説明

車両用制御装置及び車両駆動システム

【課題】車両の走行中に、エンジンの回転駆動力が車輪に伝達される状態に移行する際に、駆動力伝達の応答性を向上させる。
【解決手段】エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、入力部材の回転駆動力を各変速段の変速比で変速して出力部材に伝達する変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、変速装置は、複数の変速段の一つとして、入力部材から出力部材への回転駆動力は伝達し、出力部材から入力部材への回転駆動力は伝達しない変速段である一方向伝達段を備え、車両の走行中であってかつ前記入力部材の回転駆動力が前記出力部材に伝達されず前記エンジンの回転速度が所定のアイドル回転数に制御されている状態である走行中アイドリング状態で、前記変速装置が前記一方向伝達段を実現するように制御する制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、入力部材の回転駆動力を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置、及びそのような制御装置により制御される車両用駆動装置を備えた車両駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用駆動装置として、例えば下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。この駆動装置では、車両の走行中に、車両の走行抵抗に対して要求駆動力が微小となる所定の緩やかな減速運転状態となった場合は、変速装置と車輪との間に備えられた発進クラッチが解放状態に制御されることにより、エンジンと車輪との間が駆動連結されていない非連結状態にされ、車両は空走状態にされている。これにより、いわゆるエンジンブレーキが働かない状態となり、車両の走行抵抗による緩やかな車両の減速が実現されている。また、この空走状態では、エンジンは停止され、エンジンの燃料消費が抑制されている。
【0003】
そして、車両が空走状態にされている間に走行抵抗に対して要求駆動力が上回る所定の加速運転状態となった場合は、エンジンが始動されるとともに、発進クラッチが係合状態に制御されることにより、エンジンの回転駆動力が車輪に伝達される状態に移行されて、車両が再加速される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−266932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、空走状態でエンジンが停止されているので、加速運転状態に移行する際に、エンジンを始動させる必要がある。よって、このようなエンジン始動に要する期間分、駆動力伝達の応答性が悪化するという問題があった。また、特許文献1に記載された技術では、加速運転状態に移行する際に、発進クラッチが係合されてエンジンと車輪との間が連結状態にされるまでは、エンジンの回転駆動力を車輪に伝達することができず、車両を加速させることができない。このため、発進クラッチの係合が完了するまでの期間分、駆動力伝達の応答性が悪化するという問題があった。
【0006】
また、特許文献1に記載された技術では、変速装置及び発進クラッチは油圧により作動されるように構成されており、オイルポンプをエンジンの回転により駆動させて油圧を発生させている。しかし、特許文献1の技術は、空走状態でエンジンを停止させるので、エンジンの回転により油圧を発生させることができない。そこで、特許文献1の技術では、加速運転状態に移行する際に、変速装置及び発進クラッチが油圧により応答性良く作動されるため、車両用駆動装置が、オイルポンプ駆動用の電動モータを備えており、空走状態においても電動モータを駆動させて油圧を発生させている。すなわち、特許文献1の技術では、駆動力伝達の応答性を向上させるために、油圧発生用の電動モータを備える必要があり、車両用駆動装置の構成が複雑化してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、車両の走行中に、エンジンに駆動連結される入力部材の回転駆動力が車輪に駆動連結される出力部材に伝達されない状態から、入力部材の回転駆動力が出力部材に伝達される状態に移行する際における駆動力伝達の応答性を向上させることができるとともに、車両用駆動装置の構成が複雑化することを抑制できる車両用制御装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するための、本発明に係るエンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、複数の係合要素を有し、前記複数の係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転駆動力を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御するための車両用制御装置の特徴構成は、前記変速装置は、前記複数の変速段の一つとして、前記入力部材から前記出力部材への回転駆動力は伝達し、前記出力部材から前記入力部材への回転駆動力は伝達しない変速段である一方向伝達段を備え、車両が走行している状態であってかつ前記入力部材の回転駆動力が前記出力部材に伝達されず前記エンジンの回転速度が所定のアイドル回転数に制御されている状態である走行中アイドリング状態で、前記変速装置が前記一方向伝達段を実現するように制御する制御手段を備えた点にある。
【0009】
なお、本願において「駆動連結」とは、二つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該二つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該二つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。但し、各遊星歯車装置の各回転要素について「駆動連結」という場合には、当該遊星歯車装置が備える複数の回転要素に関して互いに他の回転要素を介することなく駆動連結されている状態を指すものとする。
【0010】
本発明によれば、走行中アイドリング状態では一方向伝達段が実現される。この一方向伝達段は、出力部材から入力部材への回転駆動力は伝達しないため、変速装置とエンジンとの間での駆動力の伝達が遮断され、走行中アイドリング状態におけるエンジンの引きずり(エンジンブレーキ、エンジンの連れ回り)が回避される。これにより、エンジンの引きずりに伴うエネルギ損失を抑制して、例えば、出力部材からの回転駆動力を他の用途に有効利用させることができる。
一方、一方向伝達段は、入力部材から出力部材への回転駆動力は伝達するため、走行中アイドリング状態から離脱してエンジンの回転駆動力により車両を駆動させる際に、速やかにエンジンの回転駆動力を、入力部材を介して出力部材に伝達することができる。また、走行中アイドリング状態において、エンジンは停止されずアイドル回転数に制御されているため、走行中アイドリング状態からの離脱後、速やかにエンジンの回転駆動力を出力部材に伝達させることができる。
したがって、上記の特徴構成によれば、走行中アイドリング状態におけるエンジンの引きずりを回避しつつ、走行中アイドリング状態から離脱してエンジンの回転駆動力により車両を駆動させる時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
また、走行中アイドリング状態において、エンジンは回転しているため、当該エンジンの回転により、一方向伝達段を実現するための動力(例えば、油圧)を発生させることができる。よって、走行中アイドリング状態で一方向伝達段を実現するために、エンジン以外の動力源(例えば、電動ポンプ)を備える必要がなく、車両用駆動装置の構成が複雑化することが抑制される。
【0011】
ここで、前記変速装置は、係合した状態で前記入力部材の回転駆動力を当該変速装置が有する複数の回転要素のうちの一つに伝達する第一係合要素と、前記第一係合要素が係合した状態で、前記入力部材から前記出力部材への回転駆動力が伝達される状態となり、前記出力部材から前記入力部材への回転駆動力が伝達されない状態となる一方向クラッチと、を備え、前記一方向伝達段は、前記第一係合要素の係合と前記一方向クラッチとが協働して実現される構成とすると好適である。
【0012】
この構成によれば、係合要素の一つである第一係合要素と、一つの一方向クラッチとの組み合わせにより、簡単な構成で容易かつ適切に一方向伝達段を実現することができる。
【0013】
また、前記走行中アイドリング状態に移行する前の前記変速装置における変速段が、少なくとも前記第一係合要素の係合により実現される変速段である場合には、前記制御手段は、前記走行中アイドリング状態で前記第一係合要素を係合させて前記一方向伝達段を実現させ、前記走行中アイドリング状態に移行する前の前記変速装置における変速段が、少なくとも前記第一係合要素の係合により実現される変速段以外の変速段である場合には、前記制御手段は、前記走行中アイドリング状態で前記変速装置の全ての係合要素を解放させる構成とすると好適である。
【0014】
この構成によれば、走行中アイドリング状態に移行する前の変速装置における変速段に応じて、走行中アイドリング状態における変速装置における変速段の状態を適切に設定することができる。
すなわち、走行中アイドリング状態に移行する前の変速装置における変速段が、少なくとも第一係合要素が係合されて実現されている場合には、第一係合要素以外の係合要素を解放させるだけで、容易かつ速やかに一方向伝達段を実現させることができる。
また、走行中アイドリング状態に移行する前の変速装置における変速段が、第一係合要素が解放されるとともに他の二つの係合要素が係合されて実現されている場合には、全ての係合要素を解放させることで、走行中アイドリング状態から離脱する時における変速装置の変速段の設定の自由度を高め、状況に応じた適切な対応を可能とすることができる。
【0015】
また、前記走行中アイドリング状態に移行する前の車両の走行速度が所定の解放閾値以下である場合には、前記制御手段は、前記走行中アイドリング状態で前記第一係合要素を係合させて前記一方向伝達段を実現させ、前記走行中アイドリング状態に移行する前の車両の走行速度が所定の解放閾値より大きい場合には、前記走行中アイドリング状態で前記変速装置の全ての係合要素を解放させる構成とすると好適である。
【0016】
この構成によれば、走行中アイドリング状態に移行する前の車両の走行速度に応じて、走行中アイドリング状態における変速装置における変速段の状態を適切に設定することができる。
すなわち、走行中アイドリング状態に移行する前の車両の走行速度が所定の解放閾値以下の比較的低速での走行時には、走行中アイドリング状態からの離脱時に車両を駆動するための駆動力が比較的速やかに必要となる場合が多い。よって、そのような条件の下では第一係合要素を係合させて一方向伝達段を実現させておくことで、走行中アイドリング状態からの離脱時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
また、走行中アイドリング状態に移行する前の車両の走行速度が所定の解放閾値より大きい比較的高速での走行時には、走行中アイドリング状態からの離脱時に車両を駆動するための駆動力はあまり必要でない場合が多い。よって、そのような条件の下では全ての係合要素を解放させることで、走行中アイドリング状態からの離脱時における変速装置の変速段の設定の自由度を高め、状況に応じた適切な対応を可能とすることができる。
【0017】
また、前記一方向伝達段は、前進用変速段の中で前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が最も大きい変速段である構成とすると好適である。
【0018】
走行中アイドリング状態に移行する状況としては、車両が減速している状況が多い。このような状況では、走行中アイドリング状態から離脱して車両を駆動させる際には、車速が小さい(特に、ゼロに近い)状態から駆動させる必要があるため、大きな駆動力が必要となる場合が多い。上記の構成によれば、前進用変速段の中で減速比が最も大きい変速段が一方向伝達段として設定されるので、車速が小さい(特に、ゼロに近い)状態から車両を駆動させる場合にも、入力部材の回転駆動力を減速して、大きな駆動力を応答性良く出力部材に伝達することができる。
また、前進用変速段の中で減速比が最も大きい変速段では、一般にアクセルオフした際にエンジンブレーキが効き過ぎてしまうことが多いことから、そのようなエンジンブレーキによるショックを低減するために当該減速比が最も大きい変速段を実現するのに一方向クラッチを利用する場合がある。上記の構成では、そのような目的で設けられる一方向クラッチと、本発明における一方向伝達段を実現するための一方向クラッチとを共用させることができるので、特別な部品を追加することなく一方向伝達段を実現可能とすることができる。
【0019】
また、車両の走行中に、前記走行中アイドリング状態から、前記入力部材の回転駆動力を前記出力部材に伝達する通常状態に復帰するとき、前記制御手段は、前記入力部材の回転速度が、車両の走行速度と前記変速装置における目標変速段とに基づいて定まる目標回転速度となるように制御するエンジン回転速度制御を行なってから、前記変速装置における所定の係合要素を係合させる構成とすると好適である。
【0020】
この構成によれば、エンジン回転速度制御により、二つの回転要素が同期してから(回転速度が略等しくなってから)係合させられるので、目標変速段が実現される際の変速ショックの発生を抑制することができる。
【0021】
また、前記エンジン回転速度制御中に、前記入力部材の回転速度が前記目標回転速度となる前に、前記変速装置における目標変速段が変更された場合において、前記目標変速段の変更パターンが予め定められた許容シフトパターンに該当しない場合には、前記制御手段は、前記エンジン回転速度制御を行なって変更前の前記目標変速段を実現させた後に、変更後の前記目標変速段を実現させ、前記目標変速段の変更パターンが前記許容シフトパターンに該当する場合には、前記制御手段は、前記エンジン回転速度制御を中止するとともに変更前の前記目標変速段の実現を中止して、変更後の前記目標変速段を実現させる構成とすると好適である。
【0022】
この構成によれば、所定の許容シフトパターンに該当する場合には、変更後の目標変速段に直接移行させることで、目標変速段を早期に実現させることができる。
【0023】
また、前記変速装置における各変速段が二つの前記係合要素の係合により実現される場合において、前記許容シフトパターンは、先に係合される前記係合要素が共通でかつ後に係合される前記係合要素が異なる変速段間での変更であって、かつ、減速比の小さい変速段から減速比の大きい変速段への変更に該当する変更パターンである構成とすると好適である。
【0024】
係合される二つの係合要素のうち先に係合される係合要素が共通である場合には、後に係合される係合要素を変更前後の目標変速段に対応する係合要素間で切り替えるだけで、容易に変更前後の目標変速段を切り替えることができる。
