説明

車両制御システム及び安全確認判定装置

【課題】ドライバモニタカメラから取得するドライバの視点方向と車外カメラから取得する障害物方向とを照合する際に、ドライバの視点方向の情報を安定化して、ドライバが障害物を認識していないとする誤判定を防止する車両制御システムを提供する。
【解決手段】車両制御システム10は、ドライバの視点方向を所定周期で検出するドライバモニタカメラ34fと、角度座標上でのドライバの視点移動速度を検出する視点クラスタ処理部31bと、ドライバの視点の注視期間を検出する視点同定処理部31cと、視点移動速度と注視期間に基づいて算出されるドライバの視野範囲に、車外カメラ32cで検出された障害物方向が含まれるか否かを判定し、ドライバの視野範囲に障害物方向が含まれないと判定された場合に車両制御の実行が可能な安全確認判定部31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバモニタカメラで取得するドライバの視点方向と車外カメラで取得した障害物方向とを照合して、当該照合の結果に基づいて各種の車両制御を行う車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドライバモニタカメラ等の車内カメラにより検出されるドライバの視点方向と車外カメラやナビ情報等から検出される障害物方向とを同一座標系上で照合(オーバレイ)して、ドライバが障害物を認識しているか否かを判断するシステムが用いられている。
【0003】
このシステムにおいては、例えば、超広角CCDカメラ等の車外カメラで撮像されるドライバ前方の映像とドライバモニタカメラで撮像されるドライバの顔画像とを専用PCを用いて組み合わせて、ドライバの視点方向が前景映像の何処と交差するか演算し、その位置を車外カメラの映像上にオーバレイする。そして、危険な障害物がドライバの視線外に検出できた場合には警告やブレーキ等の車両制御を行う。
【0004】
ところで、交差点等において歩行者等の確認の警告が必要な場合にのみ警告を行って運転者の運転を支援することが可能な運転支援装置が提供されている(例えば、特許文献1参照)。この運転支援装置においては、自車両の進行方向前方の交差点にある地物情報と、カメラECUを介して取得した運転者の顔向き及び視点方向の検出信号とに基づいて、運転者が交差点における各地物を認識していないと判定した場合に警告を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−123443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のシステムにおいては、ドライバが障害物を認識しているか否かをドライバモニタカメラから取得したドライバの視点方向と車外カメラで取得する障害物方向とを照合して判断するだけなので、以下の問題がある。
【0007】
すなわち、(I)図2に示すように、通常ドライバが運転中に認識できる視野範囲201には視野中心から一定の角度幅を有しているが、上記従来のシステムにおいては、ドライバの視点方向と車外カメラからの障害物方向とが、ほぼ一致しないとドライバが障害物を認識していないと判定する。このため、従来のシステムにおいては、ドライバが実際に障害物を認識している場合でも認識していないと誤判定するという問題がある。
【0008】
また、(II)図4(a)の視点(黒点で示す)の動きに示すように、人間の眼球は実際には例えば毎秒80回程度、約10μm縦方向にトレモアと呼ばれる微動をしている状態であり、視線の動きは、トレモアによる細かな微動と、視対象物の変化による大きな移動からなる。そして、上記の従来のシステムにおいては、トレモアによる細かな視点移動を忠実に視点方向として検出してしまい、このためドライバの視線情報が安定せず、障害物の認識判定精度が不安定となり誤判定を生じて、ひいては誤った警報の吹鳴や不吹鳴を繰り返してしまうという問題もある。