説明

車両用無段変速機

【課題】故障したセンサの検出値から求められた車速が変速制御に用いられることを未然に回避し、燃費や走行性の改善が図られた車両用無段変速機を提供する。
【解決手段】車速Vに応じて無段変速機構20の変速制御を行う変速制御装置50が、無段変速機構の出力部材26の回転速度NDRから求められた第1車速V1、及び車輪DRWの回転速度NABSから求められた第2車速V2を比較し、第1及び第2車速V1,V2のうち低速側の車速を代替車速Vsubとして選択する第1車速選択手段S5と、クラッチ機構5の出力側回転速度NELから求められた第3車速V3、及び代替車速Vsubを比較し、第3車速V3及び代替車速Vsubのうち高速側の車速を制御車速Vcとして選択する第2車速選択手段S6とを有して構成され、制御車速Vcを車速Vとして用いて変速制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力を変速して車輪側に伝達する変速機構と、車両の車速およびエンジンのスロットルやアクセルペダルの開度に応じて変速機構の変速制御を行う変速制御装置とを有して構成される車両用無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用無段変速機の変速制御については従来から種々提案されており、例えば車両の車速に応じてエンジン回転速度の目標値を設定し、実エンジン回転速度を目標値と一致させるように変速比を変更する制御を行うものや、同様に車両の車速に応じて無段変速機構の変速比の目標値を設定し、実変速比を目標値と一致させるように変速比を変更する制御を行うものが知られている。無段変速機には、車両の運転状態に応じた変速制御やその他の制御を行うため、エンジンから車輪に至る動力伝達経路を構成する回転部材の回転速度を検出するための多数のセンサが備えられている。
【0003】
なお、変速制御装置においては、動力伝達経路を構成する回転部材の回転速度から車両の車速を求め、求めた車速が変速制御で目標値を設定するために入力パラメータとして用いられており、一般には、無段変速機構の出力側であって発進制御等に用いられるクラッチ機構の出力側の回転部材の回転速度、すなわち車輪に伝達される直前の回転速度から車速が求められている。従来、車速を求めるための検出値を出力するセンサの故障を検知し、故障を検知すると他の回転部材の回転速度を検出するセンサの検出値から代替的に車速を求め、この車速を用いて変速制御を継続して行わせるバックアップ制御(フェールセーフ制御)を行う制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−74735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の形態によると、故障の発生後その故障が検知され、バックアップ制御が開始されてその作用が働くまでの間は、故障したセンサが検出値に基づいた運転状態に見合わない変速制御が行われる。このように、運転状態に見合わない変速比が設定されて車両が走行駆動されることにより、燃費の悪化や走行性の悪化を招くおそれがあった。特に、車輪の回転速度を検出するセンサは、変速機構の回転部材を用いて故障検知を行わないため、その時間が長く続く傾向にあった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、故障した車輪の回転速度を検出するセンサの検出値から求められた車速が変速制御に用いられることを未然に回避することにより、燃費や走行性の改善が図られた車両用無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、本発明に係る車両用無段変速機は、車両に搭載されてエンジンの出力を変速して車輪側に伝達する変速機構と、変速機構から車輪に至る動力伝達経路中に配設されて動力伝達経路を介した動力伝達を断接するクラッチ機構と、車両の車速およびエンジンのスロットル又はアクセルペダルの開度に応じて変速機構の変速制御を行う変速制御装置と、を有して構成される車両用無段変速機において、変速制御装置が、車輪の回転速度から求められた第1車速、および変速機構の出力部材の回転速度から求められた第2車速を比較し、第1および第2車速のうち低速側の車速を代替車速として選択する第1車速選択手段と、クラッチ機構の出力側回転速度から求められた第3車速、および代替車速を比較し、第3車速および代替車速のうち高速側の車速を制御車速として選択する第2車速選択手段と、を有して構成されており、制御車速を車両の車速として用いて変速制御を行うように構成されている。
