説明

車両制動システム及びマスタシリンダ

【課題】良好なペダルフィーリングを得ることが可能な車両制動システム及びマスタシリンダを提供すること。
【解決手段】マスタシリンダの減圧バルブの開弁圧を、倍力装置の失陥時に、ブレーキペダルへの踏力が500Nのときに出る液圧よりも高く倍力装置の全負荷点時の液圧よりも低い液圧のときに開弁する液圧に設定し、ペダルフィーリングの向上に特化した開弁圧とし、倍力装置失陥時要求性能は、増圧手段によって満たすことにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制動システム及びマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
良好なペダルフィーリングを得るため、ブレーキペダルストロークを短縮する技術として、例えば、大径与圧室と小径圧力室とを有するマスタシリンダが知られている。このマスタシリンダは、ストローク初期に大径与圧室から小径圧力室へ大容量のブレーキ液を供給する、いわゆるファストフィルを行うことで、ストローク初期の無効液量分を補い、その後、所定液圧において減圧バルブが開弁し、大径与圧室を減圧することで、初期のペダルストロークを短縮化しつつ、所望の制動力を得ている。このようなマスタシリンダの一例として特許文献1のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−321609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のマスタシリンダにあっては、ストローク初期の無効液量分を補うものであることから、前記所定液圧はストローク初期の低液圧領域に設定されているため、ペダルストロークの短縮はこの低液圧領域に限られ、より広い範囲で良好なペダルフィーリングを得ることが困難であった。
【0005】
本発明は、良好なペダルフィーリングを得ることが可能な車両制動システム及びマスタシリンダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1の発明における車両制動システムでは、小径圧力室と大径与圧室と減圧バルブを有するマスタシリンダと、ペダル入力を助力し全負荷点を有する倍力装置と、該倍力装置の失陥を検出する検出手段と、該検出手段により前記倍力装置の失陥が検出されたときにマスタシリンダとは異なる液圧源により発生する液圧でホイルシリンダへの液圧を補う増圧手段と、を有し、減圧バルブは、小径圧力室の液圧が、ブレーキペダルへの踏力が500Nのときに出る液圧よりも高い液圧のときに開弁することを特徴とする。
【0007】
第2の発明におけるマスタシリンダでは、小径圧力室と大径与圧室と減圧バルブを有し、該減圧バルブは、小径圧力室の液圧が、ブレーキペダルへの踏力が500Nのときに出る液圧よりも高い液圧のときに開弁することを特徴とする。
【0008】
第3の発明におけるマスタシリンダでは、小径圧力室と大径与圧室と減圧バルブを有し、該減圧バルブは、小径圧力室の液圧が、3Mpaよりも高く10Mpaよりも低い液圧のときに開弁し、該開弁後の液圧上昇に伴い大径与圧室が大気圧となるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好なペダルフィーリングを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の全体構成を表すシステム図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置の回路構成を表す図である。
【図3】実施例1の気圧式倍力装置BSを示す断面図である。
【図4】実施例1のマスタシリンダを示す側断面図である。
【図5】実施例1のマスタシリンダの制御弁を示す部分拡大側断面図である。
【図6】ブレーキペダルに入力されるブレーキペダル踏力に対するプライマリ液圧室の液圧及び大径与圧室の液圧の関係を表す図である。
【図7】実施例1のコントロールユニットECUで実行される倍力装置失陥時制御処理を表すフローチャートである。
【図8】踏力に対するマスタシリンダ液圧の関係を示す図である。
【図9】ブレーキペダルのストロークと液圧との関係、及び助力無しの踏力と液圧との関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
まず、構成について図1を用いて説明する。実施例1のブレーキ制御装置BUには、車両のヨーレイト,横加速度(以下、横Gと記載する),前後加速度を検出する一体型センサa1と、車輪速センサa2と、ドライバのステアリング操舵角を検出する舵角センサa3と、倍力装置BSの負圧を検出する負圧センサa4と、マスタシリンダ10の圧力室(小径圧力室61)で発生する液圧を検出する液圧センサa5と、が設けられている。ブレーキ制御装置BUから出力された液圧は、各車輪のホイルシリンダA14,A15に供給され、所望の制動力を達成する。
【0012】
運転者が操作するブレーキペダルBPに入力された踏力は、倍力装置BSにより助力され、助力されたピストン押力がマスタシリンダ10に伝達される。尚、倍力装置BSやマスタシリンダ10の構成については後述する。
【0013】
各種センサから検出されたセンサ値は、コントロールユニットECUに入力され、アクチュエータ群としてのアクチュエータユニットAUに駆動信号を出力し、各電磁弁及びモータA11の駆動制御を実行する。
【0014】
(ブレーキ制御装置BUの回路構成)
図2はブレーキ制御装置BUの回路構成を表す図である。この回路図の各電磁弁は非通電の初期状態を表すものとする。ドライバのブレーキペダル操作により圧力を発生するマスタシリンダ10には、A系統油路A20a及びB系統油路A20bが接続されている。基本的な油路構成はA系統及びB系統共に同様であり、各構成要素もa,bもしくはL,Rを付して区別しているため、A系統についてのみ説明する。
【0015】
A系統油路A20aには、マスタシリンダ10を上流側として下流側に向かって順に、液圧センサa5と、ノーマルオープン型のアウト側ゲート弁A3aと、上流側に向かって吐出するポンプA12Rが設けられている。また、アウト側ゲート弁A3aとポンプA12Rとの間には左前輪系統油路A21aが接続されている。また、同様にアウト側ゲート弁A3aとポンプA12Rとの間には右後輪系統油路A24aが接続されている。
【0016】
ポンプA12Rは、同型のポンプA12LがB系統油路A20bにも設けられており、互いに1つのモータa11によって駆動される。吸入油路A27a上には、下流側に向かって順にノーマルクローズ型のイン側ゲート弁A2aと、ダイアフラムA14aが設けられている。ポンプA12L,Rとしてプランジャ型のポンプを使用した場合、低温領域におけるポンプの吸入行程において十分にブレーキ液を吸入できない虞がある。そこで、ポンプの吐出行程においてマスタシリンダ側からブレーキ液を吸引し、次のポンプの吸入行程においてポンプに近接されたダイアフラムA14a,bからスムーズな吸入を達成している。
【0017】
左前輪系統油路A21a上には、上流側のみ流れを許容するバイパス油路が併設されたノーマルオープン型の前輪側ABS増圧電磁弁A7Lが設けられている。左前輪系統油路A21aには油路A22aが分岐し、左前輪ホイルシリンダA14Lと接続されている。左前輪系統油路A21aと接続され油路A22aよりも下流側には第2減圧油路A23aが接続されている。この第2減圧油路A23a上には、ノーマルクローズ型の前輪側ABS減圧電磁弁A8Lが設けられている。
【0018】
右後輪系統油路A24a上には、上流側のみ流れを許容するバイパス油路が併設されたノーマルオープン型の後輪側ABS増圧電磁弁A9Rが設けられている。右後輪系統油路A24aには油路A25aが分岐し、右後輪ホイルシリンダA15Rと接続されている。右後輪系統油路A24aと接続され油路A25aよりも下流側には第2減圧油路A26aが接続されている。この第2減圧油路A26a上には、ABSリザーバA13aが設けられている。
【0019】
上記各油路及び電磁弁の構成については、B系統についても同様の構成が設けられており、L,Rの符号、もしくはa,bの符号が異なるのみであるため、説明を省略する。尚、後述の各制御におけるポンプA12L,Rを用いた増圧は、マスタシリンダ10とは異なる液圧源により発生する液圧でホイルシリンダA14,A15への液圧を補う増圧手段を構成し、以下、ポンプアップ手段と記載する。
【0020】
〔急制動時等におけるブレーキアシスト制御〕
・増圧時
コントロールユニットECUは、例えば、ペダル踏込み速度(前記液圧センサa5の液圧変化率より推定)またはペダル踏込み量(前記液圧センサa5の液圧値より推定)が予め設定した基準値を越えるペダル操作をドライバがしたときに急制動時と判断し、目標ホイルシリンダ液圧を設定してブレーキアシスト制御を行なう。すなわち、ドライバのブレーキペダル操作によりマスタシリンダ圧が増圧されると、A系統油路A20a及びB系統油路A20bにそれぞれ同じ液圧が作用し、アウト側ゲート弁A3a,bを介して前輪系統油路A21a,b及び後輪系統油路A24a,bに供給される。次に、ABS増圧電磁弁A7L,Rを介して油路A22a,bから前輪側ホイルシリンダA14L,Rを増圧し、ABS増圧電磁弁A9L,Rを介して油路A24a,bから後輪側ホイルシリンダA15L,Rを増圧する。
【0021】
このとき、マスタシリンダ圧を液圧センサa5により検出し、ドライバのブレーキペダル踏力により発生するマスタシリンダ圧では不足しており、前記目標ホイルシリンダ液圧を確保する必要がある場合には、イン側ゲート弁A2a,bを開き、A系統油路A20aのアウト側ゲート弁A3a,bを閉じた状態とする。そして、同時または前後して前記液圧センサa5により検出したマスタシリンダ圧に応じた必要アシスト量を演算する。このアシスト量に応じたモータ駆動によりマスタシリンダ10から吸入油路A27a,bを介してポンプA12L,Rにブレーキ液を供給し、各ホイルシリンダA14,A15にポンプA12L,Rで前記目標ホイルシリンダ液圧に昇圧した液圧を供給することでブレーキアシスト制御を実行する。
