説明

車両用ベルト式無段変速機の制御装置

【課題】接触センサを用いないで、機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことを確実に検出することができる車両用ベルト式無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】変速比γが最大変速比γmax付近にあり且つ変速比制御が変速比γを最大変速比γmax側へ制御している最大変速比予備状態では、出力側輪可変プーリ46の出力側推力Woutが積極的に増加されて差推力ΔWが変速比制御による値よりもさらに増加され、その差推力ΔWから算出される変速速度dγ/dtに基づいてその増加からの入力側可変プーリ42の移動距離Lが推定され、その移動距離Lが予め設定された目標移動距離L1以上となったことに基づいて機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されるので、接触センサを用いないで、機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことが確実に検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトが捲き掛けられた入力側可変プーリおよび出力側可変プーリの差推力を用いて変速比を制御すると共に最低速側変速比が機械的に定まる車両用ベルト式無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトが捲き掛けられ、該伝動ベルトの掛かり径である有効径が可変の一対の入力側および出力側可変プーリを有し、入力側可変プーリにおける入力側推力(プライマリ推力)及び出力側輪可変プーリにおける出力側推力(セカンダリ推力)を各々制御することで伝動ベルトの滑りを防止しつつ実際の変速比を目標変速比とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置が知られている。たとえば、特許文献1、2、3に記載された車両の制御装置がそれである。一般的に、このような車両用ベルト式無段変速機では、例えばベルト滑りを防止しつつ目標変速比を実現するように、プライマリ推力及びセカンダリ推力を設定して入力側可変プーリにおけるプーリ圧(プライマリ圧)及び出力側可変プーリにおけるプーリ圧(セカンダリ圧)を制御すると共に、無段変速機における入力側回転速度と出力側回転速度との各検出値を用いて算出した実際の変速比(実変速比=入力側回転速度/出力側回転速度)と目標変速比との偏差に基づいてフィードバック制御することにより例えばプライマリ推力とセカンダリ推力との差推力を調整して制御している。
【0003】
ここで、実変速比は、例えば入力側回転速度と出力側回転速度とが回転センサにより比較的精度良く検出される。しかしながら、回転センサの特性上、例えば極低回転速度域すなわち車両の停止前の極低車速域では、パルス間隔から算出される回転速度の検出値が実際の回転速度(実回転速度)を精度よく反映せず、目標変速比を維持できない場合がある。このような極低車速域では、再発進時に十分な駆動力が得られるように、確実に最大変速比γmaxを維持できていることが重要である。このため、セカンダリ推力およびプライマリ推力を高い値とすることで、確実に最大変速比γmaxを維持できるようにすることができるが、この場合、常に入力側および出力側可変プーリに供給する油圧が高くなるため、車両の燃費が悪くなるという不都合が発生する。
【0004】
これに対して、制御上において最大変速比γmaxが指令される極低車速領域では、入力側可変プーリのピストンストロークすなわち入力側可変プーリを構成する固定回転体(固定シーブ)および可動回転体(可動シーブ)のうちの可動回転体の移動ストロークの終端で可動回転体をストッパに当接させて機械的に定まる最大変速比γmaxmとし、そこで発生する機械的反力で伝動ベルトを挟圧させることで、入力側可変プーリに供給する油圧を低下させ、燃費の悪化を防止することが提案されている。特許文献1に記載された無段変速機の制御装置がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−270933号公報
【特許文献2】特開2010−230131号公報
【特許文献2】特開2008−051317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1にて提案された技術では、出力側可変プーリへ供給する油圧を最大セカンダリプーリ圧とし、入力側可変プーリへ供給される油圧をドレーン圧としてから所定時間後にメカLowフラグをオンとすることで、機械的に定まる最大変速比γmaxmと判定している。この機械的に定まる最大変速比γmaxmの判定は、伝動ベルトの滑りの発生を引き起こす可能性があるため、精度の高い判定が必要とされが、この特許文献1に記載の制御装置では、ダウンシフト指令からハード限界点である上記機械的に定まる最大変速比γmaxmへの伝動ベルトの戻り予測して予め設定された経過時間を用いて判定しているが、特に緩減速変速時などでは、一般に停止間際までダウンシフト指令が継続しないため、機械的に定まる最大変速比γmaxmの判定をすることができない領域が存在しており、その領域では依然として指示油圧が高く、機械的に定まる最大変速比γmaxmの判定を正確に行うことが、困難であった。
【0007】
これに対して、特許文献2には、可動回転体またはそれが当接させられるストッパの一方に接触センサを設け、この接触センサの出力信号から可動回転体がストッパへ当接したか否かを直接的に検出する点が記載されている。しかし、このような接触センサを用いる場合には、接触センサを車両用ベルト式無段変速機内に設けるための機構的な設計変更を必要とするとともに、部品数が増加するという欠点があった。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、接触センサを用いないで、機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことを確実に検出することができる車両用ベルト式無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 伝動ベルトが捲き掛けられ、該伝動ベルトの掛かり径である有効径が可変の一対の入力側および出力側可変プーリを有し、入力側可変プーリにおける入力側推力(プライマリ推力)及び出力側輪可変プーリにおける出力側推力(セカンダリ推力)を各々制御することで伝動ベルトの滑りを防止しつつ変速比を目標変速比とする変速比制御を行う車両用ベルト式無段変速機の制御装置であって、(b)前記変速比が最大変速比付近にあり且つ変速比制御がその変速比を該最大変速比側へ制御している最大変速比予備状態で、前記出力側推力を積極的に増加させて前記変速比制御のための値から積極的に差推力を増加し、該差推力と該差推力増加からの経過時間とに基づいて該差推力増加からの前記入力側可変プーリの移動距離を推定し、該移動距離が予め設定された目標移動距離以上となったことに基づいて、前記車両用ベルト式無段変速機の変速比が、機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことを判定することにある。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の車両用ベルト式無段変速機の制御装置によれば、変速比が最大変速比付近にあり且つ前記変速比制御が前記変速比を前記最大変速比側へ制御している最大変速比予備状態では、前記出力側輪可変プーリの出力側推力が積極的に増加されて差推力が前記変速比制御による値よりもさらに増加され、該差推力から算出される変速速度に基づいて該増加からの前記入力側可変プーリの移動距離が推定され、その移動距離が予め設定された目標移動距離以上となったことに基づいて機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されるので、特に、差推力が継続せず入力側可変プーリのハード限界への到達を判定することが困難な緩減速変速時において、接触センサを用いないで、機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことが確実に検出される。
【0011】
