説明

車両用ブレーキ装置および車両用ブレーキ制御プログラム

【課題】 車両用ブレーキ装置において、液圧ブレーキ装置を小型軽量化した上で、回生ブレーキ装置による回生制動力が変動した場合にその変動による制動力の不足を液圧ブレーキ装置による液圧制動力によって補償する。
【解決手段】ブレーキ操作に関わりなくポンプを駆動させつつ形成する制御液圧をホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を付与可能である液圧ブレーキ装置と、ブレーキ操作の状態を検出するブレーキ操作状態検出手段によって検出されたブレーキ操作状態に対応した回生制動力を車輪の何れかを駆動させるモータによって同車輪に発生させる回生ブレーキ装置と、回生制動力の変動による制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作状態に応じて車輪に付与する目標回生制動力を液圧ブレーキ装置による液圧制動力と回生ブレーキ装置による回生制動力との和によって達成する車両用ブレーキ装置および車両用ブレーキ制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回生制動を行う電気自動車やハイブリッド車などの駆動源としてモータを備えた電動車に好適で、構成が簡単で安価な車両用液圧ブレーキ装置は知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の車両用液圧ブレーキ装置は、特許文献1の図1に示されているように、ブレーキ操作とは無関係に所定の液圧を発生し出力する液圧発生装置12と、この液圧発生装置12から供給される液圧P1をブレーキ操作力に応じた液圧P2に調圧し出力する調圧弁16と、この調圧弁16から補助液圧室19に供給された液圧により作動して補助液圧室19内の液圧P3に応じた液圧P4を第1のマスターシリンダ液圧室18eに発生し出力するマスターシリンダ18と、このマスターシリンダ18の出力液圧P4により作動して車両の車輪に制動力を付与するホイールシリンダ22〜25とを備えたものであり、調圧弁16の出力側と補助液圧室19とを接続する液圧路17に、補助液圧室19内の補助液圧値を調圧弁16の出力液圧値以下の任意の液圧値に調整するための電磁比例弁26、27が接続されている。
【0003】
そして、電気的制御装置13は、図示しない駆動/回生制御用電気的制御装置から回生制動力の大きさに関する情報を受け取り、運転者が要求する制動力から回生制動力を差し引いた分がホイールシリンダ22〜25の作動によって発生する制動力となるように、電磁比例弁26、27を操作している。また、回生制動力の大きさは、バッテリの充電状態や車速などにより様々に変化するものである。従って、補助液圧室19の補助液圧を増圧または減圧して任意の液圧値に調整可能なことが最も望ましい。
【特許文献1】特開2002−264795号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された車両用液圧ブレーキ装置においては、回生制動力が変動した場合でも、その変動に対して補助液圧室19の補助液圧を増圧または減圧して任意の液圧値に調整することにより、運転者が要求する制動力を付与することを達成しているが、アキュムレータなどの液圧発生装置12、調圧弁16、補助液圧室19などが必要であり、装置自体は依然として大型であり、また重いという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、車両用ブレーキ装置において、液圧ブレーキ装置を小型軽量化した上で、回生ブレーキ装置による回生制動力が変動した場合にその変動による制動力の不足を液圧ブレーキ装置による液圧制動力によって補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、
前記回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、
前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧をホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、変動検出手段にて変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は請求項2において、液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダにブレーキ操作を増大する倍力装置が接続され、マスタシリンダは、倍力装置によって増大された力に応じた基礎液圧を発生することである。
【0009】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、倍力装置は、負圧式倍力装置であることである。
【0010】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、制動力補償手段は、前後系統式のブレーキ系統を有する車両の前後両系統にそれぞれ備えられた液圧制御弁を制御することである。
【0011】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項5において、前後系統にて所定の前後制動力配分を規定する前後制動力配分規定手段と、前後系統の各車輪に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、制動力検出手段にて検出した制動力が規定された前後制動力配分に対して不足する場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前後制動力配分に対する不足を補償する前後制動力配分補償手段を備えたことである。
【0012】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、前後系統式のブレーキ系統を有する車両に備えられて、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、当該マスタシリンダに前後両系統にそれぞれ備えられた液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに発生した基礎液圧を付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧をホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、前後系統にて所定の前後制動力配分を規定する前後制動力配分規定手段と、前後系統の各車輪に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、制動力検出手段にて検出した制動力が規定された前後制動力配分に対して不足する場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前後制動力配分に対する不足を補償する前後制動力配分補償手段を備えたことである。
【0013】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項7において、前後制動力配分補償手段は、変動検出手段にて変動が検出された場合、前後制動力配分に対する不足を補償することである。
【0014】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、液圧制御弁の下流に液圧センサを配置し、制動力補償手段若しくは前後制動力配分補償手段は、当該液圧センサの出力に基づいて液圧制御弁を制御することである。
【0015】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項9において、液圧制御弁は、分離された複数系統毎に備えられ、液圧センサは、当該系統の各液圧制御弁の下流に配置されたことである。
【0016】
請求項11に係る発明の構成上の特徴は、請求項9において、液圧制御弁は、分離された複数系統毎に備えられ、液圧センサは、各系統のABS制御弁の下流、かつ、当該ABS制御弁が配設されたABS制御ユニットの外部に配置されたことである。
【0017】
請求項12に係る発明の構成上の特徴は、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧をホイールシリンダに付与し同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御装置であって、ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、変動検出手段にて変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことである。
【0018】
