説明

車両

【課題】傾斜制御を行って車両を旋回させるときに乗員に違和感を与えることがないようにする。
【解決手段】走行用の車輪を備えた本体部と、操舵部材、操舵用の車輪12F及び操舵軸を備えた操舵部60と、所定の傾斜部位を傾斜させるための車両傾斜機構及びアクチュエータを備えた車両傾斜装置と、傾斜部位に配設され、横加速度を検出する横加速度検出部と、横加速度に基づいてアクチュエータを駆動する傾斜制御処理手段と、搭乗部11における所定の箇所と操舵部60における所定の箇所とを連結し、操舵部材を中立位置に復帰させるための操舵復帰部材とを有する。旋回を終了する際に、運転者が車両を加速するのに伴って操舵部材を中立位置側に向けて戻すと、アクチュエータへの指令値を小さくすることができる。したがって、車両の傾斜角度が大きくなるのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両においては、一般的に、乗員である運転者のほかに、複数の他の乗員を収容することができるようになっているが、運転者だけが車両に乗車することが多く、その場合、エネルギーが無用に消費されてしまう。このことから、例えば、二輪車、三輪車等の1人乗り用の車両が提供されている。
【0003】
ところが、一人乗り用の車両においては、例えば、運転者が乗車するのに伴って重心の位置が高くなり、車両を旋回させるとき、すなわち、旋回時における安定性(以下「旋回安定性」という。)が低くなってしまう。そこで、例えば、二輪車においては、旋回時に運転者が二輪車を旋回中心側に傾斜させて走行させるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−155671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記二輪車においては、運転者が走行状態に応じて二輪車を傾斜させるので、適正な角度だけ傾斜させることが困難であり、運転者が違和感を感じたり、不安を抱いたりしてしまう。
【0006】
そこで、リンク機構、リンクモータ等を配設し、傾斜制御(姿勢制御)を行うことによって、旋回時に前記リンクモータを駆動し、車両に加わる横加速度が0(零)になるようにリンク機構を作動させ、操舵角及び遠心力に応じた角度だけ傾斜させるようにした車両、例えば三輪車が考えられる。
【0007】
その場合、操舵角及び遠心力に応じた角度だけ三輪車を傾斜させることができるので、運転者が違和感を感じたり、不安を抱いたりすることがなくなる。
【0008】
ところが、前記従来の二輪車においては、旋回を終了する際に、運転者が体重移動を行うことによって二輪車を起こすと、前輪に発生するセルフアライニングトルクによって、ハンドルバーが自然に元の状態に戻るのに対して、傾斜制御を行うようにした前記三輪車においては、旋回を終了する際に、運転者がハンドルバーをセルフアライニングトルク以上の力で元の状態に戻す必要があるので、運転者に違和感を与えてしまう。
【0009】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、傾斜制御を行って車両を旋回させるときに乗員に違和感を与えることがない車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために、本発明の車両においては、走行用の車輪を備えた本体部と、運転者によって操作される操舵部材、操舵用の車輪、及び前記操舵部材と操舵用の車輪とを連結し、前記搭乗部によって揺動自在に支持された操舵軸を備えた操舵部と、車両における所定の傾斜部位を傾斜させるための車両傾斜機構、及び該車両傾斜機構を作動させるためのアクチュエータを備えた車両傾斜装置と、前記傾斜部位における所定の箇所に配設され、前記傾斜部位に加わる横加速度を検出する横加速度検出部と、該横加速度検出部によって検出された横加速度に基づいて傾斜制御を行い、前記アクチュエータを駆動する傾斜制御処理手段と、前記搭乗部における所定の箇所と、前記操舵部における所定の箇所とを連結し、前記操舵部材を中立位置に復帰させるための操舵復帰部材とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両においては、走行用の車輪を備えた本体部と、運転者によって操作される操舵部材、操舵用の車輪、及び前記操舵部材と操舵用の車輪とを連結し、前記搭乗部によって揺動自在に支持された操舵軸を備えた操舵部と、車両における所定の傾斜部位を傾斜させるための車両傾斜機構、及び該車両傾斜機構を作動させるためのアクチュエータを備えた車両傾斜装置と、前記傾斜部位における所定の箇所に配設され、前記傾斜部位に加わる横加速度を検出する横加速度検出部と、該横加速度検出部によって検出された横加速度に基づいて傾斜制御を行い、前記アクチュエータを駆動する傾斜制御処理手段と、前記搭乗部における所定の箇所と、前記操舵部における所定の箇所とを連結し、前記操舵部材を中立位置に復帰させるための操舵復帰部材とを有する。
【0012】
この場合、搭乗部における所定の箇所と、操舵部における所定の箇所とが操舵復帰部材によって連結されるので、旋回を終了する際に、運転者は操舵復帰部材の付勢力を利用して操舵部材を元の状態に戻すことができる。したがって、運転者が操舵部材を操作するための力を軽減することができ、運転者に違和感を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態における三輪車の要部を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における三輪車の右側面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における三輪車の背面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における三輪車を傾斜させた状態を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態における三輪車の制御ブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における制御部の動作を示すメインフローチャートである。