また、本発明の車両用ベルト式無段変速機の制御装置によれば、差推力とその差推力増加からの経過時間とに基づいて算出された入力側可変プーリの移動距離が予め設定された目標移動距離以上となったことに基づいて、前記車両用ベルト式無段変速機の変速比が、機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されることから、差推力が相対的に大きい急減速に対しては短時間で、差推力が相対的に小さい緩減速に対しては付与差推力に応じた時間で判定を行うことが可能となるので、あらゆる減速に対しても的確に、機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことを判定することができる。
【0012】
ここで、好適には、前記差推力の増加からの前記入力側可変プーリの移動距離は、前記該差推力から前記車両用ベルト式無段変速機の変速速度を算出し、前記差推力の増加から該変速速度を積算することにより算出される。このようにすれば、前記差推力の増加からの前記入力側可変プーリの移動距離が、容易に得られる。
【0013】
また、好適には、前記出力側可変プーリの油圧を検出する油圧センサが備えられ、前記差推力は、該油圧センサにより検出された実際の出力側可変プーリの油圧をに基づいて算出されるので、流量収支不足や経時変化(永久成長)が生じた場合でも誤判定の可能性が低い利点がある。
【0014】
また、好適には、前記最大変速比予備状態は、車速が予め設定された極低車速判定値以下であり且つ車両のコースト走行中状態を含むものである。このようにすれば、車両の極低車速のコースト走行中において、変速比が最大変速比付近にあり且つ変速比制御が前記変速比を該最大変速比側へ制御している最大変速比予備状態となると、出力側輪可変プーリの出力側推力が積極的に増加されて差推力が前記変速比制御による値よりもさらに増加され、該差推力から算出される変速速度に基づいて該増加からの前記入力側可変プーリの移動距離が推定され、その移動距離が予め設定された目標移動距離以上となったことに基づいて機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されるので、接触センサを用いないで、機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことが確実に検出される。
【0015】
また、好適には、前記車両用ベルト式無段変速機の変速比が前記機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されると、前記入力側可変プーリに供給されていたプライマリ圧がそれまでの値よりも低下させられる。このようにすれば、入力側可変プーリに捲き掛けられている伝動ベルトは、機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したときに発生する反力に基づいて挟圧されるので、プライマリ圧をそれまでの値よりも低下させても、伝動ベルトの滑りが発生せず、燃費が向上する。
【0016】
また、好適には、前記車両用ベルト式無段変速機の変速比が前記機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されると、前記出力側推力を積極的に増加させるために昇圧されて該出力側可変プーリに供給されていたセカンダリ圧が、前記変速比制御による値に復帰(低下)させられる。このようにすれば、セカンダリ圧の不要な昇圧が解消されるので、燃費が一層向上する。
【0017】
また、好適には、前記差推力から算出される変速速度は、差推力と変速速度との間の予め記憶された関係から実際の差推力に基づいて算出され、前記入力側可変プーリの移動距離は、該変速速度の積分値に基づいて算出される。このようにすれば、位置センサなどを用いないで、変速速度および入力側可変プーリの移動距離が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用される車両の動力伝達経路の概略構成を説明する図である。
【図2】車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】油圧制御回路のうち車両用ベルト式無段変速機の変速に関する油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】車両用ベルト式無段変速機の変速に関する油圧制御において目標入力軸回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図6】車両用ベルト式無段変速機の変速に関する油圧制御において変速比等に応じて目標セカンダリ推力を求める推力マップの一例を示す図である。
【図7】吸入空気量をパラメータとしてエンジン回転速度とエンジントルクとの予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図8】トルクコンバータの所定の作動特性として予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図9】車両用ベルト式無段変速機の変速に関する油圧制御において、目標変速比に基づいて可変プーリの推力比を決定する為に予め設定された目標変速比と推力比との関係の一例を示す図である。
【図10】車両用ベルト式無段変速機の推力比と変速速度との間の関係を説明する図である。
【図11】図4の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【図12】図4の電子制御装置の制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の車両用ベルト式無段変速機においては、前記入力側可変プーリや出力側可変プーリに作用させるプーリ圧をそれぞれ独立に制御するように制御回路を構成することで、前記入力側推力及び出力側推力が各々直接的に或いは間接的に制御される。
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明が適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、例えば走行用の駆動力源として用いられるエンジン12により発生させられた動力は、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14、前後進切換装置16、車両用無段変速機としての車両用ベルト式無段変速機(以下、無段変速機(CVT)という)18、減速歯車装置20、差動歯車装置22などを順次介して、左右の駆動輪24へ伝達される。
【0022】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14p、及びトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、このロックアップクラッチ26が完全係合させられることによってポンプ翼車14p及びタービン翼車14tは一体回転させられる。ポンプ翼車14pには、車両用ベルト式無段変速機18を変速制御したり、車両用ベルト式無段変速機18におけるベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26のトルク容量を制御したり、前後進切換装置16における動力伝達経路を切り換えたり、車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0023】
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸30はサンギヤ16sに一体的に連結され、車両用ベルト式無段変速機18の入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0024】
このように構成された前後進切換装置16では、前進用クラッチC1が係合されると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が車両用ベルト式無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合されると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が車両用ベルト式無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
【0025】
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関にて構成されている。このエンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御する為の電子スロットル弁40が備えられている。
【0026】