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであり、車外カメラで取得した障害物方向とドライバモニタカメラで取得するドライバの視点方向とを照合する際に、ドライバの視点方向の情報を安定化して、ドライバが障害物を認識しているのに認識していないと誤判定することを防止して、より正確な照合結果に基づいてドライバの安全を確認する安全確認判定装置、及び当該照合結果に基づいて車両制御を行う車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本発明に係る車両制御システムは、ドライバモニタカメラを用いて検出されるドライバの視点方向と、車外カメラを用いて検出される障害物方向とを照合し、当該照合の結果を用いて車両制御を行う車両制御システムであって、ドライバの視点方向を所定周期で検出する視点検出手段と、角度座標上でのドライバの視点移動速度を検出する視点移動速度検出手段と、ドライバの視点の注視期間を検出する注視期間検出手段と、上記視点移動速度と上記注視期間に基づいて算出されるドライバの視野範囲に、上記車外カメラで検出された障害物方向が含まれるか否かを判定する安全確認判定手段と、上記安全確認判定手段において、ドライバの上記視野範囲に上記障害物方向が含まれないと判定された場合に車両制御の実行が可能な電子制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
この構成により、車外カメラで取得した障害物方向とドライバモニタカメラで取得するドライバの視点方向とを照合する際に、上記安全確認判定手段は、上記視点移動速度検出手段において検出される視点移動速度と、上記注視期間検出手段において検出される注視期間との情報を用いてドライバの視野範囲を特定して、ドライバが障害物を認識しているか否かを判定できる。このため、本発明では、ドライバが障害物を認識しているのに認識していないと誤判定することを防止して、より正確な照合結果に基づいて車両制御を行うことができる。
【0012】
また、本発明に係る車両制御システムは、さらに、上記視点移動速度検出手段で検出される上記視点移動速度が閾値未満の場合には上記視点を注視点として記録する一方、上記視点移動速度が閾値以上の場合には、以前に記録された連続する複数の注視点を含む範囲を1つの視野範囲とするクラスタを生成する視点クラスタ生成手段を備え、上記電子制御手段は、上記視点クラスタ生成手段において生成されたクラスタに対応したドライバの視野範囲に、上記車外カメラで検出された障害物方向が含まれない場合に車両制御を実行可能とすることを特徴とする。
【0013】
この構成により、上記安全確認判定手段は、視点が上記視点クラスタ手段において生成された同一クラスタ内である場合には、ドライバは同一視野範囲を認識していると判定することが可能とり、ドライバの視点方向を安定化することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両制御システムは、さらに、上記視点クラスタ生成手段においてクラスタが生成された場合、上記視点移動速度が閾値以上の視点の注視期間を検出して、当該注視期間が閾値以下の場合には、当該生成されたクラスタの記録を削除する一方、上記注視期間が閾値以上の場合には、当該生成されたクラスタと当該視点を含む新たなクラスタを生成してドライバの視野範囲の同定処理を行う視点同定処理手段を備え、上記電子制御手段は、上記視点同定処理手段において生成された上記新たなクラスタに対応するドライバの視野範囲内に、上記車外カメラで検出される障害物方向が含まれない場合に車両制御を実行可能とすることを特徴とする。
【0015】
この構成により、上記視点同定手段は、上記注視期間検出手段で検出される注視期間の閾値を用いることで、視点移動速度が閾値以上の視点の動きがある場合でも、ドライバが同一物体を認識しているとする新たなクラスタを生成し、このクラスタに基づいてドライバの視点方向を安定化することができる。
【0016】
また、本発明に係る車両制御システムは、さらに、上記視点検出手段において所定周期で視点が検出されたか否かを判定し、所定周期での視点検出にトラッキングエラーが発生している場合には1つ前に取得した視点データが注視点か否かを判定し、注視点の場合には当該注視点のデータを使用し、注視点でない場合にはトラッキングエラー発生時の視点データをないものとするトラッキングエラー補正手段を備えることを特徴とする。
【0017】
この構成により、上記トラッキングエラー補正手段は、車両環境によりドライバの視点情報にトラッキングエラーが発生した場合でも、以前の注視点のデータを使用する等できるためトラッキングエラーが発生しても補正処理を行うことができる。
【0018】
