説明

車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法

【課題】電動モータのゼロ点位置とセンサのゼロ点位置との間のオフセット値を容易に求めることのできる車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法を提供する。
【解決手段】伝達比制御モータのロータのゼロ点位置と第1レゾルバのゼロ点位置との間のオフセット値A1を設定するようになっている。具体的には、第1レゾルバを用いたフィードバック制御により、伝達比制御モータが定格出力を発生するように伝達比制御モータを駆動させる(ステップS5)。このとき、伝達比制御モータが定格出力で回転しないときには(ステップS6でNO)、オフセット値A1を変更する(ステップS8)。一方、伝達比制御モータが定格出力で回転したとき(ステップS6でYES)には、オフセット値A1の設定を完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操舵装置には、電動モータが備えられることがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の電動モータは、制御部の制御によって、運転者の操舵を補助する操舵補助力を発生するようになっている。この電動モータに関する推定相対回転角に推定誤差があるときには、この推定相対回転角が補正されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−248962号公報[要約]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両用操舵装置に備えられるブラシレスモータは、例えば、レゾルバ等の回転角センサを用いたフィードバック制御によって駆動制御される。このような電動モータでは、電動モータのゼロ点位置と、レゾルバのゼロ点位置とがずれていると、レゾルバの角度検出結果に基づいた、電動モータの各相(例えば、U相、V相、W相)へ電流を流すタイミングを、最適にすることができない。その結果、電動モータのロータの出力(トルク)は低く、ロータの出力を所望の値にできず、運転者に操舵に関して違和感を与えるおそれがある。
【0005】
そこで、電動モータのゼロ点位置に対するレゾルバのゼロ点位置のずれを予めデータとして入力しておくことが考えられる。例えば、電動モータにレゾルバを組み付けた時点で、電動モータのゼロ点位置に対するレゾルバのゼロ点位置をオフセット量として測定し、このオフセット量を、電動モータの制御部に記憶させておく。
これにより、電動モータのゼロ点位置と、レゾルバのゼロ点位置とを実質的に揃えることができる。その結果、レゾルバの角度検出結果に基づいた、電動モータの各相へ電流を流すタイミングを、最適にすることができる。これにより、所望の出力でロータを回転させることができる。
【0006】
しかしながら、電動モータのゼロ点位置に対するレゾルバのゼロ点位置をオフセット量として測定する作業は、精密な寸法測定器具等が必要であり、手間がかかる。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、電動モータのゼロ点位置とセンサのゼロ点位置との間のオフセット値を容易に求めることのできる車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、鋭意研究の結果、電動モータのゼロ点位置と、センサのゼロ点位置との間のオフセット値が正しく求められている場合、このオフセット値を考慮しつつ、電動モータに所定の出力(トルク)が発生するように電動モータを駆動させることで、電動モータが前記所定の出力を実際に発生することが可能であるとの知見に着目した。また、上記オフセット値が正しく求められていない場合、電動モータに所定の出力(トルク)が発生するように電動モータを駆動させても、電動モータに前記所定の出力を実際には発生できないとの知見に着目し、本発明を想到するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、電動モータ(7)と、この電動モータの回転位置を検出するセンサ(33)とを含む車両操舵装置用電動モータユニット(34)の製造方法において、前記電動モータの回転方向(C1)における前記電動モータのゼロ点位置(P2)と前記センサのゼロ点位置(P1)との間のオフセット値(A1)を設定する設定ステップ(S1〜S8)を含み、前記設定ステップは、前記センサを用いた制御により前記電動モータが所定の出力(T10)を発生するように前記電動モータを駆動させる駆動ステップ(S5)と、この駆動ステップで前記電動モータが前記所定の出力で回転しないときに前記オフセット値を変更するオフセット値変更ステップ(S8)と、を含み、前記駆動ステップで前記電動モータが前記所定の出力で回転したときに前記設定ステップを完了することを特徴としている(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、駆動ステップにおいて、センサを用いた制御(例えば、フィードバック制御)によって電動モータが所定の出力を発生するように電動モータを駆動させ、電動モータが前記所定の出力で回転したときには、設定されたオフセット値が実際のオフセット値と一致しており、電動モータが最も効率よく高出力で駆動できる状態となっている。