説明

車両用舵角検出装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置

【課題】システムが停止する直前の絶対舵角の有効性を判断することができる車両用舵角検出装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】システム停止直前に絶対舵角演算手段で演算した絶対舵角を不揮発性メモリ19に記憶する絶対舵角記憶手段41と、システム起動時に不揮発性メモリに記憶された絶対舵角記憶値と相対舵角とにより絶対舵角暫定値を演算する暫定値演算手段35と、絶対舵角暫定値と車両モデルの特性とに基づいてセルフアライニングトルク基準値を演算するセルフアライニングトルク演算手段と、車両の実セルフアライニングトルクを検出する実セルフアライニングトルク検出手段37と、セルフアライニングトルク基準値と実セルフアライニングトルクとの差に基づいて前記絶対舵角暫定値が有効であるか否かを判定する有効性判定手段38とを少なくとも備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵輪を転舵するステアリング機構の相対舵角を検出する相対舵角検出手段と、該相対舵角検出手段で検出した相対舵角に基づいて前記ステアリング機構の絶対舵角を演算する絶対舵角演算手段とを備えた車両用舵角検出装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車、トラック等の車両では、ステアリング装置として運転者がステアリングホイールを操舵する操舵トルクに応じて電動モータを駆動することによりステアリング機構に操舵補助力を与えて運転者の操舵力を軽減する電動パワーステアリング装置が普及している。
この種の電動パワーステアリング装置では、車両の操縦安定性と快適性を確保するため、ステアリングホイールの操舵角度を用いた制御機能が多く開発されており、車両が始動してから素早く操舵角度に基づく制御機能を発揮するために、操舵角度をなるべく早く検出することが要求されている。
【0003】
そして、ステアリングホイールの絶対回転位置を正確に検出するために、従来、ステアリングホイールと、このステアリングホイールに連結されたステアリング軸の回転角である第1操舵角を検出する第1レゾルバと、この第1レゾルバと異なる対極数を有し前記ステアリング軸の回転角である第2操舵角を検出する第2レゾルバと、前記ステアリング軸に連結された操舵機構による操舵を減速機を介してアシストするモータと、このモータの回転角であるモータ電気角を検出する第3レゾルバとを備え、前記第1操舵角、前記第2操舵角および前記モータ電気角からステアリングホイールの絶対回転角位置を求めるようにした電気式動力舵取装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、自身のニュートラル位置に基づいてステアリングホイールの絶対操舵角を検出し、イグニッションスイッチがOFFされるとその瞬間における絶対操舵角をメモリに記憶し、次にイグニッションスイッチがONされたときに記憶された値に基づいて絶対舵角を検出するようにした操舵角検出装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3875202号公報(第1頁、図2)
【特許文献2】特許第2946964号公報(第1頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来例にあっては、少なくとも3つのレゾルバを必要とするので、構成が複雑となり、コストアップとなるという未解決の課題がある。
また、上記特許文献2に記載された従来例にあっては、イグニッションスイッチがOFFにされる瞬間の絶対舵角をメモリに記憶し、次にイグニッションスイッチがONとなったときに、記憶された値を絶対舵角として電動パワーステアリング装置の制御に使用するようにしているので、例えばイグニッションスイッチがOFFとなっている間にステアリングホイールが転舵された場合には、誤った絶対舵角に基づいて制御が開始されてしまうことになり、正確な制御を行うことができないという未解決の課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、システムが停止する直前の絶対舵角の有効性を判断することができる車両用舵角検出装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る車両用舵角検出装置は、車両の転舵輪を転舵するステアリング機構の相対舵角を検出する相対舵角検出手段と、該相対舵角検出手段で検出した相対舵角に基づいて前記ステアリング機構の絶対舵角を演算する絶対舵角演算手段とを備えた車両用舵角検出装置であって、システム停止直前に前記絶対舵角演算手段で演算した絶対舵角を不揮発性メモリに記憶する絶対舵角記憶手段と、システム起動時に前記不揮発性メモリに記憶された絶対舵角記憶値と前記相対舵角とにより絶対舵角暫定値を演算する暫定値演算手段と、前記絶対舵角暫定値と車両モデルの特性とに基づいてセルフアライニングトルク基準値を演算するセルフアライニングトルク演算手段と、前記車両の実セルフアライニングトルクを検出する実セルフアライニングトルク検出手段と、前記セルフアライニングトルク基準値と前記実セルフアライニングトルクとの差が所定値以下であるときに前記絶対舵角暫定値が有効であると判定し、前記セルフアライニングトルク基準値と前記実セルフアライニングトルクとの差が所定値を超えているときに前記絶対舵角暫定値が無効であると判定する有効性判定手段とを少なくとも備えたことを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に係る車両用舵角検出装置は、車両の転舵輪を転舵するステアリング機構の相対舵角を検出する相対舵角検出手段と、該相対舵角検出手段で検出した相対舵角に基づいて前記ステアリング機構の絶対舵角を演算する絶対舵角演算手段とを備えた車両用舵角検出装置であって、システム停止直前に前記絶対舵角演算手段で演算した絶対舵角を不揮発性メモリに記憶する絶対舵角記憶手段と、システム起動時に前記不揮発性メモリに記憶された絶対舵角記憶値と前記相対舵角とに基づいて絶対舵角暫定値を演算する絶対舵角暫定値演算手段と、車両の実セルフアライニングトルクを検出するセルフアライニングトルク検出手段と、前記実セルフアライニングトルクと車両の逆モデル特性とに基づいて絶対舵角推定値を推定する絶対舵角推定手段と、前記絶対舵角暫定値と前記絶対舵角推定値との差が所定値以下であるときに前記絶対舵角暫定値が有効であると判定し、前記絶対舵角暫定値と前記絶対舵角推定値との差が所定値を超えているときに前記絶対舵角暫定値が無効であると判定する有効性判定手段とを少なくとも備えていることを特徴としている。
【0009】
