説明

車両用操舵装置およびその制御方法

【課題】ステアバイワイヤシステムを有する車両用操舵装置において、旋回制動時等の走行安定性を向上させること。
【解決手段】ステアバイワイヤシステムと、ステアリングラック部材14と車輪とを連結する転舵用リンク部材と、転舵用リンク部材と並行して設置し、車体と車輪とを車両上下方向に揺動可能に連結する懸架用リンク部材と、ステアリングラック部材14を車両前後方向に移動させるラック移動手段27a、27b、27cと、ラック移動手段27a、27b、27cによるステアリングラックの移動に応じて、入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸との連結状態を切り替えるクラッチ27dと、を有し、ラック移動手段27a、27b、27cが、ステアリングラック部材14を、転舵用リンク部材との連結点が懸架用リンク部材に近づく方向に移動させる車両用操舵装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を転舵する車両用操舵装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリング入力軸と出力軸とが機械的に切り離され、アクチュエータによって操舵操作に応じた転舵を行う車両用操舵装置(いわゆるステアバイワイヤシステム)を備えた自動車が知られている。
ステアバイワイヤシステムを備えた自動車においては、例えば特許文献1に記載の技術のように、ラック軸力を制御することにより、旋回時における車輪のコンプライアンスステアを調整することができる。特に、旋回制動時には、横力に加えて、車輪に前後方向の力が作用することから、ステアバイワイヤシステムによって前後力コンプライアンスステアを適切なものとすることで、安定した旋回を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−159960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステアバイワイヤシステムを備える自動車であっても、必ずしもステアバイワイヤシステムを用いて運転を行わない場合がある。例えば、ステアバイワイヤシステムが動作しない場合や運転者の意思によってステアバイワイヤシステムをオフとする場合等である。
ステアバイワイヤシステムによって前後力コンプライアンスステアを調整する自動車では、サスペンションジオメトリがステアバイワイヤシステムに合わせて構成してある。そのため、ステアバイワイヤシステムを用いない運転における旋回制動時等に、目的とするコンプライアンスステア特性とならない場合がある。この場合、旋回制動時等における車両の走行安定性を低下させる可能性がある。
本発明の課題は、ステアバイワイヤシステムを有する車両用操舵装置において、旋回制動時等の走行安定性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用操舵装置は、ステアリングラック部材と車輪とを連結する転舵用リンク部材と、車体と車輪とを車両上下方向に揺動可能に連結する懸架用リンク部材とを並行して設置する。ステアリングラック部材の移動条件が充足したとき、ステアリングラック部材を、車両前後方向において、転舵用リンク部材との連結点が懸架用リンク部材に近づく方向に移動させる。また、ステアリングラック部材の移動に応じて、入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸との連結状態をクラッチによって切り替える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、移動条件を充足すると、ステアリングラック部材が車両前後方向に移動してクラッチが入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸とを連結状態とする。このとき、転舵用リンク部材と懸架用リンク部材との位置関係が、車両後方向きの力が車輪に入力したときにトーアウト特性となるように変化する。
したがって、ステアバイワイヤシステムを有する車両用操舵装置において、旋回制動時等の走行安定性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
【図2】メカニカルバックアップ27の構成を示す図である。
【図3】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。
【図4】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。
【図5】サスペンション装置1Bの構成を模式的に示す部分正面図および部分側面図である。
【図6】前輪におけるリンク部材のトー変化特性を示す図(車両上面視)である。
【図7】ラック位置制御処理を示すフローチャートである。
【図8】転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
【図9】転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
【図10】キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
【図11】サスペンション装置1Bにおけるラック軸力の解析結果を示す図である。
【図12】ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
【図13】左右前輪を独立に転舵可能なステアバイワイヤシステムを有する場合の応用例を示す全体構成図である。
【図14】応用例1におけるメカニカルバックアップ27の構成を示す図である。
【図15】応用例3におけるメカニカルバックアップ27の構成を示す図である。
【図16】応用例3の前輪におけるリンク部材のトー変化特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3と、ハンドル角度センサ4と、操舵トルクセンサ5と、操舵反力アクチュエータ6と、操舵反力アクチュエータ角度センサ7と、転舵アクチュエータ8と、転舵アクチュエータ角度センサ9と、出力側ステアリング軸10と、転舵トルクセンサ11と、ピニオンギア12と、ピニオン角度センサ13と、ステアリングラック部材14と、タイロッド15と、タイロッド軸力センサ16と、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと、ブレーキディスク18と、ホイールシリンダ19と、圧力制御ユニット20と、車両状態パラメータ取得部21と、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLと、コントロール/駆動回路ユニット26と、メカニカルバックアップ27とを備えている。
【0009】
これらのうち、ステアリングホイール2、入力側ステアリング軸3、ハンドル角度センサ4、操舵トルクセンサ5、操舵反力アクチュエータ6、操舵反力アクチュエータ角度センサ7、転舵アクチュエータ8、転舵アクチュエータ角度センサ9、出力側ステアリング軸10、転舵トルクセンサ11、ピニオンギア12、ピニオン角度センサ13、ステアリングラック部材14、タイロッド15、および、タイロッド軸力センサ16が、ステアバイワイヤシステムからなる操舵装置Sを構成している。
【0010】
ステアリングホイール2は、入力側ステアリング軸3と一体に回転するよう構成され、運転者による操舵入力を入力側ステアリング軸3に伝達する。
入力側ステアリング軸3は、操舵反力アクチュエータ6を備えており、ステアリングホイール2から入力された操舵入力に対し、操舵反力アクチュエータ6による操舵反力を加える。
【0011】
ハンドル角度センサ4は、入力側ステアリング軸3に備えられ、入力側ステアリング軸3の回転角度(即ち、運転者によるステアリングホイール2への操舵入力角度)を検出する。そして、ハンドル角度センサ4は、検出した入力側ステアリング軸3の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵トルクセンサ5は、入力側ステアリング軸3に設置してあり、入力側ステアリング軸3の回転トルク(即ち、ステアリングホイール2への操舵入力トルク)を検出する。そして、操舵トルクセンサ5は、検出した入力側ステアリング軸3の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0012】
