説明

車両用走行支援装置

【課題】自車周辺の物体情報を適切に把握して、安定した走行支援制御を行うことができる車両用走行支援装置を提供する。
【解決手段】通信機16により、外界センサを有する自車以外の通信機搭載車の位置情報と、その通信機搭載車の外界センサが検出した通信機非搭載車の情報とを受信し、これらの情報と自車走行状態に基づいて自車両の走行支援制御を行う。このとき、外界センサの種類や走行環境等に応じて、検出された通信機非搭載車の情報の信頼度を算出し、この信頼度に応じて走行支援制御の応答特性を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車両間でお互いの情報を通信する車車間通信を用いて、自車両の走行支援制御を行う車両用走行支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車車間通信システムとしては、通信機を搭載している他車両の情報を取得すると共に、通信機を搭載していない他車両の情報を自車両に搭載された外界センサにより把握することにより、通信機搭載車と非搭載車とが混在している交通状況下で、自車周辺の他車両の位置及び走行状態を把握するというものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−265497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、実用化されている車載用カメラやレーダセンサ等の外界センサは、天候や周囲の明るさによって他の車両を認識する能力が低下したり、車両でないものを車両と誤認識したりしてしまう場合がある。また、計測範囲に限界があるので、周囲の車両を適切に検知することができない場合がある。
上記従来の車車間通信システムにあっては、通信機を搭載していない他車両の情報は自車両の外界センサで検出する構成となっているので、上記理由により、自車周辺の他車両の位置及び走行状態を適切に把握することができない可能性がある。そのため、このような車車間通信システムを適用して自車両の走行支援制御を行う場合、安定した制御が行われず運転者に違和感を与えるという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、自車周辺の物体情報を適切に把握して、運転者に違和感のない走行支援制御を行うことができる車両用走行支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用走行支援装置は、走行状態検出手段で 自車両の自車走行状態を検出し、通信手段で外界認識手段を有する他車両の他車走行状態及び当該他車両が外界認識手段で検出した物体情報を車車間通信により取得し、前記走行状態検出手段で検出された自車走行状態及び前記通信手段で取得された情報に基づいて、走行支援制御手段で自車両の走行支援制御を行う。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、他車両の情報に加えて、当該他車両が外界センサで検出した物体情報を車車間通信により取得し、これらの情報に基づいて自車両の走行支援制御を行うので、自車両に搭載された外界センサのみで通信手段を持たない物体を検出する場合と比較して広い範囲で物体位置を把握することができ、適切な走行支援制御を行うことができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明における車両用走行支援装置を後輪駆動車に適用した場合の概略構成図である。本実施形態では、本発明を交差点接触防止支援システムに適用する。
図中符号1は、制動流体圧制御装置であって、図示しない各車輪2FL〜2RRの各ホイールシリンダに供給される制動流体圧を制御するように構成されている。つまり、通常は、ドライバによるブレーキペダルの踏込み量に応じて、マスタシリンダで昇圧された制動流体圧が各ホイールシリンダに供給されるようになっているが、マスタシリンダと各ホイールシリンダとの間に介挿された制動流体圧制御装置1によって、ブレーキペダルの操作とは別に各ホイールシリンダへの制動流体圧を制御するようになっている。
【0007】
前記制動流体圧制御装置1は、例えばアンチスキッド制御やトラクション制御に用いられる制動流体圧制御回路を利用したものである。
この制動流体圧制御装置1は、後述する減速制御コントローラ10からの制動流体圧指令値に応じて各ホイールシリンダの制動流体圧を制御する。
