説明

車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システム

【課題】車両等大型製品への適用ができる車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システムを提供する。
【解決手段】車両等大型製品の脱脂を行うためのマイクロバブルによる脱脂システム1であって、前記製品を浸漬して脱脂するための薬液20を貯留する脱脂槽2と、前記脱脂槽2に前記マイクロバブルを含む薬液20を供給するマイクロバブル供給手段4と、前記製品の脱脂を行うことにより前記脱脂槽2の薬液20表面に浮上した泡沫と、当該薬液近傍の薬液20とを集めて、当該薬液20から油分を分離する油水分離装置3と、前記脱脂槽2の薬液20表面に浮上した泡沫を除去するために、当該薬液20表面近傍に薬液20の表面流を発生させる表面流発生手段5と、前記マイクロバブル供給手段4にて前記マイクロバブルを発生させるために用いるエアーから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置6と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄液と微細気泡により洗浄効果を高める洗浄方式である微細気泡洗浄方式を利用した洗浄装置は公知となっている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、洗浄容器内の洗浄液に浸漬された被洗浄物に対して、微細気泡(マイクロバブル)を含む洗浄液を噴射するための複数の洗浄ノズルと、洗浄液の表面に浮かぶ液面油膜を収集するためのエア吹付け部と、前記液面油膜を回収して油水分離を行うオーバーフロー槽及び油水分離部とを具備した洗浄装置について記載されている。この洗浄装置は、微細気泡洗浄方法の洗浄効果をより高め、洗浄液の長寿命化を図り、コンパクトで操作性を改善したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−301529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されている装置では、課題として、1)車両等大型製品への適用ができない、2)油分が増加すると、油分の持つ消泡効果の影響でマイクロバブルが発生しにくくなり、マイクロバブルの性能が発揮されない、3)槽に貯留するアルカリ系薬剤に通常エアーの供給を行うと、エアーに含まれる二酸化炭素等により、薬剤が酸化され薬剤本来の性能が発揮されない、4)薬剤に含まれる界面活性剤により泡が立ちやすく、薬液表面に浮かんだ泡は消えにくいためそのまま滞留し、脱脂槽上部に泡が滞留すると、洗浄後の製品取り出し時に油を含む泡が製品に再付着してしまう、等を有する。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、車両等大型製品に適用可能である車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、
車両等大型製品の脱脂を行うためのマイクロバブルによる脱脂システムであって、
前記製品を浸漬して脱脂を行うための薬液を貯留する脱脂槽と、
前記脱脂槽に前記マイクロバブルを含む薬液を供給するマイクロバブル供給手段と、
前記製品の脱脂を行うことにより前記脱脂槽の薬液表面に浮上した泡沫と、当該薬液表面近傍の薬液とを集めて、当該薬液から油分を分離する油水分離装置と、
前記脱脂槽の薬液表面に浮上した泡沫を除去するために、当該薬液表面近傍に薬液の表面流を発生させる表面流発生手段と、
前記マイクロバブル供給手段にて前記マイクロバブルを発生させるために用いるエアーから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去手段と、
を有するものである。
【0009】
請求項2においては、
前記油水分離装置により油分が分離された薬液を再び前記脱脂槽に戻して薬液の循環を行う循環手段を有するものである。
【0010】
請求項3においては、
前記脱脂槽における、貯留された薬液中への前記製品の没入部分の近傍に位置する前記脱脂槽の内壁面に、前記マイクロバブル供給手段により前記マイクロバルブを含む薬液を供給するための吐出口を密に設けたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1においては、車両等大型製品のマイクロバブル付加による脱脂において、脱脂性を向上することができる。