車両用ベルト式無段変速機18は、入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42及び出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46の一対の可変プーリ42,46と、その一対の可変プーリ42,46の間に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、一対の可変プーリ42,46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
【0027】
入力側可変プーリ42は、入力軸32に固定された入力側固定回転体としての固定回転体42aと、入力軸32に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動回転体42bと、それらの間のV溝幅を変更する為の入力側可変プーリ42における入力側推力(プライマリ推力)Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしての入力側油圧シリンダ(プライマリ側油圧シリンダ)42cとを備えて構成されている。また、出力側可変プーリ46は、出力軸44に固定された出力側固定回転体としての固定回転体46aと、出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動回転体46bと、それらの間のV溝幅を変更する為の出力側可変プーリ46における出力側推力(セカンダリ推力)Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしての出力側油圧シリンダ(セカンダリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されている。
【0028】
そして、入力側油圧シリンダ42cへの油圧であるプライマリ圧Pin及び出力側油圧シリンダ46cへの油圧であるセカンダリ圧Poutが油圧制御回路100(図3参照)によって各々独立に調圧制御されることにより、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々直接的に或いは間接的に制御される。これにより、一対の可変プーリ42,46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられると共に、伝動ベルト48が滑りを生じないように一対の可変プーリ42,46と伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。このように、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることで伝動ベルト48の滑りが防止されつつ実際の変速比(実変速比)γが目標変速比γとされる。尚、入力軸回転速度NINは入力軸32の回転速度であり、出力軸回転速度NOUTは出力軸44の回転速度である。また、本実施例では図1から判るように、入力軸回転速度NINは入力側可変プーリ42の回転速度と同一であり、出力軸回転速度NOUTは出力側可変プーリ46の回転速度と同一である。
【0029】
車両用ベルト式無段変速機18では、例えばプライマリ圧Pinが高められると、入力側可変プーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされるすなわち車両用ベルト式無段変速機18がアップシフトされる。また、プライマリ圧Pinが低められると、入力側可変プーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされるすなわち車両用ベルト式無段変速機18がダウンシフトされる。従って、入力側可変プーリ42のV溝幅が最大とされることで、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γとして最大変速比γmax(最低速側変速比、最Low)が形成される。尚、本実施例では、例えば図3中の入力側可変プーリ42の部分断面概略図に示すように、入力軸32の軸方向に移動可能な可動回転体42bの端部先端42b1が入力軸32に軸心方向に移動不能に固定されたストッパリング42dに当接して可動回転体42bの移動(すなわち入力側可変プーリ42のV溝幅を広くする方向への移動)が機械的に阻止される構造を採用しており、これにより機械的(ハード的)に最Lowを実現(形成)している。入力側可変プーリ42の有効径を変更する為に軸心方向に移動させられる可動回転体42bの移動がストッパリング42dによって機械的に阻止されることにより、機械的に最大変速比γmaxmが定められるようになっている。この機械的に定まる最大変速比γmaxmは可動回転体42bの移動がストッパリング42dへの当接によって機械的に制限されたハード限界状態を示しており、伝動ベルト48は、ストッパリング42dからの反力に基づいて固定回転体42aと可動回転体42bとの間で挟圧される。
【0030】
図2は、エンジン12や車両用ベルト式無段変速機18などを制御する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、車両10には、例えば車両用ベルト式無段変速機18の変速制御などに関連する車両用無段変速機の制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、車両用ベルト式無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、車両用ベルト式無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
【0031】
電子制御装置50には、エンジン回転速度センサ52により検出されたクランク軸13の回転角度(位置)ACR及びエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Nを表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸30の回転速度(タービン回転速度)Nを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された車両用ベルト式無段変速機18の入力回転速度である入力軸回転速度NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された車速Vに対応する車両用ベルト式無段変速機18の出力回転速度である出力軸回転速度NOUTを表す信号、スロットルセンサ60により検出された電子スロットル弁40のスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温THを表す信号、吸入空気量センサ64により検出されたエンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、フットブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すブレーキオンBONを表す信号、CVT油温センサ70により検出された車両用ベルト式無段変速機18等の作動油の油温THOILを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバーのレバーポジション(操作位置)PSHを表す信号、バッテリセンサ76により検出されたバッテリ温度THBATやバッテリ入出力電流(バッテリ充放電電流)IBATやバッテリ電圧VBATを表す信号、プライマリ圧センサ78により検出された入力側可変プーリ42への供給油圧であるプライマリ圧Pinを表す信号、セカンダリ圧センサ80により検出された出力側可変プーリ46への供給油圧であるセカンダリ圧Poutを表す信号等が、それぞれ供給される。尚、電子制御装置50は、例えば上記バッテリ温度THBAT、バッテリ充放電電流IBAT、及びバッテリ電圧VBATなどに基づいてバッテリ(蓄電装置)の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。また、電子制御装置50は、例えば出力軸回転速度NOUTと入力軸回転速度NINとに基づいて車両用ベルト式無段変速機18の実変速比γ(=NIN/NOUT)を逐次算出する。
【0032】