【図8】本発明の第1の実施の形態における横加速度算出処理のサブルーチンを示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態における合成横加速度を演算する方法を説明するための概念図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態における横加速度推定処理のサブルーチンを示す図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ処理のサブルーチンを示す図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態における傾斜制御処理のサブルーチンを示す図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態における走行駆動制御処理のサブルーチンを示す図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態における三輪車の要部を示す斜視図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態における三輪車の背面図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態における三輪車を部分的に傾斜させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、車両としての三輪車について説明する。
【0015】
図2は本発明の第1の実施の形態における三輪車の右側面図、図3は本発明の第1の実施の形態における三輪車の背面図、図4は本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構を示す図、図5は本発明の第1の実施の形態における三輪車を傾斜させた状態を示す図である。
【0016】
図において、10は三輪車であり、該三輪車10は、車両本体Bd、及び該車両本体Bdに対して回転自在に配設された三つの車輪12F、12L、12Rを備える。
【0017】
また、前記車両本体Bdは、乗員である運転者が搭乗するための搭乗部11、該搭乗部11と車輪12Fとを連結する操舵軸としての前輪フォーク17、前記搭乗部11より後方に配設された支持部20、前記搭乗部11より前方に配設され、運転者が三輪車10を操縦するための操縦装置41、前記支持部20の下方に配設され、三輪車10の所定の傾斜部位、本実施の形態においては、三輪車10の全体を路面18に対して左右に傾斜(リーン)させるための車両傾斜装置43等を備える。なお、前記搭乗部11と支持部20とは図示されない連結部を介して連結される。
【0018】
また、前記支持部20、車両傾斜装置43、車輪12L、12R等によって本体部61が、車輪12F、前輪フォーク17、操縦装置41等によって、三輪車10を操舵するための操舵部が、該操舵部及び搭乗部11によって搭乗・操舵部62が構成される。
【0019】
前記車輪12Fは、車両本体Bdの前側における所定の位置、本実施の形態においては、三輪車10の幅方向における中央に、前記前輪フォーク17に対して回転自在に配設され、前輪として、かつ、操舵用の車輪(操舵輪)として機能する。なお、前記車輪12Fの車軸に、車速vを検出する車速検出部としての車速センサ54が配設される。
【0020】
また、車輪12L、12Rは、車両本体Bdの後側における所定の位置、本実施の形態においては、三輪車10の幅方向における左右の両端に、前記支持部20に対して回転自在に配設され、後輪として、かつ、走行用の車輪(駆動輪)として機能する。そのために、前記車輪12L、12Rには、それぞれ、三輪車10を走行させるための走行用の駆動部としての駆動モータ51L、51Rが配設され、該駆動モータ51L、51Rを駆動することによって車輪12L、12Rを回転させることができるようになっている。前記駆動モータ51L、51Rは、それぞれ車輪12L、12R内に収容され、インホイールモータを構成する。なお、Lhは、車輪12Fの車軸と各車輪12L、12Rの車軸との距離、すなわち、前後輪間距離(ホイールベース)である。
【0021】
本実施の形態において、前記駆動モータ51L、51Rとしては、速度制御、トルク制御等が可能なサーボモータが使用されるが、他の種類のモータを使用することができる。また、本実施の形態においては、駆動モータ51L、51Rがそれぞれ車輪12L、12R内に収容されるようになっているが、駆動モータを、車輪12Fに配設したり、各車輪12F、12L、12Rに配設したりすることができる。さらに、駆動モータを車両本体Bdの所定の箇所に配設し、駆動モータと車輪12Fとを連結したり、駆動モータと車輪12L、12Rとを連結したり、駆動モータと車輪12F、12L、12Rとを連結したりすることもできる。
【0022】
さらに、本実施の形態においては、車両本体Bdの前側に一つの車輪12Fが、車両本体Bdの後側に二つの車輪12L、12Rが配設されるようになっているが、車両本体Bdの前側に二つの車輪を、車両本体Bdの後側に一つの車輪を配設することができる。また、車両が二輪車である場合は、車両本体の左右の両端に車輪が配設され、車両が四輪車である場合は、車両本体の前側及び後側の左右の両端に車輪が配設される。
【0023】
前記搭乗部11は、運転者が着座するための部位である座席11a、該座席11aより前方に配設され、運転者の足を置くための部位である搭乗部本体としての、かつ、床部材としてのフットレスト11b、該フットレスト11bの前端から斜めに立ち上げて配設された前支持部としてのフロントアーム11c、及び前記座席11aの後端から上方に向けて立ち上げて形成された背もたれ部11dを備える。なお、本実施の形態において、三輪車10は一人乗り用とされ、搭乗部11に運転者だけが搭乗することができるようになっているが、搭乗部11に運転者及び他の乗員を搭乗させたり、搭乗部11の後方の車輪12L、12Rの上に補助搭乗部を形成し、該補助搭乗部に他の乗員を搭乗させたりすることができる。
【0024】
また、前記前輪フォーク17は、例えば、付勢部材としてのスプリングが内蔵されたテレスコピックタイプのフォークであり、サスペンション装置(懸架装置)として機能する。
【0025】
