車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置
【課題】新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】無段変速機18における実変速比γを目標変速比γ*に追従させるフィードバック制御において、セカンダリ圧Poutに基づいてプライマリ圧Pinを推定すると共に、そのプライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する比較の結果と、実変速比γの目標変速比γ*に対する比較の結果とに基づいて、セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定するものであることから、新たに構成を追加することなく、既存の情報を基にプライマリ圧Pinを推定することで、セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定することができる。
【解決手段】無段変速機18における実変速比γを目標変速比γ*に追従させるフィードバック制御において、セカンダリ圧Poutに基づいてプライマリ圧Pinを推定すると共に、そのプライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する比較の結果と、実変速比γの目標変速比γ*に対する比較の結果とに基づいて、セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定するものであることから、新たに構成を追加することなく、既存の情報を基にプライマリ圧Pinを推定することで、セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置に関し、特に、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに連結され、そのエンジンの出力を無段階に変速できる車両用無段変速機が知られている。例えば、油圧によりベルトを挟圧して動力を伝達すると共に、そのベルトの掛かり径を変更して変速比を変化させるベルト式無段変速機等である。斯かるベルト式無段変速機において、油圧制御に関する故障を検出する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたベルト式無段変速機の制御装置がそれである。この技術によれば、可動シーブに軸線方向の押圧力を発生させる油圧室への油路中に設けられた圧力センサと、可動シーブの挟圧力を検出する撓みセンサとを、備えるベルト式無段変速機において、撓みセンサによる検出結果に基づいて前記油圧室内における圧力を推定し、その推定結果と前記圧力センサの検出結果とを比較することで、その圧力センサの異常を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−316892号公報
【特許文献2】特開2005−291111号公報
【特許文献3】特開2010−096240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術においては、前記圧力センサの異常を検出するために撓みセンサを新たに設ける必要があり、配線の追加による搭載性の悪化やセンサ自体の費用によるコストアップといった不具合を生じさせるものであった。このような課題は未公知であり、本発明者等が研究の過程で新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、斯かる事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、有効径が可変である入力側可変プーリ及び出力側可変プーリと、それら1対の可変プーリ相互間に巻き掛けられた伝動ベルトとを、有するベルト式無段変速機において、前記入力側可変プーリに供給される第1油圧及び前記出力側可変プーリに供給される第2油圧をそれぞれ制御する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置であって、前記出力側可変プーリに供給される第2油圧を検出する油圧センサを備え、前記ベルト式無段変速機における実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御において、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値の指令値に対する比較の結果と、前記実変速比の目標変速比に対する比較の結果とに基づいて、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、前記出力側可変プーリに供給される第2油圧を検出する油圧センサを備え、前記ベルト式無段変速機における実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御において、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値の指令値に対する比較の結果と、前記実変速比の目標変速比に対する比較の結果とに基づいて、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定するものであることから、新たに構成を追加することなく、既存の情報を基に前記第1油圧を推定することで、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定することができる。すなわち、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記第1油圧の推定値が指令値に対して予め定められた閾値以上大きく、且つ、前記実変速比の目標変速比に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記油圧センサに異常が発生していると判定するものである。このようにすれば、新たな構成を付加することなく前記油圧センサにおける異常の発生を簡便に判定することができる。
【0009】
前記第1発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記第1油圧の推定値の指令値に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比が目標変速比に対して大きい側に乖離している場合には、前記第2油圧に異常が発生していると判定するものである。このようにすれば、新たな構成を付加することなく前記第2油圧に係る異常の発生を簡便に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が好適に適用される車両を構成するエンジンから駆動輪までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。
【図2】図1の車両におけるエンジンや無段変速機等を制御するために設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1の車両に備えられた油圧制御回路のうち無段変速機の変速に関する油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】図2の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の車両における無段変速機の変速制御のために必要な推力を説明するための図である。
【図6】図5の所定時点における推力関係図である。
【図7】図1の車両における無段変速機において、必要最小限の推力で目標の変速とベルト滑り防止とを両立するための制御構造を示すブロック図である。
【図8】無段変速機の変速に関する油圧制御において目標入力軸回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図9】吸入空気量をパラメータとしてエンジン回転速度とエンジントルクとの予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図10】トルクコンバータの所定の作動特性として予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図11】目標変速比をパラメータとして安全率の逆数と推力比との予め実験的に求められて記憶された推力比マップの一例を示す図である。
【図12】目標変速比をパラメータとして安全率の逆数と推力比との予め実験的に求められて記憶された推力比マップの一例を示す図である。
【図13】図2の電子制御装置による変速比のフィードバック制御において、セカンダリ圧が実際に上昇する異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。
【図14】図2の電子制御装置による変速比のフィードバック制御において、セカンダリ圧センサの検出値が高圧側となる異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。
【図15】図2の電子制御装置による変速比のフィードバック制御において、セカンダリ圧センサの検出値が低圧側となる異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。
【図16】図2の電子制御装置による故障箇所判定制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好適には、前記油圧センサにより検出される検出値と、前記出力側可変プーリに供給される第2油圧の指令値との差が、予め定められた閾値以上となった場合に、油圧系統に何らかの異常が発生しているものとして、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定する制御を行うものである。
【0012】
好適には、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値が指令値に対して予め定められた閾値以上大きく、且つ、前記実変速比の目標変速比に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記油圧センサの検出値が実圧よりも高圧側にずれる異常が発生していると判定するものである。
【0013】
好適には、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値の指令値に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比が目標変速比に対して大きい側に乖離している場合には、前記第2油圧が実際に上昇する(指令値に対して大きくなる)異常が発生していると判定するものである。
【0014】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明が好適に適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、走行用の駆動力源であるエンジン12により発生させられた動力は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ14、前後進切換装置16、車両用ベルト式無段変速機18(以下、単に無段変速機18という)、減速歯車装置20、及び差動歯車装置22等を順次介して、左右1対の駆動輪24へ伝達されるように構成されている。
【0016】
上記トルクコンバータ14は、上記エンジン12のクランク軸26に連結されたポンプ翼車14p、及び上記トルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して上記前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。それらポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ14lが設けられており、このロックアップクラッチ14lが完全係合させられることによって上記ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tは一体回転させられるようになっている。上記ポンプ翼車14pには、上記無段変速機18を変速制御したり、その無段変速機18におけるベルト挟圧力を発生させたり、上記ロックアップクラッチ14lのトルク容量を制御したり、上記前後進切換装置16における動力伝達経路を切り換えたり、上記車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりするための作動油圧を、上記エンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0017】
前記前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、前記トルクコンバータ14のタービン軸30はサンギヤ16sに一体的に連結され、前記無段変速機18の入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結されるようになっており、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。上記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、好適には、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0018】
上記のように構成された前後進切換装置16では、上記前進用クラッチC1が係合されると共に上記後進用ブレーキB1が解放されると、前記前後進切換装置16は一体回転状態とされることにより上記タービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が前記無段変速機18側へ伝達される。上記後進用ブレーキB1が係合されると共に上記前進用クラッチC1が解放されると、前記前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、上記入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が前記無段変速機18側へ伝達される。上記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前記前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
【0019】
前記エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、前記車両10における駆動力源(主動力源)として機能する。このエンジン12の吸気配管36には、図1に示すように、スロットルアクチュエータ38を用いて前記エンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御するための電子スロットル弁40が備えられている。
【0020】
前記無段変速機18は、前記入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリであるプライマリプーリ(プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリであるセカンダリプーリ(セカンダリシーブ)46(以下、特に区別しない場合には単に可変プーリ42、46という)と、その1対の可変プーリ42、46相互間に巻き掛けられた伝動ベルト48とを、備えている。斯かる構成により、前記無段変速機18においては、上記1対の可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。この伝動ベルト48は、例えば、全体として無端環状を成しており、無端環状テープ状の1対のフープ(ベルト)と、その1対のフープに沿って互いに密接した状態で厚さ方向に重ね合わされた多数個のエレメント(コマ)とを備えている。このエレメントには、側方に開くように形成された1対のフープ係合溝が形成され、そのフープ係合溝に上記1対のフープが係合させられている。
【0021】
上記プライマリプーリ42は、前記入力軸32に固定された入力側固定回転体としての固定回転体(固定シーブ)42aと、前記入力軸32に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動回転体(可動シーブ)42bと、それらの間のV溝幅を変更するための前記プライマリプーリ42における入力側推力(プライマリ推力)Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのプライマリ側油圧シリンダ(入力側油圧シリンダ)42cとを、備えて構成されている。上記セカンダリプーリ46は、上記出力軸44に固定された出力側固定回転体としての固定回転体(固定シーブ)46aと、その出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動回転体(可動シーブ)46bと、それらの間のV溝幅を変更するための上記セカンダリプーリ46における出力側推力(セカンダリ推力)Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのセカンダリ側油圧シリンダ(出力側油圧シリンダ)46cとを、備えて構成されている。
【0022】
後述する図3に示すように、上記プライマリ側油圧シリンダ42cの油室42dへの油圧であるプライマリ圧Pin及び上記セカンダリ側油圧シリンダ46cの油室46dへの油圧であるセカンダリ圧Poutは、前記車両10に備えられた油圧制御回路100によってそれぞれ独立に調圧制御されるようになっている。これにより、前記プライマリプーリ42における推力であるプライマリ推力Win及び前記セカンダリプーリ46における推力であるセカンダリ推力Woutがそれぞれ直接的に或いは間接的に制御されることで、前記1対の可変プーリ42、46それぞれのV溝幅が変化して前記伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、前記無段変速機18の変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられると共に、前記伝動ベルト48に滑りが生じないように前記1対の可変プーリ42、46とその伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。
【0023】
前記無段変速機18においては、上記のようにプライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutがそれぞれ制御されることで、前記伝動ベルト48の滑りが防止されつつ実際の変速比(実変速比)γが目標変速比γ*とされる。ここで、入力軸回転速度NINは前記入力軸32の回転速度であり、出力軸回転速度NOUTは前記出力軸44の回転速度である。図1から明らかなように、本実施例においては、入力軸回転速度NINは前記プライマリプーリ42の回転速度と同一であり、出力軸回転速度NOUTは前記セカンダリプーリ46の回転速度と同一である。
【0024】
前記無段変速機18においては、例えばプライマリ圧Pinが高められると、前記プライマリプーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされる。すなわち、プライマリ圧Pinを増加させることにより前記無段変速機18がアップシフトされる。プライマリ圧Pinが低められると、前記プライマリプーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされる。すなわち、プライマリ圧Pinを減少させることにより前記無段変速機18がダウンシフトされる。従って、前記プライマリプーリ42のV溝幅が最小とされるところで、前記無段変速機18の変速比γとして最小変速比γmin(最高速側変速比、最Hi)が達成される。前記プライマリプーリ42のV溝幅が最大とされるところで、前記無段変速機18の変速比γとして最大変速比γmax(最低速側変速比、最Low)が達成される。前記無段変速機18においては、プライマリ圧Pin(プライマリ推力Winも同意)とセカンダリ圧Pout(セカンダリ推力Woutも同意)とにより前記伝動ベルト48の滑り(ベルト滑り)が防止されつつ、それらプライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとの相互関係にて目標変速比γ*が実現されるものであり、一方のプーリ圧(推力も同意)のみで目標の変速が実現されるものではない。
【0025】
図2は、前記エンジン12や無段変速機18等を制御するために前記車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。本実施例の車両10には、例えば前記無段変速機18の変速制御等に関連する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。この電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記車両10に関する各種制御を実行する。例えば、上記電子制御装置50は、前記エンジン12の出力制御、前記無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、前記ロックアップクラッチ14lのトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、前記無段変速機18の変速制御用、及び前記ロックアップクラッチ14lの油圧制御用等に分けて構成される。
【0026】