【0008】
また、車輪の回転速度に応じて車輪に対する制動力を制御する制動制御装置を有して構成されることが好ましい。また、変速機構を、エンジンの出力を無段階に変速する無段変速機構とすることが好ましい。このとき、変速制御装置を、車両の車速およびエンジンのスロットル開度に応じてエンジン回転速度の目標値を設定し、実エンジン回転速度を目標値に一致させるように無段変速機構の変速比を変更する変速制御を行うように構成してもよい。また、変速制御装置を、車両の車速及びエンジンのスロットル開度に応じて無段変速機構の変速比の目標値を設定し、無段変速機構の入力部材および出力部材の回転速度から求められる実変速比を目標値に一致させるように無段変速機構の変速制御を行うように構成してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用無段変速機によると、無段変速機構の出力部材の回転速度を検出する検出器、車輪の回転速度を検出する検出器、無段変速機構と車輪の間に配設されたクラッチ機構の出力側部材の回転速度を検出する検出器に故障が発生しても、第1および第2車速選択手段を通じて異常値が制御車速として設定されることがなくなる。特に、第1および第2車速のうち低速側を代替車速として選択し、代替車速と第3車速のうち高速側を制御速度して選択しているため、無段変速機構の出力部材の回転速度を検出する検出器、車輪の回転速度を検出する検出器が正常値に対して高速側又は低速側の異常値を検出している場合や、クラッチ機構の出力側部材の回転速度を検出する検出器が正常値に対して高速側又は低速側の異常値を検出している場合に、異常値に基づいた変速制御が行われることが未然に回避される。このように、運転状態に見合わない変速比が設定されることがなくなるため、燃費や走行性の悪化が防止される。
【0010】
また、車輪の回転速度に応じて車輪に対する制動力を制御する制動制御装置を有して構成されることにより、車輪の回転速度を検出する検出器を変速制御と制動力の制御に共用することができるため、検出器の部品点数を増加させずコストの上昇を抑えた上で上記の効果を有した車両用無段変速機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に本発明に係る制御装置が搭載された四輪車両のパワーユニットPUの構成図を示している。この車両は、左右の前輪FW1,FW2が駆動輪DRWとされた二輪駆動車両であり、パワーユニットPUが、エンジンEおよび電気モータ・ジェネレータMを有したハイブリッド型の駆動源PWと、駆動源PWの出力を無段階に変速して駆動輪DRWに伝達する無段変速機TMとを有して構成されている。
【0012】
エンジンEは、シリンダブロック10に形成された各シリンダ室11,11,…内にピストンが配設されて構成されたレシプロエンジンであり、各シリンダ室11,11,…に対して吸排気を行わせる吸排気装置12と、各シリンダ室11,11,…に対する燃料を供給する燃料供給装置と13と、各シリンダ室11,11,…に供給された燃料を点火する点火装置(図示略)とを有して構成されている。電気モータ・ジェネレータMは、エンジン出力軸Es上に配設され、車両に搭載されたバッテリ(図示略)から電力供給されて駆動され、発進時や加速時にエンジンEの駆動力をアシストする。また、減速時には、駆動輪DRWからの回転駆動力により発電(エネルギー回生)を行い、バッテリの充電を行うように構成されている。
【0013】
無段変速機TMは、カップリング機構CPを介してエンジン出力軸Esに連結された入力軸1と、それぞれ入力軸1と平行に配設されたカウンタ軸2およびセカンダリ軸3と、入力軸1上に配設された前後進切換機構30と、入力軸1およびカウンタ軸2の間に配設された金属Vベルト機構20と、カウンタ軸2上に配設された発進クラッチ5と、カウンタ軸2およびセカンダリ軸3の間に配設された第1ギヤ列6と、セカンダリ軸3および差動機構8の間に配設された第2ギヤ列7とを有して構成されている。このように、入力軸1、前後進切換機構30、金属Vベルト機構20、カウンタ軸2、第1ギヤ列6、セカンダリ軸3および第2ギヤ列7から動力伝達経路が構成されている。
【0014】