したがって、このときにはオフセット値を確定し、設定ステップを完了できる。一方、電動モータが前記所定の出力で駆動しないときには、設定されたオフセット値が実際のオフセット値と一致しておらず、電動モータが効率よく高出力で駆動できる状態となっていない。したがって、このときには、オフセット値を変更した後、再度駆動ステップを実行し、設定されたオフセット値が実際のオフセット値と一致したか否かを確認できる。以上のステップにより、実際のオフセット値を計測したときと同様に、オフセット値を、実際のオフセット値に一致させることができる。しかも、電動モータが所定の出力で回転したか否かという単純な判定基準を用いて、オフセット値を設定できるので、オフセット値を容易に設定できる。
【0010】
また、本発明において、前記駆動ステップでは、前記所定の出力と実質的に等しい回転規制力(R10)で前記電動モータの回転を規制し、前記電動モータが回転しないときに、前記電動モータが前記所定の出力で回転しないと判定し、前記電動モータが回転したときに、前記電動モータが前記所定の出力で回転したと判定する場合がある(請求項2)。
「所定の出力と実質的に等しい回転規制力」とは、所定の出力よりもわずかに小さい回転規制力をいい、例えば、所定の出力の95%〜99%程度の力をいう。
【0011】
この場合、電動モータが回転するかしないかという単純な判定基準を用いて、オフセット値を設定できるので、オフセット値を、より容易に設定できる。
また、本発明において、前記所定の出力は、前記電動モータの定格出力(T10)である場合がある(請求項3)。この場合、駆動ステップにおいて、微妙な出力調整を行うことなく、単に電動モータに定格出力が生じるように電動モータを駆動させればよい。したがって、オフセット値を、より容易に設定できる。
【0012】
また、本発明において、前記駆動ステップに先立ち、前記電動モータを短絡させるステップ(S1)をさらに含む場合がある(請求項4)。この場合、駆動ステップに先立ち、電動モータのロータとステータの位相を合わせることができる。その結果、オフセット値が実際のオフセット値と一致するように正しく設定された場合において、所定の出力を発生するように電動モータを駆動させたときに、電動モータを確実に所定の出力で回転することができる。これにより、正しく設定されたオフセット値が不用意に変更されることを防止できる。
【0013】
また、本発明において、前記オフセット値変更ステップの後に再度前記駆動ステップが行われるようにされており、再度の駆動ステップの前に、前記駆動ステップのときとは反対方向に前記電動モータを駆動させるステップ(S7)をさらに含む場合がある(請求項5)。この場合、駆動ステップのときとは反対方向に電動モータを駆動させることで、電動モータのロータ等のねじれを除去できる。したがって、再度の駆動ステップにおいて、前回の駆動ステップの影響を受けることを抑制でき、電動モータが所定の出力で回転するか否かを、正確に検出できる。
【0014】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる電動モータユニットを備える伝達比可変装置の概略構成を示す図であり、一部を断面で示している。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】伝達比可変装置の主要部の電気的な構成を説明するための図である。
【図4】オフセット値を設定する際の伝達比可変装置の図であり、一部を断面で示している。
【図5】オフセット値の設定の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる電動モータユニットを備える伝達比可変装置1の概略構成を示す断面図であり、一部を断面で示している。図1を参照して、伝達比可変装置1は、四輪自動車等の車両に備えられている。伝達比可変装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結される入力軸3と、ラックアンドピニオン機構を含む転舵機構4に連結される出力軸5との間の回転伝達比を変更可能とされている。
【0017】