また、この車両には、自車前方の車両を検出するための外界センサ11、各車輪2FL〜2RRの回転速度、いわゆる車輪速度Vwi(i=FL〜RR)を検出する車輪速度センサ12FL〜12RR、天候を判断する雨量検知センサ13、周辺の明るさを判断する明るさ検知センサ14が設けられ、それらの検出信号は前記減速制御コントローラ10に出力される。
【0008】
外界センサ11は、レーザ光を掃射して前方車両からの反射光を受光するレーダ方式の構成を有するものとする。なお、本実施形態では、外界センサ11にレーザレーダを適用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ミリ波レーダやCCDカメラを適用するようにしてもよい。
また、この車両には、走行状態検出手段としてのナビゲーション装置15が設けられている。このナビゲーション装置15は、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を利用して自車の位置x,yや進行方向dirを検出するように構成されており、全国地図情報装置15aや走行経路情報装置15bを備えている。このナビゲーション装置15で検出された自車位置x,y及び進行方向dirは、減速制御コントローラ10に出力される。
【0009】
さらに、この車両には、車車間通信を行う通信手段としての通信機16が設けられている。この通信機16は、自車両と同様の通信手段を有する他車両とデータをやり取りするためのものであり、自車の計測したデータを送信すると共に他車両が計測したデータを受信できるように構成されている。このような構成により、外界認識手段としての外界センサを有する他車両の走行状態や、当該他車両が外界センサで検出した物体の位置情報を受信できるようになっている。この通信機16で受信したデータは減速制御コントローラ10に出力される。なお、各他車両に設けられた外界センサは、レーダレーザ、ミリ波レーダ、CCDカメラなど種類が異なっていてもよい。
【0010】
本実施形態では、このような通信機が搭載されている車両を通信機搭載車、通信機が搭載されていない車両を通信機非搭載車と称す。
また、運転席前方には、減速制御コントローラ10からの警報信号ALに応じて運転者に減速の必要性を呈示する情報呈示装置5が設置されており、この情報呈示装置5にはドライバに減速を促す表示をするディスプレイや、警報音や音声メッセージを発生するためのスピーカーが備えられている。
【0011】
次に、前記減速制御コントローラ10で行われる減速制御処理手順を図2のフローチャートに従って説明する。この減速制御処理は、所定時間(例えば10msec)毎のタイマ割込処理として実行され、先ず、ステップS1で車輪速センサ12FL〜12RRからの車輪速度Vwi(i=FL〜RR)、ナビゲーション装置15からの自車両位置x(1),y(1)及び進行方向dir(1)を読み込む。
【0012】
次に、車輪速センサ12FL〜12RRで検出した車輪速Vwiのうち、例えば、非駆動輪としての前輪の車輪速度VwFL、VwFRの平均値から、自車両の走行速度を次式をもとに算出する。
v(1)=(VwFL+VwFR)/2 ………(1)
なお、ここでは、前輪速度VwFL、VwFLに基づいて走行速度v(1)を算出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、車両に公知のアンチスキッド制御を行うABS制御装置が搭載されており、このABS制御装置によりアンチスキッド制御が行われている場合には、このアンチスキッド制御での処理過程で推定される推定車体速を用いるようにしてもよい。
【0013】
また、本発明を前輪駆動車に適用した場合には、各車輪速度VwFL〜VwRRのうち、非駆動輪である後輪の車輪速度VwRL、VwRRの平均値から自車両の車速v(1)を算出すればよい。
次いで、ステップS2に移行して、自車両以外の通信機搭載車の速度、位置及び進行方向を受信する。図3に示すように、自車両MCの周囲には自車両MCと同様の通信機搭載車Caと、通信機を搭載していない通信機非搭載車Cbとが混在しており、自車両を含めて通信機搭載車がN台存在しているとすると、i番目の通信機搭載車の速度をv(i)、位置をx(i),y(i)、進行方向をdir(i)としてN−1台の通信機搭載車の情報を取得する。ここで、i=2,…,Nであり、自車両を1番目の通信機搭載車とする。
【0014】