さらに、請求項3に係る車両用舵角検出装置は、請求項1又は2に係る発明において、前記絶対舵角演算手段は、操舵角の中立点を検出する中立点検出手段と、システム起動後に前記中立点検出手段で操舵角中立点を検出し、且つ検出した舵角中立点と前記相対舵角検出手段で検出した相対舵角とに基づいて絶対舵角演算値を使用可能となったときに、当該絶対舵角演算値を前記絶対舵角暫定値に代えて前記絶対舵角として選択する舵角選択手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
さらにまた、請求項4に係る車両用舵角検出装置は、請求項3に係る発明において、前記舵角選択手段は、前記絶対舵角暫定値に代えて絶対舵角演算値を選択する場合に、当該絶対舵角暫定値から前記絶対舵角演算値への変更を徐々に行う徐変手段を有することを特徴としている。
なおさらに、請求項5に係る車両用舵角検出装置は、請求項1乃至4の何れか1つに係る発明において、前記絶対舵角記憶手段は、システム起動時からシステム停止時迄の間に前記絶対舵角演算値を演算できないときに、当該システム停止直前に前記絶対舵角暫定値を前記絶対舵角として不揮発性メモリに記憶するように構成されていることを特徴としている。
【0011】
また、請求項5に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用舵角検出装置を備え、当該車両用舵角検出装置で検出した絶対舵角に基づいて操舵補助制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、システムの停止直前の絶対舵角を不揮発性メモリに記憶し、システムの起動時に不揮発性メモリに記憶した絶対舵角を絶対舵角初期値として設定し、絶対舵角初期値と相対舵角とにより絶対舵角暫定値を演算し、この絶対舵角暫定値の有効性をセルフアライニングトルクに基づいて判定するようにしたので、複数のセンサを使用することなく、システム起動時により正確な絶対舵角を演算することができるという効果が得られる。
【0013】
また、上記効果が得られる車両用舵角検出装置を使用して操舵補助制御を行うことにより、操縦安定性をより確保することができる電動パワーステアリング装置を提供することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す全体構成図であって、図中、1は操舵装置であり、この操舵装置1はステアリングホイール2が装着されたステアリングシャフト3と、このステアリングシャフト3のステアリングホイール2とは反対側に連結されたラックピニオン機構4と、このラックピニオン機構4にタイロッド等の連結機構5を介して連結された左右の転舵輪6とを備えている。
【0015】
そして、ステアリングシャフト3には、例えばウォームギヤで構成される減速機構7を介して電動モータ8が連結されている。
この電動モータ8は、電動パワーステアリング装置の操舵補助力を発生する操舵補助力発生用モータとして動作する。そして、電動モータ8は車両に搭載されたバッテリ11から出力されるバッテリ電圧Vbがイグニッションスイッチ12を介して供給されると共に、内蔵するモータ駆動回路に直接供給される制御装置14によって駆動制御される。
【0016】
この制御装置14には、電動モータ8に供給されるモータ駆動電流を検出するモータ電流センサ15で検出したモータ電流検出値Imd、ステアリングシャフト3に配設された操舵トルクセンサ16で検出されたステアリングホイール2に入力される操舵トルクTが入力されていると共に、車速検出部としての車速センサ17で検出した車速Vsが入力され、さらに電動モータ8の回転角を検出するモータ回転角センサ18で検出したモータ回転角θmが入力されている。
【0017】
また、制御装置14は、イグニッションスイッチ12がオフ状態後も所定時間投入電源の自己保持を継続する自己保持機能を有し、後述する絶対舵角演算部で演算した絶対舵角φaをシステムの停止時即ちイグニッションスイッチ12がオフ状態となった時点で絶対舵角記憶値φamとして記憶する例えばEEPROMで構成される不揮発性メモリ19が接続されている。
【0018】
ここで、操舵トルクセンサ16は、ステアリングホイール2に付与されてステアリングシャフト3に伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを図示しない入力軸及び出力軸間に介挿したトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を磁気信号で検出し、それを電気信号に変換するように構成されている。
制御装置14は、例えばマイクロコンピュータで構成され、その構成は機能ブロック図で表すと図2に示すようになる。すなわち、制御装置14は、モータ電流センサ15で検出したモータ電流検出値Imd、操舵トルクセンサ16で検出した操舵トルクT、車速センサ17で検出した車速Vs及びモータ回転角センサ18で検出したモータ回転角θmが入力されると共に、不揮発性メモリ19に記憶されている前回の操舵補助制御の終了直前の絶対舵角記憶値φamが読込可能とされている。
【0019】
そして、制御装置14は、操舵トルクT、車速Vs、モータ回転角θm及絶対舵角記憶値φamが入力され、これらに基づいて絶対舵角φaを演算する車両用舵角検出装置20と、操舵トルクT及び車速Vsに基づいて電動モータ8に対する操舵補助電流指令値Irefを演算する電流指令値演算部21と、この電流指令値演算部21で算出された操舵補助電流指令値Irefとモータ電流検出部15で検出されたモータ電流検出値Imdとに基づいて電流フィードバック処理を行って電圧指令値Vrefを算出する電流フィードバック制御部22と、この電流フィードバック制御部22で算出された電圧指令値Vrefが入力されて電動モータ8を駆動制御するモータ駆動回路23と備えている。
【0020】
また、制御装置14は、車両用舵角検出装置20で演算した絶対舵角φaを微分して絶対舵角速度ωaを算出する微分回路24と、車両用舵角検出装置20で演算した絶対舵角φa、微分回路24で演算した絶対舵角速度ωa及び車速Vsに基づいて転舵状態でステアリングホイール2への操舵力を緩めたときにステアリングホイール2を中立点位置に戻す所謂ステアリング戻し制御を行うステアリング戻し制御部25と、このステアリング戻し制御部25で算出したステアリング戻し制御信号HRと電流指令値演算部21から出力される電流指令値Irefとを加算して電流フィードバック制御部22に供給する加算器26とを備えている。
【0021】