【0022】
・減圧時
マスタシリンダ圧が減圧されると、増圧時と同じ経路をたどって前輪側ホイルシリンダA14L,Rを減圧する。このとき、ABS増圧電磁弁A7L,R及びA9L,Rに設けられたバイパス油路を通って素早い減圧を達成する。また、ブレーキアシスト制御時の減圧では、モータ駆動量の低減、更にはイン側ゲート弁A2a,bを閉じることによるブレーキ液の供給停止により行われる。尚、通常制動時においてドライバの踏力が強すぎ、車輪がロック傾向となると、ABS増圧電磁弁A7L,R及びA9L,R、ABS減圧電磁弁A8L,R及びA10L,Rの開閉制御によりABS制御が実行される。
【0023】
なお、このブレーキアシスト制御は、急制動時以外であっても、後述の失陥倍力制動時やその他の設定条件が満たされたときに行なうことができる。
また、前記ポンプアップ手段を備えたブレーキ制御装置BUは、
(i)ドライバのブレーキペダル操作にかかわらず、ドライバの操舵角及びヨーレイト、横加速度、前後加速度等からヨーレイトの非安定方向挙動が検出されたとき、ヨーレイトが安定方向となる制動力を発生する車両姿勢制御
(ii)ドライバのブレーキペダル操作にかかわらず、駆動輪のスリップが検出されたとき、駆動輪のスリップが抑制される制動力を発生するトラクションコントロール制御
(iii)レーザレーダ等で検出された車両前方の障害物との相対距離が設定値未満になったことが検出されたとき、ドライバの制動意志にかかわらず必要な制動力を発生する自動ブレーキ制御
等の各種制動制御を行なうことができるが、ここではその説明は省略する。
【0024】
〔失陥時倍力制御時の作用〕
次に、本発明の特徴である倍力装置BSが失陥したときに、前記ポンプアップ手段を備えたブレーキ制御装置BUを失陥時用の倍力装置として機能させるときの作用について説明する。コントロールユニットECUは、負圧センサa4に基づいて倍力装置BSが失陥したと判断すると、ドライバの制動意図を表すマスタシリンダ10の液圧を液圧センサa5により検出し、この検出された液圧に所定の倍力比を掛けた液圧を目標ホイルシリンダ液圧として上述のポンプアップ手段により加圧した液圧をホイルシリンダA14,A15に供給し、目標ホイルシリンダ液圧となるようにブレーキアシスト制御を実行する。
【0025】
(倍力装置の構成)
図3は、実施例1の気圧式の倍力装置BSを示す断面図である。気圧式の倍力装置BSは、タンデム型として構成したもので、フロントシェルB11とリヤシェルB12とからなるシェル本体B10内はセンターシェルB13により前・後2室に区画され、この前・後2室はさらに、ダイアフラムB14,B15を備えたパワーピストンB16,B17により定圧室B18,B19と変圧室B20,B21とに区画されている。各パワーピストンB16,B17は、その中央に、大径のカップ部B22aと小径の筒状部B22bとを連続に有するバルブボデーB22を設けており、バルブボデーB22は、センターシェルB13およびリヤシェルB12をシール部材B23,B24を介して気密的にかつ摺動自在に挿通して、その筒状部B22bをリヤシェルB12の後方へ延ばしている。
【0026】
バルブボデーB22には、2つの定圧室B18とB19とを連通しかつ各定圧室B18,B19をバルブボデーB22の筒状部B22b内に連通する定圧通路(負圧通路)B25が設けられる他、2つの変圧室B20とB21とを連通しかつ各変圧室B20,B21をバルブボデーB22の筒状部B22b内に連通する空気通路(大気通路)B26が設けられている。フロント側の定圧室B18には、フロントシェルB11の前部に接続した導入管B27を通じて、例えばエンジン負圧が導入されるようになっており、一方、バルブボデーB22の筒状部B22bの開口側にはサイレンサB28とフィルタB29とが配設されている。
【0027】
バルブボデーB22のカップ部B22aの底部には段付の軸孔B30が設けられ、この軸孔B30内にはプランジャB31が摺動可能に配設されている。このプランジャB31は、リヤ側の本体部B32と後に詳述するフロント側の反力受部B33とからなっており、その本体部B32の後端にはブレーキペダルBPと連動する入力軸B34が連結されている。また、バルブボデーB22の筒状部B22b内には、前・後の変圧室B20,B21に対して前記負圧通路B25と大気通路B26とを選択的に開く弁機構B35が配設されている。
【0028】
弁機構B35は、バルブボデーB22の筒状部B22bの内面に押え部材B36を用いて基端部が固定された弾性変形可能な弁体B37と、この弁体B37の前端の外縁部と負圧通路B25の開口を含むようにバルブボデーB22の内周に形成された弁座部とで構成される負圧弁B38と、弁体B37の前端の内縁部とプランジャB31の本体部B32の後端に形成された弁座部で構成される大気弁B39と、入力軸B34に一端を係合させて、常時は負圧弁B38および大気弁B39を閉じる方向へ弁体B37を付勢する弁ばねB40とを備えている。なお、入力軸B34は、前記押え部材B36に一端を係合させた戻しばねB41により常時はブレーキペダルBP側へ付勢されている。
【0029】
一方、バルブボデーB22のカップ部B22aの底部には、ゴム製のリアクションディスクB45を介して出力軸B46の基端大径部B46aが作動連結されている。出力軸B46の基端大径部B46aはカップ形状をなしており、前記リアクションディスクB45はこの基端大径部B46aのカップ部内に納められて、その中央部分を前記バルブボデーB22の軸孔B30に臨ませている。フロント側定圧室B18には、パワーピストンB16,B17を作動位置から非作動位置(図3に示す位置)に復帰させる戻しばねB47が配設されており、前記出力軸B46の基端大径部B46aはこの戻しばねB47の一端を受けるばね受けB48によりバルブボデーB22に対して押えられている。なお、出力軸B46の先端部はフロントシェルB11を気密的に挿通してその前方へ延ばされ、これにはマスタシリンダ10が作動連結されるようになっている。
【0030】
上記プランジャB31を構成する反力受部B33は、バルブボデーB22の軸心上に配置された軸部材B50と、この軸部材B50に摺動可能に嵌装されたスリーブB51と、軸部材B50の後端部に固定されたばね受B52に一端を着座させ、前記スリーブB51を所定のセット荷重で前方へ付勢する圧縮ばねB53とから概略構成されている。
【0031】
一方、バルブボデーB22の軸孔B30の開口端部には、前記スリーブB51を摺動案内する環状のスペーサB54が取付けられている。このスペーサB54の存在により、リアクションディスクB45に対向する反力受部B33の最大接触径を拡大することなく、軸孔B30の奥側部分すなわち圧縮ばねB53を納めた部分の径を拡大することができ、その分、有効径の大きな圧縮ばねB53の使用が可能になっている。
【0032】
上記した気圧式の倍力装置BSは、そのリヤシェル12の後面に植立した複数のスタッドボルトB55を用いて車体に取付けられ、この取付状態で入力軸B34にブレーキペダルBPが連結される。そして、この取付状態でブレーキペダルBPを踏込むと、入力軸B34とプランジャB31の本体部B32とが、図3の左方向へ一体的に前進し、大気弁B39が開いてサイレンサB28およびフィルタB29を通じてバルブボデーB22内に大気が流入し、この大気は大気通路B26を通って2つの変圧室B21,B20に導入される。この結果、負圧が導入されている定圧室B18,B19と変圧室B20,B21との間に差圧が発生し、前・後のパワーピストンB16,B17が前進して、その推力(出力)がバルブボデーB22およびリアクションディスクB45を介して出力軸B46に伝達され、倍力作用が行われる。
【0033】
定圧室B18,B19と変圧室B20,B21との差圧がなくなると、これ以上倍力作用を発揮できない状態、すなわち助力がなくなる全負荷点を迎える。全負荷点以降は、運転者の操作によってブレーキペダルBPに付与される踏力が、気圧式の倍力装置BSによって倍力されることなく、そのままマスタシリンダ圧に反映される。
なお、実施例1において、倍力装置としては、タンデム型で気圧式の倍力装置BSを用いたが、シングル型の気圧式倍力装置でも良い。また、電動ポンプまたはエンジン駆動ポンプの発生液圧を利用した液圧式の倍力装置や、電動モータによって駆動される駆動部材により倍力を得る電動式の倍力装置としても良い。上記液圧式の倍力装置を用いる場合には、その失陥を電動ポンプ等の発生液圧や駆動電流等により検出し、また、電動式の倍力装置を用いる場合には、その失陥を電動モータの駆動電流や駆動部材の移動量等により検出するようにすれば良い。
【0034】
(マスタシリンダの構成)
図4は、実施例1のマスタシリンダ10を示す側断面図である。図5は、実施例1のマスタシリンダ10の減圧バルブを示す部分拡大側断面図である。
【0035】
図4に示すマスタシリンダ10は、いわゆるプランジャ型のマスタシリンダであり、ブレーキペダルBPの操作等によって移動する倍力装置BSの出力軸B46で押圧されることでホイルシリンダA14,A15に導入するブレーキ液圧を発生させるものである。
【0036】
マスタシリンダ10は、底部12と筒部13とを有する有底筒状をなすとともにその口部14側において倍力装置BSに取り付けられるシリンダボディ(段付シリンダ)15と、このシリンダボディ15のボア16内の口部14側に、筒部13の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に沿って摺動可能となるように挿入され大径ピストン部18aと小径ピストン部18bを有するプライマリピストン(段付ピストン)18と、シリンダボディ15のボア16内のプライマリピストン18よりも底部12側に、シリンダ軸方向に沿って摺動可能となるように挿入されるセカンダリピストン20とを有するタンデムタイプのものである。なお、実施例1においては、シリンダ軸は水平に配置されるものとしている。
【0037】