そして、図4に示すように、i番目の通信機搭載車の位置x(i),y(i)及び進行方向dir(i)を、下記(2)式をもとに自車両の位置x(1),y(1)を原点、進行方向dir(1)を0とした座標系に変換し、変換後の位置をx(i)_1,y(i)_1、変換後の進行方向をdir(i)_1とする。
x(i)_1={x(i)−x(1)}cos{dir(1)}+{y(i)−y(1)}sin{dir(1)},
y(i)_1={x(i)−x(1)}sin{dir(1)}+{y(i)−y(1)}cos{dir(1)},
dir(i)_1=dir(i)−dir(1) ………(2)
【0015】
次に、ステップS3では、自車両以外のN−1台の通信機搭載車の情報は、車車間通信で検出された最も信頼度の高い情報であると判断して、これらの通信機搭載車の情報の信頼度Rsum(i)を予め設定された最大値Rmaxに設定する。
Rsum(i)=Rmax ………(3)
この処理をi=2,…NとしてN−1回実行してステップS4に移行する。
ステップS4では、自車両を含む通信機搭載車が検出した通信機非搭載車の情報を取得する。自車両を含む通信機搭載車がN台の通信機非搭載車を検出したものとして、i番目の通信機搭載車が外界センサで検出した通信機非搭載車の、i番目の通信機搭載車に対する相対位置をx(i)_i,y(i)_iとしてN台分の情報を取得する。ここで、i=1,…,Nである。
【0016】
次に、この相対位置x(i)_i,y(i)_iに基づいて、i番目の通信機搭載車が検出した通信機非搭載車の絶対位置を演算し、i+N番目の車の絶対位置x(i+N),y(i+N)とする。
x(i+N)=x(i)+x(i)_i・cos{dir(i)}−y(i)_i・sin{dir(i)},
y(i+N)=y(i)+x(i)_i・sin{dir(i)}+y(i)_i・cos{dir(i)} ………(4)
【0017】
次に、前記(4)式で算出された通信機非搭載車の絶対位置に基づいて、この通信機非搭載車の速度v(i+N)を演算する。
v(i+N)=√[{dx(i+N)/dt}2+{dy(i+N)/dt}2] ………(5)
また、前記(4)式で算出された通信機非搭載車の絶対位置に基づいて、この通信機非搭載車の進行方向dir(i+N)を演算する。
dir(i+N)=tan-1[{dy(i+N)/dt}/{dx(i+N)/dt}] ………(6)
【0018】
次に、図4に示すように、i番目の通信機搭載車が検出した通信機非搭載車の位置及び進行方向を、下記(7)式をもとに自車両の位置x(1),y(1)を原点、進行方向dir(1)を0とした座標系に変換し、変換後の位置をx(i+N)_1,y(i+N)_1、変換後の進行方向をdir(i+N)_1としてステップS5に移行する。
x(i+N)_1={x(i+N)−x(1)}cos{dir(1)}+{y(i+N)−y(1)}sin{dir(1)},
y(i+N)_1={x(i+N)−x(1)}sin{dir(1)}+{y(i+N)−y(1)}cos{dir(1)},
dir(i+N)_1=dir(i+N)−dir(1) ………(7)
【0019】
ステップS5では、通信機搭載車が検出したN台の通信機非搭載車の情報の信頼度を演算する。この信頼度の演算は、通信機非搭載車を検出した外界センサの種類、通信機非搭載車を検出した通信機搭載車の走行状態、当該通信機搭載車の走行環境、及び通信機非搭載車の位置情報に基づいて行い、i=1,…,NとしてN回実行する。
(パターン1)i番目の通信機搭載車が物体を検出していない場合
この場合、情報の信頼度はないと判断し、信頼度R(i+N)=0に設定する。
(パターン2)i番目の通信機搭載車がレーザレーダで物体を検出している場合
先ず、検出された通信機非搭載車の走行状態や走行環境に基づいて信頼度Rv、Rdir、Rdist、Rw、Rbを算出する。
【0020】
信頼度Rvは、図5に示す信頼度Rv算出マップを参照し、検出された通信機非搭載車の速度v(i+N)に基づいて算出する。この信頼度Rv算出マップにおいて、横軸は速度v(i+N)、縦軸は信頼度Rvである。図5に示すように、速度v(i+N)が比較的小さい領域では、信頼度Rvは比較的小さい一定値Rvminに維持され、速度v(i+N)が大きくなるほどこれに比例して信頼度Rvも大きくなり、速度v(i+N)が所定値に達すると信頼度Rvは最大値Rvmaxに固定されるように設定されている。
【0021】