【0013】
請求項2においては、循環手段により薬液を循環して利用できる。
【0014】
請求項3においては、製品を貯留された薬液中に没入した際に、製品構造上、薬液の入り難い部分に高濃度のマイクロバブル含む薬液を流入させることができ、薬液の入り難い部分における脱脂性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るマイクロバブルによる脱脂システムの全体構成を示す模式図。
【図2】脱脂槽の上面視を示す模式図。
【図3】マイクロバブル供給量の違いと油分濃度の違いによる脱脂性の変化を示す図。
【図4】供給エアーの違いによるpHの変化を示す図。
【図5】マイクロバブル付加時の薬剤希釈による脱脂性の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を、図を用いて説明する。
本実施形態に係る車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システム(以下。脱脂システムという)は、例えば、自動車のボディに対して塗装処理を行う工程の前工程として、微細気泡洗浄方式により自動車のボディの脱脂を行う工程で適用されるものである。以下、脱脂システムの構成を具体的に説明する。
なお、本実施形態でいう薬液とは、所定量の水に脱脂用の薬剤(脱脂薬剤)原液を所定の希釈率にて希釈した薬剤の水溶液(洗浄液)のことをいう。
【0017】
脱脂システム1は、車両等大型製品の一例である塗装工程前の自動車のボディ10に対してマイクロバブルを含む薬液20により脱脂を行うとともに薬液20を循環させて利用する薬液循環系の脱脂システムである。脱脂システム1は、図1に示すように、脱脂槽2と、油水分離装置3と、マイクロバブル供給手段4と、表面流発生手段5と、二酸化炭素除去装置6と、循環手段7と、を主に有する。
【0018】
脱脂槽2は、ボディ10を浸漬して脱脂するための薬液20を貯留する槽であり、槽本体2aと、サブタンク2bと、を具備する。
槽本体2aは、上部を開口した箱状の大型槽であり、ボディ10の脱脂をする際に槽本体2a内に所定量の薬液20を貯留することができる。すなわち、槽本体2aは、ボディ10全体を浸漬するための薬液を貯留することができる容積を有する。
【0019】
サブタンク2bは、槽本体2aの長手方向一端に隣接して配置される前記槽本体2aよりも小型の槽であり、隣接する槽本体2a端部からオーバーフローする泡沫や薬液20を貯留するための槽である。
【0020】
油水分離装置3は、前記ボディ10の脱脂を行うことにより前記脱脂槽2の槽本体2aの薬液20表面に浮上した泡沫と、当該薬液20表面近傍の薬液20とを集めて、当該薬液20から油分を分離する装置である。すなわち、油水分離装置3は、槽本体2a端部からオーバーフローさせることでサブタンク2bに集められた泡沫とサブタンク2b内の薬液20表面近傍の薬液20とを集めて、当該薬液20から油分を分離する装置である。油水分離装置3は、隣接する槽間が所定の仕切り板により仕切られた第1分離槽3a、第2分離槽3b、第3分離槽3cの三段の槽からなる薬液20を貯留して油水分離を行うための油水分離装置3本体と、当該油水分離装置3本体に貯留される薬液20を所定の温度にて加温するための加温手段8とから構成される。第1分離槽3aと第2分離槽3bを仕切る仕切り板21は、下部が開口されており、油水分離装置3本体に薬液20が貯留された際に、仕切り板21の下部開口部を介して第1分離槽3aの隣接槽である第2分離槽3bに薬液20が流入可能になっている。また、第2分離槽3bと第3分離槽3cとを仕切る仕切り板22は、下部が開口されており、油水分離装置3本体に薬液20が貯留された際に、仕切り板22の下部開口部を介して第2分離槽3bの隣接槽である第3分離槽3cに薬液20が流入可能になっている。
【0021】
第1分離槽3aは、前記サブタンク2bとポンプ9を介して配管11により接続されており、ポンプ9を駆動することによりサブタンク2b内に貯留された薬液20の表面近傍から泡沫と薬液20を、配管11を介して第1分離槽3aに移送可能である。また、第1分離槽3a下部(油水分離装置3本体の一端下部)には、後述する循環手段7から分岐する配管12が接続されている。この配管12は、循環手段7から薬液20を油水分離装置3本体内の底部に導入するための配管であり、薬液20を配管12より導入することで、油水分離装置3本体内の底部に油水分離装置3本体長手方向(図1中の点線矢印方向)の薬液20の流れを生じさせることができる。
【0022】
