車両用駆動装置
【課題】サスペンション装置のばね下荷重を増大させることなく、従来の自動車に容易に展開可能な構造で、個別に車輪を駆動することのできる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】スプリング18付きのホイールサスペンション1と、ロータ7rの回転軸に沿ってステータ7sに隣接してインバータ5が設けられるインバータ一体型回転電機7と、インバータ一体型回転電機7の回転方向を車輪9の回転方向に変換してインバータ一体型回転電機7による駆動力を車輪9に伝達する動力伝達機構2とを有し、インバータ一体型回転電機7がホイールサスペンション1の振動抑制方向の中心軸と同軸上にロータ7rの回転軸を有すると共に、車輪9の側である下端がスプリング18の車輪9の側である下端よりも車体8の側に設置される。
【解決手段】スプリング18付きのホイールサスペンション1と、ロータ7rの回転軸に沿ってステータ7sに隣接してインバータ5が設けられるインバータ一体型回転電機7と、インバータ一体型回転電機7の回転方向を車輪9の回転方向に変換してインバータ一体型回転電機7による駆動力を車輪9に伝達する動力伝達機構2とを有し、インバータ一体型回転電機7がホイールサスペンション1の振動抑制方向の中心軸と同軸上にロータ7rの回転軸を有すると共に、車輪9の側である下端がスプリング18の車輪9の側である下端よりも車体8の側に設置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機により車輪を駆動する車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、「走る」、「曲がる」、「止まる」という3つの要件を追求し、仕組みを工夫し、改良することによって進歩してきた。そして、自動車が大衆化するに従って、さらに「快適性」、「安全性」を加えた5つの要件を追求して進歩を重ねてきた。当然ながら、低公害、省エネルギーの観点からの改良も施されてきたが、近年では、化石燃料の消費による環境負荷を軽減する試みが広く実施され、内燃機関により駆動される自動車と比べて環境負荷が小さい自動車が提案されている。モータ(回転電機)により駆動される電気自動車や、内燃機関及びモータにより駆動されるハイブリッド自動車は、その一例である。電気自動車やハイブリッド自動車には、各車輪を個別に駆動するモータを備えたものがある。そのようなモータの一例として、車輪の内部に設置されるインホイールモータが知られている。
【0003】
これら対環境性を重視した自動車においても、当然ながら上述の5つの要件を低下させることは好ましくない。自動車には、振動を和らげ、走行や操舵、停止時の安定性を図り、乗員の安全性を確保しつつ、乗車時の快適性を向上させるために、サスペンションが搭載される。サスペンションは、ばね(スプリング)、ダンパー(ショックアブソーバ)、サスペンションアームといった部品を用いて構成される。車輪が操舵輪の場合にはさらに、スタビライザー等も用いられる。ストラット式サスペンションは、シンプルな構造で部品点数も少なく、重量も抑えられ、路面からの振動も大きな範囲で吸収できるために広く採用されているが、車両の高さ方向のサイズが増大し易いという面も有する。例えば、インホイールモータの上部にショックアブソーバを積み上げて配置するような構造では、さらに車両の高さ方向のサイズが増大し易く、小型車には採用しづらい。
【0004】
そこで、特開2006−240430号公報(特許文献1)には、インホイールモータを搭載しつつ、小型化が図られた車両駆動装置が提案されている。具体的には、インホイールモータ(520)のハウジングの側方において、一部が高さ方向にオーバラップしてショックアブソーバ(560)が配置される。これにより、車両駆動装置の高さを抑制することができるというものである。尚、インホイールモータ(520)に駆動電流を供給するU,V,W相のパワーケーブル(536,538,540)は、インホイールモータ520のケースに配線クランプ(522)を用いて固定されている(括弧内の符号は、特許文献1のもの。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−240430号公報(第9〜25段落、図1、4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の車両駆動装置では、スプリング(563)とショックアブソーバ(560)とを用いたサスペンションが採用されている。しかし、インホイールモータは、その構造上、車輪の重量が増加するため、ばね下荷重が大きくなり、ばねの共振周波数が下がることになる。その結果、乗員の快適性が損なわれたり、インホイールモータの振動耐性が低下したりする可能性がある。一方、サスペンションを専用化すると車両価格の上昇につながることになる。また、インホイールモータは、当然ながらモータを搭載するために、車輪の構造も専用化する必要がある。
【0007】
上記背景に鑑み、サスペンション装置のばね下荷重を増大させることなく、従来の自動車に容易に展開可能な構造で、個別に車輪を駆動することのできる車両用駆動装置の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みた本発明に係る車両用駆動装置の特徴構成は、
車輪と車体との間に設置され、所定の振動抑制方向の振動を和らげるスプリング付きのホイールサスペンションと、
直流電力と3相交流電力との間で電力を変換するインバータがロータの回転軸に沿ってステータに隣接して設けられるインバータ一体型回転電機であって、前記ホイールサスペンションの前記振動抑制方向の中心軸と同軸上に前記ロータの回転軸を有すると共に、前記車輪側である下端が前記スプリングの前記車輪側である下端よりも前記車体側に設置される当該インバータ一体型回転電機と、
前記インバータ一体型回転電機の回転方向を前記車輪の回転方向に変換して前記インバータ一体型回転電機による駆動力を前記車輪に伝達する動力伝達機構と、を備える点にある。
【0009】
この特徴によれば、一般的に重量の大きい回転電機がスプリングの下に配置されないので、インホイールモータのように、いわゆる「ばね下荷重」が増大することがない。従って、サスペンション装置による振動抑制機能が良好に働き、乗員の快適性が損なわれることがない。また、車輪に備えられるブレーキに与える影響も少ない。このため、車両用駆動装置は、従来の自動車に容易に展開可能である。また、回転電機はインバータが一体化されたインバータ一体型回転電機であるから、インバータと回転電機との配線スペースを確保する必要がなく、小型化が実現される。さらに、インバータ一体型回転電機は、インバータが一体化されているので、多様な車種への展開も容易であり、量産効果を得やすく、小型車や大衆車へ良好に適用することができる。また、ホイールの内部に回転電機が組み込まれるインホイールモータに比べて、インバータ一体型回転電機が高い位置に設置されるので、大きな水たまりや豪雨などがあっても回転電機及びインバータへ水が浸入しにくい。防水構造を有していても、周囲に水が存在すると信頼性が低下するが、インバータ一体型回転電機の周辺に水が継続的に存在しにくい構造であるので高い信頼性を有することができる。
【0010】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータの3相の各レッグは、前記ステータの周方向に領域分割されて配置されると好適である。インバータの3相の各レッグが、ステータの周方向に領域分割されて配置されることにより、インバータをロータの回転軸方向に沿って薄型に構成することができ、インバータ一体型回転電機を小型に構成することができる。また、ステータの各相のステータコイルは、ステータの周方向に領域分割されて配置されているから、各相のステータコイルと各レッグとは略均等な距離に近接して配置されることになる。従って、インバータとステータコイルとの配線スペースを省スペース化すると共に、電力ロスや放射ノイズの発生を抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータ一体型回転電機は、前記ホイールサスペンションの前記スプリングの内側に配置されると好適である。インバータ一体型回転電機が、スプリングの内側に配置されるとホイールサスペンションの内部に回転電機を収めることができる。従って、一般的なホイールサスペンションの外形形状をほぼ維持した状態で車両用駆動装置を実現することができる。
【0012】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータは、前記インバータ一体型回転電機の前記車体側に設けられると好適である。インバータを制御する制御装置は、車体側に備えられることが多いのでインバータと制御装置との配線距離を短くすることができる。