また、電子制御装置50からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号S、車両用ベルト式無段変速機18の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号SCVT等が、それぞれ出力される。具体的には、上記エンジン出力制御指令信号Sとして、スロットルアクチュエータ38を駆動して電子スロットル弁40の開閉を制御する為のスロットル信号や燃料噴射装置82から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置84によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、上記油圧制御指令信号SCVTとして、プライマリ圧Pinを調圧するリニアソレノイド弁SLPを駆動する為の指令信号、セカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動する為の指令信号、ライン油圧Pを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動する為の指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
【0033】
図3は、油圧制御回路100のうち車両用ベルト式無段変速機18の変速に関する油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。図3において、油圧制御回路100は、例えばオイルポンプ28、プライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧コントロールバルブ110、セカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ112、プライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)114、モジュレータバルブ116、リニアソレノイド弁SLT、リニアソレノイド弁SLP、リニアソレノイド弁SLS等を備えている。
【0034】
ライン油圧Pは、例えばオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータバルブ114によりリニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧される。具体的には、ライン油圧Pは、プライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutの高い方の油圧に所定の余裕分(マージン)を加えた油圧が得られるように設定された制御油圧PSLTに基づいて調圧される。従って、プライマリ圧コントロールバルブ110及びセカンダリ圧コントロールバルブ112の調圧動作において元圧であるライン油圧Pが不足するということが回避されると共に、ライン油圧Pが不必要に高くされないようにすることが可能である。また、モジュレータ油圧Pは、電子制御装置50によって制御される制御油圧PSLT、リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、及びリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの各元圧となるものであって、ライン油圧Pを元圧としてモジュレータバルブ116により一定圧に調圧される。
【0035】
プライマリ圧コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧Pを入力ポート110iから出力ポート110tを経て入力側可変プーリ42へ供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つスプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLPを受け入れる油室110cと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与する為に出力ポート110tから出力されたライン油圧Pを受け入れるフィードバック油室110dと、スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pを受け入れる油室110eとを備えている。このように構成されたプライマリ圧コントロールバルブ110は、例えば制御油圧PSLPをパイロット圧としてライン油圧Pを調圧制御して入力側可変プーリ42の入力側油圧シリンダ42cに供給する。これにより、その入力側油圧シリンダ42cに供給されるプライマリ圧Pinが制御される。例えば、入力側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが増大すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の上側に移動する。これにより、入力側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが増大する。一方で、入力側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが低下すると、プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の下側に移動する。これにより、入力側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが低下する。
【0036】
セカンダリ圧コントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート112iを開閉してライン油圧Pを入力ポート112iから出力ポート112tを経て出力側可変プーリ46へセカンダリ圧Poutとして供給可能にするスプール弁子112aと、そのスプール弁子112aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bと、そのスプリング112bを収容し且つスプール弁子112aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室112cと、スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート112tから出力されたセカンダリ圧Poutを受け入れるフィードバック油室112dと、スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pを受け入れる油室112eとを備えている。このように構成されたセカンダリ圧コントロールバルブ112は、例えば制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧Pを調圧制御して出力側可変プーリ46の出力側油圧シリンダ46cに供給する。これにより、その出力側油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Poutが制御される。例えば、出力側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが増大すると、セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の上側に移動する。これにより、出力側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが増大する。一方で、出力側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが低下すると、セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の下側に移動する。これにより、出力側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが低下する。
【0037】
このように構成された油圧制御回路100において、例えばリニアソレノイド弁SLPにより調圧されるプライマリ圧Pin及びリニアソレノイド弁SLSにより調圧されるセカンダリ圧Poutは、ベルト滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト挟圧力を一対の可変プーリ42,46に発生させるように制御される。また、後述するように、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、一対の可変プーリの42,46の推力比Rw(=Wout/Win)が変更されることにより車両用ベルト式無段変速機18の変速比γが変更される。例えば、その推力比Rwが大きくされるほど変速比γが大きくされる(すなわち車両用ベルト式無段変速機18はダウンシフトされる)。
【0038】