ここで、筒部13の内径側は、底部12側に第1小径摺動内径部22が形成されており、中間に第2小径摺動内径部23が形成されていて、口部14側に第1小径摺動内径部22および第2小径摺動内径部23よりも大径の大径摺動内径部24が形成されている。そして、セカンダリピストン20は常に第1小径摺動内径部22で摺動案内されることになり、プライマリピストン18は、その大径ピストン部66が常に大径摺動内径部24で摺動案内されるとともに、その小径ピストン部65が常に第2小径摺動内径部23で摺動案内されることになる。
【0038】
シリンダボディ15には、これと一体に、筒部13から筒部13の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)における外側、具体的には、上側に突出する二カ所の取付台部25,26が、シリンダ軸方向に離間して筒部13の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における同位置に形成されており、これら取付台部25,26それぞれに形成された取付穴25a,26aにリザーバ27が取り付けられる。
【0039】
シリンダボディ15の第1小径摺動内径部22には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝28およびシール周溝29が底部12側から順に形成されている。底部12側のシール周溝28には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング30が底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部14側のシール周溝29には、C字状断面を有するカップシールからなるシールリング31が口部14側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
【0040】
第1小径摺動内径部22には、シール周溝28とシール周溝29との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝33が形成されている。この開口溝33は、底部12側の取付穴25aに開口することでリザーバ27に常時連通状態とされる連通穴34に連通されている。なお、シリンダボディ15のシール周溝28よりも底部12側には、第1小径摺動内径部22よりも若干大径の底部側大径内径部35が形成されている。
【0041】
シリンダボディ15の第1小径摺動内径部22と第2小径摺動内径部23との間には、これらよりも若干大径の中間大径内径部38が形成されている。
【0042】
第2小径摺動内径部23には、シリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝40が形成されており、このシール周溝40には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング41が、底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
【0043】
第2小径摺動内径部23の中間大径内径部38側には、シール周溝40と中間大径内径部38とをつなぐ偏心溝42がシリンダ径方向外側に凹むように形成されている。この偏心溝42は第2小径摺動内径部23よりも小径であって第2小径摺動内径部23と平行な軸を中心とした円弧状をなしている。
【0044】
シリンダボディ15の第2小径摺動内径部23と大径摺動内径部24との間には、これらよりも大径で、底部側大径内径部35および中間大径内径部38よりも大径の口部側大径内径部44が形成されている。
【0045】
シリンダボディ15の大径摺動内径部24には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には2カ所のシリンダ径方向外側に凹む環状のシール周溝46およびシール周溝47が底部12側から順に形成されている。底部12側のシール周溝46には、E字状断面を有するカップシールからなるシールリング48が底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。また、口部14側のシール周溝47には、C字状断面を有するカップシールからなるシールリング49が底部12側にリップ側を配置した状態で嵌合されている。
【0046】
大径摺動内径部24には、シール周溝46とシール周溝47との間に、シリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝51が形成されている。この開口溝51は、口部14側の取付穴26aに開口することでリザーバ27に常時連通状態とされる連通穴52に連通されている。
【0047】
シリンダボディ15の筒部13の側部には、ブレーキ液をホイルシリンダA14,A15に供給するためのブレーキ配管が取り付けられるセカンダリ吐出路53およびプライマリ吐出路54が形成されている。
【0048】
ここで、シリンダボディ15は、底部側大径内径部35と第1小径摺動内径部22と中間大径内径部38と第2小径摺動内径部23とが小径シリンダ部55を構成しており、口部側大径内径部44と大径摺動内径部24とが、小径シリンダ部55よりも全体として大径の大径シリンダ部56を構成している。
【0049】
シリンダボディ15の底部12側に嵌合されるセカンダリピストン20は、円筒部57と、円筒部57の軸線方向における一側に形成された底部58とを有する有底円筒状をなしており、その円筒部57を底部12側に配置した状態でシリンダボディ15の第1小径摺動内径部22に摺動可能に嵌合されている。円筒部57の底部58に対し反対側の端部には、シリンダ径方向に貫通するポート59が複数放射状に形成されている。
【0050】
ここで、シリンダボディ15の底部12および筒部13の底部12側とセカンダリピストン20とで囲まれてシールリング30でシールされる部分が、セカンダリ吐出路53に液圧を供給するセカンダリ液圧室60となっており、このセカンダリ液圧室60は、セカンダリピストン20がポート59を開口溝33に開口させる位置にあるとき、リザーバ27に連通する。
【0051】
シリンダボディ15の底部12側のシール周溝28に設けられたシールリング30は、内周がセカンダリピストン20の外周側に摺接することになり、セカンダリピストン20がポート59をシールリング30よりも底部12側に位置させた状態では、セカンダリ液圧室60とリザーバ27との連通を遮断可能となっており、これらに圧力差が生じた場合にリザーバ27側からセカンダリ液圧室60側へのブレーキ液の流れのみを許容する。また、シリンダボディ15のシール周溝29に設けられたシールリング31は、内周がセカンダリピストン20の外周側に摺接することになり、リザーバ27に連通する開口溝33と後述するプライマリ液圧室61との連通を遮断する。
【0052】
セカンダリピストン20の底部58とシリンダボディ15の底部12との間には、倍力装置BS側から入力がない待機状態でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング62を含む間隔調整部63が設けられている。
【0053】
シリンダボディ15の口部14側に嵌合されるプライマリピストン18は、軸線方向一側が、小径ピストン部65とされ、軸線方向他側がこれより大径の大径ピストン部66とされた段付きの外形形状をなしており、軸方向両端側が円筒状をなしている。大径ピストン部66の小径ピストン部65側には環状溝67が形成されており、この環状溝67よりも小径ピストン部65側には軸線方向に沿って延在する連通溝68が複数形成されている。そして、プライマリピストン18は、前述のとおり、その小径ピストン部65がシリンダボディ15内における小径シリンダ部55の第2小径摺動内径部23に摺動可能に挿入されるとともに大径ピストン部66がシリンダボディ15内における大径シリンダ部56の大径摺動内径部24に摺動可能に挿入されている。
【0054】
プライマリピストン18の小径ピストン部65の大径ピストン部66に対し反対側の端部の円筒状部分には、径方向に貫通するポート69が複数放射状に形成されている。
【0055】
ここで、シリンダボディ15の第1小径摺動内径部22と第2小径摺動内径部23との間とプライマリピストン18とセカンダリピストン20とで囲まれ、シールリング31およびシールリング41でシールされる部分が、小径ピストン部65側にあってプライマリ吐出路54に液圧を供給する上記したプライマリ液圧室(小径圧力室)61となっている。また、シリンダボディ15の第2小径摺動内径部23と大径摺動内径部24との間とプライマリピストン18とで囲まれ、シールリング41およびシールリング48でシールされる部分が、大径ピストン部66側にあってプライマリ液圧室61より大径の大径与圧室70となっている。言い換えれば、プライマリピストン18はシリンダボディ15内を大径与圧室70とプライマリ液圧室61とに区画する。プライマリ液圧室61は、プライマリピストン18がポート69を大径与圧室70に開口させる位置にあるとき、大径与圧室70に連通する。
【0056】
シリンダボディ15の第2小径摺動内径部23に設けられたシールリング41は、内周がプライマリピストン18の外周側に摺接することになり、プライマリピストン18がポート69をシールリング41よりも底部12側に位置させた状態では、プライマリ液圧室61と大径与圧室70との連通を遮断可能となっている。また、シールリング41は、カップシールであることから、シリンダボディ15内を大径ピストン部66側の大径与圧室70と小径ピストン部65側のプライマリ液圧室61とに区画するとともに、これらの間に圧力差が生じた場合に大径与圧室70側からプライマリ液圧室61側へのブレーキ液の流れのみを許容する。
【0057】
シール周溝46に設けられたシールリング48は、内周がプライマリピストン18の大径ピストン部66の外周側に摺接することになり、プライマリピストン18が連通溝68および環状溝67をシールリング48よりも底部12側に位置させた状態では、大径与圧室70と連通穴52つまりリザーバ27との連通を遮断可能となっている。このシールリング48も、カップシールであることから、大径与圧室70とリザーバ27との間に圧力差が生じた場合に開口溝51および連通穴52を介してリザーバ27側から大径与圧室70側へのブレーキ液の流れのみを許容する。