【0013】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータ一体型回転電機は、前記ロータの回転軸に沿って前記インバータに隣接するヒートシンクをさらに備えると好適である。ヒートシンクによりインバータを効果的に冷却することができる。ここで、前記ヒートシンクは、前記車体に接続されると好適である。ヒートマスの大きい車体を用いてさらに効果的にインバータを冷却することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータは、前記ロータの回転軸と同軸の中心軸を周回する空き空間を有して構成されると好適である。インバータが回転電機の車輪側に配置される場合であっても、当該空き空間にロータの回転軸や動力伝達機構の軸を通すことができる。また、当該空き空間にロータの回転を検出する回転センサ等を有効に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両用駆動装置の構造を模式的に示す縦断面図
【図2】スプリングが伸びた状態を模式的に示す縦断面図
【図3】回転電機の構造を模式的に示す図1のIII-III断面図
【図4】インバータの回路構成を模式的に示す回路ブロック図
【図5】IGBTモジュールを用いたインバータの構成例を模式的に示す上面図
【図6】IGBTモジュールの模式的な斜視図
【図7】IGBTモジュールの構成例を模式的に示す上面図
【図8】IGBTチップの外観の一例を模式的に示す外形図
【図9】ダイオードチップの外観の一例を模式的に示す外形図
【図10】動力伝達機構の例を模式的に示す図
【図11】減速機構の例を模式的に示す断面図
【図12】動力伝達機構の遮断機構の例を模式的に示す断面図
【図13】インバータの別の構成を模式的に示す断面図
【図14】3レベルインバータの回路構成を模式的に示す回路ブロック図
【図15】3レベルインバータの他の回路構成を模式的に示す回路ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、メインの駆動装置として、例えば内燃機関などを備えた車両において、補助的な駆動力を与える車両用駆動装置を例として説明する。一般的に、電気自動車は航続距離に直結するバッテリの大容量化に対する技術的、コスト的な課題や、バッテリの充電場所、充電時間に関する課題を有する。このため、内燃機関を併用するハイブリッド自動車が先行して普及しつつある。一方、ハイブリッド自動車は、内燃機関とモータとを併用するため、一般的に駆動装置の構造が複雑となり、車両価格を低く抑えるには限界がある。このため、安価な小型自動車などへの展開は困難である。環境負荷を軽減するという目的に立てば、多くの環境対応車両を市場に投入することが好ましい。例えば、モータ(回転電機)を内燃機関のエネルギー効率が低い速度(回転数)領域でのみ使用し、補助的な駆動力としてアシストトルクを与える役目に限定するといった用法はその1つの解決手段である。このような用途では、モータ(回転電機)は、ハイブリッド自動車よりも遙かに低出力な仕様で充分であり、また、モータも1つの車輪を駆動する小型のものとすることが可能である。
【0017】
図1に示すように、車両用駆動装置は、ホイールサスペンション1と、インバータ一体型回転電機7と、動力伝達機構2とを備えて構成される。ホイールサスペンション1は、車体8と車輪9との間に設置され、図示上下方向の所定の振動方向の振動を和らげる。本実施形態では、上部ばね受け17と下部ばね受け19との間にスプリング(コイルばね/ヘリカルスプリング)18を備えたストラット式サスペンションを例示している。ホイールサスペンション1には、振動抑制方向の中心軸と同軸上にロータ7rの回転軸を有するインバータ一体型回転電気7(以下、適宜単に「回転電機」と称する。)が備えられる。
【0018】
回転電機7は、直流電力と3相交流電力との間で電力を変換するインバータ5がロータ7rの回転軸に沿ってステータ7sに隣接して設けられたインバータ一体型回転電機である。また、回転電機7は、少なくとも回転電機7の車輪9の側である下端がスプリング18の車輪9の側である下端よりも車体8の側に設置される。本実施形態では、図1及び図2に示すように、回転電機7は上部ばね受け17に設置される。
【0019】
上述したように、一般的なストラット式サスペンションにおいてストラットシャフトが配置される位置には動力伝達機構2のロッド80が設置されているため、ロッド80を囲うようにリング状のシリンダ11及びピストン12を有したアブソーバ10が備えられる。このアブソーバ10は、ロッド80と同軸アブソーバである。図2に示すように、スプリング18の伸縮及びアブソーバ10の緩衝力により、路面、つまりばね下からの突き上げが吸収される。この際、一般的に重量の大きい回転電機7は、ばね下に設けられていないので、ホイールサスペンション1に回転電機7を付加したことによるばね下荷重の増加はほとんどない。従って、回転電機7を設けても、サスペンション機能が良好に発揮され、乗員の快適性が確保される。
【0020】
一般的なストラット式サスペンションにおいてストラットシャフトが配置される位置には、動力伝達機構2のロッド80が備えられる。ロッド80は、ロータ7rの回転軸に連結される。このロッド80は、回転電機7の回転方向を車輪9の回転方向に変換して車輪9に回転電機7の駆動力を伝達する動力伝達機構2の一部を構成する。ロッド80の先端にはかさ歯車機構の一方側であるピニオンギヤ22が備えられる。ピニオンギヤ22は、かさ歯車機構の他方側であるスパーギヤ21と係合する。スパーギヤ21は、車輪9と同軸状に設けられる。ピニオンギヤ22及びスパーギヤ21を有したかさ歯車機構も、動力伝達機構2の一部を構成する。
【0021】
また、回転電機7の回転数は、一般的に車輪9の回転数よりも遙かに高速であるから、車両用駆動装置には減速機構4が備えられている。ここでは、ロータ7rの出力に対して、2段の遊星歯車機構を用いて減速機構4を構成する例を示している。尚、減速機構4を含めた動力伝達機構2により回転電機7と車輪9とが常時接続されていると、車両が高速走行した場合に回転電機7を高速回転させる必要が生じる。回転電機は、回転数が高くなると逆起電力が大きくなる。このため、回転電機を高速回転域まで対応させるためには、界磁を弱めてロータ7rの回転により生じる逆起電力を小さくする弱め界磁制御や、直流電源の電圧を逆起電力よりも高くする昇圧制御などが必要となる。一方、補助駆動力を与える回転電機7を停止させた場合には、ロータ7rを車輪8の回転力で回転させることになるため、メインの駆動装置である内燃機関の負荷が増加し、燃費を悪化させる可能性がある。
【0022】
本実施形態の車両駆動装置は、補助駆動装置であり、回転電機7がストラット式のホイールサスペンション1と共に備えられるように、小型のものである。例えば、発進時や発進後の低速走行時、低速での登坂時など、内燃機関の効率が良くない領域においてアシストトルクを与えることが可能な性能を有していれば充分である。従って、車両が高速走行に移行した場合には、動力伝達機構2による動力伝達を解除できるように構成されている。図1及び図2に示すように、本実施形態においては、動力伝達機構2を構成する減速機構4に電磁クラッチ25を備えている。電磁クラッチ25を締結することにより回転電機7の駆動力が車輪9に伝達され、電磁クラッチ25を解除することにより回転電機7は、車輪9に対してフリーとなる。尚、四輪車両において回転電機7が備えられる車輪9が操舵輪である場合、回転電機7の駆動トルクの反作用がステアリングトルクともなるため、車両が旋回する際の外乱となる可能性がある。そこで、例えば、ステアリングが操作される時には、回転電機7の動作(力行及び回生)を制限してもよい。
【0023】
また、本実施形態の回転電機7は、インバータ一体型であるから、図1及び図2に示すように小型であり、ホイールサスペンション1に付加されてもスペース効率が良い。以下、インバータ一体型回転電機7の構成について具体的に説明する。図3及び図4に示すように、本実施形態においては、4極(2極対)のロータ7rに対応して、ステータ7sが6極の突極を有する回転電機7を例として説明する。ステータ7sは、6極の突極を有するので、U相、V相、W相に3相励磁されるステータコイル7c(7u,7v,7w)は図4に示すように、2回線ずつ備えられる。回転電機7が電動機として機能する際には、不図示のバッテリなどの直流電源から供給される正極PVと負極NVとの間の直流電力が、インバータ5により交流に変換される。回転電機7が発電機として機能する際には、発電された交流電力が、インバータ5により直流に変換され、不図示のバッテリなどの直流電源に回生される。
【0024】
図4に示すように、インバータ5は、スイッチング素子を用いて構成される。スイッチング素子は、パワートランジスタや、パワーMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)やIGBT(insulated gate bipolar transistor)、IPS/IPD(intelligent power switch/device)などのパワー半導体素子である。本実施形態では、スイッチング素子としてIGBTを用いる場合を例示している。コンデンサ59は、正負両極間に備えられた平滑コンデンサである。尚、コンデンサ50を円形のフィルムコンデンサとすることによって、コンデンサ59も回転電機7に一体化すると好適である。
【0025】