すなわち、伝達比可変装置1は、入力軸3の回転位置としての操舵角θ1に対する出力軸5の回転位置としての転舵角θ2の比である伝達比θ2/θ1を変更可能とされている。
伝達比可変装置1は、伝達比可変機構6と、伝達比制御モータ7と、伝達比可変機構6の動作に関連して操舵部材2の操舵反力(操舵トルク)を補償するための反力補償モータ8と、を備えている。伝達比可変機構6、伝達比制御モータ7および反力補償モータ8は、ハウジング9内に収容されている。
【0018】
伝達比可変機構6は、入力軸3および出力軸5を差動回転可能に連結する差動機構としての遊星ギヤ機構である。伝達比制御モータ7は、伝達比可変機構6の後述するキャリア14を駆動することにより、伝達比θ2/θ1を変更可能となっている。
伝達比可変機構6は、入力軸3に一体回転可能に連結された第1サンギヤ11と、第1サンギヤ11と同軸に相対向して配置され出力軸5に一体回転可能に連結された第2サンギヤ12と、第1および第2サンギヤ11,12の双方に噛み合う遊星ギヤ13と、遊星ギヤ13をその軸線L2回りに自転可能且つ第1および第2サンギヤ11,12の軸線(軸線L1)回りに公転可能に保持するキャリア14と、を有している。
【0019】
遊星ギヤ13は、第1および第2サンギヤ11,12を互いに関連付けるためのものであり、ステアリングシャフト3の周方向C1に等間隔に複数(本実施の形態において、2つ)配置されている。
遊星ギヤ13は、第1サンギヤ11に噛み合う部分の歯数と、第2サンギヤ12に噛み合う部分の歯数とが同一である。
【0020】
第1サンギヤ11の歯数と、第2サンギヤ12の歯数とは、相異なっており、第1サンギヤ11、および第2サンギヤ12の少なくとも1つ(例えば、第2サンギヤ12)が、転位歯車を用いて形成されている。この転位歯車は、ピッチ円の直径が小さくなる方向に転位された負転位歯車、またはピッチ円の直径が大きくなる方向に転位された正転位歯車とされている。
【0021】
キャリア14は、筒状に形成されており、入力軸3および出力軸5が挿通されている。キャリア14は、各遊星ギヤ13とともに、各サンギヤ11,12の中心軸線L1の回りを回転可能である。キャリア14は、入力軸3の軸方向に並ぶ第1部分14a、第2部分14b、および第3部分14cを含んでいる。
第1部分14aは、第1軸受21を介してハウジング9に回転可能に支持されている。この第1部分14aには、複数の第1支軸挿通孔14dが形成されている。各第1支軸挿通孔14dには、各遊星ギヤ13の支軸13aの一端13bが挿通されている。この一端13bは、第2軸受22を介して第1支軸挿通孔14dの内周面に回転可能に支持されている。また、第1部分14aは、ころ軸受等の第3軸受23を介して、入力軸3を回転可能に支持している。
【0022】
図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。図1および図2を参照して、第2部分14bは、第1部分14aと第3部分14cとの間に配置されている。この第2部分14bには、複数の第2支軸挿通孔14eが形成されている。各第2支軸挿通孔14eには、各遊星ギヤ13の支軸13aの他端13cが挿通されている。この他端13cは、第4軸受24を介して第2支軸挿通孔14eの内周面に回転可能に支持されている。また、キャリア14の第2部分14bおよび第3部分14cには、出力軸5が挿通される挿通孔14fが形成されている。
【0023】
第3部分14cは、第5軸受25を介してハウジング9に回転可能に支持されている。
伝達比制御モータ7は、キャリア14を回転駆動するためのものであり、軸線L1回りに関するキャリア14の回転数を変更することで、伝達比θ2/θ1を変更可能である。
伝達比制御モータ7は、例えば、伝達比可変機構6と同軸に配置された電動モータとしてのブラシレスモータからなり、キャリア14の第3部分14cに一体回転可能に連結されたロータ7aと、このロータ7aを取り囲みハウジング9に固定されたステータ7bと、を含んでいる。
【0024】
伝達比制御モータ7のロータ7aは、キャリア14の第2部分14bの外周面に固定された永久磁石28を含んでいる。永久磁石28は、周方向C1に交互に異なる磁極を有しており、周方向C1に関して、N極とS極とが交互に等間隔に配置されている。永久磁石28は、例えば、4極の磁石である。永久磁石28は、複数の円弧状の磁石を環状に並べたセグメント磁石であってもよいし、環状のリング磁石であってもよい。周方向C1は、伝達比制御モータ7のロータ7aの回転方向でもある。
【0025】
伝達比制御モータ7のステータ7bは、電磁鋼板を軸方向Sに複数積層してなるステータコア29と、電磁コイル30とを含んでいる。
