説明

車両挙動制御装置

【課題】制駆動力限界付近においてもドライバの意図する車両の加減速性と旋回性を実現する各車輪の制駆動トルクを演算すること。
【解決手段】車両挙動情報、車両外界情報に基づいて車両の目標挙動制御量を演算する手段と、ドライバの加減速要求と旋回要求を検出し、これらをドライバ要求量として演算する手段と、目標挙動制御量とドライバ要求量から、目標加速度と目標ヨーモーメントを演算し、これらを実現するように各車輪の目標制駆動力を演算し、各車輪の制駆動トルクを制御する装置において、目標ヨーモーメントに対する目標加速度の優先度を加速度優先度として、ドライバ要求量と目標挙動制御量に基づいて演算し、各車輪に対し制駆動力上限値と下限値を演算する手段を備えて、少なくとも一輪の目標制駆動力が制駆動力上限値又は下限値を超える場合、制駆動力上限値と下限値、加速度優先度に基づいて各車輪の目標制駆動力を演算すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のスピンやドリフトアウトといった好ましからざる車両挙動を抑制する車両挙動制御装置における各車輪の制駆動力を演算する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、旋回中の車両挙動を制御する装置として、例えば特許文献1に開示されているように、実ヨーレイトと限界ヨーレイトとの偏差に応じた目標モーメントと目標前後力を達成するように各車輪の制動力を決定する車両の挙動制御装置が知られている。特許文献1に記載された制御装置では、各車輪の制動力限界により目標前後力と目標モーメントを達成することができない場合、車両の挙動がアンダステア状態かオーバステア状態かを判別し、その判別結果に基づいて、オーバステア状態にあると判別した場合には目標モーメントを達成するように目標前後力を変更し、アンダステア状態にあると判別した場合には目標前後力を達成するように目標モーメントを変更している。
【0003】
【特許文献1】特許第3303605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の各車輪に発生できる制駆動力には限界があり、この限界付近では制駆動力による車両の加減速性と、制駆動力により発生するヨーモーメントによる車両の旋回性とはトレードオフの関係にあるところ、特許文献1に記載された発明では、車両の挙動状態がアンダステア状態であるかオーバステア状態であるかにより、車両の加減速性と旋回性を変更している。この方法では、車両挙動のみに基づいて目標前後力と目標モーメントを決定し、それに基づいて車両の制動力制御量を決定しているため、ドライバの意図する加減速度と旋回性が十分反映されるとは限らない。例えばドライバが制動操作時にハンドル操作をし、アンダステア状態となった場合、特許文献1に記載された発明の制御方法では、旋回性よりも減速を優先するため、ドライバの意図する旋回性が得られないという問題が発生する。
【0005】
本発明は、上記の問題を課題として、制駆動力限界付近においてもドライバの意図する車両の加減速と旋回性を実現するよう各車輪の制駆動力を制御する装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、車両挙動情報及び/又は車両外界情報に基づいて車両の目標挙動制御量を演算する手段と、ドライバの車両進行方向の加減速要求及び旋回要求を検出し、該加減速要求及び該旋回要求をドライバ要求量として演算する手段と、各車輪の駆動力及び各車輪の制動力の少なくとも一方を制御する手段を備え、上記目標挙動制御量及び上記ドライバ要求量から、車両の目標加速度及び目標ヨーモーメントを演算し、該目標加速度と該目標ヨーモーメントを実現するように各車輪の目標制駆動力を演算し、該目標制駆動力に基づいて各車輪の制駆動トルクを制御する車両挙動制御装置において、該車両挙動制御装置は、上記目標ヨーモーメントに対する上記目標加速度の優先度を加速度優先度として、上記ドライバ要求量及び上記目標挙動制御量に基づいて演算し、各車輪に対し制駆動力上限値及び制駆動力下限値を演算する手段を備えて、少なくとも一輪の上記目標制駆動力が上記制駆動力上限値又は上記制駆動力下限値を超える場合、該制駆動力上限値、該制駆動力下限値及び上記加速度優先度に基づいて各車輪の上記目標制駆動力を演算することを特徴とするものである。
【0007】
また、請求項2の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項1に記載された発明の特徴に加えて、前記加速度優先度は、前記加減速要求又は前記目標加速度に基づいて作成される要求加速度の絶対値が所定の第1の閾値以下の時に最小値をとり、該要求加速度の絶対値が該第1の閾値より大きく、前記要求旋回度の絶対値が所定の第2の閾値以下の時に最大値をとり、前記要求加速度及び前記要求旋回度の大きさに基づいて、上記最小値及び上記最大値の間で連続的に変化する値をとることを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項3の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項2に記載された発明の特徴に加えて、前記加速度優先度の増加に応じて、車両に発生する加速度の絶対値が増加するように各車輪の前記目標制駆動力を演算し、前記目標制駆動力に基づいて各車輪の前記制駆動トルクを制御することを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項4の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