上記電子制御装置50には、前記車両10に備えられた各種センサやスイッチ等からの信号が供給されるようになっている。例えば、エンジン回転速度センサ52により検出された前記クランク軸26の回転角度(位置)ACR及び前記エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、タービン回転速度センサ54により検出された前記タービン軸30の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された前記無段変速機18の入力回転速度である入力軸回転速度NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された車速Vに対応する前記無段変速機18の出力回転速度である出力軸回転速度NOUTを表す信号、スロットルセンサ60により検出された前記電子スロットル弁40のスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出された前記エンジン12の冷却水温THWを表す信号、吸入空気量センサ64により検出された前記エンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、フットブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すブレーキオンBONを表す信号、CVT油温センサ70により検出された前記無段変速機18等の作動油の油温THOILを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバーのレバーポジション(操作位置)PSHを表す信号、バッテリセンサ76により検出されたバッテリ温度THBATやバッテリ入出力電流(バッテリ充放電電流)IBATやバッテリ電圧VBATを表す信号、油圧センサであるセカンダリ圧センサ78により検出された前記セカンダリプーリ46への供給油圧である第2油圧すなわちセカンダリ圧Poutを表す信号等が、それぞれ供給される。上記電子制御装置50は、例えば上記バッテリ温度THBAT、バッテリ充放電電流IBAT、及びバッテリ電圧VBAT等に基づいてバッテリ(蓄電装置)の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。上記電子制御装置50は、例えば出力軸回転速度NOUTと入力軸回転速度NINとに基づいて前記無段変速機18の実変速比γ(=NIN/NOUT)を逐次算出する。
【0027】
前記電子制御装置50からは、前記車両10における各部の動作を制御するための信号が出力されるようになっている。例えば、前記エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号SE、前記無段変速機18の変速に関する油圧制御のための油圧制御指令信号SCVT等が、それぞれ出力される。具体的には、上記エンジン出力制御指令信号SEとして、前記スロットルアクチュエータ38を駆動して前記電子スロットル弁40の開閉を制御するためのスロットル信号、燃料噴射装置80から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、及び点火装置82による前記エンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号等が出力される。上記油圧制御指令信号SCVTとして、プライマリ圧Pinを調圧するリニアソレノイド弁SLPを駆動するための指令信号、セカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号等が、図3を用いて後述する油圧制御回路100へ出力される。
【0028】
図3は、前記車両10に備えられた油圧制御回路100のうち前記無段変速機18の変速に関する油圧制御(変速圧力制御)に関する要部を示す油圧回路図である。この図3に示すように、斯かる油圧制御回路100は、例えば、前記機械式のオイルポンプ28、プライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧コントロールバルブ110、セカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ112、プライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)114、モジュレータバルブ116、リニアソレノイド弁SLT、リニアソレノイド弁SLP、及びリニアソレノイド弁SLS等を備えている。
【0029】
ライン油圧PLは、例えば前記オイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータバルブ114により上記リニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧される。具体的には、ライン油圧PLは、プライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutの高い方の油圧に所定の余裕分(マージン)を加えた油圧が得られるように設定された制御油圧PSLTに基づいて調圧される。従って、上記プライマリ圧コントロールバルブ110及びセカンダリ圧コントロールバルブ112の調圧動作において元圧であるライン油圧PLが不足するということが回避されると共に、ライン油圧PLが不必要に高くされないようにすることが可能である。モジュレータ油圧PMは、前記電子制御装置50によって制御される制御油圧PSLT、上記リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、及び上記リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの各元圧となるものであって、ライン油圧PLを元圧として上記モジュレータバルブ116により一定圧に調圧される。
【0030】
前記プライマリ圧コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経てプライマリプーリ42へ供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つ上記スプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLPを受け入れる油室110cと、上記スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力されたライン油圧PLを受け入れるフィードバック油室110dと、上記スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室110eとを、備えている。
【0031】
上記のように構成されたプライマリ圧コントロールバルブ110は、例えば制御油圧PSLPをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御して前記プライマリプーリ42のプライマリ側油圧シリンダ42c(油室42d)に供給する。これにより、そのプライマリ側油圧シリンダ42cに供給される第1油圧であるプライマリ圧Pinが制御される。例えば、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが増大させられると、前記プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の上側に移動する。これにより、前記プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが増大させられる。一方で、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが低下させられると、前記プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の下側に移動する。これにより、前記プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが低下させられる。
【0032】
前記プライマリプーリ42に対する作動油の給排管路すなわち前記プライマリ側油圧シリンダ42c(油室42d)とプライマリ圧コントロールバルブ110との間の油路118には、フェールセーフ等を目的としてオリフィス120が設けられている。このオリフィス120が設けられていることにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLPが故障しても前記プライマリ側油圧シリンダ42cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLPの故障に起因した前記車両10の急減速が抑制される。
【0033】
前記セカンダリ圧コントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート112iを開閉してライン油圧PLを入力ポート112iから出力ポート112tを経て前記セカンダリプーリ46へセカンダリ圧Poutとして供給可能にするスプール弁子112aと、そのスプール弁子112aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bと、そのスプリング112bを収容し且つ上記スプール弁子112aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室112cと、上記スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するために上記出力ポート112tから出力されたセカンダリ圧Poutを受け入れるフィードバック油室112dと、上記スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室112eとを、備えている。
【0034】
上記のように構成されたセカンダリ圧コントロールバルブ112は、例えば制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御して前記セカンダリプーリ46のセカンダリ側油圧シリンダ46c(油室46d)に供給する。これにより、そのセカンダリ側油圧シリンダ46cに供給される第2油圧であるセカンダリ圧Poutが制御される。例えば、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが増大させられると、前記セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の上側に移動する。これにより、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが増大させられる。一方で、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが低下させられると、前記セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の下側に移動する。これにより、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが低下させられる。
【0035】
前記セカンダリプーリ46に対する作動油の給排管路すなわち前記セカンダリ側油圧シリンダ46c(油室46d)とセカンダリ圧コントロールバルブ112との間の油路122には、フェールセーフ等を目的としてオリフィス124が設けられている。このオリフィス124が設けられていることにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLSが故障しても前記セカンダリ側油圧シリンダ46cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLSの故障に起因したベルト滑りが防止される。
【0036】
このように構成された油圧制御回路100において、例えば前記リニアソレノイド弁SLPにより調圧されるプライマリ圧Pin及び前記リニアソレノイド弁SLSにより調圧されるセカンダリ圧Poutは、前記伝動ベルト48と可変プーリ42、46との間に滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト挟圧力を前記1対の可変プーリ42、46に発生させるように制御される。後述するように、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、前記1対の可変プーリの42、46の推力比τ(=Wout/Win)が変更されることにより前記無段変速機18の変速比γが変更される。例えば、その推力比τが大きくされるほど変速比γが大きくされる(すなわち、無段変速機18がダウンシフトされる)。
【0037】
図4は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示す変速油圧制御部130は、前記無段変速機18における変速比γを制御するための変速圧力制御を行う。例えば、前記無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつその無段変速機18の目標変速比γ*を達成するように、プライマリ圧Pinの指令値(又は目標プライマリ圧Pin*)としてのプライマリ指示圧Pintgtと、セカンダリ圧Poutの指令値(又は目標セカンダリ圧Pout*)としてのセカンダリ指示圧Pouttgtとを、決定し、斯かるプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを前記油圧制御回路100へ出力する。すなわち、本実施例においては、前記電子制御装置50がベルト式無段変速機の油圧制御装置に相当する。図4に示すように、前記変速油圧制御部130は、例えば滑り限界推力Wlmtを算出する滑り限界推力算出部132と、バランス推力Wblを算出する定常推力算出部134と、変速差推力ΔWを算出する差推力算出部136と、フィードバック制御量Winfbを算出するフィードバック制御量算出部138とを、備えている。これらの制御機能については後述する。
【0038】
実変速比算出部140は、前記無段変速機18における実変速比γを算出する。具体的には、前記出力軸回転速度センサ58により検出される出力軸回転速度NOUTと、前記入力軸回転速度センサ56により検出される入力軸回転速度NINとに基づいて、その比としての前記無段変速機18の実変速比γ(=NIN/NOUT)を算出する。この実変速比算出部140は、前記変速油圧制御部130に含まれるものであってもよい。
【0039】
プライマリプーリ油圧推定部142は、油圧センサである前記セカンダリ圧センサ78により検出される第2油圧すなわち前記セカンダリ側油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Poutに基づいて、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに供給される第1油圧であるプライマリ圧Pinを推定する。例えば、前記プライマリプーリ42におけるプライマリ側油圧シリンダ42cの推力であるプライマリ推力Winの推定値Winesを、そのプライマリプーリ42の受圧面積Ainで除した値(=Wines/Ain)をプライマリ圧Pinの推定値Pinesとして算出する。このプライマリ推力Winの推定値Winesは、例えば、前記セカンダリプーリ46におけるセカンダリ側油圧シリンダ46cの推力であるセカンダリ推力Woutを推定推力比τesで除した値(=Wout/τes)である。この推定推力比τesは、例えば、予め実験的に求められた関係(機械的な構成によって定まる関係)から前記無段変速機16における実変速比γ及び入力トルクTIN等に基づいて算出される。入力トルクTINは、後述するように例えばエンジントルクTEに前記トルクコンバータ14のトルク比tを乗じた値(=TE×t)として算出される。セカンダリ推力Woutは、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutと前記セカンダリプーリ46の受圧面積Aoutとの積(=Pout×Aout)である。
【0040】
本実施例の油圧制御回路100は、前記1対の可変プーリの42、46の一方の側であるセカンダリプーリ46側のみに、そのセカンダリプーリ46(セカンダリ側油圧シリンダ46c)に作用する実セカンダリ圧Poutを検出するための油圧センサとしてのセカンダリ圧センサ78を備えている。換言すれば、前記プライマリプーリ42(プライマリ側油圧シリンダ42c)に作用する実プライマリ圧Pinを検出するための油圧センサを備えておらず、上記プライマリプーリ油圧推定部142により推定する。このため、上記変速油圧制御部130は、例えば、前記セカンダリ圧センサ78の検出値(実セカンダリ圧Poutを表す信号)を目標セカンダリ推力Wout*に対応する目標セカンダリ圧Pout*とするフィードバック制御を実行することができる。これによって、前記セカンダリプーリ46側では、油圧センサが備えられていないプライマリプーリ42側と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる。すなわち、本実施例の油圧制御回路100においては、前記プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46の一方であるセカンダリプーリ46を、他方であるプライマリプーリ42と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる。
【0041】
上記のように構成された油圧制御回路100において、必要最小限の推力でベルト滑りを防止するために必要な推力(必要推力)すなわちベルト滑りが発生する直前の推力であるベルト滑り限界推力(以下、滑り限界推力)を目標推力として設定する場合、比較的油圧制御精度が劣る(すなわち油圧センサの検出値と目標値との偏差に基づくフィードバック制御できない)プライマリプーリ42側では、確実に滑り限界推力を確保するために、油圧指令値(プライマリ指示圧Pintgt)と実油圧(実プライマリ圧Pin)とのずれである油圧ばらつきに相当する推力分をその滑り限界推力に上乗せする必要がある。そうすると、目標の変速を実現するための推力比τ(=Wout/Win)に基づくプライマリ圧Pin(プライマリ推力Win)とセカンダリ圧Pout(セカンダリ推力Wout)との相互関係から、前記プライマリプーリ42側油圧ばらつきに相当する推力分に対応して目標セカンダリ推力Wout*も増大させなければならず、燃費が悪化するおそれがある。油圧センサを備えなくとも、目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差Δγ(=γ*−γ)に基づくフィードバック制御により推力を補正することは可能であるので、目標の変速を実現することに関しては、必ずしも油圧制御精度が良い必要はない。
【0042】
そこで、本実施例においては、例えば油圧制御精度が比較的良い前記セカンダリプーリ46側で、そのセカンダリプーリ46側の滑り限界推力を確保すると共に、前記プライマリプーリ42側の滑り限界推力も確保する、すなわち前記1対の可変プーリ42、46両方のベルトトルク容量保証を実現する。油圧制御精度が比較的劣る前記プライマリプーリ42側では、上記ベルト滑りの防止を保証するための目標セカンダリ推力Wout*に対応した目標プライマリ推力Win*を設定し、目標の変速を実現する。この際、前記プライマリプーリ42側の油圧ばらつき分による燃費悪化を避けるため、変速比偏差Δγに基づいたフィードバック制御を実行する。
【0043】
具体的には、前記変速油圧制御部130は、例えば前記セカンダリプーリ46側の滑り限界推力であるセカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtと、前記プライマリプーリ42側の滑り限界推力であるプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(本実施例では後述するように下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)を用いる)に基づいて算出される変速制御のために必要な前記セカンダリプーリ46側の推力であるセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wout*として選択する。前記変速油圧制御部130は、例えば上記選択した目標セカンダリ推力Wout*に基づいて算出される変速制御のために必要な前記プライマリプーリ42側の推力であるプライマリプーリ側変速制御推力Winshを、目標プライマリ推力Win*として設定する。前記変速油圧制御部130は、例えば目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差Δγに基づいたプライマリ推力Winのフィードバック制御により、目標プライマリ推力Win*(すなわちプライマリプーリ側変速制御推力Winsh)を補正する。
【0044】
上記変速比偏差Δγは、変速比γと1対1に対応するパラメータにおける目標値と実際値との偏差であれば良い。例えば、変速比偏差Δγに替えて、前記プライマリプーリ42側の目標プーリ位置(目標シーブ位置)Xin*と実プーリ位置(実シーブ位置)Xin(図3参照)との偏差ΔXin(=Xin*−Xin)、前記セカンダリプーリ46側の目標シーブ位置Xout*と実シーブ位置Xout(図3参照)との偏差ΔXout(=Xout*−Xout)、前記プライマリプーリ42側の目標ベルト掛かり径Rin*と実ベルト掛かり径Rin(図3参照)との偏差ΔRin(=Rin*−Rin)、前記セカンダリプーリ46側の目標ベルト掛かり径Rout*と実ベルト掛かり径Rout(図3参照)との偏差ΔRout(=Rout*−Rout)、目標入力軸回転速度NIN*と実入力軸回転速度NINとの偏差ΔNIN(=NIN*−NIN)等を用いることができる。
【0045】
前記変速制御のために必要な推力は、例えば目標の変速を実現するために必要な推力であって、目標変速比γ*及び目標変速速度を実現するために必要な推力である。この変速速度は、例えば単位時間当たりの変速比γの変化量dγ(=dγ/dt)であるが、本実施例では、前記伝動ベルト48のエレメント(ブロック)1個当たりのシーブ位置移動量(dX/dNelm)として定義する(dX:単位時間当たりの可動シーブの軸方向変位量であるシーブ位置変化量すなわちシーブ位置変化速度(=dX/dt)[mm/ms]、dNelm:単位時間当たりにプーリに噛み込むエレメント(ブロック)数[個/ms])。従って、目標変速速度としては、プライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)と、セカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)とで表される。
【0046】
具体的には、定常状態(変速比γが一定の状態)でのプライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとをバランス推力(定常推力)Wbl(例えばプライマリバランス推力Winblとセカンダリバランス推力Woutbl)と称し、これらの比が前記1対の可変プーリの42、46の推力比τ(=Woutbl/Winbl)である。プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとが一定の変速比γを保つ定常状態にあるとき、前記1対の可変プーリ42、46の何れかの推力に、ある推力を加算又は減算すると、定常状態が崩れて変速比γが変化し、加算又は減算した推力の大きさに応じた変速速度(dX/dNelm)が生じる。この加算又は減算した推力のことを変速差推力(過渡推力)ΔW(例えばプライマリ変速差推力ΔWinとセカンダリ変速差推力ΔWout)と称す。従って、前記変速制御のために必要な推力は、一方の推力が設定された場合、目標変速比γ*を維持するための推力比τに基づいて一方の推力に対応する目標変速比γ*を実現するための他方のバランス推力Wblと、目標変速比γ*が変化させられるときの目標変速速度(例えばプライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)とセカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout))を実現するための変速差推力ΔWとの和となる。