なお、本発明に係る車両制御システムを構成する処理手段をステップとする車両制御方法として実現したり、それらステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムをDVD、CD−ROM等の記録媒体や通信ネットワーク等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る車両制御システムでは、車外カメラで取得した障害物方向とドライバモニタカメラで取得するドライバの視点方向とを照合する際、ドライバモニタカメラで取得するドライバの視点方向の情報を安定化して、ドライバが障害物を認識しているのに認識していないと誤判定することを防止して、より正確な照合結果に基づいて各種の車両制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態に係る車両制御システムの全体図
【図2】一般的な運転中におけるドライバの視野範囲の一例を示す図
【図3】実施の形態に係る車両制御システムの機能ブロック図
【図4】実施の形態に係る安全確認判定部における視点安定化処理の説明図
【図5】実施の形態に係る車両制御システムの全体の動作手順を示すフローチャート
【図6】ステップS11に示すトラッキングエラー補正時の動作手順を示すフローチ ャート
【図7】ステップS12に示す視点クラスタ処理時の動作手順を示すフローチャート
【図8】ステップS13に示す視点同定処理時の動作手順を示すフローチャート
【図9】視点同定処理におけるクラスタの別の形態を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る車両制御システム及び安全確認判定装置の実施の形態に関して、図面を参照しながら説明を行う。
【0022】
(実施の形態)
図1は、本実施の形態に係る車両制御システム10の全体図を示している。
車両制御システム10は、ドライバモニタカメラ101を用いてドライバ100の視点方向を取得し、また、車外カメラ102を用いて前方画像から所定領域104の障害物103と車両との相対方向を取得する。
【0023】
そして、図1(b)に示すように、車両制御システム10は、ドライバ100の視点中心106から所定の角度幅を有する視野範囲105に障害物103が存在するか否かでドライバの安全確認状態を判定し、障害物103がドライバの視野範囲105内で認識されていない場合には、警報や自動ブレーキ等の各種の車両制御を実施するものである。
【0024】
図2は、一般的な運転中におけるドライバの視野範囲201の一例を示す図であり、ドライバが運転中に前方障害物を正確に認識できる視野範囲201は、例えば視野中心から略±5〜20度(但しドライバの意識状態で変化する)の角度幅を有する楕円形状となる。
【0025】
図3は、本実施の形態に係る車両制御システム10の機能ブロック図を示す。
【0026】
車両制御システム10においては、安全確認判定部31(特許請求の範囲の安全確認判定装置に該当)、環境情報獲得部32、警報通知部33、及び運転情報獲得部34が互いにバスを介して接続されている。
【0027】
環境情報獲得部32は、車両周辺の各種の環境情報を取得して安全確認判定部31に送信する処理部であり、GPS(Global Positioning System)情報を取得するGPS情報取得部32a、道路に関する地図情報が記録された道路データベース32b、車体のフロントガラスの上部付近に設けられたCCD(charged coupled device)カメラ等の車外カメラ32c、及び前方や側方の障害物までの距離を測定する距離測定機能や障害物に対する速度を測定する速度測定機能を備えたミリ波レーダ等のレーダ32dを備えている。
【0028】
警報通知部33は、安全確認判定部31から車両制御が必要な場合に送信される信号を受信した場合に、ドライバに対して所定の警告を表示する液晶パネル等の表示部であるディスプレイ33a、及び警告音を発するスピーカ33bを備えている。
【0029】
運転情報獲得部34は、ドライバの運転情報を取得して安全確認判定部31に送信する処理部であり、車速信号を取得する車速センサ34a、アクセルペダル信号を取得するアクセルセンサ34b、例えば磁気ロータの回転による磁気の変化を検出するブレーキセンサ34c、運転者がハンドルを切った時の前輪の操舵角を感知する舵角センサ34d、左右方向のシグナル信号を取得するターンシグナルセンサ34e、ドライバの視点方向を検知するドライバモニタカメラ34fを備えている。
【0030】
