説明

車両用サスペンション装置

【課題】トー角調整機能を損なうことなく、パッケージング効率の向上を図ることができる車両用サスペンション装置を提供すること。
【解決手段】車両用サスペンション装置は、Hアーム型ロアリンク6と、トーコントロールリンク7と、を備えた手段とした。Hアーム型ロアリンク6は、サスペンションメンバ1とアクスルハブ2の間に車幅方向に配置され、Hアーム61と、サスペンションメンバ1に対し弾性支持する前側円筒ブッシュ62、後側円筒ブッシュ63と、アクスルハブ2に対し弾性支持する前側円筒ブッシュ64、後側円筒ブッシュ65と、を有する。トーコントロールリンク7は、Hアーム型ロアリンク6の車体取付部に設けたボールジョイント71とHアーム61のリンク取付部に設けたボールジョイント72を繋いで配置され、タイヤ4からの入力時、入力との連成によりHアーム型ロアリンク6の弾性変位をトー角発生方向に規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を独立懸架し、トー角調整によるコンプライアンスステア機能を発揮する車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Hアーム型ロアリンクとは別体で、トーコントロールリンクを設定し、Hアーム型ロアリンクとトーコントロールリンクとにブッシュ剛性差を付与することで、バウンド時とタイヤ力発生時にトー角を調整する車両用サスペンション装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−8455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両用サスペンション装置にあっては、トーコントロールリンクを、車体側部材と車輪支持部材の間を連結するように取り付けている。このため、長尺によるトーコントロールリンクが、車体と車輪間のスペースのうち、大きなスペースを占有することになり、パッケージング効率が低下する、という問題があった。
【0005】
例えば、インホイールモータを搭載した電気自動車の場合、Iアーム型アッパーリンクとHアーム型ロアリンクに加え、トーコントロールリンクを車体と車輪間に支持する必要がある。この場合、トーコントロールリンクの必要スペースを確保しようとすると、レイアウトの制約を受けてモータ径が小さくなる。また、モータ径の縮小やホイール径の拡大を伴わずにトーコントロールリンクの装着スペースを確保するためには、トーコントロールリンクの取付点を車体内側に移動せざるを得なくなる。この場合、リンク長を確保できなくなることでトー角変化特性の適正化が困難となる。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、トー角調整機能を損なうことなく、パッケージング効率の向上を図ることができる車両用サスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用サスペンション装置は、サスペンションリンクと、トーコントロールリンクと、を備えた手段とした。
前記サスペンションリンクは、車体側部材と車輪支持部材の間に車幅方向に配置され、リンク本体部と、前記車体側部材に対し弾性支持する車体側支持部と、前記車輪支持部材に対し弾性支持する車輪側支持部と、を有する。
前記トーコントロールリンクは、前記サスペンションリンクの車体取付部と前記リンク本体部のリンク取付部を繋いで配置され、タイヤからの入力時、入力との連成により前記サスペンションリンクの弾性変位をトー角発生方向に規定する。
【発明の効果】
【0008】
トーコントロールリンクは、サスペンションリンクの車体取付部とリンク本体部のリンク取付部を繋ぐものである。このため、車体側部材と車輪支持部材の間を繋ぐリンクに比べ、スペース占有率が低い短尺のリンクにてトーコントロールリンクを構成することができる。
また、トーコントロールリンクは、リンク取付部の動作軌跡を、車体取付部を中心としてリンク長を変えない円弧軌跡とし、この円弧軌跡によりサスペンションリンクの弾性変位動作を拘束する。このため、タイヤからの前後力や横力等の入力時、入力との連成によりサスペンションリンクの弾性変位がトー角発生方向に規定される。このサスペンションリンクの弾性変位に伴って、車輪支持部材によって支持されたタイヤが、トーイン方向やトーアウト方向に変位する。