インバータ5は、回転電機7の3相各相に対応するU相レッグ5U、V相レッグ5V、及びW相レッグ5Wを備えて構成される。各レッグ5U,5V,5Wは、それぞれ直列に接続される上段アーム5Pと下段アーム5Nとにより構成される。各レッグにおいて、上段アーム5Pを構成するIGBTと下段アーム5Nを構成するIGBTとは直列接続される。また、各レッグ5U,5V,5Wの上段アーム5PのIGBTのコレクタは、正極PVにつながる高圧電源ラインに接続され、各レッグ5U,5V,5Wの下段アーム5NのIGBTのエミッタは、負極NVにつながる低圧電源ラインに接続されている。また、各アームのIGBTには、それぞれフライホイールダイオードが並列接続される。尚、インバータ5は、不図示のドライバ回路を介して不図示の制御部に接続されている。各IGBTは、制御部が生成する制御信号に応じてスイッチング動作する。制御部は、例えばマイクロコンピュータなどの論理回路を中核とし、インターフェース回路やその他の周辺回路などを有したECU(electronic control unit)として構成され、車体側に搭載される。
【0026】
本実施形態において、インバータ5は、図5に示すようにリング状に構成され、図1及び図2に示すようにステータ7sに隣接して設置されてインバータ一体型回転電機7を構成する。図6に示すように、各アーム5P,5Nごとに、IGBT5Qとフライホイールダイオード5Dとを備えてモジュール化されたIGBTモジュール(パワー半導体モジュール)3により構成される。6つのアーム、即ち、6つのIGBTモジュール3は、図5に示すようにリング状に組み合わされる。本実施形態では、台形状のパワー半導体モジュール3が、正六角形状に配置されることによってリング状のインバータ5が構成される。
【0027】
本実施形態では、IGBT5Qは、図7に示すように、正三角形状の6つのIGBTチップ3Qを正六角形状に並べて互いに接続することによって構成されている。図8に示すように、IGBTチップ3Qは、ダイの表面形状が正三角形の半導体チップである。図8(a)はチップの一方側の面の外観を示す上面図であり、図8(b)はチップの他方側の面の外観を示す下面図である。図8(a)に示すように、一方側の面には、正三角形の頂点部にエミッタ端子Eが設けられ、当該頂点部に対向する対辺部にゲート端子Gが設けられる。また、図8(b)に示すように、他方側の面には、ほぼ全面に亘ってコレクタ端子Cが設けられる。
【0028】
フライホイールダイオード5Dもまた、図9に示すように、ダイの表面形状が正三角形の半導体チップであるダイオードチップ3Dにより構成される。図9(a)はダイオードチップ3Dの一方側の面の外観を示す上面図であり、図9(b)はダイオードチップ3Dの他方側の面の外観を示す下面図である。図9(a)に示すように、一方側の面には、正三角形のほぼ全面に亘ってアノード端子Aが設けられる。また、図9(b)に示すように、他方側の面には、ほぼ全面に亘ってカソード端子Kが設けられる。
【0029】
IGBTモジュール3は、図6及び図7に示すように、台形状(等脚台形状)の銅板31上に、IGBTチップ3Qの下面側のコレクタ端子C及びダイオードチップ3Dの下面側のカソード端子Kが高融点半田を用いて半田付けされて構成される。台形状の銅板31の平行な対辺の内の長辺を下底とすると、下底の2つの頂点側には、それぞれダイオードチップ3Dが実装される。銅板31はIGBTチップ3Qのコレクタ端子Cと接続されているので、ダイオードチップ3Dのカソード端子Kが銅板31を介して接続され、1つのアーム5P,5Nが構成される。銅板31は、ニッケルメッキされた銅板31、又は半田付け可能な銅板31であると好適である。上述したように、コレクタ端子C及びカソード端子Kは、チップの下面側のほぼ全面に亘って設けられているため、接触抵抗が小さく大電流が良好に導通する。また、大電流が流れるIGBTチップ3Q及びダイオードチップ3Dを、熱伝導性のよい銅板31に広い面積で接触させることによって、IGBTチップ3Q及びダイオードチップ3Dの銅板実装に伴う熱抵抗を下げ、放熱性を向上させることができる。
【0030】
図8に示したように、IGBTチップ3Qのエミッタ端子Eは正三角形のチップの頂点に配置されている。図7に示すように、IGBTモジュール3において、IGBTチップ3Qは、エミッタ端子Eが配置された頂点部を突き合わせて銅板31に実装される。本例では、6つのIGBTチップ3Qにより、正六角形状にIGBT5Qが構成される。エミッタ端子Eは正六角形の中心に集まり、図7に示すように6つ全てのIGBTチップ3Qに導通する電極Dを蒸着することによって共通端子化される。勿論、それぞれのエミッタ端子E間をワイヤーボンディングで接続したり、半田により接続したりしてもよい。ゲート端子Gは、図7に示すように、正六角形の外周部に配置される。隣り合うIGBTチップ3Qのゲート端子Gが、それぞれワイヤーボンディングBや不図示の電極の蒸着により接続され、IGBT5Qの共通化されたゲート端子となる。
【0031】
図5に示すように、本実施形態では、台形状のパワー半導体モジュール3が、正六角形状に配置されることによってリング状のインバータ5が構成される。図4の回路ブロック図にも示したように、上段アーム5Pを構成するIGBT5Qのコレクタ端子Cに導通する銅板31が直流電源の正極PVに接続される。下段アーム5Nを構成するIGBT5Qのエミッタ端子Eは、直流電源の負極NVに接続される。直流電源の正極PV及び負極NVは、それぞれ3つのレッグにおいて共通するので、図5に示すように、外周側には正極PVに接続される共通プレート34、内周側には負極NVに接続される共通プレート35が設けられる。勿論、内周側に正極PVに接続される共通プレートを設け、外周側に負極NVに接続される共通プレートが設けられてもよい。
【0032】
一方、ステータ7sのステータコイル7cのコイルエンドは、バスバー71を介して、インバータ5と接続される。図6に示すように、IGBTモジュール3には、バスバー71と接続可能な端子32が設けられており、各ステータコイル7c(7u,7v,7w)とインバータ5とが接続される。バスバー71は、各相レッグ5U,5V,5Wの上段アーム5PのIGBT5Qのエミッタと下段アーム5NのIGBT5Qのコレクタとの接続点と、回転電機7の各相のステータコイル7cとの間を電気的に接続する。IGBTモジュール3のゲート端子Gには不図示の制御部からのインバータ駆動信号が接続される。
【0033】
銅板31とIGBT5Qのコレクタ端子とが接続されるので、少なくとも下段アーム5Nを構成する3つのIGBTモジュール3の銅板31には、図6に示すように銅板31の板面から垂直方向に立ち上がる端子32が設けられる。図5に示すように、回転電機7の本体とインバータ5とが配置された状態で、バスバー71と、IGBTモジュール3の端子31とが接続可能な位置関係となる。IGBTモジュール3の端子31及びバスバー71には、図6に示すように、両者を不図示のボルトにより締結可能な貫通孔33及び73が設けられている。勿論、両者を溶接するなど、他の方法によって接続してもよい。
【0034】
回転電機本体のステータ7sに隣接して設置されるインバータ5は、このようにステータ7sから延伸されるバスバー71と直接的に接続される。各ステータコイル7c(7u,7v,7w)とインバータ5とを接続するためのハーネスやコネクタなど特別な電気的接続手段を何ら設けることなく、極めて容易に接続される。
【0035】
尚、上記においては、少なくとも3つのIGBTモジュール3の銅板31に端子32が設けられるとして説明した。しかし、図5に示すように全てのIGBTモジュール3の銅板31に端子32が設けられてもよい。全ての部品を共通化することによって製造コストを低減することができる。また、端子32を利用して上段アーム5Pのコレクタを外周の共通プレート34(正極PV)に接続することもできる。図5には、回転電機7のハウジング7hも図示しているが、このように、バスバー71及びバスバー71に締結されたIGBTモジュール3の端子32が通る空間がハウジング7hに設けられていると好適である。
【0036】
尚、図1及び図2に示すように、IGBTモジュール3は基板51に実装される。そして、基板51と回転電機7のハウジング7hとの間には、ヒートシンク6が設置される。ハウジング7hは、車両のタイヤハウスにおいて常に外気にさらされている。特に車両が走行中には常にハウジング7h周辺の空気は入れ替わる。従って、IGBTモジュール3は、ヒートシンク6及びハウジング7hを介して良好に冷却される。
【0037】
図5〜図9を用いて上述したように、台形形状のIGBTモジュール3を用いてリング状のインバータ5を構成することにより、リングの中央部には六角形状の空き空間が形成される。この空間には、図1及び図2から明らかなように、ロータ7rの回転軸や、動力伝達機構2のロッド80を配置することが可能である。さらに、ロータ7rの回転軸やその延長線が配置可能であるから、図5に示すように、リング状のインバータ5の中央に回転検出センサ90を配置することも可能である。
【0038】
ロッド80の回転方向を車輪9の回転方向へ変換する動力伝達機構2は、上述したように、かさ歯車機構を用いて構成される。この際、車輪9と同軸で回転するスパーギヤ21と、ロッド80と同軸で回転するピニオンギヤ22との回転軸を一点で交差させてもよいし、オフセットを設けて異ならせてもよい。即ち、図10(a)に示すように、直歯(すぐば)歯車を用いてスパーギヤ21Aとピニオンギヤ22Aとの軸を一致させてもよいし、図10(b)に示すように、曲歯(まがりば)歯車を用いてスパーギヤ21Bとピニオンギヤ22Bとの軸を異ならせてもよい。
【0039】