操舵反力アクチュエータ6は、モータ軸と一体に回転するギアが入力側ステアリング軸3の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、ステアリングホイール2による入力側ステアリング軸3の回転に対して反力を付与する。
操舵反力アクチュエータ角度センサ7は、操舵反力アクチュエータ6の回転角度(即ち、操舵反力アクチュエータ6に伝達した操舵入力による回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0013】
転舵アクチュエータ8は、モータ軸と一体に回転するギアが出力側ステアリング軸10の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、出力側ステアリング軸10を回転させる。
転舵アクチュエータ角度センサ9は、転舵アクチュエータ8の回転角度(即ち、転舵アクチュエータ8が出力した転舵のための回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0014】
出力側ステアリング軸10は、転舵アクチュエータ8を備えており、転舵アクチュエータ8が入力した回転をピニオンギア12に伝達する。
転舵トルクセンサ11は、出力側ステアリング軸10に設置してあり、出力側ステアリング軸10の回転トルク(即ち、ステアリングラック部材14を介した車輪17FR,17FLの転舵トルク)を検出する。そして、転舵トルクセンサ11は、検出した出力側ステアリング軸10の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0015】
ピニオンギア12は、ステアリングラック部材14に形成した平歯と噛合しており、出力側ステアリング軸10から入力した回転をステアリングラック部材14に伝達する。
ピニオン角度センサ13は、ピニオンギア12の回転角度(即ち、ステアリングラック部材14を介して出力される車輪17FR,17FLの転舵角度)を検出し、検出したピニオンギア12の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0016】
ステアリングラック部材14は、ピニオンギア12と噛合する平歯を有し、ピニオンギア12の回転を車幅方向の直線運動に変換する。本実施形態において、ステアリングラック部材14は、前輪の車軸よりも車両前方側に位置している。
タイロッド15は、ステアリングラック部材14の両端部と車輪17FR,17FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
【0017】
タイロッド軸力センサ16は、ステアリングラック部材14の両端部に設置されたタイロッド15それぞれに設置してあり、タイロッド15に作用している軸力を検出する。そして、タイロッド軸力センサ16は、検出したタイロッド15の軸力をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
車輪17FR,17FL,17RR,17RLは、タイヤホイールにタイヤを取り付けて構成したものであり、サスペンション装置1Bを介して車体1Aに設置してある。これらのうち、前輪(車輪17FR,17FL)は、タイロッド15によってナックルアームが揺動することにより、車体1Aに対する車輪17FR,17FLの向きが変化する。
【0018】
ブレーキディスク18は、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと一体に回転し、ホイールシリンダ19の押圧力がブレーキパッドを押し当てると、その摩擦力によって制動力を発生する。
ホイールシリンダ19は、各車輪に設置されたブレーキパッドを、ブレーキディスク18に押し当てる押圧力を発生する。
【0019】
圧力制御ユニット20は、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、各車輪に設置したホイールシリンダ19の圧力を制御する。
車両状態パラメータ取得部21は、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLから出力される車輪の回転速度を示すパルス信号を基に車速を取得する。また、車両状態パラメータ取得部21は、車速と各車輪の回転速度とを基に、各車輪のスリップ率を取得する。そして、車両状態パラメータ取得部21は、取得した各パラメータをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0020】
車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLは、各車輪の回転速度を示すパルス信号を、車両状態パラメータ取得部21およびコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
コントロール/駆動回路ユニット26は、自動車1全体を制御するものであり、各部に設置したセンサから入力する信号を基に、入力側ステアリング軸3の操舵反力、前輪の転舵角、あるいはメカニカルバックアップ27の連結について、各種制御信号を、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、あるいはメカニカルバックアップ27等に出力する。
【0021】
また、コントロール/駆動回路ユニット26は、各センサによる検出値を使用目的に応じた値に換算する。例えば、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された回転角度を操舵入力角度に換算したり、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された回転角度を車輪の転舵角に換算したり、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を車輪の転舵角に換算したりする。
【0022】
なお、コントロール/駆動回路ユニット26は、ハンドル角度センサ4によって検出された入力側ステアリング軸3の回転角度、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された操舵反力アクチュエータ6の回転角度、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された転舵アクチュエータ8の回転角度、および、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を監視し、これらの関係を基に、操舵系統におけるフェールの発生を検出することができる。そして、操舵系統におけるフェールを検出すると、コントロール/駆動回路ユニット26は、メカニカルバックアップ27に対し、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示信号を出力する。また、本実施形態においては、コントロール/駆動回路ユニット26が操舵系統におけるフェールを検出しないときでも、後述するアクチュエータ27aが動作不能となって非通電状態となると、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とが連結し、機械的な操舵系統に切り替わる構成となっている。
【0023】
ここで、本実施形態において、上記フェールが発生していること、およびアクチュエータ27aが上記非通電状態となっていることは、後述するステアリングラック部材14の移動条件となっている。即ち、これらの移動条件を充足すると、ステアリングラック部材14が車両後方側に移動する。
また、運転者の操作に応じて入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10との連結を切り替え可能な構成とすることができる。そして、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる操作の入力があったことをステアリングラック部材14の移動条件に含めることもできる。即ち、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる操作があると、ステアリングラック部材14が車両後方側に移動する。