また、目標変速段が減速比の小さい変速段から減速比の大きい変速段へ変更(ダウンシフト)される場合には、より大きな駆動力が必要とされることから、変更後の目標変速段を早期に実現させることが好ましい。
したがって、上記の構成によれば、許容シフトパターンを適切に設定することができ、必要な場合には目標変速段を早期に実現させることができる。
【0025】
また、前記変速装置は、係合した状態で前記入力部材の回転駆動力を当該変速装置が有する複数の回転要素のうちの一つに伝達する第一係合要素と、前記第一係合要素が係合した状態で、前記入力部材から前記出力部材への回転駆動力が伝達される状態となり、前記出力部材から前記入力部材への回転駆動力が伝達されない状態となる一方向クラッチと、を備え、前記一方向伝達段は、前記第一係合要素の係合と前記一方向クラッチとが協働して実現され、前記変速装置は、前記第一係合要素を含む複数の係合要素の中のいずれか二つを選択的に係合することにより複数の変速段を切り替え可能に備えるとともに、少なくとも前記第一係合要素とは異なる第二係合要素が係合されることにより実現される変速段を有し、前記エンジンが前記走行中アイドリング状態に移行する前の前記変速装置における変速段が、前記第二係合要素が係合されることにより実現される変速段である場合には、前記制御手段は、前記通常状態に復帰する際に、二つの係合要素のうち前記第二係合要素を先に係合させる構成とすると好適である。
【0026】
この構成によれば、少なくとも第二係合要素が係合されることにより実現される変速段では、当該第二係合要素を先に係合させることで、先に係合される係合要素を第一係合要素及び第二係合要素のいずれか一方に集約することができる。したがって、許容シフトパターンの数を増加させて、より多くの状況で目標変速段を早期に実現可能とすることができる。
【0027】
また、前記変速装置の全ての係合要素を解放させた状態で、前記走行中アイドリング状態に代えて、車両が走行している状態であってかつ前記エンジンが停止される走行中アイドル停止状態とする構成とすると好適である。
【0028】
変速装置の全ての係合要素を解放させた状態では、変速装置の係合要素を係合させるための動力(例えば、油圧)を発生させる必要がないため、例えば電動ポンプ等のエンジン以外の動力源を備えない場合であっても、車両の走行中にエンジンを停止させることが可能となる。よって、上記の構成によれば、このエンジンを停止可能な状態で、エンジンを停止させることにより、エンジンの燃焼消費が抑制される。
【0029】
また、前記エンジンの回転駆動力により駆動されて油を吐出する機械式ポンプと、前記機械式ポンプの動作停止中に油を吐出する電動ポンプとを、複数の前記係合要素に油圧を供給可能に備え、前記走行中アイドル停止状態で前記変速装置の全ての係合要素が解放される場合には、前記制御手段は前記電動ポンプを非駆動状態とする構成とすると好適である。
【0030】
変速装置の全ての係合要素が解放される場合には、変速装置の係合要素を係合させるための油圧を発生させる必要がない。上記の構成によれば、機械式ポンプの動作停止中に油を吐出する電動ポンプが備えられている車両用駆動装置においても、走行中アイドル停止状態で前記変速装置の全ての係合要素が解放される場合には、電動ポンプを非駆動状態とすることで、電動ポンプの駆動時間を短縮して、電動ポンプの寿命を延ばすことができるとともに、電動ポンプ駆動用のバッテリ電力を節約することができる。
【0031】
これまで説明してきた構成において、前記変速装置は、具体的には、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素となる三つの回転要素を有する第一遊星歯車装置と、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素及び第四回転要素となる四つの回転要素を有する第二遊星歯車装置を備え、前記第一遊星歯車装置の第一回転要素は非回転部材に固定され、第二回転要素は第一係合要素を介して前記第二遊星歯車装置の第四回転要素に選択的に駆動連結され、第三回転要素は前記入力部材に駆動連結され、前記第二遊星歯車装置の第二回転要素は、非回転部材に対して負回転となるときに係合状態となって回転が阻止される一方向クラッチを介して当該非回転部材に選択的に固定され、第三回転要素は前記出力部材に駆動連結されている構成とすると好適である。
【0032】
この構成によれば、変速装置に、少なくとも第一係合要素の係合と一方向クラッチとが協働することにより実現される一方向伝達段を備えさせることができる。よって、そのような変速装置を備えた車両用駆動装置において、当該車両用駆動装置を適切に制御して、走行中アイドリング状態でエンジンの引きずりを回避しつつ、走行中アイドリング状態から離脱する時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
【0033】
ここで、前記変速装置は、前記第一遊星歯車装置の第二回転要素が、更に前記第二遊星歯車装置の第一回転要素に選択的に駆動連結されるとともに、前記第二遊星歯車装置の第二回転要素が、更に第二係合要素を介して前記入力部材に選択的に駆動連結される構成とすると好適である。
【0034】
この構成によれば、少なくとも四つの変速段を切替可能に有する変速装置を備えた車両用駆動装置において、当該車両用駆動装置を適切に制御して、走行中アイドリング状態でエンジンの引きずりを回避しつつ、走行中アイドリング状態から離脱する時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
【0035】
また、前記変速装置は、前記第二遊星歯車装置の第一回転要素が、更に非回転部材に選択的に固定される構成とすると好適である。
【0036】
この構成によれば、更に二つの変速段を加えた、六つの変速段を切替可能に有する変速装置を備えた車両用駆動装置において、当該車両用駆動装置を適切に制御して、走行中アイドリング状態でエンジンの引きずりを回避しつつ、走行中アイドリング状態から離脱する時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
【0037】
本発明に係る車両駆動システムの特徴構成は、これまで説明してきた車両用制御装置により制御される車両用駆動装置が備える前記出力部材が、車両の前輪及び後輪のいずれか一方に駆動連結されるとともに、駆動力を出力可能な回転電機の出力軸が、車両の前輪及び後輪のいずれか他方に駆動連結された点にある。
【0038】
なお、本願では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0039】
これまで説明してきたように、本発明に係る車両用制御装置によれば、走行中アイドリング状態におけるエンジンの引きずり(エンジンブレーキ、エンジンの連れ回り)が回避されるので、エンジンの引きずりに伴うエネルギ損失を抑制することができる。その際、上記の特徴構成のように回転電機の出力軸が車両の前輪及び後輪のいずれかに駆動連結されている車両駆動システムでは、エネルギ損失が抑制された状態で回転電機に回生制動を行わせることができるので、回転電機による回生効率を向上させることができる。
したがって、上記の特徴構成によれば、走行中アイドリング状態における回転電機の回生効率が良好であるとともに、走行中アイドリング状態からの離脱時における駆動力伝達の応答性が良好な車両駆動システムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第一の実施形態に係る車両用駆動装置を搭載した車両の全体構成を示す図である。
【図2】第一の実施形態に係る車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
【図3】第一の実施形態に係る各変速段での複数の係合要素の作動状態を示す作動表である。
【図4】第一の実施形態に係る変速装置の速度線図である。
【図5】第一の実施形態に係る制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【図6】第一の実施形態に係る変速マップの一例を示す図である。
【図7】第一の実施形態に係る切替制御処理の全体の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】第一の実施形態に係るクラッチ解放制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】第一の実施形態に係るクラッチ再係合制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】第一の実施形態に係る切替制御処理の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【図11】第一の実施形態に係る切替制御処理の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【図12】第一の実施形態に係る切替制御処理の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【図13】第一の実施形態に係る切替制御処理の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【図14】第二の実施形態に係る車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
【図15】第二の実施形態に係る各変速段での複数の係合要素の作動状態を示す作動表である。
【図16】第二の実施形態に係る変速装置の速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
〔第一の実施形態〕
本発明に係る車両用制御装置の第一の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態においては、本発明に係る車両用制御装置を、ハイブリッド車両用の駆動装置に適用した場合を例として説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1を搭載した車両5の全体構成を示す図である。この図に示すように、本実施形態に係る車両用駆動装置1は、車両5に横置きされるエンジンEに対して車両5の幅方向に隣接して配置されている。そして、車両用駆動装置1が備える出力ギヤOが、図示しないカウンタギヤ機構及びディファレンシャル装置等を介して車両5の前輪に駆動連結されている。また、本実施形態においては、車両5には駆動力を出力可能な回転電機MGが搭載されている。回転電機MGの出力軸は、車両5の後輪に駆動連結されている。このような構成を備えた車両5は、基本的にはエンジンEの回転駆動力により前輪駆動(FF、Front Engine Front Drive)方式で走行し、必要に応じて回転電機MGの回転駆動力でエンジンEの回転駆動力をアシストすることにより四輪駆動(4WD、4-wheel drive)方式で走行することが可能な車両駆動システムとなっている。
【0042】
1.車両用駆動装置の構成
まず、本実施形態に係る車両用駆動装置1の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の駆動伝達系及び油圧制御系の構成を示す模式図である。なお、この図2は、軸対称の構成を一部省略して示している。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は電力の供給経路を示している。この図に示すように、車両用駆動装置1は、車両駆動用の駆動力源としてのエンジンEに駆動連結され、トルクコンバータ11を介して入力軸Iから入力されるエンジンEの回転駆動力を、変速装置TMで変速して出力ギヤOに伝達する構成となっている。本実施形態においては、入力軸Iが本発明における「入力部材」に相当し、出力ギヤOが本発明における「出力部材」に相当する。
【0043】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、トルクコンバータ11を介して入力軸Iに駆動連結されている。トルクコンバータ11は、駆動力源としてのエンジンEのエンジン出力軸Eoの回転駆動力を、入力軸Iを介して変速装置TMに伝達する装置である。このトルクコンバータ11は、エンジン出力軸Eoに駆動連結された入力側回転部材としてのポンプインペラ11aと、入力軸Iに駆動連結された出力側回転部材としてのタービンランナ11bと、これらの間に設けられ、ワンウェイクラッチを備えたステータ11cと、を備えている。そして、トルクコンバータ11は、内部に充填された作動油を介して、駆動側のポンプインペラ11aと従動側のタービンランナ11bとの間で駆動力の伝達を行う。これにより、エンジンEの回転駆動力が入力軸Iに伝達される。なお、エンジンEのエンジン出力軸Eoが、入力軸Iと一体的に駆動連結され、或いはダンパやクラッチ等の他の部材を介して入力軸Iに駆動連結された構成としても好適である。
【0044】
また、本実施形態においては、エンジンEに隣接してスタータ13が設けられている。スタータ13は、直流モータ等で構成され、バッテリ(不図示)に電気的に接続されている。スタータ13は、エンジンEが停止された状態でバッテリから供給される電力により駆動されてエンジン出力軸Eoを回転させ、エンジンEを始動させることができるように構成されている。
【0045】
トルクコンバータ11は、ロックアップ用の摩擦係合要素として、ロックアップクラッチ12を備えている。このロックアップクラッチ12は、ポンプインペラ11aとタービンランナ11bとの間の回転差(滑り)をなくして伝達効率を高めるために、ポンプインペラ11aとタービンランナ11bとを一体回転させるように連結するクラッチである。したがって、トルクコンバータ11は、ロックアップクラッチ12の係合状態では、作動油を介さずに、エンジンEの駆動力を直接入力軸Iに伝達する。ロックアップクラッチ12を含むトルクコンバータ11には、油圧制御装置25により調圧された作動油が供給される。
【0046】
トルクコンバータ11の出力側回転部材としてのタービンランナ11bに駆動連結された入力軸Iには、変速装置TMが駆動連結されている。変速装置TMは、複数の係合要素を有し、入力軸Iから伝達されるエンジンEの回転駆動力を、各変速段の変速比で変速して出力ギヤOへ伝達する装置である。ここで、変速装置TMは、複数の変速段を有する有段の自動変速装置(有段変速装置)となっている。本実施形態においては、変速装置TMは変速比(減速比)の異なる六つの変速段(第一段、第二段、第三段、第四段、第五段、及び第六段)を前進段として備えている。これらの変速段を構成するため、変速装置TMは、第一遊星歯車装置P1及び第二遊星歯車装置P2を備えてなる歯車機構と、複数の係合要素と、を備えて構成されている。これら複数の係合要素の係合及び解放を制御して、第一遊星歯車装置P1及び第二遊星歯車装置P2の各回転要素の回転状態を切り替え、複数の係合要素の中のいずれか二つを選択的に係合することにより、六つの変速段が切り替えられる。なお、変速装置TMは、上記六つの変速段のほかに、一段の後進段も備えている。