安全確認判定部31は、環境情報獲得部32及び運転情報獲得部34から取得した情報に基づいて、ドライバの視点方向と車外カメラ32cにおいて撮像された障害物方向とを同一座標系上に展開して車両制御を行うか否かの判定を行う。
【0031】
また、この安全確認判定部31は、トラッキングエラー補正部31a、視点クラスタ処理部31b、及び視点同定処理部31cを備え、ドライバモニタカメラ34fから取得するドライバの視点方向の安定化処理を行う。
【0032】
トラッキングエラー補正部31aは、ドライバモニタカメラ34fで所定間隔(例えば100ms)でのドライバの視線情報を正確に取得できているか否かの判定を行う。例えば、天気が良い場合に太陽光がドライバの眼鏡に反射すると反射角度によってはドライバモニタカメラ34fにおいてドライバの視点方向が検出できない。従って、このような場合に、トラッキングエラー補正部31aは、トラッキングエラーが発生したことを検知してドライバの視線データを補正する処理を行う。
【0033】
なお、ドライバモニタカメラ34fを用いたドライバの視点方向検出には、例えば、ドライバの瞳孔を抽出し易くするため近赤外線カメラを使用する。近赤外画像では、瞳孔は周囲に比べ最も輝度値が低い特徴を示す。従って、取得したドライバの画像情報を用いて瞳孔領域の画像からより正確な瞳孔中心の座標を求め、画像中の瞳孔中心座標と、眼球の表面に映り込んだ点光源の像の中心座標の位置関係からグローバル座標系における視点方向を算出することにより検出することができる。
【0034】
視点クラスタ処理部31bは、ドライバの所定周期で検出される検出された視点間の移動速度を検出して、この視点移動速度に基づいてドライバが同一物体を認識しているか否かを検出し、同一物体を認識していると判断される視野領域を「クラスタ」として取り込む処理を行う。
【0035】
視点同定処理部31cは、ドライバの視点が別の視点位置に移動していない注視している期間である注視期間を検出して、例えば、視点移動速度が所定値以上で素早く動いた場合でも、移動後の視点の注視期間が所定値以上であるならば、同一物体を認識している等、ドライバの視点の同定処理を行う。
【0036】
安全確認判定部31は、車外カメラ32cから取得する画像情報に基づいて進行方向の障害物方向を算出する。また、運転情報獲得部34のドライバモニタカメラ34fから取得する画像情報からトラッキングエラー補正部31a、視点クラスタ処理部31b、及び視点同定処理部31cを用いて視点方向が安定化処理されたドライバの視点方向を取得する。そして、安全確認判定部31は、当該障害物方向と当該視点方向とに基づいて、ドライバの視野範囲内に障害物があるか否かを判定する。
【0037】
また、安全確認判定部31は、障害物がドライバの視野範囲外で所定距離よりも接近する等、ドライバが障害物に対して安全確認をしていないと判定する場合、ディスプレイ33aを用いて警告表示、若しくはスピーカ33bを用いてドライバに警告音を発するための制御信号を警報通知部33に送信する。
【0038】
図4は、本実施の形態に係る安全確認判定部31における視点安定化処理の説明図である。なお、本図に示す黒点は所定間隔で検出される視点の座標である。
【0039】
図4(a)は、視点クラスタ処理部31bにおいて生成されたクラスタ401、クラスタ402、クラスタ403、及びクラスタ404を示している。本図では、視点移動速度の大きな動きである「サッカード405〜407」による移動により、1つの視野範囲であるクラスタ401〜404が生成される。そして、本発明では、同一クラスタ内ではドライバは同一の視野範囲を認識していると判定して、ドライバの視点方向を安定化できる。
【0040】
図4(b)は、ドライバの視点の動きとクラスタ410の関係を示し、安全確認判定部31は、視点が同一クラスタ410内である場合には、ドライバは同一視野範囲を認識していると判定することが可能となる。
【0041】
図4(c)は、本実施の形態で定義する視点の素早い動きである「サッカード」の説明図である。クラスタ421の中心に開始点420が設定されると、クラスタ421中の視点2a、2b、2cは「注視点」としてラベルされる一方、クラスタ421外の視点2d、2eは視点の素早い動きに該当する「サッカード」としてラベルされる。
【0042】
図5(a)は、本実施の形態に係る車両制御システムの全体の動作手順を示すフローチャートである。
【0043】