第2分離槽3bは、当該第2分離槽3bと仕切り板21、22を介して隣接する第1分離槽3a、第3分離槽3cより容積が大きく、かつ油水分離装置3本体長手方向おける幅が広い槽であり、隣接する第1分離槽3aに貯留された薬液20表面に滞留した泡沫(油分、不純物等含む)が仕切り板21を越えてオーバーフローしてくる泡沫を滞留するとともに、油水分離装置3本体長手方向(図1中の点線矢印方向)に薬液20が流れる際に浮上してくる油分を貯留するための槽である。
【0023】
第3分離槽3cは、上部槽24と、当該上部槽24とは水平な仕切り板23により仕切られた下部槽25とから構成される。上部槽24は、隣接する第2分離槽3bに貯留される薬液20表面に滞留した泡沫(油分、不純物等含む)が仕切り板22を越えてオーバーフローしてくる泡沫を貯留するための槽である。また、上部槽24には、配管13が接続されており、この配管13を介して油水分離装置3にて浮上させた油分や不純物等を含む泡沫を系外に排出可能となっている。
一方、下部槽25は、隣接する第2分離槽3bの底部を流れる薬液20が流入可能である槽である。また、第3分離槽3cの下部(油水分離装置3本体の他端下部)には、循環手段7から分岐する配管14が接続されている。この配管14は、薬液20を油水分離装置3本体内の底部から排出するともに循環手段7に戻すための配管である。つまり、図1に示すように、循環手段7をバイパスして前記配管12より油水分離装置3本体内の底部に薬液20を導入し、導入した薬液20を配管13により油水分離装置3本体から循環手段7へ戻すようにすることで、油水分離装置3本体内の底部に油水分離装置3本体長手方向(図1中の点線矢印方向)の薬液20の流れを生じさせることができる。
【0024】
加温手段8は、油水分離装置3本体内に貯留された薬液20を加温する手段であり、電気ヒータ等を適用することが可能である。油水分離装置3本体内に貯留された薬液20を加温手段8により所定温度にて温めることで、薬液20中に存在する油分の薬液20表面への浮上を促進することができる。
【0025】
こうして、油水分離装置3は、脱脂槽2のサブタンク2bから移送されてきた油分と不純物の混在物を伴う薬液20と、循環手段7から導入した薬液20とを貯留し、油水分離装置3本体内の底部において貯留した薬液20を加温手段8により所定温度にて加温しながら油水分離装置3本体長手方向にゆっくり流して一定時間滞留させる(本実施形態では、30分程度)。この際に、薬液20中の油分が薬液20表面に浮上するとともに、薬液20表面に滞留する泡沫(特に、第2分離槽3b内の薬液20表面に滞留する泡沫)に対して浮上してきた油分が泡沫を消泡し、泡沫量が減少することになる。すなわち、油水分離装置3は、油分と薬液20とを分離する際に浮上する油を利用して薬液20表面に滞留する泡沫を消泡しながら、油分を含んだ泡沫および脱脂槽2内不純物の除去をすることができる。こうして、油水分離装置3は、油分及び不純物の混在物と薬液20とを分離し、分離された油分と不純物の混在物を系外に排出し、油分と不純物を取り除いた薬液20を循環手段7に戻すことができるのである。
【0026】
表面流発生手段5は、前記脱脂槽2の槽本体2aの薬液20表面に浮上した泡沫を除去するために、当該薬液20表面近傍に薬液20の表面流を発生させる手段である。すなわち、表面流発生手段5は、槽本体2aにボディ10を脱脂するために貯留された薬液20の表面に滞留する泡沫を除去するために、当該薬液20の表面近傍に薬液20の表面流を発生させる手段である。表面流発生手段5は、図2に示すように脱脂槽2長手方向一端において脱脂槽2短手方向に亘って連設された複数の薬液供給配管19・19・・・を備える。また、表面流発生手段5は、配管15を介して循環手段7に接続されており、当該配管15より導入された薬液20を各薬液供給管19・19・・・にそれぞれ供給するとともに、各薬液供給配管19・19・・・から脱脂槽2の槽本体2aに供給する薬液の供給量(流量)を個別に制御可能である。これにより、表面流発生手段5は、槽本体2a内に貯留される薬液20の表面近傍において各薬液供給配管19・19・・・から槽本体2a内に薬液20を供給(吐出)しつつ、吐出される薬液20の流量・流速をそれぞれ個別に制御して、サブタンク2b側へ薬液20が流れるように表面流を発生することが可能であるとともに、表面流の流れるパターン(流れ方)を適宜制御することが可能である。本実施形態においては、図2に示すように脱脂槽2短手方向の中央部から外側に行くに従って、薬液供給配管19から吐出する薬液20の流量を多く(流速を早く)するよう吐出して、泡沫が溜まりやすい槽本体2a内における表面流発生手段5側の隅角部や側壁面2c近傍の泡沫を流し易くするように表面流の流れるパターンを設定している。
