説明

車両用制御装置

【課題】車両の旋回段階に応じて旋回特性を変化させることができる車両用制御装置を提供すること。
【解決手段】操舵角の時間微分値に基づく第2条件判断手段により第2条件を満たすと判断され、かつ、操舵角に基づく第1条件判断手段により第1条件を満たすと判断される場合に、キャンバ角調整装置を作動させて車輪の内の少なくとも旋回外輪のキャンバ角を第1キャンバ角に調整する。ここで、操舵角は車両が旋回状態にあるかを検出することができ、操舵角の時間微分値は操舵角速度であるから、いずれも運転者の旋回に係る操作を直接的に反映したものであり、運転者の操作に基づく車両の旋回段階を反映している。このように、第1条件と第2条件の二つの条件に基づいて車輪のキャンバ角が調整されることにより、車両の旋回特性を旋回段階に応じて変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置を備えた車両に用いられる車両用制御装置に関し、特に、車両の旋回段階に応じて旋回特性を変化させることができる車両用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の走行状態に応じて車輪のキャンバ角を調整することで、車両の走行安定性を確保する技術が知られている。この種の技術に関し、例えば特許文献1には、車両が所定の速度以上で走行するときにネガティブキャンバを車輪に付与することで、車両の限界走行性能を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−193781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、車両が旋回するときは、旋回段階に応じて異なる旋回特性が要求される。即ち、旋回の初期から中期の段階(旋回開始から操舵角がピークを超えるあたり)にかけては操舵応答性が良いことが要求され、旋回の終期の段階(操舵角が0に近づくあたり)では安定性が良く、車両の向きを旋回後の直進の進行方向に早く向けられることが要求される。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、車両が旋回状態にあるか否かに関わらず、車両の速度に基づいてネガティブキャンバを付与するので、車両の旋回特性を旋回段階に応じて変えることができず、必要な旋回性能が得られないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両の旋回特性を旋回段階に応じて変えることができる車両用制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載の車両用制御装置によれば、第2条件判断手段により操舵角の時間微分値に基づく第2条件を満たすと判断され、かつ、第1条件判断手段により操舵角に基づく第1条件を満たすと判断される場合に、第1キャンバ角調整手段により、キャンバ角調整装置を作動させて車輪の内の少なくとも旋回外輪のキャンバ角が第1キャンバ角に調整される。ここで、操舵角を取得することにより車両が旋回状態にあるかを検出することができる。また、操舵角の時間微分値(操舵角速度)は運転者の旋回に係る操作を直接的に反映したものであるから、操舵角および操舵角の時間微分値は、運転者の操作に基づく車両の旋回段階を反映したものである。このように、運転者の操作に直接的に依存する第1条件と第2条件の二つの条件に基づいて車輪のキャンバ角が調整されることにより、車両の旋回特性を旋回段階に応じて変えることができる効果がある。
【0008】
請求項2記載の車両用制御装置によれば、第1キャンバ角は、車両が直進走行をするときのキャンバ角の所定角と異なる角度であるので、第1キャンバ角調整手段により車輪のキャンバ角を調整することで生じるキャンバスラストの大きさや向きを、車両が直進走行をするときに車輪に生ずるキャンバスラストの大きさや向きと異ならせることができる。これにより、請求項1記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、車両の車幅方向に生じるキャンバスラストにより、車両が旋回するときの走行安定性を向上できる効果がある。
【0009】
請求項3記載の車両用制御装置によれば、第1キャンバ角調整手段は、第1条件判断手段により第1条件を満たすと判断された後、第2条件判断手段により第2条件を満たすと判断される場合に、車輪のキャンバ角を第1キャンバ角に調整するので、請求項1又は2に記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、運転者の癖に左右されることなく、任意の旋回段階における車輪のキャンバ角を調整することができ、確実性を向上できる効果がある。
【0010】
即ち、第2条件判断手段は操舵角の時間微分値(操舵角速度)に基づいて判断するものであり、中には操舵角速度が異常に速いという癖のある運転者もいるため、第2条件判断手段による判断を第1条件判断手段による判断より先行した場合は、運転者によっては設定された旋回段階以外でキャンバ角が調整されるおそれがある。これに対し、操舵角は車両が旋回状態にあることを直接的に反映しているので、第1条件判断手段による判断を第2条件判断手段による判断より先行することで、設定された旋回段階以外でキャンバ角が調整されることを防止できる。
【0011】
請求項4記載の車両用制御装置によれば、第1条件判断手段により第1条件を満たすと判断され、かつ、第2条件判断手段により第2条件を満たすと判断される以外は、第2キャンバ角調整手段によりキャンバ角調整装置を作動させてキャンバ角を、車両が直進走行をするときのキャンバ角の所定角と同一乃至は第1キャンバ角よりも所定角に近い第2キャンバ角に調整するので、請求項1から3のいずれかに記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、第2キャンバ角に調整されることで車輪に生じるキャンバスラストを抑制し、操舵応答性を向上できる効果がある。
【0012】