この結果、トー角調整機能を損なうことなく、パッケージング効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の車両用サスペンション装置の構成を示す平面図である。
【図2】比較例の車両用サスペンション装置の構成を示す平面図である。
【図3】実施例1の車両用サスペンション装置においてタイヤがバウンドやリバウンドしたときの揺動作用をあらわし、(a)は平面図を示し、(b)は(a)のX−X方向断面図を示す。
【図4】実施例1の車両用サスペンション装置においてタイヤに制動力が加わったときにトー変化を生じるコンプライアンスステアを示す平面図である。
【図5】実施例1の車両用サスペンション装置においてタイヤに横力が加わったときにトー変化を生じるコンプライアンスステアを示す平面図である。
【図6】実施例2の車両用サスペンション装置の構成を示す平面図である。
【図7】実施例3の車両用サスペンション装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の車両用サスペンション装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例3に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両用サスペンション装置の構成を示す平面図である。以下、図1に基づき構成を説明する。
【0012】
実施例1の車両用サスペンション装置は、図1に示すように、サスペンションメンバ1(車体側部材)と、アクスルハブ2(車輪支持部材)と、ホイール3と、タイヤ4と、Iアーム型アッパーリンク5(アッパーリンク)と、Hアーム型ロアリンク6(サスペンションリンク、ロアリンク)と、トーコントロールリンク7と、を備えている。
なお、図1において、FRはフロント(車両前方)をあらわし、OUTは車幅方向のうち外側方向をあらわす。
【0013】
この車両用サスペンション装置は、エンジン車や電動車両(電気自動車やハイブリッド車)等に適用され、変位入力に対し、ある程度の変形・変位を許す構造を持ち、トー角変化によるコンプライアンスステアを発揮させるものである。ここで、「コンプライアンスステア」とは、サスペンション変位を利用した車輪の受動的な操舵作用をいう。このコンプライアンスステアは、旋回時に発生するタイヤ横力、制動時や駆動時に発生するタイヤ前後力に対して、車両挙動や車両姿勢を安定化するために利用される。
【0014】
前記サスペンションメンバ1は、図外のサイドメンバ等に弾性支持される車体側部材である。
【0015】
前記アクスルハブ2は、タイヤ4を装着したホイール3を固定することで、車輪を支持する車輪支持部材である。
【0016】
前記Iアーム型アッパーリンク5は、アクスルハブ2の上側位置に車幅方向に配置され、サスペンションメンバ1とアクスルハブ2を連結する。このIアーム型アッパーリンク5は、Iアーム51と、サスペンションメンバ1に対し弾性支持する車体側円筒ブッシュ52と、アクスルハブ2に対し弾性支持する車輪側円筒ブッシュ53、を有する。
前記Hアーム型ロアリンク6は、アクスルハブ2の下側位置に車幅方向に配置され、サスペンションメンバ1とアクスルハブ2を連結する。このHアーム型ロアリンク6は、Hアーム61(リンク本体部)と、スペンションメンバ1に対し車両前後位置で弾性支持する前側円筒ブッシュ62(車体側支持部)と後側円筒ブッシュ63(車体側支持部)と、アクスルハブ2に対し車両前後位置で弾性支持する前側円筒ブッシュ64と後側円筒ブッシュ65と、を有する。
【0017】
前記トーコントロールリンク7は、Hアーム型ロアリンク6の車体取付部とHアーム61のリンク取付部を繋いで配置される。そして、タイヤからの前後力や横力等の入力時、入力との連成によりHアーム型ロアリンク6の弾性変位をトー角発生方向に規定する。
このトーコントロールリンク7は、車体取付部に設けたボールジョイント71と、リンク取付部に設けたボールジョイント72と、両ボールジョイント71,72を繋ぐリンク本体73と、を有する。そして、ボールジョイント71(車体取付部)を、後側円筒ブッシュ63の内筒を貫通するスタッドボルト軸11に設けることにより、2つの円筒ブッシュ62,63の両支持点S1,S2を結ぶ車体側揺動軸SAを通る位置に配置している。また、ボールジョイント72(リンク取付部)を、Hアーム61に固定したフランジ66に設けている。