車両用舵角検出装置20は、図3に示すように、モータ回転角センサ18で検出したモータ回転角θmが入力され、これに基づいてステアリングホイール2の相対舵角φrを演算する相対舵角演算部31と、この相対舵角演算部31で演算した相対舵角φrを微分して舵角速度ωrを演算する舵角速度演算部32と、操舵トルクT、車速Vs、相対舵角φr及び舵角速度ωrが入力されて直進走行時のステアリングホイール2の中立点舵角φnを推定する中立点推定部33と、相対舵角φrから中立点推定部33で推定された中立点舵角φnを減算して絶対舵角演算値φaoを算出する絶対舵角演算部34とを備えている。
【0022】
ここで、中立点推定部33は、図4に示すように、操舵トルクT、舵角速度ωr及び車速Vsが入力されてこれらに基づいて直進走行状態であるか否かを判定する直進走行状態判定部33aと、この直進走行状態判定部33aの判定結果が直進走行状態であるときには、相対舵角φr及び車速Vsに基づいて中立点舵角φnを演算する中立点舵角演算部33bとで構成されている。直進走行状態判定部33aは、操舵トルクTが予め設定された直進走行の可能性が高い閾値Tth以下であり、且つ舵角速度ωrが予め設定された直進走行の可能性が高い閾値ωth以下であり、且つ車速Vsが直進走行の可能性が高い車速閾値Vsth以上である状態を所定時間継続したときに、直進走行状態を表す論理値“1”の直進信号Stを中立点舵角演算部33bに出力すると共に、システム起動時即ちイグニッションスイッチ12を介して制御装置14に電源が投入された後に最初に直進走行状態となるまでの間後述する舵角切換部40に対して中立点確定フラグFnを“0”にリセットし、最初に直進走行状態となったときに中立点確定フラグFnを“1”にセットする。
【0023】
中立点舵角演算部33bでは、直進走行状態判定部33aから論理値“1”の直進信号Stが入力されたときに、下記(1)式の演算を行って現在の中立点舵角φn(k)を算出する。
φn(k)={φr−φn(k−1)}・D+φn(k−1) …………(1)
【0024】
ここで、φrは相対舵角、φn(k−1)は前回の中立点舵角、Dは車速Vsによって決定される信頼度係数である。この信頼度係数Dは、車速Vsをもとに図5に示す信頼度係数算出マップを参照して算出する。この信頼度係数算出マップは、図5に示すように、車速Vsを横軸に、信頼度係数Dを縦軸にとった特性線図で表され、車速Vsが設定車速Vss1未満であるときにはD=0、車速Vsが設定車速Vss1以上で設定車速Vss2未満であるときにD=1、車速Vsが設定車速Vss2以上で設定車速Vss3未満であるときにD=2、車速Vsが設定車速Vss3以上で設定車速Vss4未満であるときにD=3、車速Vsが設定車速Vss4以上設定車速Vss5未満であるときにD=4、車速Vsが設定車速Vss5以上であるときにはD=5となるように設定されている。なお、信頼度係数算出マップは上記構成に限定されるものではなく、線形特性或いは非線形特性とすることができる。
【0025】
また、車両用舵角検出装置20は、システム起動時即ちイグニッションスイッチ12がオン状態となって制御装置14に電源が投入されたときに不揮発性メモリ19から読出した絶対舵角記憶値φamに相対舵角φrを加算して絶対舵角暫定値φapを演算する暫定値演算部35と、この暫定値演算部35で演算した絶対舵角暫定値φapが無効であるときに予め設定された絶対舵角代替値φaaを出力する絶対舵角代替値出力部36とを備えている。
【0026】
さらに、車両用舵角検出装置20は、車両の実セルフアライニングトルクSATrを検出する実セルフアライニングトルク検出部37と、この実セルフアライニングトルク検出部37で検出した実セルフアライニングトルクSATrと車速Vsとに基づいて絶対舵角暫定値φapが有効であるか無効であるかを判定する有効性判定部38と、この有効性判定部38の判定結果に基づいて絶対舵角暫定値φap及び絶対舵角代替値φaaの一方を選択する絶対舵角選択部39とを備えている。
【0027】
ここで、実セルフアライニングトルク検出部37は、操舵トルクセンサ16から入力される操舵トルクT、モータ回転角センサ18で検出されたモータ回転角θmを微分してモータ回転角速度ωmを算出するモータ回転角速度演算部19aから入力されるモータ回転角速度ωmと、このモータ回転角速度ωmを微分してモータ回転角加速度αmを算出するモータ回転角加速度演算部19bから入力されるモータ回転角加速度αmと、電流指令値演算部21から出力される電流指令値Irefとが入力され、これらに基づいて下記(2)式の演算を行うことにより、路面側から転舵輪6を介してステアリング機構に入力される実セルフアライニングトルクSATrを演算する。
【0028】
SATr(s) = Tm(s) + T(s) − J・αm(s) − Fr・sign(ωm(s)) …………(2)
【0029】
ここで、Tm(s)は電動モータ8で発生するアシストトルク、T(s)は操舵トルク、Jは電動モータ8の慣性、Frは電動モータ8の静摩擦、sはラプラス演算子である。なお、アシストトルクTm(s)は操舵補助電流指令値Irefに比例するので、アシストトルクTmに代えて操舵補助電流指令値Irefを適用する。
【0030】
また、有効性判定部38は、後述する(3)式に示すように、車速Vsに基づいて算出される車両モデルGv(s)に絶対舵角暫定値φapを乗算することにより、セルフアライニングトルク基準値SATmを演算し、入力される実セルフアライニングトルクSATrと演算したセルフアライニングトルク基準値SATmとの差の絶対値|SATr−SATm|が設定閾値ΔSATth以下である状態を所定時間継続したときに絶対舵角暫定値φapが有効であると判断して絶対舵角選択部39に対する選択フラグFsを絶対舵角暫定値φapを選択する“1”にセットし、|SATr−SATm|が設定閾値ΔSATthを超える状態を所定時間継続したときに絶対舵角暫定値φapが無効であると判断して絶対舵角選択部39に対する選択フラグFsを絶対舵角代替値φaaを選択する“0”にリセットする。
【0031】
このため、有効性判定部38では、図7に示す有効性判定処理を実行する。この有効性判定処理は制御装置14に電源が投入されることにより実行開始され、図7に示すように、先ず、ステップS11で、初期化を行い、後述するカウント値Cnt1及びCnt2を“0”にクリアすると共に、選択フラグFsを“0”にリセットする。
次いでステップS12に移行して、車速Vs、実セルフアライニングトルクSATr、絶対舵角暫定値φapを読込み、次いでステップS12aに移行して、車両の停止時で且つステアリングホイール2を操舵しない非操舵時である条件を満足するか否かを判定し、上記条件を満足する場合には前記ステップS12に戻り、条件を満足しない場合にはステップS13に移行する。
【0032】
このステップS13では、下記(3)式の演算を行ってセルフアライニングトルク基準値SATmを算出する。
SATm=Gv(s)*φap …………(3)
【0033】