ステータコア29は、円環状のヨーク31と、周方向C1に等間隔に配置され且つヨーク31から径方向Rの内方に突出する複数のティース32と、を含んでいる。ヨーク31の外周面は、ハウジング9の内周面に焼きばめ等によって固定されている。ティース32は周方向C1に等間隔に配置されている。各ティース32のそれぞれに電磁コイル30が巻回されている。ティース32は、例えば6つ設けられており、6つのスロットが形成されている。このように、伝達比制御モータ7は、例えば4極6スロットのブラシレスモータとされている。
【0026】
図1を参照して、伝達比制御モータ14に関連して、回転角センサとしての第1レゾルバ33が配置されている。第1レゾルバ33は、キャリア14の第3部分14cの外周に一体回転可能に連結されたレゾルバロータ33aと、レゾルバロータ33aを取り囲みハウジング9に固定されたレゾルバステータ33bとを含んでいる。キャリア14に伝達比制御モータ14のロータ7aおよび第1レゾルバ33のレゾルバロータ33aの双方が連結されていることにより、第1レゾルバ33は、キャリア14の回転位置(回転角)および伝達比制御モータ7のロータ7aの回転位置を検出することが可能である。
【0027】
伝達比制御モータ7および第1レゾルバ33によって、車両操舵装置用の電動モータユニット34が形成されている。
また、反力補償モータ8に関連して、第2レゾルバ35が配置されている。第2レゾルバ35は、入力軸3に一体回転可能に連結されたレゾルバロータ35aと、レゾルバロータ35aを取り囲みハウジング9に固定されたレゾルバステータ35bとを含んでいる。
【0028】
反力補償モータ8のステータ8b、第2レゾルバ35のレゾルバステータ35b、伝達比制御モータ7のステータ7bおよび第1レゾルバ33のレゾルバステータ33bは、それぞれ、配線および対応する駆動回路36,37等を介して、制御部38に電気的に接続されている。
伝達比制御モータ7および反力補償モータ8の駆動は、それぞれ、CPU、RAMおよびROMを含む制御部38によって制御される。制御部38は、駆動回路36を介して伝達比制御モータ7と接続され、駆動回路37を介して反力補償モータ8と接続されている。
【0029】
制御部38は、第2レゾルバ35による入力軸3の回転角度検出結果を用いて、反力補償モータ8の駆動をフィードバック制御するようになっている。
また、制御部38は、第1レゾルバ33によるキャリア14およびロータ7aの回転角度検出結果を用いて、伝達比制御モータ7の駆動をフィードバック制御するようになっている。
【0030】
図3は、伝達比可変装置1の主要部の電気的な構成を説明するための図である。図3を参照して、制御部38は、FET(電界効果型トランジスタ)等を含む駆動回路36に接続されている。駆動回路36は、伝達比制御モータ7のステータ7bのU相コイル30U、V相コイル30VおよびW相コイル30Wの一端のそれぞれに接続されている。U相コイル30U、V相コイル30VおよびW相コイル30Wの他端は、中性点39で互いに接続されている。
【0031】
また、前述したように、制御部38には、第1レゾルバ33のレゾルバステータ33bが接続されている。
制御部38には、オフセット値記憶部41およびオフセット値変更部42が設けられている。オフセット値記憶部41には、伝達比制御モータ7のロータ7aのゼロ点位置P2と、第1レゾルバ33のレゾルバロータ33aのゼロ点位置P1との周方向C1に関する相対位置(相対角度)としてのオフセット値A1が記憶されている。このオフセット値A1は、各ゼロ点位置P1,P2間の実際のオフセット値A100と同じ値とされている。
【0032】
伝達比制御モータ7のロータ7aのゼロ点位置P2は、この周方向C1に関するロータ7aの基準位置である。第1レゾルバ33のレゾルバロータ33aのゼロ点位置P1は、周方向C1に関するレゾルバロータ33aの基準位置である。
制御部38は、オフセット値A1だけ、各ゼロ点位置P1,P2の相対位置が周方向C1にずれて配置されているとして、伝達比制御モータ7の駆動を制御する。具体的には、制御部38は、第1レゾルバ33の検出値にオフセット値A1を減じた(または加算した)値を、伝達比制御モータ7のステータ7bの機械角とし、この機械角に基づいて、伝達比制御モータ7の駆動制御(第1レゾルバ33を用いたフィードバック制御)を行うようになっている。
【0033】
オフセット値変更部42は、オフセット値記憶部41に記憶されているオフセット値A1を変更するために設けられている。オフセット値変更部42は、伝達比可変装置1の製造時に、オフセット値A1が実際のオフセット値A100と一致するように、オフセット値A1を変更するようになっている。オフセット値A1の設定の詳細については、後述する。
【0034】
図4は、オフセット値A1を設定する際の伝達比可変装置1の図であり、一部を断面で示している。図4を参照して、オフセット値A1の設定は、例えば、伝達比可変装置1の組み立て時、すなわち、伝達比可変装置1の工場出荷前に行われる。