【0018】
前記トーコントロールリンク7は、ボールジョイント71(車体取付部)とボールジョイント72(リンク取付部)の両取付点を結ぶリンク軸LAを、車両前後方向に対して車幅方向外側に傾くリンク角度θを持たせて設定している。
このリンク角度θは、アクスルハブ2により支持されるタイヤ4に車両前後方向変位が加わった際、車両前後方向変位と連成してボールジョイント72(リンク取付部)に車幅方向に変位を発生させる角度に設定される。
【0019】
前記トーコントロールリンク7は、ボールジョイント72(リンク取付部)の位置を、Hアーム型ロアリンク6の前側円筒ブッシュ62(車両前方の車体側支持部)の位置より車両後方位置に配置している。
この配置は、アクスルハブ2により支持されるタイヤ4に横力が加わった際、横力に連成して前側円筒ブッシュ62(リンク非装着側の車体側支持部)に車幅方向の弾性変位を発生させるためである。
【0020】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の課題について」の説明を行う。続いて、実施例1の車両用サスペンション装置における作用を、「パッケージング効率の向上作用」、「Hアーム型ロアリンクの揺動作用」、「タイヤに制動力が加わったときのトーイン作用」、「タイヤに横力が加わったときのトーイン作用」に分けて説明する。
【0021】
[比較例の課題について]
比較例1は、Hアーム型ロアリンクを前側リンクと後側リンクに分割し、前側リンクと後側リンクを連結するコネクトブッシュの剛性調整することで、前後力によるトー角を調整するものとする(特開2008−254568号公報参照)。
しかしながら、この比較例1の場合、Hアーム型ロアリンクを前側リンクと後側リンクに分割し、コネクトブッシュを設ける構成であるため、部品点数が増加し、コスト・重量が増大する。また、構造が複雑化してしまう。
【0022】
比較例2は、図2に示すように、Iアーム型アッパーリンクおよびHアーム型ロアリンクと別体で、トーコントロールリンクを設定し、Hアーム型ロアリンクのブッシュ剛性とトーコントロールリンクのブッシュ剛性に差を付与することで、バウンド時とタイヤ力発生時のトー角を調整するものとする。
【0023】
この比較例2の場合、Iアーム型アッパーリンクとHアーム型ロアリンクに加え、トーコントロールリンクを車体と車輪間に支持する必要がある。このため、長尺のトーコントロールリンクのスペース占有率が高くなり、車体と車輪間のスペースにステアリング系等の様々な部品を設定しようとすると、整然とレイアウトすることができないというようにパッケージング効率が低下する。
【0024】
特に、インホイールモータを搭載した電気自動車の場合、トーコントロールリンクの必要スペースを確保しようとすると、レイアウトの制約を受けてモータ径が小さくなる。
また、モータ径の縮小やホイール径の拡大を伴わずにトーコントロールリンクの装着スペースを確保するためには、トーコントロールリンクの取付点を車体内側に移動せざるを得なくなる。この場合、リンク長を確保できなくなることでトー角変化特性の適正化が困難となる。
【0025】
[パッケージング効率の向上作用]
上記のように、サスペンションにコンプライアンスステア機能を付加する場合、トー角調整機能を損なうことなく、トーコントロールリンクの必要スペースをできる限り小さく抑えることが重要である。以下、これを反映する実施例1のパッケージング効率の向上作用を説明する。
【0026】
トーコントロールリンク7は、Hアーム型ロアリンク6の車体取付部とHアーム61のリンク取付部を繋ぐものである。このため、比較例2のように、車体側部材と車輪支持部材の間を連結するトーコントロールリンクに比べ、スペース占有率が低い短尺のリンクにてトーコントロールリンク7を構成することができる。
【0027】
また、トーコントロールリンク7は、ボールジョイント72(リンク取付部)の動作軌跡を、ボールジョイント71(車体取付部)を中心としてリンク長を変えない円弧軌跡とし、この円弧軌跡によりHアーム型ロアリンク6の弾性変位動作を拘束する。このため、タイヤ4からの前後力や横力等の入力時、入力との連成によりHアーム型ロアリンク6の弾性変位がトー角発生方向に規定される。このHアーム型ロアリンク6の弾性変位に伴って、アクスルハブ2によって支持されたタイヤ4が、トーイン方向やトーアウト方向に変位する。