ここで、Gv(s)は車両のステアリング機構におけるセルフアライニングトルクを算出するための車両モデルであって、車速Vsに基づいて設定される特性を有し、車両特性の伝達関数を使用して演算するか、実験によって車両毎の特性値を測定してから車両運動モデルを用いてシミュレーションによって求めてもよく、この場合には車速Vsを横軸に車両モデルGv(s)を縦軸にとった車両モデル算出マップを、車速Vsをもとに参照して算出するようにすることが好ましい。
【0034】
次に、車両モデルGv(s)を使用して、絶対舵角から実セルフアライニングトルクSATrを演算できることについて説明する。
車両の運動方程式は、下記(4)式で表される。
【0035】
【数1】

【0036】
但し、mは車両質量、Iは車両慣性モーメント、lfは車両重心点と前軸間の距離、Irは車両重心点と後軸間の距離、Kfは前輪タイヤのコーナリングパワー、Krは後輪タイヤのコーナリングパワー、Vは車速、Nはオーバーオール操舵比、δfは実舵角(δf=φ/N)、βは車両重心点の横すべり角、γはヨーレートである。
【0037】
一方、実舵角δfとセルフアライニングトルクSATとの関係は、横滑り角β及びヨーレートγを含む下記(5)式の方程式で表すことができる。
【0038】
【数2】

【0039】
但し、εをトレールとして、係数c11=−2εKf、c12=−2εKff/V、d11=2εKfである。
そして、前述した(4)式及び(5)式を連立方程式として解き且つ実舵角δfを絶対舵角暫定値φapに置換することにより、前述した(3)式を算出することができる。
【0040】
次いでステップS14に移行して、セルフアライニングトルク基準値SATmから実セルフアライニングトルクSATrを減算した値の絶対値|SATm−SATr|が設定閾値ΔSATth以下であるか否かを判定し、|SATm−SATr|≦ΔSATthであるときにはステップS15に移行して、有効性の継続回数をカウントする現在の第1のカウント値Cnt1に“1”をインクリメントした値を新たなカウント値Cnt1として設定すると共に、第2のカウント値Cnt2を“0”にクリアしてからステップS16に移行する。
【0041】
このステップS16では、第1のカウント値Cnt1が予め設定した設定値Cs1を超えたから否かを判定し、Cnt1≦Cs1であるときには前記ステップS12に戻る。
また、ステップS16の判定結果が、Cnt1>Cs1であるときには、ステップS18に移行して、選択フラグFsを“1”にセットして絶対舵角選択部39に出力してから処理を終了する。
【0042】
また、前記ステップS14の判定結果が、|SATm−SATr|>ΔSATsであるときにはステップS19に移行して、現在の第2のカウント値Cntに“1”を加算した値を新たな第2のカウント値Cnt2(=Cnt2+1)とすると共に、第1のカウント値Cnt1を“0”にクリアしてからステップS20に移行する。
このステップS20では、第2のカウント値Cnt2が予め設定した設定値Cs2を超えたか否かを判定し、Cnt2≦Cs2であるときには前記ステップS12に戻る。
【0043】
また、前記ステップS20の判定結果がCnt2>Cs2であるときにはステップS22に移行して選択フラグFsを“0”にリセットしてから処理を終了する。
この図7の処理において、ステップS13の処理がセルフアライニングトルク演算手段に対応している。
【0044】
絶対舵角選択部39は、有効性判定部38から入力される選択フラグFsが“1”にセットされているときには、絶対舵角暫定値演算部35で演算された絶対舵角暫定値φapを選択し、これを絶対舵角暫定選択値φasとして舵角切換部40に出力し、選択フラグFsが“0”にリセットされているときには、絶対舵角代替値出力部36から出力される絶対舵角代替値φaaを選択し、これを絶対舵角暫定選択値φasとして舵角切換部40に出力する。
【0045】
さらにまた、車両用舵角検出装置20は、前述した中立点推定部33で設定される中立点確定フラグFnに基づいて絶対舵角演算値φao及び絶対舵角選択部39で選択された絶対舵角選択値φasの一方を選択して絶対舵角φaとして出力する舵角切換部40と、システム停止直前即ちイグニッションスイッチ12がオフ状態となる直前の舵角切換部40から出力される絶対舵角φaを不揮発性メモリ19に絶対舵角記憶値φamとして記憶する絶対舵角記憶部41とを備えている。
【0046】
舵角切換部40は、前述した中立点推定部33から入力される中立点確定フラグFnが“0”にリセットされているときには絶対舵角選択部39から入力される絶対舵角暫定選択値φasを選択し、これを絶対舵角φaとして微分回路24及びステアリング戻し制御部25に出力する。また、中立点確定フラグFnが“1”にセットされているときには、絶対舵角演算部34から入力される絶対舵角演算値φaoを選択し、これを絶対舵角φaとして微分回路24及びステアリング戻し制御部25に出力する。このとき、中立点確定フラグFnが“0”から“1”に反転したときには、それまでの絶対舵角暫定選択値φasとして絶対舵角代替値φaaが選択されていたか否かを判定し、絶対舵角代替値φaaが選択されていたときには直ちに絶対舵角演算値φaoに切換え、絶対舵角暫定値φapが選択されていたときには、絶対舵角暫定値φapと絶対舵角演算値φaoとの差|φap−φao|が設定値Δφs未満であるときには直ちに絶対舵角演算値φaoに切換え、絶対舵角暫定値φapと絶対舵角演算値φaoとの差|φap−φao|が設定値Δφs以上であるときには、絶対舵角暫定値φapを絶対舵角演算値φaoに徐々に変化させる。
【0047】
このため、舵角切換部40では、図8に示す舵角切換処理を実行する。この舵角切換処理は、先ず、ステップS31で、中立点推定部33から入力される中立点確定フラグFnが“1”にセットされているか否かを判定し、中立点確定フラグFnが“0”にリセットされているときにはステップS32に移行して、絶対舵角選択部39から入力される絶対舵角暫定選択値φasを絶対舵角φaとして出力し、中立点確定フラグFnが“1”にセットされているときにはステップS33に移行する。
【0048】
このステップS33では、前回の絶対舵角暫定選択値φasが絶対舵角代替値φaaであるか否かを判定し、絶対舵角代替値φaaであるときにはステップS34に移行して絶対舵角演算部34で演算された絶対舵角演算値φaoを絶対舵角φaとして出力してから処理を終了する。
また、ステップS33の判定結果が、前回の絶対舵角暫定選択値φasが絶対舵角暫定値φapであるときにはステップS36に移行する。
【0049】
このステップS36では、現在の絶対舵角暫定値φapと絶対舵角演算値φaoとの差|φap−φao|が設定値Δφs以上であるか否かを判定し、|φap−φao|<Δφsであるときには前記ステップS34に移行し、|φap−φao|≧ΔφsであるときにはステップS37に移行する。