また、図6に示す信頼度Rdir算出マップを参照し、検出された通信機非搭載車の、当該通信機非搭載車を検出した車に対する進行方向dir(i+N)に基づいてRdirを算出する。この信頼度Rdir算出マップにおいて、横軸は進行方向dir(i+N)、縦軸は信頼度Rdirである。図6に示すように、通信機非搭載車の進行方向dir(i+N)が自車両の進行方向dir(1)に近いほど信頼度Rdirが大きく算出されるように設定されている。
検出された通信機非搭載車と、この車を検出した通信機搭載車との距離に基づく信頼度Rdistは、次式をもとに固定値Rdist_lに設定する。
Rdist=Rdist_l ………(8)
【0022】
信頼度Rwは、図7に示す信頼度Rw算出マップを参照し、天候に基づいて算出する。この信頼度Rw算出マップにおいて、横軸は雨量検知センサ13により検知された雨量、縦軸は信頼度Rwである。図7に示すように、雨量が比較的少ない領域では、信頼度Rwは最大値Rwmaxに維持され、雨量が多くなるほどこれに比例して信頼度Rwが小さくなり、雨量が所定値に達すると信頼度Rwは最小値Rwminに固定されるように設定されている。
【0023】
周囲の明るさに基づく信頼度Rbは、次式をもとに固定値Rb_lに設定する。
Rb=Rb_l ………(9)
そして、このようにして得られた個々の信頼度に基づいて、次式をもとに検出された通信機非搭載車の情報の信頼度R(i+N)を算出する。
R(i+N)=Rv・Rdir・Rdist・Rw・Rb ………(10)
(パターン3)i番目の通信機搭載車がミリ波レーダで車両を検出している場合
先ず、検出された通信機非搭載車の走行状態や走行環境に基づいて信頼度Rv、Rdir、Rdist、Rw、Rbを算出する。
【0024】
検出された通信機非搭載車の速度v(i+N)に基づく信頼度Rvは、通信機非搭載車をレーザレーダで検出した場合と同様、図5に示す信頼度Rv算出マップを参照して算出する。
検出された通信機非搭載車の、当該通信機非搭載車を検出した車に対する進行方向dir(i+N)に基づく信頼度Rdirは、次式をもとに固定値Rdir_mに設定する。
Rdir=Rdir_m ………(11)
【0025】
また、検出された通信機非搭載車と、この車を検出した通信機搭載車との距離に基づく信頼度Rdistは、次式をもとに固定値Rdist_mに設定する。
Rdist=Rdist_m ………(12)
天候に基づく信頼度Rwは、次式をもとに固定値Rw_mに設定する。
Rw=Rw_m ………(13)
周囲の明るさに基づく信頼度Rbは、次式をもとに固定値Rb_mに設定する。
Rb=Rb_m ………(14)
【0026】
そして、このようにして得られた個々の信頼度に基づいて、次式をもとに検出された通信機非搭載車の情報の信頼度R(i+N)を算出する。
R(i+N)=Rv・Rdir・Rdist・Rw・Rb ………(15)
(パターン4)i番目の通信機搭載車がCCDカメラで車両を検出している場合
先ず、検出された通信機非搭載車の走行状態や走行環境に基づいて信頼度Rv、Rdir、Rdist、Rw、Rbを算出する。
【0027】
検出された通信機非搭載車の速度v(i+N)に基づく信頼度Rvは、次式をもとに固定値Rv_cに設定する。
Rv=Rv_c ………(16)
また、検出された通信機非搭載車の、当該通信機非搭載車を検出した車に対する進行方向dir(i+N)に基づく信頼度Rdirは、次式をもとに固定値Rdir_cに設定する。
Rdir=Rdir_c ………(17)
【0028】
検出された通信機非搭載車と、この車を検出した通信機搭載車との距離に基づく信頼度Rdistは、図8に示す信頼度Rdist算出マップを参照して算出する。この信頼度Rdist算出マップにおいて、横軸は検出された通信機非搭載車とこの車を検出した通信機搭載車との距離、縦軸は信頼度Rdistである。図8に示すように、距離が比較的近い領域では、信頼度Rdistは最大値Rdistmaxに維持され、距離が遠くなるほどこれに比例して信頼度Rdistが零まで小さくなるように設定されている。
【0029】
天候に基づく信頼度Rwは、通信機非搭載車をレーザレーダで検出した場合と同様、図7に示す信頼度Rw算出マップを参照して算出する。