項1に記載された発明の特徴に加えて、前記車両挙動情報及び/又は前記車両外界情報又は予め設定された補正値に基づいて、前記加速度優先度を補正することを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項5の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項1に記載された発明の特徴に加えて、車両に発生可能な限界加速度を求める手段と、該手段により求められた限界加速度又は限界減速度を前記加減速要求が超える場合、前記加減速要求を緩和する手段を備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項6の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項1に記載された発明の特徴に加えて、ブレーキペダルのストローク量及びブレーキペダル踏力及びマスタシリンダ圧の少なくとも一つを検出する第1の検出手段と、並びにアクセルペダルのストローク量及びアクセルペダル踏力の少なくとも一つを検出する第2の検出手段を備え、該第1の検出手段の検出量に基づいて作成される減速制御量又は該第2の検出手段の検出量に基づいて作成される加速制御量から、前記のドライバの車両進行方向の加減速要求を演算することを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項7の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項1に記載された発明の特徴に加えて、車輪と路面間の摩擦により発生可能な各車輪の最大制駆動力を求める手段と、各車輪に前記制駆動トルクを与えるアクチュエータにより発生可能な限界制駆動力を求める手段を備え、上記最大制駆動力及び/又は上記限界制駆動力に基づいて、各車輪の前記制駆動力上限値及び前記制駆動力下限値を演算することを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項8の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項7に記載された発明の特徴に加えて、各車輪の制駆動力変化に伴う車輪の横力変化に基づく補正係数を備え、該補正係数、前記加速度優先度、前記最大制駆動力及び前記限界制駆動力を基づいて、各車輪の前記制駆動力上限値及び前記制駆動力下限値を補正することを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項9の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項1に記載された発明の特徴に加えて、前記加速度優先度がその最大値である場合、車体に発生する加速度が、前記目標加速度となるように各車輪の制動トルクを制御し、前記加速度優先度がその最小値である場合、更に、前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と同方向である場合には、旋回内輪の制動トルクを制御し、他方、前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と逆方向である場合には、旋回外輪の制動トルクを制御して、旋回外輪の制駆動力と旋回内輪の制駆動力の差により車体に発生するヨーモーメントが前記目標ヨーモーメントとなるように制御することを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項10の記載によれば、本発明の車両挙動制御装置は、請求項1に記載された発明の特徴に加えて、前記加速度優先度がその最大値である場合、車体に発生する加速度が、前記目標加速度となるように各車輪の前記駆動トルクを制御し、前記加速度優先度がその最小値である場合、更に、前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と同方向である場合には、旋回外輪の駆動トルクを制御し、他方、前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と逆方向である場合には、旋回内輪の駆動トルクを制御して、旋回外輪の制駆動力と旋回内輪の制駆動力の差により車体に発生するヨーモーメントが前記目標ヨーモーメントとなるように制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、加減速を伴う旋回時、各車輪の制動力が限界付近の領域であっても、加速度優先度に基づいて各車輪の目標制駆動力を演算し、各車輪の制駆動トルクを制御することにより、加速度優先度に応じて車両の加減速性と旋回性を変更することができる。
【0017】
また、本発明が用いる加速度優先度は、要求加速度のみの場合、要求旋回度のみの場合、要求加速度と要求旋回度の両者がある場合の全ての条件において、最小値と最大値の間を連続的に変化する値として表すことができるので、車両の加速度と旋回度の配分を滑らかに変化させることを可能とし、ドライバの要求や状況に応じた適切な車両挙動を実現することができる。
【0018】
また、外界カメラやミリ波レーダのような外界センサからの情報を反映した制御をすることを可能とするものであるから、衝突回避に有効であるなど安全運転の実現に寄与する。更に、車種別や車両別に異なる特性に応じて加減速性と旋回性を初期設定すること可能とするものであり、特性の異なる制御装置を生産する必要がなく、コストの低下にも寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(制駆動力配分方法)