金属Vベルト機構20は、入力軸1上に配設されたプーリ幅可変の駆動側プーリ21と、カウンタ軸2上に配設されたプーリ幅可変の従動側プーリ26と、両プーリ21,26の間に巻き掛けられた金属Vベルト25とを有して構成されている。駆動側プーリ21は、入力軸1に対して相対回転自在に設けられるとともに軸方向に固定された固定プーリ半体22と、固定プーリ半体22に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体23とを有して構成されている。可動プーリ半体23の側方にはシリンダ壁23aにより囲まれて駆動側シリンダ室24が形成されており、可動プーリ半体23は、駆動側シリンダ室24に供給される作動油の油圧に応じて軸方向に移動する。また、従動側プーリ26は、カウンタ軸2上に固定された固定プーリ半体27と、固定プーリ半体27に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体28とを有して構成されている。可動プーリ半体28の側方にはシリンダ壁28aにより囲まれて従動側シリンダ室29が形成されており、可動プーリ半体28は、従動側シリンダ室29に供給される作動油の油圧に応じて軸方向に移動する。両シリンダ室24,29に供給される作動油の油圧(変速制御油圧)を制御することにより、両プーリ21,26のプーリ溝幅が変化して金属Vベルト25の巻掛半径が変化し、変速比を無段階に変化させることができる。
【0015】
前後進切換機構30は、入力軸1に結合されたサンギヤ31と、固定プーリ半体22に結合されたリングギヤ32と、サンギヤ31およびリングギヤ32とともにシングルピニオン型の遊星歯車機構を構成するキャリア33と、サンギヤ31およびリングギヤ32を連結可能な前進クラッチ35と、キャリア33を固定保持可能な後進ブレーキ37とを有して構成されている。前進クラッチ35が係合されると、サンギヤ31、リングギヤ32およびキャリア33が入力軸1と一体に回転し、駆動源PWの駆動によって駆動側プーリ21が入力軸1と同じ方向(前進方向)に回転駆動される。一方、後進ブレーキ37が係合されると、キャリア33が固定保持されてリングギヤ32がサンギヤ31と逆方向に回転し、駆動源PWの駆動によって駆動側プーリ21が入力軸1と逆方向(後進方向)に回転駆動される。
【0016】
発進クラッチ5は、油圧作動式の多板クラッチであり、カウンタ軸2に結合された入力側部材5aと、カウンタ軸2上を相対回転自在に設けられて入力側部材5aと係合可能な出力側部材5bとを有して構成されている。第1ギヤ列6は、カウンタ軸5上を相対回転自在に設けられて発進クラッチ5の出力側部材5bに連結された第1駆動ギヤ6aと、セカンダリ軸3上に固定された第1従動ギヤ6bとが噛合されて構成されている。第2ギヤ列7は、セカンダリ軸3上に固定された第2駆動ギヤ7aと、差動機構8に連結された第2従動ギヤ7bとが噛合されて構成されている。発進クラッチ5は、動力伝達経路を介した動力伝達をカウンタ軸2および第1ギヤ列6の間で断接し、金属Vベルト機構20により変速されてカウンタ軸2に発生したエンジンEからの出力を、第1ギヤ列6の駆動ギヤ6aに伝達する。発進クラッチ5が係合されると、カウンタ軸2の出力が、第1ギヤ列6および第2ギヤ列7を介し、係合状態に応じた伝達率(滑り率)で差動機構8に伝達される。発進クラッチ5が解放されると、カウンタ軸2および第1ギヤ列6の間で動力伝達が行われず、無段変速機TMが中立状態になる。
【0017】
差動機構8は、伝達された出力を左右に分割し、左右のアクスルシャフト9a,9bを介して駆動輪DRWに伝達する。
【0018】
無段変速機TMには、無段変速機TMを構成する各油圧アクチュエータ(すなわち、両プーリ21,26、前進クラッチ35、後進ブレーキ37および発進クラッチ5)に作動油圧を供給するための油圧供給装置が備えられている。油圧供給装置は、オイルパン(図示略)に溜められた作動油を吐出する油圧ポンプ(図示略)と、油圧ポンプから吐出された作動油の油圧や供給方向を制御する制御弁CVとを有して構成されている。電磁弁である制御弁CVからは、油路41,42を介して両プーリ21,26のシリンダ室24,29に変速制御油圧PDR,PDNが供給され、油路43a,43bを介して前進クラッチ35や後進ブレーキ37に前後進制御油圧PFBが供給され、油路44を介して発進クラッチ5の油室に発進制御油圧PCLが供給される。
【0019】
車両には、車速Vやスロットルバルブの開度θTHに応じてエンジン回転速度Neの目標値を設定し、エンジン回転速度Neの実際値を目標値と一致させるように電磁制御弁CVを駆動制御して無段変速機TM(金属Vベルト機構20)の変速比を変更する変速制御を行う変速制御部52と、車速や車輪の回転速度に応じて車輪がスリップしていると判断されるときに、車輪のロックを回避させるように車輪の制動力を制御するABS制御部53とを有して構成された制御ユニット50が備えられている。このエンジン回転速度Neを目標値にするため、前後進切換機構30を介して入力軸1に連結された駆動側プーリ21の回転速度NDRの目標値が設定される。