【0024】
メカニカルバックアップ27は、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結し、入力側ステアリング軸3から出力側ステアリング軸10への力の伝達を確保するクラッチ機構を有している。ここで、メカニカルバックアップ27に対しては、通常時には、コントロール/駆動回路ユニット26から、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結しない状態を指示している。そして、操舵系統におけるフェールの発生により、ハンドル角度センサ4、操舵トルクセンサ5および転舵アクチュエータ8等を介することなく操舵操作を行う必要が生じた場合に、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示が入力する。
【0025】
(メカニカルバックアップ27の構成)
図2は、メカニカルバックアップ27の構成を示す図である。
図2に示すように、メカニカルバックアップ27は、アクチュエータ27aと、ラック移動軸27bと、コイルばね等の弾性体27cと、クラッチ27dとを有している。
アクチュエータ27aは、サスペンションメンバに固定してあり、回転軸に設置したピニオンギアによってラック移動軸27bを車両前後方向に移動させる。また、アクチュエータ27a(具体的にはアクチュエータ27aの固定部材であるサスペンションメンバ)には、ラック移動軸27bに設置した弾性体27cの弾性力を受け止める支持板(以下、適宜「車体側支持部」と称する。)P1を形成してある。
【0026】
また、アクチュエータ27aは、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、ラック移動軸27bの位置を車両前後方向に移動させる。具体的には、アクチュエータ27aは、通電時には回転軸を駆動することにより、ラック移動軸27bの位置をステアバイワイヤシステムにおいて動作させる位置(以下、適宜「SBW位置」と称する。)に保持することができる。なお、アクチュエータ27aの非通電時には、回転軸が回転自在な状態となり、弾性体27cが伸長する。その結果、アクチュエータ27aの非通電時、ラック移動軸27bの位置は、SBW位置よりも車両前後方向の後方にあってラック移動軸27bをメカニカルな操舵機構において動作させる位置(以下、適宜「ステアリング軸直結位置」と称する。)となる。
【0027】
上述のステアリングラック部材14の移動条件が充足していないときには、アクチュエータ27aは、コントロール/駆動回路ユニット26の指示によって、ラック移動軸27bをSBW位置としている。一方、ステアリングラック部材14の移動条件が充足すると、アクチュエータ27aは、コントロール/駆動回路ユニット26の指示による制御を行って、あるいは非通電状態となることによって、ラック移動軸27bをステアリング軸直結位置とする。
【0028】
ラック移動軸27bは、移動軸の方向が車両前後方向となるように設置してあり、一端がステアリングラック部材14を収容するギアケースに連結し、他端には弾性体27cの端部を支持する支持板(以下、適宜「移動軸側支持部」と称する。)P2を有している。また、ラック移動軸27bは、アクチュエータ27aのピニオンギアと噛み合う平歯を有しており、アクチュエータ27aの駆動に伴い、サスペンションメンバに対して車両前後方向に摺動する。
【0029】
弾性体27cは、ラック移動軸27bの移動軸側支持部P2とアクチュエータ27aの車体側支持部P1との間に設置してあり、移動軸側支持部P2と車体側支持部P1との間に弾性力(離間する方向の力)を発生させることができる。アクチュエータ27aがラック移動軸27bの位置をSBW位置に制御しているとき、移動軸側支持部P2と車体側支持部P1との距離が縮まり、弾性体27cを圧縮した状態となる。また、ラック軸14を支持するギアケースには、弾性体27cが伸長したときにアクチュエータ27aを収容するケースと接触するストッパが形成してあり、これにより、弾性体27cの伸長時におけるラック軸14の位置を規制している。
【0030】
クラッチ27dは、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10との間に設置した単板式のクラッチである。クラッチ27dは、アクチュエータ27aがラック移動軸27bの位置をSBW位置に保持しているときは非連結状態となり、それ以外(アクチュエータ27aが非通電状態あるいはラック移動軸27bをステアリング軸直結位置に制御したとき)は連結状態となる。
【0031】
本実施形態において、クラッチ27dは、ラック移動軸27bがSBW位置とステアリング軸直結位置とで移動する際のストロークで、連結状態と非連結状態とが切り替わる機構となっている。
これにより、クラッチ27dの連結状態を切り替えるアクチュエータを別途備える必要がなくなり、車両の軽量化・低コスト化を図ることができる。また、電気的な制御を要することなく、クラッチ27dを連結することができる。また、フェール時にラック移動軸27bが移動する方向とクラッチ27dが連結する方向とが一致しているため、簡単にクラッチ27dを連結させることができる。
【0032】
(サスペンション装置の構成)
図3は、第1実施形態に係るサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図4は、図3のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。図5は、図3のサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す(a)部分正面図および(b)部分側面図である。
図3から図5に示すように、サスペンション装置1Bは、ホイールハブに取り付けられた車輪17FR,17FLを懸架しており、車輪17FR,17FLを回転自在に支持する車軸(アクスル)32を有するアクスルキャリア33、車体側の支持部から車体幅方向に配置されてアクスルキャリア33に連結する複数のリンク部材、及びコイルスプリング等のバネ部材34を備えている。
【0033】
複数のリンク部材は、ロアリンク部材である第1リンク(第1リンク部材)37と第2リンク(第2リンク部材)38、ロアリンク部材に並行して配置したタイロッド(タイロッド部材)15、および、ストラット(バネ部材34およびショックアブソーバ40)から構成されている。本実施形態において、サスペンション装置1Bはストラット式のサスペンションであり、バネ部材34およびショックアブソーバ40が一体となったストラットの上端が、車軸32より上方に位置する車体側の支持部に連結する(以下、ストラットの上端を適宜「アッパーピボット点」と称する。)。ロアアームを構成する第1リンク37と第2リンク38は、車軸32より下方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の下端を連結する。このロアアームは、車体側と2箇所で支持され、車軸32側と1箇所で連結されるAアーム形状を有している(以下、ロアアームとアクスルキャリア33との連結部を適宜「ロアピボット点」と称する。)。
【0034】
タイロッド15は、車軸32の下側に位置して、ステアリングラック部材14とアクスルキャリア33とを連結し、ステアリングラック部材14は、ステアリングホイール2からの回転力(操舵力)が伝達されて転舵用の軸力を発生させる。従って、タイロッド15により、ステアリングホイール2の回転に応じてアクスルキャリア33に車幅方向の軸力が加えられ、アクスルキャリア33を介して車輪17FR,17FLが転舵される。
【0035】
本願発明においては、上記サスペンション装置1Bのキングピン軸を、キャスタトレイルがタイヤ接地面内に位置するよう設定している。より具体的には、本実施形態におけるサスペンション装置1Bでは、キャスタ角をゼロに近い値とし、キャスタトレイルがゼロに近づくようにキングピン軸を設定している。これにより、転舵時のタイヤ捻りトルクを低減でき、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる。また、スクラブ半径はゼロ以上のポジティブスクラブとしている。これにより、転舵時のタイヤ横滑り角に対し、スクラブ半径分のキャスタトレイルが生じることから、直進性を確保することができる。