実施例の説明に先立ち、本発明の理解が容易になるよう、本発明における目標制駆動力の演算方法について説明する。
【0020】
図1に示すように、車両の前後方向ではその進行方向、車両の左右方向ではその右方向、そして車両の重心5周りのモーメントについては右回り方向を、それぞれ正とする。右方向に旋回する車両に対し、左前輪1、右前輪2、左後輪3、右後輪4のそれぞれに発生する制駆動力により、負の方向の目標加速度7(車両減速方向)と正の方向の目標ヨーモーメント6(車両旋回補助方向)を与える場合について考える。制駆動力により車両に目標加速度7と目標ヨーモーメント6を与えるとすると、図2に示す車両質量をm、トレッドをdとし、ホイールベースをゼロとした左右二輪の車両モデルにおいて、車両右側輪の目標制駆動力初期値8をFxwR0と、車両左側輪の目標制駆動力初期値9をFxwL0と、目標加速度7をXGreqと、目標ヨーモーメント6をMZreqとすると、車両右側輪の目標制駆動力初期値FxwR0と車両左側輪の目標制駆動力初期値FxwL0は、それぞれ以下の式で与えられる。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
ここにおいて、車輪に発生可能な制駆動力は、路面摩擦や制駆動トルクを車輪に与えるアクチュエータの制限等により、制駆動力の上限値と下限値が存在する。図3に示すように、車両右側輪制駆動力上限値10と車両右側輪制駆動力下限値11を、それぞれFxwRmax、FxwRminと、車両左側輪制駆動力上限値12と車両左側輪制駆動力下限値13を、それぞれFxwLmax、FxwLminとすると、車両右側輪の目標制駆動力初期値FxwR0が、車両右側輪制駆動力上限値FxwRmax若しくは車両右側輪制駆動力下限値FxwRminを超える場合、または車両左側輪の目標制駆動力初期値FxwL0が、車両左側輪制駆動力上限値FxwLmax若しくは車両左側輪制駆動力下限値FxwLminを超える場合、前記目標加減速7および前記目標ヨーモーメント6を同時に達成することはできない。図3(a)に示すように、仮に車両右側輪の目標制駆動力初期値FxwR0が上記下限値FxwRminを超えた量14をΔFxwR0とすると、上記初期値FxwL0をΔFxwR0だけ負の方向に増加させることにより目標加速度7を達成するか、図3(b)に示すように、上記初期値FxwL0をΔFxwR0だけ正の方向に増加させることにより目標ヨーモーメント6を達成するかを判断する指標が必要となる。そこで、本発明では、目標ヨーモーメントに対する目標加速度の優先度を示す加速度優先度を演算して判断指標としている。
【0024】
以下に、加減速要求の演算、加速度優先度の演算、制駆動力上限値および制駆動力下限値の演算、目標制駆動力の演算についての方法を、それぞれ示す。
【0025】
(1)加減速要求の演算
ドライバからの加減速要求は、図4に示すように、路面摩擦係数による車両の限界加速度に基づいて、減速制御量または加速制御量に対する加減速要求の変化量を緩和するように変化させる。これにより限界加速度に対し、加減速要求が過大となるのを防ぐことができる。なお、加減速要求の変化方法は、図4に示すマップを用いた方法に限定されるものではない。
【0026】
上記の(車両進行方向の)加減速要求は、例えば、ブレーキペダルのストローク量及びブレーキペダル踏力及びマスタシリンダ圧の少なくとも一つに基づいて作成される減速制御量、又はアクセルペダルのストローク量及びアクセルペダル踏力の少なくとも一つに基づいて作成される加速制御量から演算される。
【0027】
(2)加速度優先度の演算
上記の加減速要求または前記の目標加速度に基づいて作成される要求加速度、および、ドライバからの旋回要求もしくは上記の目標ヨーモーメントに基づいて作成される要求旋回度から、加速度優先度の演算を行う。
【0028】
ここでは、上記加減速要求を上記要求加速度とし、上記目標ヨーモーメント6を上記要求旋回度とする。要求加速度をFXG、要求旋回度をFMZとし、加速度優先度の最小値を0、その最大値を1、加速度優先度をKXGMZとすると、加速度優先度は以下の式で演算される。なお、要求加速度の絶対値が0である場合、要求加速度がないことから、加速度優先度を0とする。
【0029】
【数3】

【0030】
ここで上記の要求加速度の絶対値が所定の第1の閾値、例えば0.098m/s2以下である時、要求加速度が非常に小さいとして、上記の加速度優先度を0としてもよく、加速度優先度を0とする上記所定の閾値は限定されるものではない。
【0031】
また、上記の要求加速度の絶対値が所定の第1の閾値よりも大きく、上記の要求旋回度の絶対値が第2の閾値,例えば9.8Nm以下である時、要求旋回度が非常に小さいとして、上記の加速度優先度FXGMZを1としてもよい。なお、この第2の閾値の値は、例示であって、これに限定されるものではない。
【0032】
数3の式のように加速度優先度を与えた場合、加速度優先度KXGMZ は、要求加速度FXG と要求旋回度FMZの大きさに応じて0から1の間で変化し、要求加速度の絶対値が0である場合には加速度優先度は0となり、また、要求旋回度FMZが0で要求加速度がある値を持つ場合には加速度優先度は1となる。
【0033】
なお、上記の最小値と最大値は0と1に限定されるものではない。また上記の要求加速度と要求旋回度の作成方法および上記の加速度優先度の演算方法は、上述の方法に限定されるものではない。
【0034】