なお、本実施形態においては、薬液供給配管19・19・・・へ導入する薬液20を循環手段7から供給したが、特に限定するものではなく、脱脂槽2の槽本体2aの所定の位置(例えば、槽本体2a底部)から配管により直接導入するように構成することもできる。
【0027】
マイクロバブル供給手段4は、前記脱脂槽2の槽本体2aに前記マイクロバブルを含む薬液20を供給する手段であり、マイクロバブルを発生させる手段であるマイクロバブル発生装置4aと、当該マイクロバブル発生装置4aに接続される分岐管であるマイクロバブル吐出用配管4bと、により構成される。また、マイクロバブル発生装置4aは、二酸化炭素除去装置6を介してエアー供給手段(図示せず)と接続されている。
マイクロバブル吐出用配管4bの一端は、マイクロバブル発生装置4a一端に接続される。マイクロバブル吐出用配管4bの他端は、図1に示すように複数に分岐した分岐管であり、当該分岐管は槽本体2aの内壁面の複数の位置に連通されており、各分岐管の端部がマイクロバルブを吐出するためのマイクロバルブ吐出口4cとなる。
【0028】
このマイクロバルブ吐出口4cは、前記脱脂槽2の槽本体2aに貯留された薬液20中にボディ10を没入する近傍の前記槽本体2aの内壁面に密に設けられ、前記マイクロバブル供給手段4により供給される前記マイクロバルブを含む薬液20を吐出するものである。すなわち、図1に示すように、ボディ10を図示せぬ搬送手段により脱脂槽2の槽本体2aに貯留された薬液20中に没するように搬入し、ボディ10が薬液20に浸漬した際のボディ10の左右側面部に対向する槽本体2aの内壁面とボディ10後部に対向する内壁面にマイクロバルブ吐出口4cが密に配置される。つまり、マイクロバルブ吐出口4cは、脱脂槽2における、貯留された薬液20中へのボディ10の没入部分の近傍に位置する脱脂槽2の内壁面に、密に配置されている。
こうして、マイクロバブル供給手段4は、後述する循環手段7から供給される薬液20とエアー供給手段から供給されるエアーとを用いて、マイクロバブルを含む薬液20をマイクロバルブ吐出口4cから供給することが可能である。特に、ボディ10前部を薬液20に浸漬する際(ボディ10が槽本体2aの薬液20に入る入槽時)において、マイクロバルブ吐出口4cからボディ10に対して高濃度のマイクロバブル含む薬液20を供給することができる。
【0029】
二酸化炭素除去装置6は、前記マイクロバブル供給手段4のマイクロバブル発生装置4aにて前記マイクロバブルを発生させるために用いるエアーから二酸化炭素を除去する手段である。二酸化炭素除去装置6としては、例えば、二酸化炭素除去用のアルカリ性溶液内にエアーを導入してバブリングさせて二酸化炭素を除去する構成とした装置などを用いることができる。
【0030】
循環手段7は、前記油水分離装置3により油分が分離された薬液20を再び前記脱脂槽2の槽本体2aに戻して薬液20の循環20を行う手段である。循環手段7は、サブタンク2bの下部とマイクロバブル発生装置4a下流側端部とを接続する配管16と、当該配管16上に配設されるポンプ17及び熱交換器18、から構成される。また、配管16上におけるポンプ17の下流側には、配管12と配管14とにより油水分離装置3がバイパス接続されており、前述したように油水分離装置3により油分を除去した薬剤20は循環手段7に戻される。熱交換器18は、配管16により移送されてきた薬液20を所定の温度に加温することが可能である。こうして、循環手段7は、ポンプ17を駆動することによりサブタンク2bに貯留された薬液20や油水分離装置3にて油分が除去された薬液20を移送しつつ、熱交換器18により薬液20を所定温度に加温しながらマイクロバブル発生装置4aに移送して、薬剤20を循環させることが可能である。
なお、熱交換器18は、循環させる薬液20に対して加温が必要な場合に、取り付ければよい。
【0031】
次に、以上のように構成された脱脂システム1を用いてボディ10の脱脂を行う脱脂工程について説明する。
【0032】
まず、ボディ10を搬送手段により脱脂システム1の脱脂槽2の上方まで搬送する。そうして、ボディ10を下降させながら薬液20中に没入させる。脱脂槽2では、マイクロバブル発生装置4aによりマイクロバブルを含む薬液20が各マイクロバブル吐出口4cより吐出されており、ボディ10表面やボディ内部(例えば、袋構造の部材等)にマイクロバブルが薬液20とともに流入し、ボディ10に付着している油分や汚れ成分等の不純物が泡沫に取り込まれて除去される。そうして、油分と不純物が混在して含まれる泡沫が槽本体2aに貯留された薬液20表面に浮上する。