このステップS37では、現在の絶対舵角暫定値φapが絶対舵角演算値φaoより大きいか否かを判定し、φap>φaoであるときにはステップS38に移行して、現在の絶対舵角暫定値φapから所定値Δφs1を減算した値を現在の絶対舵角暫定値φap(=φap−Δφs1)として算出し、次いでステップS39に移行して、算出した絶対舵角暫定値φapが絶対舵角演算値φao以下であるか否かを判定し、φap>φaoであるときにはステップS40に移行して、絶対舵角暫定値φapを絶対舵角φaとして出力してから前記ステップS31に戻る。
【0050】
また、前記ステップS39の判定結果が、φap≦φaoであるときには前記ステップS34に移行する。
さらに、前記ステップS37の判定結果が、φap<φaoであるときには、ステップS42に移行して、現在の絶対舵角暫定値φapに所定値Δφs1を加算した値を現在の絶対舵角暫定値φap(=φap+Δφs1)として算出し、次いでステップS43に移行して、算出した絶対舵角暫定値φapが絶対舵角演算値φao以上であるか否かを判定し、φap<φaoであるときには前記ステップS40に移行して、絶対舵角暫定値φapを絶対舵角φaとして出力する。また、前記ステップS43の判定結果が、φap≧φaoであるときには前記ステップS34に移行する。
【0051】
さらに、車両用舵角検出装置20は図6に示す絶対舵角演算処理を実行する。この絶対舵角演算処理は、先ず、ステップS1で、中立点確定フラグFnが“1”にセットされているか否かを判定し、これが“1”にセットされているときには処理を終了し、中立点客体フラグFnが“0”にリセットされているときには、ステップS2に移行して、イグニッションスイッチ12をオフ状態からオン状態に反転させた初期状態であるか否かを判定し、初期状態であるときにはステップS3に移行して、不揮発性メモリ19から絶対舵角記憶値φamを読込む。
【0052】
次いでステップS4に移行して、相対舵角φrを読込み、次いでステップS5に移行して、絶対舵角記憶値φamに相対舵角φrを加算して絶対舵角暫定値φapを算出し、次いでステップS6に移行して、選択フラグFsが“1”にセットされているか否かを判定し、選択フラグFsが“1”にセットされているときには、ステップS7に移行して絶対舵角暫定値φapを絶対舵角選択値φasとして出力し、選択フラグFsが“0”にリセットされているときにはステップS8に移行して、予め設定された絶対舵角代替値φaaを絶対舵角選択値φasとして出力する。
【0053】
絶対舵角記憶部41は、イグニッションスイッチ12がオフ状態となったときに舵角切換部40から出力される絶対舵角φaを不揮発性メモリ19の所定記憶領域に更新記憶する。
さらに、ステアリング戻し制御部25では、図9に示すように、絶対舵角φaに基づいて所定関数でハンドル戻し基本電流値Irを出力するハンドル戻し基本電流回路50と、車速Vsを入力して所定関数により車速Vsに応じたゲインKvを出力するゲイン回路51と、ステアリング戻し基本電流回路50からのステアリング戻し基本電流値Irとゲイン回路51からのゲインKvとを乗算する乗算器52と、乗算器52からの出力Ir・Kvを接点a又はbに切換えて出力するスイッチ53と、スイッチ53が接点b側に切換えられたときの出力を0とする零出力回路54と、絶対舵角φa及び絶対舵角速度ωaを入力し、両者の符号の一致又は不一致を判定する符号判定回路55とで構成されている。
【0054】
符号判定回路55は、判定信号としてスイッチ信号SWを出力してスイッチ53の接点を切換えるが、絶対舵角φa及び舵角速度ωaの符号が一致したときにスイッチ信号SWで接点bに切換える。また、スイッチ53の接点a,bは、舵角速度ωaが零となったことを検出する回路(図示せず)からも切換えられるように構成されている。そして、スイッチ53で選択された乗算器52からの出力Ir・Kv又は零出力回路54の“0”出力がステアリング戻し電流HRとして加算器26に供給される。
【0055】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
今、車両が停止していて、イグニッションスイッチ12がオフ状態であるものとする。この状態では、制御装置14を構成するマイクロコンピュータにバッテリ11からのバッテリ電圧Vbが供給されないので、制御装置14を構成するマイクロコンピュータは停止状態にあり、電動モータ8が停止してステアリングシャフト3への操舵補助力の伝達は行われない。
【0056】
この車両停止状態から、イグニッションスイッチ12をオン状態とすると、制御装置14のマイクロコンピュータにバッテリ電圧Vbが供給されることにより、制御装置14のマイクロコンピュータが作動状態となって、図3のモータ電流センサ15、絶対舵角演算部20、電流指令値演算部21、電流フィードバック制御部22、モータ駆動回路23、ステアリング戻し制御部25及び加算器26による操舵補助制御処理、図6に示す絶対舵角演算処理、図7に示す有効性判定処理及び図8に示す舵角切換処理が実行開始される。
【0057】
このため、車両用舵角検出装置20では、イグニッションスイッチ12がオン状態となることにより、中立点推定部33の直進走行状態判定部33aで直進走行状態であるか否かの判定を行うが、車両が停止状態であるので、少なくとも車速Vsが車速閾値Vsth未満となるので、中立点確定フラグFnが“0”にリセットされた状態を維持すると共に、直進信号Stが論理値“0”となり、中立点舵角演算部33bで中立点舵角φnが算出されない。
【0058】
また、電流指令値演算部21では、ステアリングホイール2が操舵されていないものとすると、操舵トルクセンサ16で検出される操舵トルクTが略“0”となり、車速センサ17で検出される車速Vsも略“0”であるので、算出される操舵補助電流指令値Irefも“0”となる。
一方、ステアリング戻し制御部25では絶対舵角速度ωaが“0”であることからスイッチ53の接点がb側に切換えられて零出力回路54から出力される“0”のステアリング戻し電流HRが加算器26に供給される。
【0059】
このため、加算器26の加算出力は“0”となり、これが電流フィードバック制御部22に供給され、このとき電動モータ8は停止状態であるので、モータ電流センサ15で検出されるモータ駆動電流Imdも“0”となるので、電流フィードバック制御部22から出力される電圧指令値Vrefも“0”となり、モータ駆動回路23から出力されるモータ駆動電流Imも“0”となって、電動モータ8は停止状態を継続する。
【0060】
この状態で、図6に示す絶対舵角暫定値演算処理が実行されているので、中立点確定フラグFnが“0”にリセットされているので、ステップS1からステップS2に移行し、イグニッションスイッチ12がオフ状態からオン状態となったばかりの初期状態であるので、ステップS2からステップS3に移行して、不揮発性メモリ19に記憶されている前回のシステム停止直前の絶対舵角記憶値φamを読込む。
【0061】