請求項5記載の車両用制御装置によれば、第1条件判断手段は、操舵角の絶対値が第1閾値以上であると判断されてから第2閾値以下であると判断されるまで第1条件を満たすと判断するものであるから、車両の旋回半径が小さく、操舵角が第1閾値以上に大きくなってから第2閾値より小さくなると判断されるまで第1条件を満たすと判断される。一方、第2条件判断手段は、操舵角の絶対値の時間微分値が負の所定値以下であると判断される場合に第2条件を満たすと判断するものであるから、操舵角を0に戻すときに第2条件を満たすと判断される。従って、第1条件と第2条件の両方を満たすのは、旋回の終期段階である。
【0013】
ここで、旋回の終期段階は、車両の向きを旋回後の直進の進行方向に早く向けられることが要求されるところ、車輪のキャンバ角を第1キャンバ角に調整するので、請求項1から4のいずれかに記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、旋回の終期段階において車両を安定したアンダーステア傾向にすることができ、車両の走行安定性を向上させて、車両を直進の進行方向に早く向けることができる効果がある。
【0014】
請求項6記載の車両用制御装置によれば、キャンバ角調整装置は車輪の内の後輪に配設され、第1キャンバ角調整手段は後輪のキャンバ角を調整するので、請求項1から5のいずれかに記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、車両の装置構成を簡素化することができる効果がある。
【0015】
請求項7記載の車両用制御装置によれば、第1キャンバ角は、車両が直進走行をするときのキャンバ角の所定角からネガティブ方向に変化した角度であるので、第1キャンバ角調整手段により車輪のキャンバ角が第1キャンバ角に調整されることにより、旋回中心方向のキャンバスラストを旋回外輪に発生させることができる。これにより、請求項1から6のいずれかに記載の車両用制御装置の奏する効果に加え、旋回のときに車両前側が旋回円の外側に膨らむことを防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の正面図である。
【図3】車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】キャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図5】(a)は車両の時間と操舵角の絶対値との関係を示す模式図であり、(b)は時間と操舵角の絶対値の時間微分値との関係を示す模式図であり、(c)は時間とキャンバ角との関係を示す模式図である。
【図6】第2実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図7】懸架装置の正面図である。
【図8】車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図9】キャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
【0018】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の後輪2RL,2RR)を車体フレームBFに懸架する複数の懸架装置4及び複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を車体フレームBFに懸架する複数の懸架装置40と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵する操舵装置5とを主に備えて構成されている。
【0019】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRとを備えている。なお、本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成されている。また、車輪2は、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRが全て同じ形状、外径および特性に構成されている。なお、左右の後輪2RL,2RRを車体フレームBFに回転可能に支持するシャフト(車軸)及び後輪2RL,2RRを駆動する車輪駆動装置の図示は省略している。
【0020】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図3参照)。また、電動モータ3aは、図1に示すように、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31(車軸)を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
【0021】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
【0022】
懸架装置4,40は、路面から車輪2を介して車体フレームBFに伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、伸縮可能に構成され、図1に示すように、懸架装置4は左右の後輪2RL,2RRに、懸架装置40は左右の前輪2FL,2FRにそれぞれ設けられている。また、本実施の形態における懸架装置4は、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構としての機能を兼ね備えている。
【0023】
ここで、図2を参照して、懸架装置4の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置4の正面図である。なお、ここでは、キャンバ角調整機構として機能する構成のみについて説明し、サスペンションとして機能する構成については周知の構成と同様であるので、その説明を省略する。また、各懸架装置4の構成は、左右の後輪2RL,2RRにおいてそれぞれ共通であるので、右の後輪2RRに対応する懸架装置4を代表例として図2に図示する。但し、図2では、理解を容易とするためにドライブシャフト31等の図示が省略されている。
【0024】
懸架装置4は、図2に示すように、ストラット41及びロアアーム42を介して車体フレームBFに支持されるナックル43と、駆動力を発生するRRモータ44RRと、そのRRモータ44RRの駆動力を伝達するウォームホイール45及びアーム46と、それらウォームホイール45及びアーム46から伝達されるRRモータ44RRの駆動力によりナックル43に対して揺動駆動される可動プレート47とを主に備えて構成されている。