上述したように、回転電機7の回転数は、一般的に車輪9の回転数よりも遙かに高速であるから、減速機構4が備えられている。図1及び図2では、2段の遊星歯車機構を用いて減速機構4を構成する例を示した。しかし、これに限定されることなく、図11(a)に示すように1段の遊星歯車機構を用いて減速機構4を構成してもよい。また、遊星歯車機構に限らず、動力伝達機構2のかさ歯車のギヤ比によって減速機構4を構成してもよい。例えば、図11(b)に示すように、ピニオンギヤ22Cに対して、スパーギヤ21Cの歯数を増やすことによって減速機構4を実現することができる。
【0040】
また、上述したように、本実施形態では、動力伝達機構2による動力伝達を解除できるように、減速機構4に遮断機構として電磁クラッチ25が備えられる。遮断機構は、電磁クラッチ25に限らず、図12に示すようなシンクロメッシュ機構を採用してもよい。車両が高速走行から減速するような場合、動力伝達機構2を再係合することによって、回転電機7を発電機として機能させることができる。この際、ロータ7rの抵抗力により回生ブレーキを実現することもできる。車両が比較的高速で走行する際に再係合を行う場合には、回転同期をとることが重要である。この場合には、遮断機構(再係合機構)として電磁クラッチ25を用いるよりも、シクロメッシュ機構を用いた方が好適である。
【0041】
図12(a)はシクロメッシュ機構を利用した動力伝達機構2の遮断状態を示しており、図12(b)は係合状態を示している。図12(a)における遮断状態から係合する場合、シンクロナイザ・リング27をコーン面28に接触させ、くさび効果で滑らかに同調させることによって回転が同期される。回転が同期すると、図12(b)に示すように櫛歯29が係合され、シンクロナイザ・リング27が固定される。リングギアを開放する際は、シンクロ機構は必要ではないので、軽い引き抜き力によって動力伝達が解除される。シンクロナイザ・リング27の制御は、ソレノイドやワイヤーアクチュエータを用いると好適である。
【0042】
上記においては、図1及び図2に基づいて、IGBTモジュール3がヒートシンク6及びハウジング7hを介して良好に冷却される例を示した。しかし、図13に示すように、IGBTモジュール3(銅板31、IGBTチップ3Q)、基板51、ヒートシンク6を図1及び図2とは逆に積層し、熱容量の大きい車体8を介してインバータ5を冷却してもよい。また、図1及び図2、並びに図13においては、インバータ5が回転電機7の車体8側に配置される場合を例示したが、当然ながら、インバータ5が回転電機7の車輪9の側に配置されてもよい。インバータ5の中央部には、空き空間が形成されているから、インバータ5が回転電機7の車輪9の側に配置されてもロッド80やロータ7rの回転軸の配置場所は確保される。
【0043】
また、上記においては、図4を用いてインバータ5として一般的な2レベルインバータを例示したが、図14に示すような3レベルインバータ5Bを採用してもよい。図14に示すように、3レベルインバータ5Bは、正極PVの電圧と負極NVの電圧との他、正負両極間電圧Vdcが分圧された中間点の中間点Mの電圧も出力可能である。正負両極間電圧Vdcは、定格容量が等価な第1コンデンサ59P及び第2コンデンサ59Nより、理想的には均等に分圧される。
【0044】
インバータ5Bは、2レベルインバータ5と同様に、3相それぞれに対応する3レッグ(5U,5V,5W)のブリッジ回路により構成される。1つのレッグは、正極PVと負極NVとの間に直列に接続された4つのIGBT(Q1,Q2,Q3,Q4)と、正極PVの側の2つのIGBTQ1及びQ2の接続点と負極NVの側の2つのIGBTQ3及びQ4の接続点との間に、共に負極NVから正極PVの方向を順方向として直列に接続された2つのダイオードD5,D6を有して構成される。当該2つのダイオードの接続点は中間点Mに接続される。
【0045】
4つのIGBT(Q1,Q2,Q3,Q4)により構成される1つのレッグの直列回路は、正極PVの側において直列に接続された上段アーム5Pと、負極NVの側において直列に接続された下段アーム5Nとから構成される。4つのIGBTの直列回路における上段アーム5Pと下段アーム5Nとの接続点は回転電機7の各ステータコイルに接続される。また、各IGBT(Q1,Q2,Q3,Q4)には、それぞれフライホイールダイオード(D1,D2,D3,D4)が備えられる。フライホイールダイオードは、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形でIGBTに対して並列に接続される。
【0046】
上述したように1つのIGBTモジュール3は、6つのIGBTチップ3Qにより構成される1つのIGBT5Qと、当該IGBT5Qのフライホイールダイオード5Dとして並列接続される2つのダイオードチップ3Dとを備えて構成される(図7参照)。図14に示す3レベルインバータ5Bの上段アーム5Pは、2つのIGBTモジュール3で構成可能である。従って、6つのIGBTモジュール3によりU,V,W相の3回線分の上段アーム5Pが、図5と同様の配置で構成可能である。同様に6つのIGBTモジュール3によりU,V,W相の3回線分の下段アーム5Nが、図5と同様の配置で構成可能である。ここで、各アーム5P,5Nの一組のIGBTモジュール3においてフライホイールダイオード5Dとして機能する2つのダイオードチップ3Dの内の1つをバイアス用のダイオードD5,D6として機能させることが可能である。このようにすれば、正六角形状にIGBTモジュール3が配置された2枚の基板を積層させることによって、3レベルインバータ5Bを一体化したインバータ一体型回転電機7が構築可能である。
【0047】
尚、3レベルインバータの回路構成は、図14に例示したものに限定されるものではない。簡略化のため、U相のみのレッグを例示するが、例えば図15に示すような回路構成においても、本発明を適用することが可能である。図15(a)においては、バイアス用のダイオードD5,D6がIGBTQ5,Q6を伴い、図15(b)においては、バイアス用のダイオードD7,D8がIGBTQ7,Q8を伴う回路構成である。つまり、1つのレッグにおいてバイアス用のダイオードとIGBTとのペアが2組存在するので、3つのレッグにおいて6組のペアが存在することとなる。
【0048】
1組のペアは図6及び図7に示したようなIGBTモジュール3により構成できる。従って、バイアス用のダイオードとIGBTとの6組のペアは、6つのIGBTモジュール3を用いて構成することができる。6つのIGBTモジュール3は、図5のようにリング状に並べることができる。図14に示す3レベルインバータ5Bの場合には、正六角形状にIGBTモジュール3が配置された2枚の基板を積層させることによって、インバータ一体型回転電機7を構築可能と説明した。図15に示す3レベルインバータの回路構成を採用する場合は、3枚の基板を積層させることによってインバータ一体型回転電機7を構成することができる。リング状のインバータはロータ7rの軸心方向に対して薄型に構成できるので、インバータの回路構成が大きくなっても容易に複数の基板を積層可能である。3レベルインバータの他、コンバータ等を構成した基板を積層させることもできる。
【0049】
以上、説明したように、本発明によって、サスペンション装置のばね下荷重を増大させることなく、従来の自動車に容易に展開可能な構造で、個別に車輪を駆動することのできる車両用駆動装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:ホイールサスペンション
5:インバータ
5U,5V,5W:レッグ
6:ヒートシンク
7r:ロータ
7s:ステータ
7:回転電機(インバータ一体型回転電機)
8:車体
9:車輪
18:スプリング
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機により車輪を駆動する車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、「走る」、「曲がる」、「止まる」という3つの要件を追求し、仕組みを工夫し、改良することによって進歩してきた。そして、自動車が大衆化するに従って、さらに「快適性」、「安全性」を加えた5つの要件を追求して進歩を重ねてきた。当然ながら、低公害、省エネルギーの観点からの改良も施されてきたが、近年では、化石燃料の消費による環境負荷を軽減する試みが広く実施され、内燃機関により駆動される自動車と比べて環境負荷が小さい自動車が提案されている。モータ(回転電機)により駆動される電気自動車や、内燃機関及びモータにより駆動されるハイブリッド自動車は、その一例である。電気自動車やハイブリッド自動車には、各車輪を個別に駆動するモータを備えたものがある。そのようなモータの一例として、車輪の内部に設置されるインホイールモータが知られている。
【0003】
これら対環境性を重視した自動車においても、当然ながら上述の5つの要件を低下させることは好ましくない。自動車には、振動を和らげ、走行や操舵、停止時の安定性を図り、乗員の安全性を確保しつつ、乗車時の快適性を向上させるために、サスペンションが搭載される。サスペンションは、ばね(スプリング)、ダンパー(ショックアブソーバ)、サスペンションアームといった部品を用いて構成される。車輪が操舵輪の場合にはさらに、スタビライザー等も用いられる。ストラット式サスペンションは、シンプルな構造で部品点数も少なく、重量も抑えられ、路面からの振動も大きな範囲で吸収できるために広く採用されているが、車両の高さ方向のサイズが増大し易いという面も有する。例えば、インホイールモータの上部にショックアブソーバを積み上げて配置するような構造では、さらに車両の高さ方向のサイズが増大し易く、小型車には採用しづらい。