図4は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、エンジン出力制御部120は、例えばエンジン12の出力制御の為にスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などのエンジン出力制御指令信号Sをそれぞれスロットルアクチュエータ38や燃料噴射装置82や点火装置84へ出力する。例えば、エンジン出力制御部120は、アクセル開度Accおよび車速Vに応じた要求駆動力(要求駆動トルク)を得る為の目標エンジントルクTを設定し、その目標エンジントルクTが得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置82により燃料噴射量を制御したり、点火装置84により点火時期を制御する。
【0039】
変速制御部122は、要求駆動力を満たしつつ予め設定された最適曲線に沿ってエンジン12の動作点を移動させるための変速制御を行うために、例えば車両用ベルト式無段変速機18のベルト滑りを発生させないでトルク伝達しつつ車両用ベルト式無段変速機18の目標変速比γを達成するように、プライマリ圧Pinの指令値(又は目標値)としてのプライマリ指示圧Pintgtとセカンダリ圧Poutの指令値(又は目標値)としてのセカンダリ指示圧Pouttgtとを決定する。
【0040】
具体的には、変速制御部122は、車両用ベルト式無段変速機18の変速後に達成すべき変速比γである目標変速比γを決定する。変速制御部122は、例えば図5に示すようなアクセル開度Accをパラメータとして出力軸回転速度NOUTに対応する車速Vと車両用ベルト式無段変速機18の目標入力軸回転速度NINとの予め記憶された関係(変速マップ)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NINを設定する。そして、変速制御部122は、目標入力軸回転速度NINに基づいて目標変速比γ(=NIN/NOUT)を算出する。図5の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NINが設定されるようになっている。そして、目標変速比γは、車両用ベルト式無段変速機18の最小変速比γmin(最高速ギヤ比、最Hi)と最大変速比γmax(最低速ギヤ比、最Low)の範囲内で制御上定められる。
【0041】
次に、変速制御制御部122は、例えば図6に示すような車両用ベルト式無段変速機18の入力トルクTINをパラメータとしてベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された変速比γと目標セカンダリ推力Woutとの関係(推力マップ)から、車両用ベルト式無段変速機18の入力トルクTIN及び実変速比γで示される車両状態に基づいて目標セカンダリ推力Woutを設定する。この車両用ベルト式無段変速機18の入力トルクTINは、例えばエンジントルクTにトルクコンバータ14のトルク比t(=トルクコンバータ14の出力トルクであるタービントルクT/トルクコンバータ14の入力トルクであるポンプトルクT)を乗じたトルク(=T×t)として電子制御装置50により算出される。また、このエンジントルクTは、例えばエンジン12に対する要求負荷としての吸入空気量QAIR(或いはそれに相当するスロットル弁開度θTH等)をパラメータとしてエンジン回転速度NとエンジントルクTとの予め実験的に求められて記憶された図7に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)から、吸入空気量QAIR及びエンジン回転速度Nに基づいて推定エンジントルクTesとして電子制御装置50により算出される。或いは、このエンジントルクTは、例えばトルクセンサなどにより検出されるエンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)Tなどが用いられても良い。また、トルクコンバータ14のトルク比tは、トルクコンバータ14の速度比e(=トルクコンバータ14の出力回転速度であるタービン回転速度N/トルクコンバータ14の入力回転速度であるポンプ回転速度N(エンジン回転速度N))の関数であり、例えば速度比eとトルク比t、効率η、及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された図8に示すような関係(マップ、トルクコンバータ14の所定の作動特性図)から、実際の速度比eに基づいて電子制御装置50により算出される。
【0042】
また、変速制御部122は、例えば図9に示すような予め実験的に設定された関係から、目標変速比γに基づいて、推力比Rw(=Wout/Win)を決定する。図9に示すように目標変速比γが大きいほど推力比Rwが大きくされるものであり、例えば目標変速比γに基づいて決定された推力比Rwは、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γをその目標変速比γで定常的に維持する為の推力比Rw、すなわち変速比γを目標変速比γで一定に維持する為の推力比Rwである。
【0043】
そして、変速制御部122は、例えば前記決定した推力比Rw及び目標セカンダリ推力Woutに基づいて目標プライマリ推力Win(=Wout/Rw)を設定する。このように、基本的には、車両用ベルト式無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつ車両用ベルト式無段変速機18の目標変速比γを達成(維持)する為の推力として、目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Woutが設定される。変速制御部122は、例えばこれら目標プライマリ推力Win及び目標セカンダリ推力Woutを各油圧シリンダ42c,46cの各受圧面積に基づいて各々変換して目標プライマリ圧Pin(=Win/受圧面積)及び目標セカンダリ圧Pout(=Wout/受圧面積)を算出し、それら変換値を各々プライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtと決定する。
【0044】
変速制御部122は、例えば目標プライマリ圧Pin及び目標セカンダリ圧Poutが得られるように、油圧制御指令信号SCVTとしてプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、その油圧制御指令信号SCVTに従って、リニアソレノイド弁SLPを作動させてプライマリ圧Pinを調圧すると共に、リニアソレノイド弁SLSを作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
【0045】
また、変速制御部122は、例えばセカンダリ圧センサ80により検出されたセカンダリ圧Poutを表す信号(セカンダリ圧センサ値SPout)が目標セカンダリ圧Poutとなるように、そのセカンダリ圧センサ値SPoutに基づいて目標セカンダリ推力Wout(すなわち目標セカンダリ圧Pout)の設定値を調節するフィードフォワード項を有する制御式を用いる。加えて、変速制御部122は、例えば実変速比γが目標変速比γと一致するように、実変速比γと目標変速比γとの偏差Δγ(=γ−γ)に応じた制御出力を決定するフィードバック項を有する上記制御式を用いて目標プライマリ推力Win(すなわち目標プライマリ圧Pin)の設定値を調節する。これにより、リニアソレノイド弁SLP,SLSへの各制御電流に対する制御油圧PSLP,PSLSのばらつき、その制御電流を出力する駆動回路のばらつき、入力トルクTINの推定誤差等のばらつきに拘わらず、車両用ベルト式無段変速機18のベルト滑りを防止したり、車両用ベルト式無段変速機18の目標変速比γの維持を可能とする変速制御を行う。
【0046】
ところで、入力軸回転速度センサ56や出力軸回転速度センサ58等の回転速度センサにおいては、回転速度が極めて零に近い低回転速度領域では回転速度を精度良く検出できない傾向がある。例えば、回転速度センサとして、良く知られた電磁ピックアップ式センサを採用した場合、センサの特性上、実際の回転速度が低回転速度領域にある場合には所定時間内のパルス信号の数或いはパルス周期にばらつきが生じたり、パルス信号の出力タイミングが遅くなったりして検出精度自体が低下する。つまり、回転速度センサの特性上、例えば低回転速度域では回転速度を精度良く検出できず、回転速度センサによる回転速度の検出値(回転センサ検出値)が実回転速度を反映していない場合がある。そうすると、回転速度が低回転速度領域となる低車速走行状態である為に回転センサ検出値が実回転速度を反映しないので、上記目標プライマリ推力Win(すなわち目標プライマリ圧Pin)のフィードフォワード制御或いはフィードバック制御が適切に実行できず、上述した制御上のばらつきなどによって、目標変速比γを適切に実現できない可能性がある。特に、極低車速走行時は、車両停止時の再発進や再加速性能を確保する為に、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γを最大変速比γmaxに維持することが望まれるが、このような低回転速度域では、最大変速比γmaxが得られない可能性がある。これに対して、入力側可変プーリ42を構成する固定回転体42aおよび可動回転体42bのうち、可動回転体42bまたはそれが当接するストッパリング42dに、それらの当接を検出する接触センサを設けることが考えられるが、その接触センサを車両用ベルト式無段変速機18内に設けるための機構的な設計変更を必要とするとともに、部品数が増加するという欠点があった。