請求項13に係る発明の構成上の特徴は、請求項12において、変動検出手段は、ブレーキ操作状態に基づいて回生ブレーキ装置の目標回生制動力を演算する目標回生制動力演算手段と、該目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置が実際に車輪に付与した実回生制動力を入力する実回生制動力入力手段と、目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力と実回生制動入力手段によって入力された実回生制動力の差を演算する差演算手段と、該差演算手段によって演算された差が所定値より大きければ、回生制動力が変動したことを検出する判定手段とを備えたことである。
【0019】
請求項14に係る発明の構成上の特徴は、請求項12において、制動力補償手段は、ブレーキ操作状態に基づいて回生ブレーキ装置の目標回生制動力を演算する目標回生制動力演算手段と、該目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置が実際に車輪に付与した実回生制動力を入力する実回生制動力入力手段と、目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力と実回生制動入力手段によって入力された実回生制動力の差を演算する差演算手段と、該差演算手段によって演算された差に相当する制動力となるように、制御液圧を形成する制御手段とを備えたことである。
【0020】
請求項15に係る発明の構成上の特徴は、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧をホイールシリンダに付与し同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置を制御する機能をコンピュータに実行させる液圧ブレーキ制御プログラムであって、ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出する変動検出機能と、変動検出手段にて変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償機能とを備えたことである。
【0021】
請求項16に係る発明の構成上の特徴は、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、
前記回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、
ブレーキ操作に基づいて前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに、前記変動検出手段にて前記変動が検出された場合、前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことである。
【0022】
請求項17に係る発明の構成上の特徴は、請求項16において、前記ポンプの駆動を、ブレーキ操作がなくなった場合に、停止することである。
【0023】
請求項18に係る発明の構成上の特徴は、請求項16において、前記ポンプの駆動を、車両が停止された場合に、停止することである。
【発明の効果】
【0024】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、従来から存在する液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを組み合わせることにより、回生協調制御が可能となる。したがって、簡単な構成かつ安価にて回生協調制御が可能である車両用ブレーキ装置を提供することができる。さらに、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する。したがって、従来から存在する液圧ブレーキ装置を構成する調圧手段を制動力補償手段として利用するので、簡単な構成にて、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0025】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、回生制動力に変動があった場合には、変動検出手段が、回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出し、制動力補償手段が、変動検出手段にて変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する。したがって、従来から存在する液圧ブレーキ装置を構成する調圧手段を制動力補償手段として利用するので、簡単な構成にて、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0026】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1又は請求項2において、液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダにブレーキ操作を増大する倍力装置が接続され、マスタシリンダは、倍力装置によって増大された力に応じた基礎液圧を発生することにより、従来から一般に普及されている信頼性のある安価な液圧ブレーキ装置を使用することができる。
【0027】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項3において、倍力装置は、負圧式倍力装置であることにより、簡単な構成とすることができる。
【0028】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、制動力補償手段は、前後系統式のブレーキ系統を有する車両の前後両系統にそれぞれ備えられた液圧制御弁を制御することにより、前後両系統の制動力を独立かつ確実に制御することができる。
【0029】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、前後制動力配分規定手段が、前後系統にて所定の前後制動力配分を規定し、制動力検出手段が、前後系統の各車輪に発生する制動力を検出し、前後制動力配分補償手段が、制動力検出手段にて検出した制動力が規定された前後制動力配分に対して不足する場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前後制動力配分に対する不足を補償する。したがって、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を前後両系統にそれぞれ安定的に付与することができる。
【0030】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、前後系統式のブレーキ系統を有する車両においても、従来から存在する液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを組み合わせることにより、回生協調制御が可能となる。したがって、簡単な構成かつ安価にて回生協調制御が可能である車両用ブレーキ装置を提供することができる。さらに、変動検出手段が、回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出し、前後制動力配分規定手段が、前後系統にて所定の前後制動力配分を規定し、制動力検出手段が、前後系統の各車輪に発生する制動力を検出し、前後制動力配分補償手段が、制動力検出手段にて検出した制動力が規定された前後制動力配分に対して不足する場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前後制動力配分に対する不足を補償する。したがって、簡単な構成にて、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0031】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項7において、前後制動力配分補償手段は、変動検出手段にて変動が検出された場合、前後制動力配分に対する不足を補償することにより、制動時において車両の安定性をより高く維持することができる。
【0032】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、液圧制御弁の下流に液圧センサを配置し、制動力補償手段若しくは前後制動力配分補償手段は、当該液圧センサの出力に基づいて液圧制御弁を制御することにより、液圧センサの検出信号に基づいて液圧制御弁をフィードバック制御し制御液圧をホイールシリンダに供給するので、ホイールシリンダに供給される制御液圧にバラツキを生じることがなく、良好な減速度のフィーリングを得ることができる。
【0033】
上記のように構成した請求項10に係る発明においては、請求項9において、液圧制御弁は、分離された複数系統毎に備えられ、液圧センサは、当該系統の各液圧制御弁の下流に配置されたことにより、各系統の液圧制御弁の下流に接続された液圧センサの検出信号に基づいて液圧制御弁をフィードバック制御し制御液圧を制御制動力付与装置から各ホイールシリンダに供給するので、各ホイールシリンダに制御液圧を正確に供給し、適切な制御液圧制動力を各車輪に付与することができる。
【0034】
