説明

車体構造および車体構造の解体方法

【課題】CRRPおよびスチール等の部品を分別回収でき、他部品を破壊することなく部品交換が可能であり、かつ解体工数が低減できる車体構造および車体構造の解体方法を提供する。
【解決手段】解体温度の異なる複数の解体性接着剤によってそれぞれ接着された複数の接着部を有することを特徴とする車体構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造および車体構造の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両の車体構造において、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とスチールが接合された構造が使用されている。
【0003】
CFRPとスチールの接着においては、接着強度を保つために接着強度の高い接着剤が使用されている。
【0004】
しかし、接合されたCFRPとスチールを解体する際には、物理的な力により破壊しているため、CFRPの回収率が悪く、また解体工数が大きいという問題がある。
【0005】
また、接着強度を保つために接着強度の高い接着剤が使用されているため、部品交換の際には他の部品まで破壊され、交換が困難となっている。
【0006】
また、リサイクルのためにはCRRPおよびスチールを分別回収する必要があるが、物理的な力で解体した後には部品が破壊され、分別回収が困難である。
【0007】
また、接着方法として、接着時には十分に接着力を発揮するが、加熱や給水などの外的刺激を加えることによって接着力を失い、分離される解体接着剤を使用する方法があるが(特許文献1参照)、複数の接着部が存在する場合に、一部の接着部のみを解体することが困難である。
【特許文献1】特開2003−276403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、CRRPおよびスチール等の部品を分別回収でき、他部品を破壊することなく部品交換が可能であり、かつ解体工数が低減できる車体構造および車体構造の解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る車体構造は、解体温度の異なる複数の解体性接着剤によってそれぞれ接着された複数の接着部を有することを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成する本発明に係る車両構造の解体方法は、解体性接着剤によってそれぞれ接着された複数の接着部を有する車体構造の接着部を、解体する順番に加熱して解体することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した本発明に係る車体構造は、解体温度の異なる複数の接着部に解体性接着剤が適用されているため、解体したい部位を選択的に解体でき、例えばCRRPおよびスチールが接着されている際にはそれぞれを分別回収することができる。また、解体性接着剤により接着されており、また選択的に解体できるため、他部品を破壊することなく部品の交換が可能である。また、解体性接着剤が使用されるため、物理的な力により破壊する必要がなく、解体工数を低減できる。
【0012】
上記のように構成した本発明に係る車体構造の解体方法は、解体性接着剤によってそれぞれ接着された複数の接着部を有する車体構造の接着部を、解体する順番に加熱して解体するため、解体する部品を選択的に分別できる。また、解体性接着剤により接着されており、また選択的に解体できるため、他部品を破壊することなく部品の交換が可能である。また、解体性接着剤が使用されるため、物理的な力により破壊する必要がなく、解体工数を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は車両のフロントサイドメンバーを示す斜視図、図2は車両のカバー部品を示す斜視図である。
【0015】
図1に示す部材は、車両用部品であり、車両のフロントフロアとエンジンルームの間に設けられるフロントサイドメンバー1である。フロントサイドメンバー1は、スチール製のフロントサイドメンバー本体2と、アルミハニカム製のエネルギー吸収部材3と、スチール製のサスペンション取り付けボルト4と、CFRP製のカバー部品5と、が接着されている。なお、図の斜線部は、エネルギー吸収部材2、サスペンション取り付けボルト4とおよびカバー部品5を示している。また、図中の一点斜線で示す接着部6には、フロントフロア(不図示)が接着される。
【0016】
CFRP製のカバー部品5は、図2に示すように、カバー部品5に設けられるカバー接着部7(斜線部)が、フロントサイドメンバー本体2に接着される。
【0017】
前述の接着される部品同士の接着部には、解体性接着剤が適用される。解体性接着剤とは、接着時には十分に接着力を発揮するが、加熱や給水などの外的刺激を加えることによって接着力を失い、分離される接着剤である。解体性接着剤には、例えば熱可塑性樹脂のように熱により溶融して解体するもの(ホットメルトタイプ)、熱によりガス化する液体を内包したマイクロバルーンや熱膨張性黒鉛などのフィラーが内在されて加熱により膨張して分離するもの等がある。
【0018】
本実施形態では、フロントサイドメンバー本体2とエネルギー吸収部材3の間の接着部には解体温度200度の解体接着剤、フロントサイドメンバー本体2とサスペンション取り付けボルト4の間の接着部には解体温度210度の解体接着剤、フロントサイドメンバー本体2とカバー部品5の間の接着部には解体温度220度の解体接着剤、フロントサイドメンバー本体2とフロントフロアの間の接着部には解体温度230度の解体接着剤がそれぞれ適用される。
【0019】
このように接合された部品を解体する際には、初めに解体温度が200度の解体接着剤が適用された接着部を200度に加熱することにより、エネルギー吸収部材3を取り外すことができる。この後も同様に、解体温度がそれぞれ210度、220度および230度の解体接着剤が適用された接着部を、温度の低い順番にそれぞれ210度、220度、および230度に加熱することにより、サスペンション取り付けボルト4、カバー部品5およびフロントフロアを、順番に取り外すことができる。このように、解体する際に解体温度の低い解体性接着剤から順にそれぞれの解体温度に加熱することにより、狙った解体順序で解体することができ、解体工程を簡素化することが可能である。
【0020】
また、従来手法では、接着強度を保つために接着強度の高い接着剤が使用されているため、部品交換の際には交換を要する部品以外の部品まで破壊され、部品交換が困難であったが、本実施形態では、交換部位のみを加熱することにより、他の部品を破壊することなく選択的に部品交換が可能である。
【0021】
また、接合されたCFRPとスチールを解体する際には、従来手法では物理的な力により破壊しているためCFRPの回収率が悪く、また解体工数が大きかったが、本実施形態では、CFRP(カバー部品5)を破壊することなく解体でき、CFRPの回収率を向上させて解体工数を低減できる。