【0036】
(リンク部材のトー変化特性)
次に、本実施形態に係る操舵舵装置Sにおけるトー変化特性について説明する。
図6は、前輪におけるリンク部材のトー変化特性を示す図(車両上面視)である。なお、図6においては、左前輪(車輪17FL)を例として示しているが、右前輪(車輪17FR)も同様のトー変化特性となっている。
本実施形態においては、アクチュエータ27aがラック移動軸27bをSBW位置としたとき、ステアリング中立位置では、車輪への前後力の入力に対して、トー変化を生じない構造となっている。
【0037】
具体的には、ロアリンク部材が規定する仮想ロアピボット点の軌跡と、タイロッド15のナックルアーム側連結点(以下、適宜「ナックル連結点」と称する。)とは、前後力の入力に対して、車両上面視で同一の軌跡(図6の破線で示す円弧)を描くリンク配置となっている。即ち、車輪に前後力が作用したときに、ナックル連結点がタイロッド15の車体側連結点を中心に描く円と仮想ロアピボット点が瞬間中心を中心に描く円の半径とは同一であり、これらの移動方向も同一となっている。
【0038】
そして、旋回制動時等(即ち、車輪に前後方向および横方向の力が作用するとき)には、転舵アクチュエータ8の制御によって転舵量を変化させ、オーバーステア傾向となることを抑制する。
これにより、旋回制動時等における車両の走行安定性を向上させることができる。
ここで、前後力の入力に対する車輪17FLのトー変化をトーアウト特性とするためには、タイロッド15の車体側連結点を中心とするナックル連結点の軌跡を車両上面視で図6中の二点鎖線のようにすれば良い。
即ち、車輪17FLへの前後力の入力に対し、ナックル連結点が仮想ロアピボット点よりも車幅方向の外側に移動するリンク配置とすれば良い。
【0039】
これは、図6の「連結点移動方向」として示す矢印の方向(即ち、ロアリンク部材に接近する方向)にタイロッド15の車体側連結点を移動することに相当する。このとき、タイロッド15は、図6中の一点鎖線で示す状態となる。本実施形態においては、ラック移動軸27bがSBW位置からステアリング軸直結位置に移動することで、タイロッド15の車体側連結点の移動を実現している。具体的には、ラック移動軸27bがSBW位置からステアリング軸直結位置に移動することで、タイロッド15の車体側連結点を車両後方側に移動させる。この場合、車両後方向きの力が車輪に作用したときに、タイロッド連結点は車幅方向の外側に移動する軌跡を描く。
これにより、ステアバイワイヤシステムがフェールし、クラッチ27dが連結状態となった場合に、旋回制動時等に旋回外輪をトーアウト特性とすることができ、車両の走行安定性を向上させることが可能となる。
【0040】
(コントロール/駆動回路ユニット26のラック位置制御処理)
次に、コントロール/駆動回路ユニット26が実行するラック位置制御処理について説明する。
図7は、ラック位置制御処理を示すフローチャートである。
ラック位置制御処理は、ステアバイワイヤシステムによる操舵操作を行うか否かを切り替えるために、コントロール/駆動回路ユニット26が実行する処理である。コントロール/駆動回路ユニット26は、イグニションオンと共に、ラック位置制御処理を起動する。
【0041】
図7において、ラック位置制御処理を開始すると、コントロール/駆動回路ユニット26は、車両の操舵系統における各種センサ値を取得する(ステップS1)。
具体的には、コントロール/駆動回路ユニット26は、ハンドル角度センサ4が検出した入力側ステアリング軸3の回転角度、操舵反力アクチュエータ角度センサ7が検出した操舵反力アクチュエータ6の回転角度、転舵アクチュエータ角度センサ9が検出した転舵アクチュエータ8の回転角度、および、ピニオン角度センサ13が検出したピニオンギア12の回転角度を取得する。
【0042】
次に、コントロール/駆動回路ユニット26は、取得したセンサ値の関係から、ステアバイワイヤシステムにおいてフェールが発生しているか否かの判定を行う(ステップS2)。例えば、コントロール/駆動回路ユニット26は、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸8との回転角度比が正常値として設定した範囲内にあるか否かを判定することにより、フェールが発生しているか否かを判定することができる。
【0043】
ステップS2において、ステアバイワイヤシステムにおいてフェールが発生していないと判定した場合、コントロール/駆動回路ユニット26は、アクチュエータ27aによってラック移動軸27bの位置をSBW位置に制御し(ステップS3)、ステップS1に戻る。
一方、ステップS2において、ステアバイワイヤシステムにおいてフェールが発生したと判定した場合(即ち、ステアリングラック部材14の移動条件を充足した場合)、コントロール/駆動回路ユニット26は、アクチュエータ27aによってラック移動軸27bの位置をステアリング軸直結位置に制御し(ステップS4)、ラック位置制御処理を終了する。ステップS4の動作によって、クラッチ27dが連結状態となり、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とが機械的に連結する。
【0044】
なお、アクチュエータ27aが動作不能となって非通電状態となった場合にも、ステアリングラック部材14の移動条件が充足する。この場合には、コントロール/駆動回路ユニット26のラック位置制御処理に関わらず、アクチュエータ27aがラック移動軸27bをSBW位置に保持できなくなる。そのため、この場合には、自動的に入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とが機械的に連結することとなる。また、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結する運転者の操作があったときにも、ステアリングラック部材14の移動条件が充足する。この場合、コントロール/駆動回路ユニット26はアクチュエータ27aによってラック移動軸27bの位置をステアリング軸直結位置に制御する。
【0045】
以下、サスペンション装置1Bにおけるサスペンションジオメトリについて詳細に検討する。
(ラック軸力成分の分析)
図8は、転舵時におけるラックストロークとラック軸力との関係を示す図である。
図8に示すように、ラック軸力成分には、主にタイヤの捻りトルクと、車輪の持ち上げトルクとが含まれ、これらのうち、タイヤの捻りトルクが支配的である。
したがって、タイヤの捻りトルクを小さくすることで、ラック軸力を低減することができることとなる。
【0046】
(タイヤの捻りトルク最小化)
図9は、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡を示す図である。
図9においては、転舵時におけるタイヤ接地面中心の移動量が大きい場合と小さい場合とを併せて示している。
上記ラック軸力成分の分析結果より、ラック軸力を低減するためには、転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化することが有効である。
転舵時のタイヤ捻りトルクを最小化するためには、図9に示すように、タイヤ接地面中心の軌跡をより小さくすれば良い。
即ち、タイヤ接地面中心とキングピン接地点を一致させることで、タイヤ捩りトルクを最小化できる。
具体的には、キャスタトレイル0mm、スクラブ半径0mm以上とすることが有効である。
【0047】
(キングピン傾角の影響)
図10は、キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
図10においては、ラック軸力が小、中および大の3つの場合における等値線を例として示している。
タイヤ捻りトルク入力に対し、キングピン傾角が大きくなるほど、その回転モーメントが大きくなり、ラック軸力は大きくなる。したがって、キングピン傾角としては、一定の値より小さく設定することが望まれるが、スクラブ半径との関係から、例えばキングピン傾角15度以下とすると、ラック軸力を望ましいレベルまで小さくすることができる。
【0048】