上記のように構成した請求項11に係る発明においては、請求項9において、液圧制御弁は、分離された複数系統毎に備えられ、液圧センサは、各系統のABS制御弁の下流、かつ、当該ABS制御弁が配設されたABS制御ユニットの外部に配置されたことにより、ABS制御弁のアウトポートをホイールシリンダに接続する配管に液圧センサを接続することができ、通常のガソリンエンジン車にも使用される汎用性のあるブレーキアクチュエータを変更することなく、液圧センサを簡単に低コストで接続することができる。この場合、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置との協調制御は、アンチロックブレーキ制御と同時に行なわれることがないので、協調制御のときにABS制御弁が開閉されることがなく、ABS制御弁の下流に接続された液圧センサの検出信号に基づいて液圧制御弁をフィードバック制御し、制御液圧を各ホイールシリンダに正確に供給することができる。
【0035】
上記のように構成した請求項12に係る発明においては、従来から存在する液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを組み合わせることにより、回生協調制御が可能となる。したがって、簡単な構成かつ安価にて回生協調制御が可能である車両用ブレーキ装置を提供することができる。さらに、回生制動力に変動があった場合には、変動検出手段が、回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出し、制動力補償手段が、変動検出手段にて変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する。したがって、簡単な構成にて、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0036】
上記のように構成した請求項13に係る発明においては、請求項12において、目標回生制動力演算手段が、ブレーキ操作状態に基づいて回生ブレーキ装置の目標回生制動力を演算し、実回生制動力入力手段が、該目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置が実際に車輪に付与した実回生制動力を入力し、差演算手段が、目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力と実回生制動入力手段によって入力された実回生制動力の差を演算し、判定手段が、該差演算手段によって演算された差が所定値より大きければ、回生制動力が変動したことを検出する。これにより、確実に変動検出手段によって回生制動力の変動を検出することができる。
【0037】
上記のように構成した請求項14に係る発明においては、請求項12において、目標回生制動力演算手段が、ブレーキ操作状態に基づいて回生ブレーキ装置の目標回生制動力を演算し、実回生制動力入力手段が、該目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置が実際に車輪に付与した実回生制動力を入力し、差演算手段が、目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力と実回生制動入力手段によって入力された実回生制動力の差を演算し、制御手段が、該差演算手段によって演算された差に相当する制動力となるように、制御液圧を形成する。これにより、制動力補償手段は、的確に制動力を補償することができる。
【0038】
上記のように構成した請求項15に係る発明においては、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧をホイールシリンダに付与し同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置を制御する機能をコンピュータに実行させる液圧ブレーキ制御プログラムであって、ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出する変動検出機能と、変動検出手段にて変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償機能とを備えたことにより、回生制動力に変動があった場合には、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0039】
上記のように構成した請求項16に係る発明においては、ブレーキ操作に基づいて液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに、変動検出手段にて変動が検出された場合、液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことにより、ポンプ駆動開始時のブレーキペダルの吸い込みをドライバに感じさせないようにすることができ、ブレーキフィーリングを向上することができる。
【0040】
上記のように構成した請求項17に係る発明においては、請求項16において、ポンプの駆動を、ブレーキ操作がなくなった場合に、停止することにより、ポンプの駆動停止に伴うブレーキペダルの挙動がドライバに伝えられることがなく、ブレーキフィーリングを阻害することがない。
【0041】
上記のように構成した請求項18に係る発明においては、請求項16において、ポンプの駆動を、車両が停止された場合に、停止することにより、ブレーキ操作中においてもポンプの駆動を停止することができるので、バッテリの消耗を抑制でき、バッテリ効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明に係る車両用ブレーキ装置の一実施の形態を図面を参照して説明する。車両用ブレーキ装置は、図1に示すように、前輪駆動の電動車に適用されるように構成されたものであり、液圧ブレーキ装置11と、回生ブレーキ装置12と、これら両装置11,12を協調制御するブレーキECU13と、ブレーキECU13からの要求値に応じてインバータ16を介して電動車の駆動源であるモータ14を制御するハイブリッドECU15とを備えている。
【0043】
液圧ブレーキ装置11は、ブレーキ操作すなわちブレーキペダル20の踏込操作により生じるブレーキ操作力を倍力装置であるバキュームブースタ27にて増大しその力に応じて発生する基礎液圧を各車輪のホイールシリンダ30に付与して同各車輪23に基礎液圧制動力を付与するとともに、ブレーキ操作に関わりなくポンプ38を駆動させつつ形成する制御液圧をホイールシリンダ30に付与して同ホイールシリンダ30に対応する車輪23に制御液圧制動力を付与可能であるものである。回生ブレーキ装置12は、ブレーキ操作の状態を検出するブレーキ操作状態検出手段である液圧センサ(マスタシリンダ圧センサ)29によって検出されたブレーキ操作状態に対応した回生制動力を車輪23の何れかを駆動させるモータ22によって同車輪23に発生させるものである。
【0044】
液圧ブレーキ装置11には、図2に示すように、運転者がブレーキペダル20を踏むことにより左右の前輪23fl,23frおよび左右の後輪23rl,23rrに夫々制動力を付与する略同じ構成の前輪ブレーキ系統24fおよび後輪ブレーキ系統24rが分離して設けられている。図2において前輪および後輪ブレーキ系統24f,24rを夫々構成する構成部品は構成および作動が同じであるので、夫々対応する構成部品には同一の算用数字にローマ字のf、rを夫々付加した参照符号を付して前後を区別した。さらに、左右輪における同一構成部品には、前後輪を区別するローマ字のf、rの次にl、rを付加して左右を区別した。なお、明細書中で構成部品を前後左右の区別無く示すときは対応する算用数字のみを参照番号として付した。
【0045】
25はデュアル式のマスタシリンダであり、ブレーキペダル20が踏まれるとペダル踏力に応じた液圧のブレーキ液を液圧室25f,25rから管路(油経路)26f,26rに送出する。27はブレーキペダル20により前後方向に軸動される作動ロッドとマスタシリンダ25のピストンロッドとの間に介在された倍力装置としてのバキュームブースタであり、エンジンの吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル20に作用するペダル踏力を倍力(増大)する。28はブレーキ液を貯溜するリザーバであり、マスタシリンダ25にブレーキ液を補給する。
【0046】
マスタシリンダ25は、バキュームブースタ27により増大された力に応じた基礎液圧を発生する。マスタシリンダ25から送出された基礎液圧は管路26f,26rを通って左右のホイールシリンダ30fl,30fr,30rl,30rrに夫々供給され、これにより、ブレーキ手段31の摩擦部材が作動されて左右の前輪23fl,23fr、左右の後輪23rl,23rrに基礎液圧制動力が付与される。ブレーキ手段31としては、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等があり、ブレーキパッド、ブレーキシュー等の摩擦部材が車輪に一体のディスクロータ、ブレーキドラム等の回転を規制することにより、車輪に制動力を付与する。
【0047】