【0028】
以上説明したように、実施例1では、Hアーム型ロアリンク6の車体取付部とHアーム61のリンク取付部を繋ぐトーコントロールリンク7とした。そして、タイヤ4からの入力時、入力との連成によりHアーム型ロアリンク6の弾性変位をトー角発生方向に規定する構成を採用した。
したがって、トーコントロールリンク7を、比較例2に対し短いリンクで構成できる。また、タイヤ4からの入力時、比較例2のようにブッシュ剛性に差を付与することなく、トーコントロールリンク7によりタイヤ4へのトー角変化が確保される。
このため、比較例1のように、部品点数を増加させることのない構成としながら、トー角調整機能を損なうことなく、パッケージング効率の向上を図ることができる。
【0029】
[Hアーム型ロアリンクの揺動作用]
図3は、実施例1の車両用サスペンション装置においてタイヤがバウンドやリバウンドしたときの揺動作用を示す。以下、図3に基づいて、実施例1におけるHアーム型ロアリンク6の揺動作用を説明する。
【0030】
実施例1では、トーコントロールリンク7の車体取付部に設けたボールジョイント71を、後側円筒ブッシュ63の内筒を貫通するスタッドボルト軸11に設けることにより、トーコントロールリンク7の車体取付部を、車体側揺動軸SAを通る位置に配置する構成を採用した。
【0031】
したがって、図3(b)に示すように、トーコントロールリンク7の回転中心(=車体側揺動軸SA)と、Hアーム型ロアリンク6の回転中心(=車体側揺動軸SA)とが、ほぼ一致する。そして、トーコントロールリンク7のリンク取付部に設けたボールジョイント72の揺動軌跡(A点軌跡)と、Hアーム型ロアリンク6の車輪側支持部に設けた後側円筒ブッシュ65の揺動軌跡(LWR LINK OTR軌跡)と、の干渉が無くなる。
【0032】
このため、タイヤ4がバウンドやリバウンドすることで、Hアーム型ロアリンク6が車体側揺動軸SAを中心として揺動したとき、Hアーム型ロアリンク6の各円筒ブッシュ62,63,64,65の不要な変形・こじりが抑制され、乗心地の悪化や不要なトー変化を防止することができる。
【0033】
[タイヤに制動力が加わったときのトーイン作用]
図4は、実施例1の車両用サスペンション装置においてタイヤに制動力が加わったときにトー変化を生じるコンプライアンスステアを示す。以下、図4に基づいてタイヤ4に制動力が加わったときのトーイン作用を説明する。
【0034】
実施例1において、トーコントロールリンク7は、車体取付部に設けたボールジョイント71とリンク取付部に設けたボールジョイント72の両取付点を結ぶリンク軸LAを、車両前後方向に対して車幅方向外側に傾くリンク角度θを持たせて設定する構成を採用した。
【0035】
したがって、タイヤ4に制動力が加わったとき、図4に示すように、Hアーム型ロアリンク6が車両後方へ変位すると共に、トーコントロールリンク7が車両前後方向からリンク角度θだけ傾斜していることにより、トーコントロールリンク7のリンク取付部に設けたボールジョイント72が車両外方向へ変位量δだけ変位する。
すなわち、トーコントロールリンク7の車体取付部に設けたボールジョイント71を中心とするボールジョイント72の揺動(A→A’)と、アクスルハブ2により支持されるタイヤ4に加わる車両後方への変位と、の連成により、Hアーム型ロアリンク6に車幅方向の変位を発生する。この結果、Hアーム型ロアリンク6が、ブッシュ変形に伴って図4の矢印方向に変位することにより、タイヤ4が図4の実線位置から点線位置へと変位して内向きトー角(トーイン)を発生させる。
【0036】
このため、タイヤ4に制動力が加わったとき、Hアーム型ロアリンク6のブッシュ変形により回転変位することで、タイヤ4にトーインによるコンプライアンスステアを発生させることができる。
【0037】
[タイヤに横力が加わったときのトーイン作用]
図5は、実施例1の車両用サスペンション装置においてタイヤに横力が加わったときにトー変化を生じるコンプライアンスステアを示す。以下、図5に基づいてタイヤ4に横力が加わったときのトーイン作用を説明する。
【0038】
実施例1において、トーコントロールリンク7は、リンク取付部に設けたボールジョイント72の位置を、Hアーム型ロアリンク6の前側円筒ブッシュ62の位置より車両後方位置に配置した構成を採用した。