なお、図10における一点鎖線(境界線)で囲んだ領域は、旋回の限界領域において、横力が摩擦の限界を超える値と推定できるキングピン傾角15度より小さく、かつ、上記タイヤ捻りトルクの観点から、スクラブ半径が0mm以上の領域を示している。本実施形態では、この領域(横軸においてキングピン傾角が15度より減少する方向で、縦軸においてスクラブ半径がゼロより増加する方向)を、より設定に適した領域としている。ただし、スクラブ半径が負の領域であっても、他の条件を本実施形態で示すものとすることで、一定の効果を得るものとなる。
【0049】
具体的にスクラブ半径とキングピン傾角とを決定する場合には、例えば、図10に示すラック軸力の分布を示す等値線をn次曲線(nは2以上の整数)として近似し、上記一点鎖線で囲んだ領域の中から、n次曲線の変曲点(またはピーク値)の位置によって定めた値を採用することができる。
【0050】
(ラック軸力の最小化例)
図11は、本実施形態に係るサスペンション装置1Bにおけるラック軸力の解析結果を示す図である。
図11に示す実線は、図2〜4に示すサスペンション構造において、キャスタ角0度、キャスタトレール0mm、スクラブ半径−10mmに設定した場合のラック軸力特性を示している。
なお、図11においては、サスペンション装置1Bと同方式の懸架構造で、キングピン軸に関する設定をステアバイワイヤ方式の操舵装置を備えていない構造に合わせて設定したときの比較例(破線)を併せて示している。
【0051】
図11に示すように、上記検討結果に従って設定すると、ラック軸力は比較例に対し約30%低減することができる。
これにより、キングピン軸周りのモーメントをより小さくすることができる結果、ステアリングラック部材14およびタイロッド15に加わる負荷を低減でき、部材を簡素化することができる。
また、ステアバイワイヤを実現するための転舵アクチュエータ8として、駆動能力のより低いものを用いることができ、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。
【0052】
(ポジティブスクラブによる直進性確保)
図12は、ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
図12に示すように、タイヤに働く復元力(セルフアライニングトルク)は、キャスタトレイル、ニューマチックトレイルの和に比例して大きくなる。
ここで、ポジティブスクラブの場合、キングピン軸の接地点から、タイヤ接地中心を通るタイヤの横すべり角β方向の直線に下ろした垂線の足の位置によって定まるホイールセンタからの距離εc(図12参照)をキャスタートレイルとみなすことができる。
【0053】
そのため、ポジティブスクラブのスクラブ半径が大きければ大きいほど、転舵時にタイヤに働く復元力は大きくなる。
本実施形態においては、キャスタ角を0に近づけることによる直進性への影響を、ポジティブスクラブとすることで低減するものである。また、ステアバイワイヤ方式を採用していることから、転舵アクチュエータ8によって最終的に目的とする直進性を確保することができる。
【0054】
(サスペンション設計例)
図3〜5に示すサスペンション装置1Bの構成において、上記検討結果に従い、キングピン傾角13.8度、キャスタートレイル0mm、スクラブ半径5.4mm(ポジティブスクラブ)、キャスタ角5.2度、ホイールセンタの高さにおけるキングピンオフセット86mmとした場合、ラック軸力を約30%低減できる。
【0055】
上記設計値については、制動時に、サスペンションロアリンクが車両後方へ移動し、このときキングピン下端も同様に車両後方へ移動するため、キャスタ角は一定の後傾をとることとしたものである。ちなみに、キャスター角0度以下の場合(キングピン軸が前傾している場合)、転舵制動時ラックモーメントが大きくなるため、ラック軸力が増大する。したがって、キングピンの位置を上記のように規定する。
即ち、キングピンロアピボット点(仮想ピボットも含む)はホイールセンタ後方、キングピンアッパーピボット点(仮想ピボットも含む)はロアピボット点後方に位置する構成とする。
【0056】
(作用)
次に、本実施形態に係る車両用の操舵装置Sの作用について説明する。
本実施形態に係る操舵装置Sは、ステアバイワイヤシステムを有しており、ステアリング中立位置付近では、車輪への前後力の入力に対して、トー変化を生じないリンク配置となっている(図6参照)。
そして、旋回を行う場合、アクチュエータ27aによって転舵量を変化させ、オーバーステア傾向となることを抑制する。
【0057】
ここで、ステアリングラック部材14の移動条件が充足した場合(即ち、コントロール/駆動回路ユニット26がフェールであると判定した場合、アクチュエータ26aが動作不能となって非通電状態となった場合、および運転者が入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる操作を行った場合)、アクチュエータ26aがラック移動軸27bをSBW位置に保持している状態を解放する。
【0058】
すると、ラック移動軸27bは、SBW位置からステアリング軸直結位置に移動し、それに伴い、クラッチ27dが連結状態となる。
これにより、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とが機械的に連結した状態となり、ステアバイワイヤシステムによらない操舵を行うことが可能となる。
また、このとき、ステアリングラック部材14は、SBW位置よりも車両後方側に位置するステアリング軸直結位置に移動するため、タイロッド15の車体側連結点が車両後方側(即ち、ロアリンク部材に接近する方向)に移動する。
【0059】
すると、タイロッド15のナックル連結点は、車輪へ入力する前後方向の力(具体的には制動による後方向きの力)に対して、仮想ロアピボット点よりも車体外側に移動する軌跡を描くように変化する。
その結果、仮想ロアピボット点に対してナックル連結点を車幅方向の外側に移動させることができ、トーアウト特性を実現することができる。
【0060】
以上のように、本実施形態における操舵装置Sは、ステアバイワイヤシステムによって、ステアリング中立位置付近では、車輪に入力する前後方向の力に対して、トー変化が発生しないリンク配置としている。そして、旋回制動時等には、ステアバイワイヤシステムによって、転舵量を変化させて、オーバーステア傾向を抑制している。さらに、ステバイワイヤシステムのフェール時等、ステアリングラック部材14の移動条件が充足したときには、メカニカルバックアップ27によってステアリングラック部材14をSBW位置からステアリング軸直結位置に移動させる。これにより、タイロッド15の車体側連結点をロアリンク部材に近づける。
【0061】
そのため、通常の走行時にはタイヤの偏摩耗を防ぐことができる。そして、旋回制動時等には、ステアバイワイヤシステムが動作している場合、ステアバイワイヤシステムの制御によりオーバーステア傾向となることを抑制できる。また、ステアバイワイヤシステムがフェールとなった場合、車輪に入力する前後力(後方向きの力)に対して、リンク配置によってトーアウト特性を実現することができる。
【0062】
したがって、ステアバイワイヤシステムを有する車両用の操舵装置において、旋回制動時等の走行安定性を向上させることができる。
また、クラッチ27dを連結する機構とステアリングラック部材14を移動させる機構とを一体として構成したため、車両の軽量化・低コスト化を図りつつ、走行安定性を向上させることができる。
【0063】
なお、本実施形態に係るサスペンション装置1Bでは、キャスタトレイルがタイヤ接地面内に位置する設定としている。
例えば、キングピン軸の設定を、キャスタ角0度、キャスタトレイル0mm、スクラブ半径0mm以上のポジティブスクラブとしている。また、キングピン傾角については、スクラブ半径をポジティブスクラブとできる範囲で、より小さい角度となる範囲(例えば15度以下)で設定する。
【0064】
このようなサスペンションジオメトリとすることにより、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡がより小さいものとなり、タイヤ捻りトルクを低減できる。
そのため、ラック軸力をより小さいものとできることから、キングピン軸周りのモーメントをより小さくでき、転舵アクチュエータ8の出力を低減することができる。また、より小さい力で車輪の向きを制御できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0065】