前輪および後輪ブレーキ系統24f,24r毎には制動力補償手段である液圧制御弁をなすソレノイド液圧比例制御弁32f,32rが設けられ、その入口ポートは管路26f,26rを介してマスタシリンダ25の液圧室25f,25rに夫々接続されている。ソレノイド液圧比例制御弁32は出口ポートの液圧が入口ポートの液圧よりリニアソレノイド33に印加される制御電流に応じてゼロから制御差圧だけ高くなるように圧力制御するものである。通常の制御の場合、ソレノイド液圧比例制御弁32はリニアソレノイド33の付勢により開位置にシフトされ、入口ポートと出口ポートとが直通されている。ソレノイド液圧比例制御弁32f,32rの入口ポートおよび出口ポート間には入口ポートから出口ポートへの液流を許容する逆止弁が接続されている。
【0048】
管路26fには液圧センサ29が液圧室25fとソレノイド液圧比例制御弁32fとの間に接続され、液圧センサ29はマスタシリンダ25から送出される液圧(マスタシリンダ圧)を検出してブレーキECU13に送信している。マスタシリンダ圧はブレーキ操作状態を表すので、ブレーキ操作状態検出手段となる。
【0049】
ソレノイド液圧比例制御弁32f,32rの各出口ポートに接続された管路26f,26rは分岐されて左右の前輪用ホイールシリンダ30fl,30frおよび左右の後輪用ホイールシリンダ30rl,30rrにソレノイド開閉弁34fl,34frおよび34rl,34rrを介して夫々接続されている。ソレノイド開閉弁34fl,34fr,34rl,34rrの各入口ポートおよび出口ポート間には出口ポート側から入口ポート側への液流を許容する逆止弁が接続されている。ソレノイド開閉弁34fl,34frおよび34rl,34rrの各出口ポートとリザーバ35fおよび35rとの間には、ソレノイド開閉弁36fl,36frおよび36rl,36rrが夫々接続されている。リザーバ35f,35rは有底のケーシング内に圧縮スプリングで付勢されたピストンが摺動可能に液密に収納されるように構成されている。ソレノイド開閉弁34および36によりホイールシリンダ30内の圧力を増圧、保持、減圧制御するABS制御弁37が構成されている。
【0050】
前輪および後輪ブレーキ系統24f,24rのABS制御弁37f,37rの下流には、液圧センサ40f,40rが夫々接続されている。既存のブレーキアクチュエータ48は、ソレノイド液圧比例制御弁32、ABS制御弁37f,37r、リザーバ35、液圧ポンプ38、モータ39等を一つのケースにパッケージして構成されているが、液圧センサ40f,40rは各系統24f,24rのABS制御弁37f,37rの下流に夫々接続するので、ABS制御弁37f,37rのアウトポートをホイールシリンダ30fr,30rlに接続する配管にホイールシリンダ30fr,30rlに接近して接続することができ、汎用性のあるブレーキアクチュエータ48を変更することなく、液圧センサ40f,40rを簡単に低コストで接続することができる。この場合、液圧ブレーキ装置11と回生ブレーキ装置12との協調制御は、アンチロックブレーキ制御と同時に行なわれることがないので、強調制御のときにABS制御弁37f,37rが開閉されることがなく、ABS制御弁37f,37rの下流にホイールシリンダ30fr,30rlに接近して接続された液圧センサ40f,40rの検出信号に基づいてソレノイド液圧比例制御弁32f,32rをフィードバック制御し、必要液圧を各ホイールシリンダ30f,30rに正確に供給することができる。なお、汎用性のあるブレーキアクチュエータ48を変更することなく、液圧センサ40f,40rを簡単に接続するという効果は期待できないが、液圧センサ40f,40rは、ソレノイド液圧比例制御弁32f,32rとABS制御弁37f,37rとの間に夫々接続してもよい。
【0051】
液圧発生装置であるポンプ38f,38rはモータ39により駆動されるものである。ポンプ38の各吐出ポートは該吐出ポートへの液流を阻止する逆止弁41f,41rを介してソレノイド液圧比例制御弁32f,32rの出口ポートとABS制御弁37f,37rの入口ポートとの間に接続されている。ポンプ38の各吸入ポートは、ソレノイド液圧比例制御弁32f,32rの入口ポートにソレノイド開閉弁46f,46rを介して接続されるとともに、ABS制御弁37f,37rのソレノイド開閉弁36f,36rの出口ポートとリザーバ35f,35rとの間にも接続されている。42f,42rはポンプ38f,38rから吐出された液圧の脈動を吸収するためのダンパである。
【0052】
上述したポンプ38、モータ39、ソレノイド液圧比例制御弁32等により、液圧発生装置からホイールシリンダ30に供給される液圧を車両の走行状態に応じて液圧制御弁により調圧して制御液圧を生成しその制御液圧をホイールシリンダ30に付与することにより車輪23に制御液圧制動力を付与する制御液圧制動力付与装置43が構成されている。制御液圧制動力付与装置43は、分離された複数の系統毎に液圧制御弁であるソレノイド液圧比例制御弁32f,32rを有し、各液圧制御弁32f,32rにより形成された制御液圧を各ホイールシリンダ30f,30rに供給する。この液圧制御弁32が、液圧ブレーキ装置11のポンプ38を駆動させつつ制御液圧を形成して車輪23に制御液圧制動力を付与することにより、変動検出手段(後述する)によって検出された回生制動力の変動による制動力の不足を補償する制動力補償手段である。制動力補償手段は、前後系統式のブレーキ系統を有する車両の前後輪両系統にそれぞれ備えられることが好ましく、さらに理想制動力配分となるように調圧制御されることが好ましい。
【0053】
液圧ブレーキ装置11は、踏力を増大させる倍力装置27と、この増大された力に応じた基礎液圧を発生するマスタシリンダ25と、このマスタシリンダ25の基礎液圧がホイールシリンダ30に供給され車輪23に基礎液圧制動力を付与するブレーキ手段31と、ポンプ38からホイールシリンダ30に供給される液圧を車両の走行状態に応じてソレノイド液圧比例制御弁32により制御しブレーキ手段31に制御された制動力を発生させる制御液圧制動力付与装置43とから構成されている。また、上述した制御液圧制動力付与装置43、ABS制御弁37、リザーバ35等、図2にて2点破線で囲まれた範囲を一つのケースにパッケージしてブレーキアクチュエータ48が構成されている。このブレーキアクチュエータ48は既存のものである。
【0054】
上述した液圧ブレーキ装置11は、下記のようなトラクションコントロール、ブレーキアシスト制御、坂道発進制御、アクティブクルーズコントロールなどを実行することができる。トラクションコントロールは、駆動輪(本実施の形態だは前輪23f)のスリップ量が所定値を超え且つ増加するときは、圧力発生装置から駆動輪のホイールシリンダに液圧を供給し、この液圧をスリップ量に応じて液圧制御弁により制御し、スリップ量が所定値を超え且つ増加しないときは、圧力発生装置を停止し、駆動輪のホイールシリンダにスリップ量に応じて液圧制御弁により制御される液圧を封止し、スリップ量が所定値以下のときは駆動輪のホイールシリンダをリザーバに接続し、これによりブレーキ手段にスリップ量に応じた液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0055】
ブレーキアシスト制御は、緊急にブレーキを掛けた場合や、強い制動力を発生させる場合などに、圧力発生装置から駆動輪のホイールシリンダに液圧を供給し、この液圧をマスタシリンダから供給される液圧より大きい液圧に液圧制御弁によって制御し、これによりブレーキ手段に大きい液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0056】
坂道発進制御は、坂道での発進時に、圧力発生装置から駆動輪のホイールシリンダに液圧を供給し、この液圧を液圧制御弁により停止保持液圧に制御し、これによりブレーキ手段に車両を坂道に停止保持する液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0057】
アクティブクルーズコントロールは、車間距離を所定値以上に保つために、圧力発生装置から駆動輪のホイールシリンダに液圧を供給し、この液圧を液圧制御弁により制御し、車間距離が所定値以下になるとブレーキ手段に自動的に液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0058】
そして、車両用ブレーキ装置は、液圧センサ29、ソレノイド液圧比例制御弁32、ソレノイド開閉弁34,36,46、モータ39、および各車輪23の車輪速度を検出する車輪速センサ47に接続されたブレーキECU(電子制御ユニット)13を備えている。ブレーキECU13は、これら各センサによる検出及びシフトスイッチの状態に基づき、液圧ブレーキ装置11の各弁34,36,46の開閉を切り換え制御または通電電流制御しホイールシリンダWC1〜WC4に付与する制御液圧すなわち各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制御液圧制動力を制御する。
【0059】