【0039】
したがって、旋回時、Hアーム型ロアリンク6に横力が加わった場合、Hアーム型ロアリンク6の後側円筒ブッシュ63(トーコントロールリンク7の装着側)のブッシュ変形による横変位がトーコントロールリンク7により拘束される。一方、Hアーム型ロアリンク6の車輪側の両円筒ブッシュ64,65と前側円筒ブッシュ62(トーコントロールリンク7の非装着側)のブッシュ変形による横変位が大きくなる。この結果、Hアーム型ロアリンク6が、ブッシュ変形に伴って図5の矢印方向に変位することにより、タイヤ4が図5の実線位置から点線位置へと変位して内向きトー角(トーイン)を発生させる。
【0040】
このため、旋回時、旋回外輪にてHアーム型ロアリンク6に車両内方向の横力が作用することで、旋回外輪となるタイヤ4にトーインによるコンプライアンスステアを発生させることができる。なお、車両旋回時には、遠心力に伴う重心移動で旋回内輪の輪荷重よりも旋回外輪の輪荷重が大きくなり、旋回走行安定性に対する寄与率は、旋回外輪の方が高くなる。
【0041】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用サスペンション装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0042】
(1) 車体側部材(サスペンションメンバ1)と車輪支持部材(アクスルハブ2)の間に車幅方向に配置され、リンク本体部(Hアーム61)と、前記車体側部材(サスペンションメンバ1)に対し弾性支持する車体側支持部(前側円筒ブッシュ62、後側円筒ブッシュ63)と、前記車輪支持部材(アクスルハブ2)に対し弾性支持する車輪側支持部(前側円筒ブッシュ64、後側円筒ブッシュ65)と、を有するサスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)と、
前記サスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)の車体取付部(ボールジョイント71)と前記リンク本体部(Hアーム61)のリンク取付部(ボールジョイント72)を繋いで配置され、タイヤ4からの入力時、入力との連成により前記サスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)の弾性変位をトー角発生方向に規定するトーコントロールリンク7と、
を備えた。
このため、トー角調整機能を損なうことなく、パッケージング効率の向上を図ることができる。
【0043】
(2) 前記トーコントロールリンク7は、前記車体取付部と前記リンク取付部をボールジョイント71,72にすると共に、前記車体取付部(ボールジョイント71)を、前記サスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)の車体側揺動軸SAを通る位置に配置した。
このため、(1)の効果に加え、タイヤ4のバウンドやリバウンドによりサスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)が揺動したとき、サスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)の弾性支持部(各円筒ブッシュ62,63,64,65)の不要な変形・こじりが抑制され、乗心地の悪化や不要なトー変化を防止することができる。
【0044】
(3) 前記トーコントロールリンク7は、前記車体取付部(ボールジョイント71)と前記リンク取付部(ボールジョイント72)の両取付点を結ぶリンク軸LAを、車両前後方向に対して車幅方向外側に傾くリンク角度θを持たせて設定した。
このため、(2)の効果に加え、タイヤ4に前後力(制動力や駆動力)が加わったとき、サスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)のブッシュ変形により回転変位することで、タイヤ4にコンプライアンスステアを発生させることができる。
【0045】
(4) 前記トーコントロールリンク7は、前記リンク取付部(ボールジョイント72)の位置を、前記サスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)の2つの車体側支持部(前側円筒ブッシュ62,後側円筒ブッシュ63)のうち、車両前方の車体側支持部(前側円筒ブッシュ62)の位置より車両後方位置に配置した。