【0058】
また、口部14側のシール周溝47に設けられたシールリング49は、プライマリピストン18の大径ピストン部66に摺接することにより、シリンダボディ15の内周側とプライマリピストン18の外周側との隙間を介しての連通穴52つまりリザーバ27と外気との連通を遮断する。
【0059】
セカンダリピストン20とプライマリピストン18との間には、ブレーキペダルBP側から入力がない待機状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング72を含む間隔調整部73が設けられている。また、プライマリピストン18のシリンダボディ15から突出する部分は、シリンダボディ15の口部14の外周に係止されるカバー74で覆われている。
【0060】
なお、シリンダボディ15は、底部12と筒部13と取付台部25,26とが、金属、例えばアルミニウム鋳造品からなる一体成形の素材から加工されて形成されている。
【0061】
セカンダリピストン20は、ブレーキペダルBP側から入力がない初期状態(このときの各部の位置を初期位置と以下称す)で、間隔調整部63のセカンダリピストンスプリング62の付勢力で最も底部12から離れた初期位置にある。このとき、セカンダリピストン20は、ポート59を開口溝33に開口させており、その結果、セカンダリ液圧室60を連通穴34を介してリザーバ27に連通させている。
【0062】
この状態からセカンダリピストン20がブレーキペダルの入力で底部12側に移動すると、セカンダリピストン20はそのポート59がシールリング30で閉塞され、その結果、セカンダリ液圧室60とリザーバ27との連通が遮断されることになり、これにより、さらにセカンダリピストン20が底部12側に移動することでセカンダリ液圧室60からセカンダリ吐出路53を介してブレーキ装置にブレーキ液を供給する。なお、ポート59を閉塞させた状態であってもリザーバ27側の液圧(大気圧)よりもセカンダリ液圧室60の液圧が低くなると、シールリング30が開いてリザーバ27のブレーキ液がセカンダリ液圧室60に流れるようになっている。
【0063】
また、プライマリピストン18は、間隔調整部63のセカンダリピストンスプリング62の付勢力と間隔調整部73のプライマリピストンスプリング72の付勢力とによって最も口部14側の初期位置に配置された状態にあるとき、プライマリ液圧室61に連通するポート69を開いてプライマリ液圧室61と大径与圧室70とを連通させている。
【0064】
この状態から、プライマリピストン18がブレーキペダルの入力で底部12側に移動すると、プライマリピストン18は、そのポート69がシールリング41で閉塞され、プライマリ液圧室61と大径与圧室70側とのポート69を介しての連通を遮断することになり、この状態からさらに底部12側に移動すると、プライマリ液圧室61からプライマリ吐出路54を介してブレーキ装置にブレーキ液を供給する。なお、ポート69を閉塞させた状態であっても大径与圧室70の液圧がプライマリ液圧室61の液圧より大きくなると、シールリング41を開いて大径与圧室70のブレーキ液がプライマリ液圧室61に流れるようになっている。
【0065】
また、プライマリピストン18は、初期位置にあるとき、連通溝68と環状溝67と開口溝51と連通穴52とで大径与圧室70とリザーバ27とを連通させている。この状態からプライマリピストン18が、底部12側に摺動すると、連通溝68および環状溝67がシールリング48で閉塞されて、大径与圧室70とリザーバ27との連通を遮断することになり、さらに摺動すると、大径ピストン部66が大径与圧室70の体積を減少させることで、大径与圧室70の液圧を高め、大径与圧室70とプライマリ液圧室61との間に設けられたシールリング41を開いて、大径与圧室70側からプライマリ液圧室61へ液補給を行うことになる。ブレーキ装置に対してブレーキ液を供給する際、このように作動初期に大容量のブレーキ液を供給する、いわゆるファストフィルを行うことで、ストローク初期の無効液量分を補い、ペダルストロークを短縮する。
【0066】
そして、実施例1に係るマスタシリンダ10では、上記したファストフィル時に、プライマリ液圧室61への液補給の進行に伴って大径与圧室70の液圧を徐々に解除するのが望ましい。このため、上記した大径与圧室70、プライマリ液圧室61およびリザーバ27に接続されるとともに、大径与圧室70またはプライマリ液圧室61が所定の液圧に達したときに、大径与圧室70の液圧をプライマリ液圧室61の所定の液圧上昇に応じて徐々に低下させるようにリザーバ27側に逃がすための減圧バルブの一例としての制御弁75が、シリンダボディ15に組み込まれて設けられている。
【0067】
つまり、まずシリンダボディ15に、筒部13のシリンダ軸方向の中間位置、具体的には、二カ所の取付台部25,26の間位置からシリンダ径方向に沿って下方に略円筒状をなして突出する突出部80が形成されている。この突出部80も、シリンダボディ15の鋳造時に底部12、筒部13および取付台部25,26と一体成形される。
【0068】
突出部80は、その内側にある筒部13の一部とともに制御弁75の制御シリンダ81を構成するもので、その内側には、段付き有底の弁収容穴82が形成されている。弁収容穴82は、筒部13側の小径穴部84と、小径穴部84の筒部13とは反対側に隣り合うこの小径穴部84よりも大径の中間径穴部85と、中間径穴部85の小径穴部84とは反対側に隣り合うこの中間径穴部85よりも大径の大径穴部86とで構成されている。中間径穴部85には小径穴部84側の一部を除いてメネジ部87が形成されている。
【0069】
また、シリンダボディ15の筒部13における突出部80の内側位置、つまり制御シリンダ81を構成する部分には、一端が筒部13の口部側大径内径部44に開口し、他端が小径穴部84の底部の中央に開口して、小径穴部84を大径与圧室70に連通させる、小径穴部84よりも小径の与圧室連通穴90が、弁収容穴82と同軸をなして形成されている。与圧室連通穴90の内側が、制御シリンダ81において大径与圧室70が連通する大径与圧室通路90aとなっている。図5に示すように、与圧室連通穴90の小径穴部84側の端部には小径穴部84側ほど拡径するテーパ状の面取部91が形成されている。
【0070】
また、図4に示すように、突出部80と筒部13と取付台部26とには、一端が小径穴部84の側壁部の底部側の端部に開口し、他端が取付台部26の取付穴26aの底部に開口して、小径穴部84をリザーバ27に連通させる、小径穴部84よりも小径のリザーバ連通穴92が形成されている。リザーバ連通穴92の内側が、制御シリンダ81においてリザーバ27が連通するリザーバ通路92aとなっている。
【0071】
また、突出部80と筒部13とには、一端が中間径穴部85における小径穴部84側の段部88の側壁部側の端部に開口し、他端が偏心溝42の底部に開口して、中間径穴部85をプライマリ液圧室61に連通させる、小径穴部84よりも小径の液圧室連通穴93が形成されている。液圧室連通穴93の内側が、制御シリンダ81においてプライマリ液圧室61が連通する液圧室通路93aとなっている。
【0072】
上記した弁収容穴82は、図5に示すように、その開口部が、制御弁75の制御シリンダ81を構成する蓋体95で閉塞されている。この蓋体95は、小径筒部96と、この小径筒部96と同軸かつ同内径をなす一方で外径が小径筒部96よりも大径とされた中間径筒部97と、この中間径筒部97と同軸かつ同内径をなす一方で外径が中間径筒部97よりも大径とされた大径筒部98と、この大径筒部98の中間径筒部97とは反対側を閉塞する底部99とを有する段付きの略有底円筒状をなしており、小径筒部96の外周部にオネジ部100が形成され、中間径筒部97の小径筒部96側の外周部に環状のシール溝101が形成されている。そして、蓋体95は、大径筒部98の中間径筒部97側の段差面が突出部80の開口端面に当接する位置まで、小径筒部96がオネジ部100において突出部80の中間径穴部85のメネジ部87に螺合され、これにより弁収容穴82を閉塞する。シール溝101には、弁収容穴82と蓋体95との隙間をシールするOリング102が嵌合されている。
【0073】
そして、制御弁75は、筒部13と突出部80と蓋体95とで形成された空間、つまり制御シリンダ81内の空間に、制御ピストン105と、これを筒部13側に付勢する2つの弁スプリング106および弁スプリング107とを有している。
【0074】
制御ピストン105は、第1軸部110と、第1軸部110と隣り合うこの第1軸部110と同軸でこれより大径の第2軸部111と、第2軸部111の第1軸部110とは反対側に隣り合うこの第2軸部111と同軸でこれより若干大径の第3軸部112と、第3軸部112の第2軸部111とは反対側に隣り合うこの第3軸部112と同軸でこれより大径の第4軸部113と、第4軸部113の第3軸部112とは反対側に隣り合うこの第4軸部113と同軸でこれより小径の第5軸部114とを有するアルミニウム等の金属製のピストン本体115を有している。
【0075】
このピストン本体115は、図5に示すように、制御シリンダ81の内周面を構成する弁収容穴82の小径穴部84に第2軸部111において摺動可能に嵌合し、制御シリンダ81の内周面を構成する蓋体95の内周面に第4軸部113において摺動可能に嵌合する。このピストン本体115には、第1軸部110の先端中央にシール凹部117が、第2軸部111の外径側にシール溝118が、第4軸部113の外径側にシール溝119がそれぞれ形成されている。また、ピストン本体115の中央には、第5軸部114および第4軸部113を貫通して第3軸部112の中間位置まで大径軸穴121が形成されており、第3軸部112の中間位置から第2軸部111を貫通して第1軸部110の中間位置まで大径軸穴121よりも小径の小径軸穴122が形成されていて、小径軸穴122と直交するように軸直交穴123が形成されている。この軸直交穴123は、第1軸部110の外周面に開口している。