さらに、ブレーキECU13はハイブリッドECU15に互いに通信可能に接続されており、車両の全制動力が油圧ブレーキだけの車両と同等となるようにモータ14が行う回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御を行っている。具体的には、ブレーキECU13は運転者の制動要求すなわち制動操作状態に対して、ハイブリッドECU15に全制動力のうち回生ブレーキ装置の負担分である回生要求値を回生ブレーキ装置の目標値すなわち目標回生制動力として出力する。ハイブリッドECU15は、入力した回生要求値(目標回生制動力)に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して実際に回生ブレーキとして作用させる実回生実行値を導出しその実回生実行値に相当する回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、導出した実回生実行値をブレーキECU43に出力している。
【0060】
さらに、ブレーキECU13は、基礎液圧がホイールシリンダ30に供給されたとき、ブレーキ手段31が車輪23に付与する基礎液圧制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU13は、マスタシリンダ圧によるブレーキ操作状態に応じて車輪23に付与する目標回生制動力をマップ、テーブルまたは演算式にしてメモリに予め記憶している。また、ブレーキECU13には、図3に示す協調制御プログラム(車両用ブレーキ制御プログラム)が記憶されている。
【0061】
回生ブレーキ装置12は、前輪23fを駆動させるモータ14と、モータ14に電気的に接続されているインバータ16と、インバータ16に電気的に接続されている直流電源としてのバッテリ18等から構成されている。インバータ16は、ハイブリッドECU15から供給される制御信号に応じてバッテリ18の直流電力を交流電力に変換してモータ14に供給し、モータ14により発電される交流電力を直流電力に変換してバッテリ18を充電するものである。
【0062】
ハイブリッドECU15は、インバータ16が互いに通信可能に接続されている。ハイブリッドECU15は、アクセルペダルに組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセルセンサも接続されており、アクセルセンサからアクセル開度信号を入力している。さらに、ハイブリッドECU15は、モータ14に内蔵されてモータ14の回転数を検出する回転センサ22が接続されており、回転数を入力している。ハイブリッドECU15は、アクセル開度(後述する)およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なモータトルクを導出し、その導出したモータトルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ14を制御する。また、ハイブリッドECU15は、バッテリ18の充電状態、充電電流などを監視している。
【0063】
次に、上記のように構成した車両用ブレーキ装置の作動を図3のフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU13は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間毎に実行する。ブレーキECU13は、ブレーキペダル20の操作状態であるマスタシリンダ圧を液圧センサ29から入力し(ステップ102)、入力したマスタシリンダ圧に応じた目標回生制動力を演算する(ステップ104:目標回生制動力演算手段)。このとき、ブレーキECU13は、予め記憶しておいたマスタシリンダ圧すなわちブレーキ操作状態と車輪23に付与する目標回生制動力との関係を示すマップ、テーブルまたは演算式を使用する。
【0064】
目標回生制動力が0より大きい場合には、ステップ104にて演算した目標回生制動力をハイブリッドECU15に出力するとともに、制御液圧制動力付与装置43に対して制御を行わない(ステップ106,108)。したがって、ブレーキペダル20が踏まれている場合、前述した場合と同様に、液圧ブレーキ装置11は車輪23f,23rに基礎液圧制動力(静圧ブレーキ)のみを付与する。また、ハイブリッドECU15は、目標回生制動力を示す回生要求値を入力し、その値に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、実回生実行値をブレーキECU43に出力している。したがって、ブレーキ操作がされて、かつ目標回生制動力が0より大きい場合には、車輪23には基礎液圧制動力に回生制動力が上乗せされて付与される。このように回生協調制御が実行されるが、このとき基礎液圧制動力と回生制動力はブレーキ操作力に応じているので、その一例を図4に示す。図4には、回生協調制御時のブレーキ操作力と、基礎液圧制動力と回生制動力との総和を示す車両減速度との相関関係が示されている。
【0065】
ブレーキECU13は、回生ブレーキ装置12によって実際に生成された回生制動力の変動を検出する(ステップ110〜114)。具体的には、ブレーキECU13は、ステップ104にて演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置12が実際に車輪23に付与した実回生制動力を示す実回生実行値を入力し(ステップ110:実回生制動力入力手段)、ステップ104にて演算された目標回生制動力とステップ110にて入力された実回生制動力の差を演算し(ステップ112:差演算手段)、この演算された差が所定値aより大きければ、回生制動力が変動したことを検出する(ステップ114:判定手段)。なお、ステップ104および110〜114の処理が、回生ブレーキ装置12により実際に生成された回生制動力の変動を検出する変動検出手段(処理(方法)としての)を構成するものである。また装置としての変動検出手段はブレーキECU13である。
【0066】
そして、ブレーキECU13は、回生制動力の変動を検出すると、ステップ114にてYESと判定し、液圧ブレーキ装置11のポンプ38を駆動させつつ制御液圧を形成して車輪23に制御液圧制動力を付与することにより、変動検出手段によって検出された回生制動力の変動による制動力の不足を補償する(ステップ116)。具体的には、ブレーキECU13は、ステップ104にて演算された目標際動力と、ステップ110にて入力された実回生制動力との差、すなわちステップ112にて演算された差に相当する液圧となるように制御液圧制動力付与装置43により形成される制御液圧を制御する。ブレーキECU13は、モータ39を起動してポンプ38を駆動し、ポンプ38からホイールシリンダ30に供給されるブレーキ液の液圧が制御液圧となるようにソレノイド液圧比例制御弁32のリニアソレノイド33に電流を印加する。このとき、リニアソレノイド33は液圧センサ40により検出されたホイールシリンダ30の液圧が制御液圧となるようにフィードバック制御されるのがより好ましい。これにより、ポンプ38からホイールシリンダ30に液圧が供給され、この液圧がソレノイド液圧比例制御弁32により制御液圧に制御され、液圧ブレーキ装置11は、目標回生制動力と実行回生制動力との差分である制御液圧制動力を車輪23に付与する。この制御液圧の制御の一例を図5に示す。図5には、回生制動力の変動時における時間と車両減速度との相関関係が示されている。回生制動力が減少している部分すなわち目標回生制動力に対して減少している部分を制御液圧制動力が補っている。
【0067】
一方、ブレーキECU13は、回生制動力の変動を検出しない場合には、ステップ114にてNOと判定し、制御液圧制動力付与装置43の制御を停止する(ステップ120)。
【0068】
上述した説明から明らかなように、従来から存在する液圧ブレーキ装置11と回生ブレーキ装置12とを組み合わせることにより、回生協調制御が可能となる。したがって、簡単な構成かつ安価にて回生協調制御が可能である車両用ブレーキ装置を提供することができる。さらに、回生制動力に変動があった場合には、ブレーキECU13が、回生ブレーキ装置12によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出し、変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置11のポンプ38を駆動させるとともに液圧制御弁32を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、検出された変動による回生制動力の不足を補償する。したがって、従来から存在する液圧ブレーキ装置11を構成する調圧手段である液圧制御弁を制動力補償手段として利用するので、簡単な構成にて、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0069】
また、液圧ブレーキ装置11は、マスタシリンダ25にブレーキ操作を増大する倍力装置27が接続され、マスタシリンダ25は、倍力装置27によって増大された力に応じた基礎液圧を発生することにより、従来から一般に普及されている信頼性のある安価な液圧ブレーキ装置を使用することができる。また、倍力装置27は、負圧式倍力装置であることにより、簡単な構成とすることができる。
【0070】