オフセット値A1が設定されるとき、伝達比可変装置1は、例えば、出力軸5が取り付けられていない状態となっている。このとき、伝達比可変装置1のハウジング9は、治具45によって固定されている。また、伝達比可変装置1のキャリア14には、負荷装置50が連結されている。負荷装置50は、キャリア14に所定の回転規制力R10を付与するための装置であり、例えば、負荷制御装置46と、トルクリミッタ47と、を含んでいる。
【0035】
負荷制御装置46からは、制御ケーブル(電線)46aが延びており、トルクリミッタ47に接続されている。トルクリミッタ47は、回転規制力R10以下のトルクが作用したときにはキャリア14の回転を規制し、回転規制力R10より大きいトルクが作用したときには、キャリア14の回転を許容するようになっている。回転規制力R10の値は、負荷制御装置46によって設定される。
【0036】
トルクリミッタ47からは、嵌合シャフト47aが延びている。嵌合シャフト47aの外周面と、キャリア14の第3部分14cの挿通孔14fの内周面とは、例えば、スプライン嵌合またはセレーション嵌合によって結合している。これにより、嵌合シャフト47aとキャリア14とは、一体回転可能に連結されている。
なお、出力軸5が取り付けられた状態の伝達比可変装置1を用意し、この伝達比可変装置1の出力軸5をチャック部材で固定してもよい。
【0037】
上記のように、トルクリミッタ47によって、キャリア14は、所定の出力としての伝達比制御モータ7の定格出力T10と実質的に等しい回転規制力R10で回転を規制されている。これにより、伝達比制御モータ7のロータ7aは、トルクリミッタ47によって、回転規制力R10で回転を規制されている。回転規制力R10は、伝達比制御モータ7の定格出力T10に対して、所定の許容値範囲内となるように設定される。回転規制力R10は、例えば、定格出力T10の95%〜99%である。
【0038】
図5は、オフセット値A1の設定の流れを説明するためのフローチャートである。図5を参照して、オフセット値記憶部41では、オフセット値A1は、予め、初期値A1’に設定されている。初期値A1’は、例えば、機械角でゼロである。また、ハウジング9は、治具45に固定された状態である。さらに、伝達比可変装置1のキャリア14には、トルクリミッタ47は接続されていない。
【0039】
この状態から、伝達比制御モータ7を短絡させる(ステップS1)。具体的には、例えば、伝達比制御モータ7のステータ7bのU相コイル30Uの一端を接地(GND接続)させるとともに、V相コイル30Vの一端およびW相コイル30Wの一端を電源の正極に接続する。これにより、伝達比制御モータ7のロータ7aとステータ7bの位相が、例えば、図2に示すように、揃えられる。次に、伝達比制御モータ7のステータ7bの各コイル30U,30V,30Wへの電力の供給を停止することで、伝達比制御モータ7の短絡を解除する(ステップS2)。これにより、伝達比制御モータ7のロータ7aの短絡による回転規制を解除する。
【0040】
次に、トルクリミッタ47の嵌合シャフト47aをキャリア14に嵌合させることで、キャリア14およびロータ7aの回転を所定の回転規制力R10で規制する(ステップS3)。この状態で、制御部38は、第1レゾルバ33による、伝達比制御モータ7のロータ7aの回転角度の検出信号を読み込む(ステップS4)。
次に、制御部38は、第1レゾルバ33の検出信号およびオフセット値A1を用いたフィードバック制御により、伝達比制御モータ7を、定格出力T10で所定角度θ100回転させるように駆動させる(ステップS5)。所定角度θ100は、例えば機械角で90°である。
【0041】
そして、制御部38は、第1レゾルバ33の検出信号を読み込み、伝達比制御モータ7のロータ7aが回転したか否かを判定する(ステップS6)。伝達比制御モータ7のロータ7aが回転していなければ(ステップS6でNO)、定格出力T10で伝達比制御モータ7を駆動する制御を行ったにも拘わらず、伝達比制御モータ7のロータ7aの出力が定格出力T10に達していないことになる。この場合、制御部38は、伝達比制御モータ7のロータ7aを、ステップS5のときとは反対の回転方向に、定格出力T10で所定角度θ100と同じ角度回転させる制御を行う(ステップS7)。これにより、ステップS7で、ロータ7aのねじれを除去する。
【0042】
その後、制御部38のオフセット値変更部42は、オフセット値記憶部41に格納されているオフセット値A1(初期値は、オフセット値A1’)を、例えば、機械角で1°分、加算して変更する(ステップS8)。
次いで、制御部38は、再度、第1レゾルバ33による、伝達比制御モータ7のロータ7aの回転角度の検出信号を再度読み込む(ステップS4)。
【0043】