【0020】
この車両には、車輪がスリップしている状態になると、車輪のロックが回避されるように制動装置BKから車輪に作用する制動力の制御を行うABS制御部51と、車両の車速Vや、運転者の加減速要求に応じて無段変速機TM(金属Vベルト機構20)の変速比を変更する変速制御を行う変速制御部52とを有して構成された制御ユニット50が搭載されている。
【0021】
また、車両には、各種の運転状態を検出して制御ユニット50に検出値を出力する複数のセンサが配設されている。例えば図1に示すように、駆動側プーリ21の回転速度NDRを検出する駆動側プーリ回転速度センサ61と、従動側プーリ26の回転速度NDNを検出する従動側プーリ回転速度センサ62と、金属Vベルト機構20および発進クラッチ5の出力側となるセカンダリ軸3の回転速度NELを検出するセカンダリ軸回転速度センサ63と、駆動輪DRWである左右の前輪FW1,FW2の回転速度NFW1,NFW2を検出する第1および第2駆動輪回転速度センサ64,65と、エンジンEの吸排気装置12に設けられて各シリンダ室11,11,…に対する吸気量を制御するスロットルバルブの開度θTHを検出する開度センサ66とが配設されている。このように、車両には、動力伝達経路を構成する回転部材や車輪の回転速度を検出するためのセンサが複数配設されているが、これらのセンサの検出値から、変速比や発進クラッチ5の滑り率を考慮して、車速Vや、動力伝達経路を構成する他の回転部材の回転速度に換算することができる。
【0022】
ABS制御部51は、第1および第2駆動輪回転速度センサ64,65により検出された左右の駆動輪DRWの回転速度NFW1,NFW2の差や比に応じて駆動輪がスリップしている状態であるか否かを判断し、判断結果に基づいて制動装置BKに対する供給油圧を調圧して車輪に作用する制動力の制御を行う。また、制御ユニット50は、従動側プーリ回転速度センサ62により検出された発進クラッチ5の入力側回転速度と、セカンダリ軸回転速度センサ63の検出値から求められたクラッチ5の出力側回転速度とに基づいて発進クラッチ5の入出力回転速度比(滑り率)の実際値を求め、この実際値を運転状態に応じて設定される目標値に一致させるように制御弁CVを駆動してクラッチ制御油圧PCLを調整し、発進クラッチ5の滑り率を適切に設定する制御を行うように構成されている。
【0023】
変速制御部52は、車両の車速Vやスロットル開度θTHに応じてエンジン回転速度や駆動側プーリ21の回転速度の目標値を求め、エンジン回転速度や駆動側プーリ21の回転速度の実際値をこの目標値に一致させるように制御弁CVを駆動して変速制御油圧PDR,PDNを調整し、金属Vベルト機構20の変速比を変更する制御を行う。
【0024】
以降では、図2を参照して、これら複数のセンサの検出値から求められた各車速の中から、変速制御の入力パラメータである車両の車速Vとして用いる制御車速Vcを選択する処理の内容について説明する。本構成例では、セカンダリ軸回転速度センサ63と、従動側プーリ回転速度センサ62と、第1および第2駆動輪回転速度センサ64,65との3種のセンサの検出値から求められた3つの車速V1〜V3から選択される。上記のように、これらのセンサ62〜65は、ABS制御部51により行われる制動力の制御や、発進クラッチ5の係合制御においてもその検出値が用いられている。
【0025】
図2に示すように、まず、第1および第2駆動輪回転速度センサ64,65が正常であるか否かの判断が行われる(ステップS1)。ここで、第1および第2駆動輪回転速度センサ64,65が両方とも正常であると判断されると、第2駆動輪回転速度センサ65により検出された右前輪FW2の回転速度NFW2の平均が車輪速NABSとして設定される(ステップS2)。なお、駆動輪回転速度センサ64,65の故障が検知されたときには、制御ユニット50には回転速度が0であることを示す信号が出力されるようになっており、第1および第2駆動輪回転速度センサ64,65のいずれかが故障していると判断されると、左前輪FW1の回転速度NFW1と右前輪FW2の回転速度NFW2の和が車輪速NABSとして設定される(ステップS3)。
【0026】