また、キャスタ角を0度、キャスタトレイルを0mmとしたことに伴い、サスペンション構造上の直進性に影響が生じる可能性があるところ、ポジティブスクラブに設定することにより、その影響を軽減している。さらに、転舵アクチュエータ8による制御と併せて、直進性を確保している。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0066】
また、キングピン傾角を一定の範囲に制限したことに対しては、転舵アクチュエータ8での転舵を行うところ、運転者が操舵操作に重さを感じることを回避できる。また、路面からの外力によるキックバックについても、転舵アクチュエータ8によって外力に対抗できるため、運転者への影響を回避できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
また、本実施形態に係るサスペンション装置1Bは、ストラット式としたため、部品点数をより少ないものとでき、本実施形態におけるキングピン軸の設定を容易に行うことができる。
【0067】
なお、本実施形態において、ステアリングラック部材14がステアリングラック部材に対応し、入力側ステアリング軸が入力側ステアリング軸3に対応する。また、出力側ステアリング軸10が出力側ステアリング軸に対応し、転舵アクチュエータ8が転舵アクチュエータに対応する。また、タイロッド15が転舵用リンク部材に対応し、第1リンク37および第2リンク38(ロアリンク部材)が懸架用リンク部材に対応する。また、アクチュエータ27a、ラック移動軸27bおよび弾性体27cがラック移動手段に対応する。また、弾性体27cが弾性体に対応し、ラック移動軸27bがラック移動部材に対応し、アクチュエータ27aがラック移動用アクチュエータに対応する。また、移動軸側支持部P2が移動部材側支持部に対応し、車体側支持部P1が車体側支持部に対応し、クラッチ27dがクラッチに対応する。
【0068】
(第1実施形態の効果)
(1)ステアリングラック部材と車輪とを連結する転舵用リンク部材と、車体と車輪とを車両上下方向に揺動可能に連結する懸架用リンク部材とを並行して設置する。ステアリングラック部材の移動条件が充足したとき、ステアリングラック部材を、車両前後方向において、転舵用リンク部材との連結点が懸架用リンク部材に近づく方向に移動させる。また、ステアリングラック部材の移動に応じて、入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸との連結状態をクラッチによって切り替える。
【0069】
そのため、移動条件を充足すると、ステアリングラック部材が車両前後方向に移動してクラッチが入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸とを連結状態とする。このとき、転舵用リンク部材と懸架用リンク部材との位置関係が、車両後方向きの力が車輪に入力したときにトーアウト特性となるように変化する。
したがって、ステアバイワイヤシステムを有する車両用操舵装置において、旋回制動時等の走行安定性を向上させることが可能となる。
【0070】
(2)ラック移動手段が、ラック移動用アクチュエータを駆動することでステアリングラック部材を車両前後方向の一方に移動させると共に弾性体を弾性変形させる。
したがって、ラック移動用アクチュエータがステアリングラック部材を解放すると、弾性体の復元力によってステアリングラック部材を移動させることが可能となる。
【0071】
(3)クラッチは、ラック移動手段が第1の位置にステアリングラック部材を移動したときに、入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸とを非連結状態とし、ステアリングラック部材が第2の位置にステアリングラック部材を移動したときに、入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸とを連結状態とする。
したがって、ラック移動用アクチュエータがステアリングラック部材を解放したときに、弾性体の復元力によって、クラッチを連結させることができる。
【0072】
(4)ステアリングラック部材が第1の位置と第2の位置とを移動するときのストロークによって、クラッチの連結を行うこととした。
したがって、電気的な制御を要することなく、クラッチを連結することが可能となる。
(5)ステアリングラック部材および転舵用リンク部材が、懸架用リンク部材よりも車両前方側に位置する構成とした。
したがって、解放時のステアリングラック部材の移動方向とクラッチが連結する方向とが一致するため、簡単にクラッチを連結させることができる。
【0073】
(6)ステアリングバイワイヤシステムのフェール検出、入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸とを連結させる操作の入力、およびラック移動手段が備えるラック移動用アクチュエータの非導通状態の発生の少なくともいずれかをステアリングラック部材の移動条件とした。
そのため、ステアリングバイワイヤシステムを使用しない種々の状況に応じて、車両後方向きの力が車輪に入力したときにトーアウト特性とすることができる。
したがって、ステアバイワイヤシステムを有する車両用操舵装置において、旋回制動時等の走行安定性を向上させることが可能となる。
【0074】
(7)車輪を転舵するステアリングラック部材を、移動条件が充足したときに車両前後方向の一方に移動させることにより、ステアリングラック部材と車輪とを連結する転舵用リンク部材を、車体と車輪とを連結する懸架用リンク部材に対して、車輪に車両後方向きの力が入力したときにトーアウトとなる位置関係に変化させる。
したがって、ステアバイワイヤシステムを有する車両用操舵装置において、旋回制動時等の走行安定性を向上させることが可能となる。
【0075】
(応用例1)
第1実施形態においては、1つのステアリングラック部材14を1つの転舵アクチュエータ8で移動させるステアバイワイヤシステムを有する場合を例に挙げて説明した。
これに対し、左右前輪にステアリングラック部材14および転舵アクチュエータ8を1つずつ備え、左右前輪を独立に転舵可能なステアバイワイヤシステムに本発明を適用することができる。
図13は、左右前輪(車輪17FL,17FR)を独立に転舵可能なステアバイワイヤシステムを有する場合の応用例を示す全体構成図である。また、図14は、本応用例におけるメカニカルバックアップ27の構成を示す図である。
【0076】
図13および図14に示す構成においても、各前輪は、アクチュエータ27aがラック移動軸27bをSBW位置としたとき、ステアリング中立位置では、車輪への前後力の入力に対して、トー変化を生じない構造となっている(図6参照)。
そして、旋回制動時等において、車輪17FL,17FRが旋回外輪となるときには、転舵アクチュエータ8によって、それぞれの前輪をトーアウト側にトー変化させる。
これにより、旋回制動時等における車両の走行安定性を向上させることができる。
【0077】
さらに、本応用例においても、ラック移動軸27bがSBW位置から車両前後方向の後方に位置するステアリング軸直結位置に移動することで、タイロッド15の車体側連結点の移動を実現している。具体的には、ラック移動軸27bがSBW位置からステアリング軸直結位置に移動することで、タイロッド15の車体側連結点を車両後方側に移動させる。この場合、車両後方向きの力が車輪に作用したときに、タイロッド連結点は車幅方向の外側に移動する軌跡を描く。
【0078】
即ち、車輪17FL,17FRへの前後力の入力に対し、ナックル連結点が仮想ロアピボット点よりも車幅方向の外側に移動することとなる。
したがって、ステアバイワイヤシステムがフェールした時等、ステアリングラック部材14の移動条件が充足し、クラッチ27dが連結状態となった場合に、旋回制動時等に旋回外輪をトーアウト特性とすることができ、車両の走行安定性を向上させることが可能となる。
【0079】