また、周囲の明るさに基づく信頼度Rbは、図9に示す信頼度Rb算出マップを参照して算出する。この信頼度Rb算出マップにおいて、横軸は明るさ検知センサ14で検知した周囲の明るさ、縦軸は信頼度Rbである。図9に示すように、周囲が比較的暗い領域では、信頼度Rbは比較的小さい一定値Rbminに維持され、周囲の明るさが明るくなるほどこれに比例して信頼度Rbも大きくなり、明るさが所定値に達すると信頼度Rbは最大値Rbmaxに固定されるように設定されている。
【0030】
そして、このようにして得られた個々の信頼度に基づいて、次式をもとに検出された通信機非搭載車の情報の信頼度R(i+N)を算出する。
R(i+N)=Rv・Rdir・Rdist・Rw・Rb ………(18)
このように、外界センサの種類によって、車速の高低などの走行状態や、停止物なのか移動物なのか、対向してくるものかどうか、遠くにあるか近くにあるか等の物体状態、天候、明るさ等の走行環境の条件に応じて検出性能が異なることを考慮して、自車周囲の物体の情報の信頼度を算出するので、信頼度を正確に算出することができる。
【0031】
次に、ステップS6では、自車両を含む通信機搭載車が検出したN台の通信機非搭載車のうち、同一の車が存在するか否かを判定する。この判定は、i=1,…,N、j=1,…,Nとして、以下の処理をN×N回繰り返すことにより行う。
先ず、i番目の通信機搭載車が検出した通信機非搭載車と、j番目の通信機搭載車が検出した通信機非搭載車との距離偏差err(i+N,j+N)を算出する。i番目の通信機搭載車とj番目の通信機搭載車との両方が車を検出しているときには、下記(19)式をもとに距離偏差err(i+N,j+N)を算出し、それ以外のときには下記(20)式をもとに距離偏差err(i+N,j+N)を算出する。
err(i+N,j+N)=√[{x(i+N)−x(j+N)}2+{y(i+N)−y(j+N)}2] ………(19)
err(i+N,j+N)=∞ ………(20)
【0032】
次に、上記(19)又は(20)式により算出された距離偏差err(i+N,j+N)が予め設定された距離偏差閾値errTH以下であるか否かを判定し、err(i+N,j+N)≦errTHであるときには、i番目の通信機搭載車とj番目の通信機搭載車とが同一の通信機非搭載車を検出していると判断し、同一車検出判断フラグnum(i+N,j+N)を下記(21)式をもとに“1”に設定する。
num(i+N,j+N)=1 ………(21)
【0033】
また、err(i+N,j+N)>errTHであるときには、i番目の通信機搭載車とj番目の通信機搭載車とは別の通信機非搭載車を検出していると判断し、同一車検出判断フラグnum(i+N,j+N)を下記(22)式をもとに“0”に設定する。
num(i+N,j+N)=0 ………(22)
次いで、ステップS7に移行して、i番目の通信機搭載車が検出した通信機非搭載車の最終的な信頼度Rsum(i+N)を、下記(23)式をもとに算出する。
Rsum(i+N)=num(i+N,1+N)・R(1+N)+…+num(i+N,2N−1)・R(2N−1)+num(i+N,2N)・R(2N) ………(23)
【0034】
これにより、1台の通信機非搭載車を複数の通信機搭載車が検出している場合には、信頼度が足し合わされることになる。
ここで、前記(23)式により算出されたRsum(i+N)が信頼度最大値Rmaxより大きい場合は、次式をもとに信頼度Rsum(i+N)を信頼度最大値Rmaxに設定する。
Rsum(i+N)=Rmax ………(24)
【0035】
次に、ステップS8では、前記ステップS3で算出した自車両以外の通信機搭載車の情報の信頼度と、前記ステップS7で算出した自車両を含む通信機搭載車が検出した通信機非搭載車の情報の信頼度とに基づいて、警報開始を判断する警報閾値TTCwarn及び減速制御開始を判断する制動閾値TTCbrkを算出して、ステップS9に移行する。
【0036】
具体的には、図10に示す閾値算出マップを参照し、i=2,…,2Nとして、信頼度Rsum(i)に基づいて破線に示す警報閾値TTCwarn(i)と実線に示す制動閾値TTCbrk(i)とを算出する。この閾値算出マップは、横軸に信頼度Rsum(i)、縦軸に警報閾値TTCwarn(i)及び制動閾値TTCbrk(i)をとっており、信頼度Rsum(i)が大きくなるほど、これに比例して警報閾値TTCwarn(i)及び制動閾値TTCbrk(i)も大きくなるように設定されている。
【0037】
ステップS9では、自車両以外の2〜N番目の通信機搭載車と、自車両を含む通信機搭載車が検出したN台の通信機非搭載車との中から、自車両と交差する可能性のある車を判定する。具体的には、以下の処理をi=2,…,2Nとして2N−1回実行する。