【0047】
そこで、本実施例の電子制御装置50は、例えば車両の極低車速走行、且つアクセルペダルを操作しない減速走行であるコースト走行時において、車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた機械的に定まる最大変速比γmaxmの近傍であり、変速制御部122が最大変速比γmaxである目標変速比γへ向かって変速制御中である場合は、出力側可変プーリ46のセカンダリ推力Woutを変速制御部122による変速制御による値よりも積極的に増加させることで、伝動ベルト48の張力を増加させることにより入力側可変プーリ42の可動回転体42bを積極的にストッパリング42dに押しつける押当制御を実行する。そして、出力側可変プーリ46のセカンダリ推力Woutと入力側可変プーリ44のプライマリ推力Winとの差である差推力ΔW(=Wout−Win)から算出された変速速度(可動回転体44bの移動速度)の積算値(移動距離)が、機械的に定まる最大変速比γmaxmに対応する予め設定された目標移動距離に到達したことに基づいて、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γが機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことを判定するとともに、入力側可変プーリ44のプライマリ推力Winを低下させて燃費を向上させる。
【0048】
すなわち、図4の最大変速比予備状態判定部124は、予め定められた最大変速比予備状態判定条件Aが成立したことに基づいて、最大変速比予備状態と判定する。その最大変速比予備状態判定条件Aとは、たとえば車速Vが予め設定された極低車速判定値たとえば2〜9km/hの範囲内(2≦γ≦9km/h)であり、車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた機械的に定まる最大変速比γmaxm(≒2.5)の近傍(γ>2.3)となり、目標変速比γが2.396以上で実際の変速比γがそれに向かって変化する変速制御中であり、且つ車両のコースト走行中であることが、たとえば数百ミリ秒程度の所定時間以上継続したことが、満足されることである。
【0049】
押付制御部126は、最大変速比予備状態判定部124によって上記最大変速比予備状態判定条件Aが成立したことが判定された場合は、出力側可変プーリ46のセカンダリ推力Woutを変速制御部122による変速制御による値よりも高い所定値まで積極的に増加させることで差推力ΔWを増加させ、これにより伝動ベルト48の張力を上記変速制御時よりも高めて入力側可変プーリ42の可動回転体42bを積極的にストッパリング42dに押しつける押当制御を実行する。上記出力側可変プーリ46のセカンダリ推力Woutの増加は、たとえば、出力側可変プーリ46の出力側油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Poutを、そのセカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ112の最大出力圧すなわちその元圧であるライン圧ライン油圧Pまで、或いはそれに近い圧まで昇圧させることにより差推力ΔW(=Wout−Win)および伝動ベルト48の張力を高め、入力側可変プーリ42の可動回転体42bをストッパリング42dに速やかに押し付ける。このとき、セカンダリ推力Woutを発生させるセカンダリ圧Poutはセカンダリ圧センサ80によって検出され、プライマリ推力Winを発生させるプライマリ圧Pinはプライマリ圧センサ78によって検出されるので、差推力ΔW(=Wout−Win)は実際に検出された実圧に基づいて算出される。なお、プライマリ圧センサ78が設けられていない場合でも、前記変速比制御における目標変速比γに基づいて決定された推力比Rw(=Wout/Win)から実際のセカンダリ推力Woutに基づいてプライマリ推力Winが算出され、それらセカンダリ推力Woutおよびプライマリ推力Winから差推力ΔWが算出される。
【0050】
可動回転体移動距離算出部128は、増加させられた差推力ΔWとその差推力ΔWの増加時点からの経過時間tとに基づいて可動回転体42bの移動距離Lを算出する。たとえば、可動回転体移動距離算出部128は、図10に示す車両用ベルト式無段変速機18の差推力ΔWと変速速度dγ/dtとの予め記憶された関係から実際の差推力ΔWに基づいて変速速度dγ/dtを算出する。この関係は、たとえば、予め実験的に求められたものである。次いで、その変速比変化速度dγ/dtからそれに対応する可動回転体42bの移動速度dx/dt(mm/sec)を予め記憶された換算式或いは換算係数を用いて換算するとともに、上記押付制御の開始時点すなわち車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた機械的に定まる最大変速比γmaxm(≒2.5)の近傍(γ>2.3)となった時点から現時点までの経過時間内の可動回転体42bの移動速度dx/dt(mm/sec)を積算することにより、可動回転体42bの移動距離Lを次式(1)から逐次算出する。
【0051】
L=∫(dx/dt)dt ・・・ (1)
【0052】
最大変速比到達判定部130は、可動回転体移動距離算出部128により算出された可動回転体42bの移動距離Lが予め設定された最大変速比判定値L1に到達したことがたとえば数百ミリ秒程度の所定時間持続したことに基づいて、車両用ベルト式無段変速機18の可動回転体42bの移動がストッパリング42dによって機械的に阻止されたことにより機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことが判定される。最大変速比判定値L1は、車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた機械的に定まる最大変速比γmaxm(≒2.5)の近傍(γ>2.3)となった時点から、その車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが上記機械的に定まる最大変速比γmaxmとなるまでの移動距離すなわち可動回転体42bの移動が機械的に制限されるハード限界となるまでの距離であり、予め実験的に定められるものである。
【0053】
押付保持制御部132は、最大変速比到達判定部130により車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが上記機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されると、入力側可変プーリ42の入力側油圧シリンダ42cに供給されていたプライマリ圧Pinを、変速制御のための制御値であるそれまでの値よりも十分に低い圧、たとえばドレーン圧まで低下させるとともに、出力側可変プーリ46の出力側油圧シリンダ46cに供給されてそれまでは押付制御のために昇圧されていたセカンダリ圧Poutを、前記変速比制御による値へ復帰させる。これにより、車両用ベルト式無段変速機18の可動回転体42bがストッパリング42dに押し付けられた押付状態が、作動油圧の消費が少なく且つ低圧で維持される。上記プライマリ圧Pinがドレーン圧まで低下させられても、入力側可変プーリ42に捲き掛けられている伝動ベルト48は、可動回転体42bが突き当てられているストッパリング42dからの反力により挟圧されてすべりが防止される一方で、そのプライマリ圧Pinの低下によって油圧ポンプ28およびそれを回転駆動するエンジン12の負荷が軽減されて車両の燃費が向上する。また、押付制御によって昇圧状態であったセカンダリ圧Poutが、前記変速比制御による値へ復帰(低下)させられることにより、さらに油圧ポンプ28およびそれを回転駆動するエンジン12の負荷が軽減されて車両の燃費が向上する。
【0054】