【0025】
ナックル43は、車輪2を操舵可能に支持するものであり、図2に示すように、上端(図2上側)がストラット41に連結されると共に、下端(図2下側)がボールジョイントを介してロアアーム42に連結されている。RRモータ44RRは、可動プレート47に揺動駆動のための駆動力を付与するものであり、DCモータにより構成され、その出力軸44aにはウォーム(図示せず)が形成されている。ウォームホイール45は、RRモータ44RRの駆動力をアーム46に伝達するものであり、RRモータ44RRの出力軸44aに形成されたウォームに噛み合い、かかるウォームと共に食い違い軸歯車対を構成している。
【0026】
アーム46は、ウォームホイール45から伝達されるRRモータ44RRの駆動力を可動プレート47に伝達するものであり、図2に示すように、一端(図2右側)が第1連結軸48を介してウォームホイール45の回転軸45aから偏心した位置に連結される一方、他端(図2左側)が第2連結軸49を介して可動プレート47の上端(図2上側)に連結されている。可動プレート47は、車輪2を回転可能に支持するものであり、上述したように、上端(図2上側)がアーム46に連結される一方、下端(図2下側)がキャンバ軸50を介してナックル43に揺動可能に軸支されている。
【0027】
上述したように構成される懸架装置4によれば、RRモータ44RRが駆動されると、ウォームホイール45が回転すると共に、ウォームホイール45の回転運動がアーム46の直線運動に変換される。その結果、アーム46が直線運動することで、可動プレート47がキャンバ軸50を揺動軸として揺動駆動され、車輪2のキャンバ角が調整される。
【0028】
なお、本実施の形態では、各連結軸48,49及びウォームホイール45の回転軸45aが、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(矢印R方向)において、第1連結軸48、回転軸45a、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第1キャンバ状態と、回転軸45a、第1連結軸48、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第2キャンバ状態(図2に示す状態)とのいずれか一方のキャンバ状態となるように車輪2のキャンバ角が調整される。
【0029】
これにより、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ状態若しくは第2キャンバ状態に調整された状態では、車輪2に外力が加わったとしても、アーム46を回動させる方向の力は発生せず、車輪2のキャンバ角を維持することができる。また、本実施の形態では、第1キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角がマイナス方向の所定の角度(本実施の形態では−4.5°、以下「第1キャンバ角」と称す)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される。一方、第2キャンバ状態(図2に示す状態)では、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角より絶対値が小さく、第1キャンバ角よりポジティブ方向の所定の角度(本実施の形態では−1.5°、以下「第2キャンバ角」と称す)の定常角に調整される。
【0030】
なお、懸架装置40は、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角を調整する機能が省略されている点(即ち、図2に示す懸架装置4において、RRモータ44RRによる伸縮機能が省略されている点)を除き、その他の構成は懸架装置4と同じ構成であるので、その説明を省略する。即ち、後輪2RL,2RRのキャンバ角は第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整可能であるが、前輪2FL,2FRはキャンバ角の調整ができない構成とされている。
【0031】
図1に戻って説明する。操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を左右の前輪2FL,2FRに伝えて操舵するための装置であり、いわゆるラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成されている。この操舵装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達され、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつステアリングボックス53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動する。その結果、タイロッド54がナックル55を押し引きすることで、前輪2FL,2FR(車輪2)に所定の舵角が付与される。
【0032】
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3が駆動制御される。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(ステア角、ステア角速度など)に応じて、操舵装置5により左右の前輪2FL,2FRが操舵される。
【0033】
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態に応じてキャンバ角調整装置44(図3参照)を作動制御する。
【0034】
次いで、図3を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図3に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の装置が接続されている。