自車両が右折しようとしている場合には、下記条件が成立するか否かを判定し、下記条件が成立するとき、その車は自車両と交差する可能性があると判断する。
【0038】
(条件a)且つ{(条件b)又は(条件c)} ………(25)
ここで、条件aは、車が自車両の前方で交差する条件であり、y(i)_1/tan{dir(i)_1}−x(i)_1<0である。また、条件bは、左方向から来る車が自車両と交差する条件であり、y(i)_1>0且つdy(i)_1/dt<0である。また、条件cは、右方向から来る車が自車両と交差する条件であり、y(i)_1<0且つdy(i)_1/dt>0である。
【0039】
一方、自車両が左折しようとしている場合には、下記条件が成立するか否かを判定し、下記条件が成立するとき、その車は自車両と交差する可能性があると判断する。
(条件a)且つ(条件b) ………(26)
そして、前記(25)又は(26)式の条件が成立し、自車両と交差すると判断されたとき、自車両と交差する地点までの到達時間ttc(i)を、次式をもとに算出する。
ttc(i)=y(i)_1/{dy(i)_1/dt} ………(27)
また、前記(25)及び(26)式の条件が不成立であり、自車両と交差しないと判断されたときは、自車両と交差する地点までの到達時間ttc(i)を、次式をもとに∞に設定する。
ttc(i)=∞ ………(28)
【0040】
次に、ステップS10では、i=2,…,2Nとして、前記ステップS9で算出したi番目の車の自車両との交差点までの到達時間ttc(i)が前記ステップS8で算出した警報閾値TTCwarn(i)より小さいか否かを判定し、ttc(i)<TTCwarn(i)であるときには、運転者に対して車両の接近を知らせるための警報を発する必要があると判断して、情報呈示装置5に警報信号ALを出力する。一方、ttc(i)≧TTCwarn(i)であるときには、情報呈示装置5に対する警報信号ALの出力を停止して、運転者に対する警報をオフ状態とする。
【0041】
また、i=2,…,2Nとして、前記ステップS9で算出したi番目の車の自車両との交差点までの到達時間ttc(i)が前記ステップS8で算出した制動閾値TTCbrk(i)より小さいか否かを判定し、ttc(i)<TTCbrk(i)であるときには、自車両を減速させる必要があると判断して、制動流体圧制御装置1に制動流体圧指令値を出力する。一方、ttc(i)≧TTCbrk(i)であるときには、制動流体圧制御装置1に対する制動流体圧指令値の出力を停止して、自車両の減速制御を非作動とする。
この図2において、ステップS3、S5〜S7の処理が信頼度演算手段に対応し、ステップS5の処理が検出性能信頼度演算手段に対応し、ステップS6の処理が同一検出判定手段に対応し、ステップS6及びS7の処理が検出精度信頼度演算手段に対応し、ステップS8〜S10の処理が走行支援制御手段に対応している。
【0042】
次に、本実施形態の動作について説明する。
今、図3に示すように、通信機搭載車である自車両MC(1番目の通信機搭載車)が車線L1を走行中であり、T字路で左折して車線L2を走行しようとしているものとする。この車線L2には通信機搭載車Ca1(2番目の通信機搭載車),通信機搭載車Ca2(3番目の通信機搭載車)が存在し、通信機搭載車Ca1が通信機非搭載車Cb1を検出しており、車線L3には通信機搭載車Ca3(4番目の通信機搭載車)が存在し、この通信機搭載車Ca3も通信機非搭載車Cb1を検出しているものとする。
【0043】
この場合には、図2に示す減速制御処理において、ステップS3で通信機搭載車Ca1〜Ca3の情報の信頼度Rsum(2)〜Rsum(4)が最大値Rmaxに設定される。そして、ステップS5で、2番目の通信機搭載車Ca1が検出した通信機非搭載車Cb1の情報の信頼度Rが、2番目の通信機搭載車Ca1に搭載された外界センサの種類に応じて算出され、4番目の通信機搭載車Ca3が検出した通信機非搭載車Cb1の情報の信頼度Rが、4番目の通信機搭載車Ca3に搭載された外界センサの種類に応じて算出される。2番目の通信機搭載車Ca1と4番目の通信機搭載車Ca3とは同一車両を検出しているので、ステップS7で通信機非搭載車Cb1の情報の信頼度が足し合わされて最終的な信頼度Rsumが大きく算出される。
【0044】