そして、前記操縦装置41は、三輪車10の進行方向を変えたり、三輪車10を旋回させたりするための第1の操作部としての、かつ、操舵部材としてのハンドルバー41a、速度メータ、インジケータ等の表示要素としての図示されないメータ類、始動スイッチ、ボタン等の操作要素としての図示されないスイッチ類等を備える。なお、前記ハンドルバー41aに代えて、第1の操作部としての、かつ、操舵部材としてのステアリングホイール、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等を配設することができる。
【0026】
また、前記フロントアーム11cの上端には、図示されない操舵軸支持部としてのステムホルダが、上端を下端より後方に位置させ、傾斜させた状態で一体に形成され、該ステムホルダによって前記ハンドルバー41a、前輪フォーク17、車輪12F等が揺動自在に支持される。したがって、運転者が前記ハンドルバー41aを操作して回動させると、前輪フォーク17及び車輪12Fは、前記ハンドルバー41aの回動に応じて所定の舵角で回動させられ、三輪車10の進行方向を変える。
【0027】
なお、前記ハンドルバー41aには、三輪車10を加速(発進も含む。)させるための第2の操作部としての、かつ、加速操作部材としての図示されないアクセルグリップ、及び三輪車10を減速(制動も含む。)させるための第3の操作部としての、かつ、第1の減速操作部材としてのブレーキレバーが配設される。また、前記フットレスト11bには、三輪車10を減速させるための第4の操作部としての、かつ、第2の減速操作部材としての図示されないブレーキペダル等が配設される。
【0028】
したがって、運転者は、前記ハンドルバー41a、アクセルグリップ、ブレーキレバー、ブレーキペダル等を操作して、所定の走行条件(例えば、進行方向、旋回方向、旋回半径、走行速度等)で三輪車10を走行させることができる。
【0029】
また、前記操縦装置41には、前記ハンドルバー41aの操作量、すなわち、操舵量としての操舵角βを検出する操舵量検出部としての図示されない操舵角センサ、前記アクセルグリップの操作量である加速操作量としてのアクセル操作値θを検出する加速操作量検出部としての図示されないアクセルセンサ、前記ブレーキレバー、ブレーキペダル等の操作量である減速操作量を検出する減速操作量検出部としての図示されないブレーキセンサ等が配設される。なお、前記操舵角βは、運転者が三輪車10に対して要求する要求旋回量を表す。
【0030】
そして、前記車両傾斜装置43は、車輪12L、12Rを支持する支持機構としての、かつ、三輪車10の全体を傾斜させるための車両傾斜機構としてのリンク機構30、及び該リンク機構30を作動させ、三輪車10を傾斜させるためのアクチュエータとしての、かつ、傾斜用の駆動部としてのリンクモータ25を備える。本実施の形態において、該リンクモータ25としては、速度制御、トルク制御等が可能なサーボモータが使用されるが、他の種類のモータを使用することもできる。
【0031】
前記リンク機構30は、車輪12Lの内側(三輪車10の中央側)において、上下方向に延在させて配設され、駆動モータ51Lを支持する左側の縦リンクユニット33L、車輪12Rの内側において、上下方向に延在させて配設され、駆動モータ51Rを支持する右側の縦リンクユニット33R、前記縦リンクユニット33L、33Rの各上端部に対して相対的に回転自在に連結された上側の横リンクユニット31U、前記縦リンクユニット33L、33Rの各下端部に対して相対的に回動自在に連結された下側の横リンクユニット31D、及び上下方向に延在させて配設され、上端が前記支持部20に対して回転不能に固定され、横リンクユニット31U、31Dの中央部に対して相対的に回動自在に連結された中央縦部材21を備える。
【0032】
前記駆動モータ51L、51Rは、それぞれ、固定部材としての図示されないケース、該ケースに取り付けられた図示されないステータ、該ステータに対して回転自在に配設された図示されないロータ、及び該ロータに取り付けられた図示されない出力軸を備え、前記各ケースがそれぞれ縦リンクユニット33L、33Rに固定され、各出力軸が車輪12L、12Rの軸に連結される。
【0033】
また、前記リンクモータ25は、前記支持部20から下方に垂下させて配設された支持プレート22を介して支持部20に固定され、固定部材としてのケースcs1、該ケースcs1に取り付けられた図示されないステータ、該ステータに対して回転自在に配設された図示されないロータ、及び該ロータに取り付けられた出力軸Lshを備える。そして、前記ケースcs1が支持プレート22を介して支持部20及び中央縦部材21に対して回転不能に固定され、出力軸Lshが前記横リンクユニット31Uに対して回転不能に固定される。なお、前記出力軸Lshは、中央縦部材21と横リンクユニット31Uとを回転自在に連結する連結軸と同一軸上に配設される。
【0034】
したがって、リンクモータ25を駆動して出力軸Lshをケースcs1に対して所定の角度だけ回動させると、横リンクユニット31Uが、支持部20及び中央縦部材21に対して前記所定の角度だけ回動させられ、その結果、リンク機構30が作動して屈曲させられる。その結果、図5に示されるように、三輪車10は前記所定の角度だけ傾斜させられる。これに伴って、車輪12F、12L、12Rは、路面18に対して鉛直な状態を表す鉛直状態から前記所定の角度だけ傾斜させられ、キャンバが付与された状態になる。
【0035】
また、前記リンクモータ25は、出力軸Lshをケースcs1に対して任意の角度で回転不能に固定するための図示されないロック機構を備える。該ロック機構は、ブレーキ等のメカニカルな機構によって形成される。なお、ロック機構によって出力軸Lshがケースcs1に対して回転不能に固定されている間、リンクモータ25において電力は消費されない。
【0036】
本実施の形態においては、ケースcs1が支持部20及び中央縦部材21に対して回転不能に固定され、出力軸Lshが前記横リンクユニット31Uに対して回転不能に固定されるが、ケースcs1を前記横リンクユニット31Uに対して回転不能に固定し、出力軸Lshを支持部20及び中央縦部材21に対して回転不能に固定することができる。
【0037】