最初に、安全確認判定部31は、ドライバモニタカメラ34fから取得するドライバの視点方向の安定化処理を行い(ステップS501)、また、安定化処理が施された後のドライバの視点方向及び車外カメラより前方の障害物方向を取得して同一座標系にオーバレイする処理を行う(ステップS502)。
【0044】
次に、安全確認判定部31は、ドライバの視野範囲に障害物があるか否かを判定して(ステップS503)、障害物が認識できていない危険な場合には(ステップS503でYES)、スピーカ33bを用いて警報を行う(ステップS504)。
【0045】
図5(b)は、ステップS501に示すドライバの視点方向の安定化処理における動作手順を示すフローチャートである。
【0046】
最初に、安全確認判定部31は、リアルタイムバッファに蓄積されたドライバの現在の視点データを読み込む(ステップS10)。
次に、トラッキングエラー補正部31aは、所定間隔で取得されるドライバの視点からトラッキングエラーを検出して補正処理を行う(ステップS11)。この詳細な動作手順は図6において説明する。
【0047】
そして、視点クラスタ処理部31bは、複数の視点情報を用いてクラスタを生成する処理を行う(ステップS12)。この詳細な動作手順は図7において説明する。
最後に、視点同定処理部31cは、ドライバが同一物体を認識しているか否かを判定して、ドライバの視点の同定処理を行う(ステップS13)。この詳細な動作手順は図8において説明する。
【0048】
図6は、ステップS11に示すトラッキングエラー補正時の動作手順を示すフローチャートである。
【0049】
最初に、トラッキングエラー補正部31aは、所定間隔で読み込まれるリアルタイムバッファのドライバの視点データから、視点データが取得できない「ミシングデータ」が検出されるか否かを判定する(ステップS601)。
【0050】
ここで、ミシングデータとは、例えば100ms毎に検出されるべきドライバの視点方向のデータが検出できない状態である。例えばドライバの視線データが取得できた場合にはtruck_status=0となり、取得できていない期間においてはtruck_status=1と定義されるために、トラッキングエラー補正部31aは、このtruck_statusの数値によりトラッキングエラーが発生しているか否かを検出できる。
【0051】
次に、トラッキングエラー補正部31aは、ミシングデータが検出されない正規の処理の場合には(ステップS601でNO)、ステップS12に示す視点クラスタ処理に移行する。
【0052】
一方、ミシングデータが検出された場合には(ステップS601でYES)、トラッキングエラー補正部31aは、1つ前に取得された視点が注視点であるか否かを判定する(ステップS602)。
【0053】
そして、1つ前の視点が注視点の場合には(ステップS602でYES)、トラッキングエラー補正部31aは、1つ前の注視点を今回の視点として使用する(ステップS604)。一方、1つ前の点が注視点でない場合には(ステップS602でNO)、トラッキングエラー補正部31aは、トラッキングエラーを無視して(ステップS603)、ステップS10に戻り、再度リアルタイムバッファ内におけるドライバの視点データの読み込み処理を行う。
【0054】
このように、トラッキングエラー補正部31aは、車両環境によりドライバの視点が検出されない場合、以前の注視点のデータを使用してトラッキングエラーが発生しても補正処理を行うことができる。
【0055】
図7は、ステップS12に示す視点クラスタ処理時の動作手順を示すフローチャートである。
【0056】
最初に、視点クラスタ処理部31bは、異なる視点間の移動速度である視点移動速度を検出して(ステップS701)、検出された視点移動速度が閾値未満か否かを判定する(ステップS702)。ここで、視点クラスタ処理部31bの視点移動速度の検出には角度座標系を用いて、例えば、サンプリング周波数が60Hzの場合、視点移動速度の閾値は2deg(=120deg/sec)、2.5deg(=150deg/sec)、3deg(=180deg/sec)等とする。また、サンプリング周波数の60Hzや視点移動速度の閾値は一例であり、本発明の内容がこれに限定されるものではない。
【0057】
次に、検出された視点移動速度が閾値以上の場合には(ステップS702でNO)、視点クラスタ処理部31bは、視点を素早い動きを意味する「サッカード」としてラベルして(ステップS703)、ステップS13に示す視点同定処理に移行する。
【0058】