このように、通信機を搭載していない通信機非搭載車の情報の信頼度Rsumを、その車を検出している通信機搭載車の外界センサの種類や、その車を検出している通信機搭載車の台数に応じて設定するので、外界センサの特性を加味して、複数の通信機搭載車が同一検出している通信機非搭載車の信頼度を大きく算出することができ、正確な信頼度を得ることができる。
【0045】
T字路において、自車両MCと交差する可能性のある車が存在しないものとすると、ステップS9の交差判定において、前記(26)式に示す条件が成立しないため、自車以外の通信機搭載車及び通信機非搭載車の自車両MCとの交差点までの到達時間ttcが前記(28)式をもとに夫々∞に設定される。その結果、ステップS10で各到達時間ttc(i)が警報閾値TTCwarn(i)及び制動閾値TTCbrk(i)より大きいと判断されて、警報及び減速制御を行うことなく運転者のアクセル及びブレーキ操作に応じた走行を継続する。
【0046】
一方、T字路において、通信機非搭載車Cb1が自車両MCと交差する可能性がある場合には、ステップS9で前記条件aと前記条件cとが成立し、その結果前記(26)式に示す条件が成立するため、通信機非搭載車Cb1の自車両MCとの交差点までの到達時間ttcが前記(27)式をもとに算出される。この到達時間ttcが警報閾値TTCwarnより小さいときには、警報信号ALが情報呈示装置5に出力されることにより運転者に対して通信機非搭載車Cb1が接近していることが知らされる。
また、到達時間ttcが制動閾値TTCbrkより小さいときには、制動流体圧指令値が制動流体圧制御装置1に出力されることにより、減速制御が作動して自車両MCが減速し、通信機非搭載車Cb1との接触を回避する。
【0047】
ところで、通信機搭載車Ca1が車両でない物体Aを車両であると誤認識しているものとする。他の通信機搭載車はこの物体Aを検出していないものとすると、ステップS6の同一検出判断の結果に基づいて、ステップS7でこの物体Aの情報の信頼度Rsumが低く算出されることになる。図10に示すように、信頼度が低いほど警報閾値TTCwarn及び制動閾値TTCbrkは低く算出されるので、ステップS9で算出される自車両との交差点までの到達時間ttcが警報閾値TTCwarn及び制動閾値TTCbrkを下回りにくくなり、その結果、警報及び減速制御が作動しにくくなる。
【0048】
つまりこれは、物体情報の信頼度に応じて走行支援制御の応答特性を変更することに相当し、信頼度が低いときには走行支援制御の応答特性と低応答特性に設定することで、車両以外の物体を誤認識することに起因する警報及び減速制御の誤作動を抑制することができ、運転者に違和感のない走行支援制御を行うことができる。
このように、上記実施形態では、車車間通信により他車両が外界センサで検出した物体情報を取得するので、当該他車両の位置や進行方向によって様々な位置や向きの物体を検出することができ、通信機搭載車と通信機非搭載車とが混在している状況下にあっても、広い範囲で適切に自車周囲の物体の情報を把握することができる。
【0049】
また、複数の車両の外界センサの検出結果に基づいて自車両の周辺の物体を検出するので、ある車両のセンサの検知性能が低下するような環境下にあっても、別の車のセンサで検出したり、別の車の異なった方式のセンサで検知したりすることで、物体の検知性能の低下を防止することができる。
さらに、他車両が検出した物体の位置情報の信頼度を算出し、この信頼度に応じて自車両の走行支援制御を行うので、信頼度が高いほど走行支援制御を作動し易くすることができ、例えば、物体を誤検知している場合には信頼度が低く算出されて走行支援制御の誤作動を抑制することができるなど、安定した走行支援を行うことができる。
【0050】
また、他車が検出した物体の位置情報の信頼度は、その物体を検出している外界センサの種類に応じて設定するので、外界センサの種類の違いによってセンサの検出性能に影響を及ぼす条件が異なることを加味して、正確な信頼度を演算することができる。
さらにまた、外界センサで同一物体を検出している車両の台数に応じて、その物体の位置情報の信頼度を算出するので、1台の車両で物体を検出している場合よりも複数台でその物体を検出している場合の方が信頼度を高く設定することができ、外界センサで検出している物体に関する情報の精度を加味して、正確な信頼度を演算することができる。その結果、物体の誤検知や非検知に伴う走行支援制御の誤作動を抑制することができる。