【0035】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図4に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ(図5に図示されるT1,T2,T3)等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。
【0036】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、図3に示すように、キャンバフラグ73a及び旋回フラグ73bが設けられている。キャンバフラグ73aは、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整された状態にあるか否かを示すフラグであり、CPU71は、このキャンバフラグ73aがオンである場合に、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整された状態にあると判断する。旋回フラグ73bは、後述する第1条件が成立しているか否かを示すフラグであり、CPU71は、この旋回フラグ73bがオンである場合に、第1条件が成立していると判断する。
【0037】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。但し、車輪駆動装置3は、電動モータ3aに限られず、他の駆動源を採用することは当然可能である。他の駆動源としては、例えば、油圧モータやエンジン等が例示される。
【0038】
キャンバ角調整装置44は、各車輪2のキャンバ角を調整するための装置であり、上述したように、各懸架装置4の可動プレート47(図2参照)に揺動のための駆動力をそれぞれ付与する合計2個のRLモータ、RRモータ44RL,44RRと、それら各モータ44RL,44RRをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。
【0039】
加速度センサ装置81は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ81a、左右方向加速度センサ81bと、それら各加速度センサ81a,81bの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0040】
前後方向加速度センサ81aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1矢印F−B方向)の加速度、いわゆる前後Gを検出するセンサであり、左右方向加速度センサ81bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1矢印L−R方向)の加速度、いわゆる横Gを検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ81a,81bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
【0041】
また、CPU71は、加速度センサ装置81から入力された各加速度センサ81a,81bの検出結果(前後G、横G)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
【0042】
アクセルペダルセンサ装置61aは、アクセルペダル61の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0043】
ブレーキペダルセンサ装置62aは、ブレーキペダル62の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0044】
ステアリングセンサ装置63aは、図示しないステアリング軸の回転角(操舵角θ)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング軸の回転角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0045】
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。また、CPU71は、各センサ装置61a,62a,63aから入力された各角度センサの検出結果(操作量)を時間微分して、各ペダル61,62の踏み込み速度および操舵角θの絶対値の時間微分値(d|θ|/dt)を取得することができる。また、ステアリング軸の回転方向(操舵方向)を取得することもできる。
【0046】
図3に示す他の入出力装置90としては、例えば、ヨーレートセンサ装置、ロール角センサ装置などが例示される。ヨーレートセンサ装置は、車両1のヨーレートを検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る鉛直軸(図1矢印U−D方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角速度を検出するヨーレートセンサと、そのヨーレートセンサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路とを主に備えている。ロール角センサ装置は、車両1のロール角を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る前後軸(図1矢印F−B方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角を検出するロール角センサと、そのロール角センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路とを主に備えている。
【0047】
また、他の入出力装置90として、例えば、GPSを利用して車両1の現在位置を取得すると共にその取得した車両1の現在位置を道路に関する情報が記憶された地図データに対応付けて取得するナビゲーション装置なども例示される。
【0048】
次いで、図4及び図5を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図4は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を調整する処理である。また、図5(a)は車両1の時間tと操舵角の絶対値(|θ|)との関係を示す模式図であり、図5(b)は時間tと操舵角の絶対値の時間微分値(d|θ|/dt)との関係を示す模式図であり、図5(c)は時間tとキャンバ角との関係を示す模式図である。