【0033】
また、ボディ10の脱脂工程の際に、表面流発生手段5を駆動することにより、槽本体2aに貯留された薬液20表面に滞留する油分及び不純物を含む泡沫を、槽本体2a端部からオーバーフローさせてサブタンク2bへと流入させる。また、槽本体2aの薬液20表面に滞留する泡沫を除去する際には、表面流発生手段5は、図2に示すように、脱脂槽2短手方向の中央部から外側に行くに従って流速が早くなるように薬液20を吐出すると良い。このように表面流発生手段5により表面流をコントロールすることで槽本体2aの側壁面2c近傍に溜まる泡沫や槽本体2aの表面流発生手段5側の隅角部に溜まる泡沫を効率的にサブタンク2bに向けて流すことが可能となり、泡沫の滞留を低減することができる。
【0034】
続いて、槽本体2aからのオーバーフローによりサブタンク2bに集められた泡沫は、サブタンク2b内の薬液20表面に滞留するため、その泡沫と薬液20上面付近の薬液20をポンプ9により油水分離装置3の第1分離槽3aへと移送する。油水分離装置3では、サブタンク2bから移送されてきた薬液20に対して加温しながら、所定時間滞留させることで、薬液20中の油分が薬液20上面に浮かんでくる。さらに、第1分離槽3aに貯留した薬液20に滞留した泡沫が第2分離槽3bにオーバーフローし、第2分離槽3bでは、所定時間の薬液20の滞留により油分が浮上し、それらは薬液20表面に滞留した泡沫といっしょになる(浮上した油分と滞留した泡沫とがいっしょになると油分の消泡効果により滞留した泡沫は減少する)。第2分離槽3bに滞留した油分と不純物を含んだ泡沫は、第3分離槽3cの上部槽24へとオーバーフローし、上部槽24に滞留した油分と不純物を含んだ泡沫は配管13を介して系外に排出される。
【0035】
また、循環手段7は、ポンプ17を駆動することによりサブタンク2bの下部に貯留された薬液20や油水分離装置3にて油分が除去された薬液20を移送しつつ、熱交換器18により薬液20を所定温度に加温しながらマイクロバブル発生装置4aに移送して、薬剤20を循環させる。マイクロバブル発生装置4aでは、ポンプ17により移送されてきた薬液20と二酸化炭素除去装置6により二酸化炭素が除去されたエアーとによりマイクロバブルを含む薬液20を調製し、複数のマイクロバブル吐出口4cから浸漬するボディ10に向けて吐出される。
【0036】
複数のマイクロバブル吐出口4cは、ボディ10を前記脱脂槽2の槽本体2a上方から下降させながら前記貯留された薬液20中に没入する近傍(いわゆる、槽本体2aにおけるボディ10を没入する部分である入槽部)における槽本体2aの内壁面に密に設けられている。これにより、ボディ10を薬液20中に没入した際に、ボディ10構造上、薬液20の入り難い部分に最初に流入する薬液20中にマイクロバブルを高濃度で付加することができ、薬液20の入り難い部分における脱脂性を向上することができる。
具体的には、ボディ10の構造上、薬液20の入り難い部分である「袋構造」となっている箇所が多々あるが、そこに薬液20が流入すると、脱脂工程中に薬液20が入れ替わることがほとんどない。そのため、本実施形態の如く、マイクロバブル吐出口4cを前記入槽部に密に設けることで、「袋構造」に最初に流入する薬液20の中にマイクロバブルを高濃度で付加させることが可能となり、「袋構造」部分の脱脂性を向上させることができる。
以上のように、本実施形態に係る脱脂システム1は、マイクロバブル付加によるボディ10の脱脂において、脱脂性を向上することができる。さらに、循環手段7により薬液20を循環して利用できる。
【0037】
図3に示すグラフは、脱脂システム1におけるマイクロバブル(MB)供給量の違いと油分濃度の違いによる脱脂性(袋構造部)の変化について示したものである。このグラフにおいて、横軸が油分濃度[ppm]であり、縦軸が脱脂性の良悪を示す。図3中の複数の曲線は下から順にマイクロバブル供給量(泡量)を増加させていったものであり、図3中の上向き矢印が示すようにマイクロバブルの供給量を増加させると、薬液20が入り難い部分であるボディ10が有する袋構造部の脱脂性が上がることが確認できた。また、油分濃度が高くなると脱脂性が悪くなることが図3よりわかるが、マイクロバブルの供給量を増加すると、油分濃度が高い場合においても、十分な脱脂性を有し、薬液20が入り難い部分であるボディ10が有する袋構造部に高濃度のマイクロバブルを含む薬液20をボディ10の薬液20没入の際に袋構造部に流入させることが、脱脂性において有効であることが確認できた。