【0047】
ここで、前記プライマリプーリ42側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWすなわちプライマリプーリ側換算のプライマリ変速差推力ΔWinは、アップシフト状態であれば(ΔWin>0)となり、ダウンシフト状態であれば(ΔWin<0)となり、変速比一定の定常状態であれば(ΔWin=0)となる。前記セカンダリプーリ46側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWすなわちセカンダリプーリ側換算のセカンダリ変速差推力ΔWoutは、アップシフト状態であれば(ΔWout<0)となり、ダウンシフト状態であれば(ΔWout>0)となり、変速比一定の定常状態であれば(ΔWout=0)となる。
【0048】
図5及び図6は、前記変速制御のために必要な推力を説明するための図である。これらの図は、例えば前記セカンダリプーリ46側にてベルト滑り防止を実現するようにセカンダリ推力Woutを設定した場合に、前記プライマリプーリ42側にて目標のアップシフトを実現するときに設定されるプライマリ推力Winの一例を示している。図5において、t1時点以前或いはt3時点以降では、目標変速比γ*が一定の定常状態にありΔWin=0とされるので、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winbl(=Wout/τ)のみとなる。t1時点乃至t3時点では、目標変速比γ*が小さくされるアップシフト状態にあるので、図6に示した図5のt2時点における推力関係図で表されるように、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winblとプライマリ変速差推力ΔWinとの和となる。図6に示した各推力の斜線部分は、図5のt2時点の目標変速比γ*を維持するためのそれぞれのバランス推力Wblに相当する。
【0049】
図7は、前記セカンダリプーリ46側にのみセカンダリ圧センサ78が備えられており、前記プライマリプーリ42側にプライマリ圧センサが備えられていない場合に、必要最小限の推力で目標の変速とベルト滑り防止とを両立するための制御構造を示すブロック図である。この図7に示すセカンダリ側目標推力演算部150及びプライマリ側目標推力演算部152は、例えば、前記変速油圧制御部130に含まれるものであり、この図に示すように、目標変速比γ*及び無段変速機18の入力トルクTINが、例えば前記変速油圧制御部130により逐次算出される。具体的には、前記変速油圧制御部130は、前記無段変速機18の変速後に達成すべき変速比γである変速後目標変速比γ*lを決定する。例えば、図8に示すようなアクセル開度ACCをパラメータとして出力軸回転速度NOUTと目標入力軸回転速度NIN*との予め求められて記憶された関係(変速マップ)から実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度ACCで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NIN*を設定する。そして、目標入力軸回転速度NIN*に基づいて変速後目標変速比γ*l(=NIN*/NOUT)を算出する。
【0050】
図8の変速マップは変速条件に相当するもので、出力軸回転速度NOUTが小さくアクセル開度ACCが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN*が設定されるようになっている。この変速後目標変速比γ*lは、前記無段変速機18の最小変速比γmin(最高速ギヤ比、最Hi)と最大変速比γmax(最低速ギヤ比、最Low)の範囲内で定められる。そして、前記変速油圧制御部130は、例えば迅速且つ滑らかな変速が実現されるように予め実験的に設定された関係から、変速開始前の変速比γと変速後目標変速比γ*lとそれらの差とに基づいて、変速中の過渡的な変速比γの目標値として目標変速比γ*を決定する。例えば、変速中に逐次変化させる目標変速比γ*を、変速開始時から変速後目標変速比γ*lに向且つて変化する滑らかな曲線(例えば1次遅れ曲線や2次遅れ曲線)に沿って変化する経過時間の関数として決定する。すなわち、前記変速油圧制御部130は、前記無段変速機18の変速中において、変速開始時からの時間経過に従って変速開始前の変速比γから変速後目標変速比γ*lに近付くように逐次目標変速比γ*を変化させる。
【0051】
前記変速油圧制御部130は、例えばエンジントルクTEに前記トルクコンバータ14のトルク比t(=トルクコンバータ14の出力トルクであるタービントルクTT/トルクコンバータ14の入力トルクであるポンプトルクTP)を乗じたトルク(=TE×t)として、前記無段変速機18の入力トルクTINを算出する。例えば前記エンジン12に対する要求負荷としての吸入空気量QAIR(或いはそれに相当するスロットル弁開度θTH等)をパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された図9に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)から、吸入空気量QAIR及びエンジン回転速度NEに基づいて推定エンジントルクTEesとして、エンジントルクTEを算出する。或いは、このエンジントルクTEは、例えばトルクセンサ等により検出される前記エンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)TE等が用いられても良い。前記トルクコンバータ14のトルク比tは、そのトルクコンバータ14の速度比e(=トルクコンバータ14の出力回転速度であるタービン回転速度NT/トルクコンバータ14の入力回転速度であるポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE))の関数であり、例えば速度比eとトルク比t、効率η、及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された図10に示すような関係(マップ、トルクコンバータ14の所定の作動特性図)から、実際の速度比eに基づいて前記変速油圧制御部130により算出される。推定エンジントルクTEesは、実エンジントルクTEそのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTEと区別する場合を除き、推定エンジントルクTEesを実エンジントルクTEとして取り扱うものとする。従って、推定エンジントルクTEesには実エンジントルクTEも含むものとする。
【0052】
図7のブロックB1及びブロックB2において、前記滑り限界推力算出部132は、例えば実変速比γと前記無段変速機18の入力トルクTINとに基づいて滑り限界推力Wlmtを算出する。具体的には、例えば次式(1)及び次式(2)から前記プライマリプーリ42の入力トルクとしての前記無段変速機18の入力トルクTIN、前記セカンダリプーリ46の入力トルクとしての前記無段変速機18の出力トルクTOUT、前記可変プーリ42、46のシーブ角α、前記プライマリプーリ42側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μin、前記セカンダリプーリ46側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μout、実変速比γから一意的に算出される前記プライマリプーリ42側のベルト掛かり径Rin、実変速比γから一意的に算出される前記セカンダリプーリ46側のベルト掛かり径Rout(以上、図3参照)に基づいて、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmt及びプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtをそれぞれ算出する。ここで、TOUT=γ×TIN=(Rout/Rin)×TINとしている。但し、上記ブロックB2においては、前記滑り限界推力算出部132は、後述するように、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに基づいて下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)を算出する。
【0053】
Woutlmt=(TOUT ×cosα)/(2×μout×Rout)
=(TIN ×cosα)/(2×μout×Rin ) ・・・(1)
Winlmt =(TIN ×cosα)/(2×μin ×Rin ) ・・・(2)
【0054】
図7のブロックB3及びブロックB6において、前記定常推力算出部134は、例えば下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に対応するセカンダリバランス推力Woutbl、及び目標セカンダリ推力Wout*に対応するプライマリバランス推力Winblをそれぞれ算出する。具体的には、目標変速比γ*をパラメータとしてプライマリ側安全率SFin(=Win/Winlmt(g))の逆数SFin-1(=Winlmt(g)/Win)と前記プライマリプーリ42側に対応する前記セカンダリプーリ46側の推力を算出するときの推力比τinとの予め実験的に求められて記憶された例えば図11に示すような関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びプライマリ側安全率の逆数SFin-1に基づいて推力比τinを算出する。そして、前記定常推力算出部134は、次式(3)から下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力Woutblを算出する。前記定常推力算出部134は、目標変速比γ*をパラメータとしてセカンダリ側安全率SFout(=Wout/Woutlmt)の逆数SFout-1(=Woutlmt/Wout)と前記セカンダリプーリ46側に対応する前記プライマリプーリ42側の推力を算出するときの推力比τoutとの予め実験的に求められて記憶された例えば図12に示すような関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びセカンダリ側安全率の逆数SFout-1に基づいて推力比τoutを算出する。そして、前記定常推力算出部134は、次式(4)から目標セカンダリ推力Wout*及び推力比τoutに基づいてプライマリバランス推力Winblを算出する。被駆動時には入力トルクTINや出力トルクTOUTが負の値となることから、上記各安全率の逆数SFin-1、SFout-1も被駆動時には負の値となる。これらの逆数SFin-1、SFout-1は、逐次算出されても良いが、安全率SFin、SFoutに所定値(例えば1−1.5程度)をそれぞれ設定するならばその逆数を設定しても良い。
【0055】
Woutbl=Winlmt(g)×τin ・・・(3)
Winbl=Wout*/τout ・・・(4)
【0056】
図7のブロックB4及びブロックB7において、前記差推力算出部136は、例えば前記セカンダリプーリ46側にて目標の変速を実現する場合のセカンダリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのセカンダリ変速差推力ΔWout、及び前記プライマリプーリ42側にて目標の変速を実現する場合のプライマリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのプライマリ変速差推力ΔWinを算出する。例えば、予め定められた関係(例えば図8に示すような変速マップ)から実際の車速V(出力軸回転速度NOUT)及びアクセル開度ACCで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NIN*を設定する。その目標入力軸回転速度NIN*に基づいて変速後目標変速比γ*l(=NIN*/NOUT)を算出し、予め定められた関係からその変速後目標変速比γ*lに対応するプライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)、セカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)を算出する。そのようにして逐次算出されるプライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)、セカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)に基づいて、予め定められた関係(差推力マップ)からプライマリ変速差推力ΔWin、セカンダリ変速差推力ΔWoutを算出する。
【0057】
上述のように、図7のブロックB3、B4における演算では、推力比マップや差推力マップ等の予め実験的に求められて設定された物理特性図を用いる。そのため、前記油圧制御回路100等の個体差によりセカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWoutの算出結果には物理特性に対するばらつきが存在する。そこで、このような物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、前記滑り限界推力算出部132は、例えば下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に基づくセカンダリプーリ46側の推力(セカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWout)の算出に関わる物理特性に対するばらつき分に対応する所定推力(制御マージン)Wmgnを、上記セカンダリプーリ46側の推力の算出に先立って、そのプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に加算する。従って、上記物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、前記ブロックB3において、前記定常推力算出部134は、例えば前記式(3)に替えて、次式(3)’から上記制御マージンWmgnが加算されたプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力Woutblを算出する。
【0058】
Woutbl=(Winlmt(g)+Wmgn)×τin ・・・(3)’
【0059】
上記制御マージンWmgnは、例えば予め実験的に求められて設定された一定値(設計値)であるが、定常状態(変速比一定状態)よりも過渡状態(変速中)の方がばらつき要因(推力比マップや差推力マップの物理特性図)を多く用いるので、大きい値に設定されている。上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、例えば前記リニアソレノイド弁SLP、SLSへの各制御電流に対する制御油圧PSLP、PSLSのばらつき、その制御電流を出力する駆動回路のばらつき、制御油圧PSLP、PSLSに対する実プーリ圧Pin、Poutのばらつき等のプーリ圧の油圧指令値に対する実油圧のずれ分(油圧ばらつき分、油圧制御上のばらつき分)とは異なるものである。この油圧ばらつき分は、ユニット(油圧制御回路100等のハードユニット)によっては比較的大きな値となるが、上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、上記油圧ばらつき分と比べて極めて小さな値である。そのため、制御マージンWmgnをプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に加算することは、プーリ圧の油圧指令値に対して実プーリ圧がどんなにばらついても目標のプーリ圧が得られるようにその油圧指令値に制御上のばらつき分を上乗せすることに比べ、燃費の悪化が抑制される。前記ブロックB6、B7における演算では、目標セカンダリ推力Wout*を基にするので、ここでは演算に先立って上記制御マージンWmgnを目標セカンダリ推力Wout*に加算することについては実行しない。
【0060】
前記変速油圧制御部130は、例えば前記プライマリプーリ42側のベルト滑りを防止するために必要なセカンダリ推力として、セカンダリバランス推力Woutblにセカンダリ変速差推力ΔWoutを加算したセカンダリプーリ側変速制御推力Woutsh(=Woutbl+ΔWout)を算出する。そして、図7のブロックB5において、前記変速油圧制御部130は、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtとセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wout*として選択する。
【0061】
前記変速油圧制御部130は、例えばプライマリバランス推力Winblにプライマリ変速差推力ΔWinを加算してプライマリプーリ側変速制御推力Winsh(=Winbl+ΔWin)を算出する。図7のブロックB8において、前記フィードバック制御量算出部138は、例えば次式(5)に示すような予め求められて設定されたフィードバック制御式を用いて、実変速比γを目標変速比γ*と一致させるためのフィードバック制御量(フィードバック制御補正量)Winfbを算出する。この式(5)において、Δγは目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差(=γ*−γ)、KPは所定の比例定数、KIは所定の積分定数、KDは所定の微分定数である。そして、前記変速油圧制御部130は、例えばプライマリプーリ側変速制御推力Winshに対して、変速比偏差Δγに基づいたフィードバック制御により補正した値(=Winsh+Winfb)を目標プライマリ推力Win*として設定する。このように、前記ブロックB1乃至B5は、目標セカンダリ推力Wout*を設定するセカンダリ側目標推力演算部152として機能する。前記ブロックB6乃至B8は、目標プライマリ推力Win*を設定するプライマリ側目標推力演算部154として機能する。
【0062】
Winfb=KP×Δγ+KI×(∫Δγdt)+KD×(dΔγ/dt) ・・・(5)
【0063】
図7のブロックB9及びブロックB10において、前記変速油圧制御部130は、例えば目標推力を目標プーリ圧に変換する。具体的には、前記変速油圧制御部130は、目標セカンダリ推力Wout*及び目標プライマリ推力Win*を、前記各油圧シリンダ46c、42cの各受圧面積Ain、Aoutに基づいて目標セカンダリ圧Pout*(=Wout*/Aout)及び目標プライマリ圧Pin*(=Win*/Ain)にそれぞれ変換する。そして、前記変速油圧制御部130は、その目標セカンダリ圧Pout*及び目標プライマリ圧Pin*をセカンダリ指示圧Pouttgt及びプライマリ指示圧Pintgtとして設定する。
【0064】
前記変速油圧制御部130は、例えば目標プライマリ圧Pin*及び目標セカンダリ圧Pout*が得られるように、油圧制御指令信号SCVTとしてプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを前記油圧制御回路100へ出力する。その油圧制御回路100は、その油圧制御指令信号SCVTに従って、前記リニアソレノイド弁SLPを作動させてプライマリ圧Pinを調圧すると共に、前記リニアソレノイド弁SLSを作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
【0065】
前記変速油圧制御部130は、例えば前記セカンダリプーリ46側の油圧ばらつき分(油圧制御上のばらつき分)を補償するために、前記セカンダリ圧センサ78によるセカンダリ圧Poutの検出値が目標セカンダリ圧Pout*と一致するように、セカンダリ圧Poutの検出値と目標セカンダリ圧Pout*との偏差ΔPout(=Pout*−Pout検出値)に基づくフィードバック制御によりセカンダリ指示圧Pouttgtを補正する。本実施例の油圧制御回路100では、前記プライマリプーリ42側に油圧センサが設けられていないので、プーリ圧の検出値と実際値との偏差に基づく前記セカンダリプーリ46側のようなフィードバック制御によりプライマリ指示圧Pintgtを補正することはできない。しかしながら、本実施例では、例えば前記ブロックB8において実変速比γが目標変速比γ*と一致するようにフィードバック制御により補正された値(=Winsh+Winfb)が目標プライマリ推力Win*として設定されるので、前記プライマリプーリ42側の油圧ばらつき分を補償することができる。
【0066】
以上に説明したように、前記無段変速機18における実変速比γを目標変速比γ*に追従させるフィードバック制御において、図4に示す油圧センサ検出値乖離判定部144、プライマリプーリ油圧乖離判定部146、変速比乖離判定部148、及び異常箇所判定部150は、前記無段変速機18の油圧制御に係る異常を判定する。例えば、前記セカンダリ圧センサ78の検出値(油圧センサ値)と、目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生した場合に、前記油圧制御回路100に備えられた前記セカンダリ圧センサ78の装置自体に異常が発生しているのか、或いはセカンダリ圧Poutに異常が発生している(所望されるセカンダリ圧Poutが出ていない、セカンダリ圧Poutを発生させる構成に異常がある)のかを判定する。以下、これらの制御機能について分説する。
【0067】
上記油圧センサ検出値乖離判定部144は、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout(実測値)と、目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したか否かを判定する。例えば、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutが、目標セカンダリ圧Pout*に対して予め定められた閾値α以上大きいか否か、すなわち次の(6)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定する。前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutと目標セカンダリ圧Pout*との差の絶対値が予め定められた閾値α以上であるか否かを判定し、その判定が肯定される場合には目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定するものであってもよい。すなわち次の(7)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定するものであってもよい。