図11は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち当接センサを用いないで車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことを確実に検出する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図12は、図11のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を説明するタイムチャートである。尚、この図10のフローチャートは、例えば機械的に定まる最大変速比γmaxmと同等の最大変速比γmaxに設定されている目標変速比γに向かって実際の変速比γが制御される変速制御中の車両低速減速走行中すなわち低車速コースト走行中であることを前提として実行される。図12のt0時点は、たとえばアクセルペダルが戻され、或いはそれに加えて制動操作が行われる減速走行開始点を示している。
【0055】
図11において、ステップS1( 以下、ステップを省略する)において、入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lがハード限界に到達しているか否かが、たとえば可動回転体42bの移動距離Lが予め設定された最大変速比判定値L1に到達したことでセットされる最大変速比フラグがセットされていることに基づいて判定される。すなわち、車両用ベルト式無段変速機18の可動回転体42bの移動がストッパリング42dによって機械的に阻止されて、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γが機械的に定まる最大変速比γmaxmとなっているか否かが判定される。当初はこのS1の判断が否定されるので、最大変速比予備状態判定部124に対応するS3において、たとえば車速Vが予め設定された極低車速判定値たとえば2〜9km/hの範囲内(2≦γ≦9km/h)であり、車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた機械的に定まる最大変速比γmaxm(≒2.5)の近傍(γ>2.3)となり、目標変速比γが2.396以上で実際の変速比γがそれに向かって変化する変速制御中であり、且つ車両のコースト走行中であることが、たとえば数百ミリ秒程度の所定時間以上継続したことという、予め定められた最大変速比予備状態判定条件Aが成立したか否かに基づいて、最大変速比予備状態であるか否かが判定される。
【0056】
このS3の判断が否定される場合は、S7において、前記最大変速比フラグがリセットされるとともに、通常走行時の油圧制御が実行されて本ルーチンが終了させられる。この通常走行時の油圧制御とは、低車速減速走行中に車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことを確実に検出するための押付制御やその後の制御作動を除く油圧制御であって、車両の走行に必要とされる変速比制御、ベルト挟圧力制御、調圧制御などである。
【0057】
以上のステップが繰り返し実行されるうち、S3において最大変速比予備状態判定条件Aが成立したと判断されると、押付制御部126に対応するS4において押付制御が開始される。図12のt1時点はこの状態を示している。この押付制御では、出力側可変プーリ46の出力側油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Poutが、そのセカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ112の最大出力圧すなわちその元圧であるライン圧Pまで、或いはそれに近い圧まで昇圧させられ、これにより伝動ベルト48の張力が高められて可動回転体42bが入力側可変プーリ42のV溝幅が大きくなる方向に速やかに移動開始させられる。所定時間後すなわち図12のt2時点には、伝動ベルト48の張力が高められて入力側可変プーリ42の可動回転体42bがストッパリング42dに押し付けられる。
【0058】
可動回転体移動距離算出部128に対応するS5では、たとえば図10に示す車両用ベルト式無段変速機18の差推力ΔWと変速速度dγ/dtとの予め記憶された関係から、実際の差推力ΔWに基づいて変速速度dγ/dtが算出される。また、可動回転体42bの移動速度dx/dt(mm/sec)が予め記憶された換算式或いは換算係数を用いてその変速比変化速度dγ/dtから換算されるとともに、上記押付制御の開始時点すなわち車両用ベルト式無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた機械的に定まる最大変速比γmaxm(≒2.5)の近傍(γ>2.3)となった時点から現時点までの経過時間内の可動回転体42bの移動速度dx/dt(mm/sec)が積算することにより、可動回転体42bの移動距離Lが式(1)から逐次算出される。
【0059】
最大変速比到達判定部130に対応するS6では、S5により算出された可動回転体42bの移動距離Lが予め設定された最大変速比判定値L1に到達したことすなわちL≧L1がたとえば数百ミリ秒程度の所定時間持続したことに基づいて、車両用ベルト式無段変速機18の可動回転体42bの移動がストッパリング42dによって機械的に阻止されたことにより機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことが判定される。
【0060】
上記S6の判定が否定されるうちはS7以下が繰り返し実行される。しかし、S6の判定が肯定されると、押付保持制御部132に対応するS2において前記最大変速比フラグがセットされる。また、入力側可変プーリ42の入力側油圧シリンダ42cに供給されていたプライマリ圧Pinが、変速制御のための制御値であるそれまでの値よりも十分に低い圧、たとえばドレーン圧まで低下させられるとともに、出力側可変プーリ46の出力側油圧シリンダ46cに供給されてそれまでは押付制御のために昇圧されていたセカンダリ圧Poutが、前記変速比制御による値へ復帰(低下)させられる。これにより、作動油圧の消費が少なく且つ低圧で押付状態が維持される。
【0061】
次の制御サイクルでは、S1の判断が肯定されるので、S2が繰り返し実行されて、車両用ベルト式無段変速機18の可動回転体42bがストッパリング42dに押し付けられた押付状態が維持され、アクセルペダルの踏込み操作などにより低車速減速走行が解除されるまでこの状態が持続される。
【0062】
上述のように、本実施例の電子制御装置50によれば、変速比γが最大変速比γmax付近にあり且つ変速比制御が実際の変速比γを最大変速比γmax側へ制御している最大変速比予備状態では、出力側輪可変プーリ46の出力側推力Woutが積極的に増加されて差推力ΔWが変速比制御による値よりもさらに増加され、その差推力ΔWから算出される変速速度dγ/dtに基づいてその増加からの入力側可変プーリ42の移動距離Lが推定され、その移動距離Lが予め設定された目標移動距離L1以上となったことに基づいて機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されるので、特に、差推力ΔWが継続せず入力側可変プーリ42のハード限界への到達を判定することが困難な緩減速変速時において、接触センサを用いないで、機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことが確実に検出される。
【0063】
また、本実施例の電子制御装置50によれば、差推力ΔWから算出される変速速度dγ/dtに基づいて推定された入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lが予め設定された目標移動距離L1以上となったことに基づいて、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γが機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されることから、差推力ΔWが相対的に大きい急減速に対しては短時間で、差推力ΔWが相対的に小さい緩減速に対しては付与差推力に応じた時間で判定を行うことが可能となるので、あらゆる減速に対しても的確に、機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことを判定することができる。
【0064】
また、本実施例では、出力側可変プーリ46への供給油圧であるセカンダリ圧Poutを検出するセカンダリ圧センサ(油圧センサ)80が備えられ、差推力ΔWは、そのセカンダリ圧センサ80により検出された出力側可変プーリ46への実際のセカンダリ圧Poutに基づいて算出されるので、流量収支不足や永久成長が生じた場合でも誤判定の可能性が低い利点がある。