【0038】
次に、図4に示すグラフは、二酸化炭素の有無による薬液のpH変化について示したものである。これは、マイクロバブル発生装置4aでの薬液20とエアーとの混合を想定して実験した結果であり、従来から行われているように薬液20に通常エアーを供給した場合と、薬液20に二酸化炭素を除去したエアーを供給した場合のpH変化を経時的に調べたものである。このグラフにおいて、横軸が時間[h]であり、縦軸がpHを示す。図4中において、◆点プロットを結ぶ直線が二酸化炭素を除去したエアーであり、■点プロットを結ぶ直線が通常エアーのものである。図4から明らかなように、二酸化炭素が含まれる通常エアーは、時間経過とともにpHが下がってくる。これは、アルカリ性である薬液20を酸化してしまうことによる。この結果から、本実施形態の如く、マイクロバブル発生装置4aに供給するエアーから二酸化炭素を除去することで、槽本体2a内に貯留する薬液のpH変化を起こすことなく薬液20の脱脂能力を維持することができる。
【0039】
次に、図5に示すグラフは、マイクロバブル付加時の薬剤希釈による脱脂性の変化について示したものである。このグラフにおいて、横軸が原液希釈率であり、縦軸が脱脂性を示す。図4中において、矢印Aで示す◆点プロットを結ぶ曲線がマイクロバブル付加有りであり、矢印Bで示す▲プロットを結ぶ曲線がマイクロバブル付加無しのものである。このグラフにおいて、マイクロバブル付加有無の違いを見れば明らかなように、マイクロバブル付加による脱脂性向上により、脱脂薬剤を希釈しても脱脂性を十分に確保できる。さらに、本実施形態による脱脂システム1では、マイクロバブル発生装置4aに供給するエアーから二酸化炭素を除去するため、薬液20を循環して使用し続けても、薬液20のpHの変化がなく、薬液20の脱脂性を保持することが可能であるため、希釈率の高い薬液でも十分な脱脂性を継続して得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 脱脂システム
2 脱脂槽
3 油水分離装置
4 マイクロバブル供給手段
4a マイクロバブル発生装置
4c マイクロバブル吐出口
5 表面流発生手段
6 二酸化炭素除去装置
7 循環手段
10 ボディ(製品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両等大型製品の脱脂を行うためのマイクロバブルによる脱脂システムであって、
前記製品を浸漬して脱脂を行うための薬液を貯留する脱脂槽と、
前記脱脂槽に前記マイクロバブルを含む薬液を供給するマイクロバブル供給手段と、
前記製品の脱脂を行うことにより前記脱脂槽の薬液表面に浮上した泡沫と、当該薬液表面近傍の薬液とを集めて、当該薬液から油分を分離する油水分離装置と、
前記脱脂槽の薬液表面に浮上した泡沫を除去するために、当該薬液表面近傍に薬液の表面流を発生させる表面流発生手段と、
前記マイクロバブル供給手段にて前記マイクロバブルを発生させるために用いるエアーから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去手段と、
を有することを特徴とする車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システム。
【請求項2】
前記油水分離装置により油分が分離された薬液を再び前記脱脂槽に戻して薬液の循環を行う循環手段を有することを特徴とする請求項1に記載の車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システム。
【請求項3】
前記脱脂槽における、貯留された薬液中への前記製品の没入部分の近傍に位置する前記脱脂槽の内壁面に、前記マイクロバブル供給手段により前記マイクロバルブを含む薬液を供給するための吐出口を密に設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両等大型製品のマイクロバブルによる脱脂システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−173086(P2011−173086A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40275(P2010−40275)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】