明の目的は、自身の意図または観察を周辺交通に知らせることにより、該周辺交通に送信データを受信するための装置が装備されている場合には、該周辺交通が状況に対して、従来のシステムより早期に応答できるようにすることである。走行ダイナミクスデータと、ナビゲーションデータと、周辺環境データと、走行状況を表す別のデータとを融合することにより、はっきりした形で現れる走行状況の発生を高精度で識別および評価することができる。複数のデータ源を融合することにより、ドライバの意図に関する予測品質も予測確実性も上昇させることができる。このことによって初めて、高精度で求められたこのデータを別の交通利用者に伝送することによって、不快な応答を甘受する必要なく、走行状況の改善を実現することができる。したがって、本発明は次のような中央評価ユニット、すなわち、車両内に存在する走行ダイナミクスに関するデータ源と、周辺環境センサ系と、ナビゲーションと、状態に影響するかないしは状態を示す別のデータ源とをすべて評価する中央評価ユニットに関し、該中央評価ユニットはこれらのデータから、車両の走行ダイナミクスに関する予測を生成する。走行ダイナミクスに関するデータ源の例には、ホイール回転数、ばね変位、タイヤ空気圧、制動データないしはエンジンデータ、加速度ないしは回転速度に関する慣性データ、またはルートプランが含まれ、データ源はこれらの例に留まらない。周辺環境センサ系のデータ源はたとえば、雨センサないしは温度センサ、ドアセンサおよびガラスルーフセンサ、または、車外のオブジェクトの位置または相対速度を検出するセンサである。ナビゲーションシステムのデータ源としては、車両の位置を3次元空間で定義する位置センサが使用される。さらに、攻撃的または防御的なドライバ挙動を検出するセンサや、目が覚めているかまたは居眠りしているドライバ状態を検出するセンサや、車両に付着物をくっつけて走行しているか否かを知覚するセンサも考えられる。
【0013】
本発明では、予測された走行状況が、直ぐ近傍にある車両に伝送されるように構成されている。走行状態ないしは走行意図の検出が先見的に行われるので、ドライバまたは隣接車両に取り付けられたセンサが送信側の車両の状態を識別する前に、受信側として関与する車両に該送信側の車両の状態が通知される。このような予測により、受信および処理のための受信処理装置が備えられた周辺の車両は、発生している状況に早期に応答し、自車が妨害されたり危険にさらされたりする場合に、この妨害や危険を阻止することができ、このことによって走行快適性が向上される。また、その結果として事故リスクないしは不可避な事故を低減し、燃料消費量を先見的な運転によって低減し、妥当性検査に必要とされるセンサ数を低く抑えられるという別の利点もある。
【0014】
隣接する車両への情報の伝送は光学的に行われるのが有利である。伝送装置で発光ダイオードが使用される場合、符号化された発光信号を、眼では知覚されない周波数で伝送することもできる。その際には、たとえば制動情報、速度情報または間隔情報等の別の情報を後続の車両へ伝送することもできる。車両ドライバを方向転換させることなく、車両はセーフティに重要な情報を求め、該情報はオンデマンドでドライバに伝達される。その際には、人間の眼に見える波長領域で、制動灯で、すでに車両分野で使用されている発光ダイオードを使用して処理することができ、このことによって、該発光ダイオードは赤外成分を有さないにもかかわらずこのシステムを低コストで導入することができる。
【0015】
別の有利な伝送手段は、情報を隣接車両にマイクロ波によって伝送することである。ここでは、データ信号を交通システムで伝送するための送信装置を前提とし、該送信装置は、データ信号を含む光信号を放射するための少なくとも1つの光源を有する。光信号は赤外線信号から成るので、この公知の送信装置の光源は赤外光源である。有利には、データ信号を放射するための光源は車両の照明体であり、とりわけ投光器および/または制動灯である。これによって、車両側の直接的な通信と車車間の直接的な通信とが行えるようになるが、有利には車両に既存の発光体を利用することにより、付加的に特別な信号源を設ける必要はない。
【0016】
さらに有利には、情報を隣接車両に伝送するために、とりわけGSM網のローカル装置を使用する。
【0017】
有利には、情報を音響的に隣接車両へ伝送する。このことはたとえば、テレビ受像機の遠隔操作から周知であるように超音波によって実施されるか、または、たとえば駐車距離測定部等の既存のシステムを併用して実施される。また、圧電送信器をスピーカとしてリアバンパにおいて使用し、受信器(マイクロフォン)をフロントバンパにおいて使用することも可能である。データ伝送は周波数変調または振幅変調によって行うことができる。
【0018】
本発明は最初に、有利には、交通システム内で車両の走行ダイナミクスを局所的および時間的に評価および予測し、得られた情報を隣接車両へ伝送するためのドライバアシスタンスシステムを提供し、このようなドライバアシスタンスシステムによって燃料消費量を低減し、走行快適性を上昇し、さらに、事故の危険性を回避したりその結果を縮小するものである。
【0019】
以下で、実施例と図面とに基づいて、本発明のさらなる利点と実施形態とを説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】曲がり操縦に特徴的な走行状況を示す。
【図2】車線変更に特徴的な走行状況を示す。
【図3】急に行われる制動過程に特徴的な走行状況を示す。
【図4】不安定な走行状態に特徴的な走行状況を示す。
【0021】