【0047】
本実施形態においては、図2に示すように、第一遊星歯車装置P1は、入力軸Iと同軸上に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。すなわち、第一遊星歯車装置P1は、複数のピニオンギヤを支持するキャリアCA1と、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤS1及びリングギヤR1と、の三つの回転要素を有して構成されている。また、第二遊星歯車装置P2は、入力軸Iと同軸上に配置されたラビニヨ型の遊星歯車機構とされている。すなわち、第二遊星歯車装置P2は、第一サンギヤS2及び第二サンギヤS3の二つのサンギヤと、リングギヤR2と、第一サンギヤS2及びリングギヤR2の双方に噛み合うロングピニオンギヤ並びにこのロングピニオンギヤ及び第二サンギヤS3に噛み合うショートピニオンギヤを支持する共通のキャリアCA2と、の四つの回転要素を有して構成されている。
【0048】
第一遊星歯車装置P1のサンギヤS1は、非回転部材としてのケース2に固定されている。キャリアCA1は、第一中間軸M1を介して第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第二中間軸M2を介して第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2と選択的に一体回転するように駆動連結されている。リングギヤR1は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。本実施形態においては、この第一遊星歯車装置P1では、サンギヤS1、キャリアCA1、及びリングギヤR1が、それぞれ本発明における「第一回転要素」、「第二回転要素」、及び「第三回転要素」に相当する。なお、これら三つの回転要素は、回転速度の順にサンギヤS1(第一回転要素)、キャリアCA1(第二回転要素)、及びリングギヤR1(第三回転要素)となっている。
【0049】
第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2は、第二中間軸M2を介して第一遊星歯車装置P1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結されている。キャリアCA2は、入力軸Iと選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、非回転部材としてのケース2に選択的に固定される。リングギヤR2は、出力ギヤOと一体回転するように駆動連結されている。第二サンギヤS3は、第一中間軸M1を介して第一遊星歯車装置P1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結されている。本実施形態においては、この第二遊星歯車装置P2では、第一サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2、及び第二サンギヤS3が、それぞれ本発明における「第一回転要素」、「第二回転要素」、「第三回転要素」、及び「第四回転要素」に相当する。なお、これら四つの回転要素は、回転速度の順に第一サンギヤS2(第一回転要素)、キャリアCA2(第二回転要素)、リングギヤR2(第三回転要素)、及び第二サンギヤS3(第四回転要素)となっている。
【0050】
第一遊星歯車装置P1のキャリアCA1は、第一クラッチC1により第一中間軸M1に選択的に駆動連結されるとともに、第三クラッチC3により第二中間軸M2に選択的に駆動連結される。これにより、第一遊星歯車装置P1のキャリアCA1は、第一クラッチC1及び第一中間軸M1を介して第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に選択的に駆動連結されるとともに、第三クラッチC3及び第二中間軸M2を介して第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2に選択的に駆動連結される。また、本実施形態においては、第二中間軸M2は、第一ブレーキB1によりケース2に選択的に固定される。これにより、第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2は、第二中間軸M2及び第三クラッチC3を介して第一遊星歯車装置P1のキャリアCA1に選択的に駆動連結されるとともに、第一ブレーキB1によりケース2に選択的に固定される。
【0051】
第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2は、ワンウェイクラッチFによりケース2に選択的に固定されるとともに、第二クラッチC2により入力軸Iに選択的に駆動連結される。ここで、ワンウェイクラッチFは、一方向の回転のみを阻止することによりキャリアCA2を選択的にケース2に固定する。なお、第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2は、第二ブレーキB2によっても、ケース2に選択的に固定可能とされている。
【0052】
本実施形態においては、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第一ブレーキB1、及び第二ブレーキB2は、いずれも摩擦係合要素とされている。具体的には、これらは油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキにより構成されている。これらの摩擦係合要素C1、C2、C3、B1、B2は、油圧制御装置25から供給される油圧により、それぞれ係合及び解放が制御される。また、ワンウェイクラッチFは、インナレースとアウタレースとを備え、インナレースがアウタレースに対して相対的に正回転することは許容されるが、インナレースがアウタレースに対して相対的に負回転することは阻止されるように構成されている。本例では、インナレースが第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2と一体回転するように駆動連結され、アウタレースがケース2に固定されている。ワンウェイクラッチFは、第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2が負回転となるときに係合状態となって回転が阻止される一方向係合要素として機能し、キャリアCA2を選択的にケース2に固定して停止させる。本実施形態においては、これら第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2、及びワンウェイクラッチFにより、本発明における「複数の係合要素」が構成される。
【0053】
2.油圧制御系の構成
次に、上述した車両用駆動装置1の油圧制御系について説明する。油圧制御系は、図示しないオイルパンに蓄えられた作動油を吸引し、車両用駆動装置1の各部に作動油を供給するための油圧源として、本実施形態では、図2に示すように、機械式ポンプ21を備えている。ここで、機械式ポンプ21は、駆動力源としてのエンジンEの回転駆動力により駆動されて作動油を吐出するオイルポンプである。このような機械式ポンプ21としては、例えば、歯車ポンプやベーンポンプ等が好適に用いられる。本例では、機械式ポンプ21は、入力軸Iの軸方向でトルクコンバータ11に対してエンジンEとは反対側に配置されている。機械式ポンプ21は、トルクコンバータ11のポンプインペラ11aを介してエンジン出力軸Eoに駆動連結され、エンジンEの回転駆動力により駆動される。そして、この機械式ポンプ21は、基本的には車両用駆動装置1に必要な作動油の油量を十分に上回る吐出能力を備えている。しかし、機械式ポンプ21は、エンジン出力軸Eoの停止中(すなわちエンジンEの停止中)には作動油を吐出しない。
【0054】
また、油圧制御系は、機械式ポンプ21から供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置25を備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置25は、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、ロックアップクラッチ12、トルクコンバータ11、及び変速装置TMの複数の係合要素C1、C2、C3、B1、B2に供給される。なお、作動油は第一遊星歯車装置P1及び第二遊星歯車装置P2の各ギヤ、並びに入力軸I、第一中間軸M1及び第二中間軸M2を回転可能に支持する各軸受(不図示)の潤滑や冷却のためにも、これらの部位に供給される。
【0055】
3.車両用駆動装置の動作
次に、本実施形態に係る車両用駆動装置1の動作について説明する。ここでは、変速装置TMにより実現される六つの変速段について詳細に説明する。図3は、各変速段での複数の係合要素の作動状態を示す作動表である。この図において、「○」は各係合要素が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合要素が解放(係合解除)状態にあることを示している。また、「△」は、一方向に回転する(キャリアCA2が正方向に回転する)場合には解放状態となり、他方向に回転する(キャリアCA2が負方向に回転する)場合には係合状態となることを示している。
【0056】
図4は、変速装置TMの速度線図である。この速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、第一遊星歯車装置P1の各回転要素及び第二遊星歯車装置P2の各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「S1」、「CA1」、「R1」はそれぞれ第一遊星歯車装置P1のサンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1に対応している。また、各縦線の上側に記載されている「S2」、「CA2」、「R2」、「S3」はそれぞれ第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2、第二サンギヤS3に対応している。また、並列配置された複数本の縦線間の間隔は、各遊星歯車装置P1、P2のギヤ比λ(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に基づいて定まっている。
【0057】
また、「△」は、当該回転要素がエンジンEに駆動連結された入力軸Iに連結された状態を示している。「×」は、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2又はワンウェイクラッチFにより各回転要素がケース2に固定された状態を示している。「☆」は、当該回転要素が車輪に駆動連結された出力ギヤOに連結された状態を示している。なお、それぞれの「☆」に隣接して記載された「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「5th」、「6th」、及び「Rev」は、それぞれ変速装置TMにおいて実現される第一段、第二段、第三段、第四段、第五段、第六段、及び後進段に対応している。
【0058】
図3及び図4に示すように、第一段は、第一クラッチC1の係合とワンウェイクラッチFとが協働して実現される。すなわち、第一クラッチC1が係合した状態では、第一遊星歯車装置P1のリングギヤR1に入力される入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。本実施形態においては、第一クラッチC1が本発明における「第一係合要素」に相当する。そして、第一クラッチC1が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)から出力ギヤOへの回転駆動力が伝達されて第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2が負回転する際に、ワンウェイクラッチFが係合状態となってケース2に固定され、第二サンギヤS3の回転駆動力がギヤ比λ3に基づいて減速されて出力ギヤOに伝達される。なお、出力ギヤOから入力軸I(エンジンE)への回転駆動力が伝達されて第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2が正回転する際には、ワンウェイクラッチFは解放状態となる。本実施形態においては、ワンウェイクラッチFが本発明における「一方向クラッチ」に相当する。このようにして実現される第一段は、入力軸I(エンジンE)から出力ギヤOへの回転駆動力は伝達し、出力ギヤOから入力軸I(エンジンE)への回転駆動力は伝達しない変速段となる。本実施形態においては、第一段が本発明における「一方向伝達段」に相当する。
【0059】
第二段は、第一クラッチC1の係合と第一ブレーキB1の係合とが協働して実現される。すなわち、第一クラッチC1が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。また、第一ブレーキB1が係合した状態で、第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2がケース2に固定される。そして、第二サンギヤS3の回転駆動力がギヤ比λ2及びλ3に基づいてさらに減速されて出力ギヤOに伝達される。
【0060】
第三段は、第一クラッチC1の係合と第三クラッチC3の係合とが協働して実現される。すなわち、第一クラッチC1が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。また、第三クラッチC3が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2に伝達される。そして、第一サンギヤS2と第二サンギヤS3とが同速度で回転することで、ギヤ比λ1に基づいて減速された入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がそのまま出力ギヤOに伝達される。
【0061】
第四段は、第一クラッチC1の係合と第二クラッチC2の係合とが協働して実現される。すなわち、第一クラッチC1が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。また、第二クラッチC2が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がそのまま第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2に伝達される。そして、キャリアCA2及び第二サンギヤS3の回転速度とギヤ比λ3とに基づいて決まる入力軸I(エンジンE)の回転駆動力が出力ギヤOに伝達される。
【0062】