加速度優先度は、車両挙動情報及び/又は車両外界情報もしくは予め設定される補正値に基づいてこれを補正することができるものである。この補正方法としては、例えば図5に示すように、横軸を補正前の加速度優先度、縦軸を補正後の加速度優先度とする補正マップを用い、補正前の加速度優先度と0、1を結ぶ補正線との交点から、補正後の加速度優先度を求める。この方法では、図6において下に凸な補正線(図6(1)参照。)により、旋回優先となる加速度優先度が得られ、他方、上に凸な補正線(図6(2)参照。)により、加速度優先となる加速度優先度が得られる。また、0と1を通る直線の補正線(図6(3)参照。)を用いる場合には、補正なしの場合に相当する。この方法では、補正線を、予め設定しておくことだけでなく、車両挙動情報や車両外界情報に基づいて選択することにより、状況に応じた適切な補正が可能となる。例えば外界カメラやミリ波レーダのような外界センサからの情報に基づく衝突回避判断手段を備え、その判断結果により減速よりも旋回を優先するように判断された場合、上記の下に凸な補正線を用いることで、加速度優先度を旋回優先に補正することができる。また、予め補正線を設定する方法では、加速度優先度を車種別に適切に変更して設定することが可能となる。
【0035】
なお、ここで加速度優先度の補正方法としては、上述の方法に限らず、要求加速度FXG または要求旋回度FMZに補正ゲインかける方法であってもよい。
【0036】
(3)制駆動力上限値および制駆動力下限値の演算
車両右側輪制駆動力上限値FxwRmaxを右前輪2の制駆動力上限値と右後輪4の制駆動力上限値の合計値として与え、車両右側輪制駆動力下限値FxwRminを右前輪2の制駆動力下限値と右後輪4の制駆動力下限値の合計値として与える。同様に車両左側輪制駆動力上限値FxwLmaxを左前輪1の制駆動力上限値と左後輪3の制駆動力上限値の合計値として与え、車両左側輪制駆動力下限値FxwLminを左前輪1の制駆動力下限値と左後輪3の制駆動力下限値の合計値として与える。ここで各車輪の制駆動力上限値と制駆動力下限値を決定する指標として、車両と路面間の摩擦により各車輪に発生できる最大制駆動力がある。例えば、左前輪について、この最大制駆動力をFmax[FL]とし、車輪の路面摩擦係数と車輪にかかる荷重をそれぞれμ[FL]、WF[FL]とすると、最大制駆動力Fmax[FL]は以下の数4で演算される。他の車輪についても同様の演算により最大制駆動力を演算することができる。
【0037】
【数4】

【0038】
各車輪の制駆動力上限値と下限値は、数4の式を各車輪について適用して求めた最大制駆動力に加え、車輪に制駆動トルクを与えるアクチュエータの制限、車輪の制駆動力を増減させた時の車輪横力の増減等を考慮して作成されるので、数4の式により求められた最大制駆動力の値と必ずしも一致するとは限らない。
【0039】
アクチュエータによる制限としては、例えば制御可能なアクチュエータがブレーキのみの場合、アクチュエータにより駆動力を発生させることはできないため、駆動輪ではその時発生している駆動力が制御可能な制駆動力上限値となって、非駆動輪では制御可能な制駆動力上限値はゼロとなる。
【0040】
また、車輪横力の増減については、例えば旋回中に前輪の制駆動力のみを最大制駆動力まで増加させた場合、前輪の横力減少によって旋回方向のヨーモーメントが減少し、逆に後輪の制駆動力のみを最大制駆動力まで増加させた場合、後輪の横力減少によって旋回方向のヨーモーメントが増加する。そのため、制駆動力により目標ヨーモーメント6を発生させる際、目標ヨーモーメント6が旋回方向と同一(旋回補助方向)であれば、前輪の制駆動力を最大制駆動力よりも小さな値に設定することが望ましく、逆に目標ヨーモーメント6が旋回方向と逆(旋回抑制方向)であれば、後輪の制駆動力を最大制駆動力よりも小さな値に設定することが望ましい。
【0041】
目標加速度7を発生させる際、最大制駆動力に近い制駆動力が必要となる場合がある。例えば、左前輪1の制駆動力上限値と下限値をそれぞれFxwmax[FL]とFxwmin[FL]とし、アクチュエータにより左前輪1に発生可能な駆動力と制動力をそれぞれFdrv[FL]とFbrk[FL]とし、また車輪横力の増減を考慮した左前輪1の最大制駆動力補正係数をCadj[FL]とすると、左前輪1の制駆動力上限値Fxwmax[FL]と下限値Fxwmin[FL]は、以下の数5、6で演算される。他の車輪についても同様の演算により制駆動力上限値と下限値を演算することができる。
【0042】
【数5】

【0043】
【数6】

【0044】
ここで発生可能な駆動力と制動力は、アクチュエータにより決まる値であり、例えば制御可能なアクチュエータがブレーキのみの場合、各車輪でその時発生している駆動力がそれぞれ発生可能な駆動力となる。上記の最大制駆動力補正係数は、旋回条件により設定される値であり、例えば、アンダステア状態の車両を制御する際、車輪の制駆動力が前記の最大制駆動力の1/3であれば、横力の減少は5%程度に抑えられるため、各車輪の最大制駆動力補正係数を1/3に設定してもよい。これに対し、オーバステア状態の車両を制御する際、旋回外側前輪では制動力が大きいほどスピン抑制モーメントを発生できることから、旋回外側前輪の最大制駆動力補正係数を1に設定し、他方、旋回外側後輪では制動力の増加に伴うスピン抑制モーメントの増加と横力の減少によるスピン抑制モーメントの減少の関係から、旋回外側後輪の制動力により発生するスピン抑制モーメントが最大となるように、旋回外側後輪の最大制駆動力補正係数を設定してもよい。なお、各車輪の最大制駆動力補正係数は0以上1以下の値であればよく、上述の値に限定されるものではない。
【0045】
数5、6の式において、要求加速度と要求旋回度を考慮する項として、前記の加速度優先度を用いているが、この加速度優先度を用いず、要求加速度と要求旋回度に基づいて制駆動力上限値と下限値を演算する方法であればよい。