【0068】
Pout≧Pout*+α ・・・(6)
|Pout−Pout*|≧α ・・・(7)
【0069】
前記プライマリプーリ油圧推定部142は、好適には、前記油圧センサ検出値乖離判定部144により前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutと目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定された場合に、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutに基づいて、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに供給されるプライマリ圧Pinを推定する。後述するプライマリプーリ油圧乖離判定部146による判定及び異常箇所判定部150による判定は、好適には、前記油圧センサ検出値乖離判定部144により乖離の発生が判定されて、前記プライマリプーリ油圧推定部142により前記セカンダリ圧Poutに基づいてプライマリ圧Pinが推定された場合に、その推定プライマリ圧Pinに対応して実行される。
【0070】
前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146は、前記プライマリプーリ油圧推定部142により推定されるプライマリ圧Pinの推定値Pinesの、指令値すなわち目標プライマリ圧Pin*に対する比較を行い、その乖離を判定する。前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146は、好適には、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する乖離が規定範囲内であるか否かを判定する。例えば、その推定値Pinesと指令値Pin*との差の絶対値が予め定められた閾値dP未満であるか否か、すなわち次の(8)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には乖離が規定範囲内であると判定する。
【0071】
|Pines−Pin*|<dP ・・・(8)
【0072】
前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146は、好適には、前記プライマリプーリ油圧推定部142により推定されるプライマリ圧Pinの推定値Pinesが指令値である目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きいか否かを判定する。すなわち、次の(9)式が成立するか否かを判定する。換言すれば、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して大きい側に所定値β1以上乖離しているか否かを判定する。
【0073】
Pines−Pin*≧β1 ・・・(9)
【0074】
前記変速比乖離判定部148は、前記実変速比算出部140により算出される前記無段変速機18の実変速比γの、目標変速比γ*に対する比較を行い、その乖離を判定する。前記変速比乖離判定部148は、好適には、前記実変速比γと目標変速比γ*との差の絶対値が予め定められた閾値dγ未満であるか否か、すなわち次の(10)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には乖離が規定範囲内であると判定する。
【0075】
|γ−γ*|<dγ ・・・(10)
【0076】
前記変速比乖離判定部148は、好適には、前記実変速比算出部140により算出される前記無段変速機18の実変速比γが目標変速比γ*に対して予め定められた閾値β2以上大きいか否かを判定する。すなわち、次の(11)式が成立するか否かを判定する。好適には、β2は零である。すなわち、前記変速比乖離判定部148は、好適には、前記実変速比算出部140により算出される前記無段変速機18の実変速比γが目標変速比γ*以上であるか否か、換言すれば、前記実変速比γが目標変速比γ*に対して大きい側に乖離しているか否かを判定する。
【0077】
γ−γ*≧β2 ・・・(11)
【0078】
前記異常箇所判定部150は、前記プライマリプーリ油圧推定部142によりセカンダリ圧Poutに基づくプライマリ圧Pinの推定を行っている場合であって、前記油圧センサ検出値乖離判定部144によりセカンダリ圧Poutの実測値と目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定された場合に、前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146による比較の結果と、前記変速比乖離判定部148による比較の結果とに基づいて、前記セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定する。ここで、前記セカンダリ圧センサ78に異常が発生する場合としては、配線のショート等によるオンフェール(高圧側異常)やオフフェール(低圧側異常)等が考えられる。前記セカンダリ圧Poutに異常が発生する場合としては、前記油圧制御回路100に備えられたそのセカンダリ圧Poutを調圧するための構成であるリニアソレノイド弁SLSやセカンダリ圧コントロールバルブ112等に何らかの故障が発生した場合等が考えられる。
【0079】
前記異常箇所判定部150は、好適には、前記プライマリプーリ油圧推定部142によりセカンダリ圧Poutに基づくプライマリ圧Pinの推定を行っている場合であって、前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146によりプライマリ圧推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して大きい側に乖離していることが判定され、且つ、前記変速比乖離判定部148により実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内であると判定された場合には、前記セカンダリ圧センサ78に異常が発生していると判定する。すなわち、好適には、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesが指令値である目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きく、且つ、前記実変速比γと目標変速比γ*との差の絶対値が予め定められた閾値dγ未満である場合には、前記プライマリ圧センサ78に異常が発生していると判定する。すなわち、前記(9)式が成立し、且つ、前記(10)式が成立する場合に、前記プライマリ圧センサ78に異常が発生していると判定する。
【0080】
前記異常箇所判定部150は、好適には、前記プライマリプーリ油圧推定部142によりセカンダリ圧Poutに基づくプライマリ圧Pinの推定を行っている場合であって、前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146によりプライマリ圧推定値Pinesの目標プライマリ圧Pin*に対する乖離が規定範囲内であると判定され、且つ、前記変速比乖離判定部148により実変速比γが目標変速比γ*に対して大きい側に乖離していることが判定された場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定する。すなわち、好適には、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesと指令値である目標プライマリ圧Pin*との差の絶対値が予め定められた閾値dP未満であり、且つ、前記実変速比γが目標変速比γ*以上である場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定する。すなわち、前記(8)式が成立し、且つ、前記(11)式が成立する場合に、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定する。
【0081】
図13は、前記電子制御装置50による前記無段変速機18における変速比γのフィードバック制御において、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutが実際に上昇する異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。この図13のタイムチャートにおいて、目標セカンダリ圧Pout*及び目標変速比γ*を破線で、目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を二点鎖線でそれぞれ示している。先ず、時点t1において、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutが実際に上昇する異常が発生し、時点t2において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout検出値が、二点鎖線で示す目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を超える。前記セカンダリ圧センサ78は正常に作動しているため、その検出値(油圧センサ値)とセカンダリ圧Pout実圧とは略一致した変化を示す。前記無段変速機18における変速比γは目標変速比γ*に比して大きい側に乖離し、その差はβ2以上となる。ここで、時点t3におけるプライマリ圧推定値Pinesを考えると、そのプライマリ圧推定値Pinesを中心とする所定範囲にプライマリ実圧が入っており、目標プライマリ圧Pin*と推定値Pinesとの乖離が小さいことがわかる。一方、実変速比γは目標変速比γ*以上となり、その目標変速比γ*に対して大きい側に乖離している。このように、前記セカンダリ圧センサ78に異常は発生しておらず、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutが実際に上昇する異常が発生した場合には、プライマリ圧Pinの推定値Pinesと目標プライマリ圧Pin*との乖離が比較的小さくなり、且つ、前記実変速比γが目標変速比γ*以上となるため、斯かる条件が成立する場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定することができる。
【0082】
図14は、前記電子制御装置50による前記無段変速機18における変速比γのフィードバック制御において、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が高圧側となる異常(オンフェール)が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。この図14のタイムチャートにおいて、セカンダリ圧Poutの実測値(セカンダリ圧センサ78による検出値、油圧センサ値)を一点鎖線で、目標変速比γ*を破線で、目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を二点鎖線でそれぞれ示している。先ず、時点t1において、前記セカンダリ圧センサ78が本来の圧力よりも高圧側の値を検出する異常(オンフェール)が発生し、時点t2において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout検出値が、二点鎖線で示す目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を超える。ここで、破線で囲繞して示すように、時点t2の直後にプライマリ圧Pinは一時的に上昇し、変速比γはそれに伴い低下するが、前記プライマリ圧Pinのフィードバック制御により目標値に追従させられる。ここで、時点t3におけるプライマリ圧推定値Pinesを考えると、そのプライマリ圧推定値Pinesを中心とする所定範囲は、プライマリ実圧よりもβ1以上大きくなる。すなわち、推定値Pinesは目標プライマリ圧Pin*に比して大きい側へ閾値β1以上乖離している。一方、実変速比γは目標変速比γ*に略一致し、その乖離は規定範囲内となる。このように、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が高圧側にずれる異常が発生しており、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutには異常が発生していない場合には、プライマリ圧Pinの推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きくなり、且つ、前記実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内となるため、斯かる条件が成立する場合には、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が高圧側にずれるオンフェール等の異常が発生していると判定することができる。
【0083】
図15は、前記電子制御装置50による前記無段変速機18における変速比γのフィードバック制御において、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が低圧側となる異常(オフフェール)が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。この図15のタイムチャートにおいて、セカンダリ圧Poutの実測値(セカンダリ圧センサ78による検出値、油圧センサ値)を一点鎖線で示している。先ず、時点t1において、前記セカンダリ圧センサ78が本来の圧力よりも低圧側の値を検出する異常(オフフェール)が発生し、時点t2において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout検出値が、Pout実圧と略等しい目標セカンダリ圧Pout*から閾値αを減算した値よりも小さくなる。ここで、時点t3におけるプライマリ圧推定値Pinesを考えると、そのプライマリ圧推定値Pinesを中心とする所定範囲は、プライマリ実圧よりもβ1以上小さくなる。すなわち、推定値Pinesは目標プライマリ圧Pin*に比して小さい側へ閾値β1以上乖離している。一方、実変速比γは目標変速比γ*に略一致し、その乖離は規定範囲内となる。このように、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が低圧側にずれる異常が発生しており、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutには異常が発生していない場合には、プライマリ圧Pinの推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上小さくなり、且つ、前記実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内となるため、斯かる条件が成立する場合には、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が低圧側にずれるオフフェール等の異常が発生していると判定することができる。
【0084】
図16は、前記電子制御装置50による故障箇所判定制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0085】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout(油圧センサ値)が、目標セカンダリ圧Pout*に所定値αを加算した値以上であるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、予め定められた関係から、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout、前記無段変速機18の実変速比γ、及び入力トルク(タービントルク)TIN等に基づいて、前記プライマリプーリ42に供給されるプライマリ圧Pinの推定値Pinesが演算される。
【0086】
次に、S3において、前記無段変速機18の実変速比γと目標変速比γ*との差(γ−γ*)が、予め定められた閾値β2(好適には、β2=0)以上であるか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S6以下の処理が実行されるが、S3の判断が肯定される場合には、S4において、S2にて演算されたプライマリ圧Pinの推定値Pinesと目標プライマリ圧Pin*との差の絶対値(|Pines−Pin*|)が、予め定められた閾値dP未満であるか否かが判断される。このS4の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S4の判断が肯定される場合には、S5において、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧(セカンダリシーブ圧)Poutに異常が発生しているものと判定された後、本ルーチンが終了させられる。
【0087】
S6においては、前記無段変速機18の実変速比γと目標変速比γ*との差の絶対値(|γ−γ*|)が、予め定められた閾値dγ未満であるか否かが判断される。このS6の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S6の判断が肯定される場合には、S7において、S2にて演算されたプライマリ圧Pinの推定値Pinesと目標プライマリ圧Pin*との差(Pines−Pin*)が、予め定められた閾値β1以上であるか否かが判断される。このS7の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S7の判断が肯定される場合には、S8において、前記セカンダリ圧センサ78に異常が発生していると判定された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1が前記油圧センサ検出値乖離判定部144の動作に、S4及びS7が前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146の動作に、S3及びS6が前記変速比乖離判定部148の動作に、S5及びS8が前記異常箇所判定部150の動作にそれぞれ対応する。
【0088】
このように、本実施例によれば、出力側可変プーリであるセカンダリプーリ46に供給される第2油圧すなわちセカンダリ圧Poutを検出する油圧センサであるセカンダリ圧センサ78を備え、前記無段変速機18における実変速比γを目標変速比γ*に追従させるフィードバック制御において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutに基づいて入力側可変プーリであるプライマリプーリ42に供給される第1油圧すなわちプライマリ圧Pinを推定し、そのプライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する比較の結果と、実変速比γの目標変速比γ*に対する比較の結果とに基づいて、前記セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定するものであることから、新たに構成を追加することなく、既存の情報を基に前記プライマリ圧Pinを推定することで、前記セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定することができる。すなわち、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定する無段変速機18の油圧制御装置を含む電子制御装置50を提供することができる。
【0089】
前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesが指令値Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きく、且つ、前記実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記プライマリ圧センサ78に異常が発生していると判定するものであるため、新たな構成を付加することなく前記プライマリ圧センサ78における異常の発生を簡便に判定することができる。
【0090】
前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比γが目標変速比γ*に対して大きい側に乖離している場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定するものであるため、新たな構成を付加することなく前記セカンダリ圧Poutに係る異常の発生を簡便に判定することができる。
【0091】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0092】
18:車両用ベルト式無段変速機、42:プライマリプーリ(入力側可変プーリ)、46:セカンダリプーリ(出力側可変プーリ)、48:伝動ベルト、50:電子制御装置、78:セカンダリ圧センサ(油圧センサ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置に関し、特に、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに連結され、そのエンジンの出力を無段階に変速できる車両用無段変速機が知られている。例えば、油圧によりベルトを挟圧して動力を伝達すると共に、そのベルトの掛かり径を変更して変速比を変化させるベルト式無段変速機等である。斯かるベルト式無段変速機において、油圧制御に関する故障を検出する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたベルト式無段変速機の制御装置がそれである。この技術によれば、可動シーブに軸線方向の押圧力を発生させる油圧室への油路中に設けられた圧力センサと、可動シーブの挟圧力を検出する撓みセンサとを、備えるベルト式無段変速機において、撓みセンサによる検出結果に基づいて前記油圧室内における圧力を推定し、その推定結果と前記圧力センサの検出結果とを比較することで、その圧力センサの異常を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−316892号公報
