説明

車両前部構造

【課題】 フードパネル上に印加された衝撃荷重に対する衝撃吸収性能をより高くする。
【解決手段】 ヒンジアーム1は、表裏面が略車幅方向を指向する姿勢でヒンジブラケット6に回動可能に支持される主壁部1aと、主壁部1aの上端縁から車幅方向内側に張り出すフード取付壁部1bと、を備える。一方、フードリッジレインフォース3とダッシュサイドパネル2との接合部としてのフードリッジフランジ4は、上方に張り出しつつ略車両前後方向に延設される。かかる構成において、ヒンジアーム1の主壁部1aを、フードリッジフランジ4に対して車幅方向にオフセットさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両前部構造として、エンジンルームの側縁を形成する骨格部材の後部にヒンジブラケットを取り付ける一方、フードパネル後部の側縁部にヒンジアームを取り付け、このヒンジブラケットにヒンジアームを回動可能に取り付けることで、フードパネルがエンジンルームの上側開口を開閉可能に閉塞するようにしたものが知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−337744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の車両前部構造では、フードパネル上に印加された衝撃荷重に対して衝撃吸収性能を備えているのが望ましく、特許文献1では、ヒンジブラケットの取付面に改良を加えることで、衝撃吸収性能の向上を図っている。かかる構造によっても、比較的高い衝撃吸収性能を得ることができる。しかしながら、衝撃吸収性能は、より高いほど望ましく、発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ヒンジアームやヒンジブラケット等の構造に改良を加えることで、比較的簡素な構成で衝撃吸収性能を高めることができる構造を見出した。
【0004】
すなわち、本発明は、車両前部構造において、フードパネル上に印加された衝撃荷重に対する衝撃吸収性能をより高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にあっては、車両前部のエンジンルームの側縁を形成する骨格部材の後部にヒンジブラケットを取り付ける一方、エンジンルームの上側開口を開閉可能に閉塞するフードパネルの後部かつ側縁部にヒンジアームを取り付け、該ヒンジブラケットにヒンジアームを回動可能に取り付けた車両前部構造において、ヒンジアームは、表裏面が略車幅方向を指向する姿勢でヒンジブラケットに回動可能に支持される主壁部と、当該主壁部の上端縁から車幅方向内側に張り出すフード取付壁部と、を備え、エンジンルーム後部の側方で、フードリッジレインフォースとダッシュサイドパネルとの接合部としてのフードリッジフランジが、上方に張り出しつつ略車両前後方向に延設され、上記ヒンジアームの主壁部を、上記フードリッジフランジに対して車幅方向にオフセットさせたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フードパネルに上方から衝撃荷重が印加して、フードパネルが下方に変形するときに、ヒンジアームの主壁部とフードリッジフランジとが相互に干渉するのを抑制することができる分、フードパネルの下方への変形ストロークを増大させることができ、もって、衝撃吸収性能をより一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる車両前部構造の一部を示す斜視図(フードパネルやカウルトップカバー等が取り外された状態で、エンジンルーム内の後方の隅部を示す斜視図)、図2は、車両前部構造の一部を示す側面図、図3は、車両前部構造の一部を示す平面図、図4は、車両前部構造の断面図(図2のA−A断面図)、図5は、車両前部構造の別の断面図(図2のB−B断面図)、図6は、車両前部構造に含まれるヒンジブラケットの斜視図、図7は、フードパネル上に衝撃荷重が印加された場合に車両前部構造が変形する様子を示す図である。なお、以下の実施形態では、車両左側の構成についてのみ説明するが、右側についても同様(左右対称)の構成で具現化することができる。また、図中、FRは車両前後方向前方を、INは車幅方向内方を示す。