前記車両本体Bdには、搭乗部11の後方若しくは下方又は支持部20に、駆動モータ51L、51R及びリンクモータ25のエネルギー供給源である図示されないバッテリ装置、及び図示されない制御部が配設される。
【0038】
ところで、三輪車10を旋回させると、旋回経路における旋回中心から径方向外方に向けて遠心力が発生する。このとき、図5に示されるように、三輪車10を旋回中心側に傾斜させると、遠心力と三輪車10に加わる重力加速度とが相殺され、見かけ上、遠心力が重力加速度の分だけ小さくなる。すなわち、三輪車10の高さ方向に高さ方向軸sh1を、三輪車10の幅方向(高さ方向軸sh1に対して直角の方向)に幅方向軸sh2を採ると、遠心力の幅方向軸sh2上の成分、すなわち、幅方向成分が重力加速度の幅方向成分の分だけ小さくなる。このとき、遠心力の幅方向成分によって三輪車10に加わる横加速度が、重力加速度の幅方向成分によって三輪車10に加わる横加速度の分だけ小さくなる。
【0039】
そして、遠心力の幅方向成分と重力加速度の幅方向成分とを等しくすると、三輪車10に加わる横加速度は0になり、この状態で、三輪車10及び運転者には、見かけ上、遠心力の高さ方向軸sh1上の成分、すなわち、高さ方向成分と重力加速度の高さ方向成分との合成成分だけが加わる。
【0040】
そこで、本実施の形態においては、旋回時に、三輪車10に加わる横加速度が0になるように三輪車10を傾斜させることによって、旋回安定性を高くするとともに、運転者が違和感を感じたり、不安を抱いたりすることがないようにしている。
【0041】
そのために、三輪車10の所定の部位、本実施の形態においては、背もたれ部11dの背面に、複数の、本実施の形態においては、二つの横加速度検出部としての第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが、互いに異なる高さに配設される。前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、一般的な加速度センサ、ジャイロセンサ等から成るセンサであり、第1、第2の横加速度a1、a2を検出する。
【0042】
本実施の形態においては、三輪車10に第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが配設されるようになっているが、三輪車10に横加速度センサを一つだけ配設することができる。
【0043】
なお、三輪車10に横加速度センサを一つだけ配設する場合、不要な加速度成分が検出されてしまうことがある。例えば、三輪車10の走行中に、路面18の窪(くぼ)みに車輪12L、12Rのいずれか一方だけが落下した場合、三輪車10が傾斜させられ、それに伴って横加速度センサが変位するので、所定の横加速度が検出される。
【0044】
また、三輪車10には、例えば、車輪12L、12Rのタイヤのような、弾性を有し、ばねとして機能する部位が存在するタイヤが使用されるので、各部品間の接続部分等にガタが不可避的に発生する。したがって、ばねとして機能する部位の伸縮、ガタの発生等に伴って横加速度センサが変位するので、所定の横加速度が検出される。このように、遠心力に直接起因しない不要な加速度成分が検出されてしまうことがある。
【0045】
本実施の形態においては、前述されたように、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが配設されるので、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bを適切な位置に配設することによって不要な加速度成分を取り除くことができる。
【0046】
また、本実施の形態においては、図3に示されるように、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、それぞれ、搭乗部11の背もたれ部11dの背面において、重力方向における路面18からの距離、すなわち、高さがL1、L2の位置に配設され、該高さL1、L2は、
L1>L2
にされる。高さL1、L2の差で表されるセンサ間距離ΔLは、小さいほど第1、第2の横加速度a1、a2の差が小さくなるので、十分に大きく、例えば、0.3〔m〕以上になるように第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが配設される。
【0047】
なお、三輪車10が傾斜させられる際の揺動中心、すなわち、ロール中心は、厳密には路面18よりわずかに下方に位置するが、本実施の形態においては、路面18上に位置すると考える。
【0048】
前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、いずれも、リンク機構30より上方の、車輪12Fの車軸と左右の車輪12L、12Rの車軸との間の運転者に可能な限り近い箇所において、十分に剛性の高い部材に取り付けられることが望ましい。また、車両本体Bdがサスペンション等のばねで支持されている場合には、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bを、いずれも、いわゆる「ばね上」に配設することが望ましい。さらに、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、いずれも、三輪車10を上方から見たとき、進行方向に延在する三輪車10の中心軸上に位置させられ、中心軸に対してオフセットされないことが望ましい。
【0049】
そして、三輪車10の旋回時に、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって第1、第2の横加速度a1、a2が検出されると、前記制御部において、第1、第2の横加速度a1、a2に基づいて合成された横加速度、すなわち、合成横加速度が0になるようにリンクモータ25のフィードバック制御が行われ、遠心力に応じた角度だけ三輪車10が旋回中心側に傾斜させられる。したがって、三輪車10に加わる合成横加速度が0になるので、旋回安定性を高くすることができる。
【0050】
また、本実施の形態においては、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって検出された第1、第2の横加速度a1、a2だけでなく、操舵角βの大きさに基づいて推定された横加速度、すなわち、推定横加速度(予測値)も考慮してフィードフォワード制御が行われる。