【0076】
そして、制御ピストン105は、軸方向の両端面に円環状の突起部125,126が形成されてピストン本体115のシール凹部117に嵌合される円柱状のゴム製の弁シール127を有している。この弁シール127は、シール凹部117に嵌合され保持された状態で、外側に臨むように配置された突起部125がピストン本体115の先端よりも軸方向外側に突出することになり、この突起部125が小径穴部84の底面に、与圧室連通穴90の面取部91を全周にわたって囲むように当接する。これにより、弁シール127は、大径与圧室通路90aを開閉することになり、小径穴部84の底面がその際に弁シール127が接離する弁座128となる。また、弁シール127の突起部125とこれが当接する弁座128との間で囲まれた空間が大径与圧室70の液圧を受けて制御ピストン105を開弁方向に付勢する推力を発生する。
【0077】
また、制御ピストン105は、第2軸部111のシール溝118に嵌合されるシールリング130と、第4軸部113のシール溝119に嵌合されるOリング131とを有している。シールリング130は、C字状断面を有するカップシールからなり、第3軸部112側にリップ側を配置した状態でシール溝118に嵌合されている。シールリング130は、第2軸部111と小径穴部84との隙間をシールすることになり、Oリング131は、第4軸部113と蓋体95の内周面との隙間をシールすることになる。
【0078】
制御ピストン105を構成するピストン本体115、シールリング130およびOリング131によって、制御シリンダ81内には、軸線方向の弁座128側に、リザーバ通路92aに常時連通するとともに、弁シール127および弁座128で大径与圧室通路90aとの連通および連通遮断が切り換えられる弁室133が、軸線方向の中間部に液圧室通路93aに常時連通する制御圧力室134が、軸線方向の弁座128とは反対側に室135が画成される。ここで、リザーバ通路92a、弁室133および大径与圧室通路90aが、制御シリンダ81において、大径与圧室70とリザーバ27側とを連通する連通路137を構成している。なお、弁室133と室135とは制御ピストン105内の軸直交穴123、小径軸穴122および大径軸穴121を介して常時連通している。これに対して、制御圧力室134は、弁室133および室135とは基本的に区画されている。制御ピストン105は、弁座128に当接した閉弁状態で大径与圧室70の液圧を大径与圧室通路90aを介して開弁方向に受けることになる。また、弁室133および室135はリザーバ27に連通されて基本的に大気圧となっている。そして、制御ピストン105は、制御圧力室134に導入されるプライマリ液圧室61の液圧を受けるシールリング130およびOリング131の受圧面積差によって、プライマリ液圧室61の液圧に応じた大きさの付勢力が開弁方向に作用する。
【0079】
以上により、リザーバ通路92aに常時連通する弁室133に配置されて大径与圧室通路90aを開閉するための弁座128は、大径与圧室70とリザーバ27側とを連通する連通路137に設けられており、さらに言えば、大径与圧室通路90aとリザーバ通路92aとの間に設けられている。この弁座128に接離する制御ピストン105の弁シール127は、大径与圧室通路90aとリザーバ通路92aとの間を開閉する。
【0080】
コイルスプリングからなる弁スプリング106は、室135内および制御ピストン105の大径軸穴121内に配置されており、制御ピストン105の大径軸穴121の底面と蓋体95の底部99との間に介装されている。弁スプリング106は、制御ピストン105をその弁シール127が弁座128に当接する方向、つまり連通路137を閉弁する方向に付勢する。
【0081】
コイルスプリングからなる弁スプリング107は、弁スプリング106の外側でこれと同心状をなして室135内に配置されており、制御ピストン105の第5軸部114を内側に挿入させながら第4軸部113の端面と蓋体95の底部99との間に介装されている。弁スプリング107も、制御ピストン105をその弁シール127が弁座128に当接する方向、つまり連通路137を閉弁する方向に付勢する。
【0082】
そして、実施例1において、制御ピストン105には、ピストン本体115の外周面における第2軸部111と第3軸部112との間位置に、第3軸部112よりも大径で第4軸部113よりも大径の円環状のフランジ部140が径方向に突出して形成されている。このフランジ部140は、制御シリンダ81の内周面に形成された、中間径穴部85の小径穴部84側の段部88に当接して、制御ピストン105のそれ以上の閉弁方向の移動を制限することになり、その結果、制御ピストン105の閉弁方向の移動量を制限する。よって、フランジ部140および段部88が、制御ピストン105と制御シリンダ81との間にあって、制御ピストン105の閉弁方向の移動量を制限して、その移動限界位置を決める閉弁方向規制部141を構成している。また、フランジ部140は、蓋体95の端面により制御シリンダ81の内周面に形成される段部143に当接して、制御ピストン105のそれ以上の開弁方向の移動を制限する。つまり、フランジ部140および段部143が、制御ピストン105と制御シリンダ81との間にあって、制御ピストン105の開弁方向の移動量を制限して、その移動限界位置を決める開弁方向規制部142を構成している。
【0083】
ここで、閉弁方向規制部141は、弁シール127が弁スプリング106および弁スプリング107の付勢力により弁座128に当接してこれを閉弁した状態で、当接部140が段部88に当接することになり、このとき、ピストン本体155の先端と弁座128との間に所定量の隙間L2を生じさせる。このときの隙間L2は、この位置から開弁方向規制部142により規制される開弁方向の制御ピストン105の許容ストロークL1よりも小さくなっている。また、閉弁方向規制部141は、弁座128へ当接した状態における弁シール127の軸方向長が、所定量となるように、具体的には閉弁方向規制部141による規制なしで制御ピストン105が弁スプリング106および弁スプリング107により押圧されたときの弁シール127の軸方向長よりも長い所定量となるように、制御ピストン105の閉弁方向の移動量を制限する。また、開弁方向規制部142は、弁スプリング106および弁スプリング107の縮み量を所定範囲内に制限する。
【0084】
制御弁75は、その制御圧力室134が、液圧室通路93aを介して常時プライマリ液圧室61に連通している。その結果、制御ピストン105には、プライマリ液圧室61の液圧とシールリング130およびOリング131の受圧面積差とで弁スプリング106および弁スプリング107の付勢力に抗する方向の推力つまり開弁方向の推力が生じる。また、大径与圧室70の液圧と弁シール127の突起部125とこれが当接する弁座128との間で囲まれた空間とで制御ピストン105を開弁方向に付勢する推力を発生する。これらの推力の合算により、制御ピストン105が弁スプリング106および弁スプリング107の付勢力に抗して移動すると、連通路137が開放され、大径与圧室70の液圧を連通路137を介してリザーバ27側に逃がすことになる。ここで、制御圧力室134に導入されるプライマリ液圧室61の液圧増加に応じて制御ピストン105に生じる推力が増加することになり、その結果、制御ピストン105は、大径与圧室70の液圧を、プライマリ液圧室61の液圧上昇に応じて徐々に低下させるようにリザーバ27側に逃がすことになる。
【0085】
つまり、上記したファストフィル時に、図4に示すシールリング41を押し開いて大径与圧室70からプライマリ液圧室61にブレーキ液が送り込まれ、ストローク初期の無効液量分(主にキャリパロールバック分)を補うことになるが、その後、プライマリ液圧室61の小径化に伴う液量不足を補うため、大径与圧室70からプライマリ液圧室61にブレーキ液が送り込まれながら、大径与圧室70とプライマリ液圧室61とが同圧で与圧室解除液圧まで上昇する。そして、与圧室解除液圧まで上昇すると、それまで閉状態にあった制御弁75が大径与圧室70の液圧を解除する。このとき、制御弁75は、上記したようにプライマリ液圧室61の液圧の上昇に応じて徐々に大径与圧室70の液圧が下がるように、大径与圧室70の液圧をリザーバ27側に逃がすことになる。なお、実施例1においては、マスタシリンダ10をプランジャ型のマスタシリンダとして説明したが、ファストフィルができるものであれば、コンベンショナル型やセンターバルブ型のマスタシリンダを適宜、用いることができる。
【0086】
(マスタシリンダへの要求性能)
ここで、ブレーキシステムにおいては、国、地域により異なるものの、安全性能面に関して種々の法規上の規制が設けられている。その法規上の規制の一例として、米国自動車安全基準(FMVSS:Federal Motor Vehicle Safety Standards)があり、この基準では、倍力装置の失陥時に、ブレーキペダルへの踏力が65N以上500N以下で、時速100キロメートルでの停止距離が73メートル(240フィート)以下であることが規定されている。これを実現するためには、計算上、約2.5m/s2の減速度を出すことが要求されることになる(以下、要求性能という)。そこで、特定車種のブレーキシステムを設計する際には、この要求性能を満足するように、マスタシリンダ10のシリンダ径、倍力装置BSの倍力比、ホイルシリンダA14,A15のシリンダ径、摩擦材等の諸元が決定され、上記要求性能を達成できるように車両性能も含めて設計される。したがって、上記要求性能を達成するように設計された車両では、倍力装置BSの失陥時に、500Nの踏力を加えた場合、マスタシリンダ10に発生する液圧は一義的に決定されることになる。