一方、速度が閾値未満の場合には(ステップS702でYES)、視点クラスタ処理部31bは、眼が素早く動いていないために、「注視点」としてラベルしてリアルタイムバッファ内にデータを記録して(ステップS704)、再度ステップS10に戻り、リアルタイムバッファ内におけるドライバの視点データの読み込み処理を行う。
【0059】
図8は、ステップS13に示す視点同定処理時の動作手順を示すフローチャートである。
【0060】
最初に、視点同定処理部31cは、サッカードとラベルされた視点以前の複数の連続する注視点を同一クラスタ内として取り込む処理を行う(ステップS801)。
【0061】
次に、視点同定処理部31cは、サッカードとラベルされた視点の注視期間を検出して注視期間が閾値未満か否かを判定する(ステップS802)。ここで、閾値は、例えばサンプリング周波数が60Hzの時には、85〜100msとなる。すなわち、注視期間が100msの場合、視点が0.1秒以上注視している場合にはドライバが同一物体を認識しているとみなす。
【0062】
そして、視点同定処理部31cは、注視期間が閾値未満の場合には(ステップS802でYES)、ドライバは別の物体を認識したとして以前のクラスタ情報を削除する(ステップS803)。
【0063】
一方、注視期間が閾値以上の場合には(ステップS802でNO)、同一クラスタとして取り込み、クラスタの中心点及び注視期間を算出する(ステップS804)。すなわち本発明では、注視期間の閾値を用いることで、サッカードとラベルされる視点の動きがある場合でも、ドライバが同じ物体を認識しているとして、同じクラスタ内に視点を取り込むことができる。
【0064】
そして、視点同定処理部31cにおいて視点同定処理が終了したら再度ステップS10に戻り、リアルタイムバッファからドライバの視点データの読み込み処理が行われる。
【0065】
なお、図9は、視点同定処理におけるクラスタの別の形態を説明する図である。本図において視点同定処理部31cは、サッカードとラベルされた視点901の注視期間が長いために、中心点902とした新たなクラスタ900を作成する。そして、視点同定処理部31cは、クラスタ900内での視点の移動は同一物体を認識していると定義することができる。
【0066】
以上の説明のように、本発明に係る車両制御システム10において、視点クラスタ処理部31bは、視点移動速度に基づいて連続した注視点の範囲をクラスタとして決定し、安全確認判定部31は、車外カメラ32cで取得した障害物方向とドライバモニタカメラ34fで取得するドライバの視点方向とを用いた照合処理において、そのクラスタ内に障害物方向が一致すればドライバが障害物を認識していると判定することが可能となる。
【0067】
また、安全確認判定部31は、クラスタを用いることにより、細かな移動は同じ視点として扱って同一の視点方向とすることができ、視線情報を安定させ、照合判定も安定させることができる。従って、本発明に係る車両制御システム10では、車外カメラ32cで取得した障害物方向とドライバモニタカメラ34fで取得するドライバの視点方向とを用いた照合の認識判定精度を向上して、より正確に車両制御を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る車両制御システム及び安全確認装置は、例えば車両等の移動体に用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
10 車両制御システム
31 安全確認判定部
31a トラッキングエラー補正部
31b 視点クラスタ処理部
31c 視点同定処理部
32 環境情報獲得部
32a GPS情報取得部
32b 道路データベース
32c,102 車外カメラ
32d レーダ
33 警報通知部
33a ディスプレイ
33b スピーカ
34 運転情報獲得部
34a 車速センサ
34b アクセルセンサ
34c ブレーキセンサ
34d 舵角センサ
34e ターンシグナルセンサ
34f,101 ドライバモニタカメラ
100 ドライバ
103 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバモニタカメラを用いて検出されるドライバの視点方向と、車外カメラを用いて検出される障害物方向とを照合し、当該照合の結果を用いて車両制御を行う車両制御システムであって、
ドライバの視点方向を所定周期で検出する視点検出手段と、
角度座標上でのドライバの視点移動速度を検出する視点移動速度検出手段と、