【0051】
次に、三輪車10の制御装置について説明する。
【0052】
図6は本発明の第1の実施の形態における三輪車の制御ブロック図である。
【0053】
図において、46は三輪車10の全体の制御を行う制御部であり、三輪車10を傾斜させるための傾斜制御システムを構成する。この場合、制御部46の電源がオンにされている間、傾斜制御システムにおいて、所定の制御周期Ts(例えば、0.2〔ms〕)で各種の処理が行われる。また、前記制御部46は、コンピュータとして機能する演算装置としてのCPU、第1の記憶装置としてのRAM、第2の記憶装置としてのROM、入出力インタフェース等を備え、前記RAM及びROMは、磁気ディスク、半導体メモリ等から成る。
【0054】
そして、前記制御部46には、前記第1横加速度センサ44a、前記第2横加速度センサ44b、アクセルセンサ45、操舵角センサ53、前記車速センサ54、前記リンクモータ25を駆動するためのインバータ装置等から成るモータ駆動部55、駆動モータ51L、51Rを駆動するためのインバータ装置等から成るモータ駆動部56等が接続される。なお、アクセルセンサ45は前記アクセル操作値θを、操舵角センサ53は前記操舵角βを検出する。
【0055】
また、前記制御部46は、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって検出された第1、第2の横加速度a1、a2に基づいて合成横加速度aを算出する横加速度算出処理手段としての横加速度演算部48、操舵角センサ53によって検出された操舵角β、及び車速センサ54によって検出された車速vに基づいて、三輪車10に加わる推定横加速度afを算出する横加速度推定処理手段としての横加速度推定部49、前記合成横加速度a及び推定横加速度afに基づいてリンクモータ25を駆動するための指令値としてのトルク指令値To* をモータ駆動部55に出力する傾斜制御処理手段としての傾斜制御部51、前記アクセルセンサ45によって検出されたアクセル操作値θ、及び前記車速センサ54によって検出された前記車速vに基づいて、駆動モータ51L、51Rを駆動するためのトルク指令値Ts* を算出し、該指令値Ts* をモータ駆動部56に出力する走行駆動制御処理手段としての走行駆動制御部65等を備える。
【0056】
次に、前記制御部46の動作について説明する。
【0057】
図7は本発明の第1の実施の形態における制御部の動作を示すメインフローチャート、図8は本発明の第1の実施の形態における横加速度算出処理のサブルーチンを示す図、図9は本発明の第1の実施の形態における合成横加速度を演算する方法を説明するための概念図、図10は本発明の第1の実施の形態における横加速度推定処理のサブルーチンを示す図、図11は本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ処理のサブルーチンを示す図、図12は本発明の第1の実施の形態における傾斜制御処理のサブルーチンを示す図、図13は本発明の第1の実施の形態における走行駆動制御処理のサブルーチンを示す図である。
【0058】
まず、横加速度演算部48は、横加速度算出処理を行い、第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bによって検出された第1、第2の横加速度a1、a2に基づいて合成横加速度aを算出する(ステップS1)。次に、横加速度推定部49は、横加速度推定処理を行い、操舵角センサ53によって検出された操舵角β、及び車速センサ54によって検出された車速vに基づいて、三輪車10に加わる横加速度を推定し、推定横加速度afを算出する(ステップS2)。
【0059】
そして、傾斜制御部51は、傾斜制御処理を行い、横加速度演算部48から合成横加速度aを、横加速度推定部49から推定横加速度afを読み込み、前記合成横加速度a及び推定横加速度afに基づいて、リンクモータ25を駆動するためのトルク指令値To* をモータ駆動部55に出力する(ステップS3)。続いて、走行駆動制御部65は、走行駆動制御処理を行い、前記アクセル操作値θに基づいて、駆動モータ51L、51Rを駆動するためのトルク指令値Ts* を算出し、モータ駆動部56に出力する(ステップS4)。
【0060】
次に、図8及び9に基づいて、横加速度演算部48の動作について説明する。
【0061】
まず、前記横加速度演算部48は、第1、第2の横加速度a1、a2を読み込み(ステップS1−1、S1−2)、第1、第2の横加速度a1、a2の差を表す横加速度差Δa
Δa=a1−a2
を算出する(ステップS1−3)。
【0062】
次に、前記横加速度演算部48は、第1横加速度センサ44aと第2横加速度センサ44bの高さL1、L2を前記ROMから読み出すことによって取得し(ステップS1−4)、高さ方向軸sh1上の第1横加速度センサ44aと第2横加速度センサ44bとの距離、すなわち、センサ間距離ΔL
ΔL=L1−L2
を算出する(ステップS1−5)。なお、前記高さL1、L2はあらかじめROMに記録される。また、センサ間距離ΔLをあらかじめ算出し、ROMに記録することができる。
【0063】
続いて、前記横加速度演算部48の図示されない合成横加速度差算出処理手段は、合成横加速度差算出処理を行い、第2の横加速度a2、高さL2、センサ間距離ΔL及び横加速度差Δaに基づいて、前記合成横加速度aを式(1)に基づいて算出する(ステップS1−6)。
【0064】
a=a2−(L2/ΔL)・Δa …(1)
なお、第1の横加速度a1、高さL1、センサ間距離ΔL及び横加速度差Δaに基づいて、前記合成横加速度aを式(2)に基づいて算出することができる。
【0065】
a=a1−(L1/ΔL)・Δa …(2)
この場合、式(1)及び(2)によって前記合成横加速度aを算出すると、理論上は同じ値を得ることができるが、三輪車10を傾斜させたときの円周方向の変位によって三輪車10に加わる加速度はロール中心からの距離に比例するので、実際には、ロール中心に近い方の第2横加速度センサ44bの検出値である第2の横加速度a2を基準にして合成横加速度aを算出することが望ましい。そこで、本実施の形態においては、式(1)によって合成横加速度aが算出される。
【0066】