ところで、従来の大径与圧室と小径圧力室とを有するファストフィル型のマスタシリンダでは、ストローク初期の無効液量分を補い、初期のペダルストロークを短縮化することを目的としていること、また、倍力装置の失陥時には、倍力装置の助力(通常は6〜10倍程度)がなくなることによる液圧不足を補う必要があり、同じ踏力であれば、大径与圧室よりも小径圧力室の方がより高い液圧を発生できること、これら2点より、倍力装置の失陥時、ブレーキペダルに500Nの踏力が加わるときには、必ず小径圧力室でマスタシリンダ圧を発生するように設定していた。すなわち、減圧バルブの開弁圧を低液圧領域(車両諸元により異なるが、一例では、概ね0.8Mpaあたりで開弁し、1.6Mpaあたりで大気圧となる)に設定することにより、倍力装置の失陥時でも、ブレーキペダルの踏力が500Nのときには、大径与圧室ではなく小径圧力室で高い液圧を発生させ、上記要求性能を満たすようにしていた。
尚、上記要求を満たすために、ブレーキペダルの踏力は、65N以上であれば、500N以下で設定することもできるが、倍力装置の失陥時の不足液圧を補うとの観点からは、なるべき大きな踏力のときに上記要求を満たすようにする方が容易となることから、踏力が500Nのときを基準としている。
これに対し、本発明では、倍力装置の失陥を負圧センサ4等の検出手段で検出し、ブレーキ制御装置BUのポンプアップ手段(増圧手段)を利用してブレーキアシスト制御をすることにより、上記要求性能を満足する液圧をホイルシリンダA14,A15に供給することができる。このため、本発明では、好適な一例として、減圧バルブとなる制御弁75の開弁液圧を4Mpa程度の高い液圧に設定することができるようになった。
尚、上記4Mpaは、倍力装置BSが失陥したとき、ブレーキペダルBPへの踏力が500Nのときの液圧、または、2.5m/s2の減速度が出る液圧(車両諸元により異なるが、経験則上、平均的なもので概ね2.3Mpa程度、液圧範囲としては概ね1.7Mpa〜2.9Mpa程度に設定)よりも高い値である。また、倍力装置BSの正常時において、車両に発生する減速度ベースで換算するならば、平均的なもので約4m/s2の減速度を得る液圧、また、経験則上の減速度範囲としては約3.2〜5.3m/s2に相当している。車両の諸元によって違いはあるが、倍力装置BSの正常時において、約4m/s2前後(約3.2〜5.3m/s2)の減速度を得る液圧以上で制御弁75が開弁するように設定すると、ブレーキペダルフィーリングが良好になるからである。尚、ブレーキペダルフィーリングは、主に踏力と、ストローク量と、減速度との関係により表現される。これらの観点については後述する。
【0087】
(マスタシリンダの作動特性)
図6はブレーキペダルBPに入力されるブレーキペダル踏力に対するプライマリ液圧室(小径圧力室)61の液圧及び大径与圧室70の液圧の関係を表す図である。実施例1では、ブレーキペダルBPが踏み込まれ、プライマリ液圧室液圧及び大径与圧室液圧が共に4Mpaに到達すると、制御弁75のピストン本体115を弁スプリング106,107の付勢力に抗して押し下げる力が、弁スプリング106,107のセット荷重を上回る。すると、弁シール127が開いて与圧室連通穴90から制御弁75の弁室133内に大径与圧室70内のブレーキ液が流れ込む。
【0088】
弁室133内に流れ込んだブレーキ液は、小径穴部84に連通したリザーバ通路92aを経てリザーバ連通穴92からリザーバ27に戻される。尚、ピストン本体114がストロークする際、室135と弁室133とは、大径軸穴121と小径軸穴122と軸直交穴123(以下、連通路)とを介して常時連通しているため、ピストン本体114のストロークは何ら阻害されることはない。このとき、連通路の流路抵抗等を適宜調整し、ピストン本体114のストローク特性等を設定するようにしてもよく特に限定しない。
【0089】
運転者がブレーキペダルBPを更に踏み込み、プライマリ液圧室61の液圧が4Mpaを越えると、制御弁75が開弁して大径与圧室70の液圧が減少し、プライマリ液圧室61がマスタシリンダ圧の上昇に寄与するため、図6に示すように、踏力の増大に対する液圧上昇の割合(液圧上昇勾配)が大きくなり、大径与圧室70内の液圧は、4Mpaから徐々に減少する。このとき、踏力の増大に対する大径与圧室70の液圧下降の割合である液圧下降勾配の絶対値は、プライマリ液圧室61の液圧上昇勾配の絶対値と実質的に同じとなる。
【0090】
ここで、図6に示すように、プライマリ液圧室61の液圧が9Mpaに到達する前に、大径与圧室70内の液圧が大気圧となるように減圧されるのが好ましい。その理由は、実施例1では、倍力装置BSの全負荷点の液圧が10MPa付近に設定されており、この全負荷点よりも低い液圧である9MPaのときには大径与圧室70内の液圧が大気圧となっていることで、倍力装置BSの全負荷点で助力がなくなった状態でもプライマリ液圧室61による高い液圧の発生を行なうことができる。尚、制御弁75は、横にプライマリ液圧室61の液圧を目盛り、縦に大径与圧室70の液圧を目盛ったグラフ上において、制御弁75が開弁した後、プライマリ液圧室61の液圧上昇勾配と大径与圧室70の液圧下降勾配とが好ましい態様として、実質的に1対1の関係となるように設定されている。このように設定することにより、大径与圧室70からプライマリ圧力室61への切り替えが連続的にスムーズに行なうことができる。このため、プライマリ液圧室61の液圧が4Mpaから8Mpa程度となるときに、大径与圧室70の液圧は4Mpaから大気圧となる関係にある。
【0091】
(倍力装置失陥時制御)
図7はコントロールユニットECUで実行される倍力装置失陥時制御処理を表すフローチャートである。
【0092】
ステップS1では、負圧センサa4により検出される負圧が所定値よりも大きいか否かを判断し、所定値以下と判断したときは負圧が確保されていると判断してステップS2へ進み、所定値よりも大きいと判断したときは負圧が不十分と判断してステップS3へ進む。このステップが、倍力装置の失陥を検出する検出手段に相当する。
【0093】
ステップS2では、倍力装置BSを用いた通常の制御が適宜実行される。実施例1における通常の制御とは、倍力装置BSが正常に作動した状態で機能する他の全てもしくは一部の制御を実行可能な状態もしくは実行している状態を示す。
【0094】
ステップS3では、倍力装置BSが失陥しているため、倍力装置BSによる倍力作用に換えて、ポンプアップ手段によるブレーキアシスト制御を実行する。
【0095】
(倍力装置の正常時と失陥時との対応関係)
次に、上記倍力装置失陥時制御における作用について図8及び図9を用いて説明する。図8は踏力に対するマスタシリンダ液圧の関係を示す図である。尚、図8に示す踏力は、運転者の筋力による踏力、言い換えると、ブレーキペダルBPから入力軸B34に与える力である。出力軸B46からマスタシリンダ10に倍力装置BSによって助力された上で付与される力とは異なる。
【0096】
〔倍力装置の正常時における踏力(筋力)とマスタシリンダ液圧との関係〕
倍力装置BSが正常時にあっては、運転者のブレーキペダル踏力の発生によって倍力装置BSに助力が発生する。そして、運転者は小さな踏力で4Mpaのマスタシリンダ液圧を得ることができる(図8中のA点)。このとき、制御弁75によって大径与圧室70が大気圧に向けて徐々に低下されると共に、プライマリ液圧室61を圧縮するピストン面積が小径ピストン部65相当に変化し始めるため、大きな液圧上昇勾配が得られる。次に、大径与圧室70が完全に大気圧となると、小径ピストン部65のみによってマスタシリンダ圧が発生し始める(図8中のB点)。尚、倍力装置BSにおいて例えば電動式の倍力装置のように倍力比が変更されるような場合、実際の液圧の特性はその影響を受けるが、ここでは、その点についての詳細については省略する。
【0097】
その後、更に踏力が大きくなっていくと、倍力装置BSの定圧室B18,B19と変圧室B20,B21との差圧が徐々に小さくなり、両室の差圧がなくなることで助力が得られなくなる全負荷点(例えば10MPa)に到達する。それ以降は、踏力の増大が助力を得ることなくそのままマスタシリンダ液圧の増大に寄与する。すなわち、液圧上昇勾配は倍力装置BSにより助力を得ていたときよりも小さくなる。
【0098】
〔倍力装置の失陥時における踏力(筋力)とマスタシリンダ液圧との関係〕
一方、倍力装置BSが失陥すると、踏力に助力が付与されないため、ブレーキペダルBPを踏み始めた初期は、踏力を大径ピストン部66の有効受圧面積で除したマスタシリンダ液圧が発生する。このときの液圧上昇勾配は、倍力装置BSにより助力を得ていたときよりもかなり小さい。
【0099】
踏力が500Nに到達したとき、マスタシリンダ液圧は、車両の減速度として2.5m/s2を得ることができる液圧(例えば、2.3Mpa、以下、2.5m/s2相当圧という。)よりも低い液圧しか発生しない。これは、実施例1において、制御弁75の開弁圧が4MPaと高い圧力領域に設定されているため、制御弁75は閉弁したままであり、大径与圧室70により液圧を発生するからである。しかし、この液圧不足分については、前述のとおり、ポンプアップ手段によるブレーキアシスト制御をすることで補うことができる。なお、ポンプアップ手段によるブレーキアシスト制御をすることで補う程度は、踏力が500Nで2.5m/s2相当圧以上の液圧が発生するのであれば、どの程度にするかは、車両の要求性能によるものであり、適宜設定することができる。
【0100】
更に、踏力が増大していくと、2.5m/s2相当圧よりも高い4Mpaに到達し、制御弁75が開弁して大径与圧室70内の圧力が低下する(図8中のA'点)。そして、制御弁75により大径与圧室70が完全に大気圧となると、小径ピストン部65のみによってマスタシリンダ圧が発生し始める(図8中のB'点)。
【0101】
(マスタシリンダに対する倍力装置失陥時要求性能)
ここで、倍力装置BSが失陥すると、助力が得られないことから、運転者の筋力のみで制動したとしても、最低限の車両制動力を得られる必要がある。液圧は、作用する力を有効受圧面積で除した値であるため、マスタシリンダのピストンの有効受圧面積を小さくしておけば、必要な圧力は確保できる。
【0102】
(マスタシリンダに要求されるフィーリング性能)