【特許文献2】特開2005−291111号公報
【特許文献3】特開2010−096240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術においては、前記圧力センサの異常を検出するために撓みセンサを新たに設ける必要があり、配線の追加による搭載性の悪化やセンサ自体の費用によるコストアップといった不具合を生じさせるものであった。このような課題は未公知であり、本発明者等が研究の過程で新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、斯かる事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、有効径が可変である入力側可変プーリ及び出力側可変プーリと、それら1対の可変プーリ相互間に巻き掛けられた伝動ベルトとを、有するベルト式無段変速機において、前記入力側可変プーリに供給される第1油圧及び前記出力側可変プーリに供給される第2油圧をそれぞれ制御する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置であって、前記出力側可変プーリに供給される第2油圧を検出する油圧センサを備え、前記ベルト式無段変速機における実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御において、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値の指令値に対する比較の結果と、前記実変速比の目標変速比に対する比較の結果とに基づいて、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、前記出力側可変プーリに供給される第2油圧を検出する油圧センサを備え、前記ベルト式無段変速機における実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御において、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値の指令値に対する比較の結果と、前記実変速比の目標変速比に対する比較の結果とに基づいて、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定するものであることから、新たに構成を追加することなく、既存の情報を基に前記第1油圧を推定することで、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定することができる。すなわち、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置を提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記第1油圧の推定値が指令値に対して予め定められた閾値以上大きく、且つ、前記実変速比の目標変速比に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記油圧センサに異常が発生していると判定するものである。このようにすれば、新たな構成を付加することなく前記油圧センサにおける異常の発生を簡便に判定することができる。
【0009】
前記第1発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記第1油圧の推定値の指令値に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比が目標変速比に対して大きい側に乖離している場合には、前記第2油圧に異常が発生していると判定するものである。このようにすれば、新たな構成を付加することなく前記第2油圧に係る異常の発生を簡便に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が好適に適用される車両を構成するエンジンから駆動輪までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。
【図2】図1の車両におけるエンジンや無段変速機等を制御するために設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1の車両に備えられた油圧制御回路のうち無段変速機の変速に関する油圧制御に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】図2の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の車両における無段変速機の変速制御のために必要な推力を説明するための図である。
【図6】図5の所定時点における推力関係図である。
【図7】図1の車両における無段変速機において、必要最小限の推力で目標の変速とベルト滑り防止とを両立するための制御構造を示すブロック図である。
【図8】無段変速機の変速に関する油圧制御において目標入力軸回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図9】吸入空気量をパラメータとしてエンジン回転速度とエンジントルクとの予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図10】トルクコンバータの所定の作動特性として予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図11】目標変速比をパラメータとして安全率の逆数と推力比との予め実験的に求められて記憶された推力比マップの一例を示す図である。
【図12】目標変速比をパラメータとして安全率の逆数と推力比との予め実験的に求められて記憶された推力比マップの一例を示す図である。
【図13】図2の電子制御装置による変速比のフィードバック制御において、セカンダリ圧が実際に上昇する異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。
【図14】図2の電子制御装置による変速比のフィードバック制御において、セカンダリ圧センサの検出値が高圧側となる異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。
【図15】図2の電子制御装置による変速比のフィードバック制御において、セカンダリ圧センサの検出値が低圧側となる異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。
【図16】図2の電子制御装置による故障箇所判定制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好適には、前記油圧センサにより検出される検出値と、前記出力側可変プーリに供給される第2油圧の指令値との差が、予め定められた閾値以上となった場合に、油圧系統に何らかの異常が発生しているものとして、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定する制御を行うものである。
【0012】
好適には、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値が指令値に対して予め定められた閾値以上大きく、且つ、前記実変速比の目標変速比に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記油圧センサの検出値が実圧よりも高圧側にずれる異常が発生していると判定するものである。
【0013】
好適には、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、その第1油圧の推定値の指令値に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比が目標変速比に対して大きい側に乖離している場合には、前記第2油圧が実際に上昇する(指令値に対して大きくなる)異常が発生していると判定するものである。
【0014】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明が好適に適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、走行用の駆動力源であるエンジン12により発生させられた動力は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ14、前後進切換装置16、車両用ベルト式無段変速機18(以下、単に無段変速機18という)、減速歯車装置20、及び差動歯車装置22等を順次介して、左右1対の駆動輪24へ伝達されるように構成されている。
【0016】
上記トルクコンバータ14は、上記エンジン12のクランク軸26に連結されたポンプ翼車14p、及び上記トルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して上記前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。それらポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ14lが設けられており、このロックアップクラッチ14lが完全係合させられることによって上記ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tは一体回転させられるようになっている。上記ポンプ翼車14pには、上記無段変速機18を変速制御したり、その無段変速機18におけるベルト挟圧力を発生させたり、上記ロックアップクラッチ14lのトルク容量を制御したり、上記前後進切換装置16における動力伝達経路を切り換えたり、上記車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりするための作動油圧を、上記エンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0017】
前記前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、前記トルクコンバータ14のタービン軸30はサンギヤ16sに一体的に連結され、前記無段変速機18の入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結されるようになっており、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。上記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、好適には、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0018】
上記のように構成された前後進切換装置16では、上記前進用クラッチC1が係合されると共に上記後進用ブレーキB1が解放されると、前記前後進切換装置16は一体回転状態とされることにより上記タービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が前記無段変速機18側へ伝達される。上記後進用ブレーキB1が係合されると共に上記前進用クラッチC1が解放されると、前記前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、上記入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が前記無段変速機18側へ伝達される。上記前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前記前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
【0019】
前記エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、前記車両10における駆動力源(主動力源)として機能する。このエンジン12の吸気配管36には、図1に示すように、スロットルアクチュエータ38を用いて前記エンジン12の吸入空気量QAIRを電気的に制御するための電子スロットル弁40が備えられている。
【0020】
前記無段変速機18は、前記入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側可変プーリであるプライマリプーリ(プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側可変プーリであるセカンダリプーリ(セカンダリシーブ)46(以下、特に区別しない場合には単に可変プーリ42、46という)と、その1対の可変プーリ42、46相互間に巻き掛けられた伝動ベルト48とを、備えている。斯かる構成により、前記無段変速機18においては、上記1対の可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。この伝動ベルト48は、例えば、全体として無端環状を成しており、無端環状テープ状の1対のフープ(ベルト)と、その1対のフープに沿って互いに密接した状態で厚さ方向に重ね合わされた多数個のエレメント(コマ)とを備えている。このエレメントには、側方に開くように形成された1対のフープ係合溝が形成され、そのフープ係合溝に上記1対のフープが係合させられている。
【0021】
上記プライマリプーリ42は、前記入力軸32に固定された入力側固定回転体としての固定回転体(固定シーブ)42aと、前記入力軸32に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動回転体(可動シーブ)42bと、それらの間のV溝幅を変更するための前記プライマリプーリ42における入力側推力(プライマリ推力)Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのプライマリ側油圧シリンダ(入力側油圧シリンダ)42cとを、備えて構成されている。上記セカンダリプーリ46は、上記出力軸44に固定された出力側固定回転体としての固定回転体(固定シーブ)46aと、その出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動回転体(可動シーブ)46bと、それらの間のV溝幅を変更するための上記セカンダリプーリ46における出力側推力(セカンダリ推力)Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与する油圧アクチュエータとしてのセカンダリ側油圧シリンダ(出力側油圧シリンダ)46cとを、備えて構成されている。
【0022】
後述する図3に示すように、上記プライマリ側油圧シリンダ42cの油室42dへの油圧であるプライマリ圧Pin及び上記セカンダリ側油圧シリンダ46cの油室46dへの油圧であるセカンダリ圧Poutは、前記車両10に備えられた油圧制御回路100によってそれぞれ独立に調圧制御されるようになっている。これにより、前記プライマリプーリ42における推力であるプライマリ推力Win及び前記セカンダリプーリ46における推力であるセカンダリ推力Woutがそれぞれ直接的に或いは間接的に制御されることで、前記1対の可変プーリ42、46それぞれのV溝幅が変化して前記伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、前記無段変速機18の変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられると共に、前記伝動ベルト48に滑りが生じないように前記1対の可変プーリ42、46とその伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。
【0023】
前記無段変速機18においては、上記のようにプライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutがそれぞれ制御されることで、前記伝動ベルト48の滑りが防止されつつ実際の変速比(実変速比)γが目標変速比γ*とされる。ここで、入力軸回転速度NINは前記入力軸32の回転速度であり、出力軸回転速度NOUTは前記出力軸44の回転速度である。図1から明らかなように、本実施例においては、入力軸回転速度NINは前記プライマリプーリ42の回転速度と同一であり、出力軸回転速度NOUTは前記セカンダリプーリ46の回転速度と同一である。
【0024】
前記無段変速機18においては、例えばプライマリ圧Pinが高められると、前記プライマリプーリ42のV溝幅が狭くされて変速比γが小さくされる。すなわち、プライマリ圧Pinを増加させることにより前記無段変速機18がアップシフトされる。プライマリ圧Pinが低められると、前記プライマリプーリ42のV溝幅が広くされて変速比γが大きくされる。すなわち、プライマリ圧Pinを減少させることにより前記無段変速機18がダウンシフトされる。従って、前記プライマリプーリ42のV溝幅が最小とされるところで、前記無段変速機18の変速比γとして最小変速比γmin(最高速側変速比、最Hi)が達成される。前記プライマリプーリ42のV溝幅が最大とされるところで、前記無段変速機18の変速比γとして最大変速比γmax(最低速側変速比、最Low)が達成される。前記無段変速機18においては、プライマリ圧Pin(プライマリ推力Winも同意)とセカンダリ圧Pout(セカンダリ推力Woutも同意)とにより前記伝動ベルト48の滑り(ベルト滑り)が防止されつつ、それらプライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとの相互関係にて目標変速比γ*が実現されるものであり、一方のプーリ圧(推力も同意)のみで目標の変速が実現されるものではない。
【0025】
図2は、前記エンジン12や無段変速機18等を制御するために前記車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。本実施例の車両10には、例えば前記無段変速機18の変速制御等に関連する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。この電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記車両10に関する各種制御を実行する。例えば、上記電子制御装置50は、前記エンジン12の出力制御、前記無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、前記ロックアップクラッチ14lのトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、前記無段変速機18の変速制御用、及び前記ロックアップクラッチ14lの油圧制御用等に分けて構成される。
【0026】
上記電子制御装置50には、前記車両10に備えられた各種センサやスイッチ等からの信号が供給されるようになっている。例えば、エンジン回転速度センサ52により検出された前記クランク軸26の回転角度(位置)ACR及び前記エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、タービン回転速度センサ54により検出された前記タービン軸30の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された前記無段変速機18の入力回転速度である入力軸回転速度NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された車速Vに対応する前記無段変速機18の出力回転速度である出力軸回転速度NOUTを表す信号、スロットルセンサ60により検出された前記電子スロットル弁40のスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出された前記エンジン12の冷却水温THWを表す信号、吸入空気量センサ64により検出された前記エンジン12の吸入空気量QAIRを表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、フットブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すブレーキオンBONを表す信号、CVT油温センサ70により検出された前記無段変速機18等の作動油の油温THOILを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバーのレバーポジション(操作位置)PSHを表す信号、バッテリセンサ76により検出されたバッテリ温度THBATやバッテリ入出力電流(バッテリ充放電電流)IBATやバッテリ電圧VBATを表す信号、油圧センサであるセカンダリ圧センサ78により検出された前記セカンダリプーリ46への供給油圧である第2油圧すなわちセカンダリ圧Poutを表す信号等が、それぞれ供給される。上記電子制御装置50は、例えば上記バッテリ温度THBAT、バッテリ充放電電流IBAT、及びバッテリ電圧VBAT等に基づいてバッテリ(蓄電装置)の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。上記電子制御装置50は、例えば出力軸回転速度NOUTと入力軸回転速度NINとに基づいて前記無段変速機18の実変速比γ(=NIN/NOUT)を逐次算出する。
【0027】
前記電子制御装置50からは、前記車両10における各部の動作を制御するための信号が出力されるようになっている。例えば、前記エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号SE、前記無段変速機18の変速に関する油圧制御のための油圧制御指令信号SCVT等が、それぞれ出力される。具体的には、上記エンジン出力制御指令信号SEとして、前記スロットルアクチュエータ38を駆動して前記電子スロットル弁40の開閉を制御するためのスロットル信号、燃料噴射装置80から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号、及び点火装置82による前記エンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号等が出力される。上記油圧制御指令信号SCVTとして、プライマリ圧Pinを調圧するリニアソレノイド弁SLPを駆動するための指令信号、セカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動するための指令信号、ライン油圧PLを制御するリニアソレノイド弁SLTを駆動するための指令信号等が、図3を用いて後述する油圧制御回路100へ出力される。