さらに、本実施の形態において、図4における回生制動力は回生ブレーキ装置12の発生能力に応じて、例えば最大回生能力に対応させて規定している。すなわち、回生制動力の負担割合が高すぎると、目標制動力を実現する際に制御液圧制動力付与装置43のポンプ38の負担が大きくなりブレーキフィーリングが悪化し、回生制動力の負担割合が低いと、回生制動力の余裕があるのに使用することができず、回生効率が悪化する。一方、上述したように回生ブレーキ装置12の回生制動力の発生能力に応じて、例えば最大回生能力に対応させて回生制動力の負担割合を規定すると、回生効率が向上することができるとともに、ポンプ38の負担を軽減できるため、ブレーキフィーリングを向上させることができる。また、車種によって回生能力が相違する場合、各車種の回生能力に応じて回生制動力の負担割合を適合させることによって、各車種において上述した効果を奏することができる。
【0071】
また、前後系統式のブレーキ系統を有する車両においても、従来から存在する液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置とを組み合わせることにより、回生協調制御が可能となる。したがって、簡単な構成かつ安価にて回生協調制御が可能である車両用ブレーキ装置を提供することができる。ブレーキECU13が、回生ブレーキ装置12によって実際に発生された回生制動力の回生制動力に対する変動を検出し、前後系統にて所定の前後制動力配分を規定し、前後系統の各車輪に発生する制動力を検出し、検出した制動力が規定された前後制動力配分に対して不足する場合、液圧ブレーキ装置11のポンプ38を駆動させるとともに液圧制御弁32を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前後制動力配分に対する不足を補償する。したがって、簡単な構成にて、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を前後両系統にそれぞれ安定的に付与することができる。また、前後系統式のブレーキ系統を有する車両の前後両系統にそれぞれ備えられた液圧制御弁32を制御することにより、前後両系統の制動力を独立かつ確実に制御することができる。
【0072】
このとき、前後制動力配分規定手段が、図6に示す理想制動力配分曲線f1に基づいて前後系統にて所定の前後制動力配分を規定する。制動力検出手段が、前後系統の各車輪に発生する制動力を検出する。前後制動力配分補償手段が、制動力検出手段にて検出した制動力が規定された前後制動力配分に対して不足する場合、液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに液圧制御弁を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前後制動力配分に対する不足を補償する。
【0073】
具体的には、図6に示すような理想制動力配分曲線f1となるように前輪および後輪の制動力をそれぞれ制御する。このとき、上述した実施の形態においては、前輪にのみ回生制動力を付与可能であるので、前輪制動力は液圧制動力(基礎液圧制動力+制御液圧制動力)と回生制動力の和であり、後輪制動力は液圧制動力(基礎液圧制動力+制御液圧制動力)のみ付与されることになる。そして、前輪および後輪の制動力が理想制動力配分曲線f1に基づく制動力に足りない場合には、その不足分を制御液圧制動力によって補償するようにすればよい。これによれば、制動時において車両の安定性をより高く維持することができる。
【0074】
また、前後制動力配分補償手段は、変動検出手段にて変動が検出された場合、前後制動力配分に対する不足を補償することにより、制動時において車両の安定性をより高く維持することができる。
【0075】
また、液圧制御弁32の下流に液圧センサ40を配置し、制動力補償手段若しくは前後制動力配分補償手段は、当該液圧センサ40の出力に基づいて液圧制御弁32を制御することにより、液圧センサ40の検出信号に基づいて液圧制御弁32をフィードバック制御し制御液圧をホイールシリンダ30に供給するので、ホイールシリンダ30に供給される制御液圧にバラツキを生じることがなく、良好な減速度のフィーリングを得ることができる。
【0076】
また、液圧制御弁32は、分離された複数系統毎に備えられ、液圧センサ40は、当該系統の各液圧制御弁32の下流に配置されたことにより、各系統の液圧制御弁32の下流に接続された液圧センサ40の検出信号に基づいて液圧制御弁32をフィードバック制御し制御液圧を制御制動力付与装置43から各ホイールシリンダ30に供給するので、各ホイールシリンダ30に制御液圧を正確に供給し、適切な制御液圧制動力を各車輪に付与することができる。
【0077】
また、ブレーキECU13においては、回生制動力に変動があった場合には、ステップ104、110〜114によって、回生ブレーキ装置12によって実際に生成された回生制動力の変動を検出し、ステップ116が、ステップ104、110〜114にて変動が検出された場合、液圧ブレーキ装置11のポンプ38を駆動させるとともに液圧制御弁32を制御することによって制御液圧を形成し、車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、ステップ104、110〜114によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する。したがって、簡単な構成にて、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0078】
また、ステップ104が、ブレーキ操作に基づいて回生ブレーキ装置12の目標回生制動力を演算し、ステップ110が、ステップ104によって演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置12が実際に車輪23に付与した実回生制動力を入力し、ステップ112が、ステップ104によって演算された目標回生制動力とステップ110によって入力された実回生制動力の差を演算し、ステップ114が、ステップ112によって演算された差が所定値aより大きければ、回生制動力が変動したことを検出する。これにより、確実に変動検出手段であるステップ104および110〜114によって回生制動力の変動を検出することができる。
【0079】
また、ステップ104が、ブレーキ操作に基づいて回生ブレーキ装置12の目標回生制動力を演算し、ステップ110が、ステップ104によって演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置12が実際に車輪に付与した実回生制動力を入力し、ステップ112が、ステップ104によって演算された目標回生制動力とステップ110によって入力された実回生制動力の差を演算し、ステップ116が、ステップ112によって演算された差に相当する制動力となるように、液圧ブレーキ装置11の制御液圧を制御する。これにより、制動力補償手段であるステップ104および110,112,116は、的確に制動力を補償することができる。
【0080】
また、液圧ブレーキ装置11を制御するコンピュータであるブレーキECU13に、回生ブレーキ装置12によって実際に生成された回生制動力の変動を検出する変動検出ステップ(ステップ104および110〜114)と、この変動検出ステップによって検出された回生制動力の変動による制動力の不足を液圧ブレーキ装置11のポンプ38を駆動させつつ形成した制御液圧による制御液圧制動力にて補償する制動力補償ステップ(ステップ104および110,112,116)とを含む車両用ブレーキ制御プログラムを実行させることにより、回生制動力に変動があった場合には、回生制動の変化に関係なく、ドライバの要求する制動力を安定的に付与することができる。
【0081】
なお、上記実施の形態においては、ブレーキ操作状態検出手段として、ブレーキペダルのストローク量を検出するブレーキストロークセンサ51を採用してもよい。この場合ブレーキ操作状態はストローク量である。
【0082】
また、上記実施の形態においては、回生協調時において車両の速度減少に伴って回生制動力(図7にて回生の部分)が減少する場合、車両の全制動力が減少し、最終的に基礎液圧制動力(図7にてVB油圧の部分)のみしか得られない場合が生じる。この場合、本発明を適用して、回生制動力の代わりに制御液圧制動力を付与することにより(図7にてESC加圧の部分)、回生制動力の減少分を補償して全制動力を一定に維持することができる。このように回生制動力の代わりに制御液圧制動力を付与することを回生制動力と制御液圧制動力のすり替えという。
【0083】
図7において、このすり替えが生じる期間T1では、全制動力は一定であり変化はないが、ポンプ38の作動により制御液圧を付与する関係でブレーキペダル20が大きく吸い込まれ、ドライバは違和感を感じるおそれがあった。これを防ぐために、図8および図9に示すように、すり替えが開始された時点から車両が停止する時点までの期間にて全制動力すなわち制御液圧制動力を減少させる制御を行うのが好ましい。これによれば、すり替え期間において発生させるべき制御液圧制動力を前述した場合(図7に示す場合)と比較して小さく抑えることができるので、ブレーキペダル20の吸い込まれる量をドライバが感じない程度に抑制することができ、車両減速度の変動量もドライバが感じない程度に抑制することができる。
【0084】