そして、前記横加速度演算部48は、傾斜制御部51に算出した合成横加速度aを送る(ステップS1−7)。
【0067】
次に、図10及び11に基づいて、横加速度推定部49の動作について説明する。
【0068】
まず、前記横加速度推定部49は、横加速度推定処理を行い、操舵角β及び車速vを読み込むことによって取得する(ステップS2−1、S2−2)。
【0069】
そして、前記横加速度推定部49の図示されないフィルタ処理手段は、フィルタ処理を行い、操舵角βに対してフィルタ処理を行う(ステップS2−3)。そのために、前記フィルタ処理手段は、制御周期Tsを読み込み(ステップS2−3−1)、車速vに対応するカットオフ周波数w(v)を算出する(ステップS2−3−2)。なお、本実施の形態において、カットオフ周波数w(v)は、車速vに反比例する関数で表されるが、他の関数で表すことができる。また、ROMのマップに車速とカットオフ周波数とをあらかじめ対応させて記録しておき、マップを参照してカットオフ周波数を読み出すことによって取得することもできる。
【0070】
続いて、前記フィルタ処理手段は、前回の傾斜制御で算出された操舵角βoldをRAMから読み出し(ステップS2−3−3)、前記操舵角βold、制御周期Ts、カットオフ周波数w(v)及び操舵角βに基づいて、式(3)によって、フィルタ処理された操舵角、すなわち、処理操舵角β(t)を算出する(ステップS2−3−4)。なお、操舵角βoldの初期値は0にされる。
【0071】
【数1】

【0072】
該式(3)は、バンドパスフィルタとして一般的に使用されるIIR(Infinite Impulse Response)フィルタであり、一次遅れ系のローパスフィルタであるカットオフ周波数可変ローパスフィルタを表す。このように、車速vに応じてカットオフ周波数w(v)を変化させてフィルタ処理が行われるので、三輪車10を高速で走行させたとき、すなわち、高速走行時における安定性(以下「走行安定性」という。)を高くすることができる。
【0073】
続いて、前記フィルタ処理手段は、処理操舵角β(t)を操舵角βoldとしてRAMに記録する(ステップS2−3−5)。
【0074】
このようにして、前記フィルタ処理において処理操舵角β(t)が算出されると、前記横加速度推定部49の図示されない推定横加速度算出処理手段は、推定横加速度算出処理を行い、前後輪間距離Lhを読み込み(ステップS2−4)、該前後輪間距離Lh、車速v及び処理操舵角β(t)に基づいて、式(4)によって、推定横加速度afを算出する(ステップS2−5)。
【0075】
【数2】

【0076】
そして、前記横加速度推定部49は、傾斜制御部51に推定横加速度afを送る(ステップS2−6)。
【0077】
次に、図12に基づいて、傾斜制御部51の動作について説明する。
【0078】
まず、前記傾斜制御部51の図示されない横加速度取得処理手段は、横加速度取得処理を行い、横加速度演算部48から合成横加速度aを読み込む(ステップS3−1)。
【0079】
続いて、前記傾斜制御部51の図示されない微分値算出処理手段は、微分値算出処理を行い、RAMから前回の傾斜制御で記録された合成横加速度aoldを読み出すとともに、制御周期Tsを読み込み、合成横加速度aの微分値δa
δa=da/dt
=(a−aold)/Ts
を算出する(ステップS3−2)。そして、前記微分値算出処理手段は、合成横加速度aを合成横加速度aoldとしてRAMに記録する。なお、合成横加速度aoldの初期値は0にされる。
【0080】
続いて、前記傾斜制御部51の図示されない第1の制御値算出処理手段としての比例制御値算出処理手段は、第1の制御値算出処理としての比例制御値算出処理を行い、比例制御用の第1の制御ゲインとしての比例ゲインGp及び合成横加速度aに基づいて、第1の制御値としての比例制御値Up
Up=Gp・a
を算出する(ステップS3−3)。
【0081】
次に、前記傾斜制御部51の図示されない第2の制御値算出処理手段としての微分制御値算出処理手段は、第2の制御値算出処理としての微分制御値算出処理を行い、微分制御用の第2の制御ゲインとしての微分ゲインGd及び微分値δaに基づいて、第2の制御値としての微分制御値Ud
Ud=Gd・δa
を算出する(ステップS3−4)。
【0082】
続いて、前記傾斜制御部51の図示されない推定横加速度取得処理手段は、推定横加速度取得処理を行い、前記横加速度推定部49から推定横加速度afを読み込む(ステップS3−5)。そして、前記傾斜制御部51の図示されない推定微分値算出処理手段は、推定微分値算出処理を行い、RAMから前回の傾斜制御で記録された推定横加速度afoldを読み込むとともに、制御周期Tsを読み込み、推定横加速度afの微分値δaf
δaf=daf/dt
=(af−afold)/Ts
を算出する(ステップS3−6)。続いて、前記推定微分値算出処理手段は、推定横加速度afを推定横加速度afoldとしてRAMに記録する。なお、推定横加速度afoldの初期値は0にされる。
【0083】
次に、前記傾斜制御部51の図示されない第3の制御値算出処理手段としての推定微分制御値算出処理手段は、第3の制御値算出処理としての推定微分制御値算出処理を行い、微分制御用の第3の制御ゲインとしての微分ゲインGdf及び微分値δafに基づいて、第3の制御値としての推定微分制御値Udf
Udf=Gdf・δaf
を算出する(ステップS3−7)。
【0084】
続いて、前記傾斜制御部51の図示されない第4の制御値算出処理手段としての傾斜制御用制御値算出処理手段は、第4の制御値算出処理としての傾斜制御用制御値算出処理を行い、比例制御値Up、微分制御値Ud及び推定微分制御値Udfを読み込み、傾斜制御用の制御値Uo
Uo=Up+Ud+Udf
を算出する(ステップS3−8)。
【0085】
そして、前記傾斜制御部51の図示されない傾斜制御用出力処理手段は、傾斜制御用出力処理を行い、前記制御値Uoをトルク指令値To* としてモータ駆動部55に出力する(ステップS3−9)。
【0086】
次に、図13に基づいて、前記走行駆動制御部65の動作について説明する。
【0087】
この場合、前記走行駆動制御部65は、走行駆動制御処理を行い、前記アクセル操作値θ及び車速vに基づいてトルク指令値Ts* を算出し、該指令値Ts* をモータ駆動部56に出力し、駆動モータ51L、51Rを駆動する。