【0004】
そこで、特開2006−240430号公報(特許文献1)には、インホイールモータを搭載しつつ、小型化が図られた車両駆動装置が提案されている。具体的には、インホイールモータ(520)のハウジングの側方において、一部が高さ方向にオーバラップしてショックアブソーバ(560)が配置される。これにより、車両駆動装置の高さを抑制することができるというものである。尚、インホイールモータ(520)に駆動電流を供給するU,V,W相のパワーケーブル(536,538,540)は、インホイールモータ520のケースに配線クランプ(522)を用いて固定されている(括弧内の符号は、特許文献1のもの。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−240430号公報(第9〜25段落、図1、4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の車両駆動装置では、スプリング(563)とショックアブソーバ(560)とを用いたサスペンションが採用されている。しかし、インホイールモータは、その構造上、車輪の重量が増加するため、ばね下荷重が大きくなり、ばねの共振周波数が下がることになる。その結果、乗員の快適性が損なわれたり、インホイールモータの振動耐性が低下したりする可能性がある。一方、サスペンションを専用化すると車両価格の上昇につながることになる。また、インホイールモータは、当然ながらモータを搭載するために、車輪の構造も専用化する必要がある。
【0007】
上記背景に鑑み、サスペンション装置のばね下荷重を増大させることなく、従来の自動車に容易に展開可能な構造で、個別に車輪を駆動することのできる車両用駆動装置の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みた本発明に係る車両用駆動装置の特徴構成は、
車輪と車体との間に設置され、所定の振動抑制方向の振動を和らげるスプリング付きのホイールサスペンションと、
直流電力と3相交流電力との間で電力を変換するインバータがロータの回転軸に沿ってステータに隣接して設けられるインバータ一体型回転電機であって、前記ホイールサスペンションの前記振動抑制方向の中心軸と同軸上に前記ロータの回転軸を有すると共に、前記車輪側である下端が前記スプリングの前記車輪側である下端よりも前記車体側に設置される当該インバータ一体型回転電機と、
前記インバータ一体型回転電機の回転方向を前記車輪の回転方向に変換して前記インバータ一体型回転電機による駆動力を前記車輪に伝達する動力伝達機構と、を備える点にある。
【0009】
この特徴によれば、一般的に重量の大きい回転電機がスプリングの下に配置されないので、インホイールモータのように、いわゆる「ばね下荷重」が増大することがない。従って、サスペンション装置による振動抑制機能が良好に働き、乗員の快適性が損なわれることがない。また、車輪に備えられるブレーキに与える影響も少ない。このため、車両用駆動装置は、従来の自動車に容易に展開可能である。また、回転電機はインバータが一体化されたインバータ一体型回転電機であるから、インバータと回転電機との配線スペースを確保する必要がなく、小型化が実現される。さらに、インバータ一体型回転電機は、インバータが一体化されているので、多様な車種への展開も容易であり、量産効果を得やすく、小型車や大衆車へ良好に適用することができる。また、ホイールの内部に回転電機が組み込まれるインホイールモータに比べて、インバータ一体型回転電機が高い位置に設置されるので、大きな水たまりや豪雨などがあっても回転電機及びインバータへ水が浸入しにくい。防水構造を有していても、周囲に水が存在すると信頼性が低下するが、インバータ一体型回転電機の周辺に水が継続的に存在しにくい構造であるので高い信頼性を有することができる。
【0010】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータの3相の各レッグは、前記ステータの周方向に領域分割されて配置されると好適である。インバータの3相の各レッグが、ステータの周方向に領域分割されて配置されることにより、インバータをロータの回転軸方向に沿って薄型に構成することができ、インバータ一体型回転電機を小型に構成することができる。また、ステータの各相のステータコイルは、ステータの周方向に領域分割されて配置されているから、各相のステータコイルと各レッグとは略均等な距離に近接して配置されることになる。従って、インバータとステータコイルとの配線スペースを省スペース化すると共に、電力ロスや放射ノイズの発生を抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータ一体型回転電機は、前記ホイールサスペンションの前記スプリングの内側に配置されると好適である。インバータ一体型回転電機が、スプリングの内側に配置されるとホイールサスペンションの内部に回転電機を収めることができる。従って、一般的なホイールサスペンションの外形形状をほぼ維持した状態で車両用駆動装置を実現することができる。
【0012】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータは、前記インバータ一体型回転電機の前記車体側に設けられると好適である。インバータを制御する制御装置は、車体側に備えられることが多いのでインバータと制御装置との配線距離を短くすることができる。
【0013】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータ一体型回転電機は、前記ロータの回転軸に沿って前記インバータに隣接するヒートシンクをさらに備えると好適である。ヒートシンクによりインバータを効果的に冷却することができる。ここで、前記ヒートシンクは、前記車体に接続されると好適である。ヒートマスの大きい車体を用いてさらに効果的にインバータを冷却することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両用駆動装置の前記インバータは、前記ロータの回転軸と同軸の中心軸を周回する空き空間を有して構成されると好適である。インバータが回転電機の車輪側に配置される場合であっても、当該空き空間にロータの回転軸や動力伝達機構の軸を通すことができる。また、当該空き空間にロータの回転を検出する回転センサ等を有効に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両用駆動装置の構造を模式的に示す縦断面図
【図2】スプリングが伸びた状態を模式的に示す縦断面図
【図3】回転電機の構造を模式的に示す図1のIII-III断面図
【図4】インバータの回路構成を模式的に示す回路ブロック図
【図5】IGBTモジュールを用いたインバータの構成例を模式的に示す上面図
【図6】IGBTモジュールの模式的な斜視図
【図7】IGBTモジュールの構成例を模式的に示す上面図
【図8】IGBTチップの外観の一例を模式的に示す外形図
【図9】ダイオードチップの外観の一例を模式的に示す外形図
【図10】動力伝達機構の例を模式的に示す図
【図11】減速機構の例を模式的に示す断面図
【図12】動力伝達機構の遮断機構の例を模式的に示す断面図
【図13】インバータの別の構成を模式的に示す断面図
【図14】3レベルインバータの回路構成を模式的に示す回路ブロック図
【図15】3レベルインバータの他の回路構成を模式的に示す回路ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、メインの駆動装置として、例えば内燃機関などを備えた車両において、補助的な駆動力を与える車両用駆動装置を例として説明する。一般的に、電気自動車は航続距離に直結するバッテリの大容量化に対する技術的、コスト的な課題や、バッテリの充電場所、充電時間に関する課題を有する。このため、内燃機関を併用するハイブリッド自動車が先行して普及しつつある。一方、ハイブリッド自動車は、内燃機関とモータとを併用するため、一般的に駆動装置の構造が複雑となり、車両価格を低く抑えるには限界がある。このため、安価な小型自動車などへの展開は困難である。環境負荷を軽減するという目的に立てば、多くの環境対応車両を市場に投入することが好ましい。例えば、モータ(回転電機)を内燃機関のエネルギー効率が低い速度(回転数)領域でのみ使用し、補助的な駆動力としてアシストトルクを与える役目に限定するといった用法はその1つの解決手段である。このような用途では、モータ(回転電機)は、ハイブリッド自動車よりも遙かに低出力な仕様で充分であり、また、モータも1つの車輪を駆動する小型のものとすることが可能である。
【0017】
図1に示すように、車両用駆動装置は、ホイールサスペンション1と、インバータ一体型回転電機7と、動力伝達機構2とを備えて構成される。ホイールサスペンション1は、車体8と車輪9との間に設置され、図示上下方向の所定の振動方向の振動を和らげる。本実施形態では、上部ばね受け17と下部ばね受け19との間にスプリング(コイルばね/ヘリカルスプリング)18を備えたストラット式サスペンションを例示している。ホイールサスペンション1には、振動抑制方向の中心軸と同軸上にロータ7rの回転軸を有するインバータ一体型回転電気7(以下、適宜単に「回転電機」と称する。)が備えられる。