このため、(2)または(3)の効果に加え、旋回時、タイヤ4に横力が加わったとき、サスペンションリンク(Hアーム型ロアリンク6)のブッシュ変形により回転変位することで、タイヤ4にコンプライアンスステアを発生させることができる。
【0046】
(5) 前記トーコントロールリンク7は、前記車体側部材(サスペンションメンバ1)に対し車両前後位置で弾性支持する2つの車体側支持部を前側円筒ブッシュ62と後側円筒ブッシュ63とし、前記後側円筒ブッシュ63の内筒を貫通するボルト軸(スタッドボルト軸11)を、前記車体取付部(ボールジョイント71)とした。
このため、(3)または(4)の効果に加え、タイヤ4に制動力が加わったとき、また、旋回外輪となるタイヤ4に内向きの横力が加わったとき、タイヤ4にトーインによるコンプライアンスステアを発生させることができる。
【実施例2】
【0047】
実施例2は、実施例1の車両用サスペンション装置を、インホイールモータを搭載した電気自動車のサスペンションに適用した例である。
【0048】
まず、構成を説明する。
図6は、実施例2の車両用サスペンション装置の構成を示す平面図である。以下、図1に基づき構成を説明する。
【0049】
実施例2の車両用サスペンション装置は、図6に示すように、サスペンションメンバ1(車体側部材)と、アクスルハブ2(車輪支持部材)と、ホイール3と、タイヤ4と、Iアーム型アッパーリンク5(アッパーリンク)と、Hアーム型ロアリンク6(サスペンションリンク、ロアリンク)と、トーコントロールリンク7と、インホイールモータ8と、を備えている。なお、図6において、FRはフロント(車両前方)をあらわし、OUTは車幅方向のうち外側方向をあらわす。
【0050】
前記インホイールモータ8は、ホイール3とタイヤ4による車輪のハブ内部に装備されている。そして、Iアーム型アッパーリンク5とHアーム型ロアリンク6は、インホイールモータ8のモータケースを車輪支持部材としている。
なお、他の構成は、実施例1の図1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
次に、作用を説明する。
上記比較例2の課題で述べたように、インホイールモータを搭載した電気自動車の場合、レイアウトの制約を受けてモータ径が小さくなったり、リンク長を確保できなくなることでトー角変化特性の適正化が困難となったりする。
【0052】
これに対し、実施例2の場合、トーコントロールリンク7は、Hアーム型ロアリンク6の車体取付部とHアーム61のリンク取付部を繋ぐものである。したがって、スペース占有率が低い短尺のトーコントロールリンク7となり、図6に示すように、トーコントロールリンク7を、インホイールモータ8とは、互いに干渉しない位置に配置することができる。
【0053】
このため、インホイールモータ8を、ハブ内部に装着するのに十分なスペースを確保されることになり、インホイールモータ8のモータ径の縮小化を防止することができると共に、トー角変化特性の適正化を確保することができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0054】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用サスペンション装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0055】
(6) 車輪(ホイール3、タイヤ4)のハブ内部に装備されたインホイールモータ8と、
前記インホイールモータ8の上側位置に車幅方向に配置され、前記車体側部材(サスペンション1と前記車輪支持部材(モータケース)を連結するアッパーリンク(Iアーム型アッパーリンク5)と、
前記サスペンションリンクは、前記インホイールモータ8の下側位置に車幅方向に配置することでロアリンク(Hアーム型ロアリンク6)とし、
前記アッパーリンク(Iアーム型アッパーリンク5)と前記ロアリンク(Hアーム型ロアリンク6)は、前記インホイールモータ8のモータケースを車輪支持部材とした。
このため、実施例1の(1)〜(5)の効果に加え、インホイールモータ8のモータ径の縮小化を防止することができると共に、トー角変化特性の適正化を確保することができる。