次に、設定された車輪速NABSから車両の車速(第1車速)V1が換算され、従動側プーリ回転速度センサ62により検出された従動側プーリ回転速度NDNから車両の車速(第2車速)V2が換算され、セカンダリ軸回転速度センサ63により検出されたセカンダリ軸3の回転速度NELから車両の車速(第3車速)V3が換算される(ステップS4)。なお、第1〜第3車速V1〜V3を求めるための各係数k1〜k3は、次元を変換するための係数や、第1および第2ギヤ列のギヤ比、発進クラッチ5の滑り率等に応じて設定される。
【0027】
そして、第1車速V1と第2車速V2とが比較されて低速側の車速が代替車速Vsubとして選択される(ステップS5)。さらに、選択された代替車速Vsubと第3車速V3とが比較されて高速側の車速が制御車速Vcとして選択される(ステップS6)。このようにして選択された制御車速Vcが変速制御においてエンジン回転速度や駆動側プーリ21の回転速度の目標値を設定するための入力パラメータとして用いられる。
【0028】
図3に上記処理を通じて選択される制御車速Vcを示している。なお、図3において、○は、対応するセンサが正常値を示す信号を出力している状態を示し、+は、正常値に対して高速側の異常値を示す信号を出力している状態を示し、−は、正常値に対して低速側の異常値を示す信号を出力している状態を示している。
【0029】
a欄に示すように、各センサ62〜65から正常値を示す信号が出力されているときには、代替車速Vsubと第3車速V3のうち高速側が制御車速Vcとして選択され、この制御車速Vcが車速Vとして用いられて変速制御が行われる。ここで、ステップS6において低速側の車速が制御車速Vcとして選択されるとすると、変速比がより低速段側に設定されるため、そのときの車速Vによってはアクセルペダルの操作に対する加減速が過敏になり、走行性に影響を与えるおそれがある。本構成例のように、ステップS6で高速側を制御車速Vcとして選択し、この制御車速Vcを車両の車速Vとして用いることにより、アクセルペダルの操作に対して加減速度が急変するおそれがなくなり、走行性の安定化が図られる。
【0030】
b欄に示すように、従動側プーリ回転速度NDNが正常値に対して高速側の異常値を示しているときには、正常値である車輪速NABSから求められた第1車速V1が代替車速Vsubとして選択され、制御車速Vcは、この代替車速Vsubと正常値であるセカンダリ軸回転速度NELから求められた第3車速V3とから選択される。したがって、異常値を示している従動側プーリ回転速度NDNに基づいて運転状態に見合わない変速比が設定されることがなくなり、燃費の悪化が防止される。c欄に示すように、車輪速NABSが正常値に対して高速側の異常値を示しているときにも同様にして、正常値である従動側プーリ回転速度NDNから求められた第1車速V1と、正常値であるセカンダリ軸回転速度NELから求められた第3車速V3とから制御車速Vcが選択される。
【0031】
d欄に示すように、従動側プーリ回転速度NDNが正常値に対して低速側の異常値を示しているときには、異常値から求められた第2車速V2が代替車速Vsubとして選択されるが、ステップS6で正常値であるセカンダリ軸回転速度NELから求められた第3車速V3が制御車速Vcとして選択されるため、異常値を示している従動側プーリ回転速度NDNに基づいて運転状態に見合わない変速比が設定されることがない。なお、e欄に示すように、車輪側NABSが正常値に対して低速側の異常値を示しているときにも、同様にして第3車速V3が制御車速Vcとして選択される。
【0032】
また、f欄に示すように、セカンダリ軸回転速度NELが正常値に対して低速側の異常値を示しているときには、正常値に基づく代替車速Vsub(V1あるいはV2)が制御車速Vcとして選択されるため、異常値を示しているセカンダリ軸回転速度NELに基づいて運転状態に見合わない変速比が設定されることがない。
【0033】
なお、g欄に示すように、セカンダリ軸回転速度NELが正常値に対して高速側の異常値を示しているときには、この異常値から求められた第3車速V3が制御車速Vcとして選択される。
【0034】
ここで、従動側プーリ回転速度センサ62、駆動輪回転速度センサ64,65、セカンダリ軸回転速度センサ63はそれぞれ、制御ユニット50に搭載された図示しない故障検知装置により、故障が発生して異常値を示す信号を出力している状態になっているか否かが検知される。故障検知装置は、故障を検知したときに、所定のフェールセーフ作動を行い、故障したセンサからの検出信号に基づいた制御が行われることによって運転状態が悪化することを防止する。例えば、上記のように2つのセンサが同時に故障して異常値に基づいて変速比が設定されたときには、故障検知装置により2つのセンサの故障が検知された後、車両の車速Vやスロットル開度θTHに関わらず金属Vベルト機構20の変速比を所定値(例えばロー)に固定するフェールセーフ作動を行う制御が行われる。