【0018】
回転電機7は、直流電力と3相交流電力との間で電力を変換するインバータ5がロータ7rの回転軸に沿ってステータ7sに隣接して設けられたインバータ一体型回転電機である。また、回転電機7は、少なくとも回転電機7の車輪9の側である下端がスプリング18の車輪9の側である下端よりも車体8の側に設置される。本実施形態では、図1及び図2に示すように、回転電機7は上部ばね受け17に設置される。
【0019】
上述したように、一般的なストラット式サスペンションにおいてストラットシャフトが配置される位置には動力伝達機構2のロッド80が設置されているため、ロッド80を囲うようにリング状のシリンダ11及びピストン12を有したアブソーバ10が備えられる。このアブソーバ10は、ロッド80と同軸アブソーバである。図2に示すように、スプリング18の伸縮及びアブソーバ10の緩衝力により、路面、つまりばね下からの突き上げが吸収される。この際、一般的に重量の大きい回転電機7は、ばね下に設けられていないので、ホイールサスペンション1に回転電機7を付加したことによるばね下荷重の増加はほとんどない。従って、回転電機7を設けても、サスペンション機能が良好に発揮され、乗員の快適性が確保される。
【0020】
一般的なストラット式サスペンションにおいてストラットシャフトが配置される位置には、動力伝達機構2のロッド80が備えられる。ロッド80は、ロータ7rの回転軸に連結される。このロッド80は、回転電機7の回転方向を車輪9の回転方向に変換して車輪9に回転電機7の駆動力を伝達する動力伝達機構2の一部を構成する。ロッド80の先端にはかさ歯車機構の一方側であるピニオンギヤ22が備えられる。ピニオンギヤ22は、かさ歯車機構の他方側であるスパーギヤ21と係合する。スパーギヤ21は、車輪9と同軸状に設けられる。ピニオンギヤ22及びスパーギヤ21を有したかさ歯車機構も、動力伝達機構2の一部を構成する。
【0021】
また、回転電機7の回転数は、一般的に車輪9の回転数よりも遙かに高速であるから、車両用駆動装置には減速機構4が備えられている。ここでは、ロータ7rの出力に対して、2段の遊星歯車機構を用いて減速機構4を構成する例を示している。尚、減速機構4を含めた動力伝達機構2により回転電機7と車輪9とが常時接続されていると、車両が高速走行した場合に回転電機7を高速回転させる必要が生じる。回転電機は、回転数が高くなると逆起電力が大きくなる。このため、回転電機を高速回転域まで対応させるためには、界磁を弱めてロータ7rの回転により生じる逆起電力を小さくする弱め界磁制御や、直流電源の電圧を逆起電力よりも高くする昇圧制御などが必要となる。一方、補助駆動力を与える回転電機7を停止させた場合には、ロータ7rを車輪8の回転力で回転させることになるため、メインの駆動装置である内燃機関の負荷が増加し、燃費を悪化させる可能性がある。
【0022】
本実施形態の車両駆動装置は、補助駆動装置であり、回転電機7がストラット式のホイールサスペンション1と共に備えられるように、小型のものである。例えば、発進時や発進後の低速走行時、低速での登坂時など、内燃機関の効率が良くない領域においてアシストトルクを与えることが可能な性能を有していれば充分である。従って、車両が高速走行に移行した場合には、動力伝達機構2による動力伝達を解除できるように構成されている。図1及び図2に示すように、本実施形態においては、動力伝達機構2を構成する減速機構4に電磁クラッチ25を備えている。電磁クラッチ25を締結することにより回転電機7の駆動力が車輪9に伝達され、電磁クラッチ25を解除することにより回転電機7は、車輪9に対してフリーとなる。尚、四輪車両において回転電機7が備えられる車輪9が操舵輪である場合、回転電機7の駆動トルクの反作用がステアリングトルクともなるため、車両が旋回する際の外乱となる可能性がある。そこで、例えば、ステアリングが操作される時には、回転電機7の動作(力行及び回生)を制限してもよい。
【0023】
また、本実施形態の回転電機7は、インバータ一体型であるから、図1及び図2に示すように小型であり、ホイールサスペンション1に付加されてもスペース効率が良い。以下、インバータ一体型回転電機7の構成について具体的に説明する。図3及び図4に示すように、本実施形態においては、4極(2極対)のロータ7rに対応して、ステータ7sが6極の突極を有する回転電機7を例として説明する。ステータ7sは、6極の突極を有するので、U相、V相、W相に3相励磁されるステータコイル7c(7u,7v,7w)は図4に示すように、2回線ずつ備えられる。回転電機7が電動機として機能する際には、不図示のバッテリなどの直流電源から供給される正極PVと負極NVとの間の直流電力が、インバータ5により交流に変換される。回転電機7が発電機として機能する際には、発電された交流電力が、インバータ5により直流に変換され、不図示のバッテリなどの直流電源に回生される。
【0024】
図4に示すように、インバータ5は、スイッチング素子を用いて構成される。スイッチング素子は、パワートランジスタや、パワーMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)やIGBT(insulated gate bipolar transistor)、IPS/IPD(intelligent power switch/device)などのパワー半導体素子である。本実施形態では、スイッチング素子としてIGBTを用いる場合を例示している。コンデンサ59は、正負両極間に備えられた平滑コンデンサである。尚、コンデンサ50を円形のフィルムコンデンサとすることによって、コンデンサ59も回転電機7に一体化すると好適である。
【0025】
インバータ5は、回転電機7の3相各相に対応するU相レッグ5U、V相レッグ5V、及びW相レッグ5Wを備えて構成される。各レッグ5U,5V,5Wは、それぞれ直列に接続される上段アーム5Pと下段アーム5Nとにより構成される。各レッグにおいて、上段アーム5Pを構成するIGBTと下段アーム5Nを構成するIGBTとは直列接続される。また、各レッグ5U,5V,5Wの上段アーム5PのIGBTのコレクタは、正極PVにつながる高圧電源ラインに接続され、各レッグ5U,5V,5Wの下段アーム5NのIGBTのエミッタは、負極NVにつながる低圧電源ラインに接続されている。また、各アームのIGBTには、それぞれフライホイールダイオードが並列接続される。尚、インバータ5は、不図示のドライバ回路を介して不図示の制御部に接続されている。各IGBTは、制御部が生成する制御信号に応じてスイッチング動作する。制御部は、例えばマイクロコンピュータなどの論理回路を中核とし、インターフェース回路やその他の周辺回路などを有したECU(electronic control unit)として構成され、車体側に搭載される。
【0026】
本実施形態において、インバータ5は、図5に示すようにリング状に構成され、図1及び図2に示すようにステータ7sに隣接して設置されてインバータ一体型回転電機7を構成する。図6に示すように、各アーム5P,5Nごとに、IGBT5Qとフライホイールダイオード5Dとを備えてモジュール化されたIGBTモジュール(パワー半導体モジュール)3により構成される。6つのアーム、即ち、6つのIGBTモジュール3は、図5に示すようにリング状に組み合わされる。本実施形態では、台形状のパワー半導体モジュール3が、正六角形状に配置されることによってリング状のインバータ5が構成される。
【0027】
本実施形態では、IGBT5Qは、図7に示すように、正三角形状の6つのIGBTチップ3Qを正六角形状に並べて互いに接続することによって構成されている。図8に示すように、IGBTチップ3Qは、ダイの表面形状が正三角形の半導体チップである。図8(a)はチップの一方側の面の外観を示す上面図であり、図8(b)はチップの他方側の面の外観を示す下面図である。図8(a)に示すように、一方側の面には、正三角形の頂点部にエミッタ端子Eが設けられ、当該頂点部に対向する対辺部にゲート端子Gが設けられる。また、図8(b)に示すように、他方側の面には、ほぼ全面に亘ってコレクタ端子Cが設けられる。
【0028】
フライホイールダイオード5Dもまた、図9に示すように、ダイの表面形状が正三角形の半導体チップであるダイオードチップ3Dにより構成される。図9(a)はダイオードチップ3Dの一方側の面の外観を示す上面図であり、図9(b)はダイオードチップ3Dの他方側の面の外観を示す下面図である。図9(a)に示すように、一方側の面には、正三角形のほぼ全面に亘ってアノード端子Aが設けられる。また、図9(b)に示すように、他方側の面には、ほぼ全面に亘ってカソード端子Kが設けられる。
【0029】