次いでステップS4に移行して、相対舵角演算部31で演算された相対舵角φrを読込み、次いでステップS5に移行して、絶対舵角記憶値φamに相対舵角φrを加算して絶対舵角暫定値φapを算出する。
このとき、舵角切換部40では、図8の舵角切換処理を実行しており、前述したように中立点推定部33から出力される中立点確定フラグFnが“0”にリセットされているので、ステップS31からステップS32に移行して、舵角選択部39で選択された絶対舵角暫定値φapを絶対舵角φaとして微分回路24及びステアリング戻し制御部25に出力する。
【0062】
このとき、車両の停止時で且つステアリングホイール2を操舵していない非操舵時であるので、図7の有効性判定処理でステップS12aからステップS12に戻ることを繰り返して待機状態となる。このとき、初期化処理で選択フラグFsが“0”にリセットされているので、絶対舵角選択部39で絶対舵角代替出力部36から出力される絶対舵角代替値φaが選択される。これが絶対舵角φaとして微分回路24及びステアリング戻し制御部25に出力される。
【0063】
この状態でも、ステアリングホイール2が操舵されておらず、電動モータ8が停止しているので、相対絶対舵角φrが変化せず、絶対舵角暫定値φapも変化しないことから絶対舵角速度ωaも“0”を維持し、ステアリング戻し制御部25から出力されるステアリング戻し電流HRも“0”を維持する。
この状態で、ステアリングホイール2を据え切りすると、これに応じて操舵トルクセンサ16でステアリングホイール2に与えられた操舵力に応じた操舵トルクTが検出される。このため、電流指令値演算部21で操舵トルクTに応じた操舵補助電流指令値Irefが算出され、これが加算器26を介して電流フィードバック制御部22に供給されるので、この電流フィードバック制御部22で操舵補助電流指令値Irefとモータ電流センサ15で検出されたモータ電流検出値Imdとの偏差ΔIに応じた電圧指令値Vrefが算出される。この電圧指令値Vrefがモータ駆動回路23に供給されることにより、このモータ駆動回路23からモータ駆動電流Imが出力されて、電動モータ8が回転駆動され、て操舵トルクTに応じた操舵補助トルクを発生する。この電動モータ8で発生された操舵補助トルクが減速機構を介してステアリングシャフト3に伝達されて、ステアリングホイール2を軽い操舵力で操舵することができる。
【0064】
このように、電動モータ8が回転駆動されて、操舵補助トルクが発生されると、実セルフアライニングトルク検出部37で演算される実セルフアライニングトルクSATrが操舵補助電流指令値Irefの値、操舵トルクTの値、モータ回転角加速度αmの値及びモータ回転角速度ωmの値に応じて“0”から増減する。
このとき、車両は停止したままであるが、ステアリングホイール2が操舵されるので、有効性判定処理では図7に示すように、ステップS12aからステップS13に移行して、車両モデルGv(s)を使用してセルフアライニングトルク基準値SATmを演算する。この車両停止時には静止用の車両モデルGv(s)′を使用してセルフアライニングトルク基準値SATmを算出するので、正確なセルフアライニングトルク基準値SATmが算出されるため、セルフアライニングトルク基準値SATmと実セルフアライニングトルクSATrとの差が小さい状態となり、絶対舵角暫定値φapが有効と判断されて選択フラグFsが“1”にセットされる。このため、絶対舵角選択部39で絶対舵角暫定値φapが選択されて舵角切換部40で選択された絶対舵角暫定値φapが絶対舵角φaとして微分回路24及びステアリング戻り制御部25に出力される。
【0065】
その後、車両が走行を開始して、車速Vsが車速閾値Vth以上となるが、ステアリングホイール2を操舵している旋回走行状態であるときには、操舵トルクTが閾値Tthより大きな値となることより、中立点推定部33の直進走行状態判定部33aで直進走行状態とは判定されず、直進信号Stが論理値“0”を維持し、中立点確定フラグFnが“0”にリセットされた状態を維持する。
【0066】
しかしながら、車両が走行を開始したことにより、図7に示す有効性判定処理におけるステップS13で算出されるセルフアライニングトルク基準値SATmがそのときの車速Vsに応じて変化することになり、実セルフアライニングトルク検出部37で算出される実セルフアライニングトルクSATrとの差が設定値ΔSATsより小さい値となる。このため、ステップS14からステップS15に移行して、第1のカウント値Cnt1がインクリメントされ、この状態が継続して第1のカウント値Cnt1が設定値Cs1を超えると、絶対舵角暫定値φapが有効である判断してステップS16からステップS18に移行して判定フラグFsが“1”にセットされた状態を維持する。
【0067】
このため、絶対舵角選択部39で絶対舵角暫定値演算部35で演算された絶対舵角暫定値φapが選択されて舵角切換部40に供給される。この舵角切換部40では中立点確定フラグFnが“0”にリセットされている状態を継続するので、絶対舵角暫定値φapを絶対舵角φaとして微分回路24及びステアリング戻し制御部25に出力する。
このため、ステアリング戻し制御部25で、絶対舵角φa及び絶対舵角速度ωaに応じたステアリング戻し電流HRが算出される。このステアリング戻し電流HRは車速Vsが低車速であるときには車速感応ゲインKvが大きいことにより、大きなステアリング戻し電流HRが算出されて、ステアリングホイール2が中立点に戻る際の操舵補助トルク不足を補うことができる。
【0068】
その後、ステアリングホイール2を中立点近傍に戻して、車両を直進走行状態とすると、中立点推定部33の直進走行状態判定部33aで操舵トルクTが閾値Tth以下、相対舵角速度ωrが閾値ωth以下、車速Vsが車速閾値Vsth以上の条件を満足すると、直進信号Stが論理値“1”に設定されると共に、中立点確定フラグFnが“1”にセットされる。したがって、中立点舵角演算部33bで車速Vs及び相対舵角φrに基づいて中立点舵角φnが算出され、この中立点舵角φnが絶対舵角演算部34に供給されて相対舵角φrから減算されて、絶対舵角演算値φaoが算出される。
【0069】
このため、舵角切換部40では、図8の舵角切換処理において、ステップS31からステップS33に移行し、前回の中立点確定フラグFnが“0”であったので、ステップS33からステップS35に移行する。このとき、絶対舵角選択部39で絶対舵角暫定値φapが選択されているので、ステップS35を経てステップS36に移行し、現在の絶対舵角暫定値φapと絶対舵角演算部34で演算した絶対舵角演算値φaoとの偏差が設定値Δφs以下であるときには両者の差が少なく絶対舵角暫定値φapから絶対舵角演算値φaoに切り換えても絶対舵角φaの変化が少なくステアリング戻し制御部25で算出されるステアリング戻し電流HRへの影響が少ないものと判断して絶対舵角φaを絶対舵角暫定値φapから絶対舵角演算値φaoに直に切り換える。