【0022】
また、リサイクルのためにはCRRPおよびスチール等を分別回収する必要があるが、物理的な力で解体する必要がないため、部品が破壊されず分別回収が容易である。
【0023】
<第2実施形態>
図3は車両のリアフロアを示す分解斜視図である。
【0024】
第2実施形態は、CFRP製車体のリアフロアに関する。
【0025】
ロアフロア10は、CFRP製のリアフロア本体部11を有しており、このリアフロア本体部1と他の部品とが、接着部12,13および14により接着される。なお、図の斜線部は、上述の接着部を示すものである。
【0026】
図3に示すように、接着部12ではリアパネル15が接着され、接着部13では第1クロスメンバー16が接着され、接着部14では第2クロスメンバー17が接着される。
【0027】
これらの接着部12,13および14には、解体性接着剤が適用される。リアフロアはエンジン周辺部品ではないため、適用される解体性接着剤の解体温度を200度以下に設定することができる。
【0028】
本実施形態では、接着部12には解体温度140度の解体接着剤、接着部13、14には解体温度150度の解体接着剤がそれぞれ適用される。
【0029】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、解体する際に解体温度の低い解体性接着剤から順にそれぞれの解体温度に加熱することにより、狙った解体順序で解体することができ、解体工程を簡素化することが可能である。
【0030】
なお、他の効果についても第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0031】
<第3実施形態>
第3実施形態は、CFRP製の部材が使用されるCFRP製車体に関する。
【0032】
図4はCFRP製車体の分解斜視図である。
【0033】
第3実施形態は、CFRP製車体20を構成する部品として、ルーフ21、ボディサイド22、リアパネル23、リアクロスメンバー24、パーシェル25、フロントメンバスロス26、アウトリガー27、フロントサイドメンバー28、カウル29、ダッシュ30、リアフロント31およびフロントフロア32を有している。
【0034】
上述したそれぞれの部品は、解体性接着剤により接着されている。
【0035】
表1に、それぞれの部品の接着に使用されている解体性接着剤の解体温度を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
CFRP製車体20を解体する際には、120度から260度まで段階的に10度ずつ温度を上昇させ、それぞれの解体温度に対応する部品を解体する。これにより、解体工程のライン化が可能となり、解体工数の低減を図ることができる。なお、本実施形態における解体順序は、高温となるエンジン周辺部品では解体温度の高い解体性接着剤を使用する必要があるため、ルーフ周辺部、ボディ周辺部、リア周辺部、フロント周辺部の順番となっている。
【0038】
図5は、解体性接着剤の塗布位置の間隔(接着間隔)と解体温度差の関係を示すグラフである。
【0039】
解体温度の異なる複数の解体性接着剤を使用する場合に、解体温度の温度差が小さいと、部品の温度伝播によって望んでいない解体性接着剤においてまで解体反応が進行する可能性がある。したがって、図5に示すように、解体温度差の小さい解体性接着剤同士の間の接着間隔は、大きく設定される。異なる解体性接着剤同士は、少なくとも解体温度に3度以上5度以下の温度差を有することが好ましい。このように解体温度を設定することにより、温度伝播によって他の解体性接着剤が加熱されても、他の解体性接着剤の解体反応を防止することができる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、FRP製部品の使用されていない製品にも適用でき、また、車両以外の製品にも適用できる。また、異なる解体性接着剤が適用される接着部同士の間隔が温度伝播の観点から十分に離れていれば、同一の解体温度を有する解体性接着剤を異なる接着部に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】車両のフロントサイドメンバーを示す斜視図である。
【図2】車両のカバー部品を示す斜視図である。
【図3】車両のリアフロアを示す分解斜視図である。
【図4】CFRP製車体の分解斜視図である。
【図5】解体性接着剤の塗布位置の間隔と解体温度差の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 フロントサイドメンバー、
2 フロントサイドメンバー本体、
3 エネルギー吸収部材、
4 サスペンション取り付けボルト、
5 カバー部品、
6 接着部、
7 カバー接着部、
10 ロアフロア、
11 リアフロア本体部、
12,13,14 接着部、
15 リアパネル、
16 第1クロスメンバー、
17 第2クロスメンバー、
20 CFRP製車体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解体温度の異なる複数の解体性接着剤によってそれぞれ接着された複数の接着部を有することを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記複数の接着部に使用されるそれぞれの解体性接着剤は、接着部の解体する順番に対応して、解体温度の低い解体性接着剤から順に適用されていることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記異なる解体性接着剤同士は、解体温度に3度以上5度以下の温度差を有することを特徴とする請求項1または2に記載の車体構造。
【請求項4】
解体性接着剤によってそれぞれ接着された複数の接着部を有する車体構造の接着部を、解体する順番に加熱して解体することを特徴とする車両構造の解体方法。
【請求項5】
解体温度の異なる複数の解体性接着剤によってそれぞれ接着された複数の接着部を有する車体構造の接着部を、解体する順番に加熱して解体することを特徴とする請求項4に記載の車両構造の解体方法。
【請求項6】
前記複数の接着部に使用されるそれぞれの解体性接着剤は、接着部の解体する順番に対応して、解体温度の低い解体性接着剤から順に適用されており、解体温度の低い解体性接着剤が適用された接着部から順に解体することを特徴とする請求項5に記載の車両構造の解体方法。
【請求項7】
前記異なる解体性接着剤同士は、解体温度に3度以上5度以下の温度差を有することを特徴とする請求項5または6に記載の車両構造の解体方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−276709(P2007−276709A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108097(P2006−108097)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】