【0008】
フードパネル9(図2)は、ヒンジ機構を介して車体に取り付けられており、エンジンルームの上側開口を開閉可能に閉塞する。
【0009】
ヒンジ機構は、本実施形態では、ヒンジブラケット6、ヒンジアーム1、およびヒンジピン8から構成されている。
【0010】
このうち、ヒンジブラケット6は、例えば鋼板を折り曲げ成形等することで構成することができ、フードリッジレインフォース3の上面にボルト13によって固定される底壁部6bと、底壁部6bの車幅方向内側の側縁から上方に伸びる縦壁部6fと、を備える。
【0011】
縦壁部6fは、上下方向に伸びる上側部分6eおよび下側部分6cと、それらの間で上側に向かうにつれて車幅方向内側に傾斜する中間部分6dとを有している。すなわち、縦壁部6fは、正面視で略S字状に屈曲し、上側部分6eは、下側部分6cに対して車幅方向の内側に距離x1(図3)だけオフセットしている。そして、この上側部分6eに車幅方向に伸びる姿勢でヒンジピン8が取り付けられる。ヒンジアーム1は、このヒンジピン8を介してヒンジブラケット6に回動可能に支持される。
【0012】
なお、このヒンジブラケット6では、中間部分6dから後方かつ内方に細長く伸びるアーム6aが形成されており、このアーム6aに、フロントフェンダ7の車幅方向内側端縁から下方かつ内方に伸びるアーム7aが取り付けられる。すなわち、本実施形態では、ヒンジブラケット6を、フロントフェンダ7を固定するためのブラケットとしても用いている。なお、6gは、取付用の貫通孔、6hは、取付用のナットである。
【0013】
一方、ヒンジアーム1は、例えば鋼板を折り曲げ成形等することで構成することができ、表裏面が略車幅方向を指向する姿勢で細長く伸びてヒンジブラケット6に回動可能に支持される主壁部1aと、主壁部1aの上端縁から車幅方向内側に張り出すフード取付壁部1bと、を備える。
【0014】
主壁部1aは、フードパネル9の開放時に他部品との干渉を避けるべく下方に凸となるように側面視で略U字状に湾曲させた部分を有するとともに、その前方に直線状部分を連設してなるものであり、当該略U字状部分の後端部がヒンジブラケット6に回動可能に支持される一方、直線状部分の上端縁を車幅方向内側に折り曲げるようにしてフード取付壁部1bが形成される。
【0015】
フード取付壁部1bには、前後方向に間隔をあけて二つのフード取付孔1cが形成され、このうち、後側(ヒンジピン8に近い側)のフード取付孔1cの形成部分が上に凸となるように隆起されてエンボス部1dが構成されている。
【0016】
フードパネル9は、少なくとも取付部においては二重構造を備えており、当該二重構造の内側(下側;エンジンルーム側)のフードインナ9aに、ボルト11およびナット(図示せず)を用いてフード取付壁部1bが固定される。さらに、この部分には、フードヒンジレインフォース10を設け、取付部の剛性向上を図っている。
【0017】
上述したように、エンボス部1dが形成されることで、フード取付壁部1bは前後に段差を有する形状となっているため、これに当接するフードインナ9aも段差を有する形状となっている。ここで、フードインナ9aの後縁部は、図2に示すように傾斜しており、段差はその傾斜部分の中途位置に形成されている。すなわち、かかる構成により、ヒンジアーム1の取付点は傾斜部分の中途に位置することになるが、この位置は、段差を形成せずにヒンジアーム1の取付点をフードインナ9aの傾斜部より前側の平坦面に形成した場合に比べると、より後方(フードパネル9の後縁側;すなわちヒンジピン8の軸心に近い側)の位置となる。
【0018】
一方、本実施形態では、図1や図4、図5に示すように、エンジンルーム後部の側方で、フードリッジレインフォース3とダッシュサイドパネル2との接合部としてのフードリッジフランジ4が、上方に張り出しつつ略車両前後方向に延設されている。すなわち、ダッシュサイドパネル2は、インストルメントパネルの側方(ダッシュ側部)からエンジンルーム後部まで延設され、このフードリッジフランジ4において、エンジンルームの側縁で車両前後方向に伸びる骨格部材としてのフードリッジレインフォース3に、スポット溶接等で接合されている。なお、5は、サスペンションタワー、5aは、その上面(取付面)である。