【0070】
ところが、絶対舵角暫定値φapと絶対舵角演算値φaoとの偏差が設定値Δφsを超えているときには、ステップS36からステップS37に移行して、絶対舵角暫定値φapが絶対舵角演算値φaoより大きいときには、絶対舵角暫定値φapから所定値Δφs1を減算させることを繰り返すことにより絶対舵角暫定値φapを徐々に減少させながら絶対舵角演算値φao以下となったときに絶対舵角暫定値φapから絶対舵角演算値φaoに切り換える。逆に、絶対舵角暫定値φapが絶対舵角演算値φaoより小さいときには、絶対舵角暫定値φapに所定値Δφs1を加算することを繰り返すことにより絶対舵角暫定値φapを徐々に増加させながら絶対舵角演算値φao以上となったときに絶対舵角暫定値φapから絶対舵角演算値φaoに切り換える。
【0071】
このように、絶対舵角暫定値φapと絶対舵角演算値φaoとの差が大きいときには、絶対舵角暫定値φapを絶対舵角演算値φaoに一致するまで徐々に変化させるので、絶対舵角φaが急変することによりステアリング戻し制御に影響を与えて、運転者に違和感を与えることを確実に防止することができる。
なお、有効性判定部38での判定結果が、実セルフアライニングトルクSATrとセルフアライニングトルク基準値SATmとの偏差が大きく絶対舵角暫定値φapが無効と判断されたて選択フラグFsが“0”にリセットされた場合には、絶対舵角選択部39で絶対舵角代替値φaaが選択され、これが絶対舵角φaとして設定されるが、この状態で、中立点確率フラグFnが“1”にセットされたときには、絶対舵角代替値φaaが実際の絶対舵角に対応しているものとはいえないので、図8の有効性判定処理でステップS35からステップS34に移行して直に絶対舵角演算値φaoに切り換える。
【0072】
その後、イグニッションスイッチ12をオフ状態としたときには、制御装置14に設けられた自己保持回路によって、所定時間電源の投入状態を自己保持し、この間に、舵角切換部40から出力される絶対舵角φaを不揮発性メモリ19の所定記憶領域に絶対舵角記憶値φamとして記憶する。
このように、上記第1の実施形態によれば、システムの起動時に不揮発性メモリ19に記憶されている絶対舵角記憶値φamと相対舵角φrとを加算して絶対舵角暫定値φapを算出すると共に、走行性判定部38で実セルフアライニングトルクSATrとセルフアライニングトルク基準値SATmとの差を算出し、両者の差が小さいときには、絶対舵角暫定値φapが有効であると判定して、この絶対舵角暫定値φapを絶対舵角φaとして設定する。しかしながら、実セルフアライニングトルクSATrとセルフアライニングトルク基準値SATmとの差が大きいときには、絶対舵角暫定値φapが無効である判定して、予め設定した絶対舵角代替値φaaを絶対舵角φaとして設定する。このため、絶対舵角暫定値φapが有効であるときにのみ、この絶対舵角暫定値φapを絶対舵角φaとして使用するので、絶対舵角φaの誤り率を低下させて良好な操舵補助制御機能を発揮することができる。
【0073】
次に、本発明の第2の実施形態を図10について説明する。
この第2の実施形態では、実セルフアライニングトルクSATrとセルフアライニングトルク基準値SATmとの差に基づいて絶対舵角暫定値φapの有効性を判定する場合に代えて、実セルフアライニングトルクSATrに基づいて絶対舵角推定値φaxを算出し、絶対舵角推定値φaxと絶対舵角暫定値φapとの偏差に基づいて絶対舵角暫定値φapの有効性を判定するようにしたものである。
【0074】
すなわち、第2の実施形態においては、有効性判定部39で図10に示す有効性判定処理を実行するようにしたことを除いては前述した第1の実施形態と同様の構成を有し、第1の実施形態との対応部分には同一符号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0075】
図10の有効性判定処理では、前述した第1の実施形態における図7の有効性判定処理におけるステップS13の処理が車両モデルGv(s)の逆モデルである車両逆モデルGv-1(s)に実セルフアライニングトルクSATrを乗算することにより絶対舵角推定値φaxを算出するステップS51に置換され、ステップS14の処理が絶対舵角推定値φaxから絶対舵角暫定値φapを減算した値の絶対値|φax−φap|が所定値Δφs以下であるか否かを判定し、|φax−φap|≦Δφsであるときには絶対舵角暫定値φapが有効であると判断してステップS15に移行し、|φax−φap|>Δφsであるときには絶対舵角暫定値φapが無効であると判断してステップS19に移行するステップS52に置換されていることを除いては図7と同様の処理を行ない、図7との対応ステップには同一ステップ番号を付し、その詳細説明はこれを省略する。ここで、車両逆モデルGv-1(s)についても車両特性の伝達関数に基づいて演算するようにしても、実験によって求めた車速Vsに対する車両逆モデルGv-1(s)の関係をマップ化して車速Vsに基づいて車両逆モデルGv-1(s)を算出するようにしてもよい。
【0076】
この第2の実施形態によると、車両逆モデルGv-1(s)を使用して実セルフアライニングトルクSATrに基づいて絶対舵角推定値φaxを算出し、算出した絶対舵角推定値φaxと絶対舵角暫定値φapとの偏差が所定値Δφs以下であるときには、絶対舵角暫定値φapが有効であると判断して選択フラグFsを“1”にセットして、絶対舵角選択部39で絶対舵角暫定値φapを選択するが、算出した絶対舵角推定値φaxと絶対舵角暫定値φapとの偏差が所定値Δφsを超えるときには、絶対舵角暫定値φapが無効であると判断して選択フラグFsを“0”にリセットして、絶対舵角選択部39で絶対舵角代替値φaaを選択する。
【0077】
このため、実セルフアライニングトルクSATrに基づいて算出した絶対舵角推定値φaxと絶対舵角暫定値φapとに基づいて絶対舵角暫定値φapの有効性を正確に判定することができ、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、実セルフアライニングトルク検出部37で操舵トルクT、アシストトルクTm、モータ回転角加速度αm、モータ回転角速度ωmに基づいて前記(2)式の演算を行って実セルフアライニングトルクSATrを算出する場合について説明したが、これに限定されるもではなく、任意の実セルフアライニングトルク推定方法を適用することができる。また、実セルフアライニングトルクは例えば転舵輪に取付けた歪みゲージや磁歪トルクセンサや圧力センサ等で構成された6分力計のようなセンサを用いて実セルフアライニングトルクSATrを直接検出するようにしてもよい。