一方、ブレーキには、踏力と、ストロークと、発生する減速度との関係から決定されるフィーリング性能が要求されている。運転者がブレーキペダルBPを踏み込み始め、踏力を与えると共にストロークを発生させているのに、なかなか減速度が発生しなければ、運転者としては踏み応え感が得られない。このような場合、ブレーキの剛性感が低いと表現され、剛性感が低すぎる場合にはブレーキペダルフィーリングが悪いと評価される。剛性感が低下する主な原因の一つは、ホイルシリンダにブレーキ液を供給したときに、ブレーキパッドとブレーキロータとの隙間を埋めるガタ詰めによるブレーキ液消費がある。これに対し、踏力を与えたときに、少ないストロークにより所望の減速度が発生すれば、運転者としては踏み応え感が得られる。このような場合、ブレーキの剛性感が高いと表現され、一般的にブレーキペダルフィーリングが良いと評価される。
【0103】
(ストロークとフィーリング性能との関係)
つまり、ブレーキペダルの操作には、踏力の発生により適度なストロークを伴いつつ、減速度を発生させることが要求される。一方、倍力装置失陥時要求性能には、特にストロークに対するフィーリングまでを要求されることはないため、最低限の性能を確保するには、前述のとおり、単にマスタシリンダのピストンの有効受圧面積を小さくしていけば、性能を確保することができる。しかし、正常時には、有効受圧面積が小さいと、大きなストロークを発生させなければならなくなり、剛性感が低くフィーリングが悪くなる。つまり、助力が得られる前提で剛性感を上げるには有効受圧面積が大きいほうが良い。
【0104】
ところで、倍力装置BSの失陥以外でも、倍力装置BSが全負荷点を越えた領域で作動する場合には助力が得られないので、制動力を確保するには有効受圧面積が小さいほうが良い。そこで、これらを両立させるべく、実施例1のマスタシリンダでは、倍力装置BSの正常時に、ガタ詰めに必要な液量を大径与圧室70で与えることは勿論のこと、それ以上の高い液圧領域(4Mpa)まで大径与圧室70で液圧を発生することで、良好なブレーキペダルフィーリングを得るようにしている。また、倍力装置BS失陥時には、大径与圧室70で液圧を発生することになり、踏力が500Nに到達したとき、マスタシリンダの発生液圧だけでは液圧不足を生じるが、ポンプアップ手段によるブレーキアシスト制御をすることで不足液圧を補うことができる。そして、倍力装置BSが全負荷点を越えた領域では倍力装置BSが正常であっても助力が得られないので、それ以前に制御弁75を開弁し、大径与圧室70からプライマリ液圧室61(小径圧力室)に切り替えて高い制動力を発生できるようにしている。
【0105】
図9はブレーキペダルのストロークと液圧との関係、及び助力無しの踏力と液圧との関係を表す特性図である。図9中、比較例1はマスタシリンダの有効受圧面積が一定のタイプ(有効受圧面積が大径与圧室70のそれとプライマリ液圧室61のそれとの中間の面積となっている)を示し、比較例2は実施例1と同様の有効受圧面積切り替えが可能であって開弁圧が実施例1よりも低圧側に設定されたタイプを示す。
【0106】
図9中の右側の直線の特性に示す勾配は有効受圧面積の逆数に相当する。有効受圧面積が小さければ勾配は大きくなる。その分、図9中の左側のストローク特性は、同じ液圧を得るにしても大きなストロークが必要になることを示している。
【0107】
剛性感を高めるには、ストロークを短縮する必要があるため、有効受圧面積を大きくする必要がある。比較例1は有効受圧面積を切り替えることができないため、踏力が500Nで2.5m/s2相当圧を得られる勾配が最小の勾配となり、これ以上のストロークの短縮化を図ることはできない。
【0108】
次に、比較例2は、踏力が小さい領域では大径与圧室が作用するため、ストロークを短縮でき、剛性感を高められる。しかし、500Nの踏力で2.5m/s2相当圧を得るため、開弁圧を低めに設定しているので、ストロークの短縮化は、踏力が小さい領域(低液圧領域)に限られ、踏力が大きい領域ではストロークの短縮化を図ることができない。
【0109】
(実施例1の特徴)
上述の比較例1,2で示すように、ストロークの短縮化には失陥時要求性能を満足しようとすると、限界がある。しかし、失陥時要求性能はマスタシリンダの径を規定しているわけではなく、踏力500Nで2.5m/s2の減速度を発生するよう規定している。そこで、実施例1では、マスタシリンダ側で失陥時要求性能を満足するのではなく、他の手段によって失陥時要求性能を満たし、マスタシリンダ側では正常時のフィーリングとして最適な特性が得られるように開弁圧を設定することとした。
【0110】
具体的には、比較例1の有効受圧面積を基準面積とし、その形状が円形とした場合の基準直径を定義すると、大径側は基準直径より1/8〜1/4インチ大きな直径とし、小径側は基準直径より1/16〜1/8インチ小さな直径とする。また、開弁圧として4Mpaとして設定することで通常使用領域でも大径側の有効受圧面積が作用する構成とした。ここで、通常使用領域とは、倍力装置BSの正常時の市街地走行等において、急制動等を伴わない一般的な走行状態で使用される液圧の領域であり、ブレーキペダルが踏み込まれた全回数のうち、4Mpa以下の液圧であった回数の占める割合が極めて高いことを意味する。
【0111】
これにより、大径の有効受圧面積を通常使用領域で使用することができる。また、ペダルストロークを大幅に短縮することができるため、良好なペダルフィーリングを得ることができる。具体的には、既存の失陥時要求性能を満たすマスタシリンダに比べて10%程度ペダルストロークを短縮できる上に、通常使用領域では大径の有効受圧面積を使用していることで、十分な制動力を確保しながら剛性感のある踏み応えを得ることができる。
【0112】
一方、小径の有効受圧面積を既存の失陥時要求性能を満たす比較例1のマスタシリンダに比べて小さく設定できる。これにより、全負荷点時の発生液圧を既存の失陥時要求性能を満たすマスタシリンダよりも高くすることができ、制動距離を短縮することができる。また、開弁圧以降の減速度が求められる領域では、減速度のビルドアップ感も向上でき、良好な制動フィーリングを得ることができる。
【0113】
尚、倍力装置BSの正常時において、失陥時要求性能を満たす有効受圧面積に設定した場合に、全負荷点における液圧を増圧手段により補うことも考えられる。しかし、この方法では、液圧と踏力の両方を検知して全負荷点に到達していることを確認しなければならないため、別途踏力センサが必要となる。ここで言う踏力センサとは、入力軸B34の軸力であり、マスタシリンダ圧と相関を有する出力軸B46の軸力ではないため、センサとしては高価なものとなる。また、通常制動時に頻繁に増圧制御が必要となり、増圧手段の負担が増加して耐久性の低下を招くほか、制御ロジックも別途必要となり、実現性が極めて困難である。
【0114】
以上説明したように、実施例1にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)シリンダボディ(段付シリンダ)15に挿入されるプライマリピストン(段付ピストン)18によりプライマリ液圧室(小径圧力室)61と大径与圧室70とが成形され、プライマリピストン18が移動することで大径与圧室70からプライマリ液圧室61に液圧が供給されるとともにプライマリ液圧室61に液圧が発生し、該発生液圧をホイルシリンダA14,A15へ供給するとともに、プライマリ液圧室61及び大径与圧室70の液圧によって所定の開弁圧で開弁して大径与圧室70をリザーバ27に連通しプライマリ液圧室61の液圧の上昇に伴い大径与圧室70を徐々に減圧する制御弁(減圧バルブ)75を有するマスタシリンダ10と、ブレーキペダルBPからの入力を助力してプライマリピストン18を移動させると共に、助力が無くなる全負荷点を有する倍力装置BSと、該倍力装置BSの失陥を検出する検出手段である図7のステップS1と、該検出手段により倍力装置BSの失陥が検出されたときにマスタシリンダ10とは異なる液圧源であるポンプA12により発生する液圧でホイルシリンダA14,A15への液圧を補う増圧手段であるステップS3と、を有し、制御弁75は、プライマリ液圧室61の液圧が、ブレーキペダルBPへの踏力が500Nのときの液圧、または、車両の諸元から設計上2.5m/s2の減速度が出る液圧(2.5m/s2相当圧)よりも高く倍力装置BSの全負荷点時の液圧よりも低い液圧のときに開弁するように開弁圧が設定されている。
【0115】
言い換えると、プライマリ液圧室61の液圧が、3Mpa(2.5m/s2相当圧よりも高い液圧)よりも高く10Mpa(全負荷点時の液圧)よりも低い液圧例えば、4Mpaのときに開弁し、該開弁後の液圧上昇に伴い大径与圧室70が大気圧となるように設定されている。なお、この開弁圧は、4Mpaに限らず、2.5m/s2相当圧よりも高い液圧であれば、3Mpaでもよく、あるいは5MPaとしても全負荷点時の液圧の10Mp付近では大径与圧室70がリザーバ液圧または大気圧(これらに近似した圧力を含む)となるので、種々の設定圧を選択することができる。また、制御弁75の開弁圧は、制御弁75の開弁特性により定まるもので、全負荷点時の液圧前に大径与圧室70がリザーバ液圧または大気圧になるように設定するのがよい。したがって、もし、制御弁75がプライマリ液圧室61の液圧のみによって開弁圧が設定される構造においては、プライマリ液圧室61の液圧が開弁圧を超えると制御弁75は開弁状態となり、大径与圧室70が急速にリザーバ液圧または大気圧となる。この場合には、例えば、開弁圧を8あるいは9Mpaに設定することもできる。また、制御弁75は、シールリング130およびOリング131の受圧面積差を大きくし、弁座128との間で空間を形成する弁シール127の突起部125の受圧面積を小さくすることで、開弁してから大気圧となるまでの圧力勾配を調整することができる。例えば、制御弁75が開弁した後、プライマリ液圧室61の液圧上昇勾配と大径与圧室70の液圧下降勾配とを1対2の関係となるように設定すれば、5MPa(または6MPa)で制御弁75を開弁し、7.5MPa(または9MP)で大径与圧室70を大気圧とするように設定してもよい。
【0116】
よって、通常制動時に、倍力装置BSの全負荷点時付近で液圧が不足することが無く、所望の制動力を発生させることができるとともに、大径与圧室70による液圧発生領域が広くなるため、制動力に対するペダルストロークを少なくすることができ、剛性感のある良好なペダルフィーリングを提供することができる。