【0019】
また、本実施形態では、図5に示すように、エンジンルーム後部の上方に設けられるカウルトップカバー12の側縁部が、フードリッジフランジ4の上端縁の上側に近接して、その上端縁より車幅方向外側まで延設されている。
【0020】
ここで、本実施形態では、図4に示すように、ヒンジアーム1の主壁部1aを、フードリッジフランジ4に対して車幅方向の外側に距離x2だけオフセットさせるとともに、図5に示すように、カウルトップカバー12の車幅方向端部に対しても車幅方向の外側に距離x3だけオフセットさせている。
【0021】
以上の本実施形態により、フードパネル9上に印加された衝撃荷重に対する衝撃吸収性能をより高くすることができる。
【0022】
すなわち、まず、上述したように、本実施形態では、ヒンジアーム1の主壁部1aを、フードリッジフランジ4に対して車幅方向(の外側)に距離x2だけオフセットさせている。このため、フードパネル9に上方から衝撃荷重が印加して、当該フードパネル9が下方に変形するときに、ヒンジアーム1の主壁部1aとフードリッジフランジ4とが相互に干渉するのを抑制することができる。よって、フードパネル9の下方への変形ストロークをより増大することができ、この分、衝撃吸収性能を高めることができる。
【0023】
また、本実施形態では、カウルトップカバー12の車幅方向端部に対して車幅方向の外側に距離x3だけオフセットさせている。このため、フードパネル9に上方から衝撃荷重が印加して、当該フードパネル9が下方に変形するときに、ヒンジアーム1の主壁部1aとカウルトップカバー12とが相互に干渉するのを抑制することができる。よって、フードパネル9の下方への変形ストロークをより増大することができ、この分、衝撃吸収性能を高めることができる。
【0024】
さらに、主壁部1aをより車幅方向外側に配置した分、当該主壁部1aによって支持されるフードパネル9の側縁、すなわち当該側縁とフロントフェンダ7の内縁との間のパーティングライン30を、より車幅方向外側に容易に配置できるようになり、造形上の自由度が増大するという利点もある。
【0025】
また、本実施形態では、縦壁部6fの上側部分6eを下側部分6cに対して距離x3だけ車幅方向(の内側)にオフセットした位置で、当該縦壁部6fを屈曲させている。このため、縦壁部6fは、図7に示すように、フードパネル9に上方から物体20が衝突し、衝撃荷重が印加された場合に、車幅方向(の内側)に倒れ込みやすくなる。よって、フードパネル9が斜め下方に移動する分、変形ストロークをより大きく確保することができる上、当該フードパネル9の車幅方向内側への曲げが大きくなる分、衝撃吸収性能を高めることができる。
【0026】
また、本実施形態では、上述したように、ヒンジアーム1のフード取付壁部1bに上に凸のエンボス部1dを形成し、このエンボス部1d上にフードパネル9を取り付けた分、当該エンボス部1dのフードパネル9に対する取付位置を、よりヒンジピン8側に近付けることができる。こうすることで、フードパネル9の回動中心(ヒンジピン8の中心)からフードパネル9の取付位置までのモーメントアームの長さを短くすることができる上、ヒンジアーム1のフード取付壁部1bの曲げ剛性を向上することができ、もって、フードパネル9やヒンジアーム1の共振周波数(固有振動数)を高くして、振動や音を低減することができる。
【0027】
また、本実施形態では、縦壁部6fから細長くかつ屈曲させたアーム6aを伸ばし、このアーム6aにフロントフェンダ7を取り付けている。こうすることで、フードパネル9に上方から衝突荷重が印加された場合には、縦壁部6fより剛性の低いアーム6aをより大きく(伸長するように)変形させ、フロントフェンダ7によって縦壁部6fの屈曲が規制されるのを抑制することができる。
【0028】
また、本実施形態では、図7に示すように、フードパネル9に上方から物体20が衝突し、衝撃荷重が印加された場合に、ヒンジブラケット6は車幅方向内側に倒れ込むため、フードパネル9に伴ってヒンジアーム1の主壁部1aも下方に移動しながら車幅方向内側に距離Wだけ移動することになるが、このように変形した状態においても主壁部1aとフードリッジフランジ4とが干渉しないように、距離x1〜x3を含む各部のスペックを設定しておくのが好適である。すなわち、上方からの衝撃荷重によって各部が変形した場合、フードリッジフランジ4およびカウルトップカバー12には、ヒンジアーム1の主壁部1aではなく、フード取付壁部1bを当接させるように構成するのが好適である。