【0028】
図3は、前記車両10に備えられた油圧制御回路100のうち前記無段変速機18の変速に関する油圧制御(変速圧力制御)に関する要部を示す油圧回路図である。この図3に示すように、斯かる油圧制御回路100は、例えば、前記機械式のオイルポンプ28、プライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧コントロールバルブ110、セカンダリ圧Poutを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ112、プライマリレギュレータバルブ(ライン油圧調圧弁)114、モジュレータバルブ116、リニアソレノイド弁SLT、リニアソレノイド弁SLP、及びリニアソレノイド弁SLS等を備えている。
【0029】
ライン油圧PLは、例えば前記オイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、リリーフ型のプライマリレギュレータバルブ114により上記リニアソレノイド弁SLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧される。具体的には、ライン油圧PLは、プライマリ圧Pin及びセカンダリ圧Poutの高い方の油圧に所定の余裕分(マージン)を加えた油圧が得られるように設定された制御油圧PSLTに基づいて調圧される。従って、上記プライマリ圧コントロールバルブ110及びセカンダリ圧コントロールバルブ112の調圧動作において元圧であるライン油圧PLが不足するということが回避されると共に、ライン油圧PLが不必要に高くされないようにすることが可能である。モジュレータ油圧PMは、前記電子制御装置50によって制御される制御油圧PSLT、上記リニアソレノイド弁SLPの出力油圧である制御油圧PSLP、及び上記リニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLSの各元圧となるものであって、ライン油圧PLを元圧として上記モジュレータバルブ116により一定圧に調圧される。
【0030】
前記プライマリ圧コントロールバルブ110は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート110iを開閉してライン油圧PLを入力ポート110iから出力ポート110tを経てプライマリプーリ42へ供給可能にするスプール弁子110aと、そのスプール弁子110aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング110bと、そのスプリング110bを収容し且つ上記スプール弁子110aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLPを受け入れる油室110cと、上記スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート110tから出力されたライン油圧PLを受け入れるフィードバック油室110dと、上記スプール弁子110aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室110eとを、備えている。
【0031】
上記のように構成されたプライマリ圧コントロールバルブ110は、例えば制御油圧PSLPをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御して前記プライマリプーリ42のプライマリ側油圧シリンダ42c(油室42d)に供給する。これにより、そのプライマリ側油圧シリンダ42cに供給される第1油圧であるプライマリ圧Pinが制御される。例えば、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが増大させられると、前記プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の上側に移動する。これにより、前記プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが増大させられる。一方で、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧PSLPが低下させられると、前記プライマリ圧コントロールバルブ110のスプール弁子110aが図3の下側に移動する。これにより、前記プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが低下させられる。
【0032】
前記プライマリプーリ42に対する作動油の給排管路すなわち前記プライマリ側油圧シリンダ42c(油室42d)とプライマリ圧コントロールバルブ110との間の油路118には、フェールセーフ等を目的としてオリフィス120が設けられている。このオリフィス120が設けられていることにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLPが故障しても前記プライマリ側油圧シリンダ42cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLPの故障に起因した前記車両10の急減速が抑制される。
【0033】
前記セカンダリ圧コントロールバルブ112は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート112iを開閉してライン油圧PLを入力ポート112iから出力ポート112tを経て前記セカンダリプーリ46へセカンダリ圧Poutとして供給可能にするスプール弁子112aと、そのスプール弁子112aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング112bと、そのスプリング112bを収容し且つ上記スプール弁子112aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧PSLSを受け入れる油室112cと、上記スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するために上記出力ポート112tから出力されたセカンダリ圧Poutを受け入れるフィードバック油室112dと、上記スプール弁子112aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧PMを受け入れる油室112eとを、備えている。
【0034】
上記のように構成されたセカンダリ圧コントロールバルブ112は、例えば制御油圧PSLSをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御して前記セカンダリプーリ46のセカンダリ側油圧シリンダ46c(油室46d)に供給する。これにより、そのセカンダリ側油圧シリンダ46cに供給される第2油圧であるセカンダリ圧Poutが制御される。例えば、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが増大させられると、前記セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の上側に移動する。これにより、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが増大させられる。一方で、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、前記リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧PSLSが低下させられると、前記セカンダリ圧コントロールバルブ112のスプール弁子112aが図3の下側に移動する。これにより、前記セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Poutが低下させられる。
【0035】
前記セカンダリプーリ46に対する作動油の給排管路すなわち前記セカンダリ側油圧シリンダ46c(油室46d)とセカンダリ圧コントロールバルブ112との間の油路122には、フェールセーフ等を目的としてオリフィス124が設けられている。このオリフィス124が設けられていることにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLSが故障しても前記セカンダリ側油圧シリンダ46cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えば前記リニアソレノイド弁SLSの故障に起因したベルト滑りが防止される。
【0036】
このように構成された油圧制御回路100において、例えば前記リニアソレノイド弁SLPにより調圧されるプライマリ圧Pin及び前記リニアソレノイド弁SLSにより調圧されるセカンダリ圧Poutは、前記伝動ベルト48と可変プーリ42、46との間に滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト挟圧力を前記1対の可変プーリ42、46に発生させるように制御される。後述するように、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、前記1対の可変プーリの42、46の推力比τ(=Wout/Win)が変更されることにより前記無段変速機18の変速比γが変更される。例えば、その推力比τが大きくされるほど変速比γが大きくされる(すなわち、無段変速機18がダウンシフトされる)。
【0037】
図4は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図4に示す変速油圧制御部130は、前記無段変速機18における変速比γを制御するための変速圧力制御を行う。例えば、前記無段変速機18のベルト滑りが発生しないようにしつつその無段変速機18の目標変速比γ*を達成するように、プライマリ圧Pinの指令値(又は目標プライマリ圧Pin*)としてのプライマリ指示圧Pintgtと、セカンダリ圧Poutの指令値(又は目標セカンダリ圧Pout*)としてのセカンダリ指示圧Pouttgtとを、決定し、斯かるプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを前記油圧制御回路100へ出力する。すなわち、本実施例においては、前記電子制御装置50がベルト式無段変速機の油圧制御装置に相当する。図4に示すように、前記変速油圧制御部130は、例えば滑り限界推力Wlmtを算出する滑り限界推力算出部132と、バランス推力Wblを算出する定常推力算出部134と、変速差推力ΔWを算出する差推力算出部136と、フィードバック制御量Winfbを算出するフィードバック制御量算出部138とを、備えている。これらの制御機能については後述する。
【0038】
実変速比算出部140は、前記無段変速機18における実変速比γを算出する。具体的には、前記出力軸回転速度センサ58により検出される出力軸回転速度NOUTと、前記入力軸回転速度センサ56により検出される入力軸回転速度NINとに基づいて、その比としての前記無段変速機18の実変速比γ(=NIN/NOUT)を算出する。この実変速比算出部140は、前記変速油圧制御部130に含まれるものであってもよい。
【0039】
プライマリプーリ油圧推定部142は、油圧センサである前記セカンダリ圧センサ78により検出される第2油圧すなわち前記セカンダリ側油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Poutに基づいて、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに供給される第1油圧であるプライマリ圧Pinを推定する。例えば、前記プライマリプーリ42におけるプライマリ側油圧シリンダ42cの推力であるプライマリ推力Winの推定値Winesを、そのプライマリプーリ42の受圧面積Ainで除した値(=Wines/Ain)をプライマリ圧Pinの推定値Pinesとして算出する。このプライマリ推力Winの推定値Winesは、例えば、前記セカンダリプーリ46におけるセカンダリ側油圧シリンダ46cの推力であるセカンダリ推力Woutを推定推力比τesで除した値(=Wout/τes)である。この推定推力比τesは、例えば、予め実験的に求められた関係(機械的な構成によって定まる関係)から前記無段変速機16における実変速比γ及び入力トルクTIN等に基づいて算出される。入力トルクTINは、後述するように例えばエンジントルクTEに前記トルクコンバータ14のトルク比tを乗じた値(=TE×t)として算出される。セカンダリ推力Woutは、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutと前記セカンダリプーリ46の受圧面積Aoutとの積(=Pout×Aout)である。
【0040】
本実施例の油圧制御回路100は、前記1対の可変プーリの42、46の一方の側であるセカンダリプーリ46側のみに、そのセカンダリプーリ46(セカンダリ側油圧シリンダ46c)に作用する実セカンダリ圧Poutを検出するための油圧センサとしてのセカンダリ圧センサ78を備えている。換言すれば、前記プライマリプーリ42(プライマリ側油圧シリンダ42c)に作用する実プライマリ圧Pinを検出するための油圧センサを備えておらず、上記プライマリプーリ油圧推定部142により推定する。このため、上記変速油圧制御部130は、例えば、前記セカンダリ圧センサ78の検出値(実セカンダリ圧Poutを表す信号)を目標セカンダリ推力Wout*に対応する目標セカンダリ圧Pout*とするフィードバック制御を実行することができる。これによって、前記セカンダリプーリ46側では、油圧センサが備えられていないプライマリプーリ42側と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる。すなわち、本実施例の油圧制御回路100においては、前記プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ46の一方であるセカンダリプーリ46を、他方であるプライマリプーリ42と比較して、精度良く推力(プーリ圧)を制御することができる。
【0041】
上記のように構成された油圧制御回路100において、必要最小限の推力でベルト滑りを防止するために必要な推力(必要推力)すなわちベルト滑りが発生する直前の推力であるベルト滑り限界推力(以下、滑り限界推力)を目標推力として設定する場合、比較的油圧制御精度が劣る(すなわち油圧センサの検出値と目標値との偏差に基づくフィードバック制御できない)プライマリプーリ42側では、確実に滑り限界推力を確保するために、油圧指令値(プライマリ指示圧Pintgt)と実油圧(実プライマリ圧Pin)とのずれである油圧ばらつきに相当する推力分をその滑り限界推力に上乗せする必要がある。そうすると、目標の変速を実現するための推力比τ(=Wout/Win)に基づくプライマリ圧Pin(プライマリ推力Win)とセカンダリ圧Pout(セカンダリ推力Wout)との相互関係から、前記プライマリプーリ42側油圧ばらつきに相当する推力分に対応して目標セカンダリ推力Wout*も増大させなければならず、燃費が悪化するおそれがある。油圧センサを備えなくとも、目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差Δγ(=γ*−γ)に基づくフィードバック制御により推力を補正することは可能であるので、目標の変速を実現することに関しては、必ずしも油圧制御精度が良い必要はない。
【0042】
そこで、本実施例においては、例えば油圧制御精度が比較的良い前記セカンダリプーリ46側で、そのセカンダリプーリ46側の滑り限界推力を確保すると共に、前記プライマリプーリ42側の滑り限界推力も確保する、すなわち前記1対の可変プーリ42、46両方のベルトトルク容量保証を実現する。油圧制御精度が比較的劣る前記プライマリプーリ42側では、上記ベルト滑りの防止を保証するための目標セカンダリ推力Wout*に対応した目標プライマリ推力Win*を設定し、目標の変速を実現する。この際、前記プライマリプーリ42側の油圧ばらつき分による燃費悪化を避けるため、変速比偏差Δγに基づいたフィードバック制御を実行する。
【0043】
具体的には、前記変速油圧制御部130は、例えば前記セカンダリプーリ46側の滑り限界推力であるセカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtと、前記プライマリプーリ42側の滑り限界推力であるプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(本実施例では後述するように下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)を用いる)に基づいて算出される変速制御のために必要な前記セカンダリプーリ46側の推力であるセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wout*として選択する。前記変速油圧制御部130は、例えば上記選択した目標セカンダリ推力Wout*に基づいて算出される変速制御のために必要な前記プライマリプーリ42側の推力であるプライマリプーリ側変速制御推力Winshを、目標プライマリ推力Win*として設定する。前記変速油圧制御部130は、例えば目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差Δγに基づいたプライマリ推力Winのフィードバック制御により、目標プライマリ推力Win*(すなわちプライマリプーリ側変速制御推力Winsh)を補正する。
【0044】
上記変速比偏差Δγは、変速比γと1対1に対応するパラメータにおける目標値と実際値との偏差であれば良い。例えば、変速比偏差Δγに替えて、前記プライマリプーリ42側の目標プーリ位置(目標シーブ位置)Xin*と実プーリ位置(実シーブ位置)Xin(図3参照)との偏差ΔXin(=Xin*−Xin)、前記セカンダリプーリ46側の目標シーブ位置Xout*と実シーブ位置Xout(図3参照)との偏差ΔXout(=Xout*−Xout)、前記プライマリプーリ42側の目標ベルト掛かり径Rin*と実ベルト掛かり径Rin(図3参照)との偏差ΔRin(=Rin*−Rin)、前記セカンダリプーリ46側の目標ベルト掛かり径Rout*と実ベルト掛かり径Rout(図3参照)との偏差ΔRout(=Rout*−Rout)、目標入力軸回転速度NIN*と実入力軸回転速度NINとの偏差ΔNIN(=NIN*−NIN)等を用いることができる。
【0045】
前記変速制御のために必要な推力は、例えば目標の変速を実現するために必要な推力であって、目標変速比γ*及び目標変速速度を実現するために必要な推力である。この変速速度は、例えば単位時間当たりの変速比γの変化量dγ(=dγ/dt)であるが、本実施例では、前記伝動ベルト48のエレメント(ブロック)1個当たりのシーブ位置移動量(dX/dNelm)として定義する(dX:単位時間当たりの可動シーブの軸方向変位量であるシーブ位置変化量すなわちシーブ位置変化速度(=dX/dt)[mm/ms]、dNelm:単位時間当たりにプーリに噛み込むエレメント(ブロック)数[個/ms])。従って、目標変速速度としては、プライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)と、セカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)とで表される。
【0046】
具体的には、定常状態(変速比γが一定の状態)でのプライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとをバランス推力(定常推力)Wbl(例えばプライマリバランス推力Winblとセカンダリバランス推力Woutbl)と称し、これらの比が前記1対の可変プーリの42、46の推力比τ(=Woutbl/Winbl)である。プライマリ推力Winとセカンダリ推力Woutとが一定の変速比γを保つ定常状態にあるとき、前記1対の可変プーリ42、46の何れかの推力に、ある推力を加算又は減算すると、定常状態が崩れて変速比γが変化し、加算又は減算した推力の大きさに応じた変速速度(dX/dNelm)が生じる。この加算又は減算した推力のことを変速差推力(過渡推力)ΔW(例えばプライマリ変速差推力ΔWinとセカンダリ変速差推力ΔWout)と称す。従って、前記変速制御のために必要な推力は、一方の推力が設定された場合、目標変速比γ*を維持するための推力比τに基づいて一方の推力に対応する目標変速比γ*を実現するための他方のバランス推力Wblと、目標変速比γ*が変化させられるときの目標変速速度(例えばプライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)とセカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout))を実現するための変速差推力ΔWとの和となる。
【0047】
ここで、前記プライマリプーリ42側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWすなわちプライマリプーリ側換算のプライマリ変速差推力ΔWinは、アップシフト状態であれば(ΔWin>0)となり、ダウンシフト状態であれば(ΔWin<0)となり、変速比一定の定常状態であれば(ΔWin=0)となる。前記セカンダリプーリ46側にて目標の変速を実現する場合の差推力ΔWすなわちセカンダリプーリ側換算のセカンダリ変速差推力ΔWoutは、アップシフト状態であれば(ΔWout<0)となり、ダウンシフト状態であれば(ΔWout>0)となり、変速比一定の定常状態であれば(ΔWout=0)となる。
【0048】
図5及び図6は、前記変速制御のために必要な推力を説明するための図である。これらの図は、例えば前記セカンダリプーリ46側にてベルト滑り防止を実現するようにセカンダリ推力Woutを設定した場合に、前記プライマリプーリ42側にて目標のアップシフトを実現するときに設定されるプライマリ推力Winの一例を示している。図5において、t1時点以前或いはt3時点以降では、目標変速比γ*が一定の定常状態にありΔWin=0とされるので、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winbl(=Wout/τ)のみとなる。t1時点乃至t3時点では、目標変速比γ*が小さくされるアップシフト状態にあるので、図6に示した図5のt2時点における推力関係図で表されるように、プライマリ推力Winはプライマリバランス推力Winblとプライマリ変速差推力ΔWinとの和となる。図6に示した各推力の斜線部分は、図5のt2時点の目標変速比γ*を維持するためのそれぞれのバランス推力Wblに相当する。