なお、本応用例の構成を実現するために、例えば、第1実施形態のメカニカルバックアップ27に対し、以下のような変更を加えることができる。即ち、左右前輪に設置したステアリングラック部材14および転舵アクチュエータ8を1つのメカニカルバックアップ27で車両前後方向に移動させるために、左右前輪のステアリングラック部材14および転舵アクチュエータ8を一体に支持するギアケースを設置する。また、左右前輪のステアリングラック部材14同士をフェール時に連結状態とし、フェール時以外に非連結状態とするクラッチを設置する。このとき、左右前輪のステアリングラック部材14は一定の距離を有するため、これらを連結する連結部材を設置しておき、この連結部材の両端に左右前輪のステアリングラック部材14をクラッチを介して固定することができる。これらクラッチおよび連結部材も、ギアケースと一体に移動する構成とする。そして、ギアケースにラック移動軸27bの一端を固定し、ステアバイワイヤシステムのフェール時には、ギアケースをステアリング軸直結位置側に移動させることで、上記トーアウト特性を実現する。
【0080】
(応用例3)
第1実施形態においては、ステアリングラック部材14を車軸よりも車両前方側に配置した操舵装置に本発明を適用する場合について説明した。
これに対し、本応用例では、ステアリングラック部材14を車軸よりも車両後方側に配置した操舵装置に本発明を適用している。
図15は、本応用例におけるメカニカルバックアップ27の構成を示す図である。
図15に示す構成では、タイロッド15をロアリンク部材よりも車両後方側に配置してある。
【0081】
図15に示すように、メカニカルバックアップ27は、アクチュエータ27aと、ラック移動軸27bと、コイルばね等の弾性体27cと、クラッチ27dと、回転機構27eを有している。
アクチュエータ27aは、サスペンションメンバに固定してあり、回転軸に設置したピニオンギアによってラック移動軸27bを車両前後方向に移動させる。また、アクチュエータ27a(具体的にはアクチュエータ27aの固定部材)には、ラック移動軸27bに設置した弾性体27cの弾性力を受け止める板状の車体側支持部P1を形成してある。
【0082】
また、アクチュエータ27aは、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、ラック移動軸27bの位置を車両前後方向に移動させる。具体的には、アクチュエータ27aは、通電時には回転軸を駆動することにより、ラック移動軸27bの位置をステアバイワイヤシステムにおいて動作させるSBW位置に保持することができる。なお、アクチュエータ27aの非通電時には、回転軸が回転自在な状態となり、弾性体27cが収縮する。その結果、アクチュエータ27aの非通電時、ラック移動軸27bの位置は、SBW位置よりも車両前後方向の前方にあってラック移動軸27bをメカニカルな操舵機構において動作させるステアリング軸直結位置となる。
【0083】
ラック移動軸27bは、移動軸の方向が車両前後方向となるように設置してあり、一端がステアリングラック部材14を支持するギアケースに連結し、他端には弾性体27cの端部を支持する板状の移動軸側支持部P2を有している。また、ラック移動軸27bは、アクチュエータ27aのピニオンギアと噛み合う平歯を有しており、アクチュエータ27aの駆動に伴い、サスペンションメンバに対して車両前後方向に摺動する。
【0084】
弾性体27cは、ラック移動軸27bの移動軸側支持部P2とアクチュエータ27aの車体側支持部P1との間に設置してあり、移動軸側支持部P2と車体側支持部P1との間に弾性力(接近する方向の力)を発生させることができる。アクチュエータ27aがラック移動軸27bの位置をSBW位置に制御しているとき、移動軸側支持部P2と車体側支持部P1との距離が大きくなり、弾性体27cを伸長させた状態となる。
【0085】
クラッチ27dは、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10との間に設置した単板式のクラッチである。クラッチ27dは、アクチュエータ27aがラック移動軸27bの位置をSBW位置に保持しているときは非連結状態となり、それ以外(アクチュエータ27aが非通電状態あるいはラック移動軸27bをステアリング軸直結位置に制御したとき)は連結状態となる。
【0086】
回転機構27eは、車幅方向の回転軸を有し、出力側ステアリング軸10のケースに設置したヒンジ等によって構成した回転機構である。回転機構27eは、出力側ステアリング軸10の下端がラック移動軸27bの移動によって車両前方に変位(SBW位置からステアリング軸直結位置に変位)すると、回転軸を中心として出力側ステアリング軸10の上端を車両後方に変位させる。これにより、クラッチ27dが連結状態となり、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とが機械的に連結する。
【0087】
また、図16は、本応用例の前輪(車輪17FL)におけるリンク部材のトー変化特性を示す図(車両上面視)である。
本応用例においても、図6の場合と同様に、アクチュエータ27aがラック移動軸27bをSBW位置としたとき、ステアリング中立位置では、車輪への前後力の入力に対して、トー変化を生じない構造となっている。
【0088】
ここで、本応用例においては、タイロッド15がロアリンク部材よりも車両後方側に配置してある。そのため、前後力の入力に対する車輪17FLのトー変化をトーアウト特性とするためには、タイロッド15の車体側連結点を中心とするナックル連結点の軌跡を車両上面視で図16中の二点鎖線のようにすれば良い。
即ち、車輪17FLへの前後力の入力に対し、ナックル連結点が仮想ロアピボット点よりも車幅方向の内側に移動するリンク配置とすれば良い。
【0089】
これは、図16の「連結点移動方向」として示す矢印の方向にタイロッド15の車体側連結点を移動することに相当する。このとき、タイロッド15は、図6中の一点鎖線で示す状態となる。本応用例においては、ラック移動軸27bがSBW位置から車両前方側のステアリング軸直結位置に移動することで、タイロッド15の車体側連結点の移動を実現している。具体的には、ラック移動軸27bがSBW位置からステアリング軸直結位置に移動することで、タイロッド15の車体側連結点を車両前方側に移動させる。この場合、車両後方向きの力が車輪に作用したときに、タイロッド連結点は車幅方向の内側に移動する軌跡を描く。
【0090】
これにより、ステアバイワイヤシステムがフェールした時等、ステアリングラック部材14の移動条件が充足し、クラッチ27dが連結状態となった場合に、旋回制動時等に旋回外輪をトーアウト特性とすることができ、車両の走行安定性を向上させることが可能となる。また、クラッチ27dの連結状態を切り替えるアクチュエータを別途備える必要がなくなり、車両の軽量化・低コスト化を図ることができる。また、電気的な制御を要することなく、クラッチ27dを連結することができる。また、フェール時にラック移動軸27bが移動する方向とクラッチ27dが連結する方向とが一致していなくても、回転軸の作用によって、簡単にクラッチ27dを連結させることができる。
なお、本応用例の構成は、第1実施形態の1つのステアリングラック部材14を1つの転舵アクチュエータ8で移動させるステアバイワイヤシステムおよび応用例1の左右前輪を独立に転舵可能なステアバイワイヤシステムに適用することが可能である。
【0091】
(効果)
ステアリングラック部材および転舵用リンク部材が、懸架用リンク部材よりも車両後方側に位置する構成とし、ラック移動手段がステアリングラック部材を車両後方側に移動したときに、入力側ステアリング軸と出力側ステアリング軸とを非連結状態とする。
したがって、ステアリングラック部材の方向とクラッチが連結する方向とが一致していない構成でも、弾性体の復元力によってクラッチを連結させることができる。
【0092】
(応用例4)
第1実施形態では、タイヤ接地面内にキャスタトレイルを設定するものとし、その一例として、キャスタトレイルをゼロに近い値とする場合について説明した。
これに対し、本応用例では、キャスタトレイルの設定条件をタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までの範囲に限定するものとする。
(効果)
キャスタトレイルをタイヤ接地面中心からタイヤ接地面の前端までに設定すると、直進性の確保と操舵操作の重さの低減を両立できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0093】
(応用例5)
第1実施形態においては、図10に示す座標平面において、一点鎖線で囲んだ領域を設定に適する領域として例に挙げた。これに対し、注目するラック軸力の等値線を境界線とし、その境界線が示す範囲より内側の領域(キングピン傾角の減少方向でスクラブ半径の増加方向)を設定に適する領域とすることができる。