第五段は、第二クラッチC2の係合と第三クラッチC3の係合とが協働して実現される。すなわち、第二クラッチC2が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がそのまま第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2に伝達される。また、第三クラッチC3が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2に伝達される。そして、第一サンギヤS2及びキャリアCA2の回転速度とギヤ比λ2とに基づいて決まる入力軸I(エンジンE)の回転駆動力が出力ギヤOに伝達される。
【0063】
第六段は、第二クラッチC2の係合と第一ブレーキB1の係合とが協働して実現される。すなわち、第二クラッチC2が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がそのまま第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2に伝達される。また、第一ブレーキB1が係合した状態で、第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2がケース2に固定される。そして、キャリアCA2の回転駆動力がギヤ比λ2に基づいて増速されて出力ギヤOに伝達される。
【0064】
後進段は、第三クラッチC3の係合と第二ブレーキB2の係合とが協働して実現される。すなわち、第三クラッチC3が係合した状態で、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2に伝達される。また、第二ブレーキB2が係合した状態で、第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2がケース2に固定される。そして、第一サンギヤS2の回転駆動力がギヤ比λ2に基づいて減速されるとともに回転方向が逆転されて出力ギヤOに伝達される。
【0065】
以上のように、本実施形態に係る変速装置TMは、少なくとも第一係合要素としての第一クラッチC1の係合により実現される変速段として、第一段、第二段、第三段、及び第四段を備えている。また、変速装置TMは、少なくとも第一クラッチC1とは異なる係合要素の一つである第二クラッチC2の係合により実現される変速段として、第四段、第五段、及び第六段を備えている。本実施形態においては、第二クラッチC2が本発明における「第二係合要素」に相当する。これらの各変速段は、入力軸I(エンジンE)と出力ギヤOとの間の変速比(減速比)が大きい順に、第一段、第二段、第三段、第四段、第五段、及び第六段となっている。したがって、一方向伝達段としての第一段は、前進用の変速段の中で変速比(減速比)が最も大きい変速段となっている。
【0066】
4.制御ユニットの構成
次に、本実施形態に係る制御ユニット31の構成について説明する。車両用駆動装置1が備える制御ユニット31は、図5に示すように、車両用駆動装置1の各部の動作制御を行う中核部材としての機能を果たしている。この制御ユニット31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御ユニット31の各機能部32〜37が構成される。これらの各機能部32〜37は、互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。また、メモリ41は、例えばフラッシュメモリ等のように、情報を記憶及び書き換え可能な記録媒体をハードウェア構成として備え、制御ユニット31との間で互いに情報の受け渡しを行うことができるように構成されている。なお、メモリ41は、制御ユニット31が有する記憶装置内に設けられても良い。
【0067】
また、この車両用駆動装置1は、車両5の各部に設けられた複数のセンサ、具体的には、入力軸回転速度センサSe1、車速センサSe2、及びアクセル開度検出センサSe3を備えている。ここで、入力軸回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するセンサである。車速センサSe2は、車輪6の回転速度すなわち車速を検出するセンサである。アクセル開度検出センサSe3は、図示しないアクセルペダルの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するセンサである。これらの各センサSe1〜Se3による検出結果を示す情報は、制御ユニット31へ出力される。
【0068】
図5に示すように、制御ユニット31は、エンジン制御部32、回転電機制御部33、目標変速段決定部34、切替制御部35、目標回転速度決定部36、及び電動モータ駆動制御部37を備えている。また、制御ユニット31の各機能部32〜37が参照するメモリ41には、変速マップ42及び許容シフトテーブル43が格納されている。以下では、制御ユニット31の各機能部32〜37について詳細に説明する。なお、本実施形態においては、制御ユニット31が本発明における「車両用制御装置」に相当する。また、制御ユニット31が備える各機能部32〜37が協働して、本発明における「制御手段」を構成している。
【0069】
エンジン制御部32は、エンジンEの動作制御を行なう機能部である。エンジン制御部32は、エンジン動作点を決定し、当該エンジン動作点でエンジンEを動作させるように制御する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジンEの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、エンジン動作点は、車両要求出力(車両要求トルク及びエンジン回転速度に基づいて定まる)と最適燃費とを考慮して決定されるエンジンEの制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、エンジン制御部32は、エンジン動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するようにエンジンEを制御する。
【0070】
また、エンジン制御部32は、エンジンEの回転速度が低下して所定のアイドル回転数に近づくとともに、アクセル開度がゼロであると判定した場合に、エンジンの回転速度を所定のアイドル回転数に制御するアイドリング制御を行なう構成となっている。本実施形態では、後述する走行中アイドリング条件が成立した場合、すなわち車両の走行中であり、アクセル開度がゼロ付近に設定された所定範囲内にある場合にも、エンジンEの回転速度が低下して所定のアイドル回転速度に近づくと、アイドリング制御が行なわれるように構成されている。
【0071】
回転電機制御部33は、回転電機MGの動作制御を行なう機能部である。回転電機制御部33は、回転電機動作点を決定し、当該回転電機動作点で回転電機MGを動作させるように制御する処理を行う。ここで、回転電機動作点は、回転電機MGの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、回転電機動作点は、車両要求出力とエンジン動作点とを考慮して決定される回転電機MGの制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。そして、回転電機制御部33は、回転電機動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するように回転電機MGを制御する。また、回転電機制御部33は、バッテリ24から供給される電力により回転電機MGに駆動力を発生させる状態と、エンジンEの回転駆動力により回転電機MGに発電させる状態とを切り替える制御も行なう。更に、回転電機制御部33は、車両5の走行中の回生制御も行なう。
【0072】
目標変速段決定部34は、車両5のアクセル開度及び車速に基づいて、変速装置TMにおける目標変速段を決定する機能部である。このような目標変速段を決定するため、目標変速段決定部34は、メモリ41に格納された変速マップ42を参照する。図6は、本実施形態に係る変速マップ42の一例を示す図である。変速マップ42は、アクセル開度及び車速に基づいて変速装置TMにおける変速段のシフトスケジュールを設定したマップである。この図に示すように、変速マップ42には、概略右上がりの(車速が大きくなるに従い、アクセル開度も大きくなる)直線で表される複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されている。ここで、アップシフト線は、変速比(減速比)の大きい変速段から変速比(減速比)の小さい変速段への移行スケジュールを規定した線である。また、ダウンシフト線は、変速比(減速比)の小さい変速段から変速比(減速比)の大きい変速段への移行スケジュールを規定した線である。目標変速段決定部34は、車速センサSe2により取得される車速の情報及びアクセル開度検出センサSe3により取得されるアクセル開度の情報と、変速マップ42と、に基づいて目標変速段を決定する。決定された目標変速段の情報は、切替制御部35に出力される。
【0073】
切替制御部35は、目標変速段決定部34により決定された目標変速段に基づき、各係合要素C1、C2、C3、B1、B2の動作を制御することにより、変速装置TMの変速段を切り替える制御を行う機能部である。つまり、切替制御部35は、通常切替制御として、決定された目標変速段に応じた二つの係合要素に油圧制御装置25を介して作動油を供給して当該係合要素を係合状態とし、目標変速段を実現させる制御を行なう。なお、車速及びアクセル開度が変化して、図6の変速マップ42上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、目標変速段決定部34は変化後の車両のアクセル開度及び車速に基づいて変速装置TMにおける新たな目標変速段を決定する。そして切替制御部35は、新たに決定された目標変速段に応じた二つの係合要素に作動油を供給して当該係合要素を係合状態とし、新たな目標変速段を実現する。
【0074】
本実施形態においては、切替制御部35は、上記の通常切替制御に加えて、走行中アイドリング状態に移行する際にクラッチ解放制御を行ない、走行中アイドリング状態から離脱する際にクラッチ再係合制御及び変速遷移制御を行なうように構成されている。以下で、走行中アイドリング状態、クラッチ解放制御、クラッチ再係合制御、変速遷移制御などの各制御について説明する。
【0075】
走行中アイドリング状態は、車両5が走行している状態であってかつ入力軸Iの回転駆動力が出力ギヤOに伝達されずエンジンEの回転速度が所定のアイドル回転数に制御されている状態である。
本実施形態では、走行中アイドリング状態は、所定の走行中アイドリング条件が成立した場合に移行され、当該条件が成立しなくなった場合に離脱されるように構成されている。走行中アイドリング状態から離脱した後は、入力軸Iの回転駆動力が出力ギヤOに伝達される通常状態に復帰する。
所定の走行中アイドリング条件は、少なくとも車速及びアクセル開度に基づいて判定される条件である。例えば、車速が所定車速以上であって、アクセル開度が車速に応じて設定される所定範囲内であること等が、所定の走行中アイドリング条件が成立する条件として定められている。ここで、アクセル開度の所定範囲は、アクセル開度がゼロに近い所定範囲に定められており、運転者から減速要求があった場合のアクセル開度の範囲に相当するように設定されている。また、所定車速は、走行中アイドリング状態に移行後、変速装置TMに第一段が実現される状態で、エンジンEによる入力軸Iの回転駆動力が出力ギヤOに伝達されないような車速に設定されている。具体的には、所定車速は、走行中アイドリング状態における所定のアイドル回転数を第一段の変速比で除算して求めた回転速度を出力ギヤOの回転速度として決定し、この決定した出力ギヤOの回転速度を車速に換算した値に設定される。
なお、エンジン制御部32は、上記したように、走行中アイドリング条件が成立した場合、すなわち、車両の走行中であり、アクセル開度がゼロ付近に設定された所定範囲内にある場合にも、アイドリング制御を行なうように構成されている。エンジン制御部32は、走行中アイドリング状態に移行する際に、後述するクラッチ解放制御により変速装置TMのクラッチが解放されて、エンジンEの回転速度が低下してくると、エンジンEの回転速度を所定のアイドル回転速度に制御する。
【0076】
クラッチ解放制御では、切替制御部35は、所定の条件下において、走行中アイドリング状態で、変速装置TMが第一段を実現するように制御する。すなわち、切替制御部35は、油圧制御装置25を介して第一クラッチC1に作動油を供給して第一クラッチC1を係合状態とするように制御する。また、切替制御部35は、第一クラッチC1以外の係合要素への作動油の供給を停止して第一クラッチC1以外の係合要素を解放状態とする。これにより、第一クラッチC1の係合とワンウェイクラッチFとが協働して第一段が実現される。
【0077】
ここで、切替制御部35が走行中アイドリング状態で変速装置TMが第一段を実現するように制御するための条件として、本実施形態においては、以下の第一条件及び第二条件の双方を満たすことが設定されている。第一条件としては、走行中アイドリング状態に移行する前の変速装置TMにおける変速段が、少なくとも第一クラッチC1の係合により実現される変速段であることが設定されている。本例では、走行中アイドリング状態に移行する前の変速段が、第一段から第四段までのいずれかである場合に第一条件を満たすことになる。また、第二条件としては、走行中アイドリング状態に移行する前に車速センサSe2により取得される車速が、所定の解放閾値Vt以下であることが設定されている。本例では、図6に示すように、所定の解放閾値Vtは、アクセル開度がゼロに近い状態で第四段から第三段へダウンシフトされる車速Vdに等しい値に設定されている。なお、この解放閾値Vt(=Vd)は、アクセル開度がゼロに近い状態で第二段から第三段へアップシフトされる車速Vuよりも大きい値となっている。よって、本例では、走行中アイドリング状態に移行する前の変速段が、アクセル開度がゼロに近い状態で、第一段から第三段までのいずれかである場合に第二条件を満たすことになる。したがって、本実施形態においては、走行中アイドリング状態に移行する前の変速段が第一段から第三段までのいずれかである場合に、切替制御部35は変速装置TMが第一段を実現するように制御する。
【0078】
なお、走行中アイドリング状態では、エンジンEは回転されているため、機械式ポンプ21は回転駆動されており、所定油圧の作動油を吐出している。機械式ポンプ21の駆動により吐出された所定油圧の作動油は、油圧制御装置25を介して変速装置TMの第一クラッチC1に供給され、第一クラッチC1を係合状態とし、第一段が実現される。よって、走行中アイドリング状態において、第一クラッチC1を係合状態とし、第一段を実現するために、エンジンE以外の動力源(例えば、電動ポンプ)を車両用駆動装置1に備える必要がなく、車両用駆動装置1の構成が複雑化することが抑制される。
【0079】