【0049】
図7は、前記セカンダリプーリ46側にのみセカンダリ圧センサ78が備えられており、前記プライマリプーリ42側にプライマリ圧センサが備えられていない場合に、必要最小限の推力で目標の変速とベルト滑り防止とを両立するための制御構造を示すブロック図である。この図7に示すセカンダリ側目標推力演算部150及びプライマリ側目標推力演算部152は、例えば、前記変速油圧制御部130に含まれるものであり、この図に示すように、目標変速比γ*及び無段変速機18の入力トルクTINが、例えば前記変速油圧制御部130により逐次算出される。具体的には、前記変速油圧制御部130は、前記無段変速機18の変速後に達成すべき変速比γである変速後目標変速比γ*lを決定する。例えば、図8に示すようなアクセル開度ACCをパラメータとして出力軸回転速度NOUTと目標入力軸回転速度NIN*との予め求められて記憶された関係(変速マップ)から実際の出力軸回転速度NOUT及びアクセル開度ACCで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NIN*を設定する。そして、目標入力軸回転速度NIN*に基づいて変速後目標変速比γ*l(=NIN*/NOUT)を算出する。
【0050】
図8の変速マップは変速条件に相当するもので、出力軸回転速度NOUTが小さくアクセル開度ACCが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN*が設定されるようになっている。この変速後目標変速比γ*lは、前記無段変速機18の最小変速比γmin(最高速ギヤ比、最Hi)と最大変速比γmax(最低速ギヤ比、最Low)の範囲内で定められる。そして、前記変速油圧制御部130は、例えば迅速且つ滑らかな変速が実現されるように予め実験的に設定された関係から、変速開始前の変速比γと変速後目標変速比γ*lとそれらの差とに基づいて、変速中の過渡的な変速比γの目標値として目標変速比γ*を決定する。例えば、変速中に逐次変化させる目標変速比γ*を、変速開始時から変速後目標変速比γ*lに向且つて変化する滑らかな曲線(例えば1次遅れ曲線や2次遅れ曲線)に沿って変化する経過時間の関数として決定する。すなわち、前記変速油圧制御部130は、前記無段変速機18の変速中において、変速開始時からの時間経過に従って変速開始前の変速比γから変速後目標変速比γ*lに近付くように逐次目標変速比γ*を変化させる。
【0051】
前記変速油圧制御部130は、例えばエンジントルクTEに前記トルクコンバータ14のトルク比t(=トルクコンバータ14の出力トルクであるタービントルクTT/トルクコンバータ14の入力トルクであるポンプトルクTP)を乗じたトルク(=TE×t)として、前記無段変速機18の入力トルクTINを算出する。例えば前記エンジン12に対する要求負荷としての吸入空気量QAIR(或いはそれに相当するスロットル弁開度θTH等)をパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された図9に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)から、吸入空気量QAIR及びエンジン回転速度NEに基づいて推定エンジントルクTEesとして、エンジントルクTEを算出する。或いは、このエンジントルクTEは、例えばトルクセンサ等により検出される前記エンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)TE等が用いられても良い。前記トルクコンバータ14のトルク比tは、そのトルクコンバータ14の速度比e(=トルクコンバータ14の出力回転速度であるタービン回転速度NT/トルクコンバータ14の入力回転速度であるポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE))の関数であり、例えば速度比eとトルク比t、効率η、及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された図10に示すような関係(マップ、トルクコンバータ14の所定の作動特性図)から、実際の速度比eに基づいて前記変速油圧制御部130により算出される。推定エンジントルクTEesは、実エンジントルクTEそのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTEと区別する場合を除き、推定エンジントルクTEesを実エンジントルクTEとして取り扱うものとする。従って、推定エンジントルクTEesには実エンジントルクTEも含むものとする。
【0052】
図7のブロックB1及びブロックB2において、前記滑り限界推力算出部132は、例えば実変速比γと前記無段変速機18の入力トルクTINとに基づいて滑り限界推力Wlmtを算出する。具体的には、例えば次式(1)及び次式(2)から前記プライマリプーリ42の入力トルクとしての前記無段変速機18の入力トルクTIN、前記セカンダリプーリ46の入力トルクとしての前記無段変速機18の出力トルクTOUT、前記可変プーリ42、46のシーブ角α、前記プライマリプーリ42側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μin、前記セカンダリプーリ46側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μout、実変速比γから一意的に算出される前記プライマリプーリ42側のベルト掛かり径Rin、実変速比γから一意的に算出される前記セカンダリプーリ46側のベルト掛かり径Rout(以上、図3参照)に基づいて、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmt及びプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtをそれぞれ算出する。ここで、TOUT=γ×TIN=(Rout/Rin)×TINとしている。但し、上記ブロックB2においては、前記滑り限界推力算出部132は、後述するように、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに基づいて下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)を算出する。
【0053】
Woutlmt=(TOUT ×cosα)/(2×μout×Rout)
=(TIN ×cosα)/(2×μout×Rin ) ・・・(1)
Winlmt =(TIN ×cosα)/(2×μin ×Rin ) ・・・(2)
【0054】
図7のブロックB3及びブロックB6において、前記定常推力算出部134は、例えば下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に対応するセカンダリバランス推力Woutbl、及び目標セカンダリ推力Wout*に対応するプライマリバランス推力Winblをそれぞれ算出する。具体的には、目標変速比γ*をパラメータとしてプライマリ側安全率SFin(=Win/Winlmt(g))の逆数SFin-1(=Winlmt(g)/Win)と前記プライマリプーリ42側に対応する前記セカンダリプーリ46側の推力を算出するときの推力比τinとの予め実験的に求められて記憶された例えば図11に示すような関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びプライマリ側安全率の逆数SFin-1に基づいて推力比τinを算出する。そして、前記定常推力算出部134は、次式(3)から下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力Woutblを算出する。前記定常推力算出部134は、目標変速比γ*をパラメータとしてセカンダリ側安全率SFout(=Wout/Woutlmt)の逆数SFout-1(=Woutlmt/Wout)と前記セカンダリプーリ46側に対応する前記プライマリプーリ42側の推力を算出するときの推力比τoutとの予め実験的に求められて記憶された例えば図12に示すような関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びセカンダリ側安全率の逆数SFout-1に基づいて推力比τoutを算出する。そして、前記定常推力算出部134は、次式(4)から目標セカンダリ推力Wout*及び推力比τoutに基づいてプライマリバランス推力Winblを算出する。被駆動時には入力トルクTINや出力トルクTOUTが負の値となることから、上記各安全率の逆数SFin-1、SFout-1も被駆動時には負の値となる。これらの逆数SFin-1、SFout-1は、逐次算出されても良いが、安全率SFin、SFoutに所定値(例えば1−1.5程度)をそれぞれ設定するならばその逆数を設定しても良い。
【0055】
Woutbl=Winlmt(g)×τin ・・・(3)
Winbl=Wout*/τout ・・・(4)
【0056】
図7のブロックB4及びブロックB7において、前記差推力算出部136は、例えば前記セカンダリプーリ46側にて目標の変速を実現する場合のセカンダリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのセカンダリ変速差推力ΔWout、及び前記プライマリプーリ42側にて目標の変速を実現する場合のプライマリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのプライマリ変速差推力ΔWinを算出する。例えば、予め定められた関係(例えば図8に示すような変速マップ)から実際の車速V(出力軸回転速度NOUT)及びアクセル開度ACCで示される車両状態に基づいて目標入力軸回転速度NIN*を設定する。その目標入力軸回転速度NIN*に基づいて変速後目標変速比γ*l(=NIN*/NOUT)を算出し、予め定められた関係からその変速後目標変速比γ*lに対応するプライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)、セカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)を算出する。そのようにして逐次算出されるプライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)、セカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)に基づいて、予め定められた関係(差推力マップ)からプライマリ変速差推力ΔWin、セカンダリ変速差推力ΔWoutを算出する。
【0057】
上述のように、図7のブロックB3、B4における演算では、推力比マップや差推力マップ等の予め実験的に求められて設定された物理特性図を用いる。そのため、前記油圧制御回路100等の個体差によりセカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWoutの算出結果には物理特性に対するばらつきが存在する。そこで、このような物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、前記滑り限界推力算出部132は、例えば下限ガード処理を施したプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に基づくセカンダリプーリ46側の推力(セカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWout)の算出に関わる物理特性に対するばらつき分に対応する所定推力(制御マージン)Wmgnを、上記セカンダリプーリ46側の推力の算出に先立って、そのプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に加算する。従って、上記物理特性に対するばらつきを考慮する場合には、前記ブロックB3において、前記定常推力算出部134は、例えば前記式(3)に替えて、次式(3)’から上記制御マージンWmgnが加算されたプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)及び推力比τinに基づいてセカンダリバランス推力Woutblを算出する。
【0058】
Woutbl=(Winlmt(g)+Wmgn)×τin ・・・(3)’
【0059】
上記制御マージンWmgnは、例えば予め実験的に求められて設定された一定値(設計値)であるが、定常状態(変速比一定状態)よりも過渡状態(変速中)の方がばらつき要因(推力比マップや差推力マップの物理特性図)を多く用いるので、大きい値に設定されている。上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、例えば前記リニアソレノイド弁SLP、SLSへの各制御電流に対する制御油圧PSLP、PSLSのばらつき、その制御電流を出力する駆動回路のばらつき、制御油圧PSLP、PSLSに対する実プーリ圧Pin、Poutのばらつき等のプーリ圧の油圧指令値に対する実油圧のずれ分(油圧ばらつき分、油圧制御上のばらつき分)とは異なるものである。この油圧ばらつき分は、ユニット(油圧制御回路100等のハードユニット)によっては比較的大きな値となるが、上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、上記油圧ばらつき分と比べて極めて小さな値である。そのため、制御マージンWmgnをプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt(g)に加算することは、プーリ圧の油圧指令値に対して実プーリ圧がどんなにばらついても目標のプーリ圧が得られるようにその油圧指令値に制御上のばらつき分を上乗せすることに比べ、燃費の悪化が抑制される。前記ブロックB6、B7における演算では、目標セカンダリ推力Wout*を基にするので、ここでは演算に先立って上記制御マージンWmgnを目標セカンダリ推力Wout*に加算することについては実行しない。
【0060】
前記変速油圧制御部130は、例えば前記プライマリプーリ42側のベルト滑りを防止するために必要なセカンダリ推力として、セカンダリバランス推力Woutblにセカンダリ変速差推力ΔWoutを加算したセカンダリプーリ側変速制御推力Woutsh(=Woutbl+ΔWout)を算出する。そして、図7のブロックB5において、前記変速油圧制御部130は、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtとセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wout*として選択する。
【0061】
前記変速油圧制御部130は、例えばプライマリバランス推力Winblにプライマリ変速差推力ΔWinを加算してプライマリプーリ側変速制御推力Winsh(=Winbl+ΔWin)を算出する。図7のブロックB8において、前記フィードバック制御量算出部138は、例えば次式(5)に示すような予め求められて設定されたフィードバック制御式を用いて、実変速比γを目標変速比γ*と一致させるためのフィードバック制御量(フィードバック制御補正量)Winfbを算出する。この式(5)において、Δγは目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差(=γ*−γ)、KPは所定の比例定数、KIは所定の積分定数、KDは所定の微分定数である。そして、前記変速油圧制御部130は、例えばプライマリプーリ側変速制御推力Winshに対して、変速比偏差Δγに基づいたフィードバック制御により補正した値(=Winsh+Winfb)を目標プライマリ推力Win*として設定する。このように、前記ブロックB1乃至B5は、目標セカンダリ推力Wout*を設定するセカンダリ側目標推力演算部152として機能する。前記ブロックB6乃至B8は、目標プライマリ推力Win*を設定するプライマリ側目標推力演算部154として機能する。
【0062】
Winfb=KP×Δγ+KI×(∫Δγdt)+KD×(dΔγ/dt) ・・・(5)
【0063】
図7のブロックB9及びブロックB10において、前記変速油圧制御部130は、例えば目標推力を目標プーリ圧に変換する。具体的には、前記変速油圧制御部130は、目標セカンダリ推力Wout*及び目標プライマリ推力Win*を、前記各油圧シリンダ46c、42cの各受圧面積Ain、Aoutに基づいて目標セカンダリ圧Pout*(=Wout*/Aout)及び目標プライマリ圧Pin*(=Win*/Ain)にそれぞれ変換する。そして、前記変速油圧制御部130は、その目標セカンダリ圧Pout*及び目標プライマリ圧Pin*をセカンダリ指示圧Pouttgt及びプライマリ指示圧Pintgtとして設定する。
【0064】
前記変速油圧制御部130は、例えば目標プライマリ圧Pin*及び目標セカンダリ圧Pout*が得られるように、油圧制御指令信号SCVTとしてプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを前記油圧制御回路100へ出力する。その油圧制御回路100は、その油圧制御指令信号SCVTに従って、前記リニアソレノイド弁SLPを作動させてプライマリ圧Pinを調圧すると共に、前記リニアソレノイド弁SLSを作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
【0065】
前記変速油圧制御部130は、例えば前記セカンダリプーリ46側の油圧ばらつき分(油圧制御上のばらつき分)を補償するために、前記セカンダリ圧センサ78によるセカンダリ圧Poutの検出値が目標セカンダリ圧Pout*と一致するように、セカンダリ圧Poutの検出値と目標セカンダリ圧Pout*との偏差ΔPout(=Pout*−Pout検出値)に基づくフィードバック制御によりセカンダリ指示圧Pouttgtを補正する。本実施例の油圧制御回路100では、前記プライマリプーリ42側に油圧センサが設けられていないので、プーリ圧の検出値と実際値との偏差に基づく前記セカンダリプーリ46側のようなフィードバック制御によりプライマリ指示圧Pintgtを補正することはできない。しかしながら、本実施例では、例えば前記ブロックB8において実変速比γが目標変速比γ*と一致するようにフィードバック制御により補正された値(=Winsh+Winfb)が目標プライマリ推力Win*として設定されるので、前記プライマリプーリ42側の油圧ばらつき分を補償することができる。
【0066】
以上に説明したように、前記無段変速機18における実変速比γを目標変速比γ*に追従させるフィードバック制御において、図4に示す油圧センサ検出値乖離判定部144、プライマリプーリ油圧乖離判定部146、変速比乖離判定部148、及び異常箇所判定部150は、前記無段変速機18の油圧制御に係る異常を判定する。例えば、前記セカンダリ圧センサ78の検出値(油圧センサ値)と、目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生した場合に、前記油圧制御回路100に備えられた前記セカンダリ圧センサ78の装置自体に異常が発生しているのか、或いはセカンダリ圧Poutに異常が発生している(所望されるセカンダリ圧Poutが出ていない、セカンダリ圧Poutを発生させる構成に異常がある)のかを判定する。以下、これらの制御機能について分説する。
【0067】
上記油圧センサ検出値乖離判定部144は、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout(実測値)と、目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したか否かを判定する。例えば、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutが、目標セカンダリ圧Pout*に対して予め定められた閾値α以上大きいか否か、すなわち次の(6)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定する。前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutと目標セカンダリ圧Pout*との差の絶対値が予め定められた閾値α以上であるか否かを判定し、その判定が肯定される場合には目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定するものであってもよい。すなわち次の(7)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定するものであってもよい。
【0068】
Pout≧Pout*+α ・・・(6)
|Pout−Pout*|≧α ・・・(7)
【0069】
前記プライマリプーリ油圧推定部142は、好適には、前記油圧センサ検出値乖離判定部144により前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutと目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定された場合に、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutに基づいて、前記プライマリ側油圧シリンダ42cに供給されるプライマリ圧Pinを推定する。後述するプライマリプーリ油圧乖離判定部146による判定及び異常箇所判定部150による判定は、好適には、前記油圧センサ検出値乖離判定部144により乖離の発生が判定されて、前記プライマリプーリ油圧推定部142により前記セカンダリ圧Poutに基づいてプライマリ圧Pinが推定された場合に、その推定プライマリ圧Pinに対応して実行される。
【0070】
前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146は、前記プライマリプーリ油圧推定部142により推定されるプライマリ圧Pinの推定値Pinesの、指令値すなわち目標プライマリ圧Pin*に対する比較を行い、その乖離を判定する。前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146は、好適には、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する乖離が規定範囲内であるか否かを判定する。例えば、その推定値Pinesと指令値Pin*との差の絶対値が予め定められた閾値dP未満であるか否か、すなわち次の(8)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には乖離が規定範囲内であると判定する。
【0071】