【0046】
(4)目標制駆動力の演算
右側輪目標制駆動力初期値FxwR0が右側輪目標制駆動力上限値FxwRmaxまたはその下限値FxwRminを超えた量をΔFxwR0と、左側輪目標制駆動力初期値FxwL0が左側輪目標制駆動力上限値FxwLmaxまたはその下限値FxwLminを超えた量をΔFxwL0とすると、これらの超過量ΔFxwR0とΔFxwL0は以下の数7、数8で演算される。
【0047】
【数7】

【0048】
【数8】

【0049】
本発明は、右側輪目標制駆動力初期値FxwR0と左側輪目標制駆動力初期値FxwL0を、それぞれ上記ΔFxwL0と上記ΔFxwR0および前記の加速度優先度に基づいて補正する。
【0050】
例えば、上述の図3に示す例について、以下、検討しよう。FxwR0のみがFxwRminを超えている場合、ΔFxwR0は負の値となりΔFxwL0はゼロとなる。この時、前記の加速度優先度が1であれば、FxwL0を上記のΔFxwR0だけ負の方向に増加させることで、車体に発生する加速度(減速度)を増加させる(図3(a)参照)。これに対し、前記の加速度優先度が0であれば、FxwL0をΔFxwR0だけ正の方向に増加させることで、車体に発生するヨーモーメントを増加させることとなる(図3(b)参照)。また、加速度優先度の増加に応じて、車体に発生する加速度(減速度)が増加するように、前記のFxwL0を負の方向に増加させる。
【0051】
右側輪目標制駆動力初期値FxwR0の補正量をΔFxwRと、左側輪目標制駆動力初期値FxwL0の補正量をΔFxwLとすると、ΔFxwRとΔFxwLは、前記の加速度優先度と上記のΔFxwR0と上記のΔFxwL0から、以下の数9、数10の数式で演算される。ただし、前記の目標加速度XGreqが負、かつ前記の目標ヨーモーメントMZreqが正、すなわち減速しながら右回りのヨーモーメントを発生させる場合、ΔFxwRが正の時にはこのΔFxwRが車輪駆動方向かつ左回りのヨーモーメントを発生させる方向であるため、ΔFxwRを0とする。また、前記の目標加速度XGreqが正、かつ前記の目標ヨーモーメントMZreqが負、すなわち加速しながら左回りのヨーモーメントを発生させる場合、ΔFxwRが負の時にはこのΔFxwRが車輪制動方向かつ右回りのヨーモーメントを発生させる方向であるため、ΔFxwRを0とする。同様に前記の目標加速度XGreqが負、かつ前記の目標ヨーモーメントMZreqが負、すなわち減速しながら左回りのヨーモーメントを発生させる場合、ΔFxwLが正の時にはこのΔFxwLが車輪駆動方向かつ右回りのヨーモーメントを発生させる方向であるため、ΔFxwLを0とする。また、前記の目標加速度XGreqが正、かつ前記の目標ヨーモーメントMZreqが正、すなわち加速しながら右回りのヨーモーメントを発生させる場合、ΔFxwLが負の時にはこのΔFxwLが車輪制動方向かつ左回りのヨーモーメントを発生させる方向であるため、ΔFxwLを0とする。
【0052】
【数9】

【0053】
【数10】

【0054】
また車両右側輪目標制駆動力をFxwR、車両左側輪目標制駆動力をFxwLとすると、前記FxwRおよび前記FxwLは、前記FxwR0、前記FxwL0および前記ΔFxwR、前記ΔFxwLから、以下の数11、数12で演算される。
【0055】
【数11】

【0056】
【数12】

【0057】
加速度優先度の数3の式によれば、|FXG|が|FMZ|よりも小さい条件では、加速度優先度KXGMZは0.5よりも小さい値となり、ΔFxwR0は前記のとおり負なので、数10の式が与えるΔFxwLが正の値となり、数12の式が与えるFxwLはFxwL0よりも正の方向に増加して、車両に発生するヨーモーメントが加速度優先度の減少に応じて増大する。他方、|FXG|が|FMZ|よりも大きい条件では、加速度優先度は0.5よりも大きい値となるので、数10の式が与えるΔFxwLが負の値となり、数12の式が与えるFxwLはFxwL0よりも負の方向に増加し、車両に発生する減速度が加速度優先度の増加に応じて増大する。
【0058】
また、車両右側輪目標制駆動力FxwRは、FxwR < FxwRminであるので、数11の式より、FxwRminとなる。
【0059】
車両右側輪目標制駆動力初期値FxwR0と車両左側輪目標制駆動力初期値FxwL0の前記加速度優先度による補正方法は、上記の式に限定されるものではなく、加速度優先度が増加するに応じて、各車輪の制駆動力により車体に発生するヨーモーメントの絶対値が減少し、車体に発生する加速度の絶対値が増加する方法であればよい。
【0060】
こうして得られた車両右側輪目標制駆動力FxwRを右前輪2と右後輪4に、車両左側輪目標制駆動力前記FxwLを左前輪1と左後輪3に、それぞれ各車輪の前記の制駆動力上限値または制駆動力下限値に比して配分することにより、各車輪の目標制駆動力を演算する。前輪と後輪への配分方法は、各車輪の制駆動力上限値または制駆動力下限値に比して配分する方法に限らず、前輪または後輪に優先して配分を行い、制駆動力上限値または制駆動力下限値を超えた分を他方の車輪に配分する方法であってもよい。
【0061】
ここでは、図3が示す例の車両右側輪目標制駆動力初期値FxwR0のみがその最小値FxwRminを超えている場合について説明したが、車両左側輪目標制駆動力初期値FxwL0のみがその最小値FxwLminを超えている場合についても同様に、数7から数10の式により車両右側輪目標制駆動力FxwRと車両左側輪目標制駆動力FxwLを演算することにより、車両に発生するヨーモーメントと減速度を前記の加速度優先度に応じて増減させることができる。
【0062】