具体的には、下記に示す所定条件を達成するように回生制動力の勾配を設定して、それに合わせて制御液圧制動力を設定すれば、ドライバは違和感を感じることはない。
所定条件)
1.前述したすり替えが行われるすり替え車速域が所定速度以下
2.ブレーキペダル移動量が所定値以下
3.ブレーキペダル移動速度が所定値以下
4.車体減速度の変化率が所定値以下
例えば、1.の場合、車速が所定速度V1となれば回生制動力の減少を開始し車速がさらに減速して所定速度V2となれば回生制動を停止する。すなわち所定速度V1となればすり替え制御を開始し所定速度V2となればすり替え制御を停止する。2.〜3.においても同様にすり替え制御が実行される。ただし、2.および3.においてはマスタシリンダ圧センサ29の変化量に基づいて制御され、4.においてはホイールシリンダ圧と回生制動力との和の変化量に基づいて制御される。すり替え制御はブレーキECU13によって制御される。
【0085】
図10に示す第2の実施形態は、ポンプ駆動の制御開始タイミングをブレーキ操作開始と同時に行うようにした点で、第1の実施形態と相異するが、図2に示す液圧ブレーキ装置の油圧構成については同じであるので、同図を参照しながら第2の実施形態のフローチャートを説明する。
【0086】
図10において、ブレーキECU13は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間毎に実行する。ブレーキECU13は、ブレーキペダル20の操作状態であるマスタシリンダ圧を液圧センサ29から入力し(ステップ202)、次いで、ステップ204で、ブレーキ操作があったか否かが判定され、ステップ204の判定結果がYESの場合には、さらにステップ206において、車両が停止しているか否かが判定される。そして、ブレーキ操作があり、かつ車両が停止状態にない場合には、ステップ208において、ポンプ駆動ONが指令され、これによってブレーキECU13は、モータ39を起動してポンプ38を駆動する。一方、ブレーキ操作がなかった場合、あるいは車両が停止されている場合には、ステップ210において、ポンプ駆動OFFが指令され、ポンプ38は停止状態に維持され、プログラムはリターンされる。
【0087】
なお、ポンプ38が駆動されても、ソレノイド液圧比例制御弁32が全開されており、しかもポンプ38の駆動と同時にソレノイド開閉弁46が開放されるため、ポンプ38より吐出されたブレーキ液は、ソレノイド液圧比例制御弁32、ソレノイド開閉弁46、およびポンプ38を循環するだけであり、ホイールシリンダ30に作用する液圧がポンプ38の駆動によって影響されることがなく、マスタシリンダ25が発生する基礎液圧に保たれる。
【0088】
ステップ208でポンプ駆動ONとした後、ステップ214(目標回生制動力演算手段)に移行し、ステップ214において、ステップ202で入力したマスタシリンダ圧に応じた目標回生制動力を演算する。この演算にあたり、ブレーキECU13は、予め記憶しておいたマスタシリンダ圧すなわちブレーキ操作状態と車輪23に付与する目標回生制動力との関係を示すマップ、テーブルまたは演算式を使用する。
【0089】
演算した目標回生制動力が0より大きいか否かがステップ216で判定され、0より大きい場合には、演算した目標回生制動力をハイブリッドECU15に出力するとともに、制御液圧制動力付与装置43に対して制御を行わない(ステップ218)。したがって、ブレーキペダル20が踏まれている場合、前述した場合と同様に、液圧ブレーキ装置11は車輪23f,23rに基礎液圧制動力(静圧ブレーキ)のみを付与する。また、ハイブリッドECU15は、目標回生制動力を示す回生要求値を入力し、その値に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、実回生実行値をブレーキECU43に出力している。したがって、ブレーキ操作がされ、かつ目標回生制動力が0より大きい場合には、車輪23には基礎液圧制動力に回生制動力が上乗せされて付与される。
【0090】
ブレーキECU13は、回生ブレーキ装置12によって実際に生成された回生制動力の変動を検出する。具体的には、ブレーキECU13は、ステップ214にて演算された目標回生制動力に対して回生ブレーキ装置12が実際に車輪23に付与した実回生制動力を示す実回生実行値を入力し(ステップ220:実回生制動力入力手段)、ステップ214にて演算された目標回生制動力とステップ220にて入力された実回生制動力の差を演算し(ステップ222:差演算手段)、この演算された差が所定値aより大きいか否かをステップ224(判定手段)で判定する。そして、演算された差が所定値aより大きい場合には、回生制動力の変動を検出すると、ステップ224の判定結果がYESとなり、演算された差に応じて、液圧ブレーキ装置11のソレノイド液圧比例制御弁32を制御し、自動加圧回生制動力の変動による制動力の不足を補償する(ステップ226)。
【0091】
具体的には、ブレーキECU13は、ステップ214にて演算された目標回生制動力と、ステップ220にて入力された実回生制動力との差、すなわちステップ222にて演算された差に相当する液圧となるように、ソレノイド液圧比例制御弁32のリニアソレノイド33に電流を印加する。このとき、リニアソレノイド33は液圧センサ40により検出されたホイールシリンダ30の液圧が制御液圧となるようにフィードバック制御されるのがより好ましい。
【0092】
かかるソレノイド液圧比例制御弁32の制御により、ブレーキ操作時に既に駆動されているポンプ38からホイールシリンダ30に供給される液圧が、目標回生制動力と実回生制動力との差に応じた制御液圧に制御され、液圧ブレーキ装置11は、目標回生制動力と実行回生制動力との差分である制御液圧制動力を車輪23に付与する。
【0093】
この第2の実施形態においては、ポンプ38の駆動をブレーキ操作時に開始するようになっているので、ブレーキペダル20を踏み込んでいる途中のドライバに、ポンプ38が駆動されることに伴うブレーキペダル20の吸い込みを事実上感じさせないようにすることができ、ブレーキフィーリングを向上できるようになる。
【0094】
また、ブレーキ操作がなくなると、ポンプ38の駆動が停止されるので、ポンプの駆動停止に伴うブレーキペダルの挙動がドライバに伝えられることがなく、ブレーキフィーリングを阻害することがない。
【0095】
上記した第2の実施形態においては、ブレーキ操作がなくなるとポンプ駆動をOFFするようにした例について述べたが、ポンプの駆動を停止する条件として、車両が停止したことを検出してポンプ駆動をOFFするようにしてもよい。この場合には、ブレーキ操作がなくなることに基づいてポンプ駆動をOFFする場合に比べ、ブレーキの操作中においてもポンプの駆動を停止することができるので、バッテリの消耗を抑制でき、バッテリ効率を向上できる利点がある。
【0096】
上記実施の形態では、FF車に前後配管しているが、FR車に前後配管してもよい。上記実施形態では、倍力装置としてバキュームブースタを用いているが、ポンプにより発生した液圧をアキュムレータに蓄圧し、この液圧をピストンに作用させてブレーキペダル20に作用するペダル踏力を倍力してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す車両用ブレーキ装置の系統図である。
【図2】図1に示す液圧ブレーキ装置を示す図である。
【図3】図1に示すブレーキECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図4】回生協調制動時のブレーキ操作力と車両減速度の相関関係図である。
【図5】回生制動力変動時の制動力の構成を示す図である。
【図6】理想制動力分配曲線、液圧制動力と回生制動力の関係図である。
【図7】回生制動力と液圧制動力とのすり替え時の関係図である。
【図8】回生制動力と液圧制動力とのすり替え時の関係図である。
【図9】回生制動力と液圧制動力とのすり替え時の関係図である。
【図10】本発明の第2の実施形態を示すブレーキECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0098】
10…ブレーキシステム、11…液圧ブレーキ装置、12…回生ブレーキ装置、
13…ブレーキECU、14…モータ、15…ハイブリッドECU、16…インバータ、18…バッテリ、20…ブレーキペダル、21…踏力センサ、22…回転センサ、23…車輪、24…ブレーキ系統、25…マスタシリンダ、26…管路、27…バキュームブースタ(倍力装置)、28,35…リザーバ、29…液圧センサ、30…ホイールシリンダ、31…ブレーキ手段、32…ソレノイド液圧比例制御弁(液圧制御弁)、33…リニアソレノイド、34,36,46…ソレノイド開閉弁、37…ABS制御弁、38…ポンプ(液圧発生装置)、39…モータ、43…制御液圧制動力付与装置、44…回生制動力発生装置、47…車輪速センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、
前記回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、
前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、