【0049】
CPU71は、図4に示すキャンバ制御処理に関し、ステアリングセンサ装置63aの出力信号に基づき、操舵角θを取得する(S1)。次いで、CPU71は操舵角θの絶対値(|θ|)が第1閾値T1(図5(a)参照)以上か否かを判断する(S2)。その結果、操舵角の絶対値(|θ|)が第1閾値T1以上であると判断される場合には(S2:Yes)、第1条件が成立したことを示す旋回フラグ73bをオンにし(S3)、S4の処理に進む。
【0050】
一方、S2の処理の結果、操舵角の絶対値が第1閾値T1よりも小さいと判断される場合には(S2:No)、第1条件は成立していないので、S4の処理にスキップする。S4の処理では、旋回フラグ73bはオンであるか否かを判断する。旋回フラグ73bはオフであると判断される場合には(S4:No)、第1条件は成立していないので、このキャンバ制御処理を終了する。
【0051】
一方、S4の処理の結果、旋回フラグ73bはオンであると判断される場合には(S4:Yes)、次に、第1条件の消滅条件である操舵角の絶対値(|θ|)は第2閾値T2(図5(a)参照)以下か否かを判断する(S5)。操舵角の絶対値(|θ|)は第2閾値T2より大きいと判断される場合には(S5:No)、第1条件は消滅していない(車両1は旋回中にある)ことを示しているので、次に、第2条件の成立条件である操舵角の絶対値の時間微分値(d|θ|/dt)は、負の所定値T3(図5(b)参照)以下であるか否かを判断する(S6)。操舵角の絶対値の時間微分値(d|θ|/dt)は負の所定値T3より大きいと判断される場合には(S6:No)、操舵角は0方向に戻されていないか、0方向に戻る操舵角速度が遅いことを示しており、車輪2のキャンバ角を調整する必要がないため、このキャンバ制御処理を終了する。
【0052】
一方、S6の処理の結果、操舵角の絶対値の時間微分値(d|θ|/dt)は、負の所定値T3以下であると判断される場合には、第2条件も成立する。この場合は、所定値T3以上の操舵角速度で操舵角は0方向に戻されており、旋回の終期であって直進に備える必要があることを示しているので、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に調整する必要がある。次にCPU71は、キャンバフラグ73aはオンであるか否かを判断する(S7)。キャンバフラグ73aはオンであると判断される場合には(S7:Yes)、車輪2のキャンバ角は既に第1キャンバ角に調整されている(ネガティブキャンバが付与されている)ので、このキャンバ制御処理を終了する。
【0053】
一方、S7の処理の結果、キャンバフラグ73aはオフであると判断される場合には(S7:No)、キャンバ角調整装置44を作動させて車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第1キャンバ角に調整し(S8)(図5(c)参照)、キャンバフラグ73aをオンして(S9)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0054】
また、S5の処理の結果、操舵角の絶対値(|θ|)は第2閾値T2以下であると判断される場合には(S5:Yes)、第1条件は消滅したことを示しているので、旋回フラグをオフして(S10)、次いでキャンバ角調整装置44を作動させて車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第2キャンバ角に調整し(S11)(図5(c)参照)、キャンバフラグ73aをオフして(S12)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0055】
以上説明した第1実施の形態によれば、操舵角の時間微分値に基づく第2条件が成立し、かつ、操舵角に基づく第1条件が成立する場合に、キャンバ角調整装置44を作動させて車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に調整する。ここで、操舵角は車両1が旋回状態にあるかを検出することができ、操舵角の時間微分値は操舵角速度であるから、いずれも運転者の旋回に係る操作を直接的に反映したものであり、運転者の操作に基づく車両1の旋回段階を反映している。以上のことから、第1条件と第2条件の二つの条件に基づいて車輪2のキャンバ角が調整されることにより、車両1の旋回特性を旋回段階に応じて変えることができる。
【0056】
また、第1条件が成立した後、第2条件が成立した場合に、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に調整するので、運転者の癖に左右されることなく、任意の旋回段階における車輪2のキャンバ角を調整することができる。即ち、運転者の中には操舵角速度が異常に速いという癖のある者もいるため、第2条件は旋回状態と無関係に成立する可能性がある。従って、第2条件が成立した後、第1条件が成立した場合にキャンバ角を第1キャンバ角に調整することとした場合は、運転者によっては設定された旋回段階以外でキャンバ角が第1キャンバ角に調整されるおそれがある。これに対し、操舵角は車両1が旋回状態にあることを直接的に反映しているので、第1条件が成立した後、第2条件が成立したことを条件とすることで、設定された旋回段階以外でキャンバ角が調整されることを防止でき、確実性を向上できる。
【0057】
また、第1条件が成立し、かつ、第2条件が成立する以外は、キャンバ角調整装置44を作動させて車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角より絶対値の小さな第2キャンバ角に調整するので、車輪2に生じるキャンバスラストを抑制し、操舵応答性を向上できる。
【0058】