【0117】
(2)制御弁75は、倍力装置BSの正常時に、プライマリ液圧室61からの液圧が、例えば、3.2〜5.3m/s2の減速度が出る液圧以上で開弁することとした。言い換えると、プライマリ液圧室61の液圧が、4Mpa以上となったときに開弁することとした。よって、通常制動領域において大径与圧室70による制動を確保することができ、通常制動領域におけるペダルストロークを短縮することで、良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0118】
(3)制御弁75は、倍力装置BSの全負荷点時の液圧付近で前記大径与圧室の液圧が前記リザーバの液圧(または大気圧)となるように設定してもよい。すなわち、全負荷点時の液圧前に大径与圧室70がリザーバ液圧または大気圧になるように設定するのが望ましいが、前記大径与圧室の液圧が前記リザーバの液圧になる時期は、全負荷点時の液圧後であってもよい。この場合、全負荷点時の液圧前で制御弁75が開弁していれば、全負荷点時には、大径与圧室70の液圧が開弁時よりは低下した分だけ、倍力装置BSの助力が無くとも、プライマリ液圧室61による高い液圧発生が期待できる。
【0119】
上記のように設定することで、倍力装置BSの全負荷点以降、大径与圧室で発生する液圧による踏力ロスを少なくすることができ、運転者の踏力を効率よく、制動力とすることができる。
【0120】
(4)制御弁75は、倍力装置BSの全負荷点時の液圧となる前に大径与圧室70の液圧がリザーバ27の液圧となるように設定されている。具体的には、全負荷点時の液圧が10MPaの場合、プライマリ液圧室61の液圧がそれより低い液圧である9Mpaとなる前に大径与圧室70の液圧が大気圧となるように設定されている。よって、良好なペダルフィーリングを得ることができる。なお、全負荷点時の液圧は、車両の諸元により決定されるものであるから、10MPaに限られるものではなく、これより大きいまたは小さい液圧であってもよい。もし、全負荷点時の液圧が10MPaより小さい液圧、例えば、8Mpaの場合には、この8Mpaの液圧前に、制御弁75の開弁圧を設定すればよい。
【0121】
(5)制御弁75は、プライマリ液圧室61からの液圧が、3Mpaよりも高くなったときに開弁することとした。よって、通常制動領域においても大径与圧室70を使用することができ、良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0122】
(6)制御弁75は、前記小径圧力室の液圧上昇に対する前記大径与圧室の液圧下降が実質的に1対1となるように減圧することとした。よって、良好なペダルフィーリングを得ることができる。
【0123】
(7)倍力装置BSは、シェル内に負圧が貯留される定圧室B18,B19と、非制動時に定圧室B18,B19の負圧が貯留されブレーキペダルBPからの入力によって大気が流入する変圧室B20,B21とを有し、全負荷点は定圧室B18,B19と変圧室B20,B21との差圧が無くなるときである。よって、助力が得られなくなる前に小径のプライマリ液圧室61のみに切り替えることができ、高い制動力を得ることができる。
【0124】
(8)増圧手段は、マスタシリンダ10とホイルシリンダA14,A15との間に設けられるブレーキ制御装置の液圧ポンプである。よって、既存のシステムを用いて失陥時要求性能を満たすことができ、コストアップを招くことなく良好なペダルフィーリングを確保できるマスタシリンダを提供することができる。尚、増圧手段としては、液圧ポンプに代えて、アキュムレータ等の蓄圧装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0125】
10 マスタシリンダ
15 シリンダボディ(段付シリンダ)
18 プライマリピストン(段付ピストン)
27 リザーバ
61 プライマリ液圧室(小径液圧室)
70 大径与圧室
75 制御弁
BS 倍力装置
BU ブレーキ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段付シリンダに挿入される段付ピストンにより小径圧力室と大径与圧室とが成形され、前記段付ピストンが移動することで前記大径与圧室から前記小径圧力室に液圧が供給されるとともに前記小径圧力室に液圧が発生し、該発生液圧をホイルシリンダへ供給するとともに、前記小径圧力室及び前記大径与圧室の液圧によって所定の開弁圧で開弁して前記大径与圧室をリザーバに連通し前記大径与圧室を減圧する減圧バルブを有するマスタシリンダと、
ブレーキペダルからの入力を助力して前記段付ピストンを移動させると共に、前記助力が無くなる全負荷点を有する倍力装置と、
該倍力装置の失陥を検出する検出手段と、
該検出手段により前記倍力装置の失陥が検出されたときに前記マスタシリンダとは異なる液圧源により発生する液圧で前記ホイルシリンダへの液圧を補う増圧手段と、
を有し、
前記減圧バルブは、前記倍力装置の失陥時に、前記小径圧力室の液圧が、前記ブレーキペダルへの踏力が500Nのときに出る液圧よりも高く前記倍力装置の全負荷点時の液圧よりも低い液圧のときに開弁するように前記開弁圧が設定されてなることを特徴とする車両制動システム。
【請求項2】
前記減圧バルブは、前記倍力装置の全負荷点時の液圧付近で前記大径与圧室の液圧が前記リザーバの液圧となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両制動システム。
【請求項3】
前記減圧バルブは、前記倍力装置の全負荷点時の液圧となる前に前記大径与圧室の液圧が前記リザーバの液圧となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両制動システム。
【請求項4】
前記減圧バルブは、前記倍力装置の正常時に、前記小径圧力室からの液圧が、3.2m/s2の減速度が出る液圧以上で開弁することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両制動システム。
【請求項5】
前記減圧バルブは、前記小径圧力室からの液圧が、3Mpaよりも高くなったときに開弁することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両制動システム。
【請求項6】
前記減圧バルブは、前記小径圧力室の液圧上昇に対する前記大径与圧室の液圧下降の割合が実質的に1対1となるように徐々に減圧することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両制動システム。
【請求項7】
前記倍力装置は、シェル内に負圧が貯留される定圧室と、非制動時に前記定圧室の負圧が貯留され前記ブレーキペダルからの入力によって大気が流入する変圧室とを有し、前記定圧室と前記変圧室との差圧により助力するものであり、
前記全負荷点は定圧室と変圧室との差圧が無くなるときであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の車両制動システム。
【請求項8】
前記増圧手段は、前記マスタシリンダと前記ホイルシリンダとの間に設けられるブレーキ制御装置の液圧ポンプであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の車両制動システム。
【請求項9】
ブレーキペダルからの入力を助力して出力するとともに、前記助力が無くなる全負荷点を有する倍力装置を有する車両制動システムに用いられ、前記倍力装置の出力によってピストンが移動するマスタシリンダであって、
前記倍力装置によって移動される段付のピストンと、該段付のピストンが挿入されることにより前記ホイルシリンダへ液圧を供給する小径圧力室と該小径圧力室に液圧を供給する大径与圧室とが成形される段付シリンダと、前記小径圧力室及び前記大径与圧室の液圧によって所定の開弁圧で開弁して前記大径与圧室をリザーバに連通し前記大径与圧室を減圧する減圧バルブとを有し、
該減圧バルブは、前記倍力装置の失陥時に、前記小径圧力室の液圧が、前記ブレーキペダルへの踏力が500Nのときに出る液圧よりも高く前記倍力装置の全負荷点時の液圧よりも低い液圧のときに開弁するように開弁圧が設定されてなることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項10】
段付シリンダに挿入される段付ピストンにより小径圧力室と大径与圧室とが成形され、前記段付ピストンがブレーキペダルによる倍力装置の作動により移動することで前記大径与圧室から前記小径圧力室に液圧が供給されると共に前記小径圧力室に液圧が発生し、前記小径圧力室はホイルシリンダに液圧を供給すると共に、前記小径圧力室又は前記大径与圧室の液圧によって所定の開弁圧で開弁して前記大径与圧室をリザーバに連通して前記液圧の上昇に伴い前記大径与圧室を徐々に減圧する減圧バルブを有するマスタシリンダにおいて、
前記減圧バルブは、前記小径圧力室の液圧が、3Mpaよりも高く10Mpaよりも低い液圧のときに開弁し、該開弁後の液圧上昇に伴い前記大径与圧室が大気圧となるように設定されていることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項11】
前記減圧バルブは、前記小径圧力室からの液圧が、4Mpa以上となったときに開弁することを特徴とする請求項10に記載のマスタシリンダ。
【請求項12】
前記減圧バルブは、前記小径圧力室の液圧が9Mpaとなる前に前記大径与圧室の液圧が大気圧となるように設定されていることを特徴とする請求項10または11に記載のマスタシリンダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−235018(P2010−235018A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86714(P2009−86714)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】