ドライバの視点の注視期間を検出する注視期間検出手段と、
前記視点移動速度と前記注視期間に基づいて算出されるドライバの視野範囲に、前記車外カメラで検出された障害物方向が含まれるか否かを判定する安全確認判定手段と、
前記安全確認判定手段において、ドライバの前記視野範囲に前記障害物方向が含まれないと判定された場合に車両制御の実行が可能な電子制御手段とを備える
ことを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記車両制御システムは、さらに、
前記視点移動速度検出手段で検出される前記視点移動速度が閾値未満の場合には前記視点を注視点として記録する一方、前記視点移動速度が閾値以上の場合には、以前に記録された連続する複数の注視点を含む範囲を1つの視野範囲とするクラスタを生成する視点クラスタ生成手段を備え、
前記電子制御手段は、前記視点クラスタ生成手段において生成されたクラスタに対応したドライバの視野範囲に、前記車外カメラで検出された障害物方向が含まれない場合に車両制御を実行可能とする
ことを特徴とする請求項1記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記車両制御システムは、さらに、
前記視点クラスタ生成手段においてクラスタが生成された場合、前記視点移動速度が閾値以上の視点の注視期間を検出して、当該注視期間が閾値以下の場合には、当該生成されたクラスタの記録を削除する一方、前記注視期間が閾値以上の場合には、当該生成されたクラスタと当該視点を含む新たなクラスタを生成してドライバの視野範囲の同定処理を行う視点同定処理手段を備え、
前記電子制御手段は、前記視点同定処理手段において生成された前記新たなクラスタに対応するドライバの視野範囲内に、前記車外カメラで検出される障害物方向が含まれない場合に車両制御を実行可能とする
ことを特徴とする請求項2記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記車両制御システムは、さらに、
前記視点検出手段において所定周期で視点が検出されたか否かを判定し、所定周期での視点検出にトラッキングエラーが発生している場合には1つ前に取得した視点データが注視点か否かを判定し、注視点の場合には当該注視点のデータを使用し、注視点でない場合にはトラッキングエラー発生時の視点データをないものとするトラッキングエラー補正手段を備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項5】
ドライバモニタカメラを用いて検出されるドライバの視点方向と、車外カメラを用いて検出される障害物方向とを同一座標系上で照合してドライバの安全を判定する安全確認判定装置であって、
ドライバの視点方向を所定周期で検出する視点検出手段と、
角度座標上でのドライバの視点移動速度を検出する視点移動速度検出手段と、
ドライバの視点の注視期間を検出する注視期間検出手段と、
前記視点移動速度と前記注視期間に基づいて算出されるドライバの視野範囲に、前記車外カメラで検出された障害物方向が含まれるか否かを判定する安全確認判定手段とを備える
ことを特徴とする安全確認判定装置。
【請求項6】
ドライバモニタカメラを用いて検出されるドライバの視点方向と、車外カメラを用いて検出される障害物方向とを照合し、当該照合の結果を用いて車両制御を行う車両制御方法であって、
ドライバの視点方向を所定周期で検出する視点検出ステップと、
角度座標上でのドライバの視点移動速度を検出する視点移動速度検出ステップと、
ドライバの視点の注視期間を検出する注視期間検出ステップと、
前記視点移動速度と前記注視期間に基づいて算出されるドライバの視野範囲に、前記車外カメラで検出された障害物方向が含まれるか否かを判定する安全確認判定ステップと、
前記安全確認判定ステップにおいて、ドライバの前記視野範囲に前記障害物方向が含まれないと判定された場合に車両制御の実行が可能な電子制御ステップとを含む
ことを特徴とする車両制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−262478(P2010−262478A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112781(P2009−112781)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】