【実施例3】
【0056】
実施例1,2はトーコントロールリンク7を車両後側の車体側支持部に設定したのに対し、実施例3は、トーコントロールリンク7を車両前側の車体側支持部に設定した例である。
【0057】
まず、構成を説明する。
図7は、実施例3の車両用サスペンション装置の構成を示す平面図である。以下、図7に基づき構成を説明する。
【0058】
実施例3の車両用サスペンション装置は、図7に示すように、サスペンションメンバ1(車体側部材)と、アクスルハブ2(車輪支持部材)と、ホイール3と、タイヤ4と、Iアーム型アッパーリンク5(アッパーリンク)と、Hアーム型ロアリンク6(サスペンションリンク、ロアリンク)と、トーコントロールリンク7と、を備えている。
【0059】
前記トーコントロールリンク7は、実施例1と同様に、車体取付部に設けたボールジョイント71と、リンク取付部に設けたボールジョイント72と、両ボールジョイント71,72を繋ぐリンク本体73と、を有する。そして、ボールジョイント71(車体取付部)を、前側円筒ブッシュ62の内筒を貫通するスタッドボルト軸12に設けることにより、2つの円筒ブッシュ62,63の両支持点S1,S2を結ぶ車体側揺動軸SAを通る位置に配置している。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0060】
次に、作用を説明する。
実施例3では、トーコントロールリンク7の車体取付部を、前側円筒ブッシュ62の位置としている。このため、タイヤ4に制動力が加わったとき、Hアーム型ロアリンク6のブッシュ変形により回転変位することで、タイヤ4にトーアウトによるコンプライアンスステアを発生させることができる。また、旋回時、タイヤ4に車両内方向の横力が加わったとき、タイヤ4にトーアウトによるコンプライアンスステアを発生させることができる。なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0061】
次に、効果を説明する。
実施例3の車両用サスペンション装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0062】
(7) 前記トーコントロールリンク7は、前記車体側部材(サスペンションメンバ1)に対し車両前後位置で弾性支持する2つの車体側支持部を前側円筒ブッシュ62と後側円筒ブッシュ63とし、前記前側円筒ブッシュ62の内筒を貫通するボルト軸(スタッドボルト軸12)を、前記車体取付部(ボールジョイント71)とした。
このため、(3)または(4)の効果に加え、タイヤ4に制動力が加わったとき、また、旋回外輪となるタイヤ4に内向きの横力が加わったとき、タイヤ4にトーアウトによるコンプライアンスステアを発生させることができる。
【0063】
以上、本発明の車両用サスペンション装置を実施例1〜3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0064】
実施例1〜3では、サスペンションリンクとして、Hアーム型ロアリンク6を用いる例を示した。しかし、サスペンションリンクとしては、アッパーとロアに分けずに1つの揺動リンクによる例としても良いし、また、Hアーム型ロアリンク以外の形式、例えば、Aアーム型リンク等であっても良い。
【0065】
実施例1〜3のサスペンション装置は、車両の前輪または後輪のサスペンションの何れか、あるいは、前後輪のサスペンションに適用することができる。
【0066】
実施例1〜3では、トーコントロールリンク7の車体側取付部を、サスペンションメンバ1に対し車両前後位置で弾性支持する前側円筒ブッシュ62(実施例3)と後側円筒ブッシュ63(実施例1,2)とする例を示した。しかし、トーコントロールリンク7の車体側取付部を、両円筒ブッシュ62,63の間の位置であって、車体側揺動軸SAの近傍位置に設定するような例としても良い。
【0067】
実施例1〜3のサスペンション装置を備えた車両としては、エンジン車(ガソリンエンジン車、ディゼルエンジン車、等)や電動車両(電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車、等)の何れの車両に対しても適用できる。特に、インホイールモータを搭載した電気自動車(IWM−EV)に適用した場合、トー角調整によるコンプライアンスステア機能を発揮しながらパッケージング効率が向上する点で有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 サスペンションメンバ(車体側部材)