上記のとおり、本実施形態においては、第一段は入力軸I(エンジンE)から出力ギヤOへの回転駆動力は伝達し、出力ギヤOから入力軸I(エンジンE)への回転駆動力は伝達しない変速段である一方向伝達段となっている。この一方向伝達段は、出力ギヤOから入力軸Iへの回転駆動力は伝達しないため、車輪6の回転駆動力が出力ギヤOを介して変速装置TMに伝達されても、当該車輪6の回転駆動力は変速装置TMにより遮断され、入力軸Iを介してエンジンEまで伝達されることはない。よって、走行中アイドリング状態におけるエンジンEの引きずり(エンジンブレーキ、入力軸Iに伴うエンジンEの連れ回り)が回避される。これにより、走行中アイドリング状態において、エンジンEの引きずりによるエネルギ損失が抑制された状態で、車輪6から伝達される回転駆動力を利用して回転電機MGに回生制動を行わせることができるので、回転電機MGによる回生効率を向上させることができる。
一方、一方向伝達段は、入力軸Iから出力ギヤOへの回転駆動力は伝達するため、走行中アイドリング状態から離脱してエンジンEの回転駆動力により車両5を駆動させる際に、速やかにエンジンEの回転駆動力を、入力軸Iを介して出力ギヤO(車輪6)に伝達することができる。また、走行中アイドリング状態において、エンジンEは停止されていないため、走行中アイドリング状態からの離脱後、速やかにエンジンEに回転駆動力を出力ギヤOに伝達させることができる。
したがって、本実施形態に係る車両用制御装置を備えた車両駆動システムによれば、走行中アイドリング状態の回転電機MGの回生効率を向上させつつ、走行中アイドリング状態から離脱してエンジンEの回転駆動力により車両を駆動させる時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
【0080】
なお、走行中アイドリング状態に移行する状況としては、車両5が減速している状況が多い。このような状況では、走行中アイドリング状態から離脱して車両5を駆動させる際には、車速が小さい(特に、ゼロに近い)状態から駆動させる必要があるため、大きな駆動力が必要となる場合が多い。本実施形態においては、変速比(減速比)が最も大きい変速段である第一段が一方向伝達段として設定されているので、車速が小さい(特に、ゼロに近い)状態から車両5を駆動させる場合にも、入力軸I(エンジンE)の回転駆動力を減速して、大きな駆動力を応答性良く出力ギヤO(車輪6)に伝達することができる。
また、第一段は変速比(減速比)が大きいので、一般にアクセルオフした際にエンジンブレーキが効き過ぎてしまうことが多いことから、そのようなエンジンブレーキによるショックを低減するために当該第一段を実現するのにワンウェイクラッチを利用する場合がある。本実施形態では、そのような目的で設けられるワンウェイクラッチと、本発明における一方向伝達段を実現するためのワンウェイクラッチFとを共用させることができるので、特別な部品を追加することなく一方向伝達段を実現可能とすることができる。
【0081】
一方、上記の第一条件及び第二条件の一方又は双方が満たされていない場合には、切替制御部35は、走行中アイドリング状態で、変速装置TMの全ての係合要素を解放させるように制御する。すなわち、走行中アイドリング状態に移行される前の変速装置TMにおける変速段が、少なくとも前記第一係合要素の係合により実現される変速段以外の変速段である場合、又は、走行中アイドリング状態に移行させる前の車速センサSe2により取得される車速が、所定の解放閾値Vtより大きい場合には、切替制御部35は、変速装置TMの第一クラッチC1を含む全ての係合要素を解放して中立段を実現するように制御する。実施形態においては、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が第四段から第六段までのいずれかである場合に、切替制御部35は変速装置TMが中立段を実現するように制御する。このように、第一条件及び第二条件の一方又は双方が満たされていない場合には変速装置TMにおいて中立段を実現させることで、走行中アイドリング状態から離脱する時における変速装置TMの変速段の設定の自由度を高め、状況に応じた適切な対応を可能とすることができる。
【0082】
クラッチ再係合制御は、走行中アイドリング状態から離脱させる際に実行される制御処理である。このクラッチ再係合制御では、切替制御部35は、走行中アイドリング状態から離脱する際に変速装置TMにおける目標変速段を実現するべく、それぞれの目標変速段に対応する二つの係合要素を順次係合させる。本実施形態においては、走行中アイドリング状態では、変速装置TMにおける変速段は、上記のとおり一方向伝達段としての第一段、又は全ての係合要素を解放された中立段のいずれかが実現されている。
【0083】
ここで、変速装置TMにおいて第一段が実現されていた場合、すなわち走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が第一段から第三段までのいずれかであった場合には、既に第一係合要素としての第一クラッチC1が係合状態となっているので、切替制御部35は、目標変速段に対応する第一クラッチC1以外の係合要素を係合させるように制御することで、目標変速段を実現させる。
一方、変速装置TMにおいて中立段が実現されていた場合、すなわち走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が第四段から第六段までのいずれかであった場合には、切替制御部35は、第二係合要素としての第二クラッチC2を先に係合させた後、目標変速段に対応する第二クラッチC2以外の係合要素を係合させるように制御することで、目標変速段を実現させる。
【0084】
本実施形態においては、走行中アイドリング状態で中立段が実現されていた場合において、先に係合される第二クラッチC2は、入力軸Iの回転速度が予め設定された所定の係合開始回転数以上となったときに係合される。
【0085】
また、本実施形態においては、係合状態とされる二つの係合要素のうち、後に係合されることになる、第一クラッチC1又は第二クラッチC2以外の係合要素は、エンジン回転速度制御を行なった後に係合される。ここで、エンジン回転速度制御は、入力軸Iの回転速度が所定の目標回転速度となるようにエンジンEを制御する制御処理である。目標回転速度は、車両5の走行速度と走行中アイドリング状態から離脱する際の変速装置TMにおける目標変速段とに基づいて定まる。すなわち、車両5の走行速度と目標変速段のギヤ比とに基づいて、後に係合状態とされる係合要素において、互いに係合して連結される二つの部材(例えば、第三クラッチC3が係合される場合には遊星歯車装置P1のキャリアCA1と第一中間軸M1、第一ブレーキB1が係合される場合にはケース2と第二中間軸M2)間の相対回転速度がゼロ、又はゼロに極めて近い値となるように、入力軸Iの目標回転速度が定められる。本例では、このような目標回転速度は、車速センサSe2により取得される車速と目標変速段のギヤ比とに基づいて、目標回転速度決定部36が演算を行うことにより決定される。具体的には、目標回転速度決定部36は、車速から換算して出力ギヤOの回転速度を求め、出力ギヤOの回転速度に目標変速段の変速比を乗算して求めた回転速度を目標回転速度として決定する。そして、決定された目標回転速度に応じた回転速度指令値をエンジン制御部32が出力することにより、入力軸Iの回転速度が目標回転速度となるようにエンジンEが制御され、その後第一クラッチC1又は第二クラッチC2以外の係合要素が係合される。このように、エンジン回転速度制御により二つの回転要素が同期してから(回転速度が略等しくなってから)所定の係合要素を係合させるように制御することで、目標変速段が実現される際の変速ショックの発生を抑制することができる。
【0086】
なお、走行中アイドリング状態で第一段が実現されていた場合において、走行中アイドリング状態から離脱させる際の目標変速段が第四段から第六段のいずれかである場合には、切替制御部35は、第一クラッチC1が既に係合している状態で第三クラッチC3を係合させ、まず第三段を実現させる。その後、当該目標変速段に対応する二つの係合要素が係合状態となるように制御することで、第三段を経て目標変速段を実現させる。
また、走行中アイドリング状態で中立段が実現されていた場合において、走行中アイドリング状態から離脱させる際の目標変速段が第一段から第三段のいずれかである場合には、切替制御部35は、第二クラッチC2を係合させた後第一クラッチC1を係合させて、まず第四段を実現させる。その後、当該目標変速段に対応する二つの係合要素のうち、第一クラッチC1以外の係合要素が係合状態となるように制御することで、第四段を経て目標変速段を実現させる。
【0087】
また、走行中アイドリング状態から離脱させる際の当初の目標変速段が実現する前に、目標変速段が新たな変速段に変更された場合には、基本的には、切替制御部35は、エンジン回転速度制御を行なった後、後に係合されることになる係合要素を係合させて変更前の目標変速段を実現してから変更後の新たな目標変速段を実現させるように、各係合要素の係合状態の切り替えを行う。ただし、第一クラッチC1又は第二クラッチC2が先に係合された後に目標変速段が新たな変速段に変更された場合であって、目標変速段の変更パターンが所定の許容シフトパターンに該当する場合には、変更後の新たな目標変速段を早期に実現させるべく、例外的に、次に説明する変速遷移制御を行なう。
【0088】
変速遷移制御では、エンジン制御部32が目標回転速度に応じた回転速度指令値を出力するのを中止することによりエンジン回転速度制御が中止されるとともに、切替制御部35は、変更後の目標変速段を実現するべく変速装置TMにおける変更後の目標変速段に対応する係合要素を係合させる。ここで、許容シフトパターンは、先に係合される係合要素が共通でかつ後に係合される係合要素が異なる変速段間での変更であって、かつ、減速比の小さい変速段から減速比の大きい変速段への変更(ダウンシフト)に該当する変更パターンとされている。
【0089】
本実施形態においては、上記のとおり、先に係合される係合要素は第一係合要素としての第一クラッチC1又は第二係合要素としての第二クラッチC2である。そして、第一クラッチC1の係合により実現される変速段として、第一段、第二段、及び第三段を備えている。また、第二クラッチC2の係合により実現される変速段として、第四段、第五段、及び第六段を備えている。したがって、本例では、第一段から第三段までの間でのダウンシフト、及び第四段から第六段までの間でのダウンシフトが許容される変更パターンとなる。すなわち、第二段から第一段、第三段から第二段、第三段から第一段、第五段から第四段、第六段から第五段、及び第六段から第四段、の6パターンが許容シフトパターンに含まれる。
【0090】
また、本実施形態においては、第五段又は第六段から、第一段から第三段までのいずれかにダウンシフトする際には、上記のとおり第四段を経て目標変速段に移行する。よって、第五段から第一段、第五段から第二段、第五段から第三段、第六段から第一段、第六段から第二段、及び第六段から第三段、の6パターンが更に許容シフトパターンに含まれる。したがって、本例では合計12パターンの変更パターンが許容シフトパターンとして設定されていることになる。これらの許容シフトパターンは、許容シフトテーブル43としてメモリ41に格納されている。そして、走行中アイドリング状態から離脱させる際の当初の目標変速段が実現する前(具体的には、第一クラッチC1又は第二クラッチC2の係合後であって、かつ、後に係合される係合要素が完全に係合状態となる前)に、目標変速段が新たな変速段に変更された場合には、当該許容シフトテーブル43を参照して変速遷移制御を実行するか否かを判定することができるように構成されている。
【0091】
その際、切替制御部35は、先に係合された第一クラッチC1又は第二クラッチC2を係合状態に維持させたまま、後に係合させる係合要素を変更前の目標変速段に対応する係合要素から変更後の目標変速段に対応する係合要素に切り替えることにより、変更後の目標変速段を実現させる。本実施形態では、変更後の目標変速段に対応する所定の係合要素を係合させる際には、上述したエンジン回転速度制御は実行されない構成となっている。ここでは、油圧制御装置25を介して所定の指令信号に従った作動油が供給され、当該変更後の目標変速段に対応する所定の係合要素を係合させる。
【0092】
5.制御処理の手順
次に、本実施形態に係る車両用駆動装置1の制御の内容について説明する。図7は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の切替制御処理の全体の処理手順を示すフローチャートである。また、図8は、図7のステップ#06に係るクラッチ解放制御の処理手順を示すフローチャートである。図9は、図7のステップ#08に係るクラッチ再係合制御の処理手順を示すフローチャートである。以下に説明する車両用駆動装置1の制御処理の手順は、制御ユニット31の各機能部32〜37により実行される。制御ユニット31の各機能部32〜37がプログラムにより構成される場合には、制御ユニット31が備える演算処理装置は、上記の各機能部32〜37を構成するプログラムを実行するコンピュータとして動作する。
【0093】
5−1.切替制御処理の全体の手順
本実施形態に係る変速制御処理においては、まず、車速センサSe2からの出力信号を受けて車両5の走行速度(車速)が取得されるとともに(ステップ#01)、アクセル開度検出センサSe3からの出力信号を受けてアクセル開度が取得される(ステップ#02)。なお、これらの情報を取得する順序は問わない。次に、目標変速段決定部34は、取得された車速及びアクセル開度の情報と、メモリ41に格納された変速マップ42とに基づいて目標変速段を決定する(ステップ#03)。切替制御部35は、決定された目標変速段に基づき、各係合要素の動作を制御することにより変速装置TMの変速段を切り替え、通常変速制御を行う(ステップ#04)。また、所定の走行中アイドリング条件が成立して走行中アイドリング要求がオンとなったか否かが判定される(ステップ#05)。走行中アイドリング要求がオンではない、すなわちオフであると判定された場合には(ステップ#05:No)、再度ステップ#01に戻ってステップ#01からステップ#05までを繰り返す。
【0094】
一方、走行中アイドリング要求がオンであると判定された場合には(ステップ#05:Yes)、クラッチ解放制御が実行される(ステップ#06)。このクラッチ解放制御の詳細な処理手順については、図8のフローチャートに基づいて説明する。なお、走行中アイドリング要求がオンであると判定された後に、エンジン制御部32は、走行中アイドル状態におけるアイドリング制御を開始する。走行中アイドリング要求により走行中アイドリング状態に移行された状態で、次に前記走行中アイドリング条件が成立しなくなって走行中アイドリング要求がオフとなったか否かが判定される(ステップ#07)。そして、走行中アイドリング要求がオフとなったと判定されると(ステップ#07:Yes)、クラッチ再係合制御が実行される(ステップ#08)。なお、走行中アイドリング要求がオフとなったと判定された後に、エンジン制御部32は、走行中アイドル状態におけるアイドリング制御を終了して、エンジンEをトルク及び回転速度の動作点で動作させる制御を開始する。その後、再度ステップ#01に戻って、車両5の走行中はステップ#01からステップ#08までの処理が逐次繰り返し実行される。
【0095】