(効果)
ラック軸力の最大値を想定して、その最大値以下の範囲にサスペンションジオメトリを設定することができる。
【0094】
(応用例6)
第1実施形態および応用例1では、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用する場合を例に挙げて説明したが、ステアバイワイヤ方式ではなく、機械的な操舵機構の操舵装置を備える車両にサスペンション装置1Bを適用することが可能である。
この場合、キングピン軸を上記検討結果に基づく条件に従って決定し、キャスタトレイルをタイヤ接地面内に設定した上で、機械的な操舵機構のリンク配置をそれに合わせて構成する。
(効果)
機械的な構造を有する操舵機構においても、キングピン周りのモーメントを低減して運転者に要する操舵力をより小さいものとでき、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0095】
1 自動車、1A 車体、1B サスペンション装置、2 ステアリングホイール、3 入力側ステアリング軸、4 ハンドル角度センサ、5 操舵トルクセンサ、6 操舵反力アクチュエータ、7 操舵反力アクチュエータ角度センサ、8 転舵アクチュエータ、9 転舵アクチュエータ角度センサ、10 出力側ステアリング軸、11 転舵トルクセンサ、12 ピニオンギア、13 ピニオン角度センサ、14 ステアリングラック部材、15 タイロッド(転舵用リンク部材)、16 タイロッド軸力センサ、17FR,17FL,17RR,17RL 車輪、18 ブレーキディスク、19 ホイールシリンダ、20 圧力制御ユニット、21 車両状態パラメータ取得部、24FR,24FL,24RR,24RL 車輪速センサ、26 駆動回路ユニット、27 メカニカルバックアップ、27a アクチュエータ(ラック移動用アクチュエータ)、27b ラック移動軸(ラック移動部材)、27c 弾性体、27d クラッチ、27e 回転機構、32 車軸、33 アクスルキャリア、34 バネ部材、37 第1リンク(懸架用リンク部材)、38 第2リンク(懸架用リンク部材)、40 ショックアブソーバ、P1 車体側支持部(車体側支持部)、P2 移動軸側支持部(移動部材側支持部)、S 操舵装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両幅方向に移動するステアリングラック部材と、
操舵操作によって回転する入力側ステアリング軸と、
前記ステアリングラック部材を車両幅方向に移動させる出力側ステアリング軸と、
前記入力側ステアリング軸への操舵操作に応じて前記出力側ステアリング軸を回転させる転舵アクチュエータと、
前記ステアリングラック部材と車輪とを連結する転舵用リンク部材と、
前記転舵用リンク部材と並行して設置し、車体と車輪とを車両上下方向に揺動可能に連結する懸架用リンク部材と、
前記ステアリングラック部材を車両前後方向に移動させるラック移動手段と、
前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸との連結状態を切り替えるクラッチと、を有し、
前記ステアリングラック部材の移動条件が充足したとき、前記ラック移動手段は、前記ステアリングラック部材を、前記転舵用リンク部材との連結点が前記懸架用リンク部材に近づく方向に移動させ、前記クラッチは、前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸とを連結させることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
前記ラック移動手段は、
弾性体と、
車両前後方向に移動可能であり、一端で前記ステアリングラック部材に連結し、他端に前記弾性体を支持する移動部材側支持部を有するラック移動部材と、
前記ラック移動部材を車体に対して車両前後方向に移動させるラック移動用アクチュエータと、
前記ラック移動部材の前記移動部材側支持部と前記弾性体を挟んで対向して配置し、車体に固定した車体側支持部と、を有し、
前記ラック移動手段は、前記ラック移動用アクチュエータを駆動することで前記ステアリングラック部材を車両前後方向の一方に移動させると共に前記弾性体を弾性変形させることを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記ラック移動手段は、前記ラック移動用アクチュエータを駆動することで前記ステアリングラック部材を第1の位置に移動させると共に前記弾性体を弾性変形させ、
前記ステアリングラック部材は、前記ラック移動用アクチュエータが前記ステアリングラック部材を前記第1の位置から解放したときに、前記弾性体の弾性変形が復元することによって第2の位置に移動し、
前記クラッチは、前記ラック移動手段が前記第1の位置に前記ステアリングラック部材を移動したときに、前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸とを非連結状態とし、前記ステアリングラック部材が前記第2の位置に前記ステアリングラック部材を移動したときに、前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸とを連結状態とすることを特徴とする請求項2記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記クラッチは、前記ステアリングラック部材が前記第1の位置と前記第2の位置とを移動するときのストロークによって、前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸との連結状態を切り替えることを特徴とする請求項3記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
前記ステアリングラック部材および前記転舵用リンク部材は、前記懸架用リンク部材よりも車両前方側に位置し、
前記クラッチは、前記ラック移動手段が前記ステアリングラック部材を車両前方側に移動したときに、前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸とを非連結状態とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用操舵装置。
【請求項6】
前記ステアリングラック部材および前記転舵用リンク部材は、前記懸架用リンク部材よりも車両後方側に位置し、
前記クラッチは、前記ラック移動手段が前記ステアリングラック部材を車両後方側に移動したときに、前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸とを非連結状態とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用操舵装置。
【請求項7】
前記ステアリングラック部材の移動条件として、ステアリングバイワイヤシステムのフェール検出、前記入力側ステアリング軸と前記出力側ステアリング軸とを連結させる操作の入力、および前記ラック移動手段が備えるラック移動用アクチュエータの非導通状態の発生の少なくともいずれかが充足したとき、前記ラック移動手段は、前記ステアリングラック部材を、前記転舵用リンク部材との連結点が前記懸架用リンク部材に近づく方向に移動させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用操舵装置。
【請求項8】
車輪を転舵するステアリングラック部材を、移動条件が充足したときに車両前後方向の一方に移動させることにより、該ステアリングラック部材と車輪とを連結する転舵用リンク部材を、車体と車輪とを連結する懸架用リンク部材に対して、車輪に車両後方向きの力が入力したときにトーアウトとなる位置関係に変化させることを特徴とする車両用操舵装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−192840(P2012−192840A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58372(P2011−58372)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】