【0078】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、車両用舵角検出装置20を電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、車両に搭載される絶対舵角を必要とするサスペンション制御部、走行制御部等の制御部に車両用舵角検出装置20を適用することができる。
さらに、上記第1及び第2の実施形態においては、車両用舵角検出装置20に実セルフアライニングトルク演算部37を設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、外部の実セルフアライニングトルク演算部を制御装置14の外部に設けて、この実セルフアライニングトルク演算部から制御装置14に実セルフアライニングトルクSATrを入力するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す全体構成図である。
【図2】制御装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【図3】車両用舵角検出装置の具体的構成を示すブロック図である。
【図4】中立点推定部の具体的構成を示すブロック図である。
【図5】信頼度算出マップを示す特性線図である。
【図6】絶対舵角制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】有効性判定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図8】舵角切換処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】ステアリング戻し制御部の具体的構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第2の実施形態を示す有効性判定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
1…操舵装置、2…ステアリングホイール、3…ステアリングシャフト、7…減速機構、8…電動モータ、14…制御装置、15…モータ電流センサ、16…操舵トルクセンサ、17…車速センサ、18…モータ回転角センサ、19…不揮発性メモリ、20…車両用舵角検出装置、21…電流指令値演算部、22…電流フィードバック制御部、23…モータ駆動回路、24…微分回路、25…ステアリング戻し制御部、26…加算器、31…相対舵角演算部、32…相対舵角速度演算部、33…中立点推定部、34…絶対舵角演算部、35…絶対舵角暫定値演算部、36…絶対舵角代替値出力部、37…実セルフアライニングトルク検出部、38…有効性判定部、39…絶対舵角選択部、40…舵角切換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵するステアリング機構の相対舵角を検出する相対舵角検出手段と、該相対舵角検出手段で検出した相対舵角に基づいて前記ステアリング機構の絶対舵角を演算する絶対舵角演算手段とを備えた車両用舵角検出装置であって、
システム停止直前に前記絶対舵角演算手段で演算した絶対舵角を不揮発性メモリに記憶する絶対舵角記憶手段と、システム起動時に前記不揮発性メモリに記憶された絶対舵角記憶値と前記相対舵角とに基づいて絶対舵角暫定値を演算する絶対舵角暫定値演算手段と、システム起動時に前記不揮発性メモリに記憶された絶対舵角記憶値と車両モデルの特性とに基づいてセルフアライニングトルク基準値を演算するセルフアライニングトルク演算手段と、前記車両の実セルフアライニングトルクを検出する実セルフアライニングトルク検出手段と、前記セルフアライニングトルク基準値と前記実セルフアライニングトルクとの差が所定値以下であるときに前記絶対舵角暫定値が有効であると判定し、前記セルフアライニングトルク基準値と前記実セルフアライニングトルクとの差が所定値を超えているときに前記絶対舵角暫定値が無効であると判定する有効性判定手段とを少なくとも備えたことを特徴とする車両用舵角検出装置。
【請求項2】
車両の転舵輪を転舵するステアリング機構の相対舵角を検出する相対舵角検出手段と、該相対舵角検出手段で検出した相対舵角に基づいて前記ステアリング機構の絶対舵角を演算する絶対舵角演算手段とを備えた車両用舵角検出装置であって、
システム停止直前に前記絶対舵角演算手段で演算した絶対舵角を不揮発性メモリに記憶する絶対舵角記憶手段と、システム起動時に前記不揮発性メモリに記憶された絶対舵角記憶値と前記相対舵角とに基づいて絶対舵角暫定値を演算する絶対舵角暫定値演算手段と、車両の実セルフアライニングトルクを検出するセルフアライニングトルク検出手段と、前記実セルフアライニングトルクと車両の逆モデル特性とに基づいて絶対舵角推定値を推定する絶対舵角推定手段と、前記絶対舵角暫定値と前記絶対舵角推定値との差が所定値以下であるときに前記絶対舵角暫定値が有効であると判定し、前記絶対舵角暫定値と前記絶対舵角推定値との差が所定値を超えているときに前記絶対舵角暫定値が無効であると判定する有効性判定手段とを少なくとも備えていることを特徴とする車両用舵角検出装置。
【請求項3】
前記絶対舵角演算手段は、操舵角の中立点を検出する中立点検出手段と、システム起動後に前記中立点検出手段で操舵角中立点を検出し、且つ検出した舵角中立点と前記相対舵角検出手段で検出した相対舵角とに基づいて絶対舵角演算値を使用可能となったときに、当該絶対舵角演算値を前記絶対舵角暫定値に代えて前記絶対舵角として選択する舵角選択手段とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用舵角検出装置。
【請求項4】
前記舵角選択手段は、前記絶対舵角暫定値に代えて絶対舵角演算値を選択する場合に、当該絶対舵角暫定値から前記絶対舵角演算値への変更を徐々に行う徐変手段を有することを特徴とする請求項3に記載の車両用舵角検出装置。
【請求項5】
前記絶対舵角記憶手段は、システム起動時からシステム停止時迄の間に前記絶対舵角演算値を演算できないときに、当該システム停止直前に前記絶対舵角暫定値を前記絶対舵角として不揮発性メモリに記憶するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用舵角検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用舵角検出装置を備え、当該車両用舵角検出装置で検出した絶対舵角に基づいて操舵補助制御を行うことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−276098(P2009−276098A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125327(P2008−125327)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】