また、第1条件は、操舵角の絶対値が第1閾値以上であると判断されて成立し、操舵角の絶対値が第2閾値以下であると判断されて消滅する。従って、車両1の旋回半径が所定の半径より小さな場合に成立する。一方、第2条件は、操舵角の絶対値の時間微分値が負の所定値以下であると判断される場合に成立する。これは、操舵角を0に戻すときが該当する。従って、第1条件と第2条件の両方が成立するのは、旋回の終期段階である。旋回の終期段階は、車両1の向きを旋回後の直進の進行方向に早く向けられることが要求されるところ、車輪2(後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第1キャンバ角に調整しネガティブキャンバを付与するので、車両1を安定したアンダーステア傾向にすることができ、車両1の走行安定性を向上させて、車両1を直進の進行方向に早く向けることができる。
【0059】
また、第2条件を満たすか否かの判断基準として、操舵角の絶対値の時間微分値が負の所定値以下であるかを用いるので、図5(c)に示すように、操舵角の絶対値が増加する旋回初期か、操舵角の絶対値が減少する旋回終期かを容易に判別することができ、旋回終期の車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に確実に調整することができる。
【0060】
また、S2,S4の処理の後にS5の処理を行うので、第2条件が成立していても、第1条件が消滅したら、車輪2のキャンバ角は第2キャンバ角に調整される。従って、操舵角が0に近付くことで(旋回が終了することで)、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整される。従って、操舵角が所定の範囲にある旋回を終えると、車輪2のキャンバ角を確実に第2キャンバ角に調整することができる。
【0061】
なお、図4に示すフローチャート(キャンバ制御処置)において、請求項1記載の操舵角取得手段としてはS1の処理が、第1条件判断手段としてはS2,S4の処理が、第2条件判断手段としてはS6の処理が、第1キャンバ角調整手段としてはS8の処理がそれぞれ該当する。請求項4記載の第2キャンバ角調整手段としては、S11の処理が該当する。
【0062】
次いで、図6から図9を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、車両用制御装置100の制御対象である車両1が、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角をキャンバ角調整装置44により調整可能に構成される場合を説明したが、第2実施の形態における車両201は、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角がキャンバ角調整装置44により調整可能とされ、左右の後輪2RL,2RRについてはキャンバ角の調整を行わない構成とされている。
【0063】
また、第1実施の形態では、車両用制御装置100の制御対象である車両1について、左右の後輪2RL,2RRを第1キャンバ角(−4.5°)に調整する場合について説明したが、第2実施の形態においては、左右の前輪2FL,2FRの内の旋回外輪を第1キャンバ角(本実施の形態においては+2.5°)に調整する場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0064】
図6は、第2実施の形態における車両用制御装置200が搭載される車両201を模式的に示した模式図である。なお、図6の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両201の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
【0065】
まず、車両201の概略構成について説明する。図6に示すように、車両201は、複数(本実施の形態では4輪)の車輪2を備えて構成されている。本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRが懸架装置204により車体フレームBFに懸架される一方、左右の後輪2RL,2RRが懸架装置40により車体フレームBFに懸架されている。なお、懸架装置40は左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整する機能が省略されている点(即ち、図2に示す懸架装置4において、RRモータ44RRによる伸縮機能が省略されている点)を除き、その他の構成は懸架装置4と同じ構成であるので、その説明を省略する。また、本実施の形態における懸架装置204は、車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構としての機能を兼ね備えている。
【0066】
ここで、図7を参照して、懸架装置204の詳細構成について説明する。図7は、懸架装置204の正面図である。なお、ここでは、キャンバ角調整機構として機能する構成のみについて説明し、サスペンションとして機能する構成については周知の構成と同様であるので、その説明を省略する。また、各懸架装置204の構成は、左右の前輪2FL,2FRにおいてそれぞれ共通であるので、右の前輪2FRに対応する懸架装置204を代表例として図7に図示する。但し、図7では、理解を容易とするためにドライブシャフト31等の図示が省略されている。
【0067】
懸架装置204は、図7に示すように、ストラット41及びロアアーム42を介して車体フレームBFに支持されるナックル43と、駆動力を発生するFRモータ44FRと、そのFRモータ44FRの駆動力を伝達するウォームホイール45及びアーム246と、それらウォームホイール45及びアーム246から伝達されるFRモータ44FRの駆動力によりナックル43に対して揺動駆動される可動プレート47とを主に備えて構成されている。
【0068】
アーム246は、ウォームホイール45から伝達されるFRモータ44FRの駆動力を可動プレート47に伝達するものであり、図7に示すように、一端(図7右側)が第1連結軸248を介してウォームホイール45の回転軸45aから偏心した位置に連結される一方、他端(図7左側)が第2連結軸49を介して可動プレート47の上端(図7上側)に連結されている。
【0069】
上述したように構成される懸架装置204によれば、FRモータ44FRが駆動されると、ウォームホイール45が回転すると共に、ウォームホイール45の回転運動がアーム246の直線運動に変換される。その結果、アーム246が直線運動することで、可動プレート47がキャンバ軸50を揺動軸として揺動駆動され、車輪2のキャンバ角が調整される。