その後、制御部38は、第1レゾルバ33の検出信号およびオフセット値A1を用いたフィードバック制御により、伝達比制御モータ7を、定格出力T10で所定角度θ100駆動させる(ステップS5)。
そして、制御部38は、第1レゾルバ33の検出信号を読み込み、伝達比制御モータ7のロータ7aが回転したか否かを判定する(ステップS6)。伝達比制御モータ7のロータ7aが回転していなければ(ステップS6でNO)、定格出力T10で伝達比制御モータ7を駆動する制御を行ったにも拘わらず、伝達比制御モータ7のロータ7aの出力が定格出力T10に達していないことになる。この場合、再び、ステップS7に進む。
【0044】
一方、ステップS6で、伝達比制御モータ7のロータ7aが回転したと判定された場合(ステップS6でYES)、定格出力T10で伝達比制御モータ7を駆動する制御を行ったことにより、トルクリミッタ47からの回転規制力R10に抗して、伝達比制御モータ7のロータ7aおよびキャリア14が定格出力T10で回転したことになる。この場合、オフセット値A1が実際のオフセット値A100と一致しており、その結果、伝達比制御モータ7のロータ7aを、制御部38で設定した出力通りの出力で駆動できるとして、オフセット値A1の設定作業を完了する。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、駆動ステップ(ステップS5)において、第1レゾルバ33を用いたフィードバック制御によって伝達比制御モータ7が定格出力T10を発生するように伝達比制御モータ7を駆動させ、伝達比制御モータ7が回転したときには、設定されたオフセット値A1が実際のオフセット値A100と一致しており、伝達比制御モータ7が最も効率よく高出力で駆動できる状態となっている。したがって、このときにはオフセット値A1を確定し、設定ステップ(ステップS1〜S8)を完了できる。
【0046】
一方、伝達比制御モータ7が回転しないときには、設定されたオフセット値A1が実際のオフセット値A100と一致しておらず、伝達比制御モータ7が効率よく高出力で駆動できる状態となっていない。したがって、このときには、オフセット値A1をオフセット値変更部42によって変更した後、再度駆動ステップ(ステップS5)を実行し、設定されたオフセット値A1が実際のオフセット値A100と一致したか否かを確認できる。以上のステップにより、実際のオフセット値A100を計測したときと同様に、オフセット値A1を、実際のオフセット値A100に一致させることができる。しかも、伝達比制御モータ7が回転したか否かという単純な判定基準を用いて、オフセット値A1を設定できるので、オフセット値A1を容易に設定できる。
【0047】
また、駆動ステップ(ステップS5)では、定格出力T10と実質的に等しい回転規制力R10で伝達比制御モータ7のロータ7aの回転を規制している。そして、伝達比制御モータ7のロータ7aが回転しないときに、伝達比制御モータ7のロータ7aが定格出力T10で回転しないと判定するようになっている。また、伝達比制御モータ7が回転したときに、伝達比制御モータ7が定格出力T10で回転したと判定するようになっている。
【0048】
これにより、伝達比制御モータ7が回転するかしないかという単純な判定基準を用いて、オフセット値A1を設定できるので、オフセット値A1を、より容易に設定できる。
さらに、オフセット値A1の設定に際して、微妙な出力調整を行うことなく、単に伝達比制御モータ7に定格出力T10が生じるように伝達比制御モータ7を駆動させればよい。したがって、オフセット値A1を、より容易に設定できる。
【0049】
また、駆動ステップ(ステップS5)に先立ち、伝達比制御モータ7を短絡させるようにしている(ステップS1)。これにより、駆動ステップ(ステップS5)に先立ち、伝達比制御モータ7のロータ7aとステータ7bの位相を合わせることができる。その結果、オフセット値A1が実際のオフセット値A100と一致するように正しく設定された場合において、定格出力T10を発生するように伝達比制御モータ7を駆動させたときに、伝達比制御モータ7を確実に定格出力T10で回転することができる。これにより、正しく設定されたオフセット値A1が不用意に変更されることを防止できる。
【0050】
さらに、再度の駆動ステップ(ステップS5)の前に、駆動ステップ(ステップS5)のときとは反対方向に伝達比制御モータ7のロータ7a駆動させるステップ(ステップS7)が設けられている。このように、ステップS5のときとは反対方向に伝達比制御モータ7を駆動させることで、伝達比制御モータ7のロータ7aやキャリア14等のねじれを除去できる。したがって、再度の駆動ステップ(ステップS5)において、前回の駆動ステップ(ステップS5)の影響を受けることを抑制でき、伝達比制御モータ7が定格出力T10で回転するか否かを、正確に検出できる。