以上のとおり、車両右側輪目標制駆動力初期値FxwR0、車両左側輪目標制駆動力初期値FxwL0を加速度優先度に応じて補正して車両右側輪目標制駆動力FxwRと車両左側輪目標制駆動力FxwLを演算することにより、加減速要求を反映した車両の旋回性と加減速性を実現することができる。
【0063】
(具体的実施例)
本発明に係る車両挙動制御装置における目標制駆動力演算の一実施例を示す。
【0064】
図7は、本発明に係る車両挙動制御装置における目標制駆動力演算の一実施例の構成図である。
【0065】
前後加速度ax、横加速度ay、車体速V、車輪速Vw、ヨーレイトγ、横すべり角βなどの車両挙動情報と、操舵角、加速制御量、減速制御量などのドライバ入力が、目標加速度・目標ヨーモーメント演算部15と目標制駆動力演算部16に入力される。前後加速度axと横加速度ayは加速度センサにより、車輪速Vwは車輪速センサにより、ヨーレイトγはヨーレイトセンサにより、それぞれ直接的にこれらの値が検出される。これに対して、車体速Vは車輪速Vwから推定される値である。横すべり角βは、数13の式が与える横すべり角速度β´を時間積分する手段により得られる値である。
【0066】
【数13】

【0067】
なお、上記の前後加速度axと上記の横加速度ayの検出手段としては、加速度センサによる手段だけでなく、外界センサ等を用いて絶対速度の時間変化を測定する手段であってもよく、特定の検出手段に限定されるものではない。また、上記の車体速Vの検出手段として、車輪速Vwから推定する手段だけでなく、外界センサ等を用いて直接車体速を測定する手段であってもよく、特定の検出手段に限定されるものではない。また、上記のヨーレイトγの検出手段としては、ヨーレイトセンサによる手段だけでなく、外界センサ等を用いてヨーレイトγを測定する手段であってもよく、特定の検出手段に限定されるものではない。上記の横すべり角βの検出手段としては、数13の式が与える横すべり角速度β´を時間積分する手段だけでなく、外界センサ等を用いて横すべり角βを測定する手段であってもよく、特定の検出手段に限定されるものではない。また、車両挙動情報としては、上記の前後加速度ax、横加速度ay、車体速V、車輪速Vw、ヨーレイトγ、横すべり角βに限定されるものではなく、例えば、車体前後速度Vx、車体横速度Vy、車体前後加加速度ax’、車体横加加速度ay’などを用いるものでもよく、特に限定されるものではない。
【0068】
また、上記の操舵角は、操舵角センサにより検出される。上記の加速制御量は、アクセルペダルのストロークセンサにより検出されるアクセルペダルストローク量とアクセルペダルの踏力センサにより検出されるアクセルペダル踏力の少なくとも一つおよび図示しないマップを用いて演算される。上記の減速制御量は、圧力センサにより検出されるブレーキマスタシリンダ圧、ブレーキペダルのストロークセンサにより検出されるブレーキペダルストローク量、ブレーキペダルの踏力センサにより検出されるブレーキペダル踏力の少なくとも一つおよび図示しないマップを用いて演算される。なお、上記の加速制御量は、アクセルペダルストローク量とアクセルペダル踏力の少なくとも一つに基づいて演算される値であればよく、マップによる方法に限定されるものではない。上記の減速制御量も、ブレーキマスタシリンダ圧、ブレーキペダルストローク量、ブレーキペダル踏力の少なくとも一つに基づいて演算される値であればよく、マップによる方法に限定されるものではない。
【0069】
目標加速度・目標ヨーモーメント演算部15では、車両に発生させる目標加速度と目標ヨーモーメントの演算を行う。目標加速度としては、上記の加速制御量と上記の減速制御量と図示しないマップを用いて演算される。なお、目標加速度としては、上記の車両挙動情報と上記の操舵角から車両がオーバースピードであると判断された場合、旋回に必要な加速度を演算し、その値を目標加速度としてもよい。ミリ波レーダや外界カメラのような外界センサからの情報に基づく衝突回避判断手段を備える場合、この衝突回避判断手段により衝突回避に必要な加速度を演算し、その値を目標加速度としてよいし、更に、これらの複数の手段により得られた加速度のうちで減速度が最も大きいものを目標加速度としてもよく、目標加速度の演算方法について特に限定されるものではない。
【0070】
目標ヨーモーメントは、上記の操舵角に基づいて作成された目標ヨーレイトと上記のヨーレイトγとの偏差から演算される。なお、この目標ヨーモーメントは、上記の横すべり角βと上記の横すべり角速度β´に基づいて演算された値であってもよく、その演算方法は特に限定されるものではない。目標加速度・目標ヨーモーメント演算部15で演算された目標加速度7、目標ヨーモーメント6は、目標制駆動力演算部16に送られる。
【0071】
目標制駆動力演算部16は、加減速要求演算部17、加速度優先度演算部18、制駆動力上下限値演算部19、目標制駆動力演算部20から構成され、上記のドライバ入力と上記の車両挙動情報と、目標加速度・目標ヨーモーメント演算部15で演算された上記の目標加速度と目標ヨーモーメント6に基づいて、各車輪の目標制駆動力を演算する。
【0072】
加減速要求演算部17では、前記の(1)加減速要求の演算の項で説明したとおり、減速制御量または加速制御量と図4に示すマップを用いて、加速度要求が演算される。加減速要求の演算方法は、減速制御量または加速制御量に基づいて作成される値であればよく、図4に示すマップを用いた方法に限定されるものではないことは前記したとおりである。加減速要求演算部17で演算された加速度要求は、加速度優先度演算部18に送られる。
【0073】