前記回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、
前記変動検出手段にて前記変動が検出された場合、前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、前記液圧ブレーキ装置は、前記マスタシリンダに前記ブレーキ操作を増大する倍力装置が接続され、前記マスタシリンダは、前記倍力装置によって増大された力に応じた基礎液圧を発生することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3において、前記倍力装置は、負圧式倍力装置であることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、前記制動力補償手段は、前後系統式のブレーキ系統を有する車両の前後両系統にそれぞれ備えられた前記液圧制御弁を制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5において、前記前後系統にて所定の前後制動力配分を規定する前後制動力配分規定手段と、
前記前後系統の各車輪に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、
前記制動力検出手段にて検出した制動力が前記規定された前後制動力配分に対して不足する場合、前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記前後制動力配分に対する不足を補償する前後制動力配分補償手段を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
前後系統式のブレーキ系統を有する車両に備えられて、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、当該マスタシリンダに前記前後両系統にそれぞれ備えられた液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに前記発生した基礎液圧を付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、
前記回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、
前記前後系統にて所定の前後制動力配分を規定する前後制動力配分規定手段と、
前記前後系統の各車輪に発生する制動力を検出する制動力検出手段と、
前記制動力検出手段にて検出した制動力が前記規定された前後制動力配分に対して不足する場合、前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記前後制動力配分に対する不足を補償する前後制動力配分補償手段を備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項7において、前記前後制動力配分補償手段は、前記変動検出手段にて前記変動が検出された場合、前記前後制動力配分に対する不足を補償することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項において、前記液圧制御弁の下流に液圧センサを配置し、
前記制動力補償手段若しくは前後制動力配分補償手段は、当該液圧センサの出力に基づいて前記液圧制御弁を制御することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項9において、前記液圧制御弁は、分離された複数系統毎に備えられ、
前記液圧センサは、当該系統の各液圧制御弁の下流に配置されたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項9において、前記液圧制御弁は、分離された複数系統毎に備えられ、
前記液圧センサは、前記各系統のABS制御弁の下流、かつ、当該ABS制御弁が配設されたABS制御ユニットの外部に配置されたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項12】
マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与し同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、
前記変動検出手段にて前記変動が検出された場合、前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項13】
請求項12において、前記変動検出手段は、
前記ブレーキ操作状態に基づいて回生ブレーキ装置の目標回生制動力を演算する目標回生制動力演算手段と、
該目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力に対して前記回生ブレーキ装置が実際に前記車輪に付与した実回生制動力を入力する実回生制動力入力手段と、
前記目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力と前記実回生制動入力手段によって入力された実回生制動力の差を演算する差演算手段と、
該差演算手段によって演算された差が所定値より大きければ、回生制動力が変動したことを検出する判定手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項14】
請求項12において、前記制動力補償手段は、
前記ブレーキ操作状態に基づいて回生ブレーキ装置の目標回生制動力を演算する目標回生制動力演算手段と、
該目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力に対して前記回生ブレーキ装置が実際に前記車輪に付与した実回生制動力を入力する実回生制動力入力手段と、
前記目標回生制動力演算手段によって演算された目標回生制動力と前記実回生制動入力手段によって入力された実回生制動力の差を演算する差演算手段と、
該差演算手段によって演算された差に相当する制動力となるように、前記制御液圧を形成する制御手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項15】
マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与し同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置を制御する機能をコンピュータに実行させる液圧ブレーキ制御プログラムであって、
前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出機能と、
前記変動検出手段にて前記変動が検出された場合、前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償機能とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ制御プログラム。
【請求項16】
マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダと液圧制御弁を介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し同各車輪に基礎液圧制動力を発生させるとともに、ポンプを駆動させることによって形成する制御液圧を前記ホイールシリンダに付与して同ホイールシリンダに対応する車輪に制御液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキ装置と、
前記ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を前記車輪の何れかに発生させる回生ブレーキ装置と、
前記回生ブレーキ装置によって実際に発生された回生制動力の前記回生制動力に対する変動を検出する変動検出手段と、
ブレーキ操作に基づいて前記液圧ブレーキ装置のポンプを駆動させるとともに、前記変動検出手段にて前記変動が検出された場合、前記液圧制御弁を制御することによって前記制御液圧を形成し、前記車輪に同制御液圧に基づく制御液圧制動力を発生させて、前記変動検出手段によって検出された変動による回生制動力の不足を補償する制動力補償手段とを備えたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項17】
請求項16において、前記ポンプの駆動を、ブレーキ操作がなくなった場合に、停止することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項18】
請求項16において、前記ポンプの駆動を、車両が停止された場合に、停止することを特徴とする車両用ブレーキ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−21745(P2006−21745A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367601(P2004−367601)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】