【0070】
なお、本実施の形態では、各連結軸248,49及びウォームホイール45の回転軸45aが、車体フレームBFから車輪2に向かう方向(矢印R方向)において、回転軸45a、第1連結軸248、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第1キャンバ状態と、第1連結軸248、回転軸45a、第2連結軸49の順に一直線上に並んで位置する第2キャンバ状態(図7に示す状態)とのいずれか一方のキャンバ状態となるように車輪2のキャンバ角が調整される。
【0071】
これにより、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ状態若しくは第2キャンバ状態に調整された状態では、車輪2に外力が加わったとしても、アーム246を回動させる方向の力は発生せず、車輪2のキャンバ角を維持することができる。また、本実施の形態では、第1キャンバ状態において、車輪2のキャンバ角がプラス方向の所定の角度(本実施の形態では+2.5°、以下「第1キャンバ角」と称す)に調整され、車輪2にポジティブキャンバが付与される。一方、第2キャンバ状態(図7に示す状態)では、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角より絶対値が小さく、第1キャンバ角よりネガティブ方向の所定の角度(本実施の形態では−1.5°、以下「第2キャンバ角」と称す)の定常角に調整される。
【0072】
なお、懸架装置40は、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整する機能が省略されている点(即ち、図2に示す懸架装置4において、RRモータ44RRによる伸縮機能が省略されている点)を除き、その他の構成は懸架装置4と同じ構成であるので、その説明を省略する。即ち、前輪2FL,2FRのキャンバ角は第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整可能であるが、後輪2RL,2RRはキャンバ角の調整ができない構成とされている。
【0073】
次に、図8を参照して、車両201に搭載される車両用制御装置200について説明する。車両用制御装置200は、車両201の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態に応じて、キャンバ角調整装置44の一部であるFLモータ44FL,FRモータ44FRを作動制御する。
【0074】
次いで、図9を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図9は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置200の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、各車輪2(左右の前輪2FL,2FR)のキャンバ角を調整する処理である。なお、以下の第2実施の形態におけるキャンバ制御処理においては、第1実施の形態におけるキャンバ制御処理(図4参照)と異なる点について説明する。
【0075】
CPU71は、図9に示すキャンバ制御処理に関し、ステアリングセンサ装置63aの出力信号に基づき、操舵角θ及び操舵方向を取得する(S21)。また、S7の処理の結果、キャンバフラグ73aはオフであると判断される場合には(S7:No)、キャンバ角調整装置44を作動させて車輪2(左右の前輪2FL,2FR)の旋回外輪のキャンバ角を第1キャンバ角に調整し(S22)、キャンバフラグ73aをオンして(S9)、このキャンバ制御処理を終了する。なお、S22の処理においては、S21の処理において取得した旋回方向に基づいて、左右の前輪2FL,2FRのいずれが旋回外輪であるかを判断し、左右の前輪2FL,2FRの内の旋回外輪のキャンバ角を第1キャンバ角(ポジティブキャンバ)に調整する。
【0076】
以上説明した第2実施の形態によれば、車両用制御装置200は、左右の前輪2FL,2FRの内の旋回外輪のキャンバ角をポジティブキャンバに調整するので、旋回外輪に発生するキャンバスラストにより、車両201の前輪2FL,2FRに旋回方向と反対向きのモーメントを生じさせ、第1実施の形態と同様に、車両201の挙動が旋回終期に一時的に不安定になることを防止すると共に、車両の走行安定性を向上させて、車両を旋回後の直進の進行方向に早く向けることができる。また、懸架装置204は車輪2の内の前輪2FL,2FRに配設され、前輪2FL,2FRのキャンバ角が調整されるので、車両201の装置構成を簡素化することができる。
【0077】
なお、図9に示すフローチャート(キャンバ制御処置)において、請求項1記載の操舵角取得手段としてはS21の処理が、第1キャンバ角調整手段としてはS22の処理がそれぞれ該当する。
【0078】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0079】
上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。例えば、上記各実施の形態で説明した第1キャンバ角および第2キャンバ角の値は任意に設定することができる。
【0080】
上記各実施の形態では、車両用制御装置100,200が適用される車両1,201が前輪駆動方式である場合について説明したが、これらに限定されるものでははく、後輪駆動方式の車両や4輪駆動方式の車両に適用することも可能である。
【0081】
上記第1実施の形態では後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整し、上記第2実施の形態では前輪2FL,2FRのキャンバ角を調整する場合について説明したが、これらに限定されるものでははく、キャンバ角調整機能を各懸架装置にもたせることで、4輪のキャンバ角をそれぞれ調整することも可能である。
【0082】
上記第2実施の形態では、前輪2FL,2FRの旋回外輪のキャンバ角を調整する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、上記第1実施の形態における後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整可能な車両1において、旋回外輪のキャンバ角を調整するようにすることも可能である。