加速度優先度演算部18では、前記(2)加減速優先度の演算の項で説明したとおり、数3の式により演算された値を図6に示す補正マップにより補正することにより、加速度優先度を演算する。加速度優先度演算部18で演算された加速度優先度は制駆動力上下限値演算部19と目標制駆動力演算部20に送られる。
【0074】
制駆動力上下限値演算部19では、前記の(3)制駆動力上限値および制駆動力下限値の演算の項で説明したとおり、車輪−路面間の摩擦により各車輪に発生できる最大制駆動力、加速度優先度、制御可能なアクチュエータにより発生可能な駆動力または制動力、制駆動力の増減に伴う車輪横力の増減を考慮した最大制駆動力補正係数に基づいて、各車輪の制駆動力上限値と制駆動力下限値は、数5の式と数6の式から演算される。演算された各車輪の制駆動力上限値と制駆動力下限値は、目標制駆動力演算部20に送られる。
【0075】
目標制駆動力演算部20では、前記の(4)目標制駆動力の演算の演算の項で説明したとおり、数1の式または数2の式および数7から12の各式により、車両右側輪目標制駆動力FxwR、車両左側輪目標制駆動力FxwLを演算し、演算結果のFxwRを右前輪2と右後輪4に、同じくFxwLを左前輪1と左後輪3に、それぞれ各車輪の前記の制駆動力上限値または前記の制駆動力下限値に比して配分することで、各車輪の目標制駆動力を演算する。なお、前輪と後輪への配分方法については、各車輪の制駆動力上限値または制駆動力下限値に比して配分する方法に限らず、前輪または後輪に優先して配分を行い、制駆動力上限値または下限値を超えた分を他方の輪に配分する方法であってもよいことは前記のとりである。
【0076】
以上の方法により演算された各車輪の目標制駆動力に基づいて、各車輪に制駆動トルクを与えるアクチュエータを制御することにより、ドライバの加減速要求と旋回要求を配慮した車両の制駆動力の制御が可能となる。車輪に制駆動トルクを与えるアクチュエータとしては、車輪毎に取付けられたブレーキディスクにブレーキパッドを押付けることにより車輪に制動トルクを与えるもの、モータの回転トルクにより車輪に制駆動トルクを与えるものでもよく、特に限定されるものではない。
【0077】
また、各車輪に制駆動トルクを発生させるアクチュエータについては、図示しないマップを用いて目標制駆動力に対応する目標制駆動トルクを演算し、制駆動トルクが目標制駆動トルクとなるように該アクチュエータを制御する。各車輪に制駆動トルクを発生させるアクチュエータの制御方法としては、図示しないマップを用いて目標制駆動力に対応する目標車輪スリップ率を演算し、上記の車体速Vと上記の車輪速Vwにより得られる車輪スリップ率が目標スリップ率となるように制駆動トルクを制御する方法であってもよく、その他の方法でもよく、特に限定されるものではない。
【0078】
本発明では、上述のとおり、加速度優先度をブレーキペダル踏込み量に応じて変化させることができるため、目標加速度が限界加速度を超える制動旋回中であっても、ドライバは前記ブレーキペダル踏込み量を変化させることで、車両の旋回性、加減速性を変化させることができる。
【0079】
また本発明では、前記目標ヨーモーメントに対する前記目標加速度の優先度合いを前記加速度優先度として、前記目標制駆動力を演算する際の指標としているが、前記目標加速度に対する前記目標ヨーモーメントの優先度合いを旋回優先度として、前記目標制駆動力を演算する際の指標としても、同様の効果が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例を説明するための車両概念図である。
【図2】本発明の実施例におけるホイールベースをゼロとした車両概念図である。
【図3】本発明の実施例における制駆動力配分概念図である。
【図4】本発明の実施例における加減速要求の求め方を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例における加速度優先度の補正方法を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例における加速度優先度の補正方法を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例における目標制駆動力演算の構成図である。
【符号の説明】
【0081】
1…左前輪、2…右前輪、3…左後輪、4…右後輪、5…車両重心、6…目標ヨーモーメントMZreq、7…目標加速度XGreq、8…車両右側輪の目標制駆動力初期値FxwR0、9…車両左側輪の目標制駆動力初期値FxwL0、10…車両右側輪制駆動力上限値FxwRmax、11…車両右側輪制駆動力下限値FxwRmin、12…車両左側輪制駆動力上限値FxwLmax、13…車両左側輪制駆動力下限値FxwLmin、14…ΔFxwR0、15…目標加速度・目標ヨーモーメント演算部、16…目標制駆動力演算部、17…加減速要求演算部、18…加速度優先度演算部、19…制駆動力上下限値演算部、20…目標制駆動力演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両挙動情報及び/又は車両外界情報に基づいて車両の目標挙動制御量を演算する手段と、
ドライバの車両進行方向の加減速要求及び旋回要求を検出し、該加減速要求及び該旋回要求をドライバ要求量として演算する手段と、
各車輪の駆動力及び各車輪の制動力の少なくとも一方を制御する手段を備え、
上記目標挙動制御量及び上記ドライバ要求量から、車両の目標加速度及び目標ヨーモーメントを演算し、該目標加速度と該目標ヨーモーメントを実現するように各車輪の目標制駆動力を演算し、該目標制駆動力に基づいて各車輪の制駆動トルクを制御する車両挙動制御装置において、該車両挙動制御装置は、