IGBTモジュール3は、図6及び図7に示すように、台形状(等脚台形状)の銅板31上に、IGBTチップ3Qの下面側のコレクタ端子C及びダイオードチップ3Dの下面側のカソード端子Kが高融点半田を用いて半田付けされて構成される。台形状の銅板31の平行な対辺の内の長辺を下底とすると、下底の2つの頂点側には、それぞれダイオードチップ3Dが実装される。銅板31はIGBTチップ3Qのコレクタ端子Cと接続されているので、ダイオードチップ3Dのカソード端子Kが銅板31を介して接続され、1つのアーム5P,5Nが構成される。銅板31は、ニッケルメッキされた銅板31、又は半田付け可能な銅板31であると好適である。上述したように、コレクタ端子C及びカソード端子Kは、チップの下面側のほぼ全面に亘って設けられているため、接触抵抗が小さく大電流が良好に導通する。また、大電流が流れるIGBTチップ3Q及びダイオードチップ3Dを、熱伝導性のよい銅板31に広い面積で接触させることによって、IGBTチップ3Q及びダイオードチップ3Dの銅板実装に伴う熱抵抗を下げ、放熱性を向上させることができる。
【0030】
図8に示したように、IGBTチップ3Qのエミッタ端子Eは正三角形のチップの頂点に配置されている。図7に示すように、IGBTモジュール3において、IGBTチップ3Qは、エミッタ端子Eが配置された頂点部を突き合わせて銅板31に実装される。本例では、6つのIGBTチップ3Qにより、正六角形状にIGBT5Qが構成される。エミッタ端子Eは正六角形の中心に集まり、図7に示すように6つ全てのIGBTチップ3Qに導通する電極Dを蒸着することによって共通端子化される。勿論、それぞれのエミッタ端子E間をワイヤーボンディングで接続したり、半田により接続したりしてもよい。ゲート端子Gは、図7に示すように、正六角形の外周部に配置される。隣り合うIGBTチップ3Qのゲート端子Gが、それぞれワイヤーボンディングBや不図示の電極の蒸着により接続され、IGBT5Qの共通化されたゲート端子となる。
【0031】
図5に示すように、本実施形態では、台形状のパワー半導体モジュール3が、正六角形状に配置されることによってリング状のインバータ5が構成される。図4の回路ブロック図にも示したように、上段アーム5Pを構成するIGBT5Qのコレクタ端子Cに導通する銅板31が直流電源の正極PVに接続される。下段アーム5Nを構成するIGBT5Qのエミッタ端子Eは、直流電源の負極NVに接続される。直流電源の正極PV及び負極NVは、それぞれ3つのレッグにおいて共通するので、図5に示すように、外周側には正極PVに接続される共通プレート34、内周側には負極NVに接続される共通プレート35が設けられる。勿論、内周側に正極PVに接続される共通プレートを設け、外周側に負極NVに接続される共通プレートが設けられてもよい。
【0032】
一方、ステータ7sのステータコイル7cのコイルエンドは、バスバー71を介して、インバータ5と接続される。図6に示すように、IGBTモジュール3には、バスバー71と接続可能な端子32が設けられており、各ステータコイル7c(7u,7v,7w)とインバータ5とが接続される。バスバー71は、各相レッグ5U,5V,5Wの上段アーム5PのIGBT5Qのエミッタと下段アーム5NのIGBT5Qのコレクタとの接続点と、回転電機7の各相のステータコイル7cとの間を電気的に接続する。IGBTモジュール3のゲート端子Gには不図示の制御部からのインバータ駆動信号が接続される。
【0033】
銅板31とIGBT5Qのコレクタ端子とが接続されるので、少なくとも下段アーム5Nを構成する3つのIGBTモジュール3の銅板31には、図6に示すように銅板31の板面から垂直方向に立ち上がる端子32が設けられる。図5に示すように、回転電機7の本体とインバータ5とが配置された状態で、バスバー71と、IGBTモジュール3の端子31とが接続可能な位置関係となる。IGBTモジュール3の端子31及びバスバー71には、図6に示すように、両者を不図示のボルトにより締結可能な貫通孔33及び73が設けられている。勿論、両者を溶接するなど、他の方法によって接続してもよい。
【0034】
回転電機本体のステータ7sに隣接して設置されるインバータ5は、このようにステータ7sから延伸されるバスバー71と直接的に接続される。各ステータコイル7c(7u,7v,7w)とインバータ5とを接続するためのハーネスやコネクタなど特別な電気的接続手段を何ら設けることなく、極めて容易に接続される。
【0035】
尚、上記においては、少なくとも3つのIGBTモジュール3の銅板31に端子32が設けられるとして説明した。しかし、図5に示すように全てのIGBTモジュール3の銅板31に端子32が設けられてもよい。全ての部品を共通化することによって製造コストを低減することができる。また、端子32を利用して上段アーム5Pのコレクタを外周の共通プレート34(正極PV)に接続することもできる。図5には、回転電機7のハウジング7hも図示しているが、このように、バスバー71及びバスバー71に締結されたIGBTモジュール3の端子32が通る空間がハウジング7hに設けられていると好適である。
【0036】
尚、図1及び図2に示すように、IGBTモジュール3は基板51に実装される。そして、基板51と回転電機7のハウジング7hとの間には、ヒートシンク6が設置される。ハウジング7hは、車両のタイヤハウスにおいて常に外気にさらされている。特に車両が走行中には常にハウジング7h周辺の空気は入れ替わる。従って、IGBTモジュール3は、ヒートシンク6及びハウジング7hを介して良好に冷却される。
【0037】
図5〜図9を用いて上述したように、台形形状のIGBTモジュール3を用いてリング状のインバータ5を構成することにより、リングの中央部には六角形状の空き空間が形成される。この空間には、図1及び図2から明らかなように、ロータ7rの回転軸や、動力伝達機構2のロッド80を配置することが可能である。さらに、ロータ7rの回転軸やその延長線が配置可能であるから、図5に示すように、リング状のインバータ5の中央に回転検出センサ90を配置することも可能である。
【0038】
ロッド80の回転方向を車輪9の回転方向へ変換する動力伝達機構2は、上述したように、かさ歯車機構を用いて構成される。この際、車輪9と同軸で回転するスパーギヤ21と、ロッド80と同軸で回転するピニオンギヤ22との回転軸を一点で交差させてもよいし、オフセットを設けて異ならせてもよい。即ち、図10(a)に示すように、直歯(すぐば)歯車を用いてスパーギヤ21Aとピニオンギヤ22Aとの軸を一致させてもよいし、図10(b)に示すように、曲歯(まがりば)歯車を用いてスパーギヤ21Bとピニオンギヤ22Bとの軸を異ならせてもよい。
【0039】
上述したように、回転電機7の回転数は、一般的に車輪9の回転数よりも遙かに高速であるから、減速機構4が備えられている。図1及び図2では、2段の遊星歯車機構を用いて減速機構4を構成する例を示した。しかし、これに限定されることなく、図11(a)に示すように1段の遊星歯車機構を用いて減速機構4を構成してもよい。また、遊星歯車機構に限らず、動力伝達機構2のかさ歯車のギヤ比によって減速機構4を構成してもよい。例えば、図11(b)に示すように、ピニオンギヤ22Cに対して、スパーギヤ21Cの歯数を増やすことによって減速機構4を実現することができる。
【0040】
また、上述したように、本実施形態では、動力伝達機構2による動力伝達を解除できるように、減速機構4に遮断機構として電磁クラッチ25が備えられる。遮断機構は、電磁クラッチ25に限らず、図12に示すようなシンクロメッシュ機構を採用してもよい。車両が高速走行から減速するような場合、動力伝達機構2を再係合することによって、回転電機7を発電機として機能させることができる。この際、ロータ7rの抵抗力により回生ブレーキを実現することもできる。車両が比較的高速で走行する際に再係合を行う場合には、回転同期をとることが重要である。この場合には、遮断機構(再係合機構)として電磁クラッチ25を用いるよりも、シクロメッシュ機構を用いた方が好適である。
【0041】
図12(a)はシクロメッシュ機構を利用した動力伝達機構2の遮断状態を示しており、図12(b)は係合状態を示している。図12(a)における遮断状態から係合する場合、シンクロナイザ・リング27をコーン面28に接触させ、くさび効果で滑らかに同調させることによって回転が同期される。回転が同期すると、図12(b)に示すように櫛歯29が係合され、シンクロナイザ・リング27が固定される。リングギアを開放する際は、シンクロ機構は必要ではないので、軽い引き抜き力によって動力伝達が解除される。シンクロナイザ・リング27の制御は、ソレノイドやワイヤーアクチュエータを用いると好適である。
【0042】
上記においては、図1及び図2に基づいて、IGBTモジュール3がヒートシンク6及びハウジング7hを介して良好に冷却される例を示した。しかし、図13に示すように、IGBTモジュール3(銅板31、IGBTチップ3Q)、基板51、ヒートシンク6を図1及び図2とは逆に積層し、熱容量の大きい車体8を介してインバータ5を冷却してもよい。また、図1及び図2、並びに図13においては、インバータ5が回転電機7の車体8側に配置される場合を例示したが、当然ながら、インバータ5が回転電機7の車輪9の側に配置されてもよい。インバータ5の中央部には、空き空間が形成されているから、インバータ5が回転電機7の車輪9の側に配置されてもロッド80やロータ7rの回転軸の配置場所は確保される。
【0043】
また、上記においては、図4を用いてインバータ5として一般的な2レベルインバータを例示したが、図14に示すような3レベルインバータ5Bを採用してもよい。図14に示すように、3レベルインバータ5Bは、正極PVの電圧と負極NVの電圧との他、正負両極間電圧Vdcが分圧された中間点の中間点Mの電圧も出力可能である。正負両極間電圧Vdcは、定格容量が等価な第1コンデンサ59P及び第2コンデンサ59Nより、理想的には均等に分圧される。