【0083】
上記各実施の形態では、操舵角の絶対値の時間微分値が負の所定値(図5(b)に示すT3)以下の場合に第2条件が成立する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、所定値の正負や値は任意に設定することが可能である。また、T3以外に、別の所定値を設けることも可能である。これにより、第2条件が成立する旋回段階を任意に設定でき、車両1,201の旋回段階に応じて車輪2のキャンバ角を調整し、旋回特性を任意に変化させることができる。
【0084】
上記各実施の形態では、車輪2のキャンバ角は、キャンバ角調整装置44により第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整され、車両1,201が直進走行をするときは、車輪2が第2キャンバ角に設定される場合について説明した。即ち、車両1,201が直進走行をするときのキャンバ角の所定角と、第2キャンバ角とが同一の場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。懸架装置およびキャンバ角調整装置が、車輪2のキャンバ角を任意の角度に調整可能な場合は、第2キャンバ角調整手段は、車輪2のキャンバ角(第2キャンバ角)を第1キャンバ角よりも所定角(車両1,201が直進走行をするときのキャンバ角)に近い角度に調整することが可能である。この場合は、車両1,201が直進走行をするときのキャンバ角の所定角と、第2キャンバ角とは同一でないが、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整されることで、キャンバスラストを減少させて操舵応答性を確保できる。
【符号の説明】
【0085】
100,200 車両用制御装置
1,201 車両
2 車輪
2FL 左の前輪(車輪の一部)
2FR 右の前輪(車輪の一部)
2RL 左の後輪(車輪の一部)
2RR 右の後輪(車輪の一部)
4,204 懸架装置
44 キャンバ角調整装置
44FL FLモータ(キャンバ角調整装置の一部)
44FR FRモータ(キャンバ角調整装置の一部)
44RL RLモータ(キャンバ角調整装置の一部)
44RR RRモータ(キャンバ角調整装置の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪と、それら複数の車輪の内の少なくとも一部の車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、を備えた車両に用いられる車両用制御装置であって、
前記車両の操舵角を取得する操舵角取得手段と、
その操舵角取得手段により取得された操舵角が第1条件を満たす所定の範囲かを判断する第1条件判断手段と、
前記操舵角取得手段により取得された操舵角の時間微分値が所定の第2条件を満たすかを判断する第2条件判断手段と、
その第2条件判断手段により第2条件を満たすと判断され、かつ、前記第1条件判断手段により第1条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて前記車輪の内の少なくとも旋回外輪のキャンバ角を第1キャンバ角に調整する第1キャンバ角調整手段と、を備えていることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記第1キャンバ角は、前記車両が直進走行をするときのキャンバ角の所定角と異なる角度であることを特徴とする請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記第1キャンバ角調整手段は、前記第1条件判断手段により前記第1条件を満たすと判断された後、前記第2条件判断手段により前記第2条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて前記車輪の内の少なくとも旋回外輪のキャンバ角を第1キャンバ角に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記第1条件判断手段により前記第1条件を満たすと判断され、かつ、前記第2条件判断手段により前記第2条件を満たすと判断される以外は、前記キャンバ角調整装置を作動させて前記車輪のキャンバ角を、前記車両が直進走行をするときのキャンバ角の所定角と同一乃至は前記第1キャンバ角よりも前記所定角に近い第2キャンバ角に調整する第2キャンバ角調整手段を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記第1条件判断手段は、前記操舵角の絶対値が第1閾値以上であると判断されてから前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下であると判断されるまで第1条件を満たすと判断するものであり、
前記第2条件判断手段は、前記操舵角の絶対値の時間微分値が負の所定値以下であると判断される場合に前記第2条件を満たすと判断するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記キャンバ角調整装置は、前記車輪の内の後輪に配設され、
前記第1キャンバ角調整手段は、前記後輪のキャンバ角を調整することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記第1キャンバ角は、前記車両が直進走行をするときのキャンバ角の所定角からネガティブ方向に変化した角度であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の車両用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−178227(P2011−178227A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42784(P2010−42784)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】