【0035】
本構成例においては、図3のg欄に示す状況を除くと、センサが異常値を示す信号を出力している状態であっても、その異常値が制御車速Vcとして選択されず、異常値を用いた変速制御が行われることがないため、センサの故障に応じたフェールセーフ作動を行わなくても、運転状態に見合った変速制御が継続して行われる。これにより、異常値を用いた制御によって車両の挙動の急変を招くようなことがなくなり、走行性が損なわれない。
【0036】
特に、第1および第2車速V1,V2のうち低速側を代替車速Vsubとして選択し、この代替車速Vsubと第3車速V3のうち高速側を制御車速Vcとして選択しており、このように高速側の車速を制御車速Vcとして選択することによって走行性の安定が図られている。本構成例によると、3種のセンサのうち駆動輪回転速度センサ64,65と従動側プーリ回転速度62が高速側に異常値を示す信号を出力している状態であっても、その異常値に基づいた変速制御が行われなくなるため、走行性の安定が図られた変速制御が継続して行うことができる。
【0037】
また、車速を求めるために利用された3種のセンサは、それぞれ変速制御だけでなく、車輪に対する制動力の制御や、発進クラッチの係合制御にも利用されている。このように、車速を求めるために設けられた複数のセンサがいずれも、車速を求めるために専用のセンサではなく、部品点数を増加させずコストの上昇を抑えた上で上記の効果を有する無段変速機TMや制御ユニット50を提供することができる。
【0038】
これまで、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記の構成に限られない。例えば、図2に示す処理は、複数のセンサの検出値を予め車速に換算して比較するものであったが、これらの検出値を、動力伝達部材を構成する所定の回転部材の回転速度に換算して比較し、比較結果の回転速度を車速に換算する処理を行っても、同じ結果が得られ、上記構成例と同様の効果が得られる。
【0039】
図4に上記変更例の処理内容を示している。まず、図2に示すステップS1〜S3と同様にして車輪速NABSを設定する(ステップS101〜S103)。次に、設定された車輪速NABSが、比較基準の回転部材となるカウンタ軸2の回転速度(第1回転速度)N1に換算され、従動側プーリ回転速度NDNが、同じく比較基準の回転部材となるカウンタ軸2の回転速度(第2回転速度)N2に換算される(ステップS104)。そして、第1回転速度N1と第2回転速度N2とが大小比較され(ステップS105)、低速側の回転速度が代替回転速度Nsubとして選択設定される(ステップS106,S107)。
【0040】
次いで、選択された代替回転速度Nsubが、比較基準の回転部材となるセカンダリ軸3の回転速度(換算代替回転速度)Nsub′に換算され、セカンダリ軸回転速度NELが、同じく比較基準の回転部材となるセカンダリ軸3の回転速度(第3回転速度)N3に換算される(ステップS108)。そして、第3回転速度N3と換算代替回転速度Nsub′とが大小比較され(ステップS109)、高速側の回転速度が制御回転速度Ncとして選択設定され(ステップS110,S111)、このように選択された制御回転速度Ncから制御車速Vcが求められる(ステップS112)。
【0041】
ここで、ステップS105での比較基準となる回転部材をカウンタ軸2とし、ステップS109での比較基準となる回転部材をセカンダリ軸3とした場合は、車輪速NABSから第1回転速度N1を換算するための係数k1が、第1および第2ギヤ列6,7のギヤ比および発進クラッチ5の滑り率に応じて設定され、従動側プーリ回転速度NDNから第2回転速度N2を換算するための係数k2が、従動側プーリ26がカウンタ軸2と一体回転する構成であるため1に設定され、代替回転速度Nsubから換算代替回転速度Nsub′を換算するための係数ksubが、発進クラッチ5の滑り率および第1ギヤ列のギヤ比に応じて設定され、セカンダリ軸回転速度NELから第3回転速度N3を換算するための係数k3が1に設定される。ただし、この変更例は一例を示すものであって、比較基準となる回転部材の設定は適宜選択可能であり、選択された回転部材に応じて係数k1〜k3,ksubも適宜設定変更される。
【0042】
また、ステップS5,S6,S105,S109における比較は、単純な大小比較に限られず、回転速度差や回転速度比が所定値を超えているか否かを判断するように構成してもよい。
【0043】