【0088】
そのために、前記走行駆動制御部65の図示されない加速操作量取得処理手段は、加速操作量取得処理を行い、前記アクセル操作値θを読み込む(ステップS4−1)。
【0089】
次に、前記走行駆動制御部65の図示されない要求トルク算出処理手段は、要求トルク算出処理を行い、アクセル操作値θ及び車速vに対応する要求トルクTO
TO=f(Lθ,v)
を算出する(ステップS4−2)。
【0090】
続いて、前記走行駆動制御部65の図示されないトルク指令値算出処理手段は、トルク指令値算出処理を行い、あらかじめ設定されたトルクゲインGtを前記ROMから読み出し(ステップS5−3)、トルク指令値Ts*
Ts* =Gt・TO
を算出する(ステップS4−4)。
【0091】
そして、前記走行駆動制御部65の図示されないトルク指令値出力処理手段は、トルク指令値出力処理を行い、トルク指令値Ts* をモータ駆動部56に出力し、駆動モータ51L、51Rを駆動する(ステップS4−5)。
【0092】
ところで、従来の二輪車においては、旋回時に運転者が二輪車を傾斜させて走行させるようになっているが、旋回を終了する際に、運転者が体重移動を行うことによって二輪車を起こすと、前輪に発生するセルフアライニングトルクによって、ハンドルバーは自然に元の状態に戻る。
【0093】
これに対して、前記三輪車10において、旋回を終了する際に、ハンドルバー41aをセルフアライニングトルク以上の力で元の状態に戻す必要が生じると、運転者に違和感を与えてしまう。
【0094】
そこで、本実施の形態においては、ハンドルバー41aが、旋回を終了する際に自然に元の状態に戻るように付勢されるようになっている。
【0095】
図1は本発明の第1の実施の形態における三輪車の要部を示す斜視図である。
【0096】
図において、10は三輪車、11は搭乗部、11aは座席、11bはフットレスト、11cはフロントアーム、11eは該フロントアーム11cの上端に一体に形成されたステムホルダ、12Fは車輪、17は前輪フォーク、41は操縦装置、41aはハンドルバー、60は、前記車輪12F、前輪フォーク17及び操縦装置41によって構成される操舵部、66は、搭乗部11における所定の箇所(部材)、本実施の形態においては、ステムホルダ11eと、操舵部60における所定の箇所(部材)、本実施の形態においては、前輪フォーク17とを連結する付勢部材としての、かつ、操舵復帰部材としてのスプリングである。本実施の形態においては、該スプリング66として、ねじりばねが使用される。なお、前記付勢部材として、スプリング66に代えてゴム等の弾性体を使用したり、ダンパー機構を使用したりすることができる。
【0097】
前記前輪フォーク17は、ハンドルバー41aと車輪12Fとを連結し、前記ハンドルバー41aの中央から下方に向けて延在させて形成されたステアリングヘッド19、該ステアリングヘッド19の下端から下方に向けて延在させて形成され、前記ステムホルダ11eによって揺動自在に、かつ、摺動自在に保持される図示されない被支持部、該被支持部の下端から下方に向けて延在させて形成され、車輪12Fを支持する車輪支持部としてのホイールサポート23等を備える。該ホイールサポート23は、車輪12Fの両側に延在させて配設された一対のボトムパイプ24L、24R、及びボトムパイプ24L、24Rを上端で連結するブリッジ26を備える。
【0098】
そして、前記スプリング66は、一端(本実施の形態においては、上端)が、ステムホルダ11eの下端に、他端(本実施の形態においては、下端)が、前輪フォーク17における所定の箇所、本実施の形態においては、ブリッジ26の中央に固定され、ハンドルバー41aを、操舵角βが0になる非操舵状態になるように、所定の付勢力(復元力)で付勢して中立位置に復帰させる。
【0099】
三輪車10の旋回を開始するに当たり、運転者がハンドルバー41aを操作し、中立位置から右方向又は左方向に回動させると、スプリング66がねじられ、操舵角βに応じた値、本実施の形態においては、操舵角βに比例する値のスプリング荷重(ねじり荷重)が前記付勢力として発生する。したがって、運転者は付勢力に抗してハンドルバー41aを回動させることになる。
【0100】
そして、旋回を終了する際に、運転者は前記付勢力を利用してハンドルバー41aを中立位置側に向けて戻すことができる。その結果、ハンドルバー41aを元の状態に戻すことができるので、運転者がハンドルバー41aを操作するための力を軽減することができ、運転者に違和感を与えることがない。
【0101】
なお、本実施の形態において、前記スプリング66は、一端が、ステムホルダ11eの下端に、他端がブリッジ26に固定されるようになっているが、一端(下端)を、ステムホルダ11eの上端に、他端(上端)をステアリングヘッド19の下端に固定することができる。
【0102】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0103】
図14は本発明の第2の実施の形態における三輪車の要部を示す斜視図である。
【0104】
この場合、搭乗部11における所定の箇所(部材)、本実施の形態においては、フットレスト11bと、操舵部60における所定の箇所(部材)、本実施の形態においては、前輪フォーク17とが、付勢部材としての、かつ、操舵復帰部材としてのスプリング67、68によって連結される。本実施の形態において、該スプリング67、68として引張・圧縮ばねが使用される。また、前記付勢部材として、スプリング67、68に代えてゴム等の弾性体を使用したり、ダンパー等を使用したりすることができる。
【0105】
そして、前記スプリング67、68は、それぞれ、一端(本実施の形態においては、上端)が、ボトムパイプ24L、24Rにおける所定の箇所、本実施の形態においては、ほぼ中央部に、他端(本実施の形態においては、下端)が、搭乗部本体としての、かつ、床部材としてのフットレスト11bの前端に固定され、第1の操作部としての、かつ、操舵部材としてのハンドルバー41aを所定の付勢力で付勢して中立位置に復帰させる。
【0106】