【0029】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。例えば、部材同士をオフセットさせる方向は、車幅方向外側でも内側でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態にかかる車両前部構造のフードパネルを取り外した状態の斜視図(フードパネルやカウルトップカバー等が取り外された状態で、エンジンルーム内の後方の隅部を示す斜視図)。
【図2】本発明の実施形態にかかる車両前部構造の一部を示す側面図。
【図3】本発明の実施形態にかかる車両前部構造の一部を示す平面図。
【図4】本発明の実施形態にかかる車両前部構造の断面図(図2のA−A断面図)。
【図5】本発明の実施形態にかかる車両前部構造の別の断面図(図2のB−B断面図)。
【図6】本発明の実施形態にかかる車両前部構造に含まれるヒンジブラケットの斜視図。
【図7】フードパネル上に衝撃荷重が印加された場合に本発明の実施形態にかかる車両前部構造が変形する様子を示す図。
【符号の説明】
【0031】
1 ヒンジアーム
1a 主壁部
1b フード取付壁部
1d エンボス部
2 ダッシュサイドパネル
3 フードリッジレインフォース
4 フードリッジフランジ
6 ヒンジブラケット
6b 底壁部
6f 縦壁部
6c 下側部分(縦壁部の下部)
6e 上側部分(縦壁部の上部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部のエンジンルームの側縁を形成する骨格部材の後部にヒンジブラケットを取り付ける一方、エンジンルームの上側開口を開閉可能に閉塞するフードパネルの後部かつ側縁部にヒンジアームを取り付け、該ヒンジブラケットにヒンジアームを回動可能に取り付けた車両前部構造において、
ヒンジアームは、表裏面が略車幅方向を指向する姿勢でヒンジブラケットに回動可能に支持される主壁部と、当該主壁部の上端縁から車幅方向内側に張り出すフード取付壁部と、を備え、
エンジンルーム後部の側方で、フードリッジレインフォースとダッシュサイドパネルとの接合部としてのフードリッジフランジが、上方に張り出しつつ略車両前後方向に延設され、
前記ヒンジアームの主壁部を、前記フードリッジフランジに対して車幅方向にオフセットさせたことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
エンジンルーム後部の上方に設けられるカウルトップカバーの側縁部が、前記フードリッジフランジの上端縁の上側に近接して、その上端縁より車幅方向外側まで延設され、
前記ヒンジアームの主壁部を、前記カウルトップカバーの車幅方向端部に対して車幅方向外側にオフセットさせたことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記ヒンジブラケットは、骨格部材に固定される底壁部と、底壁部の車幅方向内側の側縁から上方に伸びてその上部で前記ヒンジアームの主壁部を回動可能に支持する縦壁部と、を備え、
前記縦壁部の上部が当該縦壁部の下部に対して車幅方向へオフセットした位置で、当該縦壁部を屈曲させたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記ヒンジアームのフード取付壁部に上に凸のエンボス部を形成し、このエンボス部上にフードパネルを取り付けたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一つに記載の車両前部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−297996(P2006−297996A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118398(P2005−118398)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】