なお、上記実施形態においては、自車両に外界センサを設ける場合について説明したが、これに限定されるものではない。つまり、自車周辺の他車両の外界センサにより自車周辺の物体の情報を得ることができるので、自車両には必ずしも外界センサを設ける必要はない。
【0051】
また、上記実施形態においては、日本国のように左側通行の場合について説明したが、これに限定されるものではなく、米国のように右側通行の場合にも適用することができる。右側通行の場合には、図2のステップS9での交差判定において、自車両が右折しようとしている場合は、前記(26)式が成立するときその車は自車両と交差する可能性があると判断し、自車両が左折しようとしている場合は、前記(25)式が成立するときその車は自車両と交差する可能性があると判断するようにすればよい。
さらに、上記実施形態においては、本発明を交差点接触防止支援システムに適用し、走行支援制御として自車両の減速制御を行う場合について説明したが、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の減速制御コントローラで実行される減速制御処理を示すフローチャートである。
【図3】自車両周辺の車両状況を説明する図である。
【図4】自車両との相対関係を説明する図である。
【図5】信頼度Rv算出マップである。
【図6】信頼度Rdir算出マップである。
【図7】信頼度Rw算出マップである。
【図8】信頼度Rdist算出マップである。
【図9】信頼度Rb算出マップである。
【図10】閾値算出マップである。
【符号の説明】
【0053】
1 制動液体圧制御装置
2FL〜2RR 車輪
5 情報呈示装置
10 減速制御コントローラ
11 外界センサ
12FL〜12RR 車輪速センサ
13 雨量検知センサ
14 明るさ検知センサ
15 ナビゲーション装置
16 通信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車車間通信により他車両の走行状態及び該他車両が検出した物体情報を取得し、これらの情報と自車走行状態とに基づいて自車両の走行支援制御を行うことを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項2】
自車両の自車走行状態を検出する走行状態検出手段と、外界認識手段を有する他車両の他車走行状態及び当該他車両が外界認識手段で検出した物体情報を車車間通信により取得する通信手段と、前記走行状態検出手段で検出された自車走行状態及び前記通信手段で取得された情報に基づいて、自車両の走行支援制御を行う走行支援制御手段とを備えていることを特徴とする車両用走行支援装置。
【請求項3】
前記通信手段で取得された情報の信頼度を演算する信頼度演算手段を有し、前記走行支援制御手段は、前記信頼度演算手段で算出された信頼度に応じて前記走行支援制御の応答特性を変更することを特徴とする請求項2に記載の車両用走行支援装置。
【請求項4】
前記信頼度演算手段は、前記外界認識手段の種類、前記他車走行状態、前記他車両の走行環境、及び前記外界認識手段で検出された物体情報の少なくとも1つに基づいて、前記通信手段で取得された情報の信頼度を演算する検出性能信頼度演算手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の車両用走行支援装置。
【請求項5】
前記信頼度演算手段は、前記外界認識手段で物体を検出している他車両の台数に応じて、前記通信手段で取得された情報の信頼度を演算する検出精度信頼度演算手段を備えることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両用走行支援装置。
【請求項6】
前記検出精度信頼度演算手段は、複数の他車両が同一物体を検出していることを判定する同一検出判定手段を有し、該同一検出判定手段で複数の他車両が同一物体を検出していると判定したとき、1台の他車両のみが検出している場合と比較して、その物体の情報の信頼度を大きく算出することを特徴とする請求項5に記載の車両用走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−172053(P2006−172053A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362450(P2004−362450)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】