上記目標ヨーモーメントに対する上記目標加速度の優先度を加速度優先度として、上記ドライバ要求量及び上記目標挙動制御量に基づいて演算し、
各車輪に対し制駆動力上限値及び制駆動力下限値を演算する手段を備えて、少なくとも一輪の上記目標制駆動力が上記制駆動力上限値又は上記制駆動力下限値を超える場合、該制駆動力上限値、該制駆動力下限値及び上記加速度優先度に基づいて各車輪の上記目標制駆動力を演算することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
請求項1の車両挙動制御装置において、前記加速度優先度は、
前記加減速要求又は前記目標加速度に基づいて作成される要求加速度の絶対値が所定の第1の閾値以下の時に最小値をとり、
該要求加速度の絶対値が該第1の閾値より大きく、前記要求旋回度の絶対値が所定の第2の閾値以下の時に最大値をとり、
前記要求加速度及び前記要求旋回度の大きさに基づいて、上記最小値及び上記最大値の間で連続的に変化する値をとることを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項3】
請求項2の車両挙動制御装置において、
前記加速度優先度の増加に応じて、車両に発生する加速度の絶対値が増加するように各車輪の前記目標制駆動力を演算し、前記目標制駆動力に基づいて各車輪の前記制駆動トルクを制御することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項4】
請求項1の車両挙動制御装置において、前記車両挙動情報及び/又は前記車両外界情報又は予め設定された補正値に基づいて、前記加速度優先度を補正することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項5】
請求項1の車両挙動制御装置において、車両に発生可能な限界加速度を求める手段と、該手段により求められた限界加速度又は限界減速度を前記加減速要求が超える場合、前記加減速要求を緩和する手段を備えることを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項6】
請求項1の車両挙動制御装置において、
ブレーキペダルのストローク量及びブレーキペダル踏力及びマスタシリンダ圧の少なくとも一つを検出する第1の検出手段と、並びにアクセルペダルのストローク量及びアクセルペダル踏力の少なくとも一つを検出する第2の検出手段を備え、
該第1の検出手段の検出量に基づいて作成される減速制御量又は該第2の検出手段の検出量に基づいて作成される加速制御量から、前記のドライバの車両進行方向の加減速要求を演算することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項7】
請求項1の車両挙動制御装置において、
車輪と路面間の摩擦により発生可能な各車輪の最大制駆動力を求める手段と、
各車輪に前記制駆動トルクを与えるアクチュエータにより発生可能な限界制駆動力を求める手段を備え、
上記最大制駆動力及び/又は上記限界制駆動力に基づいて、各車輪の前記制駆動力上限値及び前記制駆動力下限値を演算することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項8】
請求項7の車両挙動制御装置において、
各車輪の制駆動力変化に伴う車輪の横力変化に基づく補正係数を備え、
該補正係数、前記加速度優先度、前記最大制駆動力及び前記限界制駆動力を基づいて、各車輪の前記制駆動力上限値及び前記制駆動力下限値を補正することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項9】
請求項1の車両挙動制御装置において、
前記加速度優先度がその最大値である場合、車体に発生する加速度が、前記目標加速度となるように各車輪の制動トルクを制御し、
前記加速度優先度がその最小値である場合、更に、
前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と同方向である場合には、旋回内輪の制動トルクを制御し、他方、
前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と逆方向である場合には、旋回外輪の制動トルクを制御して、
旋回外輪の制駆動力と旋回内輪の制駆動力の差により車体に発生するヨーモーメントが前記目標ヨーモーメントとなるように制御することを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項10】
請求項1の車両挙動制御装置において、
前記加速度優先度がその最大値である場合、車体に発生する加速度が、前記目標加速度となるように各車輪の前記駆動トルクを制御し、
前記加速度優先度がその最小値である場合、更に、
前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と同方向である場合には、旋回外輪の駆動トルクを制御し、他方、
前記目標ヨーモーメントの方向が車両の旋回方向と逆方向である場合には、旋回内輪の駆動トルクを制御して、
旋回外輪の制駆動力と旋回内輪の制駆動力の差により車体に発生するヨーモーメントが前記目標ヨーモーメントとなるように制御することを特徴とする車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−100577(P2008−100577A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283815(P2006−283815)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】