ここで、走行中アイドルリング要求がオンにされるか否かは、上記した所定の走行中アイドリング条件のように、少なくとも車速及びアクセル開度に基づいて判定される。例えば、車速が所定車速以上であって、アクセル開度が車速に応じて設定される上記した所定範囲内であること等が、走行中アイドルリング要求がオンにされる条件として定められている。
一方、走行中アイドルリング要求がオフにされるか否かは、上記した所定の走行中アイドリング条件のように、少なくとも車速及びアクセル開度に基づいて判定される。本例では、アクセル開度が車速に応じて設定される所定範囲外になったこと等が、走行中アイドルリング要求がオフにされる条件として定められている。
なお、上記したように、アクセル開度が所定範囲内になり、エンジンEの回転速度が所定のアイドル回転速度に近づいた時に、エンジン制御部32は、走行中であってもアイドリング制御を行う。
【0096】
5−2.クラッチ解放制御の処理手順
次に、ステップ#06に係るクラッチ解放制御の詳細な処理手順について説明する。クラッチ解放制御では、まず、第一条件及び第二条件の双方を満たすか否かが判定される。本実施形態においては、具体的には、エンジンEが走行中アイドリング状態に移行される際の変速段が第一段から第三段までのいずれかであったか否かが判定される(ステップ#21)。第一段から第三段までのいずれかであったと判定された場合には(ステップ#21:Yes)、切替制御部35は、第一クラッチC1以外の係合要素(例えば、第二段にあっては第一ブレーキB1、第三段にあっては第三クラッチC3)を解放させる(ステップ#22)。この状態で、エンジンEの回転により駆動される機械式ポンプ21が吐出する作動油の油圧により第一クラッチC1が係合状態に維持される。そして、第一クラッチC1の係合とワンウェイクラッチFとが協働して、一方向伝達段としての第一段が実現される。
【0097】
一方、第一段から第三段までのいずれでもなかった、すなわち第四段から第六段までのいずれかであったと判定された場合には(ステップ#21:No)、切替制御部35は、第一クラッチC1を含む全ての係合要素を解放させる(ステップ#23)。この状態で、中立段が実現される。このように、走行中アイドリング状態では、変速装置TMの変速段は、走行中アイドリング状態に移行された際の変速段に応じて第一段又は中立段が実現された状態に維持される(ステップ#24)。以上で、クラッチ解放制御を終了する。
【0098】
5−3.クラッチ再係合制御の処理手順
次に、ステップ#08に係るクラッチ再係合制御の詳細な処理手順について説明する。クラッチ再係合制御では、まず、走行中アイドリング状態における変速装置TMの変速段が第一段であるか否かが判定される(ステップ#41)。第一段であると判定された場合には(ステップ#41:Yes)、走行中アイドリング要求がオフとなったと判定された時の目標変速段が第一段であるか否かが判定される(ステップ#42)。目標変速段が第一段であると判定された場合には(ステップ#42:Yes)、既に第一段が実現されているので、クラッチ再係合制御は終了する。一方、目標変速段が第一段ではないと判定された場合には(ステップ#42:No)、第一クラッチC1以外の係合要素を係合させるため、後述するステップ#46の処理に進む。
【0099】
ステップ#41において、走行中アイドリング状態における変速装置TMの変速段が第一段ではない、すなわち中立段であると判定された場合には(ステップ#41:No)、入力軸回転速度センサSe1により入力軸Iの回転速度が取得される(ステップ#43)。また、取得された入力軸Iの回転速度が予め設定された所定の係合開始回転数以上であるか否かが判定される(ステップ#44)。そして、係合開始回転数以上となったときに(ステップ#44:Yes)、第二係合要素としての第二クラッチC2が、まず先に係合される(ステップ#45)。その後、第二クラッチC2以外の係合要素を係合させるため、次に述べるステップ#46の処理に進む。
【0100】
後に係合される、第一クラッチC1又は第二クラッチC2以外の係合要素を係合させるに際しては、まず、目標回転速度決定部36により入力軸Iの目標回転速度が決定される(ステップ#46)。目標回転速度決定部36による入力軸Iの目標回転速度の決定方法については既に説明したので、ここでは詳細な説明は省略する。また、入力軸回転速度センサSe1により入力軸Iの回転速度が取得される(ステップ#47)。そして、取得された入力軸Iの回転速度が、目標回転速度決定部36により決定された目標回転速度に略等しくなったか否か、すなわち同期したか否かが判定される(ステップ#48)。同期したと判定された場合には(ステップ#48:Yes)、切替制御部35は、目標変速段に対応する所定の係合要素を係合させて(ステップ#49)クラッチ再係合制御を終了する。
【0101】
一方、未だ同期していないと判定された場合には(ステップ#48:No)、目標変速段決定部34により車速及びアクセル開度に基づいて決定された目標変速段が変更されたか否かが判定される(ステップ#50)。目標変速段が変更されなかったと判定された場合には(ステップ#50:No)、再度ステップ#48に戻って、ステップ#48からステップ#50までの処理が逐次繰り返し実行される。一方、目標変速段が変更されたと判定された場合には(ステップ#50:Yes)、その目標変速段の変更パターンが所定の許容シフトパターンに該当するか否かが判定される(ステップ#51)。本例では、許容シフトパターンに該当するか否かは、メモリ41に格納された許容シフトテーブル43を参照して判定される。目標変速段の変更パターンが許容シフトパターンに該当しないと判定された場合には(ステップ#51:No)、切替制御部35は、変更前の目標変速段に対応する所定の係合要素を係合させて(ステップ#49)クラッチ再係合制御を終了する。なお、図示はしていないが、その後、変更後の目標変速段に対応する所定の係合要素を係合させて、変更後の目標変速段を実現させる。
【0102】
一方、目標変速段が変更されたと判定された場合であって(ステップ#50:Yes)、更にその目標変速段の変更パターンが許容シフトパターンに該当すると判定された場合には(ステップ#51:Yes)、変速遷移制御が実行される(ステップ#52)。この変速遷移制御の処理内容については既に説明したので、ここでは詳細な説明は省略する。以上で、クラッチ再係合制御を終了する。
【0103】
6.切替制御処理の具体例
次に、本実施形態に係る車両用駆動装置1による切替制御処理の具体例について説明する。図10〜図13は、本実施形態に係る切替制御処理の一例を説明するためのタイミングチャートである。図10は、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が第三速であって、走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段が第一段である場合の例を示している。図11は、走行中アイドリング状態に移行される際の変速段、及び走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段が、ともに第三段である場合の例を示している。図12は、走行中アイドリング状態に移行される際の変速段、及び走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段が、ともに第五段である場合の例を示している。図13は、走行中アイドリング状態に移行される際の変速段、及び走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段がともに第五段である場合において、第二クラッチC2が係合した後、入力軸Iの回転速度が目標回転速度に達する前に目標変速段が第五段から第四段に変更された場合の例を示している。なお、以下では、重複する記載を一部省略して説明している。
【0104】
まず、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が第三速であって、走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段が第一段である場合を例に挙げて説明する。図10に示すように、t01において走行中アイドリング要求がオンとなった際の変速段が第三速であった場合には、切替制御部35は、第一クラッチC1を係合状態に維持したままで第三クラッチC3に供給される油圧を徐々に減少させるように制御する。そして、t02において第三クラッチC3が完全に解放されることにより、走行中アイドリング状態で、変速装置TMで一方向伝達段としての第一段が実現される。そして、変速装置TMに一方向伝達段として第一段が実現されるため、出力ギヤOから入力軸Iへの回転駆動力の伝達が遮断される。よって、出力ギヤO(車輪6)の回転によるエンジンEの連れ回りがなくなり、エンジンEの回転速度は低下し、エンジンEは、アイドリング制御される状態に移行する。この走行中アイドリング状態では、エンジンEは回転しているため、機械式ポンプ21は回転駆動されており、所定油圧の作動油を吐出している。機械式ポンプ21の駆動により吐出された所定油圧の作動油は、油圧制御装置25を介して変速装置TMの第一クラッチC1に供給される。よって、走行中アイドリング状態においても、第一クラッチC1は係合状態に維持され、第一段が実現された状態に維持される。
【0105】
本例では、その後車両5が停止しているが、停車中においても一方向伝達段としての第一段が維持されている。そして、停車している間に目標変速段が第一段となり、その状態でt03においてアクセル開度の増加等により走行中アイドリング要求がオフとなったとする。この場合、上記のとおり走行中アイドリング状態では、既に変速装置TMにおいて第一段が実現されているので、走行中アイドリング状態から離脱した際に入力軸I(エンジンE)の回転駆動力が車輪6側に伝達される状態が早期に実現される。すなわち、走行中アイドリング状態から離脱する際の駆動力伝達の応答性が大幅に向上されている。なお、車両5が停止していない走行中の状態で、走行中アイドリング要求がオフとなる場合においても、同様に、駆動力伝達の応答性が大幅に向上される。また、走行中アイドリング要求がONになった後、車速がゼロになり停車するまでの期間が、走行中アイドリング状態において一方向伝達段としての第一段が実現される本発明の特徴的な挙動である。
【0106】
次に、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段、及び走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段が、ともに第三段である場合を例に挙げて説明する。図11に示すように、t12までの切替処理の流れについては、図10におけるt02までの切替処理の流れと同様である。ただし、本例では走行中アイドリング状態において車両5は一定の車速以上で走行を続け、目標変速段が第三段に維持されている点で、上記の図10の例とは異なっている。
【0107】
そして、目標変速段が第三段に維持された状態で、t13においてアクセル開度の増加等により走行中アイドリング要求がオフとなったとする。この場合、上記のとおり走行中アイドリング状態では、変速装置TMにおいて一方向伝達段としての第一段が実現されており、第一クラッチC1が係合状態に維持されているので、切替制御部35が第三クラッチC3を係合させるように制御するだけで、走行中アイドリング状態から離脱した際に入力軸I(エンジンE)の回転駆動力が車輪6側に伝達される状態が実現される。すなわち、第三クラッチC3のみを係合させるだけで目標変速段が実現されるので、この場合にも走行中アイドリング状態から離脱する際の駆動力伝達の応答性が向上されている。
第三クラッチC3を係合させる際には、t13からt14までの間、上述したエンジン回転速度制御が実行される。そして、t14において入力軸Iの回転速度が目標回転速度に略等しくなると、第三クラッチC3が完全に係合状態とされるとともに、エンジン回転速度制御は終了する。
【0108】
次に、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段、及び走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段が、ともに第五段である場合を例に挙げて説明する。図12に示すように、t21において走行中アイドリング要求がオンとなった際の変速段が第五速であった場合には、切替制御部35は、第二クラッチC2及び第三クラッチC3に供給される油圧を徐々に減少させるように制御する。そして、t22において第二クラッチC2及び第三クラッチC3が完全に解放されることにより、変速装置TMで中立段が実現される。そして、変速装置TMに中立段が実現されるため、出力ギヤOから入力軸Iへの回転駆動力の伝達が遮断される。よって、出力ギヤO(車輪6)の回転によるエンジンEの連れ回りがなくなり、エンジンEの回転速度は低下し、エンジンEは、アイドリング制御されている状態に移行する。この走行中アイドリング状態では、エンジンEは回転しているため、機械式ポンプ21は回転駆動されており、所定油圧の作動油を吐出している。よって、走行中アイドリング状態においても、走行中アイドリング状態から離脱した後、直ちに油圧制御装置25を介して変速装置TMの各クラッチに所定油圧の作動油を供給して各変速段が実現されることが可能な状態に維持される。
【0109】
その後、目標変速段が第五段に維持された状態で、t23において走行中アイドリング要求がオフとなったとする。この場合、上記のとおり走行中アイドリング状態で、変速装置TMにおいて中立段が実現されており、全ての係合要素が解放状態となっているので、切替制御部35は第二クラッチC2及び第三クラッチC3を順次係合させるように制御する。その際、第二クラッチC2が先に、第三クラッチC3が後に係合される。
第二クラッチC2は、t24において入力軸Iの回転速度が予め設定された所定の係合開始回転数以上となったときに係合される。また、第三クラッチC3を係合させるために、t23からt25までの間、上述したエンジン回転速度制御が実行される。そして、t25において入力軸Iの回転速度が目標回転速度に略等しくなると、第三クラッチC3が完全に係合状態とされるとともに、エンジン回転速度制御は終了する。
【0110】
次に、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段、及び走行中アイドリング状態から離脱される際の目標変速段がともに第五段である場合において、第二クラッチC2が係合した後、入力軸Iの回転速度が目標回転速度に達して第三クラッチC3が係合される前に目標変速段が第五段から第四段に変更された場合を例に挙げて説明する。図13に示すように、t34までの切替処理の流れについては、図12におけるt24までの切替処理の流れと同様である。ただし、本例では後に係合される第三クラッチC3が完全に係合状態となる前に目標変速段が第四段に変更されている点で、上記の図12の例とは異なっている。
【0111】