三輪車10の旋回を開始するに当たり、運転者がハンドルバー41aを操作し、中立位置から右方向に回動させると、スプリング67が引っ張られ、スプリング68が圧縮され、操舵角βに比例する値のスプリング荷重(引張荷重及び圧縮荷重)が前記付勢力として発生する。また、運転者がハンドルバー41aを中立位置から左方向に回動させると、スプリング68が引っ張られ、スプリング67が圧縮され、操舵角βに比例する値のスプリング荷重(引張荷重及び圧縮荷重)が前記付勢力として発生する。
【0107】
したがって、旋回を終了する際に、運転者は前記付勢力を利用してハンドルバー41aを中立位置側に向けて戻すことができる。その結果、ハンドルバー41aを元の状態に戻すことができるので、運転者がハンドルバー41aを操作するための力を軽減することができ、運転者に違和感を与えることがない。
【0108】
なお、本実施の形態において、前記スプリング67、68は、それぞれ、一端がボトムパイプ24L、24Rのほぼ中央部に、他端がフットレスト11bの前端に固定されるようになっているが、一端(上端)を、ブリッジ26の両端に、他端(下端)をフットレスト11bの前端に固定することができる。
【0109】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1、第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0110】
図15は本発明の第3の実施の形態における三輪車の背面図、図16は本発明の第3の実施の形態における三輪車を部分的に傾斜させた状態を示す図である。
【0111】
図において、Frはフレームであり、該フレームFrに支持部20が取り付けられるとともに、フレームFrによって車輪12L、12Rが回転自在に支持される。また、前記支持部20と搭乗部11とが、図示されない揺動軸を中心に、ロール方向に揺動自在に連結される。なお、前記支持部20、フレームFr、車両傾斜装置43、車輪12L、12R等によって本体部61が、車輪12F、前輪フォーク17(図2)、操縦装置41等によって、三輪車10を操舵するための操舵部が、該操舵部及び搭乗部11によって搭乗・操舵部62が構成される。
【0112】
この場合、前記車両傾斜装置43は、三輪車10の所定の傾斜部位、本実施の形態においては、搭乗・操舵部62を路面18に対して左右に傾斜させる。そのために、前記車両傾斜装置43は、搭乗・操舵部62を傾斜させるためのアクチュエータとしての、かつ、傾斜用の駆動部としてのリンクモータ25を備え、該リンクモータ25を回動させることによって、図15及び16に示されるように、本体部61に対して、軸sh3を揺動中心に、かつ、ロール中心にして搭乗・操舵部62を揺動させることができる。なお、前記リンクモータ25の出力軸Lshと前記軸sh3とを一致させることができる。
【0113】
そして、搭乗部11における背もたれ部11dの背面には、複数の、本実施の形態においては、二つの横加速度検出部としての第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bが互いに異なる高さに配設される。
【0114】
また、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bは、いずれも、軸sh3の上側又は下側、本実施の形態においては、上側に配設される。そして、前記第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bの一方は、可能な限り、軸sh3に近接させて配設される。
【0115】
この場合、合成横加速度aを算出するに当たり、前記高さL1、L2に代えて、軸sh3から第1横加速度センサ44a及び第2横加速度センサ44bまでの距離L3、L4が使用される。
【0116】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0117】
10 三輪車
11 搭乗部
12F、12L、12R 車輪
17 前輪フォーク
25 リンクモータ
30 リンク機構
41 操縦装置
41a ハンドルバー
43 車両傾斜装置
44a 第1横加速度センサ
44b 第2横加速度センサ
51 傾斜制御部
60 操舵部
61 本体部
66、67、68 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の車輪を備えた本体部と、
該本体部と連結された搭乗部と、
運転者によって操作される操舵部材、操舵用の車輪、及び前記操舵部材と操舵用の車輪とを連結し、前記搭乗部によって揺動自在に支持された操舵軸を備えた操舵部と、
車両における所定の傾斜部位を傾斜させるための車両傾斜機構、及び該車両傾斜機構を作動させるためのアクチュエータを備えた車両傾斜装置と、
前記傾斜部位における所定の箇所に配設され、前記傾斜部位に加わる横加速度を検出する横加速度検出部と、
該横加速度検出部によって検出された横加速度に基づいて傾斜制御を行い、前記アクチュエータを駆動する傾斜制御処理手段と、
前記搭乗部における所定の箇所と、前記操舵部における所定の箇所とを連結し、前記操舵部材を中立位置に復帰させるための操舵復帰部材とを有することを特徴とする車両。
【請求項2】
前記傾斜制御処理手段は、前記横加速度検出部によって検出された横加速度、及び操舵部材の操舵量に基づき推定された横加速度に基づいて傾斜制御を行う請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記搭乗部は、前記操舵軸を支持する操舵軸支持部を備え、
前記操舵復帰部材は、前記操舵軸と前記操舵軸支持部とを連結する請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記搭乗部は床部材を備え、
前記操舵復帰部材は、前記操舵軸と前記床部材とを連結する請求項1又は2に記載の車両。
【請求項5】
前記操舵復帰部材は、前記操舵部材の操舵角に応じた付勢力で前記操舵部材を中立位置に復帰させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−230727(P2011−230727A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104973(P2010−104973)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】