【0051】
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、オフセット値A1の設定の際、伝達比制御モータ7のロータ7aを定格出力T10を発生するように駆動させたけれども、これに限定されない。オフセット値A1の設定の際、伝達比制御モータ7のロータ7aを、定格出力T10以外の所定の出力を発生するように駆動させてもよい。このとき、トルクリミッタ47による回転規制力は、上記所定の出力と実質的に同じ値とされる。
【0052】
また、オフセット値A1の設定の際、伝達比制御モータ7のロータ7aに、トルクリミッタ47によって回転規制力R10を付与する構成を説明したけれども、これに限定されない。例えば、オフセット値A1の設定の際、伝達比制御モータ7のロータ7aの回転を規制せず、このロータ7aのトルクをトルクセンサ等で計測し、制御部38で設定したのと同じトルクが出力されているか否かを判定してもよい。
【0053】
また、オフセット値A1の設定の際に、伝達比制御モータ7を短絡させるステップ(ステップS1)を省略してもよい。さらに、再度の駆動ステップ(ステップS5)の前に、前回の駆動ステップのときと反対方向に伝達比制御モータ7のロータ7aを駆動させるステップ(ステップS7)を省略してもよい。
さらに、上記実施形態では、伝達比可変装置1の伝達比制御モータ7を例に説明したけれども、これに限定されない。例えば、操舵補助用の電動モータ等の他の車両操舵装置用の電動モータに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
7…伝達比制御モータ(電動モータ)、33…第1レゾルバ(センサ)、34…電動モータユニット、A1…オフセット値、C1…周方向(電動モータの回転方向)、P1…ゼロ点位置(センサのゼロ点位置)、P2…ゼロ点位置(電動モータのゼロ点位置)、R10…回転規制力、S1…電動モータを短絡させるステップ、S1〜S8…設定ステップ、S5…駆動ステップ、S7…駆動ステップのときとは反対方向に電動モータを駆動させるステップ、S8…オフセット値変更ステップ、T10…定格出力(所定の出力)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、この電動モータの回転位置を検出するセンサとを含む車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法において、
前記電動モータの回転方向における前記電動モータのゼロ点位置と前記センサのゼロ点位置との間のオフセット値を設定する設定ステップを含み、
前記設定ステップは、前記センサを用いた制御により前記電動モータが所定の出力を発生するように前記電動モータを駆動させる駆動ステップと、この駆動ステップで前記電動モータが前記所定の出力で回転しないときに前記オフセット値を変更するオフセット値変更ステップと、を含み、
前記駆動ステップで前記電動モータが前記所定の出力で回転したときに前記設定ステップを完了することを特徴とする、車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記駆動ステップでは、前記所定の出力と実質的に等しい回転規制力で前記電動モータの回転を規制し、
前記電動モータが回転しないときに、前記電動モータが前記所定の出力で回転しないと判定し、前記電動モータが回転したときに、前記電動モータが前記所定の出力で回転したと判定することを特徴とする、車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記所定の出力は、前記電動モータの定格出力であることを特徴とする、車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項において、前記駆動ステップに先立ち、前記電動モータを短絡させるステップをさらに含むことを特徴とする、車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、前記オフセット値変更ステップの後に再度前記駆動ステップが行われるようにされており、
再度の駆動ステップの前に、前記駆動ステップのときとは反対方向に前記電動モータを駆動させるステップをさらに含むことを特徴とする、車両操舵装置用電動モータユニットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40931(P2012−40931A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183252(P2010−183252)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】