本例では、t35において目標変速段が第五段から第四段に変更されている。この第五段から第四段への変更パターンは、上述した許容シフトパターンに該当するので、t35以降はエンジン回転速度制御を中止して上述した変速遷移制御が実行される。すなわち、t35からt36にかけて、第五段が実現する前に第四段の実現へと移行させるべく、第二クラッチC2を係合状態に維持したまま、第三クラッチC3を解放するとともに第一クラッチC1を係合するように制御する。その際、第三クラッチC3に供給される作動油の油圧は、第三クラッチC3と第一クラッチC1との架け替えが行われた際に変速ショックが生じないように、一定の維持圧からt36に向かって徐々に上昇されてからゼロにされる。そして、t36において第一クラッチC1及び第二クラッチC2が完全に係合されるとともに、t37において第三クラッチC3が完全に解放されることにより、変更後の目標変速段である第四段が実現する。
【0112】
〔第二の実施形態〕
本発明の第二の実施形態について、図面を参照して説明する。図14は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の駆動伝達系の構成を示す模式図である。なお、この図14は、図2と同様に、軸対称の構成を一部省略して示している。また、油圧制御系の構成は第一の実施形態におけるものと同様であるので、ここでは油圧制御系は省略して示されている。この車両用駆動装置1の構成は、上記第一の実施形態における車両用駆動装置1から第一ブレーキB1を取り除いた構成に等しい。そして、この車両用駆動装置1は、第一ブレーキB1を備えていないことに起因して、変速装置TMが備える変速段の数が、上記第一の実施形態よりも少なくなっている。また、それに伴い、走行中アイドリング状態に移行される際に制御ユニット31の各機能部32〜37により実行される制御処理の内容が、上記第一の実施形態とは一部相違している。それ以外の構成に関しては、基本的には上記第一の実施形態と同様である。以下では、本実施形態に係る車両用駆動装置1及びこれを制御するための制御ユニット31について、上記第一の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0113】
図15は、本実施形態に係る各変速段での複数の係合要素の作動状態を示す作動表である。また、図16は、変速装置TMの速度線図である。これらの図において表された各種の記号及び記載は、図3及び図4におけるものと同様である。これらの図に示すように、本実施形態においては、変速装置TMは、複数の係合要素の作動状態を切り替えることにより、前進段として、第一段、第二段、第三段、及び第四段の四つの変速段を備えている。そして、第一の実施形態における車両用駆動装置1から第一ブレーキB1を取り除いた構成に等しいことに対応して、第一の実施形態における第二段及び第六段を備えていない。そして、本実施形態における第一段、第二段、第三段、及び第四段は、それぞれ第一の実施形態における第一段、三段、第四段、及び第五段に対応したものとなっている。なお、これに対応して、メモリ41に格納される変速マップ42も、図6に示すものとは異なるものとなっている(不図示)。
【0114】
これにより、本実施形態に係る変速装置TMは、少なくとも第一係合要素としての第一クラッチC1の係合により実現される変速段として、第一段、第二段及び第三段を備えている。また、変速装置TMは、少なくとも第二係合要素としての第二クラッチC2の係合により実現される変速段として、第三段及び第四段を備えている。なお、本実施形態においても、第一段が、第一クラッチC1の係合とワンウェイクラッチFとが協働して実現される一方向伝達段となっている。
【0115】
本実施形態においては、切替制御部35が走行中アイドリング状態で変速装置TMが第一段を実現するように制御するための条件として、以下の第一条件及び第二条件の双方を満たすことが設定されている。第一条件としては、走行中アイドリング状態に移行される前の変速装置TMにおける変速段が、少なくとも第一クラッチC1の係合により実現される変速段であることが設定されている。本例では、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が、第一段から第三段までのいずれかである場合に第一条件を満たすことになる。また、第二条件としては、走行中アイドリング状態に移行される前に車速センサSe2により取得される車速が、所定の解放閾値Vt以下であることが設定されている。本例では、所定の解放閾値Vtは、アクセル開度がゼロに近い状態で第三段から第二段へダウンシフトされる車速Vd’ (不図示)に等しい値に設定されている。なお、この解放閾値Vt(=Vd’)は、アクセル開度がゼロに近い状態で第一段から第二段へアップシフトされる車速Vu’よりも大きい値となっている。よって、本例では、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が、アクセル開度がゼロに近い状態で、第一段又は第二段である場合に第二条件を満たすことになる。したがって、本実施形態においては、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が第一段又は第二段である場合に、切替制御部35は変速装置TMが一方向伝達段としての第一段を実現するように制御する。
【0116】
本実施形態においても、この一方向伝達段は、出力ギヤOから入力軸Iへの回転駆動力は伝達しないため、走行中アイドリング状態におけるエンジンEの引きずり(入力軸Iに伴うエンジンEの連れ回り)が回避される。これにより、走行中アイドリング状態において、エンジンEの引きずりによるエネルギ損失が抑制された状態で、車輪6から伝達される回転駆動力を利用して回転電機MGに回生制動を行わせることができるので、回転電機MGによる回生効率を向上させることができる。
一方、一方向伝達段は、入力軸Iから出力ギヤOへの回転駆動力は伝達するため、走行中アイドリング状態から離脱して車両5を駆動させる際に、速やかにエンジンEの回転駆動力を、入力軸Iを介して出力ギヤO(車輪6)に伝達することができる。したがって、本実施形態に係る車両用制御装置を備えた車両駆動システムでも、走行中アイドリング状態の回転電機MGの回生効率を向上させつつ、走行中アイドリング状態から離脱する時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
【0117】
一方、上記の第一条件及び第二条件の一方又は双方が満たされていない場合には、切替制御部35は、走行中アイドリング状態で、変速装置TMの全ての係合要素を解放させる。具体的には、走行中アイドリング状態に移行される前の変速段が第三段又は第四段である場合に、切替制御部35は、変速装置TMの第一クラッチC1を含む全ての係合要素を解放して中立段を実現するように制御する。このように、第一条件及び第二条件の一方又は双方が満たされていない場合には変速装置TMにおいて中立段を実現させることで、走行中アイドリング状態から離脱する時における変速装置TMの変速段の設定の自由度を高め、状況に応じた適切な対応を可能とすることができる。
【0118】
また、本実施形態においても、走行中アイドリング状態から離脱する時には、第一係合要素としての第一クラッチC1又は第二係合要素としての第二クラッチC2が先に係合される。ただし、本実施形態においては、第一の実施形態とは異なり、第一クラッチC1の係合により実現される変速段として、第一段、第二段及び第三段を備えている。また、第二クラッチC2の係合により実現される変速段として、第三段及び第四段を備えている。したがって、本例では、第一段と第二段との間でのダウンシフト、及び第三段と第四段との間でのダウンシフトが許容される変更パターンとなる。すなわち、第二段から第一段、及び第四段から第三段、の2パターンが許容シフトパターンに含まれる。また、本実施形態においては、第四段から、第一段又は第二段にダウンシフトする際には、まず第三段を実現させてから目標変速段に移行するように制御される。よって、第四段から第一段、及び第四段から第二段、の2パターンが更に許容シフトパターンに含まれる。したがって、本例では合計4パターンの変更パターンが許容シフトパターンとして設定されることになる。
【0119】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の各実施形態においては、第一条件及び第二条件を設定し、これら双方の条件を満たす場合に切替制御部35が走行中アイドリング状態で変速装置TMが一方向変速段としての第一段を実現するように制御する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えばそのような条件を設定することなく、切替制御部35が、走行中アイドリング状態では変速装置TMが無条件に一方向変速段としての第一段を実現するように制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0120】
(2)また、第一条件のみを設定し、当該第一条件を満たす場合に切替制御部35が、走行中アイドリング状態で変速装置TMが一方向変速段としての第一段を実現するように制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、上記第一の実施形態では、走行中アイドリング状態に移行される前の変速装置TMにおける変速段が第一段から第四段までのいずれかである場合に、切替制御部35は一方向変速段としての第一段を実現するように制御する。また、上記第二の実施形態では、走行中アイドリング状態に移行される前の変速装置TMにおける変速段が第一段から第三段までのいずれかである場合に、切替制御部35は一方向変速段としての第一段を実現するように制御する。
【0121】
(3)或いは、第二条件のみを設定し、当該第二条件を満たす場合に切替制御部35が走行中アイドリング状態で変速装置TMが一方向変速段としての第一段を実現するように制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合において、所定の解放閾値Vtの大きさは適宜設定することができる。例えば、上記第一の実施形態において、所定の解放閾値Vtを、アクセル開度がゼロに近い状態で第二段から第三段へアップシフトされる車速Vu以上、アクセル開度がゼロに近い状態で第四段から第三段へダウンシフトされる車速Vd未満、の任意の値に設定することも、本発明の好適な実施形態の一つである。第二の実施形態においても同様である。
【0122】
(4)上記の各実施形態においては、走行中アイドリング状態で、変速装置TMの全ての係合要素が解放されて中立段が実現される場合には、エンジンEはアイドリング制御される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMの全ての係合要素を解放させた状態で、走行中アイドリング状態に代えて、車両5が走行している状態であってかつエンジンEが停止される走行中アイドル停止状態にする構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
変速装置TMの全ての係合要素を解放させた状態では、変速装置TMの係合要素を係合させるための所定油圧の作動油を供給する必要がないため、車両5の走行中であってもエンジンEを停止させることが可能となる。よって、上記のように構成しても、このエンジンEを停止可能な状態で、エンジンEを停止させることにより、エンジンの燃焼消費が抑制される。
またこの場合、走行中アイドル要求がオフになり、走行中アイドル停止状態から離脱する時に、制御ユニット31は、スタータ13を駆動させてエンジンEを始動させる。そして、エンジンEの始動後、制御ユニット31は、上記した走行中アイドリング状態から離脱する際に行なうクラッチ再係合制御等を行う。
また、車両用駆動装置1は、機械式ポンプ21に加えて、機械式ポンプ21の動作停止中に油を吐出する電動ポンプを、変速装置TMの複数の係合要素に油圧を供給可能に備えるようにしても好適である。走行中アイドル停止状態では、エンジンEの回転が停止され、機械式ポンプ21の動作が停止している状態となるため、この間の油圧供給を電動ポンプにより行うことができる。なお、制御ユニット31は、この走行中アイドル停止状態で変速装置TMの全ての係合要素が解放される場合には、電動ポンプを非駆動状態としても好適である。
変速装置TMの全ての係合要素が解放される場合には、変速装置TMの係合要素を係合させるための所定油圧の作動油を供給する必要がない。よって、機械式ポンプ21の動作停止中に油を吐出する電動ポンプが備えられている車両用駆動装置1においても、走行中アイドル停止状態で変速装置TMの全ての係合要素が解放される場合には、電動ポンプを非駆動状態とすることで、電動ポンプの駆動時間を短縮して、電動ポンプの寿命を延ばすことができるとともに、電動ポンプ駆動用のバッテリ電力を節約することができる。
【0123】
(5)上記の各実施形態においては、変速比(減速比)が最も大きい変速段である第一段が、一方向伝達段として設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、例えば変速比(減速比)が二番目に大きい変速段である第二段を一方向伝達段として設定する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、上記第一の実施形態において、例えば一方向クラッチとしてのワンウェイクラッチFにより、第二中間軸M2が負回転したときにのみ係合状態となって、第二中間軸M2及び第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2を選択的にケース2に固定して停止させる構成とすることができる。この場合、第一段を第一クラッチC1の係合と第二ブレーキB2の係合との協働により実現するとともに、第二段を第一クラッチC1の係合とワンウェイクラッチFとの協働により実現する構成とすることができる。
【0124】
(6)上記の各実施形態においては、走行中アイドリング状態から離脱する時に変速装置TMにおいて係合状態とされる二つの係合要素のうち、後に係合されることになる第一クラッチC1又は第二クラッチC2以外の係合要素が、エンジン回転速度制御を行なった後に係合される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、このようなエンジン回転速度制御を実行することなく後に係合される係合要素を係合させる構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、後に係合される係合要素には油圧制御装置25を介して所定の指令信号に従った作動油が供給され、予備充填相、トルク相、及びイナーシャ相を経て目標変速段を実現させる構成とすることができる。
【0125】
(7)上記の各実施形態においては、走行中アイドリング状態から離脱させる際の当初の目標変速段が実現する前に、目標変速段が新たな変速段に変更された場合であって、目標変速段の変更パターンが所定の許容シフトパターンに該当する場合には、切替制御部35が変速遷移制御を実行する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、そのような許容シフトパターンを設定せず、変速遷移制御を実行しない構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、切替制御部35は、後に係合されることになる係合要素を係合させて変更前の目標変速段を実現させ、当該変更前の目標変速段を経た後に変更後の新たな目標変速段を実現させるように各係合要素の係合状態の切り替えを行うように構成することができる。