【0065】
また、本実施例では、前記最大変速比予備状態は、車速Vが予め設定された極低車速判定値以下であり且つ車両の減速走行中状態を含むものであることから、。車両の極低車速の減速走行中において、変速比γが最大変速比γmax付近にあり且つ変速比制御が実際の変速比γを最大変速比γmax側へ制御している最大変速比予備状態となると、出力側輪可変プーリ46の出力側推力Woutが積極的に増加されて差推力ΔWが変速比制御による値よりもさらに増加され、その差推力ΔWから算出される変速速度dγ/dtに基づいてその増加からの入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lが推定され、その移動距離Lが予め設定された目標移動距離L1以上となったことに基づいて機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されるので、接触センサを用いないで、機械的に定まる最大変速比γmaxmとなったことが確実に検出される。
【0066】
また、本実施例では、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γが機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されると、入力側可変プーリ42に供給されていたプライマリ圧Pinがそれまでの値よりも低下させられることから、入力側可変プーリ42に捲き掛けられている伝動ベルト48は、機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したときに発生する反力に基づいて挟圧されるので、プライマリ圧Pinをそれまでの値よりも低下させても、伝動ベルト48の滑りが発生せず、燃費が向上する。
【0067】
また、本実施例では、車両用ベルト式無段変速機18の変速比γが機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されると、出力側推力Woutを積極的に増加させるために昇圧されてその出力側可変プーリ46に供給されていたセカンダリ圧Poutが、変速比制御による値に復帰(低下)させられるので、セカンダリ圧Poutの不要な昇圧が解消されるので、燃費が一層向上する。
【0068】
また、本実施例では、差推力ΔWから算出される変速速度dγ/dtは、差推力ΔWと変速速度dγ/dtとの間の予め記憶された関係から実際の差推力ΔWに基づいて算出され、入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lは、その変速速度dγ/dtの積算値に基づいて算出されるので、可動回転体42bの位置を検出する位置センサを用いないで、変速速度dγ/dtおよび入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lが容易に得られる。
【0069】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0070】
例えば、前述の実施例では、差推力ΔWは、少なくともセカンダリ圧センサ80により検出された実際のセカンダリ圧Poutに基づいて求められていたが、制御上で算出される推力比ΔWが用いられても差し支えない。
【0071】
また、前述の実施例では、差推力ΔWから換算される変速速度dγ/dtが差推力ΔWを付与した時点から積算されることで入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lが算出されていたが、車両用ベルト式無段変速機18において差推力ΔWと変速速度dγ/dtとは一対一の関係にあるので、差推力ΔWを付与した時点からの差推力ΔWの積算値に変換係数を乗算することで入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lを算出してもよいし、差推力ΔWとその差推力ΔWを付与した時点からの経過時間tと入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lとの関係をマップ又は関数式の形態で予め求め、その関係から実際の差推力ΔWとその差推力ΔWを付与した時点からの経過時間tとに基づいて入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lを算出してもよい。要するに、差推力ΔWとその差推力ΔWを付与した時点からの経過時間tとに基づいて入力側可変プーリ42の可動回転体42bの移動距離Lが算出されればよいのである。
【0072】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0073】
18:車両用ベルト式無段変速機
42:入力側可変プーリ
42b:可動回転体(入力側可動回転体)
42d:ストッパリング(ストッパ)
46:出力側可変プーリ
48:伝動ベルト
50:電子制御装置(制御装置)
80:セカンダリ圧センサ(油圧センサ)
Win:入力側推力
Wout:出力側推力
ΔW:差推力
dγ/dt:変速速度
L:入力側可変プーリの可動回転体の移動距離
L1:目標移動距離
γmaxm:機械的に定まる最大変速比
Pin:プライマリ圧
Pout:セカンダリ圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動ベルトが捲き掛けられ、該伝動ベルトの掛かり径である有効径が可変の一対の入力側および出力側可変プーリを有し、入力側可変プーリにおける入力側推力(プライマリ推力)及び出力側輪可変プーリにおける出力側推力(セカンダリ推力)を各々制御することで伝動ベルトの滑りを防止しつつ変速比を目標変速比とする変速比制御を行う車両用ベルト式無段変速機の制御装置であって、
前記変速比が最大変速比付近にあり且つ変速比制御が該変速比を該最大変速比側へ制御している最大変速比予備状態で、前記出力側推力を積極的に増加させて前記変速比制御のための値から積極的に差推力を増加し、該差推力および該差推力増加からの経過時間に基づいて該差推力増加からの前記入力側可変プーリの移動距離を推定し、該移動距離が予め設定された目標移動距離以上となったことに基づいて、前記車両用ベルト式無段変速機の変速比が、機械的に定まる最大変速比に到達したことを判定することを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記差推力の増加からの前記入力側可変プーリの移動距離は、前記該差推力から前記車両用ベルト式無段変速機の変速速度を算出し、前記差推力の増加から該変速速度を積算することにより算出されることを特徴とする請求項1の車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記出力側可変プーリの油圧を検出する油圧センサが備えられ、
前記差推力は、該油圧センサにより検出された出力側可変プーリの油圧をに基づいて算出されることを特徴とする請求項1または2の車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記最大変速比予備状態は、車速が予め設定された極低車速判定値以下であり且つ車両のコースト走行中状態を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記車両用ベルト式無段変速機の変速比が前記機械的に定まる最大変速比γmaxmに到達したことが判定されると、前記入力側可変プーリに供給されていたプライマリ圧がそれまでの値よりも低下させられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の車両用ベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記車両用ベルト式無段変速機の変速比が前記機械的に定まる最変速比に到達したことが判定されると、前記出力側推力を積極的に増加させるために昇圧されて、該出力側可変プーリに供給されていたセカンダリ圧が、前記変速比制御による値に復帰させられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用ベルト式無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−15192(P2013−15192A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148708(P2011−148708)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】