なお、上記の変速制御は、車両の車速Vおよびスロットル開度θTHに応じてエンジン回転速度や駆動側プーリ21の回転速度の目標値を設定し、実エンジン回転速度や駆動側プーリ21の回転速度の実際値をこの目標値に一致させるように金属Vベルト機構20の変速比を変更する制御を行うように構成されていたが、車両の車速Vおよびスロットル開度θTHに応じて金属Vベルト機構20の変速比の目標値を設定し、実変速比をこの目標値に一致させるように変速比を変更する制御を行うように構成してもよい。このとき、実変速比は、駆動側プーリ回転速度センサ61により検出された駆動側プーリ回転速度NDRと、従動側プーリ回転速度センサ62により検出された従動側プーリ回転速度NDNとから求めることができる。また、Vベルトを用いた無段変速機構に限られず、他の構成の無段変速機構に対しても同様に本発明を適用できる。さらに、必ずしもエンジンを出力を無段階に変速する変速機構に限らず、所定の変速段を段階的に設定する形態の変速機構に対しても同様に本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る無段変速機が設けられた車両のパワーユニットを示す構成図である。
【図2】制御速度を選択する処理を示すフローチャートである。
【図3】各センサの状態に応じて選択される制御回転速度を示す説明図である。
【図4】制御速度を選択する処理の変更例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
PW 駆動源
E エンジン
M 電気モータ・ジェネレータ
TM 無段変速機
DRW 駆動輪
1 入力軸
2 カウンタ軸
3 セカンダリ軸
5 発進クラッチ(クラッチ機構)
20 金属Vベルト機構(無段変速機構)
21 駆動側プーリ
26 従動側プーリ
50 制御ユニット
51 ABS制御部
52 変速制御部
62 従動側プーリ回転速度センサ
63 セカンダリ軸回転速度センサ
64,65 駆動輪回転速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されてエンジンの出力を変速して車輪側に伝達する変速機構と、
前記変速機構から前記車輪に至る動力伝達経路中に配設されて前記動力伝達経路を介した動力伝達を断接するクラッチ機構と、
前記車両の車速および前記エンジンのスロットル又はアクセルペダルの開度に応じて前記変速機構の変速制御を行う変速制御装置と、を有して構成される車両用無段変速機において、
前記変速制御装置は、
前記車輪の回転速度から求められた第1車速、および前記変速機構の出力部材の回転速度から求められた第2車速を比較し、前記第1および第2車速のうち低速側の車速を代替車速として選択する第1車速選択手段と、
前記クラッチ機構の出力側回転速度から求められた第3車速、および前記代替車速を比較し、前記第3車速および前記代替車速のうち高速側の車速を制御車速として選択する第2車速選択手段と、を有して構成されており、
前記制御車速を前記車両の車速として用いて変速制御を行うように構成されていることを特徴とする車両用無段変速機。
【請求項2】
前記車輪の回転速度に応じて前記車輪に対する制動力を制御する制動制御装置を有して構成される請求項1に記載の車両用無段変速機。
【請求項3】
前記変速機構が、エンジンの出力を無段階に変速する無段変速機構であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用無段変速機。
【請求項4】
前記変速制御装置は、前記車両の車速および前記エンジンのスロットル開度に応じてエンジン回転速度の目標値を設定し、実エンジン回転速度を前記目標値に一致させるように前記無段変速機構の変速比を変更する変速制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機。
【請求項5】
前記変速制御装置は、前記車両の車速および前記エンジンのスロットル開度に応じて前記無段変速機構の変速比の目標値を設定し、前記無段変速機構の入力部材および出力部材の回転速度から求められる実変速比を前記目標値に一致させるように前記無段変速機構の変速制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−75729(P2008−75729A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254683(P2006−254683)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】