【0044】
インバータ5Bは、2レベルインバータ5と同様に、3相それぞれに対応する3レッグ(5U,5V,5W)のブリッジ回路により構成される。1つのレッグは、正極PVと負極NVとの間に直列に接続された4つのIGBT(Q1,Q2,Q3,Q4)と、正極PVの側の2つのIGBTQ1及びQ2の接続点と負極NVの側の2つのIGBTQ3及びQ4の接続点との間に、共に負極NVから正極PVの方向を順方向として直列に接続された2つのダイオードD5,D6を有して構成される。当該2つのダイオードの接続点は中間点Mに接続される。
【0045】
4つのIGBT(Q1,Q2,Q3,Q4)により構成される1つのレッグの直列回路は、正極PVの側において直列に接続された上段アーム5Pと、負極NVの側において直列に接続された下段アーム5Nとから構成される。4つのIGBTの直列回路における上段アーム5Pと下段アーム5Nとの接続点は回転電機7の各ステータコイルに接続される。また、各IGBT(Q1,Q2,Q3,Q4)には、それぞれフライホイールダイオード(D1,D2,D3,D4)が備えられる。フライホイールダイオードは、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形でIGBTに対して並列に接続される。
【0046】
上述したように1つのIGBTモジュール3は、6つのIGBTチップ3Qにより構成される1つのIGBT5Qと、当該IGBT5Qのフライホイールダイオード5Dとして並列接続される2つのダイオードチップ3Dとを備えて構成される(図7参照)。図14に示す3レベルインバータ5Bの上段アーム5Pは、2つのIGBTモジュール3で構成可能である。従って、6つのIGBTモジュール3によりU,V,W相の3回線分の上段アーム5Pが、図5と同様の配置で構成可能である。同様に6つのIGBTモジュール3によりU,V,W相の3回線分の下段アーム5Nが、図5と同様の配置で構成可能である。ここで、各アーム5P,5Nの一組のIGBTモジュール3においてフライホイールダイオード5Dとして機能する2つのダイオードチップ3Dの内の1つをバイアス用のダイオードD5,D6として機能させることが可能である。このようにすれば、正六角形状にIGBTモジュール3が配置された2枚の基板を積層させることによって、3レベルインバータ5Bを一体化したインバータ一体型回転電機7が構築可能である。
【0047】
尚、3レベルインバータの回路構成は、図14に例示したものに限定されるものではない。簡略化のため、U相のみのレッグを例示するが、例えば図15に示すような回路構成においても、本発明を適用することが可能である。図15(a)においては、バイアス用のダイオードD5,D6がIGBTQ5,Q6を伴い、図15(b)においては、バイアス用のダイオードD7,D8がIGBTQ7,Q8を伴う回路構成である。つまり、1つのレッグにおいてバイアス用のダイオードとIGBTとのペアが2組存在するので、3つのレッグにおいて6組のペアが存在することとなる。
【0048】
1組のペアは図6及び図7に示したようなIGBTモジュール3により構成できる。従って、バイアス用のダイオードとIGBTとの6組のペアは、6つのIGBTモジュール3を用いて構成することができる。6つのIGBTモジュール3は、図5のようにリング状に並べることができる。図14に示す3レベルインバータ5Bの場合には、正六角形状にIGBTモジュール3が配置された2枚の基板を積層させることによって、インバータ一体型回転電機7を構築可能と説明した。図15に示す3レベルインバータの回路構成を採用する場合は、3枚の基板を積層させることによってインバータ一体型回転電機7を構成することができる。リング状のインバータはロータ7rの軸心方向に対して薄型に構成できるので、インバータの回路構成が大きくなっても容易に複数の基板を積層可能である。3レベルインバータの他、コンバータ等を構成した基板を積層させることもできる。
【0049】
以上、説明したように、本発明によって、サスペンション装置のばね下荷重を増大させることなく、従来の自動車に容易に展開可能な構造で、個別に車輪を駆動することのできる車両用駆動装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:ホイールサスペンション
5:インバータ
5U,5V,5W:レッグ
6:ヒートシンク
7r:ロータ
7s:ステータ
7:回転電機(インバータ一体型回転電機)
8:車体
9:車輪
18:スプリング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と車体との間に設置され、所定の振動抑制方向の振動を和らげるスプリング付きのホイールサスペンションと、
直流電力と3相交流電力との間で電力を変換するインバータがロータの回転軸に沿ってステータに隣接して設けられるインバータ一体型回転電機であって、前記ホイールサスペンションの前記振動抑制方向の中心軸と同軸上に前記ロータの回転軸を有すると共に、前記車輪側である下端が前記スプリングの前記車輪側である下端よりも前記車体側に設置される当該インバータ一体型回転電機と、
前記インバータ一体型回転電機の回転方向を前記車輪の回転方向に変換して前記インバータ一体型回転電機による駆動力を前記車輪に伝達する動力伝達機構と、を備える車両用駆動装置。
【請求項2】
前記インバータの3相の各レッグは、前記ステータの周方向に領域分割されて配置される請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記インバータ一体型回転電機は、前記ホイールサスペンションの前記スプリングの内側に配置される請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記インバータは、前記インバータ一体型回転電機の前記車体側に設けられる請求項1〜3の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記インバータ一体型回転電機は、前記ロータの回転軸に沿って前記インバータに隣接するヒートシンクをさらに備える請求項1〜4の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記ヒートシンクは、前記車体に接続される請求項5に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記インバータは、前記ロータの回転軸と同軸の中心軸を周回する空き空間を有して構成される請求項1〜6の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項1】
車輪と車体との間に設置され、所定の振動抑制方向の振動を和らげるスプリング付きのホイールサスペンションと、
直流電力と3相交流電力との間で電力を変換するインバータがロータの回転軸に沿ってステータに隣接して設けられるインバータ一体型回転電機であって、前記ホイールサスペンションの前記振動抑制方向の中心軸と同軸上に前記ロータの回転軸を有すると共に、前記車輪側である下端が前記スプリングの前記車輪側である下端よりも前記車体側に設置される当該インバータ一体型回転電機と、
前記インバータ一体型回転電機の回転方向を前記車輪の回転方向に変換して前記インバータ一体型回転電機による駆動力を前記車輪に伝達する動力伝達機構と、を備える車両用駆動装置。
【請求項2】
前記インバータの3相の各レッグは、前記ステータの周方向に領域分割されて配置される請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記インバータ一体型回転電機は、前記ホイールサスペンションの前記スプリングの内側に配置される請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記インバータは、前記インバータ一体型回転電機の前記車体側に設けられる請求項1〜3の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記インバータ一体型回転電機は、前記ロータの回転軸に沿って前記インバータに隣接するヒートシンクをさらに備える請求項1〜4の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記ヒートシンクは、前記車体に接続される請求項5に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記インバータは、前記ロータの回転軸と同軸の中心軸を周回する空き空間を有して構成される請求項1〜6の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−195097(P2011−195097A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66560(P2010−66560)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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