|Pines−Pin*|<dP ・・・(8)
【0072】
前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146は、好適には、前記プライマリプーリ油圧推定部142により推定されるプライマリ圧Pinの推定値Pinesが指令値である目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きいか否かを判定する。すなわち、次の(9)式が成立するか否かを判定する。換言すれば、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して大きい側に所定値β1以上乖離しているか否かを判定する。
【0073】
Pines−Pin*≧β1 ・・・(9)
【0074】
前記変速比乖離判定部148は、前記実変速比算出部140により算出される前記無段変速機18の実変速比γの、目標変速比γ*に対する比較を行い、その乖離を判定する。前記変速比乖離判定部148は、好適には、前記実変速比γと目標変速比γ*との差の絶対値が予め定められた閾値dγ未満であるか否か、すなわち次の(10)式が成立するか否かを判定し、その判定が肯定される場合には乖離が規定範囲内であると判定する。
【0075】
|γ−γ*|<dγ ・・・(10)
【0076】
前記変速比乖離判定部148は、好適には、前記実変速比算出部140により算出される前記無段変速機18の実変速比γが目標変速比γ*に対して予め定められた閾値β2以上大きいか否かを判定する。すなわち、次の(11)式が成立するか否かを判定する。好適には、β2は零である。すなわち、前記変速比乖離判定部148は、好適には、前記実変速比算出部140により算出される前記無段変速機18の実変速比γが目標変速比γ*以上であるか否か、換言すれば、前記実変速比γが目標変速比γ*に対して大きい側に乖離しているか否かを判定する。
【0077】
γ−γ*≧β2 ・・・(11)
【0078】
前記異常箇所判定部150は、前記プライマリプーリ油圧推定部142によりセカンダリ圧Poutに基づくプライマリ圧Pinの推定を行っている場合であって、前記油圧センサ検出値乖離判定部144によりセカンダリ圧Poutの実測値と目標セカンダリ圧Pout*との間に規定以上の乖離が発生したと判定された場合に、前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146による比較の結果と、前記変速比乖離判定部148による比較の結果とに基づいて、前記セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定する。ここで、前記セカンダリ圧センサ78に異常が発生する場合としては、配線のショート等によるオンフェール(高圧側異常)やオフフェール(低圧側異常)等が考えられる。前記セカンダリ圧Poutに異常が発生する場合としては、前記油圧制御回路100に備えられたそのセカンダリ圧Poutを調圧するための構成であるリニアソレノイド弁SLSやセカンダリ圧コントロールバルブ112等に何らかの故障が発生した場合等が考えられる。
【0079】
前記異常箇所判定部150は、好適には、前記プライマリプーリ油圧推定部142によりセカンダリ圧Poutに基づくプライマリ圧Pinの推定を行っている場合であって、前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146によりプライマリ圧推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して大きい側に乖離していることが判定され、且つ、前記変速比乖離判定部148により実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内であると判定された場合には、前記セカンダリ圧センサ78に異常が発生していると判定する。すなわち、好適には、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesが指令値である目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きく、且つ、前記実変速比γと目標変速比γ*との差の絶対値が予め定められた閾値dγ未満である場合には、前記プライマリ圧センサ78に異常が発生していると判定する。すなわち、前記(9)式が成立し、且つ、前記(10)式が成立する場合に、前記プライマリ圧センサ78に異常が発生していると判定する。
【0080】
前記異常箇所判定部150は、好適には、前記プライマリプーリ油圧推定部142によりセカンダリ圧Poutに基づくプライマリ圧Pinの推定を行っている場合であって、前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146によりプライマリ圧推定値Pinesの目標プライマリ圧Pin*に対する乖離が規定範囲内であると判定され、且つ、前記変速比乖離判定部148により実変速比γが目標変速比γ*に対して大きい側に乖離していることが判定された場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定する。すなわち、好適には、前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesと指令値である目標プライマリ圧Pin*との差の絶対値が予め定められた閾値dP未満であり、且つ、前記実変速比γが目標変速比γ*以上である場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定する。すなわち、前記(8)式が成立し、且つ、前記(11)式が成立する場合に、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定する。
【0081】
図13は、前記電子制御装置50による前記無段変速機18における変速比γのフィードバック制御において、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutが実際に上昇する異常が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。この図13のタイムチャートにおいて、目標セカンダリ圧Pout*及び目標変速比γ*を破線で、目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を二点鎖線でそれぞれ示している。先ず、時点t1において、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutが実際に上昇する異常が発生し、時点t2において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout検出値が、二点鎖線で示す目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を超える。前記セカンダリ圧センサ78は正常に作動しているため、その検出値(油圧センサ値)とセカンダリ圧Pout実圧とは略一致した変化を示す。前記無段変速機18における変速比γは目標変速比γ*に比して大きい側に乖離し、その差はβ2以上となる。ここで、時点t3におけるプライマリ圧推定値Pinesを考えると、そのプライマリ圧推定値Pinesを中心とする所定範囲にプライマリ実圧が入っており、目標プライマリ圧Pin*と推定値Pinesとの乖離が小さいことがわかる。一方、実変速比γは目標変速比γ*以上となり、その目標変速比γ*に対して大きい側に乖離している。このように、前記セカンダリ圧センサ78に異常は発生しておらず、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutが実際に上昇する異常が発生した場合には、プライマリ圧Pinの推定値Pinesと目標プライマリ圧Pin*との乖離が比較的小さくなり、且つ、前記実変速比γが目標変速比γ*以上となるため、斯かる条件が成立する場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定することができる。
【0082】
図14は、前記電子制御装置50による前記無段変速機18における変速比γのフィードバック制御において、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が高圧側となる異常(オンフェール)が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。この図14のタイムチャートにおいて、セカンダリ圧Poutの実測値(セカンダリ圧センサ78による検出値、油圧センサ値)を一点鎖線で、目標変速比γ*を破線で、目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を二点鎖線でそれぞれ示している。先ず、時点t1において、前記セカンダリ圧センサ78が本来の圧力よりも高圧側の値を検出する異常(オンフェール)が発生し、時点t2において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout検出値が、二点鎖線で示す目標セカンダリ圧Pout*に閾値αを加算した値を超える。ここで、破線で囲繞して示すように、時点t2の直後にプライマリ圧Pinは一時的に上昇し、変速比γはそれに伴い低下するが、前記プライマリ圧Pinのフィードバック制御により目標値に追従させられる。ここで、時点t3におけるプライマリ圧推定値Pinesを考えると、そのプライマリ圧推定値Pinesを中心とする所定範囲は、プライマリ実圧よりもβ1以上大きくなる。すなわち、推定値Pinesは目標プライマリ圧Pin*に比して大きい側へ閾値β1以上乖離している。一方、実変速比γは目標変速比γ*に略一致し、その乖離は規定範囲内となる。このように、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が高圧側にずれる異常が発生しており、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutには異常が発生していない場合には、プライマリ圧Pinの推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きくなり、且つ、前記実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内となるため、斯かる条件が成立する場合には、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が高圧側にずれるオンフェール等の異常が発生していると判定することができる。
【0083】
図15は、前記電子制御装置50による前記無段変速機18における変速比γのフィードバック制御において、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が低圧側となる異常(オフフェール)が発生した場合における各関係値の経時変化を示すタイムチャートである。この図15のタイムチャートにおいて、セカンダリ圧Poutの実測値(セカンダリ圧センサ78による検出値、油圧センサ値)を一点鎖線で示している。先ず、時点t1において、前記セカンダリ圧センサ78が本来の圧力よりも低圧側の値を検出する異常(オフフェール)が発生し、時点t2において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout検出値が、Pout実圧と略等しい目標セカンダリ圧Pout*から閾値αを減算した値よりも小さくなる。ここで、時点t3におけるプライマリ圧推定値Pinesを考えると、そのプライマリ圧推定値Pinesを中心とする所定範囲は、プライマリ実圧よりもβ1以上小さくなる。すなわち、推定値Pinesは目標プライマリ圧Pin*に比して小さい側へ閾値β1以上乖離している。一方、実変速比γは目標変速比γ*に略一致し、その乖離は規定範囲内となる。このように、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が低圧側にずれる異常が発生しており、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧Poutには異常が発生していない場合には、プライマリ圧Pinの推定値Pinesが目標プライマリ圧Pin*に対して予め定められた閾値β1以上小さくなり、且つ、前記実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内となるため、斯かる条件が成立する場合には、前記セカンダリ圧センサ78の検出値が低圧側にずれるオフフェール等の異常が発生していると判定することができる。
【0084】
図16は、前記電子制御装置50による故障箇所判定制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0085】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout(油圧センサ値)が、目標セカンダリ圧Pout*に所定値αを加算した値以上であるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、予め定められた関係から、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Pout、前記無段変速機18の実変速比γ、及び入力トルク(タービントルク)TIN等に基づいて、前記プライマリプーリ42に供給されるプライマリ圧Pinの推定値Pinesが演算される。
【0086】
次に、S3において、前記無段変速機18の実変速比γと目標変速比γ*との差(γ−γ*)が、予め定められた閾値β2(好適には、β2=0)以上であるか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S6以下の処理が実行されるが、S3の判断が肯定される場合には、S4において、S2にて演算されたプライマリ圧Pinの推定値Pinesと目標プライマリ圧Pin*との差の絶対値(|Pines−Pin*|)が、予め定められた閾値dP未満であるか否かが判断される。このS4の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S4の判断が肯定される場合には、S5において、前記セカンダリプーリ46に供給されるセカンダリ圧(セカンダリシーブ圧)Poutに異常が発生しているものと判定された後、本ルーチンが終了させられる。
【0087】
S6においては、前記無段変速機18の実変速比γと目標変速比γ*との差の絶対値(|γ−γ*|)が、予め定められた閾値dγ未満であるか否かが判断される。このS6の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S6の判断が肯定される場合には、S7において、S2にて演算されたプライマリ圧Pinの推定値Pinesと目標プライマリ圧Pin*との差(Pines−Pin*)が、予め定められた閾値β1以上であるか否かが判断される。このS7の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S7の判断が肯定される場合には、S8において、前記セカンダリ圧センサ78に異常が発生していると判定された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1が前記油圧センサ検出値乖離判定部144の動作に、S4及びS7が前記プライマリプーリ油圧乖離判定部146の動作に、S3及びS6が前記変速比乖離判定部148の動作に、S5及びS8が前記異常箇所判定部150の動作にそれぞれ対応する。
【0088】
このように、本実施例によれば、出力側可変プーリであるセカンダリプーリ46に供給される第2油圧すなわちセカンダリ圧Poutを検出する油圧センサであるセカンダリ圧センサ78を備え、前記無段変速機18における実変速比γを目標変速比γ*に追従させるフィードバック制御において、前記セカンダリ圧センサ78により検出されるセカンダリ圧Poutに基づいて入力側可変プーリであるプライマリプーリ42に供給される第1油圧すなわちプライマリ圧Pinを推定し、そのプライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する比較の結果と、実変速比γの目標変速比γ*に対する比較の結果とに基づいて、前記セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定するものであることから、新たに構成を追加することなく、既存の情報を基に前記プライマリ圧Pinを推定することで、前記セカンダリ圧センサ78及びセカンダリ圧Poutの何れに異常が発生しているのか判定することができる。すなわち、新たな構成を付加することなく故障箇所を簡便に判定する無段変速機18の油圧制御装置を含む電子制御装置50を提供することができる。
【0089】
前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesが指令値Pin*に対して予め定められた閾値β1以上大きく、且つ、前記実変速比γの目標変速比γ*に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記プライマリ圧センサ78に異常が発生していると判定するものであるため、新たな構成を付加することなく前記プライマリ圧センサ78における異常の発生を簡便に判定することができる。
【0090】
前記プライマリ圧Pinの推定値Pinesの指令値Pin*に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比γが目標変速比γ*に対して大きい側に乖離している場合には、前記セカンダリ圧Poutに異常が発生していると判定するものであるため、新たな構成を付加することなく前記セカンダリ圧Poutに係る異常の発生を簡便に判定することができる。
【0091】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0092】
18:車両用ベルト式無段変速機、42:プライマリプーリ(入力側可変プーリ)、46:セカンダリプーリ(出力側可変プーリ)、48:伝動ベルト、50:電子制御装置、78:セカンダリ圧センサ(油圧センサ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効径が可変である入力側可変プーリ及び出力側可変プーリと、それら1対の可変プーリ相互間に巻き掛けられた伝動ベルトとを、有するベルト式無段変速機において、前記入力側可変プーリに供給される第1油圧及び前記出力側可変プーリに供給される第2油圧をそれぞれ制御する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置であって、
前記出力側可変プーリに供給される第2油圧を検出する油圧センサを備え、
前記ベルト式無段変速機における実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御において、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、該第1油圧の推定値の指令値に対する比較の結果と、前記実変速比の目標変速比に対する比較の結果とに基づいて、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定するものであることを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記第1油圧の推定値が指令値に対して予め定められた閾値以上大きく、且つ、前記実変速比の目標変速比に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記油圧センサに異常が発生していると判定するものである請求項1に記載の車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記第1油圧の推定値の指令値に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比が目標変速比に対して大きい側に乖離している場合には、前記第2油圧に異常が発生していると判定するものである請求項1に記載の車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項1】
有効径が可変である入力側可変プーリ及び出力側可変プーリと、それら1対の可変プーリ相互間に巻き掛けられた伝動ベルトとを、有するベルト式無段変速機において、前記入力側可変プーリに供給される第1油圧及び前記出力側可変プーリに供給される第2油圧をそれぞれ制御する車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置であって、
前記出力側可変プーリに供給される第2油圧を検出する油圧センサを備え、
前記ベルト式無段変速機における実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御において、前記油圧センサにより検出される第2油圧に基づいて前記入力側可変プーリに供給される第1油圧を推定し、該第1油圧の推定値の指令値に対する比較の結果と、前記実変速比の目標変速比に対する比較の結果とに基づいて、前記油圧センサ及び第2油圧の何れに異常が発生しているのか判定するものであることを特徴とする車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記第1油圧の推定値が指令値に対して予め定められた閾値以上大きく、且つ、前記実変速比の目標変速比に対する乖離が規定範囲内である場合には、前記油圧センサに異常が発生していると判定するものである請求項1に記載の車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記第1油圧の推定値の指令値に対する乖離が規定範囲内であり、且つ、前記実変速比が目標変速比に対して大きい側に乖離している場合には、前記第2油圧に異常が発生していると判定するものである請求項1に記載の車両用ベルト式無段変速機の油圧制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−72516(P2013−72516A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213119(P2011−213119)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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