【0126】
(8)上記の各実施形態においては、走行中アイドリング状態で変速装置TMにおいて中立段が実現されていた場合に、走行中アイドリング状態から離脱させる際には、切替制御部35は、第二係合要素としての第二クラッチC2を先に係合させた後、目標変速段に対応する第二クラッチC2以外の係合要素を係合させるように制御する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、目標変速段に対応する第二クラッチC2以外の係合要素を先に係合させた後、第二係合要素としての第二クラッチC2を係合させるように制御する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
具体的には、例えば上記第一の実施形態において、走行中アイドリング状態から離脱する時における目標変速段が第四段である場合には第一クラッチC1、第二クラッチC2の順に係合させ、第五段である場合には第三クラッチC3、第二クラッチC2の順に係合させ、第六段である場合には第一ブレーキB1、第二クラッチC2の順に係合させても良い。第一クラッチC1、第三クラッチC3、及び第一ブレーキB1の係合により、ケース2に固定され、或いは互いに一体回転することになる第一遊星歯車装置P1のキャリアCA1、第一中間軸M1、及び第二中間軸M2は、全ての係合要素が解放状態とされて中立段が実現された状態では、いずれも空転した状態となっている。よって、第一クラッチC1、第三クラッチC3、及び第一ブレーキB1のいずれかを先に係合させる構成とすれば、許容シフトパターンの数は減少するものの、これらを係合させる際の係合ショックの発生を防止することができるという利点がある。
【0127】
(9)上記の各実施形態においては、変速装置TMが三つの回転要素を有して構成されたシングルピニオン型の第一遊星歯車装置P1と、四つの回転要素を有して構成されたラビニヨ型の第二遊星歯車装置P2と、を組み合わせて構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMの内部の具体的構成は適宜変更することが可能である。例えば、第二遊星歯車装置P2のみを備えて変速装置TMを構成することや、ダブルピニオン型の遊星歯車装置とラビニヨ型の遊星歯車装置P2とを組み合わせて変速装置TMを構成すること、或いは、シングルピニオン型又はダブルピニオン型の遊星歯車装置を三つ以上組み合わせて変速装置TMを構成すること等も、本発明の好適な実施形態の一つである。
【0128】
(10)上記第一の実施形態においては、変速装置TMが変速比(減速比)の異なる六つの変速段を備えている場合を例として説明した。また、上記第二の実施形態においては、変速装置TMが変速比(減速比)の異なる四つの変速段を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMが備える変速段の段数は、二段以上であれば任意に設定することができる。
【0129】
(11)上記の各実施形態においては、制御ユニット31が、車両用駆動装置1が備える出力ギヤOが車両5の前輪に駆動連結されるとともに、駆動力を出力可能な回転電機MGの出力軸が車両5の後輪に駆動連結された構成の四輪駆動(4WD、4-wheel drive)方式の車両駆動システムを制御するように構成された場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、車両用駆動装置1が備える出力ギヤOが車両5の後輪に駆動連結されるとともに、駆動力を出力可能な回転電機MGの出力軸が車両5の前輪に駆動連結された構成の車両駆動システムを制御するように構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、回転電機MGの出力軸が、車両用駆動装置1が備える出力ギヤOに駆動連結された構成としても良い。これらの場合であっても、上記の各実施形態における場合と同様に、走行中アイドリング状態の回転電機MGの回生効率を向上させつつ、走行中アイドリング状態から離脱する時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
【0130】
(12)また、制御ユニット31が、車両用駆動装置1のみを備え、回転電機MGを備えずに構成された車両5を制御するように構成することも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合であっても、走行中アイドリング状態のエンジンの引きずりを回避しつつ、走行中アイドリング状態から離脱する時における駆動力伝達の応答性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、入力部材の回転駆動力を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置、及びそのような制御装置により制御される車両用駆動装置を備えた車両駆動システムに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 車両用駆動装置
6 車輪
21 機械式ポンプ
31 制御ユニット(車両用制御装置)
32 エンジン制御部(制御手段)
33 回転電機制御部(制御手段)
34 目標変速段決定部(制御手段)
35 切替制御部(制御手段)
36 目標回転速度決定部(制御手段)
37 電動モータ駆動制御部(制御手段)
E エンジン
MG 回転電機
I 入力軸(入力部材)
O 出力ギヤ(出力部材)
TM 変速装置
P1 第一遊星歯車装置
S1 サンギヤ(第一回転要素)
CA1 キャリア(第二回転要素)
R1 リングギヤ(第三回転要素)
P2 第二遊星歯車装置
S2 第一サンギヤ(第一回転要素)
CA2 キャリア(第二回転要素)
R2 リングギヤ(第三回転要素)
S3 第二サンギヤ(第四回転要素)
B1 第一ブレーキ(係合要素)
B2 第二ブレーキ(係合要素)
C1 第一クラッチ(係合要素、第一係合要素)
C2 第二クラッチ(係合要素、第二係合要素)
C3 第三クラッチ(係合要素)
F ワンウェイクラッチ(係合要素、一方向クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、
複数の係合要素を有し、前記複数の係合要素の係合及び解放が制御されることにより複数の変速段が切り替えられ、前記入力部材の回転駆動力を各変速段の変速比で変速して前記出力部材に伝達する変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御するための車両用制御装置であって、
前記変速装置は、前記複数の変速段の一つとして、前記入力部材から前記出力部材への回転駆動力は伝達し、前記出力部材から前記入力部材への回転駆動力は伝達しない変速段である一方向伝達段を備え、
車両が走行している状態であってかつ前記入力部材の回転駆動力が前記出力部材に伝達されず前記エンジンの回転速度が所定のアイドル回転数に制御されている状態である走行中アイドリング状態で、前記変速装置が前記一方向伝達段を実現するように制御する制御手段を備えた車両用制御装置。
【請求項2】
前記変速装置は、
係合した状態で前記入力部材の回転駆動力を当該変速装置が有する複数の回転要素のうちの一つに伝達する第一係合要素と、
前記第一係合要素が係合した状態で、前記入力部材から前記出力部材への回転駆動力が伝達される状態となり、前記出力部材から前記入力部材への回転駆動力が伝達されない状態となる一方向クラッチと、を備え、
前記一方向伝達段は、前記第一係合要素の係合と前記一方向クラッチとが協働して実現される請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記走行中アイドリング状態に移行する前の前記変速装置における変速段が、少なくとも前記第一係合要素の係合により実現される変速段である場合には、前記制御手段は、前記走行中アイドリング状態で前記第一係合要素を係合させて前記一方向伝達段を実現させ、
前記走行中アイドリング状態に移行する前の前記変速装置における変速段が、少なくとも前記第一係合要素の係合により実現される変速段以外の変速段である場合には、前記制御手段は、前記走行中アイドリング状態で前記変速装置の全ての係合要素を解放させる請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記走行中アイドリング状態に移行する前の車両の走行速度が所定の解放閾値以下である場合には、前記制御手段は、前記走行中アイドリング状態で前記第一係合要素を係合させて前記一方向伝達段を実現させ、
前記走行中アイドリング状態に移行する前の車両の走行速度が所定の解放閾値より大きい場合には、前記走行中アイドリング状態で前記変速装置の全ての係合要素を解放させる請求項2又は3に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記一方向伝達段は、前進用変速段の中で前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が最も大きい変速段である請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
車両の走行中に、前記走行中アイドリング状態から、前記入力部材の回転駆動力を前記出力部材に伝達する通常状態に復帰するとき、
前記制御手段は、前記入力部材の回転速度が、車両の走行速度と前記変速装置における目標変速段とに基づいて定まる目標回転速度となるように制御するエンジン回転速度制御を行なってから、前記変速装置における所定の係合要素を係合させる請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記エンジン回転速度制御中に、前記入力部材の回転速度が前記目標回転速度となる前に、前記変速装置における目標変速段が変更された場合において、
前記目標変速段の変更パターンが予め定められた許容シフトパターンに該当しない場合には、前記制御手段は、前記エンジン回転速度制御を行なって変更前の前記目標変速段を実現させた後に、変更後の前記目標変速段を実現させ、
前記目標変速段の変更パターンが前記許容シフトパターンに該当する場合には、前記制御手段は、前記エンジン回転速度制御を中止するとともに変更前の前記目標変速段の実現を中止して、変更後の前記目標変速段を実現させる請求項6に記載の車両用制御装置。
【請求項8】
前記変速装置における各変速段が二つの前記係合要素の係合により実現される場合において、
前記許容シフトパターンは、先に係合される前記係合要素が共通でかつ後に係合される前記係合要素が異なる変速段間での変更であって、かつ、減速比の小さい変速段から減速比の大きい変速段への変更に該当する変更パターンである請求項7に記載の車両用制御装置。
【請求項9】
前記変速装置は、
係合した状態で前記入力部材の回転駆動力を当該変速装置が有する複数の回転要素のうちの一つに伝達する第一係合要素と、
前記第一係合要素が係合した状態で、前記入力部材から前記出力部材への回転駆動力が伝達される状態となり、前記出力部材から前記入力部材への回転駆動力が伝達されない状態となる一方向クラッチと、を備え、
前記一方向伝達段は、前記第一係合要素の係合と前記一方向クラッチとが協働して実現され、
前記変速装置は、前記第一係合要素を含む複数の係合要素の中のいずれか二つを選択的に係合することにより複数の変速段を切り替え可能に備えるとともに、少なくとも前記第一係合要素とは異なる第二係合要素が係合されることにより実現される変速段を有し、
前記エンジンが前記走行中アイドリング状態に移行する前の前記変速装置における変速段が、前記第二係合要素が係合されることにより実現される変速段である場合には、前記制御手段は、前記通常状態に復帰する際に、二つの係合要素のうち前記第二係合要素を先に係合させる請求項6から8のいずれか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項10】
前記変速装置の全ての係合要素を解放させた状態で、前記走行中アイドリング状態に代えて、車両が走行している状態であってかつ前記エンジンが停止される走行中アイドル停止状態とする請求項1から9のいずれか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項11】
前記エンジンの回転駆動力により駆動されて油を吐出する機械式ポンプと、前記機械式ポンプの動作停止中に油を吐出する電動ポンプとを、複数の前記係合要素に油圧を供給可能に備え、
前記走行中アイドル停止状態で前記変速装置の全ての係合要素が解放される場合には、前記制御手段は前記電動ポンプを非駆動状態とする請求項10に記載の車両用制御装置。
【請求項12】
前記変速装置は、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、及び第三回転要素となる三つの回転要素を有する第一遊星歯車装置と、回転速度の順に第一回転要素、第二回転要素、第三回転要素及び第四回転要素となる四つの回転要素を有する第二遊星歯車装置を備え、
前記第一遊星歯車装置の第一回転要素は非回転部材に固定され、第二回転要素は第一係合要素を介して前記第二遊星歯車装置の第四回転要素に選択的に駆動連結され、第三回転要素は前記入力部材に駆動連結され、
前記第二遊星歯車装置の第二回転要素は、非回転部材に対して負回転となるときに係合状態となって回転が阻止される一方向クラッチを介して当該非回転部材に選択的に固定され、第三回転要素は前記出力部材に駆動連結されている請求項1から11のいずれか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項13】
前記第一遊星歯車装置の第二回転要素が、更に前記第二遊星歯車装置の第一回転要素に選択的に駆動連結されるとともに、
前記第二遊星歯車装置の第二回転要素が、更に第二係合要素を介して前記入力部材に選択的に駆動連結される請求項12に記載の車両用制御装置。
【請求項14】
前記第二遊星歯車装置の第一回転要素が、更に非回転部材に選択的に固定される請求項13に記載の車両用制御装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の車両用制御装置により制御される車両用駆動装置が備える前記出力部材が、車両の前輪及び後輪のいずれか一方に駆動連結されるとともに、
駆動力を出力可能な回転電機の出力軸が、車両の前輪及び後輪のいずれか他方に駆動連結された車両駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−202737(P2011−202737A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70436(P2010−70436)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】