図1は、曲がり操縦に特徴的な走行状況を示す。後方車両2より先行して走行しており次に曲がり操縦を開始する先行車両1は、本発明によれば、該先行車両1のドライバが走行方向変換指示器を設定する前に、衛星支援されるナビゲーションシステム3を介して、同じ交通状況に関与する近辺の車両に、該車両1が次に減速することを指示することができる。また本発明では、車線変更の場合に周辺環境センサがこのことを周辺交通に指示することも行われる。本発明では、センサによって相互に依存せずに検出されたデータが評価ユニット4に収集されて評価され、直後の走行状況に関してこのデータから得られた予測が生成され、該予測は、この走行状況に関与する周辺の車両に伝送されるように構成されている。このような構成では、たとえば走行方向変更指示器等の光学的信号で初めて、曲がる車両に後続する後続車両のドライバが曲がり過程を識別するのではない。このことにより、後続車両は早期に減速し、事故の危険性が低減され、さらに燃料消費量も低減される。
【0022】
図2は、車線変更に特徴的な走行状況を示す。少なくとも2車線の走行路に3つの車両が存在し、車線変更を行う車両1は同一の車線で先行車両2の後方に位置し、別の車線で後続車両3の前方に位置する。車線変更はたとえば、車線変更前の車線を維持しながら強い制動を行わなければならないことにより識別することができる。さらに、たとえばヨーレート等の走行ダイナミクスデータの評価に基づいて、開始される車線変更を推定することもでき、その際には、衛星支援されるナビゲーションシステムを妥当性検査に使用することができる。本発明では、目標走行路上の車両は車線変更過程を早期に知らされ、これに相応して該車両の振舞いを適合することができ、このことによって事故の危険性が低減され、燃料消費量は低減される。というのも、制動が遅くなることを回避できるからである。
【0023】
図3は、急に行われる制動過程に特徴的な走行状況を示す。1つの車線内で3つの車両が1つの方向に走行しており、中間に位置する車両1が強い制動の前に周辺環境センサを介して状況を検出することができる。このことにより、可能性のある事故の危険性が低減される。この情報は後続車両2へ伝送され、該後続車両2はこの制動過程を比較的早期に開始するか、または可能であれば、車線変更を比較的早期に行うことができる。事故の確率は、制動距離が短縮されることによって低減される。
【0024】
図4は、不安定な走行状態に特徴的な走行状況を示す。この走行状況の出発点は、車両1の車載独立システムが不安定な走行状態を識別することである。こうするために、たとえば車両状態検出器等の車載独立処理ユニットを使用することができる。ここでは、この不安定な走行状態がたとえば車両の欠陥等の局所的な状況に起因して発生しているのか、またはたとえば局所的に低減される摩耗値等の外部の影響に起因して発生しているのかを区別することができる。本発明によるドライバアシスタンスシステムによって、周辺の車両2,3に警告することができる。
【0025】
本発明は最初に、有利には、交通システム内で車両の走行ダイナミクスを局所的および時間的に評価および予測し、得られた情報を隣接車両へ伝送するためのドライバアシスタンスシステムを提供し、このようなドライバアシスタンスシステムによって燃料消費量を低減し、走行快適性を上昇し、さらに、事故の危険性を回避したりその結果を縮小するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交通システム内で車両の走行ダイナミクスの局所的および時間的な評価および予測を行い、該評価および予測から得られた情報を隣接車両へ伝送するための、ドライバアシスタンスシステムにおいて、
評価される車両において相互に依存せずに生成されたデータが評価ユニットに収集され、該データから直後の走行状況に関する予測が生成され、該予測は、周辺内に存在し該走行状況に関与する車両へ伝送されることを特徴とする、ドライバアシスタンスシステム。
【請求項2】
前記データは、走行ダイナミクスのためのセンサおよび/またはナビゲーションのためのセンサおよび/または周辺環境のためのセンサおよび/または走行固有の振舞いのためのセンサおよび/または走行固有の状態のためのセンサによって生成される、請求項1記載のドライバアシスタンスシステム。
【請求項3】
前記走行ダイナミクスに関しては、ホイール回転数および/または制動状態ないしはエンジン状態および/または慣性データおよび/またはばね変位および/またはホイール圧が求められる、請求項1または2記載のドライバアシスタンスシステム。
【請求項4】
前記周辺環境を検出するために、雨センサおよび/または温度センサおよび/またはドアセンサおよび/または自車の外部のオブジェクトの位置および相対速度を検出するセンサが使用される、請求項1から3までのいずれか1項記載のドライバアシスタンスシステム。
【請求項5】
前記情報は、隣接車両へ光学的に伝送される、請求項1から4までのいずれか1項記載のドライバアシスタンスシステム。
【請求項6】
前記情報はマイクロ波によって隣接車両へ伝送される、請求項1から5までのいずれか1項記載のドライバアシスタンスシステム。
【請求項7】
前記情報は、ローカルの装置を使用して、とりわけGSM網によって隣接車両へ伝送される、請求項1から6までのいずれか1項記載のドライバアシスタンスシステム。
【請求項8】
前記情報は、音響的に隣接車両へ伝送される、請求項1から7までのいずれか1項記載のドライバアシスタンスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−501917(P2010−501917A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524968(P2009−524968)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055127
【国際公開番号】WO2008/022817
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(508097870)コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (205)
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D−30165 Hannover, Germany
【Fターム(参考)】