11 スタッドボルト軸(ボルト軸)
12 スタッドボルト軸(ボルト軸)
2 アクスルハブ(車輪支持部材)
3 ホイール(車輪)
4 タイヤ(車輪)
5 Iアーム型アッパーリンク(アッパーリンク)
6 Hアーム型ロアリンク(サスペンションリンク)
61 Hアーム(リンク本体部)
62 前側円筒ブッシュ(車体側支持部)
63 後側円筒ブッシュ(車体側支持部)
7 トーコントロールリンク
71 ボールジョイント(車体取付部)
72 ボールジョイント(リンク取付部)
8 インホイールモータ
SA 車体側揺動軸
LA リンク軸
θ リンク角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材と車輪支持部材の間に車幅方向に配置され、リンク本体部と、前記車体側部材に対し弾性支持する車体側支持部と、前記車輪支持部材に対し弾性支持する車輪側支持部と、を有するサスペンションリンクと、
前記サスペンションリンクの車体取付部と前記リンク本体部のリンク取付部を繋いで配置され、タイヤからの入力時、入力との連成により前記サスペンションリンクの弾性変位をトー角発生方向に規定するトーコントロールリンクと、
を備えたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用サスペンション装置において、
前記トーコントロールリンクは、前記車体取付部と前記リンク取付部をボールジョイントにすると共に、前記車体取付部を、前記サスペンションリンクの車体側揺動軸を通る位置に配置したことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両用サスペンション装置において、
前記トーコントロールリンクは、前記車体取付部と前記リンク取付部の両取付点を結ぶリンク軸を、車両前後方向に対して車幅方向外側に傾くリンク角度を持たせて設定したことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載された車両用サスペンション装置において、
前記トーコントロールリンクは、前記リンク取付部の位置を、前記サスペンションリンクの2つの車体側支持部のうち、車両前方の車体側支持部の位置より車両後方位置に配置したことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載された車両用サスペンション装置において、
前記トーコントロールリンクは、前記車体側部材に対し車両前後位置で弾性支持する2つの車体側支持部を前側円筒ブッシュと後側円筒ブッシュとし、前記後側円筒ブッシュの内筒を貫通するボルト軸を、前記車体取付部としたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載された車両用サスペンション装置において、
前記トーコントロールリンクは、前記車体側部材に対し車両前後位置で弾性支持する2つの車体側支持部を前側円筒ブッシュと後側円筒ブッシュとし、前記前側円筒ブッシュの内筒を貫通するボルト軸を、前記車体取付部としたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れか1項に記載された車両用サスペンション装置において、
車輪のハブ内部に装備されたインホイールモータと、
前記インホイールモータの上側位置に車幅方向に配置され、前記車体側部材と前記車輪支持部材を連結するアッパーリンクと、
前記サスペンションリンクは、前記インホイールモータの下側位置に車幅方向に配置することでロアリンクとし、
前記アッパーリンクと前記ロアリンクは、前記インホイールモータのモータケースを車輪支持部材としたことを特徴とする車両用サスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−11901(P2012−11901A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150781(P2010−150781)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】